説明

ペルティエ素子を用いた温度制御モジュール及び温度制御装置

【課題】ペルティエ素子を用いて熱交換を行う際に、温度制御モジュールから発生する全熱量を下げることなく、半導体モジュールからの熱出力を抑制することによってペルティエ素子両端の温度を減少させ、接合部寿命の大幅な伸長を図る。
【解決手段】温度制御モジュールが少なくとも吸熱面1と放熱面2とによってペルティエ素子を用いた熱電変換素子7を挟持した構造を有し、前記放熱面に供給熱を印加する回路9を配線することによって、放熱面に熱電変換素子からのペルティエ効果及びジュール熱によって発生した熱に加えて前記回路からの供給熱を印加することが可能な構造を有することを特徴とする温度制御モジュールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルティエ素子を用いた温度制御モジュールに関し、ペルティエ素子モジュールにおける高温側と低温側の温度差を低減することによって高寿命化を達成する温度制御モジュール及びそれを用いた温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度制御装置としては種々のものが知られている。中でも装置の体積が小さい点、騒音・振動が発生しない点等からペルティエ素子を用いた温度制御モジュールが知られている。
かかる温度制御モジュールは、2種類の金属の接合部に電流を流すと片方の金属から他方へ熱が移動するというペルティエ効果を利用した板状の半導体素子である。一般的には、n型、p型の半導体を接合して構成した熱電変換素子を用い、その接合部に直流電流を流すと、一方の接合面で吸熱し、他方の接合面で放熱する吸・放熱現象を利用して熱交換を行うものである。この際に吸放熱する熱量は、接合の温度と電流に比例し、電流の向きを変えることによって、放熱面を交換することも可能である(特許文献1乃至3参照)。
【0003】
上述のペルティエ素子モジュールを用いて加熱する場合、放熱面と吸熱面との温度差が50〜80℃にも達することが知られている。このような温度差によって、ペルティエ素子を用いた半導体モジュールが断線したり、放熱板及び吸熱板にクラックが生じ、熱交換装置が破損するという問題があった。
特にn型半導体とp型半導体のカプルが複数直列に接合されている半導体モジュールにおいては、1カ所に破断が生ずると熱交換装置全体が使用不能となる。
また半導体モジュールからの放熱量が大になると、熱電変換素子の信頼性、特に寿命に多大な影響を及ぼす。また、今日では熱電変換素子材料に使用される希土類元素の削減が要求されており、diceが小型化する傾向にあり、かかる観点からも半導体モジュールからの多大な熱出力が問題となっていた。
【0004】
【特許文献1】実開平4−70122号公報
【特許文献2】特開2002−280622号公報
【特許文献3】実開平1−65632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ペルティエ素子を用いて熱交換を行う際に、温度制御モジュールから発生する全熱量を下げることなく、半導体モジュールからの熱出力を抑制することによって熱効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)ペルティエ素子を用いた温度制御モジュールにおいて、該温度制御モジュールが少なくとも吸熱面と放熱面とによってペルティエ素子を用いた熱電変換素子を挟持した構造を有し、前記放熱面に供給熱を印加する回路を配線することによって、放熱面に熱電変換素子からのペルティエ効果によって発生した熱に加えて前記回路からの供給熱を印加することが可能な構造を有することを特徴とするペルティエ素子を用いた温度制御モジュールである。
【0007】
(2)前記ペルティエ素子を用いた熱電変換素子への印加電圧と、前記供給熱を印加する
回路への印加電圧とを、一の電源から供給する駆動回路を有することを特徴とする上記(1)記載のペルティエ素子を用いた温度制御モジュールである。
(3)前記吸熱面及び\又は放熱面にヒートシンクを備えることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のペルティエ素子を用いた温度制御モジュールである。
(4)上記(1)乃至(3)のいずれか一に記載されたペルティエ素子を用いた温度制御モジュールを内蔵した温度制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ペルティエ素子を用いて熱交換を行う際に、温度制御モジュールから発生する全熱量を下げることなく、半導体モジュールからの熱出力を抑制することによって熱効率を向上させる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る実施形態の一例を図面に則して説明する。以下の実施形態は本発明に係る温度制御モジュール及び温度制御装置の一例であって、本発明を限定するものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る温度制御モジュールを示す斜視図である。
本実施形態に係る温度制御モジュール10は、吸熱面1と放熱面2とが対向して配置されており、吸熱面1及び放熱面2の外面上にヒートシンク3,4が固着されている。
前記吸熱面1と放熱面2とによってペルティエ素子を用いた熱電変換素子7が挟持されている。熱電変換素子7は、n型、p型の半導体を接合して構成されており、図示しない配線より直流電流を流すことによって、吸熱面と放熱面による吸・放熱現象によって熱交換を行うことができる。この際に発生する熱量は、接合の温度と電流に比例し、電流の向きを変えることによって、放熱面を交換することも可能である。
前記放熱面2のヒートシンク4上には、供給熱を印加するための回路基板8が設置されている。回路基板8上には供給熱を印加するための回路パターン9が形成されている。回路パターン9の両端には電極11が形成され、図示しない配線により直流電流を流すことができる。
かかる構造によって、放熱面2には熱電変換素子7からのペルティエ効果によって発生した熱に加えて前記供給熱回路9からの供給熱を印加することが可能となる。
【0010】
図2は、前記温度制御モジュール10が内蔵された温度制御装置20を示す斜視図である。
本実施形態に係る温度制御装置20は、略直方形状の筐体21に3体の突出口が形成された構造を有している。すなわち、筐体21の後端には、外部雰囲気下における空気等を取り込む流体吸込口22が形成されている。また筐体21の前端には、吸熱あるいは加熱されて環境に廃棄される流体の排出口23が形成されている。さらに筐体21の平面には加熱あるいは冷却の温度制御された流体の排出口24が形成されている。
筐体21の内部には、図示しない温度制御モジュール10が内蔵されている。
図3は、温度制御モジュール10の配置状態を説明するための温度制御装置20の側面側からの内部透視図である。
【0011】
温度制御装置20の筐体21内には、前記温度制御モジュール10が図示したように配置されている。すなわち、吸熱面1と放熱面2とが対向して配置されており、吸熱面1及び放熱面2の外面上にヒートシンク3,4が固着されている。
前記吸熱面1と放熱面2とによってペルティエ素子を用いた熱電変換素子7が挟持されている。前記放熱面2のヒートシンク4上には、供給熱を印加するための回路パターン9が形成されている。
温度制御装置20における流体吸込口22から取り込まれた空気は、吸熱面1と放熱面2側に分離し、それぞれ温度制御された後、例えば加熱時は、排出口23からは吸熱されて温度の下がった流体が廃棄排出され、排出口24からは所定の温度まで加熱された流体
が排出される。冷却時は、排出口23からは放熱されて温度の高くなった流体が廃棄排出され、排出口24からは所定の温度に冷却された流体が排出される。
【0012】
図4は、前記回路パターン9による供給熱を印加する構造を説明するための熱透過回路図である。
本実施形態に係る温度制御モジュールは、放熱面に熱電変換素子からのペルティエ効果及びジュール熱によって発生した熱Qに加えて、前記回路パターン9によるヒータからの供給熱Qを放熱側ヒートシンクの熱抵抗rに重畳的に印加することができる。
図4において、rは吸熱側ヒートシンク熱抵抗を示し、Tは吸熱側熱電変換素子表面温度、Qは熱電変換素子の吸熱量であり、Tは放熱側熱電変換素子表面温度であり、Tは周囲空気温度を示している。
【0013】
図5及び図6は、前記ペルティエ素子を用いた熱電変換素子への印加電圧と、前記供給熱を印加する回路への印加電圧とを、一の電源から供給する回路の一例を説明するための駆動回路図である。ここでデバイスとは、吸熱面及び放熱面とを有する熱電変換素子であって、ヒータとは、前記熱電変換素子の放熱面に供給熱を印加するための部材である。
周知技術を用いれば、電流の向き、つまり電源の極性を変えることで、ペルティエ素子の動作を、加熱あるいは冷却に切り替えることができる。しかし、図5及び図6に示す駆動回路を用いれば、単極性の電源であっても、容易に電流の向きを変えることができる。図5において、SW1、SW2はリレースイッチにより連動しており、加熱時にはSW1及びSW2を上側に切り替える。かかる回路構成によって、デバイスの放熱面にヒータからの供給熱を重畳的に印加することが可能となる。一方、冷却時にはSW1及びSW2を下側に切り替えることによって、加熱又は冷却モードの切り替えを行うことができる。
【0014】
図6は、図5のダイオードを連動するSW3で置き換えたものであり、上記と同様の動作が可能である。すなわち、SW1、SW2及びSW3はリレースイッチにより連動しており、加熱時にはSW1、SW2及びSW3を上側に切り替える。かかる回路構成によって、熱電変換素子からのペルティエ効果によって発生した熱に加えて前記回路からの供給熱を重畳的に印加することができる。一方、冷却時にはSW1、SW2及びSW3を下側に切り替えることによって、熱電変換素子のみで温度制御装置を駆動することが可能となる。
【実施例】
【0015】
本発明に係る温度制御モジュールを使用した場合の熱効率を、以下の式によって求めた。
ペルティエ素子を用いた熱電変換素子の動作を記述する基本式は、
【0016】
【数1】

である。
【0017】
ここで、上記式中、
[W]:熱電変換素子の吸熱量
A[V/K]:熱電変換素子のゼーベック係数
[K]:吸熱側熱電変換素子表面温度
R[Ω]:熱電変換素子の電気抵抗値
i[A]:熱電変換素子を流れる電流
K[W/K]:熱電変換素子の熱伝導度
ΔT[K]:放熱側熱電変換素子表面温度と吸熱側熱電変換素子表面温度との差
K[Kelvin]:絶対温度
である。
次に、電源電圧Yは、
【0018】
【数2】

と表わせるから、先の基本式は、
【0019】
【数3】

となる。ここで、
[K]:周囲空気温度
[K/W]:吸熱側ヒートシンクの熱抵抗
とすると、
【0020】
【数4】

の関係を有することとなる。
【0021】
また、
[K]:放熱側熱電変換素子表面温度
[W]:熱電変換素子の放熱量
[W]:ヒータ出力熱量
[K/W]:放熱側ヒートシンクの熱抵抗
とすると、図4の熱等価回路において、次の関係式が成立する。
【0022】
【数5】

ここで、Q=Q+Vi である。
以上の関係式から、電源電圧Vを決めることによって、電流iの二次方程式が得られる。
【0023】
【数6】

【0024】
ここで、
【数7】

【0025】
である。
Rh[Ω]:ヒータの電気抵抗値
この式を、例えば加熱動作時について解くと、各パラメータが、
A:0.043、K:0.49、R:1.4、T:280、r:0.5、r:0.8、R:1.44、V:7の時に、
全放熱量 71.4[W]
ΔT 45.4[K]
熱電変換素子電流i 3.61[A]
ヒータ電流i 4.86[A]
全消費電力 59.3[W]
の結果が得られた。
【0026】
従来の方法によって同一の熱電変換素子を用いて同等の性能を得ようとすると、電源電圧は11.5[V]、電流は5.8[A]、全消費電力は66[W]で、全放熱量は約74[W]になるが、ΔTは約83[K]で、上記実施例の場合よりも35度以上大となり、熱電変換素子の信頼性、特に素子の寿命に多大な影響を及ぼすおそれがある。特に今日要求されているdiceの小型化にとって、全放熱量の大きさは大きな障害となる。
本実施形態に係る温度制御モジュールを使用すれば、上記の制約はほぼ解消される。なお、冷却時には、ヒータを作動させないことによって、熱電変換素子は従来の素子と全く同一に機能する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る温度制御モジュールを示す斜視図である。
【図2】前記温度制御モジュールが内蔵された温度制御装置を示す斜視図である。
【図3】温度制御モジュールの配置状態を説明するための温度制御装置の側面側からの内部透視図である。
【図4】回路パターンによる供給熱を印加する構造を説明するための熱透過回路図である。
【図5】本実施形態に用いられる駆動回路図の一例である。
【図6】本実施形態に用いられる駆動回路図の他の一例である。
【符号の説明】
【0028】
1 吸熱面
2 放熱面
3,4 ヒートシンク
7 熱電変換素子
8 回路基板
9 回路パターン
10 温度制御モジュール
20 温度制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルティエ素子を用いた温度制御モジュールにおいて、該温度制御モジュールが少なくとも吸熱面と放熱面とによってペルティエ素子を用いた熱電変換素子を挟持した構造を有し、前記放熱面に供給熱を印加する回路を配線することによって、放熱面に熱電変換素子からのペルティエ効果によって発生した熱に加えて前記回路からの供給熱を印加することが可能な構造を有することを特徴とするペルティエ素子を用いた温度制御モジュール。
【請求項2】
前記ペルティエ素子を用いた熱電変換素子への印加電圧と、前記供給熱を印加する回路への印加電圧とを、一の電源から供給する駆動回路を有することを特徴とする請求項1記載のペルティエ素子を用いた温度制御モジュール。
【請求項3】
前記吸熱面及び\又は放熱面にヒートシンクを備えることを特徴とする請求項1又は2記載のペルティエ素子を用いた温度制御モジュール。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一に記載されたペルティエ素子を用いた温度制御モジュールを内蔵した温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−140940(P2010−140940A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313059(P2008−313059)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000229830)株式会社フェローテック (25)
【Fターム(参考)】