説明

プリントヘッド

【課題】好適なプリントヘッドを提供すること。
【解決手段】圧力チャンバ33と、ノズル流路66と、ノズル開口部22とを画定するモノリシック半導体本体26を有するプリントヘッド。圧力チャンバには、約50ミクロンまたはそれ以下の厚さの圧電層76を含む圧電アクチュエータ28が対応付けられている。半導体本体は、複数の流路開口部を有するフィルタ/インピーダンス構成32も画定する。半導体本体は研磨SOIウエハーであることが好ましい。別の態様において、表面のRaが約0.05ミクロンまたはそれ以下であるか、または少なくとも1つの表面に空隙充填材を含む圧電層を有するプリントヘッドとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明はプリントヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
一般に、インクジェットプリンタは、インク供給部からノズル流路までのインク流路を含む。ノズル流路の終端は、インク滴が射出されるノズル開口部である。インク滴の射出は、インク流路内のインクをアクチュエータよって加圧することによって制御し、このアクチュエータは、たとえば圧電偏向器、サーマルバブルジェット(登録商標)発生装置、または静電偏向素子でもよい。一般的なプリントヘッドは多数のインク流路を有し、インク流路ごとにノズル開口部とアクチュエータとが対応付けられているので、各ノズル開口部からのインク滴の射出をそれぞれ独立に制御することができる。ドロップオンデマンド方式のプリントヘッドでは、プリントヘッドとプリント基板とが相互に相対的に移動しているときに、各アクチュエータを駆動することによって、画像の特定の画素位置にインク滴を選択的に射出する。高性能プリントヘッドでは、一般にノズル開口部の直径は50ミクロンまたはそれ以下、たとえば約25ミクロンであり、配置間隔はインチ当たり100〜300ノズルであり、解像度は100dpiから3000dpiまたはそれ以上であり、インク滴サイズは約1ピコリットル(pl)から約70ピコリットルまたはそれ以下である。インク滴の射出頻度は、一般に10kHzまたはそれ以上である。
【0003】
その内容全体を本願明細書に引用したものとするホイジントン(Hoisington)らの米国特許第5,265,315号には、半導体プリントヘッド本体と圧電アクチュエータとを有するプリントヘッドについて記載されている。このプリントヘッド本体はシリコン製であり、エッチングによってインク室が画定されている。ノズル開口部は、シリコン本体に取り付けられている別個のノズル板によって画定されている。圧電アクチュエータは圧電材料の層を有し、印加電圧に応じてこの層が形状を変える、つまり撓む。この圧電層の撓みによって、インク流路に沿って配置されているポンピングチャンバ内のインクが加圧される。
【0004】
所定の電圧に対して圧電材料が呈する撓みの量は、その材料の厚さに反比例する。この結果、圧電層の厚みが増すと、所要電圧が増加する。所定のインク滴サイズに対する所要電圧を制限するために、圧電材料の偏向壁の面積を大きくしてもよい。圧電壁の面積を大きくすると、それに合った大きなポンピングチャンバが必要になるので、高解像度印刷のための小さなオリフィス間隔の維持などの設計局面が複雑になることがある。
【0005】
印刷精度は、ヘッド内の各ノズルから射出されるインク滴のサイズおよび射出速度の均一性およびプリンタ内の複数ヘッド間の均一性など、いくつかの要因によって影響される。また、インク滴のサイズと射出速度の均一性は、インク流路の寸法の均一性、音響干渉の影響、インク流路内の汚染、各アクチュエータの作動の均一性などの要因によって影響される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
一態様において、本発明は、上面と下面とを有するモノリシック半導体本体を含むプリントヘッドを特徴とする。モノリシック半導体本体は、ポンピングチャンバと、ノズル流路と、ノズル開口部とを含む流体路を画定する。ノズル開口部はモノリシック半導体本体の下面に画定され、ノズル流路はアクセラレータ領域を含む。ポンピングチャンバには圧電アクチュエータが対応付けられる。アクチュエータは、厚さ約50ミクロンまたはそれ以下の圧電層を有する。
【0007】
別の態様において、本発明は、埋込層と、上面と、下面とを有するモノリシック半導体本体を含むプリントヘッドを特徴とする。モノリシック半導体本体は、複数の流体路を画定する。各流体路は、ポンピングチャンバと、ノズル開口部と、ノズル流路とを含み、ノズル流路はポンピングチャンバとノズル開口部との間にある。ノズル流路はアクセラレータ領域を含む。ポンピングチャンバはモノリシック半導体本体の上面に画定され、ノズル開口部はモノリシック半導体本体の下面に画定され、アクセラレータ領域は、ノズル開口部と埋込層との間に画定される。ポンピングチャンバには圧電アクチュエータが対応付けられる。圧電アクチュエータは、厚さ約25ミクロンまたはそれ以下の圧電材料の層を含む。
【0008】
別の態様において、本発明は、上面と、ほぼ平行な下面とを有し、インク供給路と、ポンピングチャンバと、ノズル開口部とを含む流体路を画定するモノリシック半導体本体を含むプリントヘッドを特徴とする。ポンピングチャンバは上面に画定され、ノズル開口部は下面に画定される。
【0009】
別の態様において、本発明は、流体流路と、ノズル開口部と、複数の流路開口部を有するフィルタ/インピーダンス構成とを画定する半導体本体を含むプリントヘッドを特徴とする。流路開口部の断面はノズル開口部の断面より小さく、流路開口部の面積の合計はノズル開口部の面積より大きい。
【0010】
別の態様において、本発明は、流路とフィルタ/インピーダンス構成とを画定するモノリシック半導体本体を含むプリントヘッドを特徴とする。複数の実施態様において、複数のノズル開口部を画定するノズル板が半導体本体に取り付けられる。複数の実施態様において、半導体本体は複数のノズル開口部を画定する。
【0011】
別の態様において、本発明は、複数の流路開口部を有する半導体を含むフィルタ/インピーダンス構成を特徴とする。複数の実施態様において、これらの開口部の断面は約25ミクロンまたはそれ以下である。
【0012】
別の態様において、本発明は、流路と圧電アクチュエータとを有する本体を含むプリントヘッドを特徴とし、圧電アクチュエータは予備焼成された厚さ約50ミクロンまたはそれ以下の圧電層を有し、この圧電層は流路に連通している。
【0013】
別の態様において、本発明は、表面のRが約0.05ミクロンまたはそれ以下の圧電層を有するプリントヘッドを特徴とする。
【0014】
別の態様において、本発明は圧電アクチュエータを含むプリントヘッドを特徴とし、この圧電アクチュエータは厚さ約50ミクロンまたはそれ以下の圧電層を有し、この圧電層は少なくとも1つの表面に空隙充填材料を含む。
【0015】
別の態様において、本発明は、複数の流路開口部を有するフィルタ/インピーダンス構成を含むプリントヘッドを設けるステップと、t/(流れの発達時間)が約0.2またはそれ以上になるように流体を射出するステップとを含む印刷方法を特徴とし、ここでtは点弧パルスの幅であり、流れの発達時間は(流体密度)r/(流体粘度)であり、rは少なくとも1つの流路開口部の断面寸法である。
【0016】
別の態様において、本発明は、厚さ約50ミクロンまたはそれ以下の圧電層を設けるステップと、この圧電層の少なくとも1つの表面に充填材の層を設けるステップと、圧電材料を露出するために充填材の層の厚さを減らすステップと、圧電材料の表面の空隙に充填材を残しておくステップとを含む方法を特徴とする。
【0017】
別の態様において、本発明は、本体を設けるステップと、圧電層を本体に取り付けるステップと、固着した圧電層の厚さを約50ミクロンまたはそれ以下に減らすステップと、プリントヘッド内の流体を加圧するために圧電層を利用するステップとを含むプリントヘッドの形成方法を特徴とする。
【0018】
別の態様において、本発明は、圧電層を設けるステップと、膜を設けるステップと、陽極接合によって圧電層を膜に固着するステップと、さらに/または陽極接合によって膜を本体に固着するステップと、アクチュエータをプリントヘッドに組み込むステップとを含むプリントヘッドの形成方法を特徴とする。
【0019】
別の態様において、本発明は、埋込層と、上面と、下面とを有するモノリシック半導体本体を含むノズル板を特徴とする。本体は複数の流体路を画定し、各流体路はノズル流路とノズル開口部とを有する。ノズル流路はアクセラレータ領域を含む。ノズル開口部は本体の下面に画定され、アクセラレータ領域は下面と埋込層との間に画定される。
【0020】
別の態様において、本発明は、ノズル流路と、ノズル開口部と、フィルタ/インピーダンス構成とを有する流体路を複数含むモノリシック半導体本体を備えるノズル板を特徴とする。
【0021】
他の態様または実施態様は、上記の各態様の特徴の組合せを含んでもよく、さらに/または以下の特徴を1つまたは複数含んでもよい。
【0022】
圧電層の厚さは、約25ミクロンまたはそれ以下である。圧電層の厚さは、約5ミクロンから約20ミクロンである。圧電層の密度は、約7.5g/cmまたはそれ以上である。圧電層のd31係数は、約200またはそれ以上である。圧電層の表面のRは、約0.05ミクロンまたはそれ以下である。圧電層は、予備焼成された圧電材料で構成される。圧電層は、圧電材料のほぼ平面体である。充填材は誘電体である。誘電体は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、またはパリレンから選択される。充填材はITOである。
【0023】
半導体本体は、フィルタ/インピーダンス構成を画定する。本フィルタ/インピーダンス構成は、複数の流路開口部を流体路内に画定する。本フィルタ/インピーダンス構成は、複数の突起を流路内に有する。少なくとも1つの突起は、部分的に囲われた領域を画定し、たとえば凹面によってこの領域を画定する。各突起は柱である。少なくとも1つの柱は、上流側に向いた凹面を含む。本構成は、柱を複数列含む。上流側の第1列および下流側の最終列において、第1列の柱は上流側に向いた凸面を有し、最終列の柱は下流側に向いた凸面を有する。第1列と第2列との間の各柱は、上流側に向いた凹面を含む。これらの柱は、下流側に向いた凹面を有する柱に隣接して、上流側に向いた凹面を有する。本構成は、壁部材を貫く開口部を複数備える。開口部の断面寸法は、ノズル開口部の断面寸法の約50%から約70%である。フィルタ/インピーダンス構成は、ポンピングチャンバの上流側にある。フィルタ/インピーダンス構成は、ポンピングチャンバの下流側にある。
【0024】
流路開口部の断面寸法は、ノズル開口部の断面寸法より小さい。フィルタ/インピーダンス構成は、凹面領域を有する。流路開口部の断面は、ノズル開口部の断面の約60%またはそれ以下である。流路開口部の面積の合計は、ノズル開口部の断面の約2倍またはそれ以上である。
【0025】
流れは、点弧パルス幅に相当する時間でほぼ発達し、たとえば開口部の中心における流れの発達は、最大の約65%またはそれ以上に達する。t/(流れの発達時間)は約0.75またはそれ以上である。点弧パルス幅は、約10マイクロ秒またはそれ以下である。本構成における圧力降下はノズル流路における圧力降下より小さく、たとえば0.5から0.1である。
【0026】
アクチュエータは、半導体本体に接合されたアクチュエータ基板を含む。アクチュエータ基板は、陽極接合によって半導体本体に取り付けられる。アクチュエータ基板は、ガラス、シリコン、アルミナ、ジルコニア、または石英から選択される。アクチュエータ基板の厚さは約50ミクロンまたはそれ以下であり、たとえば25ミクロンまたはそれ以下であり、たとえば5ミクロンから20ミクロンである。アクチュエータ基板は、陽極接合によって圧電層に接合される。アクチュエータ基板は、アモルファスシリコン層を介して圧電層に接合される。圧電層は、有機接着剤によってアクチュエータ基板に接合される。アクチュエータ基板は、流体路に沿って圧電層を越えて延在する。流体路に沿ってポンピングチャンバを越えて延在するアクチュエータ基板の部分は、肉厚が薄い。アクチュエータ基板は透明である。
【0027】
半導体本体は、ディフェレンシャルエッチング可能な材料を少なくとも2つ含む。半導体本体は少なくとも1つの埋込層を含み、ノズル流路は変化する断面を含み、埋込層は断面領域が異なる領域の間に設けられる。ポンピングチャンバは、本体の上面に画定される。ノズル流路は、ポンピングチャンバからの流体を下面方向に導くためのディセンダ領域と、ディセンダ領域からの流体をノズル開口部に導くアクセラレータ領域とを含む。埋込層は、ディセンダ領域とアクセラレータ領域との接合部にある。アクセラレータ領域および/またはディセンダ領域および/またはアクセラレータ領域の断面はほぼ一定である。アクセラレータ領域の断面は、ノズル開口部に向かって狭まる。断面は、曲線領域を有する。ノズル開口部の断面に対するアクセラレータ領域の長さの比は、約0.5またはそれ以上であり、たとえば約1.0またはそれ以上である。この比は約5.0またはそれ以下である。アクセラレータ領域の長さは、約10ミクロンから約50ミクロンである。ノズル開口部の断面は、約5ミクロンから約50ミクロンである。
【0028】
ポンピングチャンバは、ほぼ線形のチャンバ側壁間に画定され、ノズル流路は、これらの一方の側壁にほぼ共線的な延長部によって画定される。本体は、複数の流路対を画定し、これらの流路対にノズルが隣接し、ポンピングチャンバの各側壁はほぼ共線的である。各対のノズル流路は互い違いに配置されている。各対のノズルは、ほぼ直線を画定する。ノズル流路は長断面と短断面とから成る領域を有し、短断面はノズル開口部の並びとほぼ平行している。
【0029】
圧電層および/または膜の厚さは、研削によって薄くする。圧電層は、本体に取り付ける前に焼成する。圧電層をアクチュエータ基板に取り付け、このアクチュエータ基板を本体に取り付ける。圧電層は、陽極接合によってアクチュエータ基板に取り付ける。圧電層は、有機接着剤によってアクチュエータ基板に取り付ける。圧電層をアクチュエータ基板に取り付ける前に、アクチュエータ基板を本体に取り付ける。アクチュエータ基板を本体に取り付けた後で、アクチュエータ基板の厚さを薄くする。アクチュエータ基板は、陽極接合によって本体に取り付ける。本体は半導体であり、アクチュエータ基板はガラスまたはシリコンである。圧電アクチュエータは、圧電層と、ガラスまたはシリコンの膜とを含み、この膜は陽極接合によって本体に接合される。圧電層はこの膜に陽極接合される。圧電アクチュエータは圧電層の上に金属被膜層を有し、この金属被膜層の上に酸化シリコンまたはシリコンの層を有する。
【0030】
本方法は、流路を画定する本体を設けるステップと、アクチュエータを本体に陽極接合によって取り付けるステップとを含む。インク供給路、フィルタ/インピーダンス構成、ポンピングチャンバ、ノズル流路、および/またはノズル開口部などの流路構成は、以下に説明するように、半導体をエッチングすることによって形成する。
【0031】
圧電材料に関連する態様と特徴とは、非モノリシック本体および/または非半導体本体によって画定された流路を含むプリントヘッドにも使用できる。流路を画定するモノリシック本体に関連する態様と特徴とは、非圧電アクチュエータ、たとえば静電アクチュエータやバブルジェット(登録商標)アクチュエータにも使用できる。フィルタ/インピーダンスに関連する態様と特徴とは、非圧電アクチュエータまたは圧電アクチュエータおよびモノリシック本体または非モノリシック本体にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1−1】図1はプリントヘッドの斜視図であり、図1Aは図1の領域Aの拡大図であり、図1Bおよび図1Cはプリントヘッドユニットの組立図である。
【図1−2】図1はプリントヘッドの斜視図であり、図1Aは図1の領域Aの拡大図であり、図1Bおよび図1Cはプリントヘッドユニットの組立図である。
【図1−3】図1はプリントヘッドの斜視図であり、図1Aは図1の領域Aの拡大図であり、図1Bおよび図1Cはプリントヘッドユニットの組立図である。
【図2A】図2Aおよび図2Bは、プリントヘッドモジュールの斜視図である。
【図2B】図2Aおよび図2Bは、プリントヘッドモジュールの斜視図である。
【図3】図3はプリントヘッドユニットの断面図である。
【図4A】図4Aはプリントヘッドモジュール内の流路の組立断面図である。
【図4B】図4Bは図4Aの線B−Bに沿ったモジュールの組立断面図である。
【図5A】図5Aはプリントヘッドモジュール本体の部分上面図である。
【図5B】図5Bは図5Aの領域Bの拡大図である。
【図6A】図6Aは流路開口部における流速のプロットである。
【図6B】図6Bは時間の関数として表した駆動信号を示す電圧のプロットである。
【図7A】図7Aは圧電層の表面形状のプロットである。
【図7B】図7Bは表面形状の斜視図である。
【図7C】図7Cは図7Aの線C−Cに沿った表面形状を示す。
【図8−1】図8A〜図8Nは、プリントヘッドモジュール本体の製造を示す断面図である。
【図8−2】図8A〜図8Nは、プリントヘッドモジュール本体の製造を示す断面図である。
【図8−3】図8A〜図8Nは、プリントヘッドモジュール本体の製造を示す断面図である。
【図8−4】図8A〜図8Nは、プリントヘッドモジュール本体の製造を示す断面図である。
【図9】図9は、圧電アクチュエータの製造およびモジュールの組立を示すフローチャートである。
【図10】図10は、圧電層の研削を示す側断面図である。
【図11】図11は、プリントヘッドモジュールの断面図である。
【図12】図12Aはプリントヘッドモジュールの断面図であり、図12Bは図12Bの領域Bにおけるモジュール前面の部分拡大図である。
【図13】図13Aはプリントヘッドモジュールの断面図であり、図13Bは図13Aの領域Aの上面拡大図である。
【図14】図14Aはプリントヘッドモジュールの断面図であり、図14Bは図14Aの領域Aの上面拡大図である。
【図15】図15Aはプリントヘッドモジュールの断面図であり、図15Bは図15Aの領域Aの上面拡大図である。
【図16】図16Aはプリントヘッドモジュールの断面図であり、図16Bはモジュールの構成要素の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
さらなる態様、特徴、および利点について以下に説明する。
構造
図1において、インクジェットプリントヘッド10は、画像を印刷する用紙14の全幅または一部にわたるように、ケース86に保持されている複数のプリントヘッドユニット80を含む。プリントヘッド10と用紙14とが相互に相対的に移動しているときに(矢印)、インクをユニット80から選択的に噴射することによって、画像を印刷することができる。図1Aの実施形態においては、たとえば約12インチまたはそれ以上の幅にわたる3セットのプリントヘッドユニット80が示されている。各セットは、プリントヘッドと用紙との間の相対的な移動方向に沿って複数のプリントヘッドユニットを含み、この例では3つのプリントヘッドユニットを含んでいる。解像度および/または印刷速度を上げるために、ノズル開口部がずれるようにこれらのユニットを配置することができる。あるいは、またはさらに、各セット内の各ユニットにそれぞれ異なる種類または色のインクを供給することができる。この構成を使用すると、プリントヘッドを1回通過させるだけで、用紙全幅にわたるカラー印刷を行うことができる。
【0034】
また図1Bおよび図1Cにおいて、各プリントヘッドユニット80は、面板82上に配置されたプリントヘッドモジュール12を含み、インクの射出を制御する駆動信号を送出するためのフレキシブルプリント回路84がこのプリントヘッドモジュール12に取り付けられている。特に図1Cにおいて、面板82は、インクをモジュール12に供給するためのインク供給路を含むマニホールドアッセンブリ88に取り付けられる。
【0035】
また図2Aにおいて、各モジュール12は、インク滴を射出する多数のノズル開口部22を画定する前面20を有する。図2Bにおいて、各モジュール12は、フレキシブルプリント回路を取り付ける一連の駆動接点17を裏面部16に有する。各駆動接点は1つのアクチュエータに対応し、各アクチュエータは1つのインク流路に対応付けられているので、各ノズル開口部からのインクの射出を個別に制御することができる。特定の一実施形態においては、モジュール12の総幅は約1.0cmであり、長さは約5.5cmである。図示の実施形態においては、このモジュールはノズル開口部を1列有する。ただし、このモジュールにノズル開口部を複数列設けることもできる。たとえば、解像度を上げるために、1つの列の開口部を別の列の開口部に対してずらしてもよい。あるいは、またはさらに、それぞれ異なる列のノズルに対応するインク流路に、それぞれ異なる色または種類(たとえばホットメルト、紫外線硬化型、水性基材)のインクを供給してもよい。以下に説明するように、たとえば流路をエッチングする半導体ウエハー内で、モジュールの各寸法を変えることもできる。たとえば、モジュールの幅および長さを10cmまたはそれ以上にしてもよい。
【0036】
また図3において、モジュール12は、モジュール基板26と圧電アクチュエータ28,28’とを含む。モジュール基板26は、モジュールインク供給路30,30’と、フィルタ/インピーダンス構成32,32’と、ポンピングチャンバ33,33’と、ノズル流路34,34’と、ノズル開口部22とを画定する。ポンピングチャンバ33,33’の上にアクチュエータ28,28’を配置する。隣接ノズルに供給するポンピングチャンバ33,33’は、モジュール基板の中心線の両側に交互に配置されている。マニホールドアッセンブリ上の面板82は、モジュール供給路30,30’の下部を覆う。インクはマニホールド流路24から供給され(矢印31)、モジュール供給路30に入り、フィルタ/インピーダンス構成32に導かれる。インクはフィルタ/インピーダンス構成32を通ってポンピングチャンバ33に流れ込み、ここでアクチュエータ28によって加圧されてノズル流路34に導かれ、ノズル開口部22から出る。
モジュール基板
特に図4Aおよび図4Bにおいて、モジュール基板26は、インク流路構成がエッチングによって形成された、シリコンオンインシュレータ(SOI)基板などのモノリシック半導体本体である。本SOI基板は、ハンドルとして公知の単結晶シリコンの上部層102と、活性層として公知の単結晶シリコンの下部層104と、BOX層として公知の二酸化シリコンの中間層つまり埋込層105とを含む。ポンピングチャンバ33とノズル開口部22とは、基板の並行な対向面にそれぞれ形成される。図示のように、ポンピングチャンバ33は裏面103に形成され、ノズル開口部22は前面106に形成される。モノリシック本体の厚さの均一性は高く、プリントヘッド内の複数モジュールのモノリシック本体間でも高い。たとえば、モノリシック部材の厚さの均一性は、たとえば6インチの研磨SOIウエハー上に形成されたモノリシック部材の場合、約±1ミクロンまたはそれ以下にすることができる。結果として、ウエハーにエッチングされた流路構成の寸法の均一性は、本体の厚さのばらつきによって実質的に低下することはない。さらに、ノズル開口部は、別個のノズル板を使わずにモジュール本体に画定される。特定の一実施形態においては、活性層104の厚さは約1ミクロンから約200ミクロンであり、たとえば約30ミクロンから約50ミクロンであり、ハンドル102の厚さは約200ミクロンから約800ミクロンであり、BOX層105の厚さは約0.1ミクロンから約5ミクロン、たとえば約1ミクロンから約2ミクロンである。ポンピングチャンバの長さは約1mmから約5mm、たとえば約1mmから約2mmであり、幅は約0.1mmから約1mm、たとえば約0.1mmから約0.5mmであり、深さは約60ミクロンから約100ミクロンである。特定の一実施形態においては、ポンピングチャンバの長さは約1.8mm、幅は約0.21mm、深さは約65ミクロンである。他の実施形態においては、モジュール基板を半導体ウエハーなどのエッチング可能な材料とし、BOX層をなくしてもよい。
【0037】
また図5Aおよび図5Bにおいて、モジュール基板26は、ポンピングチャンバ33の上流側に位置するフィルタ/インピーダンス構成32を画定する。特に図5Bにおいて、フィルタ/インピーダンス構成32は、流路内の一連の突起40によって画定され、この例ではインク流の方向に沿って3列41,42,43に配置された突起群によって画定されている。これらの突起、この例では並行する柱群、はモジュール基板に一体化されている。フィルタ/インピーダンス構成は、フィルタリングのみを行うように構成することも、音響インピーダンスの制御のみを行うように構成することも、フィルタリングと音響インピーダンス制御の両方を行うように構成することもできる。フィルタリングおよび/または所望の音響インピーダンスが得られるように、突起の位置、サイズ、間隔、および形状を選択する。この構成はフィルタとして、微粒子または繊維などの異物がノズル流路に達してこれを詰まらせないように、異物を捕捉する。この構成は音響インピーダンス素子として、ポンピングチャンバ33からインク供給流路30に向かって伝播する圧力波を吸収することによって、モジュール内のチャンバ間の音響漏話を減らし、動作頻度を増やす。
【0038】
特に図5Bにおいて、各列の柱群が隣接列の柱群からずれるように柱群をインク流路に沿って配置することによって、構成内に直線流路をなくし、フィルタリング効果を上げている。さらに、柱の形状によってフィルタリング性能を向上させている。この例では、第1列41の柱群46は、上流側に略凸状の面48を含み、下流側に部分的に囲われた窪み領域47を形成する略凹面50を含む。列42の柱群52は上流側の凹面54と下流側の凹面56とを含む。最終列43の柱群60は下流側の凸面62と上流側の凹面64とを含む。モジュールインク流路30から構成32にインクが流れるとき、第1列41の柱群46の凸面48によってこの構成への流路に比較的小さな乱流が誘発される。第1、第2、および第3列の柱群の凹面はフィルタリング機能を強化し、特に繊維などの長細形状の汚染物質をフィルタリングする。繊維がインク流と共に第1列41を越えて移動すると、第2列または第3列の柱群の下流側凹面54,62に引っかかって阻止され、上流側凹面54,62と下流側凹面50,56との間に捕捉されやすい。第3列43の下流側凸面64は、フィルタリング後のインクの低乱流をチャンバに向かわせる。複数の実施形態において、凹面の代わりに他の部分的に囲われた形状、たとえば矩形または三角形の窪み領域を画定する形状を使用することもできる。
【0039】
柱間の空間は、流路開口部を画定する。流路開口部のサイズと数によって、望ましいインピーダンスおよびフィルタリング性能が得られる。1つの流路開口部のインピーダンスは、その開口部を通過する流体の流れの発達時間に応じて異なる。流れの発達時間は、停止状態の流体が加圧後に定常速度プロファイルで流れるまでの所要時間に関係する。円形ダクトの場合、流れの発達時間は次の値に比例する。
【0040】
(流体密度)*r/(流体粘度)
ここでrは開口部の半径である。(開口部が矩形または他の形状の場合、rは最小断面寸法の2分の1である。)入射パルスの持続時間に比べて流れの発達時間が比較的長い場合は、流路開口部が誘導子として機能する。しかし、入射圧力パルスの持続時間に比べて流れの発達時間が比較的短い場合は、流路開口部が抵抗子として機能し、入射パルスを事実上減衰させる。
【0041】
流れは、点弧パルス幅に相当する時間で実質的に発達することが好ましい。図6Aにおいて、管内での流れの発達が示されている。このグラフは、開口部全域における速度Uを最大速度Umaxで表しており、ここでr=0は開口部の中心であり、r=1は開口部の周縁である。流れの発達が複数のtについてプロットされており、ここでtは、パルス幅tを流れの発達時間で割った値である。このグラフは、その内容全体を本願明細書に引用したものとするF.M.ホワイト(White)著「粘性流体流(Viscous Fluid Flow)」マグローヒル社刊1974年にさらに記載されている。図6Aのグラフは141頁〜143頁に記載されている。
【0042】
図6Aに示すように、t=約0.2またはそれ以上であると、開口部中心における流れの発達は最大値の約65%に達する。t=約0.75では、流れの発達は最大値の約95%である。所定のtおよびパルス幅に対して、所定の密度および粘度の流体に対する流路開口部の寸法を選択することができる。たとえばt=0.75、インクの密度が約1000kg/m、粘度が約0.01パスカル秒、パルス幅が7.5マイクロ秒である場合は、r=10e−6mとし、開口部の直径を約20ミクロンまたはそれ以下にする必要がある。
【0043】
図6Bにおいて、パルス幅tは、インク滴を射出させるための電圧印加時間である。3つのインク滴射出波形を有する駆動信号列が2つ図示されている。アクチュエータに対する電圧は一般に中立状態に維持され、インク滴の射出が必要になると、射出用の波形が印加される。たとえば台形波形の場合、パルス幅tは台形の幅である。より複雑な波形の場合は、パルス幅は1つのインク滴射出サイクルの時間であり、たとえば射出波形の開始から立上り電圧に戻るまでの時間である。
【0044】
この構成内の流路開口部の数は、高頻度の連続動作に十分なインク流がポンピングチャンバに送られるように選択することができる。たとえば、減衰効果を与えるほど小さい寸法の流路開口部を1つだけにすると、インクの供給が制限されることがある。このようなインクの枯渇を防ぐために、複数の開口部を設けることができる。本構成の総流動抵抗がノズルの流動抵抗より小さくなるように、開口部の数を選択することができる。さらに、フィルタリングを行うために、流路開口部の直径または最小断面寸法は、対応するノズル開口部の直径(最小断面)より小さいことが好ましく、たとえばノズル開口部の60%またはそれ以下にする。好適なインピーダンス/フィルタリング構成においては、開口部の断面はノズル開口部の断面の約60%またはそれ以下であり、本構成内の全流路開口部の総断面積は全ノズル開口部の総断面積より大きく、たとえばノズル断面積の約2倍または約3倍、あるいはそれ以上であり、たとえば約10倍またはそれ以上である。流路開口部の直径が変化するフィルタ/インピーダンス構成の場合、流路開口部の断面積は、断面寸法が最小の位置で測定する。インク流の方向に沿って連絡流路があるフィルタ/インピーダンス構成の場合は、断面寸法および面積は断面が最小の領域で測定する。複数の実施形態において、本構成内の流動抵抗は、圧力降下から求めることができる。圧力降下は、噴射流で測定することができる。噴射流は、点弧パルス幅当たりのインク滴量である。複数の実施形態において、インピーダンス/フィルタ構成における噴射流の圧力降下は、ノズル流路での圧力降下より小さい。たとえば、本構成における圧力降下は、ノズル流路における圧力降下の約0.5から約0.1である。
【0045】
インク供給路への音響反射が実質的に減るように、本構成の総インピーダンスを選択することができる。たとえば、本構成のインピーダンスをポンピングチャンバのインピーダンスにほぼ一致させてもよい。あるいは、フィルタリング機能を強化するためにインピーダンスをチャンバより大きくすることが望ましいこともあれば、インク流を増やすためにインピーダンスをチャンバより小さくすることが望ましいこともある。後者の場合は、以下に説明するように、流路中のどこか別の場所に弾性膜を使用するか、またはインピーダンス制御構成を追加することによって、漏話を減らしてもよい。ポンピングチャンバおよびフィルタ/インピーダンス構成のインピーダンスは、ニューメキシコ州サンタフェのフロー・サイエンス社(Flow Science Inc.)から入手可能なFLOW−3Dなどの流体力学ソフトウェアを用いてモデリングできる。
【0046】
特定の一実施形態においては、流路に沿った柱間間隔Sおよび流路を横切る柱間間隔Sは約15ミクロンであり、ノズル開口部は約23ミクロンである(図5B)。柱の幅は約25ミクロンである。図5の実施形態において、フィルタ/インピーダンス構成内の3列の柱群は3つの直列音響抵抗子として機能する。第1列および最終列は6つの流路開口部を有し、中間列は5つの流路開口部を有する。各流路開口部の最小断面は約15ミクロンであり、ノズル開口部の断面(23ミクロン)より小さい。各列の開口部の面積の合計は、ノズル開口部の面積より大きい。インピーダンス制御および/またはフィルタリングのために構成を突起によって画定すると、流路に沿った柱および流路を横切る柱の間隔、形状、配置、およびサイズによって、たとえば、フィルタリングに効果的な蛇行流体路と、減衰効果がある流路サイズとを兼備できるという利点がある。他の実施形態においては、以下に説明するように、一連の開口部を有する隔壁(群)によってフィルタ/インピーダンス構成を設けてもよい。
【0047】
特に図5Aにおいて、モジュール基板は、ノズル流路34,34’にそれぞれ供給するポンピングチャンバ33,33’をさらに画定する。ポンピングチャンバ33,33’は、ノズル開口部の並びを挟んで相互に対向する位置に配置され、略共線的な側壁37,37’を有する。ノズル開口部を狭間隔で一直線に配置するために、ノズル流路は一方の側壁の延長部39,39’に沿ってポンピングチャンバに接合し、ノズル流路を互い違いに配置したパターンを形成する。さらに、ポンピングチャンバとノズル流路との間の移行部におけるインク量を比較的少量に維持するために、移行部の形状はノズル開口部の並びに沿った軸の方が短い卵形である。以下に説明するように、このような配向によってノズル開口部間の間隔を狭めながら、ノズル流路の容積を相対的に大きくしている。さらに、隣接チャンバ間を隔て、ノズル並びの両側に絶縁切込みを形成するための直線鋸引きをモジュールに直角に行えるので製造が簡略化される。
【0048】
再び図4Aおよび図4Bにおいて、モジュール基板はノズル流路34も画定する。この例では、ノズル流路34はモジュール基板の上面と下面とに対して直角にインク流を導く。ノズル流路34は、上部のディセンダ領域66と下部のアクセラレータ領域68とを有する。ディセンダ領域66の容積は相対的に大きく、アクセラレータ領域68の容積は相対的に小さい。ディセンダ領域66はポンピングチャンバ33からのインクをアクセラレータ領域68に導き、ここでインクが加速され、ノズル開口部22から射出される。モジュール全体のアクセラレータ領域68の均一化によって、インク滴のサイズおよび速度の均一性が向上している。アクセラレータ領域の長さは、モジュール本体の前面106とBOX層105との間に画定される。さらに、BOX層105は、ディセンダ領域66とアクセラレータ領域68との界面に存在する。以下に説明するように、BOX層105は、製造時にエッチング深さとノズルの均一性とを精密に制御するためのエッチング停止層として機能する。
【0049】
図4Aに示すアクセラレータ領域は、オリフィス開口部の直径に相当する一定の直径を有する略円筒状の通路である。ノズル開口部の上流にあるほぼ一定の小口径のこの領域によって、ノズル開口部の軸に対するインク滴軌道の真直性を向上し、印刷精度を向上する。さらに、アクセラレータ領域は、ノズル開口部からの空気の侵入を阻止することによって、高頻度動作時のインク滴の安定性を向上する。これは、点弧前充填(fill−before−fire)モード、つまり点弧前にインクをポンピングチャンバに吸い込むためにアクチュエータが負圧を生成するモード、で動作するプリントヘッドにおいては特に都合がよい。負圧によってノズル内のインクのメニスカスをノズル開口部から内部に引き込むこともできる。アクセラレータ領域の長さをメニスカスの最大引込み寸法より長くすることによって、空気の侵入を阻止する。アクセラレータ領域は、可変直径を含むこともできる。たとえば、アクセラレータ領域のディセンダ近くの直径を大きくし、ノズル開口部近くの直径を小さくした漏斗形状または円錐形状にしてもよい。円錐角をたとえば5°から30°にしてもよい。アクセラレータ領域は、曲線方形、つまり鐘形に直径が狭まる形状を含むこともできる。アクセラレータ領域は、ノズル開口部に向かって直径が段階的に小さくなる複数の円筒領域を含むこともできる。ノズル開口部に向かって段階的に直径を小さくすると、アクセラレータ領域内の圧力降下が減るので、駆動電圧が下がり、インク滴サイズの範囲が広がり、点弧速度能力が上がる。直径がそれぞれ異なる各ノズル流路部分の長さは、以下に説明するように、エッチング停止層として機能するBOX層を使用して精密に画定することができる。
【0050】
特定の実施形態においては、ノズル開口部の直径に対するアクセラレータ領域の長さの比は一般に約0.5またはそれ以上、たとえば約1から約4であり、好ましくは約1から約2である。ディセンダの最大断面は約50ミクロンから約300ミクロンであり、長さは約400〜800ミクロンである。ノズル開口部およびアクセラレータ領域の直径は、約5ミクロンから約80ミクロンであり、たとえば約10ミクロンから約50ミクロンである。アクセラレータ領域の長さは約1ミクロンから約200ミクロンであり、たとえば約20ミクロンから約50ミクロンである。モジュール本体のノズル間におけるアクセラレータ領域の長さの均一性は、たとえば約±3%またはそれ以下、または±2ミクロンまたはそれ以下にしてもよい。10plのインク滴用に構成された流路の場合、ディセンダの長さは約550ミクロンである。ディセンダは、最小幅が約85ミクロン、最大幅が約160ミクロンの長円の卵型形状である。アクセラレータ領域は、長さが約30ミクロン、直径が約23ミクロンである。
アクチュエータ
図4Aおよび図4Bにおいて、圧電アクチュエータ28は、アクチュエータ膜70と、接合層72と、接地電極層74と、圧電層76と、駆動電極層78とを含む。圧電層74は圧電材料の薄膜であり、厚さは約50ミクロンまたはそれ以下、たとえば約25ミクロンから約1ミクロン、たとえば約8ミクロンから約18ミクロンである。圧電層は、高密度、低空隙率、高圧電定数などの望ましい特性を持つ圧電材料で構成することができる。このような特性を圧電材料に持たせるには、基板に接合する前の材料を焼成する手法を用いる。たとえば、成形と焼成とを単独で(支持物に乗せずに)行った圧電材料は、材料を(加熱または非加熱)型枠に押し込むときに高圧をかけることができるという利点がある。さらに、フロー剤や結合剤などの添加剤が一般に少なくて済む。焼成処理に使用する温度をより高温、たとえば1200〜1300℃にすると、熟成および粒子成長が促進される。セラミックからの(高温による)PbO損失を減らす焼成雰囲気(たとえば鉛を富化した雰囲気)を使用することもできる。PbO損失または他の劣化が発生した可能性があるモールド部品の外面は、切り取って廃棄することができる。材料をさらに熱間静水圧圧縮成形(HIP)で処理すると、セラミックに一般に1000〜2000atmの高圧をかけることもできる。HIP処理は一般に圧電材料ブロックの焼成後に行われ、密度の増加、空隙の減少、圧電定数の増加のために用いられる。
【0051】
予備焼成した圧電材料の薄層は、比較的厚いウエハーの厚さを薄くすることによって形成することができる。水平研削などの精密研削法によって、平滑で低空隙率の表面形態を持つ均一性の高い薄層を製作することができる。水平研削では、被加工物を回転チャックに載せ、被加工物の露出面を水平研削砥石に接触させる。研削によってウエハー全体の平坦度と平行度とをたとえば0.25ミクロンまたはそれ以下、たとえば約0.1ミクロンまたはそれ以下にし、表面仕上げのRaを5nmまたはそれ以下にすることができる。研削によって対称的な表面仕上げ、および残留応力の均一化も行える。必要であれば、わずかに凹状または凸状の面を形成することができる。以下に説明するように、研削前に圧電ウエハーをモジュール基板などの基板に接合しておくと、薄層が支持されるので、割れおよび反りの可能性が減る。
【0052】
特に図7A〜7Cには、圧電材料の接地面の干渉粗面計データが示されている。特に図7Aにおいて、表面仕上げは、約35mmの領域にわたってほぼ平行した一連の隆起を呈している。山と谷の平均差は約2ミクロンまたはそれ以下であり、rmsは約0.07ミクロンまたはそれ以下であり、Raは約0.5ミクロンまたはそれ以下である。特に図7Bにおいて、表面形状が斜視図で示されている。特に図7Cにおいて、図7Aの線C−Cに沿った表面形状が示されている。
【0053】
適切な精密研削装置は、アリゾナ州チャンドラーのセイバ・テクノロジー社(Cieba Technologies)から入手可能な東芝製のモデルUHG−130Cである。基板は、粗目砥石で研削してから細目砥石で研削することができる。適切な粗目および細目砥石は、それぞれ1500グリットと2000グリットの人造ダイヤモンドレジノイドマトリックスである。適切な研削砥石は、日本のアドマまたは旭ダイヤモンド工業株式会社から入手可能である。部品加工スピンドルの回転速度は500rpmにし、研削砥石スピンドルの回転速度は1500rpmにする。最初の200〜250ミクロンは粗目砥石を使用し、X軸の送り速度を10ミクロン/分にし、最後の50〜100ミクロンは細目砥石を使用し、X軸の送り速度を1ミクロン/分にする。冷却液は18mΩの純水である。表面形態の測定には、コネチカット州ミドルフィールドのザイゴ社(Zygo Corp)から入手可能な、メトロビュー(Metroview)ソフトウェア付きニュービュー(Newview)5000干渉計のザイゴ(Zygo)モデルを使用できる。圧電材料の密度は、約7.5g/cmまたはそれ以上、たとえば約8g/cmから10g/cmが好ましい。d31係数は、約200またはそれ以上が好ましい。HIP処理された圧電材料は、日本の住友圧電材料からH5CおよびH5Dとして入手可能である。H5C材料が呈する見掛け密度は約8.05g/cm、d31は約210である。H5D材料が呈する見掛け密度は約8.15g/cm、d31は約300である。ウエハーの厚さは一般に約1cmであり、約0.2mmの方形にダイシング可能である。ダイシングしたウエハーをモジュール基板に接合してから、所望の厚さに研削することができる。圧電材料の成形手法として、圧縮、ドクターブレード、グリーンシート、ゾルゲル、または溶着技術が挙げられる。圧電材料の製造については、その内容全体を本願明細書に引用したものとするB.ジャフィー(Jaffe)著「圧電セラミックス(Piezoelectric Ceramics)」アカデミック・プレス社刊1971年に記載されている。ホットプレスを含む各種成形方法については、258頁〜259頁に記載されている。高密度、高圧電定数の材料が好ましいが、低性能の材料でも研削技術によって薄層および平滑で均一な表面形態を得ることができる。ペンシルベニア州フィラデルフィアのTRSセラミックス社(TRS Ceramics)から入手可能なマグネシウムニオブ酸鉛(PMN)などの単結晶圧電材料も使用できる。
【0054】
再び図4Aおよび図4Bにおいて、アクチュエータは下部電極層74と上部電極層78も含む。これらの層は、銅、金、タングステン、インジウム錫酸化物(ITO)、チタン、または白金などの金属、あるいは金属の組合せでもよい。これらの金属を圧電層に真空蒸着してもよい。電極層の厚さは、たとえば約2ミクロンまたはそれ以下、たとえば約0.5ミクロンでもよい。特定の実施形態においては、短絡を減らすためにITOを使用することができる。ITO材料は、圧電材料内の小さな空隙および通路を塞ぐことができ、また短絡を減らすために十分な抵抗がある。この材料は、薄い圧電層を比較的高電圧で駆動する場合に都合がよい。さらに、圧電材料の表面の空隙を埋めるために、電極層を施す前に、圧電材料の表面を誘電体で処理してもよい。空隙を埋めるには、誘電体の層を圧電層の表面に溶着してから、表面の空隙に誘電体が埋まっている状態になるまで誘電体の層を研削して圧電材料を露出させてもよい。誘電体は、絶縁破壊の可能性を減らし、動作の均一性を向上させる。誘電材料は、たとえば、二酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、またはポリマーでもよい。誘電材料は、スパッタリングまたはPECVDなどの真空蒸着法によって蒸着してもよい。
【0055】
金属被膜した圧電層をアクチュエータ膜70に取り付ける。アクチュエータ膜70は、下部電極層74と圧電層76とをチャンバ33内のインクから隔離する。アクチュエータ膜70は一般に不活性材料であり、弾性があるので、圧電層の作動によってアクチュエータ膜の層が撓み、ポンピングチャンバ内のインクを加圧する。アクチュエータ膜の厚さが均一であることによって、モジュール全体にわたって正確で均一な作動が行われる。アクチュエータ膜の材料を(たとえば厚さ約1mmまたはそれ以上の)厚板で用意し、水平研削によって所望の厚さに研削することができる。たとえば、アクチュエータ膜を厚さ約25ミクロンまたはそれ以下、たとえば約20ミクロンに研削してもよい。複数の実施形態において、アクチュエータ膜70の弾性率は約60ギガパスカルまたはそれ以上である。材料の例として、ガラスまたはシリコンが挙げられる。具体的な例は、ドイツのショット・ガラス社(Schott Glass)からボロフロット(Boroflot)EV520として入手可能なほうけい酸ガラスである。あるいは、たとえば2ミクロンから6ミクロンの厚さの酸化アルミニウム層を金属被膜された圧電層に蒸着することによって、アクチュエータ膜を設けてもよい。あるいは、アクチュエータ膜はジルコニウムまたは石英でもよい。
【0056】
圧電層76は、接合層72によってアクチュエータ膜70に取り付けることができる。接合層72は、金属層74に蒸着したアモルファスシリコンの層でもよく、これをアクチュエータ膜70に陽極接合する。陽極接合においては、負電圧が印加されているガラスに接触させた状態のシリコン基板を加熱する。陰極に向かってイオンが流れると、空乏領域がガラスのシリコン界面に形成され、ガラスとシリコンとの間に静電接合が形成される。接合層は金属でもよく、この場合は半田付けするか、または共晶接合を形成する。あるいは、接合層を有機接着剤の層にすることもできる。圧電材料は予備焼成されているので、接着剤層は組立時に高温にさらされない。融解温度が比較的低い有機接着剤を使用することもできる。有機接着剤の一例は、ミシガン州ミッドランドのダウ・ケミカル社(Dow
Chemical)から入手できるBCB樹脂である。この接着剤は、スピンオンプロセスによって、たとえば約0.3ミクロンから約3ミクロンの厚さに施すことができる。アクチュエータ膜は、圧電層をアクチュエータ膜に接合する前または後に、モジュール基板に接合することができる。
【0057】
アクチュエータ膜70は、接着剤または陽極接合によってモジュール基板26に接合してもよい。陽極接合が好ましいが、その理由は流路に隣接するモジュール基板構成に接着剤が接触しないので、汚染の可能性が減ると共に、厚さの均一性とアライメントとが向上しうるからである。モジュール基板への取り付け後に、アクチュエータ基板を所望の厚さに研削してもよい。他の実施形態においては、アクチュエータは圧電層とポンピングチャンバとの間に膜を含まない。圧電層をインク室に直接露出してもよい。この場合、駆動電極と接地電極とは、圧電層の反対側、つまりインク室に露出されない裏面側に配置することができる。
【0058】
再び図2B、図4A、および図4Bにおいて、モジュールの中心線の各側のアクチュエータは、アクチュエータ膜70に達する深さの切込み線18,18’によって隔てられている。アクチュエータ膜70がガラスなどの透明材料でできている場合は、切込み線からノズル流路が見えるので、たとえばストロボ写真を使用してインク流の分析を行うことができる。隣接するアクチュエータ同士は、絶縁切込み19によって隔てられている。絶縁切込みは、シリコン本体基板に(たとえば深さ1ミクロン、幅約10ミクロン)くい込んでいる(図4B)。漏話を減らすために、絶縁切込み19によって隣接チャンバ間を機械的に絶縁する。必要であれば、シリコンへの切込みを深くし、たとえばポンピングチャンバに達する深さにすることもできる。アクチュエータの裏面部16には地気接点13もあり、地気接点13とアクチュエータとを隔てる分離切込み14は圧電層にくい込むが、接地電極層72には達していない(図4A)。最上面を金属被膜する前に行うヘリ切り27によって、接地電極層72がモジュールの縁に露出するので、最上面の金属被膜によって地気接点が接地層72に接続される。
製造
図8A〜図8Nには、モジュール基板の製造が示されている。複数のモジュール基板を1つのウエハー上に同時に形成することができる。明確にするために、図8A〜図8Nは単一の流路を示す。モジュール基板内の流路構成は、エッチング処理によって形成することができる。特定の処理は、ディープ反応性イオンエッチングによる等方性ドライエッチングであり、プラズマを用いてシリコンまたは二酸化シリコンを選択的にエッチングし、側壁がほぼ垂直な構成を形成する。ボッシュプロセスとして公知の反応性イオンエッチング法については、その内容全体を本願明細書に引用したものとするレナー(Laennor)らの米国特許第5,501,893号に記載されている。ディープシリコン反応性イオンエッチング装置は、カリフォルニア州レッドウッド市のSTS社、テキサス州プラノのアルカテル社(Alcatel)、またはスイスのユナクシス社(Unaxis)から入手可能である。結晶方位<100>のSOIウエハーはカリフォルニア州サンタバーバラのIMT社を含むエッチングベンダーから入手可能であり、これらのベンダーは、反応性イオンエッチングも行うことができる。
【0059】
図8Aにおいて、SIOウエハー200は、シリコンのハンドル202と、酸化シリコンのBOX層205と、シリコンの活性層206とを含む。ウエハーは、裏面に酸化物層203を有し、前面に酸化物層204を有する。酸化物層203,204は熱酸化によって形成しても、蒸気蒸着によって蒸着してもよい。これらの酸化物層の厚さは一般に約0.1ミクロンから約1.0ミクロンである。
【0060】
図8Bにおいて、ウエハーの前面側に、ノズル開口部領域210とインク供給領域211とを画定するフォトレジストパターンを施す。
【0061】
図8Cにおいて、ノズル開口部域212と供給域213とを画定するパターンを酸化物層に転写するために、ウエハーの前面側をエッチングする。その後、レジストを除去する。
【0062】
図8Dにおいて、ポンピングチャンバ領域217と、フィルタ領域219と、インク供給路領域221とを画定するフォトレジストパターン215をウエハーの裏面側に施す。
【0063】
図8Eにおいて、ポンピングチャンバ域223と、フィルタ域225と、インク供給路域227とを含むパターンを酸化物層203に転写するために、裏面側をエッチングする。
【0064】
図8Fにおいて、ディセンダ領域231を画定するレジストパターン229をウエハーの裏面側に施す。
【0065】
図8Gにおいて、ディセンダ域232をハンドル202にエッチングする。このエッチングには、二酸化シリコンを実質的にエッチングせずに、シリコンを選択的にエッチングするために、反応性イオンエッチングを用いてもよい。エッチングは、BOX層205に向かって進行する。このエッチングはBOX層の少し上で終わるので、BOX層までの残りのシリコンは以降のエッチングステップ(図8H)で取り除く。その後、レジストをウエハーの裏面側から取り除く。
【0066】
図8Hにおいて、ポンピングチャンバ域233と、フィルタ域235と、供給域237とをウエハーの裏面側にエッチングする。ディープシリコン反応性イオンエッチングは、二酸化シリコンを実質的にエッチングせずに、シリコンを選択的にエッチングする。
【0067】
図8Iにおいて、供給領域241を画定するフォトレジストパターン239をウエハーの前面側に施す。このフォトレジストは、ノズル域213を塞いで保護する。
【0068】
図8Jにおいて、供給域241を反応性イオンエッチングによってエッチングする。このエッチングはBOX層205まで進行する。
【0069】
図8Kにおいて、埋込層を供給領域からエッチングする。BOX層のエッチングは、シリコンまたはフォトレジストを実質的にエッチングせずにBOX層の二酸化シリコンを選択的にエッチングする酸によるウエットエッチングで行ってもよい。
【0070】
図8Lにおいて、反応性イオンエッチングによって供給域をさらにエッチングすることによって、ウエハーの前面部への貫通路を作成する。次にレジスト239をウエハーの前面側から取り除く。図8Lに示すエッチングを行う前に、保護金属層、たとえばクロムをPVDによってウエハーの裏面側に施すこともできる。供給域のエッチング後、この保護金属層を酸エッチングによって取り除く。
【0071】
図8Mにおいて、二酸化シリコンを実質的にエッチングせずにシリコンを選択的にエッチングするために、ウエハーの前面側からの反応性イオンエッチングによってノズルのアクセラレータ領域242を形成する。このエッチングは、酸化物層204に画定されたノズル域213内を進行し、BOX層205の深さに達する。結果として、アクセラレータ領域の長さがウエハーの前面と埋込酸化物層との間に画定される。BOX層205に到達した後も反応性イオンエッチング処理をしばらく継続すると、ディセンダ領域とアクセラレータ領域との間の移行部240を形成することができる。特に、シリコンがBOX層までエッチングされた後にイオンエッチングエネルギーを印加し続けると、BOX層205に隣接するアクセラレータ領域の直径が広がる傾向があるので、曲線形状の直径移行部240がアクセラレータ領域に作成される。一般に、この成形を行うには、約20%のオーバーエッチングを行う。つまり、BOX層への到達時間の約20%に相当する時間だけエッチングを継続する。直径の変化は、エッチング深さに応じてエッチングパラメータ、たとえばエッチング速度を変えることによっても実現できる。
【0072】
図8Nにおいて、ディセンダ領域とアクセラレータ領域との界面にあるBOX層205の部分をウエハーの裏面側からのウェットエッチングによって取り除くことによって、ディセンダ領域とアクセラレータ領域との間に貫通路を作成する。さらに、ウエハー裏面上の酸化物層203をウェットエッチングによって取り除いてもよい。必要であれば、一般に酸化シリコンより濡れ性および耐久性が高い単結晶シリコンを露出するために、ウエハー前面上の酸化物層204を同様に取り除くこともできる。
【0073】
図9において、アクチュエータの製造およびモジュールの組立を概説するフローチャートを示す。ステップ300では、図8Nに示すような流路付きのモジュールを複数含むシリコンウエハーを用意する。ステップ302では、硼酸塩ガラスなどのアクチュエータ基板材料の素材を用意する。ステップ304では、圧電材料の素材を用意する。ステップ306では、たとえば超音波洗浄器を用いて1%のマイクロ90(Micro−90)洗浄剤で、アクチュエータ基板材料を洗浄する。ガラス素材をすすぎ、窒素ガスで乾燥させ、プラズマエッチングする。ステップ308では、洗浄済みのアクチュエータ基板素材を、ステップ300で用意したエッチング済みシリコンウエハーに陽極接合する。ステップ310では、アクチュエータ基板素材の露出面を水平研削などの精密研削法によって所望の厚さと表面形態に研削する。ウエハーの前面をUVテープで保護してもよい。一般に、アクチュエータ基板素材は比較的厚い層、たとえば約0.3mmまたはそれ以上の厚さで用意する。この基板素材をたとえば約20ミクロンの厚さに正確に研削することができる。研削前にアクチュエータ基板をモジュール基板に接合することによって、薄膜の反りなどの損傷が減り、寸法の均一性が向上する。
【0074】
ステップ312では、このアクチュエータ基板を洗浄する。上記のように、アクチュエータ基板を超音波浴で洗浄し、プラズマエッチングしてもよい。ステップ314では、圧電素材の両面を精密研削して平滑な表面形態にする。ステップ316では、圧電素材の一方の側を金属被膜する。ステップ318では、圧電素材の金属被膜した側をアクチュエータ基板に接合する。圧電素材の接合にスピンオン接着剤を用いてもよい。あるいは、アモルファスシリコンの層を素材の金属被膜面に蒸着してから、この素材をアクチュエータ基板に陽極接合してもよい。
【0075】
ステップ320では、精密研削法によって圧電素材を所望の厚さに研削する。また図10において、この研削には水平研削盤350を使用する。この工程では、基準面が高平坦度公差に機械加工されているチャック352にウエハーを取り付ける。圧電素材の露出面を回転研削砥石354に高公差のアライメントで接触させる。圧電素材の実質的な厚さは、ステップ314の初期表面研削で扱える厚さでよく、たとえば約0.2mmまたはそれ以上でもよい。ただし、アクチュエータの所望の厚さ、たとえば50ミクロンまたはそれ以下では、圧電層が損傷しやすい。損傷を防ぎ、取り扱いを容易にするために、アクチュエータ基板に接合してから、圧電素材を所望の厚さに研削する。研削中、インク流路を研削用冷却液にさらさないために、ノズル開口部を覆ってインク流路を封止してもよい。ノズル開口部をテープで覆ってもよい。ダミー基板をチャックにあてがって所望の平坦度に研削することもできる。次にウエハーをこのダミー基板に取り付け、ダミー基板の平行度まで研削する。
【0076】
ステップ322では、接地電極接点のヘリ切りを切り取り、接地電極層74を露出する。ステップ324では、ウエハーを洗浄する。ステップ326では、ウエハーの裏面を金属被膜することによって、接地層への金属接点を設けると共に、圧電層のアクチュエータ部分の裏面に金属層を施す。ステップ228では、分離切込みおよび絶縁切込みを鋸引きする。ステップ330では、ウエハーを再度洗浄する。
【0077】
ステップ334では、ダイシングによってモジュールをウエハーから切り離す。ステップ336では、モジュールをマニホールドフレームに取り付ける。ステップ338では、電極を取り付ける。最後にステップ340で、この構成をケースに取り付ける。
【0078】
インクの濡れを促進または防止する被膜および/または保護被膜をモジュールの前面に施してもよい。この被膜は、たとえばテフロン(登録商標)などのポリマー、あるいは金またはロジウムなどの金属でもよい。モジュール本体をウエハーから切り離すには、ダイシングソーを使用できる。あるいは、またはさらに、切溝をエッチングによって形成し、ダイシングソーを使用して分離切込みをこれらの切溝に作ることができる。切溝に沿って折ることによってモジュールを手作業で切り離すこともできる。
【0079】
他の実施形態
図11において、弾性膜450をポンピングチャンバの上流側に、たとえばフィルタ/インピーダンス構成および/またはインク供給流路を覆うように設ける。弾性膜は、音響エネルギーを吸収することによって、漏話を減らす。弾性膜は、アクチュエータ基板の連続部分によって設けてもよい。この部分を研削、鋸引き、またはレーザ加工によってポンピングチャンバ上の部分より薄く(たとえば約2ミクロンに)することによって弾性を高めてもよい。弾性膜に圧電材料層を含めてもよく、または圧電材料のサイズをこの膜を覆わない大きさにしてもよい。この膜は、二酸化シリコン膜または窒化シリコン膜、あるいはポリマー膜などの別個の要素にしてモジュール基板に接合してもよい。モジュール前面に沿ってインク供給流路に隣接する弾性膜を膜450と併用しても、膜450の代わりに使用してもよい。弾性膜については、その内容全体を本願明細書に引用したものとするホイジントン(Hoisington)の米国特許第4,891,054号に記載されている。
【0080】
図12Aおよび図12Bにおいて、フィルタ/インピーダンス制御構成500は、壁部材、この場合はモジュール基板内のノズル/アクセラレータ領域を画定する層、に形成された一連の開口部として設けられている。この例では、モジュール基板の底面514に通じるフレーム流路512によってインクが供給される。底面514には、フィルタリング機能を果たし、かつ音響エネルギーを吸収するサイズの一連の開口部516がある。
【0081】
図13Aおよび図13Bにおいて、プリントヘッドモジュール600には、たとえばカーボンまたは金属で形成された基板本体610と、半導体で形成され、インピーダンス/フィルタ構成614を有するノズル板612とが設けられている。ポンピングチャンバ616とアクチュエータ618とは、本体610に連通している。基板本体612はノズル流路620を画定するが、ノズル流路620は研削、鋸引き、ドリル加工、または他の非化学的な機械加工によって、さらに/または事前に機械加工された複数の層の集合体として、形成してもよい。ノズル板の構成614は、アクセラレータ領域616とノズル開口部617とに通じる流路中の複数列の柱615で形成されている。流路のアクセラレータ部分の均一性を高めるために、BOX層619を含むSOIウエハーをエッチングすることによってノズル板612を形成してもよい。ノズル板612は本体610に、たとえば接着剤によって、接合してもよい。
【0082】
図14Aおよび図14Bにおいて、プリントヘッドモジュール700には、たとえばカーボン製または金属製の基板本体710と、インピーダンス/フィルタ構成714を有するシリコン製のノズル板712とが設けられている。ポンピングチャンバ716とアクチュエータ718とは、本体710に連通している。カーボン製の基板本体712は、ノズル流路720を画定する。構成714は、ノズル板の裏面に形成され、複数の開口部721を含む。流路のアクセラレータ部分の均一性を高めるために、BOX層719を含むSOIウエハーをエッチングすることによってノズル板712を形成してもよい。ノズル板712は本体710に、たとえば接着剤によって、接合してもよい。
【0083】
図15Aおよび図15Bにおいて、プリントヘッドモジュール800は、たとえばカーボン製または金属製の基板本体810と、たとえば金属製またはシリコン製のノズル板812と、シリコン製の層830に画定されたインピーダンス/フィルタ構成814とを備えている。ポンピングチャンバ816とアクチュエータ818とは、本体810に連通している。本体812は、ノズル流路820を画定する。構成814は、複数の開口部821を有する。BOXを含むSOIウエハーをエッチングすることによって、ノズル板812と層830とを形成してもよい。要素830は、本体810とノズル板812との間に配置されている。要素830を本体810に接合し、ノズル板812を要素830に接合することができるが、接合にはたとえば接着剤を使用する。
【0084】
図16Aおよび図16Bにおいて、半導体フィルタ/インピーダンス制御素子900は別個の要素としてモジュール910に設けられている。その内容を上で引用したホイジントンの米国特許第4,891,654号に記載されているように、圧力チャンバ912を画定するモジュール本体は、複数の層の集合体として構成することができる。素子900は、チャンバ912の上流側にあるインク流入口918の近くに配置されている。この実施形態においては、フィルタ/インピーダンス制御素子は、インク流の方向に沿って迷路のような流路を設けるために角度を付けて配置された一連の矩形状の肉薄突起920として形成されている。これらの突起は、半導体基板をエッチングすることによって形成することができる。
【0085】
他の実施形態においては、エッチングされた上記モジュール本体またはノズル板は、圧電アクチュエータ以外のアクチュエータ機構に利用することができる。たとえば、サーマルバブルジェット(登録商標)または静電アクチュエータを使用することができる。静電アクチュエータの一例は、その内容全体を本願明細書に引用したものとする米国特許第4,386,358号に見られる。モジュール基板、ノズル板、およびインピーダンス/フィルタ構成に他のエッチング可能材料を使用することもでき、たとえばゲルマニウム、ドープシリコン、および他の半導体などを使用できる。ポンピングチャンバの深さ、均一性、形状など、さまざまな構成の厚さを画定するために、停止層を使用することができる。複数の構成の深さを制御するために、複数の停止層を使用することができる。
【0086】
上記の圧電アクチュエータは、他のモジュール基板および基板システムでも使用できる。予備焼成されていない圧電材料でできた圧電層を使用することもできる。たとえば、薄い圧電フィルムをゾルゲル成膜法やグリーンシート法などの手法によってガラス基板またはシリコン基板上に形成してから、焼成することができる。表面特性および/または厚さは精密研削によって変更することができる。このようなアクチュエータ基板材料の耐熱性は、セラミック前躯体の焼成温度に耐えることができる。3層のSOI基板が好ましいが、シリコン上に酸化シリコン層を重ねるなど、ディフェレンシャルエッチングが可能な半導体材料を2層有する半導体基板を使用してモジュール本体基板またはノズル板を形成し、ディフェレンシャルエッチングによって構成の深さを制御することもできる。たとえば、シリコンに酸化シリコンを重ねたモノリシック本体を使用できる。アクセラレータ領域は、基板のシリコン面上のノズル開口部と、シリコン層と酸化シリコン層間の界面との間に画定することができる。
用途
本プリントヘッドモジュールは、どのような印刷用途にも使用できるが、特に高速の高性能印刷に使用できる。本モジュールは特に幅広書式の印刷に有用であり、アレイ状に配列された複数のモジュールおよび/または長尺モジュールによって幅広の基板を印刷する。
【0087】
再び図1〜図1Cにおいて、プリンタ内のモジュール間のアライメントを維持するために、面板82とケース86とにそれぞれアライメント構成85,89が設けられている。モジュールを面板82に取り付けた後で、YAGレーザまたはダイシングソーを使用してアライメント構成85を切り揃える。光学的ポジショナを使用してアライメント構成を切り揃え、構成85をノズル開口部に位置合わせする。ケース86上の相手方アライメント構成89もレーザトリミングまたはダイシングおよび光学的アライメントによって相互に位置合わせする。本構成のアライメント精度は、±1μmまたはより高精度である。面板は、たとえば液晶ポリマーで形成することができる。適切なダイシングソーとして、ウエハーダイシングソー、たとえば、カリフォルニア州ベンチュラのマニュファクチャリング・テクノロジー社(Manufacturing Technology Incorporated)のモデル250ダイシングソー・CCD光学的アライメント統合システム(Model 250 Integrated Dicing Saw and CCD
Optical Alignment System)が挙げられる。
【0088】
本モジュールをプリンタに使用すると、オフセット印刷の代用として使用できる。本モジュールを使用すると、印刷物またはプリント基板に施す光沢のある透明塗料を選択的に付着させることができる。本プリントヘッドとモジュールとを使用して、非画像形成流体を含む各種流体を施すことも、付着させることもできる。たとえば、3次元モデル用のペーストを選択的に付着させて模型を作ることができる。生体試料を分析アレイに付着させてもよい。
【0089】
さらなる実施形態は、以下の請求項に含まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路とフィルタ/インピーダンス構成とを画定するモノリシック本体を備えるプリントヘッド。
【請求項2】
前記フィルタ/インピーダンス構成が複数の流路開口部を画定する、請求項1に記載のプリントヘッド。
【請求項3】
前記フィルタ/インピーダンス構成が複数の突起を含む、請求項2に記載のプリントヘッド。
【請求項4】
前記突起が柱を含む、請求項3に記載のプリントヘッド。
【請求項5】
前記開口部の断面寸法が約25μm以下である、請求項4に記載のプリントヘッド。
【請求項6】
ノズル開口部を含み、
前記流路開口部の断面寸法が前記ノズル開口部の断面寸法より小さい、請求項2に記載のプリントヘッド。
【請求項7】
前記流路とフィルタ/インピーダンス構成とがエッチング可能材料に画定されている、請求項2に記載のプリントヘッド。
【請求項8】
前記エッチング可能材料が半導体である、請求項7に記載のプリントヘッド。
【請求項9】
前記エッチング可能材料がシリコンである請求項8に記載のプリントヘッド。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−76453(P2010−76453A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275001(P2009−275001)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【分割の表示】特願2007−250120(P2007−250120)の分割
【原出願日】平成15年7月2日(2003.7.2)
【出願人】(502122794)フジフィルム ディマティックス, インコーポレイテッド (73)
【Fターム(参考)】