説明

ホスファゼン誘導体及びその製造方法

【課題】低粘度であり、沸点が高く、安全性に優れ、各種用途に好適であり、特に不燃剤、電池等の用途に好適に用いられるホスファゼン誘導体の提供。
【解決手段】下記一般式(3)で表されることを特徴とするホスファゼン誘導体。
(PNX ・・・ 一般式(3)
(式中、Xはアルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくとも何れかで、nは3を表し、全Xのうち少なくとも1つはフッ素であり、少なくとも他の1つはアルコキシ基及びフェノキシ基の何れかである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破裂の危険が無く、安全性、小型・軽量化が要求される各種の分野に好適に利用可能な非水電解液電池、並びに該非水電解液電池に好適に用いられ、電極の安定性に優れ、長期において優れた電池特性を有する電極安定化剤、及び安全性が高く、各種の用途に好適に用いられる新規ホスファゼン誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特に、パソコン・VTR等のAV・情報機器のメモリーバックアップやそれらの駆動電源用の二次電池としては、ニカド電池が主流であった。近年、高電圧・高エネルギー密度という利点を有し、かつ、優れた自己放電性を示すことから、ニカド電池に代替するものとして非水電解液二次電池が非常に注目され、種々の開発が試みられて、その一部は商品化されている。例えば、ノート型パソコンや携帯電話等は、その半数以上が非水電解液二次電池によって駆動している。
【0003】
これらの非水電解液二次電池においては、負極を形成する材料として、カーボンが多用されているが、その表面にリチウムが生成した場合の危険性の低減及び高駆動電圧化を目的として、各種有機溶媒が電解液として使用されている。又、カメラ用の非水電解液二次電池としては、負極材料としてアルカリ金属(特に、リチウム金属やリチウム合金)等が用いられているため、その電解液としては、通常エステル系有機溶媒等の非プロトン性有機溶媒が使用されている。
【0004】
しかし、これらの非水電解液二次電池は、高性能ではあるものの、安全性において以下のように問題があった。先ず、非水電解液二次電池の負極材料として用いられるアルカリ金属(特にリチウム金属やリチウム合金等)を用いた場合には、該アルカリ金属は、水分に対して非常に高活性であるため、例えば電池の封口が不完全で水分が侵入した際等には、負極材料と水とが反応して水素が発生したり、発火する等の危険性が高いという問題があった。また、リチウム金属は低融点(約170℃)であるため、短絡時等に大電流が急激に流れると、電池が異常に発熱して電池が溶融する等の非常に危険な状況を引き起こすという問題があった。更に、電池の発熱につれ前述の有機溶媒をベースとする電解液が気化・分解してガスを発生したり、発生したガスによって電池の破裂・発火が起こるという問題があった。
【0005】
前記問題を解決するため、例えば、筒形電池において、電池の短絡時・過充電時に温度が上がって電池内部の圧力が上昇した際に、安全弁が作動すると同時に電極端子を破断させることにより、該筒型電池に、所定量以上の過大電流が流れることを抑止する機構を電池に設けた技術が提案されている(日刊工業新聞社、「電子技術」1997年39巻9号)。しかし、前記機構が常に正常に作動すると信頼できるわけではなく、正常に作動しない場合には、過大電流による発熱が大きくなり、発火等の危険な状態となることが懸念されるため問題となっていた。
【0006】
更に、従来の非水電解液二次電池において、非水電解液として用いられているエステル系等の電解液においては、例えば、支持塩であるLiPF塩等のリチウムイオン源等が、経時と共にLiF及びPFに分解し発生するPFガスや、該発生したPFガスが更に水等と反応して発生する弗化水素ガス等により、電極等の腐触が進行したり、電池の充放電に伴い、電極及び電解液が反応し電解液が分解する等、電池の長期安定性等の面で問題があった。
【0007】
また、従来、高出力・高エネルギー密度の非水電解液電池として、リチウム金属の酸化・還元を利用して充放電を行なうリチウム二次電池が利用されていた。該リチウム二次電池において、リチウム金属を負極活物質に用いると、最も高い理論容量が得られることから、電池の軽量化・小型化等が要求される各種の分野で盛んに研究が行なわれている。
【0008】
しかし、リチウム金属を負極活物質とする二次電池では、放電時に、電解液中にイオンとなって溶解したリチウムが、充電時に部分的にデンドライト(樹枝状結晶)となって析出し、内部短絡を招くという問題があった。この問題を解決するため、リチウムをLiAl合金やウッド合金としてリチウムの活性を弱める技術等も行なわれているものの、これらの技術では、二次電池としての充分な性能を発揮し得ず問題があった。また、負極材料に、黒鉛等の炭素材料を用いる技術も行なわれているものの、金属リチウム単独の電極に比べ、負極における理論容量密度が約10分の1に低下するという問題があった。近年、携帯電話、電気自動車等の技術の進歩に伴い、高出力・高エネルギー密度で小型化・軽量化が可能で、かつ、安全性に優れ、長寿命の電池の開発が要求されている。
【0009】
更に、近年、各種の分野において、発火等の危険性がなく根本的に優れた安全性を有する化合物の開発が要求されている。例えば、上述したパソコン・VTR等のAV・情報機器のメモリーバックアップやそれらの駆動電源用の二次電池や電気自動車用の二次電池等における電解液、塗料を収容するアルミ缶や高温環境等において発火の危険性の高い薬品のビンにおける塗料等には、上記発火等の危険性がなく、優れた安全性を有する化合物を含有させる技術が研究されている。
【0010】
しかし、上記発火の危険性がなく優れた安全性を有する化合物であっても、多少の発火の危険性があり安全性の点で充分ではなかったり、環境に有害な塩素ガス、臭素ガス等のハロゲンガスを放出する等の問題があった。近年の技術の発達に伴い、より高度の安全性に優れる化合物を、安全に、かつ、安価にて、多種類を容易に製造可能な方法の開発が要求されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日刊工業新聞社、「電子技術」1997年39巻9号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明の目的は、高出力・高エネルギー密度で小型化・軽量化が可能で、デンドライトの発生が抑制され、自己消火性や難燃性、低温特性、安定性に優れ、長寿命の非水電解液電池を提供することにある。
【0013】
また、本発明の他の目的は、電池の電解液に添加することにより、電池として必要な電池特性等を維持しつつ、電極及び電解液等の安定性に優れ、長期間安定で、更に、自己消火性や難燃性に優れた電池を提供可能な電極安定化剤、及び該電極安定化剤を用い、長期安定性に優れ、更に自己消火性や難燃性に優れた非水電解液電池を提供することにある。
【0014】
更に、本発明の他の目的は、低粘度であり、沸点が高く、安全性に優れ、各種用途に好適であり、特に不燃剤、電池等の用途に好適に用いられるホスファゼン誘導体、及び該ホスファゼン誘導体を安全に、安価にかつ容易に製造可能なホスファゼン誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
1. 正極と、リチウム又はリチウムイオンの吸蔵・放出可能な材料よりなる負極と、支持塩及びホスファゼン誘導体を含有する非水電解液とを有することを特徴とする非水電解液電池である。
2. 前記負極がリチウム金属からなることを特徴とする前記1項に記載の非水電解液電池である。
3. 前記負極の表面粗さ(Ra)が0.6mm以下である前記1項に記載の非水電解液電池である。
4. 前記非水電解液におけるホスファゼン誘導体の含有量が、少なくとも0.5体積%である前記1項に記載の非水電解液電池である。
5. 前記非水電解液におけるホスファゼン誘導体の含有量が、少なくとも2体積%である前記4項に記載の非水電解液電池である。
6. 前記非水電解液におけるホスファゼン誘導体の含有量が、少なくとも5体積%である前記5項に記載の非水電解液電池である。
7. 前記非水電解液におけるホスファゼン誘導体の含有量が、少なくとも20体積%である前記6項に記載の非水電解液電池である。
8. 前記非水電解液におけるホスファゼン誘導体の含有量が、少なくとも30体積%である前記7項に記載の非水電解液電池である。
9. 前記ホスファゼン誘導体が、下記一般式(1)及び(2)の少なくとも何れかで表される前記1項に記載の非水電解液電池である。
【化1】

(式中、R、R及びRは、一価の置換基又はハロゲン元素を表す。Xは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、酸素、イオウ、セレン、テルル及びポロニウムからなる群から選ばれる元素の少なくとも1種を含む基を表す。Y、Y及びYは、2価の連結基、2価の元素又は単結合を表す。)
(PNR ・・・ 一般式(2)
(式中、Rは一価の置換基又はハロゲン元素で、nは3〜14を表す。)
10. 前記非水電解液が、非プロトン性有機溶媒を含有する前記1項に記載の非水電解液電池である。
11. 前記非プロトン性有機溶媒が、環状若しくは鎖状のエステル化合物、又は鎖状のエーテル化合物を含有する前記10項に記載の非水電解液電池である。
【0016】
12. 正極と、リチウム金属からなる負極と、LiPF、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの少なくとも一つ、及び2.5体積%を超えるホスファゼン誘導体を含有する非水電解液とを有することを特徴とする非水電解液電池である。
【0017】
13. 正極と、リチウム金属からなる負極と、LiPF、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの少なくとも一つ、及び1.5〜2.5体積%のホスファゼン誘導体を含有する非水電解液とを有することを特徴とする非水電解液電池である。
【0018】
14. 分子構造内にリン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基を有するホスファゼン誘導体よりなることを特徴とする電極安定化剤である。
15. 前記リン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合が、炭素原子−炭素原子間多重結合である前記14項に記載の電極安定化剤である。
16. 前記リン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合が、二重結合である前記14又は15項に記載の電極安定化剤である。
17. 前記リン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基が、アリル基及びビニル基の少なくとも何れかである前記14項に記載の電極安定化剤である。
18. 正極と、リチウム又はリチウムイオンの吸蔵・放出可能な材料よりなる負極と、支持塩及び前記14〜17項の何れかに記載の電極安定化剤を含有する非水電解液とを有することを特徴とする非水電解液電池である。
【0019】
19. 下記一般式(3)で表されることを特徴とするホスファゼン誘導体である。
(PNX ・・・ 一般式(3)
(式中、Xはアルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくとも何れかで、nは3〜14を表す。nが3のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素であり、少なくとも他の1つはアルコキシ基及びフェノキシ基の何れかである。nが4〜14のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素である。)
20. 前記アルコキシ基が、メトキシ基、エトキシ基、アリルオキシ基、プロポキシ基及びブトキシ基から選択される前記19項に記載のホスファゼン誘導体である。
21. 粘度が、25℃において5mPa・s(5cP)以下である前記19又は20項に記載のホスファゼン誘導体である。
22. 沸点が、100℃以上である前記19〜21項の何れかに記載のホスファゼン誘導体である。
23. nが3であって、Xのうちの1つがアルコキシ基及びフェノキシ基の何れか、他の5つがフッ素である前記19項に記載のホスファゼン誘導体である。
24. nが3であって、2つのリン原子において、結合する2つのXのうちの1つがアルコキシ基及びフェノキシ基の何れか、他の1つ及び他のリン原子に結合する2つのXがフッ素である前記19項に記載のホスファゼン誘導体である。
25. nが3であって、3つのリン原子において、結合する2つのXのうちの1つがアルコキシ基及びフェノキシ基の何れか、他の1つがフッ素である前記19項に記載のホスファゼン誘導体である。
26. 正極と、リチウム又はリチウムイオンの吸蔵・放出可能な材料よりなる負極と、支持塩及び前記19〜25項の何れかに記載のホスファゼン誘導体を含有する非水電解液とを有することを特徴とする非水電解液電池である。
【0020】
27. アルカリ金属アルコキシド及びアルカリ金属フェノキシドの少なくとも何れかと、下記一般式(4)で表されるホスファゼン誘導体とを反応させ、下記一般式(3)で表されるホスファゼン誘導体を得ることを特徴とするホスファゼン誘導体の製造方法である。
(PNF ・・・ 一般式(4)
(式中、nは3〜14を表す。)
(PNX ・・・ 一般式(3)
(式中、Xはアルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくとも何れかで、nは3〜14を表す。nが3のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素であり、少なくとも他の1つはアルコキシ基及びフェノキシ基の何れかである。nが4〜14のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素である。)
28. 前記アルカリ金属アルコキシドが、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド及びリチウムアルコキシドから選択される前記27項に記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
29. 前記アルカリ金属フェノキシドが、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド及びリチウムフェノキシドから選択される前記27項に記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
30. 前記反応が、−30〜0℃の温度条件において1〜5時間行なわれる前記27〜29項の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
31. 前記反応の後、蒸留を行なう前記27〜30項の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
【0021】
32. 少なくとも分子構造中にヒドロキシル基を1つ以上有する化合物と、下記一般式(4)で表されるホスファゼン誘導体とを反応させ、下記一般式(3)で表されるホスファゼン誘導体を得ることを特徴とするホスファゼン誘導体の製造方法である。
(PNF ・・・ 一般式(4)
(式中、nは3〜14を表す。)
(PNX ・・・ 一般式(3)
(式中、Xはアルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくとも何れかで、nは3〜14を表す。nが3のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素であり、少なくとも他の1つはアルコキシ基及びフェノキシ基の何れかである。nが4〜14のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素である。)
33. 前記反応が、塩化合物を用いて行われる前記32項に記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
34. 前記塩化合物が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸セシウムから選択される前記33項に記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
35. 前記反応が、30〜90℃の温度条件において3〜10時間行なわれる前記32〜34項の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
36. 前記反応が、無極性溶媒を用いて行なわれる前記32〜35項の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
37. 前記反応が、極性溶媒を用いて行なわれる前記32〜35項の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
38. 少なくとも分子構造中にヒドロキシル基を1つ以上有する化合物が、メタノール、エタノール、アリルアルコール、プロパノール、ブタノール及びフェノールから選択される前記32〜37項の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
【0022】
39. 前記一般式(4)で表されるホスファゼン誘導体が、下記一般式(5)で表されるホスファゼン誘導体及びフッ素化剤を用い、フッ素化反応により得られる前記27〜38項の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
(PNY ・・・ 一般式(5)
(式中、nは3〜14で、Yはフッ素以外のハロゲン元素を表す。)
40. 前記フッ素化剤が、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム及びフッ化セシウムから選択される前記39項に記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
41. 前記フッ素化反応が、40〜100℃の温度条件において2〜7時間行われる前記39又は40項に記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
42. 前記フッ素化反応の際、前記一般式(4)で表されるホスファゼン誘導体が添加される前記39〜41項の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高出力・高エネルギー密度で小型化・軽量化が可能で、デンドライトの発生が抑制され、低温特性、安定性に優れ、長寿命の非水電解液電池を提供することができる。
【0024】
また、本発明によれば、電池の電解液に添加することにより、電池として必要な電池特性等を維持しつつ、電極及び電解液等の安定性に優れ、長期間安定な電池を提供可能な電極安定化剤、及び該電極安定化剤を用い、長期安定性に優れた電池を提供することができる。
【0025】
更に、本発明によれば、低粘度であり、沸点が高く、安全性に優れ、各種用途に好適であり、特に不燃剤、電池等の用途に好適に用いられるホスファゼン誘導体、及び、該ホスファゼン誘導体を、安全に、安価にかつ容易に製造可能なホスファゼン誘導体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例5で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(GC−MSクロマトグラム)を示したチャートである。
【図2】実施例5で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(所定の成分のMSスペクトル)を示したチャートである。
【図3】実施例5で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(所定の成分のMSスペクトル)を示したチャートである。
【図4】実施例5で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(所定の成分のMSスペクトル)を示したチャートである。
【図5】実施例6で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(GC−MSクロマトグラム)を示したチャートである。
【図6】実施例6で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(所定の成分のMSスペクトル)を示したチャートである。
【図7】実施例6で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(所定の成分のMSスペクトル)を示したチャートである。
【図8】実施例6で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(所定の成分のMSスペクトル)を示したチャートである。
【図9】実施例7で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(GC−MSクロマトグラム)を示したチャートである。
【図10】実施例7で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(所定のMSスペクトル)を示したチャートである。
【図11】実施例8で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(GC−MSクロマトグラム)を示したチャートである。
【図12】実施例8で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(所定のMSスペクトル)を示したチャートである。
【図13】実施例8で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(所定のMSスペクトル)を示したチャートである。
【図14】実施例9で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(GC−MSクロマトグラム)を示したチャートである。
【図15】実施例9で得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果(所定のMSスペクトル)を示したチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の非水電解液電池は、正極と、リチウム又はリチウムイオンの吸蔵・放出可能な材料からなる負極と、非水電解液とを有し、必要に応じてその他の部材を有する。
【0028】
−正極−
前記正極の材料としては、特に制限はなく、公知の正極材料から適宜選択して使用できる。例えば、リチウム金属自体、V、V13、MnO、MoO、LiCoO、LiNiO、LiMn等の金属酸化物、TiS、MoS等の金属硫化物、ポリアニリン等の導電性ポリマー等が好適に挙げられ、これらの中でも、高容量で安全性が高く電解液の濡れ性に優れる点で、LiCoO、LiNiO、LiMnが特に好適である。これらの材料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記正極の形状としては、特に制限はなく、電極として公知の形状の中から適宜選択することができる。例えば、シート状、円柱形状、板状形状、スパイラル形状等が挙げられる。
【0029】
−負極−
前記負極の材料としては、リチウム又はリチウムイオンを吸蔵・放出可能であれば特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えばリチウムを含む材料、具体的には、リチウム金属自体、リチウムと、アルミニウム、インジウム、鉛、又は亜鉛等との合金、リチウムをドープした黒鉛等の炭素材料などが好適に挙げられる。これらの中でも、安全性がより高い点で、黒鉛等の炭素材料が好ましい。これらの材料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記負極の形状としては、特に制限はなく、前記正極の形状と同様の公知の形状から適宜選択することができる。
【0030】
前記負極は、リチウム金属からなるのが好ましい。本発明においては、非水電解液にホスファゼン誘導体を含有させることにより、デンドライトの析出が好適に抑制されるため、リチウム金属自体を負極活物質として用いることが可能であり、安全で、かつ、非常に高い理論容量を有し小型化・軽量化が可能で長寿命の電池を提供できる。
【0031】
前記負極の表面形状としては、前記デンドライトの析出を更に効果的に抑制し得るため、平滑であるのが好ましく、具体的には、表面粗さ(Ra)が、0.6mm以下であるのが好ましい。
【0032】
−非水電解液−
前記非水電解液は、支持塩及びホスファゼン誘導体を含有し、必要に応じて、非プロトン性有機溶媒等のその他の成分を含有する。
【0033】
−−支持塩−−
前記支持塩としては、例えば、リチウムイオンのイオン源となる支持塩等が好ましい。リチウムイオンのイオン源としては、特に制限はないが、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、及び、LiAsF、LiCSO、Li(CFSON、Li(CSON等のリチウム塩が好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記支持塩の前記非水電解液に対する配合量としては、前記非水電解液(溶媒成分)1kgに対し、0.2〜1モルが好ましく、0.5〜1モルがより好ましい。配合量が、0.2モル未満の場合には、非水電解液の充分な導電性を確保することができず、電池の充放電特性に支障をきたすことがある一方、1モルを超える場合には、非水電解液の粘度が上昇し、前記リチウムイオン等の充分な移動度が確保できないため、前述と同様に非水電解液の充分な導電性を確保できず、電池の充放電特性に支障をきたすことがある。
【0035】
−−ホスファゼン誘導体−−
前記非水電解液が、ホスファゼン誘導体を含有する理由としては、以下の通りである。従来、二次電池の電解液として、非プロトン性有機溶媒をベースとした非水電解液が用いられているが、該非水電解液においては、短絡時等に大電流が急激に流れ、電池が異常に発熱した際に、気化・分解してガスが発生したり、発生したガス及び熱により電池の破裂・発火が起こることがあるため危険性が高い。一方、これら従来の非水電解液に、ホスファゼン誘導体が含有されていれば、ホスファゼン誘導体から誘導される窒素ガス及びハロゲンガス等の作用によって、前記非水電解液が優れた自己消火性又は難燃性を発現し得るため、前述のような危険性を低減することが可能となる。また、リンには、電池を構成する高分子材料の連鎖分解を抑制する作用があるため、効果的に自己消火性又は難燃性を付与することができる。
【0036】
また、従来の二次電池において、電解液として用いられているエステル系等の電解液においては、例えば、支持塩であるLiPF塩等のリチウムイオン源等が、経時と共にLiF及びPFに分解し発生するPFガスや、該発生したPFガスが更に水等と反応して発生する弗化水素ガス等により、腐触が進行して劣化すると考えられる。つまり、電解液の導電性が低下する上に、発生する弗化水素ガスで極材が劣化する現象が起こる。一方、ホスファゼン誘導体は、例えば、前記LiPF等のリチウムイオン源の分解を抑制し安定化に寄与する。したがって、従来の電解液にホスファゼン誘導体を添加することにより、電解液の分解反応が抑制され、腐触、劣化を抑制することが可能となる。
【0037】
更に、リチウム金属を負極活物質とする二次電池では、放電時に電解液中にイオンとなって溶解したリチウムが、充電時に部分的にデンドライト(樹枝状結晶)となって析出し、内部短絡・破裂等を招くという問題があった。一方、これらリチウム金属を負極活物質とする二次電池における電解液にホスファゼン誘導体を含有させることにより、デンドライトの析出が効果的に抑制され、電池の内部短絡・破裂等の危険がなく、安全で長寿命な二次電池が提供される。
【0038】
<ホスファゼン誘導体の含有量>
前記非水電解液における前記ホスファゼン誘導体の含有量としては、該ホスファゼン誘導体を含有することにより得られる効果によって、「デンドライトの析出を好適に抑制」し得る第1の含有量、非水電解液に好適に「自己消火性」を付与し得る第2の含有量、非水電解液に好適に「難燃性」を付与し得る第3の含有量、及び非水電解液に好適に「耐劣化性」を付与し得る第4の含有量の4通りの含有量が挙げられる。
【0039】
「デンドライトの析出を好適に抑制」し得る観点からは、前記ホスファゼン誘導体の前記非水電解液における第1の含有量としては、0.5体積%以上が好ましく、5体積%以上がより好ましい。
【0040】
「自己消火性」の観点からは、前記ホスファゼン誘導体の非水電解液における第2の含有量としては、20体積%以上が好ましい。含有量が20体積%未満では、非水電解液に充分な「自己消火性」を発現させ得ないことがある。尚、本発明において、「自己消火性」とは、下記評価方法において、着火した炎が25〜100mmラインで消火し、かつ、落下物にも着火が認められない状態となる性質をいう。
【0041】
「難燃性」の観点からは、前記ホスファゼン誘導体の非水電解液における第3の含有量としては、30体積%以上が好ましい。含有量が30体積%以上であれば、非水電解液に充分な「難燃性」を発現させることが可能となる。尚、本発明において、「難燃性」とは、下記評価方法において、着火した炎が25mmラインまで到達せず、かつ、落下物にも着火が認められない状態となる性質をいう。
【0042】
また本発明において、下記評価方法において、試験炎を添加しても全く着火しない性質、即ち、試験炎が試験片に着火しない(燃焼長:0mm)性質を「不燃性」という。
【0043】
<<自己消火性、難燃性乃至不燃性の評価方法>>
前記自己消火性、難燃性乃至不燃性の評価は、UL(アンダーライティングラボラトリー)規格のUL94HB法をアレンジした方法を用い、大気環境下において着火した炎の燃焼挙動を測定・評価した。その際、着火性、燃焼性、炭化物の生成、二次着火時の現象についても観察した。具体的には、UL試験基準に基づき、不燃性石英ファイバーに1.0mlの各種電解液を染み込ませ、127mm×12.7mmの試験片を作製して行った。
【0044】
「自己消火性又は難燃性」の観点から、前記非水電解液としては、前記ホスファゼン誘導体、LiPF、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの少なくとも一つを含む場合が特に好ましい。これらの場合には、前述の記載にかかわらず、前記含有量が少量であっても、優れた自己消火性又は難燃性の効果を有する。即ち、ホスファゼン誘導体の非水電解液における含有量としては、自己消火性を発現させるためには、1.5〜2.5体積%が好ましく、難燃性を発現させるためには、2.5体積%を超える量が好ましい。
【0045】
「耐劣化性」の観点からは、前記ホスファゼン誘導体の前記非水電解液における第4の含有量としては、2体積%以上が好ましく、2.5体積%以上がより好ましく、3体積%以上75体積%未満が更に好ましい。含有量が前記数値範囲内であれば、好適に劣化を抑制することができる。尚、本発明において、「劣化」とは、前記支持塩(例えば、リチウム塩)の分解をいい、該劣化防止の効果を下記「安定性の評価方法」により評価した。
【0046】
<<安定性の評価方法>>
(1)先ず、支持塩を含む非水電解液を調製後、水分率を測定する。次に、高速液体クロマトグラフィー(イオンクロマトグラフィー)により、非水電解液中の弗化水素の濃度を測定する。更に、目視により非水電解液の色調を観察した後、充放電試験により充放電容量を算出する。
(2)上記非水電解液を2ヶ月間グローブボックス内で放置した後、再び、水分率、弗化水素の濃度を測定し、色調を観察し、充放電容量を算出し、得られた数値の変化により安定性を評価する。
【0047】
<ホスファゼン誘導体の引火点>
前記ホスファゼン誘導体の引火点としては、特に制限はないが、発火・燃焼の抑制等の点から、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、230℃以上が更に好ましく、引火しないものが最も好ましい。前記ホスファゼン誘導体が、100℃以上に引火点を有していると、発火等が抑制され、また、仮に電池内部で発火等が生じても、引火して電解液表面に燃え広がる危険性を低下させることが可能となる。
【0048】
尚、引火点とは、具体的には、物質表面に炎が燃え広がり、少なくとも該物質表面の75%を覆う温度を言う。該引火点は、空気と可燃性混合物を形成する傾向度を見る尺度となるものであり、本発明においては、以下のミニフラッシュ法により測定した値を用いた。即ち、密閉したカップ方式で、4mlの小さな測定チャンバー、加熱カップ、フレーム、イグニッション部、及び、自動フレーム感知システムを備えた装置(自動引火測定器)(MINIFLASH、GRABNR INSTRUMENTS社製)を用意し、測定する試料1mlを加熱カップに入れ、カバーをし、カバー上部から加熱カップを加熱開始した。以降、一定間隔で試料温度を上昇させ、カップ内の蒸気と空気混合物へ一定温度間隔でイグニッションさせ、引火を検知した。引火が検知された時の温度を引火点と認定した。
【0049】
<ホスファゼン誘導体の具体的分子構造>
前記ホスファゼン誘導体としては、分子構造中にハロゲン元素を含む置換基を有するのが好ましい。分子構造中に、ハロゲン元素を含む置換基を有すれば、該ホスファゼン誘導体から誘導されるハロゲンガスによって、より効果的に、電解液に自己消火性ないし難燃性を発現させることが可能となる。また、置換基にハロゲン元素を含む化合物においてはハロゲンラジカルの発生が問題となることがあるが、前記ホスファゼン誘導体は、分子構造中のリン元素がハロゲンラジカルを捕捉し、安定なハロゲン化リンを形成するため、このような問題は発生しない。
【0050】
前記ハロゲン元素の前記ホスファゼン誘導体における含有量としては、2〜80重量%が好ましく、2〜60重量%がより好ましく、2〜50重量%が更に好ましい。該含有量が、2重量%未満では、ハロゲン元素を含ませる効果が充分に現れないことがある一方、80重量%を超えると、粘度が高くなるため、電解液の導電率が低下することがある。前記ハロゲン元素としては、特に、フッ素、塩素、臭素等が好適であり、フッ素が特に好ましい。
【0051】
前記ホスファゼン誘導体としては、常温(25℃)において液体であれば特に制限はないが、デンドライトの析出抑制効果に優れ、かつ自己消火性又は難燃性に優れる点で、下記一般式(1)で表される鎖状ホスファゼン誘導体及び下記一般式(2)で表される環状ホスファゼン誘導体等が好ましい。
【0052】
【化2】

(式中、R、R及びRは、一価の置換基又はハロゲン元素を表す。Xは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、酸素、イオウ、セレン、テルル及びポロニウムからなる群から選ばれる元素の少なくとも1種を含む基を表す。Y、Y及びYは、2価の連結基、2価の元素、又は単結合を表す。)
【0053】
(PNR ・・・ 一般式(2)
(式中、Rは一価の置換基又はハロゲン元素で、nは3〜14を表す。)
【0054】
式(1)において、R、R及びRとしては、一価の置換基又はハロゲン元素であれば特に制限はなく、一価の置換基としては、アルコキシ基、フェノキシ基、アルキル基、カルボキシル基、アシル基、アリール基等が挙げられる。又、ハロゲン元素としては、例えば前述のハロゲン元素が好適に挙げられる。これらの中でも、特に電解液を低粘度化し得る点で、アルコキシ基が好ましい。R〜Rは、総て同一の種類の置換基でもよく、それらのうちのいくつかが異なる種類の置換基でもよい。
【0055】
前記アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等や、メトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基等のアルコキシ置換アルコキシ基等が挙げられる。これらの中でも、R〜Rとしては、総てがメトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基又はメトキシエトキシエトキシ基が好適であり、低粘度・高誘電率の観点から、総てがメトキシ基又はエトキシ基であるのが特に好適である。
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
前記アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基等が挙げられる。
前記アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
これらの置換基中の水素元素は、ハロゲン元素で置換されているのが好ましい。
【0056】
式(1)において、Y、Y及びYで表される基としては、例えば、CH基のほか、酸素、硫黄、セレン、窒素、ホウ素、アルミニウム、スカンジウム、ガリウム、イットリウム、インジウム、ランタン、タリウム、炭素、ケイ素、チタン、スズ、ゲルマニウム、ジルコニウム、鉛、リン、バナジウム、ヒ素、ニオブ、アンチモン、タンタル、ビスマス、クロム、モリブデン、テルル、ポロニウム、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル等の元素を含む基が挙げられ、これらの中でも、CH基、及び、酸素、硫黄、セレン、窒素の元素を含む基等が好ましい。特に、Y、Y及びYが、硫黄、セレンの元素を含む場合には、電解液の自己消火性ないし難燃性が格段に向上するため好ましい。Y〜Yは、総て同一種類でもよく、いくつかが互いに異なる種類でもよい。
【0057】
式(1)において、Xとしては、有害性、環境等への配慮の観点からは、炭素、ケイ素、窒素、リン、酸素及びイオウからなる群から選ばれる元素の少なくとも1種を含む基が好ましく、以下の一般式(6)で表される構造を有する基がより好ましい。
【0058】
【化3】

一般式(6)
【0059】
但し、一般式(6)において、R〜Rは、一価の置換基又はハロゲン元素を表す。Y〜Yは、2価の連結基、2価の元素、又は単結合を表し、Zは2価の基又は2価の元素を表す。
【0060】
式(6)において、R〜Rとしては、式(1)におけるR〜Rで述べたのと同様の一価の置換基又はハロゲン元素がいずれも好適に挙げられる。又、これらは、同一基内において、それぞれ同一の種類でもよく、いくつかが互いに異なる種類でもよい。RとRとは、及びRとRとは、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0061】
式(6)において、Y〜Yで表される基としては、式(1)におけるY〜Yで述べたのと同様の2価の連結基又は2価の基等が挙げられ、同様に、硫黄、セレンの元素を含む基である場合には、電解液の自己消火性又は難燃性が格段に向上するため特に好ましい。これらは、同一基内において、それぞれ同一の種類でもよく、いくつかが互いに異なる種類でもよい。
【0062】
式(6)において、Zとしては、例えば、CH基、CHR(Rは、アルキル基、アルコキシル基、フェニル基等を表す。以下同様。)基、NR基のほか、酸素、硫黄、セレン、ホウ素、アルミニウム、スカンジウム、ガリウム、イットリウム、インジウム、ランタン、タリウム、炭素、ケイ素、チタン、スズ、ゲルマニウム、ジルコニウム、鉛、リン、バナジウム、ヒ素、ニオブ、アンチモン、タンタル、ビスマス、クロム、モリブデン、テルル、ポロニウム、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル等の元素を含む基等が挙げられ、これらの中でも、CH基、CHR基、NR基のほか、酸素、硫黄、セレンの元素を含むのが好ましい。特に、硫黄、セレンの元素を含む場合には、電解液の難燃性が格段に向上するため好ましい。
【0063】
式(6)における基としては、特に効果的に自己消火性又は難燃性を好適に付与し得る点で、基(A)で表されるようなリンを含む基が特に好ましい。また、基(B)で表されるようなイオウを含む基である場合には、電解液の小界面抵抗化の点で特に好ましい。
【0064】
式(2)において、Rとしては、一価の置換基又はハロゲン元素であれば特に制限はなく、一価の置換基としては、アルコキシ基、フェノキシ基、アルキル基、カルボキシル基、アシル基、アリール基等が挙げられる。又、ハロゲン元素としては、例えば、前述のハロゲン元素が好適に挙げられる。これらの中でも、特に電解液を低粘度化し得る点で、アルコキシ基、フェノキシ基等が好ましい。該アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基が特に好ましい。これらの置換基中の水素元素は、ハロゲン元素で置換されているのが好ましい。
【0065】
式(2)で表されるホスファゼン誘導体としては、前記デンドライトの析出を特に効果的に抑制し得る点で、Rが、アルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくともいずれかであって、全Rにおける少なくとも1つがフッ素であり、少なくとも他の1つがアルコキシ基及びフェノキシ基のいずれかであるのが好ましい。
【0066】
式(1)、(2)及び(6)におけるR〜R、Y〜Y、Y〜Y、Zを適宜選択することにより、より好適な粘度、混合に適する溶解性等を有する電解液の合成が可能となる。これらのホスファゼン誘導体は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
前記ホスファゼン誘導体は、非水電解液に含有させ電極を安定化する観点からは、分子構造内にリン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基を有するのが好ましい。この場合、ホスファゼン誘導体が、分子構造内にリン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基を有するため、電池に使用した際、電池の充電時等に、電極表面にイオン導電性の高い安定な膜が形成され、電池の充放電等に伴う電極と電解液との反応(即ち、電解液の分解反応)が抑制される等の理由により、サイクル特性に優れ、電極の安定性に優れ、長期間安定な電池を好適に提供可能となる。従って、上記分子構造内にリン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基を有するホスファゼン誘導体は、電極安定化剤として用いることができる。
【0068】
前記リン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合としては、例えば、炭素原子−炭素原子間多重結合、炭素原子−酸素原子間多重結合、炭素原子−窒素原子間多重結合等が挙げられる。これらの中でも、よりサイクル特性に優れ、電極の安定性に優れ、長期安定な電池を好適に提供可能な点で、炭素原子−炭素原子間多重結合、炭素原子−窒素原子間多重結合等が特に好ましい。
【0069】
前記リン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合の結合態様としては、二重結合、三重結合等が挙げられるが、前記炭素原子−炭素原子間多重結合である場合には、更にサイクル特性に優れ、電極の安定性に優れ、長期安定な電池を好適に提供可能な点で、二重結合が特に好ましい。
【0070】
前記リン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基の具体例としては、例えば、アリル基、ビニル基、カルボキシル基、アシル基(ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基等)等が挙げられる。これらの基は、更に他の置換基(例えば、アルキル基、ハロゲン元素等)や連結基(例えば、酸素、窒素、リン、炭素等)を有していてもよく、又、これらの置換基や連結基は、互いに結合し環を形成していてもよい。
【0071】
電極を安定化する観点から、上記分子構造内にリン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基を有するホスファゼン誘導体の非水電解液における含有量としては、0.5体積%以上が好ましく、1〜5体積%がより好ましい。分子構造内にリン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基を有するホスファゼン誘導体の非水電解液における含有量が0.5体積%以上の場合、電池の充電時等に電極表面にイオン導電性の高い安定な膜が形成され、電池の充放電等に伴う電極と電解液との反応(即ち、電解液の分解反応)が抑制される等により、サイクル特性に優れ、電極の安定性に優れ、長期間安定な電池が好適に提供される。
【0072】
前記分子構造内にリン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基を有するホスファゼン誘導体としては、常温(25℃)において液体であれば特に制限はないが、サイクル特性に優れ、電極の安定性に優れ、長期安定な電池を好適に提供可能で、かつ自己消火性又は難燃性に優れる点で、式(1)のR〜R及びXのうち少なくとも何れかが「リン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基」である鎖状ホスファゼン誘導体、並びに式(2)の同一分子内においてRのうち少なくとも何れかが「リン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基」である環状ホスファゼン誘導体等が好ましい。
【0073】
式(2)で表され、かつ分子構造内にリン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基を有するホスファゼン誘導体としては、サイクル特性に優れ、電極の安定性に優れ、長期安定な電池を好適に提供可能で、かつ自己消火性又は難燃性に優れる点で、Rが、アルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくとも何れかであって、全Rにおける少なくとも1つがフッ素であり、少なくとも他の1つがアルコキシ基及びフェノキシ基の何れかであるのが好ましい。
【0074】
前記分子構造内にリン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基を有するホスファゼン誘導体の製造方法としては、例えば、先ず原料として(PNCl(環状Cl体)を用い、これをアセトニトリル等の溶媒の下、80℃の温度条件で5時間、フッ素化剤(例:NaF等)によりフッ素化した後、蒸留して(PNF(環状F体)を得る。次に、(PNF(環状F体)に、ヘキサン等の溶媒の下、炭酸カリウムの存在下で、アルコール(アリルアルコール、ビニルアルコール等)を反応させ、その後減圧下で単蒸留等する方法等が挙げられる。
【0075】
前記式(2)で表されるホスファゼン誘導体の中でも、電解液に不燃性を付与する観点からは、下記一般式(3)で表されるホスファゼン誘導体が好ましい。
(PNX ・・・ 一般式(3)
(式中、Xはアルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくとも何れかで、nは3〜14を表す。nが3のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素であり、少なくとも他の1つはアルコキシ基及びフェノキシ基の何れかである。nが4〜14のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素である。)
【0076】
式(3)において、Xはアルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくともいずれかを表し、nが3のとき式(3)における全Xのうち少なくとも1つはフッ素であり、少なくとも他の1つはアルコキシ基及びフェノキシ基のいずれかであって、nが4〜14のとき式(3)における全Xのうち少なくとも1つはフッ素であるため、該ホスファゼン誘導体は優れた不燃性を示す。
【0077】
尚、式(3)において、Xが総てアルコキシ基及びフェノキシ基のいずれかである場合には、難燃性を示すものの前記不燃性を示さず、又nが3であって、かつXが総てフッ素である場合には、不燃性を示すものの、沸点が非常に低いため炎が近づくと即揮発してしまい好ましくない。nが4以上であれば沸点は高く優れた不燃効果を奏するため、nは目的に応じて適宜選択される。尚、該不燃性は、上述した「自己消火性、難燃性乃至不燃性の評価方法」で評価した。
【0078】
式(3)で表されるホスファゼン誘導体の、前記電解液における含有量としては、「不燃性」をより好適に付与し得る点からは、10体積%以上が好ましく、15体積%以上がより好ましい。含有量が、10体積%未満では、電解液に充分な「不燃性」を発現させ得ないことがある。
【0079】
「不燃性」の観点から、前記電解液としては、式(3)で表されるホスファゼン誘導体、LiPF、エチレンカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートを含む場合、及び式(3)で表されるホスファゼン誘導体、LiCFSO、プロピレンカーボネートを含む場合が特に好ましい。これらの場合には、前述の記載にかかわらず、含有量が少量であっても、優れた不燃性の効果を有する。即ち、式(3)で表されるホスファゼン誘導体の前記電解液における含有量としては、不燃性を発現させるためには5体積%以上が好ましい。
【0080】
式(3)で表されるホスファゼン誘導体は、電解液として用いた場合に、前記不燃性の他、更に電気伝導性及び低温特性にも優れる。
【0081】
<式(3)で表されるホスファゼン誘導体の粘度、沸点>
式(3)で表されるホスファゼン誘導体の粘度としては、25℃において5mPa・s(5cP)以下であるのが好ましく、3mPa・s(3cP)以下であるのがより好ましい。
【0082】
式(3)で表されるホスファゼン誘導体は、Xとしてアルコキシ基及びフェノキシ基以外の基(フッ素元素)を1つ以上有するため、低粘度性に優れ、取り扱い性に優れることから、各種の分野に好適に用いられる。
【0083】
なお、前記粘度は、粘度測定計(R型粘度計Model RE500−SL、東機産業(株)製)を用い、1rpm、2rpm、3rpm、5rpm、7rpm、10rpm、20rpm及び50rpmの各回転速度で120秒間ずつ測定し、指示値が50〜60%となった時の回転速度を分析条件とし、その際の粘度を測定することによって求めた。
式(3)で表されるホスファゼン誘導体の沸点としては、炎が近づいた際に前記不燃性の効果を良好に発揮し得る点で、100℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましい。
【0084】
<式(3)で表されるホスファゼン誘導体の具体的分子構造>
前記一般式(3)におけるXで表されるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、アリルオキシ基、プロポキシ基(n−プロポキシ基、2−プロポキシ基等)及びブトキシ基(2−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等)などが挙げられる。これらの中でも、より優れた不燃性を示す点で、エトキシ基、アリルオキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基等のプロポキシ基、2−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のブトキシ基等が好ましい。また、より低粘度である点で、エトキシ基、アリルオキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基等のプロポキシ基、2−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のブトキシ基等が好ましい。更に、より沸点が高い点で、アリルオキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基等のプロポキシ基、2−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のブトキシ基等が好ましい。Xで表される基がフェノキシ基である場合は、不燃性に優れ、低粘度で、沸点が高い点で好ましい。
【0085】
前記アルコキシ基又はフェノキシ基は、更に、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン元素や、別の置換基が結合していてもよい。該別の置換基は、例えば、トリフルオロメチル基、トリフルオロエトキシ基、メチルフェノキシ基、アミノフェノキシ基等である。
【0086】
前記不燃性、粘度、沸点、及び製造容易等の点から、前記本発明のホスファゼン誘導体としては、式(3)においてnが3であってXのうちの1つがアルコキシ基及びフェノキシ基のいずれか、他の5つがフッ素である態様(RO/F比が1/5である態様)、式(3)においてnが3であって2つのリン原子において、結合する2つのXのうちの1つがアルコキシ基及びフェノキシ基のいずれか、他の1つ及び他のリン原子に結合する2つのXがフッ素である態様(RO/F比が2/4である態様)、式(3)においてnが3であって、3つのリン原子において、結合する2つのXのうちの1つがアルコキシ基及びフェノキシ基のいずれか、他の1つがフッ素である態様(RO/F比が3/3である態様)等が好ましい。
【0087】
<式(3)で表されるホスファゼン誘導体の同定>
式(3)で表されるホスファゼン誘導体における分子構造は、GC−MS、H−NMR等により、以下のように同定した。
【0088】
NMR(日本電子社製;「TNM−GX400」)及びGC−MS(アシレント社製「6890(GC)」及び「5973(MS)」、又はヒューレットパッカード社製「5890(GC)」及びJEOL社製「Automass systemII(MS)」)を用い、H−NMRのケミカルシフトによりアルコキシ基又はフェノキシ基の構造を決定し、GC−MSにより得られたクロマトグラムの各ピークのMSスペクトルから分子構造を同定した。更に、GC−AED(ヒューレットパッカード社製;「6890(GC)、G2350A(AED)」)により、リン元素の波長(186nm)を測定し、得られたクロマトグラムと比較し、各成分にリンが含まれることを確認した。混合物の場合には、GC−AEDクロマトグラムの各成分のピーク面積を求め、それぞれの存在率を定量した。
【0089】
また、式(3)においてアルコキシ基及びフェノキシ基のいずれかを2以上有しているホスファゼン誘導体については、31P−NMRにより、位置異性体を以下のように同定した。即ち、(PNF、(PN(OR)(ORはアルコキシ基及びフェノキシ基の何れか)、及び式(3)で表されるホスファゼン誘導体における31P−NMRのケミカルシフト、カップリング定数を比較し、異性体の構造を確認した。
【0090】
<式(3)で表されるホスファゼン誘導体のその他の用途>
式(3)で表されるホスファゼン誘導体は、前述のように優れた不燃性を示し、かつ粘度が低く、沸点が高く、塩素ガス、臭素ガス等のハロゲンガスを放出しない等より、非水電解液電池以外にも、不燃剤を始めとして、各種の用途に好適に用いられる。
【0091】
不燃剤として用いられる場合、例えば、塗料を収容するアルミ缶や高温環境等において発火の危険性の高い薬品のビン等、引火、発火、爆発等の危険のあるものの容器等に塗布して用いるのが好ましい。該不燃剤においては、式(3)で表されるホスファゼン誘導体が単独で用いられていてもよく、他の溶媒等と併用されていてもよい。また、このとき、該ホスファゼン誘導体は、1種単独で使用されてもよく、2種以上併用されてもよい。
【0092】
式(3)で表されるホスファゼン誘導体の製造は、下記に示す2通りの製造方法により行われる。
【0093】
<第1の製造方法>
第1の製造方法においては、アルカリ金属アルコキシド及びアルカリ金属フェノキシドの少なくとも何れかと、下記一般式(4)で表されるホスファゼン誘導体とを反応させ、下記一般式(3)で表されるホスファゼン誘導体を得る。
(PNF ・・・ 一般式(4)
(式中、nは3〜14を表す。)
(PNX ・・・ 一般式(3)
(式中、Xはアルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくとも何れかで、nは3〜14を表す。nが3のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素であり、少なくとも他の1つはアルコキシ基及びフェノキシ基の何れかである。nが4〜14のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素である。)
【0094】
<<アルカリ金属アルコキシド及びアルカリ金属フェノキシド>>
前記アルカリ金属アルコキシド及びアルカリ金属フェノキシドとしては、式(4)で表されるホスファゼン誘導体と反応し、式(3)で表されるホスファゼン誘導体を得ることができれば特に制限はないが、例えば、ナトリウムアルコキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムアルコキシド、カリウムフェノキシド、リチウムアルコキシド及びリチウムフェノキシド等が挙げられる。これらの中でも、反応性が高く、製造効率が良く、安価な点で、ナトリウムアルコキシドが特に好ましい。
【0095】
前記アルカリ金属アルコキシドにおけるアルコキシ基としては、式(4)で表されるホスファゼン誘導体に導入する予定のアルコキシ基が用いられる。該アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、アリルオキシ基、プロポキシ基(n−プロポキシ基、2−プロポキシ基等)及びブトキシ基(2−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等)などが挙げられる。これらの中でも、反応により得られるホスファゼン誘導体が、より優れた不燃性を示す点で、エトキシ基、アリルオキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基等のプロポキシ基、2−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のブトキシ基等が好ましい。また、反応により得られるホスファゼン誘導体がより低粘度となる点で、エトキシ基、アリルオキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基等のプロポキシ基、2−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のブトキシ基等が好ましい。更に、反応により得られるホスファゼン誘導体がより高沸点となる点で、アリルオキシ基、n−プロポキシ基、2−プロポキシ基等のプロポキシ基、2−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のブトキシ基等が好ましい。
【0096】
前記アルカリ金属フェノキシドにおけるフェノキシ基は、得られるホスファゼン誘導体が不燃性に優れ、低粘度で、沸点が高い点で好ましい。
【0097】
前記アルコキシ基又はフェノキシ基は、更に、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン元素や、別の置換基が結合していてもよい。該別の置換基は、例えば、トリフルオロメチル基、トリフルオロエトキシ基、メチルフェノキシ基、アミノフェノキシ基等である。
【0098】
<<式(4)で表されるホスファゼン誘導体>>
式(4)において、nは3〜14である。尚、式(4)で表されるホスファゼン誘導体は、nが3〜14のいずれかの値のホスファゼン誘導体の混合物でもよい。安定性、汎用性(原料の入手容易性等)の点で、nは3が最も好ましい。
【0099】
式(4)で表されるホスファゼン誘導体としては、特に制限はないが、製造効率等の点で、下記一般式(5)で表されるホスファゼン誘導体及びフッ素化剤を用い、フッ素化反応により得られるのが好ましい。
(PNY ・・・ 一般式(5)
(式中、Yはフッ素以外のハロゲン元素で、nは3〜14を表す。)
【0100】
式(5)において、Yとしては、フッ素以外のハロゲン元素であれば特に制限はないが、安定性、コスト等の点で、塩素等が好ましい。nとしては特に制限はないが、製造効率、コスト及び安定性の点で、3が最も好ましい。
【0101】
前記フッ素化剤としては、式(5)で表されるホスファゼン誘導体をフッ素化可能であれば特に制限はないが、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、及びフッ化セシウム等が挙げられる。これらの中でも、反応性及びコストの点で、フッ化ナトリウムが特に好ましい。
【0102】
式(4)で表されるホスファゼン誘導体を、式(5)で表されるホスファゼン誘導体及びフッ素化剤を用い、フッ素化反応により得る方法としては、例えば、これらを、溶媒の存在下、40〜100℃温度条件で、2〜7時間反応させて得るのが好ましい。又、フッ素化反応の際(PNFを少量添加することにより、触媒作用等によって反応が促進され、より低温(40〜50℃程度)かつ短時間(2時間程度)で反応を完結させることが可能となる。例えば、フッ素化反応に使用した溶媒(少量(PNFが残存)を再使用する等により、好適に反応を促進させることができ、環境面及びコスト面で有利である。
【0103】
前記溶媒としては、特に制限はないが、例えば、アセトニトリル、ニトロベンゼン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロチオフェン1,1−ジオキシド等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
所望により、フッ素化反応の後、蒸留等により、式(4)で表されるホスファゼン誘導体を精製して得ることができる。又、単離することなく、同一溶媒で、アルカリ金属アルコキシドと反応させることもでき、製造効率の点で有利である。
【0105】
<<反応>>
前記反応においては、前記アルカリ金属アルコキシド及びアルカリ金属フェノキシドの少なくともいずれかと、式(4)で表されるホスファゼン誘導体とを反応させる。
【0106】
前記反応の温度としては、製造効率の点からは、−30〜0℃が好ましく、−20〜0℃がより好ましい。前記反応の時間としては、1〜5時間が好ましく、2〜3時間がより好ましい。
【0107】
前記反応の際には、有機溶媒を用いるのが好ましい。該有機溶媒としては、特に制限はないが、例えば、ヘキサン、アセトニトリル、トルエン及びTHF等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記反応の後には、所望により、得られた生成物を分子蒸留又は単蒸留等により、各種の組成のホスファゼン誘導体を、混合物又はほぼ単一組成で得ることができる。
【0108】
<第2の製造方法>
第2の製造方法においては、少なくとも分子構造中にヒドロキシル基を1つ以上有する化合物と、下記一般式(4)で表されるホスファゼン誘導体とを反応させ、下記一般式(3)で表されるホスファゼン誘導体を得る。
(PNF ・・・ 一般式(4)
(式中、nは3〜14を表す。)
(PNX ・・・ 一般式(3)
(式中、Xはアルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくとも何れかで、nは3〜14を表す。nが3のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素であり、少なくとも他の1つはアルコキシ基及びフェノキシ基の何れかである。nが4〜14のとき、全Xのうち少なくとも1つはフッ素である。)
【0109】
<<分子構造中にヒドロキシル基を1つ以上有する化合物>>
本発明において、式(3)で表されるホスファゼン誘導体を得るために用いる、分子構造中にヒドロキシル基を1つ以上有する化合物(以下、「ヒドロキシル基を有する化合物」と略することがある。)は、安価で、多種類を入手容易で、かつ安全性が高く取り扱い性に優れる。従って前記ヒドロキシル基を有する化合物を原料として用いる本発明においては、多種類の原料入手が容易で、低コストで、安全性、取り扱い性に優れるため製造効率が良く、得られるホスファゼン誘導体(式(3)で表されるホスファゼン誘導体)も多種類となるため自由度が高い。
【0110】
前記ヒドロキシル基を有する化合物としては、少なくとも分子構造中にヒドロキシル基を有していれば特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、アリルアルコール、プロパノール(n−プロパノール、2−プロパノール等)、ブタノール(2−ブタノール、tert−ブタノール等)、及びフェノール等が挙げられる。これらの中でも、より安価な点で、メタノール、エタノール及び2−プロパノール等が好ましい。また、より安全性が高く、取り扱い性に優れる点で、エタノール、プロパノール及びブタノール等が好ましい。
【0111】
得られるホスファゼン誘導体(式(3)で表されるホスファゼン誘導体)が、より優れた不燃性を示す点で、エタノール、アリルアルコール、n−プロパノール、2−プロパノール等のプロパノール、2−ブタノール、tert−ブタノール等のブタノール、及びフェノール等が好ましい。
【0112】
得られるホスファゼン誘導体(式(3)で表されるホスファゼン誘導体)がより低粘度となる点で、エタノール、アリルアルコール、n−プロパノール、2−プロパノール等のプロパノール、2−ブタノール、tert−ブタノール等のブタノール、及びフェノール等が好ましい。
【0113】
得られるホスファゼン誘導体(式(3)で表されるホスファゼン誘導体)がより高沸点となる点で、アリルアルコール、n−プロパノール、2−プロパノール等のプロパノール、2−ブタノール、tert−ブタノール等のブタノール、及びフェノール等が好ましい。
【0114】
前記ヒドロキシル基を有する化合物は、更に、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン元素や、別の置換基が結合していてもよい。該別の置換基は、例えば、トリフルオロメチル基、トリフルオロエトキシ基、メチルフェノキシ基、アミノフェノキシ基等である。
【0115】
<<式(4)で表されるホスファゼン誘導体>>
第2の製造方法における式(4)で表されるホスファゼン誘導体は、前述した第1の製造方法の説明におけるものと同一である。
【0116】
<<反応>>
前記反応においては、前記ヒドロキシル基を有する化合物と、式(4)で表されるホスファゼン誘導体とを反応させる。
【0117】
前記反応は、塩化合物を用いて行なわれるのが、製造効率等の点で好ましい。該塩化合物としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸セシウム等が挙げられる。これらの中でも、特に、反応効率の点では、炭酸セシウム、炭酸カリウム等が好ましく、コストの点では、炭酸ナトリウム等が好ましい。
【0118】
前記反応の温度としては、製造効率の点からは、30〜90℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。前記反応の時間としては、3〜10時間が好ましく、4〜6時間がより好ましい。
【0119】
本発明においては、前記反応における諸条件を変えることにより、得られるホスファゼン誘導体(式(3)で表されるホスファゼン誘導体)におけるXの比率(全Xにおける、アルコキシ基及びフェノキシ基の合計数とフッ素数との比率(以下、「RO/F比」と称することがある。))をほぼ所望の比率に制御することができる。
【0120】
前記反応においては、例えば、無極性溶媒を用いることにより、式(3)において、前記RO/F比が1/5のホスファゼン誘導体を選択的に得ることができる。また極性溶媒を用いることにより、式(3)において、前記RO/F比が2/4や3/3のホスファゼン誘導体をほぼ選択的に得ることができる。
【0121】
前記無極性溶媒としては、溶媒を構成する分子の双極子モーメントが0又は低い値の溶媒であれば特に制限はないが、例えば、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン及びトルエン等が挙げられる。これらの中でも、取り扱い易く、安価である点で、ヘキサンが特に好ましい。
【0122】
前記極性溶媒としては、溶媒を構成する分子が双極子モーメントを有する溶媒であれば特に制限はないが、例えば、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、ニトロベンゼン等が挙げられる。これらの中でも、取り扱い易い点で、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等が特に好ましい。
【0123】
−−その他の成分−−
前記非水電解液に含まれるその他の成分としては、非プロトン性有機溶媒が特に好ましい。非プロトン性有機溶媒は、安全性の点から、前記非水電解液に含有させるのが好適である。即ち、非水電解液に、非プロトン性有機溶媒が含有されていれば、前記負極の材料と反応することなく高い安全性を得ることができる。また、前記非水電解液の低粘度化が可能であり、容易に非水電解液電池としての最適なイオン導電性を達成することができる。
【0124】
前記非プロトン性有機溶媒としては、特に制限はないが、前記非水電解液の低粘度化の点で、エーテル化合物やエステル化合物等が挙げられる。具体的には、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、メチルエチルカーボネート、等が好適に挙げられる。これらの中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の環状エステル化合物、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状エステル化合物、1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル化合物等が好適である。特に、環状のエステル化合物は、比誘電率が高くリチウム塩等の溶解性に優れる点で、鎖状のエステル化合物及びエーテル化合物は、低粘度であるため非水電解液の低粘度化の点で好適である。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよいが、2種以上を併用するのが好適である。前記非プロトン性有機溶媒の25℃における粘度としては、特に制限はないが、10mPa・s(10cP)以下が好ましく、5mPa・s(5cP)以下がより好ましい。
【0125】
−その他の部材−
前記非水電解液電池に用いるその他の部材としては、非水電解液電池において、正負極間に、両極の接触による電流の短絡を防止する役割で介在させるセパレーターが挙げられる。該セパレーターの材質としては、両極の接触を確実に防止し得、かつ、電解液を通したり含んだりできる材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂製の不織布、薄層フィルム等が好適に挙げられる。これらの中でも、厚さ20〜50μm程度のポリプロピレン又はポリエチレン製の微孔性フィルムが特に好適である。前記セパレーターのほか、その他の部材としては、通常電池に使用されている公知の各部材が好適に挙げられる。
【0126】
本発明の非水電解液電池の形態としては、特に制限はなく、コインタイプ、ボタンタイプ、ペーパータイプ、角型又はスパイラル構造の円筒型電池等、種々の公知の形態が好適に挙げられる。前記スパイラル構造の場合、例えば、シート状の正極を作製して集電体を挟み、これに、負極(シート状)を重ね合わせて巻き上げる等により非水電解液二次電池を作製することができる。
【0127】
前記電池の容量としては、LiCoOを正極とした場合、充放電容量(mAh/g)で、140〜145(mAh/g)が好ましく、143〜145(mAh/g)がより好ましい。なお、前記充放電容量は、公知の測定方法、例えば、半開放型セルあるいは、密閉型コインセル(日刊工業新聞社発行、リチウムイオン2次電池、芳尾真幸参照)を用い、充放電試験を行い、充電電流(mA)、時間(t)及び極材重量(g)より、容量を求める方法によって測定することができる。
【0128】
前記電池において、前記電解液の導電率(電気伝導度)としては、0.75mol/L濃度のリチウム塩溶解液の導電率で、5mS/cm以上が好ましい。なお、前記導電率は、下記の測定方法により測定して得られた値である。
【0129】
<<導電率測定法>>
電池に、5mAの定電流を印加しながら、導電率計(商品名:CDM210型、ラジオメータートレーディング(株)製)を用いて、所定条件(温度:25℃、圧力:常圧、水分率:10ppm以下)下で測定する。尚、理論的には、先ず電解液のコンダクタンス(Gm)を求め、これからケーブル抵抗(R)の影響を除いて、電解液そのもののコンダクタンス(G)を求め、得られた(G)と、既知のセル定数(K)から、導電率K=G・K(S/cm)を求める。
【0130】
以上説明した本発明の非水電解液電池は、負極としてリチウム金属を単独で使用する場合、高出力・高エネルギー密度で小型化・軽量化が可能で、かつ、負極におけるデンドライトの発生が抑制されるため安全性に優れ、長寿命である。従って、携帯電話、電気自動車等を始め、高出力・高エネルギー密度、小型・軽量化、及び安全性・長寿命性等の各種の特性の両立が要求される用途に特に有用である。
【0131】
また、本発明の非水電解液電池は、分子構造内にリン原子−窒素原子間多重結合以外の多重結合を含む基を有するホスファゼン誘導体を含有する電極安定化剤を用いる場合、長期安定性に優れ、更に自己消火性又は難燃性に優れる。
【実施例】
【0132】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0133】
(実施例1)
−非水電解液の調製−
ジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合溶媒(混合比(体積比):ジエチルカーボネート/エチレンカーボネート=1/1)(非プロトン性有機溶媒)47.5mlに、ホスファゼン誘導体(環状EO/F型ホスファゼン誘導体(前記一般式(2)において、n=3、全Rにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)=2/4))の2.5mlを添加(5体積%)し、更に、LiPF(支持塩)を0.75モル/kgの濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0134】
<自己消火性、難燃性乃至不燃性の評価>
得られた非水電解液について、前述の「自己消火性、難燃性乃至不燃性の評価方法」と同様にして自己消火性、難燃性乃至不燃性の評価を行った。具体的には、試験炎を添加しても全く着火しない場合、即ち、試験炎が試験片に着火しない(燃焼長:0mm)場合を「不燃性」、着火した炎が25mmラインまで到達せず、かつ、落下物にも着火が認められない場合を「難燃性」、着火した炎が25〜100mmラインで消火し、かつ、落下物にも着火が認められない場合を「自己消火性」、着火した炎が100mmラインを超えた場合を「燃焼性」と評価した。結果を表1に示す。
【0135】
−非水電解液電池の作製−
リチウム金属からなる正極及び負極(厚み:0.5mm×13mmφ(0.06637cm)、密度(ρ)=0.534g/cm(0.0354g)、34.2mAh)を用い、セパレーターとして、厚さ25μmの微孔性フィルム(ポリプロピレン製)を用い、これに前記非水電解液を組み合わせ、コイン型の非水電解液電池を作製した。
【0136】
<電池特性等の測定・評価>
得られた電池について、25℃において、初期の電池特性(電圧、内部抵抗)を測定・評価した後、下記評価方法により、充放電サイクル性能を測定・評価した。これらの結果を表1に示す。
【0137】
<<充放電サイクル性能の評価>>
上限電圧4.5V、下限電圧3.0V、放電電流100mA、充電電流50mAの条件で、50サイクルまで充放電を繰り返した。この時の充放電の容量を、初期における充放電の容量と比較し、50サイクル後の容量減少率を算出した。合計3本の電池について、同様に測定・算出し、これらの平均値をとり、充放電サイクル性能の評価とした。
【0138】
<<低温放電特性の評価(低温放電容量の測定)>>
得られた電池について、常温(25℃)で充電した後、低温(−10℃)で放電し、この時の低温における放電容量を、25℃において充放電を行なった電池における放電容量と比較し、下記式より放電容量残存率を算出した。合計3本の電池について、同様に測定・算出し、これらの平均値をとり、低温放電特性の評価とした。結果を表1に示す。
式:放電容量残存率=(低温放電容量/放電容量(25℃))×100(%)
【0139】
<デンドライト析出抑制効果の評価>
25℃において、1Cの充放電を30回繰り返し行なった後、電池を分解し、正極、負極、及びセパレーターの内側表面を目視により観察したところ、特にリチウムの析出は無く変化は無かった。
【0140】
(比較例1)
実施例1の「非水電解液の調製」において、ジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合溶媒(混合比(体積比):ジエチルカーボネート/エチレンカーボネート=1/1)(非プロトン性有機溶媒)の量を50mlに変え、ホスファゼン誘導体を添加しなかったほかは、実施例1と同様に非水電解液を調製し、自己消火性、難燃性乃至不燃性の評価を行った。また、実施例1と同様にして非水電解液電池を作製し、初期の電池特性(電圧、内部抵抗)、充放電サイクル性能、及び低温放電特性をそれぞれ測定・評価した。結果を表1に示す。更に、実施例1と同様にして、デンドライト析出抑制効果を評価したところ、負極表面にはリチウム結晶(デンドライト)の成長が確認された。またセパレーター表面には、金属リチウムが付着していた。更に、正極表面には、粒状リチウムの析出による細かな凹凸が観察された。
【0141】
【表1】

【0142】
(実施例2)
−電解液の調製−
ジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合溶媒(混合比(体積比):ジエチルカーボネート/エチレンカーボネート=1/1)(非プロトン性有機溶媒)99.5mlに、ホスファゼン誘導体(環状ホスファゼン誘導体;一般式(2)において、n=3、6つのRのうち1つが−O−CH−CH=CH基、5つがフッ素原子である化合物)(電極安定化剤)の0.5mlを添加(0.5体積%)し、更に、LiPF(支持塩)を0.75モル/kgの濃度で溶解させ、電解液(非水電解液)を調製した。得られた電解液について、前述の「自己消火性、難燃性乃至不燃性」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0143】
<劣化の評価>
得られた非水電解液について、前述の劣化の評価方法と同様に、非水電解液調製直後及び2ヶ月間グローブボックス内で放置後の水分率(ppm)、弗化水素濃度(ppm)、充放電容量(mAh/g)を測定・算出し、劣化の評価を行なった。この時、充放電容量(mAh/g)は、重量既知の正極又は負極を用いて充放電曲線を測定し、得られた充電量、放電量を用いた電極の重量で除することにより求めた。また、非水電解液調製直後及び2ヶ月間グローブボックス内で放置後の非水電解液の色調変化を目視により観察した。結果を表2に示す。
【0144】
−電池の作製−
化学式LiCoOで表されるコバルト酸化物を正極活物質として用い、LiCoO100部に対して、アセチレンブラック(導電助剤)を10部、テフロン(登録商標)(R)バインダー(結着樹脂)を10部添加し、有機溶媒(酢酸エチルとエタノールとの50/50重量%混合溶媒)で混練した後、ロール圧延により厚さ100μm、幅40mmの薄層状の正極シートを作製した。その後、得られた正極シート2枚を用い、表面に導電性接着剤を塗布した、厚さ25μmのアルミニウム箔(集電体)を挟み込み、これに厚さ25μmのセパレーター(微孔性フィルム:ポリプロピレン製)を介在させ、厚さ150μmのリチウム金属箔を重ね合わせて巻き上げ、円筒型電極を作製した。該円筒型電極の正極長さは約260mmであった。該円筒型電極に、前記電解液を注入して封口し、単三型リチウム電池(非水電解液二次電池)を作製した。
【0145】
<電池特性等の測定・評価>
得られた電池について、20℃において、初期の電池特性(電圧、内部抵抗)を測定・評価した後、下記評価の方法により、充放電サイクル性能、低温特性を測定・評価した。これらの結果を表2に示す。
【0146】
<<充放電サイクル性能の評価>>
上限電圧4.5V、下限電圧3.0V、放電電流100mA、充電電流50mAの条件で、50サイクルまで充放電を繰り返した。この時の充放電の容量を、初期における充放電の容量と比較し、50サイクル後の容量減少率を算出した。合計3本の電池について、同様に測定・算出し、これらの平均値をとり、充放電サイクル性能の評価(非水電解液の長期安定性の評価)とした。
【0147】
<<低温特性の評価(低温放電容量の測定)>>
得られた電池について、放電時の温度を、低温(−10℃)とした以外は、前記「充放電サイクル性能の評価」と同様の条件で、50サイクルまで充放電を繰り返した。この時の低温における放電容量を、20℃において測定した放電容量と比較し、下記式より放電容量残存率を算出した。合計3本の電池について、同様に測定・算出し、これらの平均値をとり、低温特性の評価とした。結果を表2に示す。
式:放電容量残存率=(低温放電容量/放電容量(20℃))×100(%)
【0148】
(実施例3)
実施例2の「電解液の調製」において用いたホスファゼン誘導体の添加量を30体積%となるように変えたほかは、実施例2と同様に電解液を調製し、各評価を行った。また、実施例2と同様にして電池を作製し、同様に各評価を行なった。結果を表2に示す。
【0149】
(実施例4)
実施例2の「電解液の調製」において、用いたホスファゼン誘導体を、ホスファゼン誘導体(環状ホスファゼン誘導体;一般式(2)において、n=3、6つのRのうち1つが−O−CH基、5つがフッ素原子であるホスファゼン誘導体)に代えたほかは、実施例2と同様に電解液を調製し、各評価を行った。また、実施例2と同様にして電池を作製し、同様に各評価を行なった。結果を表2に示す。
【0150】
【表2】

【0151】
表2より、実施例2〜3では、実施例4に比べ、充放電サイクル性能(非水電解液の長期安定性)に特に優れており、非水電解液の分解反応が抑制され、電極の安定性に優れていることがわかる。
【0152】
(実施例5)
−ホスファゼン誘導体の合成−
原料として(PNClを用い、これをアセトニトリル溶媒の下、80℃の温度条件で5時間、フッ素化剤(NaF)によりフッ素化した後、蒸留して(PNFを得た。次に、得られた(PNFに、ヘキサン溶媒の下、−10℃の温度条件で2時間、ナトリウム塩(CHONa)を反応させた後、分子蒸留を行い、精製したホスファゼン誘導体を得た。得られたホスファゼン誘導体の25℃における粘度は3.9mPa・s(3.9cP)であった。
【0153】
得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果;GC−MS(クロマトグラム)を図1に、各成分のMSスペクトルを図2〜4に示す。
【0154】
図1において、(i)及び(ii)は、一般式(3)の全Xにおけるメトキシ基(MO)及びフッ素(F)の比(MO/F比)が、2/4の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくクロマトグラムのピークを表し、(i)及び(ii)で表されるピークは、互いに立体異性体(cis−trans)の関係にあるホスファゼン誘導体を表す。(iii)、(iv)及び(v)は、一般式(3)の全Xにおけるメトキシ基(MO)及びフッ素(F)の比(MO/F比)が、3/3の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくピークを表し、(iii)と、(iv)及び(v)とは、互いに位置異性体(geminal、non−geminal)の関係にあるホスファゼン誘導体のピークを表す。(iv)及び(v)で表されるピークは、互いに立体異性体(cis−trans)の関係にあるホスファゼン誘導体を表す。(vi)、(vii)及び(viii)は、一般式(3)の全Xにおけるメトキシ基(MO)及びフッ素(F)の比(MO/F比)が、4/2の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくピークを表し、(vi)と、(vii)及び(viii)とは、互いに位置異性体(geminal、non−geminal)の関係にあるホスファゼン誘導体のピークを表す。(vii)及び(viii)で表されるピークは、互いに立体異性体(cis−trans)の関係にあるホスファゼン誘導体を表す。
【0155】
図2はMO/F比が3/3である成分(分子量:285)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルを表し、図3はMO/F比が2/4である成分(分子量:273)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルを表し、図4はMO/F比が4/2である成分(分子量:297)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルを表す。
【0156】
尚、(PNF、(PN(OCH、及び前記ホスファゼン誘導体における31P−NMRのケミカルシフト、カップリング定数を比較し、異性体の構造を確認したところ、リン原子に結合する2つのXのうち1つがフッ素原子で、他の1つがメトキシ基である構造を有するものが殆どであった。これにより、GC−MSのクロマトグラムで得られた同一のMSスペクトルを有する3つのピークのうち、強度の最も小さいものが、同一のリン原子に2つのメトキシ基を有するgeminal構造のピークであり、保持時間の近い残りの2つのピークが、non−geminal構造の立体異性体(cis−trans)を示すものと判断された。
【0157】
図1〜4より、得られたホスファゼン誘導体は、一般式(3)の全Xにおけるメトキシ基(MO)及びフッ素(F)の比(MO/F比)が、2/4、3/3、及び4/2である成分の混合物であることが確認された。更に、GC−AEDにより、得られた混合物におけるMO/F比が2/4である成分の配合が3質量%、3/3である成分の配合が88質量%、4/2である成分の配合が9質量%であることが確認された。
【0158】
<不燃性の評価>
得られたホスファゼン誘導体について、UL(アンダーライティングラボラトリー)規格のUL94HB法をアレンジした方法を用い、大気環境下において着火した試験炎の燃焼挙動を測定・評価した。結果を表4に示す。その際、着火性、燃焼性、炭化物の生成、二次着火時の現象についても観察した。具体的には、UL試験基準に基づき、不燃性石英ファイバーに1.0mlの各種電解液を染み込ませ、127mm×12.7mmの試験片を作製して行った。試験炎を添加しても全く着火しない場合、即ち、試験炎が試験片に着火しない(燃焼長:0mm)場合を「不燃性」、着火した炎が25mmラインまで到達せず、かつ、落下物にも着火が認められない場合を「難燃性」、着火した炎が25〜100mmラインで消火し、かつ、落下物にも着火が認められない場合を「自己消火性」、着火した炎が100mmラインを超えた場合を「燃焼性」と評価した。
【0159】
ここで、実施例5で合成したホスファゼン誘導体(環状CHO/F体)の前記不燃性の評価及び沸点を、(PNF及び(PN(OCHについての不燃性の評価及び沸点と比較し表3に示した。
【0160】
【表3】

【0161】
−電解液の調製−
非プロトン性有機溶媒(エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒(エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(体積比)=1/1))に、前記ホスファゼン誘導体を混合し、更に、LiPFを添加し、前記ホスファゼン誘導体の含有量が5体積%、LiPFの濃度が0.75Mの電解液(25℃における粘度=3.9mPa・s(3.9cP))を得た。
【0162】
−電池の作製−
上記電解液を用いて実施例2と同様にして単三型リチウム電池を作製し、実施例2と同様に電池特性等の測定・評価を行った。また、電気伝導度(導電率)も測定した。結果を表4に示す。
【0163】
(実施例6)
「実施例5」の「ホスファゼン誘導体の合成」において、ナトリウム塩をCHCHONaに代えたほかは、実施例5と同様にして、ホスファゼン誘導体を得た。得られたホスファゼン誘導体の25℃における粘度は、1.4mPa・s(1.4cP)であった。
【0164】
得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果;GC−MS(クロマトグラム)を図5に、各成分のMSスペクトルを図6〜8に示す。
【0165】
図5において、(i)は、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、1/5の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくピークを表す。(ii)、(iii)及び(iv)は、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、2/4の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくピークを表し、(ii)と、(iii)及び(iv)とは、互いに位置異性体(geminal、non−geminal)の関係にあるホスファゼン誘導体に基づくピークを表す。(iii)及び(iv)で表されるピークは、互いに立体異性体(cis−trans)の関係にあるホスファゼン誘導体を表す。(v)、(vi)及び(vii)は、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、3/3の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくピークを表し、(v)と、(vi)及び(vii)とは、互いに位置異性体(geminal、non−geminal)の関係にあるホスファゼン誘導体のピークを表す。(vi)及び(vii)で表されるピークは、互いに立体異性体(cis−trans)の関係にあるホスファゼン誘導体を表す。
【0166】
図6はEO/F比が2/4である成分(分子量:301)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルを表し、図7はEO/F比が1/5である成分(分子量:274)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルを表し、図8はEO/F比が3/3である成分(分子量:327)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルを表す。
【0167】
尚、(PNF、(PN(OCHCH、及び前記ホスファゼン誘導体における31P−NMRのケミカルシフト、カップリング定数を比較し、異性体の構造を確認したところ、リン原子に結合する2つのXのうち1つがフッ素原子で、他の1つがエトキシ基である構造を有するものが殆どであった。これにより、GC−MSのクロマトグラムで得られた同一のMSスペクトルを有する3つのピークのうち強度の最も小さいものが、同一のリン原子に2つのエトキシ基を有するgeminal構造のピークであり、保持時間の近い残りの2つのピークが、non−geminal構造の立体異性体(cis−trans)を示すものと判断された。
【0168】
図5〜8より、得られたホスファゼン誘導体は、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、1/5、2/4、及び3/3である成分の混合物であることが確認された。更に、GC−AEDにより、得られた混合物における、EO/F比が1/5である成分の配合が34質量%、2/4である成分の配合が60質量%、3/3である成分の配合が6質量%であることが確認された。
【0169】
続いて、実施例5と同様にして、不燃性の評価を行い、電解液を調製(25℃における粘度=3.3mPa・s(3.3cP))して電池を作製し、電池特性等の測定・評価を行なった。結果を表4に示す。
【0170】
(比較例2)
「実施例5」において、「ホスファゼン誘導体の合成」を行なわず、「電解液の調製」において、非プロトン性有機溶媒(エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒(エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(体積比)=1/1))にホスファゼン誘導体を混合しなかったほかは、実施例5と同様にして電解液を調製(25℃における粘度=3.4mPa・s(3.4cP))し電池を作製し、電池特性等の測定・評価を行なった。又、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒における不燃性評価も行なった。結果を表4に示す。
【0171】
【表4】

【0172】
(実施例7)
−ホスファゼン誘導体の合成−
(PNClを、アセトニトリル溶媒の下、80℃の温度条件で5時間、フッ素化剤(NaF)によりフッ素化した後、蒸留して(PNFを得た。次に、得られた(PNFに、ヘキサン(無極性溶媒)の下、70℃の温度条件で5時間、エタノール及び炭酸ナトリウム(塩化合物:NaCO)を反応させ、分子蒸留を行い、精製したホスファゼン誘導体を得た。得られたホスファゼン誘導体の25℃における粘度は1.1mPa・s(1.1cP)であった。
【0173】
得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果;GC−MS(クロマトグラム)を図9に、MSスペクトルを図10に示す。
【0174】
図9において、(i)は、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、1/5の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくクロマトグラムのピークを表す。図10は、そのピーク、即ち、EO/F比が1/5である成分(分子量:274)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルを表す。
【0175】
図9より、得られたホスファゼン誘導体は、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、1/5であるホスファゼン誘導体であることが確認された。
【0176】
<不燃性の評価>
得られたホスファゼン誘導体について、実施例5と同様にして「不燃性の評価」を行った。結果を表6に示す。
【0177】
ここで、実施例7で合成したホスファゼン誘導体の、前記不燃性の評価及び沸点を、(PNF及び(PN(OCHCHについての不燃性の評価及び沸点と比較し表3に示した。
【0178】
【表5】

【0179】
−電解液の調製−
非プロトン性有機溶媒(エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒(エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(体積比)=1/1))に、前記ホスファゼン誘導体を混合し、更に、LiPFを添加し、前記ホスファゼン誘導体の含有量が5体積%、LiPFの濃度が0.75Mの電解液(25℃における粘度=3.2mPa・s(3.2cP))を得た。
【0180】
−電池の作製−
上記電解液を用いて実施例2と同様にして単三型リチウム電池を作製し、実施例2と同様に電池特性等の測定・評価を行った。また、電気伝導度(導電率)も測定した。結果を表6に示す。
【0181】
(実施例8)
「実施例7」の「ホスファゼン誘導体の合成」において、ヘキサン(無極性溶媒)を、テトラヒドロフラン(極性溶媒)に代えたほかは、実施例7と同様にして、ホスファゼン誘導体を得た。得られたホスファゼン誘導体の25℃における粘度は、1.4mPa・s(1.4cP)であった。
【0182】
得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果;GC−MS(クロマトグラム)を図11に、各成分のMSスペクトルを図12及び13に示す。
【0183】
図11において、(i)は、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、1/5の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくピークを表す。(ii)、(iii)及び(iv)は、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、2/4の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくピークを表し、(ii)と、(iii)及び(iv)とは、互いに位置異性体(geminal、non−geminal)の関係にあるホスファゼン誘導体のピークを表す。(iii)及び(iv)で表されるピークは、互いに立体異性体(cis−trans)の関係にあるホスファゼン誘導体を表す。(v)、(vi)及び(vii)は、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、3/3の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくピークを表し、(v)と、(vi)及び(vii)とは、互いに位置異性体(geminal、non−geminal)の関係にあるホスファゼン誘導体のピークを表す。(vi)及び(vii)で表されるピークは、互いに立体異性体(cis−trans)の関係にあるホスファゼン誘導体を表す。
【0184】
図12はEO/F比が2/4である成分(分子量:301)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルを表し、図13はEO/F比が3/3である成分(分子量:327)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルを表す。尚、EO/F比が1/5である成分(分子量:274)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルは、図10と同様であった。
【0185】
ここで、(PNF、(PN(OCHCH、及び前記ホスファゼン誘導体における31P−NMRのケミカルシフト、カップリング定数を比較し、異性体の構造を確認したところ、リン原子に結合する2つのXのうち1つがフッ素原子で、他の1つがエトキシ基である構造を有するものが殆どであった。これにより、GC−MSのクロマトグラムで得られた同一のMSスペクトルを有する3つのピークのうち強度の最も小さいものが、同一のリン原子に2つのエトキシ基を有するgeminal構造のピークであり、保持時間の近い残りの2つのピークが、non−geminal構造の立体異性体(cis−trans)を示すものと判断された。
【0186】
図11より、得られたホスファゼン誘導体の殆どが、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、2/4であるホスファゼン誘導体であることが確認された。又GC−AEDにより、(EO/F)比が1/5であるものが0.3重量%、2/4であるものが98.5重量%、3/3であるものが1.2重量%であることが確認された。
【0187】
続いて、実施例7と同様にして、不燃性の評価を行い、電解液を調製(25℃における粘度=3.5mPa・s(3.5cP))して電池を作製し、電池特性等の測定・評価を行なった。結果を表6に示す。
【0188】
(実施例9)
「実施例7」の「ホスファゼン誘導体の合成」において、ヘキサン(無極性溶媒)をアセトン(極性溶媒)に代え、炭酸ナトリウムを炭酸セシウム(CsCO)に代え、50℃の温度条件で6時間反応させたほかは、実施例7と同様にして、ホスファゼン誘導体を得た。得られたホスファゼン誘導体の25℃における粘度は、1.8mPa・s(1.8cP)であった。
【0189】
得られたホスファゼン誘導体における分子構造の同定結果;GC−MS(クロマトグラム)を図14に、MSスペクトルを図15に示す。
【0190】
図14において、(i)、(ii)及び(iii)は、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、3/3の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくピークを表し、(i)と、(ii)及び(iii)とは、互いに位置異性体(geminal、non−geminal)の関係にあるホスファゼン誘導体のピークを表す。(ii)及び(iii)で表されるピークは、互いに立体異性体(cis−trans)の関係にあるホスファゼン誘導体を表す。(iv)及び(v)は、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、4/2の構造を有するホスファゼン誘導体に基づくピークを表し、互いにnon−geminalの立体異性体(cis−trans)の関係にあるホスファゼン誘導体を表す。
【0191】
図15はEO/F比が4/2である成分(分子量:353)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルを表す。尚、EO/F比が3/3である成分(分子量:327)のホスファゼン誘導体のMSスペクトルは、図13と同様であった。異性体の構造は、実施例8で示した方法により確認した。
【0192】
図14より、得られたホスファゼン誘導体の殆どが、一般式(3)の全Xにおけるエトキシ基(EO)及びフッ素(F)の比(EO/F比)が、3/3であるホスファゼン誘導体であることが確認された。又GC−AEDにより、(EO/F)比が3/3であるものが97重量%、4/2であるものが3重量%であることが確認された。
【0193】
続いて、実施例7と同様にして、不燃性の評価を行い、電解液を調製(25℃における粘度=4.0mPa・s(4.0cP))して電池を作製し、電池特性等の測定・評価を行なった。結果を表6に示す。
【0194】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(3)で表されることを特徴とするホスファゼン誘導体。
(PNX ・・・ 一般式(3)
(式中、Xはアルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくとも何れかで、nは3を表し、全Xのうち少なくとも1つはフッ素であり、少なくとも他の1つはアルコキシ基及びフェノキシ基の何れかである。)
【請求項2】
前記アルコキシ基が、メトキシ基、エトキシ基、アリルオキシ基、プロポキシ基及びブトキシ基から選択される請求項1に記載のホスファゼン誘導体。
【請求項3】
粘度が、25℃において5mPa・s(5cP)以下である請求項1又は2に記載のホスファゼン誘導体。
【請求項4】
沸点が、100℃以上である請求項1〜3の何れかに記載のホスファゼン誘導体。
【請求項5】
nが3であって、Xのうちの1つがアルコキシ基及びフェノキシ基の何れか、他の5つがフッ素である請求項1に記載のホスファゼン誘導体。
【請求項6】
nが3であって、2つのリン原子において、結合する2つのXのうちの1つがアルコキシ基及びフェノキシ基の何れか、他の1つ及び他のリン原子に結合する2つのXがフッ素である請求項1に記載のホスファゼン誘導体。
【請求項7】
nが3であって、3つのリン原子において、結合する2つのXのうちの1つがアルコキシ基及びフェノキシ基の何れか、他の1つがフッ素である請求項1に記載のホスファゼン誘導体。
【請求項8】
正極と、リチウム又はリチウムイオンの吸蔵・放出可能な材料よりなる負極と、支持塩及び請求項1〜7の何れかに記載のホスファゼン誘導体を含有する非水電解液とを有することを特徴とする非水電解液電池。
【請求項9】
アルカリ金属アルコキシド及びアルカリ金属フェノキシドの少なくとも何れかと、下記一般式(4)で表されるホスファゼン誘導体とを反応させ、下記一般式(3)で表されるホスファゼン誘導体を得ることを特徴とするホスファゼン誘導体の製造方法。
(PNF ・・・ 一般式(4)
(式中、nは3を表す。)
(PNX ・・・ 一般式(3)
(式中、Xはアルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくとも何れかで、nは3を表し、全Xのうち少なくとも1つはフッ素であり、少なくとも他の1つはアルコキシ基及びフェノキシ基の何れかである。)
【請求項10】
前記アルカリ金属アルコキシドが、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド及びリチウムアルコキシドから選択される請求項9に記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属フェノキシドが、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド及びリチウムフェノキシドから選択される請求項9に記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項12】
前記反応が、−30〜0℃の温度条件において1〜5時間行なわれる請求項9〜11の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項13】
前記反応の後、蒸留を行なう請求項9〜12の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項14】
少なくとも分子構造中にヒドロキシル基を1つ以上有する化合物と、下記一般式(4)で表されるホスファゼン誘導体とを反応させ、下記一般式(3)で表されるホスファゼン誘導体を得ることを特徴とするホスファゼン誘導体の製造方法。
(PNF ・・・ 一般式(4)
(式中、nは3を表す。)
(PNX ・・・ 一般式(3)
(式中、Xはアルコキシ基、フェノキシ基及びフッ素の少なくとも何れかで、nは3を表し、全Xのうち少なくとも1つはフッ素であり、少なくとも他の1つはアルコキシ基及びフェノキシ基の何れかである。)
【請求項15】
前記反応が、塩化合物を用いて行われる請求項14に記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項16】
前記塩化合物が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸セシウムから選択される請求項15に記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項17】
前記反応が、30〜90℃の温度条件において3〜10時間行なわれる請求項14〜16の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項18】
前記反応が、無極性溶媒を用いて行なわれる請求項14〜17の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項19】
前記反応が、極性溶媒を用いて行なわれる請求項14〜17の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項20】
少なくとも分子構造中にヒドロキシル基を1つ以上有する化合物が、メタノール、エタノール、アリルアルコール、プロパノール、ブタノール及びフェノールから選択される請求項14〜19の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項21】
前記一般式(4)で表されるホスファゼン誘導体が、下記一般式(5)で表されるホスファゼン誘導体及びフッ素化剤を用い、フッ素化反応により得られる請求項9〜20の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
(PNY ・・・ 一般式(5)
(式中、nは3で、Yはフッ素以外のハロゲン元素を表す。)
【請求項22】
前記フッ素化剤が、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム及びフッ化セシウムから選択される請求項21に記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項23】
前記フッ素化反応が、40〜100℃の温度条件において2〜7時間行われる請求項21又は22に記載のホスファゼン誘導体の製造方法。
【請求項24】
前記フッ素化反応の際、前記一般式(4)で表されるホスファゼン誘導体が添加される請求項21〜23の何れかに記載のホスファゼン誘導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−161559(P2009−161559A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100081(P2009−100081)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【分割の表示】特願2003−511337(P2003−511337)の分割
【原出願日】平成14年6月28日(2002.6.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】