説明

プローブ及び微小サンプルピックアップ機構

【課題】
本発明が解決しようとする課題は、試料へのアプローチに際し試料へのダメージを与えることがない試料とプローブの接触感知機能を備え、ピックアップ機構としては微細なサンプルを迅速で確実なハンドリングを可能とすると共に、試料の材質を選ぶことなく、しかも構造的にも単純な機構を提供することにある。
【解決手段】
本発明のプローブ機構とサンプルピックアップ機構は、観察装置または分析装置に備えられ試料に接触を図る針状体からなる先端部材を有し、駆動用の静電アクチュエータと、該静電アクチュエータの電極間の静電容量変化をモニターする手段とを備え、該モニターにより前記プローブがサンプルに接触したことを検知できることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は集束イオンビーム(FIB)装置や走査型プローブ顕微鏡(SPM)といった分析装置に付属するものであって、サンプルとの接触が図られる針状体からなる先端部材で構成されるプローブ機構や、微小サンプルを分離、摘出、格納する等の取り扱い機能を備えたピックアップ機構、特に透過型電子顕微鏡(TEM)試料や半導体デバイスの欠陥部の切り出し等に利便性の高いピックアップ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
微小サンプルを走査型電子顕微鏡(SEM)や走査型イオン顕微鏡(SIM)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)で観察しながらプローブを該サンプルに接触させ、その電気的特性などの物性を検査することが行われている。また、半導体ウエハ等からその一部を切り出して摘出し試料台等に固定することが、TEM試料のピックアップや不良欠陥部分の切り出しなどの際に行われている。この作業は、FIB装置等のチャンバー内で試料観察しながら、マニピュレータを操作して針状のプローブを試料の特定箇所にアプローチさせ、プローブ先端部を接触させた後FIBによるデポジション(CVD)で固着し、更に試料片を試料本体からFIBエッチングによって切り離した後、マニピュレータを操作して試料台等のある所定位置まで搬送して固定した後、更に先にCVDで固着したプローブの先端部分をFIBエッチングして試料片を切り離すといった一連の作業となっていた。
特許文献1には、微小試料片およびまたはその周辺領域を汚染することなく、確実で安定的な微小試料片の分離、摘出、格納を行う装置および方法を提供することを目的とし、試料基板から観察すべき領域を含む試料片をイオンビームスパッタ法により分離し、試料を押し込んで保持し、引き抜いて分離するための、根元に比較して先端が細く、該先端部が割れている形状で、該形状により得られる試料片を保持する部位の弾性変形による力で試料片を保持する棒状部材からなるはり部材を用いて、前記試料片を試料基板から摘出し、試料片を載置するための載置台上へ移動させた後、前記はり部材と前記試料片を分離することで該試料片の格納を行う技術が開示されている。この発明は割れ目に挟んで押し込みピンセット形態で試料片を把持する形態を採るものであるため、CVDによるプローブと試料片との固着が必要なく従来法に比べ作業時間の短縮にはなるが、顕微鏡観察しながらマニピュレータを操作して試料片を挟み込む作業はかなりの熟練技術を必要とする。また、サンプルのサイズや形状によって割れ目のサイズや形状を変更しなければならないし、試料片を挟み込む際に無理な力が加わって試料片を傷つけてしまうことがある。
【0003】
また、特許文献2には、バイモルフ圧電素子の撓みによって発生するバイモルフ型圧電素子の支点を中心とする円周方向のずれを自動的に補正し、微細な操作にも適用できる操作性のよいプローブ移動装置、マイクロピンセット装置を提供することを目的とし、図5に示すように積層型圧電素子101の伸縮方向にバイモルフ型圧電素子102,403を配置し、バイモルフ型圧電素子の両面に貼り付けた歪みゲージ素子103と補正回路105とで補正量112を発生し、積層型圧電素子の伸縮により、プローブ104,404先端の移動軌跡が直線的に変位するようにしたマイクロピンセットが開示されている。マイクロピンセットは両者もしくは片方のバイモルフ型圧電素子への電圧印加によって上記微小プローブ先端の間隔が狭まることを利用してμmレベルの微細な物体を摘むようにした。この構成により両微小プローブ104,404の先端は位置ずれすることなく間隔を制御できるため、微細な物体を正確にかつ容易に摘むことができる効果を奏するものである。この発明はCVDによるプローブと試料片との固着が必要なく従来法に比べ作業時間の短縮になるだけでなく、ピンセット駆動機構を備えているため把持操作が簡単でしかも無理な力が加わることがないため試料片を傷つけてしまうこともないのであるが、駆動源として圧電素子を用いるものであるため、その駆動には高圧電源を接続する必要があり、半導体試料や生物試料を扱う際に好ましくない。また、試料とプローブとの接触状態は顕微鏡観察によって確認するしかなかった。
【0004】
このプローブと試料との接触を検知する技術については特許文献3や特許文献4にその開示がある。特許文献3の発明は特許文献2の改良技術であって、試料とプローブの接触を試料の種類を問わず検知できる安価な接触検知手段を提供することを目的としたもので、自己の変位に応じて抵抗値が変化するピエゾ抵抗層を有する歪検知梁の自由端に、先端が鋭角な形状の針状の導電性材料からなるプローブを固着したものである。このような構成を採ったことにより、試料とプローブの接触を感知できるのであるが、それはピエゾの積層方向に限られてしまうという問題がある。また、特許文献4の発明は、ウエハ等の試料より微小試料を切り取ってプローブで摘出する場合に、微小試料が完全に切り取られたことを検出できるプローブ装置を提供することを目的としたもので、あらかじめプローブ制御部からプローブにプローブ電圧をかけておき、微小試料を試料よりFIBで切り取った直後のプローブ電圧の変化を検出することで、微小試料が完全に切り取られたことを検出するというものである。この接触検知手法は試料内に電流を流すことが必要であるため、試料が導電性であることを条件とするものであり、通電によって破壊等のダメージを受ける試料には適用できない。
【特許文献1】特開2002−333387号公報 「はり部材およびはり部材を用いた試料加工装置ならびに試料摘出方法」 平成14年11月22日公開
【特許文献2】特開2000−2630号公報 「プローブ移動装置およびそれを用いた試料作製装置」 平成12年1月7日公開
【特許文献3】特開2002−33366号公報 「プローブユニットおよびそれを用いた試料操作装置」 平成14年1月31日公開
【特許文献4】特開2001−83055号公報 「プローブ装置」平成13年3月30日公開
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上記した従来機構の欠点を克服した分析装置のプローブ機構または微小サンプルピックアップ機構を提供すること、すなわち、試料へのアプローチに際し試料へのダメージを与えることがない試料とプローブの接触感知機能を備え、ピックアップ機構としては微細なサンプルを迅速で確実なハンドリングを可能とすると共に、試料の材質を選ぶことなく、しかも構造的にも単純な機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプローブ機構は、観察装置または分析装置に備えられ試料に接触を図る針状体からなる先端部材を有し、該プローブは駆動用の静電アクチュエータと、該静電アクチュエータの電極間の静電容量の変化をモニターする手段とを備え、該モニターにより前記プローブがサンプルに接触したことを検知できることを特徴とする。
本発明のプローブ機構は荷電粒子鏡筒を備えた観察、分析または加工用装置の真空チャンバー内に設置されたものとする。
本発明のプローブ機構は、駆動力の強化と接触感度を高めるため、静電アクチュエータの電極構造を櫛歯型に形成するようにした。
【0007】
本発明のサンプルピックアップ機構は、モニターにより前記針状体がサンプルに接触したことを検知できるように、観察装置または分析装置に備えられ試料を把持する2本の針状体からなる先端部材を有し、該2本の針状体を近接・離反駆動させる静電アクチュエータと、該静電アクチュエータの電極間の静電容量の変化をモニターする手段とを備えるようにした。
また、本発明のサンプルピックアップ機構は、観察しつつ荷電粒子による加工が出来るように荷電粒子鏡筒を備えた観察、分析または加工用装置の真空チャンバー内に設置するようにした。
また、本発明のサンプルピックアップ機構は、駆動力の強化と接触感度を高めるため静電アクチュエータの電極構造を櫛歯型に形成するようにした。
本発明のサンプルピックアップ機構は、2本の針状体を中央に位置を揃え、該2本の針状体を挟むように両側に平板状の静電アクチュエータを配置し、該静電アクチュエータと前記2本の針状体とは局部的に結合部材で連結された構造を採用した。また、針状体プローブと静電アクチュエータとは絶縁層を介在させて連結するようにした。
本発明のプローブと本発明のサンプルピックアップ機構に設置する静電アクチュエータは、針状体と電極を含む構造を半導体シリコンプロセス技術によって作製するようにした。
【0008】
本発明のサンプルピックアップ方法は、サンプルを把持する2本の針状体を近接・離反駆動させる静電アクチュエータと、該静電アクチュエータの電極間の静電容量の変化をモニターする手段とを備えた観察、分析または加工用装置を用いて、顕微鏡で観察しながら静電アクチュエータごと針状体をサンプルにアプローチするステップと、前記モニターに表れる前記静電アクチュエータの静電容量の変化から前記針状体がサンプルに接触したことを検知するステップと、接触を感知したら前記静電アクチュエータを駆動させサンプルを把持するステップと、把持したら該サンプルをピックアップするステップとを踏む。
本発明のサンプル表面の電気的特性分析方法は、静電アクチュエータの電極間の静電容量の変化をモニターする手段を備えると共に、針状体プローブと静電アクチュエータとを絶縁層を介在させて連結したサンプルピックアップ機構を用い、前記モニターに表れる前記静電アクチュエータの静電容量の変化から前記プローブがサンプルに接触したことを検知するステップと、接触を感知したらその部分の電気的特性を前記針状体を介して電気的に接続された検出部で検出するステップとからなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプローブ機構と微小サンプルピックアップ機構は、駆動用の静電アクチュエータと、該静電アクチュエータの電極間の静電容量の変化をモニターする手段とを備えるものとしたので、接触や把持駆動は静電アクチュエータでなされるものであるから、同じ変位駆動をさせるのに必要な電圧が従来の圧電駆動のものに比べ桁違いに小さいものとなる。また、プローブや2本の針状体が試料にアプローチする過程で試料に接触するとその反作用を受け、静電容量の変化をモニターする機能でそれを検知することができる。そのことにより、FIBやSEM或いは光学顕微鏡を観察しながらの作業がやりやすく効率的になる。
そして、本発明における静電アクチュエータの電極構造は櫛歯型に形成するようにしたので、対向電極の面積を増やして静電容量をかせぐことができ、アクチュエータの駆動力増加と共に、三次元のタッチセンサーとして感度良く機能することができる。
また、針状体と電極構造を含む静電アクチュエータはシリコンプロセス技術によって作製されたものを採用することにより、大量に精度の良いものを比較的安価に提供することが出来、頻繁な交換需要にも応じられる。
本発明の微小サンプルピックアップ機構は、2本の針状体を中央に、該2本の針状体を挟むように両側に平板状の静電アクチュエータとを配置し、前記2本の針状体と静電アクチュエータとは局部的に結合部材で連結された構造を採用したので、2本の針状体の近接・離反駆動を低エネルギーで着実に作動させることが出来る。
また、本発明の微小サンプルピックアップ機構は、針状体と静電アクチュエータとを連結する結合部材は絶縁層を介在させるようにしたので、駆動部に掛かる電圧等が試料に印加されることが無く、電気的ダメージを与えることがない。
【0010】
本発明のサンプルピックアップ方法は、顕微鏡で観察しながら静電アクチュエータごと針状体をサンプルにアプローチする過程において、前記モニターに表れる前記静電アクチュエータの静電容量の変化から前記針状体がサンプルに接触したことを検知するようにしたので、前記静電アクチュエータを駆動させサンプルを把持する動作が容易に且つ確実に実行できる。
また、本発明のサンプル表面の電気的特性分析方法は、針状体と静電アクチュエータとの連結は絶縁されているので、静電アクチュエータ駆動部に掛かる電圧等が試料に印加されることが無く、電気的ダメージを与えることがない状態で実行することが出来る。また、モニターに表れる静電アクチュエータの静電容量の変化から前記プローブがサンプルに接触したことを検知するものであるから、サンプル表面とプローブの接触を確認してその部分の電気的特性を前記針状体を介して電気的に接続された検出部で容易に且つ確実に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者等は正確にアームを移動させることができ、ミクロンオーダーの微小サンプルであっても確実に把持することができる「グリッパ」を開発し、本出願と同日出願している。このグリッパは平行な把持面を備えた一対のアームを把持面が平行に保たれたままで接近・離反駆動させる静電アクチュエータを備えた構造体で、半導体シリコンプロセス技術を用いて微細構造物として製造するものである。本発明は前述した課題を解決するものとして、微小なサンプルの取り扱いを必要とするFIBやSEMといった分析・観察装置におけるピックアップ機構の把持部にこのようなグリッパを採用することに想到したものである。すなわち、本発明は微小サンプルを観察し検査する分析装置において、ピックアップ機構としては微細なサンプルの安全迅速で確実なハンドリングを可能とすると共に、試料の材質を選ぶことなく、しかも構造的にも単純な機構を提供するものとして開発されたもので、第1の特徴点は従来のピックアップ機構に用いられていた圧電駆動のアクチュエータに換え、静電アクチュエータを採用した点にある。アクチュエータの駆動源が替わることにより、試料近傍で高圧を印加する必要がなく同程度の駆動に際して必要とされる電圧は桁違いに小さくて済むことになる。
【0012】
更に本発明の第2の特徴点は電極間の静電容量をモニターする機能を備えるようにした点である。この構成はプローブが静電アクチュエータによって駆動される過程で物(試料)と接触するとその反作用として電極間の変位に対応する静電容量が不連続的な変化を示す。これを静電容量センサーでモニターするとプローブの接触を検知することができる。従来の観察、加工、分析装置ではサンプルの状態、例えばサンプルとピックアッププローブとサンプルとの接触状態などを顕微鏡観察しながら作業を進めていた。しかし、顕微鏡画像は二次元像であるため確かな接触を確認することが出来ないものであったが、本発明は静電容量センサーでモニターすることによって、接触状態を精度良く検知できるので作業の効率を向上させてアプローチに際し試料へのダメージを与えることがない。
【0013】
図1において、本発明の静電アクチュエータ付きプローブの原理図を示す。このプローブはサンプルをピックアップするものというより、サンプル表面に接触させ、その部分の例えば電気的特性等を検出することを想定したものである。左側に示すプローブは1対の電極の1方側に針状体から成るプローブが一体的に固着されている。他方側の電極が装置側に固定されているとすると、両電極間に異電荷が印加されると両電極には吸引力が働きプローブを他電極側に変位させる。反対に同電荷が印加されると両電極には反発力が働きプローブを他電極から遠ざけるように変位させる。これは従来の静電アクチュエータの動作に他ならないが、本発明は電極間に電荷を供給するだけでなく、電極間の静電容量をモニターする静電容量センサーを備えるようにしたため、プローブが変位するとこれに対応して静電容量が変化し、その変位を検知することができる。プローブがマニピュレータ等によって駆動され、物体(試料)と接触すると変位駆動中にその反作用を受ける。この反作用は静電容量の変化として上記静電容量センサーで検出することが出来る。この信号を検出してプローブが試料と接触したと判断してアクチュエータの駆動を停止させるなどの対応をとることが出来る。接触検知を静電容量の変化でモニターするので、従来のようなサンプルに電流を流すタイプとは違い、電気的破壊や温度上昇することなく接触を検知できる。
【0014】
狭い空間に配置しなければならない分析装置用の微小構造プローブとしての条件下において、両電極を対峙する1対の平面同士としたこのシンプルな形態では、駆動力を十分とることができないという問題だけでなく、接触によって受ける反作用の方向が電極平面に平行する場合の感度は低いものとなってしまう。そこで、本発明では図1の右側に示したように両電極を櫛歯型に形成することに想到した。電極構造をこの様に櫛歯型に形成することによって、先端が何らかの接触があった場合にはその静電容量が断面積Sの変化で検知することができる。検知は原理上、上下のみならず横方向にも有効で、方向弁別は出来ないが従来のピエゾ型のタッチセンサのような一方向ではなく三次元的な接触を検知することができる。また、櫛歯型の形状にした場合、電極間の対向面積を増やすこととなり、静電容量をかせぐことができ、アクチュエータの駆動力増加すること、またタッチセンサーとしての感度を高めることができる。
【0015】
図2に試料を把持する1対の針状体を備え、該2本の針状体を近接・離反駆動させる静電アクチュエータを備えた本発明の分析装置の微小サンプルピックアップ機構のモデルを示す。この微小サンプルピックアップ機構は所謂ピンセット形態で試料を把持するタイプのものである。図2のAは、2本の針状体1a,1bを中央に位置を揃え、該2本の針状体1a,1bを挟むように両側に平板状の静電アクチュエータ2a,2bを配置し、該静電アクチュエータ2a,2bと前記2本の針状体1a,1bとは局部的に結合部材で連結された構造となっている。静電アクチュエータ2a,2bにおいて針状体1a,1bと結合部材で連結された内側部分は可動部となり、外側部分が固定部となる。このピンセット機構が観察装置または分析装置におけるマニピュレータの先端部等に取り付けられると共に、前記静電アクチュエータ2a,2bの電極間の静電容量の変化をモニターする手段(静電容量センサー)とが備えられる。前記マニピュレータを操作してこのピンセット機構を移動させ、前記針状体1a,1bがサンプルに接触すると前記モニターによりその反作用によって静電容量の変化を検知し、接触したことを検知できる。接触を検知したところでマニピュレータの操作を停止し、電極間に電圧を供給すると該2本の針状体1a,1bが平行移動して接近し、微小サンプルをその間に挟持することが出来る。サンプルがこのピンセット機構により挟持されたならマニピュレータを操作して微小サンプルを本体から引き離し、所望位置まで移送する。
【0016】
図2のBに示したモデルは、針状体プローブ1a,1bと静電アクチュエータ2a,2bとが絶縁部3を介在させて連結された構成を採っている点で先のAのものと相違しており、静電アクチュエータ2a,2b側はアース接続され、針状体プローブ1a,1b側は浮かされている。この様な構成を採った装置を用いた本発明のサンプル表面の電気的特性分析方法を説明する。まず、針状体1a,1bと静電アクチュエータ2a,2bとの連結は絶縁されているので、静電アクチュエータ駆動部に掛かる電圧等が試料に印加されることが無く、電気的ダメージを与えることがない状態で試験を実行することが出来る。顕微鏡機能でサンプルの表面象を観察する。そしてサンプルの測定部位を特定しマニピュレータを操作して針状体1a,1bの先端部をその位置にアプローチさせるが、これは顕微鏡観察しながら実行する。顕微鏡画像は二次現像であるから針状体1a,1bの先端部が前記特定部位に重なったように見えても接触しているか否かは確認できない、しかし、本発明では静電アクチュエータの電極間の静電容量をモニターする機能を備えているため、接触すればモニターに表れる静電アクチュエータの静電容量の変化から前記針状体1a,1bの先端部がサンプルに接触したことを検知できる。針状体1a,1bの先端部がサンプル表面に接触すればそれを確認してその部分の電気的特性を前記針状体を介して電気的に接続された検出部で容易に且つ確実に検出することができる。例えば針状体1a,1bに電圧を供給しておきその電位が下がらなければそのサンプル表面は非導電材であるか浮いているかであり、電位が零位に下がればその部分は導電材であり、接地されていることが分かる。この様にしてサンプル表面の電気的特性を分析することが出来る。ここでは2本の針状体構造のものをプローブとして説明したがこのサンプル表面の電気的特性分析方法に用いるプローブは1本の針状体からなるものでよいことは当然である。その場合の絶縁部は、針状体の付け根部分など針状体とアクチュエータ間の適宜の部分に設ければよい。
【実施例1】
【0017】
図3に本発明のピックアップ機構に用いられるグリッパ(ピンセット)の実施例を示す。このグリッパは半導体シリコンプロセス技術によって作製されたものである。このグリッパは基本的に二層構造となっており、淡いグレーがシリコンであり、濃いグレーが二酸化シリコンである。この二酸化シリコンは絶縁素材で中央の絶縁部3以外は一体構造で導電性のシリコン層を固着する基板4として機能する。中央部分に2本のロッド5,6がほぼ並行するように配置され、該ロッドの基部は基板4に固着されると共に、それより先端側はフリーにされ先端部には把持機能を果たす針状体1a,1bが一体的に形成されている。該ロッドの中央部には直交方向外側に向けてT字状のアーム7(8)がブロック状の絶縁部3を介して連結されている。該アーム7(8)の他端側は両側に櫛歯電極7a(8a)が形成されている。また、この櫛歯電極7a(8a)に対峙して対向櫛歯電極7b(8b)が配置され、静電アクチュエータの駆動部を構成している。また、前記アーム7(8)の絶縁部3との連結部近傍には支持部材9が両側に取り付けられ、該支持部材9の他端側の基部は基板4に一体的に固着されている。このグリッパが2本のロッド5,6間の中心線から見て対称構造となっていることはお分かりであろう。そして、櫛歯電極7a(8a)と対向する櫛歯電極7b(8b)間に電圧が印加されると両電極間には吸引力が働き、前記アーム7(8)は前記2本のロッド5,6を接近させる静電アクチュエータとして機能する。2本のロッド5,6を接近させることによってその先端部の針状体1a、1bも接近駆動され、その間に物体が存在すればそれを挟持する。また、両電極間の電圧が無くなると前記支持部材9が板ばねとして作用して前記アーム7(8)を外側方向に引き戻すため、絶縁部3を介して前記2本のロッド針状体1a、1bを離反方向に移動させて物体の挟持を解く。以上説明したようにしてこのグリッパはピンセット機能を果たす。
【0018】
このグリッパを半導体シリコンプロセス技術によって作製する方法を簡単に説明する。1)酸化シリコンとシリコンが二層になったシリコン基板のシリコン表面にレジスト膜を形成する。
2)図3の淡いグレーのシリコン部分のパターンが描かれたマスクを用い、レジスト膜に露光してパターンを転写する。
3)レジスト膜を剥離液で除去し、パターン以外の部分はシリコン層が露出する。
4)エッチング処理を施すと露出したシリコンは除去されて酸化シリコンの層が露出する。
5)シリコン基板を反転させ、酸化シリコン層の表面にレジスト膜を形成する。
6)図3の濃いグレーの酸化シリコン部分のパターン(ただし、前後左右の隣接パターンが適宜の距離を持って連結されている。)が描かれたマスクを用い、レジスト膜に露光してパターンを転写する。なお、このとき表側パターンとの位置合わせが重要である。
7)レジスト膜を剥離液で除去し、パターン以外の部分は酸化シリコン層が露出する。
8)エッチング処理を施すと露出した酸化シリコンは除去されて図3のグリッパが前後左右に並んで形成される。
9)個々のグリッパを切り離し分析装置にセットする。
このようにして半導体シリコンプロセス技術でグリッパを作製するため、同一規格のものが一度に沢山得られるため、安価に供給することができる。
【0019】
次に、このグリッパをマイクロマニピュレーターの先端部に取り付けたFIB装置を用いて、透過型電子顕微鏡で観察するための半導体デバイスの断面構造サンプル(以下TEM試料という)を作製するプロセスを図4を参照しながら説明する。図のAは観察断面部位を顕微鏡画像で特定し、その断面を挟む両面に破線で示す領域にFIBエッチングによって、前方穴13と後方穴14とを例えばイ、ロの順に穴掘り加工する。図のBは穴掘り加工を終えて試料ステージをチルトし、斜め前方から断面部分を顕微鏡観察した画像である。観察部位の厚さは数ミクロンであり電子線の透過する厚さではない。次に図のCに示すようにFIBを斜め前方から照射し、観察領域の周辺をカットする。例えばハに示すようにサイドカットし、続いてニのようにボトムカットし、更にホのようにサイドカットを行う。このとき一部分切り残しをして保持部とし、試料片が倒れないように支承させるのがよい。ここまでの作業は従来と変わるところは無いが、従来はここで顕微鏡観察しながらマニピューレータを操作してプローブの先端を観察部位の肩部にアプローチさせ、接触が取れたならFIBによるCVDでプローブ先端と試料片とを固着させる作業となる。これはかなり熟練を要する厄介な作業であるが、本発明では静電アクチュエータの電極間の静電容量変化をセンサーでモニターする機能を備えているので、図のDに示すようにグリッパの先端の針状体が試料に接触すると、静電容量の変化を生じそれを確認することができる。顕微鏡画像を観察しながらマニピューレータを操作して針状体を試料の所定位置にアプローチさせる作業は格段に容易になる。2本の針状体が試料片を挟む位置に持っていったなら、両電極間に電圧を印加し静電アクチュエータを駆動させ、試料片を挟示させる。この作業は単に電圧を印加するだけで足り、CVDによる固着という作業は必要が無い。続いて切り残した保持部をFIB照射によってカットし切り出し試料片をピックアップする。この試料片を用意した試料台16上にマニピュレータを操作して移送する。この試料片15が試料台16上に載置されたなら、FIBを使ったCVDで該試料片を固定する。そして、静電アクチュエータの印加電圧を解除し試料片の保持を解除する。これも単に電圧の印加を停止すればよく、従来のFIB照射によってプローブ先端部と試料片の切り離しの作業に比べ格段に容易である。最後に図のFに示したようにFIBエッチングによって、試料片を再加工し、TEM試料としての薄片化加工を施す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】静電アクチュエータと静電容量センサーを備えた本発明のプローブ機構の基本構成を示す図である。
【図2】微小サンプルを把持する2本の針状体と静電アクチュエータとを備えた本発明のピックアップ機構の基本構成を示す図である。
【図3】半導体シリコンプロセス技術で作製したピックアップ機構のグリップの1実施例を示す図である。
【図4】本発明のピックアップ機構を組み込んだFIB装置でTEM試料を作成する作業を説明する図である。
【図5】従来のFIB装置に採用されているバイモルフ型圧電素子駆動のピックアップ機構を説明する図である。
【符号の説明】
【0021】
1a,1b 針状体 2a,2b 静電型アクチュエータ
3 絶縁部 4 基板
5,6 ロッド 7,8 アーム
7a,8a アーム側櫛歯電極 7b,8b 対向側櫛歯電極
9 支持部材 11 試料本体
13 前方穴 14 後方穴
15 切り出し試料片 16 試料台
17 CVD固着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察装置または分析装置に備えられ試料に接触を図る針状体からなる先端部材を有し、該針状体は駆動用の静電アクチュエータと、該静電アクチュエータの電極間の静電容量変化をモニターする手段とを備え、該モニターにより前記針状体がサンプルに接触したことを検知できることを特徴とするプローブ機構。
【請求項2】
荷電粒子鏡筒を備えた観察、分析または加工用装置の真空チャンバー内に設置されたものである請求項1に記載のプローブ機構。
【請求項3】
静電アクチュエータの電極構造を櫛歯型に形成し、駆動力の強化と接触感度を高めたことを特徴とする請求項1または2に記載のプローブ機構。
【請求項4】
観察装置または分析装置に備えられ試料を把持する2本の針状体からなる先端部材を有し、該2本の針状体を近接・離反駆動させる静電アクチュエータと、該静電アクチュエータの電極間の静電容量変化をモニターする手段とを備え、該モニターにより前記針状体がサンプルに接触したことを検知できることを特徴とするサンプルピックアップ機構。
【請求項5】
荷電粒子鏡筒を備えた観察、分析または加工用装置の真空チャンバー内に設置されたものである請求項4に記載のサンプルピックアップ機構。
【請求項6】
静電アクチュエータの電極構造を櫛歯型に形成し、駆動力の強化と接触感度を高めたことを特徴とする請求項4または5に記載のサンプルピックアップ機構。
【請求項7】
針状体と電極を含む構造を半導体シリコンプロセス技術によって作製したものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の機構に設置された静電アクチュエータ。
【請求項8】
2本の針状体を中央に位置を揃え、該2本の針状体を挟むように両側に平板状の静電アクチュエータを配置し、該静電アクチュエータと前記2本の針状体とは局部的に結合部材で連結された構造である請求項4乃至6のいずれかに記載のサンプルピックアップ機構。
【請求項9】
電気的特性を検出するための針状体プローブと静電アクチュエータとは絶縁層を介在させて連結したものである請求項8に記載のサンプルピックアップ機構。
【請求項10】
サンプルを把持する2本の針状体を近接・離反駆動させる静電アクチュエータと、該静電アクチュエータの電極間の静電容量の変化をモニターする手段とを備えた観察、分析または加工用装置を用いて、顕微鏡で観察しながら静電アクチュエータごと針状体をサンプルにアプローチするステップと、前記モニターに表れる前記静電アクチュエータの静電容量の変化から前記針状体がサンプルに接触したことを検知するステップと、接触を感知したら前記静電アクチュエータを駆動させサンプルを把持するステップと、把持した後該サンプルをピックアップするステップとを踏むサンプルピックアップ方法。
【請求項11】
静電アクチュエータの電極間の静電容量変化をモニターする手段を備えると共に、電気的特性を検出するための針状体プローブと静電アクチュエータとを絶縁層を介在させて連結したサンプルピックアップ機構を用い、前記モニターに表れる前記静電アクチュエータの静電容量の変化から前記プローブがサンプルに接触したことを検知するステップと、接触を感知したらその部分の電気的特性を前記プローブを介して電気的に接続された検出部で検出するステップとからなるサンプル表面の電気的特性分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−30017(P2006−30017A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210199(P2004−210199)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【Fターム(参考)】