説明

ヘテロ接合バイポーラトランジスタ

【課題】膜厚が非常に薄く、且つキャリア濃度の高いベース領域を有するHBT構造を、従来とは異なる2次元キャリアガス層にて達成すること。
【解決手段】第一導電型のエミッタ、第二導電型のベース、第一導電型のコレクタの3つの領域21、22、25を有するヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、前記第二導電型のベース領域22の平面内に、選択的に、よりバンドギャップの小さい第二導電型の半導体から成る量子構造23aを形成し、この量子構造領域23に2次元電子ガス若しくは2次元ホールガスを形成する構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(以下HBTと略す)に関わり、特に、III−V族化合物半導体を用いた高速、高効率なHBT構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイポーラトランジスタ(BT)はエミッタ、ベース、コレクタの3つの領域から成る半導体素子であり、電流や電圧、電力を増幅するのに用いられている。特にエミッタ領域を接地した状態で用いられるエミッタ接地BTは電流増幅素子として、様々な電子部品に広く使用されている。またバイポーラトランジスタの材料として用いられているものがシリコン(Si)である。Siは安価であり、AsやAl等をドープし簡単にn型やp型の半導体とすることが可能なため、バイポーラトランジスタを作製するのに都合が良い。
【0003】
ここで図4を用いてバイポーラトランジスタの動作原理を簡単に説明する。
【0004】
図4(a)はnpn型の熱平衡状態にあるSi−BT(シリコン・バイポーラトランジスタ)のエネルギーバンドギャップ構造を示した図であり、領域1がエミッタ、領域2がベース、領域3がコレクタを表している。この状態よりエミッタ−ベース間にはエミッタに負、ベースに正の電圧が掛かるようにする、いわゆる順バイアスを掛け、更にコレクタ−ベース間にはコレクタに正、ベースに負の電圧が掛かるようにする、いわゆる逆バイアスを掛けた能動状態のバイポーラトランジスタのエネルギーバンドギャップ構造を示した図が図4(b)になる。
【0005】
npn型バイポーラトランジスタの場合、動作に寄与する電流は伝導電子である。図4上において、バイポーラトランジスタが(a)の熱平衡状態から(b)の能動状態に変化すると、エミッタ−ベース接合に存在する内蔵電位が下がることで、エミッタ領域1の多数キャリアである伝導電子4がベース領域2に流れ込むようになる。これらの伝導電子4はベース領域2を主に拡散によって移動しコレクタ領域3に到達し、ベース−コレクタ間に存在する強電界によってコレクタ領域に引き込まれて行く。このときベース領域2の多数キャリアである正孔5はエミッタ−ベース間の順方向バイアスによって、伝導電子4と同様に価電子帯8側の内蔵電位が下がった分だけエミッタ領域1に流れ込み、エミッタ−ベース間に存在する空乏層領域内で伝導電子4と再結合を起こす。この為にエミッタ領域1からベース領域2へ流れ込む伝導電子4の注入量が減り、結果としてコレクタ領域3へ到達する伝導電子4の数も減少する。これはバイポーラトランジスタ本来の増幅作用に対して悪影響を与える。
【0006】
これを回避するには、ベース領域2のキャリア(正孔)濃度を下げれば良さそうであるが、そうするとベース領域2内での伝導電子4に対する抵抗値が増加し、高速応答の妨げとなる。すなわち特性のよいバイポーラトランジスタとは、エミッタ領域1からベース領域2へ効率良くキャリア(電子)を注入し、それをコレクタ領域3へ到達させ、ベース領域2内のキャリア(正孔)をエミッタ領域1に注入させないようにするような素子と言うことができる。
【0007】
このような素子を作製するのに都合が良いものとして、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(以下HBTと略す)がある。HBTの材料としては、主にGaAs系を中心とした化合物半導体が選ばれる。HBTの特徴は、エミッタにベースに用いる材料よりもエネルギーバンドギャップの大きな材料を用いることである。
【0008】
図5に能動状態のHBTのエネルギーバンドギャップ構造を示す。エミッタ領域11の伝導電子16が内蔵電位の下がった分だけベース領域12に注入されることは先のSi−BT(シリコン・バイポーラトランジスタ)と変わらないが、エミッタ領域11とベース領域12の界面の伝導帯18側と価電子帯19側にエネルギー差△Ec14と△Ev15が形成されている。このうち△Ev15はベース領域12中の正孔17がエミッタ領域11に注入されるのを防ぐ役割を果たしている。よってHBTではエミッタ領域11から伝導電子16を効率良くベース領域12に注入することができSi−BTに比べて動作特性の良い素子が作製可能となる。
【0009】
ここで更なる素子特性の改善を行うには、ベース領域12のキャリア濃度を高く、且つ膜厚を薄くすることで実現できるが、ドーピング濃度としては1×1020[cm-3]程度が限度であり、又ベース領域12の膜厚を薄くし過ぎると、多数キャリアで占められる筈のベース中性領域が空乏化してしまい、増幅作用が起こらないこととなってしまう。すなわちベース中性領域を確保しつつ、膜厚の薄いベース領域を考える必要がある。
【0010】
これに関連して、従来、pnp型HBTにおいて、hFEを高く(例えば10000)したままで、ベース領域をAlxGa1-xAs/GaAsヘテロ接合を用いた2次元電子ガス層におきかえることにより、ベース層を2次元ガス層膜厚(〜100Å)にまで短くし、これによって、ホールのベース領域での走行時間を事実上無視できることを可能にし、また、移動度の高い2次元状電子ガスを用いることでベース抵抗を下げることを可能にし、高速動作を可能にする新構造HBT(ヘテロ接合ベースHBT)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
具体的に、図6(a)、(b)に、このヘテロ接合ベースHBT(p−AlxGa1-xAs/n−AlxGa1-xAs/p−GaAsHBT)の構造断面とバンド構造を示す。図において、コレクタ領域123は、p+−GaAs層131とアンドープ(実質的にはp-)GaAs層132の2層から成る。ベース領域は、アンドープ(p-)GaAs層132とn−AlxGa1-xAs層(x〜0.3程度)133、n+−AlxGa1-xAs層134のヘテロ接合界面に形成される2次元電子ガスである。エミッタ層はp+−AlxGa1-xAs135である。なお、105、106はバンドギャップ、117はエミッタ電流、118は電子のベース電流である。
【0012】
ホールのベース領域の走行時間τはτ=WB/DBの関係がある。ここでWBはベース幅であり、DBは、少数キャリアがあるホールの拡散係数である。WBについては2乗でτにきいてくるので、WBをきわめて小さくすれば、高速化に対する制限因子となっているベース走行時間τを他の因子と同等以下にすることが可能となる。
【0013】
この様にしてベースとして2次元電子ガス層を用いれば2次元電子ガス層の膜厚がベース幅となり、従来型の5倍程度以上小さいベース幅WB124(100〜150Å)を実現できる。
【0014】
ベース領域の抵抗は通常のHBTではベース幅WBを小さくすることにより、逆に大きくなるが、これを小さいままにおさえるために、このHBTでは、コレクタ領域とベース領域の界面(ヘテロ接合面)に2次元電子ガス126を形成させる。この2次元電子ガス126は、フェルミレベル125下のコレクタ側の移動度の大きいアンドープGaAs層に高密度(〜1×1012cm-2)に蓄積されているために、ベースの低抵抗化が可能となる。
【0015】
一方、半導体プロセスの進歩に伴い、ナノスケールの膜形成技術、微細加工技術が半導体素子の作成に利用されるようになっている。
【0016】
近年では、量子力学的効果を利用する究極的な材料として量子ドットが注目されている。量子ドットとは、キャリアに3次元的な量子閉じ込めを与えるほど極めて微細なポテンシャルの箱のことである。量子ドットは、デルタ関数的な状態密度を有するものであり、一つの量子ドットの基底準位にはキャリアが2つしか入ることができない。
【0017】
このような量子ドットを形成するための技術として、微細加工技術を用いたものがある。例えば、電子線を用いたリソグラフィーによる方法、マスクパターン上にエッチングされた4面体穴の底に量子ドット構造を作成する方法、微細傾斜基板上における成長初期の横方向成長を利用する方法、STM(走査トンネル顕微鏡:Scanning Tunneling Microscope)技術を応用した原子マニピュレーションを用いた方法などが提案されている。これらの方法は、人為的に加工するという共通の特徴故に、量子ドットを形成する位置を任意に制御できるという利点を有している。しかしながら、個数密度は微細加工技術の精度限界を超えることができず、同様に均一性に関しても極めて低いものであった。
【0018】
量子ドットを作成するためのブレークスルーとなる新しい技術として、量子ドットを自己形成する技術が近年見い出されている。これは、格子不整合の半導体をある条件で気相エピタキシャル成長することで、3次元の微細構造(量子ドット)が自己形成される現象を用いたものである。この方法は、微細加工に比べて実施するのが極めて容易であり、しかも、得られる量子ドットは人為的な加工技術の精度限界を超えて極めて均一性が高く、高個数密度で、高品質である。このような自己形成量子ドットを用いて、例えば半導体レーザなどのデバイスが実際に報告されるようになり、量子ドット素子の可能性が現実のものとなっている。
【0019】
量子ドットの自己形成については、いくつかの形成モードが知られている。最もよく知られている形成モードは、Stranski−Krastanovモード(以下、「S−Kモード」と呼ぶ。)と呼ばれるモードである。これは、エピタキシャル成長される半導体結晶が、成長開始当初は2次元成長(膜成長)するが、膜の弾性限界を超えてた段階で3次元成長するモードである。このモードの実現が自己形成モードの中で最も容易であり、一般的に用いられている。このモードによれば、高い個数密度で量子ドットを形成することができる。
【0020】
また、他の形成モードとしては、Volmer−Webberモードと呼ばれるモードが知られている。このモードは、初期の2次元成長なしではじめから3次元成長するモードである。このモードは一般にS−Kモードより低温で起こるといわれているが、品質のよいドットを得るのが難しく、実際には研究はほとんど行われていない。
【0021】
また、自己形成モードを利用した新しい量子ドット作成方法として、近接積層法が注目されている。近接積層法とは、既に述べた方法で作成する3次元構造をキャリアがトンネルできる程度以下の薄い中間層を介して成長方向に数個積層し、それらをひとまとまりとして背の高い量子ドットを形成する方法である。この方法によれば、均一性の高い量子ドットを形成することができる。
【0022】
従来、量子ドットのこのような特性を利用する技術の一つとして、3次元成長島よりなる量子ドットを半導体レーザの活性領域に用いることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。これは、S−Kモードにより、GaAs基板上に、GaAsよりも格子定数の大きいInGaAsのバッファ層を形成し、その上にInAs又はInGaAsの量子ドットを含む量子ドット層を自己形成するもので、このInGaAsバッファ層の組成を適宜制御することにより格子不整合の量を制御して、量子ドットの発光長を制御するものである。例えばInGaAsバッファ層のIn組成を増加させることで、量子ドットの発光波長を増加させ、従来よりも発光波長を長波長側にシフトさせることができる。
【特許文献1】特公平7−38392号公報
【特許文献2】特開2000−196193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記特許文献1には、HBTのベース領域をAlxGa1-xAs/GaAsヘテロ接合を用いた2次元電子ガス層におきかえることにより、ベース層を2次元ガス層膜厚(〜100Å)にまで短くし得ることが開示されている。しかしながら、特許文献1には、HBTのベース領域に量子構造を応用することについては示唆するところがない。
【0024】
また上記特許文献2は、半導体レーザの活性層に量子ドット層を応用する構成を開示したものであり、同様に、HBTのベース領域に量子構造を応用することについては示唆するところがない。
【0025】
既に述べたように、HBT素子の特性改善を行うべく、ベース領域のキャリア濃度を高く、且つ膜厚を薄くするという手法を採用した場合、ドーピング濃度としては1×1020[cm-3]程度が限度であり、又ベース領域12の膜厚を薄くし過ぎると、多数キャリアで占められる筈のベース中性領域が空乏化してしまい、増幅作用が起こらないこととなってしまう。すなわち中性領域を確保しつつ、膜厚の薄いベース領域を考える必要がある。
【0026】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、上記のような膜厚が非常に薄く、且つキャリア濃度の高い、言い換えるならばベース領域に注入されるキャリアに対して抵抗値の低くなるようなベース領域を有するHBT構造を、従来とは異なる2次元キャリアガス層にて達成したヘテロ接合バイポーラトランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するため、本発明は、次のように構成したものである。
【0028】
請求項1の発明に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタは、第一導電型のエミッタ、第二導電型のベース、第一導電型のコレクタの3つの領域を有するヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、前記第二導電型のベース領域の平面内に、選択的に、よりバンドギャップの小さい第二導電型の半導体から成る量子構造を形成し、この量子構造領域に2次元電子ガス若しくは2次元ホールガスを形成することを特徴とする。
【0029】
請求項2の発明に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタは、第一導電型のエミッタ、第二導電型のベース、第一導電型のコレクタの3つの領域を有するヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、前記第二導電型のベース領域が、エミッタ側のベース基礎層として設けられた第二導電型の第一のGaAs障壁層と、アンドープInAs又はアンドープInGaAsから成る量子構造と、コレクタ側にキャリア供給層として設けられた第二導電型の第二のGaAs障壁層で構成されていることを特徴とする。
【0030】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、前記量子構造の半導体が、InxGa1-xAs(x=0.1〜1)から成ることを特徴とする。
【0031】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、前記量子構造が量子ドット、量子細線、若しくは量子井戸のいずれかであることを特徴とする。
【0032】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、前記エミッタ領域の材料にInGaP若しくはAlGaAsを用いたことを特徴とする。
【0033】
<発明の要点>
本発明の原理を説明するためのHBTのエネルギーバンド構造を図1に示す。
【0034】
図1から判るように、本発明のHBTは、エミッタコンタクト領域20、エミッタ領域21、ベース基礎層領域22a、量子構造領域23、キャリア供給層領域24、コレクタ領域25、サブコレクタ領域26を有している。このうちベース基礎層領域22a、量子構造領域23、キャリア供給層領域24は、ベース領域22を構成している。
【0035】
ベース基礎層領域22a及びキャリア供給層領域24はp型の例えばGaAs障壁層であり、特にキャリア供給層領域24はベースに対するキャリア供給層の役割も果たしている。これらp型GaAs障壁層から成るベース基礎層領域22a、キャリア供給層領域24で挟まれた量子構造領域23は、アンドープの例えばInAsやInGaAsのような、GaAs障壁層よりもバンドギャップの狭い材料からなる量子構造23aを含む量子構造領域であり、量子構造23aは具体的には量子井戸や量子細線、量子ドットから成る。
【0036】
図1より、キャリア供給層領域24より供給されたキャリア(正孔31)は、量子構造23aの価電子帯側の量子準位30に閉じ込められる。ベース層(量子構造23aを含む量子構造領域23)の平面内を考慮すると、図1で示したようなエネルギーバンドの状態となっている領域(量子準位30の量子構造23a)が至る場所で確認されるので、結果として量子構造23aで構成されるベース層は、キャリア(正孔)が蓄積された状態となる。
【0037】
また量子構造23aはアンドープ層であるため、不純物イオンが存在しない。不純物イオンはキャリアの散乱源、言い換えるならばキャリアの抵抗体として働くので、このような不純物の存在しない量子構造23aは極めて良質な結晶と言える。
【0038】
また量子構造23aは膜厚が数nmと非常に薄いため、ベース層として用いるには最適である。
【0039】
なお、以上の説明はnpn型HBTの場合であったが、pnp型HBTの場合は伝導電子と正孔を逆にして考えることができ、全く同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、次のような優れた効果が得られる。
【0041】
本発明では、第二導電型のベース領域の平面内に、選択的に、よりバンドギャップの小さい第二導電型の半導体から成る量子構造を、例えば量子ドット、量子細線、若しくは量子井戸にて形成し、この量子構造領域に2次元電子ガス若しくは2次元ホールガスを形成するものであるため、例えばnpn型HBTの場合、ベース領域内のキャリア(正孔)をエミッタ領域に注入させないようにしつつ、エミッタ領域からベース領域へ効率良くキャリア(電子)を注入させることができる。よって本発明によれば、膜厚が非常に薄く、且つキャリア濃度の高い、言い換えるならばベース領域に注入されるキャリア(電子)に対して抵抗値の低くなるようなベース領域を実現することができる。
【0042】
具体的には、本発明により、従来最小でも50nm程度であったベース層膜厚を10nm程度に抑えることができ、且つ高濃度のp型ベース層を形成することが可能となった。これにより、従来デバイスに比較して高速、高効率な電子デバイスの作製が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0044】
図2に本発明の実施の形態に係るHBTの構造図を、図3にバンド構造図を示す。このHBTは、GaAs微傾斜基板40上に、n型GaAsサブコレクタ層41、n型GaAsコレクタ層42、p型GaAsキャリア供給層43、アンドープのInAs又はInGaAsの量子ドットから成る量子構造44、p型GaAsベース基礎層(バルク)45、n型のInGaP又はAlGaAsから成るエミッタ層46、Siを高濃度にドープしたn+型GaAs高濃度エミッタコンタクト層47、n型InGaAsノンアロイ層48を積層した構造となっている。図3のバンド構造図における、サブコレクタ領域55、コレクタ領域54、キャリア供給層領域53、量子構造領域52、ベース基礎層領域51、InGaPエミッタ領域50、エミッタコンタクト領域49は、これらの層に対応している。このうちキャリア供給層43(キャリア供給層領域53)、量子構造44(量子構造領域52)、ベース基礎層45(ベース基礎層領域51)は、図1で説明したベース領域22を構成している。
【0045】
上記構造は、第一導電型(ここではn型)のエミッタ領域50(エミッタ層46)、第二導電型(ここではp型)のベース領域22(ベース基礎層領域51、量子構造領域52、キャリア供給層領域53)、第一導電型のコレクタ領域54(コレクタ層42)という3つの領域を有するヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、上記第二導電型のベース領域22の平面内に、選択的に、よりバンドギャップの小さい第二導電型の半導体から成る量子構造44(量子構造領域52)を形成し、この量子構造領域52に2次元電子ガス若しくは2次元ホールガスを形成するようにした構造となっている。
【0046】
ベース領域22のうち、エミッタ側のベース基礎層領域51つまりベース基礎層(バルク)45は第二導電型の第一のGaAs障壁層として働き、また、コレクタ側のキャリア供給層領域53つまりキャリア供給層43は第二導電型の第二のGaAs障壁層として働く。そして量子構造領域52つまり量子構造44は、この二つのGaAs障壁層間に挟まれたアンドープInAsの量子ドット(直径が5〜30nmのInAs量子ドット)から成り、キャリアの落ち込む準位を形成する。量子ドットは面内一様に形成される。この量子ドットの半導体としては、アンドープInxGa1-xAs(x=0.1〜1)を用いることもできる。
【0047】
アンドープInAs量子ドットの形成は、格子不整合の半導体をある条件で気相エピタキシャル成長することで、3次元の微細構造(量子ドット)が自己形成される現象(自己形成)を用い、S−Kモードにより形成する。
【実施例1】
【0048】
半絶縁性GaAs基板(001)面より[110]方向へ2°微傾斜した基板上に、有機金属気相成長法(MOVPE法)により、図2に示す層構造のエピタキシャル成長を行った。各層の成長温度、キャリア濃度、膜厚を、表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
また、使用した原料は、As原料にアルシン(AsH3)、Ga原料にトリメチルガリウム(TMG)、及びトリエチルガリウム(TEG)、In原料にトリメチルインジウム(TMI)、リン原料にフォスフィン(PH3)、Al原料にトリメチルアルミニウム(TMA)、またn型キャリアのドーパントとしてSiを用い、この原料としてジシラン(Si26)、p型キャリアのドーパントとしてCを用い、この原料として四臭化炭素(CBr4)をそれぞれ用いた。量子ドット(量子構造44)は、成長温度(基板温度)を400℃とし、2.0ML(原子層:monolayer)相当のInAsを供給し、S−Kモードにて自己形成した。
【0051】
図2に示したHBT構造のエネルギーバンドギャップを図3に示す。
【0052】
本実施例のHBTはnpn型である。従ってn+型GaAsエミッタコンタクト領域49(n+型GaAsエミッタコンタクト層47)より注入されたキャリア(伝導電子)61は、InGaPより成るエミッタ領域50(InGaPエミッタ層46)を通過し、ベース領域51、52、53(ベース領域22)とエミッタ領域50の間の順方向バイアスによって低下した内蔵電位の分に比例する数のキャリアが、ベース領域51、52、53に注入される。ベース領域22のうち、ベース基礎層領域51(GaAsベース基礎層45)とキャリア供給層領域53(GaAsキャリア供給層43)は各15nmと非常に薄く、また量子構造領域52(量子構造44)も直径が5〜30nmのInAs量子ドットである為、伝導電子61はこのベース領域51、52、53を高速で通過することができる。またコレクタ領域54(GaAsコレクタ層42)は、n型キャリアであるSiが1.0×1016[cm-3]と比較的低濃度にドーピングされている為、ほぼ全域に渡って空乏化している。
【0053】
このことからベース領域51、52、53を通過した伝導電子61は、このコレクタ領域54中の強電界によって加速され、サブコレクタ領域55に到達する。このサブコレクタ領域55(GaAsサブコレクタ層41)は5.0×1018と高濃度にドーピングされている為、電極の役割を果たす層である。
【0054】
一方、ベース領域51、52、53に着目すると、p型ドーパントのキャリア供給層領域53(GaAsキャリア供給層43)より正孔60がベース基礎層領域51、量子構造領域52側へ移動する。これはエミッタ−ベース間が順方向バイアスされていることによる。キャリア供給層領域53より供給される正孔60は、量子ドット44が形成する価電子帯57側の量子準位59に移動する。ここで量子順位59はフェルミ準位58より伝導体56側にある。すなわち正孔60から見た場合、縮退状態にある。ベースの量子構造領域52にはホールガスが形成され、高濃度のp型キャリアが蓄積される。量子ドットは面内一様に形成されるので、ホールガスは2次元的に形成される。これにより、伝導電子61に対して低抵抗、且つ膜厚の薄いHBTのベース層を形成することができた。
【0055】
上記実施例では、量子ドットをS−Kモードにより自己形成したが、他の形成モードを利用した量子構造作成方法により量子ドット等の量子構造を作成しても良い。
【実施例2】
【0056】
実施例1の構造において、キャリア供給層領域53(キャリア供給層43)をn型キャリア濃度が1.0×1015[cm-3]以下のアンドープGaAsとした構造のHBTを作製した。
【0057】
このとき量子構造領域52(量子構造44)には、実施例1の時と同様にホールガスが形成された。これはコレクタ領域54中の少数キャリアである正孔60が量子ドット52に注入された為である。
【0058】
本構造では、p型キャリア供給層領域53(キャリア供給層43)を削除したことで、ベース領域を更に薄くでき、HBT動作を高速にすることが可能となった。
【実施例3】
【0059】
実施例1及び2に挙げた構造において、量子構造44(量子構造領域52)を、InAs量子ドットから変更して、In0.6Ga0.4As、膜厚10nmの量子井戸構造とした。
【0060】
このときも実施例1及び2の時と同様に、量子構造52にホールガスが形成され、良好なHBT特性を示した。即ちコレクタ領域54側より供給された正孔が効率よく量子井戸内に閉じ込められ、ホールガスを形成した。当然のことながら量子井戸は2次元平面上に広がりを持っていることから、形成されたホールガスは2次元となっている。
【実施例4】
【0061】
実施例3の構造において、In0.6Ga0.4Asの膜厚を30nmにした。このときHBTは増幅を示さなかった。これは領域52にホールガスが形成されずに、バルクのアンドープ層として機能してしまった為である。すなわちベース領域として機能するのは領域51のp型GaAs層であるが、この領域は15nmと非常に薄いために、ベース中性領域が消失してしまった為と考えられる。
【実施例5】
【0062】
実施例1〜3までの構造ではエミッタ領域50の材料としてIn0.484Ga0.516Pを用いたが、この代わりにAlGaAsを用いた。この場合も実施例1〜3の場合と同様に、良好なトランジスタ特性を示した。すなわち、エミッタの材料を変更することによって、これがベース領域に相互作用を及ぼさないことを示した結果であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のHBT構造のエネルギーバンド図である。
【図2】本発明の実施例に係るHBTの断面構造図である。
【図3】本発明の図2のHBT構造のエネルギーバンド図である。
【図4】従来のSiトランジスタのエネルギーバンド図であり、(a)は熱平衡状態を、(b)は能動状態を示した図である。
【図5】能動状態のHBTのエネルギーバンド図である。
【図6】従来のヘテロ接合ベースHBTを示したもので、(a)は構造断面図、(b)はバンド構造図である。
【符号の説明】
【0064】
20 エミッタコンタクト領域
21 エミッタ領域
22 ベース領域
22a ベース基礎層領域
23 量子構造領域
23a 量子構造
24 キャリア供給層領域
25 コレクタ領域
26 サブコレクタ領域
40 GaAs微傾斜基板
41 GaAsサブコレクタ層
42 GaAsコレクタ層
43 GaAsキャリア供給層
44 量子構造
45 GaAsベース基礎層(バルク)
46 InGaPエミッタ層
47 n+型GaAs高濃度エミッタコンタクト層
48 InGaAsノンアロイ層
49 エミッタコンタクト領域
50 InGaPエミッタ領域
51 ベース基礎層領域
52 量子構造領域
53 キャリア供給層領域
54 コレクタ領域
55 サブコレクタ領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一導電型のエミッタ、第二導電型のベース、第一導電型のコレクタの3つの領域を有するヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
前記第二導電型のベース領域の平面内に、選択的に、よりバンドギャップの小さい第二導電型の半導体から成る量子構造を形成し、この量子構造領域に2次元電子ガス若しくは2次元ホールガスを形成することを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【請求項2】
第一導電型のエミッタ、第二導電型のベース、第一導電型のコレクタの3つの領域を有するヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
前記第二導電型のベース領域が、エミッタ側のベース基礎層として設けられた第二導電型の第一のGaAs障壁層と、アンドープInAs又はアンドープInGaAsから成る量子構造と、コレクタ側にキャリア供給層として設けられた第二導電型の第二のGaAs障壁層で構成されていることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
前記量子構造の半導体が、InxGa1-xAs(x=0.1〜1)から成ることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
前記量子構造が量子ドット、量子細線、若しくは量子井戸のいずれかであることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
前記エミッタ領域の材料にInGaP若しくはAlGaAsを用いたことを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−216669(P2006−216669A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26284(P2005−26284)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】