説明

プリフォーム及びこのプリフォームから成るブロー成形容器

【課題】 成形歪みが低減され、寸法安定性に優れた圧縮成形によるプリフォームを提供することである。
【解決手段】 少なくともポリエステル樹脂から成る層を有し、圧縮成形により成形された口部にネックリングを有するプリフォームにおいて、前記ポリエステル層の底部中心又はネックリング下の下記式で表される温度差ΔTcが15℃以下であることを特徴とするプリフォーム。
ΔTc=Tc−Tc
式中、Tcはプリフォームから切り出したポリエステル層を示差走査熱量計(DSC)で測定した昇温結晶化ピーク温度、TcはTc測定後急冷して測定した昇温結晶化ピーク温度をそれぞれ示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮成形によるプリフォーム及びこのプリフォームを延伸ブロー成形して成るブロー成形容器に関し、より詳細には、寸法安定性に優れたプリフォーム及び均一な肉厚を有すると共に外観特性にも優れた延伸ブロー成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
延伸ブロー成形プラスチック容器、特に、二軸延伸ポリエステル容器は、今日では、一般化しており、その優れた透明性と適度なガスバリヤー性とにより、液体洗剤、シャンプー、化粧品、醤油、ソース等の液体商品の外に、ビール、コーラ、サイダー等の炭酸飲料や、果汁、ミネラルウォーター等の他の飲料容器に広く使用されている。
二軸延伸ポリエステル容器の成形に際しては、ポリエステル樹脂の射出成形により、最終容器より寸法がかなり小さく、且つポリエステルが非晶質である有底プリフォームを予め形成し、このプリフォームをその延伸温度に予備加熱し、ブロー金型中で軸方向に引張り延伸すると共に、周方向にブロー延伸する方法が採用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この有底プリフォームの形状としては、容器の口頚部に相当する口頚部と延伸ブロー成形されるべき有底筒状部とを備え、全体としての形状が試験管状のものが一般的であり、口頚部には、例えば密封用開口端や蓋との係合手段が形成されている。またこの底部には、射出成形の必要性から、底部中心から外方に突出したゲート部が必ず形成されている。
有底プリフォームを樹脂の圧縮成形で製造することも既に知られており、押出機から押し出された溶融樹脂塊を切断、保持して雌型内に供給した後、前記雌型内に雄型を圧入して雌型内で圧縮成形することからなるプリフォームの製造方法が提案されている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開平4−154535号公報
【特許文献2】特開2000−280248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般に射出成形によるプリフォームの製造では、溶融可塑化された樹脂は、ノズル、スプルー、ランナー、ゲートを経てキャビティに注入されるため、射出成形機中における樹脂の滞留時間が長く、このような成形機中の長時間の滞留は、樹脂の劣化の原因になるおそれがある。特にポリエステル樹脂は、熱分解により固有粘度や分子量が低下するため、満足な機械的強度を得ることができないという問題が生じる。また、射出成形によるプリフォームに特有のゲート部及びその近傍は、白化しやすく、これを延伸ブロー成形して成るボトルでは、底部の白化、クレーズ等が生じ外観特性に劣ると共に耐衝撃性にも劣るという問題が生じていた。
【0006】
これに対し、圧縮成形によるプリフォームでは、上述した射出成形によるプリフォームのような問題は生ずることがなく、表面が円滑で、底部に白化やクレーズのないプリフォームを得ることが可能であるが、射出成形とは別の問題が生じていることが判った。
すなわち、圧縮成形によるプリフォームの成形では、押出機から押出された樹脂が部分的に温度低下することに起因して圧縮成形時にプリフォームに歪みが生じ、この傾向は、プリフォームの底部よりも樹脂の流動距離が長い口頚部近傍で顕著である。このような成形歪みを有するプリフォームは、特に口頚部の結晶化前後における寸法安定性に劣り、また、このようなプリフォームを二軸延伸ブロー成形した場合には、得られる成形品の肉厚は偏肉し、しかも傷が入ってしまう場合もあった。
【0007】
従って、本発明の目的は、成形歪みが低減され、寸法安定性に優れた圧縮成形によるプリフォームを提供することである。
本発明の他の目的は、肉厚が均一で偏肉がなく、傷や皺の発生がない延伸ブロー成形容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、少なくともポリエステル樹脂から成る層を有し、圧縮成形により成形された、口部にネックリングを有するプリフォームにおいて、前記ポリエステル層の底部中心又はネックリング下の下記式(1)
ΔTc=Tc−Tc・・・(1)
式中、Tcはプリフォームから切り出したポリエステル層を示差走査熱量計(DSC)で測定した昇温結晶化ピーク温度、TcはTc測定後急冷して測定した昇温結晶化ピーク温度をそれぞれ示す。
で表される温度差ΔTcが15℃以下であることを特徴とするプリフォームが提供される。
本発明のプリフォームにおいては、ネックリング下から底部までの長さL及び口部天面外径Dの比、L/Dが3.5よりも小さいことが好ましい。
本発明によればまた、上記プリフォームを延伸ブロー成形して成るブロー成形容器が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプリフォームでは、ポリエステル層の底部中心又はネックリング下の上記式(1)で表される温度差ΔTcが15℃以下であることにより、成形歪が小さく、口部結晶化の際の寸法安定性に優れたプリフォームを提供することが可能となる。また、本発明のプリフォームを、延伸ブロー成形して成る成形品には肉厚に偏肉が生じたり、或いは傷や皺の発生することがなく、外観特性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のプリフォームにおいては、ポリエステル層の底部中心又はネックリング下の上記式(1)で表される温度差ΔTcが15℃以下であることが重要な特徴である。
すなわち、前述した通り、圧縮成形により成形されたプリフォームにおいては、圧縮成形の際溶融樹脂塊が部分的に温度低下すること、及び溶融樹脂が圧縮成形型内を流動することに起因して成形歪が生じている。この成形歪は、特に圧縮成形型内で溶融樹脂の流動距離の長い口頚部で顕著であり、かかる部位は結晶化を行うとその寸法を維持できず、結晶化前後の寸法安定性が悪いという問題があった。
このような観点から、本発明においては、成形歪が低減されたプリフォームを提供することを目的とするものであり、ポリエステル層の底部中心又はネックリング下において上記式(1)で表される温度ΔTcが15℃以下であるプリフォームは成形歪が低減され、プリフォームの口頚部の結晶化を行っても、寸法安定性を損なうことがないことを見出したのである。
また、本発明のプリフォームを用いて、延伸ブロー成形して成る延伸ブロー成形容器は、偏肉がなく、また、白化や傷の発生などがなく外観特性にも優れているのである。
【0011】
すなわち、本発明においては、圧縮成形により生じた成形歪(流動配向)を有する状態のプリフォームの昇温結晶化ピーク温度(Tc)を示差走査熱量計(DSC)で測定し、次いで、Tc測定後のポリエステル層は測定による加熱により成形歪が緩和されていることから、これを急冷することにより成形履歴を消した使用するポリエステル樹脂固有の昇温結晶化ピーク温度(Tc)を測定し、これらの差ΔTcがプリフォームの成形歪を端的に表わすことを見出すと共に、このΔTcが15℃以下であるプリフォームは成形歪が少なく、口部結晶化やブロー成形により偏肉を生じない寸法安定性、及び外観特性にも優れたプリフォームを提供できることを見出したのである。
このことは、後述する実施例の結果から明らかである。すなわち、ΔTcが15℃よりも大きいプリフォームでは、口部の結晶化を行った場合に口部先端の変形量が0.3mm以上と大きく、口部先端の平面度に劣るのに対して(比較例1〜2)、ΔTcが15℃以下のプリフォームでは、変形量が0.3mm未満であり、比較例に比して、顕著に寸法安定性に優れていることが明らかである(実施例1〜7)。
【0012】
図1は本発明のプリフォームの一例を示すものであり、(A)は通常のPETボトルに用いられるプリフォームであり、(B)は広口ボトルに用いられる広口浅型プリフォームである。図1に示すように、本発明のプリフォーム20は、口頚部21、胴部22及び底部23から成るものであり、一般に、口頚部21には螺子部24が形成され、螺子部24の下部にネックリング25が形成されている。本発明における上記式(1)で表されるΔTcは、プリフォームの底部23の中心部26又はネックリング25の直下27から切り出したポリエステル層、或いはこのプリフォームを延伸ブロー成形して成る延伸ブロー容器のそれぞれの対応箇所から切り出したポリエステル層から測定することができる。
【0013】
尚、本発明において、プリフォームのポリエステル層の底部中心又はネックリング下部分の昇温結晶化ピーク温度を問題とするのは、通常の一段ブロー成形法による延伸ブロー成形後の成形容器において、プリフォームの成形歪を測定するためには、一般に、底部中心が延伸や加熱の影響を受けにくく、プリフォームの状態に近いことから最も好適な箇所であるが、二段ブロー成形法により延伸ブロー成形される場合には、一次ブロー工程で底部は延伸されると共にその後の加熱収縮工程で加熱され、成形容器の底部中心は成形歪が緩和されているため、成形容器の底部中心では、プリフォームの成形歪を反映することは困難である。このため、二段ブロー成形法のように底部中心の歪が緩和されている場合には、ネックリング下部分が最も延伸や加熱の影響を受けずに成形歪が残存している箇所であり、成形容器からプリフォームのポリエステル層の昇温結晶化ピーク温度を近似的に求めることが可能となるのである。
従って、本発明においては、延伸ブロー成形後の成形容器において、プリフォームの成形歪を測定し得る箇所として底部中心又はネックリング下部分を規定し、通常の一段ブロー成形による延伸ブロー成形においては、底部中心及びネックリング下部分の両方の箇所のポリエステル層のΔTcが15℃以下であればよいことは勿論、いずれか一方の箇所のポリエステル層のΔTcが15℃以下であればよい。
また、二段ブロー成形による延伸ブロー成形においては、ネックリング下部分の箇所のポリエステル層のΔTcが15℃以下であればよい。
さらに、ポリエステル層を有する多層プリフォームの場合は、ポリエステル層から試料を切り出して同様に測定することができる。
【0014】
(ポリエステル樹脂)
本発明に用いるポリエステル樹脂は、従来圧縮成形によるプリフォームの成形に用いられていた、ジカルボン酸成分及びジオール成分から成るポリエステル樹脂を用いることができる。
ジカルボン酸成分としては、ジカルボン酸成分の50%以上、特に80%以上がテレフタル酸であることが機械的性質や熱的性質から好ましいが、テレフタル酸以外のカルボン酸成分を含有することも勿論できる。テレフタル酸以外のカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等を挙げることができる。
【0015】
ジオール成分としては、ジオール成分の50%以上、特に80%以上がエチレングリコールであることが、機械的性質や熱的性質から好ましく、エチレングリコール以外のジオール成分としては、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、グリセロール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。
【0016】
多官能成分は、三官能以上の多塩基酸及び多価アルコールであり、トリメリット酸、ピロメリット酸、ヘミメリット酸,1,1,2,2−エタンテトラカルボン酸、1,1,2−エタントリカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸等の多塩基酸や、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、ソルビトール、1,1,4,4−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン等の多価アルコールが挙げられる。
【0017】
本発明に用いるポリエステル樹脂は、圧縮成形によりプリフォームを成形するために0.70乃至0.90dL/g、特に0.75乃至0.85dL/g(重量比1:1のフェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用いて30℃で測定)の固有粘度を有していることが好ましい。
更に、ポリエステル樹脂はプリフォーム又はポリエステル容器の耐熱性、加工性等を満足するため、265℃未満、特に220乃至255℃の融点(Tm)を有することが好ましい。またガラス転移点は、30℃以上、特に50乃至120℃の範囲であることが好ましい。
本発明に用いるポリエステル樹脂には、それ自体公知の樹脂用配合剤、例えば着色剤、抗酸化剤、安定剤、各種帯電防止剤、離型剤、滑剤、核剤等を最終成形品の品質を損なわない範囲で公知の処方に従って配合することができる。
【0018】
(プリフォーム)
また、本発明のプリフォームは、ポリエステル層の底部中心又はネックリング下の上記式(1)で表される温度差ΔTcが15℃以下である限り、ポリエステル樹脂のみからなる単層のものは勿論、ポリエステル樹脂から成る層に他の熱可塑性樹脂から成る層を有する多層プリフォームであってもよい。
ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、延伸ブロー成形及び熱結晶化可能な樹脂であれば任意のものを使用でき、これに限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、環状オレフィン重合体などのオレフィン系樹脂や、キシリレン基含有ポリアミドなどのポリアミド樹脂等を挙げることができる。また、キシリレン基含有ポリアミドにジエン系化合物、遷移金属系触媒を配合した酸素吸収性ガスバリヤー樹脂組成物や、リサイクルポリエステル(PCR(使用済みボトルを再生した樹脂)、SCR(生産工場内で発生した樹脂)又はそれらの混合物)等も用いることができる。これらのリサイクルポリエステル樹脂は、前述した方法で測定した固有粘度(IV)が0.65乃至0.75dL/gの範囲にあることが好ましい。
【0019】
リサイクルポリエステルは、単独で使用することもできるし、バージンのポリエステルとのブレンド物として用いることもできる。リサイクルポリエステルが低下した固有粘度を有する場合には、バージンのポリエステルとブレンドして用いることが好ましく、この場合、リサイクルポリエステル:バージンのポリエステルの配合比は、1:5乃至5:1の重量比にあることが好ましい。
また、内層又は外層と中間層を接着させるために、接着性樹脂を介在させることもできる。接着性樹脂としては、マレイン酸などをグラフト重合した酸変性オレフィン系樹脂や非晶性のポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂等を使用することができる。
また、上記ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂にも、上記圧縮成形用ポリエステル樹脂と同様に各種樹脂用添加剤を配合できる。
【0020】
本発明の多層プリフォームの層構成は、これに限定されないが、以下のものを例示できる。尚、以下の多層構造における略号は、PET:ポリエステル樹脂、GBR:ガスバリヤー性樹脂、PCR:リサイクルポリエステル樹脂、ADR:接着性樹脂、OAR:酸素吸収性樹脂組成物、COC:環状オレフィン共重合体である。
三層構造:PET/GBR/PET、PET/PCR/PET
PET/(PET+PCR)/PET
四層構造:PET/GBR/PCR/PET、
PET/GBR/OAR/PET、
PET/GBR/COC/PET
五層構造:PET/ADR/GBR/ADR/PET
PET/ADR/OAR/ADR/PET
PET/GBR/PCR/GBR/PET
PET/ADR/(GBR+OAR)/ADR/PET
六層構造:PET/ADR/GBR/ADR/PCR/PET
PET/ADR/OAR/ADR/PCR/PET
七層構造:PET/PCR/ADR/GBR/ADR/PCR/PET
PET/ADR/GBR/ADR/OAR/ADR/PET
【0021】
(プリフォームの成形)
本発明においては、上述したポリエステル樹脂を用いて従来公知の圧縮成形法によりプリフォームを成形することができるが、プリフォームの成形歪を低減し、前述したΔTcの値が15℃以下となるように成形することが重要である。
図2は、多層プリフォームを成形する際に用いる圧縮成形装置を示す説明図であり、全体を1で示す圧縮成形装置は、本発明の圧縮成形用ポリステル樹脂から成る内外層用樹脂Aを主押出機2から連続的に供給し、ガスバリヤー性樹脂等の中間層用樹脂Bを副押出機3から間欠的に供給して、多層ダイ4内で合流させて樹脂Aが樹脂Bを封入するように、多層ダイ4の下方に設けられたノズル5から溶融押出しを行い、水平方向に移動可能な切断手段6によって押出された複合溶融樹脂7を、中間層の存在しない部分で所定寸法に切断する。この切断された複合溶融樹脂塊8は、切断直後に治具に挟んで雌型9及び雄型10から構成される圧縮成形装置の雌型9内に搬送する。雌型9内にある複合溶融樹脂塊8を、雄型10で圧縮成形して中間層が内層及び外層で封入された多層プリフォームが成形される。
【0022】
本発明においては、上記成形法において、プリフォームの成形歪を低減し、前述したΔTcの値を15℃以下とするために、以下の手段を採用することができる。
すなわち、前述した通り、成形歪は溶融樹脂塊が冷却されることに起因するものであることから、押出機から押出された溶融樹脂が切断されてから、圧縮成形されるまでの時間を短縮化して、溶融樹脂の温度低下を防止することが望ましい。後述する実施例6及び比較例1から明らかなように、同じ樹脂、且つ同型のプリフォームであるならば成形サイクルが20秒である場合に比して、これを3秒まで短縮化することにより、ΔTcの値がネックリング下で63%、底部で69%程度低減されていることが判る。
また、プリフォームの形状によってもΔTcの値は異なり、後述する実施例1及び比較例3から明らかなように、図1に示すように、ネックリング下から底部までの長さL及び口部天面外径Dの比、L/Dが0.47のプリフォームとL/Dが4.4のプリフォームではΔTcの値が顕著に相違する。従って、本発明においては、ネックリング下から底部までの長さL及び口部天面外径Dの比、L/Dが3.5よりも小さいプリフォームであることが特に好適である。
従って、本発明のプリフォーム及びブロー成形容器とするためには、上述したプリフォームの成形サイクルの短縮、プリフォーム形状の何れか一方、或いは両方の手段を採用することにより達成することができるが、上記プリフォーム形状のL/D値が大きい場合はプリフォームの成形サイクルを短縮するのが好ましい。
更に、プリフォームの成形歪は、加熱により緩和されることから、圧縮成形後プリフォームの表面温度が200〜250℃となるように0.1〜1秒程度プリフォームを均一に加熱しても良い。
【0023】
(ポリエステル容器)
本発明のブロー成形ポリエステル容器は、上記プリフォームを延伸成形することにより得ることができる。
延伸ブロー成形においては、本発明のプリフォームを延伸温度に加熱し、このプリフォームを軸方向に延伸すると共に、周方向に二軸延伸ブロー成形して二軸延伸容器を製造する。
尚、プリフォームの成形とその延伸ブロー成形とは、コールドパリソン方式の他、プリフォームを完全に冷却しないで延伸ブロー成形を行うホットパリソン方式にも適用できる。
延伸ブローに先立って、必要により、プリフォームを熱風、赤外線ヒーター、高周波誘導加熱等の手段で延伸適正温度まで予備加熱する。その温度範囲はポリエステルの場合85乃至120℃、特に95乃至110℃の範囲あるのがよい。
【0024】
このプリフォームを、それ自体公知の延伸ブロー成形機中に供給し、金型内にセットして、延伸棒の押し込みにより軸方向に引っ張り延伸すると共に、流体の吹込みにより周方向へ延伸成形する。金型温度は、一般に室温乃至190℃の範囲にあることが好ましいが、後述するようにワンモールド法で熱固定を行う場合は、金型温度を120乃至180℃に設定することが望ましい。
最終のポリエステル容器における延伸倍率は、面積倍率で1.5乃至25倍が適当であり、この中でも軸方向延伸倍率を1.2乃至6倍とし,周方向延伸倍率を1.2乃至4.5倍とするのが好ましい。
【0025】
本発明のブロー延伸ポリエステル容器は、それ自体公知の手段で熱固定することもできる。熱固定は、ブロー成形金型中で行うワンモールド法で行うこともできるし、ブロー成形金型とは別個の熱固定用の金型中で行うツーモールド法で行うこともできる。熱固定の温度は120乃至180℃の範囲が適当である。
また、他の延伸ブロー成形方法として、本出願人にかかる特許第2917851号公報に例示されるように、プリフォームを、1次ブロー金型を用いて最終成形品よりも大きい寸法の1次ブロー成形体とし、次いで、この1次ブロー成形体を加熱収縮させた後、2次ブロー金型を用いて延伸ブロー成形を行って最終成形品とする二段ブロー成形法を採用してもよい。尚、この方法によるポリエステル容器のΔTcを測定する場合には、前述した通り、底部の成形歪は緩和されているため、ネックリング下部分のΔTcを測定することが必要である。
【実施例】
【0026】
本発明を次の例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に規制されるものではない。
[プリフォームの成形]
設定温度270℃のダイ下部のノズルから押出されたポリエチレンテレフタレートを切断した溶融樹脂塊を圧縮成形装置へ搬送し、圧縮成形速度9mm/secにて圧縮成形を完了するまでを成形サイクルとする。溶融樹脂塊が圧縮成形装置へ搬送されてから圧縮成形が開始されるまでの時間を変更して成形サイクルを調整した。
【0027】
[DSC測定]
成形したプリフォーム及びボトルから適宜選択したプリフォーム及びボトルのネックリング下の部位、及び底部中心から厚み方向に切り取った試料(8mg)について、示差走査熱量計(PERKIN ELMER社製DSC7)を用いてDSC測定を行った。
試料温度は、
1.20℃で3分間保持
2.20℃から290℃に10℃/minで昇温
3.290℃で3分間保持し溶解
4.20℃に300℃/minで急冷
5.20℃で3分間保持
6.20℃から290℃に10℃/minで昇温
の順で走査し、2における昇温結晶化ピーク温度をTcとし、6における昇温結晶化ピーク温度をTcとした。
【0028】
[口部結晶化後の口部端面の平滑度測定]
口部結晶化装置の赤外線ヒーターの出力を1200W、加熱時間2分間でプリフォームの口部を結晶化させた。口部を結晶化させたプリフォームを充分冷却させた後、真円度円筒形状測定機(RA‐114D・Mitutoyo(株))を用いて結晶化後の口部端面の平滑度を測定し、最大値と最小値の差をもとめて、その差を口部端面の平滑度とした。
尚、測定は、実施例、比較例において各5本のサンプルを用いて行い、平滑度はその平均値とした。
【0029】
[2軸延伸ブローボトルの密封性評価]
上述した口部結晶化後のプリフォームを、一段ブロー成形法による2軸延伸ブロー成形し、次いで150℃、1.5秒でヒートセットして耐熱PETボトルを作製した。ジエチル−p−フェニレンジアミンが塩素反応で変色することを利用して、以下の手順で密封性を確認した。
1.蒸留水を93℃に加温し、0.5%のジエチル−p−フェニレンジアミンと共にPETボトルに充填
2.プラスチックキャップの巻締め
3.1分間正立
4.88℃、5分間横倒しの条件で湯煎殺菌
5. 1%次亜塩素酸ナトリウム溶液中にて20分間浸漬・冷却
6. 吸い込みによる変色の有無の確認
尚、評価は、実施例、比較例において各30本のサンプルを用いて行い、1本でも上記吸い込みによる変色が有れば×とした。
【0030】
(実施例1)
ポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレート[RT543C:日本ユニペット(株)製]を用いて、重量24.4g、全長45mm、ネックリング下から底部までの長さL:23mm、口部天面外径D:49mm、L/Dが0.47の単層プリフォームを成形サイクル8秒で成形した。プリフォームのネックリング下と底部を厚み方向に切り出してDSC測定を行い、Tc及びTcを測定してΔTcを求めた。同条件で成形したプリフォームの口部結晶化後に平滑度の測定を行い、2軸延伸ブローボトルを成形し、密封性評価を行った。
【0031】
(実施例2)
プリフォームの成形サイクルを13秒とした以外は、実施例1と同様に単層プリフォームを成形し、DSC測定、口部結晶化後の平滑度の測定、及び2軸延伸ブローボトルの成形、密封性評価を行った。
【0032】
(実施例3)
プリフォームの成形サイクルを18秒とした以外は、実施例1と同様に単層プリフォームを成形し、DSC測定、口部結晶化後の平滑度の測定、及び2軸延伸ブローボトルの成形、密封性評価を行った。
【0033】
(実施例4)
プリフォームの成形サイクルを28秒とした以外は、実施例1と同様に単層プリフォームを成形し、DSC測定、口部結晶化後の平滑度の測定、及び2軸延伸ブローボトルの成形、密封性評価を行った。
【0034】
(実施例5)
ポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレート[J125T:三井化学(株)製]を用い、重量26.5g、全長79mm、ネックリング下から底部までの長さL:58mm、口部天面外径D:25mm、L/Dを2.3のプリフォームとした以外は、実施例1と同様に単層プリフォームを成形し、DSC測定、口部結晶化後の平滑度の測定、及び2軸延伸ブローボトルの成形、密封性評価を行った。
【0035】
(実施例6)
プリフォームの成形サイクルを3秒とし、重量28.0g、全長96mm、ネックリング下から底部までの長さL:78mm、口部天面外径D:25mm、L/Dを3.1のプリフォームとした以外は、実施例1と同様に単層プリフォームを成形し、DSC測定、口部結晶化後の平滑度の測定、及び2軸延伸ブローボトルの成形、密封性評価を行った。
【0036】
(実施例7)
実施例6の2軸延伸ブローボトルのDSC測定、及び口部の平滑度の測定、密封性評価を行った。
【0037】
(比較例1)
プリフォームの成形サイクルを20秒とした以外は、実施例6と同様に単層プリフォームを成形し、DSC測定、口部結晶化後の平滑度の測定、及び2軸延伸ブローボトルの成形、密封性評価を行った。
【0038】
(比較例2)
プリフォームの成形サイクルを15秒とし、重量30.5g、全長106mm、ネックリング下から底部までの長さL:88mm、口部天面外径D:25mm、L/Dを3.5のプリフォームとした以外は、実施例6と同様に単層プリフォームを成形し、DSC測定、口部結晶化後の平滑度の測定、及び2軸延伸ブローボトルの成形、密封性評価を行った。
【0039】
(比較例3)
プリフォームの重量90.0g、全長166mm、ネックリング下から底部までの長さL:140mm、口部天面外径D:32mm、L/Dを4.4とした以外は、実施例1と同様に単層プリフォームを成形し、DSC測定、口部結晶化後の平滑度の測定、及び2軸延伸ブローボトルの成形、密封性評価を行った。
【0040】
(比較例4)
比較例1の2軸延伸ブローボトルのDSC測定、及び口部の平滑度の測定、密封性評価を行った。
【0041】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のプリフォームの一例を示す側面図である。
【図2】本発明の多層プリフォームを成形する際に用いる圧縮成形装置を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリエステル樹脂から成る層を有し、圧縮成形により成形された口部にネックリングを有するプリフォームにおいて、前記ポリエステル層の底部中心又はネックリング下の下記式で表される温度差ΔTcが15℃以下であることを特徴とするプリフォーム。
ΔTc=Tc−Tc
式中、Tcはプリフォームから切り出したポリエステル層を示差走査熱量計(DSC)で測定した昇温結晶化ピーク温度、TcはTc測定後急冷して測定した昇温結晶化ピーク温度をそれぞれ示す。
【請求項2】
ネックリング下から底部までの長さL及び口部天面外径Dの比、L/Dが3.5よりも小さい請求項1記載のプリフォーム。
【請求項3】
請求項1又は2記載のプリフォームを延伸ブロー成形して成るブロー成形容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−1108(P2006−1108A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179056(P2004−179056)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】