説明

プーリの成形方法

【課題】筒状の金属部材から無段変速機のプーリを成形する方法を提供する。
【解決手段】筒状の金属部材4をプレスして固定プーリ1を成形する場合に、シーブ3の外周端となる第1曲げ部7で曲がった金属部材4の筒部5を、第1曲げ部7を基点として中心軸O側へ曲がる角度で傾斜した第1テーパ部14を有する第1金型10と、第2テーパ部15を有する第2金型12とによってプレスし、第2傾斜面13を成形する。その後、シーブ角で傾斜する第3テーパ部24を有する第3金型21と、第4金型23とによって金属部材4をプレスし、固定プーリ1を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプーリの成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、筒状の金属部材から径が異なる成形品を成形する場合に、金属部材を絞ることで成形品を成形する方法が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1の方法を用いて、筒状の金属部材から無段変速機のプーリを成形する場合には、第1工程で筒状の金属部材100を絞って、シーブ角で傾斜した傾斜面101をプーリの軸120側に成形し(図3(a))、第2工程で金属部材100の筒部100aの外周面をガイド金型102によってガイドし(図3(b))、金型103、104によって筒状の金属部材100をプレスすることでシーブ108の外周端となる所定の位置に第1の曲げ部105を成形し(図3(c))、第3工程で金属部材100を金型106、107によってプレスすることで第2の曲げ部109を基点として筒部100aが拡径してシーブ108を成形する(図3(d))。
【0004】
また、金属部材100の筒部100aの外周面をガイドせずにプレスし、金属部材100の筒部100aを一気に座屈させることで、図3(a)に示す金属部材100から図3(d)に示す金属部材100へ直接変形させて、シーブ108を成形することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−283963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ガイド金型102を用いた方法では、図3(d)に示すように、シーブ108に第2の曲げ部109の跡110が残り、この箇所で亀裂が発生する、といった問題点がある。
【0007】
また、金属部材100の筒部100aをガイドせずに座屈させる方法でも、第2の曲げ部109の跡110が残り、亀裂が発生するおそれがある。また、筒部100aが例えばシーブの外周端が所定の位置よりも外側で座屈した場合には、所定の位置よりも外側にシーブの外周端が成形される。そのため、所定の位置にシーブの外周端を正確に成形することが困難になる、といった問題点がある。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、筒状の金属部材からプーリを成形する場合に、不要な曲げ跡をシーブに残さず、シーブを正確に成形することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様に係るプーリの成形方法は、筒状の金属部材をプレスして無段変速機のプーリを成形するプーリの成形方法であって、金属部材から、プーリのシーブの外周端となる曲げ部で曲がる第1傾斜面を成形する第1工程と、プーリのシーブ面と金属部材の中心軸との角度よりも小さい所定角度で傾斜し、第1傾斜面と当接する第1テーパ部を有する第1金型と、第2テーパ部を有する第2金型とによって第1工程後の金属部材をプレスし、第1曲げ部から第2テーパ部に沿って傾斜する第2傾斜面を成形する第2工程と、シーブ角で傾斜する第3テーパ部を有する第3金型と、第4金型とによって第2工程後の金属部材をプレスし、第1傾斜面の角度がシーブ角となるように成形する第3工程と、を備え、所定角度は、第2工程において第1曲げ部を基点として第1工程後の金属部材が中心軸側に曲がる角度であり、第2テーパ部は、第2金型の抜き方向に縮径する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、不要な曲げ跡をシーブに残さず、シーブを正確に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態における固定プーリの製造工程を示す図である。
【図2】筒部が第1テーパ部から受ける抗力の鉛直成分を示す図である。
【図3】本発明を用いない場合のプーリの製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について図1を用いて説明する。本実施形態はベルト式無段変速機に用いられるプーリの成形方法に関するものであり、図1は、ベルト式無段変速機のプーリの製造工程を示した図である。本実施形態では、固定プーリ1の製造工程について説明する。固定プーリ1は、軸部2と、軸部2の途中から径方向に延出するシーブ3とを有し(図1(f))、軸部2に図示しない可動プーリを挿通させることでプーリが構成される。なお、本実施形態では、鉛直方向にプレスして固定プーリ1を成形する場合について説明するが、これに限られることはない。また、本実施形態では、図1に示す金型で、上側の金型を可動金型とし、下側の金型を固定金型として説明するが、これに限られることはない。
【0013】
第1工程では、絞り加工によって、筒状の金属部材4(以下、ワークという)の一方の先端側を絞った軸部2と、軸部2と絞っていないワーク4の筒部5との間にテーパ状の第1傾斜面6とを成形する(図1(a))。第1傾斜面6と筒部5との間には第1曲げ部(曲げ部)7が成形される。また、軸部2と第1傾斜面6との間には第2曲げ部8が成形される。
【0014】
第1曲げ部7は、シーブ3の外周端に対応する位置に成形される。第1傾斜面6と固定プーリ1の中心軸Oとの角度は、シーブ面と中心軸Oとの角度(以下、この角度をシーブ角という)よりも小さい第1角度(所定角度)αとなる。第1角度αについては後述する。なお、本実施形態ではシーブ角は、約80度であるが、これに限られることはない。
【0015】
第2工程では、軸部2を第1金型10の第1孔11に挿入し、第2金型12によってワーク4を第1金型10に向けてプレスし、絞り加工によってワーク4に第2傾斜面13と縮径部16とを成形する(図1(c))。
【0016】
第1金型10は、第1傾斜面6が当接する第1テーパ部14と、軸部2が挿入される第1孔11とを備える。第1テーパ部14は鉛直方向下向きに縮径しており、第1テーパ部14の壁面と中心軸Oとの角度は第1角度αである。つまり、第1テーパ部14は、第1傾斜面6全体と当接するように設けられている。第1孔11は、軸部2が挿入された場合に、第1孔11の内周壁と、軸部2の外周壁とが密接するように設けられる。これによりワーク4は軸部2の径方向に移動しないように第1金型10によって支持される。
【0017】
第2金型12は、ワーク4の筒部5を縮径させて、ワーク4に第2傾斜面13を成形する第2テーパ部15と、ワーク4の縮径部16を成形する第2孔17とを備える。第2テーパ部15は、鉛直方向上向きに、つまり第2金型12の抜き方向に縮径しており、第2テーパ部15の壁面と中心軸Oとの角度は、第1角度αよりも小さい第2角度βである。第2角度βについては後述する。
【0018】
第2工程では、第2金型12が降下し(図1(b))、ワーク4の筒部5に絞り加工を行う。これにより、ワーク4の筒部5が第2テーパ部15によって中心軸O側に押され、筒部5の肉が第2テーパ部15に沿って中心軸O側へ移動し、第2孔17の内壁に沿って縮径部16が成形される。そして、第2金型12が第1金型10と当接する第2工程終了位置まで降下すると、第1曲げ部7を基点として第2テーパ部15に沿って傾斜する第2傾斜面13が成形される(図1(c))。第2傾斜面13と縮径部16との間には第3曲げ部18が成形される。
【0019】
第1角度αは、第2工程においてワーク4の筒部5が、第1曲げ部7を基点として筒部5の内壁側、つまり中心軸O側へ曲がる角度であり、筒部5が座屈せず、第1曲げ部7よりも外側に曲がらなければよい。本実施形態では第1角度αは45度である。第1角度αが小さくなるにつれて、ワーク4の筒部5が第1テーパ部14から受ける抗力の鉛直方向成分は小さくなる。この状態を図2に示す。図2は、第1テーパ部14から受ける抗力Fの鉛直方向成分Fyを示す図であり、図2(a)は第1角度αが45度である場合であり、図2(b)は第1角度αがシーブ角である場合である。図2に示すように、第1角度αが小さくなると鉛直方向成分Fyは小さくなる。そのため、第1角度αを45度とすることで、筒部5にかかる鉛直方向上向きの力は小さくなり、筒部5は座屈せず、第1曲げ部7よりも外側に曲がることなく、筒部5は第1曲げ部7を基点として中心軸O側へ曲がる。
【0020】
また、第1角度αが小さくなると、第1テーパ部14に沿った方向にかかる力が大きくなり、第1傾斜面6または軸部2において座屈が生じるおそれがある。そのため、本実施形態では、第1角度αを45度としている。
【0021】
なお、本実施形態では、第1角度αを45度としたが、これに限られることはなく、第1曲げ部7を基点として中心軸O側へ筒部5が曲がれば良く、例えば筒部5の長さが短く座屈応力が大きい場合には、第1角度αを45度よりも大きい角度としても良い。
【0022】
また、第2角度βを第1角度αよりも小さい30度とすることで、筒部5は第1曲げ部7よりも外側に曲がることなく、座屈せずに第1曲げ部7を基点として中心軸O側に曲がる。なお、第2角度βは30度に限られることはなく、第2工程でワーク4の筒部5をプレスする場合に、筒部5が第1曲げ部7よりも外側に曲がることなく、座屈せずに第1曲げ部7を基点として中心軸O側に曲がる角度であればよい。さらに、第2角度βは第3曲げ部18を基点としてワーク4の筒部5が曲がり、第2孔17に沿って縮径部16が成形される角度である。このようにして、鉛直方向にかかる筒部5の応力が座屈応力よりも大きくなることなく第2工程を行う。
【0023】
第2工程が終了すると、ワーク4を第1金型10および第2金型12から取り出し、第3工程では、ワーク4の軸部2を第3金型21の第3孔22に挿入し、第4金型23によって第3金型21に向けてワーク4をプレスし、絞り加工および潰し加工を行い、シーブ3を成形する(図1(e))。
【0024】
第3金型21は、軸部2が挿入される第3孔22と、シーブ3を成形する第3テーパ部24とを備える。第3テーパ部24の壁面と中心軸Oとの角度は第1角度αよりも大きい第3角度γである。第3角度γは固定プーリ1のシーブ角である。第3孔22の径および長さは第2金型12の第1孔11の径および長さと同じ径および長さとなるように設けられる。
【0025】
第4金型23は、第1傾斜面6を第3金型21に向けてプレスし、ワーク4の縮径部16をさらに絞る第4テーパ部25と、ワーク4のボス部28を成形する第4孔27とを備える。
【0026】
第3工程では、第4金型23が降下し(図1(d))、まず潰し加工を行う。これにより、第1傾斜面6が第2曲げ部7を基点に第3テーパ部24に向けて傾き、第1傾斜面6は第3テーパ部24と当接し、第1傾斜面6と中心軸Oとの角度がシーブ角となる。さらに第2傾斜面13が第1曲がり部7を基点に第1傾斜面6の背面側に向けて傾き、第2傾斜面13の背面と第1傾斜面6の背面との距離が小さくなる。
【0027】
次に、縮径部16に絞り加工を行う。これにより、第4テーパ部25によってワーク4の縮径部16が中心軸O側へ押され、縮径部16の肉は第4テーパ部25に沿って中心軸O側へ移動し、さらに縮径し、第4孔27に沿ってボス部28が成形される(図1(e))。そして、第4金型23が第3工程終了位置まで降下すると第3工程は終了する。
【0028】
これらの工程によって、筒状の金属部材4から固定プーリ1を成形する(図1(f))。
【0029】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0030】
第1金型10の第1テーパ部14の角度を、第2工程においてワーク4の筒部5がシーブ3の外周端となる第1曲げ部7を基点として中心軸O側へ向けて曲がる第1角度αとすることで、筒状の金属部材4から固定プーリ1を成形する場合に、不要な曲げ跡を残さずに、シーブ3を成形することができる。そのため、曲げ跡を基点とする亀裂の発生を防止することができる(請求項1に対応)。
【0031】
また、第1曲げ部7の外側に筒部5が曲がることを防止し、シーブ3の外周端となる第1曲げ部7を基点として中心軸O側へ筒部5を曲げることができ、シーブ3を正確に成形することができる(請求項1に対応)。
【0032】
第2金型12の第2テーパ部15の第2角度βを、第1金型10の第1テーパ部14の第1角度αよりも小さくすることで、第2工程においてワーク4の筒部5が第1曲げ部7よりも外側に曲がることを防止し、第1曲げ部7を基点として中心軸O側へ筒部5を曲げることができ、シーブ3を正確に成形することができる(請求項2に対応)。
【0033】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0034】
1 固定プーリ
4 金属部材
6 第1傾斜面
7 第1曲げ部(曲げ部)
10 第1金型
12 第2金型
13 第2傾斜面
14 第1テーパ部
15 第2テーパ部
21 第3金型
23 第4金型
24 第3テーパ部
26 プレス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の金属部材をプレスして無段変速機のプーリを成形するプーリの成形方法であって、
前記金属部材から、前記プーリのシーブの外周端となる曲げ部で曲がる第1傾斜面を成形する第1工程と、
前記プーリのシーブ面と前記金属部材の中心軸との角度よりも小さい所定角度で傾斜し、前記第1傾斜面と当接する第1テーパ部を有する第1金型と、第2テーパ部を有する第2金型とによって前記第1工程後の金属部材をプレスし、前記第1曲げ部から前記第2テーパ部に沿って傾斜する第2傾斜面を成形する第2工程と、
前記シーブ角で傾斜する第3テーパ部を有する第3金型と、第4金型とによって前記第2工程後の金属部材をプレスし、前記第1傾斜面の角度が前記シーブ角となるように成形する第3工程と、を備え、
前記所定角度は、前記第2工程において前記第1曲げ部を基点として前記第1工程後の金属部材が前記中心軸側に曲がる角度であり、
前記第2テーパ部は、前記第2金型の抜き方向に縮径することを特徴とするプーリの成形方法。
【請求項2】
前記第2テーパ部の角度は、前記所定角度よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のプーリの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−240362(P2011−240362A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114003(P2010−114003)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】