ヘリカルアンテナ、およびこれを用いた車載アンテナ
【課題】大型化を招くことなく限られた搭載範囲で指向性が任意に制御されるヘリカルアンテナおよびこれを用いた車載アンテナを提供する。
【解決手段】ヘリカルアンテナ10は、一周一波長相当の第一螺旋部11、および第一螺旋部11の径方向外側に位置しており一周二波長相当の第二螺旋部12を備えている。この第一螺旋部11から放射されるアンテナビームと第二螺旋部12から放射されるアンテナビームとは、位相および最大利得方向に差が生じる。これにより、第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波電力の位相および強度を変化させることにより、各アンテナビームから形成される主ビームの指向性が制御される。
【解決手段】ヘリカルアンテナ10は、一周一波長相当の第一螺旋部11、および第一螺旋部11の径方向外側に位置しており一周二波長相当の第二螺旋部12を備えている。この第一螺旋部11から放射されるアンテナビームと第二螺旋部12から放射されるアンテナビームとは、位相および最大利得方向に差が生じる。これにより、第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波電力の位相および強度を変化させることにより、各アンテナビームから形成される主ビームの指向性が制御される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリカルアンテナ、およびこれを用いた車載アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、良好な円偏波特性を有する線状アンテナとして、ヘリカルアンテナが広く利用されている。このようなヘリカルアンテナは、単一で用いるとアンテナビームの指向性の制御が困難である。そこで、特許文献1では、一周一波長のヘリカルアンテナの指向性を制御するために、平面状の地板に同一形状のビームを形成する複数のヘリカルアンテナを配置したアレー構造を採用している。そして、特許文献1では、アレー構造の複数のヘリカルアンテナで形成されるビームを相互に干渉させることにより、指向性の制御を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−78946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにアレー構造のアンテナの場合、アンテナビームの形状を維持したまま指向性を制御するためには、各ヘリカルアンテナを波長λの1/2すなわちλ/2の間隔で配置する必要がある。その結果、最低でもヘリカルアンテナをλ/2ごとに配置する必要があり、ヘリカルアンテナ全体の小型化には限度がある。
そこで、本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、大型化を招くことなく限られた搭載範囲で指向性が任意に制御されるヘリカルアンテナおよびこれを用いた車載アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明では、一周n波長相当の第一螺旋部と、一周m波長(m>n)相当の第二螺旋部とを備えている。第二螺旋部は、第一螺旋部の径方向外側に位置している。この第一螺旋部から放射されるアンテナビームと第二螺旋部から放射されるアンテナビームとは、位相および最大利得方向に差が生じる。これにより、第一螺旋部および第二螺旋部へ供給する高周波の電力の位相および強度を変化させることにより、指向性が変化する。このように一周m波長相当の第二螺旋部の内側に一周n波長相当の第一螺旋部を配置することにより、アレー化した従来のヘリカルアンテナに比較して小型化が図られる。したがって、大型化を招くことなく限られた搭載範囲で指向性を任意に制御することができる。
【0006】
請求項2記載の発明では、分配器はウィルキンソン分配器である。したがって、簡単な構造で第一螺旋部および第二螺旋部へ供給する高周波の電力の位相および強度を制御することができる。
請求項3記載の発明では、一周1波長相当の第一螺旋部と、一周2波長相当の第二螺旋部とを備えている。これにより、第一螺旋部および第二螺旋部へ供給する高周波の電力の位相および強度を変化させることにより、指向性が変化する。このように一周2波長相当の第二螺旋部の内側に一周1波長相当の第一螺旋部を配置することにより、アレー化した従来のヘリカルアンテナに比較して小型化が図られる。したがって、大型化を招くことなく限られた搭載範囲で指向性を任意に制御することができる。
【0007】
請求項4記載の発明では、第二螺旋部の径方向外側には単数または複数の第N螺旋部(N≧3)を備えている。すなわち、螺旋部は、二重に限らず、三重または四重以上であってもよい。このように、複数の螺旋部を組み合わせることにより、指向性をより精密に制御することができる。
請求項5記載の発明では、第二螺旋部の高さと巻数との関係が設定されている。すなわち、第二螺旋部の高さは、第二螺旋部による指向性の標準偏差が0.6以下の円に近い形状となるように巻数が設定されている。これにより、例えば第二螺旋部の単体による指向性が最大となるθ=30°において、φ方向の全方向において指向性が均一に近似して安定化する。したがって、第二螺旋部の高さに応じて巻数を設定することにより、φ方向で制御される指向性の利得を安定して高めることができる。
【0008】
請求項6記載の発明では、第一螺旋部と第二螺旋部との中心間の距離は、発信する高周波の波長をλとしたとき、0.04λ以上離れて偏心している。第一螺旋部および第二螺旋部は、互いに中心を偏心することにより、最大利得と地板の正面方向における利得を調整可能である。これにより、第一螺旋部および第二螺旋部の偏心量を調整することにより、全体の設計を変更することなく利得が調整される。したがって、搭載する車種や車両ごとの個体差の影響を低減しつつ利得を高めることができる。
【0009】
請求項7記載の発明では、請求項1から6のいずれか一項記載のヘリカルアンテナを備えている。そのため、小型化を図ることができる。また、車載アンテナは、搭載する車両の種類によって構造や搭載の対象となる部材が異なる。そのため、アンテナビームの指向性は、搭載する車両ごとに変化する。請求項1から4のいずれか一項記載のヘリカルアンテナを備えることにより、例えば第一螺旋部または第二螺旋部に供給する高周波の電力の位相などを制御することにより、ヘリカルアンテナ全体の指向性が制御される。したがって、車種ごとの再設計を必要とすることなく、搭載する車両に応じた指向性の微調整が容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナを示す概略斜視図
【図2】本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナの第一螺旋部から放射されるアンテナビームを示す模式図
【図3】本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナの第二螺旋部から放射されるアンテナビームを示す模式図
【図4】本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナにおいて、θ=30°の位置における第一螺旋部および第二螺旋部へ供給される高周波の電力の位相差と主ビームの指向性との関係を示す模式図
【図5】本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナにおいて、φ=90°の位置における第一螺旋部および第二螺旋部へ供給される高周波の電力の強度比と主ビームの指向性との関係を示す模式図
【図6】比較例としてアレー化した四つのヘリカルアンテナを示す概略斜視図
【図7】図1に示すヘリカルアンテナをETCアンテナとして適用した統合アンテナを示す概略斜視図
【図8】第二螺旋部の高さおよび巻数と指向性との関係を示す模式図
【図9】第二螺旋部の高さおよび巻数とφ軸周りの利得の標準偏差との関係を示す模式図
【図10】一実施形態において第一螺旋部と第二螺旋部とを偏心して配置した状態を示す模式図
【図11】図10に示す構成における利得の分布を三次元で示す模式図
【図12】図10に示す構成におけるφ=−67.5°におけるθ方向の指向性を示す模式図
【図13】図10に示す構成におけるθ方向の指向性を示す模式図
【図14】図13のθ=−30°から30°の範囲を拡大した拡大図
【図15】第一螺旋部と第二螺旋部との偏心量に対する平均利得差の関係を示す模式図
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナおよびヘリカルアンテナを適用した車載アンテナを図面に基づいて説明する。
(ヘリカルアンテナ)
図1に示すように、本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナ10は、第一螺旋部11、第二螺旋部12、地板13および給電回路14を備えている。地板13は、例えば金属などの導電体により板状に形成されている。第一螺旋部11は、地板13に対して略垂直方向へ螺旋状に巻き上げられている。第一螺旋部11は、一周がn波長相当で巻き上げられている。一方、第二螺旋部12は、第一螺旋部11と同様に地板13に対して略垂直方向へ螺旋状に巻き上げられている。第二螺旋部12は、第一螺旋部11の径方向外側を包囲しており、一周がm波長相当で巻き上げられている。第二螺旋部12は第一螺旋部11の径方向外側を包囲しているため、第一螺旋部11のn波長と第二螺旋部12のm波長との関係はm>nとなる。本実施形態の場合、第一螺旋部11は一周一波長相当に設定され、第二螺旋部12は一周二波長相当に設定されている。また、第一螺旋部11と第二螺旋部12とは、ほぼ同心円状に配置されている。図1において、地板13の縦方向および横方向をそれぞれx方向およびy方向とし、地板13の厚さ方向をz方向としている。そして、z軸を中心とする回転方向をφ(Phi)方向とし、y軸を中心とする回転方向θ(Theta)方向とする。
【0012】
給電回路14は、電気回路で構成され、発振器21、分配器22、第一位相器23および第二位相器24を有する。発振器21は、第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の電力を発振する。分配器22は、ウィルキンソン分配器であり、発振器21の出力側に接続し、発振器21から発振された高周波を第一螺旋部11と第二螺旋部12とに分配する。第一位相器23は、分配器22の出力側に接続しており、第一螺旋部11の給電点25と電気的に接続している。同様に、第二位相器24は、分配器22の出力側に接続しており、第二螺旋部12の給電点26と電気的に接続している。
【0013】
図2に示すように、一周一波長相当の第一螺旋部11から放射されるアンテナビーム31の最大利得方向は、地板13から垂直なz軸方向となる。すなわち、第一螺旋部11から放射されるアンテナビーム31は、図2において網掛けを付している部分で利得が大きくなる。アンテナビーム31の利得が大きな位置を示している。また、第一螺旋部11から放射されるアンテナビーム31の位相は、φ方向へ一周で360°異なっている。
【0014】
これに対し、図3に示すように、一周二波長相当の第二螺旋部12から放射されるアンテナビーム32の最大利得方向は、θ方向においてθ=30°であって、φ方向において一定となる。すなわち、第二螺旋部12から放射されるアンテナビーム32は、図3において網掛けを付している部分で利得が大きくなる。また、第二螺旋部12から放射されるアンテナビーム32の位相は、φ方向へ一周で720°異なっている。
【0015】
上記の構成において、給電回路14の第一位相器23から第一螺旋部11へ供給する高周波の位相と、第二位相器24から第二螺旋部12へ供給する高周波の位相との間の位相差を変化させることにより、第一螺旋部11から放射されたアンテナビームと第二螺旋部12から放射されたアンテナビームとの相互作用によって生じる主ビームの方向は図4に示すようにφ方向へ360°の範囲で制御される。すなわち、主ビームのφ方向の指向性は、360°の範囲で制御される。また、給電回路14の分配器22により第一螺旋部11へ供給する高周波の給電強度と第二螺旋部12へ供給する高周波の給電強度との間の強度比を変化させることにより、図5に示すように主ビームの方向はθ方向へ0°〜30°の範囲で制御される。すなわち、主ビームのθ方向の指向性は、0°〜30°の範囲で制御される。したがって、主ビームのφ方向およびθ方向の指向性は、第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の位相および強度によって制御される。
【0016】
本実施形態の場合、アンテナの寸法すなわち図1に示すように大径側の第二螺旋部12の径Dは、発振する高周波の波長をλとしたとき、D=2λ/πとなる。これに対し、図6に示す比較例は、本実施形態と同程度の指向性制御を確保するために四つのヘリカルアンテナ41をアレー化している。このような比較例の場合、ヘリカルアンテナ41の単体の外径dは、d=λ/πとなる。そして、隣接する二つのヘリカルアンテナ41は、間隔d1=λ/2ごとに配置する必要がある。その結果、アレー化された四つのヘリカルアンテナ41を配置するには、最低でも配置寸法L=d+d1=(1/π+1/2)λが必要となる。このように、本実施形態では図1に示すように最大径となる第二螺旋部12の設置に必要な寸法がDであるのに対し、比較例では配置寸法Lが必要となる。したがって、本実施形態のヘリカルアンテナ10は、ヘリカルアンテナ41をアレー化した比較例に対して小型化が図られる。
【0017】
以上説明した本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナ10は、一周一波長相当の第一螺旋部11と、一周二波長相当の第二螺旋部12とを備えている。第二螺旋部12は、第一螺旋部11の径方向外側に位置している。この第一螺旋部11から放射されるアンテナビームと第二螺旋部12から放射されるアンテナビームとは、位相および最大利得方向に差が生じる。これにより、第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波電力の位相および強度を変化させることにより、各アンテナビームから形成される主ビームの指向性が変化する。このように一周二波長相当の第二螺旋部12の内側に一周一波長相当の第一螺旋部11を配置することにより、アレー化した従来のヘリカルアンテナ41に比較して小型化が図られる。したがって、大型化を招くことなく限られた搭載範囲で指向性を任意に制御することができる。
また、本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナ10は、分配器22がウィルキンソン分配器である。したがって、簡単な構造で第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の電力の位相および強度を制御することができる。
【0018】
(車載アンテナ)
次に、上述のヘリカルアンテナを搭載した車載アンテナについて説明する。
図7は、統合車載アンテナ50を示す概略図である。統合車載アンテナ50は、図1に示す一実施形態によるヘリカルアンテナ10をETCアンテナ51として備えている。統合車載アンテナ50は、ヘリカルアンテナ10を適用したETCアンテナ51、ケーシング52およびGPS/VICSアンテナ53を備えている。ケーシング52は、ETCアンテナ51およびGPS/VICSアンテナ53を収容している。なお、ケーシング52に収容されたETCアンテナ51およびGPS/VICSアンテナ53を覆うカバーは図示を省略している。GPS/VICSアンテナ53は、平面アンテナであり、GPS(Global Positioning System)衛星から発信される電波を受信するとともに、VICS(Vehicle Information and Communication System)ビーコンから発信される電波を受信する。
【0019】
ETCアンテナ51は、アンテナビームを道路側の無線機が設置されている方向である仰角67°に向ける必要がある。そのため、ETCアンテナ51は、通常、ケーシング52の水平面に対し約23°傾斜させた状態で搭載されている。一方、本実施形態の場合、上述のヘリカルアンテナ10をETCアンテナ51として適用することにより、ヘリカルアンテナ10の主ビームの指向性は上述のように第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の電力の位相および強度によって制御される。そのため、ヘリカルアンテナ10を水平に搭載する場合でも、第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の電力の位相および強度を制御することにより、主ビームを所望の仰角67°に設定することができる。その結果、ヘリカルアンテナ10を水平面に対して傾斜させる場合と比較して、設置に必要な空間が低減される。したがって、ヘリカルアンテナ10を適用することにより、統合車載アンテナ50の小型化を図ることができる。
【0020】
また、ETCアンテナ51から放射される主ビームの方向および指向性は、統合車載アンテナ50を搭載する車両の種類および搭載位置などによって異なる。これは、車両の種類ごとに、構造および搭載される部材が異なり、これらが主ビームの方向や指向性に影響を与えるからである。一方、本実施形態のヘリカルアンテナ10をETCアンテナ51として適用することにより、ヘリカルアンテナ10の主ビームの指向性は上述のように第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の電力の位相および強度によって制御される。そのため、ヘリカルアンテナ10および統合車載アンテナ50の設計を変更することなく、車両の種類や搭載位置ごとに主ビームの方向および指向性の制御が可能となる。したがって、設計の共通化を図ることができる。
【0021】
(第二螺旋部の高さと巻数との関係)
次に、第二螺旋部12の高さと巻数との関係について詳細に説明する。
上述の一実施形態のヘリカルアンテナ10においてφ方向に指向性を制御する場合、全方向へ均一な利得を維持するためには、第二螺旋部12単体による指向性が最大となるθ=30°にあるとき、φ方向で全方位性すなわちφ方向へ均一である必要がある。この第二螺旋部12のφ方向における利得の特性は、第二螺旋部12の高さと巻数とに相関する。
【0022】
そこで、第二螺旋部12の高さと巻数との関係を説明する。図8は、第二螺旋部12の高さと巻数との関係を示している。具体的には、図8(A)は、第二螺旋部12の高さを0.1λとし、第二螺旋部12の巻数を1、2、3、4、5と変化させたときのφ方向における利得の指向性を示している。同様に、図8(B)は第二螺旋部12の高さを0.2λとし、図8(C)は第二螺旋部12の高さを0.3λとし、図8(D)は第二螺旋部12の高さを0.4λとし、第二螺旋部12の巻数を変化させたときのφ方向における利得の指向性を示している。
【0023】
例えば図8(A)のように第二螺旋部12の高さを0.1λとし、第二螺旋部12の巻数を1としたとき、φ=30°付近における利得は急激に低下している。これに対し、第二螺旋部12の高さが0.1λであり、第二螺旋部12の巻数が2〜5のとき、利得はφ方向の全方向においてほぼ均一となり、指向性が円に近似している。同様に、図8(B)に示すように第二螺旋部12の高さを0.2λとすると、第二螺旋部12の巻数が1のときφ=30°付近における利得は急激に低下している。これに対し、第二螺旋部12の高さが0.1λであり、第二螺旋部12の巻数が2〜5のとき、利得の指向性はφ方向の全方向においてほぼ均一となる。
【0024】
さらに、図8(C)に示すように第二螺旋部12の高さが0.3λの場合、巻数が1のとき、φ=30°の利得が減少するとともに、φ=120°〜150°において利得が増大している。そのため、第二螺旋部12の巻数が1のとき、φ方向における利得の指向性は円から遠いいびつな特性となる。また、巻数が4および巻数が5のとき、φ=120°付近で利得が減少するとともに、φ=0°〜−90°において利得が増大している。そのため、第二螺旋部12は、巻数が4および5のときも、φ方向における利得の指向性が円から遠いいびつな特性となる。これに対し、巻数が2および巻数が3のとき、第二螺旋部12の利得はφ方向の全方向において比較的均一な円に近い指向性となる。
さらに、図8(D)に示すように第二螺旋部12の高さが0.4λの場合、巻数が1、巻数が3、巻数が4および巻数が5のとき、いずれもφ方向における利得は、円から遠いいびつな指向性となる。これに対し、巻数が2のとき、第二螺旋部12の利得は、φ方向の全方向において比較的均一な円に近い指向性となる。
【0025】
これら、φ方向における利得の指向性のばらつきを標準偏差として算出し、巻数と高さとの関係を図示すると、図9に示すようになる。第二螺旋部12の高さと巻数との関係は、φ方向における利得の指向性が真円に近い方が好ましい。そこで、第二螺旋部12の高さに対して巻数を設定したとき、利得の指向性を示す標準偏差が0.6以下となるように設定することが望ましい。すなわち、標準偏差が0.6以下であれば、利得の指向性は真円に近い、つまりφ方向において全方向で均一に近くなる。その結果、この標準偏差が0.6以下となる巻数と高さとを選定することにより、第二螺旋部12はφ方向へ指向性を暗転して制御可能となる。この場合、標準偏差が0.6以下となるのであれば、第二螺旋部12の巻数は、整数の巻数に限らず任意の巻数とすることができる。
上記のように第二螺旋部12の高さを設定する場合、第二螺旋部12の高さhは、0.1λ≦h≦0.4λに設定される。これは、高さhがh<0.1λの場合、螺旋状に巻き上げた線材が互いに重なり合い、アンテナとして機能しないからである。また、高さhが0.4λ<hの場合、巻き上げられた線材の高さが過大となり、実用性が低いからである。
【0026】
(第一螺旋部の中心と第二螺旋部の中心との偏心量と利得の関係)
上述の一実施形態では、一周一波長相当の第一螺旋部11と一周二波長相当の第二螺旋部12とを同心円状に配置する例について説明した。しかし、第一螺旋部11の中心と第二螺旋部12の中心とをずらしてもよい。このように第一螺旋部11および第二螺旋部12の中心をずらす、すなわち偏心して配置することにより、主ビームの指向性が変化する。そのため、供給する高周波の電力の位相および強度に加え、第一螺旋部11の中心と第二螺旋部12の中心との位置関係も調整することにより、主ビームの指向性をより精密に制御することができる。以下、具体的な例に基づいて説明する。
【0027】
図10に示すように、一周一波長の第一螺旋部11の中心と一周二波長の第二螺旋部12の中心とを偏心させて配置し、第二螺旋部12へ電力を供給すると、第一螺旋部11と第二螺旋部12とが最も接近する部分(φ=0°)では誘導結合が生じる。そのため、第二螺旋部12を流れる電流によって、第一螺旋部11には第二螺旋部12とは逆位相の誘導電流が生じる。第一螺旋部11は一周一波長であり、第二螺旋部12は一周二波長であるため、φ=−90°〜−45°の範囲において、第一螺旋部11を流れる電流と第二螺旋部12を流れる電流とは、同方向へ流れ、互いに強め合う。これにより、第二螺旋部12の指向性は、第一螺旋部11と第二螺旋部12とが同心円状に配置された場合と比較して、φ=−90°〜−45°の範囲で利得が増加する。これとともに、図11および図12に示すように、第二螺旋部12の指向性は、地板13の正面すなわちθ=0°近傍において生じる急激な利得低下部分(NULL)がφ=90°〜135°側へ移動する。ここで、図11は利得を三次元で示す模式図であり、図12はφ=−67.5°におけるθ方向の指向性を示す模式図である。
【0028】
第一螺旋部11および第二螺旋部12に電力を供給した際の指向性を合成した場合、第一螺旋部11と第二螺旋部12とを偏心させたとき、これらを偏心させない場合と比較して、図13および図14に示すように最大利得が1dB程度増加する。特に、地板13の正面付近であるθ=−30°〜30°の範囲では利得が最大で3dB、平均で2dB程度増加する。すなわち、第一螺旋部11および第二螺旋部12を偏心させることにより、最大利得と地板13の正面付近における利得を調整することができる。
【0029】
また、図15は、第一螺旋部11および第二螺旋部12の偏心量sと平均利得差との関係を示している。ここで、利得差とは、第一螺旋部11と第二螺旋部12との偏心量sがs=0であるときに第一螺旋部11および第二螺旋部12の指向性を合成した利得と、第一螺旋部11と第二螺旋部12とを偏心させたときの指向性を合成した利得との差を意味する。図15では、平均利得差を示している。平均利得差は、θ軸を中心とする360°の範囲における利得差の平均値である。図15に示すように、平均利得差は、偏心量sとともに変化し、0.04λ以上になると、部分的な利得差は1dB以上となる。
【0030】
以上のように、第一螺旋部11および第二螺旋部12の偏心量sを調整することにより、ヘリカルアンテナ10は全体の再設計を必要とすることなく全体の利得が調整される。したがって、複数の車種や車両に適用する場合、車両や車種ごとの影響を低減することができる。
上記のように第一螺旋部11と第二螺旋部12との間の偏心量sを設定する場合、偏心量sは、0.04λ≦s≦0.12λに設定される。偏心量sをs<0.04λと設定するのは上述の理由によるものである。これに対し、偏心量sがs<0.12λの場合、第一螺旋部11と、この外側に設けられている第二螺旋部12とが互いに接触してしまうからである。
【0031】
(その他の実施形態)
第一螺旋部11を一周一波長相当、第二螺旋部12を一周二波長相当にするだけでなく、第一螺旋部11および第二螺旋部12をそれぞれ一周あたり任意の波長相当としてもよい。但し、第二螺旋部12は、第一螺旋部11の径方向外側を包囲するため、第一螺旋部11を一周n波長相当、第二螺旋部12を一周m波長相当としたとき、m>nとなる。このように、供給する高周波の電力の位相および強度に加え、第一螺旋部11および第二螺旋部12をそれぞれ一周当たり任意の整数倍の波長相当とすることにより、主ビームの指向性をより精密に制御することができる。
さらに、第二螺旋部12の径方向外側には、第三螺旋部、第四螺旋部、・・・、第N螺旋部(N≧3)として単数または複数の螺旋部を配置してもよい。このように、供給する高周波の電力の位相および強度に加え、第二螺旋部12の径方向外側に単数または複数の螺旋部を配置することにより、指向性をより精密に制御することができる。
【0032】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
図面中、10はヘリカルアンテナ、11は第一螺旋部、12は第二螺旋部、13は地板、14は給電回路、21は発振器、22は分配器、23は第一位相器、24は第二位相器、25は給電点、26は給電点、50は統合車載アンテナを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリカルアンテナ、およびこれを用いた車載アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、良好な円偏波特性を有する線状アンテナとして、ヘリカルアンテナが広く利用されている。このようなヘリカルアンテナは、単一で用いるとアンテナビームの指向性の制御が困難である。そこで、特許文献1では、一周一波長のヘリカルアンテナの指向性を制御するために、平面状の地板に同一形状のビームを形成する複数のヘリカルアンテナを配置したアレー構造を採用している。そして、特許文献1では、アレー構造の複数のヘリカルアンテナで形成されるビームを相互に干渉させることにより、指向性の制御を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−78946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにアレー構造のアンテナの場合、アンテナビームの形状を維持したまま指向性を制御するためには、各ヘリカルアンテナを波長λの1/2すなわちλ/2の間隔で配置する必要がある。その結果、最低でもヘリカルアンテナをλ/2ごとに配置する必要があり、ヘリカルアンテナ全体の小型化には限度がある。
そこで、本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、大型化を招くことなく限られた搭載範囲で指向性が任意に制御されるヘリカルアンテナおよびこれを用いた車載アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明では、一周n波長相当の第一螺旋部と、一周m波長(m>n)相当の第二螺旋部とを備えている。第二螺旋部は、第一螺旋部の径方向外側に位置している。この第一螺旋部から放射されるアンテナビームと第二螺旋部から放射されるアンテナビームとは、位相および最大利得方向に差が生じる。これにより、第一螺旋部および第二螺旋部へ供給する高周波の電力の位相および強度を変化させることにより、指向性が変化する。このように一周m波長相当の第二螺旋部の内側に一周n波長相当の第一螺旋部を配置することにより、アレー化した従来のヘリカルアンテナに比較して小型化が図られる。したがって、大型化を招くことなく限られた搭載範囲で指向性を任意に制御することができる。
【0006】
請求項2記載の発明では、分配器はウィルキンソン分配器である。したがって、簡単な構造で第一螺旋部および第二螺旋部へ供給する高周波の電力の位相および強度を制御することができる。
請求項3記載の発明では、一周1波長相当の第一螺旋部と、一周2波長相当の第二螺旋部とを備えている。これにより、第一螺旋部および第二螺旋部へ供給する高周波の電力の位相および強度を変化させることにより、指向性が変化する。このように一周2波長相当の第二螺旋部の内側に一周1波長相当の第一螺旋部を配置することにより、アレー化した従来のヘリカルアンテナに比較して小型化が図られる。したがって、大型化を招くことなく限られた搭載範囲で指向性を任意に制御することができる。
【0007】
請求項4記載の発明では、第二螺旋部の径方向外側には単数または複数の第N螺旋部(N≧3)を備えている。すなわち、螺旋部は、二重に限らず、三重または四重以上であってもよい。このように、複数の螺旋部を組み合わせることにより、指向性をより精密に制御することができる。
請求項5記載の発明では、第二螺旋部の高さと巻数との関係が設定されている。すなわち、第二螺旋部の高さは、第二螺旋部による指向性の標準偏差が0.6以下の円に近い形状となるように巻数が設定されている。これにより、例えば第二螺旋部の単体による指向性が最大となるθ=30°において、φ方向の全方向において指向性が均一に近似して安定化する。したがって、第二螺旋部の高さに応じて巻数を設定することにより、φ方向で制御される指向性の利得を安定して高めることができる。
【0008】
請求項6記載の発明では、第一螺旋部と第二螺旋部との中心間の距離は、発信する高周波の波長をλとしたとき、0.04λ以上離れて偏心している。第一螺旋部および第二螺旋部は、互いに中心を偏心することにより、最大利得と地板の正面方向における利得を調整可能である。これにより、第一螺旋部および第二螺旋部の偏心量を調整することにより、全体の設計を変更することなく利得が調整される。したがって、搭載する車種や車両ごとの個体差の影響を低減しつつ利得を高めることができる。
【0009】
請求項7記載の発明では、請求項1から6のいずれか一項記載のヘリカルアンテナを備えている。そのため、小型化を図ることができる。また、車載アンテナは、搭載する車両の種類によって構造や搭載の対象となる部材が異なる。そのため、アンテナビームの指向性は、搭載する車両ごとに変化する。請求項1から4のいずれか一項記載のヘリカルアンテナを備えることにより、例えば第一螺旋部または第二螺旋部に供給する高周波の電力の位相などを制御することにより、ヘリカルアンテナ全体の指向性が制御される。したがって、車種ごとの再設計を必要とすることなく、搭載する車両に応じた指向性の微調整が容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナを示す概略斜視図
【図2】本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナの第一螺旋部から放射されるアンテナビームを示す模式図
【図3】本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナの第二螺旋部から放射されるアンテナビームを示す模式図
【図4】本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナにおいて、θ=30°の位置における第一螺旋部および第二螺旋部へ供給される高周波の電力の位相差と主ビームの指向性との関係を示す模式図
【図5】本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナにおいて、φ=90°の位置における第一螺旋部および第二螺旋部へ供給される高周波の電力の強度比と主ビームの指向性との関係を示す模式図
【図6】比較例としてアレー化した四つのヘリカルアンテナを示す概略斜視図
【図7】図1に示すヘリカルアンテナをETCアンテナとして適用した統合アンテナを示す概略斜視図
【図8】第二螺旋部の高さおよび巻数と指向性との関係を示す模式図
【図9】第二螺旋部の高さおよび巻数とφ軸周りの利得の標準偏差との関係を示す模式図
【図10】一実施形態において第一螺旋部と第二螺旋部とを偏心して配置した状態を示す模式図
【図11】図10に示す構成における利得の分布を三次元で示す模式図
【図12】図10に示す構成におけるφ=−67.5°におけるθ方向の指向性を示す模式図
【図13】図10に示す構成におけるθ方向の指向性を示す模式図
【図14】図13のθ=−30°から30°の範囲を拡大した拡大図
【図15】第一螺旋部と第二螺旋部との偏心量に対する平均利得差の関係を示す模式図
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナおよびヘリカルアンテナを適用した車載アンテナを図面に基づいて説明する。
(ヘリカルアンテナ)
図1に示すように、本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナ10は、第一螺旋部11、第二螺旋部12、地板13および給電回路14を備えている。地板13は、例えば金属などの導電体により板状に形成されている。第一螺旋部11は、地板13に対して略垂直方向へ螺旋状に巻き上げられている。第一螺旋部11は、一周がn波長相当で巻き上げられている。一方、第二螺旋部12は、第一螺旋部11と同様に地板13に対して略垂直方向へ螺旋状に巻き上げられている。第二螺旋部12は、第一螺旋部11の径方向外側を包囲しており、一周がm波長相当で巻き上げられている。第二螺旋部12は第一螺旋部11の径方向外側を包囲しているため、第一螺旋部11のn波長と第二螺旋部12のm波長との関係はm>nとなる。本実施形態の場合、第一螺旋部11は一周一波長相当に設定され、第二螺旋部12は一周二波長相当に設定されている。また、第一螺旋部11と第二螺旋部12とは、ほぼ同心円状に配置されている。図1において、地板13の縦方向および横方向をそれぞれx方向およびy方向とし、地板13の厚さ方向をz方向としている。そして、z軸を中心とする回転方向をφ(Phi)方向とし、y軸を中心とする回転方向θ(Theta)方向とする。
【0012】
給電回路14は、電気回路で構成され、発振器21、分配器22、第一位相器23および第二位相器24を有する。発振器21は、第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の電力を発振する。分配器22は、ウィルキンソン分配器であり、発振器21の出力側に接続し、発振器21から発振された高周波を第一螺旋部11と第二螺旋部12とに分配する。第一位相器23は、分配器22の出力側に接続しており、第一螺旋部11の給電点25と電気的に接続している。同様に、第二位相器24は、分配器22の出力側に接続しており、第二螺旋部12の給電点26と電気的に接続している。
【0013】
図2に示すように、一周一波長相当の第一螺旋部11から放射されるアンテナビーム31の最大利得方向は、地板13から垂直なz軸方向となる。すなわち、第一螺旋部11から放射されるアンテナビーム31は、図2において網掛けを付している部分で利得が大きくなる。アンテナビーム31の利得が大きな位置を示している。また、第一螺旋部11から放射されるアンテナビーム31の位相は、φ方向へ一周で360°異なっている。
【0014】
これに対し、図3に示すように、一周二波長相当の第二螺旋部12から放射されるアンテナビーム32の最大利得方向は、θ方向においてθ=30°であって、φ方向において一定となる。すなわち、第二螺旋部12から放射されるアンテナビーム32は、図3において網掛けを付している部分で利得が大きくなる。また、第二螺旋部12から放射されるアンテナビーム32の位相は、φ方向へ一周で720°異なっている。
【0015】
上記の構成において、給電回路14の第一位相器23から第一螺旋部11へ供給する高周波の位相と、第二位相器24から第二螺旋部12へ供給する高周波の位相との間の位相差を変化させることにより、第一螺旋部11から放射されたアンテナビームと第二螺旋部12から放射されたアンテナビームとの相互作用によって生じる主ビームの方向は図4に示すようにφ方向へ360°の範囲で制御される。すなわち、主ビームのφ方向の指向性は、360°の範囲で制御される。また、給電回路14の分配器22により第一螺旋部11へ供給する高周波の給電強度と第二螺旋部12へ供給する高周波の給電強度との間の強度比を変化させることにより、図5に示すように主ビームの方向はθ方向へ0°〜30°の範囲で制御される。すなわち、主ビームのθ方向の指向性は、0°〜30°の範囲で制御される。したがって、主ビームのφ方向およびθ方向の指向性は、第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の位相および強度によって制御される。
【0016】
本実施形態の場合、アンテナの寸法すなわち図1に示すように大径側の第二螺旋部12の径Dは、発振する高周波の波長をλとしたとき、D=2λ/πとなる。これに対し、図6に示す比較例は、本実施形態と同程度の指向性制御を確保するために四つのヘリカルアンテナ41をアレー化している。このような比較例の場合、ヘリカルアンテナ41の単体の外径dは、d=λ/πとなる。そして、隣接する二つのヘリカルアンテナ41は、間隔d1=λ/2ごとに配置する必要がある。その結果、アレー化された四つのヘリカルアンテナ41を配置するには、最低でも配置寸法L=d+d1=(1/π+1/2)λが必要となる。このように、本実施形態では図1に示すように最大径となる第二螺旋部12の設置に必要な寸法がDであるのに対し、比較例では配置寸法Lが必要となる。したがって、本実施形態のヘリカルアンテナ10は、ヘリカルアンテナ41をアレー化した比較例に対して小型化が図られる。
【0017】
以上説明した本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナ10は、一周一波長相当の第一螺旋部11と、一周二波長相当の第二螺旋部12とを備えている。第二螺旋部12は、第一螺旋部11の径方向外側に位置している。この第一螺旋部11から放射されるアンテナビームと第二螺旋部12から放射されるアンテナビームとは、位相および最大利得方向に差が生じる。これにより、第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波電力の位相および強度を変化させることにより、各アンテナビームから形成される主ビームの指向性が変化する。このように一周二波長相当の第二螺旋部12の内側に一周一波長相当の第一螺旋部11を配置することにより、アレー化した従来のヘリカルアンテナ41に比較して小型化が図られる。したがって、大型化を招くことなく限られた搭載範囲で指向性を任意に制御することができる。
また、本発明の一実施形態によるヘリカルアンテナ10は、分配器22がウィルキンソン分配器である。したがって、簡単な構造で第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の電力の位相および強度を制御することができる。
【0018】
(車載アンテナ)
次に、上述のヘリカルアンテナを搭載した車載アンテナについて説明する。
図7は、統合車載アンテナ50を示す概略図である。統合車載アンテナ50は、図1に示す一実施形態によるヘリカルアンテナ10をETCアンテナ51として備えている。統合車載アンテナ50は、ヘリカルアンテナ10を適用したETCアンテナ51、ケーシング52およびGPS/VICSアンテナ53を備えている。ケーシング52は、ETCアンテナ51およびGPS/VICSアンテナ53を収容している。なお、ケーシング52に収容されたETCアンテナ51およびGPS/VICSアンテナ53を覆うカバーは図示を省略している。GPS/VICSアンテナ53は、平面アンテナであり、GPS(Global Positioning System)衛星から発信される電波を受信するとともに、VICS(Vehicle Information and Communication System)ビーコンから発信される電波を受信する。
【0019】
ETCアンテナ51は、アンテナビームを道路側の無線機が設置されている方向である仰角67°に向ける必要がある。そのため、ETCアンテナ51は、通常、ケーシング52の水平面に対し約23°傾斜させた状態で搭載されている。一方、本実施形態の場合、上述のヘリカルアンテナ10をETCアンテナ51として適用することにより、ヘリカルアンテナ10の主ビームの指向性は上述のように第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の電力の位相および強度によって制御される。そのため、ヘリカルアンテナ10を水平に搭載する場合でも、第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の電力の位相および強度を制御することにより、主ビームを所望の仰角67°に設定することができる。その結果、ヘリカルアンテナ10を水平面に対して傾斜させる場合と比較して、設置に必要な空間が低減される。したがって、ヘリカルアンテナ10を適用することにより、統合車載アンテナ50の小型化を図ることができる。
【0020】
また、ETCアンテナ51から放射される主ビームの方向および指向性は、統合車載アンテナ50を搭載する車両の種類および搭載位置などによって異なる。これは、車両の種類ごとに、構造および搭載される部材が異なり、これらが主ビームの方向や指向性に影響を与えるからである。一方、本実施形態のヘリカルアンテナ10をETCアンテナ51として適用することにより、ヘリカルアンテナ10の主ビームの指向性は上述のように第一螺旋部11および第二螺旋部12へ供給する高周波の電力の位相および強度によって制御される。そのため、ヘリカルアンテナ10および統合車載アンテナ50の設計を変更することなく、車両の種類や搭載位置ごとに主ビームの方向および指向性の制御が可能となる。したがって、設計の共通化を図ることができる。
【0021】
(第二螺旋部の高さと巻数との関係)
次に、第二螺旋部12の高さと巻数との関係について詳細に説明する。
上述の一実施形態のヘリカルアンテナ10においてφ方向に指向性を制御する場合、全方向へ均一な利得を維持するためには、第二螺旋部12単体による指向性が最大となるθ=30°にあるとき、φ方向で全方位性すなわちφ方向へ均一である必要がある。この第二螺旋部12のφ方向における利得の特性は、第二螺旋部12の高さと巻数とに相関する。
【0022】
そこで、第二螺旋部12の高さと巻数との関係を説明する。図8は、第二螺旋部12の高さと巻数との関係を示している。具体的には、図8(A)は、第二螺旋部12の高さを0.1λとし、第二螺旋部12の巻数を1、2、3、4、5と変化させたときのφ方向における利得の指向性を示している。同様に、図8(B)は第二螺旋部12の高さを0.2λとし、図8(C)は第二螺旋部12の高さを0.3λとし、図8(D)は第二螺旋部12の高さを0.4λとし、第二螺旋部12の巻数を変化させたときのφ方向における利得の指向性を示している。
【0023】
例えば図8(A)のように第二螺旋部12の高さを0.1λとし、第二螺旋部12の巻数を1としたとき、φ=30°付近における利得は急激に低下している。これに対し、第二螺旋部12の高さが0.1λであり、第二螺旋部12の巻数が2〜5のとき、利得はφ方向の全方向においてほぼ均一となり、指向性が円に近似している。同様に、図8(B)に示すように第二螺旋部12の高さを0.2λとすると、第二螺旋部12の巻数が1のときφ=30°付近における利得は急激に低下している。これに対し、第二螺旋部12の高さが0.1λであり、第二螺旋部12の巻数が2〜5のとき、利得の指向性はφ方向の全方向においてほぼ均一となる。
【0024】
さらに、図8(C)に示すように第二螺旋部12の高さが0.3λの場合、巻数が1のとき、φ=30°の利得が減少するとともに、φ=120°〜150°において利得が増大している。そのため、第二螺旋部12の巻数が1のとき、φ方向における利得の指向性は円から遠いいびつな特性となる。また、巻数が4および巻数が5のとき、φ=120°付近で利得が減少するとともに、φ=0°〜−90°において利得が増大している。そのため、第二螺旋部12は、巻数が4および5のときも、φ方向における利得の指向性が円から遠いいびつな特性となる。これに対し、巻数が2および巻数が3のとき、第二螺旋部12の利得はφ方向の全方向において比較的均一な円に近い指向性となる。
さらに、図8(D)に示すように第二螺旋部12の高さが0.4λの場合、巻数が1、巻数が3、巻数が4および巻数が5のとき、いずれもφ方向における利得は、円から遠いいびつな指向性となる。これに対し、巻数が2のとき、第二螺旋部12の利得は、φ方向の全方向において比較的均一な円に近い指向性となる。
【0025】
これら、φ方向における利得の指向性のばらつきを標準偏差として算出し、巻数と高さとの関係を図示すると、図9に示すようになる。第二螺旋部12の高さと巻数との関係は、φ方向における利得の指向性が真円に近い方が好ましい。そこで、第二螺旋部12の高さに対して巻数を設定したとき、利得の指向性を示す標準偏差が0.6以下となるように設定することが望ましい。すなわち、標準偏差が0.6以下であれば、利得の指向性は真円に近い、つまりφ方向において全方向で均一に近くなる。その結果、この標準偏差が0.6以下となる巻数と高さとを選定することにより、第二螺旋部12はφ方向へ指向性を暗転して制御可能となる。この場合、標準偏差が0.6以下となるのであれば、第二螺旋部12の巻数は、整数の巻数に限らず任意の巻数とすることができる。
上記のように第二螺旋部12の高さを設定する場合、第二螺旋部12の高さhは、0.1λ≦h≦0.4λに設定される。これは、高さhがh<0.1λの場合、螺旋状に巻き上げた線材が互いに重なり合い、アンテナとして機能しないからである。また、高さhが0.4λ<hの場合、巻き上げられた線材の高さが過大となり、実用性が低いからである。
【0026】
(第一螺旋部の中心と第二螺旋部の中心との偏心量と利得の関係)
上述の一実施形態では、一周一波長相当の第一螺旋部11と一周二波長相当の第二螺旋部12とを同心円状に配置する例について説明した。しかし、第一螺旋部11の中心と第二螺旋部12の中心とをずらしてもよい。このように第一螺旋部11および第二螺旋部12の中心をずらす、すなわち偏心して配置することにより、主ビームの指向性が変化する。そのため、供給する高周波の電力の位相および強度に加え、第一螺旋部11の中心と第二螺旋部12の中心との位置関係も調整することにより、主ビームの指向性をより精密に制御することができる。以下、具体的な例に基づいて説明する。
【0027】
図10に示すように、一周一波長の第一螺旋部11の中心と一周二波長の第二螺旋部12の中心とを偏心させて配置し、第二螺旋部12へ電力を供給すると、第一螺旋部11と第二螺旋部12とが最も接近する部分(φ=0°)では誘導結合が生じる。そのため、第二螺旋部12を流れる電流によって、第一螺旋部11には第二螺旋部12とは逆位相の誘導電流が生じる。第一螺旋部11は一周一波長であり、第二螺旋部12は一周二波長であるため、φ=−90°〜−45°の範囲において、第一螺旋部11を流れる電流と第二螺旋部12を流れる電流とは、同方向へ流れ、互いに強め合う。これにより、第二螺旋部12の指向性は、第一螺旋部11と第二螺旋部12とが同心円状に配置された場合と比較して、φ=−90°〜−45°の範囲で利得が増加する。これとともに、図11および図12に示すように、第二螺旋部12の指向性は、地板13の正面すなわちθ=0°近傍において生じる急激な利得低下部分(NULL)がφ=90°〜135°側へ移動する。ここで、図11は利得を三次元で示す模式図であり、図12はφ=−67.5°におけるθ方向の指向性を示す模式図である。
【0028】
第一螺旋部11および第二螺旋部12に電力を供給した際の指向性を合成した場合、第一螺旋部11と第二螺旋部12とを偏心させたとき、これらを偏心させない場合と比較して、図13および図14に示すように最大利得が1dB程度増加する。特に、地板13の正面付近であるθ=−30°〜30°の範囲では利得が最大で3dB、平均で2dB程度増加する。すなわち、第一螺旋部11および第二螺旋部12を偏心させることにより、最大利得と地板13の正面付近における利得を調整することができる。
【0029】
また、図15は、第一螺旋部11および第二螺旋部12の偏心量sと平均利得差との関係を示している。ここで、利得差とは、第一螺旋部11と第二螺旋部12との偏心量sがs=0であるときに第一螺旋部11および第二螺旋部12の指向性を合成した利得と、第一螺旋部11と第二螺旋部12とを偏心させたときの指向性を合成した利得との差を意味する。図15では、平均利得差を示している。平均利得差は、θ軸を中心とする360°の範囲における利得差の平均値である。図15に示すように、平均利得差は、偏心量sとともに変化し、0.04λ以上になると、部分的な利得差は1dB以上となる。
【0030】
以上のように、第一螺旋部11および第二螺旋部12の偏心量sを調整することにより、ヘリカルアンテナ10は全体の再設計を必要とすることなく全体の利得が調整される。したがって、複数の車種や車両に適用する場合、車両や車種ごとの影響を低減することができる。
上記のように第一螺旋部11と第二螺旋部12との間の偏心量sを設定する場合、偏心量sは、0.04λ≦s≦0.12λに設定される。偏心量sをs<0.04λと設定するのは上述の理由によるものである。これに対し、偏心量sがs<0.12λの場合、第一螺旋部11と、この外側に設けられている第二螺旋部12とが互いに接触してしまうからである。
【0031】
(その他の実施形態)
第一螺旋部11を一周一波長相当、第二螺旋部12を一周二波長相当にするだけでなく、第一螺旋部11および第二螺旋部12をそれぞれ一周あたり任意の波長相当としてもよい。但し、第二螺旋部12は、第一螺旋部11の径方向外側を包囲するため、第一螺旋部11を一周n波長相当、第二螺旋部12を一周m波長相当としたとき、m>nとなる。このように、供給する高周波の電力の位相および強度に加え、第一螺旋部11および第二螺旋部12をそれぞれ一周当たり任意の整数倍の波長相当とすることにより、主ビームの指向性をより精密に制御することができる。
さらに、第二螺旋部12の径方向外側には、第三螺旋部、第四螺旋部、・・・、第N螺旋部(N≧3)として単数または複数の螺旋部を配置してもよい。このように、供給する高周波の電力の位相および強度に加え、第二螺旋部12の径方向外側に単数または複数の螺旋部を配置することにより、指向性をより精密に制御することができる。
【0032】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
図面中、10はヘリカルアンテナ、11は第一螺旋部、12は第二螺旋部、13は地板、14は給電回路、21は発振器、22は分配器、23は第一位相器、24は第二位相器、25は給電点、26は給電点、50は統合車載アンテナを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の地板と、
前記地板に対して略垂直方向へ一周n波長相当で螺旋状に巻き上げられている第一螺旋部と、
前記第一螺旋部の径方向外側に前記第一螺旋部を包囲して前記地板に対して略垂直方向へ一周m(m>n)波長相当で螺旋状に巻き上げられている第二螺旋部と、
発振器、前記発振器に接続する分配器、前記分配器の出力側に接続し前記第一螺旋部の給電点に接続する第一位相器、および前記分配器の出力側に接続し前記第二螺旋部の給電点に接続する第二位相器を有する給電回路と、
を備えることを特徴とするヘリカルアンテナ。
【請求項2】
前記分配器は、ウィルキンソン分配器であることを特徴とする請求項1記載のヘリカルアンテナ。
【請求項3】
前記第一螺旋部は一周一波長(n=1)相当であり、前記第二螺旋部は一周二波長(m=2)相当であることを特徴とする請求項1または2記載のヘリカルアンテナ。
【請求項4】
前記第二螺旋部の径方向外側に前記地板に対して略垂直方向へ螺旋状に巻き上げられている単数または複数の第N螺旋部(N≧3)をさらに備えることを特徴とする請求項1、2または3記載のヘリカルアンテナ。
【請求項5】
前記第二螺旋部の高さは、前記第二螺旋部による指向性の標準偏差が0.6以下の円に近い形状となるように巻数が設定されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のヘリカルアンテナ。
【請求項6】
前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とは、発信する高周波の波長をλとしたとき、中心が0.04λ以上離れて偏心していることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のヘリカルアンテナ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項記載の前記ヘリカルアンテナを備えることを特徴とする車載アンテナ。
【請求項1】
板状の地板と、
前記地板に対して略垂直方向へ一周n波長相当で螺旋状に巻き上げられている第一螺旋部と、
前記第一螺旋部の径方向外側に前記第一螺旋部を包囲して前記地板に対して略垂直方向へ一周m(m>n)波長相当で螺旋状に巻き上げられている第二螺旋部と、
発振器、前記発振器に接続する分配器、前記分配器の出力側に接続し前記第一螺旋部の給電点に接続する第一位相器、および前記分配器の出力側に接続し前記第二螺旋部の給電点に接続する第二位相器を有する給電回路と、
を備えることを特徴とするヘリカルアンテナ。
【請求項2】
前記分配器は、ウィルキンソン分配器であることを特徴とする請求項1記載のヘリカルアンテナ。
【請求項3】
前記第一螺旋部は一周一波長(n=1)相当であり、前記第二螺旋部は一周二波長(m=2)相当であることを特徴とする請求項1または2記載のヘリカルアンテナ。
【請求項4】
前記第二螺旋部の径方向外側に前記地板に対して略垂直方向へ螺旋状に巻き上げられている単数または複数の第N螺旋部(N≧3)をさらに備えることを特徴とする請求項1、2または3記載のヘリカルアンテナ。
【請求項5】
前記第二螺旋部の高さは、前記第二螺旋部による指向性の標準偏差が0.6以下の円に近い形状となるように巻数が設定されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のヘリカルアンテナ。
【請求項6】
前記第一螺旋部と前記第二螺旋部とは、発信する高周波の波長をλとしたとき、中心が0.04λ以上離れて偏心していることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のヘリカルアンテナ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項記載の前記ヘリカルアンテナを備えることを特徴とする車載アンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−187358(P2010−187358A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180580(P2009−180580)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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