説明

ベータゼオライト及び水素化分解触媒

【課題】ベータゼオライトの結晶化度を落とさずに、0.15mL/g以上のメソ細孔、100m2/g以上の外表面積を付与したベータゼオライト、及び該ベータゼオライトの製造方法、さらには該ベータゼオライトを用いた高性能の水素化分解触媒、該水素化分解触媒の製造方法、並びに該水素化分解触媒を用いた水素化分解方法、を提供すること。
【解決手段】BJH法で求めた細孔径2〜10nmの細孔容量が0.15mL/g以上であり、t−plot法で求めた外表面積が100m2/g以上であり、かつ、結晶化度が50〜95%であるベータゼオライト、及び該ベータゼオライトを含む担体に、水素化活性を有する金属成分を担持してなる水素化分解触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なベータゼオライト、該ベータゼオライトを用いた新規な水素化分解触媒、及び該水素化分解触媒を用いた水素化分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベータゼオライトは、1967年に提示されたゼオライトである。ベータゼオライトは、現在、石油精製触媒として主に使用されているフォージャサイト型に比べて、ゼオライトのミクロ細孔が小さいという特徴がある。また、ベータゼオライトは、吸着剤としての使用例がある。
ところで、2000年以降、アルカリ処理によってZSM−5などのゼオライトにメソ細孔を付与する検討がされてきている。アルカリ処理は、スチーミングあるいは酸処理といった酸点となるアルミナを除去しないことから、酸量を低下させずに、メソ細孔を付与することができる方法である。ベータゼオライトについても、2008年からアルカリ処理によるメソ細孔付与の検討がなされてきた(非特許文献1参照)。非特許文献1に記載されている方法は、ベータゼオライトを水酸化ナトリウムでアルカリ処理し、メソ細孔を付与するものであるが、結晶化度が低下し、例えば、ベンゼンのアルキル化活性での評価では、未処理のものに比較して低下している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Microporous and Mesoporous Materials, 114, 93 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ベータゼオライトの結晶化度を落とさずに、0.15mL/g以上のメソ細孔、100m2/g以上の外表面積を付与したベータゼオライト、及び該ベータゼオライトの製造方法、さらには該ベータゼオライトを用いた高性能の水素化分解触媒、該水素化分解触媒の製造方法、並びに該水素化分解触媒を用いた水素化分解方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、従来から知られているベータゼオライトを、特定の条件で処理することで、結晶化度を落とさずに、細孔径2〜10nmの細孔、いわゆるメソ細孔を発現させることができることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)BJH法で求めた細孔径2〜10nmの細孔容量が0.15mL/g以上であり、t−plot法で求めた外表面積が100m2/g以上であり、かつ、結晶化度が50〜95%であるベータゼオライト、
(2)原料ベータゼオライトを、濃度0.01〜0.5Mのアルカリ水溶液中に、5〜95℃の温度で懸濁させ、回収する工程を含む、上記(1)に記載のベータゼオライトの製造方法、
(3)上記(1)に記載のベータゼオライトを含む担体に、水素化活性を有する金属成分を担持してなる水素化分解触媒、
(4)前記担体がさらに耐火性無機酸化物を含む、上記(3)に記載の水素化分解触媒、
(5)高芳香族炭化水素油を水素化処理して得られる留分を、上記(3)又は(4)に記載の水素化分解触媒を用いて水素化分解する方法、
(6)下記(i)〜(iii)の工程を含む、水素化分解触媒の製造方法。
(i)原料ベータゼオライトを、濃度0.01〜0.5Mのアルカリ水溶液中に、5〜95℃の範囲で懸濁させ、回収する工程
(ii)該回収されたベータゼオライトをバインダーと混練し、押し出し、次いで焼成して、ベータゼオライト成形体を得る工程、
(iii)ベータゼオライト成形体を少なくとも含有する担体に、少なくとも1つの水素化活性を有する金属成分を担持する工程
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、メソ細孔を十分に有し、結晶化度の維持されたベータゼオライトが得られる。該ベータゼオライトを水素化触媒の担体として用いることで、水素化性能の高い水素化分解触媒を得ることができる。特に、高芳香族炭化水素油を水素化処理して得られる留分を、本発明の水素化分解触媒で水素化分解することにより、石油化学原料として有用な1環芳香族化合物を効率良く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(ベータゼオライト)
本発明のベータゼオライトは、BJH法で求めた細孔径2〜10nmの細孔容量が0.15mL/g以上であり、t−plot法で求めた外表面積が100m2/g以上であり、かつ、結晶化度が50〜95%であることを特徴とする。
BJH法で求めた細孔径2〜10nmの細孔(以下「メソ細孔」と記載する場合がある。)の細孔容量が0.15mL/g未満であると、該ゼオライトを用いて水素化分解触媒を調製した際に、水素化分解能力が十分でない。特に、高芳香族炭化水素油などの重質軽油留分を分解する能力が十分でない。以上の点から、メソ細孔の細孔容量は0.20mL/g以上が好ましい。一方、上限値については、本発明の効果を阻害しない範囲で特に制限はないが、過度に大きいとベータゼオライトの結晶化度が低下し、水素化分解能力が十分でない場合がある。以上の観点から、メソ細孔の細孔容量は、0.20〜0.5mL/gの範囲がさらに好ましい。
【0008】
また、本発明のベータゼオライトは、t−plot法で求めた外表面積が100m2/g以上である。外表面積が100m2/g未満であると水素化分解能力が十分でない場合がある。以上の点から、外表面積は150m2/g以上であることが好ましい。上限値については、本発明の効果を阻害しない範囲で特に制限はないが、過度に大きいとゼオライトの結晶化度が低下し、水素化分解能力が十分でない場合がある。以上の観点から、外表面積は150〜450m2/gの範囲がさらに好ましい。
【0009】
次に、本発明のベータゼオライトは、結晶化度が50〜95%である。結晶化度が50%未満であると、水素化分解能力が十分でない場合がある。一方、結晶化度95%を超えて結晶化度を維持しつつ、上述のメソ細孔を得ようとするのは製造効率が悪いという問題がある。具体的には、後に詳述するように、アルカリ濃度を極端に低くし、処理時間を長くすることで、結晶化度を高く維持することができるが、製造上問題がある。以上の点から、結晶化度は55〜90%の範囲が好ましい。
なお、結晶化度は、以下の方法で算出した。
<結晶化度の算出方法>
市販のベータゼオライト(ズードケミー社製「BEA25」)のX線回折測定を行い、2θ=22.4度におけるX線回折強度を指標とし、これを結晶化度100%として、その相対強度比から算出した。
【0010】
(ベータゼオライトの製造方法)
本発明のベータゼオライトを製造する方法について、以下詳細に記載する。
<原料ベータゼオライト>
まず、原料のベータゼオライト(以下「原料ベータゼオライト」と記載する。)について、ケイバン比(SiO2/Al23(モル比))は20〜150、表面積は600〜750m2/g、及び細孔容量(PV)は0.3〜0.8mL/gが好ましい。
【0011】
<ベータゼオライトの製造方法>
本発明のベータゼオライトの製造方法においては、原料ベータゼオライトを、濃度0.01〜0.5Mのアルカリ水溶液中に、通常、5〜95℃、好ましくは15〜70℃、さらに好ましくは23〜70℃の温度で、10〜60分間懸濁させ、該ベータゼオライトを回収する工程を含む。ここで、原料のベータゼオライトを、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液中に懸濁させ、ベータゼオライト中のシリカをアルカリに溶出させる点が特徴である。このような処理を行うことで、シリカをゼオライトの骨格外に除去することができ、これによって、ゼオライトにメソ細孔を付与することができる。
【0012】
アルカリ水溶液の濃度が0.01M未満の場合には、長時間懸濁させることができれば、メソ細孔を付与することができる。特に、結晶化度を極力維持しつつ、メソ細孔も付与したい場合には、アルカリ水溶液の濃度を低くして、時間をかけて脱シリカしてもよい。しかしながら、通常は、メソ細孔を付与するための時間が長時間となり、効率的でないため、製造上好ましくない。
一方、アルカリ水溶液の濃度が0.5Mを超えると、結晶化度を維持できず、結晶が壊れてしまい、所望の水素化分解活性を示すことができない。
以上の観点から、アルカリ水溶液の濃度は、0.01〜0.5Mの範囲がより好ましく、0.05〜0.2Mの範囲がさらに好ましい。
【0013】
次に、アルカリ水溶液に懸濁させたベータゼオライトは、洗浄し、回収する。洗浄及び回収の方法としては、特に制限はなく、例えば、吸引ろ過しながら、60℃程度の温水にて洗浄し、そのまま吸引ろ過にて、回収する方法などがある。回収方法に制限はなく、例えば、加圧ろ過でも可能である。
回収したゼオライトは、通常、80〜150℃で一晩程度乾燥する。乾燥した該ゼオライトは、触媒として用いる場合には、通常、0.1〜1.0Mの(NH4)2SO4で3回程度イオン交換を行い、Na型からNH4型とするのが好ましい。
【0014】
(水素化分解触媒)
本発明のベータゼオライトは、水素化分解触媒の担体として有用である。すなわち、本発明のベータゼオライトを含む担体に、水素化活性を有する金属成分を担持してなる水素化分解触媒は、非常に有用であり、本発明に包含されるものである。
また、上記水素化分解触媒の担体としては、本発明のベータゼオライトのみからなってもよいが、触媒の物理的強度を増大させ、必要とする分解能力が得られ、かつ過分解が起きないように、さらに耐火性無機酸化物を含むことが好ましい。なお、該耐火性無機酸化物は、後に説明する、触媒担体を製造する際に用いられるバインダーの役割を兼ねることもできる。
耐火性無機酸化物を用いる場合のベータゼオライトの含有量は、担体の質量を基準として、10〜80質量%が好適である。10質量%以上であれば、一定の分解能力が確保でき、80質量%以下であれば、分解能力が高すぎて、水素化分解が進みすぎることがなく、生成油に含まれる必要な成分、例えば1環芳香族や灯軽油留分が確保される。以上の観点から、担体中のベータゼオライトの含有量は、20〜80質量%の範囲がさらに好ましく、30〜80質量%の範囲が特に好ましい。
なお、担体の形状としては、特に限定されないが、円柱、三葉、四葉等の成型体が均一な充填がしやすい点で好適である。
【0015】
<耐火性無機酸化物>
耐火性無機酸化物としては特に制限はなく、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−ボリア(酸化ホウ素)、アルミナ−ボリア(酸化ホウ素)、粘土鉱物などが挙げられる。本発明においては、触媒の表面積を広くでき、水素化活性金属を含む水溶液で、該金属を担持させやすい点から、アルミナが好ましい。なお、本発明における耐火性無機酸化物には、ベータゼオライトは含まない。
このような耐火性無機酸化物は、1種を単独で用いることもできるし、また2種以上を併用することもできる。
【0016】
<水素化活性を有する金属成分>
水素化活性を有する金属成分(以下「水素化活性金属成分」と記載する。)とは、炭化水素を水素化処理可能な性能を持つ金属又は金属化合物を意味する。通常は、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱メタル、水素化分解の少なくとも一つの効果を有する。水素化活性金属成分としては、周期律第6、8、9、及び10族金属が挙げられ、特に、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等が水素化処理能力に優れる点で好適である。
モリブデン化合物としては三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム等が好ましく、タングステン化合物としては、三酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム等が好ましい。コバルト化合物としては、炭酸コバルト、塩基性炭酸コバルト、硝酸コバルト等が好ましく、ニッケル化合物としては、炭酸ニッケル、塩基性炭酸ニッケル、硝酸ニッケル等が好ましい。
さらに、リン化合物も担持成分として好適に用いることができ、リン化合物としては、五酸化リン、正リン酸等の各種リン酸が使用される。
【0017】
本発明の水素化分解触媒中の水素化活性金属の担持量は、触媒体として、酸化物基準で1〜40質量%の範囲が好ましい。水素化活性金属の担持量が1質量%以上であると、触媒活性が十分に発現し、40質量%以下であると、金属の分散不良による活性低下がなく、触媒の強度不足等の悪影響を触媒体に与えることがない。また、担持した金属量に見合う触媒活性も得られない。以上の観点から、水素化活性金属の担持量は、酸化物基準で5〜30質量%の範囲がより好ましい。
さらに、好ましい担持量は、水素化活性金属の種類に応じて異なり、触媒体として、酸化物基準で、モリブデン(MoO3)、タングステン(WO3)の場合は、10〜30質量%の範囲が好ましく、コバルト(CoO)、ニッケル(NiO)の場合は1〜6質量%の範囲が好ましく、リン(P25)は5質量%以下が好適である。
【0018】
(水素化分解触媒の製造方法)
本発明の水素化分解触媒の製造方法は、下記(i)〜(iii)の工程を含むものである。
(i)原料ベータゼオライトを、濃度0.01〜0.5Mのアルカリ水溶液中に、5〜95℃の範囲で懸濁させ、回収する工程
(ii)該回収されたベータゼオライトをバインダーと混練し、押し出し、次いで焼成して、ベータゼオライト成形体を得る工程、
(iii)ベータゼオライト成形体を少なくとも含有する担体に、少なくとも1つの水素化活性を有する金属成分を担持する工程
【0019】
上記(i)の工程は、ベータゼオライトの製造方法において記載した、回収工程までのものと同様である。
上記(ii)の工程において用いられる、バインダーとしては、前述の耐火性無機酸化物にて例示したものを用いることができ、これらのうち、特にアルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ボリア、ボリアアルミナなどが好適に挙げられる。
(ii)工程では、(i)工程で得られたベータゼオライトをバインダーとともに、通常の方法で混練し、押し出し成形し、焼成して、ベータゼオライト成形体を得る。押し出しの際の担体の形状は、特に限定されないが、前述のように、均一な充填がしやすい点から、円柱、三葉、四葉等となるように押し出される。また、焼成温度は300〜750℃であることが好ましく、通常0.1〜24時間程度行われる。なお、焼成の前に30〜200℃程度の温度で乾燥工程を有していてもよい。
【0020】
上記(iii)の工程における水素化活性を有する金属成分は、前記水素化活性金属成分と同様である。
水素化活性金属成分は、通常、含浸法により、担体に担持されるが、本発明においては、本発明の新規ベータゼオライトを担体として、これに水素化活性金属成分を担持することができる。また、担体として、耐火性無機酸化物を併用する場合には、水素化活性金属成分を新規ベータゼオライト、又は耐火性無機酸化物の一方に担持させた後、両者を混合してもよいし、新規ベータゼオライトと耐火性無機酸化物をあらかじめ混合して担体を調製しておき、これに水素化活性金属成分を担持してもよい。
【0021】
上記の周期律第6、8、9、及び10族金属ならびにリン化合物は別々に含浸してもよいが、同時に行なうのが効率的である。通常は、含浸液中の水素化活性金属及びリンの含有量は、目標とする担持量から計算で求める。これらの金属を脱イオン水に溶解させた後、その含浸液の液量を用いる担体の吸水量に等しくなるように調整した後、含浸させる。
なお、水素化活性金属の溶解性や触媒体内部における分布を改善するために、含浸液に有機酸を添加することも行なわれる。有機酸としては、クエン酸やリンゴ酸が好適である。
さらには、上述した活性金属を高分散化するために界面活性剤等の水溶性有機物を添加することができ、その中でも分子量が90〜10000のポリエチレングリコールが好適である。該ポリエチレングリコールを添加する場合、添加量は担体に対して好ましくは2〜20質量%、より好ましくは3〜15質量%の範囲が好適である。添加量が小さすぎると効果がなく、多すぎても効果がないためである。
【0022】
上記含浸処理の後に、通常熱処理を行なう。逐次的に含浸を実施する場合には、含浸の度に熱処理を行なうことも可能であるし、複数の含浸を行なった後、最後に熱処理を行なうこともできる。熱処理は空気中で、300〜750℃、好ましくは450〜700℃で行なう。熱処理時間としては、1〜10時間程度、さらには2〜7時間程度行なうことが好適である。
【0023】
(水素化分解方法)
本発明の水素化分解触媒を用いて、炭化水素類を水素化分解する方法としては、例えば、固定床(充填層)、移動床、懸濁床(スラリー床)、沸騰床などの反応形式を用いて、炭化水素類と共に、前記水素化分解触媒を装入し、水素ガス含有雰囲気下で、300〜500℃程度に加熱することにより行うことができる。
本発明の水素化分解触媒は、種々の原料油に対して用いることができるが、特に、多環芳香族を10容量%以上含む高芳香族炭化水素油、例えば、流動接触分解装置由来のもの(Light Cyclic Oil;以下「LCO」と記載する。)、コーカー等の熱分解装置由来のもの(以下「コーカー油」と記載する。)、あるいはオイルサンド等の劣質な油を起源としたもの(以下「オイルサンドビチューメン」と記載する。)、ならびにこれらの高芳香族含有炭化水素油を混合したもの(以下、単に「混合油」と記載する。)を原料油として用いることが好ましい。これらの留分は、一般に2環、3環芳香族が多く、本発明の新規水素化分解触媒で処理することで、付加価値の高い1環芳香族に変換することが可能である。
【0024】
本発明の水素化分解触媒を用い、LCO、コーカー油、オイルサンドビチューメン、混合油などを処理して、1環芳香族の多い油を得る方法として、これらの原料油を、例えば市販の水素化処理触媒で水素化処理し、その上で本発明の水素化分解触媒を用いて、水素化分解することが好ましい。
水素化処理の条件としては、反応温度:250〜420℃、水素分圧:5〜15MPa、液空間速度:0.2〜3.0h-1であることが好ましく、水素化分解の条件としては、反応温度:300〜440℃、水素分圧:5〜15MPa、好ましくは6〜12MPa、LHSV(液空間速度):0.3〜3.0h-1である。
なお、ここで水素化処理とは、通常、水素化脱硫、水素化脱金属、水素化脱窒素、芳香族への核水添のいずれか一以上の処理を行うことをいう。
【0025】
上記水素化処理触媒としては,周期律第6、8、9、及び10族金属のうちの少なくとも一種を耐火性無機酸化物担体に担持した触媒を好適に用いることができる。
水素化活性金属成分としては、例えば、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等が好適である。さらに、リン化合物を担持させることができる。担持量は触媒体として、酸化物基準で、モリブデン、タングステンが10〜40質量%、コバルト、ニッケルが2〜10質量%、リンが1〜10質量%が好適である。
【0026】
これらの水素化活性金属化合物は、通常含浸法により各種耐火性無機酸化物担体に担持される。上記の周期律第6、8、9、及び10族金属ならびにリン化合物は別々に含浸しても良いが、同時に行なうのが効率的である。なお、水素化活性金属の触媒体内部における分布を改善するために、含浸液に有機酸を添加することも行なわれる。有機酸としては、クエン酸やリンゴ酸が好適である。さらには、上述した活性金属を高分散化するために界面活性剤等の水溶性有機物を添加することができる。添加量は担体に対して、2〜20質量%の範囲が好ましく、3〜15質量%の範囲がより好ましい。上記含浸処理の後に、通常熱処理を行なう。逐次的に含浸を実施する場合には、含浸の度に熱処理を行なうことも可能であるし、複数の含浸を行なった後、最後に熱処理を行なうこともできる。熱処理は空気中で、通常550℃以下の条件で行なう。触媒の種類に応じて、300℃以下の比較的低温で熱処理を行なうこともある。熱処理時間としては、0.5〜48時間程度、さらに好ましくは1〜24時間程度である。
【0027】
担体として用いられる耐火性無機酸化物としては、特に制限はないが、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−ボリア(酸化ホウ素)、アルミナ−ボリア(酸化ホウ素)、粘土鉱物及びそれらの混合物等が好適に使用される。これらの中でも、アルミナ、シリカ−アルミナが好適である。
さらには、アルミナに水溶性チタン化合物を含浸・担持したものも好適に使用される。チタンを担持する場合、1〜10質量%、好ましくは2〜5質量%の担持量が好適である。これらの耐火性無機酸化物の表面積は、通常100〜400m2/gであることが好ましく、150〜300m2/gがより好ましい。
また、担体の平均細孔径は、通常5〜30nmの範囲、さらには6〜15nmの範囲が好適である。担体の形状としては特に限定されないが、円柱、三葉、四葉等の成型体が好適に使用される。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
(ベータゼオライトの物性評価方法)
1.結晶化度
明細書本文中に記載の方法で実施した。
2.表面積
前処理として試料を400℃、3時間、真空排気を行った。表面積は、BET多点法により測定した(P/P0=0.1以下、P0は液体窒素温度での窒素の飽和蒸気圧、Pは導入した窒素分圧)。
3.細孔径2〜10nmの細孔容量(mL/g)及び平均メソ細孔径
BET法により測定した値からBJH法にて計算して求めた。
4.外表面積(m2/g)
BET法により測定した値からt−plot法にて計算して求めた。
【0029】
(触媒活性の評価)
1.原料油
第1表に記載の重油流動接触分解装置から留出した高芳香族炭化水素油(分解軽油、以下「LCO1」と記載する。)を、後述する水素化処理触媒Aを充填した反応器に通油して、水素化処理し、第1表に記載する性状を有する高芳香族炭化水素油(以下「LCO2」と記載する。)を得た。反応条件は、反応温度345℃、反応圧力6.9MPa、LHSV(液空間速度)1.6h-1で行った。なお、水素化処理触媒Aに通油した後の油については、窒素バブリング等による硫化水素の除去を行わずに回収した。
【0030】
【表1】

【0031】
2.水素化処理触媒A
CoMo系の市販軽油水素化脱硫触媒(日本ケッチェン社製「KF757H」)を、軽油水素化脱硫装置にて、硫黄分の目標を10質量ppm以下で、反応温度330〜370℃、LHSV=1.0〜1.5h-1、水素分圧4.9MPa、水素/油比250Nm3/kLで2年間運転したものを水素化処理触媒Aとした。
【0032】
3.評価方法
高圧固定床流通式のベンチ反応器を直列に連結し、実施例及び比較例にて調製した水素化分解触媒を用いて水素化分解反応を実施した。原料油は水素ガス(ボンベの純水素を昇圧して使用)とともに反応管の上段から導入するダウンフロー形式で反応器内に流通させた
水素化分解触媒を5mL、反応器に充填した。前処理として、DMDS(ジメチルジスルフィド)を添加し、硫黄濃度を2質量%に調整した軽油留分(Light Gas Oil;LGO)をベースとする予備硫化油を水素ガスとともに反応器に流通させて、温度250℃で10時間予備硫化を行なった。
次に、第1表に記載したLCO2に切り替えて、水素化分解反応を行なった。反応温度は360〜375℃の範囲で、転化率が75質量%になるように制御した。反応圧力は水素化分解反応器出口で6.9MPa、水素/原料油比は、反応器入口で2,000Nm3/kL、LHSV(液空間速度)は1.5h-1の条件に調整し、ベンチ試験を行なった。水素化分解触媒に通油後のガスについては流量を測定するとともに、ガスクロにて分析し、生成油については秤量した。生成油は、蒸留ガスクロおよびFIDのガスクロにて、バックフラッシュを行い、定性を行った。
触媒活性は、原料油中の、常圧での沸点が340℃以上の留分の転化率及び1環芳香族の収率で評価した。なお、3環芳香族であるフェナントレンの沸点が340℃であるので、340℃以上の留分の転化率が高いほど、3環芳香族の分解率が高いことを意味する。
【0033】
実施例1(本発明のベータゼオライトの調製)
市販のベータゼオライト(ズードケミー社製「BEA35」、ケイバン比35)を原料ベータゼオライトとして用い、該ベータゼオライトを、60℃の0.1M水酸化ナトリウム水溶液に30分間懸濁させ、吸引ろ過しながら、温水を使用して洗浄し、その後、吸引ろ過により回収した。該ベータゼオライトを120℃の恒温乾燥機で一晩乾燥させた。
その後、70℃の0.5M硫酸アンモニウム水溶液に1時間懸濁させ、洗浄し、回収した。これを3回行った後、120℃の恒温乾燥機で一晩乾燥させた。このイオン交換によって、Na型からNH4型になったベータゼオライト1を得た。
該ベータゼオライト1の物性を上記方法にて評価した。結果を第2表に示す。また、参考例として、原料ベータゼオライト(市販のベータゼオライト)の物性を同様に評価した結果を第2表に示す。
【0034】
実施例2(本発明のベータゼオライトの調製)
実施例1において、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.2Mとしたこと以外は、製造例1と同様にしてベータゼオライト2を得た。実施例1と同様に評価した結果を第2表に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例3(水素化分解触媒の調製)
アルミナ粉に硝酸水溶液を添加し、20分程度捏和した後、上記実施例1で得られたベータゼオライト1を添加し、1時間捏和した。アルミナと該ベータゼオライト1は乾燥物基準の重量比で50対50になる割合とした。この捏和物を1/16の四葉型の成型物とし、120℃で3時間乾燥し、さらに550℃で3時間焼成し、担体1を得た。
次いで、三酸化モリブデンと炭酸コバルトを純水に懸濁したものを90℃に加熱し、次いでリンゴ酸を加え溶解させた。この溶解液を担体1にそれぞれ触媒全体に対して、仕込みのMoO3として6質量%、CoOとして2質量%になるように含浸し、次いで乾燥させ、550℃で3時間焼成し、水素化分解触媒1を得た。該水素化分解触媒1について、上記方法にて評価した結果を第3表に示す。
【0037】
実施例4(水素化分解触媒の調製)
実施例3において、ベータゼオライト1に代えて、実施例2で調製したベータゼオライト2を用いたこと、及び炭酸コバルトを塩基性炭酸ニッケルに変えたこと以外は、実施例3と同様にして、水素化分解触媒2を得た。該水素化分解触媒2について、上記方法にて評価した結果を第3表に示す。
【0038】
比較例1(比較水素化分解触媒の調製)
実施例3において、ベータゼオライト1に代えて、原料ベータゼオライト(ズードケミー社製「BEA35」、ケイバン比35)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、水素化分解触媒3を得た。該水素化分解触媒3について、上記方法にて評価した結果を第3表に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
実施例3及び4により調製された触媒は、担体のベータゼオライトにメソ細孔が付与されているため、重質分が触媒内に拡散しやすくなり、重質分がより分解されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のベータゼオライトは、結晶化度を維持しつつ、十分な量のメソ細孔を有するため、該ベータゼオライトを水素化触媒の担体として用いることで、水素化性能の高い水素化分解触媒を得ることができる。特に、高芳香族炭化水素油を水素化処理して得られる留分を、本発明の水素化分解触媒で水素化分解することにより、石油化学原料として有用な1環芳香族化合物を効率良く得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BJH法で求めた細孔径2〜10nmの細孔容量が0.15mL/g以上であり、t−plot法で求めた外表面積が100m2/g以上であり、かつ、結晶化度が50〜95%であるベータゼオライト。
【請求項2】
原料ベータゼオライトを、濃度0.01〜0.5Mのアルカリ水溶液中に、5〜95℃の温度で懸濁させ、回収する工程を含む、請求項1に記載のベータゼオライトの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のベータゼオライトを含む担体に、水素化活性を有する金属成分を担持してなる水素化分解触媒。
【請求項4】
前記担体がさらに耐火性無機酸化物を含む、請求項3に記載の水素化分解触媒。
【請求項5】
高芳香族炭化水素油を水素化処理して得られる留分を、請求項3又は4に記載の水素化分解触媒を用いて水素化分解する方法。
【請求項6】
下記(i)〜(iii)の工程を含む、水素化分解触媒の製造方法。
(i)原料ベータゼオライトを、濃度0.01〜0.5Mのアルカリ水溶液中に、5〜95℃の範囲で懸濁させ、回収する工程
(ii)該回収されたベータゼオライトをバインダーと混練し、押し出し、次いで焼成して、ベータゼオライト成形体を得る工程、
(iii)ベータゼオライト成形体を少なくとも含有する担体に、少なくとも1つの水素化活性を有する金属成分を担持する工程

【公開番号】特開2010−215433(P2010−215433A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61793(P2009−61793)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】