説明

ベーンポンプ

【課題】低コストであり且つ振動や騒音を防止する。
【解決手段】ベーンポンプは、ロータ3の回転軸方向の両端面に、ガイド蓋15を一体に設ける。このガイド蓋は、各ベーン溝9の回転軸方向の開口を塞ぐとともに、該ベーン溝内に配置されるベーン4と摺接するものである。また、ロータの各ベーン溝に対して連通接続される導入経路1と設ける。この導入経路は、作動流体を該ベーン溝内に導入することでベーンに対して背圧を与えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプの漏れ損失を防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
小型に形成できるポンプとして、ベーンポンプが好適に用いられる。従来のベーンポンプは、図11に示すように、ポンプ室2を有するケース10と、ポンプ室2に偏心させて収納したロータ3と、ロータ3の径方向及び回転軸方向に開口するように該ロータ3に形成した複数のベーン溝9と、ポンプ室内周面2bにその先端が摺接するように各ベーン溝9内にて径方向にスライド自在に配置されたベーン4とを、備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このベーンポンプにおいては、ポンプ室2内面とロータ3とベーン4とで囲まれる複数の作動室5が、ロータ3の回転駆動によりその容積を大小変化させる。そして、容積拡大過程にある作動室5に対して吸入路6を通じて作動流体を流入させ、容積縮小過程にある作動室5から吐出路7を通じて作動流体を排出させる。
【0004】
上記構成のベーンポンプにおいて、ポンプ効率を高めるためには、ベーン4の先端をポンプ室2内面に対して確実に密着させる必要がある。
【0005】
ベーン4の密着性を確保するための第一の手段としては、ベーン溝9内にある各ベーン4を、ロータ3の回転軸方向にガタツキが生じないように組み付けることが考えられる。これにより、ベーン4の径方向への円滑なスライドが確保され、ベーン4の先端全体がポンプ室内周面2bに対して確実に密着しやすくなる。さらに、ベーン4のガタツキ防止によって、運転中の振動や騒音も防止される。しかし、これを達成するためには、ロータ3と、これを組み込むケース10との間で、厳しい寸法精度が要求される。また、ロータ3とケース10の組み付け精度についても厳しいものが要求される。
【0006】
また、ベーン4の密着性を確保するための第二の手段として、ベーン4の背圧を高めることのできるバネ等の付勢部材を、ベーン溝9内に配置しておくことが考えられる。しかし、このような付勢部材を用いたときには、ベーン4に対して付勢力を均等に与えにくいという問題がある。また、この付勢部材が振動や騒音発生の原因となることも考えられる。
【0007】
つまり、上記第一、第二の手段を採用した場合であっても、ポンプ効率を高めることと、低コストで提供することと、運転時の振動や騒音を防止することは、両立が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−291488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みて発明したものであって、高いポンプ効率を達成することのできるベーンポンプを、低コストであり且つ振動や騒音も防止されたものとして提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のベーンポンプは、以下の構成を具備したものとする。
【0011】
本発明のベーンポンプは、ケース10内に形成されるポンプ室2と、ポンプ室2に偏心させて収納したロータ3と、ロータ3の回転軸を中心として径方向に伸びるとともに径方向及び回転軸方向の外方に開口する複数のベーン溝9と、ポンプ室内周面2bにその先端が摺接するように各ベーン溝9内にて径方向にスライド自在に配置されるベーン4と、ポンプ室2内面とロータ3とベーン4とで囲まれてロータ3の回転駆動によりその容積を大小変化させる複数の作動室5と、容積拡大過程にある作動室5に対して作動流体を流入させる吸入路6と、容積縮小過程にある作動室5から作動流体を排出させる吐出路7とを備えている。さらに、ロータ3の回転軸方向の両端面に対して一体に固定されるガイド蓋15と、ロータ3の各ベーン溝9に対して連通接続される導入経路1とを具備している。上記ガイド蓋15は、各ベーン溝9の回転軸方向の開口を塞ぐとともに該ベーン溝9内に配置されるベーン4を摺接させるものである。上記導入経路1は、作動流体を各ベーン溝9内に導入することでベーン4に対して背圧を与えるものである。
【0012】
上記構成からなる本発明のベーンポンプによれば、ロータ3の回転軸方向の両側にガイド蓋15を一体に設けておくことで、両ガイド蓋15によって各ベーン4のガタツキを防止して円滑なスライドを確保し、各ベーン4の先端全体をポンプ室内周面2bに対して確実に密着させることができる。さらに、各ベーン4のガタツキ防止によって、運転中の振動や騒音も防止される。そして、導入経路1によりベーン溝9内に導入した作動流体によって、ベーン4には背圧を均等に与えることができる。つまり、本発明のベーンポンプによれば、ロータ3やケース10に対する過度の寸法精度や、過度の組み立て精度を要求することなく、高いポンプ効率を達成することができる。
【0013】
本発明のベーンポンプにおいて、上記導入経路1は、ガイド蓋15に形成したものであることが好ましい。このように、ガイド蓋15を利用して導入経路1を形成することで、作動流体の導入手段をシンプルな構造で実現することができる。
【0014】
更に、上記導入経路1は、ガイド蓋15の外周面15aに設けた開口1aを通じて、ポンプ室2内の作動流体を導入経路1内に導入するものであることが好ましい。このようにすることで、ポンプ室2内の作動流体を速やかに導入することができる。
【0015】
また、上記導入経路1は、ケース10に形成したケース側経路20と、ガイド蓋15に形成したガイド蓋側経路21とを、連通接続させたものであることも好ましい。このように、回転による遠心力が作用しないケース側経路20を通じて作動流体を導入するように設けることで、作動流体をベーン溝9内に円滑に導入することができる。
【0016】
また、上記導入経路1は、ロータ3に形成したものであることも好ましい。このようにすることで、ベーン溝9に連通する導入経路1をロータ3内にて一直線状に形成することができ、作動流体の圧力損失を低減することができる。
【0017】
また、上記導入経路1は、ガイド蓋15の内底面15cに設けた開口1bを通じて、導入経路1内の作動流体をベーン溝9内に導入するものであることが好ましい。このようにすることで、導入経路1を極力短く形成することができ、構造をよりシンプル化するとともに圧力損失を低減ことができる。
【0018】
また、上記導入経路1は、径方向外側にむけて、作動流体をベーン溝9内に導入するものであることも好ましい。このようにすることで、ベーン4の突出方向と作動流体の導入方向を一致させ、ベーン4に与える背圧を増大させることができる。
【0019】
また、上記ガイド蓋15は、回転軸方向に貫通した空所40を中央部に有するリング状部材であることも好ましい。このようにすることで、ガイド蓋15を極力軽量化することができる。また、この空所40を利用して導入経路1を構成することもできる。
【0020】
更に、上記導入経路1とは別に、ベーン溝9内の作動流体を排出するための排出経路60を備えることも好ましい。このようにすることで、ベーン溝9内に作動流体が流れやすくすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にあっては、ロータの回転軸方向の両側にガイド蓋を設けておくことで、各ベーンのガタツキを防止して該ベーンがポンプ室内周面に対して確実に密着するようにでき、また、運転中の振動や騒音も防止することができる。加えて、導入経路を通じてベーン溝内に作動流体が導入されるように設けることで、ベーンに対して均等に背圧を与え、ベーン先端の密着性を確保することができる。つまり、ロータとケースの間で寸法精度や組み立て精度を過度に要求することなく、ベーン先端の密着性を確保してポンプ効率を向上させることができ、しかも運転中の振動や騒音も防止できるという効果を奏する。
【0022】
また、導入経路をガイド蓋に形成することで、導入経路がシンプルに形成されるという効果を奏する。
【0023】
また、導入経路を、ガイド蓋の外周面に設けた開口を通じて、ポンプ室内の作動流体を導入経路内に導入するように設けることで、作動流体を速やかに導入できるようになるという効果を奏する。
【0024】
また、導入経路を、ケース側経路とガイド蓋側経路とを連通接続させたものとすることで、回転による遠心力を極力作用させずに、作動流体を円滑に導入できるようになるという効果を奏する。
【0025】
また、導入経路をロータに形成することで、導入経路を一直線状に形成して作動流体の圧力損失を低減することができるという効果を奏する。
【0026】
また、導入経路を、ガイド蓋の内底面に設けた開口を通じて、導入経路内の作動流体をベーン溝内に導入するように設けることで、導入経路を極力短く形成してシンプル化するとともに、作動流体の圧力損失を低減することができるという効果を奏する。
【0027】
また、導入経路を、径方向外側にむけて作動流体をベーン溝内に導入するように設けることで、作動流体によるベーンの背圧を増大させることができるという効果を奏する。
【0028】
また、ガイド蓋を、回転軸方向に貫通した空所を中央部に有するリング状部材とすることで、ガイド蓋を極力軽量化でき、また、この空所を利用して導入経路を構成することもできるという効果を奏する。
【0029】
更に、導入経路とは別に排出経路を備えることで、ベーン溝内への作動流体の流れやすさを確保できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態における第1例のベーンポンプの概略的な側面断面図である。
【図2】同上のベーンポンプの概略的な分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における第2例のベーンポンプの概略的な側面断面図である。
【図4】同上のベーンポンプの概略的な分解斜視図である。
【図5】本発明の実施形態における第3例のベーンポンプの概略的な側面断面図である。
【図6】同上のベーンポンプの概略的な分解斜視図である。
【図7】本発明の実施形態における第4例のベーンポンプの概略的な側面断面図である。
【図8】本発明の実施形態における第5例のベーンポンプの概略的な分解斜視図である。
【図9】本発明の実施形態における第6例のベーンポンプの概略的な側面断面図である。
【図10】同上のベーンポンプの概略的な分解斜視図である。
【図11】従来のベーンポンプの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0032】
図1、図4には、本発明の実施形態における第1例のベーンポンプを示している。図1はベーンポンプの概略的な側面断面図である。図2は、概略的な分解斜視図である。なお、本文中で用いる平面視とは、ロータ3の回転軸方向(以下、単に「軸方向」という。)から視た場合を意味する。
【0033】
図示のように、第1例のベーンポンプにおいては、上ケース10aと下ケース10bとから成るケース10内に、ポンプ室2を形成している。ポンプ室2には、ロータ3を偏心させて収納している。ロータ3には、該ロータ3の回転軸を中心として、径方向にむけて放射状に伸びるようにベーン溝9を複数条設けている。各ベーン溝9は、径方向外方にむけて開口し、且つ、軸方向の両外方にむけても開口するように形成してある。
【0034】
ロータ3の各ベーン溝9内には、ベーン4を径方向にスライド自在に配置している。各ベーン4は、配置されるベーン溝9の径方向外方をむく開口を通じて、該ベーン溝9から径方向に突没自在であり、遠心力によって径方向外方に押し出された際に、その先端がポンプ室内周面2bに摺接するようになっている。さらに上ケース10aには、ポンプ室2に至るように吸入路6及び吐出路7を設けている。
【0035】
これにより、ケース10内には、ポンプ室2の内面とロータ3の外周面3aとベーン4とで囲まれる作動室5が、複数形成される。ロータ3を回転駆動(図中の回転方向r参照)させると作動室5の容積が大小し、容積拡大過程にある作動室5に対しては吸入路6を通じて作動流体が流入し、容積縮小過程にある作動室5からは吐出路7を通じて作動流体が排出される。
【0036】
ロータ3の軸方向の両端面には、全てのベーン溝9の軸方向開口を塞ぐように平板(円板)状のガイド蓋15を固定させ、ロータ3と軸方向両側のガイド蓋15を一体に設けている。各ベーン溝9内のベーン4は、両側のガイド蓋15の軸方向内側をむく内底面15cに対して摺接し、両側のガイド蓋15によってスライドをガイドされるようになっている。
【0037】
そして、図中上下一対のガイド蓋15のうち上側のガイド蓋15には、導入経路1を貫通形成している。この導入経路1は、ガイド蓋15の外周面15aに設けた開口1aを通じて、ポンプ室2内の作動流体を該導入経路1内に導入する。該導入経路1内に導入された作動流体は、ガイド蓋15の内底面15cに設けた開口1bを通じてベーン溝9内へと導入され、該ベーン溝9内に配置されるベーン4に対して背圧を与える。
【0038】
以下においては、ベーンポンプの各構成について、さらに詳細に述べる。
【0039】
ロータ3は、平面視円形状の外形を有しており、その中央には、駆動軸14を貫通固定させるための貫通孔11を設けている。ロータ3には、ベーン溝9を放射状に四条形成しており、各ベーン溝9の軸方向両側の開口を、一対のガイド蓋15により封止している。各ガイド蓋15の中央にも、駆動軸14を挿通させるための貫通孔12を設けている。
【0040】
上記ロータ3はポンプ室2内にて、両ガイド蓋15の軸方向外側をむく外底面15bがポンプ室内底面2aと対向し、且つ、両ガイド蓋15の径方向外側をむく外周面15aがポンプ室内周面2bと対向する姿勢にて配置され、駆動軸14の回転に伴い回転駆動される。
【0041】
ロータ3の各ベーン溝9には、ロータ3の径方向を長手方向とする棒状のベーン4を、ロータ3の径方向にスライド自在となるように収納配置している。ベーン4は、その径方向のスライドによってロータ3の外周面3aから突没自在となる。
【0042】
なお、本例ではケース10の外部に設置してあるモータ(図示せず)によって、ケース10に設けた軸受部8を介して駆動軸14を回転させ、これによりロータ3とガイド蓋15を一体に回転駆動する構造であるが、他の構成により駆動部を構成してもよい。具体的には、例えば下側のガイド蓋15にマグネットから成る磁性体を装着し、この磁性体と隣接するように下ケース10bにステータを配置することによって、ロータ3を回転駆動させるための駆動部を構成してもよい。
【0043】
ポンプ室2に収納したロータ3をガイド蓋15と一体に回転駆動させると、各ベーン4はロータ3が回転することによる遠心力を受け、ロータ3の外周面3aから外方に突出する。外方に突出したベーン4は、その先端をポンプ室内周面2bに摺接させ、上記したように、ポンプ室内周面2bとロータ3の外周面3aとベーン4とで囲まれた複数の作動室5を形成する。
【0044】
ここで、ロータ3の回転軸はポンプ室2の偏心位置にあるので、ロータ3を回転駆動させることで、各作動室5はロータ3の回転方向に移動しながらその容積を大小に変化させる。各作動室5は、吸入路6と連通する位置にある時には、ロータ3の回転に伴い容積が増大する。また、吐出路7と連通する位置にある時には、ロータ3の回転に伴い容積が減少する。そのため、ロータ3を回転駆動すれば、作動流体が吸入路6から作動室5内に流入し、この作動室5内で圧縮された後に吐出路7から吐出される。
【0045】
そして、一対のガイド蓋15の一方には、ロータ3に複数設けてあるベーン溝9に1対1で対応するように、複数の導入経路1を貫通形成している。本例ではベーン溝9が四箇所設けてあるから、これ対応して導入経路1も四箇所設けてある。各導入経路1は、ガイド蓋15の外周面15aに設けた開口1aから径方向内側にむけて延長される経路と、該経路の径方向内側の端部から軸方向内側に延長される経路とから成るL字状の経路である。導入経路1の軸方向内側を向く端部が、ガイド蓋15の内底面15cに設けた開口1bに繋がっている。
【0046】
ガイド蓋15の内底面15cに四箇所設けてある開口1bは、各ベーン溝9の背圧空間Sに向けて開口する。ここでの背圧空間Sは、ベーン4の背面と、ベーン溝9の内面と、一対のガイド蓋15の内底面15cとで塞がれた空間である。
【0047】
上記構成からなる第1例のベーンポンプにおいては、ロータ3の軸方向両側にガイド蓋15を一体に設けておくことで、両ガイド蓋15によって各ベーン4のガタツキを防止し、各ベーン4の先端全体をポンプ室内周面2bに対して確実に密着させることが可能となる。さらに、各ベーン4のガタツキ防止によって、運転中の振動や騒音も防止される。
【0048】
そして、ガイド蓋15に形成してある各導入経路1を通じて、運転中において高圧となった作動流体がベーン溝9の背圧空間S内に送り込まれ、該ベーン溝9内のベーン4の背圧を向上させる。各ベーン4は、高い背圧によってその先端全体をポンプ室内周面2bに対して確実に密着させる。
【0049】
したがって、ロータ3の両側にガイド蓋15を備えるとともに該ガイド蓋15を利用して導入経路1を形成した第1例のベーンポンプによれば、ロータ3とケース10との間において過度の寸法精度を要求することなく、また、ロータ3とケース10との間で過度の組み立て精度を要求することなく、ベーン4先端の密着性を確保してポンプ効率を向上させることができる。また、運転中の振動や騒音も防止される。
【0050】
なお、ガイド蓋15に貫通形成する導入経路1においては、ガイド蓋15の外周面15aに設けた一端側の開口1aが、ガイド蓋15の内底面15cに設けた他端側の開口1bよりも、ロータ3の回転方向側にずれた位置にあることが好適である。そのため、図2に示すように、導入経路1における径方向の経路は、中心軸から放射状に延びる線fから回転方向に所定角度αだけ傾いた姿勢で形成してある。これにより、特に作動室5が容積縮小過程にあるときに、より高圧側の作動室5からの作動流体をベーン溝9内に導入させることができる。
【0051】
次に、本発明の実施形態における第2例のベーンポンプについて、図3、図4に基づいて説明する。第2例の基本的な構成は第1例と同様である。そのため、第1例と同様の構成については詳しい説明を省略し、第2例の特徴的な構成についてのみ詳述する。
【0052】
第2例のベーンポンプにおいては、作動流体をベーン溝9内に導入するための導入経路1を、ケース10側に形成したケース側経路20と、ガイド蓋15側に形成したガイド蓋側経路21とで形成している。ケース側経路20とガイド蓋側経路21とは、回転自在に連通接続するように(つまり、ガイド蓋15がどの回転位置にあるときでも両経路20,21が連通接続するように)設けている。
【0053】
ケース側経路20は、その一端側を吐出路7に連通接続させたものであり、その他端側を、ポンプ室内底面2aにリング状に形成した中継溝部22に連通接続させている。中継溝部22は、ロータ3の回転軸を囲むリング状に形成した凹溝であり、図中上方のガイド蓋15の外底面15bと軸方向に対向するようになっている。
【0054】
上記ガイド蓋15には、ガイド蓋側経路21を、軸方向に一直線状に貫通形成している。ガイド蓋側経路21の一端側は、ガイド蓋15の外底面15bにおいて、ポンプ室内底面2aの中継溝部22と連通するように開口している。ガイド蓋側経路21の他端側は、ベーン溝9の背圧空間Sと連通するように内底面15cに開口している。
【0055】
ガイド蓋側経路21は、ロータ3に複数設けてあるベーン溝9に1対1で対応するように複数設けている。本例ではベーン溝9が四箇所設けてあるから、これ対応してガイド蓋側経路21も四箇所設けてある。全てのガイド蓋側経路21は、ガイド蓋15の回転位置に関わらず、共通の中継溝部22に対して常時連通する構造となっている。
【0056】
上記構成からなる第2例のベーンポンプでは、一つのケース側経路20とこれに連通接続する四つのガイド蓋側経路21とから成る導入経路1を通じて、運転中において吐出路7内に送り出された高圧の作動流体が、各ベーン溝9の背圧空間S内に送り込まれる。
【0057】
したがって、第2例のベーンポンプにおいても、ロータ3とケース10との間において過度の寸法精度を要求することなく、また、ロータ3とケース10との間で過度の組み立て精度を要求することなく、ベーン4先端の密着性を確保してポンプ効率を向上させることができる。また、運転中の振動や騒音も防止される。
【0058】
次に、本発明の実施形態における第3例のベーンポンプについて、図5、図6に基づいて説明する。第3例の基本的な構成は第2例と同様である。そのため、第2例と同様の構成については詳しい説明を省略し、第3例の特徴的な構成についてのみ詳述する。
【0059】
第3例のベーンポンプにおいては、導入経路1を、ケース10側に設けたケース側経路20と、ガイド蓋15側に設けたガイド蓋側経路21と、ロータ3側に設けたロータ側経路30とで形成しており、この導入経路1を通じて、作動流体が径方向外側にむけてベーン溝9内に導入されるように設けている。
【0060】
上記ロータ側経路30は、ロータ3の軸方向外側をむく端面に設けた開口から軸方向内側にむけて延長される経路と、該経路の軸方向内側の端部から径方向外側に延長される経路とで、L字状に形成したものである。このロータ側経路30の軸方向外側を向く端部が、ガイド蓋15に貫通形成したガイド蓋側経路21と連通するように開口し、径方向外側を向く端部が、ベーン溝9の背圧空間Sと連通するように開口している。
【0061】
ガイド蓋側経路21及びロータ側経路30は、ロータ3に複数設けてあるベーン溝9に1対1で対応するように複数設けている。本例ではベーン溝9が四箇所設けてあるから、これ対応してガイド蓋側経路21及びロータ側経路30も四箇所設けてある。一連に接続されるガイド蓋側経路21及びロータ側経路30の各組は、ガイド蓋15の回転位置に関わらず、共通の中継溝部22に対して常時連通する構造となっている。
【0062】
上記構成からなる第3例のベーンポンプでは、一つのケース側経路20とこれに連通接続する四組のガイド蓋側経路21及びロータ側経路30とから成る導入経路1を通じて、運転中において吐出路7に送り出された高圧の作動流体が、各ベーン溝9の背圧空間S内に送り込まれる。ここで送り込まれる作動流体は、ロータ側経路30の径方向外側を向く端部開口を通じ、径方向外側へとむけてベーン溝9内に送り込まれる。したがって、第3例のベーンポンプにおいては、各ベーン溝9内のベーン4を、作動流体により径方向外側にむけてさらに勢いよく付勢することができる。
【0063】
次に、本発明の実施形態における第4例のベーンポンプについて、図7に基づいて説明する。第4例の基本的な構成は第3例と同様である。そのため、第3例と同様の構成については詳しい説明を省略し、第4例の特徴的な構成についてのみ詳述する。
【0064】
第4例のベーンポンプにおいては、ガイド蓋15を、軸方向に貫通した空所40を中央部に有するリング状部材としている。この空所40は、駆動軸14を挿通させるために第1例〜第3例に備えた貫通孔12よりも大径に設け、ガイド蓋15の軽量化を図っている。さらに、この空所40を利用して、導入経路1の中継溝部22を形成している。
【0065】
具体的には、作動流体をベーン溝9内に導入するための導入経路1を、ケース10側に形成したケース側経路20と、ロータ3側に形成したロータ側経路30とで形成している。ケース側経路20とロータ側経路30とは、上記空所40に形成した中継溝部22を通じて、回転自在に連通接続させている。
【0066】
上記構成からなる第4例のベーンポンプでは、一つのケース側経路20と、中継溝部22を介して該ケース側経路20に連通接続する四つのロータ側経路30とから成る導入経路1を通じて、吐出路7内の高圧の作動流体が、各ベーン溝9の背圧空間S内に径方向外側へとむけて送り込まれる。
【0067】
次に、本発明の実施形態における第5例のベーンポンプについて、図8に基づいて説明する。第5例の基本的な構成は第1例と同様である。そのため、以下においては、第1例と同様の構成については詳しい説明を省略し、第5例の特徴的な構成についてのみ詳述する。
【0068】
第5例のベーンポンプにおいては、ポンプ室2内の作動流体をベーン溝9内に導入するための導入経路1を、ガイド蓋15ではなくロータ3側に貫通形成している。本例ではベーン溝9が四箇所設けてあるから、これと1対1で対応するように、導入経路1をロータ3の四箇所に設けてある。各導入経路1は、その一端部をロータ3の外周面3aに開口させ、他端部をベーン溝9に向けて開口させている。
【0069】
なお、ロータ3に貫通形成する導入経路1においては、ロータ3の外周面3aに開口する導入経路1の一端部が、ベーン溝9の内面に開口する導入経路1の他端部よりも、ロータ3の回転方向側にずれた位置にあることが好適である。そのため第5例では、図示のように一直線状に形成される導入経路1を、中心軸から放射状に延びる線fから回転方向に所定角度αだけ傾いた姿勢となるように形成してある。これにより、特に作動室5が容積縮小過程にあるときに、より高圧側の作動室5からの作動流体をベーン溝9内に導入させることができる。
【0070】
上記構成からなる第5例のベーンポンプでは、各ベーン溝9と連通接続する四つの導入経路1を通じて、ポンプ室2内の高圧の作動流体が各ベーン溝9の背圧空間S内に送り込まれる。
【0071】
したがって、第5例のベーンポンプにおいても、ロータ3とケース10との間において過度の寸法精度を要求することなく、また、ロータ3とケース10との間で過度の組み立て精度を要求することなく、ベーン4先端の密着性を確保してポンプ効率を向上させることができる。また、運転中の振動や騒音も防止される。
【0072】
次に、本発明の実施形態における第6例のベーンポンプについて、図9、図10に基づいて説明する。第6例の基本的な構成は第1例と同様である。そのため、第1例と同様の構成については詳しい説明を省略し、第6例の特徴的な構成についてのみ詳述する。
【0073】
第6例のベーンポンプにおいては、一方のガイド蓋15に形成してある導入経路1とは別に、他方のガイド蓋15に排出経路60を形成している。この排出経路60は、ベーン溝9内にある作動流体の一部が適宜排出されるようにすることで、作動室5とベーン溝9との間での作動流体の流れを確保する経路である。
【0074】
排出経路60は、ロータ3に複数設けてあるベーン溝9に1対1で対応するように、図中下方のガイド蓋15に複数形成している。各排出経路60は、ガイド蓋15の外周面15aに設けた開口60aから径方向内側にむけて延長される経路と、該経路の径方向内側の端部から軸方向内側へと延長される経路とから成るL字状の経路である。排出経路60の軸方向内側を向く端部が、下方のガイド蓋15の内底面15cに設けた開口60bに繋がっている。ガイド蓋15の内底面15cに四箇所設けてある開口60bは、各ベーン溝9の背圧空間Sに開口する。
【0075】
この排出経路60にあっては、ガイド蓋15の外周面15aに設けた一端側の開口60aが、ガイド蓋15の内底面15cに設けた他端側の開口60bよりも、ロータ3の回転方向とは反対方向側にずれた位置にあることが好適である。そのため、図10に示すように、排出経路60における径方向の経路を、中心軸から放射状に延びる線f´から回転方向とは反対方向に所定角度βだけ傾いた姿勢で形成してある。これにより、特に作動室5が容積縮小過程にあるときに、低圧側の作動室5にむけてベーン溝9内から作動流体を排出させることができる。つまり、容積縮小過程において高圧側の作動室5からベーン溝9内に作動流体が導入され、低圧側の作動室5にむけてベーン溝9内の作動流体が排出される構造である。
【0076】
第6例では、図9に示すように、導入経路1よりも排出経路60の直径を小さく設定しているが、このように導入経路1と排出経路60の寸法形状を適宜設定することにより、ベーン4の背圧の確保と、ベーン溝9内への作動流体の流れやすさを、両立することができる。
【0077】
なお、同様の排出経路60を第1例〜第5例のベーンポンプに設けてもよいことは勿論である。この場合、排出経路60は、第6例と同様にガイド蓋15に貫通形成したものであってもよいし、ロータ3に形成したものであってもよい。また、ガイド蓋15とケース10を通じて作動流体を排出するものであってもよいし、ロータ3とケース10を通じて作動流体を排出するものであってもよい。
【0078】
以上、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記各例の実施形態に限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内であれば、各例において適宜の設計変更を行うことや、各例の構成を適宜組み合わせて適用することが可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 導入経路
1a 開口
1b 開口
2 ポンプ室
2b ポンプ室内周面
3 ロータ
3a 外周面
4 ベーン
5 作動室
6 吸入路
7 吐出路
9 ベーン溝
10 ケース
15 ガイド蓋
15a 外周面
15c 内底面
20 ケース側経路
21 ガイド蓋側経路
30 ロータ側経路
40 空所
60 排出経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に形成されるポンプ室と、ポンプ室に偏心させて収納したロータと、ロータの回転軸を中心として径方向に伸びるとともに径方向及び回転軸方向の外方に開口する複数のベーン溝と、ポンプ室内周面にその先端が摺接するように各ベーン溝内にて径方向にスライド自在に配置されるベーンと、ポンプ室内面とロータとベーンとで囲まれてロータの回転駆動によりその容積を大小変化させる複数の作動室と、容積拡大過程にある作動室に対して作動流体を流入させる吸入路と、容積縮小過程にある作動室から作動流体を排出させる吐出路とを備えたベーンポンプにおいて、ロータの回転軸方向の両端面に対して一体に固定されるガイド蓋と、ロータの各ベーン溝に対して連通接続される導入経路とを具備しており、上記ガイド蓋は、各ベーン溝の回転軸方向の開口を塞ぐとともに該ベーン溝内に配置されるベーンを摺接させるものであり、上記導入経路は、作動流体を各ベーン溝内に導入することでベーンに対して背圧を与えるものであることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
上記導入経路は、ガイド蓋に形成したものであることを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
上記導入経路は、ガイド蓋の外周面に設けた開口を通じて、ポンプ室内の作動流体を導入経路内に導入するものであることを特徴とする請求項2に記載のベーンポンプ。
【請求項4】
上記導入経路は、ケースに形成したケース側経路と、ガイド蓋に形成したガイド蓋側経路とを、連通接続させたものであることを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項5】
上記導入経路は、ロータに形成したものであることを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項6】
上記導入経路は、ガイド蓋の内底面に設けた開口を通じて、導入経路内の作動流体をベーン溝内に導入するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のベーンポンプ。
【請求項7】
上記導入経路は、径方向外側にむけて、作動流体をベーン溝内に導入するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のベーンポンプ。
【請求項8】
上記ガイド蓋は、回転軸方向に貫通した空所を中央部に有するリング状部材であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のベーンポンプ。
【請求項9】
上記導入経路とは別に、ベーン溝内の作動流体を排出するための排出経路を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のベーンポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−47321(P2011−47321A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196059(P2009−196059)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】