説明

ベルト式無段変速機

【課題】遊星歯車機構のコンパクト化を図ることができるベルト式無段変速機を提供する。
【解決手段】一対のプーリおよび前記一対のプーリに巻回されるベルト140により無段階に変速された後の動力と、変速されることなく伝達される動力と、を合成して出力する遊星歯車機構150を具備するベルト式無段変速機40であって、遊星歯車機構150は、
伝達軸90上に配置されるサンギヤ151と、サンギヤ151と同一軸線上に配置されるリングギヤ152と、サンギヤ151およびリングギヤ152に歯合する複数のプラネタリギヤ157・157・・・と、サンギヤ151と同一軸線上に配置されるキャリヤギヤ153と、を具備し、プラネタリギヤ157・157・・・は、一端部がキャリヤギヤ153に回動可能に支持された複数のプラネタリ軸155・155・・・によりそれぞれ回動可能に支持した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機の技術に関し、より詳細には、ベルト式無段変速機に具備され動力を合成する遊星歯車機構の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溝幅を可変とする一対のプーリ間にベルトを巻回して動力を伝達するベルト式無段変速機の技術は公知となっている。
【0003】
また、当該ベルト式無段変速機に遊星歯車機構を具備し、当該遊星歯車機構において動力を合成する技術も公知となっている。具体的には、前記一対のプーリおよびベルトを介して伝達される動力と、当該一対のプーリおよびベルトを介さず駆動源たるエンジンから伝達される動力と、を遊星歯車機構において合成し、出力するものである。
【0004】
このような遊星歯車機構の技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。
【0005】
特許文献1に記載の遊星歯車機構は、複数のプラネタリギヤを支持するための部材としてキャリヤを具備するものである。しかし、このようなキャリヤを具備する遊星歯車機構においては、当該キャリヤを配置するスペースを確保する必要があり、コンパクト化が困難である点で不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−258290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、遊星歯車機構のコンパクト化を図ることができるベルト式無段変速機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、一対のプーリおよび前記一対のプーリに巻回されるベルトにより無段階に変速された後の動力と、前記一対のプーリおよび前記ベルトにより変速されることなく伝達される動力と、を合成して出力する遊星歯車機構を具備するベルト式無段変速機であって、前記遊星歯車機構は、軸上に配置されるサンギヤと、前記サンギヤと同一軸線上に配置されるリングギヤと、前記サンギヤおよび前記リングギヤに歯合する複数のプラネタリギヤと、前記サンギヤと同一軸線上に配置されるキャリヤギヤと、を具備し、前記プラネタリギヤは、一端部が前記キャリヤギヤに回動可能に支持された複数のプラネタリ軸によりそれぞれ回動可能に支持されるものである。
【0010】
請求項2においては、前記複数のプラネタリ軸における、前記プラネタリギヤを挟んで前記キャリヤギヤと反対側の端部は、前記軸上に回動可能に支持された支持部材によって支持されるものである。
【0011】
請求項3においては、前記支持部材には、前記プラネタリ軸に供給される潤滑油が流通するための油路が形成されるものである。
【0012】
請求項4においては、前記キャリヤギヤは、前記サンギヤに回動可能に支持されるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
請求項1においては、プラネタリギヤを支持するためのキャリヤを用いることなく、動力を入力または出力するためのキャリヤギヤによってプラネタリギヤを支持するため、遊星歯車機構のコンパクト化、およびコストの削減を図ることができる。
【0015】
請求項2においては、遊星歯車機構のコンパクト化を図りつつ、プラネタリギヤを確実に支持することができ、当該プラネタリギヤの軸線が傾くのを防止することができる。
【0016】
請求項3においては、プラネタリギヤの支持と、プラネタリ軸へ潤滑油を供給するための油路の形成を、1つの部材(支持部材)によって実現することができ、コストの削減を図ることができる。
【0017】
請求項4においては、遊星歯車機構のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速機を具備するトランスミッションの全体構成を示す側面断面図。
【図2】ベルト式無段変速機の変速入力軸等を示す側面断面図。
【図3】同じく、入力プーリ、油圧シリンダ、および油圧サーボ機構等を示す側面断面図。
【図4】サーボスプール、およびフィードバックスプールを示す図。(a)は斜視図、(b)は側面断面図。
【図5】ベルト式無段変速機のサーボスプールが後方に摺動した場合を示す側面断面図。
【図6】同じく、入力側可動シーブが後方に摺動した場合を示す側面断面図。
【図7】同じく、油圧シリンダの油圧室内の圧力が低下した場合を示す側面断面図。
【図8】同じく、サーボスプールが前方に摺動した場合を示す側面断面図。
【図9】変速入力軸、入力プーリ、および油圧シリンダ等の潤滑の様子を示す側面断面図。
【図10】ベルト式無段変速機の伝達軸等を示す側面断面図。
【図11】同じく、出力プーリ、カム機構、および付勢部材等を示す側面断面図。
【図12】同じく、遊星歯車機構、および出力軸等を示す側面断面図。
【図13】遊星歯車機構を示す分解斜視図。
【図14】出力プーリ、および遊星歯車機構等の潤滑の様子を示す側面断面図。
【図15】ガイド部材の他の実施形態を示す図。(a)は円筒形状のガイド部材を示す側面断面図、(b)はシリンダ部材およびピストン部材を示す側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、図1を用いて、作業車両の変速装置であるトランスミッション7について説明する。なお、本実施形態に係るトランスミッション7は、農業車両であるトラクタに具備されるものとして説明するが、本発明はこれに限るものではなく、その他の農業車両や建設車両、産業車両等、広く車両全般に適用することが可能である。また、以下では図中の矢印Fの方向を前方向と定義して説明する。
【0020】
トランスミッション7は、駆動源となるエンジン(不図示)からの動力を変速した後に出力するものである。トランスミッション7は、ミッション入力軸20、クラッチ機構200、ベルト式無段変速機40、出力軸170、前輪駆動伝達軸180、PTOブレーキ210、PTO入力軸220、リヤPTO軸230、およびミッドPTO軸240等を具備する。
【0021】
前記エンジンからの動力はミッション入力軸20に伝達された後、クラッチ機構200を介してベルト式無段変速機40およびPTO入力軸220に伝達される。
ベルト式無段変速機40に伝達された動力は、当該ベルト式無段変速機40において無段階に変速された後、出力軸170および前輪駆動伝達軸180に伝達される。
出力軸170に伝達された動力は、最終減速機構(不図示)等を介して前記トラクタの後輪(不図示)へと伝達される。
前輪駆動伝達軸180に伝達された動力は、前車軸(不図示)等を介して前記トラクタの前輪(不図示)へと伝達される。
また、PTO入力軸220に伝達された動力は、ギヤ等を介してリヤPTO軸230およびミッドPTO軸240へと伝達される。
【0022】
このように構成されたトランスミッション7において、ベルト式無段変速機40における変速比を変更することにより、前記トラクタの車速を任意に調節することができる。
また、リヤPTO軸230およびミッドPTO軸240へと伝達された動力により、リヤPTO軸230に連結された作業機(例えば、ロータリ耕耘装置等)、およびミッドPTO軸240に連結された作業機(例えば、ミッドモア等)を駆動させることができる。
さらに、クラッチ機構200により前記エンジンからPTO入力軸220への動力の伝達が遮断された場合、PTOブレーキ210によってPTO入力軸220の回動が制動される。
【0023】
なお、ベルト式無段変速機40は本実施形態に係るトランスミッション7以外のトランスミッションにも適用することが可能であり、駆動源からの動力を変速した後に出力するトランスミッションに広く適用することが可能である。
【0024】
以下では、図1から図14までを用いて、ベルト式無段変速機40の各部について詳細に説明する。ベルト式無段変速機40は、変速入力軸50、入力プーリ60、油圧シリンダ70、油圧サーボ機構80、伝達軸90、出力プーリ100、出力部材110、カム機構120、付勢部材130、ベルト140、および遊星歯車機構150等を具備する。
【0025】
図1および図2に示す変速入力軸50は、ミッション入力軸20に連結され、当該ミッション入力軸20からの動力を伝達するものである。変速入力軸50は、略円柱状の部材であり、軸線方向を前後方向として配置される。
変速入力軸50の前後中途部には、他の部分と比べて直径が大きい拡径部50aが形成される。
変速入力軸50の後端部近傍には、スプライン嵌合によって変速入力ギヤ51が当該変速入力軸50と相対回転不能に連結される。変速入力ギヤ51は、クラッチ機構200のギヤに歯合され(図1参照)、当該クラッチ機構200を介してミッション入力軸20の動力が伝達可能とされる。なお、変速入力ギヤ51の変速入力軸50への連結方法は上記スプライン嵌合に限定するものではなく、変速入力ギヤ51を変速入力軸50と一体的に形成すること等が可能である。
変速入力ギヤ51のすぐ後ろでは、軸受52が変速入力軸50に嵌合される。また、拡径部50aの前方では、軸受53が変速入力軸50に嵌合される。軸受52はトランスミッション7を収容するミッションケース8に、軸受53は後述するフロントケース81に、それぞれ支持されることによって、変速入力軸50がミッションケース8に回動可能に支持される。
【0026】
図3に示す入力プーリ60は、変速入力軸50上に配置され、一対のシーブを具備する滑車である。入力プーリ60は、入力側固定シーブ61、および入力側可動シーブ63等を具備する。
【0027】
入力側固定シーブ61は、略円筒形状の軸筒部、および当該軸筒部の前端に一体的に形成される環状かつ側面断面視で略円錐台形状のシーブ部を有する部材である。入力側固定シーブ61は、シーブ部を軸筒部よりも前方に配置して、変速入力軸50に外嵌される。入力側固定シーブ61のシーブ部の前面61aは、前方から後方にかけて直径が大きくなるような傾斜面として形成される。
入力側固定シーブ61の軸線上には、当該入力側固定シーブ61を前後方向に貫通する貫通孔61bが形成される。当該貫通孔61bの後端部(詳細には、入力側固定シーブ61の軸線方向における軸筒部に対応する部分)には、他の部分と比べて貫通孔61bの直径が小さい縮径部61cが形成される。入力側固定シーブ61の貫通孔61bには、前方から変速入力軸50が挿通され、貫通孔61bの縮径部61cの前面と変速入力軸50の拡径部50aの後面とが当接するまで圧入される。変速入力軸50の拡径部50aのすぐ後ろの部分と、入力側固定シーブ61の縮径部61cとが圧入により嵌め合わされることによって、入力側固定シーブ61が変速入力軸50に対して相対回転不能かつ摺動不能に固定される。
【0028】
このように、入力側固定シーブ61を変速入力軸50に圧入によって固定することで、スプラインやセレーションを用いて固定する場合に比べて製造コストの低減を図ることができる。さらに、入力側固定シーブ61と変速入力軸50との嵌合のガタを無くすことができるため、ベルト式無段変速機40の変速比の変化や、ベルト140と入力側固定シーブ61との接触面の耐久性の低下を防ぐことができる。
また、貫通孔61bの縮径部61cと変速入力軸50の拡径部50aとが当接するまで圧入するだけで、変速入力軸50に対する入力側固定シーブ61の位置決めが可能である。したがって、テーパを用いて入力側固定シーブ61を変速入力軸50に固定する場合に比べて、当該入力側固定シーブ61の位置決めを容易かつ確実に行うことができる。
【0029】
なお、本実施形態においては変速入力軸50と入力側固定シーブ61とを圧入により嵌め合わせる(嵌合させる)ものとしたが、「焼きばめ」や「冷やしばめ」等、変速入力軸50の径が入力側固定シーブ61の貫通孔61bの径よりも大きいことを利用して嵌め合わせる方法であればよい。
また、本実施形態においては変速入力軸50の拡径部50aのすぐ後ろの部分と入力側固定シーブ61の縮径部61cとを圧入により嵌め合わせるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、変速入力軸50の拡径部50aと入力側固定シーブ61の縮径部61cのすぐ前の部分とを圧入により嵌め合わせることも可能である。この圧入を行う場合、入力側固定シーブ61の縮径部61cを変速入力軸50上で摺動させることにより、圧入作業のガイドとすることができる。
また、本実施形態においては入力側固定シーブ61は、軸筒部の前端にシーブ部を形成するものとしたが、これに限るものではなく、軸筒部の後端にシーブ部を形成することも可能である。
【0030】
入力側固定シーブ61のすぐ後ろでは、ロックナット62が変速入力軸50に締結される。これによって、入力側固定シーブ61が変速入力軸50上を後方へと摺動することを防止でき、入力側固定シーブ61を変速入力軸50に確実に固定することができる。
【0031】
入力側可動シーブ63は、略円筒形状の軸筒部、および当該軸筒部の後端に一体的に形成される環状かつ側面断面視で略円錐台形状のシーブ部を有する部材である。入力側可動シーブ63は、シーブ部を軸筒部よりも後方に配置して、入力側固定シーブ61の前方において変速入力軸50に外嵌される。入力側可動シーブ63のシーブ部の後面63aは、後方から前方にかけて直径が大きくなるような傾斜面として形成される。
入力側可動シーブ63の軸線上には、当該入力側可動シーブ63を前後方向に貫通する貫通孔63bが形成される。入力側可動シーブ63の貫通孔63bには、後方から変速入力軸50が挿通される。
入力側固定シーブ61の前面61aと入力側可動シーブ63の後面63aとが変速入力軸50上で対向するように配置されることで、当該前面61aおよび後面63aにより入力プーリ60の溝が形成される。
貫通孔63bの内周面および変速入力軸50の外周面には、変速入力軸50の軸線方向に沿ってそれぞれシーブ側溝63cおよび軸側溝50bが形成される。シーブ側溝63cは、少なくとも入力側可動シーブ63の前端(軸筒部の前端)から当該入力側可動シーブ63の前後中途部まで形成される。シーブ側溝63cおよび軸側溝50bは、貫通孔63bの内周面および変速入力軸50の外周面の円周方向に等間隔に3箇所形成され、互いに向かい合わせに位置する一対の溝に鋼球64・64・・・が配置される。これによって、入力側可動シーブ63が変速入力軸50に対して軸線方向に摺動可能かつ相対回転不能に支持される。
なお、シーブ側溝63cおよび軸側溝50bの間隔は等間隔に限るものではなく、また、シーブ側溝63cおよび軸側溝50bの個数は上記個数に限るものではない。
入力側可動シーブ63には、軸筒部の外周面と貫通孔63bの内周面とを連通する貫通孔63dが形成される。貫通孔63dは、貫通孔63bの内周面に形成されるシーブ側溝63cと重複しない位置に形成される。
【0032】
油圧シリンダ70は、入力側可動シーブ63を変速入力軸50上でその軸線方向に摺動させるためのものである。油圧シリンダ70は、可動側シリンダケース71、および固定側シリンダケース73等を具備する。
【0033】
可動側シリンダケース71は、その前部が開放された箱状の部材である。可動側シリンダケース71の後面の中心には貫通孔71aが軸線方向に形成され、当該貫通孔71aには入力側可動シーブ63の軸筒部が挿通される。
【0034】
ボルト等の締結具や溶接等により、入力側可動シーブ63のシーブ部の前面と可動側シリンダケース71の後面とを当接させた状態で、当該可動側シリンダケース71は入力側可動シーブ63に固設される。
なお、可動側シリンダケース71と入力側可動シーブ63を鍛造等により一体的に形成することも可能である。
【0035】
固定側シリンダケース73は、その後部が開放された箱状部、および当該箱状部の後端に一体的に形成される環状の鍔部を有する部材である。固定側シリンダケース73の前面の中心には貫通孔73aが形成され、当該貫通孔73aには変速入力軸50が挿通される。固定側シリンダケース73の後部(鍔部)は、可動側シリンダケース71の開放側(前方)から当該可動側シリンダケース71に挿通される。固定側シリンダケース73と可動側シリンダケース71との間には、シール部材74が配置される。
【0036】
固定側シリンダケース73が可動側シリンダケース71に挿通された後、当該可動側シリンダケース71の開放側(前方)端部の内側には軸受72が嵌装される。
【0037】
固定側シリンダケース73のすぐ前では、変速入力軸50が前述の軸受53に挿通され、当該軸受53を介してミッションケース8に対して回動可能に支持される。
軸受53のすぐ前では、ロックナット75が変速入力軸50に締結される。これによって、軸受53が前方へと摺動することを防止するとともに、当該軸受53を介して固定側シリンダケース73が前方へと摺動することを防止できる。また、ロックナット62およびロックナット75により軸受53、固定側シリンダケース73、可動側シリンダケース71、入力側可動シーブ63、ベルト140、および入力側固定シーブ61を挟み込むことで、各部材に加わるトルクを当該ロックナット62およびロックナット75の間に閉じ込めることができる。
【0038】
上述のようにして、入力プーリ60の入力側可動シーブ63に油圧シリンダ70が設けられる。また、このように構成された油圧シリンダ70において、入力側可動シーブ63、可動側シリンダケース71、固定側シリンダケース73、および変速入力軸50により閉塞された空間に油圧室76が形成される。
【0039】
油圧サーボ機構80は、油圧シリンダ70を介して入力側可動シーブ63の動作を制御するためのものである。油圧サーボ機構80は、フロントケース81、サーボスプール83、フィードバックスプール84、およびスプールスプリング85等を具備する。
【0040】
フロントケース81は、略直方体状の本体部、および当該本体部の後端に一体的に形成される円盤状の鍔部を有する部材である。フロントケース81には、弁室81a、軸受孔81b、作動油ポート81c、連通油路81d、および潤滑油ポート81e等が形成される。
【0041】
弁室81aは、フロントケース81の前面と後面とを連通するように形成される、円形断面を有する貫通孔である。弁室81aは、軸線方向を前後方向として形成される。また、弁室81aは、正面視において入力プーリ60の入力側可動シーブ63と重複するように、すなわち、入力側可動シーブ63と対向する位置に形成される。
【0042】
軸受孔81bは、フロントケース81の前面と後面とを連通するように形成される、円形断面を有する貫通孔である。軸受孔81bは、軸線方向を前後方向として形成される。軸受孔81bには、後方から変速入力軸50の前端部が挿通される。軸受孔81bの前端部は、プラグ82によって閉塞される。
【0043】
作動油ポート81cは、フロントケース81の本体部の側面と弁室81aとを連通するように形成される貫通孔である。より詳細には、作動油ポート81cは、フロントケース81の本体部の側面と、弁室81aの軸線方向略中央部とを連通する。また、作動油ポート81cは、配管等によって図示しない作動油ポンプに接続される。
なお、作動油ポート81cは、フロントケース81の外部と弁室81aとを連通するものであればよく、その孔の形状および大きさを限定するものではない。
【0044】
連通油路81dは、弁室81aと軸受孔81bとを連通するように形成される油路である。より詳細には、連通油路81dは、弁室81aの後端部近傍と、軸受孔81bの後端部近傍とを連通する。
【0045】
潤滑油ポート81eは、フロントケース81の本体部の側面と軸受孔81bとを連通するように形成される貫通孔である。より詳細には、潤滑油ポート81eは、フロントケース81の本体部の側面と、軸受孔81bの軸線方向略中央部とを連通する。また、潤滑油ポート81eは、配管等によって図示しない潤滑油ポンプに接続される。
【0046】
図3および図4に示すサーボスプール83は、油圧サーボ機構80における油路を切り換えるためのものである。サーボスプール83は、略円柱状の部材であり、後端には円盤状の鍔部が一体的に形成される。サーボスプール83は、軸線方向を前後方向として配置される。サーボスプール83には、摺動穴83a、第一溝83b、第二溝83c、第一貫通孔83d、第二貫通孔83e、および排出油路83f等が形成される。
【0047】
摺動穴83aは、サーボスプール83の軸線上において、当該サーボスプール83の後端から前端部近傍まで形成される、円形断面を有する穴である。
第一溝83bは、サーボスプール83の軸線方向略中央部において、当該サーボスプール83の外周に沿って形成される。また、後述するように、サーボスプール83がフロントケース81の弁室81aに対して軸線方向に摺動する場合であっても、当該サーボスプール83の摺動位置にかかわらず常時第一溝83bが作動油ポート81cと対向するように、当該第一溝83bはサーボスプール83の軸線方向に長く形成される。
第二溝83cは、サーボスプール83の第一溝83bより後方において、当該サーボスプール83の外周に沿って形成される。また、後述するように、サーボスプール83がフロントケース81の弁室81aに対して軸線方向に摺動する場合であっても、当該サーボスプール83の摺動位置にかかわらず常時第二溝83cが連通油路81dと対向するように、当該第二溝83cはサーボスプール83の軸線方向に長く形成される。
第一貫通孔83dは、軸線方向をサーボスプール83の軸線と直交する方向として、第一溝83bと摺動穴83aとを連通するように形成される。
第二貫通孔83eは、軸線方向をサーボスプール83の軸線と直交する方向として、第二溝83cと摺動穴83aとを連通するように形成される。
排出油路83fは、サーボスプール83の後端と摺動穴83aとを連通するように形成される油路である。より詳細には、排出油路83fは、サーボスプール83の後端と、摺動穴83aの第二溝83cと対向する部分より後方の部分とを連通する。
【0048】
サーボスプール83の外径は、フロントケース81の弁室81aの内径と略同一となるように形成される。サーボスプール83は、フロントケース81の弁室81aに後方から摺動可能に挿通される。サーボスプール83の鍔部の径はフロントケース81の弁室81aの径よりも大きく形成され、当該鍔部がフロントケース81に当接することでサーボスプール83の前方への摺動が所定位置で規制される。また、サーボスプール83の前端部は変速レバーや変速ペダル等の図示せぬ変速操作具に連結され、当該変速操作具を操作することにより、サーボスプール83を前後方向に摺動させることが可能である。
【0049】
フィードバックスプール84は、油圧サーボ機構80における油路を切り換えるためのものである。フィードバックスプール84は、略円柱状の部材である。フィードバックスプール84は、軸線方向を前後方向として配置される。フィードバックスプール84には、排出油路84a、および連通溝84b等が形成される。
【0050】
排出油路84aは、フィードバックスプール84の軸線上において、当該フィードバックスプール84の前端と後端とを連通するように形成される油路である。
連通溝84bは、フィードバックスプール84の軸線方向略中央部において、当該フィードバックスプール84の外周に沿って形成される。
【0051】
フィードバックスプール84の外径は、サーボスプール83の摺動穴83aの内径と略同一となるように形成される。フィードバックスプール84は、サーボスプール83の摺動穴83aに摺動可能に挿通される。これによって、フィードバックスプール84は、サーボスプール83に対して前後方向に摺動可能とされる。
【0052】
スプールスプリング85は、フィードバックスプール84を後方へと付勢するものである。スプールスプリング85は圧縮コイルばねで構成される。スプールスプリング85は、サーボスプール83の摺動穴83aに配置され、フィードバックスプール84を後方(すなわち、入力側可動シーブ63側)へと常時付勢する。
【0053】
なお、フィードバックスプール84を後方へと付勢することができる構成であれば、当該付勢するための部材は圧縮コイルばね(スプールスプリング85)に限るものではない。
【0054】
フィードバックスプール84がスプールスプリング85によって後方へと常時付勢されることによって、当該フィードバックスプール84の後端は、入力側可動シーブ63に固設された可動側シリンダケース71の軸受72(より詳細には、軸受72の内輪)に常時当接される。
【0055】
このように、フィードバックスプール84を直接可動側シリンダケース71に当接させるのではなく、軸受72を介して当接させることで、フィードバックスプール84および可動側シリンダケース71の摩擦による摩耗を防止することができる。すなわち、可動側シリンダケース71には軸受53の外輪が接触し、フィードバックスプール84には軸受53の内輪が接触することになるため、当該軸受72によってフィードバックスプール84と可動側シリンダケース71との摩擦が軽減されることになる。
【0056】
なお、本実施形態においては、フィードバックスプール84は軸受72を介して可動側シリンダケース71に当接する構成としたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、軸受72を介して入力側可動シーブ63と当接する構成や、軸受72を介さず直接入力側可動シーブ63と当接する構成とすることも可能である。
また、フィードバックスプール84と可動側シリンダケース71との間に介装する部材は軸受72に限るものではなく、当該フィードバックスプール84と可動側シリンダケース71との間の摩擦を軽減することが可能なもの(例えば、表面加工により摩擦を低減した部材等)であればよい。
【0057】
また、図3に示す変速入力軸50には、第一溝50c、第二溝50d、作動溝50e、作動油路50f、潤滑油路50g、および分配油路50hが形成される。
【0058】
第一溝50cは、変速入力軸50の軸線方向前端部近傍において、当該変速入力軸50の外周に沿って形成される。より詳細には、第一溝50cは、フロントケース81の軸受孔81bに変速入力軸50が挿通された際に、当該フロントケース81に形成された連通油路81dと対向する軸線方向位置に形成される。
第二溝50dは、変速入力軸50の軸線方向前端部近傍であって第一溝50cの前方において、当該変速入力軸50の外周に沿って形成される。より詳細には、第二溝50dは、フロントケース81の軸受孔81bに変速入力軸50が挿通された際に、当該フロントケース81に形成された潤滑油ポート81eと対向する軸線方向位置に形成される。
作動溝50eは、変速入力軸50の軸線方向中途部において、当該変速入力軸50の外周面の一部に形成される。より詳細には、作動溝50eは、変速入力軸50に入力側可動シーブ63が支持された際に、当該入力側可動シーブ63に形成された貫通孔63dと対向する位置に形成される。また、入力側可動シーブ63が変速入力軸50に対して軸線方向に摺動する場合であっても、当該可動シーブの摺動位置にかかわらず常時作動溝50eが貫通孔63dと対向するように、当該作動溝50eは変速入力軸50の軸線方向に長く形成される。
作動油路50fは、変速入力軸50の前端から軸線方向において作動溝50eと略同一位置まで形成される穴である。作動油路50fの前端部は、プラグ54によって閉塞される。作動油路50fは、前端部近傍において第一溝50cと、後端部近傍において作動溝50eと、それぞれ連通される。
潤滑油路50gは、変速入力軸50の前端から軸線方向において拡径部50aの後端部と略同一位置まで形成される穴である。潤滑油路50gの前端部は、プラグ55によって閉塞される。潤滑油路50gは、前端部近傍において第二溝50dと連通される。
分配油路50hは、軸線方向を変速入力軸50の軸線と直交する方向として、当該変速入力軸50の外周面と潤滑油路50gとを連通するように形成される貫通孔である。より詳細には、分配油路50hは、変速入力軸50の拡径部50aの外周面であって、当該変速入力軸50に固定された入力側固定シーブ61のシーブ部の前面61a近傍と、潤滑油路50gとを連通する。
【0059】
以下では、上述の如く構成された油圧サーボ機構80を用いて油圧シリンダ70の動作を制御し、入力側可動シーブ63を摺動させる様子について説明する。
【0060】
まず、図3に示すように、サーボスプール83が弁室81aに対して最も前方に摺動している場合について説明する。
【0061】
この場合、入力側可動シーブ63および当該入力側可動シーブ63に固設された可動側シリンダケース71は、入力側可動シーブ63の軸筒部の前端が固定側シリンダケース73に当接する位置まで前方に摺動している。また、可動側シリンダケース71に固定された軸受72に前方から当接するフィードバックスプール84は、スプールスプリング85の付勢力に抗してサーボスプール83の摺動穴83aに対して所定位置まで押し込まれた状態で保持されている。
【0062】
ここで、フィードバックスプール84の「所定位置」とは、サーボスプール83に対する相対的な位置であり、より詳細には、フィードバックスプール84の外周面(詳細には連通溝84bより前方の外周面)によってサーボスプール83の第一貫通孔83dを閉塞し、かつ、フィードバックスプール84の外周面(詳細には連通溝84bより後方の外周面)によってサーボスプール83の排出油路83fを閉塞する位置である。
【0063】
前記作動油ポンプから圧送された作動油はフロントケース81の作動油ポート81cを介してサーボスプール83の第一溝83bに供給される。しかし、第一溝83bと摺動穴83aとを連通する第一貫通孔83dはフィードバックスプール84の外周面によって閉塞されている。このため、前記作動油ポンプから供給される作動油は、フィードバックスプール84によってせき止められ、油圧シリンダ70の油圧室76に供給されることはない。
【0064】
また、入力側可動シーブ63は、入力プーリ60に巻回された後述するベルト140の張力により前方に付勢されているため、当該入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71は前方に摺動した状態で保持される。
【0065】
次に、図5に示すように、前記変速操作具を操作することによって、サーボスプール83が後方に向かって摺動された場合について説明する。
【0066】
この場合、サーボスプール83が後方に向かって摺動するのに対し、フィードバックスプール84は軸受72に当接しているため後方に摺動することができない。したがって、フィードバックスプール84は、サーボスプール83に対して相対的に前方に摺動することになる。これによって、フィードバックスプール84の連通溝84bがサーボスプール83の第一貫通孔83dおよび第二貫通孔83eと対向し、前記作動油ポンプから作動油ポート81cへと供給された作動油が、第一溝83b、第一貫通孔83d、連通溝84b、第二溝83c、および第二貫通孔83eを介して連通油路81dへと供給される。
【0067】
連通油路81dへと供給された作動油は、さらに変速入力軸50の第一溝50c、作動油路50f、作動溝50e、および入力側可動シーブ63の貫通孔63dを介して油圧室76へと供給される。油圧室76へと作動油が供給されると、油圧室76内の圧力が上昇し、当該圧力により入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71が後方に向かって付勢される。このように作動油の圧力によって後方に向かって付勢された入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71は、ベルト140の張力による前方への付勢力に抗して、後方に摺動する(図6参照)。
【0068】
次に、図6に示すように、入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71が後方に摺動した場合について説明する。
【0069】
入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71が後方に摺動すると、可動側シリンダケース71に固定された軸受72に前方から付勢された状態で当接しているフィードバックスプール84も後方に摺動する。すなわち、フィードバックスプール84は、サーボスプール83に対して相対的に後方に摺動することになる。
【0070】
フィードバックスプール84が所定位置まで摺動し、当該フィードバックスプール84の外周面によってサーボスプール83の第一貫通孔83dが再び閉塞されると、油圧シリンダ70の油圧室76への作動油の供給が終了する。したがって、入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71は、油圧室76への作動油の供給が終了した時点の位置に保持されることになる。
【0071】
次に、図7に示すように、油圧シリンダ70の油圧室76内の作動油が漏れ出して、当該油圧室76内の圧力が低下した場合について説明する。
【0072】
入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71が後方に摺動した状態で油圧室76への作動油の供給が終了した場合、当該入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71は、油圧室76への作動油の供給が終了した時点の位置に保持される。しかし、可動側シリンダケース71と固定側シリンダケース73との隙間や入力側可動シーブ63と変速入力軸50との隙間等から油圧室76内の作動油が少しずつ漏れ出した場合、当該油圧室76内の圧力が低下し、ベルト140の張力により入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71は少しずつ前方に摺動する。
【0073】
入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71が前方に摺動すると、可動側シリンダケース71に固定された軸受72に前方から付勢された状態で当接しているフィードバックスプール84も前方に摺動する。すなわち、フィードバックスプール84は、サーボスプール83に対して相対的に前方に摺動することになる。
【0074】
フィードバックスプール84が前方に摺動し、フィードバックスプール84の連通溝84bが再びサーボスプール83の第一貫通孔83dおよび第二貫通孔83eと対向すると、作動油が再び油圧シリンダ70の油圧室76へと供給される。これによって、入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71は後方に摺動する(図6参照)。
【0075】
入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71とともにフィードバックスプール84が所定位置まで摺動し、当該フィードバックスプール84の外周面によってサーボスプール83の第一貫通孔83dが再び閉塞されると、油圧シリンダ70の油圧室76への作動油の供給が終了する。
このように、フィードバックスプール84が入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71に追従して摺動し、油圧室76に連通する油路を切り換えることで、当該入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71をサーボスプール83の摺動位置に応じた位置に保持することができる。
【0076】
次に、図8に示すように、前記変速操作具を操作することによって、サーボスプール83が前方に向かって摺動された場合について説明する。
【0077】
この場合、サーボスプール83が前方に向かって摺動するのに対し、フィードバックスプール84はスプールスプリング85によって軸受72に向かって付勢されているため、当該フィードバックスプール84は軸受72に当接した状態に保持される。したがって、フィードバックスプール84は、サーボスプール83に対して相対的に後方に摺動することになる。これによって、フィードバックスプール84の連通溝84bがサーボスプール83の第二貫通孔83eおよび排出油路83fと対向し、作動油が第二溝83c、および第二貫通孔83eを介して排出油路83fへと流通可能となる。
【0078】
入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71は、ベルト140の張力により前方に付勢されている。このため、油圧シリンダ70の油圧室76内の作動油は入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71によって押し出され、入力側可動シーブ63の貫通孔63d、変速入力軸50の作動溝50e、作動油路50f、第一溝50c、連通油路81d、サーボスプール83の第二溝83c、第二貫通孔83e、フィードバックスプール84の連通溝84b、およびサーボスプール83の排出油路83fを介して当該サーボスプール83の後端から後方へと排出される。サーボスプール83の後端から排出された作動油によって、可動側シリンダケース71に固定された軸受72の潤滑を行うことが可能である。また、油圧室76内の作動油が排出されることにより、入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71はベルト140からの付勢力に従って前方に摺動する(図3参照)。
【0079】
なお、この場合、サーボスプール83の第一貫通孔83dは、フィードバックスプール84の外周面によって閉塞されたままであり、前記作動油ポンプからの作動油が油圧シリンダ70の油圧室76に供給されることはない。
【0080】
次に、図3に示すように、入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71が前方に摺動した場合について説明する。
【0081】
入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71が前方に摺動すると、可動側シリンダケース71に固定された軸受72に前方から付勢された状態で当接しているフィードバックスプール84も前方に摺動する。すなわち、フィードバックスプール84は、サーボスプール83に対して相対的に前方に摺動することになる。
【0082】
フィードバックスプール84が所定位置まで摺動し、当該フィードバックスプール84の外周面によってサーボスプール83の排出油路83fが閉塞されると、油圧シリンダ70の油圧室76からの作動油の排出が終了する。したがって、入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース71は、油圧室76からの作動油の排出が終了した時点の位置に保持されることになる。
【0083】
以上の如く、サーボスプール83を任意の位置に摺動させることにより、入力側可動シーブ63を所望の位置に摺動させることができる。また、入力側可動シーブ63に追従して摺動するフィードバックスプール84によって、当該入力側可動シーブ63を所望の摺動位置に保持することができる。
【0084】
なお、本実施形態においては、油圧サーボ機構80を用いて入力側可動シーブ63を摺動させる構成としたが、本発明はこれに限るものではなく、油圧サーボ機構80を用いて後述する出力プーリ100の出力側可動シーブ103を摺動させる構成とすることも可能である。
【0085】
以下では、図9に示す矢印を参照して、上述の構成における変速入力軸50、入力プーリ60、および油圧シリンダ70等の潤滑の様子について説明する。
【0086】
上述の如く油圧シリンダ70の油圧室76内に供給された作動油は、入力側可動シーブ63の軸筒部の前端と固定側シリンダケース73との隙間を介して変速入力軸50の軸側溝50bおよび入力側可動シーブ63のシーブ側溝63cに漏れ出す。当該作動油によって、軸側溝50bおよびシーブ側溝63cに配置された鋼球64・64・・・を潤滑する。
【0087】
また、油圧シリンダ70の油圧室76内に供給された作動油は、入力側可動シーブ63の軸筒部の前端と固定側シリンダケース73との隙間、および入力側可動シーブ63と変速入力軸50との隙間を介して、当該入力側可動シーブ63の後方へと漏れ出す。当該作動油によって入力側可動シーブ63と変速入力軸50との接触面(摺動面)を潤滑する。
このように、変速入力軸50に固定した油路を設けるのではなく、入力側可動シーブ63と変速入力軸50との隙間を利用して作動油を供給することで、入力側可動シーブ63の摺動位置にかかわらず当該入力側可動シーブ63を適切に潤滑することができる。
【0088】
さらに、上述の如く入力側可動シーブ63の後方へと漏れ出した作動油によって、入力側可動シーブ63のシーブ部の後面63aと後述するベルト140との接触面を潤滑する。
【0089】
また、前記作動油ポンプから油圧シリンダ70の油圧室76に供給される作動油の流通途中において、当該作動油は、フロントケース81の弁室81aとサーボスプール83との接触面(摺動面)、およびサーボスプール83の摺動穴83aとフィードバックスプール84との接触面(摺動面)を潤滑する。
【0090】
さらに、サーボスプール83とフィードバックスプール84との隙間を介してサーボスプール83の摺動穴83aへと漏れ出した作動油は、フィードバックスプール84の排出油路84aを介して当該フィードバックスプール84の後端から排出される。当該排出された作動油によって、フィードバックスプール84と軸受72との接触面を潤滑する。
【0091】
また、前記潤滑油ポンプから圧送されてフロントケース81の潤滑油ポート81eに供給された作動油は、変速入力軸50の第二溝50d、潤滑油路50g、および分配油路50hを介して変速入力軸50の外周面(入力側固定シーブ61のシーブ部の前面61a近傍)に供給される。当該供給された作動油によって、入力側固定シーブ61のシーブ部の前面61aと後述するベルト140との接触面を潤滑する。
このように、変速入力軸50に対して摺動しない入力側固定シーブ61に対しては、当該入力側固定シーブ61のシーブ部の前面61aを潤滑する作動油を供給するための油路(潤滑油ポート81e、変速入力軸50の第二溝50d、潤滑油路50g、および分配油路50h等)を形成することで、当該入力側固定シーブ61を適切に潤滑することができる。
【0092】
図1および図10に示す伝達軸90は、変速入力軸50からの動力を伝達するものである。伝達軸90は、略円柱状の部材であり、軸線方向を前後方向として配置される。
変速入力軸50の前端部近傍には、他の部分と比べて直径が大きい拡径部90aが形成される。
拡径部90aの前方では、軸受91が伝達軸90に嵌合される。軸受91がミッションケース8に支持されることによって、伝達軸90がミッションケース8に回動可能に支持される。
【0093】
図11に示す出力プーリ100は、伝達軸90上に配置され、一対のシーブを具備する滑車である。出力プーリ100は、出力側固定シーブ101、および出力側可動シーブ103等を具備する。
【0094】
出力側固定シーブ101は、入力側固定シーブ61と同一の材質で、同一の形状に形成される部材である。すなわち、出力側固定シーブ101は、略円筒形状の軸筒部、および当該軸筒部の後端に一体的に形成される環状かつ側面断面視で略円錐台形状のシーブ部を有する部材である。出力側固定シーブ101は、シーブ部を軸筒部よりも後方に配置して、伝達軸90に外嵌される。出力側固定シーブ101のシーブ部の後面101aは、後方から前方にかけて直径が大きくなるような傾斜面として形成される。
出力側固定シーブ101の軸線上には、当該出力側固定シーブ101を前後方向に貫通する貫通孔101bが形成される。当該貫通孔101bの前端部(詳細には、出力側固定シーブ101の軸線方向における軸筒部に対応する部分)には、他の部分と比べて貫通孔101bの直径が小さい縮径部101cが形成される。出力側固定シーブ101の貫通孔101bには、後方から伝達軸90が挿通され、貫通孔101bの縮径部101cの後面と伝達軸90の拡径部90aの前面とが当接するまで圧入される。伝達軸90の拡径部90aのすぐ前の部分と、出力側固定シーブ101の縮径部101cとが圧入により嵌め合わされることによって、出力側固定シーブ101が伝達軸90に対して相対回転不能かつ摺動不能に固定される。
【0095】
このように、出力側固定シーブ101を伝達軸90に圧入によって固定することで、スプラインやセレーションを用いて固定する場合に比べて製造コストの低減を図ることができる。さらに、出力側固定シーブ101と伝達軸90との嵌合のガタを無くすことができるため、ベルト式無段変速機40の変速比の変化や、ベルト140と出力側固定シーブ101との接触面の耐久性の低下を防ぐことができる。
また、貫通孔101bの縮径部101cと伝達軸90の拡径部90aとが当接するまで圧入するだけで、伝達軸90に対する出力側固定シーブ101の位置決めが可能である。したがって、テーパを用いて出力側固定シーブ101を伝達軸90に固定する場合に比べて、当該出力側固定シーブ101の位置決めを容易かつ確実に行うことができる。
【0096】
なお、本実施形態においては伝達軸90と出力側固定シーブ101とを圧入により嵌め合わせる(嵌合させる)ものとしたが、「焼きばめ」や「冷やしばめ」等、伝達軸90の径が出力側固定シーブ101の貫通孔101bの径よりも大きいことを利用して嵌め合わせる方法であればよい。
また、本実施形態においては伝達軸90の拡径部90aのすぐ前の部分と出力側固定シーブ101の縮径部101cとを圧入により嵌め合わせるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、伝達軸90の拡径部90aと出力側固定シーブ101の縮径部101cのすぐ後ろの部分とを圧入により嵌め合わせることも可能である。この圧入を行う場合、出力側固定シーブ101の縮径部101cを伝達軸90上で摺動させることにより、圧入作業のガイドとすることができる。
【0097】
出力側固定シーブ101のすぐ前では、伝達軸90が前述の軸受91に挿通され、当該軸受91を介してミッションケース8に対して回動可能に支持される。
軸受91のすぐ前では、ロックナット102が伝達軸90に締結される。これによって、軸受91が前方へと摺動することを防止するとともに、当該軸受91を介して出力側固定シーブ101が前方へと摺動することを防止でき、出力側固定シーブ101を伝達軸90に確実に固定することができる。
【0098】
出力側可動シーブ103は、入力側可動シーブ63と同一の材質で、同一の形状に形成される部材である。すなわち、出力側可動シーブ103は、略円筒形状の軸筒部、および当該軸筒部の後端に一体的に形成される環状かつ側面断面視で略円錐台形状のシーブ部を有する部材である。出力側可動シーブ103は、シーブ部を軸筒部よりも前方に配置して、出力側固定シーブ101の後方において伝達軸90に外嵌される。出力側可動シーブ103のシーブ部の前面103aは、前方から後方にかけて直径が大きくなるような傾斜面として形成される。
出力側可動シーブ103の軸線上には、当該出力側可動シーブ103を前後方向に貫通する貫通孔103bが形成される。出力側可動シーブ103の貫通孔103bには、前方から伝達軸90が挿通される。
出力側固定シーブ101の後面101aと出力側可動シーブ103の前面103aとが伝達軸90上で対向するように配置されることで、当該後面101aおよび前面103aにより出力プーリ100の溝が形成される。
貫通孔103bの内周面および伝達軸90の外周面には、伝達軸90の軸線方向に沿ってそれぞれシーブ側溝103cおよび軸側溝90bが形成される。シーブ側溝103cは、少なくとも出力側可動シーブ103の後端(軸筒部の後端)から当該出力側可動シーブ103の前後中途部まで形成される。シーブ側溝103cおよび軸側溝90bは、貫通孔103bの内周面および伝達軸90の外周面の円周方向に等間隔に3箇所形成され、互いに向かい合わせに位置する一対の溝に鋼球104・104・・・が配置される。これによって、出力側可動シーブ103が伝達軸90に対して軸線方向に摺動可能かつ相対回転不能に支持される。
なお、シーブ側溝103cおよび軸側溝90bの間隔は等間隔に限るものではなく、また、シーブ側溝103cおよび軸側溝90bの個数は上記個数に限るものではない。
出力側可動シーブ103には、軸筒部の外周面と貫通孔103bの内周面とを連通する貫通孔103dが形成される。貫通孔103dは、貫通孔103bの内周面に形成されるシーブ側溝103cと重複しない位置に形成される。
【0099】
上記の如く、入力プーリ60の入力側固定シーブ61および入力側可動シーブ63と、出力プーリ100の出力側固定シーブ101および出力側可動シーブ103と、をそれぞれ同一の部品で共用することで、部品の種類を削減することができ、ひいては部品コストの低減を図ることができる。
【0100】
出力部材110は、カム機構120からの動力を遊星歯車機構150へと伝達するためのものである。出力部材110は、略円筒形状の軸筒部、および当該軸筒部の前端に一体的に形成される環状のフランジ部を有する部材である。出力部材110の前端側には、円筒状の外側ガイド部110aが形成される。外側ガイド部110aは、軸線方向を前後方向に向けて配置され、前方側が開放された有底筒状に形成される。出力部材110の後面の中心には貫通孔が軸線方向に形成され、当該貫通孔の内周面にスプライン部110bが形成される。出力部材110は、出力プーリ100の後方において、当該出力部材110の前記貫通孔に伝達軸90が挿通された状態で配置される。
【0101】
カム機構120は、出力プーリ100および出力部材110間のトルクの伝達を可能とするものである。カム機構120は、第一カム121、および第二カム122等を具備する。
【0102】
第一カム121は、略円筒形状の部材である。第一カム121は、軸線方向を前後方向に向けて、かつ軸線が伝達軸90の軸線と一致するように配置される。この第一カム121の軸線上には、所定の内径を有する貫通孔121aが形成される。第一カム121の貫通孔121aの内径は、出力部材110の外側ガイド部110aの内径と略同一となるように形成される。第一カム121の前面には、軸線方向と直交する平面が形成され、第一カム121の後面には、軸線方向と直交する面に対して所定の角度だけ傾斜した複数の面等が形成される。
第一カム121の貫通孔121aには、前方から出力側可動シーブ103の軸筒部が挿通される。ボルト等の締結具や溶接等により、出力側可動シーブ103のシーブ部の後面と第一カム121の前面とを当接させた状態で、当該第一カム121は出力側可動シーブ103に固設される。
なお、第一カム121と出力側可動シーブ103を鍛造等により一体的に形成することも可能である。
【0103】
第二カム122は、第一カム121と同一の材質で、同一の形状に形成される部材である。すなわち、第二カム122は、軸線方向を前後方向に向けて、かつ軸線が伝達軸90の軸線と一致するように配置される。この第二カム122の軸線上には、所定の内径を有する貫通孔122aが形成される。第二カム122の貫通孔122aの内径は、出力部材110の外側ガイド部110aの内径と略同一となるように形成される。第二カム122の後面には、軸線方向と直交する平面が形成され、第二カム122の前面には、軸線方向と直交する面に対して所定の角度だけ傾斜した複数の面等が形成される。
第二カム122の貫通孔122aには、前方から伝達軸90が挿通される。ボルト等の締結具や溶接等により、出力部材110の前面と第二カム122の後面とを当接させた状態で、当該第二カム122は出力部材110に固設される。その結果、第一カム121の後面と第二カム122の前面とが対向するように配置される。
なお、第二カム122と出力部材110を鍛造等により一体的に形成することも可能である。
【0104】
付勢部材130は、出力側可動シーブ103を前方へと付勢するものである。付勢部材130は、出力部材110の外側ガイド部110a内に配置され、軸線方向に並べられた複数の皿ばね131・131・・・によって構成される。付勢部材130の後端(最も後に配置された皿ばね131)は出力部材110と当接され、付勢部材130の前端(最も前に配置された皿ばね131)は内側ガイド部材132を介して出力側可動シーブ103の後端と当接される。
【0105】
内側ガイド部材132は、略円筒形状の円筒部132a、および当該円筒部132aの前端に一体的に形成される環状のばね受け部132bを有する部材である。円筒部132aの内径は伝達軸90の外径と略同一となるように形成され、円筒部132aの軸線方向長さは所定長さとなるように形成される。また、ばね受け部132bは、軸線方向と直交するように形成される。
【0106】
付勢部材130の付勢力によって、出力側可動シーブ103は前方、すなわち出力側固定シーブ101と近接する方向へと付勢される。
【0107】
この場合において、出力部材110の外側ガイド部110aの内径は、付勢部材130(皿ばね131・131・・・)の外径と略同一となるように形成されている。また、内側ガイド部材132の円筒部132aの外径は、付勢部材130(皿ばね131・131・・・)の内径と略同一となるように形成されている。これによって、付勢部材130のうち後側に配置された皿ばね131・131・・・は、出力部材110の外側ガイド部110a(より詳細には、出力部材110の外側ガイド部110aおよび第二カム122の内周面)によって互いの軸線がずれないように案内され、付勢部材130のうち前側に配置された皿ばね131・131・・・は、内側ガイド部材132の円筒部132aによって互いの軸線がずれないように案内される。このように複数の皿ばね131・131・・・同士の軸線のずれを防止することで、出力側可動シーブ103を安定して付勢することができる。
【0108】
また、出力側可動シーブ103が最も前方に摺動した状態において、内側ガイド部材132の円筒部132aは、軸線方向において第二カム122の内周面と重複する位置まで後方に延設される。このように構成することによって、出力側可動シーブ103が最も前方に摺動した状態においても付勢部材130を構成する全ての皿ばね131・131・・・を、出力部材110の外側ガイド部110a、第二カム122の内周面、または内側ガイド部材132の円筒部132aによって案内することができる。
【0109】
また、本実施形態の如く、付勢部材130を複数の皿ばね131・131・・・で構成することにより、付勢部材としてコイルばねを用いる場合に比べて軸線方向長さを短くコンパクトに構成することができる。
【0110】
図2および図10に示すベルト140は、入力プーリ60の溝および出力プーリ100の溝に巻回され、入力プーリ60の動力を出力プーリ100へと伝達するものである。ベルト140は、金属製の薄板が重ねられたバンドと、金属製のエレメントからなる金属ベルトである。なお、本発明はこれに限るものではなく、ベルト140としてゴム製、チェーン製、または樹脂製のベルトを用いてもよい。
【0111】
入力プーリ60の溝に巻回されたベルト140は、油圧シリンダ70により所定の力で入力側可動シーブ63が入力側固定シーブ61側へと押されることで、入力プーリ60に挟持される。出力プーリ100の溝に巻回されたベルト140は、付勢部材130の付勢力等により所定の力で出力側可動シーブ103が出力側固定シーブ101側へと押されることで、出力プーリ100に挟持される。
【0112】
図12および図13に示す遊星歯車機構150は、2つの動力を合成して出力するためのものである。遊星歯車機構は、サンギヤ151、リングギヤ152、キャリヤギヤ153、プラネタリ軸155・155・・・、連結軸156・156・・・、プラネタリギヤ157・157・・・、支持部材159、および遊星出力部材163等を具備する。
なお、図13においては、各ギヤに形成された歯やスプラインの詳細な形状は省略している。
【0113】
サンギヤ151は、略円筒形状の軸筒部の前端部外周にスプライン部151aを、スプライン部151aと所定距離だけ離れた前記軸筒部の後端部外周に歯151bを、それぞれ形成されたギヤである。サンギヤ151の軸線上には、当該サンギヤ151を前後方向に貫通する貫通孔151cが形成される。サンギヤ151の貫通孔151cには、前方から伝達軸90が挿通され、当該サンギヤ151は伝達軸90に相対回動可能に支持される。
サンギヤ151のスプライン部151aは、出力部材110のスプライン部110bと歯合され、当該サンギヤ151は出力部材110と一体的に回動される。
【0114】
リングギヤ152は、環状部材の内周面に歯152aが形成されたギヤである。リングギヤ152には、前方から伝達軸90が挿通され、当該リングギヤ152の歯152aがサンギヤ151の歯151bと対向する位置に配置される。
【0115】
キャリヤギヤ153は、略円形板状の部材の外周面に歯153aを形成されたギヤである。キャリヤギヤ153の軸線上には、当該キャリヤギヤ153を前後方向に貫通する貫通孔153bが形成される。
キャリヤギヤ153の軸線を中心とする同一円周上には、当該キャリヤギヤ153を前後方向に貫通する所定の内径を有する3つの貫通孔153c・153c・・・が等間隔に形成される。また同様に、キャリヤギヤ153の軸線を中心とする同一円周上には、当該キャリヤギヤ153を前後方向に貫通する所定の内径を有する3つの貫通孔153d・153d・・・が等間隔に形成される。貫通孔153c・153c・・・および貫通孔153d・153d・・・は同一円周上に、かつ互い違いに配列される。
キャリヤギヤ153の貫通孔153bには、伝達軸90に支持されたサンギヤ151が挿通され、当該キャリヤギヤ153はニードルベアリング154を介してサンギヤ151の軸筒部(前後中途部)に相対回動可能に支持される。
キャリヤギヤ153の歯153aは、ミッション入力軸20上に設けられたクラッチ機構200のギヤと歯合され、当該クラッチ機構200を介してミッション入力軸20の動力が伝達可能とされる。
【0116】
プラネタリ軸155・155・・・は、略円柱形状の部材である。プラネタリ軸155・155・・・の一端(前端)は、キャリヤギヤ153の貫通孔153c・153c・・・にそれぞれ嵌合されることにより、当該プラネタリ軸155・155・・・はキャリヤギヤ153に固定される。プラネタリ軸155・155・・・の他端(後端)は後方に向けて延設される。
【0117】
連結軸156・156・・・は、略円柱形状の部材である。連結軸156・156・・・の一端(前端)は、キャリヤギヤ153の貫通孔153d・153d・・・にそれぞれ嵌合されることにより、当該連結軸156・156・・・はキャリヤギヤ153に固定される。連結軸156・156の他端(後端)は後方に向けて延設される。
【0118】
プラネタリギヤ157・157・・・は、サンギヤ151の歯151b、およびリングギヤ152の歯152aとそれぞれ歯合する3つのギヤである。プラネタリギヤ157の軸線上には、当該プラネタリギヤ157を前後方向に貫通する貫通孔157aが形成される。プラネタリギヤ157・157・・・の貫通孔157a・157a・・・には、キャリヤギヤ153に固定されたプラネタリ軸155・155・・・がそれぞれ挿通され、当該プラネタリギヤ157・157・・・はニードルベアリング158・158・・・を介してプラネタリ軸155・155・・・に相対回動可能に支持される。
【0119】
支持部材159は、略円筒形状の軸筒部、および当該軸筒部の前端に一体的に形成される環状の鍔部を有する部材である。支持部材159の軸線上には、当該支持部材159を前後方向に貫通する貫通孔159aが形成される。
支持部材159の鍔部において、当該支持部材159の軸線を中心とする同一円周上には、当該支持部材159の鍔部を前後方向に貫通する所定の内径を有する3つの貫通孔159b・159b・・・が等間隔に形成される。また同様に、支持部材159の鍔部において、当該支持部材159の軸線を中心とする同一円周上には、当該支持部材159の鍔部を前後方向に貫通する所定の内径を有する3つの貫通孔159c・159c・・・が等間隔に形成される。貫通孔159b・159b・・・および貫通孔159c・159c・・・は同一円周上に、かつ互い違いに配列される。
支持部材159の貫通孔159aには、伝達軸90が挿通され、当該支持部材159はプラネタリギヤ157・157・・・の後方において軸受160を介して伝達軸90に相対回動可能に支持される。軸受160のすぐ後では、ロックナット161が伝達軸90に締結される。これによって、軸受160が後方へと摺動することを防止することができる。
支持部材159の貫通孔159b・159b・・・には、プラネタリ軸155・155・・・の他端がそれぞれ嵌合される。支持部材159の貫通孔159c・159c・・・には、連結軸156・156・・・の他端がそれぞれ嵌合される。このようにして、支持部材159は、プラネタリ軸155・155・・・および連結軸156・156・・・を介してキャリヤギヤ153と一体的に回動可能となるように連結される。
支持部材159の貫通孔159a(より詳細には、支持部材159の鍔部に対応する部分)と伝達軸90の間には、環状に形成された部材である連通部材162が介装される。
【0120】
遊星出力部材163は、その前部が開放された箱状の部材である。遊星出力部材163の後面の中心には貫通孔が形成され、当該貫通孔にスプライン部163aが形成される。遊星出力部材163は、伝達軸90の後方から当該伝達軸90の後端部および支持部材159を覆うように配置される。遊星出力部材163の前後中央部近傍は軸受164を介して伝達軸90に相対回動可能に支持される。遊星出力部材163の前端は、ボルト165・165・・・によりリングギヤ152に締結され、当該リングギヤ152と一体的に回動可能となるように連結される。
なお、遊星出力部材163とリングギヤ152を鍛造等により一体的に形成することも可能である。
【0121】
遊星出力部材163のスプライン部163aには出力軸170がスプライン嵌合される。遊星出力部材163からの動力は、当該出力軸170を介して前記トラクタの後輪(不図示)や前輪駆動伝達軸180へと伝達可能とされる。
【0122】
以下では、図11および図12を用いて、伝達軸90、出力プーリ100、および遊星歯車機構150の潤滑に関する構成について説明する。
【0123】
伝達軸90には、潤滑油路90c、分配油路90d、カム部油路90e、キャリヤ用分配油路90f、およびプラネタリ用分配油路90gが形成される。
【0124】
潤滑油路90cは、伝達軸90の前端から後端部近傍まで形成される穴である。潤滑油路90cは、配管等によって図示しない潤滑油ポンプに接続される。
分配油路90dは、軸線方向を伝達軸90の軸線と直交する方向として、当該伝達軸90の外周面と潤滑油路90cとを連通するように形成される貫通孔である。より詳細には、分配油路90dは、伝達軸90の拡径部90aの外周面であって、当該伝達軸90に固定された出力側固定シーブ101のシーブ部の後面101a近傍と、潤滑油路90cとを連通する。
カム部油路90eは、伝達軸90の外周面であって出力側可動シーブ103に形成された貫通孔103dと対向する部分と、潤滑油路90cとを連通するように形成される貫通孔である。
キャリヤ用分配油路90fは、軸線方向を伝達軸90の軸線と直交する方向として、当該伝達軸90の外周面と潤滑油路90cとを連通するように形成される貫通孔である。より詳細には、キャリヤ用分配油路90fは、伝達軸90の外周面であって、サンギヤ151の軸筒部(前後中途部)に対向する部分と、潤滑油路90cとを連通する。
プラネタリ用分配油路90gは、軸線方向を伝達軸90の軸線と直交する方向として、当該伝達軸90の外周面と潤滑油路90cとを連通するように形成される貫通孔である。より詳細には、プラネタリ用分配油路90gは、伝達軸90の外周面であって、連通部材162に対向する部分と、潤滑油路90cとを連通する。
【0125】
サンギヤ151には、分配油路151dが形成される。
分配油路151dは、軸線方向をサンギヤ151の軸線と直交する方向として、当該サンギヤ151の外周面と貫通孔151cとを連通するように形成される貫通孔である。より詳細には、分配油路151dは、サンギヤ151の軸筒部(前後中途部)の外周面と、貫通孔151cであって、伝達軸90のキャリヤ用分配油路90fと軸線方向における同一位置となる部分とを連通する。
【0126】
連通部材162には、分配油路162aが形成される。
分配油路162aは、連通部材162の内周面に形成される溝、および軸線方向を連通部材162の軸線と直交する方向として、当該溝と連通部材162の外周面とを連通するように形成される貫通孔から構成される油路である。
【0127】
支持部材159には、分配油路159dが形成される。
分配油路159dは、支持部材159の貫通孔159aと貫通孔159b・159b・・・とを連通する油路である。より詳細には、分配油路159dは、支持部材159の貫通孔159aの内周面であって、当該支持部材159の鍔部に対応する部分に形成される溝、および当該溝と貫通孔159b・159b・・・とを連通するように形成される貫通孔から構成される。
【0128】
プラネタリ軸155には、潤滑油路155aが形成される。
潤滑油路155aは、プラネタリ軸155の外周面であって、支持部材159の分配油路159dと対向する部分と、プラネタリ軸155の外周面であって、ニードルベアリング158と対向する部分とを連通する油路である。
【0129】
以下では、図14に示す矢印を参照して、上述の構成における伝達軸90、出力プーリ100、および遊星歯車機構150等の潤滑の様子について説明する。
【0130】
前記潤滑油ポンプから圧送されて伝達軸90の潤滑油路90cに供給された作動油は、分配油路90dを介して伝達軸90の外周面(出力側固定シーブ101のシーブ部の後面101a近傍)に供給される。当該供給された作動油によって、出力側固定シーブ101のシーブ部の後面101aとベルト140との接触面を潤滑する。
このように、伝達軸90に対して摺動しない出力側固定シーブ101に対しては、当該出力側固定シーブ101のシーブ部の後面101aを潤滑する作動油を供給するための油路(潤滑油路90c、および分配油路90d等)を形成することで、当該出力側固定シーブ101を適切に潤滑することができる。
【0131】
また、前記潤滑油ポンプから圧送されて伝達軸90の潤滑油路90cに供給された作動油は、カム部油路90e、および出力側可動シーブ103の貫通孔103dを介して当該出力側可動シーブ103の軸筒部の外周面に供給される。当該供給された作動油によって、出力側可動シーブ103に固設された第一カム121と、当該第一カム121と当接する第二カム122との接触面を潤滑する。
【0132】
また、前記潤滑油ポンプから圧送されて伝達軸90の潤滑油路90cに供給された作動油は、キャリヤ用分配油路90f、およびサンギヤ151の分配油路151dを介してサンギヤ151の軸筒部の外周面に供給される。当該供給された作動油によって、サンギヤ151の軸筒部に外嵌されたニードルベアリング154を潤滑する。
【0133】
また、前記潤滑油ポンプから圧送されて伝達軸90の潤滑油路90cに供給された作動油は、プラネタリ用分配油路90g、連通部材162の分配油路162a、支持部材159の分配油路159d、およびプラネタリ軸155・155・・・の潤滑油路155a・155a・・・を介してプラネタリ軸155・155・・・の外周面に供給される。当該供給された作動油によって、プラネタリ軸155・155・・・に外嵌されたニードルベアリング158・158・・・を潤滑する。
【0134】
以下では、上述の如く構成されたベルト式無段変速機40における動力伝達、および変速の概要について説明する。
【0135】
前記エンジンからの動力がミッション入力軸20およびクラッチ機構200を介して変速入力軸50に伝達されると、当該変速入力軸50とともに入力プーリ60も回動される。入力プーリ60が回動されると、ベルト140を介して出力プーリ100が回動される。出力プーリ100が回動されると、当該出力プーリ100に固設された第一カム121が回動される。第一カム121が回動すると、第一カム121の後面(傾斜面)と第二カム122の前面(傾斜面)とが当接し、第一カム121の回動に伴って第二カム122が回動される。第二カム122が回動されると、出力部材110を介して遊星歯車機構150のサンギヤ151が回動される。サンギヤ151が回動されると、当該サンギヤ151と歯合しているプラネタリギヤ157・157・・・がプラネタリ軸155・155・・・の周りを回動(自転)する。
【0136】
一方、前記エンジンからの動力がミッション入力軸20およびクラッチ機構200を介して(すなわち、入力プーリ60、出力プーリ100、およびベルト140によって変速されることなく)遊星歯車機構150のキャリヤギヤ153に伝達されると、キャリヤギヤ153とともに、当該キャリヤギヤ153に支持されたプラネタリギヤ157・157・・・が伝達軸90の周りを回動(公転)する。
【0137】
このように、ミッション入力軸20からベルト140を介して遊星歯車機構150に伝達される動力、およびミッション入力軸20からベルト140を介さずに直接遊星歯車機構150に伝達される動力が、当該遊星歯車機構150のプラネタリギヤ157・157・・・によって合成される。当該合成された動力は、プラネタリギヤ157・157・・・と歯合しているリングギヤ152、および遊星出力部材163を介して出力軸170へと伝達される。
【0138】
また、カム機構120は、第一カム121から第二カム122へと伝達するトルクに応じて、出力側可動シーブ103に前方への付勢力を付与することができる。詳細には、カム機構120が伝達するトルクに応じて、第一カム121と第二カム122との間に捩れが生じる。この場合、第一カム121の後面(傾斜面)と第二カム122の前面(傾斜面)とが当接しているため、当該当接した面に従って第一カム121と第二カム122とが離間する方向に力が発生する。当該力により第一カム121が第二カム122から離間する方向に移動することで、出力側可動シーブ103が出力側固定シーブ101へと付勢される。当該付勢力と、付勢部材130による付勢力によって、出力プーリ100においてベルト140を適切な力で挟持することができる。
【0139】
また、油圧シリンダ70の動作を制御し、入力側可動シーブ63を後方に向かって摺動させると、入力側可動シーブ63の後面63aと入力側固定シーブ61の前面61aとの間隔(入力プーリ60の溝幅)が狭くなる。入力プーリ60の溝幅が狭くなると、入力プーリ60に巻回されるベルト140の径が大きくなる。ベルト140の全長は一定であるため、入力プーリ60に巻回されるベルト140の径が大きくなると、出力プーリ100の出力側可動シーブ103が付勢部材130の付勢力に抗して後方へと摺動して、出力プーリ100の溝幅が広くなり、出力プーリ100に巻回されるベルト140の径は小さくなる。このように入力プーリ60に巻回されるベルト140の径を大きくし、出力プーリ100に巻回されるベルト140の径を小さくすることで、ベルト140を介して遊星歯車機構150に伝達される動力を増速側に変速することができる。
【0140】
油圧シリンダ70の動作を制御し、油圧室76内の作動油を排出可能な状態にすると、入力プーリ60に巻回されているベルト140の張力の前方への分力により、入力側可動シーブ63が前方に向かって摺動するため、入力プーリ60の溝幅が広くなる。入力プーリ60の溝幅が広くなると、入力プーリ60に巻回されるベルト140の径が小さくなる。ベルト140の全長は一定であるため、入力プーリ60に巻回されるベルト140の径が小さくなると、出力プーリ100の出力側可動シーブ103が付勢部材130の付勢力により前方へと摺動して、出力プーリ100の溝幅が狭くなり、出力プーリ100に巻回されるベルト140の径は大きくなる。このように入力プーリ60に巻回されるベルト140の径を小さくし、出力プーリ100に巻回されるベルト140の径を大きくすることで、ベルト140を介して遊星歯車機構150に伝達される動力を減速側に変速することができる。
【0141】
このように、ミッション入力軸20からベルト140を介して遊星歯車機構150に伝達される動力を変速することで、遊星歯車機構150を介して出力軸170へと伝達される動力を正転から逆転まで(すなわち、前進から後進まで)変速することができる。
【0142】
以上の如く、本実施形態に係るベルト式無段変速機40は、
入力側固定シーブ61および入力側固定シーブ61に近接離間する方向に摺動可能な入力側可動シーブ63からなる入力プーリ60、ならびに出力側固定シーブ101および出力側固定シーブ101に近接離間する方向に摺動可能な出力側可動シーブ103からなる出力プーリ100と、
前記2つのプーリに巻回され、一方のプーリから他方のプーリへと動力を伝達するベルト140と、
入力プーリ60の入力側可動シーブ63に設けられる油圧シリンダ70と、
油圧シリンダ70の動作を制御する油圧サーボ機構80と、
を具備し、
入力側固定シーブ61と入力側可動シーブ63との間の距離を変更することで変速可能なベルト式無段変速機40であって、
油圧サーボ機構80は、
入力側可動シーブ63に対向する位置に配置される弁室81aと、
弁室81aに摺動可能に収納されるとともに、図示せぬ変速操作具に連結され、前記変速操作具の操作に応じて摺動することで油圧シリンダ70の油圧室76に連通される油路を切り換えるサーボスプール83と、
サーボスプール83に摺動可能に収納されるとともに、一端を入力側可動シーブ63に軸受72等を介して当接するように配置され、入力側可動シーブ63の摺動位置をサーボスプール83の摺動位置に応じた位置に保持するように前記油路を切り換えるフィードバックスプール84と、
を具備するものである。
このように構成することにより、複雑な電子制御を用いることなく、簡単な構成でベルト式無段変速機40を変速させることができる。また、油圧サーボ機構80をコンパクトに構成できる。
【0143】
また、フィードバックスプール84は、
入力側可動シーブ63の摺動方向と同一方向に摺動可能であり、かつ入力側可動シーブ63に当接する方向に付勢されるものである。
【0144】
また、ベルト式無段変速機40は、
フィードバックスプール84と入力側可動シーブ63との間には、フィードバックスプール84と入力側可動シーブ63との間の摩擦を軽減するための軸受72が介装されるものである。
このように構成することにより、入力側可動シーブ63およびフィードバックスプール84の摩擦による摩耗を防止することができる。
【0145】
以上の如く、本実施形態に係るベルト式無段変速機40は、
一対のプーリ(入力プーリ60および出力プーリ100)および前記一対のプーリに巻回されるベルト140により無段階に変速された後の動力と、前記一対のプーリおよびベルト140により変速されることなく伝達される動力と、を合成して出力する遊星歯車機構150を具備するベルト式無段変速機40であって、
遊星歯車機構150は、
伝達軸90上に配置されるサンギヤ151と、
サンギヤ151と同一軸線上に配置されるリングギヤ152と、
サンギヤ151およびリングギヤ152に歯合する複数のプラネタリギヤ157・157・・・と、
サンギヤ151と同一軸線上に配置されるキャリヤギヤ153と、
を具備し、
プラネタリギヤ157・157・・・は、
一端部がキャリヤギヤ153に回動可能に支持された複数のプラネタリ軸155・155・・・によりそれぞれ回動可能に支持されるものである。
このように構成することにより、プラネタリギヤ157・157・・・を支持するためのキャリヤを用いることなく、動力を入力するためのキャリヤギヤ153によってプラネタリギヤ157・157・・・を支持するため、遊星歯車機構150のコンパクト化、およびコストの削減を図ることができる。
【0146】
また、ベルト式無段変速機40は、
複数のプラネタリ軸155・155・・・における、プラネタリギヤ157・157・・・を挟んでキャリヤギヤ153と反対側の端部は、伝達軸90上に回動可能に支持された支持部材159によって支持されるものである。
このように構成することにより、遊星歯車機構150のコンパクト化を図りつつ、プラネタリギヤ157・157・・・を確実に支持することができ、当該プラネタリギヤ157・157・・・の軸線が傾くのを防止することができる。
【0147】
また、支持部材159には、
プラネタリ軸155・155・・・に供給される潤滑油が流通するための分配油路159dが形成されるものである。
このように構成することにより、プラネタリギヤ157・157・・・の支持と、プラネタリ軸155・155・・・へ潤滑油を供給するための分配油路159dの形成を、1つの部材(支持部材159)によって実現することができ、コストの削減を図ることができる。
【0148】
また、キャリヤギヤ153は、サンギヤ151に回動可能に支持されるものである。
このように構成することにより、遊星歯車機構150のコンパクト化を図ることができる。
【0149】
以上の如く、本実施形態に係るベルト式無段変速機40は、
互いに平行に配置される2つの軸(変速入力軸50および伝達軸90)と、
変速入力軸50に固定される入力側固定シーブ61、および変速入力軸50に軸線方向に摺動可能かつ相対回転不能に支持される入力側可動シーブ63を有する入力プーリ60と、
伝達軸90に固定される出力側固定シーブ101、および伝達軸90に軸線方向に摺動可能かつ相対回転不能に支持される出力側可動シーブ103を有する出力プーリ100と、
前記2つのプーリに巻回されるベルト140と、
を具備し、
前記各固定シーブは、
当該固定シーブに形成される貫通孔(貫通孔61bおよび貫通孔101b)を、対応する前記軸に嵌合することによって当該軸に相対回転不能に固定されるとともに、
当該固定シーブの貫通孔に形成される縮径部(縮径部61cおよび縮径部101c)を、対応する前記軸に形成される拡径部(拡径部50aおよび拡径部90a)に当接させることで当該軸における軸線方向位置が決定されるものである。
このように構成することにより、製造コストの削減を図るとともに、軸(変速入力軸50および伝達軸90)における固定シーブ(入力側固定シーブ61および出力側固定シーブ101)の位置決めを容易かつ確実に行うことができる。
【0150】
また、入力側固定シーブ61および出力側固定シーブ101は、同一の部材で構成されるものである。
このように構成することにより、2つの固定シーブを共用化することで、部品コストの低減を図ることができる。
【0151】
また、入力側可動シーブ63および出力側可動シーブ103は、同一の部材で構成されるものである。
このように構成することにより、2つの可動シーブを共用化することで、部品コストの低減を図ることができる。
【0152】
以上の如く、本実施形態に係るベルト式無段変速機40は、
伝達軸90に固定される出力側固定シーブ101、および伝達軸90に軸線方向に摺動可能かつ相対回転不能に支持される出力側可動シーブ103を有する出力プーリ100と、
伝達軸90と同一軸線上に配置される出力部材110と、
出力側可動シーブ103と出力部材110との間に介在し、出力側可動シーブ103および出力部材110間のトルクの伝達を可能とするとともに、前記トルクに応じた軸線方向の押し付け力を出力側可動シーブ103に付与するカム機構120と、
出力側可動シーブ103を出力側固定シーブ101側へ付勢する付勢部材130と、
を具備するベルト式無段変速機40であって、
付勢部材130は、
出力側可動シーブ103と出力部材110との間に伝達軸90の軸線方向に並べて配置される複数の皿ばね131・131・・・によって構成されるものである。
このように構成することにより、出力側可動シーブ103を付勢するための付勢部材130の軸線方向長さを短くコンパクトに構成することができる。また、複数の皿ばね131・131・・・のうちのいずれかを、異なるばね定数の皿ばねに変更することで、収納形状やばねの形状を変えることなく、容易に軸線方向への押し付け力特性を変更できる。
【0153】
また、ベルト式無段変速機40は、
複数の皿ばね131・131・・・の軸線のずれを防止するためのガイド部材を具備するものである。
また、前記ガイド部材は、
出力部材110に形成され、複数の皿ばね131・131・・・の外側から当該複数の皿ばね131・131・・・を案内する円筒状の外側ガイド部110aと、
複数の皿ばね131・131・・・のうち最も出力側可動シーブ103側に配置された皿ばね131と出力側可動シーブ103との間に介装されるばね受け部132b、および複数の皿ばね131・131・・・の内側から当該複数の皿ばね131・131・・・を案内する円筒部132aからなる内側ガイド部材132と、
から構成されるものである。
このように構成することにより、付勢部材130をコンパクトに構成するとともに、複数の皿ばね131・131・・・同士の軸線のずれを防止し、出力側可動シーブ103を安定して付勢することができる。
【0154】
以上の如く、本実施形態に係るベルト式無段変速機40は、
変速入力軸50に固定される入力側固定シーブ61、および変速入力軸50に軸線方向に摺動可能に支持される入力側可動シーブ63を有する入力プーリ60と、
入力側可動シーブ63および変速入力軸50に形成される溝(シーブ側溝63cおよび軸側溝50b)に配置され、入力側可動シーブ63を変速入力軸50に対して相対回転不能に連結する鋼球64・64・・・と、
入力側可動シーブ63の摺動位置を変更するために入力側可動シーブ63に設けられる油圧シリンダ70と、
入力プーリ60に巻回されるベルト140と、
を具備し、
変速入力軸50内に形成される油路(作動溝50e、および作動油路50f)から油圧シリンダ70の油圧室76に送油される作動油の漏れにより、鋼球64・64・・・、入力側可動シーブ63と変速入力軸50との接触面、および入力側可動シーブ6とベルト140との接触面を潤滑するものである。
このように構成することにより、鋼球64・64・・・、入力側可動シーブ63と変速入力軸50との接触面、および入力側可動シーブ63とベルト140との接触面を、入力側可動シーブ63の摺動位置にかかわらず適切に潤滑することができる。
【0155】
また、変速入力軸50には、
入力側固定シーブ61とベルト140との接触面に作動油を供給する油路(潤滑油路50gおよび分配油路50h)が形成されるものである。
このように構成することにより、変速入力軸50に固定された入力側固定シーブ61とベルト140との接触面を適切に潤滑することができる。
【0156】
なお、上記説明においては、複数の皿ばね131・131・・・の軸線のずれを防止するためのガイド部材として、出力部材110の外側ガイド部110a、および内側ガイド部材132を用いる構成を説明したが、以下の如く構成することも可能である。
【0157】
すなわち、図15(a)に示す如く、略円筒形状のガイド部材133を用いて複数の皿ばね131・131・・・の軸線のずれを防止することも可能である。ガイド部材133の内径は、皿ばね131の外径と略同一となるように形成される。また、ガイド部材133の長手方向長さは、複数の皿ばね131・131・・・全てを外側から覆うことができる程度の長さに形成される。このように構成されたガイド部材133によって、皿ばね131・131・・・を外側から案内し、軸線のずれを防止することができる。
【0158】
また、図15(b)に示す如く、付勢部材130を用いていわゆる油圧ダンパーを構成することも可能である。
【0159】
伝達軸90および出力側可動シーブ103の軸筒部には、外側からシリンダ部材134が外嵌される。また、シリンダ部材134の内部には、当該シリンダ部材134の内部空間を前後に分けるようにピストン部材135が配置される。シリンダ部材134およびピストン部材135の摺動面には適宜シール部材が配設され、作動油の流出を防止している。
【0160】
シリンダ部材134の内部空間であって、ピストン部材135の後方の空間(ばね室136)には、付勢部材130(皿ばね131・131・・・)が配置される。ピストン部材135には、当該ピストン部材135を前後方向に貫通する小さな貫通孔であるオリフィス135a・135aが形成される。また、シリンダ部材134の内部空間は作動油で満たされている。
【0161】
ピストン部材135には、前方から出力側可動シーブ103が当接している。また、付勢部材130は、ピストン部材135を前方に向かって付勢している。このようにして、シリンダ部材134、ピストン部材135、および付勢部材130によっていわゆる油圧ダンパーを構成することができる。
【符号の説明】
【0162】
40 ベルト式無段変速機
60 入力プーリ(プーリ)
90 伝達軸(軸)
100 出力プーリ(プーリ)
140 ベルト
150 遊星歯車機構
151 サンギヤ
152 リングギヤ
153 キャリヤギヤ
155 プラネタリ軸
157 プラネタリギヤ
159 支持部材
159d 分配油路(油路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のプーリおよび前記一対のプーリに巻回されるベルトにより無段階に変速された後の動力と、前記一対のプーリおよび前記ベルトにより変速されることなく伝達される動力と、を合成して出力する遊星歯車機構を具備するベルト式無段変速機であって、
前記遊星歯車機構は、
軸上に配置されるサンギヤと、
前記サンギヤと同一軸線上に配置されるリングギヤと、
前記サンギヤおよび前記リングギヤに歯合する複数のプラネタリギヤと、
前記サンギヤと同一軸線上に配置されるキャリヤギヤと、
を具備し、
前記プラネタリギヤは、
一端部が前記キャリヤギヤに回動可能に支持された複数のプラネタリ軸によりそれぞれ回動可能に支持されるベルト式無段変速機。
【請求項2】
前記複数のプラネタリ軸における、前記プラネタリギヤを挟んで前記キャリヤギヤと反対側の端部は、前記軸上に回動可能に支持された支持部材によって支持される請求項1に記載のベルト式無段変速機。
【請求項3】
前記支持部材には、
前記プラネタリ軸に供給される潤滑油が流通するための油路が形成される請求項2に記載のベルト式無段変速機。
【請求項4】
前記キャリヤギヤは、前記サンギヤに回動可能に支持される請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のベルト式無段変速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−102774(P2012−102774A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250343(P2010−250343)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】