説明

ホウ素を用いたベイナイト鋼

【課題】 ホウ素を用いたベイナイト鋼
【解決手段】 ホウ素およびチタンを微量合金化添加量で含有させた鋼組成物は少なくとも100ksi(690MPa)の降伏強度、優れたじん性および良好な溶接性を示す。ホウ素の添加を利用して硬化性が向上する。鋼組成物に窒化ホウ素が生じないようにする目的で強力な窒化物形成剤、例えばチタンなどを添加してもよい。そのような組成物の冷却を熱間圧延から空気中または加速冷却を用いて行ってもよい。空気冷却後の前記組成物に焼き入れまたは焼き入れに続く焼き戻しを受けさせてもよい。このような組成物は高強度ラインパイプ(例えば、API 5L標準におけるX100)および他の用途で用いるに適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の態様は、ホウ素およびチタンを微量合金化添加量(micro−alloying additions)で含有させた鋼から成形した継ぎ目無し管に関し、これは少なくとも100ksi(690MPa)の降伏強度、優れたじん性および良好な溶接性を示す。そのような管は高強度ラインパイプ、例えばAPI 5L標準におけるX100などおよび他の可能な用途で用いるに適する。
【背景技術】
【0002】
鋼にホウ素を微量合金化添加量で添加するのは好ましい、と言うのは、そのような添加によって鋼の機械的特性が向上する可能性があるからである。例えば、ホウ素を添加すると硬化性、即ち熱処理によって鋼が硬化する能力が向上する可能性がある。ホウ素を添加するとそれが粒界に移行して粒界におけるオーステナイトからフェライトへの相変態を抑制することでマルテンサイトの生じ易さが向上する可能性がある。その上、ホウ素は非常に低濃度でも有効であることから、硬化性を比較的低コストで有意に向上させる。
【0003】
そのような利点を達成するには、ホウ素が遊離元素状態のままであるようにすべきである。しかしながら、ホウ素は鋼中に存在する不純物、例えば窒素などと容易に反応する。窒化ホウ素が生じると、遊離ホウ素が減少することが理由で、ホウ素がもたらす硬化性への肯定的な効果が低下する可能性がある。
【0004】
そのような問題を取り扱う目的で、強力な窒化物形成剤、例えばチタンなどを鋼組成物に添加することで窒化ホウ素が生じないようにすることができる。しかしながら、それに付随して、比較的粗い窒化チタン粒子が凝固中に生じる可能性がある。そのような粒子は熱間圧延前の再加熱中に更に成長する可能性があることで、鋼が示すじん性が劣る可能性がありかつホウ素添加によってもたらされる特性向上の度合が低くなる可能性がある。
【0005】
要約
1つの態様として、少なくとも100ksi(690MPa)の降伏強度、優れたじん性および良好な溶接性を示すホウ素−チタン鋼を製造する方法を提供する。この方法は、炭素、チタンおよびホウ素を含有して成る組成物を準備することを含んで成る。この方法に追加的にマンガン、ケイ素、ニッケル、クロム、モリブデン、バナジウムおよびニオブの中の1種以上を前記組成物に添加することも含めてもよい。この方法にまた前記組成物の冷却を鋳造からこの組成物内で起こる窒化チタン(TiN)析出物の結晶粒粗大化が抑制されかつTiN析出物の大きさが約50nm未満に制限されるに充分なほど高い冷却速度で行うことも含めてもよい。この方法に更に前記組成物の熱間圧延を微細構造が微調整されかつ変態前に約20から50μmの粒径が達成されるように行うことも含めてもよい。この方法に、更に、前記組成物の冷却を熱間圧延後に空気中で行いそして前記組成物にオーステナイト化(austenization)そして焼き入れを受けさせるか、前記組成物を熱間圧延後に空気中で冷却しそして前記組成物にオーステナイト化、焼き入れそして焼き戻しを受けさせるか、或は前記組成物の強制冷却を後の熱処理を全く伴わせることなく熱間圧延後直ちに約5から50℃/秒の冷却速度で行うことも含めてもよい。特定の態様では、前記鋼組成物を鋼管、例えば継ぎ目無し管などに成形してもよい。
【0006】
追加的態様として、鋼管の製造方法を提供する。この方法は、
炭素(C)含有量が約0.04から0.12重量%であり、
チタン(Ti)含有量が約0.01から0.03重量%であり、
ホウ素(B)含有量が約0.0005から0.003重量%であり、そして
窒素(N)含有量が約0.008重量%に等しいか或はそれ未満である、
鋼組成物を準備することを含んで成り、ここで、
各元素の濃度は前記鋼組成物の総重量を基準にした濃度である。1つの態様では、硬化性が向上するように約0.0005から0.002重量%のホウ素が固溶体のままであるようにしてもよい。さらなる態様では、前記窒素の実質的に全部が窒化ホウ素の生成が回避されかつホウ素の上述した固溶体中含量がもたらされるようにTiN粒子形態で存在するようにしてもよい。この方法に、更に、前記鋼組成物から鋳造した棒の冷却を前記棒中に生じるTiN粒子が約50nm未満の平均サイズを示すように前記棒の中心部辺りの冷却速度を選択して行うことも含める。この方法に追加的に前記棒から管を成形することも含めてもよい。追加的態様として、その成形した鋼が示す降伏強度はASTM E8に従って測定して約100ksi(約690MPa)以上であり得る。特定の態様では、その鋼組成物を成形して継ぎ目無し管を生じさせてもよい。
【0007】
さらなる態様として、鋼組成物の製造方法を提供する。この方法は、
炭素(C)含有量が約0.04から0.12重量%であり、
マンガン(Mn)含有量が約0.6から1.6重量%であり、
ケイ素(Si)含有量が約0.05から0.3重量%であり、
ニッケル(Ni)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
クロム(Cr)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
モリブデン(Mo)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
バナジウム(V)含有量が約0.15重量%に等しいか或はそれ未満であり、
ニオブ(Nb)含有量が約0.05重量%に等しいか或はそれ未満であり、
チタン(Ti)含有量が約0.01から0.03重量%であり、
ホウ素(B)含有量が約0.0005−0.0030重量%であり、そして
窒素(N)含有量が0.008重量%に等しいか或はそれ未満である、
鋼組成物を準備することを含んで成り、ここで、
各元素の濃度は前記鋼組成物の総重量を基準にした濃度である。1つの態様では、硬化性が向上するように約0.0005から0.002重量%のホウ素が固溶体のままであるようにする。この方法に更に前記鋼組成物の鋳造を鋳造鋼組成物中の窒素の実質的に全部が窒化ホウ素の生成が回避されかつホウ素の前記固溶体中含量がもたらされるように大きさが約50nm未満のTiN粒子形態で存在するように行うことも含める。この方法に更にその成形した鋼組成物の熱間圧延を行いそしてその成形した鋼組成物の冷却を熱間圧延後直ちに約5から50℃/秒の範囲の冷却速度で行うことも含める。特定の態様では、その成形した鋼組成物の冷却を熱間圧延後直ちに約10から30℃/秒の範囲の冷却速度で行う。
【0008】
冷却後の焼き戻しを全く伴わない冷却後の鋼組成物が有する最終的微細構造にはベイナイトとマルテンサイトの混合物が含まれている可能性があり、マルテンサイトの量は約30%以下である。特定の態様として、その微細構造に含まれているマルテンサイトの量は約5%以下であり得る。
【0009】
追加的態様として、鋼組成物の製造方法を提供する。この方法は、
炭素(C)含有量が約0.04−0.08重量%であり、
マンガン(Mn)含有量が約0.8−1.6重量%であり、
ケイ素(Si)含有量が約0.05から0.3重量%であり、
モリブデン(Mo)含有量が約0.3重量%以下であり、
チタン(Ti)含有量が約0.01から0.03重量%であり、
ホウ素(B)含有量が約0.0005−0.003重量%であり、そして
窒素(N)含有量が0.008重量%に等しいか或はそれ未満である、
鋼組成物を準備することを含んで成り、ここで、各元素の濃度は前記鋼組成物の総重量を
基準にした濃度である。この方法に更に前記鋼組成物の鋳造を鋳造鋼組成物中の窒素の実質的に全部が窒化ホウ素の生成が回避されるように大きさが約50nm未満のTiN粒子形態で存在するように行うことも含める。この方法に更にその成形した鋼組成物の熱間圧延を行いそして空気冷却を熱間圧延後直ちに約1℃/秒未満の冷却速度で行い、前記組成物のオーステナイト化そして焼き入れを行うことも含める。
【0010】
焼き入れ後に全く焼き戻しを伴わない前記鋼組成物が有する最終的微細構造にはベイナイトとマルテンサイトの混合物が含まれている可能性がある。特定の態様では、その微細構造に含まれているマルテンサイトの量は約30%以下である。さらなる態様として、その微細構造に含まれているマルテンサイトの量は約20%以下である。
【0011】
さらなる態様として、鋼組成物の製造方法を提供する。この方法は、
炭素(C)含有量が約0.04−0.12重量%であり、
マンガン(Mn)含有量が約0.8から1.6重量%であり、
ケイ素(Si)含有量が約0.05−0.3重量%であり、
ニッケル(Ni)含有量が0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
クロム(Cr)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
モリブデン(Mo)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
バナジウム(V)含有量が約0.15重量%に等しいか或はそれ未満であり、
ニオブ(Nb)含有量が約0.05重量%に等しいか或はそれ未満であり、
チタン(Ti)含有量が約0.01から0.03重量%であり、
ホウ素(B)含有量が約0.0005−0.0030重量%であり、そして
窒素(N)含有量が0.008重量%に等しいか或はそれ未満である、
鋼組成物を準備することを含んで成り、ここで、各元素の濃度は前記鋼組成物の総重量を基準にした濃度であり、かつ硬化性が向上するように約0.0005から0.002重量%のホウ素は固溶体のままである。この方法に更に前記鋼組成物の鋳造を鋳造鋼組成物中の窒素の実質的に全部が窒化ホウ素の生成が回避されかつホウ素の前記固溶体中含量がもたらされるように大きさが約50nm未満のTiN粒子形態で存在するように行うことも含める。この方法にまた前記鋳造鋼組成物の熱間圧延を行いそして前記成形した鋼組成物の空気冷却を熱間圧延後直ちに約1℃/秒未満の冷却速度で行うことも含める。この方法に更に前記組成物のオーステナイト化および焼き入れを行うことも含める。場合により、この方法に更に前記組成物の焼き戻しを約400から700℃の範囲の温度で行うことも含めてもよい。
【0012】
焼き戻しを行う態様では、焼き戻し後の空気冷却組成物が有する最終的微細構造には焼き戻されたベイナイトとマルテンサイトの混合物が含まれている可能性があり、マルテンサイトの量は約30%以上である。特定の態様では、その空気冷却組成物が含有するマルテンサイトの量は約50%以上であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、ホウ素−チタン(B/Ti)鋼管の製造方法の1つの態様の図式的流れ図である。
【図2】図2は、鋼組成物1の1つの態様の連続冷却変態(CCT)プロット図である。
【図3】図3に、オーステナイト域から約2℃/秒、5℃/秒、10℃/秒および20℃/秒の冷却速度で冷却した鋼組成物1の態様の微細構造を撮った走査電子顕微鏡写真を示す。
【図4A−4B】図4Aおよび4Bは、加速冷却を受けさせた鋼組成物1の態様が示した衝撃エネルギー(CVN)のプロット図であり、(A)に衝撃エネルギーを冷却速度の関数として示し、(B)に衝撃エネルギーを温度の関数として示す。
【図5】図5は、焼き入れ後に焼き戻しを受けさせた状態の鋼組成物1の態様が示した硬度を焼き戻し温度の関数としてプロットした図である。
【図6】図6に、焼き入れ後に焼き戻しを約410℃で受けさせた鋼組成物1の態様の微細構造を撮った走査電子顕微鏡写真を示す。
【図7】図7は、鋼組成物2の1つの態様の連続冷却変態(CCT)プロット図である。
【図8】図8に、オーステナイト域から約0.2℃/秒、0.5℃/秒、1℃/秒、10℃/秒、30℃/秒および50℃/秒の冷却速度で冷却した鋼組成物2の態様の微細構造を撮った走査電子顕微鏡写真を示す。
【図9】図9は、鋼組成物3の1つの態様の連続冷却変態(CCT)プロット図である。
【図10】図10に、オーステナイト域から約0.2℃/秒、0.5℃/秒、1℃/秒、10℃/秒、30℃/秒および50℃/秒の冷却速度で冷却した鋼組成物3の態様の微細構造を撮った走査電子顕微鏡写真を示す。
【図11A−11B】図11A−11Bは、鋼組成物2および3の態様が示した硬度を熱間圧延からの冷却速度の関数としてプロットした図:(A)組成物2、(B)組成物3である。
【図12A−12B】図12A−12Bに、焼き入れを受けさせたままの状態の鋼組成物2および3の態様の微細構造を撮った走査電子顕微鏡写真:(A)組成物2、(B)組成物3を示す。
【図13A−13B】図13A−13Bに、焼き入れ後に焼き戻しを受けさせた状態の鋼組成物2および3の態様の微細構造を撮った走査電子顕微鏡写真:(A)組成物2、(B)組成物3を示す。
【図14】図14は、鋼組成物2(黒四角)および3(白四角)の態様が示した硬度を焼き戻し温度の関数としてプロットした図である。
【図15】図15は、鋼組成物2および参照Nb−V鋼の態様が示した硬度を800℃から500℃の範囲の平均冷却速度の関数としてプロットした図である。
【0014】
詳細な説明
本開示の態様は、ホウ素が微量の合金化低炭素鋼のための組成物および製造方法を提供するものである。特に、窒化チタン(TiN)粒子の量が制御されていることに付随してじん性が向上したホウ素/チタン(B/Ti)鋼を詳細に考察する。チタンおよびホウ素を添加すると、遊離ホウ素が実質的に固溶体のままであり得ることから、オーステナイト分解中の硬化性が向上する。
【0015】
鋳造中の冷却速度を用いてTiN析出物の大きさを制御することができる。特定の態様における大きさには前記析出物の直径が含まれ得る。他の態様における大きさには前記析出物の最大寸法が含まれ得る。例えば、以下に詳細に考察するように、鋳造中に約10から30℃/分以上の冷却速度を用いると平均サイズが約50nm未満の微細なTiN析出物が生じ得る。そのようなTiN析出物は大きさが小さいことが理由でじん性に有害ではない。加うるに、そのような析出物は、加工操作、例えば熱間圧延前の再加熱など中に起こる過剰な粒子成長を抑制する可能性もある。オーステナイトの粒径が小さくなると、マルテンサイト/ベイナイトのパケットサイズが小さくなることが理由で、加速冷却または焼き入れ後のじん性が向上し得る。
【0016】
当該鋼組成物が示す機械的特性および微細構造は更に熱間圧延後の熱処理の影響も受ける。1つの態様では、熱間圧延後の鋼組成物を空気中で約1℃/秒未満の冷却速度で冷却した後、それに再加熱を受けさせてオーステナイト域にしそして焼き入れを行う。他の態様では、熱間圧延後の鋼組成物を空気中で冷却した後、それに再加熱を受けさせてオーステナイト域にしそして焼き入れに続いて焼き戻しを行う。さらなる態様では、鋼組成物に
約5から50℃/秒の範囲の冷却速度の加速冷却を熱間圧延後直ちに受けさせてもよい。
【0017】
処理をそのような様式で受けさせた組成物、特に焼き入れに続いて焼き戻しを受けさせた組成物では、優れた機械的特性組み合わせを得ることができる。例えば、焼き入れに続いて焼き戻しを約500℃で受けさせたサンプルが示し得る降伏および引張り強度はそれぞれ約118および127ksiであることに加えて約−60℃で測定した衝撃エネルギーの範囲は約143−173Jの範囲であり得る。
【0018】
別の例として、加速冷却を受けさせたサンプルは良好な衝撃エネルギーを示す可能性があり、特に冷却速度を約10−20℃/秒にした時に示す可能性がある。例えば、温度を−20℃以上にした時に観察される衝撃エネルギーは約220J以上である。開示する態様が示す前記および他の利点を以下に詳細に考察する。
【0019】
図1に、ホウ素−チタン(B/Ti)鋼製造方法100の1つの態様を例示する。特定の態様では、本組成物を管の形態に成形してもよい。図1に示した方法100は、ブロック110、112および114に示す鋼鋳造操作(鋼鋳造操作102と集合的に呼ぶ)、ブロック116、120、122および124に示す鋼成形操作(鋼成形操作104と集合的に呼ぶ)およびブロック126および128に示す鋼熱処理操作(熱処理操作106と集合的に呼ぶ)を包含する。いくつかの態様では必要に応じて熱処理操作の中の1つ以上をある程度または完全に省いてもよいことは理解されるであろう。
【0020】
鋼鋳造操作102中にB/Ti鋼の鋳造を溶融状態から実施する。特定の態様では、鋼鋳造操作102に連続鋳造操作を含めてもよい。例えば、鋼鋳造操作102に、当該技術分野で公知の如き鉄溶融/精製110、取鍋処理112および連続鋳造114を含めてもよい。
【0021】
1つの態様では、そのような鋼に以下の表1に示す元素をそこに示す範囲の濃度で含有させてもよく、ここでは特に明記しない限り、その濃度を鋼組成物の総重量を基準にした重量パーセント(重量%)で示す。
【0022】
【表1】

【0023】
前記元素の濃度の選択を更に当該組成物の炭素当量CEPcm[ここで、CEPcmの計算を下記:
【0024】
【数1】

【0025】
に従って行いかつ各元素の濃度を重量%で示す]
が約0.22未満になるように行うことも可能である。
【0026】
表1に示すように、そのような鋳造鋼にはホウ素−チタン鋼合金が含まれ得、それは炭素(C)、ホウ素(B)およびチタン(Ti)ばかりでなくマンガン(Mn)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)モリブデン(Mo)、バナジウム(V)およびニオブ(Nb)の中の1種以上を含有する。また、硫黄(S)、燐(P)、銅(Cu)および窒素(N)の不純物も存在する可能性はあるが、しかしながら、1つの態様では、そのような不純物の濃度を好適にはできるだけ少ない量になるように低くする。
【0027】
Cは、添加によって鋼の強度を安価に上昇させる元素である。C含有量を約0.04%未満にすると、いくつかの態様では、当該組成物に望まれる強度を得るのが困難になり得る。他方、他の態様では、鋼のC含有量を約0.12重量%より大きくするとじん性および溶接性が悪影響を受ける可能性がある。従って、1つの態様では、C含有量を約0.04から0.12重量%の範囲にしてもよい。他の態様では、C含有量を約0.04から0.08重量%の範囲にしてもよい。そのようにCの範囲を低くすると場合により焼き戻し無し(即ち焼き入れしたままの状態)でも組成物を加工することが可能になり、それでも良好なじん性を達成することができる。
【0028】
Bは、添加が鋼の硬化性の向上に有効である元素である。例えば、Bは、フェライトの生成を抑制することによって硬化性を向上させ得る。B含有量を約0.0005重量%未満にすると、いくつかの態様では、鋼の所望硬化性を得るのが困難になり得る。しかしながら、他の態様として、B含有量をあまりにも高くすると、粗い炭化ホウ素が粒界に生じてじん性が悪影響を受ける可能性がある。従って、1つの態様では、当該組成物中のB濃度を約0.0005から0.003重量%の範囲にしてもよい。他の態様では、当該組成物中のB濃度を約0.0005から0.002重量%の範囲にしてもよい。そのような組成物に入っているBの少なくとも一部は固溶体として遊離元素状態であり得る。
【0029】
Siは、添加によって鋼製造工程中に脱酸素効果をもたらしかつまた鋼の強度も上昇させる元素である。Si含有量をあまりにも低くすると、いくつかの態様では、鋼が酸化を受け易くなって微量含有物の濃度が高くなる可能性がある。しかしながら、他方、鋼のSi含有量をあまりにも高くすると、いくつかの態様では鋼のじん性と成形性の両方が低下する可能性がある。従って、本組成物の特定態様では、Siの濃度を約0.05から0.3重量%の範囲にしてもよい。
【0030】
MnおよびCrは、硬化性を向上させる目的でB、MoおよびNiと組み合わせて使用可能な元素である。例えば、それらを合金化で添加することは、冷却中にオーステナイトからフェライトおよびパーライトが生じることがないようにするに役立つ可能性がある。それらは更にベイナイト出発温度を低くすることで微細構造の微調整を向上させる可能性がある。加うるに、Mnは固溶体硬化をもたらす可能性もある。特定の態様では、Mnの濃度を約0.6から1.6重量%の範囲にしてもよい。さらなる態様では、Crを本組成物に入れなくてもよい。他の態様では、Crの濃度を約0.5重量%以下の範囲にしてもよい。
【0031】
Moは、鋼組成物の硬化性を向上させる目的で用いられる元素である。Moを合金化で
添加するとまた燐が粒界に隔離される度合が低くなることで粒間破壊抵抗が向上する可能性もある。Moは更にBがもたらす硬化性の効果を向上させる可能性もある。特定の態様では、Moを本組成物に入れなくてもよい。他の態様では、Moの濃度を約0.5重量%以下の範囲にしてもよい。
【0032】
Niは、硬化性を向上させかつじん性を改善し得る合金化添加剤である。特定の態様では、Niを本組成物に入れなくてもよい。他の態様では、Niの濃度を約0.5重量%以下の範囲にしてもよい。
【0033】
Tiは、添加によってTiNの如き窒素不純物を固定しかつ窒化ホウ素の生成を抑制することでBが鋼中で示す効果を向上させるに有効である元素である。Ti含有量をあまりにも低くすると、いくつかの態様では、ホウ素が硬化性に対して示す好ましい効果を得るのが困難になり得る。1つの態様として、Ti含有量を約0.03重量%より大きくすると、粗いTiNおよびTiCが生じることで熱間延性およびじん性が悪影響を受ける可能性がある。従って、特定の態様では、Tiの濃度を約0.01から0.03重量%の範囲にしてもよい。
【0034】
代替態様では、Tiの濃度をNの濃度を基準にしてNに対するTiの比率が約3.4以上(重量パーセントで表した濃度で)に維持されるように指定することも可能である。
【0035】
特定の態様では、本組成物中に存在するNの実質的に全部がTiNの形態であるようにしてもよい。特定の態様では、本組成物のN含有量の約90%以上、約92%以上、約94%以上、約96%以上、約98%以上および約99%以上がTiNの形態で存在するようにしてもよい。TiNが取り得る形態には、これらに限定するものでないが、粒子が含まれる。
【0036】
Nbは、当該組成物のオーステナイト粒径を微調整する目的で使用可能な合金化添加剤である。Nbは更にホウ素が硬化性に対して示す効果を向上させかつ析出硬化をもたらす可能性もある。特定の態様では、Nbを本組成物に入れなくてもよい。他の態様では、Nbの濃度を約0.05重量%以下の範囲にしてもよい。
【0037】
Vは、析出硬化をもたらす目的で使用可能な合金化添加剤である。特定の態様では、Vを本組成物に入れなくてもよい。他の態様では、Vの濃度を約0.15重量%以下の範囲にしてもよい。
【0038】
Oは、鋼組成物中に例えば酸化物などの形態で存在し得る不純物である。酸素含有量が高くなると衝撃特性が悪化する可能性がある。従って、酸素含有量を低くする方が好適である。1つの態様では、酸素含有量の上限を約0.0050重量%にしてもよい。別の態様では、酸素含有量の上限を約0.0015重量%以下にする。
【0039】
Cuは、本鋼組成物の態様にとって必要ではないが、存在する可能性がある。いくつかの態様では、製造工程に応じて、Cuの存在を回避するのは不可能であり得る。従って、1つの態様では、Cuの最大含有量を約0.10重量%またはそれ以下にしてもよい。
【0040】
S、P、Ca、Nなどは不純物であり、それらの濃度を好適にはできるだけ低く保つ。特定の態様では、S、P、CaおよびNの各々の濃度を独立して下記のようにしてもよい:Sを約0.005重量%以下、Pを約0.015重量%以下、Caを約0.003重量%以下、そしてNを約0.008重量%以下。代替態様では、S、P、CaおよびNの各々の濃度を独立して下記のようにしてもよい:Sを約0.003重量%以下、Pを約0.015重量%以下、Caを約0.002以下、そしてNを約0.006重量%以下。
【0041】
液状の鋼に鋳造を鋼鋳造操作114で連続的に受けさせてもよい。特定の態様では、その液状の鋼に鋳造を受けさせて棒にするが、他の形状に鋳造することも可能であると理解することができる。特に、その鋳造棒の冷却速度を固化中に生じるTiN析出物の大きさが制御されるように選択してもよい。特定の態様では、TiN析出物の結晶粒粗大化が抑制されるように、鋳造中の冷却速度を選択した速度に維持してもよい。特定の態様では、冷却速度をTiN析出物の大きさが約50nm未満になるように選択してもよい。1つの態様では、鋳造からの冷却速度を棒中心部辺りの冷却速度が約5℃/分より大きくなるように維持してもよい。さらなる態様では、鋳造からの冷却速度を棒中心部辺りの冷却速度が約10℃/分より大きくなるように維持してもよい。別の態様では、鋳造からの冷却速度を棒中心部辺りの冷却速度が約20℃/分より大きくなるように維持してもよい。追加的態様では、鋳造からの冷却速度を棒中心部辺りの冷却速度が約30℃/分より大きくなるように維持してもよい。
【0042】
1つの態様では、そのようにして加工した棒を次に鋼成形操作104で管状棒、即ち管に成形してもよく、より詳細には、継ぎ目無し管に成形してもよい。実質的に円筒形の固体状鋼棒に1番目の再加熱操作(ブロック116)を受けさせることでオーステナイト域、即ち約1200℃から1300℃、好適には約1250℃の温度にしてもよい。ブロック120および122では、その棒に更に穴を開け、特定の好適な態様では、Mannessmann方法を用いて約1100から1200℃の範囲の温度で穴を開けた後、熱間圧延を約900から1100℃の範囲の温度で受けさせる。
【0043】
その熱間圧延を受けさせた継ぎ目無し鋼管は有利にほぼ均一な壁厚を管の周囲および管軸に沿った縦軸の両方に有する。一例として、そのような様式で成形した管は約60から273mmの範囲の外径および約6から25mmの範囲の壁厚を持ち得る。別の例として、約290mmの外径を有する固体状棒に熱間圧延をそのような様式で受けさせることで外径が約244.5mmで壁厚が約16mmの管を生じさせることも可能である。
【0044】
熱間圧延中に前記管が受ける断面積減少によって微細構造が微調整される可能性がある。微細構造が微調整されると有利に加工管に望まれる機械的特性を得ることが可能になる。次に、そのようにして製造した熱間圧延継ぎ目無し鋼管を室温に冷却してもよい。特定の態様において、熱間圧延後であるが変態前の鋼が示すオーステナイト粒径は約10から50μmの範囲であり得る。他の態様において、熱間圧延後であるが変態前の鋼が示すオーステナイト粒径は約20から50μmであり得る。
【0045】
オーステナイトの微調整がそのような度合で起こると有益には選択した組成物が最終的圧延温度から加速冷却した後に強度とじん性の良好な均衡を次の熱処理、例えば焼き入れまたは焼き入れに続く焼き戻しなどの必要無しに達成することが可能になる。他の態様として、オーステナイトの微調整がそのような度合で起こると炭素濃度が高い組成物が熱処理、例えば焼き入れおよび焼き戻しなどを受けた時に強度とじん性の良好な均衡を達成することが可能になる。
【0046】
本組成物の態様をブロック124で熱間圧延から空気冷却または加速冷却で冷却してもよい。空気を用いて冷却を行う時、壁厚が約8mmより大きい管の場合、約1℃/秒未満の冷却速度を達成してもよい。また、その後の熱処理を用いることでも当該鋼組成物が示す強度およびじん性を向上させることができる。
【0047】
加速冷却を行う場合、冷却を中間的冷却段階無しに熱間圧延から直接実施して室温にしてもよい(ブロック124)。自然な空気冷却に相当する冷却速度より速い冷却速度を達成する目的でいくつかの装置を用いることができ、それらには、これらに限定するもので
ないが、強制空気流、水噴霧および空気−水混合物噴霧が含まれる。その冷媒の流れを管の外壁に向けてもよいか或は微細構造の均一性が向上するように管の内壁と外壁に向けてもよい。特定の態様では、上述した冷却代替法を用いることで、加速冷却によって約5から50℃/秒の範囲の冷却速度を達成することができる。他の態様では、約10から50℃/秒の範囲の冷却速度を用いてもよい。さらなる態様では、約10から20℃/秒の範囲の冷却速度を用いてもよい。追加的態様として、壁厚が約8mmおよび25mmの範囲の管の場合にもそのような冷却速度を用いることが可能である。
【0048】
熱間圧延管の成形は複数の仕上げ段階を用いて達成可能である。そのような仕上げ段階の非限定例には、管をある長さ、例えば約8mから15mの長さに切断すること、管の末端部の不要部分を切り取ること、管を真っすぐにすることおよび非破壊検査(例えば電磁検査、超音波検査)を行うことが含まれ得る。そのような様式で、表1に例示する範囲内の組成を有する側面が実質的に真っすぐな金属製管状棒を生じさせることができる。
【0049】
場合により、成形操作104を受けさせた後の管に対して1つ以上の熱処理操作106を実施してもよい。1つの態様では、焼き入れをブロック126で実施してもよい。例えば、本組成物に焼き入れを受けさせる前に2回目の再加熱を受けさせてオーステナイト域、即ち約Ae3より高い温度(例えば約870−950℃)にしてもよい。最大温度におけるソーク時間を約5から30分の範囲にしてもよい。更に、焼き入れを水噴霧を伴わせて行うことで当該組成物をほぼ最大温度からほぼ室温に冷却することも可能である。
【0050】
他の態様では、更に、焼き入れを受けさせた組成物に焼き戻しをブロック128で受けさせてもよい。焼き戻しは、加熱を約400から700℃の範囲の温度になるまで行い、その焼き戻し温度を選択した時間保持しそして空気冷却をその焼き戻し温度からほぼ室温になるまで行うことで実施可能である。その組成物を前記焼き戻し温度に約10から60分間保持してもよい。
【実施例】
【0051】
本開示の3種類の鋼組成物(組成物1、2および3と呼ぶ)の態様の製造、微細構造および機械的特性を以下の実施例で考察する。更に、そのような組成物が達成した性能の利点も考察する。本実施例は例示の目的で考察するものであり、開示する態様の範囲を制限すると解釈されるべきでないと理解することができる。
【0052】
組成物1、2および3に存在させる合金化元素の濃度を以下の表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
組成物1は、オーステナイト域から加速冷却後の微細ベイナイト構造を生じさせる目的で考案した組成物である。対照的に、炭素含有量が最も高い組成物2は、熱間圧延から空気冷却した後に以下に考察する如き焼き入れそして焼き戻しを行う時に用いる目的で考案した組成物である。組成物2では炭素含有量がより高いことが理由でその他の組成物に比べてCrおよびNbが実質的に存在しない。その上、炭素含有量が最も低い組成物3は、焼き戻しを伴わせないで焼き入れたままの状態で高い強度と良好なじん性を得る目的で考案した組成物である。
【0055】
組成1、2および3を持たせた鋼を約20kgの真空誘導炉内で溶融させた後、エレクトロスラグ再溶融させることで硫黄含有量を低くした。その後、組成物1、2および3に鋳造を受けさせて厚みが約140mmのスラブを生じさせた後、それに熱間圧延を受けさせて最終的厚みを約16mmにした。熱間圧延中、それぞれ約1200−1250℃および950−1000℃の再加熱および仕上げ温度を用いた。その後、熱間圧延を受けさせたあらゆる板を空気冷却してほぼ室温にした。
【0056】
前記熱間圧延を受けさせた組成物1に下記の圧延後加工手順の中の1つを受けさせた:a)再加熱を行って約900−950℃の温度のオーステナイト域にした後に焼き入れを行う、
b)再加熱を行って約900−950℃の温度のオーステナイト域にした後に焼き入れそして焼き戻しを行う、
c)再加熱を行って約920−950℃の温度のオーステナイト域にした後に加速冷却を行う。
【0057】
焼き入れを水中で穏やかな撹拌を用いて実施することで約900−950℃の温度からほぼ室温にした。また、焼き戻し操作も実施する場合には、前記組成物を約300℃から450℃の範囲に加熱してソーク時間を約1時間にした。
【0058】
加速冷却では、前記組成物の冷却を空気と水の混合物中で約900−950℃の再加熱温度からほぼ室温になるまで約5から45℃/秒の範囲の冷却速度で行うことで冷却を実施した。加速冷却前の再加熱温度の選択では、産業的に熱間圧延機のちょうど出口の所で達成される代表的なオーステナイト微細構造が得られるように温度を選択した。Gleeble 3500熱−機械的模擬実験装置を用いることで完全な熱処理を実施した。
【0059】
熱間圧延を受けさせた組成物2および3に下記の2種類の圧延後加工手順の中の1つを受けさせた:
a)再加熱を行ってオーステナイト域にした後に焼き入れを行う。
b)再加熱を行ってオーステナイト域にした後に焼き入れそして焼き戻しを行う。
【0060】
前記組成物を約925℃(組成物2)または約930℃(組成物3)の温度に加熱してソーク時間を約10分にすることで焼き入れを実施した。冷却を水中で穏やかな撹拌を用いて焼き入れ温度からほぼ室温になるまで実施した。焼き戻しを実施する場合、前記組成物を約400から700℃の範囲の温度に加熱して最大温度におけるソーク時間を約30分にした。
【0061】
各組成物毎にGleeble 3500熱機械的模擬実験装置を用いた膨張試験を実施することで連続冷却変態(CCT)挙動を評価した。組成物1、2および3の再加熱を約5℃/秒で行ってそれぞれ約920℃、925℃および930℃にして最大温度におけるソーク時間を約10分間にした。オーステナイト化温度の選択では、個々の組成物に相当するAc3温度より約20−30℃高い温度を選択した。組成物1では約0.5から50
℃/秒の範囲の冷却速度を調査し、そして組成物2および3では約0.2から50℃/秒の範囲の冷却速度を調査した。更に、その結果としてもたらされた微細構造の特徴付けを光学および走査電子顕微鏡法を用いて実施した。
【0062】
更に、そのように加工した前記組成物が示す機械的特性の評価を機械的試験で実施したが、その試験に引張り試験、硬度試験およびシャルピー試験の中の1つ以上を含めた。各場合とも、引張り用サンプルおよびフルサイズシャルピーサンプルを横方向に採取した。引張り試験をASTM E8、“Standard Test Methods for
Tension Testing of Metallic Materials”(これは全体が引用することによって本明細書に組み入れられる)に従って実施し、そして報告する結果は2個のサンプルの平均である。
【0063】
シャルピー試験をASTM E23、“Standard Test Methods
for Notched Bar Impact Testing of Metallic Materials”(これは全体が引用することによって本明細書に組み入れられる)に従って実施し、そして報告する結果は2または3個のサンプルの平均である。衝撃試験を組成物1に関しては約−20℃、0℃の温度および室温で実施した一方、衝撃試験を組成物2および3に関しては約−60℃、−40℃、−20℃、0℃の温度および室温で実施した。
【0064】
硬度試験をASTM E92、“Standard Test Methods for Vickers硬度of Metallic Materials”(これは全体が引用することによって本明細書に組み入れられる)に従って実施した。
【0065】
実施例1−組成物1を約0.5および50℃/秒の範囲の冷却速度で冷却した場合の連続冷却変態(CCT)挙動および微細構造の評価
組成物1に膨張測定を受けさせることで得たCCT図表を図2に示す。図2に、変態が約5%、20%、50%、80%および95%起こった時の温度の軌跡を冷却速度の関数として示す。約920℃で約10分間の再加熱条件が理由で変態前のオーステナイト粒径は約50℃/秒で冷却したサンプルを基にして約10−20μmであると推定した。
【0066】
図2に示したCCT図表に2つの変態領域を観察することができ、それらは約5℃/秒より遅い冷却速度および速い冷却速度に相当する。冷却速度が約5°/秒未満の場合、相変態が約550−600℃の時に始まることが観察される。そのような条件下でもたらされた微細構造は、図3に示す約2℃/秒および5℃/秒の冷却速度に相当する顕微鏡写真が示すように、主にベイナイトであることに加えてオーステナイトをいくらか保持していた。冷却速度を約5℃/秒以上にすると変態開始温度が約450℃にまで降下し、これは、Andrews式に従って計算したマルテンサイト変態温度である約452℃に近い。そのような条件下で観察した微細構造も再び図3に示した約10℃/秒および20℃/秒の冷却速度に相当する顕微鏡写真が示すように主にベイナイトであった。しかしながら、注目すべきは、そのベイナイト構造の方が微細でありかつ実質的に濃淡のむらがあるオーステナイト領域を保持していない。
【0067】
また、組成物1をいろいろな冷却速度(0.5−50℃/秒)で冷却した後の硬度測定値も図2のCCT図表に示す。硬度の範囲は冷却速度を約2℃/秒にした時の約262Hvから冷却速度を約50℃にした時の約340Hv以上に及ぶことを観察することができる。
【0068】
更に、冷却速度を約50℃/秒にした時の測定硬度が高いことに基づいて、冷却速度を約50℃/秒近くおよびそれ以上にすると小さいマルテンサイト領域がいくらか現れる可
能性があると予測される。しかしながら、約50℃で冷却したサンプルに相当する微細構造には大きなマルテンサイト領域は実質的に全く観察されなかったことを注目すべきである。
【0069】
実施例2−組成物1のじん性評価−加速冷却条件
組成物1が加速冷却条件下で示す衝撃特性を検査する目的で、この上でCCT図表に関して考察した熱サイクルを用いていくつかのシャルピー試験を実施した。約5℃/秒、10℃/秒、30℃/秒および45℃/秒の冷却速度を用いて調製したサンプルに試験を受けさせた。シャルピー試験を約25℃、0℃および−20℃の温度で実施した。この衝撃試験の結果を表3および図4Aおよび4Bに示すが、これらに衝撃エネルギー(シャルピーV−ノッチ、CVN)をそれぞれ冷却速度および試験温度の関数として相補的にプロットした。
【0070】
【表3】

【0071】
表3および図4Aおよび4Bを検査することで、冷却速度を速くするにつれて衝撃エネルギー値が降下することを観察することができる。その上、試験を実施したあらゆる冷却速度範囲に渡って優れた衝撃特性が得られたことも観察することができる。例えば、試験を約25℃および−20℃の範囲の温度で受けさせたサンプルに関して測定した衝撃エネルギーは約335から240Jの範囲であった。その上、最も高い衝撃エネルギー値は約5から10℃/秒の範囲の冷却速度で冷却したサンプルに相当することが図4Aおよび4Bから分かるであろう。それにも拘らず、冷却速度を約30℃/秒にした時でも約−20℃の時に得られた衝撃エネルギー値は約220J以上であった。
【0072】
実施例3−組成物1の機械的評価−焼き入れたまま
焼き入れたままの状態の組成物1が示した引張りおよび衝撃特性を表4および5に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【0075】
一般に、焼き入れたままの組成物は圧延を受けさせたままのサンプルに比べて強度および衝撃エネルギーの向上を示した(25℃から−20℃においてYS〜69ksi、UTS〜99ksi、CVN〜6−8J)。このような向上は、微細構造が一般的に微調整されたことと濃淡のむらがある大きなオーステナイト領域が実質的に消失したことに起因し得る。
【0076】
実施例4−組成物1の機械的評価−焼き入れ後に焼き戻し
a)硬度
組成物1が焼き入れに続く焼き戻し条件下で示す焼き戻し挙動を検査する目的で、サンプルに焼き入れをこの上で考察したように受けさせた後、焼き戻しを約350℃から440℃の範囲の温度で約1時間受けさせた。測定硬度値を図5に示す。一般に、焼き入れたままの状態における硬度は約362Hvであるが、焼き戻しを約300から400℃に至るまで行うと約350から335Hvの範囲にまで多少低下することを観察することができる。更に焼き戻しを約440℃で受けさせたサンプルは硬度の有意な低下を示し、約280+/−20Hvにまで低下した。
【0077】
b)引張りおよび衝撃特性
引張りおよび衝撃特性を測定するに充分な大きさの焼き入れ板で用いる目的で約400℃を超える2種類の焼き戻し条件、即ち410℃および440℃を選択した。以下の表6および7に、その実験結果を要約することに加えて焼き入れたままのサンプルに関して測定した匹敵する測定値も要約する。
【0078】
【表6】

【0079】
【表7】

【0080】
焼き入れ後に焼き戻した状態で強度とじん性の良好な組み合わせを達成することができたことを観察することができる。例えば、焼き入れ後に焼き戻した状態で測定した降伏および引張り強度はそれぞれ約129ksiおよび約138−141ksiであった。対照的に、焼き入れたままの材料に関して測定した降伏強度はより低く、約121ksiである一方、引張り強度はより高く、約156ksiであった。
【0081】
同時に、焼き入れ後に焼き戻した状態のサンプルが示した衝撃エネルギーの方が焼き入れたままの状態のサンプルを匹敵する温度で測定した時のそれよりも高いことも確認した。例えば、焼き戻しを410および440℃で受けさせたサンプルが約24℃で示した衝撃エネルギーはそれぞれ約215および170Jである一方、焼き入れたままの材料が示した衝撃エネルギーは約150Jであった。約−20℃にした時の衝撃エネルギーの差の方が更に大きく、焼き戻しを約410および440℃で受けさせたサンプルが示した衝撃エネルギーはそれぞれ約136および113Jであったが、焼き入れたままの材料が示した衝撃エネルギーは約42Jであった。
【0082】
理論で範囲を限定するものでないが、そのような特性の差は当該組成物の微細構造によって理論的に説明可能であると考えている。図6に示すように、焼き入れ後に焼き戻した状態の組成物1が示した微細構造にはベイナイトおよびマルテンサイトが存在することに加えて炭化物が微細に分散しており、それによって、焼き入れ後に焼き戻した材料が示した降伏強度の方が単に焼き入れたままの材料が示したそれよりも向上している。
【0083】
組成物1の要約
焼き入れたままの状態および焼き入れ後に焼き戻した状態における硬度、じん性および引張り特性を検査することで、焼き戻し温度を高くするにつれて硬度が低下して400℃付近で顕著な低下が始まることを観察することができる。その上、焼き入れたままの状態および焼き入れ後に焼き戻した(410℃および440℃)状態でじん性を試験した結果、焼き入れ後に焼き戻しを410℃で行った状態のじん性の方が一般に焼き入れたままの状態および焼き入れ後に焼き戻しを440℃で行った状態に比べて高いことが分かる。加うるに、焼き戻しを約410℃から440℃になるまで行うと降伏強度が多少の改善を示す一方、焼き戻しを約410℃から440℃になるまで行うと最大抗張力が多少の低下を示す。そのような結果は、焼き入れ後に焼き戻した状態の組成物1の態様は約410−440℃の範囲内の時に単に焼き入れたままの状態に比べてじん性と強度の有益な組み合わせをもたらすことを示している。
【0084】
また、加速冷却を行ったにも拘わらず優れた衝撃エネルギーおよび硬度値が得られることも観察した。最も注目すべきは、約10から20℃/sの範囲内の時に達成された衝撃エネルギー値は約−20℃の時の約220Jよりも高く、延性領域は約80%以上であった。その上、硬度値も約300−320Hvの範囲であった。
【0085】
実施例5−熱処理前の組成物2−3が示す連続冷却変態(CCT)挙動および微細構造の評価
冷却速度を約0.2、0.5、5、10、30および50℃/秒にして測定した組成物2および3の膨張測定値を用いて作成したCCT図表をそれぞれ図7および9に示す。これらの図に示した変態開始温度は、両方の膨張曲線の線形挙動から最初に起こった逸脱として決定した温度である。組成物2および3のオーステナイト粒径は、約50℃/秒で冷却したサンプルに関して測定した値から約20から30μmの範囲であると推定した。更に、図8および10に、約0.2、0.5、1、10、30および50℃/秒の冷却速度で冷却した組成物2および3を撮った光学顕微鏡写真を示す。
【0086】
その測定したCCTの図表および観察した微細構造により、組成物2と3が示す変態挙動は同じであり得る。冷却を約5℃/秒から30℃/秒の範囲で行った時の主要な変態生成物はベイナイトである。冷却速度をより遅くすると多角形のフェライトが主要な成分になる。組成物2の冷却を約10℃/秒の冷却速度で行うとマルテンサイトが出現しそして組成物3の冷却を約30℃/秒で行うとマルテンサイトが出現し、そして冷却を約50℃/秒で行うと両方の組成物ともマルテンサイトが主要な相になる。
【0087】
また、この2種類の組成物の間に注目すべき差が数多く存在することも観察することができる。1つの面として、組成物2では冷却速度を約5℃/秒未満にするとベイナイトに加えてパーライトが多量に現れる。しかしながら、組成物3ではより複雑な微細構造が観察され、パーライトに加えてベイナイトがより大きな部分を占めかつオーステナイトがいくらか保持された。理論で範囲を限定するものでないが、そのような差は組成物3の炭素含有量の方が低いことに起因する可能性があり、それによってパーライトの総分率が低くなることに加えてCrおよびNbを合金化で添加したことでベイナイトの生成が促される。
【0088】
別の面として、組成物2と3ではベイナイトの比率に差がある。変態温度およびオーステナイト粒径が類似しているにも拘らず、組成物3のベイナイト構造の方が一般に組成物2のそれよりも微細である。理論で範囲を限定するものでないが、そのような観察はCrおよびNbを合金化で添加した結果であると考えている。
【0089】
さらなる面として、マルテンサイトが生じる傾向は組成物2の方が高い。この上で考察したように、組成物2の中にマルテンサイトが観察される時の最も低い冷却速度は約10
℃/秒である一方、組成物3の中にマルテンサイトが観察される時の最も低い冷却速度は約30℃/秒であった。更に注目すべき点は、組成物3では約30℃/秒にした時に見られたマルテンサイトの斑点は僅かのみである一方で組成物2に存在するマルテンサイトの濃度はベイナイトの濃度と同様であるか或はそれ以上であることを観察した点にある。
【0090】
そのような観察から、低炭素含有量の組成物3の方が組成物2に比べて幅広い範囲の冷却速度に渡ってベイナイト構造に有利であると理解することができる。再び、理論で範囲を限定するものでないが、そのような観察もまたCrおよびNbを合金化で添加した結果であり得る。
【0091】
また、組成物2および3が示した硬度値も冷却速度の関数として図11Aおよび11Bに示す。Creusot−Loireモデリング(Ph.Maynier、B.JungmannおよびJ.Dollet、“Creusot−Loire system for the prediction of the mechanical properties of low alloy steel products”、Hardenability concepts with applications to steels、D.V.DoaneおよびJ.S.Kirkaldy編集、The Metallurgical Society of AIME(1978)、518頁を参照)を用いて実施した計算の値を同じグラフに比較として示す(破線)。組成物3は炭素含有量がより低いにも拘らず、約30℃/秒未満の冷却速度の時に組成物2のそれに比べて若干高い硬度値を示すことを注目すべきである。
【0092】
理論で範囲を限定するものでないが、そのような硬度の増加は既に述べた組成物3の微細構造が微調整されたことに起因する可能性がある。また、組成物3では冷却速度をより遅くした時にオーステナイト化段階中に溶解していたNbが微細な炭化物としていくらか再析出することで硬度が向上し得る可能性もある。
【0093】
実施例6−組成物2−3の機械的評価−焼き入れたままの状態
焼き入れたままの状態の組成物3に関して測定した引張りおよび衝撃特性を以下の表8および9に示す。また、組成物2が示した硬度特性も表9に示す。これらの組成物を撮った相当するSEM顕微鏡写真を図12Aおよび12Bに示す。これらの結果は、炭素が当該組成物の微細構造および機械的特性に影響を与えていることを示している。
【0094】
【表8】

【0095】
【表9】

【0096】
焼き入れたままの組成物2が有する微細構造は主にマルテンサイトであり、ベイナイトの領域がいくらか存在していた(図12A)。その上、組成物2が示した硬度は比較的高く、約350Hvであった。他の系を用いた経験に基づいて、そのような系が示すじん性は劣ると予測されたことから、引張り試験も衝撃試験も実施しなかった。
【0097】
対照的に、焼き入れたままの組成物3が有する微細構造は主にベイナイトであり、存在するマルテンサイト領域は僅かであった(図12B)。この場合、引張りおよび衝撃試験を実施して、特性の有益な組み合わせを得た。測定降伏強度は約121ksiであり、引張り強度に対する降伏強度の比率は低く、約0.82であった。更に、延性から脆性に転移する温度(約50%のせん断面積に相当するそれとして測定)は約−40℃であることも確認した。加うるに、測定衝撃エネルギーは約−20℃から20℃の範囲に渡って実質的に一定で約160Jであった。
【0098】
実施例7−組成物2−3の機械的評価−焼き入れ後に焼き戻した状態
実施例6により、組成物3の場合には焼き入れたままの状態の時に有益な特性がもたらされることを確認した。焼き戻しが組成物2および3に対して及ぼす効果を更に探求する目的で、焼き入れ後に焼き戻した状態の組成物2および3のサンプルに対して同様な試験と評価を実施した。
【0099】
図13Aおよび13Bに、焼き入れ後に焼き戻した状態の組成物2および3の微細構造を撮った走査電子顕微鏡写真を示す。両方の組成物とも、その微細構造は主に若干焼き戻されたベイナイトで構成されていた。また、焼き戻された小さなマルテンサイト領域もいくらか存在し、特に炭素含有量が高い方の組成物2に存在していた。
【0100】
焼き戻しを約400から700℃で受けさせた組成物2および3の小サンプルから得た硬度の結果を図14に示す。両方の組成物とも焼き戻し温度の上昇に応答して同様な漸進的硬度変化を示すことを観察することができる。予想通り、組成物2の方が炭素含有量が高いことが理由で、焼き入れたままの状態および焼き戻し温度が低い時の組成物3に比べて高い硬度を示すことを確認した。しかしながら、逆に、焼き戻し温度を約550℃以上にすると、組成物3が示した硬度の方が組成物2が示したそれよりも高くなることを確認した。
【0101】
理論で範囲を限定するものでないが、そのような結果は組成物3にNbおよびCrを合金化で添加した結果であり得ると考えている。前者によって析出硬化がいくらか誘発される一方、後者によってセメンタイトの結晶粒粗大化が遅れる可能性がある。
【0102】
そのような観察を考慮して、更に、約500℃の温度で熱処理しておいた組成物2および3のサンプルに対して引張りおよび衝撃エネルギー試験を実施した。引張り試験の結果を表10に示す一方で衝撃エネルギーを表11に示す。
【0103】
【表10】

【0104】
【表11】

【0105】
焼き戻しを約500℃で約30分間行った後の機械的特性では、組成物2および3の両方とも強度とじん性の良好な組み合わせを示すことを確認した。組成物2および3が示した降伏強度は約118ksiでありそして最大抗張力は約126−127ksiである。
【0106】
更に、組成物2および3が示した延性から脆性への転移温度は約−60℃以下であり、その試験した温度範囲全体に渡ってせん断面積はほぼ100%である。100%のせん断面積に相当する上方シェルフエネルギー(upper shelf energies)は両方の合金とも約180Jであり、これは、これらの組成物が示す強度のレベルを考慮すると良好な値である。加うるに、これらの組成物が約−40℃から20℃の温度範囲に渡って示した衝撃エネルギーの差は若干のみであり、組成物2が示したそれが約177から185Jであるの対して組成物3が示したそれは約175から189Jであった。
【0107】
注目すべきは、組成物2および3が示した引張りおよび衝撃エネルギー特性は合金化内容に差があるにも拘らずほぼ同じである。理論で範囲を限定するものでないが、この2種類の組成物が示す化学的性質を比較する時、組成物3に入っている炭素の含有量が低くてもCrおよびNbを合金化で添加することによってそれがほぼ相殺されると思われる。
【0108】
組成物2および3の要約
熱間圧延後に空気冷却に続いて再加熱そして焼き入れを受けさせた組成物2および3を検査した結果、炭素含有量を約0.07%未満に維持すると(組成物3)、それは良好なじん性を示した。その上、焼き入れ後に焼き戻しを約500℃の温度で行うと強度とじん性の良好な組み合わせが得られた。この場合、組成物2および3の両方で優れた機械的特性が得られ、降伏強度は約118ksiでありそして約−40℃における衝撃エネルギーは約175−179Jであった。加うるに、検査した試験温度範囲全体に渡って表面がほとんど完全な延性破壊を起こすことも確認し、両方の材料とも延性から脆性への転移温度は約−60℃よりかなり低かった。
【0109】
実施例7−組成物2に関する熱影響ゾーン(HAZ)内の熱サイクル模擬実験
HAZ内の熱サイクル模擬実験を組成物2のサンプルに関して実施した。Hannerzモデル(N.E.Hannerz、“Effect of Cb on HAZ ductility in constructional HT Steels”、Welding Journal、1975年5月)(これは全体が引用することによって本明細書に組み入れられる)を用い、溶接の条件および管の形状を変えることでHAZ内の熱発生を推定した。熱−機械的模擬実験装置Gleebleを用いて計算熱サイクルを再現した。更に、その熱処理を受けさせたサンプルが示す微細構造および硬度も分析した。
【0110】
その結果をX65厚肉継ぎ目無し管の製造で用いられている商業的低炭素Nb−V微量合金化鋼に相当する結果と比較した。Nb−V鋼は組成物2とほぼ同じ炭素含有量およびPcm値を示すが、表12に示すようにホウ素が添加されていない。
【0111】
【表12】

【0112】
壁厚が約16mmおよび/または25mmの管に関して様々な予熱温度および熱入力の模擬実験を実施した(表13)。全てのケースで、可能な最大オーステナイト粒径を得る目的で最大再加熱温度を約1350℃にした。このような条件は硬化性が高くなることが理由でじん性にとって不利であることが知られている。熱入力(HI)に関して約450から1210J/mmの範囲の値の模擬実験を実施しそして予熱温度を予熱無しから約250℃の範囲にした。
【0113】
【表13】

【0114】
あらゆる試験の硬度結果を表13の最後の縦列に示す。約300HVが最大硬度であると仮定したが、これはX65−X80 PSL2管(オフショア用途)に関する標準API 5Lによって指定されている最大HAZ硬度に相当する。分析した壁厚の範囲で約150℃の予熱を用いる時には最小熱入力を約500J/mmにすべきであることは表13から明らかである。予熱無しの場合、壁厚が約25mmの管では最小入力を約950J/mmにまで高くすることになるであろう。
【0115】
平均冷却速度の関数として測定した硬度を同じ溶接条件を用いてNb−V鋼に関して得た結果と比較(図15)することで、両方の鋼ともほぼ同じ硬化性を示すことは明らかである。そのような結果は、組成物2の鋼には厳しい溶接制限がないことを示している、と言うのは、それが冷却速度の関数として示す硬度挙動は商業的X65鋼が示すそれと実質的に同じであるからである。
【0116】
現在のところ、HAZ内の最大硬度に関してはX100にもより優れた等級品にも標準的仕様は存在しない。しかしながら、参照としてX80 PSL 2(オフショア)に関してAPI 5Lに指定されている最大値を考慮すると、組成物2の鋼は、約150℃の予熱を用いかつ最小熱入力を約500J/mmにすると、そのような要求に合致するであろう。
【0117】
要約として、ホウ素およびチタンを合金化で添加した低炭素鋼を提供する。遊離の窒素不純物はチタンと反応してTiN析出物を生じることで実質的に消費される。更に、そのような析出物が結晶粒粗大化を起こさないように鋳造パラメーターも選択する。例えば、鋳造中に約10から40℃/分以上の冷却速度を用いることによって、平均直径が約50nm未満の微細なTiN析出物を達成することができる。遊離の窒素不純物を実質的に除
去すると更に遊離ホウ素が固溶体のままであることが可能になることでオーステナイト分解中の硬化性も向上する。そのような組成物を熱間圧延から空気中で冷却した後に焼き入れを行うか、焼き入れに続いて焼き戻しを行うか、或はそれに加速冷却を熱間圧延後直ちに約5から50℃の範囲の冷却速度で受けさせると、強度とじん性の優れた均衡がもたらされ得る。
【0118】
本明細書の全体に渡って用いる如き用語“約”は当業者が理解する如き通常の意味を包含すると理解されるべきである。本明細書で用語“約”を個々の値または値の範囲に関して用いる場合、その示す正確な値または値の範囲もまた本開示の一部であることを意図する。
【0119】
この上で行った説明で本教示の新規な基本的特徴を示し、説明しかつ指摘してきたが、当業者はその示した装置の細部ばかりでなくそれの使用の形態の点でいろいろな省略、置換、変化および/または追加を本教示の範囲から逸脱することなく成すことができることは理解されるであろう。従って、本教示の範囲をこの上で行った考察に限定すべきでなく、添付請求項で限定すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の製造方法であって、
炭素(C)含有量が約0.04−0.12重量%であり、
チタン(Ti)含有量が約0.01から0.03重量%であり、
ホウ素(B)含有量が約0.0005から0.003重量%であり、そして
窒素(N)含有量が約0.008重量%に等しいか或はそれ未満であり、ここで、
各元素の濃度が鋼組成物の総重量を基準にした濃度であり、かつ
約0.0005から0.002重量%のホウ素が硬化性が向上するように固溶体として存在し、かつ
前記窒素の実質的に全部が窒化ホウ素の生成が回避されかつホウ素の前記固溶体中含量がもたらされるようにTiN粒子形態で存在する、
鋼組成物を準備し、そして
前記鋼組成物から鋳造した棒の冷却を前記棒中に生じるTiN粒子が約50nm未満の平均直径を示すように前記棒の中心部辺りの冷却速度を選択して行い、そして
前記棒からASTM E8に従って測定して約100ksi(690MPa)より大きい降伏強度を示す鋼管を生じさせる、
ことを含んで成る方法。
【請求項2】
前記鋼棒の冷却を鋳造から前記棒の中心部辺りの冷却速度が約10℃/分以上になるように行う請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記鋼棒の冷却を鋳造から前記棒の中心部辺りの冷却速度が約30℃/分より大きくなるように行う請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記鋼組成物が更に
マンガン(Mn)含有量が約0.6から1.6重量%であり、
ケイ素(Si)含有量が約0.05から0.3重量%であり、
ニッケル(Ni)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
クロム(Cr)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
モリブデン(Mo)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
バナジウム(V)含有量が約0.15重量%に等しいか或はそれ未満であり、そして
ニオブ(Nb)含有量が約0.05重量%に等しいか或はそれ未満である、
請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記鋼組成物の元素の濃度を前記組成物の炭素当量(CEPcm)[ここで、CEPcmの計算を
【数1】

に従って行いかつ各元素の濃度を重量%で示す]
が約0.22未満であるように選択する請求項4記載の方法。
【請求項6】
更に、
前記鋼管の熱間圧延を行いそして前記鋼管の冷却を熱間圧延から空気中で約1℃/秒未満の冷却速度で行い、そして
前記熱間圧延鋼管のオーステナイト化および焼き入れを行う、
ことも含んで成る請求項1記載の方法。
【請求項7】
更に、前記焼き入れ鋼管の焼き戻しを約400から700℃の範囲の温度で約10から60分かけて行うことも含んで成る請求項6記載の方法。
【請求項8】
更に、前記鋼管の冷却を熱間圧延から中間的冷却段階無しに約5から50℃/秒の範囲の冷却速度で行うことも含んで成る請求項1記載の方法。
【請求項9】
鋼組成物の製造方法であって、
炭素(C)含有量が約0.04から0.12重量%であり、
マンガン(Mn)含有量が約0.8から1.6重量%であり、
ケイ素(Si)含有量が約0.05から0.3重量%であり、
ニッケル(Ni)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
クロム(Cr)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
モリブデン(Mo)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
バナジウム(V)含有量が約0.15重量%に等しいか或はそれ未満であり、
ニオブ(Nb)含有量が約0.05重量%に等しいか或はそれ未満であり、
チタン(Ti)含有量が約0.01から0.03重量%であり、
ホウ素(B)含有量が約0.0005から0.0030重量%であり、そして
窒素(N)含有量が0.008重量%に等しいか或はそれ未満であり、ここで、
各元素の濃度が鋼組成物の総重量を基準にした濃度でありかつ約0.0005から0.002重量%のホウ素が硬化性が向上するように固溶体のままである、
鋼組成物を準備し、
前記鋼組成物の鋳造を鋳造鋼組成物中の窒素の実質的に全部が窒化ホウ素の生成が回避されかつホウ素の前記固溶体中含量がもたらされるように大きさが約50nm未満のTiN粒子形態で存在するように行い、
前記鋳造鋼組成物の熱間圧延を行い、そして
前記鋳造鋼組成物の冷却を熱間圧延後直ちに約5から50℃/秒の範囲の冷却速度で行う、
ことを含んで成る方法。
【請求項10】
更に、
前記鋳造鋼組成物を約1200から1300℃に再加熱し、
前記鋳造鋼組成物の穴開けを約1100から1200℃の範囲の温度で行い、そして
前記鋳造鋼組成物の熱間圧延を約900−1100℃の範囲の温度で行う、
ことも含んで成る請求項9記載の方法。
【請求項11】
熱間圧延から冷却する前の前記鋼組成物が示すオーステナイト粒径が約20から50μmの範囲である請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記組成物の冷却を熱間圧延から直ちに約10から50℃/秒の範囲の冷却速度で行う請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記組成物の冷却を熱間圧延から直ちに約10から20℃/秒の範囲の冷却速度で行う請求項11記載の方法。
【請求項14】
熱間圧延そして冷却後の前記鋳造鋼組成物が示す降伏強度がASTM E8に従って測定して少なくとも約100ksi(690MPa)である請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が示すシャルピーV−ノッチ衝撃エネルギー、即ち熱間圧延そして冷却後の前記鋳造鋼組成物のフルサイズサンプルをASTM E23に従って−20℃に等しいか或はそれより高い温度で測定した時の強度が約220J以上である請求項12記載の方法

【請求項16】
前記組成物の
炭素(C)含有量が約0.05−0.10重量%であり、
マンガン(Mn)含有量が約0.8から1.6重量%であり、
ケイ素(Si)含有量が約0.05から0.30重量%であり、
ニッケル(Ni)含有量が約0.4重量%以下であり、
クロム(Cr)含有量が約0.3重量%以下であり、
モリブデン(Mo)含有量が約0.3重量%以下であり、
バナジウム(V)含有量が約0.1重量%以下であり、
ニオブ(Nb)含有量が約0.04重量%以下であり、
チタン(Ti)含有量が約0.015から0.025重量%以下であり、
ホウ素(B)含有量が約0.0005−0.015重量%であり、そして
窒素(N)含有量が0.007重量%に等しいか或はそれ未満である、
請求項9記載の方法。
【請求項17】
請求項9記載の方法に従って成形された管。
【請求項18】
鋼組成物の製造方法であって、
炭素(C)含有量が約0.04−0.12重量%であり、
マンガン(Mn)含有量が約0.8から1.6重量%であり、
ケイ素(Si)含有量が約0.05から0.3重量%であり、
ニッケル(Ni)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
クロム(Cr)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
モリブデン(Mo)含有量が約0.5重量%に等しいか或はそれ未満であり、
バナジウム(V)含有量が約0.15重量%に等しいか或はそれ未満であり、
ニオブ(Nb)含有量が約0.05重量%に等しいか或はそれ未満であり、
チタン(Ti)含有量が約0.01から0.03重量%であり、
ホウ素(B)含有量が約0.0005−0.0030重量%であり、そして
窒素(N)含有量が0.008重量%に等しいか或はそれ未満であり、ここで、
各元素の濃度が鋼組成物の総重量を基準にした濃度でありかつ約0.0005から0.002重量%のホウ素が硬化性が向上するように固溶体のままである、
鋼組成物を準備し、
前記鋼組成物の鋳造を鋳造鋼組成物中の窒素の実質的に全部が窒化ホウ素の生成が回避されかつホウ素の前記固溶体中含量がもたらされるように大きさが約50nm未満のTiN粒子形態で存在するように行い、
前記鋳造鋼組成物の熱間圧延を行い、
前記成形した鋼組成物の空気冷却を熱間圧延後直ちに約1℃/秒未満の冷却速度で行い、そして
前記組成物のオーステナイト化および焼き入れを行う、
ことを含んで成る方法。
【請求項19】
更に、
前記鋳造鋼組成物を約1200から1300℃に再加熱し、
前記鋳造鋼組成物の穴開けを約1100から1200℃の範囲の温度で行い、そして
前記鋳造鋼組成物の熱間圧延を約900−1100℃の範囲の温度で行う、
ことも含んで成る請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記鋼組成物の
炭素(C)含有量が約0.07から0.10重量%であり、
マンガン(Mn)含有量が約1.0から1.4重量%であり、
ケイ素(Si)含有量が約0.05から0.15重量%であり、
ニッケル(Ni)含有量が約0.4重量%以下であり、
クロム(Cr)含有量が約0.35重量%以下であり、
モリブデン(Mo)含有量が約0.3重量%以下であり、
バナジウム(V)含有量が約0.1重量%以下であり、
ニオブ(Nb)含有量が約0.04重量%以下であり、
チタン(Ti)含有量が約0.02から0.03重量%であり、そして
ホウ素(B)含有量が約0.001から0.002重量%である、
請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記焼き入れを受けさせた鋼に焼き戻しを約400から600℃の範囲の温度で受けさせる請求項20記載の方法。
【請求項22】
熱間圧延、冷却、オーステナイト化そして焼き入れ後の前記組成物が示す降伏強度がASTM E8に従って測定して約100ksiより大きく、そして前記組成物のフルサイズサンプルをASTM E23に従って約−40℃に等しいか或はそれより高い温度で測定した時のシャルピーV−ノッチ衝撃エネルギーが約170J以上である請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記鋼組成物の
炭素含有量が約0.04から0.08重量%であり、
マンガン含有量が約1.0から1.4重量%であり、
ケイ素含有量が約0.05から0.15重量%であり、
クロム含有量が約0.35重量%以下であり、
モリブデン含有量が約0.2から0.3重量%であり、
ニオブ含有量が約0.03から0.04重量%であり、
チタン含有量が約0.02から0.03重量%であり、そして
ホウ素含有量が約0.001から0.002重量%である、
請求項19記載の方法。
【請求項24】
前記鋼をオーステナイト域に再加熱しそして焼き入れを次の焼き戻しを伴うことなく行う請求項23記載の方法。
【請求項25】
熱間圧延、冷却、オーステナイト化そして焼き入れ後の前記組成物が示す降伏強度がASTM E8に従って測定して約100ksiより大きく、そして前記組成物のフルサイズサンプルをASTM E23に従って約−40℃に等しいか或はそれより高い温度で測定した時のシャルピーV−ノッチ衝撃エネルギーが約90Jより大きい請求項24記載の方法。
【請求項26】
請求項18記載の方法に従って成形された管。

【図1】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図11A】
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【図11B】
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【図14】
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【図15】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【公開番号】特開2011−6790(P2011−6790A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−138504(P2010−138504)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(504415946)テナリス・コネクシヨンズ・アクチエンゲゼルシヤフト (15)
【Fターム(参考)】