説明

プロスタサイクリン(PGI2)産生増強剤

【課題】血小板凝集活性の抑制や、血流促進作用を有するプロスタサイクリン(PGI)の血管内皮細胞における産生を効果的に増強する、血管内皮細胞に対するPGI産生増強剤を提供すること、及び、該血管内皮細胞に対するPGI産生増強活性を有する生理活性画分を製造する方法を提供すること。
【解決手段】A型プロアントシアニジン生理活性成分を有効成分とする血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン(PGI)産生増強剤からなり、該A型プロアントシアニジン生理活性成分としては、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料から精製・分離されたA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分が挙げられる。該A型プロアントシアニジンを含有する植物材料としては、ピーナッツ種皮(渋皮)等を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A型プロアントシアニジン生理活性成分を有効成分とする血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン(PGI)産生増強剤、及び血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強活性を有する生理活性画分の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮細胞は血管内壁の単層に存在する細胞で、直接血液と接触し、血液凝固・線溶活性、血圧調節、脂質代謝、血管壁への血液細胞の接着や透過などに関わる重要な生理活性物質を産生・分泌する細胞として知られている(非特許文献1)。血管内皮細胞は、血小板機能、凝固・線溶系を制御し、血管内で血栓が形成されないように働いているが、血管障害が起こると血管内に血栓が形成され、動脈硬化症、心筋梗塞、脳梗塞、脳卒中など重篤な病気に繋がる恐れがある。血管内皮細胞は、血液凝固の初期反応である血小板凝集活性を強力に抑制するプロスタサイクリン(PGI)を産生し、血栓形成を抑えることが知られている(非特許文献2)。
【0003】
プロスタサイクリン(PGI)は、血管内皮細胞膜より遊離したアラキドン酸がシクロオキシゲナーゼによって、プロスタグランジンG2(PGG)、そして、プロスタグランジンH2(PGH)に変換され、PGI合成酵素によりPGIに変化する。PGIは強力な血小板凝集阻害活性を有しており、健常な血管内皮細胞からはPGIが常時産生されることが、血管内で血栓が生じない理由のひとつと考えられている(非特許文献2)。このようにPGIは、血栓のような血行障害を予防・改善し、血流を促進する機能を有することから、PGI産生細胞である血管内皮細胞のPGI産生を刺激することにより、血流促進、血行障害の予防・改善、及び血行障害に起因する疾患の予防・改善を図る方法が開示されている。
【0004】
例えば、ニシヨモギ、リュウキュウヨモギ、又はカワラヨモギのようなヨモギ属植物の抽出物、バンジロウ(グァバ:フトモモ科)或いはボタンボウフウ(セリ科)植物の抽出物、又はその処理物等をプロスタサイクリン(PGI)生成促進剤として用いて、肺高血圧症、高血圧症、血栓症などの予防・改善を図ることが開示されている(特許文献1)。また、紅麹を主成分とする麹の発酵抽出物をPGI生成促進剤として用いて、肺高血圧症、高血圧症、血栓症などの予防・改善を図ることが開示されている(特許文献2)。更に、エルダーベリー(西洋ニワトコ:スイカズラ科)の抽出物を、PGI産生増加剤として用いて、血流促進や、血行障害の予防・改善や、血行障害に起因する疾患の予防・改善を図ることが開示されている(特許文献3)。
【0005】
一方で、「縮合型タンニン」或いは「非加水分解性タンニン」と呼ばれる化合物で、植物体に含まれるポリフェノールの一種として、プロアントシアニジンが知られている。プロアントシアニジンは、一般的には単量体であるカテキン又はエピカテキン等のフラバン−3−オール構造を有する化合物を構成単位として、複数の分子が縮重合した化学構造を有している。結合様式の違いから、大きくはB型(単位間の炭素結合が、4β→8または4β→6のみ)及びA型(単位間結合が4β→8及び2β→O→7、または4β→6及び2β→O→7の結合を少なくとも1つ有する)に分けられる(非特許文献3,4)。B型プロアントシアニジンは、ブドウ種子、リンゴ、松樹皮、カカオなど多くの植物体に存在していることが知られている(非特許文献5−8)。一方、A型プロアントシアニジンは、B型プロアントシアニジンに比べて、含有する植物体は非常に限られており、クランベリー、シナモン、ピーナッツ種皮など数種類のみ報告されている(非特許文献6、9−11)。
【0006】
プロアントシアニジンの血管内皮細胞に対する生理機能として、いくつかの報告がなされている。プロアントシアニジン(主にB型)とエピカテキンを含むチョコレートを健康な人に食べてもらったところ、血漿中エピカテキン量が増加し、血管内の血液流動性が改善したことが報告されている(非特許文献12)。また、カカオを摂取した時に、血小板の凝集活性が低下することが報告されている(非特許文献13)。Aldiniらは、ブドウ種子から抽出したプロアントシアニジン(B型)が、ヒト血管内皮細胞のPGI産生を促進すると報告している(非特許文献14)。Schrammらは、高含量のプロアントシアニジン(主にB型)を含有したチョコレートを摂取した人では、血漿中のPGI産生が増加し、また、培養ヒト血管内皮細胞にカカオから抽出したプロアントシアニジン(主にB型)を処理したところ、有意にPGI産生の増加が見られたと報告している(非特許文献15)。このことから、Schrammらは、B型プロアントシアニジンが人の血管内皮細胞に作用することでPGIの産生量が増加し、その結果、血漿中の血小板凝集活性が抑制されたと推察している。
【0007】
しかしながら一方で、B型プロアントシアニジンを含むカカオを摂取したところ、30分で血漿中にプロシアニジンダイマー(2量体)を検出できたが、その濃度は、カテキンやエピカテキン(単量体)に比べてかなり低いことが明らかとなり、B型プロシアニジンは腸管吸収が悪いことの可能性が指摘されている(非特許文献16)。同様の報告として、カテキン、エピカテキン、プロシアニジンB3をラットに経口投与したところ、カテキン、エピカテキンは血漿、尿中に検出できたが、プロシアニジンB3は検出されなかった(非特許文献17)。また、B型プロアントシアニジンは、酸性やアルカリ性条件下で分解されやすいことから、胃や腸管内で分解されることも考えられる(非特許文献18)。そしてまた、プロアントシアニジンに比べて吸収されやすいとされるカテキン、エピカテキンについても、消化管の粘膜上皮細胞や肝臓においてグルクロン酸や硫酸などによる抱合化反応やメチル化反応を受けて活性が低下することも指摘されている(非特許文献19)。
【0008】
上記のとおり、プロアントシアニジンについて、B型プロアントシアニジンは、ブドウ種子、リンゴ、松樹皮、カカオなど多くの植物体に存在していることが知られており、一方、A型プロアントシアニジンは、クランベリー、シナモン、ピーナッツ種皮など数種類の非常に限られた植物体にのみ存在していることが報告されているが、A型プロアントシアニジンの製造方法については、ピーナッツ種皮(渋皮)からの精製・分離手段による製造方法が知られている。
【0009】
ピーナッツ渋皮からのA型プロアントシアニジンの工業的な抽出法および精製法に関しては、溶媒抽出法、発酵抽出法、合成吸着剤による吸着処理法などが用いられてきた。溶媒抽出法としては、例えば、水、熱水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、プロピレングリコールのような低級アルコール類;エチルエーテル、ジオキサンのようなエーテル類、アセトンのようなケトン類等の抽出溶媒を用いて抽出する方法が知られている(特許文献4,5,6〜7、8〜11)。発酵抽出法としては、例えば、酵母を添加発酵させ、抽出分離する方法が知られている(特許文献12、13)。また、合成吸着剤による吸着処理法としては、ピーナッツ渋皮を熱水抽出した抽出液を、ダイアイオンHP20に吸着させた後、アセトンで溶出し、更に、水及びエタノールに可溶の成分を分取する方法が知られている(特許文献14)。
【0010】
【特許文献1】特開2005−350432号公報。
【特許文献2】特開2006−248976号公報。
【特許文献3】特開2007−39445号公報。
【特許文献4】再表03/020295号公報。
【特許文献5】特許3472172号公報。
【特許文献6】特許3217278号公報。
【特許文献7】特開2004−269487号公報。
【特許文献8】特開2001−247428号公報。
【特許文献9】特開2004−217558号公報。
【特許文献10】特開2004−277350号公報。
【特許文献11】特開2005−237203号公報。
【特許文献12】特開2004−329061号公報。
【特許文献13】特開平9−221484号公報。
【特許文献14】特許3010258号公報。
【非特許文献1】室田誠逸、培養血管内皮細胞の特性と機能分化、代謝、25:3−10、1988。
【非特許文献2】越智宏、室田誠逸、血管内皮細胞と血小板―プロスタグランジンを中心に、実験 医学、6:42−47、1988。
【非特許文献3】Haslam E. The Flavonoids, Advances in Research since 1975, Chapman & Hall, London (1982), p.417。
【非特許文献4】西岡五夫、化学と生物Vol 24, No 7, 428-439, 1986。
【非特許文献5】BourzeixM et al., Bulletin de I’ O.I.V., 1172:669-670, 1986。
【非特許文献6】Thompson RS et al., J Chem Soc Perkin Trans., 1:1387, 1972。
【非特許文献7】Masquelier J, Natural products as medicinal agents. Planta Med., 242-256, 1980。
【非特許文献8】滝沢登志男、最近のカカオポリフェノール研究、明治製菓研究年報、37:1−14、1998。
【非特許文献9】木村進ら、加藤博通編著、食品の変色の化学、光琳、50−54、1995。
【非特許文献10】Karchesy JJ and Hemingway RW, Condensed tannins: (4β-8;2β-0-7)-linked procyanidins in Arachis hypogaea L. J Agric Food Chem., 34: 966-970,1986。
【非特許文献11】Lou H et al., A-type proanthocyanidins from peanut skins. Phytochemistry, 51: 297-308, 1999。
【非特許文献12】Engler MB et al., Flavonoid-rich dark chocolate improves endothelial function and increases plasma epicatechin concentrations in healthy adults. J Am Coll Nutr., 23: 197-204, 2004。
【非特許文献13】Rein D et al., Cocoa inhibits platelet activation and function. Am J Clin Nutr., 72: 30-35,2000。
【非特許文献14】Aldini G et al., Procyanidinsfrom grape seeds protect endothelial cells from peroxynitritedamage and enhance endothelial-dependent relaxation in human artery: new evidences for cardio-protection. Life Sciences 73: 2883-2898, 2003。
【非特許文献15】Schramm DD et al., Chocolate procyanidins decrease the leukotrien- prostacyclin ratio in human aortic endothelial cells. Am J Clin Nutr., 73: 36-40, 2001。
【非特許文献16】Holt RR et al., Procyanidin dimer B2〔epicatechin-(4β-8)-epicatechin〕in human plasma after the consumption of a flavanol-rich cocoa. AM J Clin Nutr., 76: 798-804, 2002。
【非特許文献17】Donovan JL et al., Procyanidins are not bioavailablein rats fed a single meal containing grapeseedextract or the procyanidin dimerB3. Br J Nutr., 87: 299-306, 2002。
【非特許文献18】Zhu QY et al., Stability of flavan-3-ols epicatechin and catechin and related dimeric procyanidinsderived from cocoa. J Agric Food Chem., 50: 1700-1705, 2002。
【非特許文献19】宮沢陽夫、天然抗酸化物質の吸収と代謝(解説)、化学と生物、38:104−114、2000。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、血小板凝集活性の抑制や、血流促進作用を有するプロスタサイクリン(PGI)の血管内皮細胞における産生を効果的に増強する、血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤を提供すること、及び、該血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強活性を有する生理活性画分を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、A型プロアントシアニジンの生理活性について、鋭意検討する中で、本発明者らのラットを用いた予備的試験において、A型プロアントシアニジン画分は、腸管吸収に優れており、かつ殆どが抱合化などの反応を受けずにそのままの形で血漿中に存在していることが判明し、A型プロアントシアニジンについて、生体内での高い生理機能が期待された。そこで、本発明者らが更にこれら成分の生理機能の探索を推し進めた結果、該生理活性成分が、血管内皮細胞におけるプロスタサイクリン(PGI)産生を効果的に増強する活性を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明においては、A型プロアントシアニジンの生体内での生理機能について探索する中で、生体内で多くの生理機能を有するヒト血管内皮細胞について着目し、その中で血管内皮細胞において産生される、血小板凝集活性を抑制する(抗血栓性)物質であるPGIの産生について注目した。プロアントシアニジンは植物ポリフェノールの一種で、化学構造の違いでA型とB型に大別され、B型については多くの知見があるが、A型については今まであまり良く知られておらず、A型プロアントシアニジンが血管内皮細胞の生理機能に及ぼす影響や、血管内皮細胞が産生するPGI産生に与える効果については、これまで報告がない。
【0014】
B型プロアントシアニジンは、酸性やアルカリ性で不安定であり、腸管吸収が良くないことなどが分かっており、生体内に投与して生理機能があるかどうか疑問視する報告もある。一方、A型は本発明者らが先に行った動物試験において、ラット血中に修飾や分解を受けないで存在することが確認されている(特願2006−345941号等)。本発明において、A型プロアントシアニジンに、血管内皮細胞のPGI産生の誘導作用があることが見い出され、また、血中への吸収性や安定性に優れていることから、生体内に投与した時に、血管内皮細胞のPGI産生を有効に誘導することができる。特に、本発明の製造方法で製造されたA型プロアントシアニジン画分は、プロスタサイクリン産生促進物質として知られるアラキドン酸に匹敵する効果を有していた。
【0015】
すなわち、本発明は、A型プロアントシアニジン生理活性成分を有効成分とする血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン(PGI)産生増強剤からなり、該A型プロアントシアニジン生理活性成分としては、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料から精製・分離されたA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分が挙げられる。該A型プロアントシアニジンを含有する植物材料としては、ピーナッツ種皮(渋皮)を特に好ましい植物材料として挙げることができる。
【0016】
本発明において、血管内皮細胞に対するPGI産生増強剤に用いられるA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分としては、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料を、熱水及び/又はアルコールを抽出溶媒として用い、抽出後、A型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分を精製・分離し、該画分を用いることができる。
【0017】
例えば、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料からの熱水抽出液を、ポリスチレン系合成吸着剤及びエタノールを用いた吸着・溶出処理によりA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分を精製・分離する。該ポリスチレン系合成吸着剤としては、樹脂細孔半径38〜80Å(オングストローム)のポリスチレン系合成吸着剤を用い、溶出液としては、60〜100容量%のエタノールを用いて行うことができる。
【0018】
また、本発明において、血管内皮細胞に対するPGI産生増強剤に用いられるA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分として、本発明において開示された、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料のエタノール及び酢酸エチル抽出液を、エタノールを移動相とするLH20ゲル濾過クロマトグラフィーにより精製・分離したA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分を用いることができる。該生理活性画分は、HPLCプロファイル分析によって検出される2つの主要ピーク画分に相当するプロアントシアニジンA1及び/又はA2からなる。
【0019】
更に、本発明は、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料からエタノールを抽出溶媒として抽出した抽出液を、酢酸エチルを用いて抽出し、該抽出液をエタノールを移動相として、LH20ゲル濾過クロマトグラフィーにより精製し、HPLCプロファイル分析によって検出される2つの主要ピーク画分に相当するプロアントシアニジンA1及び/又はA2を分離することを特徴とする血管内皮細胞に対するPGI産生増強活性を有する生理活性画分の製造方法を包含する。かかるPGI産生増強活性を有する生理活性画分の製造に用いる好ましいA型プロアントシアニジンを含有する植物材料としては、ピーナッツ種皮(渋皮)を挙げることができる。該生理活性画分の製造方法によって製造されたものは、より精製度が高く、特に優れたPGI産生増強活性を有する。
【0020】
本発明の血管内皮細胞に対するPGI産生増強剤により、血小板凝集活性を抑制し、血流を促進することができる。該血管内皮細胞におけるPGI産生の増強により血行障害及び/又は血栓症の予防又は改善を図ることができる。
【0021】
すなわち具体的には本発明は、(1)A型プロアントシアニジン生理活性成分を有効成分とする血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤や、(2)A型プロアントシアニジン生理活性成分が、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料から精製・分離されたA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分であることを特徴とする上記(1)記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤や、(3)A型プロアントシアニジンを含有する植物材料が、ピーナッツ種皮であることを特徴とする上記(2)記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤や、(4)A型プロアントシアニジンを含有する植物材料からのA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分の精製・分離を、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料を、熱水及び/又はアルコールを抽出溶媒とする抽出により行なうことを特徴とする上記(2)又は(3)記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤からなる。
【0022】
また本発明は、(5)A型プロアントシアニジンを含有する植物材料からのA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分の精製・分離を、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料のエタノール及び酢酸エチル抽出液を、エタノールを移動相とするLH20ゲル濾過クロマトグラフィーにより行なうことを特徴とする上記(4)記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤や、(6)A型プロアントシアニジン生理活性成分が、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料から請求項5記載の精製方法で分離されたHPLCプロファイル分析によって検出される2つの主要ピーク画分に相当するプロアントシアニジンA1及び/又はA2であることを特徴とする上記(2)記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤や、(7)血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強が、血小板凝集活性を抑制するためのものであることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤や、(8)血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強が、血流を促進するためのものであることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤からなる。
【0023】
さらに本発明は、(9)血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強が、血行障害及び/又は血栓症の予防又は改善のためのものであることを特徴とする上記(7)又は(8)記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤や、(10)血管内皮細胞が、ヒト血管内皮細胞であることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれか記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤や、(11)A型プロアントシアニジンを含有する植物材料からエタノールを抽出溶媒として抽出した抽出液を、酢酸エチルを用いて抽出し、該抽出液をエタノールを移動相として、LH20ゲル濾過クロマトグラフィーにより精製し、HPLCプロファイル分析によって検出される2つの主要ピーク画分に相当するプロアントシアニジンA1及び/又はA2を分離することを特徴とする血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強活性を有する生理活性画分の製造方法や、(12)A型プロアントシアニジンを含有する植物材料が、ピーナッツ種皮であることを特徴とする上記(11)記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強活性を有する生理活性画分の製造方法からなる。
【発明の効果】
【0024】
プロスタサイクリン(PGI)は、血栓のような血行障害を抑制し、血流を促進する等の機能を有し、健常な血管内皮細胞からはPGIが常時産生され、血行を健全な状態に保っている。血管内皮細胞におけるPGI産生に障害が発生すると、血栓や、血行障害に起因する疾患を引き起こす。そこで、本発明は、A型プロアントシアニジン生理活性成分を有効成分とする、血管内皮細胞におけるPGI産生を効果的に増強するPGI産生増強剤を提供する。該PGI産生増強剤による血管内皮細胞に対するPGI産生増強作用により、該血管内皮細胞におけるPGI産生を増強して、血小板の凝集(血栓の生成)活性を抑制し、血流を促進して、血行障害の予防・改善、及び血行障害に起因する疾患の予防・改善を図ることができる。
【0025】
本発明のPGI産生増強剤の有効成分であるA型プロアントシアニジンは、腸管吸収もよく、血中でも修飾や分解を受けないで存在することができるので、PGI産生増強剤として、生体内へ投薬し、その薬理機能を発揮するための優れた性質を有している。また、特に、本発明の製造方法で製造された血管内皮細胞に対するPGI産生増強活性を有する生理活性画分は、強力なPGI産生活性を有し、PGI産生促進物質として知られているアラキドン酸に匹敵する効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、A型プロアントシアニジン生理活性成分を有効成分とする血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン(PGI)産生増強剤からなる。該A型プロアントシアニジン生理活性成分としては、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料から精製・分離されたA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分を用いることができる。
【0027】
A型プロアントシアニジンは、クランベリー、シナモン、ピーナッツ種皮などに存在していることが知られており、本発明においては、これらの植物材料をA型プロアントシアニジンを含有する植物材料として用いることができるが、A型プロアントシアニジンを精製・分離するに際して、特に好ましい植物材料としては、ピーナッツ種皮(渋皮)を挙げることができる。
【0028】
本発明において、ピーナッツ種皮(渋皮)等の植物材料からA型プロアントシアニジンを精製・分離する手段は、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料から、血管内皮細胞に対するPGI産生増強活性を有するA型プロアントシアニジン生理活性成分を精製・分離する手段である限り特に限定はされないが、ピーナッツ種皮(渋皮)等からのA型プロアントシアニジンの抽出法及び精製法として公知のA型プロアントシアニジンの精製・分離手段を適用することができる。
【0029】
ピーナッツ渋皮からのA型プロアントシアニジンの工業的な抽出法および精製法に関しては、溶媒抽出法、発酵抽出法、合成吸着剤による吸着処理法などが用いられてきた。溶媒抽出法としては、例えば、水、熱水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、プロピレングリコールのような低級アルコール類;エチルエーテル、ジオキサンのようなエーテル類、アセトンのようなケトン類等の抽出溶媒を用いて抽出する方法が知られている(特許文献4,5,6〜7、8〜11)。発酵抽出法としては、例えば、酵母を添加発酵させ、抽出分離する方法が知られている(特許文献12、13)。
また、合成吸着剤による吸着処理法としては、ピーナッツ渋皮を熱水抽出した抽出液を、ダイアイオンHP20に吸着させた後、アセトンで溶出し、更に、水及びエタノールに可溶の成分を分取する方法が知られている(特許文献14)。これらの公知のA型プロアントシアニジンの精製・分離手段を適用することができる。
【0030】
これら公知の方法以外にも、特にA型プロアントシアニジンオリゴマーを精製・分離する手段として、オリゴマー類の吸着に適した樹脂細孔半径を有するポリスチレン系合成吸着剤に、ピーナッツ種皮(渋皮)熱水抽出液を添加し、洗浄後に適当な濃度の含水エタノール溶液で溶出させることが挙げられる。この場合に適する樹脂細孔半径としては、38〜80Å(オングストローム)で、一例としてセパビーズSP825、SP850(三菱化学製)等が好ましい吸着剤として挙げられる。また、適する含水エタノール溶液の濃度としては、60〜100容量%エタノールが好ましく用いられる。
【0031】
しかしながら、本発明者らは、上記手法とは異なり、本発明において、ピーナッツ種皮(渋皮)のようなA型プロアントシアニジンを含有する植物材料から、強力な血管内皮細胞に対するPGI産生増強活性を有する、精製度の高いA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分を精製・分離する方法を開発した。該A型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分の精製・分離方法の基本的構成は、ピーナッツ種皮(渋皮)のようなA型プロアントシアニジンを含有する植物材料を、例えば70%エタノールのようなエタノール溶液を抽出溶媒として用いて得られた抽出液を、更に酢酸エチルを用いて抽出し、該抽出液をエタノールを移動相として、LH20ゲル濾過クロマトグラフィーにより精製し、HPLCプロファイル分析によって検出される2つの主要ピーク画分に相当するプロアントシアニジンA1及び/又はA2を分離することからなる。該精製・分離方法によって取得された生理活性画分は、血管内皮細胞に対するPGI産生の強力な誘導作用を有し、該活性はPGI産生促進物質として知られるアラキドン酸に匹敵する効果を有する。
【0032】
本発明の血管内皮細胞に対するPGI産生増強剤は、医薬品或いは飲食品等に添加して、適宜の形態で投薬することができる。医薬品或いは飲食品等に有効成分として含まれるA型プロアントシアニジンの含有量は、本発明の作用、即ち、PGI産生増強により、血流促進、血行障害の予防・改善、又は血行障害に起因する疾患の予防・改善等が達成される限り特に制限はなく、適宜決定することができる。なお、本発明の各種製剤には、有効成分の作用に実質的な影響を及ぼさない限り、当業者に公知のその他の各種成分が含まれていても良い。
【0033】
本発明のPGI産生増強剤を医薬品の形態で投与する場合は、例えば錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などの固形剤、又は、注射剤などの液剤など適宜の形態で調製することができる。これらの医薬品の製剤化には通常用いられる結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調整剤などを適宜使用してもよい。該医薬品製剤は、経口的に或いは非経口的に、適宜に使用される。すなわち、経口、静脈、腹腔内の投与などによって、生体内に投与することができる。医薬品における有効成分(A型プロアントシアニジン)の投与量は、その種類、その剤型、また患者の年令、体重、適応症状などによって適宜設定すればよい。
【0034】
また、本発明のPGI産生増強剤は、飲食品に添加して、飲食品の形態で投与することができる。本発明の飲食品の形態としては、例えば、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、又は、液体状の任意の形態に調製した飲食品の形態で生体内に投与することができる。これらには、食品中に含有することが認められている当業者に公知の各種物質、例えば、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調整剤などを適宜含有させることができる。飲食品に対するA型プロアントシアニジンの添加量は、血管内皮細胞に対するPGI産生増強活性を考慮して、適宜決定することができる。特に、特定保健用食品、機能性食品、または健康志向食品等として利用する場合には、本発明の有効成分を所定の作用が十分発揮されるような量で含有させることが好ましい。
【0035】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
[ピーナッツ種皮からのA型プロアントシアニジン画分の抽出・精製及び分析・同定]
【0037】
<材料と実験方法>
(i.ピーナッツ種皮からのA型プロアントシアニジン画分の抽出及び精製方法)
ピーナッツ種皮100gを入れた三角フラスコにn−ヘキサン300mlを加えて振り混ぜ静置し、溶媒を除去する操作を3回繰り返して種皮を脱脂した。その後、種皮はドラフト内で排気しながら、自然乾燥を行なった。この乾燥種皮に70%エタノール(v/v)250mlを加えて、攪拌しながら室温で2時間抽出を行なった。抽出液は、4,000回転で10分間遠心分離して上澄み液を分取した後、残渣に対して同様の操作を2回繰り返し、上澄み液を合わせて一緒にした。この上澄み液は、40℃以下で減圧濃縮した後、分液ロートに移し、等容量の酢酸エチルを加えて混合振とうした。
【0038】
静置後に酢酸エチル層を分取し、以下、同様の操作を3回行い、全ての酢酸エチル層を合わせて一緒にした。酢酸エチル層は無水硫酸ナトリウムで脱水し、40℃以下で減圧濃縮した後、凍結乾燥を行なった(収量14.6g)。回収した酢酸エチル画分2.83gを、LH20(ファルマシア製ゲルろ過剤)を充填したカラム(径2.5cm×高さ43cm、容量211ml)に添加し、エタノールを移動相として溶出を行なった。ピークの検出は紫外部(UV)吸収280nmで行ない、最初のピーク(Fr.1画分)が溶出した後、第2のピーク(Fr.2画分)を分取し、溶媒を40℃以下で減圧濃縮した後、凍結乾燥を行ない、精製画分を得た(収量384mg)。
【0039】
(ii.ピーナッツ種皮から分離・精製した成分の分析と同定)
i.の操作で得たピーナッツ種皮からの分離・精製画分(Fr.2)についての成分分析と同定を以下の方法で行った。
【0040】
(1)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるピーク成分プロファイル分析:
Fr.2画分はHPLC(日本分光製)により成分分離を行ない、検出されたピーク成分は標準物質(カテキン、エピカテキン等)との保持時間の比較及びフォトダイオードアレイ検出器によるUVスペクトルパターンによる解析を行なった。HPLCには、カラムにInertsil ODS-3(φ4.6×150mm)(GLサイエンス社製)を用い、溶出はA液(2.5%酢酸)及びB液(アセトニトリル/2.5%酢酸=80/20)の2液グラジェント法を使用し、35℃、流速0.6ml/minの条件で行なった。グラジェントは、最初の8分間をB液濃度が移動相全体の3%になるように維持してから、次の42分間でB液濃度を50%に上昇させ、その次の5分間でB液濃度を100%に上昇後5分間維持することにより行なった。検出はUV280nmで行ない、スペクトルパターン解析のためのUV吸収波長範囲は、200〜350nmとした。
【0041】
(2)高速液体クロマトグラフィー−マススペクトロメトリー(LC−MS)による質量分析:
HPLCにより検出されたFr.2画分のピーク成分をLC−MS(マイクロマス社製;ZabSpecQ)を用いて質量分析を行った。LC−MSは、カラムにDevelosil-ODS-MG(φ2.0×150mm)(日本分光製)を用い、溶出はA液(1%酢酸)及びB液(1%酢酸含有アセトニトリル)の2液グラジェント法(B液濃度を20分間で20%から45%に上昇)を使用し、流速0.2ml/minの条件で行なった。イオン化はESI(エレクトロスプレー法)を用い、負イオンモード、質量範囲(m/z):100〜1100で検出を行なった。
【0042】
(3)NMRによる成分の同定
HPLCを用いてFr.2画分中の主なピーク成分を分取し、精製した後、NMR(プロトンH ,カーボン13C)法により成分の同定を行った。
【0043】
<結果>
(A.ピーナッツ種皮酢酸エチル抽出物のゲルろ過クロマトグラフィー分析)
実験例1のi.で得られた酢酸エチル抽出物をLH20ゲルろ過クロマトグラフィーで精製した時の成分溶出パターンを図1(ピーナッツ種皮酢酸エチル抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析)に示した。UV280nmの吸収において2つのピーク画分(Fr.1とFr.2)が得られた。Fr.1画分については、HPLCによる標準物質との比較及びUVスペクトルパターン解析から、カテキン及びエピカテキン等の単量体を主とする画分であると考えられた。Fr.2画分の成分については、カテキン等の標準物質とは異なっていたことから、成分を特定する為に、HPLCによる成分プロファイルの分析の他に、LC−MSによる質量分析、NMRによる成分同定を行なった。
【0044】
(B.ピーナッツ種皮の分離・精製画分(Fr.2)の成分分析と同定)
HPLCによるFr.2画分の成分プロファイル分析の結果を図2に示した[図中、符号a〜hは、次の成分を示す:a:プロアントシアニジンダイマー(B型);b:プロアントシアニジンダイマー(A型);c:プロアントシアニジン類(未同定);d:プロアントシアニジン類(未同定);e:プロアントシアニジントリマー(A型);f:プロアントシアニジントリマー(A型);g:プロシアニジンA1;h:プロシアニジンA2]。この画分には、主ピークの2つの成分(gとh)とごく小さなピーク成分群(a〜f)が検出された。UVスペクトルパターン分析の結果より、これらのピークはいずれもプロアントシアニジンのパターンを示しており、マススペクトル分析の結果から2量体(A型は分子量576、B型は578)以上のオリゴマー成分と考えられた。また、主なピークである2成分(g,h)を分取してNMRにて解析を行ったところ、2成分ともA型プロアントシアニジン(2量体)であり、それぞれプロアントシアニジンA1(g)及びプロアントシアニジンA2(h)と同定された。これらの結果から、Fr.2画分に含まれるプロアントシアニジン成分の大半は、A型プロアントシアニジン(A1とA2)であることがわかった。
【実施例2】
【0045】
[血管内皮細胞に対するA型プロアントシアニジン画分の効果]
【0046】
<材料と実験方法>
(iii.ヒト臍帯由来血管内皮細胞(HUVEC)の継代培養法)
凍結保存していたHUVEC細胞(旭テクノグラス社製)を37℃で速やかに融解し、1,500回転、5分間の遠心操作により細胞凍結保護液を除去した。増殖培地(MCDB107+10ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子;bFGF+10μg/mlヘパリン+10%胎児ウシ血清;FBS)で細胞浮遊液を調製し、増殖培地5mlの入ったI型コラーゲン(10μg/ml)処理したT−25培養フラスコ(25cm;NUNC社製)中に、40〜50×10個の細胞を植え込み3〜4日間培養し、ほぼ飽和状態(2〜2.5×10個)にまで増殖させた。細胞はトリプシン液(0.05%トリプシン+0.02%EDTAを含むリン酸緩衝液)で分散させ、2個のコラーゲン処理したT−25培養フラスコに分割(1:2分割)して、3〜4日毎に継代培養を行なった。試験には8〜12継代した細胞を用いた。全ての実験の培養条件は、37℃、5%COin airのインキュベーター内で行なった。
【0047】
(iv.HUVECのPGI産生に対するA型プロアントシアニジン画分(Fr.2)の効果)
継代培養したHUVEC細胞は、まず、Ca2+,Mg2+不含リン酸緩衝液(PBS−)で2回洗浄し、トリプシン液処理を行なって細胞を分散させた後、血球計算盤で細胞数を計測した。I型コラーゲン(10μg/ml)処理した24穴培養用プレート(CELLSTAR社製)に4〜8×10個の細胞を植え込み、細胞数が5〜10×10個になるまで、3〜4日間培養した。次に、培地を吸引除去し、PBS で1回細胞を洗浄した後、各種テストサンプルの入った1mlの検定用成分既知培地(MCDB107)に培地交換し、30分培養後、500μlの培養上清液を回収した。回収後、残りの培地を吸引除去し、再度1回PBS−で洗浄後、500μlのトリプシン液で細胞を分散させ、コールターカウンター(コールター社製)で細胞数を計測した。各サンプルでの細胞数は、5穴の培養ウェルのデータを平均値として表した。
【0048】
5穴の培養ウェルから回収した培養上清は別々の凍結用バイアルに移して定量試験を行なうまで−30℃で凍結保存した。PGIは不安定な物質で、速やかに安定な6−keto−prostagrandin F1α(6−keto−PGF1α)に変換することが知られている。従って、6−keto−PGF1αを測定するELISAキット(OXFORD BIOMEDICAL RESEARCH社製)を用いてHUVEC細胞が産生するPGI量の定量を行なった。6−keto−PGF1α量の定量は、キットのマニュアルに従って行なった。抗原−抗体反応で発色させたサンプルは、マイクロプレートリーダー(BIO RAD社製)を用いて650nmの吸収を測定することにより6−keto−PGF1α量を定量した。計測は1サンプルにつき5回行い、平均値±SEMとして表した。
【0049】
<結果>
(C.ヒト血管内皮細胞(HUVEC)に対するA型プロアントシアニジン画分(Fr.2)の6−keto−PGF1α産生への効果)
実施例1の方法で得られたA型プロアントシアニジン画分(Fr.2)のそれぞれの濃度(0,0.25,0.5,1.0,2.5,5.0μg/ml)で処理した培養上清液について、6−keto−PGF1αの産生量を調べた(図3:ヒト血管内皮細胞(HUVEC)に対するA型プロアントシアニジンの6−keto−PGF1αの産生への効果)。
【0050】
コントロールのA型プロアントシアニジン(Fr.2)無添加培地では、6−keto−PGF1αの産生は見られなかった。しかし、0.25μg/mlの低い濃度でも0.236μg/mlの産生が見られ、さらに濃度に依存して6−keto−PGF1αの産生量が増加し、A型プロアントシアニジン(Fr.2)2.5μg/mlで最大値(0.906μg/ml)となり、PGI産生促進作用が知られているアラキドン酸(AA,20μM)添加による6−keto−PGF1α産生量(0.89μg/ml)と同等の高い値となった。しかし、さらに高い濃度(5μg/ml)では、6−keto−PGF1α産生が抑制されることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のピーナッツ種皮からのA型プロアントシアニジン画分の抽出・精製及び分析・同定についての実施例において、ピーナッツ種皮酢酸エチル抽出物のゲルろ過クロマトグラフィー分析の結果を示す図である。
【図2】本発明のピーナッツ種皮の分離・精製画分(Fr.2)の成分分析と同定についての実施例において、HPLCによるFr.2画分の成分プロファイル分析の結果を示す図である。
【図3】本発明のヒト血管内皮細胞(HUVEC)に対するA型プロアントシアニジン画分(Fr.2)の6−keto−PGF1α産生への効果についての実施例において、A型プロアントシアニジン画分(Fr.2)のそれぞれの濃度(0,0.25,0.5,1.0,2.5,5.0μg/ml)で処理した培養上清液について、6−keto−PGF1αの産生量を調べた結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A型プロアントシアニジン生理活性成分を有効成分とする血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤。
【請求項2】
A型プロアントシアニジン生理活性成分が、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料から精製・分離されたA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分であることを特徴とする請求項1記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤。
【請求項3】
A型プロアントシアニジンを含有する植物材料が、ピーナッツ種皮であることを特徴とする請求項2記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤。
【請求項4】
A型プロアントシアニジンを含有する植物材料からのA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分の精製・分離を、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料を、熱水及び/又はアルコールを抽出溶媒とする抽出により行なうことを特徴とする請求項2又は3記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤。
【請求項5】
A型プロアントシアニジンを含有する植物材料からのA型プロアントシアニジンオリゴマーを主要成分とする生理活性画分の精製・分離を、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料のエタノール及び酢酸エチル抽出液を、エタノールを移動相とするLH20ゲル濾過クロマトグラフィーにより行なうことを特徴とする請求項4記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤。
【請求項6】
A型プロアントシアニジン生理活性成分が、A型プロアントシアニジンを含有する植物材料から請求項5記載の精製方法で分離されたHPLCプロファイル分析によって検出される2つの主要ピーク画分に相当するプロアントシアニジンA1及び/又はA2であることを特徴とする請求項2記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤。
【請求項7】
血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強が、血小板凝集活性を抑制するためのものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤。
【請求項8】
血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強が、血流を促進するためのものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤。
【請求項9】
血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強が、血行障害及び/又は血栓症の予防又は改善のためのものであることを特徴とする請求項7又は8記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤。
【請求項10】
血管内皮細胞が、ヒト血管内皮細胞であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強剤。
【請求項11】
A型プロアントシアニジンを含有する植物材料からエタノールを抽出溶媒として抽出した抽出液を、酢酸エチルを用いて抽出し、該抽出液をエタノールを移動相として、LH20ゲル濾過クロマトグラフィーにより精製し、HPLCプロファイル分析によって検出される2つの主要ピーク画分に相当するプロアントシアニジンA1及び/又はA2を分離することを特徴とする血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強活性を有する生理活性画分の製造方法。
【請求項12】
A型プロアントシアニジンを含有する植物材料が、ピーナッツ種皮であることを特徴とする請求項11記載の血管内皮細胞に対するプロスタサイクリン産生増強活性を有する生理活性画分の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−120565(P2009−120565A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297968(P2007−297968)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(392022097)日東ベスト株式会社 (7)
【出願人】(591038923)株式会社機能性ペプチド研究所 (6)
【Fターム(参考)】