説明

プロジェクタ用位相板および液晶プロジェクタ

【課題】 光源からの熱の悪影響による液晶表示素子やその関連部品の劣化を防ぐとともに、部材の耐久性が優れたプロジェクタ用位相板を提供する。
【解決手段】 液晶表示素子の入射側に近接配置されてなり、厚さの異なる複数枚の光学異方性結晶板391,392が貼り合わされ、入射光線を常光線と異常光線とに分光し、これら両光線間に位相差を与えることによって上記入射光線の光学特性を変化させるプロジェクタ用位相板39において、前記貼り合わせられた位相板39の厚みT1を0.7mm以上4mm以下に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚さの異なる複数枚の光学異方性結晶板が貼り合わされて構成される位相板に関するものであり、特に、液晶プロジェクタに使用され、液晶表示素子の前後に近接配置されるプロジェクタ用の位相板とそれを用いた液晶プロジェクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶プロジェクタの偏光光学系に適用される位相板には、2種類のタイプのものがある。1つは、特許文献1にも開示されているように、透明基板に樹脂製の位相差フィルムが粘着材により貼付されたものが用いられている。このように位相差フィルムを単体で用いることなく、透明基板に貼付させて使用する理由は、位相差フィルムは、熱収縮性が高く、位相差フィルムは光源からの光を吸収して発熱した際に変形しやすいので、透明基板を放熱基板として機能させて位相差フィルムの変形を防止している。前記透明基板としては、ガラスや水晶、サファイヤなどが用いられる。これら透明基板の熱伝導率(w/m・k)は、サファイヤが41.9と最も高く、次に水晶が5.4〜9.3、ガラス(青板ガラス)が0.55〜0.75となり、サファイヤが最も優れている。しかしながら、コスト面では、逆にガラスが最も安く、水晶、サファイヤの順となる。また、サファイヤは、硬度が高いために加工性が悪く、屈折率が高いために透過率が低下すると言った欠点を有している。このことから、水晶が、コスト面と熱伝導性能のバランスがとれた最も実用的な位相差フィルム用の透明基板として利用されているのが現状である。
【0003】
もう1つは、特許文献2にも開示されているように、水晶基板等の光学異方性媒質からなる基板を2枚用い、これらの常光線と異常光線との速度差を利用し、両光線間に位相差を作り出すものが用いられている。そして、1/4波長板として構成(位相差をπ/2に構成)した場合には上述した如く直線偏光を円偏光に変換したり、円偏光を直線偏光に変換したりする。このタイプの位相板は、前者のタイプの位相板に比べて、部材の耐久性や耐熱性の面で非常に優れているので、液晶プロジェクタ用の位相板として普及してきているのが現状である。
【0004】
以下、水晶基板が貼り合わされた位相板について説明する。一般に、位相板として、光学機器に使用される光線の波長域(例えば600nm周辺)に対応するべく要求される厚さ寸法は、1/4波長板の場合、理論上15〜20μm程度である。しかし、水晶の加工上、この厚さ寸法の水晶基板を得ることは困難である。従って、上記寸法程度の厚み差をもって加工された2枚の水晶基板を貼り合わせたものが一般的に使用されている。つまり、2枚の水晶基板の厚み差を利用して擬似的に上記厚さ寸法(15〜20μm程度)の水晶基板と同等の位相差性能が得られるようにしている。位相板の構成例として、基準面(矩形状の水晶基板の一辺)に対して光軸角度が0°の水晶波長板と、上記光軸角度が90°の水晶波長板とをUV接着剤(紫外線硬化型接着剤)によって貼り合わせた構成のものがある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−228058号公報
【特許文献2】特開2003−222724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のように光学異方結晶板からなる位相板を用いたとしても、光源の熱的悪影響を完全になくすことはできない。特に液晶プロジェクタに使用される光源としては、超高圧水銀灯やメタルハライドランプのような強力なランプが用いられるので、位相板の温度が80℃を超えることもあるため、熱的な影響を長期間にわたって受けることで、液晶表示素子に関連する部材が劣化したり、影響が強ければ液晶表示素子そのものが劣化したりすることもあった。特に、液晶表示素子の入射面に取り付けられ、液晶表示素子の液晶軸方向に光成分を偏光してなる偏光フィルムは、樹脂製のフィルムで構成されているものが多く、熱的悪影響を極めて受けやすいといった問題があった。この偏光フィルムが劣化すると、液晶プロジェクタに投影される画像の色合いがおかしくなったり、画像のそのものに異常をきたすことがある。さらに、液晶プロジェクタが小型化されると、各種光学系もより近接して配置されるので、光路外からの放射熱による悪影響も受けやすくなると言った問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、光源からの熱の悪影響による液晶表示素子やその関連部品の劣化を防ぐとともに、部材の耐久性が優れたプロジェクタ用位相板を提供することで、より商品の寿命を延ばすことができる液晶プロジェクタを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明の請求項1によるプロジェクタ用位相板は、液晶表示素子の入射側に近接配置されてなり、厚さの異なる複数枚の光学異方性結晶板が貼り合わされ、入射光線を常光線と異常光線とに分光し、これら両光線間に位相差を与えることによって上記入射光線の光学特性を変化させるプロジェクタ用位相板において、前記貼り合わせられた位相板の厚みを0.7mm以上4mm以下としたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に示すように、液晶表示素子の入射側に近接配置されてなり、厚さの異なる複数枚の光学異方性結晶板が貼り合わされ、入射光線を常光線と異常光線とに分光し、これら両光線間に位相差を与えることによって上記入射光線の光学特性を変化させるプロジェクタ用位相板において、前記位相板のいずれか片端主面に放熱基板が貼り合わせられて位相板体を構成してなることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に示すように、前記貼り合わせられた位相板体の厚みを0.7mm以上4mm以下としたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に示すように、前記位相板と放熱基板が水晶基板からなり、前記位相板は2枚の水晶基板がお互いに直交する方向に光軸が配置された状態で貼り合わせられ、これらのいずれかの光軸方向から45°回転した方向に光軸が配置された状態で前記位相板のいずれか主面に放熱基板に使われる水晶基板が貼り合わせられてなることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に示すように、前記貼り合わせられた位相板の厚みを0.1mm以上0.5mm以下としたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に示すように、前記位相板の両端主面に、当該位相板より厚みの大きな放熱基板が貼り付けられて位相板体を構成してなることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に示すように、特許請求項1〜6に記載されたプロジェクタ用位相板と、光源と、透過した光を画像情報に応じて光強度変調する液晶表示素子と、その変調された光学情報を投射する投射手段とを具備してなる液晶プロジェクタであって、前記液晶表示素子の入射側には、前記プロジェクタ用位相板が近接配置されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の特許請求項1によれば、液晶表示素子の入射側に近接配置されてなり、前記貼り合わせられた位相板の厚みを0.7mm以上とすることで、位相板の耐久性が向上するとともに放熱性がより一層高まるので、液晶表示素子に熱がこもることがなくなり、液晶表示素子やその関連部品のさらなる熱的劣化を抑制する。特に、熱放射成分(赤外光)が液晶表示素子の偏光フィルムに到達する前に除去され、偏光フィルムや液晶表示素子が過熱して劣化することがない。このため、液晶表示素子の光学的特性(色合いや画質)を低下させることない。また、位相板の厚みが増大することで、位相板の強度や剛性が高まるので、光学コート材や接着剤、あるいは熱の影響など外的要因によって位相板が反ったり歪んだりすることが抑制され、位相板の両端主面の平行度、平面度を向上させることができる。つまり、位相板は反りや歪みよって、主面に入射する光線の入射角が変わることがないので、所望の位相特性が得られ、光学特性に悪影響を及ぼさない位相板が得られる。また、前記貼り合わせられた位相板の厚みを4mm以下とすることで、位相板の厚み増大することによる加工の困難性やコスト増加を抑えることができ、省スペース化がはかれる。
【0016】
特許請求項2によれば、液晶表示素子の入射側に近接配置されてなり、前記位相板のいずれか片端主面に放熱基板が貼り合わせられているので、位相板の耐久性が向上するとともに放熱性がより一層高まるので、液晶表示素子に熱がこもることがなくなり、液晶表示素子やその関連部品のさらなる熱的劣化を抑制する。特に、熱放射成分(赤外線)が液晶表示素子の偏光フィルムに到達する前に除去され、偏光フィルムや液晶表示素子が過熱して劣化することがない。このため、液晶表示素子の光学的特性(色合いや画質)を低下させることない。また、放熱基板を位相板に貼り合わせて位相板体を構成することで、位相板の厚みを抑えることができるので、入射角度に対するリタデーション値(1/4波長板の常光線と異常光線の屈折率の差、すなわち複屈折率の差と、1/4波長板の板厚の積)の依存性を低減させることができる。
【0017】
また、特許請求項3によれば、上述の作用効果に加え、前記貼り合わせられた位相板、または、前記貼り合わせられた位相板体の厚みを0.7mm以上としたことで、位相板の耐久性と放熱性がより一層高まる。前記貼り合わせられた位相板体の厚みを4mm以下としたことで、各部材の厚み増大することによる加工の困難性やコスト増加、あるいは各部材の枚数が増加して工程が増加することによるコスト増加を抑えることができる。また、位相板の厚みを抑えることで、省スペース化がはかれる。
【0018】
図8は、液晶プロジェクタの使用時間と位相板の厚み毎の表面温度を示した比較グラフである。位相板としては、縦20mm、横22mmの水晶基板をアクリル系のUV接着剤で貼り合わせたものを使用し、それぞれ貼り合わせた厚みの異なる位相板を反射型液晶プロジェクタに組み込んだ場合に、その使用時間毎の表面温度を測定している。また、これら位相板に近接配置され、液晶表示素子に使用される偏光フィルムの耐熱温度は、通常品で約80℃〜約100℃、耐熱仕様品では約100℃である。これらのグラフが示しているように、上記偏光フィルムに熱的な悪影響を与えないようにするためには、位相板の厚みを0.7mm以上、より好ましくは1mm以上にする必要があるのがわかる。また、位相板の厚みが4mmのものと、位相板の厚みが6mmのものでは放熱性に顕著な変化が見られないので、位相板の厚みが4mm以下とすることで、位相板の厚みを増やすことによるコスト増大を抑制できる。なお、水晶基板が2枚以上貼り合わせられた位相板体の場合、貼り合わされた全体の厚みが同じであれば、断熱効果が高いため、上記温度よりやや低めの値となる。
【0019】
また、特許請求項4によれば、上述の作用効果に加え、コスト面と熱伝導性能のバランスがとれ、加工性もよく透過率の低下もない最も実用的な水晶基板を放熱基板として用いることができる。また、放熱基板に位相板と同じ水晶を用いても、2枚の水晶基板がお互いに直交する方向に光軸が配置された状態で貼り合わせられ、これらのいずれかの光軸方向から45°回転した方向に光軸が配置されているので、位相差特性に悪影響を及ぼすことなく放熱基板としての機能を得ることができる。しかも、位相板と放熱基板の材質が同じなので光学特性がほぼ同一で、透過率特性が優れる。
【0020】
また、特許請求項5によれば、上述の作用効果に加え、前記貼り合わせられた位相板の厚みを0.1mm以上0.5mm以下としたことで、入射角度に対するリタデーション値の依存性を特に低減したものが得られ、液晶プロジェクタに使用する場合のコントラスト性能を飛躍的に改善することができる。なお、位相板の厚みを0.1mmより薄くすると、加工が難しくなり実用上好ましくないのが、位相板の厚みを0.1mm以上とすることで加工コストを増大させることがない。また、位相板の厚みを0.5mmより厚くすると、リタデーション値の依存性が問題となり、液晶プロジェクタに使用する場合のコントラスト性能が低下し、画質低下につながりやすくなる。
【0021】
また、特許請求項6によれば、上述の作用効果に加え、位相板より厚みの大きな放熱基板が、当該位相板を挟み込むようにして両端主面に貼り付けられているので、光学コート材や接着剤、あるいは熱の影響など外的要因によって位相板が反ったり歪んだりするのを抑制するとともに、研磨加工精度のばらつきなどによって生じる異方性結晶板自身が持つ内的要因による反りや歪みも修正し、位相板の両端主面の平行度、平面度を向上させることができる。つまり、位相板は反りや歪みよって、主面に入射する光線の入射角が変わることがないので、所望の位相差特性が得られ、光学特性に悪影響を及ぼさない位相板が得られる。また、位相板の両端主面を挟み込むようにして厚みの大きな放熱基板が貼り付けられているので、位相板の強度や剛性を補強するだけでなく、外的要因によって位相板の主面に傷がついたり、位相板に割れやチッピングが生じたりすることがない。
【0022】
また、本発明の特許請求項7によれば、前記液晶表示素子の入射側には、上述のようなプロジェクタ用位相板が近接配置されているので、光源からの出射光による液晶表示素子やその関連部品の劣化に結びつく熱放射成分(赤外線)が液晶表示素子の偏光フィルムに到達する前に除去され、偏光フィルムや液晶表示素子が過熱して劣化することがない。このため、液晶表示素子の光学的特性(色合いや画質)を低下させることなく、商品寿命を延ばし、液晶プロジェクタの商品寿命を延ばすことができる。また、各種光学系をより近接して配置したとしても、液晶表示素子に対する光路外からの放射熱による悪影響も抑制できるので、省スペース化がはかれ、液晶プロジェクタの小型化が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の第1の実施形態について、1/4波長板(水晶位相板)を例にとり図面に基づいて説明する。図1は第1の実施形態に係る位相板の分解斜視図を示し、図2は図1を組み立てた状態の斜視図である。
【0024】
これら図に示すように、1/4波長板(位相板)39は、2枚の水晶基板(光学異方性結晶板)391,392により構成されている。以下、具体的に説明する。ここでは、図1、図2において手前側を入射面として、手前側にある水晶基板を第1水晶基板391と称し、奥側(図2の右側)を出射面として、奥側にある水晶基板を第2水晶基板392と称する。
【0025】
各水晶基板391,392は、平面視がともに同一の方形状で構成されている。第1水晶基板391は、基準面(矩形状の水晶基板の一辺)に対して光軸角度が0°で厚さ寸法が例えば0.7mmであり、第2水晶基板392は、上記光軸角度が90°で厚さ寸法が0.715mmに設定されている。つまり、15μmの厚み差を利用して、厚さ寸法が15μmの水晶基板の単板で成る位相板と同機能(同等の偏光性能)が擬似的に得られるようにしている。この厚み差としては15μmに限るものではなく、偏光対象とする入射光に応じてこの厚み差は適宜設定される。これら第1水晶基板391、第2水晶基板392は、お互いの光軸角度が直交した状態で、UV接着剤S1によって貼り合わせられ、位相板の全体の厚みT1を約1.5mmとしている。なお、第1水晶基板391の光軸を実線で、第2水晶基板392の光軸を破線でそれぞれ示している。また、図示していないが、第1水晶基板391の入射面と、第2水晶基板392の出射面には、例えば真空蒸着法などの手法により、SiO2、TiO2等の誘電体薄膜を多層形成することにより、反射防止膜が形成されている。
【0026】
そして、本形態の特徴とするところは、前記貼り合わせられた1/4波長板(位相板)の厚みT1を0.7mm以上とした点にある。このため、1/4波長板(位相板)の耐久性が向上するとともに放熱性がより一層高まるので、液晶表示素子に熱がこもることがなくなり、液晶表示素子やその関連部品のさらなる熱的劣化を抑制する。また、1/4波長板(位相板)の厚みが増大することで、位相板の強度や剛性が高まるので、光学コート材や接着剤、あるいは熱の影響など外的要因によって1/4波長板(位相板)が反ったり歪んだりすることが抑制される。
【0027】
なお、上記第1の実施形態では、各水晶基板の光軸角度を0°と90°のものを用いて、光軸同士の成す角度を90°としたものを例にしているが、光軸角度が0°と90°以外のものでもよく、また光軸同士の成す角度を90°未満に設定したものでもよい。
【0028】
次に、本発明の第2の実施形態について、図面とともに説明する。図3は第2の実施形態に係る位相板体の分解斜視図を示し、図4は図3を組み立てた状態の斜視図である。
【0029】
これら図に示すように、1/4波長板体(位相板体)39は、2枚の水晶基板(光学異方性結晶板)393,394からなる1/4波長板(位相板)と、水晶からなる放熱基板395により構成されている。以下、具体的に説明する。ここでは、図3、図4において手前側を入射面として、手前側にある水晶基板を第1水晶基板393と称し、奥側(図4の右側)を出射面として、奥側にある水晶基板を第2水晶基板394と称する。
【0030】
各水晶基板393,394と放熱基板395は、平面視がともに同一の方形状で構成されている。第1水晶基板393は、基準面(矩形状の水晶基板の一辺)に対して光軸角度が0°で厚さ寸法が例えば0.2mmであり、第2水晶基板394は、上記光軸角度が90°で厚さ寸法が0.215mm、水晶からなる放熱基板395は、上記光軸角度45°で厚さ寸法が1mmに設定されている。なお、第1水晶基板と第2水晶基板の厚み差としては15μmに限るものではなく、偏光対象とする入射光に応じてこの厚み差は適宜設定される。これら第1水晶基板393、第2水晶基板394は、お互いの光軸角度が直交し、放熱基板395は、前記各水晶基板の光軸方向を二等分した45°の方向で、入射面から第1水晶基板393、第2水晶基板394、放熱基板395の順序でUV接着剤S1によって貼り合わせられ、位相板体の全体の厚みT21を約1.5mmとしている。なお、第1水晶基板393と第2水晶基板394の光軸を実線で、水晶からなる放熱基板395の光軸を点線でそれぞれ示している。水晶からなる放熱基板の光軸を前記直交に配置された各水晶基板のいずれかの光軸方向から45°回転した方向に光軸が配置された状態で、すなわち、第1水晶基板の光軸角度0°と第2水晶基板の光軸角度90°に対して水晶からなる放熱基板の光軸を45°で配置しているので、第1水晶基板と第2水晶基板により構成される位相差特性に悪影響を及ぼすことがない。なお、放熱基板の光軸は、135°、225°、あるいは315°で配置してもよい。また、図示していないが、第1水晶基板393の入射面と、放熱基板395の出射面には、例えば真空蒸着法などの手法により、SiO2、TiO2等の誘電体薄膜を多層形成することにより、反射防止膜が形成されている。
【0031】
そして、本形態の特徴とするところは、前記貼り合わせられた1/4波長板(位相板)の厚みT2を約0.5mmとするとともに、水晶からなる放熱基板がさらに貼り合わせられた1/4波長板体(位相板体)39の厚みT21を約1.5mmとした点にある。すなわち、1/4波長板(位相板)板の厚みT2を0.1mm以上0.5mm以下としたことで、加工が容易で、入射角度に対するリタデーション値の依存性を特に低減したものが得られ、液晶プロジェクタに使用する場合のコントラスト性能を飛躍的に改善することができる。また、薄型化された1/4波長板(位相板)の片端主面に水晶からなる放熱基板が貼り合わされて1/4波長板体(位相板体)39の厚みT21を0.7mm以上としているので、1/4波長板体(位相板体)の耐久性が向上するとともに放熱性がより一層高まり、液晶表示素子に熱がこもることがなくなり、液晶表示素子やその関連部品のさらなる熱的劣化を抑制する。さらに、放熱基板を貼り合わせることで、2つの接着層が介在し、この接着層が断熱効果をもつため、光学系の内部に侵入する熱放射を抑えることができる。
【0032】
次に、本発明の第3の実施形態について、図面とともに説明する。図5は第3の実施形態に係る位相板体の分解斜視図を示し、図6は図5を組み立てた状態の斜視図である。
【0033】
これら図に示すように、1/4波長板体(位相板体)39は、2枚の水晶基板(光学異方性結晶板)393,394からなる1/4波長板(位相板)と、当該1/4波長板(位相板)の両端主面に、当該1/4波長板(位相板)より厚みの大きな水晶からなる2枚の放熱基板395,396が貼り付けられて構成されている。以下、具体的に説明する。ここでは、図5、図6において手前側を入射面として、手前側にある水晶基板を第1水晶基板393と称し、奥側(図6の右側)を出射面として、奥側にある水晶基板を第2水晶基板394と称する。
【0034】
各水晶基板393,394と放熱基板395,396は、平面視がともに同一の方形状で構成されている。第1水晶基板393は、基準面(矩形状の水晶基板の一辺)に対して光軸角度が0°で厚さ寸法が例えば0.2mmであり、第2水晶基板394は、上記光軸角度が90°で厚さ寸法が0.215mmに設定されている。なお、第1水晶基板と第2水晶基板の厚み差としては15μmに限るものではなく、偏光対象とする入射光に応じてこの厚み差は適宜設定される。水晶からなる放熱基板395,396は、上記光軸角度45°で厚さ寸法が1mmに設定されている。これら第1水晶基板393、第2水晶基板394は、お互いの光軸角度が直交し、放熱基板395,396は、前記各水晶基板の光軸方向を二等分した45°(もしくは135°)の方向に設定されている。入射面から放熱基板396、第1水晶基板393、第2水晶基板394、放熱基板395の順序でUV接着剤S1によって貼り合わされ、位相板体の全体の厚みT31を約2.5mmとしている。なお、第1水晶基板393と第2水晶基板394の光軸を実線で、水晶からなる放熱基板395,396の光軸を点線でそれぞれ示している。水晶からなる2枚の放熱基板の光軸を前記直交に配置された各水晶基板の光軸方向に対して45°回転した方向に光軸が配置された状態で、すなわち、第1水晶基板の光軸角度0°と第2水晶基板の光軸角度90°に対して水晶からなる2枚の放熱基板の光軸を45°で配置しているので、第1水晶基板と第2水晶基板により構成される位相差特性に悪影響を及ぼすことがない。なお、放熱基板の光軸は、135°、225°、あるいは315°で配置してもよい。また、図示していないが、放熱基板396の入射面と、放熱基板395の出射面には、例えば真空蒸着法などの手法により、SiO2、TiO2等の誘電体薄膜を多層形成することにより、反射防止膜が形成されている。
【0035】
そして、本形態の特徴とするところは、前記貼り合わせられた1/4波長板(位相板)の厚みT3を約0.5mmとし、より厚みの大きな水晶からなる放熱基板が当該1/4波長板(位相板)の両端主面に貼り合わるとともに、これら全てを貼り合わせた1/4波長板体(位相板体)39の厚みT31を約2.5mmとした点にある。すなわち、1/4波長板(位相板)板の厚みT3を0.1mm以上0.5mm以下としたことで、加工が容易で、入射角度に対するリタデーション値の依存性を特に低減したものが得られ、液晶プロジェクタに使用する場合のコントラスト性能を飛躍的に改善することができる。また、薄型化された1/4波長板(位相板)の両端主面に水晶からなる放熱基板が貼り合わせられて1/4波長板体(位相板体)39の厚みT31を0.7mm以上としているので、1/4波長板体(位相板体)の耐久性が向上するとともに放熱性がより一層高まり、液晶表示素子に熱がこもることがなくなり、液晶表示素子やその関連部品のさらなる熱的劣化を抑制する。さらに、薄型化された1/4波長板(位相板)の両端主面に、より厚みの大きな水晶からなる放熱基板が貼り合わせられて1/4波長板体(位相板体)を構成しているので、1/4波長板体(位相板体)の強度や剛性が高まり、光学コート材や接着剤、あるいは熱の影響など外的要因によって薄型化された1/4波長板(位相板)が反ったり歪んだりすることが抑制され、1/4波長板体(位相板体)の両端主面の平行度、平面度を向上させることができる。また、薄型化された1/4波長板(位相板)が外的要因によって主面に傷がついたり、チッピングが生じたりすることがない。さらに、放熱基板を貼り合わせることで、3つの接着層が介在し、この接着層が断熱効果をもつため、光学系の内部に侵入する熱放射を抑えることができる。
【0036】
なお、上記第2,第3の実施形態では、各水晶基板の光軸角度を0°と90°のものを用いて、光軸同士の成す角度を90°としたものを例にしているが、光軸角度が0°と90°以外のものでもよい。また、放熱基板として、水晶基板を例にしているが、これに限らず、水晶基板(光学異方性結晶板)と光学的な屈折率特性や熱膨張係数が近似しているもの、例えば、石英ガラス材、サファイヤガラス、または白板ガラス等で構成することもできる。さらに、第3の実施形態では、各放熱基板が、同じ材質、同じ厚みでのものを例にしているが、お互いに異なる材質、異なる厚みのものでもよい。
【0037】
次に、上述の第1〜第3の実施形態に開示したような1/4波長板(位相板)あるいは1/4波長板体(位相板体)を組み込む反射型液晶プロジェクタについて図面とともに説明する。図7は本形態に係る反射型液晶プロジェクタの構成図であり、本形態の反射型液晶プロジェクタは、白色光を出射するランプなどの光源1と、液晶表示素子と、その他の光学系と、スクリーンに投射する投射手段とから構成されている。
【0038】
光源1は、例えば超高圧水銀灯やメタルハライドランプ等からなり、液晶表示素子は、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色にそれぞれ対応する3つの反射型の液晶表示素子2R,2G,2Bを具備している。
【0039】
光学系としては、光源からの光路に沿って次の順序で構成されている。すなわち、レンズアレイ31,32により、光源の白色光は複数の光束に分割され、偏光用のPBSプレート33により、前記白色光は変更面を揃えられるとともに、コンデンサレンズ34によって、光源からの光を集めて均一に光路に向かって照射する。
【0040】
前記白色光は、特定の色の光のみを反射・透過する2枚のダイクロックミラー35,36と全反射ミラー37、偏光ビームスプリッタ38R,38G,38B、および1/4波長板(あるいは1/4波長板体)39R,39G,39Bによって得られる光路に沿って、次の液晶表示素子のエリアに導かれる。このとき、ダイクロックミラー35は赤透過緑青反射型の特性を有しており、ダイクロックミラー36は青透過緑反射型の特性を有しているので、前記白色光はR(赤)・G(緑)・B(青)の3原色にそれぞれ分離されながら、各3原色に対応する前記液晶表示素子2R,2G,2Bに導かれることになる。このとき、これらの各3原色の光は、図示しない偏光板により、S偏光成分に揃えられ、不要なP偏光成分が除去されるとともに、これらの各3原色のS偏光成分のみが各偏光ビームスプリッタ38R,38G,38Bに入射される。入射した各S偏光成分は、偏光ビームスプリッタを反射して、各1/4波長板(あるいは1/4波長板体)39R,39G,39Bを透過して円偏光成分の光に変換されて、各液晶表示素子2R,2G,2Bに入射される。
【0041】
前記各液晶表示素子2R,2G,2Bは、入射部分には偏光フィルム4R,4G,4Bをそれぞれ具備しており、液晶表示素子の液晶軸方向に光成分を偏光し、特定の偏光軸方向の光成分を透過・遮断するように構成されている。これらの偏光フィルムは、樹脂製のフィルムで構成されている。また、前記各液晶表示素子の偏光フィルムの入射側には、上述の1/4波長板(あるいは1/4波長板体)39R,39G,39Bがそれぞれ密着して配置されている。これらの液晶表示素子は、当該液晶表示素子を透過する光を画像情報に応じて画素ごとの光量を制御して濃淡を変えて変調する。
【0042】
このように変調された各回転偏光成分は、各液晶表示素子2R,2G,2Bから反射し、再び、各1/4波長板(あるいは1/4波長板体)39R,39G,39Bを透過してとともにP偏光成分に変換されて、各偏光ビームスプリッタ38R,38G,38Bに入射される。入射した各P偏光成分は、偏光ビームスプリッタを透過して、ダイクロックプリズム5に入射される。ダイクロックプリズム5によってR(赤)・G(緑)・B(青)それぞれの光を結合させ、投射レンズ6によりスクリーン7上に映像が映し出される。また、本形態の反射型液晶プロジェクタは、図示しない冷却用のファンが設けられており、前記光源1から照射されることで前記液晶表示素子と前記偏光フィルムに吸収される熱を逃がし、冷却できるように構成されている。
【0043】
以上により、前記各液晶表示素子の入射側には、上記第1〜3の実施形態のように構成された1/4波長板(位相板)あるいは1/4波長板体(位相板体)が近接配置されているので、光源からの出射光による液晶表示素子や偏光フィルムなどの劣化に結びつく熱放射成分(赤外光)が液晶表示素子の偏光フィルムに到達する前に除去され、偏光フィルムや液晶表示素子が過熱して劣化することがない。このため、液晶表示素子の光学的特性(色合いや画質)を低下させることなく、商品寿命を延ばし、液晶プロジェクタの商品寿命を延ばすことができる。また、各種光学系をより近接して配置したとしても、液晶表示素子に対する光路外からの放射熱による悪影響も抑制できるので、省スペース化がはかれ、液晶プロジェクタの小型化が実現できる。
【0044】
−その他の実施形態−
上述した実施形態では、位相板として水晶基板からなる1/4波長板を採用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、その他の光学異方性材料を採用することやその他の光学特性を有した位相板でも実施可能である。加えて、位相板は方形状のものに限らず、その他の多角形状や円形状であってもよい。上述した実施形態では、反射型液晶プロジェクタを例にしているが、透過型液晶プロジェクタ等、他の液晶プロジェクタにも転用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第1の実施形態に係る位相板の分解斜視図。
【図2】図1を組み立てた状態の斜視図。
【図3】第2の実施形態に係る位相板体の分解斜視図。
【図4】図3を組み立てた状態の斜視図。
【図5】第3の実施形態に係る位相板体の分解斜視図。
【図6】図5を組み立てた状態の斜視図。
【図7】本形態に係る反射型液晶プロジェクタの構成図。
【図8】液晶プロジェクタの使用時間と位相板厚み毎の表面温度を示した比較グラフ。
【符号の説明】
【0046】
1 光源
2R,2G,2B 液晶表示素子
31,32 レンズアレイ
33 偏光用のPBSプレート
34 コンデンサレンズ
35,36 ダイクロックミラー
37 全反射ミラー
38R,38G,38B 偏光ビームスプリッタ
39,39R,39G,39B 波長板(波長板体)
4R,4G,4B 偏光フィルム
5 ダイクロックプリズム
6 投射レンズ
7 スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶表示素子の入射側に近接配置されてなり、厚さの異なる複数枚の光学異方性結晶板が貼り合わされ、入射光線を常光線と異常光線とに分光し、これら両光線間に位相差を与えることによって上記入射光線の光学特性を変化させるプロジェクタ用位相板において、前記貼り合わせられた位相板の厚みを0.7mm以上4mm以下としたことを特徴とするプロジェクタ用位相板。
【請求項2】
液晶表示素子の入射側に近接配置されてなり、厚さの異なる複数枚の光学異方性結晶板が貼り合わされ、入射光線を常光線と異常光線とに分光し、これら両光線間に位相差を与えることによって上記入射光線の光学特性を変化させるプロジェクタ用位相板において、前記位相板のいずれか片端主面に放熱基板が貼り合わせられて位相板体を構成してなることを特徴とするプロジェクタ用位相板。
【請求項3】
前記貼り合わせられた位相板体の厚みを0.7mm以上4mm以下としたことを特徴とする特許請求項2記載のプロジェクタ用位相板。
【請求項4】
前記位相板と放熱基板が水晶基板からなり、前記位相板は2枚の水晶基板がお互いに直交する方向に光軸が配置された状態で貼り合わせられ、これらのいずれかの光軸方向から45°回転した方向に光軸が配置された状態で前記位相板のいずれか主面に放熱基板に使われる水晶基板が貼り合わせられてなることを特徴とする特許請求項2、または特許請求項3記載のプロジェクタ用位相板。
【請求項5】
前記貼り合わせられた位相板の厚みを0.1mm以上0.5mm以下としたことを特徴とする特許請求項2〜4のうちいずれか1項記載のプロジェクタ用位相板。
【請求項6】
前記位相板の両端主面に、当該位相板より厚みの大きな放熱基板が貼り付けられて位相板体を構成してなることを特徴とする特許請求項5記載のプロジェクタ用位相板。
【請求項7】
特許請求項1〜6のうちいずれか1項記載のプロジェクタ用位相板と、光源と、透過した光を画像情報に応じて光強度変調する液晶表示素子と、その変調された光学情報を投射する投射手段とを具備してなる液晶プロジェクタであって、前記液晶表示素子の入射側には、前記プロジェクタ用位相板が近接配置されてなることを特徴とする液晶プロジェクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−91388(P2006−91388A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276277(P2004−276277)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】