説明

ベアリングの寿命を改良するためのグリース組成物および添加剤

【課題】 グリース組成物、グリース組成物の使用方法、グリース組成物用の添加剤、そしてフレッティング磨耗性能を向上させるためのグリース組成物を含有している機器および車両。
【解決手段】 本グリース組成物には、完全に調合されたグリースベースおよび有効量のフレッティング磨耗低減剤が含まれる。フレッティング磨耗低減剤は、フレッティング磨耗による重量減少を約20ミリグラム未満とするのに十分な量で使用される、無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、転がり及び回転ベアリング用の潤滑グリース組成物およびその用途、より具体的には、輸送中に起こる外部の振動に起因する連続性の衝撃や振動および輸送中の落下によって生じる落下衝撃などにより発生するフレッティング(fretting)に対する耐性を向上させる、改良型の潤滑グリース組成物に関連する。本組成物は、使われていなかったために潤滑が不十分となったベアリングに対し、特に有用である。
【背景技術】
【0002】
軌道車によって輸送される自動車の車輪ベアリングあるいは、他の操作機器からの振動を受けるエリアに格納された産業機器用ローラーベアリングに見られるように、フレッティング磨耗(別名「フレッティング腐食」または「フォールスブリネリング(false brinelling)」としても知られている)は、ベアリングの振動によって生じる。フレッティング摩耗は、車両あるいは機器を始動した直後の、ベアリングの初期故障の原因となり得る。この種の磨耗現象は、ベアリング振動の短い弧によって生じ、ベアリング部への十分な潤滑剤の流れを妨げ、ベアリング付近に磨耗くずを閉じ込める。腐食性の酸化作用はまたベアリングの表面で起こり、ベアリングの腐食および損傷を悪化させることがある。これらのコンディションはすべて、ひいてはベアリングの磨耗の度合いを増加させるものである。
【0003】
ベアリングを定期的に操作することにより、ベアリング周辺に保護潤滑油が供給され、ベアリングの周辺から磨耗くずが洗い流されやすくなるため、フレッティング磨耗は、主に長時間作動していないベアリングで起こる。フレッティング磨耗は、試験片を振動条件下に20時間置いた後の重量減少量を測定する、「潤滑グリースによるフレッティング磨耗防止性能の標準試験方法」と呼ばれる業界標準テストASTM D−4170−97(2002)によって決定される。グリース業界におけるいくつかの主要な仕様では、前述のASTM D−4170テストによって決定されるフレッティング磨耗の値が低いことが要求される。このような仕様には、NLGIのGC−LB仕様(フレッティング磨耗<10mg)、「高温」、「高速ベアリング」、および「多目的」グリースについてのGMのLS2仕様(フレッティング磨耗<10mg)、および「フレッティングおよび腐食抑制」グリースについてのGMのLS2仕様(フレッティング磨耗<2mg)などが含まれるが、これらに限定はされない。従って、グリースの他の重要な特性に悪影響を及ぼすことなくフレッティング磨耗の業界仕様に見合う、改良型のグリース調合物の必要性が引続き存在する。
【発明の開示】
【0004】
改良型のリース組成物の継続的な必要性を考慮して、本開示の例示的実施例は、グリース組成物、グリース組成物用の添加剤、グリース組成物の使用法、そしてフレッティング磨耗性能を向上させるためのグリース組成物を含有している機器および車両を提供する。本グリース組成物には、完全に調合されたグリースベースおよび有効量のフレッティング磨耗低減剤が含まれる。フレッティング磨耗低減剤は、フレッティング磨耗による重量減少を約20ミリグラム未満とするのに十分な量で使用される、無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩である。
【0005】
別の例示的実施例では、ベアリングにおけるフレッティング磨耗の低減方法が提供される。この方法では、グリース組成物がベアリングに加えられる。本グリース組成物には、完全に調合されたグリースベースと、フレッティング磨耗による重量減少を約20ミリグラム未満とするのに十分な、無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩を含む有効量の添加
剤とが含まれる。
【0006】
本開示のさらに別の例示的実施例では、完全に調合されたグリースベースと、フレッティング磨耗による重量減少を約20ミリグラム未満とするのに十分な、無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩を含む有効量の添加剤とに触れている、車両のホイールベアリングが提供される。
【0007】
本開示の別の例示的実施例では、フレッティング磨耗によるグリースの重量減少特性を低減させる、グリース用の添加剤が提供される。当添加剤は無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩成分であり、当添加剤の所定量をグリースに加えると、フレッティング磨耗による重量減少が約20ミリグラム未満のグリースが得られる。
【0008】
本明細書に開示されたグリース組成物用の添加剤は、グリース組成物との適合性が高い。従って、本開示の例示的実施例により、表面の活性成分との競争作用により減少されることのあるグリース調合物の他の性能特性(極圧特性および腐食防止性能など)を著しく変化させることなくフレッティング磨耗防止性能を強化する一方で、グリースを調合する際の柔軟性を増大することができる。また調合物によっては、グリース調合物の耐摩耗性、極圧特性、および腐食防止性能が、当添加剤によって著しく増強されることもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書に記載の添加剤により改善されたグリース調合物には、従来型の多様な鉱油および合成油基盤のグリース組成物が含まれる。このような組成物には、金属錯体の増粘剤、アルカリ金属錯体の増粘剤、および尿素化合物の増粘剤などが含まれるが、これらに限定はされない。完全に調合されたグリース調合物には、本明細書に記載の添加剤に加え、特定の性能特性を得るために有用なその他の添加剤が含まれることがある。
【0010】
本明細書に記載のグリース組成物を調整するため、多種多様な基油が使用される。例えば基油は、従来より使用されている鉱油、合成炭化水素油、または合成エステル油のいずれかから選択される。通常これらのオイルの40℃での粘度は約5cStから約10,000cStであるが、一般的な用途では、40℃での粘度が約10cStから約1,000cStであるオイルが要求される。使用される鉱油ベースストックは、パラフィン系、ナフテン系、および混合型の原油から得られる、従来型の精製されたベースストックのいずれかである。使用される合成油ベースストックには、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシルのような二塩基酸のエステル;テトラエチレングリコールのC13−オキシド酸ジエステルのようなグリコールのエステル;あるいは1モルのセバシン酸、2モルのテトラエチレングリコール、および2モルの2−エチルヘキサン酸から形成されるような複合エステルが含まれる。使用されるその他の合成油としては、ポリアルファオレフィンのような合成炭化水素;アルキルベンゼン、ベンゼンのテトラプロピレンによる、またはベンゼンのエチレンおよびプロピレンのコポリマーによるアルキル化から得られるアルキレート残留物;例えばエチルフェニルポリシロキサン、メチルポリシロキサン等のシリコンオイル;例えばブチルアルコールを酸化プロピレンで縮合することによって得られるようなポリグリコールオイル;例えば、半エステルを形成するためにC−オキソアルコールと炭酸エチルとを反応させ、続いて後者とテトラエチレングリコールを反応させることによって得られる生成物のような、炭酸エステル;その他が含まれる。その他の好適な合成油には、例えば約3から約7のエーテル結合と約4から約8のフェニル基を有するもののような、ポリフェニルエーテルが含まれる。(米国特許第3,424,678号、コラム3参照。)グリース組成物中の基油の量はまた、広範囲にわたって様々ではあるが、一般的に、例えば約75重量%から約95重量%など、大部分がグリース組成物から成る。
【0011】
本明細書に記載されるように、グリース組成物にはまた、少量の単体石けん(simp
le soap)あるいは複合石けん(complex soap)の増粘剤、または有機増粘剤、または無機質粘土の増粘剤が含有される。このような種類のグリースには、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の単体および複合石けんグリース、金属性の単体および複合グリース(complex grease)、さらにポリ尿素グリース、有機質粘土グリース、およびベントナイト粘土/膨潤性粘土タイプの増粘剤が含まれるが、これらに限定はされない。
【0012】
例えば、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の複合石けんグリースの主要な用途として、(例えば自動車や電気器具などの)ベアリング、特に密封ベアリング用のグリースとしての用途が知られている。密封ベアリングのグリースは、ベアリングの寿命延長、高温性能、高滴点(dropping point)を含む数多くの要求性能、また油分離、酸化安定性、フレッティング磨耗防止性能、および低ノイズなどに関する定義済みの要求を満たしていなくてはならない。しかしながら、定修周期を延長したり(offering long service)高温性能を良くしたとしても、このようなグリースにはしばしば、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の単体グリースに比べ、通常ノイズ特性が高いという問題がある。
【0013】
アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の複合石けんグリース用の有用な増粘剤には、二つ、一般的には三つのアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属成分が含有される。第一の成分は、少なくとも一つの、C12からC29のヒドロキシ酸のようなヒドロキシ脂肪酸のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属石けんである。第二の成分は、(i)CからC12の脂肪族または脂環式ジカルボン酸(またはそれらの、CからC19、例えばCからCなど、のアルキルエステル);あるいは(ii)ヒドロキシ基がカルボキシル基から炭素原子6つ以下分離れている、CからC24のヒドロキシカルボン酸(またはそれらの、CからC19、例えばCからCなど、のアルキルエステル);あるいはそれらの混合物の、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属化合物から選択される。
【0014】
有用なヒドロキシ脂肪酸に、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシリシノール酸、ヒドロキシベヘン酸、およびヒドロキシパルミチン酸が含まれる。特に有用なヒドロキシル脂肪酸はヒドロキシステアリン酸である。第二のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属化合物は、適切にはCからC10の脂肪族ジカルボン酸、より典型的にはアゼライン酸あるいはセバシン酸、特にアゼライン酸であるか、またはこれらいずれかのエステルである。CからC24のヒドロキシカルボン酸は典型的に乳酸、サリチル酸、またはその他のヒドロキシ安息香酸、より適切にはサリチル酸または上述のいずれかのエステルである。グリース組成物中のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属石けん錯体(metal soap complex)増粘剤の量は、約5重量%から約20重量%である。ヒドロキシ脂肪酸と脂肪族ジカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸との重量比は典型的に約10:0.5から約10:15、例えば約10:1.5から約10:6である。
【0015】
他の増粘剤としては、酢酸・ステアリン酸カルシウム(米国特許第2,197,263号);酢酸・ステアリン酸バリウム(米国特許第2,564,561号);カプロン酸・酢酸・ステアリン酸カルシウム錯体(米国特許第2,999,065号);酢酸・カプロン酸カルシウム(米国特許第2,999,066号);および低分子量(炭素原子数1−6)の酸、中分子量(炭素原子数7−12)の酸、および高分子量(炭素原子数13から18)の酸、そしてナッツオイル酸のカルシウム塩および石けんなどのような、塩および塩と石けんの錯体(salt soap complexes)が含まれるが、これらに限定はされない。
【0016】
別の種類の増粘剤には、置換尿素、フタロシアニン、インダンスレン(indathrene)、ペリルイミド、ピロメリットイミド、およびアンメリンを含む色素などが含ま
れる。
【0017】
開示された実施例に基づくグリース組成物用の効果的な増粘剤である金属石けんの例には、ラウリン酸アルミニウム、オレイン酸アルミニウム石けん(aluminum soap oleate)、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸安息香酸アルミニウム、オレイン酸安息香酸アルミニウム、12−ヒドロキシステアリン酸安息香酸アルミニウム、ステアリン酸トルイル酸アルミニウム(aluminum toluate stearate)、ナフテン酸安息香酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム水素化ロジン(aluminum benzoate hydrogenated rosin)、スルホン酸安息香酸アルミニウム、ステアリン酸アゼライン酸アルミニウム、ステアリン酸安息香酸リン酸アルミニウム、ヒドロキシステアリン酸安息香酸アルミニウム、ラウリン酸リチウム、ステアリン酸リチウム、安息香酸ステアリン酸リチウム、オレイン酸安息香酸リチウム、12−ヒドロキシステアリン酸安息香酸リチウム、ステアリン酸トルイル酸リチウム、ナフテン酸安息香酸リチウム、安息香酸リチウム水素化ロジン、スルホン酸安息香酸リチウム、ステアリン酸アゼライン酸リチウム、ステアリン酸安息香酸リン酸リチウム、ヒドロキシステアリン酸安息香酸リチウムその他が含まれる。
【0018】
金属複合石けんあるいはアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属錯体が、オイルをグリースの濃度まで増粘するのに十分な量でグリース中に存在することがある。大まかに言うと、石けんあるいはアルカリ金属錯体の量は、グリースの約1重量%から約30重量%である。しかしながら、一般的には約5重量%から約20重量%、例えば約10重量%から約15重量%の増粘剤がグリースの粘性を増加させるために使用される。
【0019】
すでに言及された成分に加え、完全に調合されたグリース組成物にはまた、腐食防止剤、耐磨耗剤、流動点降下剤、粘着剤、極圧添加剤、増粘剤、酸化防止剤、防錆剤、染料、その他を含むがそれらに限定されることのない、他の添加剤が少量含有される。このような成分は、約1重量%から約10重量%の量で完全に調合されたグリース組成物中に存在する。
【0020】
本開示に基づいたグリース組成物の重要な成分として、有効量のフレッティング磨耗低減剤がある。リン含有化合物の油溶性の無金属塩は、フレッティング磨耗の低減に特に適した添加剤である。油溶性の無金属リン含有化合物のほとんどは、リンの部分的あるいは完全にエステル化された酸である。このような化合物には、例えばリン酸塩、亜リン酸塩、ホスホン酸塩、ホスホナイト(phosphonites)、およびそれらの各種硫黄類似体が含まれる。例としては、亜リン酸モノヒドロカルビル;リン酸モノヒドロカルビル;モノチオ亜リン酸モノヒドロカルビル、ジチオ亜リン酸モノヒドロカルビル、トリチオ亜リン酸モノヒドロカルビル、およびテトラチオ亜リン酸塩モノヒドロカルビル;モノチオリン酸モノヒドロカルビル、ジチオリン酸モノヒドロカルビル、トリチオリン酸モノヒドロカルビル、およびテトラチオリン酸;ジヒドロカルビルホスファイト;リン酸ジヒドロカルビル;ジヒドロカルビルモノチオ亜リン酸塩、ジヒドロカルビルジチオ亜リン酸塩、ジヒドロカルビルトリチオ亜リン酸塩、ジヒドロカルビルテトラチオ亜リン酸塩;ジヒドロカルビルモノチオリン酸塩、ジヒドロカルビルジチオリン酸塩、ジヒドロカルビルトリチオリン酸塩、ジヒドロカルビルテトラチオリン酸塩;亜リン酸トリヒドロカルビル;リン酸トリヒドロカルビル;トリヒドロカルビルモノチオ亜リン酸塩、トリヒドロカルビルジチオ亜リン酸塩、トリヒドロカルビルトリチオ亜リン酸塩、およびトリヒドロカルビルテトラチオ亜リン酸塩;トリヒドロカルビルモノチオリン酸塩、トリヒドロカルビルジチオリン酸塩、トリヒドロカルビルトリチオリン酸塩、およびトリヒドロカルビルテトラチオリン酸塩;各種ヒドロカルビルホスホン酸塩およびチオホスホン酸塩;各種ヒドロカルビルホスホナイトおよびチオホスホナイト;そしてポリリン酸およびポリチオリン酸の類似の油溶性誘導体;またその他多くが含まれる。リン酸トリクレジル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリフェニル、リン酸トリ−(2−エチルヘキシル)、ジヘキシルチオ亜リン酸塩、ホスホン酸ジイソオクチルブチル、リン酸トリシクロヘキシル、リン酸ジフェニルクレジル、亜リン酸トリス(2−ブトキシエチル)、ジチオリン酸ジイソプロピル、テトラチオリン酸トリス(トリデシル)、リン酸トリス(2−クロロエチル)および類似の化合物などは、このような化合物の少数の具体例である。
【0021】
本明細書における使用に特に好適な無金属リン含有化合物は、(a)モノヒドロカルビルモノチオリン酸の油溶性アミン塩、(b)ジヒドロカルビルモノチオリン酸の油溶性アミン塩、および(c)(a)と(b)の組み合わせなどである。このような化合物は、モノヒドロカルビルホスファイトおよび/またはジヒドロカルビルホスファイトと、硫黄あるいは硫黄、ジヒドロカルビルポリスルフィド、硫化オレフィン、硫化脂肪酸エステル、トリチオン、硫化チエニル誘導体、硫化テルペン、C−Cのモノオレフィンの硫化オリゴマー、および硫化ディールス・アルダー付加物、および一つ以上の1級アミンまたは2級アミンなどのような活性硫黄含有化合物とを反応させることによって作られる。このような反応は、極めて発熱性の高い反応である傾向があり、正しく行われないと制御しきれなくなる場合がある。上述のアミン塩を形成する適切な方法には、(i)温度が約60℃を超えない速度で、形成される混合物をかくはんしながら、亜リン酸水素ジアルキルのような一つ以上のジヒドロカルビル亜リン酸水素を、分岐鎖の硫化オレフィン(例えばイソブチレン、ジイソブチレン、トリイソブチレンなど)のような、一つ以上の超過量の活性硫黄含有物質に加えること、(ii)この混合物中に、温度が約60℃を超えない速度で、形成される混合物をかくはんしながら、各分子に約8から約24の炭素原子を有する一つ以上の脂肪族の1級または2級アミン、例えば一つ以上の脂肪族1級モノアミンを加えること、そして(iii)反応が実質的に終了するまで、得られたかくはんされた反応混合物の温度を約55℃から約60℃の間に維持することなどを含む、適切なプロセスが関与する。これらのアミン塩を生成する別の好適な方法として、三つすべての反応物質を、適切な速度で、温度が約60℃を超えないようにコントロールして、反応帯に同時に加えることがある。
【0022】
完全に調合されたグリース組成物中のフレッティング磨耗低減剤の量は、約0.1重量%から約10重量%である。フレッティング磨耗低減剤の有効量は、グリース組成物の総重量に基づいて、約0.5重量%から約5重量%である。
【0023】
開示された実施例の態様を例証するため、以下の比限定的な例を提供する。この例では、フレッティング磨耗低減剤を、二つの市販のグリース組成物に添加した。第一のグリース組成物は、多量のパラフィン基油および少量のステアリン酸安息香酸アルミニウム錯体増粘剤、アンチモニンジチオカルバメート、二硫化モリブデン、および/または粘着剤、そして防錆剤/酸化防止剤を含有するもので、これ以降は「アルミニウム錯体グリース」と呼ぶ。第二のグリース組成物は、多量の基油、および少量のステアリン酸ヒドロキシルリチウム錯体、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、およびジフェニルアミンを含有するもので、これ以降は「リチウム錯体グリース(1)」と呼ぶ。第三のグリース組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、硫化イソブチレン、腐食防止剤、およびいくつかの抗酸化剤を含有した約4.5重量%の添加剤パッケージを含むもので、これ以降は「リチウム錯体グリース(2)」と呼ぶ。フレッティング磨耗低減剤は、通常米国特許第5,328,619号に記載されているような、オレイルアミンおよびn−オクチルアミンの存在下での、亜リン酸水素ジブチルの硫化によって作られた、ジヒドロカルビルモノチオリン酸の油溶性混合アミン塩である。各実験において、フレッティング磨耗による重量減少は、試験片を振動条件下に20時間置いた後の重量減少量を測定する、業界標準テストASTM D−4170−97(2002)によって決定された。
(例1)
【表1】

【0024】
上の表の実験3−5に見られるように、0.5重量%から2.0重量%の添加剤を含有したアルミニウム錯体グリースは、実験1および2に例証される添加剤を含まない同一のグリース(重量減少22.4mgから30mg)に比べて、フレッティング磨耗に劇的な低下(重量減少4.2mgから19.5mg)を示した。リチウム錯体グリース(1)は、2重量%の添加剤により、それほど劇的ではないが、重量減少9.3mgから7.2mgと、やはり著しいフレッティング磨耗の減少を示した。しかしながら、リチウム錯体グリース(2)は、フレッティング磨耗低減剤がまったく使用されなかった実験1に比べ、0.5重量%のフレッティング磨耗低減剤が使用された場合、約73%の重量減少の低下を示した。
【0025】
フレッティング磨耗低減剤はまた、グリースの腐食の減少および極圧(EP)の上昇にも効果がある。以下の例において、上記のグリース調合物に、ウェルドポイントの決定のための4球極圧試験および/または荷重4球磨耗試験を行った。また、リチウム錯体グリース(2)にはベアリング腐食試験を行った。これらの試験の結果を以下の表に示す。
(例2)
【表2】

【0026】
上述の表2において、フレッティング磨耗低減剤を含まないアルミニウム錯体グリースのウェルドポイントは230kgから250kgの間であったのに対し、1重量%から2重量%のフレッティング磨耗低減剤を加えることによりウェルドポイントが260kgに上昇した。加えて、0.5重量%のフレッティング磨耗低減剤は、リチウム錯体グリース(2)のウェルドポイントを300kgから310kgへと向上させた。フレッティング磨耗低減剤はまた、リチウム錯体グリース(1)の4球磨耗傷を、フレッティング磨耗低減剤を含まない同一のグリースに対し、約15%改善した。
【0027】
加えて、フレッティング磨耗低減剤を含有したリチウム錯体グリース(2)を使用したベアリングと、フレッティング磨耗低減剤を含有していないリチウム錯体グリース(2)を使用したベアリングに対し、48時間のベアリング腐食試験を52℃で行った。リチウム錯体グリース(2)にフレッティング磨耗低減剤が含有されていない場合、腐食が見られなかったのは3つのうち1つのベアリングのみであり、これはASTM D−1743試験により、不合格とみなされる。しかしながら、リチウム錯体グリース(2)に0.5重量%のフレッティング磨耗低減剤が含有されていた場合には、3つ中3つのベアリングに腐食が見られず、合格の状態が得られた。
【0028】
上述の例では、アルミニウム錯体およびリチウム錯体グリースにおける著しいフレッティング磨耗の減少が示されたが、本添加剤はいかなる種類のグリースのフレッティング磨耗の低減にも適していると考えられる。従って、車両のホイールベアリング;回転および滑り機器ベアリング;電気器具;ハードディスクドライブ、ビデオテープレコーダー、レーザープリンター、コンパクトディスクドライブ、ディジタルビデオディスクドライブなどのような各種電子情報記録および解読器具、および未使用あるいは振動および/または可動部の潤滑が不十分であるためにフレッティング磨耗が存在するような他の用途で使用される転がりベアリングのフレッティング磨耗を低減させるため、本明細書に記載の添加剤を含有したグリースを使用することができる。
【0029】
本明細書の全体にわたる数々の箇所で多くの米国特許が参照されている。このような引用文献はすべて、本明細書で完全に説明されたものとして、この開示中に完全に明確に含まれている。
【0030】
上述の実施例は、その実行において、かなり変更される可能性がある。従って当実施例は、上記に説明された特定の例証に限定されることを意図したものではない。むしろ上述の実施例は、法律上利用可能な対応範囲も含んで、添付の請求項の精神および範囲内にある。
【0031】
当特許権所有者は、開示されたいかなる実施例をも公共に献ずる意図はなく、また開示された修正または変更はある程度文字通りには請求項の範囲内に含まれないかもしれないが、それらも均等論により当明細書の一部であると見なされる。
本発明の主な特徴及び態様を挙げれば以下のとおりである。
1. 完全に調合されたグリースベースと、フレッティング磨耗による重量減少を約20ミリグラム未満とするのに十分な、無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩を含む有効量の添加剤とを含む、グリース組成物。
2. フレッティング磨耗による重量減少が約10ミリグラム未満である、上記1に記載のグリース組成物。
3. 無金属で油溶性のリン含有アミン塩が、硫黄源およびジヒドロカルビルホスファイトから得られたものである、上記1に記載のグリース組成物。
4. ジヒドロカルビルホスファイトが、各アルキル基に約4から約25の炭素原子を有する亜リン酸水素ジアルキルを含む、上記3に記載のグリース組成物。
5. 硫黄源が、硫黄、ジヒドロカルビルポリスルフィド、硫化オレフィン、硫化脂肪酸エステル、トリチオン、硫化チエニル誘導体、硫化テルペン、C−Cのモノオレフィンの硫化オリゴマー、および硫化ディールス・アルダー付加物からなるグループの中から選択されたものである、上記3に記載のグリース組成物。
6. アミン塩のアミンが、各分子毎に約8から約24の炭素原子を含む脂肪族の1級または2級アミンを含む、上記1に記載のグリース組成物。
7. 完全に調合されたグリースベースが、約0.1重量%から約5重量%の添加剤を含む、上記1に記載のグリース組成物。
8. 上記1に記載のグリース組成物を含んだホイールベアリング。
9. ベアリング表面を有する可動部であり、当ベアリング表面が上記1に記載のグリース組成物で潤滑されている可動部。
10. 一つ以上のベアリングを包含し、また上記1に記載のグリース組成物を含んだ機器。
11. 玉軸及び転がりベアリング(ball―and―roller bearings)を包含し、上記1に記載のグリース組成物を含んでいる、電子情報記録および解読器具。
12. ベアリングに、完全に調合されたグリースベースと、フレッティング磨耗による重量減少を約20ミリグラム未満とするのに十分な量の、無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩を含む添加剤とを含むグリース組成物を加えることを含む、ベアリングにおけるフレッティング磨耗の低減方法。
13. 無金属で油溶性のリン含有アミン塩が、硫黄源およびジヒドロカルビルホスファイトから得られたものである、上記12に記載の方法。
14. ジヒドロカルビルホスファイトが、各アルキル基に約4から約25の炭素原子を有する亜リン酸水素ジアルキルを含む、上記13に記載の方法。
15. 硫黄源が、硫黄、ジヒドロカルビルポリスルフィド、硫化オレフィン、硫化脂肪酸エステル、トリチオン、硫化チエニル誘導体、硫化テルペン、C2−C8のモノオレフィンの硫化オリゴマー、および硫化ディールス・アルダー付加物からなるグループの中から選択されたものである、上記13に記載の方法。
16. アミン塩のアミンが、各分子毎に約8から約24の炭素原子を含む脂肪族の1級または2級アミンを含む、上記12に記載の方法。
17. 完全に調合されたグリースベースが、約0.1重量%から約5重量%の添加剤を含む、上記12に記載の方法。
18. フレッティング磨耗による重量減少が約10ミリグラム未満である、上記12に記載の方法。
19. 完全に調合されたグリースベースと、フレッティング磨耗による重量減少を約20ミリグラム未満とするのに十分な、無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩を含む有効量の添加剤とを含む、車両のホイールベアリング。
20. フレッティング磨耗による重量減少が約10ミリグラム未満である、上記19に記載の車両のホイールベアリング。
21. 無金属で油溶性のリン含有アミン塩が、硫黄源およびジヒドロカルビルホスファイトから得られた、上記19に記載の車両のホイールベアリング。
22. ジヒドロカルビルホスファイトが、各アルキル基に約4から約25の炭素原子を有する亜リン酸水素ジアルキルを含む、上記21に記載の車両のホイールベアリング。
23. 硫黄源が、硫黄、ジヒドロカルビルポリスルフィド、硫化オレフィン、硫化脂肪酸エステル、トリチオン、硫化チエニル誘導体、硫化テルペン、C−Cのモノオレフィンの硫化オリゴマー、および硫化ディールス・アルダー付加物からなるグループの中から選択されたものである、上記21に記載の車両のホイールベアリング。
24. アミン塩のアミンが、各分子毎に約8から約24の炭素原子を含む脂肪族の1級または2級アミンを含む、上記19に記載の車両のホイールベアリング。
25. 完全に調合されたグリースベースが、約0.1重量%から約5重量%の添加剤を
含む、上記19に記載の車両のホイールベアリング。
26. グリースのフレッティング磨耗による重量減少特質を低減させ、所定量をグリースに添加すると、そのグリースのフレッティング磨耗による重量減少が約20ミリグラム未満となるような、本質的に無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩成分から成るグリース用添加剤。
27. 当添加剤を含有したグリースのフレッティング磨耗による重量減少が約10ミリグラム未満であるような、上記23に記載の添加剤。
28. 無金属で油溶性のリン含有アミン塩が、硫黄源およびジヒドロカルビルホスファイトから得られたものである、上記26に記載の添加剤。
29. ジヒドロカルビルホスファイトが、各アルキル基に約4から約25の炭素原子を有する亜リン酸水素ジアルキルを含む、上記28に記載の添加剤。
30. 硫黄源が、硫黄、ジヒドロカルビルポリスルフィド、硫化オレフィン、硫化脂肪酸エステル、トリチオン、硫化チエニル誘導体、硫化テルペン、C−Cのモノオレフィンの硫化オリゴマー、および硫化ディールス・アルダー付加物からなるグループの中から選択されたものである、上記28に記載の添加剤。
31. 約0.1重量%から約5重量%の、上記26に記載の添加剤を含んで成るグリース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全に調合されたグリースベースと、フレッティング磨耗による重量減少を約20ミリグラム未満とするのに十分な、無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩を含む有効量の添加剤とを含む、グリース組成物。
【請求項2】
ジヒドロカルビルホスファイトが、各アルキル基に約4から約25の炭素原子を有する亜リン酸水素ジアルキルを含む、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
硫黄源が、硫黄、ジヒドロカルビルポリスルフィド、硫化オレフィン、硫化脂肪酸エステル、トリチオン、硫化チエニル誘導体、硫化テルペン、C−Cのモノオレフィンの硫化オリゴマー、および硫化ディールス・アルダー付加物からなるグループの中から選択されたものである、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のグリース組成物を含んだホイールベアリング。
【請求項5】
ベアリングに、完全に調合されたグリースベースと、フレッティング磨耗による重量減少を約20ミリグラム未満とするのに十分な量の、無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩を含む添加剤とを含むグリース組成物を加えることを含む、ベアリングにおけるフレッティング磨耗の低減方法。
【請求項6】
アミン塩のアミンが、各分子毎に約8から約24の炭素原子を含む脂肪族の1級または2級アミンを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
完全に調合されたグリースベースと、フレッティング磨耗による重量減少を約20ミリグラム未満とするのに十分な、無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩を含む有効量の添加剤とを含む、車両のホイールベアリング。
【請求項8】
グリースのフレッティング磨耗による重量減少特質を低減させ、所定量をグリースに添加すると、そのグリースのフレッティング磨耗による重量減少が約20ミリグラム未満となるような、本質的に無金属で油溶性のリン含有硫化アミン塩成分から成るグリース用添加剤。

【公開番号】特開2007−277543(P2007−277543A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82385(P2007−82385)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(391007091)アフトン・ケミカル・コーポレーション (123)
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
【Fターム(参考)】