プレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置
【課題】 プレス加工機を動作させた状態でリアルタイムにプレス加工品の不良判定を確実かつ正確に行う事の可能なプレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置を提供すること。
【解決手段】 少なくとも一対の金型を材料に圧接することによりこの材料の延性プレス加工を行う場合に、変形時に生じる音響信号を受信する。音響信号の測定時間と材料の加工量との関係により得られる変位式と測定した音響信号との差分を算出し、その差分をもって加工品の不良判定を行う。
【解決手段】 少なくとも一対の金型を材料に圧接することによりこの材料の延性プレス加工を行う場合に、変形時に生じる音響信号を受信する。音響信号の測定時間と材料の加工量との関係により得られる変位式と測定した音響信号との差分を算出し、その差分をもって加工品の不良判定を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一対の金型を材料に圧接することによりこの材料の延性プレス加工を行う場合において、プレス加工品の不良判定を行うプレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、AE信号により被測定物の異常の有無を診断する方法として特許文献1に記載の如き方法が知られている。本発明は、被測定物から検出されるAE信号に基づいて得られるAEデータをそのAEデータのピークデータに基づいて単純化し、加工変形されたデータにより被測定物の異常の有無を診断している。
【0003】
しかし、本願発明の如き延性プレスにおいては、図3(b)に示す如く不良品加工時において、接当後から下死点間において音響信号に割れ等に起因する信号が発生する。しかし、図3(a)(b)に示すように、正常不良の有無に関係なく加工時において材料から巨大な音響信号が発生するため、AE信号からピークデータに基づいて被測定物の異常の有無を正確に診断することは困難であった。
【特許文献1】特開2002−107347号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、プレス加工機を動作させた状態でリアルタイムにプレス加工品の不良判定を確実かつ正確に行う事の可能なプレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係るプレス加工品の不良判定方法の第一の特徴は、少なくとも一対の金型を材料に圧接することによりこの材料の延性プレス加工において、変形時に生じる音響信号を受信し、音響信号の測定時間と材料の加工量との関係により得られる変位式と測定した前記音響信号との差分を算出し、その差分をもって加工品の不良判定を行うことことにある。
【0006】
かかる判定のより具体的な方法としては、前記音響信号の振幅値、分布幅値又は面積値により又は、これらの全て又はいずれかの組み合わせにより不良判定を行う方法がある。
【0007】
ここで、いわゆるクランクプレス加工機において、クランク角度αとストローク量Sとの関係は、図2(a)に示す次式で表される。ここで、SMaxは最大ストローク量をいう。
S=SMax×(1−cos(α))
【0008】
また、クランク角度と変位量との関係において、変位量dは次式で表され、図2(b)に示すように三角関数的に表現される。
d=S×(α−1)−Sα
上記の関係において、図2(c)に示すように、図2(b)を一定のクランク角度間において拡大すると、上記式はほぼ直線として表される。そして、クランク角度は、時間に換算することができ、上記式は単位時間あたりの変位量を表す変位式として捉えることができる。
【0009】
図3は、フィルタリング及び検波後の音響信号の波形と図2(c)に表される単位時間あたりの変位量を示す変位式との関係を示すグラフである。同図に示すように、金型が材料に接当した後から下死点の間において上記変位式と音響信号とは変位量が小さくなるに従い音響信号の振幅も小さくなる相関関係が生じていることが明らかとなった。同図に如く、変位式との差分によって、定常的に発生する音響信号を影響を排除しつつ、不良時に発生する音響信号を識別し、プレス加工品の不良を判定することが可能であることが判明した。
【0010】
また、音響信号の振幅値の変位式との差分のみならず、音響信号の分布幅や面積も増大することが理解され、音響信号の分布幅や面積の変位式との差分によってもプレス加工品の不良を判定可能であるという結論を得た。
【0011】
また、上記目的を達成するため、本発明に係るプレス加工品の不良判定方法の第二の特徴は、少なくとも一対の金型を材料に圧接することによりこの材料の延性プレス加工を行う場合におけるプレス加工品の不良判定方法であって、変形時に生じる音響信号を受信し、測定した前記音響信号の波形を多項式近似して前記音響信号の波形の補正式を算出し、前記補正式に基づき測定した前記音響信号を補正して補正波形を作成し、その補正波形をもってプレス加工品の不良判定を行うことにある。
【0012】
同特徴において、図4に示すように、多項式近似して得られる前記音響信号の波形の補正式は、上述の変位式と音響信号との関係と同様の関係を生じることが判明した。そして、その補正式により測定した音響信号の波形を補正して得られる補正波形をもって、プレス加工品の不良を判定することが可能であることが判明した。また、上述と同様に、音響信号の振幅や分布幅、面積によってもプレス加工品の不良を判定可能である。
【0013】
一方、本発明に係るプレス加工品の不良判定装置の第一の特徴は、前記音響信号を受信するためのセンサと、前記金型同士の近接状態を検出する近接検出手段と、この近接検出手段に連動して前記センサによる受信信号のうち前記材料の変形時に生じる音響信号を検出するゲートタイマと、音響信号の測定時間と材料の加工量との関係により得られる変位式を記憶する変位式メモリ手段と、音響信号と前記変位式との差分量を算出する差分算出手段と、比較用の基準値を記憶するメモリ手段と、前記差分量と前記基準値とを比較する比較手段と、この比較手段により前記差分量が前記基準値を越える場合にプレス加工品が不良品である旨を知らせる警報手段とを備えていることにある。
【0014】
また、上記目的を達成するため、本発明に係るプレス加工品の不良判定装置の第二の特徴は、前記音響信号を受信するためのセンサと、前記金型同士の近接状態を検出する近接検出手段と、この近接検出手段に連動して前記センサによる受信信号のうち前記材料の変形時に生じる音響信号を検出するゲートタイマと、音響信号の波形を多項式近似して前記音響信号の波形の補正式を算出する補正式算出手段と、前記補正式に基づき測定した前記音響信号を補正し補正波形を作成する補正波形作成手段と、比較用の基準値を記憶するメモリ手段と、前記補正波形から抽出された特徴量と前記基準値とを比較する比較手段と、この比較手段により前記特徴量が前記基準値を越える場合にプレス加工品が不良品である旨を知らせる警報手段とを備えていることにある。
【0015】
ここに、「近接検出手段」は例えばクランク角度を検出することができるプレス制御部により構成することができる。また、「特徴量」とは、音響信号の振幅、分布幅又は面積等をいい、「基準値」とは定数の他、上述の如く得られた基準差分や基準補正波形をも含む意である。
【0016】
また、上記いずれかに記載のプレス加工品の不良判定方法に基づいてプレス加工金型の不良判定も行うことが可能である。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明に係るプレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置の特徴によれば、少なくとも材料の変形時に生じる音響信号をもって不良判定を行うのでプレス加工品の不良品をリアルタイムに判定することができ、しかも加工が複雑なものであっても目視では発見し難いその一部の不良についても確実に捕捉して不良判定することが可能となった。
【0018】
また、金型が材料に複数回分かれて接当する等、特に材料の変形時が比較的広い時間幅を有する場合にも、その劣化をより正確に評価することが可能となった。
【0019】
さらに、近接手段及びこれに連動するゲートタイマを用いた場合には、材料の変形時に生じる音響信号に可能な限り限定して音響信号をサンプリングでき外乱の要素を排除することが可能となった。
【0020】
また、上記本発明に係るプレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置に基づいて、プレス加工品の不良判定を行うと共に、金型の不良判定も行うことが可能となった。
【0021】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、図1、3、5〜7を参照しながら、本発明の第一の実施形態を説明する。
図1は、本発明にかかる判定方法の実施対象となる延性加工用プレス加工機の概略断面図である。図1に示すプレス加工機1は、クランク機構4により材料Sのプレス加工を行う装置である。クランク機構4は、プレス制御部により制御されるモータの回転をクランクシャフト6に伝え、コネクションロッド7を介してスライド2を上下運動させる。スライド2には、パンチ2aが取り付けられ、このパンチ2aと一対となるダイ3aがボルスタ3に取り付けられている。
【0023】
プレス制御部は、モーターの回転によりクランク角度αを監視し、パンチ2a及びダイ3aに材料Sが挟まれて変形する変形時の音響信号を検出する後述するゲートタイマのトリガーとなる。すなわち、パンチ2a及びダイ3aの近接状態を検出する近接検出手段としても機能する。なお、近接検出手段は、一対の金型2,3に近接センサ及び対応する近接片を取り付けることにより構成してもよい。この場合、材料Sと金型2,3との間の異物の噛み込みを検出することも同時に可能であるが、ゲートタイマをより精度よく作動させるためには、上記クランク角度をトリガーとすることが望ましい。
【0024】
また、ダイ3aの側部には、上記材料Sの変形時に生じる音響信号を受信するためのAEセンサ11を取り付けてある。このAEセンサ11は、ダイ3aのみならずボルスタ3やスライド2の側等、他の部分に取り付けることも可能であるが、本実施形態では不良品の劣化を評価し易くするためにダイ3aの側にこのAEセンサ11を取り付けてある。
次に、図1(a)〜(c)と図5(a)(b)を比較しつつ、プレス加工の工程とAEセンサ11により受信される音響信号との関係について説明する。
【0025】
図5(a)の内第一の信号群Q1は、図1(a)の如く上死点からスライダが降下後、材料Sにパンチ2aが接当する際に発生する信号である。接当後、図5(a)に示すように、第二の信号群Pは、材料Sの脆性領域内でなだらかに増大し、その後延性領域内で時間経過と共に下死点をピークに徐々に減少する。この信号群Pは、図1(b)に示す如く材料Sにパンチ2aが接当後スライド2が下死点に達するまでに生じる音響信号、すなわち、材料Sの変形にともなう音響信号である。また、第三の信号群Q2は下死点通過後すなわち加工後に材料Sからパンチ2aが離れるときの音響信号である。
【0026】
プレス制御部により検出されるクランク角度αが一定角度に達することをトリガーとして時間T0よりゲートタイマを作動させ、Q2を含まない音響信号を検出時間T0〜T2間で音響信号の検出を行う。本実施形態において、時間T0はクランク角度120°に対応し、時間T2はクランク角度180°である下死点に対応するが、これらの数値に限定されることはなく、加工条件等により適宜変更してもよい。
図5(c)(d)は、不良品の場合に受信される音響信号を示すグラフである。同図に示す通り、第二群の信号群Pの振幅に突出する部分が生じる。この突出する部分の内、下死点近傍の大きな突出は、図5(a)(b)に示す如く、正常品の加工時においても定常的に発生している。他方、それより前に表れる突出する部分は、図5(a)(b)においては存在せず、プレス加工の割れ等の不良時にのみ生じる音響信号であることが発明者らの実験により確認された。
【0027】
本実施形態において、図5に示すように、上記の音響信号の内、第二群の音響信号Pを測定対象とし、さらに、材料の延性領域内の音響信号Pを複数の区画G1〜3に区切り、その各区画G1〜3内の音響信号Pと変位式Vとの差分面積A1〜3により不良品の判定を行う。区画G1〜3は、検出時間T0を基準に任意の時間を設定することにより形成される。変位式Vとの差分とすることで、正常時と不良時の音響信号を差を明確にすることができ、確実に加工不良を捉えることができる。
【0028】
図6は、本実施形態に使用する不良判定装置のブロック図である。AEセンサ11により受信された音響信号は、フィルタ部20を介してフィルタリング及び検波された後パーソナルコンピュータ30に処理される。警報手段60は、音響信号の波形及び加工品の評価結果を表示するディスプレイ61と、不良品が発生した場合に警報音を発生する警報装置62とを備えている。フィルタ部20は、AEセンサ11により受信された音響信号を増幅するための感度調整機能付き信号変換器21及びノイズ除去用のハイパスフィルタ22,ローパスフィルタ23と正の信号を取り出すための検波回路24とを備えている。感度調整アンプ18は、プレス制御部が発するクランク角度信号が一定角度以上となった場合に、ゲートタイマ37に対してトリガー用の信号を送出する。
【0029】
図6及び図7を参照しつつ、パーソナルコンピュータ30における処理手順を説明する。クランク角度αが所定角度以上となると信号変換器13がトリガー用信号を送出し(ステップS1)、これにともなってゲートタイマ37が作動する(ステップS2)。フィルタ部20からの音響信号は、A/Dコンバータ31によりデジタル信号に変換され差分算出手段40を介して比較手段35に送られる。
【0030】
差分算出手段40は、変位式メモリ手段41に格納されている変位式Vと音響信号Pとの差分を算出する。変位式Vは、あらかじめパラメータ入力部35を介して加工条件や加工時間等を入力し作成される。また、差分算出手段40は、積分手段42を有し、この積分手段42により変位式Vと音響信号Pとの差分面積A1〜3を算出する。
【0031】
積分手段42を介しての比較手段32における処理は、区画時間t0〜t3内における各区画G1〜3にて、音響信号Pと変位式Vとの差分面積A1〜3を求める(ステップS3〜5)。そして、差分面積A1〜3がメモリ手段33に記憶されている各区画G1〜3での基準値より大きいか否かが判断される。
本実施形態では、区画時間t0〜t3間において、音響信号Pの差分の特徴量である差分面積A1〜3のうち少なくとも一つが所定の基準値を超える場合に、不良品である旨の警報が警報手段40より発せられる(ステップS7)。警報等が発生されない場合には、ディスプレイ41を介して加工品が正常である旨が表示される(ステップS6)。
【0032】
なお、ステップS7における不良品の発生の警報を上記差分面積A1〜3の内、少なくとも二つ以上が基準値を超える場合にのみ警報を発生するように構成することも可能である。
【0033】
本実施形態において、差分面積Aにより不良判定を行ったが、差分値は面積値に限られるものではなく、振幅値や分布幅値においても同様に不良判定は可能である。さらに、例えば、図12に示す如く、差分算出手段40に積分手段42の他、振幅値や分布幅の差分を算出する経路43や分布幅算出手段44を設け、図13に示すように、各区画内でこれらの各差分値を算出し(ステップS33〜41)、各基準値と比較し警報等を行う(ステップS42,43)処理手順により不良判定を行うことも可能である。但し、一般に割れによる不良時の音響信号は持続時間が長いため、エネルギーが大きく面積値も大きくなるが、金型の構造に起因する音響信号の異常は、振幅値は大きいもののエネルギーが小さい。そのため、主に面積値により不良判定を行うことが精度の面から望ましい。
【0034】
さらに、これらの差分値は適宜組み合わせて不良判定を行うことが可能であり、かつ、1又は複数以上が各基準値を超えた場合に警告を発するように構成することも可能である。なお、基準値は、当該プレス加工方法により得られる加工品の仕上がり精度により適宜定められる値を意味する。
【0035】
次に、図8〜図11を参照しながら本発明の第二の実施形態について説明する。
本実施形態では、受信される音響信号の内区画時間内の音響信号の波形に基づき補正式を算出し、その補正式により作成される音響信号の補正波形により不良品の判定を行う。本実施形態に用いられる判定装置1の内、AEセンサ11,フィルタ部20,警報手段40,近接センサ15等は、上述の第一形態におけるものとほぼ同様であるが、パーソナルコンピュータ30の構成が一部異なっている。
【0036】
図8及び図9を参照しつつ、パーソナルコンピュータ30における処理手順を説明する。クランク角度αが所定角度以上となると信号変換器13がトリガー用信号を送出し(ステップS11)、これにともなってゲートタイマ37が作動する(ステップS12)。フィルタ部20からの音響信号は、A/Dコンバータ31によりデジタル信号に変換される。デジタル信号に変換された音響信号は、あらかじめパラメータ入力部35を介して設定された区画時間t0〜t3内において、補正式算出手段51により音響信号を多項式近似して補正式Wを算出し(ステップS13)、補正波形作成手段52に送る。
【0037】
補正波形作成手段52において、図10,11(c)(d)に示すように、受信された音響信号を算出された補正式Wに基づいてその音響信号の補正波形Rを生成する(ステップS14)。そして、生成した補正波形Rは積分手段53を介して比較手段32に送られる。補正式Wに基づいて生成される補正波形Rにより不良判定を行うことで、正常時と不良時の音響信号を差を明確にすることができ、確実に加工不良を捉えることができる。
【0038】
積分手段53を介しての比較手段32における処理は、区画時間t0〜t3内における各区画G1〜3での補正波形の補正波形面積B1〜3の面積を求め(ステップS15〜17)、そして、補正波形面積B1〜3がメモリ手段33に記憶されている各区画G1〜3での基準値より大きいか否かが判断される。
本実施形態では、区画時間t0〜t3間において、補正波形の特徴量である面積値のうち少なくとも一つが所定の基準値を超える場合に、不良品である旨の警報が警報手段40より発せられる(ステップS19)。警報等が発生されない場合には、ディスプレイ41を介して加工品が正常である旨が表示される(ステップS18)。
【0039】
なお、ステップS8におけるパンチ交換の警報を上記波形面積の内、少なくとも二つ以上が基準値を超える場合にのみ警報を発生するように構成することも可能である。
【0040】
本実施形態において、波形面積Bにより不良判定を行ったが、面積値に限られるものではなく、振幅値や分布幅においても同様に不良判定は可能である。さらに、例えば、図14に示す如く、積分手段53の他、振幅値や分布幅の差分を算出する経路54や分布幅算出手段55を設け、図15に示すように、各区画内でこれらの各値を算出し(ステップS54〜62)、各基準値と比較し警報等を行う(ステップS63,64)処理手順により不良判定を行うことも可能である。但し、一般に割れによる不良時の音響信号は持続時間が長いため、エネルギーが大きく面積値も大きくなるため、主に面積値により不良判定を行うことが精度の面から望ましい。
【0041】
さらに、これらの値は適宜組み合わせて不良判定を行うことが可能であり、かつ、1又は複数以上が各基準値を超えた場合に警告を発するように構成することも可能である。なお、基準値は、当該プレス加工方法により得られる加工品の仕上がり精度により適宜定められる値を意味する。
【0042】
さらに、本発明の他の実施形態の可能性について列挙する。
上記各実施形態では材料Sに鋼板を用いたが、鋼板以外の金属板の他樹脂材料等のプレス加工にも本発明は適応の可能性がある。
【0043】
上記各実施形態では、不良判定を複数の区画G1〜3において判定を行ったが、区画に区切らずに任意の範囲内において、判定することも可能である。ただし、判定の精度の面から言えば、複数の区画に区切り判定する方が望ましい。
【0044】
上記各実施形態では、プレス加工品の不良判定方法及び判定装置として説明した。しかし、不良時に発生する音響信号には、金型の不良に起因する音響信号も含まれているので、プレス加工品の不良判定を行うと同時に金型の不良判定をも行うことができる。すなわち、プレス加工品の不良判定方法及び判定装置は、プレス加工金型の不良判定方法及び判定装置としても実施することができる。
【0045】
上記各実施形態では、クランク機構によるプレス加工機を例に説明した。しかし、クランク機構によるプレス加工に限られるものではなく、例えば、カムプレス、ナックルプレス、リンクプレス等の回転運動を直線運動に変換する機構によるプレス加工であればプレス加工品の不良判定を行うことが可能である。
【0046】
なお、特許請求の範囲の項に記した符号は、あくまでも図面との対照を便利にするためのものにすぎず、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、曲げ加工や深絞り加工等の材料の塑性変形を伴うあらゆるプレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置として利用することができる。さらに、プレス加工金型の不良判定方法及び不良判定装置としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】プレス加工機による加工の工程を示し(a)は上金型が材料に接当した状態、(b)はクランクの上死点と下死点の間、(c)はクランクの下死点での状態をそれぞれ示す概略断面図である。
【図2】(a)はクランク角度とストロークの関係を示すグラフ、(b)はクランク角度と変位量の関係を示すグラフ、(c)は(b)の一定区間にて拡大したグラフである。
【図3】図1のプレス加工機における検波後の音響信号を示すグラフであり、(a)は正常加工の場合、(b)は不良加工となる場合をそれぞれ示す。
【図4】図1のプレス加工機における検波後の音響信号と音響信号の補正式及び補正波形との関係を示すグラフである。
【図5】図1のプレス加工機における検波後の音響信号と図3(c)の変位式の関係を示すグラフであり、(a)は正常品のプレス加工時、(b)は(a)の部分拡大、(c)は不良品のプレス加工時、(d)は(c)の部分拡大をそれぞれ示す。
【図6】本発明にかかる不良判定装置の第一の実施形態を示すブロック図である。
【図7】本発明にかかる不良判定装置の第一の実施形態における動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態を示すブロック図である。
【図9】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態における動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態における検波後の音響信号と補正波形の関係を示すグラフであり、(a)は正常品のプレス加工時の補正前の音響信号、(b)は(a)の部分拡大、(c)は正常品のプレス加工時の補正波形、(d)は(c)の部分拡大をそれぞれ示す。
【図11】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態における検波後の不良時の音響信号と補正波形の関係を示す図10に相当するグラフである。
【図12】本発明にかかる不良判定装置の第一の実施形態の別の実施形態を示すブロック図である。
【図13】本発明にかかる不良判定装置の第一の実施形態の別の実施形態における動作を示すフローチャートである。
【図14】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態の別の実施形態を示すブロック図である。
【図15】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態の別の実施形態における動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
1:プレス加工機、2:スライド(上金型)、2a:パンチ、3:ボルスタ(下金型)3a:ダイ、4:クランク機構、5:フライホイール、6:クランクシャフト、7:コネクションロッド、10:、11:AEセンサ、12:プレス制御部(近接検出手段)、13:信号変換器、20:フィルタ部、21:感度調整機能付き信号変換器、22:ハイパスフィルタ、23:ローパスフィルタ、24:検波回路、30:パーソナルコンピュータ、31:A/Dコンバータ、32:比較手段、33:メモリ手段、34:ゲートタイマ、35:パラメータ入力部、40:差分算出手段、41:変位式メモリ手段、42:積分手段、43:経路、44:分布幅算出手段、50:、51:補正式算出手段、52:補正波形作成手段、53:積分手段、54:経路、55:分布幅算出手段、60:警報手段、61:ディスプレイ、62:警報機、S:材料、P:測定対象波形(音響信号)、R:補正波形、V:変位式、W:補正式、α:クランク角度、G1〜3:ゲート、A:差分面積、B:補正波形面積
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一対の金型を材料に圧接することによりこの材料の延性プレス加工を行う場合において、プレス加工品の不良判定を行うプレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、AE信号により被測定物の異常の有無を診断する方法として特許文献1に記載の如き方法が知られている。本発明は、被測定物から検出されるAE信号に基づいて得られるAEデータをそのAEデータのピークデータに基づいて単純化し、加工変形されたデータにより被測定物の異常の有無を診断している。
【0003】
しかし、本願発明の如き延性プレスにおいては、図3(b)に示す如く不良品加工時において、接当後から下死点間において音響信号に割れ等に起因する信号が発生する。しかし、図3(a)(b)に示すように、正常不良の有無に関係なく加工時において材料から巨大な音響信号が発生するため、AE信号からピークデータに基づいて被測定物の異常の有無を正確に診断することは困難であった。
【特許文献1】特開2002−107347号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、プレス加工機を動作させた状態でリアルタイムにプレス加工品の不良判定を確実かつ正確に行う事の可能なプレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係るプレス加工品の不良判定方法の第一の特徴は、少なくとも一対の金型を材料に圧接することによりこの材料の延性プレス加工において、変形時に生じる音響信号を受信し、音響信号の測定時間と材料の加工量との関係により得られる変位式と測定した前記音響信号との差分を算出し、その差分をもって加工品の不良判定を行うことことにある。
【0006】
かかる判定のより具体的な方法としては、前記音響信号の振幅値、分布幅値又は面積値により又は、これらの全て又はいずれかの組み合わせにより不良判定を行う方法がある。
【0007】
ここで、いわゆるクランクプレス加工機において、クランク角度αとストローク量Sとの関係は、図2(a)に示す次式で表される。ここで、SMaxは最大ストローク量をいう。
S=SMax×(1−cos(α))
【0008】
また、クランク角度と変位量との関係において、変位量dは次式で表され、図2(b)に示すように三角関数的に表現される。
d=S×(α−1)−Sα
上記の関係において、図2(c)に示すように、図2(b)を一定のクランク角度間において拡大すると、上記式はほぼ直線として表される。そして、クランク角度は、時間に換算することができ、上記式は単位時間あたりの変位量を表す変位式として捉えることができる。
【0009】
図3は、フィルタリング及び検波後の音響信号の波形と図2(c)に表される単位時間あたりの変位量を示す変位式との関係を示すグラフである。同図に示すように、金型が材料に接当した後から下死点の間において上記変位式と音響信号とは変位量が小さくなるに従い音響信号の振幅も小さくなる相関関係が生じていることが明らかとなった。同図に如く、変位式との差分によって、定常的に発生する音響信号を影響を排除しつつ、不良時に発生する音響信号を識別し、プレス加工品の不良を判定することが可能であることが判明した。
【0010】
また、音響信号の振幅値の変位式との差分のみならず、音響信号の分布幅や面積も増大することが理解され、音響信号の分布幅や面積の変位式との差分によってもプレス加工品の不良を判定可能であるという結論を得た。
【0011】
また、上記目的を達成するため、本発明に係るプレス加工品の不良判定方法の第二の特徴は、少なくとも一対の金型を材料に圧接することによりこの材料の延性プレス加工を行う場合におけるプレス加工品の不良判定方法であって、変形時に生じる音響信号を受信し、測定した前記音響信号の波形を多項式近似して前記音響信号の波形の補正式を算出し、前記補正式に基づき測定した前記音響信号を補正して補正波形を作成し、その補正波形をもってプレス加工品の不良判定を行うことにある。
【0012】
同特徴において、図4に示すように、多項式近似して得られる前記音響信号の波形の補正式は、上述の変位式と音響信号との関係と同様の関係を生じることが判明した。そして、その補正式により測定した音響信号の波形を補正して得られる補正波形をもって、プレス加工品の不良を判定することが可能であることが判明した。また、上述と同様に、音響信号の振幅や分布幅、面積によってもプレス加工品の不良を判定可能である。
【0013】
一方、本発明に係るプレス加工品の不良判定装置の第一の特徴は、前記音響信号を受信するためのセンサと、前記金型同士の近接状態を検出する近接検出手段と、この近接検出手段に連動して前記センサによる受信信号のうち前記材料の変形時に生じる音響信号を検出するゲートタイマと、音響信号の測定時間と材料の加工量との関係により得られる変位式を記憶する変位式メモリ手段と、音響信号と前記変位式との差分量を算出する差分算出手段と、比較用の基準値を記憶するメモリ手段と、前記差分量と前記基準値とを比較する比較手段と、この比較手段により前記差分量が前記基準値を越える場合にプレス加工品が不良品である旨を知らせる警報手段とを備えていることにある。
【0014】
また、上記目的を達成するため、本発明に係るプレス加工品の不良判定装置の第二の特徴は、前記音響信号を受信するためのセンサと、前記金型同士の近接状態を検出する近接検出手段と、この近接検出手段に連動して前記センサによる受信信号のうち前記材料の変形時に生じる音響信号を検出するゲートタイマと、音響信号の波形を多項式近似して前記音響信号の波形の補正式を算出する補正式算出手段と、前記補正式に基づき測定した前記音響信号を補正し補正波形を作成する補正波形作成手段と、比較用の基準値を記憶するメモリ手段と、前記補正波形から抽出された特徴量と前記基準値とを比較する比較手段と、この比較手段により前記特徴量が前記基準値を越える場合にプレス加工品が不良品である旨を知らせる警報手段とを備えていることにある。
【0015】
ここに、「近接検出手段」は例えばクランク角度を検出することができるプレス制御部により構成することができる。また、「特徴量」とは、音響信号の振幅、分布幅又は面積等をいい、「基準値」とは定数の他、上述の如く得られた基準差分や基準補正波形をも含む意である。
【0016】
また、上記いずれかに記載のプレス加工品の不良判定方法に基づいてプレス加工金型の不良判定も行うことが可能である。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明に係るプレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置の特徴によれば、少なくとも材料の変形時に生じる音響信号をもって不良判定を行うのでプレス加工品の不良品をリアルタイムに判定することができ、しかも加工が複雑なものであっても目視では発見し難いその一部の不良についても確実に捕捉して不良判定することが可能となった。
【0018】
また、金型が材料に複数回分かれて接当する等、特に材料の変形時が比較的広い時間幅を有する場合にも、その劣化をより正確に評価することが可能となった。
【0019】
さらに、近接手段及びこれに連動するゲートタイマを用いた場合には、材料の変形時に生じる音響信号に可能な限り限定して音響信号をサンプリングでき外乱の要素を排除することが可能となった。
【0020】
また、上記本発明に係るプレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置に基づいて、プレス加工品の不良判定を行うと共に、金型の不良判定も行うことが可能となった。
【0021】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、図1、3、5〜7を参照しながら、本発明の第一の実施形態を説明する。
図1は、本発明にかかる判定方法の実施対象となる延性加工用プレス加工機の概略断面図である。図1に示すプレス加工機1は、クランク機構4により材料Sのプレス加工を行う装置である。クランク機構4は、プレス制御部により制御されるモータの回転をクランクシャフト6に伝え、コネクションロッド7を介してスライド2を上下運動させる。スライド2には、パンチ2aが取り付けられ、このパンチ2aと一対となるダイ3aがボルスタ3に取り付けられている。
【0023】
プレス制御部は、モーターの回転によりクランク角度αを監視し、パンチ2a及びダイ3aに材料Sが挟まれて変形する変形時の音響信号を検出する後述するゲートタイマのトリガーとなる。すなわち、パンチ2a及びダイ3aの近接状態を検出する近接検出手段としても機能する。なお、近接検出手段は、一対の金型2,3に近接センサ及び対応する近接片を取り付けることにより構成してもよい。この場合、材料Sと金型2,3との間の異物の噛み込みを検出することも同時に可能であるが、ゲートタイマをより精度よく作動させるためには、上記クランク角度をトリガーとすることが望ましい。
【0024】
また、ダイ3aの側部には、上記材料Sの変形時に生じる音響信号を受信するためのAEセンサ11を取り付けてある。このAEセンサ11は、ダイ3aのみならずボルスタ3やスライド2の側等、他の部分に取り付けることも可能であるが、本実施形態では不良品の劣化を評価し易くするためにダイ3aの側にこのAEセンサ11を取り付けてある。
次に、図1(a)〜(c)と図5(a)(b)を比較しつつ、プレス加工の工程とAEセンサ11により受信される音響信号との関係について説明する。
【0025】
図5(a)の内第一の信号群Q1は、図1(a)の如く上死点からスライダが降下後、材料Sにパンチ2aが接当する際に発生する信号である。接当後、図5(a)に示すように、第二の信号群Pは、材料Sの脆性領域内でなだらかに増大し、その後延性領域内で時間経過と共に下死点をピークに徐々に減少する。この信号群Pは、図1(b)に示す如く材料Sにパンチ2aが接当後スライド2が下死点に達するまでに生じる音響信号、すなわち、材料Sの変形にともなう音響信号である。また、第三の信号群Q2は下死点通過後すなわち加工後に材料Sからパンチ2aが離れるときの音響信号である。
【0026】
プレス制御部により検出されるクランク角度αが一定角度に達することをトリガーとして時間T0よりゲートタイマを作動させ、Q2を含まない音響信号を検出時間T0〜T2間で音響信号の検出を行う。本実施形態において、時間T0はクランク角度120°に対応し、時間T2はクランク角度180°である下死点に対応するが、これらの数値に限定されることはなく、加工条件等により適宜変更してもよい。
図5(c)(d)は、不良品の場合に受信される音響信号を示すグラフである。同図に示す通り、第二群の信号群Pの振幅に突出する部分が生じる。この突出する部分の内、下死点近傍の大きな突出は、図5(a)(b)に示す如く、正常品の加工時においても定常的に発生している。他方、それより前に表れる突出する部分は、図5(a)(b)においては存在せず、プレス加工の割れ等の不良時にのみ生じる音響信号であることが発明者らの実験により確認された。
【0027】
本実施形態において、図5に示すように、上記の音響信号の内、第二群の音響信号Pを測定対象とし、さらに、材料の延性領域内の音響信号Pを複数の区画G1〜3に区切り、その各区画G1〜3内の音響信号Pと変位式Vとの差分面積A1〜3により不良品の判定を行う。区画G1〜3は、検出時間T0を基準に任意の時間を設定することにより形成される。変位式Vとの差分とすることで、正常時と不良時の音響信号を差を明確にすることができ、確実に加工不良を捉えることができる。
【0028】
図6は、本実施形態に使用する不良判定装置のブロック図である。AEセンサ11により受信された音響信号は、フィルタ部20を介してフィルタリング及び検波された後パーソナルコンピュータ30に処理される。警報手段60は、音響信号の波形及び加工品の評価結果を表示するディスプレイ61と、不良品が発生した場合に警報音を発生する警報装置62とを備えている。フィルタ部20は、AEセンサ11により受信された音響信号を増幅するための感度調整機能付き信号変換器21及びノイズ除去用のハイパスフィルタ22,ローパスフィルタ23と正の信号を取り出すための検波回路24とを備えている。感度調整アンプ18は、プレス制御部が発するクランク角度信号が一定角度以上となった場合に、ゲートタイマ37に対してトリガー用の信号を送出する。
【0029】
図6及び図7を参照しつつ、パーソナルコンピュータ30における処理手順を説明する。クランク角度αが所定角度以上となると信号変換器13がトリガー用信号を送出し(ステップS1)、これにともなってゲートタイマ37が作動する(ステップS2)。フィルタ部20からの音響信号は、A/Dコンバータ31によりデジタル信号に変換され差分算出手段40を介して比較手段35に送られる。
【0030】
差分算出手段40は、変位式メモリ手段41に格納されている変位式Vと音響信号Pとの差分を算出する。変位式Vは、あらかじめパラメータ入力部35を介して加工条件や加工時間等を入力し作成される。また、差分算出手段40は、積分手段42を有し、この積分手段42により変位式Vと音響信号Pとの差分面積A1〜3を算出する。
【0031】
積分手段42を介しての比較手段32における処理は、区画時間t0〜t3内における各区画G1〜3にて、音響信号Pと変位式Vとの差分面積A1〜3を求める(ステップS3〜5)。そして、差分面積A1〜3がメモリ手段33に記憶されている各区画G1〜3での基準値より大きいか否かが判断される。
本実施形態では、区画時間t0〜t3間において、音響信号Pの差分の特徴量である差分面積A1〜3のうち少なくとも一つが所定の基準値を超える場合に、不良品である旨の警報が警報手段40より発せられる(ステップS7)。警報等が発生されない場合には、ディスプレイ41を介して加工品が正常である旨が表示される(ステップS6)。
【0032】
なお、ステップS7における不良品の発生の警報を上記差分面積A1〜3の内、少なくとも二つ以上が基準値を超える場合にのみ警報を発生するように構成することも可能である。
【0033】
本実施形態において、差分面積Aにより不良判定を行ったが、差分値は面積値に限られるものではなく、振幅値や分布幅値においても同様に不良判定は可能である。さらに、例えば、図12に示す如く、差分算出手段40に積分手段42の他、振幅値や分布幅の差分を算出する経路43や分布幅算出手段44を設け、図13に示すように、各区画内でこれらの各差分値を算出し(ステップS33〜41)、各基準値と比較し警報等を行う(ステップS42,43)処理手順により不良判定を行うことも可能である。但し、一般に割れによる不良時の音響信号は持続時間が長いため、エネルギーが大きく面積値も大きくなるが、金型の構造に起因する音響信号の異常は、振幅値は大きいもののエネルギーが小さい。そのため、主に面積値により不良判定を行うことが精度の面から望ましい。
【0034】
さらに、これらの差分値は適宜組み合わせて不良判定を行うことが可能であり、かつ、1又は複数以上が各基準値を超えた場合に警告を発するように構成することも可能である。なお、基準値は、当該プレス加工方法により得られる加工品の仕上がり精度により適宜定められる値を意味する。
【0035】
次に、図8〜図11を参照しながら本発明の第二の実施形態について説明する。
本実施形態では、受信される音響信号の内区画時間内の音響信号の波形に基づき補正式を算出し、その補正式により作成される音響信号の補正波形により不良品の判定を行う。本実施形態に用いられる判定装置1の内、AEセンサ11,フィルタ部20,警報手段40,近接センサ15等は、上述の第一形態におけるものとほぼ同様であるが、パーソナルコンピュータ30の構成が一部異なっている。
【0036】
図8及び図9を参照しつつ、パーソナルコンピュータ30における処理手順を説明する。クランク角度αが所定角度以上となると信号変換器13がトリガー用信号を送出し(ステップS11)、これにともなってゲートタイマ37が作動する(ステップS12)。フィルタ部20からの音響信号は、A/Dコンバータ31によりデジタル信号に変換される。デジタル信号に変換された音響信号は、あらかじめパラメータ入力部35を介して設定された区画時間t0〜t3内において、補正式算出手段51により音響信号を多項式近似して補正式Wを算出し(ステップS13)、補正波形作成手段52に送る。
【0037】
補正波形作成手段52において、図10,11(c)(d)に示すように、受信された音響信号を算出された補正式Wに基づいてその音響信号の補正波形Rを生成する(ステップS14)。そして、生成した補正波形Rは積分手段53を介して比較手段32に送られる。補正式Wに基づいて生成される補正波形Rにより不良判定を行うことで、正常時と不良時の音響信号を差を明確にすることができ、確実に加工不良を捉えることができる。
【0038】
積分手段53を介しての比較手段32における処理は、区画時間t0〜t3内における各区画G1〜3での補正波形の補正波形面積B1〜3の面積を求め(ステップS15〜17)、そして、補正波形面積B1〜3がメモリ手段33に記憶されている各区画G1〜3での基準値より大きいか否かが判断される。
本実施形態では、区画時間t0〜t3間において、補正波形の特徴量である面積値のうち少なくとも一つが所定の基準値を超える場合に、不良品である旨の警報が警報手段40より発せられる(ステップS19)。警報等が発生されない場合には、ディスプレイ41を介して加工品が正常である旨が表示される(ステップS18)。
【0039】
なお、ステップS8におけるパンチ交換の警報を上記波形面積の内、少なくとも二つ以上が基準値を超える場合にのみ警報を発生するように構成することも可能である。
【0040】
本実施形態において、波形面積Bにより不良判定を行ったが、面積値に限られるものではなく、振幅値や分布幅においても同様に不良判定は可能である。さらに、例えば、図14に示す如く、積分手段53の他、振幅値や分布幅の差分を算出する経路54や分布幅算出手段55を設け、図15に示すように、各区画内でこれらの各値を算出し(ステップS54〜62)、各基準値と比較し警報等を行う(ステップS63,64)処理手順により不良判定を行うことも可能である。但し、一般に割れによる不良時の音響信号は持続時間が長いため、エネルギーが大きく面積値も大きくなるため、主に面積値により不良判定を行うことが精度の面から望ましい。
【0041】
さらに、これらの値は適宜組み合わせて不良判定を行うことが可能であり、かつ、1又は複数以上が各基準値を超えた場合に警告を発するように構成することも可能である。なお、基準値は、当該プレス加工方法により得られる加工品の仕上がり精度により適宜定められる値を意味する。
【0042】
さらに、本発明の他の実施形態の可能性について列挙する。
上記各実施形態では材料Sに鋼板を用いたが、鋼板以外の金属板の他樹脂材料等のプレス加工にも本発明は適応の可能性がある。
【0043】
上記各実施形態では、不良判定を複数の区画G1〜3において判定を行ったが、区画に区切らずに任意の範囲内において、判定することも可能である。ただし、判定の精度の面から言えば、複数の区画に区切り判定する方が望ましい。
【0044】
上記各実施形態では、プレス加工品の不良判定方法及び判定装置として説明した。しかし、不良時に発生する音響信号には、金型の不良に起因する音響信号も含まれているので、プレス加工品の不良判定を行うと同時に金型の不良判定をも行うことができる。すなわち、プレス加工品の不良判定方法及び判定装置は、プレス加工金型の不良判定方法及び判定装置としても実施することができる。
【0045】
上記各実施形態では、クランク機構によるプレス加工機を例に説明した。しかし、クランク機構によるプレス加工に限られるものではなく、例えば、カムプレス、ナックルプレス、リンクプレス等の回転運動を直線運動に変換する機構によるプレス加工であればプレス加工品の不良判定を行うことが可能である。
【0046】
なお、特許請求の範囲の項に記した符号は、あくまでも図面との対照を便利にするためのものにすぎず、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、曲げ加工や深絞り加工等の材料の塑性変形を伴うあらゆるプレス加工品の不良判定方法及び不良判定装置として利用することができる。さらに、プレス加工金型の不良判定方法及び不良判定装置としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】プレス加工機による加工の工程を示し(a)は上金型が材料に接当した状態、(b)はクランクの上死点と下死点の間、(c)はクランクの下死点での状態をそれぞれ示す概略断面図である。
【図2】(a)はクランク角度とストロークの関係を示すグラフ、(b)はクランク角度と変位量の関係を示すグラフ、(c)は(b)の一定区間にて拡大したグラフである。
【図3】図1のプレス加工機における検波後の音響信号を示すグラフであり、(a)は正常加工の場合、(b)は不良加工となる場合をそれぞれ示す。
【図4】図1のプレス加工機における検波後の音響信号と音響信号の補正式及び補正波形との関係を示すグラフである。
【図5】図1のプレス加工機における検波後の音響信号と図3(c)の変位式の関係を示すグラフであり、(a)は正常品のプレス加工時、(b)は(a)の部分拡大、(c)は不良品のプレス加工時、(d)は(c)の部分拡大をそれぞれ示す。
【図6】本発明にかかる不良判定装置の第一の実施形態を示すブロック図である。
【図7】本発明にかかる不良判定装置の第一の実施形態における動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態を示すブロック図である。
【図9】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態における動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態における検波後の音響信号と補正波形の関係を示すグラフであり、(a)は正常品のプレス加工時の補正前の音響信号、(b)は(a)の部分拡大、(c)は正常品のプレス加工時の補正波形、(d)は(c)の部分拡大をそれぞれ示す。
【図11】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態における検波後の不良時の音響信号と補正波形の関係を示す図10に相当するグラフである。
【図12】本発明にかかる不良判定装置の第一の実施形態の別の実施形態を示すブロック図である。
【図13】本発明にかかる不良判定装置の第一の実施形態の別の実施形態における動作を示すフローチャートである。
【図14】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態の別の実施形態を示すブロック図である。
【図15】本発明にかかる不良判定装置の第二の実施形態の別の実施形態における動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
1:プレス加工機、2:スライド(上金型)、2a:パンチ、3:ボルスタ(下金型)3a:ダイ、4:クランク機構、5:フライホイール、6:クランクシャフト、7:コネクションロッド、10:、11:AEセンサ、12:プレス制御部(近接検出手段)、13:信号変換器、20:フィルタ部、21:感度調整機能付き信号変換器、22:ハイパスフィルタ、23:ローパスフィルタ、24:検波回路、30:パーソナルコンピュータ、31:A/Dコンバータ、32:比較手段、33:メモリ手段、34:ゲートタイマ、35:パラメータ入力部、40:差分算出手段、41:変位式メモリ手段、42:積分手段、43:経路、44:分布幅算出手段、50:、51:補正式算出手段、52:補正波形作成手段、53:積分手段、54:経路、55:分布幅算出手段、60:警報手段、61:ディスプレイ、62:警報機、S:材料、P:測定対象波形(音響信号)、R:補正波形、V:変位式、W:補正式、α:クランク角度、G1〜3:ゲート、A:差分面積、B:補正波形面積
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の金型(2,3)を材料(S)に圧接することによりこの材料(S)の延性プレス加工を行う場合におけるプレス加工品の不良判定方法であって、変形時に生じる音響信号(P)を受信し、音響信号の測定時間と材料の加工量との関係により得られる変位式(V)と測定した前記音響信号(P)との差分を算出し、その差分により加工品の不良判定を行うことを特徴とするプレス加工品の不良判定方法。
【請求項2】
少なくとも一対の金型(2,3)を材料(S)に圧接することによりこの材料(S)の延性プレス加工を行う場合におけるプレス加工品の不良判定方法であって、変形時に生じる音響信号(P)を受信し、測定した前記音響信号(P)の波形を多項式近似して前記音響信号(P)の波形の補正式(W)を算出し、前記補正式(W)に基づき測定した前記音響信号を補正して補正波形(R)を作成し、その補正波形(R)によりプレス加工品の不良判定を行うことを特徴とするプレス加工品の不良判定方法。
【請求項3】
前記不良判定を振幅値、分布幅値又は面積値のいずれかの値により又は、これらの全て又はいずれかの値の組み合わせにより行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス加工品の不良判定方法。
【請求項4】
請求項1又は3のいずれかに記載のプレス加工品の不良判定方法に用いられるプレス加工品の不良判定装置であって、前記音響信号を受信するためのセンサ(11)と、前記金型同士の近接状態を検出する近接検出手段(12)と、この近接検出手段(12)に連動して前記センサ(11)による受信信号のうち前記材料(S)の変形時に生じる音響信号(P)を検出するゲートタイマ(34)と、音響信号の測定時間と材料の加工量との関係により得られる変位式(V)を記憶する変位式メモリ手段(41)と、音響信号(P)と前記変位式(V)との差分量を算出する差分算出手段(40)と、比較用の差分基準値を記憶するメモリ手段(33)と、前記差分量と前記差分基準値とを比較する比較手段(32)と、この比較手段(32)により前記差分量が前記基準値を越える場合にプレス加工品が不良品である旨を知らせる警報手段(60)とを備えていることを特徴とするプレス加工品の不良判定装置。
【請求項5】
請求項2又は3のいずれかに記載のプレス加工品の不良判定方法に用いられるプレス加工品の不良判定装置であって、前記音響信号を受信するためのセンサ(11)と、前記金型同士の近接状態を検出する近接検出手段(12)と、この近接検出手段に連動して前記センサ(11)による受信信号のうち前記材料の変形時に生じる音響信号(P)を検出するゲートタイマ(33)と、音響信号(P)の波形を多項式近似して前記音響信号(P)の波形の補正式(W)を算出する補正式算出手段(51)と、前記補正式(W)に基づき測定した前記音響信号(P)を補正し補正波形(R)を作成する補正波形作成手段(52)と、比較用の基準値を記憶するメモリ手段(33)と、前記補正波形(R)から抽出された特徴量と前記基準値とを比較する比較手段(32)と、この比較手段(32)により前記特徴量が前記基準値を越える場合にプレス加工品が不良品である旨を知らせる警報手段(60)とを備えていることを特徴とするプレス加工品の不良判定装置。
【請求項6】
請求項1又は3のいずれかに記載のプレス加工品の不良判定方法に基づいて前記金型(2,3)の不良判定を行うことを特徴とするプレス加工金型の不良判定方法。
【請求項7】
請求項2又は3のいずれかに記載のプレス加工品の不良判定方法に基づいて前記金型(2,3)の不良判定を行うことを特徴とするプレス加工金型の不良判定方法。
【請求項8】
請求項4又は5のいずれかに記載のプレス加工品の不良判定装置に基づいて前記金型(2,3)の不良判定を行うことを特徴とするプレス加工金型の不良判定装置。
【請求項1】
少なくとも一対の金型(2,3)を材料(S)に圧接することによりこの材料(S)の延性プレス加工を行う場合におけるプレス加工品の不良判定方法であって、変形時に生じる音響信号(P)を受信し、音響信号の測定時間と材料の加工量との関係により得られる変位式(V)と測定した前記音響信号(P)との差分を算出し、その差分により加工品の不良判定を行うことを特徴とするプレス加工品の不良判定方法。
【請求項2】
少なくとも一対の金型(2,3)を材料(S)に圧接することによりこの材料(S)の延性プレス加工を行う場合におけるプレス加工品の不良判定方法であって、変形時に生じる音響信号(P)を受信し、測定した前記音響信号(P)の波形を多項式近似して前記音響信号(P)の波形の補正式(W)を算出し、前記補正式(W)に基づき測定した前記音響信号を補正して補正波形(R)を作成し、その補正波形(R)によりプレス加工品の不良判定を行うことを特徴とするプレス加工品の不良判定方法。
【請求項3】
前記不良判定を振幅値、分布幅値又は面積値のいずれかの値により又は、これらの全て又はいずれかの値の組み合わせにより行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス加工品の不良判定方法。
【請求項4】
請求項1又は3のいずれかに記載のプレス加工品の不良判定方法に用いられるプレス加工品の不良判定装置であって、前記音響信号を受信するためのセンサ(11)と、前記金型同士の近接状態を検出する近接検出手段(12)と、この近接検出手段(12)に連動して前記センサ(11)による受信信号のうち前記材料(S)の変形時に生じる音響信号(P)を検出するゲートタイマ(34)と、音響信号の測定時間と材料の加工量との関係により得られる変位式(V)を記憶する変位式メモリ手段(41)と、音響信号(P)と前記変位式(V)との差分量を算出する差分算出手段(40)と、比較用の差分基準値を記憶するメモリ手段(33)と、前記差分量と前記差分基準値とを比較する比較手段(32)と、この比較手段(32)により前記差分量が前記基準値を越える場合にプレス加工品が不良品である旨を知らせる警報手段(60)とを備えていることを特徴とするプレス加工品の不良判定装置。
【請求項5】
請求項2又は3のいずれかに記載のプレス加工品の不良判定方法に用いられるプレス加工品の不良判定装置であって、前記音響信号を受信するためのセンサ(11)と、前記金型同士の近接状態を検出する近接検出手段(12)と、この近接検出手段に連動して前記センサ(11)による受信信号のうち前記材料の変形時に生じる音響信号(P)を検出するゲートタイマ(33)と、音響信号(P)の波形を多項式近似して前記音響信号(P)の波形の補正式(W)を算出する補正式算出手段(51)と、前記補正式(W)に基づき測定した前記音響信号(P)を補正し補正波形(R)を作成する補正波形作成手段(52)と、比較用の基準値を記憶するメモリ手段(33)と、前記補正波形(R)から抽出された特徴量と前記基準値とを比較する比較手段(32)と、この比較手段(32)により前記特徴量が前記基準値を越える場合にプレス加工品が不良品である旨を知らせる警報手段(60)とを備えていることを特徴とするプレス加工品の不良判定装置。
【請求項6】
請求項1又は3のいずれかに記載のプレス加工品の不良判定方法に基づいて前記金型(2,3)の不良判定を行うことを特徴とするプレス加工金型の不良判定方法。
【請求項7】
請求項2又は3のいずれかに記載のプレス加工品の不良判定方法に基づいて前記金型(2,3)の不良判定を行うことを特徴とするプレス加工金型の不良判定方法。
【請求項8】
請求項4又は5のいずれかに記載のプレス加工品の不良判定装置に基づいて前記金型(2,3)の不良判定を行うことを特徴とするプレス加工金型の不良判定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
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【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−44716(P2007−44716A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230130(P2005−230130)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(593001624)株式会社米倉製作所 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(593001624)株式会社米倉製作所 (5)
【Fターム(参考)】
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