説明

ホモアダマンタン誘導体、その製造方法及びフォトレジスト組成物

【課題】ポジ型フォトレジストに用いたときに、ラフネス低減、溶解性、相溶性、ディフェクト低減、露光感度等に優れる重合体及びこれを与える単量体を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物。式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なホモアダマンタン誘導体、その製造方法、(メタ)アクリル系重合体、ポジ型フォトレジスト組成物及びレジストパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子の微細化が進むに伴い、その製造におけるフォトリソグラフィー工程において、さらなる微細化が要求されている。KrF、ArF又はFエキシマレーザー光等の短波長の照射光に対応したフォトレジスト材料を用いて、微細パターンを形成させる方法が種々検討され、エキシマレーザー光等の短波長の照射光に対応できる新しいフォトレジスト材料が望まれている。
【0003】
フォトレジスト材料として、従来はフェノール樹脂をベースとするものが数多く開発されてきたが、これらの材料は芳香族環を含むために光の吸収が大きく、微細化に対応できるだけのパターン精度を得ることができない。
【0004】
このため、ArFエキシマレーザーによる半導体製造におけるフォトレジストとしては、2−メチル−2−アダマンチルメタクリレートのような脂環式骨格を持った重合性化合物を共重合したポリマーが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
微細加工技術の更なる進歩に伴い、現時点では32nm以下の線幅を実現しようとしているものの、従来の技術だけでは基盤密着性、露光感度、解像度、パターン形状、露光深度、表面荒れ等の種々の要求性能をクリアすることができていない。具体的には、LER、LWRと呼ばれるパターン表面の粗さ(ラフネス)やうねりといった平滑性の問題が顕在化してきた。また、近年の液浸露光による方法では、液浸媒体に起因するレジストパターンのディフェクト=欠陥等の現像不良も散見される。さらには、13.5nmの極端紫外線(EUV)を使用した半導体製造工程においては、スループットの向上の為にも、より高感度のフォトレジスト開発が望まれている。
【0006】
従来より、ArFエキシマレーザーによる半導体製造におけるフォトレジストには、基盤密着性を高める目的で各種環状ラクトンを有した重合性化合物を共重合したポリマーが使用されてきた。このような中、ホモアダマンタン骨格を持つラクトンとして、1−(5−オキソ−4−オキサ−5−ホモアダマンチル)メタクリレートが提案され、短波長光に対する高い透明性、高いドライエッチング耐性を備え、かつアルカリ現像でき、密着性、解像性の良好なレジストパターンを形成することができる感光性組成物及びパターン形成方法が提供されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、このホモアダマンチルメタクリレート化合物を含め、従来の各種環状ラクトンを有した重合性化合物には酸分解性がないため、単独ではポジ型フォトレジストとして機能しない。従って、必ず、tert−ブチルメタクリレートや2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート等の酸分解性モノマーとの共重合が必要となっていた。
【0007】
一方、ポジ型フォトレジストには感光作用(酸分解)をさせるために光酸発生剤(PAG)が必須成分である。近年の微細化に伴い顕在化してきたLER、LWRと呼ばれるパターン表面の粗さ(ラフネス)を改善するために、このPAG自体にも酸分解機能を付与する検討がなされている(例えば、特許文献3〜6)。しかしながら、ラフネスの更なる改善のためにフォトレジスト樹脂への相溶性を高めたり、レジスト樹脂中により均一に分散させる必要がある。
【0008】
さらに近年、ラフネス低減を目的にした低分子(単分子)のポジ型フォトレジストの開発においても、各種アダマンタン骨格や各種環状ラクトン構造を有した酸分解ユニットが、盛んに導入されている(例えば、特許文献7〜10)。しかしながら、これらの手法でも満足する結果が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−39665号公報
【特許文献2】特開2000−122294号公報
【特許文献3】特開2009−149588号公報
【特許文献4】特開2009−282494号公報
【特許文献5】特開2008−69146号公報
【特許文献6】特表2009−515944号公報
【特許文献7】特表2009−527019号公報
【特許文献8】特開2009−98448号公報
【特許文献9】特開2009−223024号公報
【特許文献10】特開2006−201762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ポジ型フォトレジストに用いたときに、ラフネス低減、溶解性、相溶性、ディフェクト低減、露光感度等に優れる重合体、及びこれを与える単量体(モノマー)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下の化合物等が提供される。
1.下記式(I)で表される化合物。
【化1】

(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を表す。)
2.下記式(A)で表される5−オキソ−4−オキサ−5−ホモアダマンタン−2−オールと、(メタ)アクリル酸類又はその誘導体を反応させる1記載の化合物の製造方法。
【化2】

3.前記式(A)で表される5−オキソ−4−オキサ−5−ホモアダマンタン−2−オールを、無水メタクリル酸と反応させる2記載の製造方法。
4.1記載の化合物を重合して得られる(メタ)アクリル系重合体。
5.4記載の(メタ)アクリル系重合体及び光酸発生剤を含有するポジ型フォトレジスト組成物。
6.5記載のポジ型フォトレジスト組成物を用いて支持体上にフォトレジスト膜を形成する工程と、該フォトレジスト膜を選択露光する工程と、選択露光された該フォトレジスト膜をアルカリ現像処理してレジストパターンを形成する工程とを含むレジストパターン形成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポジ型フォトレジストに用いたときに、ラフネス低減、溶解性、相溶性、ディフェクト低減、露光感度等に優れる重合体、及びこれを与える単量体が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1と比較例1で得られた化合物の双極子モーメントの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の化合物は下記式(I)で表される。
【化3】

式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を表す。
は好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0015】
本発明の式(I)のホモアダマンタン誘導体は、例えば、塩基性触媒下で、下記式(A)で表される5−オキソ−4−オキサ−5−ホモアダマンタン−2−オールと、(メタ)アクリル酸類又はその誘導体を反応させて製造できる。この製法によると純度の高いホモアダマンタン誘導体が高い収率で得られる。また触媒不存在下でも反応させて製造できる。
【化4】

【0016】
(メタ)アクリル酸類としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、2−フルオロアクリル酸、2−トリフルオロメチルアクリル酸等が挙げられる。
【0017】
(メタ)アクリル酸類の誘導体として、(メタ)アクリル酸類ハライド、(メタ)アクリル酸類無水物等が挙げられる。
【0018】
(メタ)アクリル酸類ハライドとしては、例えばアクリル酸フルオライド、アクリル酸クロライド、アクリル酸ブロマイド、アクリル酸アイオダイド、メタクリル酸フルオライド、メタクリル酸クロライド、メタクリル酸ブロマイド、メタクリル酸アイオダイド、2−フルオロアクリル酸フルオライド、2−フルオロアクリル酸クロライド、2−フルオロアクリル酸ブロマイド、2−フルオロアクリル酸アイオダイド、2−トリフルオロメチルアクリル酸フルオライド、2−トリフルオロメチルアクリル酸クロライド、2−トリフルオロメチルアクリル酸ブロマイド、2−トリフルオロメチルアクリル酸アイオダイド等が挙げられる。
【0019】
(メタ)アクリル酸類無水物としては、例えばアクリル酸無水物、メタクリル酸無水物、2−フルオロアクリル酸無水物、2−トリフルオロメチルアクリル酸無水物等が挙げられる。
【0020】
塩基性触媒としては水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酸化銀、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、燐酸一水素二ナトリウム、燐酸一水素二カリウム、燐酸二水素一ナトリウム、燐酸二水素一カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムt−ブトキシド、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、ピリジン、N、N−ジメチルアミノピリジン、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン)、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン)等の無機塩基及び有機アミンを1種又は2種以上用いることができる。
【0021】
エステル化は、式(A)のホモアダマンタン誘導体と(メタ)アクリル酸類又はその誘導体に塩基(触媒)を作用させることにより実施できる。エステル化は有機溶媒の存在下又は不存在下で行うことができるが、有機溶媒を使用する場合には、基質濃度が0.1mol/L〜10mol/L程度となるように調節することが好ましい。基質濃度が0.1mol/L以上であると、通常の反応器で必要な量が得られるため経済的に好ましく、基質濃度が10mol/L以下であると反応液の温度制御が容易となり好ましい。
【0022】
反応に用いる溶媒としては、具体的には、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の飽和炭化水素、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサノン、ジプロピルエーテール、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等の酸素含有炭化水素、ジブロモメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等の含ハロゲン炭化水素等を挙げることができる。
【0023】
反応温度は−200〜200℃程度であればよく、好ましくは0〜100℃である。塩基性触媒の場合、極力重合を避けるため、50℃以下が特に好ましい。さらに0℃〜30℃が好ましい。また、反応圧力は例えば絶対圧力で0.01〜10MPa程度であり、好ましくは常圧〜1MPaである。反応時間が長い場合は滞留時間が長くなり、圧力が高すぎる場合は特別な耐圧装置が必要となり経済的でない。
【0024】
また酸触媒下でも式(A)のホモアダマンタン誘導体と、(メタ)アクリル酸類又はその誘導体を反応させて製造できる。酸触媒として、好ましくは、Hammettの酸度関数Hが−10.3以下である酸を用いる。具体的な酸度関数の値については、例えば、「日本化学会編、化学便覧、改定4版、基礎編II」の323−324頁に記載されている。ここで用いることができる酸の具体的な例としては、CFSOH,CSOH,CSOH,CSOH,C11SOH,C13SOH,H,HClO,ClSOH,FSOH等を挙げることができる。
【0025】
反応温度は−200〜200℃程度であればよく、好ましくは70〜1400℃である。酸性触媒の場合、沸点が70℃未満の場合は、水との共沸による脱水効率が悪いため、反応が遅くなる恐れがある。沸点が200℃超の場合は、反応温度が高いため(メタ)アクリル酸の重合が起こり収率が低下する恐れがある。また、反応圧力は例えば絶対圧力で0.01〜10MPa程度であり、好ましくは常圧〜1MPaである。反応時間が長い場合は滞留時間が長くなり、圧力が高すぎる場合は特別な耐圧装置が必要となり経済的でない。また、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒を用いる場合は、化合物(I)又は(メタ)アクリル酸類又はその誘導体と酸触媒により生じるカルボカチオンとの反応により、フリーデルクラフト反応生成物を生じる恐れがある。
【0026】
反応に用いる溶媒としては、具体的には、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の飽和炭化水素、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサノン、ジプロピルエーテール、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等の酸素含有炭化水素、ジブロモメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等の含ハロゲン炭化水素等を挙げることができる。
【0027】
共沸脱水反応を伴う場合、溶媒は好ましくはシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒である。脂環構造含有アルコール式(A)の化合物に対する反応試薬の仕込み比は、例えば0.01〜100倍mol程度、望ましくは1〜1.5倍molである。
【0028】
反応後、反応生成液は水と有機層に分離し、必要に応じて水層から生成物を抽出する。反応液から溶媒を減圧留去することで、目的とする式(I)の化合が得られる。必要に応じて精製してもよいし、精製することなく反応液を次の反応に供してもよい。精製方法としては、蒸留、抽出洗浄、晶析、活性炭吸着、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等一般的な精製方法の中から、製造スケール、必要な純度を考慮して、選択することができるが、比較的低温での取扱いが可能であり、一度に多量のサンプルを処理できるため、抽出洗浄又は晶析による方法が好ましい。
【0029】
本発明の(メタ)アクリル系重合体は、式(I)の化合物を重合して得られる。
この(メタ)アクリル系重合体は、式(I)の化合物1種類以上に由来する繰り返し単位を含む重合体であればよく、式(I)の化合物1種だけを用いた単独重合体であってもよく、式(I)の化合物2種類以上を用いた共重合体であってもよく、式(I)の化合物1種類以上と他の重合性モノマーとを用いた共重合体であってもよい。
【0030】
(メタ)アクリル系重合体は、式(I)の化合物に由来する繰り返し単位を10〜90モル%含むものが好ましく、25〜75モル%含むものがより好ましい。
【0031】
重合法は特に限定されず、慣用の重合法で行うことができるが、例えば溶液重合(沸点重合、沸点未満重合)、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の公知の重合方法を用いることができる。重合後の反応液中に残存している高沸点の未反応モノマー量が少ないほど好ましく、重合時又は重合終了後に必要に応じて未反応モノマーを除去する操作を施すことが好ましい。
上記重合法のうち、溶媒中でラジカル重合開始剤を用いた重合反応が好ましい。重合開始剤としては特に限定はないが、パーオキサイド系重合開始剤、アゾ系重合開始剤等が用いられる。
【0032】
パーオキサイド系重合開始剤としてはパーオキシカーボネート、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル(ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド)等の有機過酸化物が挙げられる。また、アゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0033】
上記重合開始剤は、重合温度等の反応条件に応じて1種又は2種以上の重合開始剤を適宜用いることができる。
【0034】
重合終了後、使用した式(I)の化合物や他の共重合モノマーを、製造した重合体から除去する方法としては種々の方法が採用され得るが、操作性や経済的な視点から、(メタ)アクリル系重合体に対する貧溶媒を用いて(メタ)アクリル系重合体を洗浄する方法が好ましい。貧溶媒の中でも、沸点が低いものが好ましく、代表的にはメタノール、エタノール、n−ヘキサン、n−ヘプタン等が挙げられる。
【0035】
本発明の(メタ)アクリル系重合体はポジ型フォトレジストとして使用できる。即ち、反応性の高い式(I)のホモアダマンタン誘導体から、ホモアダマンタン骨格を、PAG、低分子ポジ型フォトレジスト又はポジ型フォトレジストモノマーに導入でき、さらにはポジ型フォトレジスト重合体に導入できる。
【0036】
本発明の(メタ)アクリル系重合体は従来別々のモノマーから導入していたアダマンタン骨格とラクトン骨格を、これらを同時に有する同じモノマーから導入するため、(メタ)アクリル系重合体(フォトレジスト樹脂)中でのこれら骨格の分散がより均一になり、ラフネス低減につながると考えられる。
【0037】
本発明の(メタ)アクリル系重合体を含む樹脂組成物は、種々の用途、例えば、回路形成材料(半導体製造用レジスト、プリント配線板等)、画像形成材料(印刷版材、レリーフ像等)等に利用できるが、特にフォトレジスト用樹脂組成物として用いることが好ましく、ポジ型フォトレジスト用樹脂組成物として用いることがより好ましい。
【0038】
本発明のポジ型フォトレジスト組成物は、本発明の(メタ)アクリル系重合体及び光酸発生剤を含有するものであれば特に限定されないが、ポジ型フォトレジスト組成物100質量%に対して、(メタ)アクリル系重合体を2〜50質量%含有するものが好ましく、5〜15質量%含有するものがより好ましい。
【0039】
ポジ型フォトレジスト組成物は、上記(メタ)アクリル系重合体及びPAG(光酸発生剤)以外に、有機アミン等のクエンチャー、アルカリ可溶性樹脂(例えば、ノボラック樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂、カルボキシル基含有樹脂等)等のアルカリ可溶成分、着色剤(例えば、染料等)、有機溶媒(例えば、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、カルビトール類、グリコールエーテルエステル類、これらの混合溶媒等)等を添加することができる。
【0040】
光酸発生剤としては、露光により効率よく酸を生成する慣用の化合物が挙げられ、例えばジアゾニウム塩、ヨードニウム塩(例えば、ジフェニルヨードヘキサフルオロホスフェート等)、スルホニウム塩(例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムメタンスルホネート等)、スルホン酸エステル(例えば、1−フェニル−1−(4−メチルフェニル)スルホニルオキシ−1−ベンゾイルメタン、1,2,3−トリスルホニルオキシメチルベンゼン、1,3−ジニトロ−2−(4−フェニルスルホニルオキシメチル)ベンゼン、1−フェニル−1−(4−メチルフェニルスルホニルオキシメチル)−1−ヒドロキシ−1−ベンゾイルメタン等)、オキサチアゾール誘導体、s−トリアジン誘導体、ジスルホン誘導体(ジフェニルジスルホン等)、イミド化合物、オキシムスルホネート、ジアゾナフトキノン、ベンゾイントレート等が挙げられる。これらの光酸発生剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0041】
ポジ型フォトレジスト組成物における光酸発生剤の含有量は、光照射により生成する酸の強度、(メタ)アクリル系重合体の式(I)の化合物由来の構造単位の含有量等に応じて適宜選択できる。
光酸発生剤の含有量は、(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは1〜25質量部、さらに好ましくは2〜20質量部である。
【0042】
ポジ型フォトレジスト組成物は、(メタ)アクリル系重合体、光酸発生剤及び必要に応じて前記有機溶媒等を混合し、必要に応じて夾雑物をフィルター等の慣用の固体分離手段により除去することにより調製できる。
このポジ型フォトレジスト組成物を基材又は基板上に塗布し、乾燥した後、所定のマスクを介して塗膜(レジスト膜)に光線を露光して(又は、さらに露光後ベークを行い)潜像パターンを形成し、次いで現像することにより微細なパターンを高い精度で形成できる。
【0043】
また、本発明は、上記ポジ型フォトレジスト組成物を用いて支持体上にレジスト膜を形成する工程と、該レジスト膜を選択露光する工程と、選択露光されたレジスト膜をアルカリ現像処理してレジストパターンを形成する工程とを含むレジストパターン形成方法をも提供する。
【0044】
支持体としては、シリコンウエハー、金属、プラスチック、ガラス、セラミック等が挙げられる。ポジ型レジスト組成物を用いてレジスト膜を形成する工程は、スピンコータ、ディップコータ、ローラコータ等の慣用の塗布手段を用いて行うことができる。レジスト膜の厚みは、好ましくは50nm〜20μm、より好ましくは100nm〜2μmである。
【0045】
レジスト膜を選択露光する工程には、種々の波長の光線、例えば紫外線、X線等が利用でき、半導体レジスト用では、通常g線、i線、エキシマレーザー(例えば、XeCl、KrF、KrCl、ArF、ArCl等)、軟X線等が使用される。露光エネルギーは例えば0.1〜1000mJ/cm、好ましくは1〜100mJ/cm程度である。
【0046】
本発明のポジ型レジスト組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体は、酸分解性機能を有する。この場合、上記選択露光により光酸発生剤から酸が生成し、この酸により(メタ)アクリル系重合体中の式(I)の化合物に基づく構造単位のうち環状部分が速やかに脱離して、可溶化に寄与するカルボキシル基や水酸基が生成する。そのため、アルカリ現像液を用いて現像処理を行うことで、所定のパターンを精度よく形成できる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
尚、物性の測定方法は以下の通りである。
(1)核磁気共鳴分光法(NMR):溶媒としてクロロホルム−dを使用し、JNM−ECA500(日本電子株式会社製)で測定した。
(2)ガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MS):EI(株式会社島津製作所製GCMS−QP2010)を用いて測定した。
(3)重量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn):HLC−8220 GPCシステム(東ソー製、カラム=TSGgel G−4000HXL+G−2000HXL)を用いてポリスチレン換算で測定した。
【0048】
製造例1
(4−メタンスルホニルオキシ−2−アダマンタノンの合成)
4−ヒドロキシ−2−アダマンタノン599.62g(3.6mol),トリエチルアミン655mL(4.7mol)を、テトラヒドロフラン(THF)2.5Lで溶解させた。ここにメタンスルホン酸クロライド310mL(4.0mol)の滴下をゆっくりと開始した。適宜、除熱し、約1.5時間かけて滴下を完了させ、さらに2時間の反応を行った。反応液に水1Lを加え、定法により処理すると、下記式で表わされる4−メタンスルホニルオキシ−2−アダマンタノン785.74g(3.2mol,収率:89.2%,GC純度:99.9%)が得られた(式中、Msはメタンスルホニルを示す)。
GC−MS:244(M,11.3%),165(15.3%),148(27.4%),120(43.7%),91(29.2%),79(100%)
【0049】
【化5】

【0050】
製造例2
(endo−ビシクロ[3.3.1]−6−ノネン−3−カルボン酸の合成1)
製造例1で合成した4−メタンスルホニルオキシ−2−アダマンタノン250.52g(1.0mol),エタノール460mL,50%水酸化ナトリウム水溶液500mL(9.5mol),水1.2Lの混合液を、還流温度で2時間反応させた後、室温まで冷却した。反応溶液に含まれる有機不純物を抽出除去し、引き続き、濃塩酸で酸性にすると白色固体が析出した。生成した白色固体をろ過し、得られた白色ケークをTHF1.5Lで溶解させた。油水分離の後、定法により処理すると、下記式で表わされるendo−ビシクロ[3.3.1]−6−ノネン−3−カルボン酸501.52g(3.0mol,収率:76.4%,GC純度:99.2%)が得られた。
GC−MS:166(M,4.7%),148(25.4%),120(15.5%),91(18.9%),79(100%)
【0051】
【化6】

【0052】
製造例3
(endo−ビシクロ[3.3.1]−6−ノネン−3−カルボン酸の合成2)
2−アダマンタノン4.5g(30mmol),メタンスルホン酸15mL(231mmol)のスラリーに、アジ化ナトリウム2.9g(45mmol)を、室温において十数回に分け、約30分かけて添加した。50℃でさらに1時間反応させた。ここにエタノール34mL,50wt%水酸化ナトリウム水溶液36mL(682mmol),水79mLを加え、還流温度で2時間反応させた後、室温まで冷却した。以降の後処理を製造例2と同様に行ったところ、上記式で表わされるendo−ビシクロ[3.3.1]−6−ノネン−3−カルボン酸3.6g(21mmol,収率:71.4%,GC純度:96.8%)が得られた。
【0053】
製造例4
(4−オキサ−5−オキソ−5−ホモ−2−アダマンタノールの合成)
製造例2又は製造例3で合成したendo−ビシクロ[3.3.1]−6−ノネン−3−カルボン酸45.0g(271mmol),ギ酸38mL(1.0mol)のスラリーに、30wt%過酸化水素水52mL(509mmol)をゆっくり滴下した。この際、水浴で除熱しながら45℃以下を保持した。滴下後、さらに3時間の反応を行った。反応液は、亜硫酸水素ナトリウムを発泡しなくなるまで加え、過剰の過酸化水素をクエンチし、水酸化ナトリウムと炭酸水素ナトリウムでpH=8程度になるまで中和した。定法により処理すると、下記式で表わされる4−オキサ−5−オキソ−5−ホモ−2−アダマンタノール43.7g(240mmol,収率:88.5%,GC純度:96.8%)が得られた。製造例1〜4の方法で得られる4−オキサ−5−オキソ−5−ホモ−2−アダマンタノールは、4−ヒドロキシ−2−アダマンタノンを直接酸化して得られるものより純度が高く異性体の混入も少ない。
GC−MS:182(M,7.4%),154(20.7%),136(11.5%),120(15.9%),110(32.4%),95(43.1%),79(100%),66(76.4%),57(43.4%),41(40.5%)
H−NMR:1.46(dd,J=2.9Hz,13.2Hz,1H),1.82〜1.98(m,5H),2.07(d,J=13.2Hz,2H),2.17(d,J=13.2Hz,1H),2.34(ddt,J=1.1Hz,4.6Hz,15.7Hz,1H),3.02〜3.04(m,1H),3.46(br−s,1H),3.94(s,1H),4.27(dd,J=2.0Hz,2.3Hz,1H)
13C−NMR:25.37,27.25,29.30,30.56,30.94,32.32,40.68,70.49,76.09,178.76
【0054】
【化7】

【0055】
実施例1
(4−オキサ−5−オキソ−5−ホモ−2−アダマンチルメタクリレートの合成)
製造例4で合成した4−オキサ−5−オキソ−5−ホモ−2−アダマンタノール40.0g(200mmol),トリエチルアミン46mL(330mmol),4−ジメチルアミノピリジン2.7g(22mmol),p−メトキシフェノール40mg(0.1wt%)を、THF200mLで溶液とした後、約1時間、乾燥空気を溶液にバブリングしながら攪拌した。この溶液にメタクリル酸無水物39mL(264mmol)を約1時間かけて滴下した。このとき必要に応じて水浴で除熱した。さらに、3時間撹拌を継続した後、定法により処理すると、下記式で表わされる4−オキサ−5−オキソ−5−ホモ−2−アダマンチルメタクリレート(49.2g,収率:89.3%,GC純度:97.1%,GPC純度:97.4%)が得られた。
GC−MS:250(M,0.1%),232(0.6%),204(1.1%),181(0.7%),164(38.6%),136(40.5%),121(8.0%),108(7.3%),92(21.1%),79(39.0%),69(100%),55(10.3%),41(61.8%)
H−NMR:1.59(d,J=12.8Hz,1H),1.91〜2.22(m,8H),1.97(s,3H),2.26(dt,J=15.3Hz,4.8Hz,1H),3.10(br−s,1H),4.31(d,J=2.1Hz,1H),5.06(s,1H),5.64(t,J=1.3Hz,1H),6.15(s,1H)
13C−NMR:17.85,24.83,27.87,28.53,29.64,30.21,31.65,40.27,71.74,72.34,125.86,135.66,165.20,176.76
【0056】
【化8】

【0057】
比較例1
(4−オキサ−5−オキソ−5−ホモ−1−アダマンチルメタクリレートの合成)
実施例1において、4−オキサ−5−オキソ−5−ホモ−2−アダマンタノールの代わりに4−オキサ−5−オキソ−5−ホモ−1−アダマンタノールを使用したこと以外は、実施例1と同様に行った結果、下記式で表わされる4−オキサ−5−オキソ−5−ホモ−1−アダマンチルメタクリレートが得られた。10時間後の原料転化率は50.6%、4−オキサ−5−オキソ−5−ホモ−1−アダマンチルメタクリレートの選択率は51.4%であった。
【0058】
【化9】

【0059】
評価例1
(実施例1及び比較例1で合成した化合物の双極子モーメントの比較)
実施例1で合成した化合物(化合物A)及び比較例1で合成した化合物(化合物B)について、下記式に矢印で示す、ホモアダマンタン骨格とエステル部位をつなぐ炭素−酸素の結合軸を360°回転させたときの双極子変化を比較した。
【0060】
【化10】

双極子モーメントを分子軌道計算(MOPAC PM5)を用いて計算した結果を図1に示す。図1に示すように、実施例1の化合物(化合物A)は、比較例1の化合物(化合物B)に比べ、双極子モーメントは最大で1[Debye]大きく、より極性が高いことが示唆された。これは種々の重合溶媒,塗布溶媒,レジスト現像液等への溶解性が高くなることが期待できる。
【0061】
実施例2
((メタ)アクリル系共重合体の合成)
メチルイソブチルケトンに2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル/モノマーA/モノマーB/モノマーC(実施例1で合成した化合物)を質量比0.1/2.0/1.0/1.0で仕込み、加熱還流下、6時間撹拌した。その後、反応液を大量のメタノールと水の混合溶媒に注いで沈殿させる動作を3回行い精製した結果、共重合体を得た。共重合体の組成(A:B:C)(mol)は29:30:41であり、重量平均分子量(Mw)は7018であり、分散度(Mw/Mn)は1.83であった。
【0062】
【化11】

【0063】
実施例3
(ポジ型レジスト組成物の調製)
実施例2で得られた共重合体100質量部に対し、光酸発生剤としてトリフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネートを5質量部加え混合物を作成し、さらに、この混合物10質量部をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート90質量部を用いて溶解し、レジスト組成物を調製した。シリコンウエハー上に、調製したレジスト組成物を塗布し、110℃で、60秒間ベークを行い、レジスト膜を形成した。このようにして得られたウエハーを波長248nmの光によって100mJ/cmの露光量でオープン露光した。露光直後に110℃で、60秒間加熱した後、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液(2.38質量%)で60秒間現像した。このとき、レジスト膜は、完全になくなった。
【0064】
このように、本発明の(メタ)アクリル系重合体を含む組成物は、ポジ型フォトレジスト組成物として機能することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の(メタ)アクリル系重合体を含む樹脂組成物は、回路形成材料(半導体製造用レジスト、プリント配線板等)、画像形成材料(印刷版材、レリーフ像等)等に使用でき、特にポジ型フォトレジスト用樹脂組成物として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物。
【化12】

(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を表す。)
【請求項2】
下記式(A)で表される5−オキソ−4−オキサ−5−ホモアダマンタン−2−オールと、(メタ)アクリル酸類又はその誘導体を反応させる請求項1記載の化合物の製造方法。
【化13】

【請求項3】
前記式(A)で表される5−オキソ−4−オキサ−5−ホモアダマンタン−2−オールを、無水メタクリル酸と反応させる請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の化合物を重合して得られる(メタ)アクリル系重合体。
【請求項5】
請求項4記載の(メタ)アクリル系重合体及び光酸発生剤を含有するポジ型フォトレジスト組成物。
【請求項6】
請求項5記載のポジ型フォトレジスト組成物を用いて支持体上にフォトレジスト膜を形成する工程と、該フォトレジスト膜を選択露光する工程と、選択露光された該フォトレジスト膜をアルカリ現像処理してレジストパターンを形成する工程とを含むレジストパターン形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−41274(P2012−41274A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180908(P2010−180908)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】