説明

プリンタ及びプリント方法

【課題】電池の容量が低下する低温環境下におけるプリント可能枚数を増やす。
【解決手段】電池駆動される簡易プリンタに装填されたフイルムパック41の露光開口42に対向する位置に露光ヘッド30を設ける。露光ヘッド30にヘッド移動機構31を介して第1モータ32を接続する。露光済みのフイルム24をかき出すクロー爪35を設けるとともに、フイルムパック41のパック排紙口44の近傍に展開ローラ対38を設ける。クロー爪35及び展開ローラ対38にそれぞれ爪移動機構36、ローラ駆動機構39を介して第2モータ37を接続する。プリンタの周囲の環境温度が低下するのに応じて、第1及び第2モータ32、37の回転速度を減速させるようにしたので、電池の容量が低下する低温環境下でもプリント可能枚数を増やすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池を電源として記録紙に画像を記録するプリンタ及びそのプリント方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラ付き携帯電話機などで撮影された画像を屋外でプリント可能な簡易プリンタが発売されている。簡易プリンタは、カメラ付き携帯電話機から赤外線通信で送信されてくる画像データを受信して画像をプリントする。この簡易プリンタとしては、屋外にも携帯できるように電源として電池を用いているものが多く、特に主走査方向にライン状に配列されたシャッタ素子を有する露光ヘッドを用いて感光材料上に画像を露光するタイプのものが良く知られている。
【0003】
このような簡易プリンタでは、露光ヘッドと感光材料とを副走査方向に相対移動させながら、プリントする画像の1ライン分の画像データに基づいて各シャッタ素子を個々に切替制御することで、主走査方向のライン画像を1ラインずつ順次露光して一画面分の画像を露光している。これら露光ヘッドと感光材料との相対移動は、両者のうちいずれかを副走査方向に移動させる移動機構をモータで駆動することにより行われる。このモータや露光ヘッドなどは電池を電源として駆動されるため、プリント枚数が増えるのに従い電池が消耗し、やがてはプリントができなくなってしまう。このため、特許文献1に記載されているように、高速プリントを行うとプリント時の消費電力が大きくなってしまうので、プリント可能枚数が減ってしまう。
【0004】
そこで、例えば特許文献2及び3に記載されているように、プリンタの消費電力を省力化することでプリント可能枚数を増やす方法が知られている。特許文献1では、印字率(印字データの総ビット数と印字ビット数との割合)が所定値を上回るときに露光ヘッドまたは感光材料を移動させる移動速度、つまり、モータの回転速度を減速させることで消費電力を減らしている。また、特許文献2では、感光材料の種別、露光する色の種類等に応じて露光ヘッドの消費電力が大きくなるときに、モータの回転速度を減速させることで消費電力を減らしている。
【特許文献1】特開2000−318202号公報(第3頁参照)
【特許文献2】特開平5−533号公報(第3頁参照)
【特許文献3】特開2000−168111号公報(第4〜第5頁参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献2及び3に記載されている方法では、環境温度の変化に伴う電池の容量の変化が考慮されていない。電池の容量は、その電解液温度が低下するのに従って次第に小さくなる。例えば、一般的なリチウムイオン二次電池では常温(20℃)環境下の電池の容量を100%としたときに、−10℃の環境下では容量が50%まで低下してしまう。このため、冬に屋外でプリントを行う際に、プリンタが常温時と同じ消費電力で駆動されると、プリント可能枚数が大幅に減ってしまう。さらに、低温環境下では移動機構に使用されている潤滑液の粘度や、露光済みの画像を現像させる現像液の粘度が増しているので、移動機構の駆動に要する消費電力は増えてしまう。
【0006】
また、電池の電解液温度が低下しないように簡易プリンタに保温機能を持たせると、プリンタのサイズが大きくなるとともに、その製造コストも高くなってしまう。さらに、この保温をヒータ等により電気的に行うと消費電力が増えてしまう。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためのものであり、特に低温環境下でもプリント枚数を増やすことが可能なプリンタ及びプリント方法を提供とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、環境温度の低下に伴い容量が低下する電池を電源とし、主走査方向に1ラインずつ画像を記録紙に記録する記録ヘッドを備えたプリンタにおいて、前記記録ヘッドまたは前記記録紙を前記主走査方向と直交する副走査方向に相対移動させる移動手段と、前記環境温度を検出する環境温度検出手段と、前記環境温度検出手段による温度検出結果に基づき、前記環境温度の低下に応じて前記記録ヘッドまたは前記記録紙を前記相対移動させる際の移動速度が減速するように前記移動手段を制御する移動制御手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
前記環境温度と、前記記録ヘッドまたは前記記録紙の前記移動速度との関係を示すデータテーブルまたは演算式を記憶した記憶手段を備え、前記移動制御手段は、前記データテーブルまたは前記演算式に基づいて前記環境温度が低下したときに前記移動速度を減速させることが好ましい。また、前記移動手段は、前記電池を電源とするモータを有し、前記モータを駆動源として前記記録ヘッドまたは前記記録紙を前記相対移動させ、前記移動制御手段は、前記環境温度の低下に応じて前記モータの回転速度を減速させることが好ましい。
【0010】
前記環境温度の低下に応じて前記記録ヘッドまたは前記記録紙の前記移動速度を減速させる減速モード、及び前記環境温度の低下に応じた前記移動速度の制御を行わない定速モードの各モードを指定するモード指定手段を備え、前記移動制御手段は、前記減速モードが指定されたときにのみ、前記移動速度の減速を行うことが好ましい。また、前記減速モードは、前記定速モード時よりも前記記録紙のプリント可能枚数が増加するように前記移動速度を減速させて前記電池の消耗を低減させる枚数重視モードと、前記枚数重視モード時よりも前記移動速度の減速量を小さくすることで前記記録紙の1枚のプリントに要する時間を短くする時間重視モードとから構成されることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、環境温度の低下に伴い容量が低下する電池を電源とし、記録ヘッドにより主走査方向に1ラインずつ画像を記録紙に記録するプリンタのプリント方法において、前記環境温度を検出し、この温度検出結果に基づき、前記環境温度の低下に応じて前記記録紙または前記記録ヘッドを前記主走査方向と直交する副走査方向に相対移動させる移動速度を減速させて前記画像の記録を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプリンタは、記録ヘッドまたは記録紙を相対移動させる移動手段と、環境温度を検出する環境温度検出手段と、前記環境温度の低下に応じて前記相対移動させる際の移動速度が減速するように前記移動手段を制御する移動制御手段とを備えているので、低温環境下では前記相対移動に要する消費電力を減らすことができる。その結果、プリンタの電源である電池の容量が低下する低温環境下でも、従来よりもプリント可能枚数を増やすことができる。
【0013】
本発明のプリント方法は、環境温度を検出し、この温度検出結果に基づき、前記環境温度の低下に応じて記録紙または記録ヘッドを相対移動させる移動速度を減速させて画像の記録を行うようにしたので、同様に低温環境下でも従来よりもプリント可能枚数を増やすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明を実施した簡易プリンタ10の概略図である。簡易プリンタ10は、カメラ付き携帯電話機(図示せず)等で撮影された画像をプリントするものであり、屋外でも使用できるように電池11を電源としている。この簡易プリンタ10は、筐体13と、この筐体13内に組み込まれたプリント部14(図2参照)と、筐体13内に設けられた電池室(図示せず)とから構成されている。なお、簡易プリンタ10で使用される電池は、マンガン乾電池やアルカリ乾電池のような1次電池や、リチウムイオン電池のような2次電池などが使用される。また、電池11の形状も円筒形状のものに特に限定はされない。
【0015】
筐体13には、赤外線受信センサ16と、プリント残枚数表示窓18と、液晶モニタ19と、筐体排紙口20と、操作部21と、温度センサ22とが設けられている。赤外線受信センサ16は、カメラ付き携帯電話機(図示せず)より赤外線通信で送信されてくる画像データを受信する。プリント残枚数表示窓18には、プリント可能な枚数が表示される。液晶モニタ19には、メニュー画面や送信されてくる画像のスルー画等が表示される。筐体排紙口20からは、詳しくは後述するが画像のプリントが完了したインスタントフイルム(以下、単にフイルムという)24が排出される。
【0016】
操作部21には、電源ボタン26と、焼き増しボタン27と、モード切替ボタン28とが設けられている。電源ボタン26は簡易プリンタ10の電源をオン・オフする。焼き増しボタン27は、直近にプリントした画像を再度プリントする場合に押圧操作される。モード切替ボタン28は、本発明のモード指定手段に相当するものであり、簡易プリンタ10のプリントモードを切り替える際に押圧操作される。
【0017】
温度センサ22は、本発明の環境温度検出手段に相当するものであり、簡易プリンタ10の周囲の環境温度を検出する。また、図示は省略するが、筐体13には電池室(図示せず)に連通する電池挿入口、及びこの挿入口を開閉する装填蓋が設けられている。
【0018】
図2は、簡易プリンタ10のプリント部14の外観斜視図を示したものである。プリント部14は、フイルムパック装填室(図示せず)と、露光ヘッド30と、ヘッド移動機構31と、第1モータ32と、クロー爪35と、爪移動機構36と、第2モータ37と、展開ローラ対38と、ローラ駆動機構39とから構成される。
【0019】
フイルムパック装填室(図示せず)には、フイルムパック41が収納される。このフイルムパック41には、フイルム24が例えば10枚収納されている。フイルムパック41の上面には、フイルム24の露光面を露呈させる露光開口42と、クロー爪35が入り込む切り欠き43とが形成されている。また、フイルムパック41の筐体排紙口20側の側面には、露光済みのフイルム24を排出するパック排紙口44が形成されている。
【0020】
フイルム24は、所謂モノシートタイプのフイルムである。このフイルム24のパック排紙口44側の先端部には、図示は省略するが、現像液を内包する現像液ポッドが設けられている。
【0021】
露光ヘッド30は、プリントする画像の1ライン分の画像データに基づいて、フイルム24の露光面(感光層)に主走査方向(フイルム幅方向)のライン画像を露光する。この露光ヘッド30は、光源ユニット46と、液晶シャッタ47と、セルフォックレンズ(登録商標)[以下、単にレンズという]48とから構成される。光源ユニット46は、液晶シャッタ47に向けてR(赤)光、G(緑)光、B(青)光を順次照射する。光源ユニット46より照射される各光は、液晶シャッタ47により光量が調整された後、レンズ48を介してフイルム24の露光面に照射される。
【0022】
液晶シャッタ47は、主走査方向にライン状に配列された複数の液晶シャッタ素子(図示せず)を有している。各シャッタ素子は、光源ユニット46より照射される光を透過させる光透過状態と、照射される光を遮光する遮光状態とに切替可能である。このため、各シャッタ素子を1ライン分の画像データに基づいて個々に切替制御することで、各シャッタ素子を透過する光の光量を調整することができる。これにより、R光、G光、B光が順次照射される度に液晶シャッタ47の各シャッタ素子を切替制御することで、画像データに応じた階調を有するライン画像がフイルム24に露光される。
【0023】
露光ヘッド30は、ヘッド移動機構31により主走査方向に直交する副走査方向にスライド移動自在に保持されている。このヘッド移動機構31は、露光ヘッド30を保持するヘッド保持カバー53と、ネジ溝付きの回転軸54と、ガイド軸55とから構成される。回転軸54は、副走査方向に延び、筐体13の内壁に回動自在に取り付けられている。この回転軸54は、ヘッド保持カバー53の一端部に形成された図示しないネジ孔に螺合している。また、ヘッド保持カバー53の他端部には、回転軸54に対して平行なガイド軸55が挿通される貫通孔が形成されている。
【0024】
回転軸54には、図示しない駆動連結機構を介して第1モータ32が連結されている。この第1モータ32の回転を制御することで、露光ヘッド30が副走査方向に移動される。これにより、露光ヘッド30は、フイルム24の露光面の副走査方向一端と対向する露光開始位置から、副走査方向他端と対向する露光終了位置まで移動される。このように、露光ヘッド30を露光開始位置から露光終了位置に向けて1ラインずつ移動させつつ、露光ヘッド30によりライン画像をフイルム24に順次露光させることで、露光面に1画面分の画像(潜像)が露光される。
【0025】
第1モータ32としては、市販の直流モータ(DCモータ)が用いられる。この第1モータ32には、その回転軸に取り付けられたスリット付きの円板と、この円板のスリットに光を照射する発光部と、スリットを透過した光を受光する受光部とから構成される第1エンコーダ57(図3参照)が取り付けられている。この第1エンコーダ57は、第1モータ32の回転速度を検出する。
【0026】
クロー爪35は、その爪部35aが切り欠き43内に入り込んでフイルム24の排紙口44側の端部とは反対側の端部に係合する。このクロー爪35は、カムやギヤ等から構成される爪移動機構36により、副走査方向に往復移動自在に保持されている。
【0027】
爪移動機構36は、第2モータ37により駆動され、露光終了後にクロー爪35をパック排紙口44側に往動させる。これにより、露光済みのフイルム24がパック排紙口44よりフイルムパック41外にかき出される。この爪移動機構36は、引き続き第2モータ32により駆動され、クロー爪35を元の位置に復動させて次のフイルム24の端部に係合させる。
【0028】
展開ローラ対38は、一対のローラから構成され、パック排紙口44の近傍に配置されている。この展開ローラ対38は、複数のギヤ等から構成されるローラ駆動機構39を介して上述の第2モータ37に接続されている。このため、クロー爪35が往復動されているときに、展開ローラ対38も回転駆動される。従って、クロー爪35によりパック排紙口44からかき出されたフイルム24は、展開ローラ対38により筐体排紙口20を経て筐体13の外に排出される。この際に、フイルム24の現像液ポッドが展開ローラ対38によって押し潰される。これにより、現像液がフイルム24の露光面(感光層)に展開され、露光済みの画像が現像される。
【0029】
第2モータ37も、第1モータ32と同様に市販の直流モータ(DCモータ)が用いられ、その回転速度が第2エンコーダ59(図3参照)により検出される。この第2エンコーダ59により第2モータ37の回転速度を検出する。
【0030】
図3は、簡易プリンタ10の電気的構成を示したブロック図である。簡易プリンタ10の各部の駆動はCPU61により制御される。このCPU61には、上述の赤外受信センサ16、操作部21、温度センサ22、第1及び第2エンコーダ57,59の他に、メモリ63、レギュレータ64、電圧検出回路65、ヘッド駆動制御部66、第1モータ駆動制御部67、第2モータ駆動制御部68が接続されている。
【0031】
メモリ63は、本発明の記憶手段に相当するものであり、図示は省略するがプリンタ10の各部を制御する制御プログラム等が記憶されたROMや、赤外線受信センサ16を介して受信した画像データを一時的に記憶するRAMなどから構成されている。このメモリ63には、詳しくは後述する第1及び第2データテーブル70,71が記憶されている。
【0032】
レギュレータ64は、電池11より出力される出力電流の電圧(出力電圧)をCPU61、露光ヘッド30、第1及び第2モータ32,37等の駆動電圧に応じた大きさに変換する。そして、これらCPU61にはレギュレータ64により定電圧に変換された電流が供給される。この際に、電池11の出力電圧がレギュレータ64で変換可能な下限電圧を下回ると、CPU61等の駆動電圧が低下してしまう。その結果、CPU61の暴走による第1及び第2モータ32,37の異常動作が発生してしまうおそれがある。従って、本実施形態の簡易プリンタ10のような電子機器では、後述する電圧検出回路65を用いて電池11の出力電圧を検出する。
【0033】
電圧検出回路65は、本発明の電圧検出手段に相当するものであり、電池11の出力電圧を検出してその検出結果をCPU61に入力する。この電圧検出回路65は、抵抗及びCPU61に付属のA/Dポート等から構成されるものが用いられている。そして、CPU61は、電圧検出回路65で検出される出力電圧が所定の下限電圧を下回ったら寿命警告を行い、さらに出力電圧が低下したらシステムのリセット、強制パワーダウン等を行う。なお、電池11の出力電圧の検出は電圧検出回路65に限定されるものではなく、各種検出回路、検出装置(器)を用いても良い。また、寿命警告は、液晶モニタ19に警告文を表示してもよいし、筐体13に設けられた警告ランプ(図示せず)を点灯させてもよい。
【0034】
寿命警告を行う下限電圧は、例えば、電池11がフイルム24を1枚だけプリント可能な状態まで消耗したときの出力電圧である。これにより、電池11の電力残量不足によりプリントが途中で停止されてしまうことがなくなる。
【0035】
ヘッド駆動制御部66は、露光ヘッド30の駆動を制御するものであり、光源ユニット46の駆動と、液晶シャッタ47の各シャッタ素子の切り替えとを制御する。第1モータ駆動制御部67は、第1モータ32の駆動を制御することで、露光ヘッド30の移動を制御する。第2モータ駆動制御部68は、第2モータ37の駆動を制御することで、フイルム24の排出を制御する。これら両モータ駆動制御部67,68は、詳しくは後述するが本発明の移動制御手段に相当するものである。
【0036】
上述の各制御部66〜68により、それぞれ露光ヘッド30や第1及び第2モータ32,37を駆動する際に、これらは全て電池11を電源として駆動される。この電池11の容量は、例えば冬の屋外でプリントを行うときなど環境温度の低下に伴い低下する。さらに、この時には各機構31,36、39に使用されている潤滑液の粘度や現像液の粘度が増している。このため、特に第1及び第2モータ32,37に掛かる負荷が増えて、両モータ32,37を駆動するのに要する電流が増えてしまう。従って、従来のプリント方法ではプリントに要する消費電力が増大してプリント可能枚数が低下してしまう。
【0037】
そこで、本発明の簡易プリンタ10は、電池11の容量が著しく低下する低温環境下では、プリントに要する消費電力を低減することで可能な限りプリント可能枚数を増やす。具体的には、特に低温環境下で駆動に要する電流が増える第1及び第2モータ32,37の消費電力を低減させる。このため、低温環境下では両モータ32,37の回転速度、つまり、露光時の露光ヘッド30の移動速度や、露光後のフイルム24の移動速度を減速させる。この際に、両モータ32,37は直流モータであるので、その回転速度はモータ32,37に印加される電圧の大きさに比例する。つまり、両モータ32,37の消費電力は、消費電流が同じであれば回転速度が遅いほど低くなる。従って、本実施形態では、上述の温度検出センサ22で検出された環境温度に基づき、この環境温度が低くなるのに応じて露光ヘッド30やフイルム24の移動速度を減速させる。
【0038】
環境温度の低下に応じた露光ヘッド30やフイルム24の移動速度の減速は、上述のメモリ63に記憶された第1及び第2データテーブル70、71に従って行われる。両データテーブル70、71は、環境温度と、露光ヘッド30及びフイルム24の移動速度とを関連付けたものである。ここで、本実施形態では、露光時の露光ヘッド30の移動速度と露光後のフイルム24の移動速度(排出速度)とを同じ速度に設定しているが、両者の速度は同じ速度である必要はなく異なっていても良い。この場合には、露光ヘッド30及びフイルム24のそれぞれの移動速度と、環境温度とを関連付けたデータテーブルを作成すればよい。
【0039】
第1データテーブル70の一例を下記表1に示す。この第1データテーブル70では、電池11の消耗を低減させてプリント可能枚数を増やすことができるように移動速度が設定されている。具体的には、環境温度Tが15℃以上、10℃以上15℃未満、5℃以上10℃未満、0℃以上5℃未満、−5℃以上0℃未満、−5℃未満の計6つのグループを形成する。そして、各グループの移動速度を環境温度が低くなるのに従って5.0mm/sec、4.5mm/sec、4.0mm/sec、3.5mm/sec、3.0mm/sec、2.5mm/secの順に減速させている。なお、図示は省略するが、メモリ63には、移動速度と、両モータ32,37のそれぞれ回転速度とを対応させたデータテーブルまたは演算式が記憶されている。また、環境温度と移動速度とを関連付ける代わりに、環境温度と、両モータ32,37の回転速度とを直接関連付けたデータテーブルを形成してもよい。
【0040】
【表1】

【0041】
第2データテーブル71の一例を下記表2に示す。上述の第1データテーブル70では、プリント可能枚数を増やすため移動速度の減速量を大きくしている。従って、環境温度が低くなるほど1枚のプリントに要するプリント時間が長くなってしまう。このため、第2データテーブル71では、第1データテーブル70よりも減速量を小さくすることでプリント時間を短くしている。具体的には、第1データテーブル70と同様に環境温度Tに応じて6つのグループが形成されているが、15℃未満のグループの移動速度は第1データテーブル70よりも速く設定されている。これにより、第1データテーブル70を選択したときよりもプリント可能枚数は減るが、プリント時間は短くすることができる。
【0042】
【表2】

【0043】
上述の両データテーブル70,71のいずれを用いるかは、操作部21のモード切替ボタン29を押圧操作することでユーザが選択することができる。本実施形態では、モード切替ボタン29を押圧すると、簡易プリンタ10のプリントモードが「枚数重視モード」、「時間重視モード」、「定速モード」、「枚数重視モード」、・・・の順に切り替る。これらの各モードのうち枚数重視モード及び時間重視モードは、本発明の減速モードに相当するものであり、環境温度の低下に応じて移動速度の減速を行う。
【0044】
枚数重視モードが選択されると、第1及び第2モータ駆動制御部67,68は、温度センサ22よりCPU61に入力された温度データと、メモリ63内からCPU61に読み出された第1データテーブル70とに基づいて、露光ヘッド30及びフイルム24の移動速度を決定する。そして、両モータ駆動制御部67,68は、決定された移動速度(目標移動速度という)に応じた回転速度で第1及び第2モータ32,37を回転駆動する。この際に、両モータ32,37の回転速度は、第1及び第2エンコーダ57,59によりそれぞれ検出されている。従って、両モータ駆動制御部67,68は、CPU61に入力されるエンコーダ57,59の検出信号に基づき、両モータ32,37の回転速度を制御する。
【0045】
時間重視モードが選択されると、第1及び第2モータ駆動制御部67,68は、温度データと第2データテーブル71とに基づいて、露光ヘッド30及びフイルム24の目標移動速度を決定した後、この移動速度に応じた回転速度で第1及び第2モータ32,37を回転駆動する。
【0046】
定速モードが選択されたときは、環境温度に関係なく露光ヘッド30及びフイルム24を一定の移動速度で移動させる。両モータ駆動制御部67,68は、露光ヘッド30及びフイルム24が所定の移動速度、例えば常温環境下の移動速度5.0mm/secで移動されるように、両モータ32,37の駆動を制御する。この場合には、上述の時間重視モード選択時よりもプリント可能枚数は減るが、よりプリント時間を短くすることができるという利点がある。
【0047】
このように、本実施形態では簡易プリンタ10のプリントモードとして、枚数重視モードまたは時間重視モードを選択することで、環境温度の低下に応じて第1及び第2モータ32,37の消費電力を減らすことができる。
【0048】
次に、本実施形態の簡易プリンタ10の作用について説明を行う。簡易プリンタ10は、画像データを受信するまでは待機状態にある。ユーザは、カメラ付き携帯電話機より画像データの送信を開始する前に、操作部21のモード切替ボタン29を押圧操作してプリンタ10のプリントモードを決定する。なお、以下の説明では、枚数重視モードが選択されたものとして説明を行う。プリントモードが選択されたら、ユーザは、カメラ付き携帯電話機を操作して画像データの送信を開始する。そして、CPU61は、赤外線受信センサ16で受信した画像データがメモリ63に一時的に記憶されたら、プリント作業を開始する。
【0049】
プリント作業が開始されると、第1及び第2モータ制御部67,68は、温度センサ22より出力される温度データと、メモリ63内の第1データテーブル70とに基づいて露光ヘッド30の目標移動速度を決定する。次いで、第1モータ制御部67は、目標移動速度に応じた回転速度で第1モータ32を駆動し、ヘッド移動機構31を介して露光ヘッド30を上述の露光開始位置に移動させる。
【0050】
この移動が完了したら、ヘッド駆動制御部66は光源ユニット46を制御して、R光、G光、B光を液晶シャッタ47に向けて照射させる。ヘッド駆動制御部66は、R光、G光、B光が順次照射される度に、メモリ63から読み出された1ライン分の画像データに基づき、液晶シャッタ47の各シャッタ素子を切替制御する。これにより、画像データに応じた1ライン分のライン画像がフイルム24に露光される。
【0051】
ライン画像の露光が完了したら、第1モータ制御部67は、第1エンコーダ57からの検出信号に基づき、目標移動速度に応じた回転速度で第1モータ32を回転駆動させ、露光ヘッド30を露光終了位置に向けて1ライン分だけ移動させる。次いで、ヘッド駆動制御部66は、露光ヘッド30を駆動して次のライン画像をフイルム24に露光させる。以下同様にして、露光ヘッド30を露光終了位置に向けて1ラインずつ移動させつつ、この露光ヘッド30でライン画像を順次露光させる。これにより、フイルム24の露光面(感光層)に1画面分の画像(潜像)が露光される。
【0052】
フイルム24の露光が終了したら、第2モータ制御部68は、第2エンコーダ59からの検出信号に基づき、目標移動速度に応じた回転速度で第2モータ37を回転駆動させる。これにより、フイルム24が目標移動速度で排出されるようにクロー爪35が往復動されるとともに、展開ローラ対38が回転される。そして、露光済みのフイルム24は、クロー爪35によりフイルムパック41のパック排紙口44から排出された後、展開ローラ対38により筐体排紙口20を経て筐体13の外に排出される。この際に、フイルム24の現像液ポッドが展開ローラ対38によって押し潰される。これにより、現像液が展開されて露光済みの画像が現像される。カメラ付き携帯電話機(図示せず)で撮影した別の画像をプリントする場合や、焼き増しボタン27を押圧して再度プリントする場合には、上述の処理を繰り返せばよい。
【0053】
以上のように、本実施形態では環境温度の低下に応じて、露光ヘッド30及びフイルム24の移動速度を減速させるようにしたので、低温環境下で第1及び第2モータ32、37の消費電力(駆動電圧)を減らすことができる。その結果、低温環境下で電池11の容量が低下したり、各機構31,36,39の潤滑油やフイルム24の現像液の粘度の増加により両モータ32,37の消費電流が増大したりしても、プリント可能枚数が大幅に減ることが防止される。つまり、低温環境下においては従来よりもプリント可能枚数を増やすことができる。
【0054】
なお、上記実施形態では、両モータ32,37の回転速度を第1及び第2エンコーダ57,59で検出するようにしているが、本発明はこれに限定されるものでなく、各種検出器(装置)を用いてよい。さらに、両モータ32,37の回転速度を検出する代わりに、露光ヘッド30及びフイルム24の移動速度を直接検出するようにしてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、環境温度を測定するために温度センサ22を設けたが、プリンタ10に画質補正等の目的で既に温度センサが設けられている場合には、既存の温度センサで取得された温度データに基づいて、露光ヘッド30及びフイルム24の移動速度を制御するようにしてもよい
【0056】
なお、上記実施形態では、第1及び第2データテーブル70、71に基づいて露光ヘッド30及びフイルム24の移動速度を決定するようにしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、両データテーブルの代わりに環境温度と移動速度とを関連付けた演算式を用いるようにしてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、第1及び第2モータ32,37としてDCモータを用いるようにしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、ステッピング(パルス)モータを用いるようにしてもよい。この場合も、環境温度に低下に伴いモータの回転速度を減速させることで、モータの消費電力を減らすことができる。
【0058】
なお、上記実施形態のプリント部14は、フイルム24に対して露光ヘッド30を相対移動させながら露光を行うようにしているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図4に示すように露光ヘッド30に対してフイルム24を相対移動させながら露光を行うプリント部80を用いてもよい。以下、プリント部80について説明を行う。ここで、上述のプリント部14で用いられているものと同一機能を有しているものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0059】
プリント部80は、フイルムパック82が装填されるフイルムパック装填室(図示せず)と、クロー爪84と、爪移動機構36と、露光ヘッド30と、搬送ローラ対86と、第1ローラ駆動機構87aと、展開ローラ対38と、第2ローラ駆動機構87bと、モータ90とから構成される。
【0060】
フイルムパック82は、露光開口が形成されていない以外は上述のフイルムパック41と基本的には同じである。フイルムパック82には、フイルム24が露光面を図中上向きにして重ねて収納される。このフイルムパック82の筐体排紙口20(図1参照)側の側面には、フイルム24を排出するパック排紙口44が形成されている。また、フイルムパック82の上面にはクロー爪84が入り込む切り欠き92が形成されている。
【0061】
クロー爪84は、上述の爪移動機構36により副走査方向に往復移動自在に保持されている。爪移動機構36はモータ90により駆動される。そして、クロー爪84は、プリント作業が開始されたときに切り欠き92に入り込んで、フイルム24をパック排紙口44からパック82外へかき出す。
【0062】
パック排紙口44と筐体排紙口20との間には、露光ヘッド30、搬送ローラ対86,展開ローラ対38が順に配置されている。露光ヘッド30は、フイルムユニット搬送経路の図中上方に配置されている。この露光ヘッド30は、後述の搬送ローラ対86により挟持搬送されるフイルム24の露光面にライン画像を露光する。
【0063】
搬送ローラ対86は、フイルムパック82外にかき出されたフイルム24の先端部を挟持可能な位置に配置されている。この搬送ローラ対86は、駆動ローラ94と従動ローラ95とから構成される。駆動ローラ94には第1ローラ駆動機構87aを介してモータ90が接続されている。また、従動ローラ95は、所定間隔を開けて配置された一対のローラ本体95aを有している。これにより、フイルム24の先端部の現像液ポッド(図示せず)を押し潰さずに搬送を行うことができる。
【0064】
搬送ローラ対86は、フイルムパック82外に送出されたフイルム24を挟持して副走査方向に搬送する。そして、図示しないフイルム24の先端部の通過を検出する検出センサ、及び駆動ローラ94の回転数を検出する回転数検出センサからの出力信号に基づき、フイルム24の露光面が露光ヘッド30に対向する位置まで搬送されたら、露光ヘッド30による露光が開始される。フイルム24を1ラインずつ移動させつつ、露光ヘッド30によりライン画像をフイルム24に順次露光させることで、フイルム24に1画面分の画像(潜像)が露光される。フイルム24は、引き続き搬送ローラ対86により展開ローラ対38に向けて搬送される。
【0065】
展開ローラ対38には、第2ローラ駆動機構87bを介してモータ90が接続されている。このため、クロー爪84が往復動されるときに、搬送ローラ対86及び展開ローラ対3も同時に回転駆動される。そして、展開ローラ対38は、搬送ローラ対86より搬送されてくるフイルム24を挟持搬送して、このフイルム24を筐体排紙口20から筐体13(図1参照)外に排出させる。上述したように、この搬送中に展開ローラ対38によりフイルム24の現像液ポッドが押し潰される。これにより、現像液が展開されて露光済みの画像が現像される。
【0066】
上述の爪移動機構36、第1及び第2ローラ駆動機構87a,87bを駆動するモータ90も電池11(図1参照)を電源として駆動される。従って、上述したように、温度センサ22より出力される温度データと、メモリ63内の第1データテーブル70(第2データテーブル71)とに基づいてフイルム24の移動速度(モータ90の回転速度)を決定する(図3、表1及び表2参照)。これにより、低温環境下でのモータ90の消費電力を減らすことできるので、上記実施形態(プリント部14)と同様に低温環境下においてプリント可能枚数を増やすことができる。
【0067】
また、上記実施形態では、露光ヘッドを用いてフイルム24に画像を露光する簡易プリンタを例に説明を行ったが、本発明はこれに限定されるものではなく、電池を電源とするサーマルプリンタ、インクジェットプリンタ等の各種プリンタに本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の簡易プリンタの斜視図である。
【図2】簡易プリンタのプリント部の斜視図である。
【図3】簡易プリンタの電気的構成を示したブロック図である。
【図4】他の実施形態のプリント部の斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
10 簡易プリンタ
11 電池
22 温度センサ
24 インスタントフイルム
30 露光ヘッド
32 第1モータ
35 クロー爪
37 第2モータ
38 展開ローラ対
61 CPU
67,68 第1及び第2モータ制御部
70,71 第1及び第2データテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境温度の低下に伴い容量が低下する電池を電源とし、主走査方向に1ラインずつ画像を記録紙に記録する記録ヘッドを備えたプリンタにおいて、
前記記録ヘッドまたは前記記録紙を前記主走査方向と直交する副走査方向に相対移動させる移動手段と、
前記環境温度を検出する環境温度検出手段と、
前記環境温度検出手段による温度検出結果に基づき、前記環境温度の低下に応じて前記記録ヘッドまたは前記記録紙を前記相対移動させる際の移動速度が減速するように前記移動手段を制御する移動制御手段とを備えることを特徴とするプリンタ。
【請求項2】
前記環境温度と、前記記録ヘッドまたは前記記録紙の前記移動速度との関係を示すデータテーブルまたは演算式を記憶した記憶手段を備え、
前記移動制御手段は、前記データテーブルまたは前記演算式に基づいて前記環境温度が低下したときに前記移動速度を減速させることを特徴とする請求項1記載のプリンタ。
【請求項3】
前記移動手段は、前記電池を電源とするモータを有し、前記モータを駆動源として前記記録ヘッドまたは前記記録紙を前記相対移動させ、
前記移動制御手段は、前記環境温度の低下に応じて前記モータの回転速度を減速させることを特徴とする請求項1または2記載のプリンタ。
【請求項4】
前記環境温度の低下に応じて前記記録ヘッドまたは前記記録紙の前記移動速度を減速させる減速モード、及び前記環境温度の低下に応じた前記移動速度の制御を行わない定速モードの各モードを指定するモード指定手段を備え、
前記移動制御手段は、前記減速モードが指定されたときにのみ、前記移動速度の減速を行うことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載のプリンタ。
【請求項5】
前記減速モードは、
前記定速モード時よりも前記記録紙のプリント可能枚数が増加するように前記移動速度を減速させて前記電池の消耗を低減させる枚数重視モードと、
前記枚数重視モード時よりも前記移動速度の減速量を小さくすることで前記記録紙の1枚のプリントに要する時間を短くする時間重視モードとから構成されることを特徴とする請求項4記載のプリンタ。
【請求項6】
環境温度の低下に伴い容量が低下する電池を電源とし、記録ヘッドにより主走査方向に1ラインずつ画像を記録紙に記録するプリンタのプリント方法において、
前記環境温度を検出し、この温度検出結果に基づき、前記環境温度の低下に応じて前記記録紙または前記記録ヘッドを前記主走査方向と直交する副走査方向に相対移動させる移動速度を減速させて前記画像の記録を行うことを特徴とするプリント方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−203632(P2007−203632A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26156(P2006−26156)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】