説明

ヘテロアセン誘導体、(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体及びそれらの製造方法

【課題】優れた耐酸化性を有し、塗布法による半導体活性相形成が可能な、ヘテロアセン誘導体、及びそれを用いた耐酸化性有機半導体材料並びに有機薄膜の提供。
【解決手段】一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体。


(ここで、置換基R〜R18は同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数4〜30のアリール基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルキニル基を示し、T及びTは同一又は異なって、硫黄、セレン、リン、ホウ素、アルミニウムを示し、l及びmは、各々0又は1の整数であり、n及びoは、各々0〜2の整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体等の電子材料への展開が可能なヘテロアセン誘導体、その用途及びその製造方法に関する。さらに本発明は、該ヘテロアセン誘導体の前駆化合物である(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタに代表される有機半導体デバイスは、省エネルギー、低コスト及びフレキシブルといった無機半導体デバイスにはない特徴を有することから近年注目されるようになった。この有機半導体デバイスは有機半導体活性相、基板、絶縁相、電極等数種類の材料から構成されるが、中でも電荷のキャリアー移動を担う有機半導体活性相は該デバイスの中心的な役割を有している。この有機半導体活性相を構成する有機材料のキャリアー移動能により有機半導体デバイス性能が左右される。
【0003】
有機半導体活性相を作製する方法としては一般的に、高温真空下、有機材料を気化させて実施する真空蒸着法及び有機材料を適当な溶媒に溶解させその溶液を塗布する塗布法が知られている。塗布法においては、塗布は高温高真空条件を用いることなく印刷技術を用いても実施することができる。そのため、塗布法は印刷によりデバイス作製の大幅な製造コストの削減を図ることができることから、経済的に好ましいプロセスである。しかし、従来、有機半導体デバイスとして性能が高い材料ほど塗布法で有機半導体活性相を形成することが困難になるという問題があった。
【0004】
例えば、ペンタセン等の結晶性材料はアモルファスシリコン並みの高いキャリアー移動度を有し、優れた有機半導体デバイス特性を発現することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。又、ペンタセン等のポリアセンを溶解させ塗布法で有機半導体デバイスを製造する試みも報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ペンタセンはその強い凝集性のため溶解性が低く、塗布法を適用するためには高温加熱等の条件が必要とされ、さらにペンタセンの溶液は極めて容易に空気酸化されることから、塗布法の適用はプロセス的、経済的に困難を伴うものであった。また、ポリ−(3−ヘキシルチオフェン)等の自己組織化材料は溶媒に可溶であり、塗布法による有機半導体デバイス作製が報告されてはいるが、キャリアー移動度が結晶性化合物より1桁低いことから(例えば、非特許文献2参照)、得られた有機半導体デバイスの特性が低いという問題があった。
【0005】
またチオフェン環が縮環したペンタチエノアセンはペンタセンに比べ耐酸化性が向上しているが、キャリアー移動度が低いこと及びその合成に多工程を必要とすることから(例えば、非特許文献3参照)実用上好ましい材料ではなかった。
【0006】
【特許文献1】WO2003/016599号
【非特許文献1】「ジャーナル オブ アプライドフィジックス」、(米国)、2002年、92巻、5259−5263頁
【非特許文献2】「サイエンス」、(米国)、1998年、280巻、1741−1744頁
【非特許文献3】「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティー」、(米国)、2005年、127巻、13281−13286頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は上記の従来技術が有する問題点に鑑み、優れた耐酸化性を有し、塗布法による有機半導体活性相形成が可能な、ヘテロアセン誘導体及びそれを用いた耐酸化性有機半導体材料並びに有機薄膜を提供することを目的とする。さらに、本発明は該ヘテロアセン誘導体の前駆体として有用な(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体及びその製造方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討の結果、本発明の新規なヘテロアセン誘導体を見出した。加えて、該ヘテロアセン誘導体が耐酸化性に優れ、塗布法の適用が可能であるため結晶性の薄膜を容易に安定して作製することができることから、該ヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料及びその有機薄膜を見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
さらに本発明者らは、該ヘテロアセン誘導体を効率的に製造することができる新規な前駆化合物、即ち特定の(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体を見出し、且つ係る(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体を効率的に製造する方法を見出し本発明を完成するに到った。
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。説明はヘテロアセン誘導体及びその製造方法、該ヘテロアセン誘導体の前駆体である(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体及びその製造方法、並びに該ヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料及びその有機薄膜について述べる。
【0011】
(ヘテロアセン誘導体)
本発明のヘテロアセン誘導体は下記一般式(1)で示される。
【0012】
【化1】

(ここで、置換基R〜R18は同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数4〜30のアリール基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルキニル基を示し、T及びTは同一又は異なって、硫黄、セレン、リン、ホウ素、アルミニウムを示し、l及びmは、各々0又は1の整数であり、n及びoは、各々0〜2の整数を示す。)
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の置換基について述べる。
【0013】
置換基R〜R18における炭素数1〜30のアルキル基は、特に限定はなく、例えばメチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のアルキル基;トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロオクタデシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロオクチル基等のパーフルオロアルキル基;ペンタデカフルオロオクチル基、オクタデカフルオロデシル基、2−エチルパーフルオロヘキシル基等の一部の水素がフッ素に置換されたハロゲン化アルキル基を挙げることができ、好ましくはドデシル基、オクタデシル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロオクタデシル基であり、特に好ましくはドデシル基、パーフルオロドデシル基である。
【0014】
置換基R〜R18における炭素数4〜30のアリール基は、特に限定はなく、例えばフェニル基、p−トリル基、p−(オクチル)フェニル基、p−(ドデシル)フェニル基、p−(シクロヘキシル)フェニル基、m−(オクチル)フェニル基、m−(ドデシル)フェニル基、p−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、p−(トリフルオロメチル)フェニル基、p−(パーフルオロオクチル)フェニル基、p−(パーフルオロドデシル)フェニル基、m−(パーフルオロドデシル)フェニル基、2−チエニル基、5−(ドデシル)−2−チエニル基、2,2’−ビチエニル−5−基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−パーフルオロナフチル基、アントラセニル基等を挙げることができ、好ましくはフェニル基、p−(オクチル)フェニル基、p−(パーフルオロオクチル)フェニル基、5−(ドデシル)−2−チエニル基等であり、特に好ましくはフェニル基である。
【0015】
置換基R〜R18における、炭素数2〜30のアルケニル基は、特に限定はなく、例えばエテニル基、メチルエテニル基、イソプロピルエテニル基、tert−ブチルエテニル基、(オクチル)エテニル基、(ドデシル)エテニル基、(トリフルオロメチル)エテニル基、フェニルエテニル基、{p−(ヘキシル)フェニル}エテニル基、{p−(オクチル)フェニル}エテニル基、{p−(ドデシル)フェニル}エテニル基、{m−(ドデシル)フェニル}エテニル基、2−フェニル−1,2−ジフルオロエテニル基、2−フェニル−1,2−ジメチルエテニル基、ジフェニルエテニル基、トリフェニルエテニル基、ナフチルエテニル基、アントラセニルエテニル基、ベンジルエテニル基、フェニル(メチル)エテニル基、(パーフルオロフェニル)エテニル基、{p−(トリフルオロメチル)フェニル}エテニル基、(パーフルオロオクチル)エテニル基、(パーフルオロドデシル)エテニル基、{5−(ヘキシル)チエニル−2−}エテニル基、{5−(パーフルオロヘキシル)チエニル−2−}エテニル基等を挙げることができ、好ましくは(オクチル)エテニル基、(ドデシル)エテニル基、(パーフルオロオクチル)エテニル基、(パーフルオロドデシル)エテニル基等である。なお、該炭素数2〜30のアルケニル基はトランス体及びシス体の何れであってもよく、またそれらの任意の割合の混合物であってもよい。
【0016】
置換基R〜R18における、炭素数2〜30のアルキニル基は、特に限定はなく、例えばエチニル基、メチルエチニル基、イソプロピルエチニル基、tert−ブチルエチニル基、(オクチル)エチニル基、(ドデシル)エチニル基、(トリフルオロメチル)エチニル基、(パーフルオロオクチル)エチニル基、(パーフルオロドデシル)エチニル基、フェニルエチニル基、{p−(オクチル)フェニル}エチニル基、{p−(ドデシル)フェニル}エチニル基、{m−(ドデシル)フェニル}エチニル基、ナフチルエチニル基、アントラセニルエチニル基、ベンジルエチニル基、パーフルオロフェニルエチニル基、{p−(トリフルオロメチル)フェニル}エチニル基、{p−(パーフルオロオクチル)フェニル}エチニル基、{p−(パーフルオロドデシル)フェニル}エチニル基、{m−(パーフルオロドデシル)フェニル}エチニル基、5−(ヘキシル)チエニル−2−}エチニル基、{5−(パーフルオロヘキシル)チエニル−2−}エチニル基等を挙げることができ、好ましくは(オクチル)エチニル基、(ドデシル)エチニル基、(パーフルオロオクチル)エチニル基、(パーフルオロドデシル)エチニル基等である。
【0017】
これらの置換基R〜R18の中でも、特に水素原子、炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、さらに水素原子、ドデシル基、オクタデシル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロオクタデシル基が好ましい。
【0018】
置換基T及びTは、硫黄、セレン、リン、ホウ素、アルミニウムであり、その中でも好ましくは硫黄、リン、ホウ素であり、さらに好ましくは硫黄、リンである。
【0019】
l及びmは、各々0又は1の整数である。ただし、置換基T、Tが、硫黄、セレンの場合は、l、mは0であり、置換基T、Tが、リン、ホウ素、アルミニウムの場合は、l、mは1である。
【0020】
n及びoは、各々0〜2の整数であり、好ましくは各々1である。
【0021】
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の置換基R〜R16の置換様式として、R、R、R12、R13が、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数4〜30のアリール基、炭素数2〜30のアルケニル基、及び炭素数2〜30のアルキニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の基であり、且つR〜R、R〜R11、R14〜R16が、同一又は異なって、水素原子及びフッ素原子からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の基であることが好ましい。
【0022】
これらの中でも本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体は、該ヘテロアセン誘導体及び該ヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料及びその有機薄膜が、高い耐酸化性及びキャリアー移動度を発現することから、以下の化合物が好ましく、
【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

特に好ましくは
【0027】
【化6】

である。
【0028】
((テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体)
次に、本発明の本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の前駆化合物である(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体について述べる。
【0029】
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の前駆化合物である(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体は下記一般式(2)で示される。
【0030】
【化7】

(ここで、置換基X〜Xは臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示し、置換基R〜R16並びに記号n及びoは、一般式(1)で示される置換基並びに記号と同意義を示す。)
置換基X〜Xは臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示し、好ましくは臭素原子、ヨウ素原子であり、特に好ましくはいずれも臭素原子である。
【0031】
置換基R〜R16は、一般式(1)で示される置換基と同意義を示し、その中でも特に水素原子、炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、さらに水素原子、ドデシル基、オクタデシル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロオクタデシル基が好ましい。
【0032】
記号n及びoは、一般式(1)で示される記号と同意義を示し、特にn及びoが1であることが好ましい。
【0033】
本発明の一般式(2)で示される(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体としては、以下の化合物が好ましく、
【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

特に好ましくは
【0037】
【化11】

である。
【0038】
(ヘテロアセン誘導体の製造方法)
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の製造方法について述べる。
【0039】
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体は、一般式(2)で示される(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体をメタル化剤を用いてテトラメタル化し、下記一般式(3)及び下記一般式(4)で示される反応剤と反応させることにより製造することができる。なお、一般式(3)、一般式(4)で示される反応剤が同じ化合物であっても良い。
(R17(L (3)
(R18(L (4)
(ここで、置換基R17、R18、T、T及び記号lとmは、一般式(1)で示される置換基及び記号と同意義を示し、置換基L、Lは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のオキシ基、アセトキシ基、アリールスルホニル基を示し、p及びqは0又は2の整数を示す。)
なお、ここでテトラメタル化とは、一般式(2)におけるX〜Xをそれぞれメタルに置換することを意味する。
【0040】
一般式(2)で示される(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体をテトラメタル化する場合、用いるメタル化剤は、一般式(2)におけるX〜Xをメタルに置換することができるものである限り特に限定はなく、例えばn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、メチルリチウム、ヘキシルリチウム等のアルキルリチウム;フェニルリチウム、p−tert−ブチルフェニルリチウム、p−メトキシフェニルリチウム、p−フルオロフェニルリチウム等のアリールリチウム;リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチルジシラジド等のリチウムアミド;リチウムパウダー等のリチウム金属;メチルマグネシウムブロマイド、エチルマグネシウムブロマイド、イソプロピルマグネシウムクロライド、tert−ブチルマグネシウムクロライド、フェニルマグネシウムブロマイド等のグリニャール試薬;マグネシウム金属;亜鉛金属等を挙げることができ、好ましくはアルキルリチウムであり、特に好ましくはn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムである。
【0041】
該メタル化剤の使用量は一般式(2)の(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体1当量に対し、2〜15当量が好ましく、特に好ましくは4〜10当量、さらに好ましくは5〜9当量の範囲である。
【0042】
該テトラメタル化は、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶媒は特に限定はなく、例えばテトラヒドロフラン(以下、THFと略す)、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等であり、特に好ましくはTHFである。又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。該テトラメタル化の温度は−100〜50℃で行うことが好ましく、特に好ましくは−90〜20℃である。反応時間は1〜240分が好ましく、特に好ましくは10〜120分である。なお、テトラメタル化の進行は、反応液の一部を取り出し、水で反応を停止させた後、薄層クロマトグラフィーあるいはガスクロマトグラフィーで分析することで監視することができる。
【0043】
該テトラメタル化は、一般式(2)で示される(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体に、メタル化剤を添加しても良いし、メタル化剤に一般式(2)の(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体を添加するいずれの方法を用いても実施することができる。
【0044】
該テトラメタル化により生成したテトラメタル塩は、次いで一般式(3)及び一般式(4)で示される反応剤と反応させることにより、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体が得られるものである。係る反応剤との反応は、前記テトラメタル化により生成したテトラメタル塩を含む反応混合物に前記反応剤を直接用いて反応させる方法、生成したテトラメタル塩を一度単離した後、前記反応剤と反応させる方法のいずれを用いてもよい。
【0045】
ここで、一般式(3)、一般式(4)における置換基R17、R18、T、T及び記号lとmは一般式(1)で示される置換基及び記号と同意義を示す。また、置換基L、Lは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のオキシ基、アセトキシ基、アリールスルホニル基を示し、好ましくは塩素原子、臭素原子、炭素数1〜20のオキシ基、アリールスルホニル基である。
【0046】
炭素数1〜20のオキシ基は、特に限定はなく、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、(2−メトキシ)フェノキシ基等を挙げることができ、炭素数1〜20のアリールスルホニル基は、特に限定はなく、例えばフェニルスルホニル基、p−トリルスルホニル基等を挙げることができる。これらの中でも置換基L、Lとしては、特にフェニルスルホニル基が好ましい。
【0047】
そして、具体的な一般式(3)、一般式(4)で示される反応剤としては、例えば2塩化硫黄;2臭化硫黄;ビス(フェニルスルホニル)スルフィド、ビス(p−トリルスルホニル)スルフィド等のビス(アリールスルホニル)スルフィド類;硫黄;2塩化セレン;セレン;ジクロロフェニルホスフィン、ジクロロ{4−(オクチル)フェニル}ホスフィン、ジメトキシ{4−(オクチル)フェニル}ホスフィン、ジフェノキシ{4−(オクチル)フェニル}ホスフィン、ジクロロ{4−(ドデシル)フェニル}ホスフィン、ジクロロ{4−(パーフルオロドデシル)フェニル}ホスフィン等のアリールホスフィン類;ジクロロ(ドデシル)ホスフィン、ジクロロ(オクタデシル)ホスフィン、ジメトキシ(ドデシル)ホスフィン、ジクロロ(パーフルオロドデシル)ホスフィン等のアルキルホスフィン類;ジクロロフェニルボラン、ジメトキシフェニルボラン、ジメトキシ{4−(ヘキシル)フェニル}ボラン、ジフェノキシフェニルボラン、ジクロロ{4−(オクチル)フェニル}ボラン等のアリールボラン類;ジクロロ(ヘキシル)ボラン、ジクロロ(オクチル)ボラン、ジメトキシ(ヘキシル)ボラン等のアルキルボラン類;ジクロロフェニルアルミニウム、ジメトキシフェニルアルミニウム、ジメトキシ{4−(ヘキシル)フェニル}アルミニウム、ジフェノキシフェニルアルミニウム、ジクロロ{4−(オクチル)フェニル}アルミニウム等のアリールアルミニウム類;ジクロロ(ヘキシル)アルミニウム、ジクロロ(n−オクチル)アルミニウム、ジメトキシ(ヘキシル)アルミニウム等のアルキルアルミニウム類等を挙げることができ、好ましくはビス(フェニルスルホニル)スルフィド、硫黄、ジクロロフェニルホスフィン、ジクロロフェニルボラン等である。
【0048】
テトラメタル化により生成したテトラメタル塩と一般式(3)及び一般式(4)で示される反応剤と反応させる際には、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶媒は特に限定はなく、例えばTHF、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジグライム、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等であり、好ましくはTHFである。用いる反応剤の量は、一般式(2)の(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体1当量に対し、1.2〜10当量が好ましく、特に好ましくは2〜8当量である。該反応剤との反応温度は−100〜50℃が好ましく、特に好ましくは−90〜30℃であり、反応時間は0.5〜30時間が好ましく、特に好ましくは1〜18時間である。
【0049】
一般式(3)及び一般式(4)で示される反応剤は、同時に添加しても良いし、別々に添加することもできる。
【0050】
本発明の一般式(1)のヘテロアセン誘導体の製造は、好ましくは窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気下で実施する。
【0051】
本発明の一般式(1)のヘテロアセン誘導体の製造方法では、一般式(2)の(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体をテトラメタル化した後、塩化マグネシウムと反応させ、その後に一般式(3)及び一般式(4)で示される反応剤で処理することもできる。
【0052】
かくして得られた、本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体は、さらに精製することができる。精製する方法は特に限定はなく、例えばカラムクロマトグラフィー、再結晶化、あるいは昇華による方法を挙げることができる。
【0053】
((テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体の製造方法)
次に、本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の前駆体として用いられる一般式(2)で示される(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体の製造方法について述べる。
【0054】
本発明の一般式(2)で示される(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体は下記一般式(5)で示されるテトラハロチエノチオフェンと下記一般式(6)及び下記一般式(7)で示される3−ハロアリール金属試薬をパラジウム及び/又はニッケル触媒存在下で反応させることにより製造することができる。なお、一般式(6)、一般式(7)で示される反応剤が同じ化合物であっても良い。
【0055】
【化12】

(ここで、置換基X及びXは臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示す。置換基X及びXは、一般式(2)で示される置換基と同意義を示す。)
【0056】
【化13】

(ここで、Mはマグネシウム、ホウ素、亜鉛、錫、ケイ素のハロゲン化物;ハイドロオキサイド;アルコキサイド;アルキル化物を示し、置換基R〜R、X並びに記号nは、一般式(2)で示される置換基並びに記号と同意義を示す。)
【0057】
【化14】

(ここで、Mはマグネシウム、ホウ素、亜鉛、錫、ケイ素のハロゲン化物;ハイドロオキサイド;アルコキサイド;アルキル化物を示し、置換基R〜R16、X並びに記号oは、一般式(2)で示される置換基並びに記号と同意義を示す。)
本発明の一般式(5)、(6)及び(7)について、さらに述べる。
【0058】
一般式(5)の置換基X及びXは、臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示し、好ましくは臭素原子及びヨウ素原子であり、さらに好ましくは臭素原子である。また、置換基X及びXは、一般式(2)で示される置換基と同意義を示し、好ましくは臭素原子である。
【0059】
具体的な一般式(5)で示される化合物としては、例えば2,3,5,6−テトラブロモチエノチオフェンが挙げられる。
【0060】
一般式(6)、(7)の置換基M、Mはマグネシウム、ホウ素、亜鉛、錫、ケイ素のハロゲン化物;ハイドロオキサイド;アルコキサイド;アルキル化物であり、上記のパラジウム及び/又はニッケル触媒により脱離され、パラジウム及び/又はニッケルと置換できる基である限り特に限定はなく、例えばMgCl、MgBr、B(OH)、B(OMe)、テトラメチルジオキサボロラニル基、ZnCl、ZnBr、ZnI、Sn(Bu−n)、Si(Bu−n)等を挙げることができ、好ましくはZnCl、B(OH)である。
【0061】
具体的な一般式(6)、一般式(7)で示される化合物としては、例えば6,7−ジ(ドデシル)−3−ブロモアントラセニル−2−ボロン酸、6,7−ジ(ドデシル)−3−ブロモアントラセニル−2−ジンククロライド、6,7−ジ(パーフルオロドデシル)−3−ブロモアントラセニル−2−ボロン酸、6,7−ジ(パーフルオロドデシル)−3−ブロモアントラセニル−2−ジンククロライド等が挙げられる。
【0062】
なお、一般式(6)、一般式(7)で示される3−ハロアリール金属試薬は、それらの原料となる下記一般式(8)で示されるアリールジハロゲン置換体をイソプロピルマグネシウムブロマイド等のグリニャール試薬あるいはn−ブチルリチウム等の有機リチウム試薬によりハロゲン/金属交換反応を行った後、塩化亜鉛、トリメトキシボラン等と反応させることで好適に調製することができる。
【0063】
【化15】

(ここで、Xは臭素原子、ヨウ素原子を示し、置換基R〜R、X並びに記号nは、一般式(6)で示される置換基並びに記号と同意義を示す。)
一般式(8)のXは臭素原子、ヨウ素原子である。また、置換基R〜R、Xは、一般式(6)で示される置換基と同意義を示し、好ましい置換基R〜Rとしては水素原子、ドデシル基、オクタデシル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロオクタデシル基等であり、好ましいXは臭素原子である。
【0064】
そして、具体的な一般式(8)で示されるアリールジハロゲン置換体としては、例えば2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラセン、2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントラセン、2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジ(パーフルオロドデシル)アントラセン等が挙げられ、その中でも2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラセン、2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジ(パーフルオロドデシル)アントラセンが好ましい。
【0065】
なお、グリニャール試薬によるハロゲン/金属交換反応は、例えば「ジャーナル オブ オルガニック ケミストリィー」、2000年、65巻、4618−4634頁」に記載されている方法、有機リチウム試薬によるハロゲン/金属交換反応は、例えば「ジャーナル オブ ケミカル リサーチ シノプシス」、1981年、185頁に記載されている方法を用いることもできる。
【0066】
一般式(5)で示されるテトラハロチエノチオフェンと一般式(6)及び一般式(7)で示される3−ハロアリール金属試薬の反応に用いる触媒はパラジウム及び/又はニッケル触媒であれば特に限定はなく、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム/トリフェニルホスフィン混合物、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム、ジアセタトビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロ(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)パラジウム、酢酸パラジウム/トリフェニルホスフィン混合物、酢酸パラジウム/トリ−tert−ブチルホスフィン混合物、酢酸パラジウム/2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)−1,1’−ビフェニル混合物、ジクロロ(エチレンジアミン)パラジウム、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム/トリフェニルホスフィン混合物等のパラジウム触媒;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、ジクロロ(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)ニッケル、ジクロロ(エチレンジアミン)ニッケル、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)ニッケル、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルプロパンジアミン)ニッケル、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)ニッケル/トリフェニルホスフィン混合物、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル/トリフェニルホスフィン混合物等のニッケル触媒;を挙げることができる。中でも、好ましい触媒は0価のパラジウム化合物であり、特に好ましい触媒はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムである。又、これら触媒は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。
【0067】
一般式(5)で示されるテトラハロチエノチオフェンと一般式(6)及び一般式(7)で示される3−ハロアリール金属試薬をパラジウム及び/又はニッケル触媒存在下で反応させる際には、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶媒に特に限定はなく、例えばTHF、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、エタノール、水、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、トリエチルアミン、ピペリジン、ピロリジン、ジイソプロピルアミン等を挙げることができ、又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良く、例えばトルエン/水、トルエン/エタノール/水のような2乃至3成分系でも使用することができる。
【0068】
パラジウム触媒、ニッケル触媒の使用量は一般式(5)のテトラハロチエノチオフェン1モルに対し、0.1〜20モル%が好ましく、特に好ましくは1〜10モル%の範囲である。
【0069】
一般式(6)、一般式(7)の3−ハロアリール金属試薬の使用量は一般式(5)のテトラハロチエノチオフェン1当量に対し、0.8〜3.2当量が好ましく、特に好ましくは1.0〜2.8当量、さらに好ましくは1.1〜2.5当量の範囲である。
【0070】
一般式(6)、一般式(7)の3−ハロアリール金属試薬は同時に添加しても良いし、別々に添加することもできる。
【0071】
反応の際の温度は10〜120℃が好ましく、特に好ましくは30〜100℃、さらに好ましくは40〜90℃であり、反応時間は1〜48時間が好ましく、特に好ましくは2〜30時間である。
【0072】
なお、反応系中に塩基を存在させることもできる。この場合の塩基の種類としては特に限定はなく、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、りん酸カリウム、りん酸ナトリウム、ナトリウムtert−ブトキサイド、カリウムtert−ブトキサイド、フッ化カリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、ピリジン等の有機塩基を好適なものとして挙げることができる。これらの塩基の使用量は一般式(5)のテトラハロチエノチオフェン1当量に対し、0.5〜10.0当量が好ましく、特に好ましくは2.0〜8.0当量である。さらにこれらの塩基と併用し、相間移動触媒を用いることもできる。相間移動触媒の種類は特に限定はなく、例えばトリオクチルメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド等を好適なものとして挙げることができる。これらの相間移動触媒の使用量は一般式(5)のテトラハロチエノチオフェン1当量に対し、0.1〜1.5当量が好ましく、特に好ましくは0.2〜0.8である。
【0073】
さらに反応系中にトリフェニルホスフィン等のホスフィンを存在させることもできる。これらのホスフィンの使用量は、該パラジウム及び/又はニッケル触媒1当量に対し、0.9〜8.0当量が好ましく、特に好ましくは1.0〜3.0当量である。
【0074】
なお、反応系中に銅化合物を存在させることもできる。該銅化合物しては特に限定はなく、例えば塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、酢酸銅(I)等の1価銅;塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)、酢酸銅(II)、アセチルアセトナート銅(II)等の2価銅等を挙げることができる。その中でも好ましくは1価銅であり、特に好ましくはヨウ化銅(I)である。これらの銅化合物の使用量は該パラジウム及び/又はニッケル触媒1当量に対し、0.3〜10.0当量が好ましく、特に好ましくは0.6〜6.0当量である。
【0075】
また、一般式(5)で示されるテトラハロチエノチオフェンと一般式(6)及び(7)の2−ハロアリール金属試薬の反応により炭素−炭素結合が形成される位置は、チエノチオフェン環の反応性により制御することができる。即ち、硫黄原子の隣の2位及び5位の反応性が最も高いことから、一般式(5)のハロゲンの種類が同じ場合、一般式(5)の2位及び5位に選択的に炭素−炭素結合が形成される。
【0076】
かくして得られた、本発明の一般式(2)で示される(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体は、さらに精製することができる。精製する方法は特に限定はなく、例えばカラムクロマトグラフィー、再結晶化、あるいは昇華による方法を挙げることができる。
【0077】
(耐酸化性有機半導体材料)
次に、本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料について述べる。該耐酸化性有機半導体材料は溶剤への溶解性、耐酸化性に優れ、好適な塗布性を有する。該耐酸化性有機半導体材料は本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を溶剤に溶解することにより製造することができる。
【0078】
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の溶解に用いる溶剤は、特に限定はなく、例えばo−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤;THF、ジオキサン等のエーテル系溶剤;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族化合物の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤;等が挙げられる。又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。中でも、好ましくはクロロベンゼン、トルエン等である。
【0079】
上記に挙げた溶剤と一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を混合攪拌することにより、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料となるものである。混合攪拌する際の温度は10〜200℃が好ましく、特に好ましくは20〜150℃である。混合攪拌する際の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の濃度は、溶剤及び温度により変えることができ、0.01〜10.0重量%であることが好ましい。溶液の調製は空気中でも実施することができるが、好ましくは窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で調製する。
【0080】
一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料の耐酸化性の評価は、該溶液を所定時間、空気と接触させる方法で実施することができる。まず用いる溶剤は予め脱気しておき、溶存酸素を除去する。空気との接触時間は、温度により適宜選択することができ、0.5分〜3時間が好適である。酸化の進行は、溶液の色の変化並びにガスクロマトグラフィー及びガスクロマトグラフィー(GC)−マススペクトル(GCMS)分析による酸化物の検出により行うことができる。
【0081】
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料は、用いられる一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体自体が適度の凝集性を有することから比較的に低温で溶剤へ溶解でき、且つ耐酸化性があることから、塗布法による有機薄膜の製造に好適に適用できる。即ち、雰囲気から厳密に空気を除く必要がないことから塗布工程を簡略化することができる。塗布は空気中でも実施できるが、好ましくは溶剤の乾燥を考慮して窒素気流下で行う。なお、好適な塗布性を得るために、本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料の粘度は、0.005〜20ポアズの範囲にあることが好ましい。
【0082】
(有機薄膜)
次に本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料を用いた有機薄膜について述べる。係る有機薄膜は上記の耐酸化性有機半導体材料(溶液)の再結晶化若しくは基板への塗布により製造することができ、特に基板への塗布により製造することが好ましい。そして、基板への塗布により製造することにより、基板上に形成される有機薄膜となるものである。
【0083】
再結晶化による薄膜は、前記耐酸化性有機半導体材料を冷却することで形成することができる。有機薄膜を製造する時の雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス又は空気下で行うことが好ましく、特に窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが好ましい。該溶液中の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の濃度は、特に限定はなく、例えば0.01〜10.0重量%である。冷却は60〜200℃の温度から−20〜60℃が好ましく、特に好ましくは−10℃〜40℃の間に冷却することにより好適に実施することができる。またこのようにして製造した結晶状の有機薄膜を適当な基板の上に張り合わせる、即ちラミネーション等により基板上に製造することもできる。再結晶化により得られる有機薄膜の膜厚は特に限定はなく、好ましくは50nm〜2mm、特に好ましくは1〜500μmである。
【0084】
基板への塗布による有機薄膜の製造は、前記耐酸化性有機半導体材料を基板上に塗布した後、加熱、気流及び自然乾燥等の方法により溶剤を気化させることで実施することができる。該溶液中の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の濃度は、特に限定はなく、例えば0.01〜10.0重量%であることが好ましい。塗布温度は特に限定はなく、例えば20〜200℃の間で好適に実施することができる。塗布の具体的方法は特に限定はなく、公知の方法、例えばスピンコート、キャストコート及びディップコート等を用いることができる。さらにスクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷等の印刷技術を用いても作製することが可能である。使用する基板の材料は特に限定はなく、結晶性、非結晶性の種々の材料を用いることができる。基板の具体例としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマル酸)、ポリ(ジエチルフマル酸)等のプラスチック基板;ガラス、石英、酸化アルミニウム、シリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;金、銅、クロム、チタン、アルミニウム等の金属基板を好適に用いることができる。またこれらの基板の表面は、例えばオクタデシルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン等のシラン類;ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン類で修飾処理したものであっても使用することができる。さらに、基板は絶縁性あるいは誘電性を有する材料であっても良い。塗布した後の溶剤の乾燥は、常圧若しくは減圧で除去することができる、又、加熱、窒素気流により乾燥してもよい。さらに、溶剤の気化速度を調節することで本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の結晶成長を制御することができる。基板への塗布により得られる有機薄膜の膜厚は特に限定はなく、好ましくは1nm〜100μm、特に好ましくは10nm〜20μmである。
【0085】
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体は平面剛直性の高い分子構造を有することから、優れた半導体特性を与えることが期待できる。又、該ヘテロアセン誘導体はトルエンあるいはクロロベンゼン等の溶媒に溶解し、溶液状態にあっても容易に空気酸化されることはない。従って、塗布法により半導体薄膜を容易に作成できる。したがって、本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体は、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、ICタグ用等のトランジスタの有機半導体活性相用途;有機ELディスプレイ材料;有機半導体レーザー材料;有機薄膜太陽電池材料;フォトニック結晶材料等の電子材料に利用することができる。
【発明の効果】
【0086】
優れた耐酸化性を有し、塗布法による有機半導体活性相形成が可能な、ヘテロアセン誘導体及びその用途を提供する。さらに、該ヘテロアセン誘導体の前駆化合物である(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体及びその製造方法をも提供する。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0088】
生成物の同定にはH−NMRスペクトル及びマススペクトルを用いた。なお、H−NMRスペクトルは日本電子製JEOL GSX−270WB(270MHz)を用いた。マススペクトル(MS)は日本電子製JEOL JMS−700を用いて、試料を直接導入し、電子衝突(EI)法(70エレクトロンボルト)又はFAB法(6キロエレクトロンボルト、キセノンガス、マトリックス(2−ニトロフェニルオクチルエーテル)で測定した。
【0089】
反応の進行の確認等は薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー(GC)あるいはガスクロマトグラフィー−マススペクトル(GCMS)分析を用いた。
【0090】
ガスクロマトグラフィー分析
装置 島津GC14B
カラム J&Wサイエンティフィック社製、DB−1,30m
ガスクロマトグラフィー−マススペクトル分析
装置 パーキンエルマーオートシステムXL(MS部;ターボマスゴールド)
カラム J&Wサイエンティフィック社製、DB−1,30
反応用の試薬及び溶媒は、断りのない限り市販品を用いた。なお、グリニャール試薬あるいはブチルリチウム等の有機金属試薬を用いた場合は、市販の脱水溶媒をそのまま用いた。
【0091】
合成例1 (2,3,5,6−テトラブロモチエノチオフェンの合成)(一般式(5)の化合物)
2,3,5,6−テトラブロモチエノチオフェンはジャーナル オブ ケミカル ソサイエティー、パーキン トランザクション 1: 1997年、3465−3470頁に記載されている方法を参考に以下の様に合成を行った。
【0092】
1)エチル チエノ[3,2−b]チオフェン−2−カルボキシレートの合成
メカニカルスターラー付き1lの三口フラスコに、3−ブロモチオフェン−2−カルボキシアルデヒド(アルファアエサール社製)26.8g(140mmol)、チオグリコール酸エチル(和光純薬工業製)16.9g(141mmol)、炭酸カリウム26g、及びジメチルホルムアルデヒド250mlを加え、室温で72時間撹拌した。反応終了後、水500mlを添加し、ジクロロメタンで抽出し、エチル チエノ[3,2−b]チオフェン−2−カルボキシレートの粗生成物23.8gを得た。
【0093】
2)チエノ[3,2−b]チオフェン−2−カルボン酸の合成
1l三口フラスコに、エチル チエノ[3,2−b]チオフェン−2−カルボキシレート23.8g、THF300ml、及び水酸化リチウム水溶液(1.0M)300mlを加え、3時間加熱還流した。反応終了後、溶媒を減圧下濃縮し、塩酸150mlを添加すると結晶が析出した。得られた結晶を濾別し、水で3回洗浄し、乾燥後、チエノ[3,2−b]チオフェン−2−カルボン酸16.0gを得た。
【0094】
3)2,3,5−トリブロモ−チエノ[3,2−b]チオフェンの合成
窒素雰囲気下、1l三口フラスコにチエノ[3,2−b]チオフェン−2−カルボン酸16.0g及び酢酸水溶液500mlを加え、臭素15.2gを滴下した。5時間撹拌した後、水を加え、析出した固体を濾別し、固体を水洗し、2,3,5−トリブロモ−チエノ[3,2−b]チオフェン27.4gを得た。
【0095】
4)2,3,5,6−テトラブロモ−チエノチオフェンの合成
窒素雰囲気下、1l三口フラスコにジイソプロピルアミン2.85g(28.0mmol)及びTHF150mlを加え、0℃とした。n−ブチルリチウム(関東化学製、1.60M)ヘキサン溶液17.5ml(28.0mmol)を滴下した。得られた溶液を−66℃に冷却後、2,3,5−トリブロモ−チエノ[3,2−b]チオフェン10.3g(27.3mmol)を添加した。さらに臭素21gを滴下し、ゆっくりと室温まで上昇させた。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた後、水洗し、結晶物を濾別した。真空乾燥後、2,3,5,6−テトラブロモ−チエノチオフェンの固体2.1gを得た。
【0096】
合成例2 (4−ブロモ−5−ヨードフタル酸無水物の合成)
4−ブロモ−5−ヨードフタル酸無水物は「ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー」(米国)、1951年、16巻、1577−1581頁を参考に、以下の様に合成した。
【0097】
4−ブロモフタルイミド(東京化成工業製)9.95g(44.0mmol)を窒素ガスで置換した50mlの二口ナスフラスコに入れた。次いでヨウ素5.87g(23.1mmol)及び10%発煙硫酸(ヨツハタ化学工業製)12mlを加え、90℃で23時間反応を行った。反応混合物を室温に冷やして氷に注ぎ入れた後、ガラスフィルターでろ過し、黄色固体12.8gを得た。得られた固体を濃硫酸35mlに溶解させ、130℃で5時間反応を行った。反応混合物を氷冷後、氷水を加えて析出した固体をろ過し、フタル酸誘導体の固体13.8gを得た。次に水酸化ナトリウム3.6gを水18mlに溶かした水溶液に得られた固体を室温で溶かした。この塩基性水溶液に酢酸を加えpHを3〜4に中和し、析出するフタル酸誘導体のモノナトリウム塩の白色沈殿をろ過した。得られた白色沈殿を水に懸濁させ、濃塩酸でpHを1以下にし、再びフタル酸誘導体として白色固体4.93gを得た。この固体をトルエン48mlに溶かし、無水酢酸8.7g(85.7mmol)を加え、105℃で4時間反応を行った。反応液を減圧濃縮して白色固体3.79gを得た。この固体から加熱トルエンに不溶な成分を除き、目的の4−ブロモ−5−ヨードフタル酸無水物を5.12g(14.5mmol)を得た。(収率33%)。
H NMR(CDCl,22℃):δ=8.51(s,1H),8.23(s,1H)。
MS m/z: 353(M,100%),309(M−CO,18%),282(M−C,10%),155(M−C−I,16%),74(M−C−I−Br,32%)。
H NMRスペクトルを図1に示した。
【0098】
合成例3 (1,2―ジドデシルベンゼンの合成)
1,2−ジドデシルベンゼンは「日本化学会誌」1989年、6巻、983−987頁に従い以下の様に合成した。
【0099】
1,2−ジクロロベンゼン2.22g(15.1mmol)、ジクロロ〔1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン〕ニッケル(東京化成工業製)131mg(0.24mmol)、ジエチルエーテル11.5mlの混合液にドデシルマグネシウムブロミド(シグマ−アルドリッチ製、1.0mol/lジエチルエーテル溶液)45ml(45mmol)を窒素雰囲気中0℃で滴下した。35℃で20時間反応を行い、反応混合物を0℃に冷やして希塩酸を加え、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル溶液を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水の順に洗浄し、塩化カルシウムで乾燥させた。得られた液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)及び減圧蒸留で精製し、目的の1,2―ジドデシルベンゼンを5.56g(13.4mmol)を得た。(収率88%)。
H NMR(CDCl,22℃):δ=7.11(m,4H),2.59(t,J=7.8Hz,4H),1.55(m,4H),1.26(m,36H),0.88(t,J=6.8Hz,6H)。
MS m/z: 414(M,100%),260(M−C1123,71%),106(M−C2246,98%)。
H NMRスペクトルを図2に示した。
【0100】
合成例4 (2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラキノンの合成)
2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラキノンは「ベリヒテ」(独国)、1933年、66B巻、1876−1891頁を参考に以下の様に合成した。
【0101】
合成例2で得られた4−ブロモ−5−ヨードフタル酸無水物2.82g(8.00mmol)、合成例3で得られた1,2−ジドデシルベンゼン3.32g(8.00mmol)、テトラクロロエタン5.0mlの混合液に塩化アルミニウム2.41g(18.1mmol)を加え、室温で3時間反応を行った。水を加えてクエンチし、さらに水洗浄を行い、加熱真空乾燥後、白色固体を11.1g得た。得られた固体に濃硫酸44mlを添加し、80℃で1時間反応した。反応混合物を氷に注ぎ入れ、析出した固体をろ過して水で洗浄した。乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/塩化メチレン,10:1)で精製し、2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラキノンの固体4.20g(5.60mmol)を得た(収率70%)。
H NMR(CDCl,22℃):δ=8.73(s,1H),8.45(s,1H),8.05(s,2H),2.75(m,4H),1.62(m,4H),1.26(m,36H),0.88(m,6H)。
MS m/z: 750(M,100%),440(M−C2246,8%),313(M−C2246I,2%),233(M−C2246IBr,1%)。
H NMRスペクトルを図3に示した。
【0102】
合成例5 (2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラセンの合成)(一般式(8)の化合物)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に合成例4で合成した2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラキノン1.10g(1.47mmol)を入れた。次いでTHF17mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム(関東化学製、0.99mol/l、トルエン溶液)3.7ml(3.7mmol)を加え、室温で1.5時間反応を行った。次いで反応混合物に6M塩酸水溶液10mlを加え、65℃で3時間反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥した。再びTHF17mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム5.5ml(5.4mmol)を加え、室温で1.5時間反応を行った。次いで反応混合物に6M塩酸水溶液10mlを加え、3時間反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で精製し、2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラセンの黄色固体を629mg(0.87mmol)得た。(収率59%)。
H NMR(CDCl,22℃):δ=8.55(s,1H),8.27(s,1H),8.16(s,1H),8.15(s,1H),7.72(s,2H),2.78(m,4H),1.71(m,4H),1.27(m,36H),0.88(m,6H)。
MS m/z: 720(M,100%),410(M−C2246,16%),283(M−C2246−I,4%),203(M−C2246−I−Br,5%)。
H NMRスペクトルを図4に示した。
【0103】
実施例1 (テトラブロモ(テトラドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェン((テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に合成例5で合成した2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラセン625mg(0.868mmol)及びTHF11mlを添加した。この溶液を−50℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムブロマイド(関東化学製、0.65M)のTHF溶液2.8ml(1.82mmol)を滴下し、攪拌した。20分間熟成後、−78℃に冷却し、トリメトキシボラン(和光純薬工業製)180.8mg(1.740mmol)を滴下した。徐々に室温まで昇温した後、3N塩酸を添加した。トルエンを加え、分相し、有機相を減圧濃縮した。(一般式(6)及び(7)の化合物の合成)得られた残渣に、少量のヘキサンを添加し、撹拌後静置し、上澄みを除去した。減圧乾燥後、そこへ合成例1で合成した2,3,5,6−テトラブロモチエノチオフェン182mg(0.400mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)27.7mg(0.0240mmol)、トルエン6ml、及びエタノール1.6mlを添加した。さらに炭酸ナトリウム254mg(2.40mmol)を含む水溶液2mlを加え、60℃で16時間反応を実施した。容器を水冷し3N塩酸3mlを添加することで反応を停止させた。トルエンを添加後、分相し、有機相を食塩水で洗浄した。有機相を減圧濃縮し溶媒を留去し、さらに真空乾燥した。得られた残渣にトルエンを添加し、70%tert−ブチルハイドロパーオキサイド溶液(和光純薬工業製)(0.06ml)を添加し、室温で2時間撹拌した。この溶液を水洗浄し、有機相を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶媒;ヘキサンからヘキサン:クロロホルム=10:1)、テトラブロモ(テトラドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェンの薄黄色固体427mgを得た(収率72%)。
FABMS m/z: 1481(M,100%),1401(M−Br,10)。
【0104】
MS測定より、テトラブロモ(テトラドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0105】
【化16】

実施例2 (テトラドデシルジアントラテトラチエノアセン(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、実施例1で合成したテトラブロモ(テトラドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェン204mg(0.137mmol)及びTHF6mlを添加した。この懸濁溶液を−75℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液1.1ml(1.1mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。20分間撹拌後、−80℃でビス(フェニルスルホニル)スルフィド(アクロス製)172mg(0.547mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を一気に投入した。徐々に昇温し、一晩かけて室温まで反応温度を上げた。トルエン及び飽和食塩水を添加した後、分相し、さらに有機相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をトルエンから再結晶精製し、テトラドデシルジアントラテトラチエノアセン57mgの固体を得た(収率36%)。
FABMS m/z: 1162(M,10%),581(M/2,100)。
【0106】
MS測定より、テトラドデシルジアントラテトラチエノアセンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0107】
【化17】

実施例3 (テトラドデシルジアントラ−P,P−(ジフェニル)ジホスホロジチエノアセン(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に実施例1で合成したテトラブロモ(テトラドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェン154mg(0.104mmol)及びTHF5mlを添加した。この溶液を−75℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液0.8ml(0.8mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。20分間撹拌後、−75℃でジクロロフェニルホスフィン(東京化成工業製)74.5mg(0.416mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を添加し、一晩かけて室温まで温度を上げた。飽和食塩水及びトルエンを添加した後分相し、さらに有機相を炭酸カリウム水溶液で洗浄した。減圧濃縮し、得られた残渣にヘキサンを添加し撹拌後静置し、上澄み液を取り除き、減圧乾燥した。残渣をトルエンから再結晶化し、テトラドデシルジアントラ−P,P−(ジフェニル)ジホスホロジチエノアセン41mgの結晶を得た(収率30%)。
FABMS m/z: 1314(M,100%),657(M/2,7)。
【0108】
MS測定より、テトラドデシルジアントラ−P,P−(ジフェニル)ジホスホロジチエノアセンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0109】
【化18】

実施例4 (テトラドデシルジアントラ−B,B−(ジフェニル)ジボロリルジチエノアセン(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に実施例1で合成したテトラブロモ(テトラドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェン123mg(0.083mmol)及びTHF4mlを添加した。この溶液を−75℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液0.7ml(0.7mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。20分間撹拌後、−75℃でジクロロフェニルボラン(シグマ−アルドリッチ製)53mg(0.33mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を添加し、一晩かけて室温まで温度を上げた。飽和食塩水及びトルエンを添加した後分相し、さらに有機相を炭酸カリウム水溶液で洗浄した。減圧濃縮し、得られた残渣にヘキサンを添加し撹拌後静置し、上澄み液を取り除き、減圧乾燥した。残渣をトルエンから再結晶化し、テトラドデシルジアントラ−B,B−(ジフェニル)ジボロリルジチエノアセン26mgの結晶を得た(収率25%)。
FABMS m/z: 1274(M,100%),637(M/2,8)。
【0110】
MS測定より、テトラドデシルジアントラ−B,B−(ジフェニル)ジボロリルジチエノアセンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0111】
【化19】

合成例6 (2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントラセンの合成)(一般式(8)の化合物)
合成例3で1,2−ジクロロベンゼンの代わりに、1−クロロ−2−フルオロベンゼン(東京化成工業製)を用いた以外は合成例3と同じ操作を繰り返して1−ドデシル−2−フルオロベンゼンを合成した。この1−ドデシル−2−フルオロベンゼンと合成例2で得られた4−ブロモ−5−ヨードフタル酸無水物を用い、合成例4と同じ操作を繰り返し2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントラキノンを得、さらに合成例5と同じ操作を繰り返して、このキノン誘導体を2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントラセンへ変換した。
【0112】
実施例5 (テトラブロモジフルオロ(ジドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェン((テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に合成例6で合成した2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントラセン464mg(0.815mmol)及びTHF10mlを添加した。この溶液を−50℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムブロマイド(関東化学製、0.65M)のTHF溶液1.3ml(0.84mmol)を滴下した。20分間熟成後、−78℃に冷却し、トリメトキシボラン(和光純薬工業製)88.3mg(0.85mmol)を滴下した。徐々に室温まで昇温した後、3N塩酸を添加し、30分間撹拌した。トルエンを加え、分相し、有機相を減圧濃縮した。(一般式(6)及び(7)の化合物の合成)得られた残渣に、少量のヘキサンを添加し、撹拌後静置し、上澄みを除去した。減圧乾燥後、そこへ合成例1で合成した2,3,5,6−テトラブロモチエノチオフェン177mg(0.388mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)25.0mg(0.0220mmol)、トルエン6ml、及びエタノール1.6mlを添加した。さらに炭酸ナトリウム254mg(2.40mmol)を含む水溶液2mlを加え、60℃で16時間反応を実施した。容器を水冷し3N塩酸3mlを添加することで反応を停止させた。トルエンを添加後、分相し、有機相を食塩水で洗浄した。有機相を減圧濃縮し溶媒を留去し、さらに真空乾燥した。得られた残渣にトルエンを添加し、70%tert−ブチルハイドロパーオキサイド溶液(和光純薬工業製)(0.06ml)を添加し、室温で2時間撹拌した。この溶液を水洗浄し、有機相を減圧濃縮析出した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶媒;ヘキサンからヘキサン:クロロホルム=10:1)、テトラブロモジフルオロ(ジドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェンの2種類の異性体の混合物の薄黄色固体316mgを得た(収率69%)。
FABMS m/z: 1181(M,100%),1101(M−Br,7)。
【0113】
MS測定より、テトラブロモジフルオロ(ジドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0114】
【化20】

実施例6 (ジドデシルジフルオロ)ジアントラテトラチエノアセン(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、実施例5で合成したテトラブロモジフルオロ(ジドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェン304mg(0.257mmol)及びTHF8mlを添加した。この懸濁溶液を−75℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液2.1ml(2.1mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。20分間撹拌後、−80℃でビス(フェニルスルホニル)スルフィド(アクロス製)323mg(1.03mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を一気に投入した。徐々に昇温し、一晩かけて室温まで反応温度を上げた。トルエン及び飽和食塩水を添加した後、分相し、さらに有機相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をトルエンから再結晶精製し、(ジドデシルジフルオロ)ジアントラテトラチエノアセン2種類の異性体の混合物の44mgの固体を得た(収率20%)。
FABMS m/z: 861(M,10%),430(M/2,100)。
【0115】
MS測定より、(ジドデシルジフルオロ)ジアントラテトラチエノアセンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0116】
【化21】

合成例7 (4−ブロモ−1,2−ジヨードベンゼンの合成)
100mlシュレンク反応容器に、1,2−ジヨードベンゼン(東京化成工業製)5.56g(16.8mmol)及びジクロロメタン30mlを添加し、0℃に冷却した。鉄粉(シグマ−アルドリッチ製)67mg及びヨウ素10mg(0.04mmol)を添加後、臭素0.87ml(17mmol)を滴下した。0℃で8時間撹拌後、亜硫酸水素ナトリウム水溶液を添加し、反応を停止させた。有機相を水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮し、得られた残渣をTHF/メタノールから2回再結晶化し、4−ブロモ−1,2−ジヨードベンゼン4.94gの白色結晶を得た(収率72%)。
【0117】
合成例8 (4−ブロモ−1,2−(パーフルオロドデシル)ベンゼンの合成)
4−ブロモ−1,2−(パーフルオロドデシル)ベンゼンは、「ジャーナル オブ フルオリン ケミストリィー」、1989年、43巻、207−228頁を参考に次のように合成した。
【0118】
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、銅粉(カッパーブロンズ)(シグマ−アルドリッチ製)2.85g(44.8mmol)、パーフルオロドデシルアイオダイド(シンクエスト製)18.4g(24.6mmol)、合成例7で合成した4−ブロモ−1,2−ジヨードベンゼン4.58g(11.2mmol)、及びジメチルスルホキシド18mlを添加し、125℃に加熱し、8時間反応させた。室温に冷却後、水を添加し反応を停止させた。さらにジエチルエーテルを添加し、混合物をセライトを用いて濾過した。濾液をジエチルエーテル抽出し、合わせた有機相を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶媒:ヘキサン)、4−ブロモ−1,2−(パーフルオロドデシル)ベンゼンの無色の液体6.24gを得た(収率40%)。
【0119】
合成例9 (2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジ(パーフルオロドデシル)アントラキノンの合成)
窒素雰囲気下、300mlシュレンク反応容器に、合成例8で得られた4−ブロモ−1,2−(パーフルオロドデシル)ベンゼン6.11g(4.39mmol)及びTHF80mlを添加した。この溶液を−50℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムブロマイド(関東化学製、0.65M)のTHF溶液6.8ml(4.4mmol)を滴下した。−50℃で30分熟成後、ここに合成例2で合成した4−ブロモ−5−ヨードフタル酸無水物1.48g(4.20mmol)とTHF20mlからなる溶液を滴下した。反応混合物を一晩かけて室温まで昇温した後、氷冷し3NHCl水溶液を添加した。エーテルで抽出し、合わせた有機相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下濃縮し、白色固体7.00g得た。得られた固体に濃硫酸40mlを添加し、80℃で12時間反応した。反応混合物を氷に注ぎ入れ、析出した固体をろ過して水で洗浄した。乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/塩化メチレン,15:1)及びヘプタンからの再結晶で精製し、2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジ(パーフルオロドデシル)アントラキノンの固体を1.86g(1.13mmol)得た(収率27%)。
【0120】
合成例10 (2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジ(パーフルオロドデシル)アントラセンの合成)(一般式(8)の化合物)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に合成例9で合成した2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジ(パーフルオロドデシル)アントラキノン1.81g(1.10mmol)を入れた。次いでTHF15mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム(関東化学製、0.99mol/l、トルエン溶液)3.5ml(3.5mmol)を加え、室温で1.5時間反応を行った。次いで反応混合物に6M塩酸水溶液10mlを加え、65℃で3時間反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥した。再びTHF15mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム3.5ml(3.5mmol)を加え、室温で1.5時間反応を行った。次いで反応混合物に6M塩酸水溶液10mlを加え、3時間反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で精製し、2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジ(パーフルオロドデシル)アントラセンの黄色固体1.12gを得た(収率63%)。
【0121】
実施例7 (テトラブロモテトラ(パーフルオロドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェン((テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に合成例10で合成した2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジ(パーフルオロドデシル)アントラセン1.07g(0.661mmol)及びTHF10mlを添加した。この溶液を−60℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムブロマイド(関東化学製、0.65M)のTHF溶液1.1ml(0.71mmol)を滴下した。20分間熟成後、−78℃に冷却し、塩化亜鉛(シグマ−アルドリッチ製、1.0Mエーテル溶液、)0.7ml(0.7mmol)を滴下した。徐々に室温まで昇温した後、減圧濃縮した。(一般式(6)及び(7)の化合物の合成)得られた残渣に、合成例1で合成した2,3,5,6−テトラブロモチエノチオフェン137mg(0.30mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)20.8mg(0.018mmol)、THF8mlを加え、60℃で10時間反応を実施した。容器を水冷し3N塩酸3mlを添加することで反応を停止させた。トルエンを添加後、分相し、有機相を食塩水で洗浄した。有機相を減圧濃縮し溶媒を留去し、さらに真空乾燥した。得られた残渣にトルエンを添加し、70%tert−ブチルハイドロパーオキサイド溶液(和光純薬工業製)(0.06ml)を添加し、室温で2時間撹拌した。この溶液を水洗浄し、有機相を減圧濃縮析出した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(溶媒;ヘキサンからヘキサン:クロロホルム=10:1)、テトラブロモテトラ(パーフルオロドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェンの薄黄色固体600mgを得た(収率61%)。
FABMS m/z: 3280(M)。
【0122】
MS測定より、テトラブロモテトラ(パーフルオロドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0123】
【化22】

実施例8 (テトラ(パーフルオロドデシル)ジアントラテトラチエノアセン(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、実施例7で合成したテトラブロモテトラ(パーフルオロドデシル)ジアントラセニルチエノチオフェン590mg(0.180mmol)及びTHF8mlを添加した。この懸濁溶液を−75℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液1.5ml(1.5mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。20分間撹拌後、−80℃でビス(フェニルスルホニル)スルフィド(アクロス製)236mg(0.750mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を一気に投入した。徐々に昇温し、一晩かけて室温まで反応温度を上げた。トルエン及び飽和食塩水を添加した後、分相し、さらに有機相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をトルエンから再結晶精製し、テトラ(パーフルオロドデシル)ジアントラテトラチエノアセン171mgの黄色固体を得た(収率32%)。
FABMS m/z: 2961(M)。
【0124】
MS測定より、テトラ(パーフルオロドデシル)ジアントラテトラチエノアセンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0125】
【化23】

実施例9 (耐酸化性有機半導体材料の合成及びその耐酸化性評価)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク容器にo−ジクロロベンゼン5.4gを添加し、凍結(液体窒素)−減圧−窒素置換−融解から成るサイクルを3回繰り返すことで溶存酸素を除去した。そこへ実施例2で得られたテトラドデシルジアントラテトラチエノアセンの固体7.1mgを添加し、60℃に加熱し溶解させ、テトラチエノアセンを含む耐酸化性有機半導体材料を合成した(黄橙色溶液)。次に、このシュレンク容器の上部の栓を開け、10分間、外気に接触させることで空気を導入(耐酸化性評価)し、さらに60℃で撹拌したが、色の変化は見られなかった。したがって、色の変化が見られなかったことから、耐酸化性に優れるものであった。さらにこの溶液を70℃、1時間、撹拌下で空気と接触させても溶液の色の変化は見られず、耐酸化性に優れるものであった。
【0126】
実施例10 (有機薄膜の作成)
窒素雰囲気下、実施例2で得られたテトラドデシルジアントラテトラチエノアセン6.5mgをトルエン15gと混合し、70℃で1時間撹拌し、テトラドデシルジアントラテトラチエノアセンの山吹色溶液を調製した(ヘテロアセンを含む耐酸化性有機半導体材料の合成)。
【0127】
窒素雰囲気下、凹面のあるガラス基板を70℃に加熱し、この基板上に上記の溶液をスポイトを用いて塗布し常圧下で乾燥し、膜厚240nmの有機薄膜を作製した。
【0128】
比較例1 (耐酸化性評価)
ペンタセンを用いて耐酸化性を評価した。
【0129】
窒素雰囲気下、20mlシュレンク容器にo−ジクロロベンゼン2.9gを添加し、凍結(液体窒素)−減圧−窒素置換−融解から成るサイクルを3回繰り返すことで溶存酸素を除去した。そこへペンタセン(東京化成工業製)2.5mgを添加し、120℃に加熱し溶解させると赤紫色溶液となった。次にこのシュレンク容器の上部の栓を開け、1分間、外気に接触させることで空気を導入し、さらに120℃で撹拌した。ガスクロマトグラフィー及びガスクロマトグラフィー−マススペクトル(GCMS)分析から、6,13−ペンタセンキノンが生成していることがわかった。
【0130】
さらにこの溶液を120℃、1時間、撹拌下で空気と接触させると溶液の色が黄に変化していた。ガスクロマトグラフィー分析から、6,13−ペンタセンキノンの生成が増加していることがわかった。
【0131】
したがって、溶液の色の変化及び6,13−ペンタセンキノンが生成していることから、酸化が進行しており、耐酸化性に劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】合成例2で合成した4−ブロモ−5−ヨードフタル酸無水物のH NMRスペクトル
【図2】合成例3で合成した1,2−ジドデシルベンゼンのH NMRスペクトル
【図3】合成例4で合成した2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラキノンのH NMRスペクトル
【図4】合成例5で合成した2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラセンのH NMRスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とするヘテロアセン誘導体。
【化1】

(ここで、置換基R〜R18は同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数4〜30のアリール基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数2〜30のアルキニル基を示し、T及びTは同一又は異なって、硫黄、セレン、リン、ホウ素、アルミニウムを示し、l及びmは、各々0又は1の整数であり、n及びoは、各々0〜2の整数を示す。)
【請求項2】
l及びmが各々0であり、且つT及びTは同一又は異なって、硫黄あるいはセレンであることを特徴とする請求項1に記載のヘテロアセン誘導体。
【請求項3】
l及びmが各々1であり、且つT及びTは同一又は異なって、リン、ホウ素、アルミニウムであることを特徴とする請求項1に記載のヘテロアセン誘導体。
【請求項4】
n及びoは1であり、且つT及びTは硫黄であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヘテロアセン誘導体。
【請求項5】
一般式(2)で示されることを特徴とする(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体。
【化2】

(ここで、置換基X〜Xは臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示し、置換基R〜R16並びに記号n及びoは、請求項1に記載の一般式(1)で示される置換基並びに記号と同意義を示す。)
【請求項6】
n及びoが1であることを特徴とする請求項5に記載の(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の一般式(2)で示される(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体をメタル化剤を用いてテトラメタル化し、下記一般式(3)及び下記一般式(4)で示される反応剤と反応させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のヘテロアセン誘導体の製造方法。
(R17(L (3)
(R18(L (4)
(ここで、置換基T、T、R17、R18及び記号lとmは、請求項1に記載の一般式(1)で示される置換基及び記号と同意義を示し、置換基L、Lは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のオキシ基、アセトキシ基、アリールスルホニル基を示し、p及びqは0又は2の整数を示す。)
【請求項8】
メタル化剤としてアルキルリチウムを用いることを特徴とする請求項7に記載のヘテロアセン誘導体の製造方法。
【請求項9】
下記一般式(5)で示されるテトラハロチエノチオフェンと下記一般式(6)及び下記一般式(7)で示される3−ハロアリール金属試薬をパラジウム及び/又はニッケル触媒存在下で反応させることを特徴とする請求項5又は6に記載の(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体の製造方法。
【化3】

(ここで、置換基X及びXは臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示す。置換基X及びXは、請求項5に記載の一般式(2)で示される置換基と同意義を示す。)
【化4】

(ここで、Mはマグネシウム、ホウ素、亜鉛、錫、ケイ素のハロゲン化物;ハイドロオキサイド;アルコキサイド;アルキル化物を示し、置換基R〜R、X並びに記号nは、請求項5に記載の一般式(2)で示される置換基並びに記号と同意義を示す。)
【化5】

(ここで、Mはマグネシウム、ホウ素、亜鉛、錫、ケイ素のハロゲン化物;ハイドロオキサイド;アルコキサイド;アルキル化物を示し、置換基R〜R16、X並びに記号oは、請求項5に記載の一般式(2)で示される置換基並びに記号と同意義を示す。)
【請求項10】
一般式(6)、一般式(7)のM、MがZnClあるいはB(OH)であることを特徴とする請求項9に記載の(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体の製造方法。
【請求項11】
用いる触媒がテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムであることを特徴とする請求項9又は10に記載の(テトラハロ)ジアリールチエノチオフェン誘導体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれかに記載のヘテロアセン誘導体を含むことを特徴とする耐酸化性有機半導体材料。
【請求項13】
請求項12に記載の耐酸化性有機半導体材料を用いることを特徴とする有機薄膜。
【請求項14】
有機薄膜が基板上に形成されることを特徴とする請求項13に記載の有機薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−143835(P2009−143835A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321666(P2007−321666)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】