説明

ベルト式駆動装置における無停止変速機構

【課題】ベルト式駆動装置の変速機構において、高速と低速の切換およびメインクラッチの入り切りを容易に行う。
【解決手段】駆動軸1に設けた駆動プーリと、従動軸4に設けた伝動比率が異なる従動プーリの間にそれぞれベルト7、8を遊動状態に掛け渡し、いずれか一方のベルトをアーム12、13に装着したテンションローラ9、10で押圧し、高速と低速の切換を行う。アームの回動は一端をリンク杆21、22に支持したロッド16、17の上下動によって行う。リンク杆はリンク杆支持軸18から上放射方向に突出させたリンク作動杆19、20に連結し、変速レバー23でリンク杆支持軸を回動させることによって対称的に上下動させる。リンク杆支持軸18は上下動可能とし、メインクラッチレバー28の操作によって、低速側及び高速側いずれのテンションローラもベルトを押圧しない位置に移動可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として農作業等の運搬車に搭載する動力伝達装置であって、Vベルトを用いた変速機構に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
農作業車等の変速機構として、駆動軸と従動軸に伝動比率の異なる複数組のプーリにベルトを遊動状態に掛け渡し、選択したいずれかのベルトをテンションローラで押圧することによって駆動状態とする変速機構は公知である。従来の一般的なこの種変速機構は、一本のクラッチレバーで一つのテンションローラを作動させ、低速と高速のいずれか一方のベルトを作動させるのが一般的な機構であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−21015号公報
【特許文献2】特開平8−303543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の一般的なこの種変速機構では、一方のクラッチレバーによる押圧を解除した後、他方のクラッチレバーによる押圧を行う必要があったため、走行している車両を一旦停止させてから変速を行っていた。
また、特許文献1のように無停止の状態で変速を行う機構も工夫しているが構造が複雑で、変速装置の調整が困難であるという欠点があった。上記従来技術の欠点に鑑み、本発明は走行しながら、低速と高速の変速及びメインクラッチのON、OFFの切換をスムーズに行うことができる新規な変速機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための請求項1記載の発明は、駆動軸1に設けた二つの駆動プーリ2、3と、従動軸4に設けた伝動比率が異なる二つの従動プーリ5、6の間にそれぞれベルト7、8を遊動状態に掛け渡し、二つのベルト7、8の側方に設けた二つのテンションローラ9、10のいずれか一方でベルト7又は8を押圧するものである。
二つのテンションローラ9、10は、基端部が軸支されて独立して回動するアーム12、13に装着し、このアーム12、13は側方に突出させたアーム作動杆14、15に一端を連結したロッド16、17の軸方向の移動によって回動させて、テンションローラ9、10によるベルト7又は8の押圧を行う。
【0006】
ロッド16、17の他端は、リンク杆支持軸18から一定角度の放射方向に突出させたリンク作動杆19、20に上端が軸支されたリンク杆21、22の下端に軸支し、リンク作動杆19、20が固定されているリンク杆支持軸18を変速レバー23で回動させることによってリンク杆21、22の位置を変位させて、低速側のロッド16と高速側のロッド17の軸方向位置を変更してアーム12及び13を回動させ、低速側ベルト7をテンションローラ9で押圧する低速駆動と、テンションローラ10で高速側ベルト8を押圧する高速駆動を変更可能とする。
【0007】
上記構造において、リンク杆支持軸18は、固定軸24に軸支されたリンク支持板25に軸支し、リンク支持板25の一部に軸支したメインクラッチロッド26の操作によってリンク支持板25を回動させてリンク杆支持軸18の位置を、低速側のテンションローラ9及び高速側のテンションローラ10のいずれもが、ベルト7又は8を押圧しない位置に移動させることができるようにする。テンションローラ9、10のいずれもがベルとの押圧を行わない位置は、メインクラッチOFFであって、動力伝達は行われない。
【0008】
請求項2記載の発明は、リンク支持板25には、メインクラッチOFF状態で変速レバー23の高速位置までの回動を阻止するストッパー27を設けることである。このストッパー位置は、リンク支持板25の回動によって変速レバー23が高速位置にまで移動させることができない位置に移動させる。そして、変速レバー23は、高速側に移動させることができないことによって、バランスで低速側の位置に移動するようにする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、低速又は高速の駆動状態において、変速レバーの操作によって、低速もしくは高速の駆動状態を停止させることなく、簡単かつ確実に変速を行うことができる。そして、メインクラッチロッドを操作することによって、リンク作動杆19、20を介してリンク杆21、22が支持されているリンク杆支持軸18の位置を移動させ、低速側のテンションローラ9又は高速側のテンションローラ10によるベルト7又は8の押圧が、いずれにおいても行われないクラッチOFF状態を、簡単かつ確実に実現することができる。また逆の操作によって、メインクラッチOFFの状態からONの状態に簡単に移行させることができる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、メインクラッチOFF状態で変速レバー23を高速側に移動させることができないとともに、メインクラッチOFFの状態では変速レバー23が常に低速側に移動している。そのため、発進する場合は常に低速で発進し、メインクラッチONの状態においてのみ高速側に変速させることができるため、エンストなどの高速で発進する場合の不都合を回避することができる。すなわち、簡単な構造で低速発進システムを実現することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明に係る変速機構全体のクラッチOFF状態の側面図、
【図2】図2は、図1に示す状態の正面図、
【図3】図3は、図1に示す変速機構のリンク構造部分のみの拡大図であり、(a)は図2のA矢視図、(b)は図2のB‐B線断面図、(c)は図2のC−C線断面図、
【図4】図4は、クラッチONで低速状態の変速機構全体の側面図、
【図5】図5は、クラッチONで高速状態の変速機構全体の側面図、
【図6】図6は、クラッチOFFで変速レバーを高速方向へ回動させた状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るベルト式駆動装置における無停止変速機構の実施形態を添付の図面に基づいて説明する。
添付図面の図1は、変速機構全体のクラッチOFF状態の側面図、図2は図1の正面図、図3は図1に示す変速機構のリンク構造部分のみの拡大図であり、(a)は図2のA矢視図、(b)は図2のB‐B線断面図、(c)は図2のC−C線断面図である。
【0013】
原動機によって駆動される駆動軸1に、低速側の駆動プーリ2と高速側の駆動プーリ3の二つの駆動プーリを設けるとともに、従動軸4に設けた伝動比率が異なる二つの従動プーリ、すなわち低速側の従動プーリ5と高速側の従動プーリ6の間に、それぞれ低速側のベルト7と高速側のベルト8を遊動状態に掛け渡す。二つのベルト7、8の側方には、低速側のテンションローラ9と高速側のテンションローラ10の二つのテンションローラを配置し、テンションローラ9、10のいずれか一方でベルト7又は8を押圧することによって、従動軸4を低速もしくは高速で駆動する。
【0014】
二つのテンションローラ9、10は、基端部が軸支されて独立して回動する低速側のアーム12と、高速側のアーム13に装着している。アーム12、13は、アーム下端の軸支部分から側方に突出させたアーム作動杆14、15に下端が連結された低速側のロッド16と高速側のロッド17によって、それぞれを上下方向に移動させてアーム12、13を回動させ、アーム12、13の先端部に装着したテンションローラ9、10によってベルト7又は8の押圧を行う。
下端を低速側のアーム作動杆14及び高速側のアーム作動杆15に連結された、低速側のロッド16及び高速側のロッド17は、それぞれ長さを調節する調整ネジ29、30と、上端部のバネ31、32を介してロッドの上下動を行うリンク杆21、22の下端に連結されている。
【0015】
低速側のリンク杆21及び高速側のリンク杆22は、それぞれ半円弧状に形成して下端にロッドの上端、図示例ではバネ31、32を連結している。
リンク杆21、22の上端は、図3から理解されるように、リンク杆支持軸18から一定角度の放射方向に突出させたリンク作動杆19、20の先端部に軸支されている。リンク作動杆19、20はリンク杆支持軸18の上方に突出している。半円弧状である低速側のリンク杆21は図面上左側に突出する低速側のリンク作動杆19に軸支し、リンク杆支持軸18の左側を通って低速側のロッド16、具体的にはロッド16の低速側のテンションバネ31に連結され、高速側のリンク杆22は図面上右側に突出する高速側のリンク作動杆20に軸支され、リンク杆支持軸18の右側を通って高速側のロッド17、具体的にはロッド17の高速側のテンションバネ32に連結されている。
【0016】
リンク作動杆19、20が固定されているリンク杆支持軸18は、図3(a)に示すように、一端が固定軸33に軸支されたリンク端板34に軸支され、他端が図3(c)に示すように固定軸24に軸支されたリンク支持板25に軸支されている。図3(c)に示すように、リンク杆支持軸18には、変速レバー23の先端が固定され、変速レバー23を矢印方向に持ち上げて回動させることによって、リンク杆支持軸18を左方向に回動させることができる。
【0017】
リンク杆支持軸18の一端を支持するリンク支持板25は、固定軸24によって機体に軸支するとともに、メインクラッチロッド26の一端がリンク支持板25の下部に軸35で支持されている。また、メインクラッチロッド26の他端は、固定軸36に軸支されたメインクラッチレバー28の一部に軸37で支持されている。
図において、27はリンク支持板25の上部に設けた、変速レバー23の過回動を防止するストッパー、38はメインクラッチロッド26に設けた過回動を防止するストッパーであって、メインクラッチレバー28を引き上げたときに、固定軸36部分に当接しメインクラッチロッド26の過回動を防止する。
【0018】
図1は、メインクラッチレバー28が引き下げられたメインクラッチOFF状態であるが、図3(a)に示すように、メインクラッチロッド26の軸35と軸37を結ぶ線が、メインクラッチレバー28を支持している固定軸36の下側を通過しているので、ロッドに作用する力が、メインクラッチレバーをOFF方向に引っ張り、メインクラッチOFF状態を維持する。
図1、図3に示す状態から、図3(a)に矢印で示す方向にメインクラッチレバー28を引き上げると、メインクラッチレバー28は固定軸36を中心として回動し、この回動にともなってメインクラッチロッド26を支持している軸37が、固定軸36を中心とする回動軌跡上を上方に移動する。軸37の上方への移動によって、メインクラッチロッド26の他端が軸支されている軸35が、右方向に引っ張られる。軸35が右方向に引っ張られると、固定軸24に軸支されているリンク支持板25が左方向に回動し、リンク支持板25に支持されているリンク杆支持軸18が上方に移動し、図4に示す低速の駆動状態に移行する。
【0019】
図4に示す低速の駆動状態では、リンク杆21を介して低速側のロッド16が引き上げられ、アーム12が左方向に回動し、テンションローラ9によって低速側のベルト7が押圧されている。このとき、図4に示すように、メインクラッチロッド26の軸35と軸37を結ぶ線が、メインクラッチレバー28を支持している固定軸36の上側を通過しているので、ロッド16に作用するテンションが、メインクラッチレバー28をON方向に引き上げる力として作用し、メインクラッチON状態を維持する。また、ベルト7を押圧している低速側のロッドに作用する反力、すなわち、低速側のロッド16を引き下げようとする力は、低速側のリンク杆21の両端の支持点39及び40を結ぶ線がリンク杆支持軸18の右側を通過しているため、リンク杆支持軸を右方向に回動させる力として作用し、低速の駆動状態が維持される。変速レバー23は、ストッパー41によって過回動が防止される。
【0020】
図4に示す低速の駆動状態から、図5に示すように変速レバー23を矢印で示すように上方へ回動させると、リンク支持杆18が左方向に回動し、図5に示すように低速側のリンク杆21が下方に移動し、高速側のリンク杆22が上方に移動する。これにより、低速側のロッド16が下方に移動してアーム12を引き起こして低速側のベルト7の押圧を解除すると同時に、上方に移動したリンク杆22を介して高速側のロッド17が上方に移動し、高速側のアーム13を左方向に回動させてテンションローラ10によって高速側のベルト8を押圧して高速の駆動状態を実現する。
【0021】
図5に示す高速の駆動状態では、高速側のテンションローラ10の反力として高速側のロッドを引き下げる方向の力が作用するが、高速側のリンク杆22の両端の支持点42及び43を結ぶ線がリンク杆支持軸18の左側を通過しているためリンク杆支持軸18を左方向に回動させる力として作用し、高速の駆動状態が維持される。変速レバー23は、ストッパー27によって過回動が防止される。
リンク杆21、22を軸支しているリンク作動杆19、20は、リンク杆支持軸18の上方位置を中心として左右方向に一定角度で対称的に突出している。そして、変速レバー23によって、上方位置を中心として一定角度を回動させることができるようにしている。したがって、変速レバーを回動させることによって低速側のリンク杆21と、高速側のリンク杆22は対照的に上下動を行ない、低速の駆動状態と高速の駆動状態の切り替えを円滑に行なう。
【0022】
図1に示す状態は、メインクラッチOFF状態であって、低速側のリンク杆21およびロッド16が上位置、高速側のリンク杆22及びロッド17が下位置であって、リンク杆支持軸18が下方に移動していることによって、低速側及び高速側のいずれのテンションローラ9、10もベルトを押圧しない位置にある。但し、低速側のリンク杆21が高速側のリンク杆22よりも上位置にあって、低速側のテンションローラ9がベルト7に接近している。したがって、このままの状態でメインクラッチレバーを操作して、リンク杆支持軸18を上方に移動させると、必然的に低速の駆動状態で起動する。
【0023】
図1に示す状態は、メインクラッチOFF状態である。この状態で、仮に変速レバー23を起こして高速側に移動させようとすると、駆動状態に比較してリンク支持板25が回動してストッパー24が右方向に移動している。そのため、図6に示すように変速レバー23はストッパー27によって停止され、高速駆動の位置まで移動させることができない。この状態では、高速側のロッド17の延長線上の左側にリンク杆支持軸18があるため、ロッド17に作用する力あるいは変速レバー23などの重量バランスによって、変速レバー23は図1に示す低速側の状態に復帰する。なお、アーム12及び13には図面上右方向、すなわちベルトの押圧を解除する方向に付勢するバネを具備させておくのが好ましい。このようにすると、ロッドの延長方向がリンク杆支持軸18位置を越えない位置で、アームには常にベルトの押圧を解除する方向に作用する。換言すれば、ロッドの延長方向がリンク杆支持軸18位置を越える、低速もしくは高速の駆動状態では駆動状態を維持するように機能する。
【0024】
すなわち、メインクラッチOFF状態にすると、リンク支持板25が回動して変速レバー23を高速位置にまで移動させることができないようにすることで、メインクラッチOFF状態では、変速レバー23が常に低速側に移動し、メインクラッチをONにするときは、常に低速状態からスタートさせる変速装置を実現することができるものである。
【符号の説明】
【0025】
1…駆動軸、 2,3…駆動プーリ、 4…従動軸、 5,6…従動プーリ、 7,8…ベルト、 9,10…テンションローラ、 11…アーム軸、 12,13…アーム、 14,15…アーム作動杆、 16,17…ロッド、 18…リンク杆支持軸、 19,20…リンク作動杆、 21,22…リンク杆、 23…変速レバー、 24固定軸、25…リンク支持板、26…メインクラッチロッド、 27…ストッパー、 28…メインクラッチレバー、 29,30…調整ネジ、 31,32…バネ、 33…固定軸、 34…リンク端板、 35,37…軸、 36…固定軸、 38…ストッパー、 39,40,42,43…支持点、 41…ストッパー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に設けた二つの駆動プーリと、従動軸に設けた伝動比率が異なる二つの従動プーリの間にそれぞれベルトを遊動状態に掛け渡し、二つのベルトの側方に設けた二つのテンションローラのいずれか一方でベルトを押圧するものであって、二つのテンションローラは、基端部が軸支されて独立して回動するアームに装着し、該アームは側方に突出させたアーム作動杆に一端を連結したロッドの軸方向の移動によって回動させて、テンションローラによるベルトの押圧を行い、ロッドの他端はリンク杆支持軸から一定角度の放射方向に突出させたリンク作動杆に上端が軸支されたリンク杆の下端に軸支し、リンク作動杆が固定されているリンク杆支持軸を変速レバーで回動させることによってリンク杆の位置を変位させて低速側のロッドと高速側のロッドの軸方向位置を変更して低速側ベルトの駆動と高速側ベルトの駆動を変更するベルト式変速機構において、
リンク杆支持軸は、固定軸に軸支されたリンク支持板に軸支し、リンク支持板の一部に軸支したメインクラッチロッドの操作によってリンク支持板を回動させてリンク杆支持軸の位置を、低速側のテンションローラ及び高速側のテンションローラのいずれもが、ベルトを押圧しないメインクラッチOFF位置に移動させることができるようにしたことを特徴とするベルト式駆動装置における無停止変速機構。
【請求項2】
リンク支持板には、メインクラッチOFF状態で変速レバーの高速位置までの回動を阻止するストッパーを設けるとともに、該ストッパー位置は変速レバーを低速側に移動させるバランス位置であることを特徴とする請求項1記載のベルト式駆動装置における無停止変速機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−42029(P2012−42029A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185960(P2010−185960)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(596008840)株式会社ウインブルヤマグチ (2)
【Fターム(参考)】