説明

ヘッド保守装置、該ヘッド保守装置を備えた液体噴射装置

【課題】 液体噴射ヘッドのヘッド面に沿う方向における液体噴射ヘッドと封止部材との相対的な位置関係を規制可能な構成のヘッド保守装置において、液体噴射装置のスループットを低下させることなくフラッシング時に発生するミストの量を低減させる。
【解決手段】 ヘッドガイド50は、ヘッドガイド用カム822の形状に沿って上昇方向ZUへ変位した状態においては、キャップ40の封止面411より記録ヘッド16側へヘッドガイド50のガイド部51が突出した状態となる。ヘッドガイド50は、ヘッドガイド用カム822の形状に沿って下降方向ZDへ変位した状態においては、ヘッドガイド50のガイド部51がキャップ40の封止面411より記録ヘッド16から離間する方向へ退避し、ヘッドガイド50のガイド部51の突端より記録ヘッド16のヘッド面側へキャップ40の封止面411が突出した状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドのヘッド面に設けられた液体噴射ノズルから被噴射材に液体を噴射する液体噴射装置の液体噴射ヘッドを保守するヘッド保守装置に関する。
【0002】
ここで、液体噴射装置とは、記録ヘッド等の液体噴射ヘッドから記録紙等の被噴射材へインクを噴射して記録紙等への記録を実行するインクジェット式記録装置、複写機及びファクシミリ等に限らず、インクに代えて特定の用途に対応する液体を液体噴射ヘッドから被噴射材に噴射して、液体を被噴射材に付着させる装置を含む意味で用いる。
また、液体噴射ヘッドとしては、前述した記録ヘッド以外に、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタ製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイや面発光ディスプレイ(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド、精密ピペットとしての試料を噴射する試料噴射ヘッド等が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
液体噴射装置の一例として公知のインクジェットプリンターには、記録ヘッド(液体噴射ヘッド)のヘッド面を常に良好な状態に維持するために、待機時及び記録実行中の合間に記録ヘッドを保守するためのヘッド保守装置が設けられているのが一般的である。このヘッド保守装置の主な機能の一つとして、待機時に記録ヘッドのヘッド面を封止部材で封止して、ヘッド面に設けられたインク噴射ノズルのインクが乾燥することを防止し、それによってノズル詰まり等を防止する機能がある。具体的には、待機時には記録ヘッドのヘッド面に封止部材を密着させてヘッド面を封止し、記録実行時には記録ヘッドのヘッド面から封止部材を離間させる機構が設けられている(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
さらにヘッド保守装置の主な機能の一つとしては、記録ヘッドのヘッド面を封止部材で封止した状態で、記録ヘッドのヘッド面と封止部材の封止面との間に形成される閉空間に負圧を発生させ、その負圧によりインク噴射ノズル内のインクを吸引する機能がある。具体的には、封止部材の封止面に連通する吸引路、及び当該吸引路を吸引可能なポンプ等が設けられている(例えば特許文献2を参照)。
【0005】
上記の封止部材による記録ヘッドのヘッド面の封止は、記録ヘッドのヘッド面と封止部材の封止面との間に気密性の高い閉空間を形成することを目的とするものである。しかし記録ヘッドのヘッド面に対する封止部材の当接位置にずれが生ずると、記録ヘッドのヘッド面の封止状態が不完全になって、記録ヘッドのヘッド面と封止部材の封止面との間に気密性の高い閉空間を形成することができない虞が生ずる。
【0006】
このようなことから、記録ヘッドのヘッド面に沿う方向における記録ヘッドと封止部材との相対的な位置関係を規制するガイド部が封止部材に一体的に設けられたヘッド保守装置が公知である(例えば特許文献1及び2を参照)。具体的には、記録ヘッド又は記録ヘッドを搭載したキャリッジと係合する突起が封止部材に一体的に設けられている(特許文献1の「位置決め用凸部(28a)(28b)(28c)」、特許文献2の「位置決めピン22e」)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−283545号公報
【特許文献2】特開平6−336019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、通常インクジェットプリンターにおいては、インク噴射ノズル内のインクを常に良好な状態に維持するため、記録実行中に定期的にインクを打ち捨てるフラッシングと呼ばれる動作が行われる。このフラッシングは記録実行中に行われることから、フラッシングに要する時間が長くなるに従ってインクジェットプリンターのスループットは低下していくことになる。そのため、フラッシングに要する時間は可能な限り短い方が望ましい。またフラッシングは、ヘッド保守装置の封止部材の封止面にインクを噴射することにより行われる場合が多い。このとき記録ヘッドから噴射されたインクは、封止部材の封止面に到達するまでの間に、一部がミストとなってインクジェットプリンターの内部空間を浮遊する。このミストは、記録実行中の記録紙等に付着して記録画質等を低下させる要因となる。そして、その噴射したインクから発生するミストの量は、そのインクの飛行距離が長くなるに従って増加していくことになる。そのため、フラッシング時における記録ヘッドのヘッド面から封止部材の封止面までの距離は、可能な限り短い方が望ましい。
【0009】
しかしながら、前記の突起等のガイド部が封止部材に一体的に設けられている場合、少なくともフラッシング時には、その突起等のガイド部が記録ヘッドの移動や記録紙等の搬送の妨げにならない範囲に、封止部材を移動させる必要がある。つまりフラッシング時には、突起等のガイド部を封止部材に一体的に設けた分だけ、記録ヘッドのヘッド面からより離間した位置へ封止部材を移動させる必要がある。すなわち、突起等のガイド部を封止部材に一体的に設けることによって、その分だけフラッシング時におけるインクの飛行距離が長くなってしまうことから、フラッシング時に発生するミストの量が増加してしまう虞が生ずる。
【0010】
また例えば、フラッシングの直前に、ヘッド面に近接する方向へ封止部材を移動させ、フラッシングの直後に、ヘッド面から離間する方向へ封止部材を移動させれば、フラッシング時におけるインクの飛行距離を可能な限り短くすることは可能である。しかしながら、フラッシングの度に封止部材の往復移動を行うとなると、その分だけフラッシングに要する時間が長くなるため、インクジェットプリンターのスループットが低下してしまう虞が生ずる。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、本発明に係る幾つかの態様が解決する課題は、液体噴射ヘッドのヘッド面に沿う方向における液体噴射ヘッドと封止部材との相対的な位置関係を規制可能な構成のヘッド保守装置において、液体噴射装置のスループットを低下させることなくフラッシング時に発生するミストの量を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、液体噴射ヘッドのヘッド面に設けられた液体噴射ノズルから被噴射材に液体を噴射する液体噴射装置の前記液体噴射ヘッドを保守するヘッド保守装置であって、前記液体噴射ヘッドのヘッド面と交差する方向となる所定の変位方向へ変位可能に装置基体に支持される一又は二以上の保守ユニットを備え、前記保守ユニットは、前記変位方向へ変位可能に前記装置基体に支持されるユニット基部と、弾性部材を介して前記ユニット基部に弾性支持され、前記液体噴射ヘッドのヘッド面を封止可能な封止面を有する封止部材と、前記ユニット基部に対して前記変位方向へ変位可能に支持され、前記液体噴射ヘッドと係合した状態で、前記液体噴射ヘッドのヘッド面に沿う方向における前記液体噴射ヘッドと前記封止部材との相対的な位置関係を規制するガイド部材と、を有する、ことを特徴としたヘッド保守装置である。
【0013】
このように、封止部材と別個に設けられたガイド部材が独立して変位可能な構成であることによって、液体噴射ヘッドのヘッド面と封止部材の封止面との相対的な間隔を維持したまま、ガイド部材だけを変位方向へ変位させることができる。それによってフラッシング時に、液体噴射ヘッドのヘッド面と封止部材の封止面との間隔をフラッシングに適した間隔に維持した状態で、液体噴射ヘッドの移動や被噴射材の搬送等の妨げにならない範囲にガイド部材を退避させておくことが可能になる。したがって、フラッシングの度に保守ユニットを変位方向へ往復動させる必要がなく、フラッシングに要する時間が不必要に長くなってしまうことがない。また、液体噴射ヘッドのヘッド面と封止部材の封止面との間隔をフラッシングに適した間隔に維持してフラッシングを行うことができるので、フラッシング時に発生するミストの量を低減させることができる。
【0014】
これにより本発明の第1の態様に記載のヘッド保守装置によれば、液体噴射ヘッドのヘッド面に沿う方向における液体噴射ヘッドと封止部材との相対的な位置関係を規制可能な構成のヘッド保守装置において、液体噴射装置のスループットを低下させることなくフラッシング時に発生するミストの量を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0015】
本発明の第2の態様は、前述した第1の態様に記載のヘッド保守装置において、前記ガイド部材は、少なくとも前記ガイド部材の前記液体噴射ヘッドと係合する部分より前記液体噴射ヘッドのヘッド面側へ前記封止部材の封止面が突出した状態となる位置へ変位可能に支持されている、ことを特徴としたヘッド保守装置である。
【0016】
このような特徴によれば、液体噴射ヘッドのヘッド面と封止部材の封止面との間隔を可能な限り短くした状態でフラッシングを行うことができるので、フラッシング時に発生するミストの量を最小限に止めることができる。
【0017】
本発明の第3の態様は、前述した第1の態様又は第2の態様に記載のヘッド保守装置において、前記保守ユニットは、前記封止部材に設けられた規制部が前記弾性部材の弾性力で前記ユニット基部に当接し、それによって前記液体噴射ヘッドのヘッド面に対して前記封止面が平行になるように前記封止部材の姿勢が規制される、ことを特徴としたヘッド保守装置である。
【0018】
このような特徴によれば、液体噴射ヘッドのヘッド面に対して平行な状態で封止部材の封止面を当接させて密着させることができる。それによって、液体噴射ヘッドのヘッド面に封止部材の封止面を密着させる際の位置決めを高精度に行うことが可能になる。
【0019】
本発明の第4の態様は、前述した第1〜第3の態様のいずれかに記載のヘッド保守装置において、前記ガイド部材は、前記ヘッド面に沿う第1方向における前記液体噴射ヘッドの両側端、及び前記ヘッド面に沿う方向かつ前記第1方向と交差する方向となる第2方向における前記液体噴射ヘッドの両側端と係合する、ことを特徴としたヘッド保守装置である。
【0020】
このような特徴によれば、液体噴射ヘッドのヘッド面に沿う方向における液体噴射ヘッドと封止部材との相対的な位置関係をより高精度に規制することが可能になる。それによって、液体噴射ヘッドのヘッド面に封止部材の封止面を密着させる際の位置決めを高精度に行うことが可能になる。
【0021】
本発明の第5の態様は、液体噴射ヘッドのヘッド面に設けられた液体噴射ノズルから被噴射材に液体を噴射する液体噴射装置であって、前述した第1〜第4の態様のいずれかに記載のヘッド保守装置を備える、ことを特徴とした液体噴射装置である。
本発明の第5の態様に記載の発明によれば、液体噴射ヘッドのヘッド面に設けられた液体噴射ノズルから被噴射材に液体を噴射する液体噴射装置において、前述した第1〜第4の態様のいずれかに記載の発明による作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】インクジェットプリンターの要部平面図。
【図2】インクジェットプリンターの要部側面図。
【図3】ヘッド保守装置の斜視図。
【図4】ヘッド保守装置の正面図。
【図5】保守ユニットの全体斜視図。
【図6】ユニット基部の分解斜視図。
【図7】キャップ、ヘッドガイド及びベース部材が設けられた部分の斜視図。
【図8】キャップ、ヘッドガイド及びベース部材が設けられた部分の分解斜視図。
【図9】キャップ、ヘッドガイド及びベース部材が設けられた部分の側面図。
【図10】キャップとベース部材との係合状態を図示した斜視図。
【図11】キャップとヘッドガイドとの係合状態を図示した斜視図及び正面図。
【図12】記録ヘッドの封止動作及び封止解除動作を図示した動作説明図。
【図13】ヘッドガイド及びワイパーユニットが設けられた部分の斜視図。
【図14】ワイパーユニットの斜視図。
【図15】ワイパーユニットの分解斜視図。
【図16】ヘッドガイドの斜視図。
【図17】ワイパークリーナーの変形例を図示した斜視図。
【図18】カム構造体とワイパーユニットとの係合部分を図示した斜視図。
【図19】右カム構造体が設けられた部分を拡大図示した要部側面図。
【図20】第1ワイパーとワイパークリーナーとの摺接係合部分の要部斜視図。
【図21】第1ワイパーとワイパークリーナーとの摺接係合部分の要部斜視図。
【図22】第1ワイパーとワイパークリーナーとの摺接係合部分の要部斜視図。
【図23】第1ワイパーとワイパークリーナーとの摺接係合部分の要部斜視図。
【図24】大気開放弁ユニットを斜め前方から観た斜視図。
【図25】大気開放弁ユニットを斜め後方から観た斜視図。
【図26】大気開放弁ユニットの分解斜視図。
【図27】一部を断面図示した大気開放弁ユニットの側面図。
【図28】一部を断面図示したプッシュラッチ機構部の底面図。
【図29】底面側から一部を断面図示したプッシュラッチ機構部の分解斜視図。
【図30】プッシュラッチ動作を模式的に図示した動作説明図。
【図31】リセット動作を模式的に図示した動作説明図。
【図32】駆動力伝達機構が設けられた部分を抜き出して図示した斜視図。
【図33】保守ユニットの駆動力伝達機構が設けられた部分の分解斜視図。
【図34】駆動力伝達機構の斜視図。
【図35】駆動力伝達機構の遊星歯車機構部分を図示した斜視図。
【図36】回転体の間欠歯車部と遊星歯車との噛合構造を図示した斜視図。
【図37】回転体の間欠歯車部と遊星歯車との噛合構造を図示した底面図。
【図38】保守ユニットの動作状態を図示した動作説明図。
【図39】ヘッド保守装置の制御手順を図示したタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
<インクジェットプリンター1の構成>
まず、「液体噴射装置」としてのインクジェットプリンター1の構成について説明する。
図1は、インクジェットプリンター1の要部平面図であり、図2は、その要部側面図である。
【0025】
本発明に係るインクジェットプリンター1は、本実施例においては所謂ラインヘッド型インクジェットプリンターである。インクジェットプリンター1は、「被噴射材」としての記録紙Pに記録を実行する手段として、搬送駆動ローラー11、搬送従動ローラー12、記録紙支持部材13、排出駆動ローラー14、排出従動ローラー15及び複数の記録ヘッド16を備えている。
【0026】
搬送駆動ローラー11は、外周面に高摩擦被膜が施されており、図示していない搬送用モーターの回転駆動力が伝達されて回転する。搬送従動ローラー12は、搬送駆動ローラー11に当接する方向へ付勢された状態で従動回転可能に軸支されている。記録紙支持部材13は記録紙Pを裏面側から支持する。記録ヘッド16のヘッド面と記録紙Pの記録面(記録が実行される面。以下同じ。)との間隔は、この記録紙支持部材13によって一定の間隔に維持される。排出駆動ローラー14は、図示していない搬送用モーターの回転駆動力が伝達されて回転する。排出従動ローラー15は、従動回転可能に軸支されるとともに、排出駆動ローラー14に当接する方向へ付勢されている。
【0027】
「液体噴射ヘッド」としての記録ヘッド16は、幅方向X(搬送方向YFと交差する方向)に一定の間隔をもって配置されるヘッド列が搬送方向YFへ2列構成されるように複数設けられている。搬送方向YFの下流側に構成されるヘッド列の各記録ヘッド16は、搬送方向YFの上流側に構成されるヘッド列の各記録ヘッド16の間に対応する位置に設けられている。複数の記録ヘッド16は、記録紙支持部材13に支持された状態の記録紙Pの記録面にヘッド面が対面するように設けられている。記録ヘッド16のヘッド面には、記録紙Pの記録面にインク(液体)を噴射してドットを形成するための多数のインク噴射ノズル(液体噴射ノズル)が配設されている(図示せず)。
【0028】
記録紙Pは、搬送駆動ローラー11と搬送従動ローラー12とで挟持され、搬送駆動ローラー11の駆動回転によって記録紙支持部材13上を搬送方向YFへ搬送される。記録紙支持部材13上の記録紙Pは、搬送駆動ローラー11の駆動回転により所定の搬送量で搬送方向YFへ搬送されながら、複数の記録ヘッド16のヘッド面からインクが噴射されて記録面にドットが形成される。それによって記録紙Pの記録面に記録が実行される。そして記録面に記録が実行された記録紙Pは、排出駆動ローラー14と排出従動ローラー15とで挟持され、排出駆動ローラー14の駆動回転により搬送方向YFへ搬送されてインクジェットプリンター1から排出される。これらの一連の記録制御は、公知のマイコン制御回路を有する制御装置100により実行される。
【0029】
さらにインクジェットプリンター1は、複数の記録ヘッド16を保守するヘッド保守装置2をヘッド列ごとに備えている。ヘッド保守装置2は、記録ヘッド16のヘッド列に対応する位置に配置され、記録紙支持部材13に設けられた貫通孔を介して記録ヘッド16に接離可能に設けられている。このヘッド保守装置2の制御は、制御装置100により実行される。
【0030】
<ヘッド保守装置2の構成>
ヘッド保守装置2の構成について、図3及び図4を参照しながら説明する。
図3は、ヘッド保守装置2の斜視図であり、図4は、その正面図である。
【0031】
ヘッド保守装置2は、装置基体20及び複数の保守ユニット3で構成される。装置基体20は、台座21、スライド装置22及び昇降装置23を備えている。
【0032】
台座21は、複数の記録ヘッド16に個々に対応する配列で複数の保守ユニット3が設けられ、符号Xで示した方向へスライド可能にスライド装置22に支持されている。この符号Xで示した方向は、前記の幅方向Xと同じ方向である(以下、「X方向」という。)。スライド装置22のスライド用モーター221を回転させることによって、スライド軸222がX方向へスライドし、それによって台座21がX方向へ変位する。すなわちスライド装置22は、記録ヘッド16に対して保守ユニット3をX方向へ変位させる装置である。スライド用モーター221の回転制御は、制御装置100によって実行される。
【0033】
またスライド装置22は、底部に設けられている円筒軸受部223、224に、昇降装置23の上部に設けられた支持軸233、234が挿入された状態で、符号Zで示した方向へ昇降可能に昇降装置23に支持されている。この符号Zで示した方向は、記録ヘッド16のヘッド面と交差する方向である(以下、「Z方向」という。)。カム係合部225は、スライド装置22の底部に一体に設けられている。昇降カム部235は、X方向へスライド可能に昇降装置23に支持されている。カム係合部225に設けられた凸部226は、昇降カム部235のカム孔236に係合している。昇降用モーター231を回転させることによって、スライド軸232がX方向へスライドし、それによって昇降カム部235がX方向へスライドする。それによって、昇降カム部235のカム孔236の形状に沿ってスライド装置22がZ方向へ変位し、台座21がZ方向へ昇降する。すなわち昇降装置23は、記録ヘッド16に対して保守ユニット3をZ方向へ変位させる装置である。昇降用モーター231の回転制御は、制御装置100によって実行される。
【0034】
<保守ユニット3の構成>
保守ユニット3の構成について、図5を参照しながら説明する。
図5は、保守ユニット3の全体斜視図である。
【0035】
保守ユニット3は、ユニット基部30、キャップ40、ヘッドガイド50、ワイパーユニット60、大気開放弁ユニット70及び駆動力伝達機構80で構成される。以下、これらの詳細な構成について、順番に説明していく。
【0036】
<ユニット基部30の構成>
ユニット基部30の構成について、引き続き図5も参照しつつ、図6を参照しながら説明する。
図6は、ユニット基部30の分解斜視図である。
【0037】
ユニット基部30は、ヘッド保守装置2の台座21に設けられている。つまりユニット基部30は、X方向及びZ方向へ変位可能に装置基体20に支持される。ユニット基部30は、基台31、左サイドフレーム32、右サイドフレーム33、支柱34、支持板35、カバー部材36、吸引ポンプ37、保守ユニット用モーター38及びベース部材39を有している(ベース部材39については図7〜図10を参照)。
【0038】
基台31は、ユニット基部30の土台となる部材である。基台31の上面には、凹部311及び3つの雌ネジ孔315が形成されており、凹部311には、円筒部312、歯車軸部313及び貫通孔314が形成されている。左サイドフレーム32及び右サイドフレーム33は、保守ユニット用モーター38の設置スペースを構成する部材である。左サイドフレーム32は、貫通孔321を介して基台31の左側面にネジ止め固定されている。右サイドフレーム33は、貫通孔331を介して基台31の右側面にネジ止め固定されている。
【0039】
支柱34は、一端側に雄ネジが形成されており、他端側には雌ネジが形成されている。3つの支柱34は、一端側の雄ネジが基台31の雌ネジ孔315に螺合した状態で、基台31の上面に立設されている。支持板35は、保守ユニット3を台座21にネジ止め固定するための部材であるとともに、後述する大気開放弁ユニット70及び駆動力伝達機構80を支持する部材である。支持板35は、3つの支柱34の他端側に支持され、支柱34の他端側の雌ネジに貫通孔351を介して雄ネジ(図示せず)を螺合させた状態で固定されている。カバー部材36は、支持板35にネジ止め固定され、後述する駆動力伝達機構80が内部に収容される部材である。
【0040】
吸引ポンプ37は、基台31の上面にネジ止め固定されている。吸引ポンプ37内部の駆動軸と係合するポンプギヤ371は、円筒部312に軸支された状態で基台31の凹部311内に配設されている。吸引ポンプ37は、後述するキャップ40の封止面に連通する吸引路を吸引するためのものであり、保守ユニット用モーター38の回転がポンプギヤ371に伝達されて動作する。公知の吸引ポンプ37は、保守ユニット用モーター38が正転駆動されると、負圧を発生させる吸引動作を行い、保守ユニット用モーター38が逆転駆動されたときはレリース状態となって負圧を発生しない。より具体的には吸引ポンプ37は、公知のチューブポンプであり、吸引動作は、内蔵されているホイールに巻回されたチューブが一方向へ扱かれることによって、そのチューブ内の気体や液体が押し出され、それによってチューブの一端側に吸引力が発生する構造になっている(図示せず)。また、吸引ポンプ37の内部の駆動軸とポンプギヤ371との係合部分には、図示していない遅延機構が設けられており、ポンプギヤ371の回転方向が逆転から正転に切り換わるときに、一回転未満の回転量で回転伝達に遅れが生ずるようになっている。
【0041】
保守ユニット用モーター38は、公知の電動モーターであり、制御装置100により回転制御される。保守ユニット用モーター38は、回転軸に設けられた駆動ギヤ381が基台31の貫通孔314を介して基台31の凹部311内に突出する状態で、基台31の底面にネジ止め固定されている。駆動ギヤ381は、基台31の凹部311内においてポンプギヤ371と噛合している。すなわち保守ユニット用モーター38の回転は、駆動ギヤ381からポンプギヤ371を介して吸引ポンプ37へ伝達される(ポンプ用駆動力伝達機構)。
【0042】
基台31の凹部311に設けられた歯車軸部313には、歯車382が軸支されている。歯車382は、基台31の凹部311内において、保守ユニット用モーター38の駆動ギヤ381と噛合している。回転伝達軸384は、基台31及び支持板35に軸支されている。回転伝達軸384の一端側に一体的に設けられた歯車383は、基台31の底面に形成されている凹部316に配設されている。この凹部316は上面側の凹部311と連通しており、歯車383は歯車382と噛合している。回転伝達軸384の他端側に一体的に設けられた歯車385は、後述する駆動力伝達機構80の一部を構成する太陽歯車85と噛合している。すなわち保守ユニット用モーター38の回転は、駆動ギヤ381から歯車382、歯車383、回転伝達軸384及び歯車385を介して駆動力伝達機構80へ伝達される。
【0043】
<キャップ40及びヘッドガイド50の構成>
キャップ40及びヘッドガイド50の構成について、図7〜図12を参照しながら説明する。
図7は、キャップ40、ヘッドガイド50及びベース部材39が設けられた部分を抜き出して図示した斜視図であり、図8は、その部分の分解斜視図であり、図9は、その部分の側面図である。
【0044】
「封止部材」としてのキャップ40は、ヘッドガイド50の内側に配設されており、2つの封止部41とキャップ本体42とで構成されている。封止部41は、キャップ本体42の負圧室421に形成された支持部422の先端凸部に支持孔413が係合した状態で、その支持部422に支持されている。封止部41の封止面411は、記録ヘッド16のヘッド面に密着したときに、記録ヘッド16のヘッド面との間に密閉された閉空間を形成する。連通孔412は、その封止面411をキャップ本体42の負圧室421へ連通させる貫通孔である。またキャップ本体42の負圧室421は、キャップ本体42の底部に突設された吸引孔部428及び大気連通孔部429に連通している。この吸引孔部428は、可撓性を有する吸引チューブ(図示せず)を介して吸引ポンプ37に接続される。また大気連通孔部429は、可撓性を有する大気開放チューブ(図示せず)を介して、後述する大気開放弁ユニット70に接続される。
【0045】
ユニット基部30の一部を構成するベース部材39は、カバー部材36の上面にネジ止め固定されている。ベース部材39は、2つの円筒形状のバネ支持部391を有している。2つのコイルバネ392は、それぞれバネ支持部391に挿入され、一端側がバネ支持部391内の底部に当接した状態でベース部材39に支持されている。また2つのコイルバネ392の他端側は、キャップ本体42の底部に当接している。つまりキャップ40は、2つのコイルバネ392により、ユニット基部30に弾性支持されている。
【0046】
「可動部材」及び「ガイド部材」としてのヘッドガイド50は、キャップ40の封止面411を記録ヘッド16のヘッド面に当接させて密着させる際に記録ヘッド16と係合し、記録ヘッド16のヘッド面に沿う方向における記録ヘッド16とキャップ40との相対的な位置関係を規制するための部材である。より具体的には、キャップ40の封止面411を記録ヘッド16のヘッド面に当接させて密着させる際に、キャップ40を取り囲むように形成された8つのガイド部51が記録ヘッド16の側部に係合する。つまり8つのガイド部51は、記録ヘッド16のヘッド面に沿う方向かつX方向と交差する方向であるY方向(第1方向)における記録ヘッド16の両側端、及びX方向(第2方向)における記録ヘッド16の両側端と係合する。また、ヘッドガイド50の内側面52がキャップ40の外周面に係合する状態においては、そのヘッドガイド50の内側面52によって、記録ヘッド16のヘッド面に沿う方向におけるヘッドガイド50とキャップ40との相対的な位置関係が規制される。それによって、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411を密着させる際の位置決めを高精度に行うことが可能になる。
【0047】
またヘッドガイド50は、キャップ40とベース部材39との間の空間に配設されており、Z方向へ変位可能にベース部材39に支持されている。つまり保守ユニット3は、キャップ40とは別個に設けられたヘッドガイド50が独立してZ方向へ変位可能な構成となっている。それによって、記録ヘッド16のヘッド面とキャップ40の封止面411との間隔を維持したまま、ヘッドガイド50だけをZ方向へ変位させることができる。
【0048】
ベース部材39に形成されている半円形状の凹部393は、左カム構造体81の収容空間を構成する。同様に、ベース部材39に形成されている半円形状の凹部394は、右カム構造体82の収容空間を構成する。また、ベース部材39の凹部393及び凹部394に形成された半円形状の切り欠き部は、カバー部材36に形成された支持溝363(図33を参照)と一体になってカム軸83の支持部を構成する。カム軸83は、この支持部に固設される。左カム構造体81は、そのカム軸83の一端側に軸支されており、右カム構造体82は、そのカム軸83の他端側に軸支されている。つまり左カム構造体81と右カム構造体82は、各々独立して回転可能にユニット基部30に支持されている。
【0049】
この左カム構造体81及び右カム構造体82は、ヘッドガイド50を変位させるためのカムを含むカム構造体である。この左カム構造体81と右カム構造体82は、左右対称形状の部品ではなく、同一形状の部品である。そのため、左カム構造体81と右カム構造体82は、後述する駆動力伝達機構80を介して保守ユニット用モーター38の駆動力が伝達されて回転するときには、常に相反する回転方向へ同じ回転量で回転するように駆動力が伝達される。そして、ヘッドガイド50の右腕部54に形成された凸部541は、右カム構造体82のヘッドガイド用カム(ガイド部材用カム)822に係合している。同様に、ヘッドガイド50の左腕部53に形成された凸部531(図11を参照)は、左カム構造体81のヘッドガイド用カム(図示せず)に係合している。
【0050】
このように左カム構造体81と右カム構造体82は同一形状の部品であることから、以下、左カム構造体81及び右カム構造体82について説明するときは、右カム構造体82を例に説明し、左カム構造体81についての説明は適宜省略する。
【0051】
ヘッドガイド50は、回転方向A1へ右カム構造体82が回転し、左カム構造体81がその回転方向A1と逆方向へ回転すると、それによって、ヘッドガイド用カム822の形状に沿って上昇方向ZU(Z方向における一方向で、記録ヘッド16に接近する方向)へ変位した状態となる。この状態においては、キャップ40の封止面411より記録ヘッド16側へヘッドガイド50のガイド部51が突出した状態となる(図9(a))。
【0052】
したがって、この状態から昇降装置23により記録ヘッド16に接近する方向へ保守ユニット3を変位させると、まずヘッドガイド50のガイド部51が記録ヘッド16に係合し、つづいてキャップ40の封止面411が記録ヘッド16のヘッド面に当接する。すなわち、記録ヘッド16のヘッド面に沿う方向における記録ヘッド16とキャップ40との相対的な位置関係をヘッドガイド50のガイド部51で規制した状態で、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411を密着させることができる。
【0053】
他方、ヘッドガイド50は、回転方向A2へ右カム構造体82が回転し、左カム構造体81がその回転方向A2と逆方向へ回転すると、それによって、ヘッドガイド用カム822の形状に沿って下降方向ZD(Z方向における他方向で、記録ヘッド16から離間する方向)へ変位する。この状態においては、ヘッドガイド50のガイド部51がキャップ40の封止面411より記録ヘッド16から離間する方向へ退避した状態となる。すなわち、ヘッドガイド50のガイド部51の突端より記録ヘッド16のヘッド面側へキャップ40の封止面411が突出した状態となる(図9(b))。
【0054】
このような状態にすることによって、記録紙Pへの記録実行の合間に行われるフラッシング時に、ヘッドガイド50のガイド部51が記録紙Pの搬送等の妨げにならないようにすることができる。したがって、フラッシングの度に保守ユニット3をZ方向へ往復動させる必要がなく、フラッシングに要する時間が不必要に長くなってしまうことがない。また、記録ヘッド16のヘッド面とキャップ40の封止面411との間隔をフラッシングに適した間隔に維持してフラッシングを行うことができる。より具体的には、記録ヘッド16のヘッド面とキャップ40の封止面411との間隔を可能な限り短くした状態でフラッシングを行うことができる。それによって、フラッシング時に発生するミストの量を最小限に止めることができるので、インクジェットプリンター1のスループットを低下させることなくフラッシング時に発生するミストの量を低減させることができる。
【0055】
図10は、キャップ40とベース部材39との係合状態を図示した斜視図である。
尚、図10においては、キャップ40とベース部材39との係合状態をより観やすく図示するために、ベース部材39を断片的に図示してある。
【0056】
キャップ40のキャップ本体42は、「第1規制部」としての第1係止部423及び第2係止部424を有している。第1係止部423は、キャップ本体42の底部からZ方向へ突出するように形成された二本の腕部42aの先端をX方向へ連結している部分である。第2係止部424は、同様に、キャップ本体42の底部からZ方向へ突出するように形成された二本の腕部42bの先端をX方向へ連結している部分である。
【0057】
ベース部材39は、第1係止爪部395、第2係止爪部396、第3係止爪部397及び第4係止爪部398を有している。第1係止爪部395及び第2係止爪部396は、キャップ本体42の第1係止部423に対してZ方向へ対応する位置に形成されている。第3係止爪部397及び第4係止爪部398は、キャップ本体42の第2係止部424に対してZ方向へ対応する位置に形成されている。
【0058】
少なくともキャップ40の封止面411より記録ヘッド16側へガイド部51が突出した状態となる所定の位置(以下、「第1変位位置」という。)にヘッドガイド50がある状態では、コイルバネ392の弾性力で、キャップ本体42の第1係止部423がベース部材39の第1係止爪部395及び第2係止爪部396に当接し(図10(a))、キャップ本体42の第2係止部424がベース部材39の第3係止爪部397及び第4係止爪部398に当接する(図10(b))。それによって、記録ヘッド16のヘッド面に対して封止面411が平行になるようにキャップ40の姿勢が規制される。
【0059】
図11は、キャップ40とヘッドガイド50との係合状態を図示した斜視図及び正面図である。
【0060】
キャップ40のキャップ本体42は、「第2規制部」としての第1当接部425、第2当接部426及び第3当接部427を有している。第1当接部425は、Z方向へ突出するように第1係止部423に一体に形成されている。第2当接部426及び第3当接部427は、Z方向へ突出するように第2係止部424に一体に形成されている。第1当接部425と第2当接部426は、Y方向(第1方向)へ間隔をもって形成されている。第3当接部427は、第1当接部425と第2当接部426に対して、X方向(第2方向)へ間隔をもって形成されている。
【0061】
ヘッドガイド50は、第1被当接部55、第2被当接部56及び第3被当接部57を有している。第1被当接部55は、キャップ本体42の第1当接部425に対してZ方向へ対応する位置に形成されている。第2被当接部56は、キャップ本体42の第2当接部426に対してZ方向へ対応する位置に形成されている。第3被当接部57は、キャップ本体42の第3当接部427に対してZ方向へ対応する位置に形成されている。またこれらは、記録ヘッド16のヘッド面に対して封止面411が平行になるようにキャップ40の姿勢が規制されている状態(図10に図示した状態)では、第1当接部425と第1被当接部55とのZ方向における間隔と、第2当接部426と第2被当接部56とのZ方向における間隔と、第3当接部427と第3被当接部57とのZ方向における間隔とがそれぞれ異なるように形成されている。より具体的には、例えば、ヘッドガイド50の第1被当接部55、第2被当接部56及び第3被当接部57をZ方向において一定の高さとし、キャップ本体42の第1当接部425、第2当接部426及び第3当接部427をZ方向へ段差を持って形成すれば良い。あるいは、キャップ本体42の第1当接部425、第2当接部426及び第3当接部427をZ方向において一定の高さとし、ヘッドガイド50の第1被当接部55、第2被当接部56及び第3被当接部57をZ方向へ段差を持って形成しても良い。
【0062】
第1変位位置より記録ヘッド16から離間した所定の位置(以下、「第2変位位置」という。)にヘッドガイド50を変位させると、コイルバネ392の弾性力で、キャップ本体42の第1当接部425、第2当接部426及び第3当接部427がヘッドガイド50の第1被当接部55、第2被当接部56及び第3被当接部57にそれぞれ当接した状態となる(図11)。またその状態においては、キャップ本体42の第1係止部423及び第2係止部424がベース部材39の第1係止爪部395、第2係止爪部396、第3係止爪部397及び第4係止爪部398から離間した状態となる。それによってキャップ40の姿勢は、記録ヘッド16のヘッド面に対して封止面411が三次元的に傾斜(X方向及びY方向に傾斜)した状態となるように規制される。
【0063】
図12は、記録ヘッド16のヘッド面の封止動作及び封止解除動作を簡略化して図示した動作説明図である。以下、図12を参照しながら、本発明に係るヘッド保守装置2における記録ヘッド16のヘッド面の封止動作及び封止解除動作の一例を説明する。
【0064】
ヘッドガイド50が第1変位位置にある状態では、コイルバネ392の弾性力で、キャップ40の第1係止部423及び第2係止部424がベース部材39の第1係止爪部395、第2係止爪部396、第3係止爪部397及び第4係止爪部398にそれぞれ当接する(図12(a))。それによって、記録ヘッド16のヘッド面に対して封止面411が平行になるようにキャップ40の姿勢が規制される(図10)。つまり、キャップ40の平行姿勢が保守ユニット3側で保持される。したがって、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411を密着させる際の位置決めを高精度に行うことが可能になる。
【0065】
この状態から、昇降装置23により保守ユニット3を上昇方向ZUへ変位させると、まずヘッドガイド50のガイド部51が記録ヘッド16に係合し、つづいてキャップ40の封止面411が記録ヘッド16のヘッド面に当接する(図12(b))。そして、さらに上昇方向ZUへ保守ユニット3を変位させた位置で昇降装置23を停止させる。それによって、圧縮された状態のコイルバネ392の弾性力(弾性復帰力)で、キャップ40の封止面411が記録ヘッド16のヘッド面に押圧されて密着する。また、記録ヘッド16のヘッド面に封止面411が当接した後は、上昇方向ZUへのキャップ40の変位が記録ヘッド16により係止される。そのため、キャップ40の第1係止部423及び第2係止部424は、ベース部材39の第1係止爪部395、第2係止爪部396、第3係止爪部397及び第4係止爪部398から離間した状態になる(図12(c))。
【0066】
この状態から、第1変位位置にあるヘッドガイド50を下降方向ZDへ変位させて第2変位位置へ移動させた後(図12(d))、昇降装置23により保守ユニット3を下降方向ZDへ変位させていく。それによって、まずキャップ40の第1当接部425がヘッドガイド50の第1被当接部55に当接し(図12(e))、次にキャップ40の第2当接部426がヘッドガイド50の第2被当接部56に当接し、最後にキャップ40の第3当接部427がヘッドガイド50の第3被当接部57に当接する(図12(f))。この状態では、記録ヘッド16のヘッド面に対して封止面411が三次元的に傾斜するようにキャップ40の姿勢が規制される(図11)。それによって、封止面411を傾斜させながら記録ヘッド16のヘッド面からキャップ40を離間させることが可能になるので、記録ヘッド16のヘッド面からキャップ40の封止面411を離間させる際に生ずるインクの飛散を低減させることができる。
【0067】
そして、元の位置まで保守ユニット3を下降方向ZDへ変位させたところで昇降装置23を停止させ(図12(g))、第2変位位置にあるヘッドガイド50を上昇方向ZUへ変位させて第1変位位置へ移動させる(図12(h))。それによって、ヘッド保守装置2を初期状態(図12(a)に図示した状態)に戻すことができる。
【0068】
このようにして本発明に係るヘッド保守装置2は、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411を密着させる際の位置決めを高精度に行うことができるとともに、記録ヘッド16のヘッド面からキャップ40の封止面411を離間させる際に生ずるインクの飛散を低減させることができる。
【0069】
<ワイパーユニット60の構成>
ワイパーユニット60の構成について、図13〜図15を参照しながら説明する。
図13は、ヘッドガイド50及びワイパーユニット60が設けられた部分を抜き出して図示した斜視図である。図14は、ワイパーユニット60の斜視図であり、図15は、その分解斜視図である。
【0070】
ワイパーユニット60は、ワイパー支持部材61、第1ワイパー取付部材62、第1ワイパー63、第2ワイパー取付部材64及び第2ワイパー65を有している。
【0071】
ワイパー支持部材61は、ヘッドガイド50の外側に設けられたベース部材39のさらに外側に配設されており、Z方向へ変位可能にベース部材39に支持されている。
【0072】
第1ワイパー63は、エラストマー等の弾性を有する材料で形成されており、記録ヘッド16のヘッド面に付着した付着物をX方向へのワイピングによって除去するための部材である。より具体的には、記録ヘッド16のヘッド面に第1ワイパー63が摺接可能な位置へワイパー支持部材61を移動させた状態で、記録ヘッド16に対して保守ユニット3をX方向へ変位させ、記録ヘッド16のヘッド面に第1ワイパー63の先端631を摺接させる。それによって、記録ヘッド16のヘッド面に付着している付着物が第1ワイパー63で払拭されて除去される。
【0073】
第1ワイパー取付部材62は、第1ワイパー63をワイパー支持部材61に着脱容易に取り付けるための部材である。第1ワイパー63は、第1ワイパー取付部材62の取付溝624の挿入され、取付溝624内の凸部(図示せず)に孔部632が係合した状態で固定されて第1ワイパー取付部材62に取り付けられている。
【0074】
第1ワイパー取付部材62は、以下の取付手順でワイパー支持部材61に簡単に取り付けることができる。まず、ワイパー支持部材61の側壁部に形成された屈曲長孔611、612に円形凸部621、622を係入させ、その屈曲長孔611、612の形状に沿って下方へ押し入れる。それによって、2つの係止部625でワイパー支持部材61の側壁部の上端に係止される。さらに、その状態から屈曲長孔611、612に沿ってその終端までY方向へスライドさせる。それによって、ワイパー支持部材61の掛止爪部613に凸部623が掛止され、第1ワイパー取付部材62は、ワイパー支持部材61の所定位置に位置決めされて取り付けられた状態となる。また、ワイパー支持部材61に取り付けられた状態の第1ワイパー取付部材62は、ワイパー支持部材61の掛止爪部613を外方へ撓ませて凸部623の掛止を解除した状態で、屈曲長孔611、612の形状に沿ってY方向へスライドさせた後、上方へ引き抜くことによって、簡単に取り外すことができる。
【0075】
第2ワイパー65は、記録ヘッド16のヘッド面に付着した付着物をY方向へのワイピングによって除去するための部材であり、第1ワイパー63と同様に、エラストマー等の弾性を有する材料で形成されている。また第2ワイパー65は、図示の如く先端部651が先細り形状になっているとともに、その先端部651が内側に屈曲した形状を有している。第2ワイパー取付部材64は、第2ワイパー65をワイパー支持部材61に着脱容易に取り付けるための部材である。第2ワイパー65は、第2ワイパー取付部材64の取付溝644の挿入され、取付溝644内の凸部(図示せず)に孔部652が係合した状態で固定されて第2ワイパー取付部材64に取り付けられている。
【0076】
第2ワイパー取付部材64は、第1ワイパー取付部材62と同様に、ワイパー支持部材61に対して簡単に着脱可能である。まず、ワイパー支持部材61の側壁部に形成された屈曲長孔614、615に円形凸部641、642を係入させ、その屈曲長孔614、615の形状に沿って下方へ押し入れる。それによって、2つの係止部645でワイパー支持部材61の側壁部の上端に係止される。さらに、その状態から屈曲長孔614、615に沿ってその終端までX方向へスライドさせる。それによって、ワイパー支持部材61の掛止爪部616に凸部643が掛止され、第2ワイパー取付部材64は、ワイパー支持部材61の所定位置に位置決めされて取り付けられた状態となる。また、ワイパー支持部材61に取り付けられた状態の第2ワイパー取付部材64は、ワイパー支持部材61の掛止爪部616を外方へ撓ませて凸部643の掛止を解除した状態で、屈曲長孔614、615の形状に沿ってX方向へスライドさせた後、上方へ引き抜くことによって、簡単に取り外すことができる。
【0077】
このようなスナップフィット機構によるワイパー取付構造を採用することによって、付着物の払拭能力が低下した第1ワイパー63及び第2ワイパー65を容易に交換することができるので、第1ワイパー63及び第2ワイパー65の払拭能力を維持することが容易になる。この第1ワイパー63及び第2ワイパー65は、対象となるインクジェットプリンター1の仕様等に応じて、いずれか一方だけをワイパー支持部材61に取り付けて使用しても良いし、両方ともワイパー支持部材61に取り付けて使用しても良い。
【0078】
さらに変形例としては、第1ワイパー63と第2ワイパー65を同じ向きでワイパー支持部材61に並設しても良い。それによって、記録ヘッド16のヘッド面の付着物をワイパーで払拭する動作を1回のワイピングで二重に行うことができるので、記録ヘッド16のヘッド面の付着物を除去する能力を向上させることができる。あるいは、記録ヘッド16のヘッド面の状態等に応じて、形状や弾性が異なる二以上のワイパーを選択的に使い分けることも可能になる。
尚、本実施例においては、第1ワイパー63だけを取り付けた場合を例に以下説明していくこととする。
【0079】
<ワイパークリーナー58>
ワイパークリーナー58について、図16及び図17を参照しながら説明する。
【0080】
図16は、ヘッドガイド50の斜視図である。
ヘッドガイド50には、第1ワイパー63に摺接して第1ワイパー63に付着した付着物を除去する「除去部」としてのワイパークリーナー58が設けられている(図3〜図12においては図示省略)。ワイパークリーナー58は、薄板状の金属部材の表面にフェルト等の吸収材を貼り付けることにより形成されている。ワイパークリーナー58は、弾性支持部582によって摺接係合部581に弾性が付与される形状をなしており、その摺接係合部581が第1ワイパー63と摺接する。第1ワイパー63に付着した付着物は、ワイパークリーナー58の摺接係合部581を第1ワイパー63に摺接させることによって除去することができる。このとき、ワイパークリーナー58は弾性支持部582によって弾性を付与された状態で支持されているので、摺接部分に過度な摩擦力が生ずる虞を低減させることができる。それによって、ワイパークリーナー58が第1ワイパー63に摺接する際に摩耗や破損等が第1ワイパー63に生ずる虞を低減させることができる。
【0081】
図17は、ワイパークリーナー58の変形例を図示した斜視図である。
当該変形例のワイパークリーナー58は、プラスチック等の合成樹脂部材からなるヘッドガイド50のガイド部51に一体的に形成されている。プラスチック等の合成樹脂部材は、弾性を有する材料であることから、ワイパークリーナー58を第1ワイパー63に弾性をもって摺接させることができる。このような態様でワイパークリーナー58を設けることも可能であり、それによって、部品点数を削減することができ、より低コストな構成とすることができる。
【0082】
<ワイパーユニット60の変位機構>
ワイパーユニット60の変位機構について、引き続き図13〜図17も参照しつつ、図18を参照しながら説明する。
図18は、左カム構造体81及び右カム構造体82とワイパーユニット60との係合部分を図示した斜視図である。
【0083】
ワイパーユニット60は、左カム係合部材66、右カム係合部材67、左カム付勢バネ68及び右カム付勢バネ69を有している。
【0084】
右カム係合部材67は、貫通孔673を介してワイパー支持部材61にネジ止め固定されている。右カム係合部材67の軸部671は、ワイパー支持部材61の孔部618を介してワイパー支持部材61の内側へ突出し、さらにヘッドガイド50の右腕部54の長孔543を介してヘッドガイド50の内側へ突出している。その軸部671の先端に形成されている係合部672は、右カム構造体82のワイパー支持部材用カム823と係合している。右カム付勢バネ69(図20〜図23を参照)は、右カム係合部材67の係合部672を右カム構造体82のワイパー支持部材用カム823へ付勢するとともに、ヘッドガイド50の右腕部54に形成されたバネ係止部542と係合して、その右腕部54に形成された凸部541を右カム構造体82のヘッドガイド用カム822に付勢している。
【0085】
同様に、左カム係合部材66は、貫通孔663を介してワイパー支持部材61にネジ止め固定されている。左カム係合部材66の軸部661は、ワイパー支持部材61の孔部617を介してワイパー支持部材61の内側へ突出し、さらにヘッドガイド50の左腕部53の長孔533を介してヘッドガイド50の内側へ突出している。その軸部661の先端に形成されている係合部662は、左カム構造体81のワイパー支持部材用カム(図示せず)と係合している。左カム付勢バネ68は、左カム係合部材66の係合部662を左カム構造体81のワイパー支持部材用カム(図示せず)へ付勢するとともに、ヘッドガイド50の左腕部53に形成された凸部531を左カム構造体81のヘッドガイド用カム(図示せず)に付勢している。
【0086】
<第1ワイパー63のクリーニング動作>
第1ワイパー63に付着した付着物をワイパークリーナー58で払拭する動作(以下、「第1ワイパー63のクリーニング動作」という。)について、図19〜図23を参照しながら説明する。
図19は、右カム構造体82が設けられた部分を拡大図示した要部側面図である。図20〜図23は、第1ワイパー63とワイパークリーナー58との摺接係合部分を拡大図示した要部斜視図である。
【0087】
左カム構造体81の歯車部811及び右カム構造体82の歯車部821は、後述する駆動力伝達機構80を構成する回転体84のカム駆動歯車部841と噛合している。右カム構造体82の外周面の所定位置には、突起部824が形成されている。この突起部824は、回転体84のカム駆動歯車部841の外側に形成された凹部847と係合して、回転体84の回転位置に対する右カム構造体82の位相を規定する役割を果たす。例えば、保守ユニット3の組立時には、右カム構造体82の突起部824を回転体84の凹部847に係合させた状態で組み立てる。それによって、回転体84の回転位置に対する右カム構造体82の位相にズレがない状態で、右カム構造体82の歯車部821を回転体84のカム駆動歯車部841に噛合させることを容易かつ確実に行うことができる。
【0088】
前述したように、左カム構造体81と右カム構造体82は同一形状の部品であることから、以下、右カム構造体82を例に説明し、左カム構造体81についての説明は省略する。
【0089】
ヘッドガイド50の右腕部54に形成された凸部541は、符号Bで示した範囲において右カム構造体82のヘッドガイド用カム822と係合する(以下、単に「ヘッドガイド50がヘッドガイド用カム822と係合」という。)。すなわちヘッドガイド50は、符号Bで示した範囲において、右カム構造体82のヘッドガイド用カム822の形状に沿ってZ方向へ変位する。また、ワイパー支持部材61の右カム係合部材67に形成された軸部671は、符号Cで示した範囲において右カム構造体82のワイパー支持部材用カム823と係合する(以下、単に「ワイパー支持部材61がワイパー支持部材用カム823と係合」という。)。すなわちワイパーユニット60は、符号Cで示した範囲において、右カム構造体82のワイパー支持部材用カム823の形状に沿ってZ方向へ変位する。
【0090】
右カム構造体82の符号D1で示した回転範囲(第1カム部)においては、ヘッドガイド50及びワイパーユニット60は、いずれもZ方向の最上端位置に変位した状態が維持される(図20)。この状態においては、キャップ40の封止面411より記録ヘッド16側へヘッドガイド50のガイド部51が突出した状態となる(図9(a))。すなわち、記録ヘッド16のヘッド面に沿う方向における記録ヘッド16とキャップ40との相対的な位置関係をヘッドガイド50のガイド部51で規制した状態で、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411を密着させることが可能な状態となる。
【0091】
またこの状態においては、第1ワイパー63の先端631がワイパークリーナー58で覆われた状態となるので、第1ワイパー63の先端631に紙粉や埃等の異物が付着する虞を低減させることができる。それによってワイピングの際に、第1ワイパー63に付着している異物が記録ヘッド16のヘッド面に転移して付着してしまう虞を低減させることができる。さらに、第1ワイパー63の先端631がワイパークリーナー58で覆われた状態では、ワイパークリーナー58の摺接係合部581の第1ワイパー63に摺接する面が第1ワイパー63に接した状態が維持される。それによって、ワイパークリーナー58の摺接係合部581の第1ワイパー63が摺接する面に紙粉や埃等の異物が付着する虞も低減させることができる。したがって、ワイパークリーナー58の摺接係合部581が第1ワイパー63に摺接する際に、その摺接係合部581に付着している異物が第1ワイパー63に転移して付着してしまう虞を低減させることができる。
【0092】
右カム構造体82の符号D2で示した回転範囲(第2カム部)においては、ワイパーユニット60はZ方向の最上端位置に変位した状態が維持される。他方、ヘッドガイド50は、右カム構造体82が逆転方向RDへ回転するときは下降方向ZDへ変位し、右カム構造体82が正転方向FDへ回転するときは上昇方向ZUへ変位する。すなわち符号D2で示した回転範囲においては、ワイパーユニット60はZ方向の最上端位置に変位した状態を維持したままヘッドガイド50だけを上下動(Z方向へ変位)させることができる(図21)。またヘッドガイド50だけを上下動させる過程では、ヘッドガイド50に設けられたワイパークリーナー58が第1ワイパー63の先端631から側面にかけて摺接し、第1ワイパー63のクリーニング動作が行われる。それによって、第1ワイパー63に付着した付着物がワイパークリーナー58により除去される。
【0093】
右カム構造体82の符号D3で示した回転範囲においては、ワイパーユニット60はZ方向の最上端位置に変位した状態で、かつヘッドガイド50はZ方向の最下端位置に変位させた状態が維持される(図22)。この状態においては、ヘッドガイド50のガイド部51より記録ヘッド16側へ第1ワイパー63が突出した状態となる(図22)。したがって、この状態においては、記録ヘッド16のヘッド面を第1ワイパー63でワイピングすることが可能な状態となる。
【0094】
右カム構造体82の符号D4で示した回転範囲(第3カム部)においては、ヘッドガイド50はZ方向の最下端位置に変位した状態が維持される。他方、ワイパーユニット60は、右カム構造体82が逆転方向RDへ回転するときは下降方向ZDへ変位し、右カム構造体82が正転方向FDへ回転するときは上昇方向ZUへ変位する。すなわち符号D4で示した回転範囲においては、ヘッドガイド50はZ方向の最下端位置に変位した状態を維持したままワイパーユニット60だけを上下動(Z方向へ変位)させることができる。またワイパーユニット60だけを上下動させる過程では、ヘッドガイド50に設けられたワイパークリーナー58が第1ワイパー63の先端631から側面にかけて摺接し、第1ワイパー63のクリーニング動作が行われる。それによって、第1ワイパー63に付着した付着物がワイパークリーナー58により除去される。
【0095】
右カム構造体82の符号D5で示した回転範囲においては、ヘッドガイド50及びワイパーユニット60がいずれもZ方向の最下端位置に変位した状態が維持される(図23)。この状態においては、ヘッドガイド50のガイド部51の突端及び第1ワイパー63の先端631より記録ヘッド16のヘッド面側へキャップ40の封止面411が突出した状態となる(図9(b))。つまり、前述したように、記録ヘッド16のヘッド面とキャップ40の封止面411との間隔をフラッシングに適した間隔に維持してフラッシングを行うことが可能な状態となる。
【0096】
このように、記録ヘッド16のヘッド面の封止動作をヘッドガイド50で高精度に規制可能な状態(図9(a))からワイピングが可能な状態(図22)、最適なインク噴射距離でフラッシングが可能な状態(図9(b))へ保守ユニット3の状態を順次移行させる過程で、少なくとも2回は第1ワイパー63のクリーニング動作が行われることになる。また保守ユニット3の状態を上記と逆順で順次移行させる過程においても、やはり少なくとも2回は第1ワイパー63のクリーニング動作が行われることになる。すなわち、記録ヘッド16に対してヘッドガイド50及びワイパーユニット60を個々に進退させる一連の保守動作の中で、ワイパークリーナー58による第1ワイパー63のクリーニング動作は、無駄な動作を生じさせることなく、少なくとも4回は行うことができる。それによって、インクジェットプリンター1のスループットを低下させることなく、第1ワイパー63に付着した付着物を全て除去できない虞を確実に低減させることができる。
【0097】
<大気開放弁ユニット70の構成>
大気開放弁ユニット70の構成について、図24〜図27を参照しながら説明する。
図24は、大気開放弁ユニット70を斜め前方から観た斜視図である。図25は、大気開放弁ユニット70を斜め後方から観た斜視図である。図26は、大気開放弁ユニット70の分解斜視図である。図27は、一部を断面図示した大気開放弁ユニット70の側面図である。
【0098】
大気開放弁ユニット70は、キャップ40の封止面411を大気に開放する大気連通路を開閉するために設けられている。大気開放弁ユニット70は、ユニット筐体71、揺動部材72、支持部材73、弁体支持部74、弁座部75及びプッシュラッチ機構部90を有している。
【0099】
ユニット筐体71は、プッシュラッチ機構部90の一部を構成する機構本体部91が一体的に形成されているとともに、弁座部75がネジ止め固定されている。支持部材73は、弁座部75にネジ止め固定されている。揺動部材72は、支持部材73の揺動支持凸部731に切り欠き部721が係合した状態で、符号Fで示した方向へ揺動可能に支持部材73に支持されている。また揺動部材72は、図示していない捻りコイルバネ等の付勢手段によって、プッシュラッチ機構部90の一部を構成する操作軸体95の当接部958に被当接部722が当接する揺動方向へ付勢されている。すなわち揺動部材72は、プッシュラッチ機構部90の操作軸体95が操作方向Eへ変位することによって揺動方向Fへ揺動する。
【0100】
弁体支持部74は、支持部材73の挿通孔732に軸部742が挿通された状態で、符号Gで示した方向(以下、「開閉方向G」という。)へ変位可能に支持部材73に支持されている。その軸部742の先端に形成されている被係合部741には、揺動部材72の係合部723が係合している。すなわち弁体支持部74は、揺動部材72が揺動方向Fへ揺動することによって開閉方向Gへ往復動するように設けられている。弁体支持部74に支持されている弁体743は、段差を有する円板形状の部材であり、ゴム等の可撓性を有する材料で形成されている。弁体743は、凹面形状の弁座753の周縁に隙間無く密着した状態を維持したまま、軸部742の開閉方向Gへの往復動に伴い、弁座部75の内周面に接離する方向へ弾性変形する。
【0101】
弁座部75の背面側には、第1管部751及び第2管部752が設けられている。第1管部751は、可撓性を有する大気開放チューブ(図示せず)を介して、キャップ40のキャップ本体42の大気連通孔部429に接続される。第2管部752は、図示していない大気開放チューブを介して大気に開放されている。弁座部75の弁座753には、弁座753の内周面に第1管部751を連通させる第1貫通孔754、及び弁座753の内周面に第2管部752を連通させる第2貫通孔755が形成されている。
【0102】
このような構成の大気開放弁ユニット70は、プッシュラッチ機構部90の操作軸体95が操作方向Eへ変位することによって、揺動部材72が揺動方向Fへ揺動する。それによって弁体支持部74が開閉方向Gへ往復動し、弁体743が弁座部75の内周面に接離する方向へ弾性変形する。弁体743の中央部分が弁座753の内周面から離間している状態では、弁座753の内周面と弁体743との間に形成される閉空間を通じて、第1管部751と第2管部752とが連通する状態となる。その状態では、大気開放弁ユニット70は開いた状態、つまりキャップ40の封止面411が大気開放チューブを介して大気に開放されている状態となる。他方、弁体743の中央部分が弁座753の内周面に面接触して着座している状態では、第1貫通孔754及び第2貫通孔755が弁体743で塞がれた状態となる。そのため、第1管部751と第2管部752との連通が弁体743によって遮断された状態となり、その状態では、大気開放弁ユニット70は閉じた状態、つまりキャップ40の封止面411が大気開放チューブを介して大気に開放されていない状態となる。
【0103】
<プッシュラッチ機構部90の構成>
プッシュラッチ機構部90の構成について、引き続き図24〜図27も参照しつつ、図28及び図29を参照しながら説明する。
図28は、一部を断面図示したプッシュラッチ機構部90の底面図である。図29は、一部を断面図示して底面側から観たプッシュラッチ機構部90の分解斜視図である。
【0104】
大気開放弁ユニット70の弁体743の開閉操作を行うためのプッシュラッチ機構部90は、当該実施例においては、いわゆるノック式筆記具等に一般的に用いられているカム機構を基礎とする構造である。プッシュラッチ機構部90は、機構本体部91、プッシュ部材92、リセット部材93、円筒体94及び操作軸体95を有している。
【0105】
機構本体部91は、前述したように、ユニット筐体71に一体的に形成されている。機構本体部91は、段階的に内径が拡径していく連続した空間を内部に形成する第1円筒部911、第2円筒部912及び第3円筒部913を有している。第1円筒部911の入口部分には、矩形形状のガイド孔914が形成されている。第1円筒部911の上部には、操作方向Eに沿って切り欠かれたガイド部915が形成されている。
【0106】
プッシュ部材92は、ガイド孔914にガイドされて周方向への回転が係止された状態で、操作方向Eへ変位可能に第1円筒部911に支持されており、プッシュ操作部921、波歯カム部922及び係止部923を有している。プッシュ操作部921は、第1円筒部911のガイド孔914から先端が突出した状態で配設されている。係止部923は、第1円筒部911の内径より僅かに小径でガイド孔914より大きい円板形状をなしている。プッシュ操作部921は、この係止部923の外周面が第1円筒部911の内周面に摺接することによって、操作方向Eへ変位可能に支持される。またプッシュ操作部921の係止部923は、プッシュ操作部921が操作方向Eへ変位する際に第1円筒部911から脱落することを防止している。波歯カム部922には、上り斜面と下り斜面とが周方向へ交互に形成されてなる8つの波歯が周方向へ等間隔に形成されている。
【0107】
リセット部材93は、円筒部933が第2円筒部912に内挿され、リセット操作部931が第1円筒部911のガイド部915に係合した状態で、操作方向Eへ変位可能に配設されている。リセット部材93は、コイルバネ等の付勢手段(図示せず)によって、回転体84側へ突出する方向に付勢されている。リセット操作部931は、操作方向Eへ突出するように円筒部933に形成されており、第1円筒部911のガイド部915と係合する部分の裏側には、第1円筒部911の内周面を補完するように内壁面部932が形成されている。リセット部材93の円筒部933の内周面には、4つのリセット用突条934が周方向へ等間隔に形成されている。リセット用突条934の操作方向Eの一端には、周方向に対して一定角度で傾斜するリセット用案内斜面935が形成されている。
【0108】
円筒体94は、第3円筒部913に内挿され、所定位置で固定されている。つまり円筒体94は、周方向へ回転せず操作方向Eへも変位しない状態で第3円筒部913内に設けられている。円筒体94の内周面には、4つのプッシュラッチ用突条941が周方向へ等間隔に形成されている。このプッシュラッチ用突条941は、リセット部材93のリセット用突条934に対して操作方向Eへ対応する位置に形成されている。プッシュラッチ用突条941の操作方向Eの一端には、第1案内斜面942、第2案内斜面943及び係止部944が形成されている。第1案内斜面942及び第2案内斜面943は、周方向に対して一定角度で傾斜する斜面であり、その傾斜方向は、リセット部材93のリセット用案内斜面935の傾斜方向と同じである。係止部944については後述する。
【0109】
操作軸体95は、リセット部材93の円筒部933及び円筒体94に挿通された状態で、操作方向Eへ変位可能かつ周方向へ回転可能に配設されており、波歯当接部951、第1軸部952、第2軸部955及び当接部958を有している。波歯当接部951は、プッシュ部材92の波歯カム部922に対面する位置に形成されている。また波歯当接部951には、上り斜面と下り斜面とが周方向へ交互に繰り返されて4つの波歯が周方向へ等間隔に形成されている。第1軸部952には、リセット部材93の円筒部933の内周面に対応する部分に、周方向に対して一定角度で傾斜する斜面954が端部に形成された4つの第1突条953が周方向へ等間隔に形成されている。第2軸部955には、円筒体94の内周面に対応する部分に、周方向に対して一定角度で傾斜する斜面957が端部に形成された4つの第2突条956が周方向へ等間隔に形成されている。4つの第1突条953は、波歯当接部951の波歯の谷部分に対して操作方向Eへ対応する位置に形成されている。また4つの第2突条956は、4つの第1突条953に対して操作方向Eへ対応する位置に形成されている。当接部958には、揺動部材72の被当接部722が当接しており、揺動部材72を介して前記の付勢手段による付勢力が作用する。すなわち操作軸体95には、プッシュ部材92に当接する方向の付勢力が作用する。
【0110】
<プッシュラッチ機構部90におけるプッシュラッチ動作>
プッシュラッチ機構部90におけるプッシュラッチ動作について、図30を参照しながら説明する。
図30は、プッシュラッチ機構部90におけるプッシュラッチ動作を模式的に図示した動作説明図である。
尚、図30については、より図面を観やすくするため、図30(a)においてのみ符号を付し、図30(b)〜(h)については符号を省略して図示してある。
【0111】
まず、大気開放弁ユニット70が閉じた状態から開いた状態になるときの動作について、図30(a)〜(d)を参照しながら説明する。
プッシュラッチ機構部90は、操作軸体95の4つの第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941間に入り込んだ状態においては、大気開放弁ユニット70が閉じた状態となる(図30(a))。
【0112】
この状態から、回転体84に形成されたプッシュラッチ用カム845がプッシュ部材92のプッシュ操作部921に係合すると、プッシュ部材92が押動方向E1へ変位する。この押動方向E1は、操作方向Eの一方向であり、プッシュ部材92のプッシュ操作部921がプッシュラッチ用カム845により押動される方向であり、またリセット部材93のリセット操作部931がリセット用カム844により押動される方向でもある。プッシュ部材92が押動方向E1へ変位することによって、プッシュ部材92の波歯カム部922が操作軸体95の波歯当接部951に当接し、揺動部材72から作用する付勢力に抗して、プッシュ部材92が操作軸体95を押動方向E1へ押動する。このとき、プッシュ部材92の波歯カム部922と操作軸体95の波歯当接部951とは、波歯の斜面同士が当接しているため、揺動部材72から作用する付勢力によって、操作軸体95には周方向への回転力が作用する。しかし、操作軸体95の4つの第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941間に入り込んだ状態である間は、操作軸体95の周方向への回転がそのプッシュラッチ用突条941によって係止される。したがって操作軸体95は、その間は押動方向E1へのみ変位する(図30(b))。
【0113】
プッシュ部材92がさらに押動方向E1へ押動されていくと、操作軸体95の4つの第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941間から離脱する位置まで、操作軸体95が押動方向E1へ変位する。その時点で、操作軸体95の周方向への回転の係止が解除される。そのため、揺動部材72から作用する付勢力によって、プッシュ部材92の波歯カム部922の谷部分と操作軸体95の波歯当接部951の山部分とが合致する状態に至るまで、波歯の斜面に沿う方向へ回転しながら操作軸体95が変位する(符号K)。それによって、符号Jで示したような軌跡で操作軸体95が変位及び回転し、操作軸体95の第2突条956の斜面957が円筒体94のプッシュラッチ用突条941の第2案内斜面943に当接した状態となる(図30(c))。
【0114】
プッシュラッチ用カム845がプッシュ部材92のプッシュ操作部921から離間すると、揺動部材72から作用する付勢力によって、円筒体94のプッシュラッチ用突条941の第2案内斜面943に沿う方向へ回転しながら操作軸体95が変位する(符号K)。そして、操作軸体95の第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941の係止部944に当接する。それによって、その位置で操作軸体95が円筒体94に係止された状態が保持される。この状態においては、大気開放弁ユニット70が開いた状態となる(図30(d))。またプッシュ部材92は、操作軸体95に押動されて付勢方向E2へ変位する。この付勢方向E2は、操作方向Eの他方向であり、揺動部材72を介して操作軸体95に作用する付勢力の方向である。
【0115】
次に、大気開放弁ユニット70が開いた状態から閉じた状態になるときの動作について、図30(e)〜(h)を参照しながら説明する。
大気開放弁ユニット70が開いた状態から、回転体84に形成されたプッシュラッチ用カム845がプッシュ部材92のプッシュ操作部921に係合すると、プッシュ部材92が押動方向E1へ変位する(図30(e))。
【0116】
プッシュ部材92が押動方向E1へ変位することによって、プッシュ部材92の波歯カム部922が操作軸体95の波歯当接部951に当接し、揺動部材72から作用する付勢力に抗して、プッシュ部材92が操作軸体95を押動方向E1へ押動する。このとき、プッシュ部材92の波歯カム部922と操作軸体95の波歯当接部951とは、波歯の斜面同士が当接しているため、揺動部材72から作用する付勢力によって、操作軸体95には周方向への回転力が作用する。しかし、操作軸体95の4つの第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941の係止部944に係止された状態である間は、操作軸体95の周方向への回転が係止される。したがって操作軸体95は、その間は押動方向E1へのみ変位する(図30(f))。
【0117】
プッシュ部材92がさらに押動されていくと、操作軸体95の4つの第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941の係止部944から離脱する位置まで、操作軸体95が押動方向E1へ変位する。その時点で、操作軸体95の周方向への回転の係止が解除される。それによって、揺動部材72から作用する付勢力により、プッシュ部材92の波歯カム部922の谷部分と操作軸体95の波歯当接部951の山部分とが合致する状態に至るまで、波歯の斜面に沿う方向へ回転しながら操作軸体95が変位する(符号K)。また同時に、符号Jで示したような軌跡で操作軸体95が変位及び回転し、操作軸体95の第2突条956の斜面957が円筒体94のプッシュラッチ用突条941の第1案内斜面942に当接した状態となる(図30(g))。
【0118】
プッシュラッチ用カム845がプッシュ部材92のプッシュ操作部921から離間すると、揺動部材72から作用する付勢力によって、円筒体94のプッシュラッチ用突条941の第1案内斜面942に沿う方向へ回転しながら操作軸体95が変位する。それによって、操作軸体95の4つの第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941間に入り込んだ状態となる(符号L)。またプッシュ部材92は、操作軸体95に押動されて付勢方向E2へ変位する。この状態においては、大気開放弁ユニット70が閉じた状態となる(図30(h))。
【0119】
このようにして大気開放弁ユニット70は、プッシュラッチ機構部90によって、開いた状態と閉じた状態とを交互に切り換えることができる。つまり、プッシュラッチ機構部90のプッシュ操作部921の押動操作を行う度に、大気開放弁ユニット70は、開いた状態と閉じた状態とが交互に切り換わる。また、プッシュラッチ機構部90は操作状態を自己保持する機構であることから、大気開放弁ユニット70の開閉状態は、プッシュラッチ機構部90によって保持される。したがって、キャップ40による記録ヘッド16のヘッド面の封止状態にかかわらず、大気開放弁ユニット70の開閉状態を切り換えることができるとともに、その開閉状態を保持することができる。それによって、大気開放弁ユニット70による大気連通路の開閉状態にかかわらず、充分かつ安定した密着状態で記録ヘッド16のヘッド面を封止可能なヘッド保守装置2を低コストな構成で実現することができる。
【0120】
尚、プッシュラッチ機構部90は、当該実施例における態様に特に限定されるものではない。つまり、操作部の押動操作を行う度に大気開放弁ユニット70の開閉状態を交互に切り換えることが可能であり、その操作状態を自己保持可能な構造の機構であれば、どのような態様の機構であっても良い。例えば、所謂ハートカムを利用したプッシュラッチ機構を用いることができる。
【0121】
<プッシュラッチ機構部90におけるリセット動作>
プッシュラッチ機構部90におけるリセット動作について、図31を参照しながら説明する。
図31は、プッシュラッチ機構部90におけるリセット動作を模式的に図示した動作説明図である。
尚、図31についても、より図面を観やすくするため、図31(a)においてのみ符号を付し、図31(b)〜(g)については符号を省略して図示してある。
【0122】
まず、大気開放弁ユニット70が開いた状態におけるリセット動作について、図31(a)〜(e)を参照しながら説明する。
操作軸体95の第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941の係止部944に当接して、その位置で操作軸体95が円筒体94に係止された状態では、大気開放弁ユニット70が開いた状態が保持される。この状態においては、リセット部材93のリセット用突条934に対して、操作軸体95の第1突条953が操作方向Eに対応する位置にある状態となる。つまり、リセット部材93のリセット用案内斜面935と操作軸体95の斜面954とが操作方向Eへ当接可能な位置関係で対面した状態となる(図31(a))。
【0123】
この状態から、回転体84に形成されたリセット用カム844がリセット部材93のリセット操作部931に係合すると、リセット部材93が押動方向E1へ変位する。リセット部材93が押動方向E1へ変位することによって、リセット用突条934のリセット用案内斜面935が操作軸体95の第1突条953の斜面954に当接し、揺動部材72から作用する付勢力に抗して、リセット部材93が操作軸体95を押動方向E1へ押動する。このとき、リセット部材93と操作軸体95とが斜面で当接しているため、揺動部材72から作用する付勢力によって、操作軸体95には周方向への回転力が作用する。しかし、操作軸体95の4つの第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941の係止部944に係止された状態である間は、操作軸体95の周方向への回転がその係止部944によって係止される。したがって、その間は、操作軸体95は押動方向E1へのみ変位する(図31(b))。
【0124】
リセット部材93がさらに押動されていくと、操作軸体95の4つの第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941の係止部944から離脱する位置まで、操作軸体95が押動方向E1へ変位する。その時点で、操作軸体95の周方向への回転の係止が解除される。それによって、揺動部材72から作用する付勢力により、リセット部材93のリセット用案内斜面935に沿う方向へ回転しながら操作軸体95が変位する(符号M)。また同時に、符号Jで示したような軌跡で操作軸体95が変位及び回転し、操作軸体95の第2突条956の斜面957が円筒体94のプッシュラッチ用突条941の第1案内斜面942に当接した状態となる(図31(c))。
【0125】
そして、揺動部材72から作用する付勢力によって、円筒体94のプッシュラッチ用突条941の第1案内斜面942に沿う方向へ回転しながら操作軸体95が変位する。それによって、操作軸体95の4つの第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941間に入り込んだ状態となる(符号L)。ここで操作軸体95は、前述したように、4つの第1突条953に対して操作方向Eへ対応する位置に4つの第2突条956が形成されている。またリセット部材93は、円筒体94のプッシュラッチ用突条941に対して操作方向Eへ対応する位置にリセット用突条934が形成されている。したがって、操作軸体95の4つの第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941間に入り込んだ状態においては、操作軸体95の4つの第1突条953がリセット部材93のリセット用突条934間に入り込んだ状態となる(符号L)。この状態においては、大気開放弁ユニット70が閉じた状態となる(図31(d))。リセット用カム844がリセット部材93のリセット操作部931から離間すると、リセット部材93は、図示していない付勢手段の付勢力によって付勢方向E2へ変位する(図31(e))。
【0126】
次に、大気開放弁ユニット70が閉じた状態におけるリセット動作について、図31(e)〜(g)を参照しながら説明する。
操作軸体95の4つの第2突条956が円筒体94のプッシュラッチ用突条941間に入り込んだ状態においては、大気開放弁ユニット70が閉じた状態となっている。またこの状態においては、操作軸体95の4つの第1突条953がリセット部材93のリセット用突条934間に入り込んだ状態となる(図31(e))。
【0127】
この状態から、回転体84に形成されたリセット用カム844がリセット部材93のリセット操作部931に係合すると、リセット部材93が押動方向E1へ変位する。しかし、このときリセット部材93のリセット用突条934は、操作軸体95の第1突条953間に入り込んだ状態となるだけである(図31(f))。そのため操作軸体95は、リセット部材93のリセット用突条934で押動方向E1へ押動されない。すなわち大気開放弁ユニット70が閉じた状態においては、リセット部材93が操作方向Eへ往復動しても、操作軸体95の第1突条953間においてリセット用突条934が空振りするだけである。したがって、操作軸体95は押動方向E1へ変位せず、大気開放弁ユニット70が閉じた状態は変化しない。リセット用カム844がリセット部材93のリセット操作部931から離間すると、リセット部材93は、図示していない付勢手段の付勢力によって付勢方向E2へ変位する(図31(g))。
【0128】
このようにして「リセット機構」を備えたプッシュラッチ機構部90によれば、大気開放弁ユニット70が開いた状態においては、リセット操作部931の押動操作によるリセット動作によって、大気開放弁ユニット70を強制的に閉じた状態に移行させることができる。他方、大気開放弁ユニット70が閉じた状態においては、リセット操作部931の押動操作がなされても大気開放弁ユニット70が閉じた状態は変化しない。すなわち、リセット操作部931の押動操作によるリセット動作を行ったときは、常に大気開放弁ユニット70が閉じた状態にあることが保証されることになる。それによって、大気開放弁ユニット70の開閉状態を検出可能なセンサーを設けることなく、如何なる場合でも大気開放弁ユニット70の開閉状態を正確に特定することが可能になる。
【0129】
<駆動力伝達機構80の構成>
駆動力伝達機構80の構成について、図32〜図37を参照しながら説明する。
図32は、保守ユニット3の駆動力伝達機構80が設けられた部分を抜き出して図示した斜視図である。図33は、保守ユニット3の駆動力伝達機構80が設けられた部分の分解斜視図である。図34は、駆動力伝達機構80の斜視図である。図35は、駆動力伝達機構80の遊星歯車機構部分を図示した斜視図である。図36は、回転体84の間欠歯車部842と遊星歯車87との噛合構造を図示した斜視図であり、図37は、その底面図である。
【0130】
ユニット基部30に設けられた駆動力伝達機構80は、前述したように、保守ユニット用モーター38の駆動力を吸引ポンプ37に伝達する機構(駆動ギヤ381、ポンプギヤ371)を有している(図6を参照)。それに加えて駆動力伝達機構80は、さらに、前記の左カム構造体81及び右カム構造体82並びに大気開放弁ユニット70を保守ユニット用モーター38の駆動力で動作させるための機構として、回転体84、太陽歯車85、遊星レバー86及び遊星歯車87を有している。
【0131】
左カム構造体81及び右カム構造体82を各々独立して回転可能に軸支するカム軸83は、前述したように、ユニット基部30を構成するカバー部材36の支持溝363とベース部材39の一部とで構成される支持部に固設されている。左カム構造体81は、カバー部材36に形成された孔361に下側半分が入り込んだ状態となる位置に配設されており、右カム構造体82は、カバー部材36に形成された孔362に下側半分が入り込んだ状態となる位置に配設されている。左カム構造体81の歯車部811及び右カム構造体82の歯車部821は、カバー部材36の内側に配設された回転体84のカム駆動歯車部841と噛合している。左カム構造体81の歯車部811、右カム構造体82の歯車部821及び回転体84のカム駆動歯車部841は、略円錐形状をなしており、その円錐部分の周面に歯が刻まれた所謂かさ(傘)歯車である。
【0132】
太陽歯車85は、外周面に歯が形成されて構成された第1歯車部851と、軸受部854の外周面に歯が形成されて構成された第2歯車部852とを有する二段歯車である。太陽歯車85は、ユニット基部30を構成する支持板35に立設された支持軸352が軸受部854に挿通された状態で、その支持軸352に軸支されている。太陽歯車85の第1歯車部851は、カバー部材36の歯車収容部365に収容されて配設される歯車385と噛合している。すなわち太陽歯車85は、歯車383、回転伝達軸384及び歯車385を介して保守ユニット用モーター38の駆動力が伝達されて回転する。
【0133】
遊星レバー86は、太陽歯車85のアーム支持部853(軸受部854の外周面に歯が形成されていない部分)が円筒部861に挿通された状態で、揺動方向Nへ揺動可能に、太陽歯車85の軸受部854に支持されている。遊星レバー86の円筒部861には、腕部863が突設されている。その腕部863の先端部分は、カバー部材36の対応する位置に形成された揺動規制孔364と係合しており、それによって遊星レバー86の揺動範囲が一定の範囲に制限されている。
【0134】
遊星歯車87は、遊星レバー86の腕部863に形成された軸部862に軸支されており、太陽歯車85の第2歯車部852と噛合している。
【0135】
回転体84は、軸受孔846に支持軸352の上部が挿通された状態で支持軸352に軸支されている。回転体84の上面には、左カム構造体81の歯車部811及び右カム構造体82の歯車部821と噛合する前記のカム駆動歯車部841(カム駆動歯車)が形成されている。また回転体84の内周面には、歯が形成されている範囲で遊星歯車87と噛合する間欠歯車部842が形成されている。さらに回転体84の外周面には、前記のプッシュラッチ機構部90と係合するリセット用カム844及びプッシュラッチ用カム845が周方向へ重ならない位置にZ方向へ段差をもって形成されている。
【0136】
このような構成の駆動力伝達機構80は、歯が形成されている範囲(本実施例においては約350度の範囲)で回転体84の間欠歯車部842が遊星歯車87と噛合している状態では、太陽歯車85の回転が遊星歯車87を介して間欠歯車部842に伝達されて回転体84が回転する。そして、間欠歯車部842の間欠部843(歯が形成されていない部分)が遊星歯車87に到達する位置まで回転体84が回転したところで、遊星歯車87が空転する状態となるため、保守ユニット用モーター38の駆動力で太陽歯車85が回転しても回転体84は回転しない状態となる。また、その状態から太陽歯車85の回転方向を反転させると、その反転後の回転方向へ一定の揺動範囲(揺動規制孔364により規制された揺動範囲)で遊星レバー86が揺動し、それによって間欠歯車部842の歯が形成されている部分に遊星歯車87が噛合する。それによって、太陽歯車85の回転が遊星歯車87を介して間欠歯車部842に伝達されて回転体84が回転する状態となる。
【0137】
<駆動力伝達機構80の動作>
駆動力伝達機構80の動作について、図38を参照しながら説明する。
図38は、保守ユニット3の動作状態を回転体84の回転位置に対応付けて図示した動作説明図である。
【0138】
ここで符号R0〜R6は、基準点Sを基準として回転体84の回転位置又は回転範囲を示すものである。この基準点Sは、プッシュラッチ機構部90のプッシュ操作部921及びリセット操作部931の位置と一致している。また符号D1〜D5は、同様に、基準点Sを基準として回転体84の回転範囲を示すものである。この回転範囲D1〜D5は、図19に図示した右カム構造体82の回転範囲D1〜D5を回転体84の回転範囲に対応付けて図示したものである(図示していないが左カム構造体81についても同様である。)。
【0139】
保守ユニット3は、保守ユニット用モーター38を正転(CW)させると、回転体84は正転方向FRへ回転し、保守ユニット用モーター38を逆転(CCW)させると、回転体84は逆転方向RRへ回転する。そして、回転体84が正転方向FRに回転するときは、左カム構造体81及び右カム構造体82はいずれも正転方向FDへ回転し、回転体84が逆転方向RRに回転するときは、左カム構造体81及び右カム構造体82はいずれも逆転方向RDへ回転する。
【0140】
回転範囲R0は、間欠歯車部842の間欠部843に対応する。つまり回転範囲R0は、間欠歯車部842に遊星歯車87が噛合せずに遊星歯車87が空転する範囲である(以下、「空転範囲R0」という。)。したがって空転範囲R0においては、保守ユニット用モーター38の駆動力で太陽歯車85が回転しても回転体84は回転しない状態となる。つまり空転範囲R0においては、保守ユニット用モーター38の駆動力で吸引ポンプ37は動作し続ける一方で、回転体84の回転は停止した状態が維持される。
【0141】
回転位置R1は、正転方向FRへ回転体84を回転させたときに遊星歯車87が空転し始める回転位置であり、正転方向FRにおける空転範囲R0の始点ということになる。つまり、回転体84が正転方向FRへ回転する回転方向へ太陽歯車85を回転させ続けると、この回転位置R1が基準点Sに到達したところで、遊星歯車87が空転して回転体84がそれ以上は正転方向FRへ回転しない状態となる(以下、「空転開始位置R1」という。)。
【0142】
回転範囲R2〜R6は、空転範囲R0以外の回転範囲、つまり間欠歯車部842に遊星歯車87が噛合して回転体84が回転可能な範囲内に設定されている。
【0143】
回転範囲R2は、大気開放弁ユニット70を開閉可能な回転範囲である。つまり回転範囲R2においては、プッシュラッチ機構部90のプッシュ操作部921がプッシュラッチ用カム845と係合してプッシュ部材92が押動される(以下、「プッシュ操作範囲R2」という。)。そして、プッシュ操作範囲R2に隣接する空転開始位置R1又は回転範囲R3においては、プッシュラッチ機構部90のプッシュ操作部921からプッシュラッチ用カム845が離間した状態となる。したがって、例えばプッシュ操作範囲R2と回転範囲R3との間を往復するように回転体84を回転させることによって、大気開放弁ユニット70の開閉操作を行うことができる。あるいは、空転開始位置R1とプッシュ操作範囲R2との間を往復するように回転体84を回転させても大気開放弁ユニット70の開閉操作を行うことができる。あるいは、空転開始位置R1から回転範囲R3へ又は回転範囲R3から空転開始位置R1へ回転体84を回転させることによっても、大気開放弁ユニット70の開閉操作を行うことができる。
【0144】
回転範囲R2及び回転範囲R3は、左カム構造体81及び右カム構造体82の回転範囲D1に対応している。したがって、この回転範囲R2及び回転範囲R3においては、ヘッドガイド50及びワイパーユニット60は、いずれもZ方向の最上端位置に変位した状態が維持される(図20)。すなわち、記録ヘッド16のヘッド面に沿う方向における記録ヘッド16とキャップ40との相対的な位置関係をヘッドガイド50のガイド部51で規制した状態で、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411を密着させることが可能な状態となる。
【0145】
回転範囲RGは、左カム構造体81及び右カム構造体82の回転範囲D2に対応しており、ヘッドガイド50が変位する回転範囲である(以下、「ヘッドガイド操作範囲RG」という。)。つまりヘッドガイド操作範囲RGにおいては、前述したように、ワイパーユニット60はZ方向の最上端位置に変位した状態を維持したままヘッドガイド50だけを上下動(Z方向へ変位)させることができる(図21)。またヘッドガイド操作範囲RGは、プッシュ操作範囲R2と重ならない範囲に設定されているので、大気開放弁ユニット70の開閉状態を維持したままヘッドガイド50だけを上下動させることができる。さらにヘッドガイド操作範囲RGにおいては、ヘッドガイド50だけを上下動させることによって、前述したように、ワイパークリーナー58による第1ワイパー63のクリーニング動作を行うことができる。
【0146】
回転範囲R4は、左カム構造体81及び右カム構造体82の回転範囲D3に対応している。つまり回転範囲R4においては、前述したように、ヘッドガイド50のガイド部51より記録ヘッド16側へ第1ワイパー63が突出した状態が維持される(図22)。この状態においては、前述したように、記録ヘッド16のヘッド面を第1ワイパー63でワイピングすることが可能な状態となる(以下、「ワイピング実行範囲R4」という。)。
【0147】
回転範囲RYは、左カム構造体81及び右カム構造体82の回転範囲D4に対応しており、ワイパーユニット60が変位する回転範囲である(以下、「ワイパー操作範囲RY」という。)。つまりワイパー操作範囲RYにおいては、前述したように、ヘッドガイド50はZ方向の最下端位置に変位した状態を維持したままワイパーユニット60だけを上下動(Z方向へ変位)させることができる。またワイパー操作範囲RYは、プッシュ操作範囲R2及びヘッドガイド操作範囲RGのいずれとも重ならない範囲に設定されているので、大気開放弁ユニット70の開閉状態を維持したままワイパーユニット60だけを上下動させることができる。さらにワイパー操作範囲RYにおいては、ワイパーユニット60だけを上下動させることによって、前述したように、ワイパークリーナー58による第1ワイパー63のクリーニング動作を行うことができる。
【0148】
回転範囲R5は、左カム構造体81及び右カム構造体82の回転範囲D5に対応している。つまり回転範囲R5においては、前述したように、ヘッドガイド50のガイド部51の突端及び第1ワイパー63の先端631より記録ヘッド16のヘッド面側へキャップ40の封止面411が突出した状態となる(図9(b))。つまり、記録ヘッド16のヘッド面とキャップ40の封止面411との間隔をフラッシングに適した間隔に維持してフラッシングを行うことが可能な状態となる(以下、「記録実行範囲R5」という。)。すなわち記録紙Pに記録を実行する際には、記録実行範囲R5まで(基準点Sが記録実行範囲R5内となる位置まで)回転体84を回転させれば良い。
【0149】
回転範囲R6は、プッシュラッチ機構部90のラッチをリセットして大気開放弁ユニット70を強制的に閉じた状態にすることが可能な回転範囲である(以下、「リセット操作範囲R6」という。)。つまりリセット操作範囲R6においては、プッシュラッチ機構部90のリセット操作部931がリセット用カム844と係合してリセット部材93が押動される。そして、リセット操作範囲R6に隣接する記録実行範囲R5においては、プッシュラッチ機構部90のリセット操作部931からリセット用カム844が離間した状態となる。したがって、例えば記録実行範囲R5とリセット操作範囲R6との間を往復するように回転体84を回転させることによって、大気開放弁ユニット70を強制的に閉じた状態にすることができる。またリセット操作範囲R6は、プッシュ操作範囲R2、ヘッドガイド操作範囲RG及びワイパー操作範囲RYのいずれとも重ならない範囲に設定されている。したがって、ヘッドガイド50及びワイパーユニット60がZ方向の最下端位置に変位した状態を維持したままプッシュラッチ機構部90のリセット操作を行うことができる。さらにリセット操作範囲R6は、左カム構造体81及び右カム構造体82の回転範囲D5に対応している。したがって、例えば記録紙Pへの記録実行中にプッシュラッチ機構部90のリセット操作を行うことも可能である。
【0150】
<ヘッド保守装置2の制御手順>
ヘッド保守装置2の制御手順の一例について、図39を参照しながら説明する。以下説明する記録ヘッド16を保守する制御手順は、制御装置100により実行される。
図39は、ヘッド保守装置2の制御手順を図示したタイミングチャートである。
【0151】
インクジェットプリンター1の電源がOFFの状態では、Z方向における保守ユニット3の位置は封止位置にあり、記録ヘッド16のヘッド面がキャップ40で封止されていて、大気開放弁ユニット70は閉じた状態である。インクジェットプリンター1の電源投入後は、保守ユニット3の初期化手順として、まずプッシュラッチ機構部90のリセット操作を実行して、大気開放弁ユニット70が閉じた状態を確定させる。これは、通常は電源OFF制御時に大気開放弁ユニット70を閉じた状態にするが、何らかの要因で開いた状態になっている場合には、大気開放弁ユニット70の開閉制御の内容と実際の開閉状態とが一致しない状態になる可能性があるからである。
【0152】
より具体的には、インクジェットプリンター1の電源投入後、まず保守ユニット用モーター38を逆転(CCW)させることにより、リセット操作範囲R6まで回転体84を逆転方向RRへ回転させる。それによって、プッシュラッチ機構部90のリセット操作部931にリセット用カム844が係合し、プッシュラッチ機構部90のリセット操作が行われる。またリセット用カム844は、リセット操作範囲R6と空転範囲R0を跨ぐ位置に設けられている。したがって、確実なリセット操作を実行する上では、保守ユニット用モーター38を逆転(CCW)させてリセット操作範囲R6まで回転体84を回転させるときの回転量は、回転体が如何なる回転位置にあっても空転範囲R0で空転状態となるのに充分な回転量に設定するのが好ましい。
【0153】
尚、このプッシュラッチ機構部90のリセット操作は、インクジェットプリンター1の電源投入時以外でもいつでも実行することができる。例えば、記録実行中や記録ヘッド16の保守動作においても、何らかの要因で大気開放弁ユニット70の開閉制御の内容と実際の開閉状態とが一致しない状態になってしまった可能性があると判断したときは、より確実に誤動作を回避するために、改めてプッシュラッチ機構部90のリセット操作を行うようにすれば良い。
【0154】
プッシュラッチ機構部90のリセット操作後は、つづいて、プッシュラッチ用カム845によるプッシュラッチ機構部90の押動操作を1回だけ実行して、大気開放弁ユニット70を開いた状態にする。より具体的には、保守ユニット用モーター38を正転(CW)させることにより、プッシュ操作範囲R2まで回転体84を正転方向FRへ回転させる。それによって、プッシュラッチ機構部90のプッシュ操作部921にプッシュラッチ用カム845が係合し、大気開放弁ユニット70が開いた状態となる。この開いた状態は、プッシュラッチ機構部90によって保持される(動作状態:初期化)。
【0155】
尚、公知のチューブポンプである吸引ポンプ37は、前述したように、保守ユニット用モーター38が正転駆動されると、負圧を発生させる吸引動作を行い、保守ユニット用モーター38が逆転駆動されたときはレリース状態となって負圧を発生しない。また、ポンプギヤ371の回転方向が逆転から正転に切り換わるときに、一回転未満の回転量で回転伝達に遅れが生ずるようになっている。そのため吸引ポンプ37は、空転開始位置R1において保守ユニット用モーター38を正転(CW)させる状態においてのみ動作する。
【0156】
保守ユニット3の初期化後、記録紙Pに記録を実行するときには、まず保守ユニット用モーター38を逆転(CCW)させることにより記録実行範囲R5まで回転体84を回転させる。それによって、ヘッドガイド50のガイド部51の突端及び第1ワイパー63の先端631より記録ヘッド16のヘッド面側へキャップ40の封止面411が突出した状態となる。また、少なくともヘッドガイド50がZ方向の最上端位置(第2変位位置)に変位した後に、昇降装置23により、保守ユニット3全体を記録中位置まで下降させる。それによって、記録ヘッド16からキャップ40が離間し、キャップ40による記録ヘッド16のヘッド面の封止を解除することができる。また、記録ヘッド16のヘッド面とキャップ40の封止面411との間隔をフラッシングに適した間隔に設定して記録紙Pへの記録を実行可能な状態とすることができる(動作状態:記録中)。
【0157】
記録紙Pに記録を実行した後、本吸引動作を実行するときには、まず保守ユニット用モーター38を正転(CW)させることにより空転開始位置R1まで回転体84を回転させる。このとき、回転範囲R3以降は、ヘッドガイド50及びワイパーユニット60がいずれもZ方向の最上端位置に変位した状態が維持される。したがって、記録ヘッド16のヘッド面に沿う方向における記録ヘッド16とキャップ40との相対的な位置関係をヘッドガイド50のガイド部51で規制した状態で、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411を密着させることが可能な状態となる。
【0158】
さらに、プッシュ操作範囲R2を経て空転開始位置R1まで回転体84が回転する過程で、プッシュラッチ用カム845によるプッシュラッチ機構部90の押動操作が1回実行され、大気開放弁ユニット70が開いた状態から閉じた状態へ切り換わる(動作状態:吸引準備)。この閉じた状態は、プッシュラッチ機構部90によって保持される。
【0159】
そして、回転体84が回転範囲R3まで回転した以降に、昇降装置23により、保守ユニット3全体を封止位置まで上昇させる。それによって、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411が当接して密着する(動作状態:吸引準備)。その状態から、保守ユニット用モーター38をさらに正転(CW)させ続けることによって、吸引ポンプ37が動作して本吸引動作(大気開放弁ユニット70を閉じた状態での吸引動作)が実行される。このとき回転体84は、遊星歯車87が空転するため空転開始位置R1で停止した状態が維持される(動作状態:本吸引)。
【0160】
尚、本実施例においては、大気開放弁ユニット70を閉じた状態で、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411を当接させて密着させるが、それによってメニスカスが破壊される程の圧力変動が記録ヘッド16のヘッド面に作用することは、ほとんどないと考えられる。しかし、圧力変動によるメニスカス破壊のおそれを極力低減させる上では、例えば、いったん大気開放弁ユニット70を開いた状態にしてから、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411を当接させて密着させ、その後に大気開放弁ユニット70を閉じた状態に切り換えて本吸引動作を実行するようにしても良い。
【0161】
本吸引動作を実行した後は、記録ヘッド16のヘッド面をキャップ40で封止した状態を維持したまま、引き続き空吸引動作を実行することができる。まず保守ユニット用モーター38を逆転(CCW)させることによりプッシュ操作範囲R2まで回転体84を回転させる。つづいて、保守ユニット用モーター38を正転(CW)させて再び空転開始位置R1まで回転体84を回転させる。それによって、プッシュラッチ用カム845によるプッシュラッチ機構部90の押動操作が1回実行され、大気開放弁ユニット70が閉じた状態から開いた状態へ切り換わる(動作状態:空吸引準備)。この開いた状態は、プッシュラッチ機構部90によって保持される。その状態から、保守ユニット用モーター38をさらに正転(CW)させ続けることによって、吸引ポンプ37が動作して空吸引動作(大気開放弁ユニット70を開いた状態での吸引動作)が実行される。このとき回転体84は、遊星歯車87が空転するため空転開始位置R1で停止した状態が維持される(動作状態:空吸引)。
【0162】
空吸引動作を実行した後、再び本吸引動作を実行する場合には、保守ユニット用モーター38を逆転(CCW)させることによりプッシュ操作範囲R2まで回転体84を回転させ、さらに保守ユニット用モーター38を正転(CW)させて再び空転開始位置R1まで回転体84を回転させれば良い。それによって、記録ヘッド16のヘッド面をキャップ40で封止した状態を維持したまま、開いた状態の大気開放弁ユニット70を再び閉じた状態へ切り換えることができる。すなわち本発明に係る保守ユニット3は、空転開始位置R1とプッシュ操作範囲R2との間を往復動するように回転体84を回転させることによって、本吸引動作が可能な状態と空吸引動作が可能な状態とを交互に切り換えることができる。したがって、必要に応じて必要な回数だけ、本吸引動作と空吸引動作を交互に繰り返し行うことができる。また、記録紙Pへの記録実行後、本吸引動作及び空吸引動作を行う必要がない状態である場合には、空転開始位置R1まで回転体84を回転させないようにすれば、本吸引動作及び空吸引動作を行うことなく、次に説明するワイピングを実行することもできる。
【0163】
記録紙Pへの記録実行後、必要に応じて本吸引動作及び空吸引動作を実行した後は、ワイピングを実行することができる。まず保守ユニット用モーター38を逆転(CCW)させることによりワイピング実行範囲R4まで回転体84を回転させる。それによって、ヘッドガイド50のガイド部51より記録ヘッド16側へ第1ワイパー63が突出した状態となる。このとき、空転開始位置R1からワイピング実行範囲R4まで回転体84が回転する過程で、プッシュラッチ用カム845によるプッシュラッチ機構部90の押動操作が1回実行され、大気開放弁ユニット70が開いた状態から閉じた状態へ切り換わる。
【0164】
また、空転開始位置R1からワイピング実行範囲R4まで回転体84が回転する過程では、ヘッドガイド操作範囲RGにおいてヘッドガイド50が下降する際に、第1ワイパー63の先端631から側面にかけてワイパークリーナー58が摺接して、ワイピング前に第1ワイパー63のクリーニング動作が行われる。このときはワイピングを行う前の段階であることから、第1ワイパー63にはインクはほとんど付着していないことが多いと考えられる。しかし、記録紙Pへの記録実行中に発生した紙粉や埃等の異物の一部が浮遊して第1ワイパー63に付着することがある。そして、この第1ワイパー63に付着した紙粉や埃等の異物がワイピング時に記録ヘッド16のヘッド面に付着すると、インク噴射ノズルの詰まり等の要因となる虞がある。つまりワイピングの前に行われる第1ワイパー63のクリーニング動作は、主に第1ワイパー63に付着した紙粉や埃等の異物をワイピングの前に除去できる点に意義がある。
【0165】
そして、ヘッドガイド50がZ方向の最上端位置(第2変位位置)に変位した以降に、昇降装置23により、保守ユニット3全体をワイピング位置まで移動させる(動作状態:ワイピング準備)。このワイピング位置は、封止位置と記録中位置との間に設定されており、記録ヘッド16のヘッド面に第1ワイパー63の先端631が摺接可能な状態となる位置である。この状態から、スライド装置22により、ホーム位置からワイピング終了位置まで保守ユニット3全体をX方向へ変位させて、記録ヘッド16のヘッド面に第1ワイパー63の先端631を摺接させるワイピングを実行する。それによって、記録ヘッド16のヘッド面に付着した付着物を除去することができる(動作状態:ワイピング)。
【0166】
ワイピングを実行した後は、保守ユニット用モーター38を逆転(CCW)させることにより記録実行範囲R5まで回転体84を回転させる。それによって、ワイパーユニット60がZ方向の最上端位置から最下端位置へ変位し、その過程で、第1ワイパー63の先端631から側面にかけてワイパークリーナー58が摺接して、ワイピング後1回目の第1ワイパー63のクリーニング動作が行われる(動作状態:ワイピング完了〜ワイパー復帰)。このワイピング後のクリーニング動作は、第1ワイパー63に付着したインクを除去することが主な目的となる。またワイピングを実行した後は、スライド装置22により、保守ユニット3全体をX方向へホーム位置まで変位させるとともに、昇降装置23により、保守ユニット3全体を待機位置まで下降させる。
【0167】
一連の上記ワイピング手順の実行後、記録ヘッド16のヘッド面がキャップ40の封止面411で封止された停止状態へ移行する場合には、以下の手順を実行すれば良い。まず保守ユニット用モーター38を正転(CW)させることによりプッシュ操作範囲R2まで回転体84を回転させる。そこから保守ユニット用モーター38を逆転(CCW)させて、回転範囲R3まで回転体84を回転させた後、再び保守ユニット用モーター38を正転(CW)させて、空転開始位置R1まで回転体84を回転させる。それによって、プッシュラッチ用カム845によるプッシュラッチ機構部90の押動操作が2回実行され、大気開放弁ユニット70は、閉じた状態から開いた状態へ切り換わった後、再び閉じた状態となる。この閉じた状態は、プッシュラッチ機構部90によって保持される。このような操作を実行するのは、大気開放弁ユニット70が閉じた状態で記録実行範囲R5から空転開始位置R1まで回転体84を回転させたときに、空転開始位置R1においても大気開放弁ユニット70が閉じた状態にするためである。
【0168】
また、記録実行範囲R5から空転開始位置R1まで回転体84が回転する過程では、ワイパー操作範囲RYにおいてワイパーユニット60が上昇する際に、第1ワイパー63の先端631から側面にかけてワイパークリーナー58が摺接して、ワイピング後2回目の第1ワイパー63のクリーニング動作が行われる。さらに、ヘッドガイド操作範囲RGにおいてヘッドガイド50が上昇する際に、第1ワイパー63の先端631から側面にかけてワイパークリーナー58が再び摺接して、ワイピング後3回目の第1ワイパー63のクリーニング動作が行われる。
【0169】
このように第1ワイパー63のクリーニング動作は、一連の保守動作の中で、無駄な動作を生じさせることなく複数回行うことができる。それによって、インクジェットプリンター1のスループットを低下させることなく、第1ワイパー63に付着した付着物を全て除去できない虞を確実に低減させることができる。また、ワイピングの前に行われる第1ワイパー63のクリーニング動作は、主に第1ワイパー63に付着した紙粉や埃等の異物をワイピングの前に除去することができる。他方、ワイピングの後に行われる第1ワイパー63のクリーニング動作は、主に第1ワイパー63に付着したインクを除去することができる。すなわち、第1ワイパー63に付着した様々な付着物をワイピングの前後のクリーニング動作によって合理的に除去でき、第1ワイパー63に付着した付着物を全て除去できない虞をさらに低減させることができる。
【0170】
回転範囲R3以降は、ヘッドガイド50及びワイパーユニット60がいずれもZ方向の最上端位置に変位した状態が維持される。それによって、記録ヘッド16のヘッド面に沿う方向における記録ヘッド16とキャップ40との相対的な位置関係をヘッドガイド50のガイド部51で規制した状態で、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411を密着させることが可能な状態となる(動作状態:キャップ準備)。そして、回転体84が回転範囲R3まで回転した以降に、昇降装置23により、保守ユニット3全体を封止位置まで上昇させる。それによって、記録ヘッド16のヘッド面にキャップ40の封止面411が当接して密着し、記録ヘッド16のヘッド面がキャップ40の封止面411で封止された状態となる(動作状態:停止)。
【0171】
以上説明したように本発明に係るヘッド保守装置2は、吸引ポンプ37の駆動、大気開放弁ユニット70の開閉、第1ワイパー63の移動、これらが全て一の保守ユニット用モーター38の駆動力によって行うことが可能な構成であって、本吸引動作、空吸引動作、ワイピング、これらの組み合わせを柔軟に選択して保守動作を実行することができる。
【0172】
<他の実施例>
本発明は、上記説明した実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【0173】
例えば、いわゆるシリアルヘッド型インクジェットプリンターにおいても本発明は実施することができる。より具体的には、キャリッジに搭載された記録ヘッドの数(通常は1個)と同じ数の保守ユニット3をヘッド保守装置2の台座21に設ければ良い。またシリアルヘッド型インクジェットプリンターにおいては、キャリッジの移動によりワイピングを行うことが可能であることから、ヘッド保守装置2のスライド装置22は設けなくても良い。
【符号の説明】
【0174】
1 インクジェットプリンター、2 ヘッド保守装置、3 保守ユニット、16 記録ヘッド、22 スライド装置、23 昇降装置、30 ユニット基部、37 吸引ポンプ、38 保守ユニット用モーター、39 ベース部材、40 キャップ、41 封止部、42 キャップ本体、50 ヘッドガイド、51 ガイド部、55 第1被当接部、56 第2被当接部、57 第3被当接部、58 ワイパークリーナー、60 ワイパーユニット、61 ワイパー支持部材、62 第1ワイパー取付部材、63 第1ワイパー、64 第2ワイパー取付部材、65 第2ワイパー、70 大気開放弁ユニット、71 ユニット筐体、72 揺動部材、73 支持部材、74 弁体支持部、75 弁座部、80 駆動力伝達機構、81 左カム構造体、82 右カム構造体、83 カム軸、84 回転体、85 太陽歯車、86 遊星レバー、87 遊星歯車、90 プッシュラッチ機構部、91 機構本体部、92 プッシュ部材、93 リセット部材、94 円筒体、95 操作軸体、100 制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射ヘッドのヘッド面に設けられた液体噴射ノズルから被噴射材に液体を噴射する液体噴射装置の前記液体噴射ヘッドを保守するヘッド保守装置であって、
前記液体噴射ヘッドのヘッド面と交差する方向となる所定の変位方向へ変位可能に装置基体に支持される一又は二以上の保守ユニットを備え、
前記保守ユニットは、
前記変位方向へ変位可能に前記装置基体に支持されるユニット基部と、
弾性部材を介して前記ユニット基部に弾性支持され、前記液体噴射ヘッドのヘッド面を封止可能な封止面を有する封止部材と、
前記ユニット基部に対して前記変位方向へ変位可能に支持され、前記液体噴射ヘッドと係合した状態で、前記液体噴射ヘッドのヘッド面に沿う方向における前記液体噴射ヘッドと前記封止部材との相対的な位置関係を規制するガイド部材と、を有する、ことを特徴としたヘッド保守装置。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッド保守装置において、前記ガイド部材は、少なくとも前記ガイド部材の前記液体噴射ヘッドと係合する部分より前記液体噴射ヘッドのヘッド面側へ前記封止部材の封止面が突出した状態となる位置へ変位可能に支持されている、ことを特徴としたヘッド保守装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヘッド保守装置において、前記保守ユニットは、前記封止部材に設けられた規制部が前記弾性部材の弾性力で前記ユニット基部に当接し、それによって前記液体噴射ヘッドのヘッド面に対して前記封止面が平行になるように前記封止部材の姿勢が規制される、ことを特徴としたヘッド保守装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のヘッド保守装置において、前記ガイド部材は、前記ヘッド面に沿う第1方向における前記液体噴射ヘッドの両側端、及び前記ヘッド面に沿う方向かつ前記第1方向と交差する方向となる第2方向における前記液体噴射ヘッドの両側端と係合する、ことを特徴としたヘッド保守装置。
【請求項5】
液体噴射ヘッドのヘッド面に設けられた液体噴射ノズルから被噴射材に液体を噴射する液体噴射装置であって、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のヘッド保守装置を備える、ことを特徴とした液体噴射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【公開番号】特開2011−88367(P2011−88367A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244170(P2009−244170)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】