説明

ホウ素及び窒素で置換されたグラフェン及びその製造方法、並びにそれを具備したトランジスタ

【課題】ホウ素及び窒素で置換されたグラフェン及びその製造方法、並びにそれを具備したトランジスタを提供する。
【解決手段】ホウ素及び窒素が炭素原子の1−20%置換されるグラフェンである。該ボロン及び窒素で置換されたグラフェンは、ほぼ0.05−0.45eVのバンドギャップを有するので、電界効果トランジスタのチャネルとして使われうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素及び窒素で置換されたグラフェン及びその製造方法と、該グラフェンを具備したトランジスタとに関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェン(graphene)は、炭素原子からなる六方晶系(hexagonal)単層構造物である。グラフェンは、化学的に非常に安定しており、伝導帯(conduction band)と価電子帯(valance band)とがただ一点(すなわち、Dirac point)で重なる半金属(semi-metal)の特性を有する。また、グラフェンは、二次元弾道輸送(2−dimensional ballistic transport)特性を有するので、グラフェン内で電荷の移動度(mobility)が非常に高い。
【0003】
グラフェンは、ゼロギャップ半導体(zero gap semiconductor)であるから、グラフェンをチャネルとして使用した電界効果トランジスタ(FET)は、オフ電流(off-current)が非常に大きく、オン−オフ比(ON-OFF ratio)が非常に小さく、電界効果トランジスタとして使用し難い。
【0004】
グラフェンを電界効果トランジスタのチャネルとして利用するためには、バンドギャップ(band gap)を形成せねばならない。チャネル幅(channel width)を10nm以下に小さくし、アームチェア(arm chair)状にエッジを形成する場合、サイズ効果(size effect)によって、バンドギャップが形成される。
【0005】
しかし、チャネル幅を10nm以下にパターニングすることは非常に困難であり、特に、アームチェア状にエッジをパターニングすることが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、グラフェンにホウ素及び窒素を置換させ、バンドギャップを有したグラフェンと、これを利用したトランジスタとを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態によるグラフェンは、炭素原子がホウ素及び窒素で置換されてバンドギャップが形成される。
【0008】
前記ホウ素及び前記窒素は、グラフェンの炭素原子の1−20%を置換することができる。
【0009】
前記ホウ素及び前記窒素の密度差は、1013cm−2以下である。
【0010】
前記ホウ素と前記窒素は、実質的に同じ割合で、前記グラフェンの炭素を置換する。
【0011】
前記グラフェンの炭素を、ホウ素及び窒素からなる二分子体、または3個のホウ素と3個の窒素とからなる六方晶系構造で置換する。
【0012】
他の実施形態によるグラフェンをチャネルとして利用したグラフェン・トランジスタは、前記グラフェンがホウ素及び窒素で置換されたグラフェンである。
【0013】
本発明のさらに他の実施形態によるグラフェンの製造方法は、グラフェンをCVD(chemical vapor deposition)法で形成するとき、ホウ素及び窒素の前駆体としてボラジンまたはアンモニアボランを使用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によるグラフェンは、電界効果トランジスタのチャネルとして作用することができるバンドギャップを有する。
【0015】
グラフェンの製造時、ボラジンまたはアンモニアボランを前駆体として使用し、グラフェン内に同じ割合でボラン及び窒素を置換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態によるバンドギャップが形成されたグラフェンの模型図である。
【図2】ホウ素及び窒素で置換したグラフェンのバンドギャップを、密度汎関数理論(density functional theory)で計算した結果を示すグラフである。
【図3】本発明の他の実施形態によるバンドギャップが形成されたグラフェンの模型図である。
【図4】六方晶系窒化ホウ素でグラフェンの炭素を置換したとき、密度汎関数理論で計算したグラフェンのバンドギャップを示すグラフである。
【図5】他の実施形態によるグラフェンを利用した電界効果トランジスタの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付された図面を参照しつつ、本発明の実施形態によるホウ素及び窒素で置換されたグラフェン及びその製造方法と、グラフェンを具備したトランジスタとについて詳細に説明する。この過程で、図面に図示された層や領域の厚みは、明細書の明確性のために誇張して図示されている。明細書を介して実質的に同じ構成要素には、同じ参照番号を使用して詳細な説明は省略する。
【0018】
グラフェンのバンドギャップがゼロであるということは、グラフェンのフェルミ(Fermi)レベルに、同じエネルギー電位を有する2個の電子状態(electronic state)が存在するためである。これは、グラフェンの単位セル(unit cell)内の2個の原子が、副格子対称性(sublattice symmetry)を形成するためである。一方、副格子対称性が崩れた六方晶系の窒化ホウ素(hexagonal boron nitride)は、バンドギャップが5.5eV程度と高い。
【0019】
グラフェンにバンドギャップを形成させるためには、グラフェンの副格子対称性を崩さねばならない。このために、グラフェンの炭素を不純物で非対称的に置換する。例えば、炭素をホウ素(B)で置換すれば、グラフェンにバンドギャップを形成させることができる。グラフェンのバンドギャップを大きくするためには、ホウ素の密度をかなり高くせねばならない。ホウ素原子の代わりに、窒素原子やその他の原子を使用することもできる。
【0020】
ホウ素または窒素でグラフェンの炭素を置換するとき、グラフェンに余分の電子または正孔が生成されるので、バンドギャップが形成されたグラフェンを、電界効果トランジスタのチャネルとして使用するとき、キャリア空乏(carrier depletion)を形成するためには、過度のゲート電圧が必要になる。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態によるバンドギャップが形成されたグラフェンの模型図である。
【0022】
図1を参照すれば、ホウ素及び窒素からなる二分子体(dimer)が、2つの単位セルにわたって形成されている。
【0023】
図1の配列は、3x3単位セルからなるスーパーセル(super cell)に、1対のホウ素−窒素二分子体が置換されている。1つのスーパーセルには、9個の単位セルがあり、各単位セルには、2個の炭素原子位置があるので、不純物は、2/18原子あることになる。すなわち、ほぼ11原子%の不純物が置換される。
【0024】
図2は、ホウ素及び窒素で置換したグラフェンのバンドギャップを、密度汎関数理論(density functional theory)で計算した結果を示すグラフである。図2でnは、スーパーセルに含まれる単位セル数の平方根に該当する。例えば、図1の配列は、nが3である。
【0025】
図2を参照すれば、スーパーセル内では、2つの炭素が1対のホウ素と窒素とにより置換されるが、スーパーセルの大きさnが大きくなるにつれて、グラフェンのバンドギャップは小さくなる。nが2になれば、スーパーセル内の不純物が25原子%になるので、グラフェンの固有特性が悪くなりうる。nが10以上に大きくなれば、不純物が1原子%以下に下がっていき、バンドギャップが0.05eVほどに低くなるので、電界効果トランジスタのチャネルとして使用するとき、オン−オフ比が小さい。従って、スーパーセルは、ほぼnが3〜10になり、グラフェンのバンドギャップは、ほぼ0.05−0.3eVになりうる。
【0026】
グラフェンに、ホウ素と窒素とを類似した密度で置換ドーピングすることにより、グラフェンをチャネルとして使用する電界効果トランジスタのゲート制御性を確保することができる。一般的なゲート電圧を使用したゲート制御のために、ホウ素と窒素との二分子体で置換されたグラフェンのホウ素と窒素とのドーピング密度の差が、1013cm−2以下でなければならない。ホウ素と窒素とのドーピング密度の差が1013cm−2より大きければ、ゲート電圧が上昇する。
【0027】
また、グラフェンをチャネルとして使用する電界効果トランジスタでのグラフェンは、有意のバンドギャップを有するために、ホウ素と窒素とのドーピング密度が、1原子%(1013cm−2)以上でなければならず、グラフェンの性質を維持するために、ホウ素と窒素とのドーピング密度が20原子%以下でなければならない。
【0028】
ホウ素及び窒素で置換されたグラフェンを製造するために、グラフェンを化学気相蒸着(CVD)法で形成するとき、カーボン前駆体である炭素含有ガス、例えば、C、CHなどと共に、ホウ素ソースであるBCl、窒素ソースであるN、NHなどをCVDチャンバに供給する。
【0029】
従って、ホウ素前駆体と窒素前駆体との濃度を調節すれば、生成されるグラフェンのバンドギャップを調節することができる。
【0030】
他のIII−V族原子対よりもホウ素と窒素との対の方が、グラフェンの炭素構造と類似した結合長(bond length)、結合強度(bond strength)を有するために、ホウ素−窒素が置換された後にも、グラフェンの強いsp2 σ結合(sigma bonding)とp π結合(pi bonding)が維持されうる。
【0031】
図3は、本発明の他の実施形態によるバンドギャップが形成されたグラフェンの模型図である。
【0032】
図3を参照すれば、六方晶系窒化ホウ素が六方晶系炭素構造を置換している。スーパーセルは、4x4単位セルからなり、1つのスーパーセルには、3原子ホウ素と3原子窒素とが配される。1つのスーパーセルには、16個の単位セルがあり、各単位セルには、2個の原子位置があるので、不純物は、6/32原子あることになる。すなわち、ほぼ19原子%の不純物が置換される。
【0033】
図4は、六方晶系窒化ホウ素でグラフェンの炭素を置換したとき、密度汎関数理論で計算したグラフェンのバンドギャップを示すグラフである。図4でnは、スーパーセルに含まれる単位セル数の平方根に該当する。例えば、図3の配列は、nが4である。
【0034】
図4を参照すれば、スーパーセル内には、ホウ素と窒素とがそれぞれ3つ炭素と置換されるが、スーパーセルの大きさnが大きくなるにつれ、グラフェンのバンドギャップは小さくなる。当該図面を参照すれば、グラフェンのバンドギャップ曲線が二つ(G1,G2)表示されている。G2は、スーパーセルのnが3の倍数である場合を示し、nが3の倍数ではない場合(G1)より、バンドギャップがさらに大きく形成されることが分かる。
【0035】
nが3になれば、スーパーセル内の不純物が33原子%になるので、グラフェンの特性が低下しうる。nが18以上に大きくなれば、不純物が1原子%以下に下がってバンドギャップが低くなるので、電界効果トランジスタのチャネルとして使用するには、オン−オフ比が小さい。従って、スーパーセルは、ほぼnが4〜17になり、グラフェンのバンドギャップは、ほぼ0.05−0.45eVになりうる。
【0036】
窒化ホウ素で置換されたグラフェンを製造するために、グラフェンを化学気相蒸着(SVD)法で形成するとき、カーボン前駆体である炭素含有ガス、例えば、C、CHなどと共に、ホウ素ソースであるBCl、窒素ソースであるN、NHなどをCVDチャンバに供給する。
【0037】
一方、ホウ素及び窒素の前駆体として(HB)−(NH)六方晶系構造を有したボラジン(borazine)を使用することができる。ボラジンを使用するとき、ホウ素:窒素を1:1で供給するのが容易である。高温でCVD法でグラフェンを成長させるとき、ボラジンの構造が崩れても、化学量論(stoichiometry)は維持される。ホウ素原子と窒素原子は、炭素原子との結合に比べて、それぞれ窒素原子とホウ素原子との結合が容易になされる。グラフェンの炭素構造を六方晶系構造のボラジンで置換するとき、六方晶系ボラジン構造が維持され、エネルギー側面で、非常に安定した結合を有することができる。
【0038】
ホウ素−窒素前駆体であるボラジンの量を制御すれば、生成されるグラフェンのバンドギャップを容易に調節することができる。
【0039】
ボラジンの代わりにホウ素:窒素が1:1である前駆体であるアンモニアボラン(ammonia borane)を使用することもできる。アンモニアボランの化学式は、BH−NHである。
【0040】
図5は、他の実施形態によるグラフェンを利用した電界効果トランジスタ100の構造を示す断面図である。
【0041】
図5を参照すれば、基板101上に、グラフェン・チャネル110と、ソース電極121及びドレイン電極122とが形成されている。基板101は、シリコン基板であり、基板101と、チャネル110、ソース電極121及びドレイン電極122との間には、絶縁膜102が形成される。絶縁膜102は、酸化シリコンから形成されうる。ソース電極121及びドレイン電極122は、一般金属、例えばアルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)などから形成されうる。
【0042】
グラフェン・チャネル110は、ホウ素及び窒素で置換されたグラフェンからなりうる。ホウ素及び窒素は、グラフェンの炭素原子の1−20%を置換することができる。ホウ素及び窒素の置換密度は、ホウ素と窒素との密度差が1013cm−2以下になりうる。ホウ素及び窒素の密度差が1013cm−2より大きい場合、ゲート制御のためのスレショルド電圧が上昇する。
【0043】
チャネル110上には、ゲートオキサイド130及びゲート電極132が順次に積層されている。ゲート電極132は、アルミニウム(Al)またはポリシリコンから形成されうる。ゲートオキサイド130は、酸化シリコンから形成されうる。
【0044】
図5は、ホウ素及び窒素で置換されたグラフェンをチャネルとして使用する電界効果トランジスタが、トップゲートを具備するが、本発明の実施形態が、これに限定されるものではない。例えば、ホウ素及び窒素で置換されたグラフェンをチャネルとして使用するボトムゲート構造を具備したグラフェン電界効果トランジスタであってもよく、それについての詳細な説明は省略する。
【0045】
本発明の実施形態によるグラフェンは、電界効果トランジスタのチャネルとして作用することができるバンドギャップを有する。
【0046】
グラフェンの製造時、ボラジンまたはアンモニアボランを前駆体として使用し、グラフェン内に同じ割合でボラン及び窒素を置換することができる。
【0047】
以上、添付された図面を参照しつつ説明した本発明の実施形態は、例示的なものに過ぎず、当分野の当業者であるならば、それらから多様な変形及び均等な他実施形態が可能であるということを理解することができるであろう。よって、本発明の真の保護範囲は、特許請求の範囲によってのみ決まるものである。
【符号の説明】
【0048】
100 電界効果トランジスタ
101 基板
102 絶縁膜
110 チャネル
121 ソース電極
122 ドレイン電極
130 ゲートオキサイド
132 ゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素元素の一部がホウ素及び窒素で置換されてバンドギャップが形成されたグラフェン。
【請求項2】
前記ホウ素及び前記窒素は、グラフェンの炭素原子の1−20%置換したことを特徴とする請求項1に記載のグラフェン。
【請求項3】
前記ホウ素及び前記窒素の密度差は、1013cm−2以下であることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン。
【請求項4】
前記ホウ素と前記窒素は、実質的に同じ割合で、前記グラフェンの炭素を置換したことを特徴とする請求項3に記載のグラフェン。
【請求項5】
前記グラフェンの炭素を、ホウ素及び窒素からなる二分子体、または3個のホウ素と3個の窒素とからなる六方晶系構造で置換したことを特徴とする請求項4に記載のグラフェン。
【請求項6】
グラフェンをチャネルとして利用したグラフェン・トランジスタにおいて、
前記グラフェンは、一部炭素原子がホウ素及び窒素で置換されてバンドギャップが形成されたトランジスタ。
【請求項7】
前記ホウ素及び前記窒素は、グラフェンの炭素原子の1−20%置換したことを特徴とする請求項6に記載のトランジスタ。
【請求項8】
前記ホウ素及び前記窒素の密度差は、1013cm−2以下であることを特徴とする請求項6に記載のトランジスタ。
【請求項9】
前記ホウ素と前記窒素は、実質的に同じ割合で、前記グラフェンの炭素を置換したことを特徴とする請求項8に記載のトランジスタ。
【請求項10】
前記グラフェンの炭素を前記ホウ素と前記窒素が、ホウ素及び窒素からなる二分子体、または3個のホウ素と3個の窒素とからなる六方晶系構造で置換したことを特徴とする請求項9に記載のトランジスタ。
【請求項11】
請求項1に記載のグラフェンの製造方法において、
グラフェンをCVD(chemical vapor deposition)法で形成するとき、ホウ素及び窒素の前駆体としてボラジンまたはアンモニアボランを使用するグラフェンの製造方法。
【請求項12】
前記ホウ素及び前記窒素は、グラフェンの炭素原子の1−20%置換することを特徴とする請求項11に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項13】
前記ホウ素と前記窒素は、実質的に同じ割合で、前記グラフェンの炭素を置換したことを特徴とする請求項11に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項14】
前記前駆体は、ホウ素及び窒素からなる二分子体、または3個のホウ素と3個の窒素とからなる六方晶系構造であることを特徴とする請求項13に記載のグラフェンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−1431(P2012−1431A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133050(P2011−133050)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
【Fターム(参考)】