説明

ヘルベティカス乳酸桿菌の新規株

本発明は、ヘルベティカス乳酸桿菌の新規株に関する。より具体的には、本発明は、ラクトース陰性表現型を有するヘルベティカス乳酸桿菌株および農業食品産業におけるその使用に関する。本発明はまた、このようなヘルベティカス乳酸桿菌株を得る方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルベティカス乳酸桿菌(Lactobacillus helveticus)の新規株、ならびに農業食品分野におけるそれらの使用に関する。より具体的には、本発明は、ラクトース陰性の表現型を有するヘルベティカス乳酸桿菌株を提唱する。本発明はまた、このようなヘルベティカス乳酸桿菌株を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧は、人口のかなり大きな割合に影響を及ぼしている。アンギオテンシン変換酵素(ACE)の阻害により血圧を低下させることのできる薬剤としてのペプチドVPP(Val Pro Pro)および配列VPPを含有するペプチドの使用は、欧州特許第0 583 074号に記載されている。トリペプチドIPP(Ile Pro Pro)の同様な作用も、その文献に記載されている。これらのペプチドは、ACEの活性部位を遮断し、それによりACEがアンギオテンシンを活性化するのを防止することによって、ACEを阻害する。
【0003】
2つの配列、VPPおよびIPPは、ウシのベータカゼイン中に存在すること、およびこのカゼインの(または、より一般的には、それを含有する乳の)好適な加水分解によって、前記トリペプチドを得ることが可能になることが知られている。数ミリグラムのこれらのトリペプチドを毎日摂取することにより、血圧、特に、高血圧被験者における血圧を効果的に低下させることが可能になり、それだけいっそう心血管傷害の危険性を低下させることが、多数の動物およびヒトの試験で示されている。
【0004】
ヘルベティカス乳酸桿菌により発酵させた乳由来のペプチドは、インビボでそれらのACE阻害(ACEI)効果を示しており、これらのペプチドが該試験に参加したラットの大動脈内に見い出されている(Masuda Oら、1996年、J.Nutr.126、3063〜8頁)。他の試験も、L. ヘルベティカスにより発酵させた乳由来のペプチド摂取後、高血圧ラットにおける血圧の低下をより具体的に示している(Yamamoto N.ら、1994年、Biosci.Biotech.Biochem.58、776〜8頁)。
【0005】
ヒトにおいて、同じ発酵乳がやはり全身動脈血圧を低下させることを可能にしている(Hataら、1996年、Am.J.Clin.Nutr.、64、767〜71頁)。より最近の試験では、CALPIS社により市販されている製品AMEAL S(登録商標)中に存在しているペプチドが、通常より高い血圧を有する被験者における血圧を有意に低下させることが確認されている(Mizunoら、2005年、British Journal of Nutrition;第94巻、第1号、84〜91頁)。
【0006】
別の最近の試験(Jauhiainenら、2005年、Am.J.of Hypertension、18:1600〜1605頁)では、L.ヘルベティカスによって発酵させた乳の降圧効果を説明する上記の作用機序(ACE阻害)は、ヒトにおける作用機序を決定するものではない可能性があるという仮説が提示されている。
【0007】
大多数のヘルベティカス乳酸桿菌は、乳の発酵によってトリペプチドIPPおよびVPPを産生することができるが、産生される量は変動し得る。欧州特許第1 016 709号は、ヘルベティカス乳酸桿菌種に属する特定株の乳酸菌を用いて、乳の発酵により、トリペプチドVPPおよびIPPを産生する手段を記載している。しかし、このようにして製造された製品(発酵乳)は、多量の乳酸を含有し、したがって、感覚的および味覚的観点から許容できない酸味を特徴とする。さらに、ポスト酸性化の問題が生じる:たとえ官能的に許容できるpH(pH>4)で発酵を停止(冷却による標準的な様式で)しても、ヘルベティカス乳酸桿菌の内因的な特性により、低温で酸性化が継続する。これにより、製品のpHの低下に至り、これもまた、消費にとって全く許容できないこととなる。
【0008】
ポスト酸性化を避けるために、熱処理(低温殺菌、サーマイゼーション)によって該株を直ちに死滅させることにより、許容できるpHで発酵を停止させることが可能である:これでポスト酸性化はゼロとなる(該製品の酸性化は、貯蔵の間にはもはや進行しない)。残念なことに、トリペプチドの量は、発酵の早期停止によって低下する。したがって、このようにして得られた製品は、低含量のIPPおよびVPPしか有さない。同じ株で、最高濃度のトリペプチドが得られるまで該乳を発酵させることも可能である。次いで、並行して生成した大量の乳酸を、複雑で高価な多段階の方法によって除去しなければならない。さらに、この方法は、分離段階を含むため、「自然」ではない。したがって、このような方法は、工業的規模には適していない。
【特許文献1】欧州特許第0 583 074号
【特許文献2】欧州特許第1016 709号
【特許文献3】特許出願WO2004/060073
【非特許文献1】Masuda Oら、1996年、J.Nutr.126、3063〜8頁
【非特許文献2】Yamamoto N.ら、1994年、Biosci.Biotech.Biochem.58、776〜8頁
【非特許文献3】Hataら、1996年、Am.J.Clin.Nutr.、64、767〜71頁
【非特許文献4】Mizunoら、2005年、British Journal of Nutrition;第94巻、第1号、84〜91頁
【非特許文献5】Jauhiainenら、2005年、Am.J.of Hypertension、18:1600〜1605頁
【非特許文献6】Cushmanら、Biochem.Pharmacol.1971年、20:1637頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、当業界の現状の欠点に対して解決策を提唱する。特に、本発明は、食品の、特に発酵乳製品の調製を可能にするヘルベティカス乳酸桿菌の株を提唱し、その株は多数の有益な特性を有している:
- 本発明による乳製品は、発酵の最後のみならず貯蔵の間も、完全に制御された酸性度を有する。特に、それらは、ポスト酸性化現象を受けない。したがって、本発明による乳製品は、官能的にきわめて満足を与えるものである。
- 本発明による乳製品は、プロバイオティクスとして直接消費できる。すなわち、それらは、それらの味覚的性質に対する影響なしに、特に、それらの酸味に対する影響なしに、かなり多くの量の生菌を含有する。
- 本発明による製品の調製は、サーマイゼーション段階を必要とせず、また、複雑な精製段階も必要としない。したがって、本発明による方法は、装置の改変をそれほど行わずに、標準的な乳業設備において簡便に実施できる。さらに、本発明による方法は、完全に自然である。
- 本発明による食品、特に乳製品は、高い(IPP+VPP)/(乳酸)比で、きわめて高レベルのトリペプチドVPPおよびIPPを含有できる。これらの結果は、先行の精製段階または濃縮段階なしで得ることができる。
- 本発明による食品、特に乳製品は、有利なことに、かなり多くののバイオマス(すなわち、かなり高い濃度の生存微生物)を含有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
株とは、本発明の意味内で、単一の細胞または単離したコロニーから得られた微生物の任意の培養物、一般に純粋な培養物を意味する。
【0011】
株Xのバリアントまたはミュータントとは、本発明の意味内で、基準株Xから得られた任意の株を意味する。本文脈で、用語「バリアント」は、より具体的には、基準株Xから、主に突然変異および選択によって得られた株を称するために用いられ、用語「ミュータント」は、より具体的には、株Xに適用されるランダムな、または特異的な突然変異誘発技法(例えば、ベクターを用いる遺伝子形質転換)によって得られた株を称するために用いられる。
【0012】
本発明による株のミュータントまたはバリアントは勿論、それらが本発明の基本的な態様、特にラクトース陰性表現型を一旦保持すれば、本特許によって与えられる保護により包含される。
【0013】
「ラクトース陰性表現型」とは、ラクトースを乳酸に変換する能力を有さない任意の株を意味する。
【0014】
「フルクトース陰性表現型」とは、フルクトースを代謝する能力を有さない任意の株を意味する。
【0015】
乳培地とは、乳タンパク質、例えば、牛乳粉末(脱脂または非脱脂)または濃縮乳で4%のタンパク質に標準化された牛乳を含有する任意の培地を意味する。
【0016】
乳製品とは、本発明の意味内で、乳以外に、クリーム、アイスクリーム、バター、チーズ、ヨーグルト、発酵乳などの乳由来の任意の製品;乳清およびカゼインなどの副製品、ならびに主要成分として乳または乳成分を含有する種々の調製食品を意味する。乳製品の中で、発酵乳製品は、他の中でも、ヨーグルト、発酵乳、カテージチーズ、ケフィア、チーズ、プロバイオティック乳製品、およびより一般的には、少なくとも1つの発酵段階を受けた任意の乳製品を含む。前記乳は一般に牛乳であるが、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ラクダまたはバッファローなどの他の哺乳動物の乳でもよい。
【0017】
食品とは、本発明の意味内で、ヒトまたは動物の栄養を意図した任意の製品を意味する。特に、食品としては、幼児、小児、青年および成人に与えることを意図した製品が挙げられる。本発明による食品の全部または一部は、本発明による発酵乳製品を少なくとも1つ含有し得る。本発明による食品はまた、添加剤、保存剤、果実または果実抽出物、芳香剤、着色剤、組織化剤、穀粒、チョコレート片など、農業食品産業に通常用いられる他の成分も含有し得る。
【0018】
発酵物とは、本発明の意味内で、所与の培地を発酵させることのできる、少なくとも1つの生存微生物株を含有する任意の組成物を意味する。発酵物の中で、乳酸発酵物は、乳培地を発酵させることのできる、少なくとも1つの生存微生物株を含有する組成物である。
【0019】
一実施形態によると、本発明は、ラクトースを乳酸に変換する能力を有さないヘルベティカス乳酸桿菌の株に関する。本発明はまた、ラクトースを乳酸に変換する能力を有さず、ラクトースオペロンに少なくとも1つの突然変異を有するヘルベティカス乳酸桿菌の株に関する。
【0020】
一実施形態によると、ラクトースオペロンにおける前記突然変異は、停止コドンを導入する点突然変異である。さらに好ましい実施形態によると、停止コドンを導入する前記点突然変異は、ラクトースオペロンのlacL遺伝子内に位置する。点突然変異とは、いわゆる「野生型」配列に比較して、該配列中に含まれる任意のヌクレオチド置換を意味する。当業者は、mRNAにおいて、トリプレット:UAA、UAG、UGAの1つに一般に相当する、停止コドン(ナンセンスコドンとも称される)をいかに同定するかを知っている。
【0021】
このように、本発明によるヘルベティカス乳酸桿菌は、ラクトースを分解する能力を有さない(ラクトースから乳酸への変換なし)。実際、本発明による株は、ラクトース陰性表現型を有する。他方、それらは、炭素源としてのグルコースの存在下で増殖でき(グルコースから乳酸への発酵)、乳の一定の成分、特にタンパク質を代謝できる。したがって、本発明による株は、有利なことに、完全に制御されたpHでの発酵を可能にする:発酵後の最終pHは、発酵培地中に当初含有されたグルコースの量によって完全に制御される。これは、所与のグルコース量は、実際に化学量論的に、同量の乳酸をもたらすという事実から生じる。さらに、本発明による株の使用によって、ポスト酸性化現象が避けられる。したがって、本発明による株のおかげで、特に官能的に満足できる食品を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
有利なことに、一実施形態によれば、本発明によるヘルベティカス乳酸桿菌の株では、30℃と45℃との間の温度で最長30時間の発酵時間で、前記ヘルベティカス乳酸桿菌株により発酵させた1.0重量%グルコースを含有する、4.0%の総タンパク質を有する乳培地が、4.0以上、好ましくは4.1以上、好ましくは4.2以上、好ましくは4.3以上、好ましくは4.5以上のpHを有する。したがってこの利点は、トリペプチドIPPおよび/またはVPPの高産生体であるヘルベティカス乳酸桿菌株の場合に特に顕著であり:
- 発酵中にトリペプチドの高レベルの産生(できる限り長い発酵時間を必要とする)と、
- 官能的に許容できる特性(制限された酸性化、したがって、発酵による乳酸の産生を制限するために、できる限り短い発酵時間のみならず、ポスト酸性化現象を避けるためのサーマイゼーション/低温殺菌を必要とする)
との間で妥協することを全く必要としない。
【0023】
実際、本発明によると、有利なことに、トリペプチドVPPおよび/またはIPPの産生と乳酸の産生は、部分的に分断される:乳酸の産生は、発酵培地中に当初存在するグルコースの量の関数に過ぎず、もはや発酵時間の関数ではなくなる。
【0024】
トリペプチドの濃度を表す手段は、単にVPP当量の濃度[VPPeq]として表すことである。
【0025】
これは、mg/kgで:[VPPeq]=[VPP]+(9/5×[IPP])と表される。
【0026】
したがって、一実施形態によれば、本発明によるヘルベティクス乳酸桿菌株は、有利なことに、発酵により、発酵産物1kg当たり、少なくとも25mg、好ましくは少なくとも30mg、好ましくは少なくとも35mg、好ましくは少なくとも40mg、好ましくは少なくとも45mg、好ましくは少なくとも50mg、好ましくは少なくとも55mg、好ましくは少なくとも60mg、好ましくは少なくとも65mg、好ましくは少なくとも70mg、好ましくは少なくとも75mg、好ましくは少なくとも80mgのVPP当量の量で、配列IPPおよび/またはVPPのトリペプチドを産生することができる。VPPおよび/またはIPPのこのような量は、3重量%より多い量のグルコースを含有し、2重量%以上、好ましくは、2重量%と10重量%との間、より好ましくは、2.5重量%と6重量%との間、さらにより好ましくは4重量%に等しい総タンパク質含量を有する乳培地を、30℃と45℃との間、好ましくは31℃と44℃との間、好ましくは32℃と43℃との間、好ましくは33℃と42℃との間、好ましくは34℃と41℃との間、好ましくは35℃と40℃との間、より好ましくは37℃で、本発明による株を用いて発酵することによって、一般に得られる。
【0027】
一実施形態によると、本発明によるヘルベティカス乳酸桿菌株は、フルクトース陰性表現型も有する。ラクトース陰性表現型とフルクトース陰性表現型との組合せは、特に有利である。実際、フルクトースは、強い甘味力を有し、食品における有用な成分である。したがって、フルクトースがヘルベティカス乳酸桿菌株によって分解される可能性がなければ、その食品は優れた官能性を保持する。さらに、ラクトース陰性でもありフルクトース陰性でもある株は、グルコースを含有する培地中でのみ増殖し得る。したがって、食品が果実の調製物、特に果実片および/または果汁を含有する場合、最終pHは、有利なことに、より良好に制御される。
【0028】
一実施形態によると、本発明による株は、
2005年10月14日にCNCMに寄託されたI-3504;
2005年10月14日にCNCMに寄託されたI-3505;
2005年10月14日にCNCMに寄託されたI-3508;
およびこれらの株に由来するバリアント株またはミュータント株から選択される。
【0029】
他の実施形態によると、本発明は、食品または医薬品、特に発酵乳製品の調製のための、本発明によるヘルベティカス乳酸桿菌株の使用に関する。
【0030】
有利なことに、本発明の一態様によると、前記食品または医薬品は、降圧性を有する。
【0031】
また、本発明は、本発明による少なくとも1つのヘルベティクス乳酸桿菌株を含む、食品、特に発酵乳製品にも関する。
【0032】
有利なことに、一実施形態によると、前記食品は、少なくとも106CFU/mL、好ましくは少なくとも107CFU/mL、好ましくは少なくとも108CFU/mLの生存ヘルベティカス乳酸桿菌を含有する。したがって、本発明による食品は、かなり多くのバイオマスを含有する。
【0033】
一実施形態によると、前記食品は、食品1kg当たり少なくとも25mg、好ましくは少なくとも30mg、好ましくは少なくとも35mg、好ましくは少なくとも40mg、好ましくは少なくとも45mg、好ましくは少なくとも50mg、好ましくは少なくとも55mg、好ましくは少なくとも60mg、好ましくは少なくとも65mg、好ましくは少なくとも70mg、好ましくは少なくとも75mg、好ましくは少なくとも80mgのVPP当量を含有する。
【0034】
一実施形態によると、本発明による食品はまた、果実の調製物、特に果実片および/または果汁をも含む。
【0035】
一実施形態によると、3.85以上;好ましくは3.90以上、好ましくは3.95以上、好ましくは4.00以上、好ましくは4.05以上、好ましくは4.10以上、好ましくは4.15以上、より好ましくは4.20以上のpHを有する。
【0036】
有利なことに、一実施形態によると、本発明による食品は、降圧性を有する。
【0037】
他の態様によると、本発明は、食品を調製する方法に関する。
【0038】
一実施形態によると、前記方法は以下の段階を含む:
乳タンパク質、特にペプチド配列IPPおよび/またはVPPを含有するタンパク質を含有する原料を選択する段階。これは例えば、2重量%〜10重量%の総タンパク質を含有する乳であり得る。
本発明による少なくとも1種のヘルベティカス乳酸桿菌株を選択する段階。
前記原料に前記株を接種する段階。
30℃〜45℃で12時間〜30時間、1重量%〜3重量%のグルコースの存在下、および前記株の存在下、前記原料を発酵させる段階。
【0039】
一実施形態によると、本発明による段階は、有利なことに、発酵後にサーマイゼーションの段階を有さない。このことにより、該(プロバイオティック)食品中に生菌を保持することが可能になる。
【0040】
一実施形態によると、本発明は、ラクトース陰性表現型を有するヘルベティカス乳酸桿菌株を得るためのストレプトゾトシンの使用に関する。
【0041】
本発明はまた、このようなヘルベティカス乳酸桿菌株を得る方法も提供する。
【0042】
一実施形態によると、ラクトース陰性表現型を有するヘルベティカス乳酸桿菌株を得る前記方法は、以下の段階を含む:
少なくとも1種のヘルベティカス乳酸桿菌株を準備する段階;
前記少なくとも1種の株を、ラクトースの存在下、有効量のストレプトゾトシンと接触させる段階;
ラクトース陰性表現型の1つまたは複数のコロニーを単離する段階。
【0043】
ストレプトゾトシンの存在下で生存できるヘルベティカス乳酸桿菌の細胞集団には実際、有利なことに、ラクトース陰性細胞がきわめて豊富である。
【0044】
一実施形態によると、β-ガラクトシド結合によってガラクトースに結合しており、微生物によるこの結合の切断後にタグ化できるXgalおよび/またはSgalおよび/または他の任意の化合物を含有する培地上での比色試験を含む段階が本発明による株を得る前記方法に加えられる。IPTGは、ラクトーストランスポーターの誘導物質として、または微生物によるラクトース使用の誘導物質として作用するため、この化合物を、この試験を実施するために加えることもできる。
【0045】
一例として、前記方法は、以下のとおりに実施することができる:
- 中性MRS (Man Rogosa Sharp)ブロス上での、35℃〜40℃で一晩にわたる開始ヘルベティカス乳酸桿菌株(母株)の第1の継代培養;
- 中性MRSにおける、第2の継代培養。
- 十分なバイオマスが得られるまでの、例えば、35℃〜40℃で10時間〜30時間のインキュベーション。
- 十分なバイオマスを得ることを可能にする濃度、例えば、2重量%〜7重量%のラクトースを含有するMRSの接種;580nmにおけるODのモニタリングを伴うインキュベーション。
- 考慮されている株に対して殺菌的な最終濃度を有するように、ストレプトゾトシンを即時調製し、発酵の間に加える。この濃度は株に依存的である。
- 35℃〜40℃でのインキュベーション後、培養物をトリプトン塩により2回洗浄する。
- 該ペレットをトリプトン塩に吸収させ、次いで中性MRSを再培養する。
- 該株が増殖するまでの、35℃〜40℃でのインキュベーション。
- 次いで、中性MRS + Xgal + IPTGで単離を行った後、CO2下、35℃〜40℃でインキュベーションを行う。この段階は、菌株がラクトース陽性かラクトース陰性か判定することを可能にする比色試験である:該株が炭素源としてラクトースを用いることができる場合、青色の物質が産生され、したがって、該コロニーは青色であり、逆の場合(ラクトース陰性株)では、該コロニーは白色である。
- 白色コロニーを、中性MRSで継代培養し、35℃〜40℃でインキュベートする。
【0046】
本発明を、非限定的な以下の実施例を用いてさらに説明する。
【0047】
(実施態様例)
(実施例1)
ラクトース陰性表現型を有する株の獲得
材料および方法
開始株(いわゆる「母株」)
I-3431 2005年5月25日に、CNCMへ寄託
I-3434 2005年5月25日に、CNCMへ寄託
I-3435 2005年5月25日に、CNCMへ寄託
【0048】
ストレプトゾトシンに対する感受性試験
第1段階で、使用される抗生物質、ストレプトゾトシンに対して母株が感受性であることを検証する。中性MRS (Man Rogosa Sharp)ブロス中、42℃で、580nmにおける吸光度(OD)をモニターする。後者が0.1に達したら、最終的に50μg/mlを有するように(例えば、10mlの培地に対して、5mg/mlの100μl)、ストレプトゾトシンを管に加える。
【0049】
ラクトース陰性株の選択
ラクトース陰性ヘルベティカス乳酸桿菌株を得るために、以下の段階を実施する:
- 中性MRS培地上での、37℃で一晩にわたる、使用原液のウェルからの開始ヘルベティカス乳酸桿菌株(母株)の第1の継代培養;
- 中性MRS培地中、1%での第2の継代培養。
- 37℃で16時間のインキュベーション。
- 10mlのMRSを、1%で、5重量%ラクトースで接種し、580nmにおけるODのモニタリングを伴う、40℃でのインキュベーションを行う。
- ストレプトゾトシンを即時調製し、2時間15分または4時間の発酵後、50μg/mlの最終濃度を有するように加える。
- 40℃で7時間30分のインキュベーション後、培養物を、トリプトン塩で2回洗浄する。
- 該ペレットを2mlのトリプトン塩に吸収させ、次いで中性MRSを10%で接種する。
- 該株が増殖するまでの、37℃でのインキュベーション。
- 次いで、中性MRS + Xgal + IPTGで単離を行った後、CO2下、37℃でインキュベーションを行う。この段階は、菌株がラクトース陽性かラクトース陰性か判定することを可能にする比色試験である:該株が炭素源としてラクトースを用いることができる場合、青色の物質が産生され、したがって、該コロニーは青色であり、逆の場合(ラクトース陰性株)では、該コロニーは白色である。
- 白色コロニーを、中性MRSで継代培養し、37℃でインキュベートする。
【0050】
結果
これによって、ラクトース陰性の表現型を有する以下の株を得ることが可能になり、次いでこれらを、ブダペスト条約の条項に従い、28 rue du Docteur Roux、75724、パリ、フランス国のCNCM(微生物培養物の国立コレクション)における寄託に供した。
I-3504 2005年10月14日に、CNCMへ寄託;母株I-3431に由来
I-3505 2005年10月14日に、CNCMへ寄託;母株I-3434に由来
I-3508 2005年10月14日に、CNCMへ寄託;母株I-3435に由来
【0051】
得られたラクトース陰性表現型の株を、MRS + Xgal + IPTG中性ゲロース培地で再度確認する(いわゆる「白色/青色」染色試験)。
【0052】
(実施例2)
ラクトース陰性表現型を有する株
ブダペスト条約の条項に従い、2005年10月14日に、28 rue du Docteur Roux、75724、パリ、フランス国のCNCM(微生物培養物の国立コレクション)へ寄託されたI-3504株は、以下の特性:
- ラクトース陰性;フルクトース陰性
- IPPおよびVPPの産生:図4および5を参照
- 酸性化特性:図1を参照
- ACE阻害:図6を参照
を有するヘルベティカス乳酸桿菌株である。
【0053】
ブダペスト条約の条項に従い、2005年10月14日に、28 rue du Docteur Roux、75724、パリ、フランス国のCNCM(微生物培養物の国立コレクション)へ寄託されたI-3505株は、以下の特性:
- ラクトース陰性;フルクトース陰性
- IPPおよびVPPの産生:図5を参照
- 酸性化特性:図2を参照
を有するヘルベティカス乳酸桿菌株である。
【0054】
ブダペスト条約の条項に従い、2005年10月14日に、28 rue du Docteur Roux、75724、パリ、フランス国のCNCM(微生物培養物の国立コレクション)へ寄託されたI-3508株は、以下の特性:
- ラクトース陰性;フルクトース陰性
- IPPおよびVPPの産生:図5を参照
- 酸性化特性:図3を参照
を有するヘルベティカス乳酸桿菌株である。
【0055】
1. 種々のバリアント株の酸性化特性の測定
酸性化特性は、以下のとおりに評価する:
930mlの水中、120gの脱脂乳粉末(SMP)を含有する培地を、95℃で10分間低温殺菌する。この培地に、0.5%で接種してから、種々の濃度のグルコースの存在下、37℃で発酵に供する。(略語Gxは、発酵前の培地中におけるグルコースのx重量%濃度を示す)。次いで、種々の株に関して、pHを時間の関数としてモニターする。30時間の発酵で採取された発酵培地のサンプルを、トリペプチドIPPおよびVPP産生の測定、ならびにACEI活性の測定に用い、その結果は、下記に示されている。
【0056】
I-3504に関して、母株の結果もまた示されている(I-3431、ラクトース陽性株)(図1を参照)。
【0057】
I-3505に関して、母株の結果もまた示されている(I-3434、ラクトース陽性株)(図2を参照)。
【0058】
I-3508に関して、母株の結果もまた示されている(I-3435、ラクトース陽性株)(図3を参照)。
【0059】
図1〜3に示された結果は、本発明による株が、有利なことに、培地中に当初存在したグルコースの量に従って、発酵の最後におけるpHを良好に制御することを可能にすることを示している。さらに、ラクトース陰性株による発酵では、有利なことに、官能的に許容できる食品が得られる高pH値に至る。
【0060】
2. トリペプチドIPPおよびVPP産生の測定
材料および方法
この測定を実施するために、先の第1項で記述したとおり、発酵30時間目に採取した乳培地のサンプルを用いる。
【0061】
ペプチド含量、特にトリペプチドIPPおよびVPPの含量の分析は、本明細書に以下に記述するように、MS/MSタイプの検出器と合わせたHPLC液体クロマトグラフィー法によって実施する:
- 複雑なサンプルの分析に固有の干渉により、知られた量で加えられ、該サンプルの調製時に制御された重水素化内部標準物質の使用が強く勧められる。
- サンプルの調製は、25ppmの重水素化VPP内部標準物質(以下、式H-Val[D8]-Pro-Pro-OHのVPPdと表す、MM = 319.45g/mol、Bachem Chemicals社、フランス国から入手可能)および10ppmの重水素化IPP内部標準物質(以下、式H-lleVal[D10 N15]-Pro-Pro-OHのIPPdと表す、MM = 336.2g/mol、NEOMPS社、Group SNPE、7 rue de Boulogne、67100、ストラスブルグ、フランス国から入手可能)を含有する水、メタノールおよびトリフルオロ酢酸の混合物(50/50/0.1%)中に、発酵培地を1対3の割合で希釈すること(例えば、内部標準物質を含有する水-メタノール-TFA混合物1200mg中、600mgのサンプルをエッペンドルフ内で正確に秤量)によって実施する。
- 次いで、この希釈サンプルを、14000gで15分間遠心分離する。次いで、発酵時に産生された該ペプチドを含有する、得られた明澄な上清を、0.1%のトリフルオロ酢酸を含有する水-メタノールの混合物(50/50、v/v)中、1/50倍に正確に希釈する。
- 次いで、このようにして得られた希釈液を、該ペプチドの分析に適した、Waters Biosuite(登録商標)タイプのカラム(3mm 2.1×150mm、C18 PA-A、WAT186002427、Waters France、5、Rue Jacques Monod、78280 Guyancourt)を備えたAgilent 1100タイプのHPLCクロマトグラフィーシステム(Agilent Technologies France社、1 rue Galvani 91745 Massy Cedex、フランス国)において、50℃の温度、0.25ml/分の流速で分析する。該ペプチドは、所望のクロマトグラフィー分解能に依存して、35分から2時間の時間にわたって、溶媒A(水 + 0.106%のギ酸)中、溶媒B(アセトニトリル + 0.100%のギ酸)の勾配増加で、標準的な様式で溶出させる。ペプチドIPPおよびVPPのアッセイに好適な方法は、以下の勾配を用いる:
【表1】

【0062】
- 該検出は、該ペプチド含量の全体的分析に関して(MS/MS様式)、またはあるペプチドの特徴的な断片の正確で特定の定量化に関して(MRM様式)、例えば、Esquire 3000+(Bruker Daltonique、rue de I'Industrie、67166 Wissembourg Cedex)などのイオントラップ、陽性モードでのエレクトロスプレーイオン化パラメーターを有するデバイスにより、特定のMS/MSタイプの検出器を用いて実施する。ペプチドIPPおよびVPPのみならず、内部標準物質のIPPdおよびVPPdの場合も、これらのペプチドを、それらの特定の質量から単離し(単電荷イオン、VPPでは、312.2Da;IPPでは、326.2Da;VPPdでは、320.2Da;IPPdでは、337.3Da)、断片化(断片>=85Da)後に、特定イオンの強度から定量化する。
【0063】
次いで、ペプチドIPP、VPP各々のクロマトグラフィーピークの積分、および既知濃度の内部標準物質IPPdおよびVPPdのピーク表面における比較によって、サンプルの当初のVPPおよびIPP含量の単純な線形回帰による算出が可能になる(一般に、mg/kgまたはppmで表される)。
【0064】
結果
【表2】

【0065】
図4は、先行技術の2つの株に対する、I-3504株のトリペプチドIPPおよびVPPの産生(培地に、2重量%のグルコースを添加する)の比較を示す。
【0066】
CALPIS社からのCM4株は、欧州特許第1016 709号に記載されており、一方、CRNZ 244株は、特許出願WO2004/060073に記載されている。
【0067】
同一条件下で、I-3504株(本発明による株)は、これら2つの先行株よりはるかに多くのトリペプチドIPPおよびVPPを産生することが、この図から明らかである。
【0068】
図5は、本発明による株のトリペプチドIPPおよびVPPの産生を、互いに比較したものを示す。
【0069】
3. ACEI(アンギオテンシン変換酵素阻害)活性の測定
材料および方法
この測定を実施するために、先の第1項で記述したとおり、発酵30時間目に採取した乳培地のサンプルを用いる。当該方法は、発酵乳産物タイプのサンプルに適合させるために適応させた、CushmanとChengの方法(Cushmanら、Biochem.Pharmacol.1971年、20:1637頁)に基づいている。
【0070】
1. 試薬および溶液の調製
1.1 0.3MのNaClを添加したホウ酸ナトリウム緩衝液、0.1M、pH8.3
6.1843gのH3BO3(Carlo Erba 参照番号:402 766)を秤量する。およそ800mlの脱イオン水に溶解させ、NaOH溶液でpH8.3に調整してから、12.0gのNaClを加え(0.3Mの最終濃度)、脱イオン水で1リットルにする。
【0071】
1.2 HHL基質の調製:0.1M、pH8.3のホウ酸ナトリウム緩衝液中、5mMのHip-His-Leuと0.3MのNaClとの溶液
42.95mgの無水HHLペプチド(N-ヒプリル-ヒスチジル-ロイシンテトラハイドレート、分子量:501.5g、Sigma-Aldrich参照番号:53285-250mg)を正確に秤量し、0.3MのNaClを有するおよそ15mLの0.1Mホウ酸ナトリウム緩衝液、pH8.3中に溶解させてから、この同じ緩衝液で20mLにする。
【0072】
1.3 0.1U/mLでのACE溶液の調製
凍結乾燥粉末の形態におけるアンギオテンシン変換酵素(由来:ウサギ肺、Sigma-Aldrich 参照番号:A6778、0.25単位)を、0.1U/mLの溶液を得るために、2.5mLの0.1Mホウ酸ナトリウム緩衝液、pH8.3中に溶解させる。このようにして調製された溶液は、十分な酵素活性を保つために、4℃で保存し、2週間以内に使用しなければならない。
【0073】
2. 発酵乳サンプルの調製
ACEの最適pHに近づけるために、サンプルを、8.0と8.5との間に含まれるpHに調整することが必要である。先ず、発酵乳を遠心分離してから、上清のpHを、8.0と8.5との間(理想的にはpH8.3)に調整し、次いで、妨害要素(全タンパク質、カルシウム塩)を除去するために、10,000ダルトンのカットオフ閾値を有するVivaspinろ過装置(Vivascience、フランス国)を用いて限外ろ過する。
【0074】
完全なプロトコルは以下のとおりである:
- 予め空の15mLのFalcon管を秤量した後に、その管に、およそ6mLの発酵乳を入れる。該管に入れた発酵乳の量を量る。
- 10℃で10分間、14,000gで遠心分離する。
- 上清を回収する。
- 必要な場合は、単にその上清ではなく、元の産物に相当するIC50を決定することを可能にするペレット/上清の比率を定量化する。
- 2.0mLの上清サンプルを試験管に入れ、pHを測定する。
- ホウ酸塩緩衝液を加えた後、8.0と8.5との間に含まれるpH(目標:pH8.3)を得るために、必要容量のNaOH、2Mを加え、攪拌する。
- 加えたNaOHの正確な容量を考慮に入れて、開始上清を1/2に希釈するために、必要容量のホウ酸塩緩衝液を加える(例えば、上清の試験サンプル= 2mL + 250μLのNaOH + 1.75mLのホウ酸塩緩衝液)。
- 最終pHが8.0と8.5との間に含まれることを確認する。さらに、多少のNaOHの添加を開始する。沈殿が形成し、これはカルシウム塩によるものである。
- 明澄なサンプルを得るために、10,000ダルトンのVivaspinろ過装置(4〜6mLの容量)を用いて、10℃で15分間、12,000gでサンプルを超遠心分離する。
【0075】
3. 発酵乳サンプルによるACE阻害の測定
一連の分析各々に関して、対照(0%および100%のACE活性)を調製する必要がある。各サンプルに関して、2つの独立した試験およびブランクサンプルを、各希釈に関して作製する。実際、ACEの活性を50%低下させるのに必要なサンプルの量をできるだけ厳密に(希釈により)調整することが必要である。
【0076】
この目的のために:
- pH8.3に調整した80μLのサンプルを、ブランク管および試験管に入れる。
- 0%および100%の対照管に、80μLの脱イオン水を入れる。
- 5mMのHHL基質の溶液200μlを、全ての管に加える。攪拌する。
- 該管を、37℃に恒温制御した水浴に入れ、温度が平衡に達するまで放置する。
- 20μLのホウ酸塩緩衝液、pH8.3を導入しなければならないブランクサンプルおよび0%対照以外の各管に、0.1U/mLでACE溶液20μLを加えることによって酵素反応を開始させる。
- 37℃で正確に1時間、加水分解させる。
- 各管に、1M HCl溶液250μLを加えることによって、該反応を停止させる。
【0077】
種々の反応培地組成の要約表:
【表3】

【0078】
加水分解した基質(馬尿酸)の抽出により読取りを行い、以下のプロトコルで、分光光度計を用いてその定量を行う:
1.7mLの酢酸エチルを各管に加え、攪拌する。
10℃で5分間、2000gで遠心分離する。
正確に1mLの上清を、エッペンドルフマイクロチューブに入れる。
加熱ブロック内で、120℃で10分間、酢酸エチルを蒸発させる。
馬尿酸を吸収させるために、正確に1mLの脱イオン水を加えてから10秒間攪拌する。
UV読取りに好適なセル内で228nmにおける吸光度を読取る。
【0079】
結果の表現:
ACE阻害のパーセンテージは、以下のとおり算出する:
【数1】

ここで、Abs = 馬尿酸の抽出後の228nmにおける吸光度
ctl = 対照
sam. = サンプル
【0080】
発酵乳に関して、IC50は、反応培地中、ACEの酵素活性を50%阻害するこの発酵乳の上清の量として、すなわち、反応培地1ミリリットル当たりの発酵乳の上清のマイクロリットルで表される。
【0081】
結果
図6は、先行技術の他の株と比較した、本発明による種々の株のアンギオテンシン変換酵素に対する阻害活性の比較を示す。
【0082】
アンギオテンシン変換酵素の活性を50%阻害するのに必要な、反応培地1ml当たりの発酵乳の相当濃度(IC50)は、y軸上に表されている。この濃度が高くなるほど、アンギオテンシン変換酵素を阻害する株の能力は低くなる。
【0083】
(実施例3)
本発明による(プロバイオティック)乳製品の調製
発酵乳製品は、下記に示されるとおり得られる。
【0084】
予め脱脂し、前低温殺菌し、4℃に冷却したバルクト(Bulked)乳を、脱脂粉乳により、タンパク質(4.0%)に関して標準化し、グルコースを、1.8重量%になるまで加える。このようにして調製した乳培地を、低温殺菌(95℃、8分間)に供する。37℃に冷却した後、該乳培地に、本発明による株を、107CFU/mLになるまで接種し、発酵時間を通して37℃に維持する。pHが3.8に達したら、スムーズ化工程(フィルター通過による)を行うために、発酵タンクからカードを取り出し、プレート熱交換器内で、10℃に冷却する。次いで、スムーズ化し冷却したカードに、果実調製物(4と4.1との間のpHを有する)を、最終産物の15%になるまで加え、110mLのボトルに充填し、4℃で28日間保存する。
【0085】
このようにして調製された製品は、65mg/kgのVPP当量になる配列IPP/VPPのトリペプチドを含有する。該製品のペプチド含量は、有利なことに、該製品の使用期間を通して安定である。冷蔵保存中のpH低下は、有利なことに、無視できるものであり(0.1単位未満)、本発明による株の集団は、有利なことに、107 CFU/mLと108 CFU/mLとの間に含まれたままである。
【0086】
(実施例4)
本発明による株のラクトースオペロンにおけるナンセンス点突然変異の同定
GenBankから入手できるDPC4571株およびATCC15009株のラクトースオペロンの配列により開始して、オリゴヌクレオチド(プライマー)を、最良に保存されているように思われる遺伝子から選択した。これらのオリゴヌクレオチドは、「長領域」PCRを生じさせること、次いで、本発明による株のラクトースオペロンの配列決定の開始を可能にした。次に、得られた配列、新たな配列決定反応のために働く他のプライマーに依存して、配列決定が段階的に実施された。
【0087】
ナンセンス突然変異を、母株I-3431に関連したI-3504株において同定した:5'-3'方向において、チミンによるシトシン塩基の置換は、β-ガラクトシダーゼをコードするlacL遺伝子(およそ1900bpsをなす)の開始コドンの1320塩基対に停止コドンを出現させる。
【0088】
この突然変異に加えて、2つの株、I-3431およびI-3504のラクトースオペロンは同一である。
【0089】
I-3431株のラクトースオペロンの配列(フレームド突然変異)
【化1−1】

【化1−2】

【0090】
同様に、配列決定の分析により、本発明による株のラクトースオペロンにおける以下の突然変異が明らかになる:
- I-3434株との比較によるI-3505株:I-3505株では、アデノシン塩基がグアニン塩基を置換し、そのことにより、ベータガラクトシダーゼをコードするlacL遺伝子の開始から1713塩基対に、停止コドンが出現する。
- I-3435株との比較によるI-3508株:I-3508株では、アデノシン塩基がグアニン塩基を置換し、そのことにより、ベータガラクトシダーゼをコードするlacL遺伝子の開始から183塩基対に、停止コドンが出現する。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明による株が、有利なことに、培地中に当初存在したグルコースの量に従って、発酵の最後におけるpHを良好に制御することを可能にすることを示している。I-3504に関して、母株の結果もまた示されている(I-3431、ラクトース陽性株)。
【図2】本発明による株が、有利なことに、培地中に当初存在したグルコースの量に従って、発酵の最後におけるpHを良好に制御することを可能にすることを示している。I-3505に関して、母株の結果もまた示されている(I-3434、ラクトース陽性株)。
【図3】本発明による株が、有利なことに、培地中に当初存在したグルコースの量に従って、発酵の最後におけるpHを良好に制御することを可能にすることを示している。I-3508に関して、母株の結果もまた示されている(I-3435、ラクトース陽性株)。
【図4】先行技術の2つの株に対する、I-3504株のトリペプチドIPPおよびVPPの産生(培地に、2重量%のグルコースを添加する)の比較を示す。
【図5】本発明による株のトリペプチドIPPおよびVPPの産生を、互いに比較したものを示す。
【図6】先行技術の他の株と比較した、本発明による種々の株のアンギオテンシン変換酵素に対する阻害活性の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトースを乳酸に変換する能力を有さないヘルベティカス乳酸桿菌株。
【請求項2】
ラクトースオペロンに少なくとも1つの突然変異を有する、請求項1に記載のヘルベティカス乳酸桿菌株。
【請求項3】
ラクトースオペロンに停止コドンを導入する少なくとも1つの点突然変異を有する、請求項2に記載のヘルベティカス乳酸桿菌株。
【請求項4】
30℃と45℃との間の温度で最長30時間の発酵時間の間、前記ヘルベティカス乳酸桿菌株により発酵させた1.0重量%のグルコースを含有する4.0%の総タンパク質を有する乳培地が、4.0以上のpH、好ましくは4.1以上のpHを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のヘルベティカス乳酸桿菌株。
【請求項5】
3重量%より多い量のグルコースを含有し、2重量%以上、好ましくは2重量%と10重量%との間、より好ましくは2.5重量%と6重量%との間、さらにより好ましくは4重量%に等しい総タンパク質含量を有する乳培地を、30℃と45℃との間、より好ましくは32℃と43℃との間、さらにより好ましくは37℃の温度で発酵することにより、発酵産物1kg当たり少なくとも25mg、好ましくは少なくとも50mg、より好ましくは少なくとも75mgのVPP当量で配列IPPおよび/またはVPPのトリペプチドを産生することができる、請求項1から4のいずれか一項に記載のヘルベティカス乳酸桿菌株。
【請求項6】
さらにフルクトース陰性の表現型を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の乳酸菌ヘルベティカス株。
【請求項7】
2005年10月14日にCNCMに寄託されたI-3504;
2005年10月14日にCNCMに寄託されたI-3505;
2005年10月14日にCNCMに寄託されたI-3508;
およびこれらの株に由来するバリアント株またはミュータント株から選択される、請求項1に記載のヘルベティカス乳酸桿菌株。
【請求項8】
食品または医薬品、特に発酵乳製品を調製するための、請求項1から7のいずれか一項に記載のヘルベティカス乳酸桿菌株の使用。
【請求項9】
前記食品または医薬品が降圧性を有する、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の少なくとも1つのヘルベティカス乳酸桿菌株を含む食品、特に発酵乳製品。
【請求項11】
少なくとも106 CFU/mL、好ましくは少なくとも107 CFU/mL、好ましくは少なくとも108 CFU/mLの生存ヘルベティカス乳酸桿菌を含有する、請求項10に記載の食品。
【請求項12】
前記食品1kg当たり少なくとも25mg、好ましくは少なくとも50mg、より好ましくは少なくとも75mgのVPP当量を含有する、請求項10または11に記載の食品。
【請求項13】
果実の調製物、特に果実片および/または果汁をも含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の食品。
【請求項14】
3.85以上、好ましくは4.00以上、より好ましくは4.20以上のpHを有する、請求項10から13のいずれか一項に記載の食品。
【請求項15】
降圧性を有する、請求項10から14のいずれか一項に記載の食品。
【請求項16】
食品を調製する方法であって、
乳タンパク質、特にペプチド配列IPPおよび/またはVPPを含有するタンパク質を含有する原料を選択する段階と、
請求項1から7のいずれか一項に記載の少なくとも1種のヘルベティカス乳酸桿菌株を選択する段階と、
前記原料に前記株を接種する段階と、
30℃〜45℃で12時間〜30時間、1重量%〜3重量%のグルコース存在下、および前記株の存在下、前記原料を発酵させる段階と
を含む方法。
【請求項17】
発酵後にサーマイゼーション段階を有さない、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ラクトース陰性の表現型を有するヘルベティカス乳酸桿菌株を得るためのストレプトゾトシンの使用。
【請求項19】
ラクトース陰性表現型を有するヘルベティカス乳酸桿菌株を得る方法であって、
少なくとも1種のヘルベティカス乳酸桿菌株を準備する段階と;
前記少なくとも1種の株を、ラクトースの存在下、有効量のストレプトゾトシンと接触させる段階と;
ラクトース陰性表現型の1つまたは複数のコロニーを単離する段階と
を含む方法。
【請求項20】
β-ガラクトシド結合によりガラクトースに結合しており、前記ヘルベティカス乳酸桿菌株によるこの結合の切断後にタグ化されることができるXgalおよび/またはSgalおよび/または他の任意の化合物を含有する培地上での比色試験段階を含む、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−532018(P2009−532018A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554816(P2008−554816)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000294
【国際公開番号】WO2007/096510
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(504310401)
【Fターム(参考)】