説明

プレコート金属板

【課題】プレス加工後の後塗装を省略できるプレコート金属板において、白色度が高く、且つ、鮮映性に優れたプレコート金属板を製造する。
【解決手段】金属板上に2層以上の塗膜層を被覆し、且つ、塗装後の白色度がハンターLab表色系のL値で80以上有する白色系プレコート金属板において、最表層の塗膜を上層塗膜、上層塗膜と金属板との間の塗膜を下層塗膜としたとき、下層塗膜中の白色顔料濃度が40〜60質量%、上層塗膜中の白色顔料濃度が5〜25質量%を含む鮮映性に優れた白色系プレコート金属板によって達せられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコート金属板に関するものであり、特に、自動車用、家電用、建材用、土木用、機械用、家具用、容器用等において、優れた鮮映性を有するプレコート金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車分野、家電分野、建材分野等の外板に、従来の金属板を加工した後に塗装されていたポスト塗装製品に代わって、予め着色した塗膜を被覆したプレコート金属板が使用されるようになってきている。一方、これら用途において、塗装には、デザイン、意匠性の観点から、鮮映性に優れた塗装外観の要望が高まってきている。
【0003】
塗膜の鮮映性を高める技術としては、例えば、特許文献1に記載されているように母材である金属板の表面粗さを小さくする技術、特許文献2に記載されているように分子量の低い樹脂を用いた塗膜を塗装する技術、特許文献3に記載されているように着色塗膜層の上にクリヤー塗膜を被覆する技術などが公開されている。
【0004】
プレコート金属板を工業的に生産する場合、非特許文献1に記載されているように、コイルコーティングラインと呼ばれる連続塗装ラインにて製造されている。通常のコイルコーティングラインでは、ロールコーターやカーテンコーターと呼ばれる塗装装置にて、防錆機能を有するプライマー塗料を金属板上に塗装し、その上に、着色塗料を塗装する2コート仕様が一般的である。
【0005】
【特許文献1】特開平7−150326号公報
【特許文献2】特開平1−304934号公報
【特許文献3】特開平10−66931号公報
【非特許文献1】植田ら;色材,72(8),525−531(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プレコート金属板の母材の表面粗さを低く制御することで鮮映性を得る方法は、どのような塗膜を用いても、母材である金属板の表面粗さを制御できれば、比較的高鮮映性を得ることができる反面、表面粗さを調整した圧延ロール等によって金属を圧延したり、研磨機等で研磨したりすることで、母材である金属板の表面粗さ制御しなければならない。そのため、この方法で鮮映性に優れたプレコート金属板を作製するには、労力とコストが多くかかる欠点がある。一方、分子量の低い樹脂を用いた塗料を塗装することで鮮映性に優れたプレコート金属板を得る方法は、母材である金属板の表面粗さを制御して得る方法に比べると、比較的簡単に製造することが可能であるが、特定の樹脂を塗料に用いなければならないため、他の塗膜性能、例えば、加工性等を付与することが困難である。
【0007】
比較的容易に鮮映性に優れたプレコート金属板を得る方法としては、着色塗膜層の上に透明なクリヤー塗膜を塗装する方法が好適であるが、従来の2コート塗装用のコイルコーティングラインで、着色塗膜層上に透明なクリヤー塗膜を塗装した場合、金属板上に直接着色塗膜層を塗装し、その上に、クリヤー塗膜層を塗装しなければならない。その為、着色塗膜層が隠蔽性に低い白色系塗膜であると、原板である金属板の色を1層の着色層のみでは隠蔽し切れず、鮮やかな色調を出すことが困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、これらの従来の課題を解決して、着色塗膜層の下地隠蔽性を高め、鮮映性に優れたプレコート金属板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、白色系の着色層の上に塗装する透明なクリヤー塗膜層中に僅かに白色顔料を少量添加し、半透明皮膜とすることで白色度が増加し、且つ、鮮映性にも優れるプレコート金属板が得られることを知見した。
【0010】
本発明は、かかる知見を基に完成させたものであって、本発明がその要旨とするところは、以下の通りである。
(1)金属板上に2層以上の塗膜層を被覆し、且つ、塗装後の白色度がハンターLab表色系のL値で80以上有する白色系プレコート金属板であって、最表層の塗膜を上層塗膜、前記上層塗膜と前記金属板との間の塗膜を下層塗膜としたとき、前記下層塗膜中の白色顔料濃度が40〜60質量%、前記上層塗膜中の白色顔料濃度が5〜25質量%であることを特徴とする、プレコート金属板。
(2)前記白色顔料が、酸化チタンであることを特徴とする、(1)記載のプレコート金属板。
(3)前記下層塗膜及び前記上層塗膜を形成する樹脂が、ポリエステル樹脂を主樹脂とし、且つ、メラミン樹脂またはイソシアネートで架橋したものであることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のプレコート金属板。
(4)前記下層塗膜及び前記上層塗膜のガラス転移温度が、10〜30℃であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載のプレコート金属板。
(5)前記下層塗膜の膜厚が10〜25μmであり、前記上層塗膜の膜厚が5〜25μmであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載のプレコート金属板。
(6)前記プレコート金属板の塗膜が2層であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載のプレコート金属板。
(7)前記プレコート金属板の上層塗膜の上に更にクリヤー塗膜を被覆したことを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載のプレコート金属板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来以上に高い白色度を有し、且つ、鮮映性に優れるプレコート金属板を提供することが可能となった。特に、従来の2コート塗装用のコイルコーティングラインでも容易に高い白色度を有し、且つ、鮮映性に優れるプレコート金属板を生産することが可能となった。そのため、これまでポストコートでしか対応ができなかった白色で鮮映性の必要な部位にも、プレコート金属板を適用することが容易となり、プレコート金属板を使用することで、ポストコート塗装で課題となっていた揮発性有機溶剤(VOC)の問題を解決することができるだけではなく、ユーザーでの塗装設備撤廃によるコストダウン、工場スペース化等も達成される。したがって、本発明は産業上の極めて価値の高い発明であると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明の目的は、金属板に2層以上の塗膜層を被覆し、且つ、塗装後の白色度がハンターLab表色系のL値で80以上有する白色系プレコート金属板であって、最表層の塗膜を上層塗膜、上層塗膜と前記金属板との間の塗膜を下層塗膜としたとき、下層塗膜中の白色顔料濃度が40〜60質量%、上層塗膜中の白色顔料濃度が5〜25質量%とすることで達することができる。
【0014】
本発明の塗装は白色系の塗装であるが、ここでいう白色系とは、白色顔料を主体とした顔料組成で着色した塗装のことであり、白色顔料単独、白色顔料に他の着色顔料を少量添加することで得られる色調全てを指す。色名としては、例えば、白色、肌色、アイボリー色、薄いピンク色、青白色、薄い灰色、等と呼ばれるものがこれに含まれ、一般に淡色と呼ばれる色調で、ハンターLab表色系のL値で80以上を有するものである。
【0015】
本発明のプレコート金属板は、下層塗膜中の白色顔料濃度が40〜60質量%、上層塗膜中の白色顔料濃度が5〜25質量%であることが必須である。下層塗膜中の顔料濃度が40質量%未満であると、塗膜の白色度が低下し、60質量%超では塗膜が脆くなり加工性が低下するため、不適である。上層塗膜中の顔料濃度が5質量%未満では白色度が低下し、25質量%超では鮮映性が低下するため、不適である。
【0016】
本発明で用いる白色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛等の一般に公知の白色顔料を用いることができるが、酸化チタンが高い隠蔽性を有しているため、より好適である。本発明の白色顔料に用いる酸化チタンは、一般に公知の酸化チタンを用いることができ、例えば、市販の酸化チタンとしては、石原産業社製の「タイペーク」、テイカ社製「TITANIX」等を使用することができる。
【0017】
本発明の塗膜には、白色顔料に加えて、白色以外の着色顔料を添加することもできる。これら白色顔料以外の顔料は、一般に公知の顔料、例えば、赤系顔料の場合、カドミウムレッド、銀朱等の無機系赤顔料、カーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド等の有機系溶性アゾ系赤顔料、パーマネントレッド、レーキレッド4R、ナフトールレッド等の有機系不溶性アゾ系赤顔料、クロモフタールレッド等の縮合アゾ系赤顔料等を、黄系顔料の場合は、黄鉛、黄色酸化鉄、カドミウムイエロー等の無機系黄顔料、ジスアゾイエロー、モノアゾイエロー、縮合アゾイエロー等の有機系黄顔料、オレンジ系顔料の場合は、モリブデンオレンジ等の無機系オレンジ顔料、ジスアゾオレンジ、パーマネントオレンジ等の有機系オレンジ顔料、青色系顔料の場合はフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、黒の場合はカーボンブラック等を使用することができる。
【0018】
本発明の塗膜には、白色顔料や着色顔料に加えて、防錆顔料を添加しても良い。防錆顔料としては、一般に公知の防錆顔料、例えば、クロム酸ストロンチウム、カルシウムストロンチウム等のクロム系防錆顔料、リン酸亜鉛、リン酸アルミ、亜リン酸亜鉛、亜リン酸アルミ等のリン酸系防錆顔料、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ等のシリカ系顔料等を使用することができる。
【0019】
本発明の塗膜のバインダーには、主樹脂として、例えば、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素系樹脂等の一般に公知の塗料用樹脂を用いることができる。また、架橋剤として、一般に公知の架橋剤、例えば、メラミン樹脂、イソシアネート等を用いることができる。本発明の下層塗膜及び上層塗膜に用いる塗料樹脂は、ポリエステル樹脂をメラミン樹脂もしくはイソシアネートにて架橋させたタイプのものであると、加工性に優れ、好適である。
【0020】
ポリエステルは、数平均分子量が10000〜26000の高分子タイプのものであると、加工性により優れ、より好適である。従来、より分子量の高いポリエステルを用いた塗膜は、より分子量の低いポリエステルを用いた塗膜より鮮映性に劣ることが知られている。特に、数平均分子量が10000〜26000の高分子タイプのポリエステルを用いた塗膜は、低分子タイプ(数平均分子量が10000未満)のポリエステルを用いたときより鮮映性に劣ることが知られており、高い鮮鋭性を得るためには加工性に劣る低分子タイプのポリエステル樹脂を使用しなければならなかった。しかしながら、本発明技術を適用すると加工性に優れた高分子タイプのポリエステルを用いても高い鮮映性得られるため、より好適である。本発明に用いるポリエステル樹脂は、市販のものを用いても良い。
【0021】
架橋剤に用いるメラミン樹脂やイソシアネートは、一般に公知のものを使用することができ、市販のもの、例えば、三井サイテック社製のメラミン樹脂であるサイメル(登録商標)シリーズ、マイコート(登録商標)シリーズや、大日本インキ化学工業社製のメラミン樹脂であるスーパーベッカミン(登録商標)シリーズ、住化バイエルウレタン社製のイソシアネートスミジュール(登録商標)シリーズ、デスモジュール(登録商標)シリーズ等を使用することができる。
【0022】
本発明の塗膜には、塗膜の架橋を促進するための一般に公知の硬化触媒を添加しても良い。また、その他の一般に公知の塗料用添加剤、例えば、ワックス、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤等を添加しても良い。
【0023】
本発明の下層塗膜及び上層塗膜のガラス転移温度が10〜30℃であると、加工性がより向上するため、より好適である。塗膜のガラス転移温度が10℃未満であると塗膜の硬度が低下し、30℃超であると加工性が低下する可能性があるため、好ましくない場合がある。
【0024】
本発明のプレコート金属板における塗膜の膜厚は、下層塗膜の膜厚が10〜25μm、且つ、上層塗膜の膜厚が5〜25μmであると好適である。下層塗膜の膜厚が10μm未満では白色度が低くハンターLab表色系のL値が80未満となる恐れが有り、25μm超では塗膜を塗装して焼き付けたときにワキ又はボイリングと呼ばれる塗装欠陥が発生する恐れが有る。上層塗膜の膜厚が5μm未満では高鮮映性が得られない恐れが有り、25μm超ではワキ又はボイリングと呼ばれる塗装欠陥が発生する恐れが有る。
【0025】
本発明のプレコート金属板は、必要に応じて、下層塗膜の更に下層に防錆塗膜等をプライマー塗膜として塗装しても良い。しかし、本発明のプレコート金属板に防錆塗膜を施す場合は、一般に普及している2コート塗装用のプレコート鋼板連続塗装ライン(一般にCCL(Coil Coating Line)、もしくは、カラー鋼板ラインと呼ばれる)では製造が困難であり、新たに塗装装置と焼付け炉を新設する、もしくは、2コート塗装用連続塗装ラインにて2回通板して生産する必要があるため、設備投資が必要、生産効率が低い、生産コストが高い等の課題が発生する。したがって、本発明のプレコート金属板は、下層塗膜と上層塗膜とからなる2コートであると、既存設備をそのまま活用でき、より好適である。
【0026】
本発明のプレコート金属板は、必要に応じて、本発明の上層塗膜の更に上層にトップクリヤー塗膜を塗装してもよい。トップクリヤー塗膜を塗装すると更に鮮映性や光沢が高くなり、より好適である。トップクリヤー塗膜は、顔料や染料を一切含まない一般に公知のクリヤー塗料を用いることができ、本発明の上層塗膜や下層塗膜に用いる樹脂や架橋剤として例示したものを用いることができる。トップクリヤー塗膜の膜厚は、必要に応じて適宜選定して決めることができるが、1〜20μmが好適である。1μm未満では、トップクリヤー塗膜を設ける効果が発現できないおそれがあり、また、20μm超では焼付け時にワキ欠陥が出るおそれがある。
【0027】
本発明のプレコート金属板に塗装する塗膜は、一般に公知の塗装方法、例えば、ロールコーター、ローラーカーテンコーター、リンガーロールコーター、スプレー塗装等にて塗装し、その後、一般に公知の塗料用焼付け炉、例えば、熱風乾燥炉、誘導加熱炉、赤外線加熱炉、もしくは、これらを併用した炉等で焼き付けることができる。
【0028】
本発明に使用する金属板は、一般に公知の金属材料を用いることができる。金属材料が合金材料であっても良い。例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミ板、アルミ合金板、チタン板、銅板等が挙げられる。これらの材料の表面にはめっきが施されていてもよい。めっきの種類としては、亜鉛めっき、アルミニウムめっき、銅めっき、ニッケルめっき等が挙げられる。これらの合金めっきであってもよい。鋼板の場合は、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金化めっき鋼板等、一般に公知の鋼板及びめっき鋼板を適用できる。
【0029】
本発明に用いる金属板の表面には、一般に公知の化成処理を施すと、金属板と塗膜層との密着性が向上するため、より好適である。化成処理は、リン酸亜鉛系化成処理、塗布クロメート処理、電解クロム酸処理、反応クロメート処理、クロメートフリー系化成処理等を使用することができる。
【実施例】
【0030】
[実施例−1]
以下、実施例−1の詳細について説明する。
まず、実施例−1で使用する塗料について詳細を説明する。
東洋紡社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロン(登録商標)GK140」(Tg:20℃、数平均分子量:13000)、「バイロン(登録商標)650」(Tg:10℃、数平均分子量:23000)「バイロン(登録商標)600」(Tg:47℃、数平均分子量:23000)、「バイロン(登録商標)GK180」(Tg:0℃、数平均分子量:10000)、「バイロン(登録商標)GK130」(Tg:15℃、数平均分子量:7000)、「バイロン(登録商標)220」(Tg:53℃、数平均分子量:3000)を有機溶剤(質量比でシクロヘキサノン:ソルベッソ150=1:1に混合したものを使用)に溶解したものを作成した。また、旭硝子社製のフッ素系樹脂である「LUMIFLON(登録商標)LF552」(Tg:20℃、数平均分子量12000)も準備した。次に、前記樹脂に、三井サイテック社製のメラミン樹脂である「サイメル(登録商標)303」と三井サイテック社製の強酸性触媒である「キャタリスト600」を添加することで、メラミン硬化型ポリエステルクリヤー塗料を作成した。架橋剤の添加量は、固形分比率でポリエステル樹脂70質量部に対してメラミン樹脂を30質量部添加した。触媒の添加量は、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂の合計樹脂固形分に対して0.5質量%添加した。また、有機溶剤に溶解したポリエステル樹脂に、市販のHDIをベースとしたブロック化イソシアネートである住化バイエルウレタン社製「スミジュール(登録商標)BL3175」を[イソシアネートのNCO基当量]/[ポリエステル樹脂のOH基当量]=1.0となるように配合し、更に三井武田ケミカル社製反応触媒「TK−1」を樹脂固形分に対して0.05%添加することでイソシアネート硬化型ポリエステル系のクリヤー塗料を得た。
【0031】
次に、作成したクリヤー塗料に、必要に応じて石原産業社製の酸化チタンである「タイペーク(登録商標)CR−95」をクリヤー塗料中に添加した。
【0032】
以下、実施例−1に用いたプレコート金属板について詳細を説明する。
【0033】
新日本製鐵株式会社製の溶融亜鉛メッキ鋼板「シルバージンク(登録商標)」(以降、GIと称す)、新日本製鐵株式会社製の亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板「ジンクライト(登録商標)」(以降、ZLと称す)と新日本製鐵株式会社製の電気亜鉛めっき鋼板「ジンコート(登録商標)」(以降、EGと称す)を原板として準備した。板厚は0.6mmのものを使用した。本実験で用いたZLのめっき付着量は片面20g/m、めっき層中のニッケル量は12%であった。また、GIのめっき付着量は片面60mg/mのもの、EGのめっき付着量は片面20g/mのものを用いた。
【0034】
次に、準備した原板を日本パーカライジング社製のアルカリ脱脂液「FC−4336」の2質量%濃度、50℃水溶液にてスプレー脱脂し、水洗後、乾燥した後に、日本パーカライジング社製のクロメート処理である「ZM−1300AN」をロールコーターにて塗布し、熱風オーブンにて乾燥させた。熱風オーブンでの乾燥条件は、鋼板の到達板温で60℃とした。クロメート処理の付着量は、Cr付着量で50g/m付着するように塗装した。
【0035】
次に、化成処理を施した金属板の片方の面に、作製した塗料を下層塗膜として、他方の面に日本ファインコーティングス社製の塗料である「FL100HQ」のグレー色を裏面塗料としてロールコーターにてそれぞれ塗装し、熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて金属板の到達板温が210℃となる条件で乾燥硬化した。そして、乾燥焼付後に、塗装された金属板へ水をスプレーにて拭きかけ、水冷した。
【0036】
次に、下層塗膜の上に、作製した塗料を上層塗膜としてロールコーターにてそれぞれ塗装し、熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて金属板の到達板温が210℃となる条件で乾燥硬化した。そして、乾燥焼付後に、塗装された金属板へ水をスプレーにて拭きかけ、水冷した。
【0037】
これら一連の塗装作業は、2コート用の連続塗装ラインにて行なった。また、必要に応じて、下層塗膜の下にプライマー塗膜を塗装した3層塗膜を有するプレコート金属板も作製した。3層塗膜のプレコート金属板を作製する時は、2コート用の連続塗装ラインにて金属板にクロメート処理を塗布した後に、プライマー塗膜と下層塗膜を塗装したプレコート金属板を作成し、その後に、これを再度2コート用の連続塗装ラインにて上層塗膜を塗装した。2回目に連続塗装ラインを通す時は、脱脂やクロメート処理は行なわずに、上層塗膜のみを塗装した。プライマー塗膜を塗装する際の塗装条件は、下層塗膜を塗装する際の条件と同じにした。
【0038】
作製したプレコート金属板の膜厚は、下層塗膜20μm、上層塗膜10μmとした。プライマー塗膜は5μmとした。塗膜の膜厚は、ロールコーターの場合にはロールの回転周速やロール間の押付け圧、塗料粘度を調整することで、コントロールした。なお、各膜厚はKET社製の電磁膜厚計「LE−200J」にて測定した。
【0039】
以下、実施例−1で作製したプレコート金属板の評価方法の詳細を記載する。
1. 塗膜のガラス転移温度(Tg)の測定
セイコー電子社製の熱機械分析装置「SSC5200シリーズ TMA/SS120C」にて塗膜のTgを測定した。なお、測定時のプローブは、針入プローブを用いた。
2. 鮮映性測定
携帯用鮮明度光沢度計「PGD」(東京光電社製)にてGd値を測定した。更に、測定したGd値が0.3以上のものを○、0.1以上0.3未満のものを△、0.1未満のものを×と評価した。
3. 色調測定
JIS.K.5400.7.4.2に準じて色の計測を行った。本実験では、全てのプレコート金属板サンプルを白色に着色しているため、白色度の指標であるL値に着目し、L値が90以上のものを○、80以上90未満のものを△、80未満のものを×と評価した。
4. 塗膜の加工性試験
作製したプレコート金属板を、180°折り曲げ加工(密着曲げ加工)し、加工部の塗膜を目視で観察し、塗膜の割れの有無を調べた。なお、180°折り曲げを行なう際には、プレコート金属板の表面が曲げの外側となるように折り曲げて、密着曲げを行った(一般に0T曲げとして知られている)。そして、加工部を10倍ルーペにて観察し、塗膜割れや剥離の全くない場合を○、塗膜に僅かな亀裂や剥離が認められる場合を△、塗膜に明確な大きな割れや剥離がある場合を×として評価した。
5. 塗膜の鉛筆硬度試験
JIS.K.5600.5.4に準じて鉛筆硬度試験を行い、鉛筆の圧痕(塑性変形欠陥)を評価したときに鉛筆硬度値を求め、鉛筆硬度がF以上の硬さの場合を○、B又はHBの硬さの場合を△、2B以下の硬さの場合を×と評価した。
【0040】
以下、実施例−1の評価結果について詳細を記載する。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に、本発明で作成したプレコート金属板の詳細とその評価結果を示す。
【0043】
本発明のプレコート金属板(本発明例−1〜15)は、優れた色調を有し、且つ、高い鮮映性を有する。下層塗膜中の白色顔料濃度が40質量%未満のもの(比較例−16)は高い白色度を得ることができず、60%超のもの(比較例−17)は加工性に劣る。上層塗膜の白色顔料濃度が5%未満のもの(比較例−18)は高い白色度を得ることができず、25%超のもの(比較例−19,20)は鮮映性に劣る。
【0044】
下層塗膜層の下にプライマー塗膜を塗装したもの(本発明例−14)は、連続塗装ラインを2回通して生産しなければならないため、作業効率が悪く、生産コストも高くなるため、本発明のプレコート金属板は2コートがより好適である。
【0045】
本発明のプレコート金属板の塗膜の主樹脂は、ポリエステルであるとより好適であり、ポリエステル以外の樹脂を用いたもの(本発明例−15)は、加工性が劣る傾向で有る。また、塗膜のガラス転移温度は10〜30℃が好適であり、10℃未満のもの(本発明例−9)は鉛筆高度が劣る傾向で有り、30℃超のもの(本発明例−8,11)は加工性が劣る傾向である。
【0046】
[実施例−2]
以下、実施例−2について詳細を記載する。
まず、実施例−2で作成したサンプルの詳細を記載する。
【0047】
実施例−1で作製した本発明例−2のプレコート金属板と同じ原板、同じ下層塗膜、同じ上層塗膜を用いて、下層塗膜及び上層塗膜の膜厚の異なるサンプルを作製した。プレコート金属板の作製方法は、実施例−1と同じとした。
【0048】
次に、実施例−2で作製したプレコート金属板の評価方法の詳細を記載する。
実施例−1と同じ評価を行なった。更に、以下の6.外観観察を追加して実施した。
6. 外観観察
作製したプレコート金属板の外観を目視及び10倍ルーペにて観察し、塗装欠陥の有無を観察した。そして、目視観察と10倍ルーペ観察のいずれでも塗装欠陥が認められない場合を○、目視では塗装欠陥は認められないが10倍ルーペで観察するとワキ状の塗装欠陥が観察される場合を△、目視観察でワキ状の塗装欠陥が認められる場合を×と評価した。
【0049】
以下、実施例−2の評価結果について詳細を下記表2に記載する。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示した結果から明らかなように、本発明のプレコート金属板の下層塗膜の膜厚は10〜25μmが好適である。10μmのもの(本発明例−21)は若干白色度が低下する傾向で、25μm超のもの(本発明例−24)はワキ欠陥が発生する傾向である。また、上層塗膜の膜厚は5〜25μmが好適である。5μm未満のもの(本発明例−25)は若干白色度が低下する傾向で、25μm超のもの(本発明例−28)はワキ欠陥が発生する傾向である。
【0052】
[実施例−3]
以下、実施例−3について詳細を記載する。
まず、実施例−3で作成したサンプルの詳細を記載する。
【0053】
実施例−2で作製した本発明例−21〜28のプレコート金属板の上に、更にクリヤー塗料をロールコーターにて塗装し、到達板温230℃の条件で焼付けたプレコート金属板を作製した。クリヤー塗料は、東洋紡績社製のポリエステル樹脂である「バイロン(登録商標)GK140」に、三井サイテック社製のメラミン樹脂である「サイメル(登録商標)303」と三井サイテック社製の触媒である「キャタリスト600」を添加したものを用いた。架橋剤の添加量は、固形分比率でポリエステル樹脂70質量部に対してメラミン樹脂を30質量部とし、触媒の添加量は、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂の合計樹脂固形分に対して0.5質量%とした。
【0054】
次に、実施例−3で作製したプレコート金属板の評価方法の詳細を記載する。
実施例−2と同じ評価を行った。
【0055】
【表3】

【0056】
本発明のプレコート金属板の上層塗膜の上に更にクリヤー塗膜を塗装したもの(本発明例−29〜36)は、鮮映性が向上するためより好適である。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板上に2層以上の塗膜層を被覆し、且つ、塗装後の白色度がハンターLab表色系のL値で80以上有する白色系プレコート金属板であって、
最表層の塗膜を上層塗膜、前記上層塗膜の下部に隣接する塗膜層を下層塗膜としたとき、前記下層塗膜中の白色顔料濃度が40〜60質量%、前記上層塗膜中の白色顔料濃度が5〜25質量%であることを特徴とする、プレコート金属板。
【請求項2】
前記白色顔料が、酸化チタンであることを特徴とする、請求項1記載のプレコート金属板。
【請求項3】
前記下層塗膜及び前記上層塗膜を形成する樹脂が、ポリエステル樹脂を主樹脂とし、且つ、メラミン樹脂またはイソシアネートで架橋したものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプレコート金属板。
【請求項4】
前記下層塗膜及び前記上層塗膜のガラス転移温度が、10〜30℃であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のプレコート金属板。
【請求項5】
前記下層塗膜の膜厚が10〜25μmであり、前記上層塗膜の膜厚が5〜25μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のプレコート金属板。
【請求項6】
前記プレコート金属板の塗膜が2層であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のプレコート金属板。
【請求項7】
前記プレコート金属板の上層塗膜の上に更にクリヤー塗膜を被覆したことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のプレコート金属板。



【公開番号】特開2008−265209(P2008−265209A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113535(P2007−113535)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】