説明

ペースト組成物、無機膜およびこれを用いたプラズマディスプレイパネル用隔壁部材

【課題】焼成収縮率が低く、焼成後に高い機械的強度を維持するペースト組成物、無機膜およびプラズマディスプレイパネル用隔壁部材を提供する。
【解決手段】ガラス粉末とそれより軟化温度の高いフィラー粉末とを特定の比率で混合して得られる混合無機粉末を含んでなるペースト組成物であって、前記混合無機粉末中、ガラス粉末が65〜35質量%およびフィラー粉末が35〜65質量%であり、かつガラス粉末およびフィラー粉末は、ガラス粉末の粒径−粒径頻度曲線におけるピーク粒径P(μm)での粒径頻度をX(%)、前記混合無機粉末の粒径−粒径頻度曲線における前記ピーク粒径P(μm)での粒径頻度をY(%)としたとき、1−(Y / X)が0.60以上であることを特徴とするペースト組成物。該組成物を焼成して得られる無機膜。該無機膜を含むプラズマディスプレイパネル用隔壁部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト組成物、無機膜およびこれを用いたプラズマディスプレイパネル用隔壁部材に関する。詳しくは、プラズマディスプレイパネルの隔壁等の形成に特に好適に用いられるペースト組成物、これを焼成して得られる無機膜およびそれを用いて得られたプラズマディスプレイパネル用隔壁部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネルは自己発光型のディスプレイであり、軽量、薄型、高視野角、高輝度など数々の優れた特性を兼ね備えており、かつ大画面化が可能であることから、液晶ディスプレイと並んで最も有望な次世代表示装置として注目されている。
【0003】
図1は、従来より用いられている交流型のプラズマディスプレイパネルの断面形状の模式図である。図1に示すように、プラズマディスプレイパネル10は、隔壁3を介して互いに対向して配置された前面ガラス基板1及び背面ガラス基板2と、前面ガラス基板1に固定されたバス電極4と、背面ガラス基板2に固定されたアドレス電極5と、蛍光体6と、バス電極4を被覆するようにガラス基板1の表面に形成された誘電体層7と、保護膜8とを備えている。隔壁3はガラス焼結体により形成され、その膜厚は通常、100〜200μmである。
【0004】
隔壁3の形成方法としては、無機粉末、バインダー樹脂、溶剤を含むペーストをガラス基板2の表面にスクリーン印刷により塗布し、過熱焼成することにより有機物質を除去して無機粉末を焼結させる方法が知られている。また別の方法として、同様のペーストをガラス基板2の表面全体に均一に塗布した後、乾燥することにより隔壁形成材料層を形成、さらにこの隔壁形成材料層の上に感光性のドライフイルムを貼り付けた後、光露光により所望のパターンを形成した後、サンドブラストによりドライフイルムで覆われていない部分を食削したのち加熱焼成する方法が知られている。
ここに、ペーストに含まれるバインダー樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などが知られている。
【0005】
また、無機粉末としては加熱焼成時に好適に溶融する低融点ガラスが用いられるのが一般的で、必要により隔壁強度を保つために焼成時に溶融しないフィラーを低融点ガラスと共に用いることもある。例えば、特許文献1には、形状精度や不純物ガス放出を抑制できる隔壁から製造されるプラズマディスプレイパネル及びその製造方法が開示されている。
【0006】
ガラス基板2の表面に塗布するペーストの厚さは、焼成工程における有機物質の消失飛散、および無機粉末の溶融焼結による体積減少に伴う膜厚減少を考慮して、形成すべき隔壁3の厚さの1.5〜2.0倍程度とすることが必要である。例えば隔壁3の最終的な厚さを100〜200μmとするためには、焼成前のペーストの形成段階において150〜400μm程度のペースト層を形成する必要がある。
【0007】
ここで、焼成前のペースト層の膜厚に対する焼成後の隔壁の厚さの比率(%)を「焼成残膜率」、100%から焼成残膜率(%)を差し引いた数値(%)を「焼成収縮率」と定義する。焼成収縮率が高いペーストを用いると、特に大型ガラス基板の製造に適用した場合、基板全体での焼成温度の局所的差異による焼成後の基板全体での膜厚均一性(公差としてたとえば±5%が要求される)が悪くなり、結果として基板面内での誘電特性のバラツキ、ひいては表示欠陥(輝度ムラ)に繋がり好ましくない。また焼成後の膜の体積が収縮するため隔壁としての加工精度の維持も難しくなる。さらに焼成収縮率が高いペーストを用いると、焼成収縮率が低いペーストを用いる場合に比べて、より多くのペースト材料を塗布しなければならないため、省資源の観点から見ても好ましくない。ペースト中に焼成温度よりも高い軟化温度を持つフィラーを添加すれば焼成後の膜に多孔質構造をもたらすことができ、結果的に焼成収縮率を減少させる効果がある。しかしこれによって焼成後の膜の機械強度が低下してしまうという問題がある。例えば特許文献1には、ガラス粉末の溶融焼結による体積減少の効果を低減するため、ペースト中に焼成温度より高い軟化温度を持つフィラーを多量に添加すると焼成後の隔壁の緻密度が低下し、機械強度が著しく低下してしまうことが記載されている。
【0008】
上記の問題を解決するために、特許文献2では、それぞれ特定の範囲の平均粒子径をもつガラス粉末と無機粉末(フィラー)を混合することによりフィラーの凝集を防ぎ、機械強度を高める方法が開示されている。本発明者らの検討結果によれば、特許文献2の方法でも確かに強度向上の効果は認められるものの、開示されている範囲の平均粒子径を持つフィラーを用いた場合でも低い焼成収縮率で十分な機械強度を得る事は困難であった。
【0009】
また、特許文献3では、特定の範囲の平均粒子径をもつフィラーと、粒径がフィラーの粒径の3分の1以下のガラス粉末を用いることで焼成後の膜を緻密にし、強度を高める方法が記載されている。しかしこの方法では膜が緻密なため機械強度は高いものの、非多孔質な焼成膜を得る方法であるため結果的に収縮率が大きいという問題が残る。さらに特許文献4では、それぞれ特定の範囲の平均粒子径をもつガラス粉末とフィラー粉末を混合することにより隔壁の透光性を高める方法が述べられているが、膜の機械強度や焼成収縮率についての記載は無い。さらに特許文献5および特許文献6では、それぞれ特定の範囲の平均粒子径をもつガラス粉末とフィラー粉末を混合することにより焼成後に特定の空隙構造を持つ膜を得ることで焼成時の収縮率や膜の誘電率を小さくする方法が述べられているが、膜の機械強度については何の示唆も与えていない。
【0010】
このように焼成収縮率の小さな膜を形成しようとすると、結果として焼成後の膜が多孔質になり、必然的に機械強度の低い膜しか得られないというのがこれまでの問題であった。
【特許文献1】特開平8−129958号公報
【特許文献2】特開平11−1343号公報
【特許文献3】特開平4−74751号公報
【特許文献4】特開2002−110035号公報
【特許文献5】特開2004−345917号公報
【特許文献6】特開2005−8514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、焼成収縮率が低いにもかかわらず、焼成後に高い機械的強度を維持することのできるペースト組成物、無機膜およびプラズマディスプレイパネル用隔壁部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ペーストを構成するガラス粉末にこれより軟化温度の高いフィラー粉末を特定範囲の比率で混合し、かつ両粉末を混合後に測った粒径頻度分布が混合前に測ったガラス粉末の粒径頻度分布と比較して特定の変化をするような場合には、焼成後の膜において焼成収縮率の大幅な改良をもたらしつつ、しかも本来のガラス粉末の焼成で得られる膜とほぼ同等となるような高い機械強度を有する膜を得ることが可能であることを見いだし、本発明に至った。本発明は、以下のとおりである。
【0013】
1)ガラス粉末(A)とそれより軟化温度の高いフィラー粉末(B)とを特定の比率で混合して得られる混合無機粉末を含んでなるペースト組成物であって、前記混合無機粉末中、前記(A)が65〜35質量%および(B)が35〜65質量%であり、かつ前記(A)および(B)は、(A)の粒径−粒径頻度曲線におけるピーク粒径P(μm)での粒径頻度をX(%)、前記混合無機粉末の粒径−粒径頻度曲線における前記ピーク粒径P(μm)での粒径頻度をY(%)としたとき、1−(Y / X)が0.60以上であることを特徴とするペースト組成物。
2)D50で表した前記フィラー粉末(B)の平均粒径(μm)が、前記ガラス粉末(A)のピーク粒径P(μm)よりも大きく、かつ7μm以下であることを特徴とする上記1)記載のペースト組成物。
3)前記ガラス粉末(A)のピーク粒径Pが0.6〜1.4μmの範囲にあることを特徴とする上記1)または2)に記載のペースト組成物。
4)上記1)〜3)のいずれかに記載のペースト組成物を前記ガラス粉末(A)の軟化温度以上の温度で焼成して得られることを特徴とする無機膜。
5)焼成後の膜の断面電子顕微鏡写真から計測される空隙率が30〜48%であり、かつ焼成後の膜厚収縮率が10%以下であることを特徴とする上記4)記載の無機膜。
6)上記4)または5)に記載の無機膜を含むプラズマディスプレイパネル用隔壁部材。
【発明の効果】
【0014】
本発明のペースト組成物は、焼成収縮率が低いにもかかわらず、焼成後に高い機械的強度を維持することができる。したがって、該組成物を焼成した無機膜は、加工性に優れたプラズマディスプレイパネル用隔壁部材となる。また該隔壁部材を用いることで、基板面内での誘電特性が均一で、輝度ムラ等の表示欠陥が生じないプラズマディスプレイパネルを提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のペースト組成物について詳細に説明する。
本発明のペースト組成物は、ガラス粉末(A)とそれより軟化温度の高いフィラー粉末(B)に加え、一般的にバインダー樹脂および溶剤を含有する。
【0016】
ガラス粉末(A)は、高い耐電圧を有する誘電体層を形成するための基本材料であり、その含有量は混合無機粉末中、65〜35質量%であり、60〜40質量%であることがさらに好ましい。ガラス粉末(A)が35質量%より少なくなると焼結性が低下し、緻密な焼結体とならず十分な機械強度を有する隔壁が得られなくなるおそれがある。一方、65質量%より多くなると相対的にフィラー粉末(B)が少なくなるために焼成収縮率が高くなり本発明の目的が達せられなくなるおそれがある。
【0017】
また、本発明におけるガラス粉末(A)としては、その軟化温度が400〜600℃の範囲内にあるものが望ましい。軟化温度が400℃未満である場合は、ペーストの焼成工程において、バインダー樹脂などの有機成分が完全に分解されない段階でガラス粉末が溶融してしまい、形成される誘電体層中に有機物質の一部が残留し、この結果として誘電体としての特性が損なわれたり、誘電体層が着色することにより光透過率が低下してしまうことがある。一方、ガラス粉末の軟化温度が600℃を超える場合は、600℃より高温で焼成する必要があり、ガラス基板に歪みなどが発生しやすくなり好ましくない。このようなガラス組成物は、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムなどの酸化物を複数種組み合わせて溶融することで得られる。このような軟加点を持つガラス粉末の具体的な例としては、(1)酸化鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素(PbO-B2O3-SiO2)から成るもの、(2)酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素(ZnO-B2O3-SiO2) から成るもの、(3)酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化カルシウム(ZnO- B2O3- SiO2-CaO) から成るもの、(4)酸化鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化カルシウム(PbO-B2O3-SiO2- CaO) から成るもの、(5)酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化ナトリウム(ZnO-B2O3-SiO2-CaO-Na2O) から成るものなどが挙げられるが、本発明の適用範囲はこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明のペースト組成物には、上記ガラス粉末(A)のほかに、焼成収縮率を低めるためのフィラー粉末(B)が添加される。フィラー粉末(B)の含有量は混合無機粉末中の35〜65質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがさらに好ましい。フィラーが35質量%より少なくなると焼成収縮率が著しく増加し、65質量%より多くなると焼成後の隔壁の機械強度が著しく低くなるおそれがある。
【0019】
フィラー粉末(B)としては、その軟化温度がガラス粉末(A)の軟化温度よりも高いものが選択される。好適なフィラー粉末(B)の具体例としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコン、ジルコニア、コーディエライトなどが挙げられる。また、D50で表したフィラー粉末(B)の平均粒径は、上記ガラス粉末(A)のピーク粒径P(μm)よりも一般的に大きい。フィラー粉末(B)の平均粒径が該P値より小さいものでは、焼成膜の収縮率を小さくする効果が損なわれる。一方でこのD50の数値は、7μm以下であることが好ましく、2.5μm以下であることがさらに好ましい。フィラー粉末(B)の平均粒径が大きすぎるものを用いると、焼成膜の機械強度が低下する傾向がある。
【0020】
ここでいうD50は、レーザー回折散乱法により、横軸に粒子径を縦軸に頻度(体積)をとってプロットし、該頻度の累積体積の総和を100%とした時に累積体積が50%となる粒子径を言う。
【0021】
また本発明では、ガラス粉末(A)およびフィラー粉末(B)は、(A)の粒径−粒径頻度曲線におけるピーク粒径P(μm)での粒径頻度をX(%)、混合無機粉末の粒径−粒径頻度曲線における前記ピーク粒径P(μm)での粒径頻度をY(%)としたとき、1−(Y / X)が0.60以上であることが必要である。
ここで粒径−粒径頻度曲線は、ガラス粉末(A)、フィラー粉末(B)それぞれの単体あるいはそれらの混合無機粉末を蒸留水に分散して、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて体積基準の頻度を調べることにより描くことができる。図2はこのようにして描いた粒径−粒径頻度曲線の一例を示す図である。ガラス粉末(A)の粒径−粒径頻度曲線11を参照すると、粒径P(μm)で一つのピークを有している。このときの頻度をX(%)とする。また、フィラー粉末(B)の粒径−粒径頻度曲線12は、最大のピークが曲線11よりも大きい粒径のほうにずれている。ここで混合無機粉末の粒径−粒径頻度曲線13を描いたとき、ピーク粒径P(μm)での粒径頻度をY(%)とする。本発明では、前述のように1−(Y / X)(以下、減衰率ともいう)が0.60以上であることが必要である。
【0022】
本発明者らが見出したところによれば、ガラス粉末(A)とフィラー粉末(B)の粒径−粒径頻度曲線はそれぞれを単体で水中に分散して測定した時の結果と、両者を予め水中で混合して測定した時の結果には必ずしも一義的な関係がない。即ち混合後の粒径−粒径頻度曲線はそれぞれの粒径頻度分布の単純な加重平均分布に合致しない。本発明では減衰率が0.60以上という条件を満たすように(A)と(B)の種類、質量比を選択する。この際に混合無機粉末中の(A)と(B)のそれぞれの割合は、少なくとも(A)が65〜35質量%、(B)が35〜65質量%の範囲になければならない。このようにして決めた(A)と(B)の粉末を用いてこれを混合し、更にバインダー樹脂、溶剤などを添加して混練することで本発明のペースト組成物を得ることができる。
【0023】
この要件とその背景をさらに詳細に説明する。ピーク粒径P(μm)における粒径頻度値は(A)と(B)の混合後には、それぞれの単体の頻度値をもとにして、その混合比率を勘案して推計できる加重平均の頻度値になるものと予想できる。しかし実際に測定して得られる結果はその予測された頻度値より低くなる事がある。しかしこの頻度値の減衰の大きさが、その混合比率以外のいかなる要素で変わるものかはよく分かっていない。確証はないが、この減衰が予測値よりも大きくなるのは、ガラス粉末が混合物中ではフィラー粉末に吸着するなどして、本来の粒径として測定されないようになるためではないかと思われる。ここで本発明者らが様々な(A)と(B)の組み合わせで検討した結果によれば、この減衰率の大きな組み合わせを無機粉末として用いた時に限って、焼成後に多孔質であって膜厚収縮率が小さく、それでいて機械強度の高い無機膜を形成できるようなペースト組成物が得られることが分かった。この減衰率を1−(Y / X)という指標で表した時に、これが0.60以上になるということがその条件に当たる。減衰率がこれよりも小さい場合には、多孔質化の程度に比例して機械強度が大きく低下したような焼成膜しか得られない。さらに好ましい減衰率は、0.65〜0.80である。
【0024】
ガラス粉末(A)のピーク粒径P(μm)は、0.6〜1.4μmにあるものが好ましいが、0.8〜1.2μmの範囲にあるものがさらに望ましい。
【0025】
本発明のペースト組成物の他の成分として用いることのできるバインダー樹脂としては、具体的には、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などが好適に用いられる。これらのうち、ガラス粉末の分散性、ペーストの塗布性、焼成時の飛散消失性(燃焼の容易性)などの点で、エチルセルロースが特に好ましい。
【0026】
本発明のペースト組成物におけるバインダー樹脂の含有割合としては、ガラス粉末(A)100質量部に対して1〜30質量部であることが好ましく、さらに好ましくは2〜20質量部である。バインダー樹脂の量が1質量部未満であると、無機粉末を確実に結着できず、一方、バインダー樹脂が30質量部を超えると焼成残膜率が低下したり、焼成工程に長時間を要し好ましくない。
【0027】
本発明のペースト組成物に用い得る溶剤としては、バインダー樹脂の溶解性、ガラス粉末(A)やフィラー粉末(B)との親和性が良好で、ペースト組成物に適度な粘性を与え、また乾燥時には容易に蒸発除去できるものが好ましい。このような溶剤の具体例としては、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールなどが挙げられる。これらの溶剤は、単独で、または2種以上組み合わせて用いることが出来る。
【0028】
本発明のペースト組成物における溶剤の含有割合としては、ペースト組成物に適度な粘度を与える割合とし、塗布膜厚や焼成後の誘電体層の膜厚により決定される。本発明のペースト組成物には上記の必須成分のほかに、分散剤、安定剤、可塑剤、消泡剤などの各種添加物が含まれていてもよい。
【0029】
本発明の無機膜は、ペースト組成物をガラス粉末(A)の軟化温度以上の温度で焼成して得られる。焼成後の無機膜は多孔質であって、焼成後の膜厚収縮率が小さく、しかも微小硬度計などで測定される機械強度が高いという特徴を有する。本発明により得られる焼成膜の望ましい態様としては、断面電子顕微鏡写真から計測される空隙率が30〜48%であり、かつ焼成後の膜厚収縮率が10%以下のものである。
また本発明による焼成膜は、機械強度として押し込み微小硬度計を用いて測定したビッカース硬度の値が、本発明に用いたガラス粉末(A)をフィラー粉末(B)なしに単独で用いて形成した非多孔質ガラス膜のそれを基準とした時に、その70%以上の値を保持していることを特徴としている。さらに望ましい態様では、その80%以上の硬度値を保持する。
【0030】
本発明のプラズマディスプレイパネル用隔壁部材は、本発明のペースト組成物を例えば400℃以上の温度で焼成し、所望の形状に無機膜を形成することにより得ることができる。
本発明のプラズマディスプレイパネル用隔壁部材の製造方法について、感光性ドライフィルムレジストを使用する方法を例にとって説明する。
まず本発明のペーストを基板上に塗布し、得られた塗布層の表面に感光性ドライフィルムをラミネートし、該感光性ドライフィルム上にパターン露光、現像を順次行って形成したレジストパターンを用い、サンドブラスト法により該基板上に所望のパターンを形成し、次いでこれを焼成して隔壁構造を形成する。
この塗布層の表面にラミネートされる感光性ドライフィルムは、PETフィルムのような仮支持体上に感光性樹脂組成物層(レジスト層ともいう)が設けられてなるものであり、ポジ型のレジスト材料であってもネガ型のレジスト材料であってもよい。ポジ型では、例えばアルカリ可溶性フェノール樹脂とナフトキノンジアジドの混合物からなるポジ型レジストなどが用いられる。ネガ型としては、アリシクロ環を有する鎖状ポリマーなどの環化ゴムと芳香族ビスアジド化合物などのビスアジド化合物が組み合わされた環化ゴムービスアジド系レジスト、メタクレゾールノボラック樹脂に1−アジドピレンが組み合わせられたノボラック樹脂−アジド系レジスト、アクリル系モノマーと光重合開始剤が組み合わさったアクリル系レジスト液などが挙げられる。これらは、市販品として入手できる。
塗布層が形成される基板とは、ガラス等の単体の基板、電極等を有した基板等プラズマディスプレイパネルの背面ガラス基板となるものを言う。
【0031】
前記塗布層に感光性ドライフィルムをラミネートした後、感光性ドライフィルム上に露光装置を用いてパターン露光を行う。感光性ドライフィルムのラミネートでは、塗布層上に感光性ドライフィルムを密着させ、熱ローラーを通し、その後、感光性ドライフィルムの仮支持体を剥離する。この感光性ドライフィルムの仮支持体の剥離は露光工程の前でも後にでも行うことができる。
露光工程は通常のフォトリソグラフィーで行われるように、フォトマスクを用いてマスク露光する方法が一般的である。用いるマスクは、レジスト層の感光性有機成分の種類によって、ネガ型もしくはポジ型のどちらかを選定する。また、フォトマスクを用いずに、赤色や青色の可視光レーザー光、Arイオンレーザー、UVイオンレーザーなどで直接描画する方法を用いることもある。
【0032】
露光装置としては、ステッパー露光機、プロキシミティ露光機等を用いることができる。また、大面積の露光を行う場合は、ガラス基板などの基板を搬送しながら露光を行うことによって、小さな露光面積の露光機で、大きな面積を露光することができる。
【0033】
露光後、レジスト層の感光部分と非感光部分の現像液に対する溶解度差を利用して、現像を行なうが、この場合、浸漬法やスプレー法、ブラシ法で行なうことができる。用いる現像液は、レジスト材料に合わせ、水、アルカリ水溶液、有機溶剤などから選定する。
【0034】
次に、レジスト層に形成されたパターンに応じて塗布層を除去する工程に移る。この工程にはサンドブラスト法が一般的に用いられる。サンドブラスト法は、圧縮気体と混合された研磨剤微粒子を高速で噴射して物理的に転写塗布層にエッチングを施す加工方法である。
レジストのようなマスク層に形成されたパターンを転写する方法は、サンドブラスト法に限らず薬液によるエッチングも可能である。
なお、塗布層のエッチングには、特開2000−16412号公報に記載の高圧スプレー現像を用いることもできる。
塗布層のエッチングの後、塗布層上のレジストパターンを除去する工程を設けてもよいし、そのまま焼成工程へ移ってもよい。このレジストパターンを除去する工程では、剥離液に浸漬するか、スプレー塗布して除去することができる。
また、所定のマスクのパターンを型押し法で転写させることもできる。
【0035】
次に焼成炉にて焼成を行う。焼成雰囲気や温度は、塗布層や基板の種類によって異なるが、空気中、窒素、水素等の雰囲気中で焼成する。焼成炉としては、バッチ式の焼成炉やベルト式の連続型焼成炉を用いることができる。焼成温度は400℃以上、好ましくは400〜600℃で行う。焼成時間は10〜60分間である。焼成温度は、低い方がエネルギー経済的に好ましいが、有機成分を除去するためと、ガラスの焼結を促すためには、400℃の温度が必要である。また、以上の露光、現像、焼成の各工程中に、乾燥、予備反応の目的で、50〜300℃加熱工程を導入しても良い。
このようにして得られた基板上の本発明のプラズマディスプレイパネル用隔壁部材は、前記図1で説明したような各部材と組み合わされ、プラズマディスプレイパネルとすることができる。
なお、隔壁の高さは、前述のように一般的に100〜200μm、アスペクト比は1〜10である。また前記では感光性ドライフィルムを用いる方法について説明したが、こうした方法によらず、基板上にペーストをスクリーン印刷によって塗布して直接所望のパターンを形成する方法を適用してもよい。また塗布後のペースト層をレジストとサンドブラストの組み合わせで加工する方法によらず、型押しによって塗布層を隔壁の形状に形成させる方法を用いることもできる。いずれの方法においても、隔壁状の形状に加工した後にこの層を焼成して、最終的にガラス質の隔壁部材を得る。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下において「部」は「質量部」を表す。
【0037】
(1)ガラス粉末、フィラー粉末の調整
ガラス粉末の調製のために、酸化鉛70質量%、酸化ホウ素7質量%、酸化ケイ素23質量%の組成を有する混合物からなる粉末を用意した。上記混合物を白金坩堝に入れて1300℃で2時間溶融し、その後、溶融状態のガラスを薄板状に成形した。次いで、これらをボールミルで粉砕、分級して粒径−粒径頻度曲線におけるピーク粒径P(μm)が1.12μmとなるようなガラス粉末を得た。このガラス粉末を試料名G-1とした。これを更にボールミルで粉砕、分級してピーク粒径P(μm)が0.97μmになったガラス粉末を得た。このガラス粉末を試料名G-2とした。
【0038】
また、同様にして酸化鉛65質量%、酸化ホウ素10質量%、酸化カルシウム5質量%、酸化ケイ素20質量%の組成を有する混合物からなる粉末を用意した。上記混合物を白金坩堝に入れて1300℃で2時間溶融し、その後、溶融状態のガラスを薄板状に成形した。次いで、これらをボールミルで粉砕、分級してピーク粒径P(μm)が1.32μmとなるガラス粉末を得た。このガラス粉末を試料名G-3とした。これを更にボールミルで粉砕、分級してピーク粒径P(μm)が0.91μmになったガラス粉末を得た。このガラス粉末を試料名G-4とした。
【0039】
また、同様にして酸化亜鉛25質量%、酸化ホウ素40質量%、酸化カルシウム5質量%、酸化ケイ素25質量、酸化ナトリウム5質量%の組成を有する混合物からなる粉末を用意した。上記混合物を白金坩堝に入れて1300℃で2時間溶融し、その後、溶融状態のガラスを薄板状に成形した。次いで、これらをボールミルで粉砕、分級してピーク粒径P(μm)が1.95μmとなるようなガラス粉末を得た。このガラス粉末を試料名G-5とした。これを更にボールミルで粉砕、分級してピーク粒径P(μm)が1.10μmになったガラス粉末を得た。このガラス粉末を試料名G-6とした。
【0040】
同様なやり方で、さらに3種類の組成の異なる溶融ガラスを調製し、同様にボールミルで粉砕、分級してそれぞれガラス粉末G-7〜G-9を得た。
これらのガラス粉末の軟化温度はいずれも470℃〜500℃の範囲であった。表1にこれらの結果をまとめて示す。
またフィラーとしては、D50が異なる2種類のアルミナF-1、F-2を用意した。これらを表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
(2)粒径、粒径分布、ピーク粒径の測定
上に示したガラス粉末、フィラー粉末、および以下に示すガラス粉末/フィラー粉末の混合無機粉末の粒径頻度分布とピーク粒径は堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置 LA-910を用いて以下の条件で測定した。
【0044】
1.測定用試料の調製
10mlのガラス容器中に無機粉末(0.2g)を秤量して入れ、これに蒸留水(10ml)を添加した。このサンプルを容器ごと室温で15分間超音波攪拌機で混合したものを測定試料とした。また混合無機粉末については、ガラス粉末とフィラー粉末を所定の割合(合計で0.2g)で10mlのガラス容器中に計り取った後に、蒸留水(10ml)を添加して上記同様に超音波攪拌機で混合し、これを測定試料とした。
【0045】
2.測定条件
この試料を装置の試料供給容器にセットし、装置が要求する適正希釈範囲になるようにさらに室温の蒸留水で希釈(100〜150倍希釈)した上で、以下の条件で測定した。
・ 分布形態・・・標準
・ 取り込み回数・・・30回
・ 分散時間・・・4 min
・ 超音波時間・・・4 min
・ 待ち時間・・・0 sec
・ 粒子径基準・・・体積基準
【0046】
(3)ペーストの調製
これらの無機粉末、バインダー樹脂として、エチルセルロース(GPCによるポリスチレン換算の質量平均分子量が77,000)、溶剤としてターピネオールとブチルカルビトールアセテートを質量比で1:1で混合した混合溶剤を表3に示す組成で混合した後、3本ロールを用いて混練することにより、ペースト組成物を得た。
【0047】
(4)ペーストの塗布と焼成
(3)で得たペースト組成物をバーコーターを用いて、ガラス基板上に乾燥後の膜厚が約200μmとなるように塗布した。乾燥はあらかじめ120℃に設定した乾燥機(空気雰囲気)中で30分間保持してペースト中の溶媒を除去した。乾燥後の基板を焼成炉に入れ、炉内の温度を室温から毎分10℃の昇温速度で580℃まで昇温し、580℃の雰囲気で30分間保持し、その後自然放冷した。なおガラス粉末としてG-5とG-6を用いたペーストについては、600℃にまで昇温してその温度で30分間保持した後に自然放冷した。
【0048】
(5)焼成後のペーストの評価
表3に示す組成で調整した各ペーストに関して、焼成収縮率、空孔率、機械強度を測定した。
【0049】
焼成収縮率
焼成前後の膜厚を接触式膜厚計で測定し、下記式より焼成収縮率を算出した。
焼成前のペースト層の膜厚(μm)=A
焼成後の膜の厚さ(μm)=B
焼成収縮率(%)=(1−(B/A))X100
【0050】
空孔率
焼成後の膜の断面を電子顕微鏡写真に撮り、無機膜の断面積に対する空孔部分の面積の割合の平均値を空孔率(%)とした。
【0051】
機械強度
上記(4)で得られた焼成膜を島津製作所(株)製微小硬度計M型を用いてビッカース硬さを測定し、ペースト膜の機械強度とした。測定条件は下記とした。
加重Time:15秒
圧子:ビッカースダイアモンドピラミッド圧子(対面角136℃)
ビッカース硬さ(Hv)を下記式により算出した。
Hv=((圧子に負荷する試験荷重)/(試料表面に生じたくぼみの表面積))x1000
以上の結果をまとめて表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3中の実施例の区分の表示:Aは本発明、Bは比較対象として本発明の範囲外の例を示す。
【0054】
いずれの組成のガラスを使っても、フィラーの質量比が20%程度の組成のペーストは非多孔質の膜を形成し、最も高い機械強度を与える。しかしこのような膜では焼成時の膜収縮率が著しく大きく、本発明の目的にそぐわない。フィラーの質量比を増やすとともに、多孔質膜が形成されて焼成収縮率を大きく改良することができるが、いずれのケースでも膜の機械強度が低下する傾向が見られる。
【0055】
しかし本実験におけるAとBの例を比較すれば明らかなように、ガラスを65〜35質量部、フィラーを35〜65質量部の範囲で混合したペースト組成物において、予めガラスとフィラーをその割合で混合して評価した時の減衰率が大きいような場合に限っては、そのペーストを焼成して得られる膜の焼成収縮率を大幅に改善しつつ、高い機械強度を保持できることが分かる。とりわけこのピーク減衰率が0.6を超えるような場合には、前記の非多孔質膜に対しても70%以上の機械強度を維持できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のペースト組成物の用途としては、例えば、プラズマディスプレイパネル用隔壁部材等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】交流型のプラズマディスプレイパネルの断面形状の模式図である。
【図2】本発明における減衰率を説明するための図である。
【符号の説明】
【0058】
1 前面ガラス基板
2 背面ガラス基板
3 隔壁
4 バス電極
5 アドレス電極
6 蛍光体
7 誘電体層
8 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末(A)とそれより軟化温度の高いフィラー粉末(B)とを特定の比率で混合して得られる混合無機粉末を含んでなるペースト組成物であって、前記混合無機粉末中、前記(A)が65〜35質量%および(B)が35〜65質量%であり、かつ前記(A)および(B)は、(A)の粒径−粒径頻度曲線におけるピーク粒径P(μm)での粒径頻度をX(%)、前記混合無機粉末の粒径−粒径頻度曲線における前記ピーク粒径P(μm)での粒径頻度をY(%)としたとき、1−(Y / X)が0.60以上であることを特徴とするペースト組成物。
【請求項2】
50で表した前記フィラー粉末(B)の平均粒径(μm)が、前記ガラス粉末(A)のピーク粒径P(μm)よりも大きく、かつ7μm以下であることを特徴とする請求項1記載のペースト組成物。
【請求項3】
前記ガラス粉末(A)のピーク粒径Pが0.6〜1.4μmの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のペースト組成物を前記ガラス粉末(A)の軟化温度以上の温度で焼成して得られることを特徴とする無機膜。
【請求項5】
焼成後の膜の断面電子顕微鏡写真から計測される空隙率が30〜48%であり、かつ焼成後の膜厚収縮率が10%以下であることを特徴とする請求項4記載の無機膜。
【請求項6】
請求項4または5に記載の無機膜を含むプラズマディスプレイパネル用隔壁部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−161556(P2007−161556A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363786(P2005−363786)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(591221097)富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】