説明

プリフォームの製造方法,プリフォーム及びプリフォームを使用した鋳ぐるみ品

【課題】 サーメット材とベース金属との合金化を確実に行なわせて接着を確実に行なわせるとともに、製造を簡略にしてコストダウンを図る。
【解決手段】 粉粒状のサーメット材Sをベース金属Mに接着させたプリフォームを製造するもので、粉粒状のサーメット材Sと粉粒状の金属バインダBとを混合し、この混合した混合物Qを粉粒状のままベース金属Mの成形体Aとともに保持型10内に配置し、熱処理炉13中でベース金属Mの成形体Aを加圧しながら加熱溶融して製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉粒状のサーメット材をベース金属に接着させたプリフォームを製造するプリフォームの製造方法,この製造方法によって製造されたプリフォーム及びこのプリフォームを使用した鋳ぐるみ品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、サーメット材は、金属切削用のバイトやカッターなどの工具に用いられているが、使用済みのものにおいては、これを再利用するために、例えば、サーメット材を粉砕して粉粒状にし、この粉粒状のサーメット材を鋳物金属で鋳ぐるんで、新たな金属複合材とすることが試行されている。この金属複合材は、サーメット部分が硬いことから、破砕機などの特に耐摩耗性が要求される部分に適用可能になる。
【0003】
従来、この種の金属複合材の製造方法としては、本願出願人の出願に係る技術が知られている(例えば、特開2004−290998号公報に掲載)。
この製造方法は、粉粒状のサーメット材と粉状の金属バインダとを混合して形成し、その後、焼結してサーメット材を集合させたサーメット塊を形成し、このサーメット塊を鋳型内に配置し、その後、溶融ベース金属を注湯して製造するものである。溶融ベース金属を注湯すると、サーメット塊とベース金属との境界が合金化していき、サーメット材のベース金属に対する密着性が向上させられ、また、金属バインダが触媒のような働きをするので、サーメット材のベース金属に対する密着性がより一層向上される。
【0004】
【特許文献1】特開2004−290998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この従来の製造方法は、粉粒状のサーメット材と粉状の金属バインダとを混合して形成し、その後、焼結したサーメット塊を使用しているので、形成用の金型を別途必要とし、また、焼結も真空焼結による等するので、それだけコスト高になっているという問題があった。また、サーメット塊であることからベース金属との表面の合金化においても、必ずしも十分とはいえないという場合がある。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みて為されたもので、サーメット材とベース金属との合金化を確実に行なわせて接着を確実に行なわせるとともに、製造を簡略にしてコストダウンを図った金属複合材料としてのプリフォームの製造方法,プリフォーム及びプリフォームを使用した鋳ぐるみ品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するための本発明の技術的手段は、サーメット材をベース金属に接着させたプリフォームを製造するプリフォームの製造方法において、粉粒状のサーメット材を粉粒状のまま上記ベース金属の成形体とともに保持型内に保持し、上記ベース金属の成形体を加圧しながら加熱溶融して製造する構成としている。
【0008】
ベース金属としては、種々の材質のものを用いてよいが、サーメット材よりも液相出現温度Tsの低い材質のものを用いるのが望ましい。液相出現温度Tsとは、合金を加熱したときに、はじめて固相から液相が現れる温度をいう。液相出現温度Tsは、合金組成によって、あるいは、保持型内の条件、例えば、保持型の材質の条件などによって、ベース金属の加熱溶融時に異なる。
この場合、最適加熱温度Tは、Ts≦T≦Ts+100℃に設定するのが望ましい。液相出現温度Tsに満たないと、サーメット材に溶着しにくくなり、Ts+100℃を超えると、サーメット材がベース金属内に浮遊分散してベース金属の表面に表出しにくくなる。
【0009】
これにより、ベース金属の加熱が行なわれると、ベース金属の成形体が徐々に溶融し、表面から液相になっていくとともに、ベース金属は、粉粒状のサーメット材の集合体に接触しているので、サーメット材の集合体に染み込んでいき、サーメット材とベース金属とが合金化していく。そして、脱型すると、ベース金属にサーメット材が接着して露出したプリフォームが製造される。この場合、サーメット材は、粉粒状のままなので、ベース金属が溶融しながらサーメット材と接触することになり、そのため、合金化が確実に行なわれ接着が確実に行なわれる。また、ベース金属の成形体を加圧しながら溶融するので、ベース金属とサーメット材との接触部に圧力がかかり、ベース金属がより一層サーメット材の集合体に染み込んでいくようになるので、サーメット材のベース金属に対する接着性が向上させられる。
【0010】
また、必要に応じ、サーメット材をベース金属に接着させたプリフォームを製造するプリフォームの製造方法において、粉粒状のサーメット材を粉粒状のまま保持型内に配置し、該サーメット材の集合体の上に上記ベース金属の成形体を配置し、該ベース金属の成形体を加圧しながら加熱溶融して製造する構成としている。これによっても、ベース金属の成形体が上から加圧されて溶融するので、ベース金属がサーメット材の集合体に染み込んでいくようになり、サーメット材のベース金属に対する接着性が向上させられる。
【0011】
また、必要に応じ、サーメット材をベース金属に接着させたプリフォームを製造するプリフォームの製造方法において、上記ベース金属の成形体を保持型内に保持し、該ベース金属の成形体の表面と上記保持型を構成する部材の表面とで形成される空間に、粉粒状のサーメット材を粉粒状のまま投入し、上記ベース金属の成形体を加圧しながら加熱溶融して製造する構成としている。例えば、ベース金属の成形体が、柱状や管状に形成されている場合に、ベース金属の成形体をその軸線が垂直方向に沿うように保持型に保持し、粉粒状のサーメット材を粉粒状のまま空間に上から投入することができ、保持型へのベース金属及びサーメット材の配置を容易に行なうことができるようになる。
また、上記と同様に、ベース金属の成形体が加圧されて溶融するので、ベース金属がサーメット材の集合体に染み込んでいくようになり、サーメット材のベース金属に対する接着性が向上させられる。
【0012】
そしてまた、必要に応じ、上記保持型内を真空加熱した構成としている。真空なので、溶融ベース金属は、サーメット材の集合体に良く染み込んでいき、そのため、より一層、合金化が確実に行なわれ接着が確実に行なわれる。
【0013】
また、必要に応じ、上記加圧力を、1×10-2N/mm2以上にした構成としている。望ましくは、上記加圧力を、2×10-2N/mm2以上にしたことが有効である。ベース金属の成形体を、このような加圧力により加圧するので、ベース金属がより確実にサーメット材に染み込んでいくようになり、サーメット材のベース金属に対する接着性を確実に向上させることができる。
【0014】
更に、必要に応じ、上記粉粒状のサーメット材に、Ni,Cr,Mo,Fe,WC,TiC,FeB,WB,Cu,Sn,Co,VCのうちの少なくともいずれか1つの金属で構成された金属バインダを混合した構成としている。
これにより、加熱が行なわれると、ベース金属の成形体が徐々に溶融し、表面から液相になっていくとともに溶融したベース金属は、サーメット材と金属バインダとの混合物の集合体と接触し、混合物に染み込んでいき、サーメット材とベース金属とが合金化していく。そして、脱型すると、ベース金属にサーメット材が接着して露出したプリフォームが製造される。この場合、サーメット材と金属バインダとの混合物は、粉粒状のままなので、溶融ベース金属が金属バインダを良く溶融しながらサーメット材と接触することになり、そのため、合金化が確実に行なわれ接着が確実に行なわれる。また、ベース金属の成形体を加圧しながら溶融するので、ベース金属とサーメット材との接触部に圧力がかかり、ベース金属がより一層混合物に染み込んでいくようになるので、サーメット材のベース金属に対する接着性が向上される。更に、金属バインダは、触媒のような働きをするので、この点でも、サーメット材のベース金属に対する接着性がより一層向上させられる。
【0015】
また、上記目的を達成するための本発明の技術的手段は、上記何れかに記載のプリフォームの製造方法によって製造されたプリフォームにある。サーメット材のベース金属に対する接着性が向上され、接着強固な品質になるとともに、製造が容易で、コストダウンが図られる。
【0016】
更に、上記目的を達成するための本発明の技術的手段は、上記のプリフォームを鋳物金属で鋳ぐるんで製造されたプリフォームを使用した鋳ぐるみ品にある。プリフォームが安価に製造できるので、鋳ぐるみ品においても安価に製造できる。また、プリフォームにあるサーメット材のベース金属に対する接着性が向上させられ、接着強固な品質になるので、鋳ぐるみ品の強度や耐久性が向上し、破砕機などの特に耐摩耗性が要求される部分への適用を確実に行なうことができるようになる。
【0017】
この場合、上記鋳物金属として、上記プリフォームのベース金属と同材質の金属を用いたことが有効である。鋳物金属とベース金属とが同材質なので、合いが良く、鋳ぐるみが確実に行なわれ、鋳ぐるみ強度も向上させられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、サーメット材は粉粒状のままなので、ベース金属とサーメット材との合金化を確実に行なうことができ、接着を確実に行なうことができる。また、ベース金属の成形体を加圧しながら溶融することにより、ベース金属がより一層サーメット材の集合体に染み込んでいくようになるので、サーメット材のベース金属に対する接着性を向上されることができる。また、従来のように、サーメット材と金属バインダとを形成して焼結しなくても良く、それだけ、製造を容易にすることができ、コストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態に係るプリフォームの製造方法,プリフォーム及びプリフォームを使用した鋳ぐるみ品について詳細に説明する。
先ず、本発明の実施の形態に係るプリフォームの製造方法について説明すると、図1乃至図3に示すように、本製造方法は、粉粒状のサーメット材Sをベース金属Mに接着させたプリフォームPを製造するものである。
【0020】
サーメット材Sとしては、例えば、金属切削用のバイトやカッターなどの工具に用いられた使用済みのものが用いられ、組成の主成分としてTiC,TiCN,Mo2C,Ni等で構成される。
例えば、「TiCN−19mass% Mo2C−24mass% Ni」等が挙げられる。
そして、このサーメット材Sは、予め、粒度DがD≦1mm、望ましくは、D≦0.1mmになるよう粉粒状に粉砕されている。
【0021】
ベース金属Mとしては、鋳鉄、鋳鋼、アルミニウム合金、銅合金、マグネシウム合金などが用いられる。例えば、Cr,Mn,Si,V,Ni,Mo,Fe等を適宜配合した耐摩耗性に優れた鋳鉄,鋳鋼製品が用いられる。また、例えば、高Cr白鋳鉄の他、炭素鋼鋳鋼品、低合金鋼鋳鋼品、耐熱性に優れる耐熱鋼鋳鋼品、耐食性に優れるステンレス鋼鋳鋼品、そしてねずみ鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄、アルミニウム合金、銅合金、マグネシウム合金等が挙げられる。
【0022】
また、本製造方法においては、予め、粉粒状のサーメット材Sと粉粒状の金属バインダBとを混合した混合物Qを作成する。
金属バインダBとしては、Ni,Cr,Mo,Fe,WC,TiC,FeB,WB,Cu,Sn,Co,VCのうちの少なくともいずれか1つの金属を用いる。粒度は、サーメット材Sと同様である。実施の形態では、混合物Qの体積比を、サーメット材S:Ni=1:1,サーメット材S:Cr=1:1あるいはまたはサーメット材S:Ni:Cr=5:4:1に混合している。混合については、ここで掲げたものに限定されない。ベース金属Mに、溶解し易く合金化を促進できる。
【0023】
図1には、本発明の第一の実施の形態に係るプリフォームの製造方法を示している。この方法は、上記の混合物Qを粉粒状のまま保持型10中に配置し、混合物Qの上にベース金属Mの成形体Aを配置し、ベース金属Mの成形体Aの上端に当接する当接体11を突設した蓋12を、保持型10に被覆する。そして、例えば、これに、重石を載せ、あるいは、周知の油圧プレス等の加圧機により蓋12を介して成形体Aを加圧できるようにして、保持型10を熱処理炉13内に設置する。
【0024】
この状態で、熱処理炉13内を真空にするとともに、保持型10を加熱し、加圧機の場合はこれを作動させてベース金属Mの成形体Aを加圧しながら加熱溶融していく。この際は、例えば、ベース金属Mの液相出現温度をTsとしたとき、最適加熱温度Tは、Ts≦T≦Ts+100℃に設定される。液相出現温度Tsは、合金組成によって、あるいは、保持型10内の条件、例えば、保持型10の材質の条件などによって、ベース金属Mの加熱溶融時に異なる。例えば、ねずみ鋳鉄の場合、1145℃≦T≦1245℃の範囲が良い。また、加圧機等による加圧力は、1×10-2N/mm2以上、望ましくは、2×10-2N/mm2以上に設定される。実施の形態では、3×10-2N/mm2に設定した。
【0025】
これにより、保持型10の加熱が行なわれると、ベース金属Mの成形体Aが溶融し、溶融したベース金属Mは、サーメット材Sと金属バインダBとの混合物Qの集合体と接触し、混合物Qに染み込んでいき、サーメット材Sとベース金属Mとが合金化していく。そして、脱型すると、ベース金属Mの一方側面にサーメット材Sが接着して露出したプリフォームPが製造される。
【0026】
この場合、サーメット材Sと金属バインダBとの混合物Qは、粉粒状のままなので、溶融ベース金属Mが金属バインダBを良く溶融しながらサーメット材Sと接触することになり、そのため、合金化が確実に行なわれ接着が確実に行なわれる。また、ベース金属Mの成形体Aを加圧しながら溶融すると、ベース金属Mの一方側面に圧力がかかり、溶融ベース金属Mがより一層混合物Qに染み込んでいくようになるので、サーメット材Sのベース金属Mに対する接着性が向上される。更に、金属バインダBは、触媒のような働きをするので、この点でも、サーメット材Sのベース金属Mに対する接着性がより一層向上される。また、真空なので、溶融ベース金属Mは、混合物Qに良く染み込んでいき、そのため、より一層、合金化が確実に行なわれ接着が確実に行なわれる。更に、従来のように、サーメット材Sと金属バインダBとを形成して焼結しなくても良く、また、ベース金属Mは成形体Aを混合物Q上に置いて保持型10に配置できるので、それだけ、製造が容易になり、コストダウンが図られる。
【0027】
図2には、第二の実施の形態に係るプリフォームの製造方法を示している。この方法は、粉粒状のサーメット材Sと粉粒状の金属バインダBとの混合物Qを粉粒状のままベース金属Mの成形体Aとともに保持型10内に保持し、この保持型10を熱処理炉13中に配置し、熱処理炉13中でベース金属Mの成形体Aを加圧しながら加熱溶融して作成する。詳しくは、保持型10としては、黒鉛型あるいはセラミック型が用いられ、容器状に形成されている。熱処理炉13は真空加熱を行なう。ベース金属Mは、保持型10の内径よりも小さい外径になる円柱状の成形体Aに形成しておく。
【0028】
そして、柱状のベース金属Mの成形体Aを、その軸線Xが垂直方向に沿うように、保持型10中に保持する。保持型10には離型剤を塗布した。次に、上記の混合物Qを粉粒状のままベース金属Mの成形体Aの外側面と保持型10の内側面とで形成される空間に入れる。そして、ベース金属Mの成形体Aの上端に当接する当接体11を突設した蓋12を、保持型10に被覆し、例えば、これに、重石を載せ、あるいは、周知の油圧プレス等の加圧機により蓋12を介して成形体Aを加圧できるようにして、保持型10を熱処理炉13内に設置する。この状態で、熱処理炉13内を真空にするとともに、保持型10を加熱し、加圧機の場合はこれを作動させてベース金属Mの成形体Aを加圧しながら加熱溶融していく。温度条件や加圧条件は上記と同様であり、他の作用,効果も上記と同様になる。
【0029】
図3には、第三の実施の形態に係るプリフォームの製造方法を示している。この方法は、粉粒状のサーメット材Sと粉粒状の金属バインダBとの混合物Qを粉粒状のままベース金属Mの成形体Aとともに保持型10内に保持し、この保持型10を熱処理炉13中に配置し、熱処理炉13中でベース金属Mの成形体Aを加圧しながら加熱溶融して作成する。詳しくは、保持型10としては、黒鉛型あるいはセラミック型が用いられ、容器状に形成され、中央に円柱状の中子14を備えている。熱処理炉13は真空加熱を行なう。
ベース金属Mは、中子14の内径よりも大きい内径、かつ、保持型10の内径に対応した外径になるように、管状の成形体Aに形成しておく。
【0030】
そして、管状のベース金属Mの成形体Aを、その軸線Xが垂直方向に沿うように、保持型10中に保持する。この状態では、成形体Aの内側に中子14が配置される。保持型10及び中子14には離型剤を塗布した。次に、上記の混合物Qを粉粒状のままベース金属Mの成形体Aの内側面と保持型10の中子14の外側面とで形成される空間に入れる。そして、ベース金属Mの成形体Aの上端に当接するリング状の当接体11を突設した蓋12を、保持型10に被覆し、例えば、これに、重石を載せ、あるいは、周知の油圧プレス等の加圧機により蓋12を介して成形体Aを加圧できるようにして、保持型10を熱処理炉13内に設置する。この状態で、熱処理炉13内を真空にするとともに、保持型10を加熱し、加圧機の場合はこれを作動させてベース金属Mの成形体Aを加圧しながら加熱溶融していく。温度条件や加圧条件は上記と同様であり、他の作用,効果も上記と同様になる。
【0031】
次に、本発明の実施の形態に係るプリフォームPを使用した鋳ぐるみ品について説明する。
図4に示すように、この鋳ぐるみ品は、上記のプリフォームPを、そのまま、あるいは、適宜に切断し、鋳物金属Maで鋳ぐるんで製造される。鋳物金属Maとしては、プリフォームPのベース金属Mと同材質の金属が用いられる。
詳しくは、図4に示すように、先ず、ベース金属Mの一方側面にサーメット材Sが接着して露出したプリフォームPであって、適宜の大きさや形状に形成されたプリフォームPを、サーメット材S側を下にして鋳型30内に配置し、その後、鋳型30内に溶融鋳物金属Maを注湯する。注湯すると、溶融鋳物金属Maは、ベース金属Mに接して一体化していく。この場合、鋳物金属Maとベース金属Mとが同材質なので、合いが良く、鋳ぐるみが確実に行なわれ、鋳ぐるみ強度も向上させられる。尚、サーメット材S側の鋳型30に対する向きは、鋳ぐるみ品の形状に応じて、適宜に設定してよい。
【0032】
このようにして製造された鋳ぐるみ品は、プリフォームPが安価に製造できるので、安価に製造できる。また、プリフォームPにあるサーメット材Sのベース金属Mに対する接着性が向上され、接着強固な品質になるので、鋳ぐるみ品の強度や耐久性が向上する。
【0033】
次に、本発明の鋳ぐるみ品の利用例について説明する。例えば、高炉や産業廃棄物処理に用いるクラッシャー等、特に耐摩耗性が要求される部分に適用される。例えば、高炉や産業廃棄物処理で、鉱石や廃棄物等を破砕するクラッシャーの壁面等に使用される。サーメット材単体では、サーメット材は超硬合金とほぼ同等の硬度を有し、更に耐摩耗性にも優れ、軽量であるが、反面、サーメット材は超硬合金と比較して、靭性に劣るため割れやすく、そのため、そのままサーメット材を適用できなかったが、本発明では、鋳ぐるみ品にすることで、適用範囲が広がるのである。
【0034】
本発明の鋳ぐるみ品は、例えば、鉱石や廃棄物等を破砕するクラッシャーであって、鬼刃が設けられる回転子を備え、この回転子を回転させて鉱石や廃棄物等を破砕するタイプのもの等に使用される。このようなクラッシャーの鬼刃は、鋳ぐるみ品で形成され、破砕される物質に打撃を加える部分に強化材が備えられている。
尚、本発明の鋳ぐるみ品は、その他、例えば、焼結機粉砕用鬼刃,受顎,高炉用ベル,炉頂ライナー,クラッシャー,インプラブレーカー用部品,石炭粉砕ボールミルライナー,ダイカストマシン用スリーブ等、種々の製品に使用することができる。
【0035】
次に実験例について説明する。
[実験例1]
この実験は、サーメット材:Ni=1:1にした混合物Qを使用し、ベース金属Mとして、ねずみ鋳鉄(黒鉛型の黒鉛の影響がない場合の一般的な液相出現温度:1145℃),ステンレス鋼(黒鉛型の黒鉛の影響がない場合の一般的な液相出現温度:1425℃),ダイス鋼SKD61(黒鉛型の黒鉛の影響がない場合の一般的な液相出現温度:約1400℃)を使用し、図5(a)に示すように、上記の混合物Qを粉粒状のまま黒鉛型からなる保持型10に入れ、ベース金属Mの成形体A(直径46mm×高さ10mm)を混合物Qの上に配置し、熱処理炉13の真空中で、無加圧において、ベース金属Mの成形体Aを加熱溶融して製造した。
【0036】
また、ベース金属Mとして、ねずみ鋳鉄(黒鉛型の黒鉛の影響がない場合の一般的な液相出現温度:1145℃),ステンレス鋼(黒鉛型の黒鉛の影響がない場合の一般的な液相出現温度:1425℃),ダイス鋼SKD61(黒鉛型の黒鉛の影響がない場合の一般的な液相出現温度:約1400℃)を使用し、図5(b)に示すように、ベース金属Mの成形体A(直径20mm×高さ85mm)を黒鉛型からなる保持型10中に配置し、上記の混合物Qを粉粒状のままベース金属Mの成形体Aの外側面と保持型10の内側面とで形成される空間(幅3mm)に入れ、熱処理炉13の真空中で、無加圧において、ベース金属Mの成形体Aを加熱溶融して製造した。
【0037】
そして、図5(a)及び図5(b)に示す作成条件で、種々の加熱温度において、プリフォームPを作成し、各ベース金属Mとサーメットの混合物Qの接合状態を調べた。
図5(a)に示す作成条件でのプリフォームの接合状態の結果を図6に示し、図5(b)に示す作成条件でのプリフォームの接合状態の結果を図7に示す。
実験において、ステンレス鋼やダイス鋼の場合は、一般には、サーメット材より高い温度で溶解することから、ベース金属のみを溶かして含浸することは不能であり、そのため、この場合には、加熱により焼結したサーメットに溶けたステンレスやダイス鋼が覆い被さることになり、サーメット材は、ステンレス鋼などの中に溶け込んでいくと考えられる。しかしながら、本実験例では、1250℃の温度でもダイス鋼やステンレス鋼は溶けており、これは、黒鉛型を用いたため、ステンレス鋼やダイス鋼は加熱により黒鉛からの浸炭の影響を受け、液相出現温度が大幅に低下したと考えられる。また、サーメットもニッケルを添加したため、液相出現温度が1270℃以下になり、これ自身でも焼結したと考えられる。尚、ねずみ鋳鉄には、もともと黒鉛が含有されているので、黒鉛型の影響はほとんどないと考えられる。
この結果から、ベース金属Mとして、サーメット材Sよりも液相出現温度Tsの低い材質のものを用いるのが望ましいといえる。この場合、最適加熱温度Tは、Ts≦T≦Ts+100℃に設定するのが望ましい。液相出現温度Tsに満たないと、サーメット材に溶着しにくくなり、Ts+100℃を超えると、サーメット材がベース金属内に浮遊分散してベース金属の表面に表出しにくくなる。
【0038】
[実験例2]
この実験は、サーメット材:Ni=1:1にした混合物Qを使用し、ベース金属Mとしてねずみ鋳鉄(JIS FC250)を使用し、加圧力を変化させてプリフォームPを作成し、ベース金属Mとサーメットの混合物Qの境界部の組織の状態を調べた。プリフォームPは、図1に示すように、上記の混合物Qを粉粒状のまま保持型10に入れ、ベース金属Mの成形体A(直径46mm×高さ10mm)を混合物Qの上に配置し、熱処理炉13の真空中で、ベース金属Mの成形体Aを加圧しながら加熱溶融して製造した。加熱温度は1150℃とした。
加圧力は、(A)0×10-2N/mm2,(B)1.0×10-2N/mm2,(C)2.0×10-2N/mm2,(D)3.0×10-2N/mm2の4態様とした。
各加圧力で作成されたプリフォームPにおいて、ベース金属Mとサーメットの混合物Qの境界部の組織の状態を撮像した顕微鏡写真を、図8に示す。
【0039】
この結果から、0×10-2N/mm2の場合、複合化部に接合不良やポアが多く観察されたが、加圧力が大きくなるほどそれらは減少し、2.0×10-2N/mm2の場合、接合不良はなくなり、ポアの数も減少し、3.0×10-2N/mm2以上の場合ではポアも全くなくなり、良好になるといえる。
【0040】
[実験例3]
この実験は、ベース金属Mとしてねずみ鋳鉄(JIS FC250)を使用し、サーメット材Sに対する金属バインダBの量を変えた混合物Q毎にプリフォームPを作成し、ベース金属Mとの境界部の組織の状態を調べた。混合物Qは、サーメット材SにNiを添加したものであり、Niの0容積%,10容積%,30容積%,50容積%の4態様とした。
プリフォームPは、図2に示すように、ベース金属Mの成形体A(直径20mm×高さ85mm)を保持型10中に配置し、上記の混合物Qを粉粒状のままベース金属Mの成形体Aの外側面と保持型10の内側面とで形成される空間(幅3mm)に入れ、熱処理炉13の真空中で、ベース金属Mの成形体Aを加圧しながら加熱溶融して製造した。加熱温度は1150℃、加圧力は、3.8×10-2N/mm2とした。
各条件で形成されたプリフォームPにおいて、ベース金属Mとサーメットの混合物Qの境界部の組織の状態を撮像した顕微鏡写真を、図9に示す。
【0041】
この結果から、いずれの場合も健全な複合化層が得られるが、ニッケル容積が少なくなるほど、試験片上部にサーメットが浮上しやすくなることが分かる。従って、均一な複合化層を得るためには、30容積%以上のニッケル添加が必要になるということがいえる。
【0042】
[実験例4]
この実験は、プリフォームPについて、比較例とともに、アルミニウム合金溶湯における、耐溶損性の評価を行なった。プリフォームPとしては、ベース金属Mとしてねずみ鋳鉄(JIS FC250)を使用し、これにサーメット材Sのみを被覆したもの、サーメット材:Ni=1:1にした混合物Qを被覆したものの2種類を作成した。プリフォームPは、図2に示すように、ベース金属Mの成形体A(直径20mm×高さ85mm)を保持型10中に配置し、上記の混合物Qを粉粒状のままベース金属Mの成形体Aの外側面と保持型10の内側面とで形成される空間(幅3mm)に入れ、熱処理炉13の真空中で、ベース金属Mの成形体Aを加圧しながら加熱溶融して製造した。
比較例としては、上記のプリフォームPと同形状のもので、SKD61,窒化ケイ素系セラミックス,サーメットのみのものを用意した。
【0043】
図10に示すように、黒鉛るつぼにアルミニウム合金溶湯を入れ、各プリフォームP及び比較例の試験片を回転(300RPM)させながら、60分間浸漬した。溶湯温度は、650℃から850℃にした。そして、各々の溶損率を調べた。結果を図11に示す。
【0044】
この結果から、SKD61材は、溶湯温度が高くなるほど溶損率が高くなり、800℃では、約60%以上になることが分かる。しかし、プリフォーム,窒化ケイ素系セラミックス,サーメットのみのものは、800℃でも、ほとんどアルミ溶湯中に溶損することがなく、本プリフォームが優れていることが分かる。
【0045】
尚、上記実施例においては真空加熱を行なったが、必ずしもこれに限定されるものではなく、真空加熱を行なうことなく製造するようにしてよい。また、上記実施の形態においては、熱処理炉13を用いたが、保持型10自体に加熱機能をもたせるように構成してよい。そのほか、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、所定の範囲で適宜変更して差支えないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
サーメットはアルミニウム合金溶湯に対する耐溶損性にも優れている。従って本発明品は、ダイカストマシンの射出スリーブとしても使用可能である。射出スリーブは、これまでSKD61などの鋼で作られてきたが、アルミ溶湯による溶損で寿命を迎える。そこで、本発明品が使用される。また、ここで開発する製造技術は、スリーブのみに限らず耐溶損性や耐熱性、そして耐衝撃性などを必要とする他のダイカスト部品や鋳造機そして耐熱、耐摩耗部材へも応用が可能である。その例を挙げると、ダイカスト部品では、ホットチャンバーノズル、グースネックそして金型など、その他低圧鋳造機スリーブ、耐熱耐摩耗部品として、掘削用ビット、高炉装置部材、廃棄物処理プラント部材などにも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第一の実施の形態に係るプリフォームの製造方法を示す断面図である。
【図2】本発明の第二の実施の形態に係るプリフォームの製造方法を示す断面図である。
【図3】本発明の第三の実施の形態に係るプリフォームの製造方法を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るプリフォームを使用した鋳ぐるみ品の製造方法を示す断面図である。
【図5】実験例1に係り、プリフォームの作成状態を示す断面図である。
【図6】実験例1に係り、プリフォームにおける加熱温度による影響を示す表図である。
【図7】実験例1に係り、別のプリフォームにおける加熱温度による影響を示す表図である。
【図8】実験例2に係り、プリフォームにおけるベース金属とサーメットの混合物との境界部の組織の状態を示す顕微鏡写真である。
【図9】実験例3に係り、プリフォームにおけるベース金属とサーメットの混合物との境界部の組織の状態を示す顕微鏡写真である。
【図10】実験例4に係り、試験片の試験状態を示す断面図である。
【図11】実験例4に係り、アルミニウム合金溶湯における耐溶損性の評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
P プリフォーム
S サーメット材
M ベース金属
B 金属バインダ
Q 混合物
A 成形体
Ma 鋳物金属
10 保持型
11 本体
12 中子
13 熱処理炉
30 鋳型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーメット材をベース金属に接着させたプリフォームを製造するプリフォームの製造方法において、
粉粒状のサーメット材を粉粒状のまま上記ベース金属の成形体とともに保持型内に保持し、上記ベース金属の成形体を加圧しながら加熱溶融して製造することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項2】
サーメット材をベース金属に接着させたプリフォームを製造するプリフォームの製造方法において、
粉粒状のサーメット材を粉粒状のまま保持型内に配置し、該サーメット材の集合体の上に上記ベース金属の成形体を配置し、該ベース金属の成形体を加圧しながら加熱溶融して製造することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項3】
サーメット材をベース金属に接着させたプリフォームを製造するプリフォームの製造方法において、
上記ベース金属の成形体を保持型内に保持し、該ベース金属の成形体の表面と上記保持型を構成する部材の表面とで形成される空間に、粉粒状のサーメット材を粉粒状のまま投入し、上記ベース金属の成形体を加圧しながら加熱溶融して製造することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項4】
上記保持型内を真空加熱したことを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載のプリフォームの製造方法。
【請求項5】
上記加圧力を、1×10-2N/mm2以上にしたことを特徴とする請求項1乃至4何れかに記載のプリフォームの製造方法。
【請求項6】
上記加圧力を、2×10-2N/mm2以上にしたことを特徴とする請求項5記載のプリフォームの製造方法。
【請求項7】
上記粉粒状のサーメット材に、Ni,Cr,Mo,Fe,WC,TiC,FeB,WB,Cu,Sn,Co,VCのうちの少なくともいずれか1つの金属で構成された金属バインダを混合したことを特徴とする請求項1乃至6何れかに記載のプリフォームの製造方法。
【請求項8】
上記請求項1乃至7何れかに記載のプリフォームの製造方法によって製造されたことを特徴とするプリフォーム。
【請求項9】
上記請求項8に記載のプリフォームを鋳物金属で鋳ぐるんで製造されたことを特徴とするプリフォームを使用した鋳ぐるみ品。
【請求項10】
上記鋳物金属として、上記プリフォームのベース金属と同材質の金属を用いたことを特徴とする請求項9記載のプリフォームを使用した鋳ぐるみ品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−246550(P2008−246550A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92868(P2007−92868)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度地域新生コンソーシアム研究開発事業、経済産業省、産業再生法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(306017014)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター (61)
【Fターム(参考)】