説明

プレコートアルミニウム板

【課題】高温湿潤雰囲気下での耐久性に優れるエポキシ系樹脂を主体とする熱硬化性樹脂を使用し、高い成形性、耐熱変色性及び耐薬品性にも優れたプレコートアルミニウム板を提供する。
【解決手段】アルミニウム板2の表面に、プレコート皮膜3が形成されたプレコートアルミニウム板1であって、プレコート皮膜3は、エポキシ系樹脂と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤とが分子間架橋された熱硬化性樹脂4からなり、プレコート皮膜のゲル分率が、70%以上92%以下であることを特徴とするプレコートアルミニウム板1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、産業用電子機器、民生用電子機器、自動車用電装品等に使用される、アルミニウム板を素材としたプレコートアルミニウム板に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは、比重が小さい、熱伝導性が良い等、様々な特長があるため、種々の用途に用いられている。このアルミニウムは、自然環境では耐食性に優れるため、腐食防止のための表面処理を行わない場合も少なくないが、近年では、機能付与を目的とした表面処理を行う場合が増えている。例えば、ノートパソコンや薄型テレビ、カーステレオ等、軽さが必要となる用途において、アルミニウム板を素材とし、このアルミニウム板に予め機能性皮膜(プレコート皮膜)を設けたプレコートアルミニウム板の採用が増えている。このプレコートアルミニウム板を利用すると、事前に表面処理がされていないアルミニウム板を、プレス成形後に個別に表面処理するアフターコート法に比べ、生産性やコストに優れるという利点がある。
【0003】
また、ノートパソコンに搭載されるスリム型の光ディスクドライブ装置のカバー等では、(1)潤滑性(プレス油を洗浄する工程を省略して製造コストを下げるために、洗浄の不要な速乾性プレス油での連続成形を可能とするのがねらい)、(2)耐疵付き性・耐指紋性(外観品質を向上させるのがねらい)、(3)導電性(帯電防止やアースを確保するのがねらい)等が要求される。これらの要求を満たすプレコートアルミニウム板の例として、例えば、特許文献1には、所定の算術平均粗さRaを有するアルミニウム板の少なくとも一面に、所定の耐食性皮膜と所定の樹脂皮膜とを形成し、その表面抵抗値を規定することで導電性を向上させつつ、その他の要求性能も満足した電子機器用アルミニウム板が開示されている。
【0004】
また、スロットインタイプの光ディスクドライブに使用されるカバーの内面は、光ディスクを出し入れする際にディスクと直接摩擦が生じるため、摩擦によってディスクに疵を与えない特性が求められる。そこで、光ディスクドライブの中でも、スロットインタイプの光ディスクドライブへの適用を想定した発明として、例えば、特許文献2には、プレコート皮膜中に所定の硬さの軟質ビーズを添加し、皮膜にクッション性を持たせることにより、光ディスクの表面に疵を与えることを防止したプレコートアルミニウム金属板が開示されている。
【0005】
ところで、特許文献1や特許文献2で想定する光ディスクドライブ装置等の民生用電子機器の筐体類(カバー等)は、アルミニウム板を90度曲げ加工にて箱型形状に成形したものが適用されてきた。曲げ加工により箱型筐体を製作する技術は、コイル状の板を使用し、順送金型による連続成形が可能であり、また、速乾性プレス油を使用した連続成形技術も確立していることから、プレス成形後の洗浄工程も不要であり、生産性に優れた方法といえる。しかし、一方で、曲げ加工で製作した筐体は、側壁部のコーナーに隙間が必ず存在するため、筐体に密閉性が必要となる場合には、以下のような問題が生じる。
【0006】
筐体に、高い密閉性が要求される例としては、例えば、エンジンルーム等の過酷な環境に設置される自動車制御用電装品(ECU等の制御装置やハイブリッド車・電気自動車の電池、インバーター類等)等が考えられ、これらでは、筐体内部の密閉性を保つことができないと、水分やオイル類、砂埃等が筐体内部に侵入して、故障の原因となるおそれがある。また、リチウムイオン電池や電解コンデンサーのケースにもアルミニウム板の成形品が使用されているが、これらのように、内部に電解液等の液体物を入れて使用する用途では、液漏れを防ぐためにも、ケースには高い密閉性が要求される。さらに、家庭等の室内で利用される民生用電子機器でも、カバーの密閉性を高めることで、電磁波シールド性を高めることが期待できる。これらのように、密閉性の高い筐体を製作するためには、曲げ加工よりも絞り加工によって、隙間のない箱型筐体に成形する方法が有利である。なお、図3(a)に、曲げ加工による箱型筐体の模式図、(b)に、絞り加工による箱型筐体の模式図を示す。
【0007】
なお、特許文献1および特許文献2に記載の発明は、その用途として、光ディスクドライブを想定した発明であるため、前記の通り、曲げ加工による筐体製作を前提とした発明と考えられる。したがって、素材である金属板が大きく変形する絞り加工に使用した場合には、皮膜の剥がれ、疵付きなどが生じる可能性がある。
【0008】
ここで、これらの筐体類にプレコートアルミニウム板を適用する際、素材であるアルミニウム板はもとより、プレコート皮膜にも、絞り加工に伴う大きな変形に追随することが求められる。以下に絞り加工を想定した発明に関する文献として、特許文献3と特許文献4を例示する。
絞り加工に伴うプレコート皮膜の大きな変形を想定したプレコートアルミニウム板として、例えば、特許文献3には、アルミニウム板の表面に形成された熱硬化樹脂の分子間架橋状態として、プレコート皮膜のゲル分率の値を220℃の加熱処理を行った前後で比較した場合に、当該加熱処理後のゲル分率の値が、前記加熱処理前のゲル分率の値から連続的に減ずるようにし、220℃の前記加熱処理を10分間行った時点における当該加熱処理前のゲル分率の値からの減少幅が10%未満であるように制御することによって、高い絞り成形性を満足させたプレコートアルミニウム板が開示されている。
【0009】
前記したプレコートアルミニウム材以外の技術としては、電解コンデンサーのケースにおいて、加工性に優れた熱可塑性樹脂フィルムをラミネートしたフィルムラミネートアルミニウム板が使用されている。このフィルムラミネートアルミニウム板は、皮膜を構成する樹脂の分子が架橋されていないため、皮膜は大きな変形が可能であり、絞り加工に対しては有利な特性を有する。また、これらの中には、塩素系溶剤での洗浄薬剤耐久性を高めたものも存在する。例えば、特許文献4には、アルミニウム板の表面に設けられる熱可塑性樹脂フィルムと、この熱可塑性樹脂フィルムの表面に設けられる熱硬化性樹脂塗膜層と、を備えることで、成形加工性を維持しつつ、樹脂塗膜層の変色の防止等を図った電子部品ケース用樹脂被覆積層アルミニウム板が開示されている。また、熱可塑性樹脂フィルムとしては、ナイロン等のポリアミド系樹脂や、PET等の飽和ポリエステル系樹脂を使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−313684号公報(段落0020〜0050)
【特許文献2】特許第4134237号公報(段落0024〜0042)
【特許文献3】特開2006−305841号公報(段落0024〜0051)
【特許文献4】特許第4003915号公報(段落0017〜0029)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の技術においては、以下に示すような問題点を有している。
特許文献3に記載の発明は、絞り加工を想定したものであり、絞り加工時の加工密着性と耐熱変色性とを確保する観点から、ベース樹脂として、ポリエステル系が望ましいとされている。しかし、エステル結合を主体とするポリエステル皮膜は、他の樹脂と比較した場合、相対的に加水分解し易いため、家庭内で使用する場合などでは問題ないが、屋外や車載用途に使用する場合には、高温湿潤雰囲気下での耐久性に劣り、皮膜の信頼性が十分でない。
また、アルミニウム板の変形量が大きい絞り加工においては、前記曲げ加工の場合に記載したような、速乾性プレス油を使用した連続成形技術が十分に確立されていない。そのため、高粘度の防錆油やエマルジョン型のワックスを使用して成形した後、洗浄剤を用いて不要なプレス油や磨耗粉の除去を行う方法が依然として多く採用されている。このような方法では、プレコート皮膜は、大きな変形に追従できる成形性を満足するだけでは不十分であって、洗浄工程で使用される薬剤に対して、皮膜の溶解、剥離、変色、くっつきといった問題が生じない、洗浄工程での皮膜の耐久性が不可欠となる。ここで、洗浄工程の中でも、トリクレン等の塩素系溶剤の沸騰液に浸漬させるような過酷な洗浄方法を行う場合には、特許文献3に記載の技術では、成形品の皮膜の溶解、剥離、変色、くっつき等が発生して、外観不良の原因となる場合がある。
【0012】
特許文献4に記載されているような、熱可塑性樹脂をベース樹脂としてフィルム作製し、このフィルムをアルミニウム板の表面にラミネートしたフィルムラミネート材は、熱可塑性樹脂フィルムを使用するため、耐熱性については自ずと限界がある。例えば、ナイロンに代表されるポリアミド系の熱可塑性樹脂をベース樹脂にする場合は、アルミニウム板との密着性は良く、優れた成形性も得られるが、高温環境では比較的短時間で熱によりベース樹脂が黄変色あるいは褐変色しやすいという問題がある。さらに、PET等の飽和ポリエステル系の熱可塑性樹脂をベース樹脂にする場合は、アルミニウム板との密着性は良く、優れた成形性を示し、高温環境でも容易にはベース樹脂が熱変色しない特長があるが、ベース樹脂は加水分解し易いため、高温湿潤雰囲気下での耐久性に劣る傾向がある。
【0013】
その他、ポリエチレンやポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系の樹脂をベース樹脂にすると、ベース樹脂は原則炭素と水素だけから構成されており、窒素や酸素が含まれない。したがって、水酸基やカルボキシル基、エステル結合、イソシアネート基、ウレタン結合、アミノ基、アミド結合といった官能基や化学結合の起点がなく、アルミニウム板との接着性に劣ることとなる。
【0014】
そのため、フィルムラミネート材よりも耐熱耐久性の高い熱硬化性樹脂を使用したプレコートアルミニウム板であって、アルミニウム板との密着性が良く、優れた成形性を示し、高温環境でも容易にベース樹脂が熱変色せず、ポリエステル系皮膜において懸念される高温湿潤雰囲気下での耐久性にも優れたプレコートアルミニウム板が望まれている。
また、プレス成形後にプレス油や磨耗粉等を洗浄剤中にて洗浄除去する工程の際に、洗浄能力の高い沸騰塩素系洗浄剤中で洗浄する場合においても、プレコート皮膜の溶解、剥離、変色、くっつき等の表面異常となることを防止することができる、洗浄工程での皮膜の耐久性に優れたプレコートアルミニウム板の開発が望まれている。さらに、洗浄工程での皮膜の優れた耐久性に加え、絞り加工における成形性に優れると共に、アルミニウム板の持つ美しい光沢外観を損なわないプレコートアルミニウム板が、より望まれている。
【0015】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、高温湿潤雰囲気下での耐久性に優れるエポキシ樹脂を主体とする熱硬化性樹脂を使用し、高い成形性と耐熱変色性を両立し、耐薬品性にも優れたプレコートアルミニウム板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明(請求項1)に係るプレコートアルミニウム板は、アルミニウム板の表面に、プレコート皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、前記プレコート皮膜は、エポキシ系樹脂と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤とが分子間架橋された熱硬化性樹脂からなり、前記プレコート皮膜のゲル分率が70%以上92%以下であることを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、プレコート皮膜が、エポキシ系樹脂が分子間架橋された熱硬化性樹脂からなることによって、高温湿潤雰囲気下での耐久性が向上する。また、プレコート皮膜が、エポキシ系樹脂と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤とが分子間架橋された熱硬化性樹脂からなり、プレコート皮膜のゲル分率が70%以上92%以下であることによって、エポキシ系樹脂としては柔軟で、高い絞り成形性を有しつつ、耐薬品性にも優れ、かつ、耐熱試験での変色も回避することができる。
【0018】
また、請求項2に係るプレコートアルミニウム板は、前記プレコート皮膜のゲル分率が、70%以上85%以下であることを特徴とする。
このような構成によれば、プレコート皮膜のゲル分率を、70%以上85%以下とすることによって、より変形量の大きい深絞り成形にも皮膜が追従することができる。
【0019】
また、請求項3に係るプレコートアルミニウム板は、前記無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤が、ブロック型イソシアネート化合物であることを特徴とする。
このような構成によれば、無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤を、ブロック型イソシアネート化合物とすることによって、常温で塗料(樹脂溶液)を保管する際に、イソシアネート系硬化剤とエポキシ系樹脂とが反応して硬化するのを抑制することができるとともに、塗装ラインでの加熱工程では速やかに硬化反応が進むため、速やかな焼付け硬化性を維持しつつ、塗料保管寿命を大幅に伸ばすことができる。
【0020】
また、請求項4に係るプレコートアルミニウム板は、前記プレコート皮膜は、ベース樹脂となる前記熱硬化性樹脂中に、無機微粒子または架橋された有機微粒子である微粒子を含み、かつ、表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、0.25μm以上であることを特徴とする。
このような構成によれば、微粒子を添加することで、プレコート皮膜の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))が制御され、この表面粗さRaが0.25μm以上であることによって、プレコート皮膜の表面粗さが十分に大きなものとなり、沸騰塩素系洗浄剤中における皮膜同士のくっつきが抑制される。
【0021】
また、請求項5に係るプレコートアルミニウム板は、前記微粒子が、架橋された球状の有機微粒子であることを特徴とする。
このような構成によれば、プレコート皮膜の凸部の形態が滑らかとなり、プレス成形用金型の負担が軽減する。
【0022】
また、請求項6に係るプレコートアルミニウム板は、前記プレコート皮膜の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、0.25〜0.55μmであることを特徴とする。
このような構成によれば、プレコート皮膜の表面における可視光の乱反射が抑制され、プレコート皮膜が艶消し状態になることが抑制される。なお、ここでの艶消し状態とは、素材であるアルミニウム板の持つ光沢が失われることをいう。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1に係る発明によれば、優れた絞り成形(加工)性を有するとともに、高温湿潤雰囲気下での耐久性にも優れ、耐薬品性を兼ね備えるとともに、かつ、耐熱試験での変色も生じないプレコートアルミニウム板を提供することができる。その結果、屋外や車載環境下でも信頼性に優れた、軽くて密閉性の高い筐体を、低コスト、かつ、優れた生産性で供給することができる。
本発明の請求項2に係る発明によれば、いっそう(さらなる)優れた絞り成形性を有するプレコートアルミニウム板の提供が可能となる。その結果、密閉筐体の形状設計自由度が高まり、多様な形状の筐体が得られるとともに、筐体の適用範囲が広がる。
本発明の請求項3に係る発明によれば、プレコート皮膜を形成する塗料の保管寿命が向上する。その結果、塗料が期限切れとなり使えなくなるリスクが低下するため、トータルコストダウンにつながる。また、産業廃棄物が減るため、環境改善にもつながる。
【0024】
本発明の請求項4に係る発明によれば、過酷な沸騰塩素系洗浄剤中で洗浄を行っても、皮膜の溶解、剥離、変色、くっつき等が生じることのない、洗浄工程での皮膜の耐久性に優れたプレコートアルミニウム板の提供が可能となる。これにより、選択できる製造工程が広がるため、プレコートアルミニウム板の応用分野が広がる。また、皮膜の基本的な耐薬品性が向上しているため、プレス成形後の洗浄工程での皮膜の耐久性向上のみならず、実使用環境下での耐薬品性が向上する。さらに、プレコート皮膜の表面粗さRaが制御し易くなり、安定した表面粗さRaのプレコート皮膜を得ることができる。
本発明の請求項5に係る発明によれば、プレス成形用金型の負担を軽減させることができるため、プレス成形用金型の寿命を向上させることができる。
本発明の請求項6に係る発明によれば、アルミニウム板の持つ美しい光沢外観の成形品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るプレコートアルミニウム板の構成を模式的に示す部分断面図である。
【図2】実施例において、供試材を絞り加工、および、しごき加工することで、有底円筒容器を作製する工程を示す模式図である。
【図3】(a)は、曲げ加工による箱型筐体を示す模式図、(b)は、絞り加工による箱型筐体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、適宜図面を参照して、本発明に係るプレコートアルミニウム板の最良の形態について具体的に説明する。図1は、本発明に係るプレコートアルミニウム板の構成を模式的に示す部分断面図である。
【0027】
≪プレコートアルミニウム板≫
図1に示すように、本発明に係るプレコートアルミニウム板1は、アルミニウム板2の(最)表面に、プレコート皮膜3が形成されたプレコートアルミニウム板1であって、このプレコート皮膜3は、エポキシ系樹脂と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤とが分子間架橋された熱硬化性樹脂(ベース樹脂)4からなり、かつ、ゲル分率が70%以上92%以下である。なお、微粒子5は、本発明の必須成分(構成)ではないが、プレコート皮膜3中に含まれるのが望ましいため、図示した。ここで、アルミニウム板2の表面とは、アルミニウム板2の少なくとも一方の面を意味する。以下、各構成について説明する。
【0028】
<アルミニウム板>
本発明でいうアルミニウム板2は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものであり、本発明で用いられるアルミニウム板(アルミニウム板またはアルミニウム合金板)2としては、特に制限されるものではなく、製品形状や成形方法、使用時に求められる強度等に基づいて選択することができる。一般的には、非熱処理型のアルミニウム板、すなわち、1000系の工業用純アルミニウム板、3000系のAl−Mn系合金板、5000系のAl−Mg系合金板を好適に使用することができる。特に、しごき加工を伴う深い容器形状の筐体を製作(作成)する場合には、JIS H4000に規定されるA1050、A1100、A3003、A3004等のアルミニウム板が推奨される。また、比較的浅い容器形状の筐体を作成する場合には、JIS H4000に規定されるA5052やA5182等のアルミニウム板が推奨される。調質、板厚についても、目的に応じて種々のものを選定して使用することができる。また、後記するように、アルミニウム板2に、反応型下地処理、塗布型下地処理、陽極酸化処理、電解エッチング処理、脱脂処理等を施してもよい。
【0029】
<プレコート皮膜>
プレコート皮膜3(皮膜3)は、エポキシ系樹脂(エポキシ樹脂)と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤とが分子間架橋された熱硬化性樹脂(ベース樹脂)4からなり、アルミニウム板2の表面に形成される。また、このプレコート皮膜3のゲル分率は、70%以上92%以下である。ベース樹脂4中には、後記する微粒子5を含む形態が望ましい。
【0030】
[ベース樹脂]
ベース樹脂(熱硬化性樹脂)4は、プレコート皮膜3の主成分となるものであり、主剤としてエポキシ系樹脂(エポキシ)、硬化剤として無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤(イソシアネート(無黄変))を使用し、ゲル分率が70%以上92%以下となるよう分子間架橋反応させる。なお、エポキシ系樹脂と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤との混合(配合)比率は、使用するエポキシ樹脂等の種類によって、適宜設定する。
【0031】
熱硬化反応による分子間架橋を行わないものとしては、熱可塑性樹脂をベース樹脂とするフィルムラミネート材があるが、前記従来技術で説明したとおり、熱可塑性樹脂をベース樹脂にするものは、耐熱性などで課題が生じる。また、絞り成形(加工)性に優れた熱硬化性樹脂としてポリエステル系の熱硬化性樹脂を使用したプレコート材もあるが、やはり前記従来技術で説明したとおり、高温湿潤雰囲気下での耐久性に課題がある。しかし、エポキシ系樹脂と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤を使用し、所定のゲル分率で分子間架橋反応させた熱硬化性樹脂をベース樹脂4に選定すると、この樹脂は、もともと分子間架橋するための官能基を有しているため、アルミニウム板2との密着性に優れる。また、ゲル分率をコントロールしながら架橋反応しているため、絞り成形性を維持しつつ、耐薬品性や耐熱性が向上する。また、加水分解しやすいエステル基を有していないため、高温湿潤雰囲気下での耐久性も向上する。
【0032】
ベース樹脂4に使用するエポキシ樹脂(エポキシ系樹脂)とは、二個の炭素原子と一個の酸素原子が三角形状に結合してなるエポキシ基を持つ樹脂の総称であって、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンを繰り返し単位とするビスフェノールA型エポキシ樹脂が代表的なものとして知られる。その他に、ビスフェノールAの変わりにビスフェノールFを用いて低粘度化させたビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAに臭素を反応させた難燃性エポキシ樹脂、ノボラック樹脂を基本骨格とした耐熱性エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などが知られ、それらを化学的に改質した変性エポキシ樹脂を含め、本発明のエポキシ樹脂としては、塗料化できればいずれのものを使用しても良いが、性能、塗料化の容易さ、塗料寿命と反応性のバランス、価格、安全性などを考慮すると、ビスフェノールA型もしくはビスフェノールF型の基本骨格を持つ、エポキシ樹脂もしくはその変性物を使用するのが望ましい。
【0033】
ガラス転移温度は、樹脂の転移温度の一つであり、一般に、ガラス転移温度以上の温度での樹脂は柔らかいゴム状、ガラス転移温度以下の温度での樹脂は硬いガラス状とされる。したがって、深絞り加工やしごき加工のような変形の大きい加工に皮膜3が追従するためには、理論上は、ガラス転移温度を加工温度以下にすることが必要とされる。しかし、実際には、高分子物質は、分子量に幅があり、分子内に枝分かれ構造が生じる等、一次構造は均一ではなく、分子同士の配列等、高次構造もミクロに見ると均一とはいえない。したがって、ガラス転移温度は、あくまで代表値であり、ある程度幅をもった温度範囲で徐々に転移が生じる。このようなガラス転移温度を制御(コントロール)するためには、前記したビスフェノールA型やビスフェノールF型を基本骨格とし、化学反応によって分子構造を改質する手法をとるが、本発明では、改質方法について特に制限を設けないため、改質を行った変性エポキシ樹脂を自由に使用することができる。
【0034】
エポキシ樹脂は、ポリエステル樹脂などと比較すると、高いガラス転移温度を持つ。これは、耐熱性などを確保するためには有利である。エポキシ樹脂のガラス転移温度は、高いものでは200℃程度のものまで報告されているが、プレス成形を前提としたプレコート材に使用する場合であれば、120℃以上のものはあまり現実的でない(加工性が低下し、成形可能な形状が限定されてしまう)。本発明に使用するエポキシ樹脂では、ガラス転移温度は、80℃以下であることが望ましい。なお、ここでいうガラス転移温度とは、DSC法によって測定されたものをいう。
【0035】
エポキシ樹脂は、エポキシ基を有しているため、このエポキシ基が化学反応することにより、熱硬化反応することができる。また、ビスフェノールA型やビスフェノールF型のエポキシ樹脂は、エポキシ基以外に分子内に水酸基を有している。したがって、これらの官能基(水酸基)と反応する硬化剤を添加するか、エポキシ樹脂自体に、硬化剤と同様の働きをする成分が生成するように、化学反応を利用してエポキシ樹脂を改質することにより、エポキシ樹脂は、加熱硬化(熱硬化反応)することができ、熱硬化性樹脂を得ることができる。
エポキシ樹脂の硬化剤としては、フェノール系硬化剤、尿素(ウレア)やメラミンなどを含むアミン(尿素、メラミン)系硬化剤などが一般的に使用されているが、本発明では、無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤を用いる。フェノール系硬化剤を使用した場合、フェノール化合物の有するフェノール系水酸基は、エポキシ基と反応することが知られており、エポキシ樹脂の末端同士が反応した網目の大きい柔らかい皮膜が得られやすい。その結果、成形性に優れる皮膜が得られるが、フェノールが黄変しやすいことや、耐薬品性が劣ることなどが課題としてある。また、尿素系の硬化剤を使用した場合は、フェノールのような黄変を避けることはできるが、得られた皮膜は、硬く、優れた成形性を得ることは難しい。また、メラミン系の硬化剤については、硬化反応性が極めて低い。このメラミン系硬化剤の反応性を改善する方法として、酸触媒の併用なども可能ではあるが、条件によって、硬化反応性が高くなりすぎたり、黄変したりする場合があるため、使いこなすのが難しい。
【0036】
本発明で用いるイソシアネート系硬化剤は、無黄変タイプのものを使用する。イソシアネート(化合物)は、その構造によって、トルエンジイソシアネート(TDI)系、メチレンビスフェニルジイソシアネート(MDI)系、キシリレンジイソシアネート(XDI)系、イソホロンジイソシアネート(IPDI)系、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系などに分類される。TDI系やMDI系は、黄変しやすい(標準タイプ)とされ、一方、XDI系、IPDI系、HDI系は、黄変しにくい、無黄変タイプとされる。また、これら無黄変タイプのものを多価アルコール等で変性したポリイソシアネート等も、本発明で使用できるイソシアネート系硬化剤に含まれる。
【0037】
無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤は、ブロック型イソシアネート化合物であることが望ましい。ここでいうブロック型とは、イソシアネート化合物の活性イソシアネート基が、活性水素化合物等のブロック化剤によって、安定化されたものであり、常温では反応性が低い。このブロック型イソシアネート化合物は、焼付処理等の加熱によって、ブロック化剤が解離して、活性イソシアネート基が再生され、反応性を有することとなる。
ブロック型イソシアネート基のブロック化剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール及びtert−ブタノール等のアルコール類、フェノール、m−クレゾール、イソオクチルフェノール及びレゾルシノール等のフェノール類、ε−カプロラクタム類、オキシム類、アセチルアセトン、メチルエチルケトン及びエチレンクロルヒドリン等の活性メチレン化合物類ならびに亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0038】
[プレコート皮膜のゲル分率:70%以上92%以下]
本発明では、プレコート皮膜3のゲル分率を70%以上92%以下とする。ここで、プレコート皮膜3として、ベース樹脂4中に微粒子5を含む場合には、厳密な意味でのベース樹脂4のみのゲル分率を測定することは難しい。したがって、本発明では、プレコート皮膜3のゲル分率にて代用し、このゲル分率で規定することとする。
プレコート皮膜3のゲル分率を70%以上とすれば、皮膜3の架橋密度が高くなり、耐薬品性、耐熱性に優れた皮膜3を得ることができる。また、ゲル分率を92%以下とすれば、皮膜3が過度に硬化するのを防ぐことができるため、絞り成形性に優れた皮膜3を得ることができる。さらに、皮膜3のゲル分率を85%以下とすることによって、いっそう(さらなる)優れた深絞り成形性を得ることができるので、より望ましい。このように、ゲル分率を70%以上92%以下とするためには、塗膜を焼き付ける際の焼付け温度は、材料到達温度で200〜285℃程度とするのが望ましい。
【0039】
ゲル分率の測定方法は、JIS K6796に準拠した方法で行うことができる(ただし、抽出溶剤はキシレンではなく、2−ブタノンを使用する)。すなわち、沸騰させた2−ブタノン(MEK)中に、プレコートアルミニウム板1の供試材を60分間浸漬し、浸漬前後におけるプレコートアルミニウム板1の質量変化を測定する。その後、プレコート皮膜3のみを完全溶解させたアルミニウム板2の質量を測定することで、プレコート皮膜3だけの質量変化を計算し、MEKへ溶出しなかった成分は架橋反応しているとの仮定のもとで、その比率をゲル分率として算出する。
【0040】
[微粒子]
微粒子5は、プレコート皮膜3の表面粗さRaを所定に制御するためのものであって、プレコート皮膜3のベース樹脂4中に含有させるのが望ましい。
プレコート皮膜3中に微粒子5を含有させることなく、表面粗さを制御する方法としては、プレコート皮膜を形成した後に、ブラスト処理等で物理的に表面を粗面化する方法や、凹凸のあるロールを皮膜の表面に押し当てて、ロールの持つ粗さを転写させる方法等が考えられる。しかしながら、これらの方法で表面粗さRaを調整したプレコート皮膜は、洗浄溶剤中に、皮膜表面の凹凸が滑らかとなり、プレコート皮膜における所定の表面粗さを維持することができないという問題がある。その結果、皮膜表面が平滑となり、沸騰塩素系洗浄剤中において、皮膜の表面同士がくっつき易くなる。しかし、ベース樹脂4中に微粒子5を含有させたプレコート皮膜3では、溶剤洗浄前後で、皮膜表面の凹凸形状は変化しないため、沸騰塩素系洗浄剤を用いた洗浄工程においても、皮膜3同士のくっつきを防ぐことができる。
【0041】
微粒子5の種類、形態、大きさ、添加量等は、特に制限されるものではなく、ベース樹脂4に微粒子5を含有させることで、プレコート皮膜3の表面粗さRaを所定の範囲に制御できればよい。これにより、沸騰塩素系洗浄剤中での皮膜3同士のくっつきを防ぐことができる。ただし、微粒子5の種類としては、無機微粒子、または、架橋された有機微粒子であることが望ましい。これ以外の微粒子5としては、架橋されていない熱可塑性の微粒子があるが、熱可塑性微粒子を使用した場合には、ベース樹脂4を架橋反応させる際の熱によって、微粒子5が溶融し、微粒子5の形態が安定せず、プレコート皮膜3の表面粗さRaを制御することが難しくなるという問題が生じやすい。無機微粒子や架橋された有機微粒子であれば、プレコート皮膜3のベース樹脂4を架橋反応させる際の熱によって、微粒子5が溶融しないため、安定した(均一な)表面粗さRaのプレコート皮膜3を得ることができる。
【0042】
なお、微粒子5として、無機微粒子を使用した場合、プレコート皮膜3の凸部は硬くなる。そのため、プレス成形用金型の寿命を向上させるために、微粒子5は、架橋された有機微粒子であることがより望ましい。さらに、微粒子5の形態が球状であるほうが、ミクロに見た場合のプレコート皮膜3の凸部の形態が滑らかとなるため、金型寿命への影響が少ないといえる。よって、微粒子5は、架橋された球状の有機微粒子であることがさらに望ましい。
【0043】
このような架橋された球状の有機微粒子としては、例えば、架橋ウレタン微粒子、架橋アクリル系微粒子、シリコーン微粒子、架橋ポリスチレン微粒子等を好適に使用することができる。架橋ウレタン微粒子の例としては、大日精化社製のダイミックビーズ(登録商標)(大日精化)、アートパール(登録商標)(根上工業)等を好適に使用することができ、架橋アクリル微粒子の例としては、東洋紡製のタフチック(登録商標)AR(東洋紡)、リオスフィア(登録商標)(東洋インキ製造)、アートパール(登録商標)(根上工業)、テクポリマー(登録商標)(積水化成品工業)等を好適に使用することができ、シリコーン微粒子の例としては、シリコーンパウダー(信越化学)、トレフィル(登録商標)(東レ・ダウコーニング)等を好適に使用することができる。なお、球状ではない有機微粒子としては、例えば、シリコーンゴムパウダー(X−52−875(信越シリコーン))、PTFE粉末(KT-300M(喜多村))、セルロースパウダー(KCフロック(登録商標)(日本製紙ケミカル))、扁平ポリエチレン粒子(住友精化)等が挙げられる。また、無機微粒子としては、例えば、ニッケル粉やタルク粉等が挙げられ、架橋されていない有機微粒子としては、例えば、熱可塑ウレタンビーズやポリスチレンラテックス等が挙げられる。
【0044】
微粒子5の配合比率について、特に制限はないが、プレコート皮膜3に占める比率が、1質量%未満では、表面粗さRaを0.25μm以上とするのが難しく、沸騰塩素系洗浄剤を用いた洗浄工程では、プレコート皮膜3の表面同士が、くっつき易くなる。一方、50質量%を超えると、微粒子5をベース樹脂4に固定しておくのが難しくなる。よって、配合比率は、1〜50質量%であることが望ましい。なお、3〜30質量%であることがより望ましく、また、皮膜3の外観が艶消し状態になるのを抑制し、素材であるアルミニウム板2の持つ美しい光沢外観を妨げないことを考慮すると、3〜10質量%であることがさらに望ましい。
【0045】
微粒子5の粒子径についても、特に制限はないが、一般的なロールコータで塗装できる皮膜厚さが、おおよそ1〜20μm程度であることを考えると、平均粒子径が1μm未満では、プレコート皮膜3の狙い皮膜厚さが1μmと比較的薄い膜厚の場合でも、表面粗さRaを0.25μm以上とするのが難しい。一方、平均粒子径が50μmを超えると、狙い皮膜厚さが20μmと比較的厚い膜厚の場合であっても、微粒子5をベース樹脂4に固定しておくのが難しい。よって、平均粒子径は、1〜50μmであることが望ましい。なお、皮膜3の外観が艶消し状態になるのを抑制し、素材であるアルミニウム板2の持つ美しい光沢外観を妨げないことを考慮すると、平均粒子径は、1〜30μmであることが望ましく、2〜10μmであることがさらに望ましい。なお、ここでいう平均粒子径とは、微粒子5を水に分散させた状態で、レーザー回折式粒度分布測定器等で測定した積算体積50%粒子径である。
【0046】
[プレコート皮膜の表面粗さ]
プレコート皮膜3の表面は、表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、0.25μm以上となるように形成されるのが望ましい。沸騰塩素系洗浄剤を用いた洗浄工程において、プレコート皮膜3同士のくっつきについては、向かい合った皮膜3同士の表面粗さが大きく影響する。すなわち、表面粗さRaが0.25μm未満では、皮膜3の表面が平滑となるため、皮膜3同士を向かい合わせて沸騰塩素系洗浄剤にて洗浄した場合に、皮膜3間に軽微ながらタック感が生じ始める。さらに、表面粗さRaが0.15μm未満では、プレコート皮膜3の表面がさらに平滑となるため、皮膜3同士を向かい合わせて沸騰塩素系洗浄剤にて洗浄した場合に、皮膜3同士が強固にくっついてしまう。このように、洗浄工程における皮膜3同士のくっつきは、プレコート皮膜3の表面の平滑性が大きく関与しており、表面粗さRaが大きくなればなるほど、ミクロに見た場合の皮膜表面同士の接触面積が小さくなるため、皮膜3同士のくっつきが抑制される。
【0047】
皮膜3同士のくっつきを抑制するという観点では、表面粗さRaは大きければ大きいほど望ましいと考えられるため、表面粗さRaの上限値は、特に規定する必要はない。しかし、表面粗さRaが大きくなると、皮膜3の表面では、可視光が乱反射されやすくなり、皮膜3の表面状態は、艶消し状態の外観となる。皮膜3の外観が艶消し状態になるのを抑制し、素材であるアルミニウム板2の持つ美しい光沢外観を妨げないことを考慮するには、プレコート皮膜3の表面粗さRaは、0.55μm以下であることが望ましい。なお、表面粗さRaは、微粒子5の粒子径や配合比率、皮膜厚等を適宜調整することにより、制御することができる。また、プレコート皮膜3の表面粗さの測定は、例えば、表面粗さ測定器(小坂研究所社製サーフコーダSE−30D)を使用し、探針を各アルミニウム板2の圧延方向に直交する方向に走査して、JIS B0601に記載の算術平均粗さ(Ra)を測定することにより行うことができる。
【0048】
[その他]
プレコート皮膜3には、本発明の範囲から外れない範囲で、着色剤や様々な機能を付与する添加剤を含有させることができる。
成形性をさらに向上させるためには、例えば、ポリエチレンワックス、カルナウバワックス、マイクロクリスタリンワックス、ラノリン、テフロン(登録商標)ワックス、シリコーン系ワックス、グラファイト系潤滑剤、モリブデン系潤滑剤等の潤滑剤を、1種または2種以上添加することができる。また、電子機器等で要求されるアース確保を目的とした導電性を付与するためには、導電性微粒子として、例えば、ニッケル微粒子をはじめとする金属微粒子、金属酸化物微粒子、導電性カーボン、グラファイト等を、1種または2種以上添加することができる。さらに、放熱性を高めたい場合には、例えば、カーボン、グラファイト、酸化チタン等の金属酸化物、セラミック粉等の放熱性添加剤を、1種または2種以上添加することができる。そして、防汚性が要求される場合には、フッ素系化合物やシリコーン系化合物を添加してもよい。
また、後記するように、プレコート皮膜3の厚さは、作業性および生産性の観点から、1〜20μmであることが望ましい。
【0049】
以上、本発明の最良の(実施)形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変更することができる。
例えば、アルミニウム板2の表面に、下地処理によって、下地処理皮膜(図示省略)を設けてもよい。
【0050】
<下地処理>
アルミニウム板2の表面は、プレコート皮膜3との密着性を高めるため、下地処理を施すことが望ましい。望ましい下地処理としては、Cr、ZrまたはTiを含有する従来公知の反応型下地処理皮膜および塗布型下地処理皮膜を利用することができる。すなわち、リン酸クロメート皮膜、クロム酸クロメート皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜、塗布型クロメート皮膜、塗布型ジルコニウム皮膜等を適宜使用することができる。これらの皮膜に有機成分を組み合わせた有機無機ハイブリッド型の下地処理皮膜でもよい。なお、近年、環境対応の流れから六価クロムを嫌う傾向があり、六価クロムを含まないリン酸クロメート皮膜や、リン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜、塗布型ジルコニウム皮膜等を使用するのが望ましい。
【0051】
なお、本発明では下地処理皮膜の膜厚として、下地処理皮膜成分中に含まれるCr、ZrまたはTiのアルミニウム板2への付着量(金属Cr、金属Zrまたは金属Ti換算値)を、例えば、従来公知の蛍光X線法を用いて、比較的、簡便かつ定量的に測定することができるため、生産性を阻害することなくプレコートアルミニウム板1の品質管理を行うことできる。なお、下地処理皮膜の付着量としては、金属Cr、金属Zrまたは金属Ti換算値で、10〜50mg/mであることが望ましい。付着量が10mg/m未満では、アルミニウム板2の全面を均一に被覆することができず、耐食性が低下する。また、50mg/mを超えると、プレコートアルミニウム板1を成形した際に、下地処理の皮膜自体に割れが生じやすくなる。
【0052】
また、生産性を考慮しない場合には、アルミニウム板2の表面に陽極酸化処理や電解エッチング処理等の従来公知の処理を行うこともできる。これらの処理を行うと、アルミニウム板2の表面に微細な凹凸が形成されるため、プレコート皮膜3の密着性が大きく向上する。
【0053】
さらに、耐食性をそれほど求めず簡易な方法で済ませたい場合には、アルミニウム板2の表面を脱脂処理のみする手法でもかまわない。脱脂の手法としては、有機系薬剤による脱脂、界面活性剤系薬剤による脱脂、アルカリ系薬剤での脱脂、酸系薬剤による脱脂等、従来公知の方法を用いることができる。ただし、有機系薬剤や界面活性剤系薬剤の場合には、脱脂能力がやや劣るため、アルカリ系薬剤や酸系薬剤による脱脂の方が、生産性はよくなる。アルカリ系薬剤の脱脂能力は、使用するアルカリの主成分、濃度、処理温度によってコントロールできるが、脱脂能力を強くした場合には、多くのスマットが発生するため、その後の水洗を十分に行わないと、かえってプレコート皮膜3の密着性が低下する場合もある。また、アルミニウム板2に、添加元素としてマグネシウムを多く含む品種を使用する場合には、アルカリ系薬剤では、マグネシウムが表面に残ってプレコート皮膜3の密着性が低下する場合がある。そのため、この場合には、酸系薬剤を使用または併用することが望ましい。
【0054】
≪プレコートアルミニウム板の製造方法≫
次に、プレコートアルミニウム板1の製造方法の一例について説明する。
プレコートアルミニウム板1の製造方法については、特に制限されるものではなく、ベース樹脂4の元となる樹脂(エポキシ樹脂)、硬化剤(無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤)及び望ましくは微粒子5を含む塗料を、従来公知の方法により、アルミニウム板2の上に塗布した後、加熱により架橋反応させることによって得ることができる。なお、皮膜3中のゲル分率を70%以上92%以下とするため、塗料を焼き付ける際の焼付温度を、200〜285℃程度とするのが望ましい。
【0055】
ここで、塗料の塗布は、バーコータ、はけ、ロールコータ、カーテンフローコータ、ローラーカーテンコータ、静電塗装機、ブレードコータ、ダイコータ等、いずれの手段で行ってもよいが、量産する場合には、特に、塗布量が均一となると共に、作業が簡便なロールコータを使用するのが望ましい。ロールコータで塗布する場合、プレコート皮膜3の膜厚の制御は、アルミニウム板2の搬送速度、ロールの回転方向と回転速度、ロール間の押し付け圧(ニップ圧)等を適宜調整することによって行うが、通常の場合、1回の塗布作業によって塗布できる皮膜3の厚さは、1〜20μmとなるのが一般的である。したがって、プレコート皮膜3の厚さは、作業性および生産性を考慮すると、1〜20μmであることが望ましい。
【実施例】
【0056】
次に、本発明のプレコートアルミニウム板について、本発明の要件を満たす実施例と、本発明の要件を満たさない比較例と、を対比させて具体的に説明する。
【0057】
[第1実施例]
第1実施例では、本発明におけるプレコートアルミニウム板について、本発明の必須の目的(必須性能)である高温湿潤環境下での耐久性(高温湿潤耐久性)、耐薬品性、耐熱変色性、絞り成形性について調べた。
【0058】
本発明に係るプレコートアルミニウム板の検討にあたり、素材として使用したアルミニウム板は、合金番号A1100−H24の板厚0.3mm材を使用した。これを弱アルカリ脱脂剤にてアルカリ脱脂した後、下地処理としてリン酸クロメート処理を施した。リン酸クロメート処理の条件は、クロム付着量で20mg/mとした。また、使用したアルミニウム板の機械的性質は、引張強さ130MPa、耐力120MPa、伸び8%であった。次に、リン酸クロメート処理を施したアルミニウム板の片面に、表1に示す各種主剤(樹脂系)と各種硬化剤とを配合した塗料を、乾燥皮膜厚さが6μmとなるようにバーコーター(バーコータ)で塗布した後、焼付温度が150〜285℃の範囲となるように塗料を焼き付けることによってゲル分率を変更したプレコート皮膜を形成し、供試材とした。また、表1に示すガラス転移温度は、前記の各樹脂系におけるガラス転移温度である。
【0059】
以上のようにして製作した供試材について、プレコート皮膜のゲル分率を測定した。
【0060】
(ゲル分率の測定)
供試材を10cm×10cmに切り出した試験材(片)を使用し、皮膜のゲル分率を測定した。試験材は、80℃にて60分間乾燥させた後、初期質量(a)を測定し、次に沸騰させたMEK中に供試材を60分間浸漬して未架橋成分を溶出させた後、150℃にて60分間乾燥させて皮膜中の残存MEKを乾燥し、抽出後質量(b)を測定した。最後に発煙硝酸中にて皮膜を完全に溶解し、アルミニウム板だけの質量(c)を測定した。ここで、(a)−(c)がもともとのプレコート皮膜のみの質量であり、(b)−(c)が架橋している皮膜質量とみなせるため、次式で表せるゲル分率が、皮膜の架橋度を表すこととなる。
(ゲル分率)=((b)−(c)/(a)−(c))×100 (単位%)
【0061】
次に、各供試材について、本発明の必須の目的である高温湿潤環境下での耐久性(高温湿潤耐久性)、耐薬品性、耐熱変色性、絞り成形性について調べた。
【0062】
(高温湿潤(環境)耐久性)
供試材から切り出した平板状試験材を使用し、温度85℃、湿度85%RHに設定した恒温恒湿槽に1000時間放置した後、皮膜の外観を目視にて確認した。その結果、皮膜に異常がなかったものを良好(○)、皮膜に変色・剥がれ・膨れ・割れなどの外観異常が生じたものを外観異常(×)とした。
【0063】
(耐薬品性)
供試材から切り出した平板状試験材を使用し、環状エステルのγ−ブチルラクトンに常温で10分間浸漬し、皮膜の外観を目視にて確認した。その結果、皮膜に異常がなかったものを良好(○)、皮膜に変色・剥がれ・膨れ・割れなどの外観異常が生じたものを外観異常(×)とした。
【0064】
(耐熱変色性)
供試材から切り出した平板状試験材を使用し、温度270℃に設定した箱型加熱槽に1分間放置した後、皮膜の外観を目視にて確認した。その結果、皮膜に異常がなかったものを良好(○)、皮膜に変色・剥がれ・膨れ・割れなどの外観異常が生じたものを外観異常(×)とした。
【0065】
(絞り成形性)
図2は、供試材を絞り加工、および、しごき加工することで、有底円筒容器を作製する工程を示す模式図である。図2に示す工程により、供試材の絞り成形性を調べた。まず、円筒ブランク打ち抜き(ブランキング)の後、絞り加工を行った。次に、再絞り加工にて、12mmφ×15mmLの円筒絞り成形品(中間成形品)を得た。この時点で得られた中間成形品での皮膜状態を評価した結果を、表1中の浅絞り成形性とした。次に、中間成形品に、円筒側壁部の板厚減少率が20%となるようにしごき加工を加え、トリミングをして最終10mmφ×20mmLの円筒容器形状に加工し、最終成形品を得た。この時点で得られた最終成形品での皮膜状態を評価した結果を、表1中の深絞り成形性とした。なお、プレス油には脂肪酸エステルと界面活性剤を主成分とする水系エマルジョンワックスを使用した。また、加工は、室温(35℃)で行った。
【0066】
皮膜状態の評価は、本発明の必須性能である浅絞り成形性については、アルミニウム板からプレコート皮膜が剥がれなかった場合を、浅絞り成形性が良好(○)、剥がれた場合を、浅絞り成形性が不良(×)と判断した。また、浅絞り成形性が良好(○)であった供試材についてのみ、望ましい性能である深絞り成形性を確認し、その結果、アルミニウム板からプレコート皮膜が剥がれず深絞り成形性が良好であった場合には、特に成形性良好(◎)、剥がれた場合を不良(△)とした。
【0067】
表1に高温湿潤環境下での耐久性(高温湿潤耐久性)、耐薬品性、耐熱変色性、絞り成形性についての結果を示す。なお、表1中の下線は、本発明で規定する要件を満たさないことを示す。
【0068】
【表1】

【0069】
(高温湿潤(環境)耐久性)
表1に示すように、ベース樹脂の樹脂系としてポリエステル樹脂を使用した、No.17〜22については、いずれも皮膜外観に、白化、割れ、ふくれなどの異常が発生した。また、ベース樹脂の樹脂系としてエポキシ樹脂を使用した各供試材の中では、硬化剤として、メラミン系硬化剤を使用したNo.10は、皮膜が溶融し、外観異常となった。また、このNo.10はゲル分率が0であり、エポキシ樹脂とメラミン計硬化剤がまったく反応していなかった。以上の7種類以外の各供試材は、いずれも高温湿潤環境での耐久性が良好な結果となった。
以上から、高温湿潤環境下での耐久性を確保するためには、ベース樹脂に用いる主剤(樹脂系)は、エポキシ樹脂である必要がある。また、硬化剤とある程度反応している必要があるため、硬化剤としてメラミン系硬化剤は、適当でない。
【0070】
(耐薬品性)
表1に示すように、ベース樹脂のゲル分率が70%未満であった、No.5、7、10、11、13、15、17、19、21については、いずれも皮膜外観に、白化や溶解などの異常が発生した。また、ゲル分率が70%以上の各供試材の中では、エポキシ樹脂とフェノール系硬化剤を反応させた、No.14は、皮膜外観に、白化が発生した。以上の10種類以外の各供試材は、いずれも耐薬品性が良好な結果となった。
以上から、耐薬品性を確保するためには、皮膜(ベース樹脂)のゲル分率は70%以上を満たす必要がある。また、硬化剤としてフェノール系硬化剤は、適当でない。
【0071】
(耐熱変色性)
表1に示すように、硬化剤としてフェノール系硬化剤を使用した、No.13と14及び硬化剤として無黄変タイプではない標準タイプのイソシアネート系硬化剤を使用した、No.9については、皮膜の黄変色が見られた。以上の3種類以外の各供試材は、いずれも耐熱変色性が良好な結果となった。
以上から、耐熱変色性を確保するためには、硬化剤の選択が重要であって、フェノール系硬化剤は適当でなく、また、硬化剤がイソシアネート系硬化剤である場合には、無黄変タイプのものを選択する必要がある。
【0072】
(絞り成形性)
表1に示すように、エポキシ樹脂とイソシアネート系硬化剤(無黄変)とを組み合わせた各供試材において、ゲル分率が92%を超える、No.6と8については、皮膜剥離が発生した。また、硬化剤としてウレア系硬化剤を使用した、No.11と12についても、皮膜剥離が発生した。また、アクリル変性自己加工型エポキシ樹脂についても、ゲル分率が高いNo.16については、皮膜剥離が発生した。以上の5種類以外の各供試材は、いずれも浅絞り成形性が良好な結果となった。
以上から、絞り成形性(浅絞り成形性)は、主剤となる樹脂(系)と硬化剤との種類(組み合わせ)の影響を受け、さらに、主剤(樹脂系)と硬化剤との架橋反応の程度を示すゲル分率の影響も大きいことがわかる。特に、主剤(樹脂系)がエポキシ樹脂で、硬化剤がイソシアネート系硬化剤(無黄変)の組み合わせの場合には、ゲル分率が92%以下であることが重要である。また、硬化剤としてウレア系硬化剤は、適当でない。
【0073】
次に、浅絞り成形性が良好であった各供試材について、深絞り成形(加工)性を確認した。表1に示すように、エポキシ樹脂とイソシアネート系硬化剤(無黄変)とを組み合わせた各供試材について、ゲル分率が85%を超える、No.2と4では、深絞り(試験)において、皮膜が剥離した。また、アクリル変性自己架橋型エポキシ樹脂のNo.15と、ポリエステル樹脂を使用したNo.22も、深絞り試験において、皮膜が剥離した。その結果、深絞り成形性を満たしたのは、エポキシ樹脂とイソシアネート系硬化剤とを組み合わせたNo.1、3、5、7、9の5種類、エポキシ樹脂とメラミン系硬化剤とを組み合わせたが、結果的に架橋反応していなかったNo.10、エポキシ樹脂とフェノール系硬化剤とを組み合わせたNo.13、14の2種類、ポリエステル樹脂を使用したNo.17〜21の5種類の、合計13種類であった。
特に、主剤(樹脂系)がエポキシ樹脂で、硬化剤がイソシアネート系硬化剤(無黄変)の場合には、ゲル分率が85%以下である場合に、優れた深絞り成形性が得られることがわかった。
【0074】
(まとめ)
表1に示すように、高温湿潤環境下での耐久性(高温湿潤耐久性)、耐薬品性、耐熱変色性、絞り成形性(浅絞り成形性)の4つの必須性能をすべて満足するものは、No.1〜4の4種類であった。
したがって、プレコートアルミニウム板のプレコート皮膜の構成として、エポキシ樹脂と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤とを組み合わせて、ゲル分率を70%以上92%以下となるように反応させることが、本発明では、必須であることがわかった。
さらに望ましい性能である深絞り成形性も満足したものは、No.1とNo.3の2種類であって、プレコートアルミニウム板のプレコート皮膜の構成として、エポキシ樹脂と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤とを組み合わせて、ゲル分率を70%以上85%以下となるように反応させることが、本発明では、望ましいことがわかった。
【0075】
[第2実施例]
第2実施例では、本発明におけるプレコートアルミニウム板を製造する際に使用する、エポキシ樹脂と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤を含む塗料について、本発明の望ましい目的である塗料寿命について調べた。なお、塗料寿命は、本発明としてはあくまで望ましい特性に過ぎないため、これらの特性を満たさない場合でも、第1実施例の結果を満たしているものは、本発明の最低限の目的は達するものである。
【0076】
市販されているビスフェノールA型もしくはビスフェノールF型のエポキシ樹脂(変性エポキシ樹脂も含む)に対して、ブロック型のイソシアネート系硬化剤または非ブロック型のイソシアネート系硬化剤を混合し、粘度調整用希釈溶剤として、トルエンを混合することにより、塗料を作製し、供試材とした。
このエポキシ樹脂とイソシアネート系硬化剤の混合比率は、それぞれ固形分重量換算で、5:1の比率に固定した。また、粘度調整用希釈溶剤は、建浴直後の初期粘度が、#4フォードカップ粘度で100秒(±5秒以内)となるように、添加量を調整した。
【0077】
(塗料寿命)
このようにして建浴(調整)した供試材塗料を、密閉容器に入れて室温で7日間および3ヶ月間保管した後、再度粘度を調査し、塗料の寿命(塗料寿命)を判定した。ここでは、塗料粘度(フォードカップ)が150秒以内であれば寿命ありと判断した。
【0078】
表2に塗料寿命についての結果を示す。なお、表2中の下線は、本発明で規定する要件を満たさないことを示す。
【0079】
【表2】

【0080】
(塗料寿命)
表2に示すように、イソシアネート系硬化剤として非ブロック型を使用した、供試材No.1、3、5、7、9では、いずれも7日後の段階で、塗料粘度が測定できないほど固化しており、塗料寿命が十分でない結果となった。一方、ブロック型のイソシアネート系硬化剤を使用した供試材No.2、4、6、8、10では、いずれも3ヶ月後の段階での(秒数の)増加はわずかであり、再使用可能であることがわかった。
【0081】
[第3実施例]
第3実施例では、本発明におけるプレコートアルミニウム板のさらに望ましい形態について調べるため、プレコートアルミニウム板の洗浄工程耐久性について調査した。なお、洗浄工程耐久性は、本発明としてはあくまで望ましい特性に過ぎないため、これらの特性を満たさない場合でも、第1実施例の結果を満たしているものは、本発明の最低限の目的は達するものである。
【0082】
素材として使用したアルミニウム板の品種・質別・機械的性質、塗装前の下地処理方法とその条件は、第1実施例と同一である。このアルミニウム板にガラス転移温度が77℃のエポキシ樹脂と無黄変タイプのイソシアネート硬化剤からなるベース樹脂に、表3に示す各種微粒子(粒子種、粒子径μm)を含む塗料を、乾燥皮膜厚さが6μmとなるようにバーコーターで塗布した後、ゲル分率が80±5%となるように焼き付けることによって、プレコート皮膜を形成し、供試材とした。
なお、No.11とNo.13は微粒子を配合していない供試材であって、特にNo.13は、バーコーター塗装、焼付けが済んだ後、塗装表面に表面粗さRaが約0.5μmのステンレス製定盤を重ねて、40℃で加温したホットプレスで10分間軽くはさむことにより、定盤の表面粗さを転写させた。
また、表3に示す微粒子について、架橋アクリル(ビーズ)と架橋ウレタン(ビーズ)は架橋された有機微粒子、ニッケル粉とタルク粉は無機微粒子、熱可塑ウレタン(ビーズ)は架橋されていない有機微粒子である。なお、配合比率は、ベース樹脂と微粒子を含めた乾燥プレコート皮膜の質量に占める微粒子の質量%とした。
【0083】
以上のようにして製作した供試材について、プレコート皮膜のゲル分率および表面粗さRaを測定した。なお、ゲル分率の測定方法は、第1実施例と同一とした。
【0084】
(表面粗さRaの測定)
プレコート皮膜の表面粗さについては、表面粗さ測定器(小坂研究所社製サーフコーダSE−30D)を使用し、探針を各アルミニウム板の圧延方向に直交する方向に走査して、JIS B0601に記載の算術平均粗さ(Ra)を測定した。
【0085】
次に、前記供試材について、本発明の望ましい目的である沸騰トリクレン洗浄時の皮膜耐久性(洗浄工程耐久性)と、その他外観性状について調べた。
【0086】
(洗浄工程耐久性)
塩素系洗浄剤としてトリクレンを使用し、これを沸騰させた。各供試材の塗装面同士が向かい合うようにしてクリップで挟み、その沸騰トリクレン中に10分間浸漬した後、取り出して外観を確認した。皮膜の溶解、剥離、変色、皮膜同士のくっつき等の表面異常がないものを、洗浄工程耐久性が良好(○)、表面異常(くっつき等)があるものを、不良(×)と判断した。
【0087】
(外観性状)
バーコーター塗装、焼付けが済んだ、プレコート皮膜の外観を目視で観察した。艶消し状態、ムラ、黄変色等が生じなかったものを、外観性状が良好(○)と判断した。また、これらのいずれかが生じたものを、外観性状がやや劣る(×)と判断した。
【0088】
表3に洗浄工程耐久性及び外観性状についての結果を示す。なお、表3中の下線は、本発明で規定する要件を満たさないことを示す。
【0089】
【表3】

【0090】
(洗浄工程耐久性)
表3に示すように、No.1〜10は、いずれも皮膜中に微粒子を添加することにより、表面粗さRaを0.25μm以上としたため、洗浄工程耐久性が良好であった。
一方、No.11は微粒子を含まず、表面粗さも本発明の範囲を満たさないため、皮膜同士のくっつきが生じ、洗浄工程耐久性が不良であった。また、No.12は、表面粗さが本発明の範囲を満たさないため、皮膜同士のくっつきが生じ、洗浄工程耐久性が不良であった。また、No.13は、表面粗さが沸騰トリクレン中への浸漬前では本発明の範囲を満たすものの、微粒子を含まないため沸騰トリクレン中への浸漬中に皮膜表面の凹凸が滑らかになり、皮膜同士のくっつきが生じた。
【0091】
(外観性状)
洗浄工程耐久性が良好であったNo.1〜10について、微粒子が架橋されていない有機微粒子であるNo.8は、バーコーター塗装後の焼付け工程において微粒子が溶融するため、外観が不均一(外観不均一)となった。また、このNo.8およびNo.2、5、7、10の5種類は、表面粗さRaが0.55μmを超えているため、皮膜の艶消し性が強く(艶消し)、素材であるアルミニウムの光沢が損なわれていた。
【0092】
なお、今回明確なデータは得られていないが、微粒子に無機微粒子を使用すると、プレコート皮膜の凸部は硬くなるため、プレス成形用金型の寿命を低下させることは十分に予想される。同様に粒子の形態としても球状であるほうが、ミクロに見た場合のプレコート皮膜の凸部の形態が滑らかとなるため、金型寿命への影響が少ないと考えることに不合理性はない。
【0093】
以上、本発明に係るプレコートアルミニウム板について最良の実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて改変・変更等することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0094】
1 プレコートアルミニウム板
2 アルミニウム板
3 プレコート皮膜
4 ベース樹脂(熱硬化性樹脂)
5 微粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板の表面に、プレコート皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、
前記プレコート皮膜は、エポキシ系樹脂と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤とが分子間架橋された熱硬化性樹脂からなり、
前記プレコート皮膜のゲル分率が、70%以上92%以下であることを特徴とするプレコートアルミニウム板。
【請求項2】
前記プレコート皮膜のゲル分率が、70%以上85%以下であることを特徴とする請求項1に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項3】
前記無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤が、ブロック型イソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項4】
前記プレコート皮膜は、ベース樹脂となる前記熱硬化性樹脂の中に、無機微粒子または架橋された有機微粒子である微粒子を含み、かつ、表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、0.25μm以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項5】
前記微粒子が、架橋された球状の有機微粒子であることを特徴とする請求項4に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項6】
前記プレコート皮膜の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、0.25〜0.55μmであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のプレコートアルミニウム板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−227752(P2010−227752A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75673(P2009−75673)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】