ホログラフィックレーダ装置
【課題】複数の物標が異なる速度で移動する場合に、常にホログラフィック合成法を用いることは難しいという問題があった。
【解決手段】本発明のホログラフィックレーダ装置は、物標に向けて電波を送信する複数の送信アンテナ(1)と、反射波を受信する複数の受信アンテナ(3)と、受信波に基づいて、ホログラフィック合成法により物標が存在する第1の角度を算出する第1角度推定部(22)と、ホログラフィック空間平均法により物標が存在する第2の角度を算出する第2角度推定部(23)と、ホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出するホログラフィック合成信頼性定数算出部(24)と、を備え、第1の角度及び第2の角度の少なくともいずれか一方と、ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、物標の角度を算出することを特徴とする。
【解決手段】本発明のホログラフィックレーダ装置は、物標に向けて電波を送信する複数の送信アンテナ(1)と、反射波を受信する複数の受信アンテナ(3)と、受信波に基づいて、ホログラフィック合成法により物標が存在する第1の角度を算出する第1角度推定部(22)と、ホログラフィック空間平均法により物標が存在する第2の角度を算出する第2角度推定部(23)と、ホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出するホログラフィック合成信頼性定数算出部(24)と、を備え、第1の角度及び第2の角度の少なくともいずれか一方と、ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、物標の角度を算出することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラフィックレーダ装置に関し、特に複数の物標の検出を行うホログラフィックレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載され、車両の前方を走行する他の車両等を検知するレーダ装置としてホログラフィックレーダ装置が知られている。ホログラフィックレーダ装置においては、受信アンテナの数を増やすことによって測定精度を高めることができるが、車載機等に応用する場合に小型化するために送信アンテナ及び受信アンテナを複数配置して、実質的に複数の受信アンテナを備えたのと等価な構成とするものが報告されている(例えば、特許文献1)。そのような従来のホログラフィックレーダは、図1に示すように、複数の送信アンテナ101〜103を順次切り換えて電波を送信し、各送信アンテナから送信された電波の物標からの反射波を複数の受信アンテナ104、105で受信するものである。
【0003】
図1の従来のホログラフィックレーダ100の送信アンテナ101〜103には、高周波信号を発振出力する発振器110及び、分配器112を介して1入力3切換出力の送信側スイッチ114が接続されている。スイッチ114を切り換えることにより、発振器110から出力された高周波信号が、送信アンテナ101〜103へ時分割で供給される。
【0004】
一方、受信アンテナ104、105には、1入力2切換出力の受信側スイッチ116が接続されている。スイッチ116を切り換えることによって、2つの受信アンテナ104、105で得られた受信信号が時分割でミキサ118に供給される。
【0005】
ミキサ118には、分配器112からの送信高周波信号の一部が供給されるとともに、A/Dコンバータ120が接続されており、ミキサ118から供給されたビート信号がデジタル信号に変換される。A/Dコンバータ120に接続された信号処理回路122は、ビート信号についてデータ処理を行い、物標までの距離、相対速度、角度など所望の情報を得る。
【0006】
ここで、3つの送信アンテナ101〜103を切り替え、各送信アンテナに対応させて受信アンテナ104、105を切り換えることにより、送信アンテナと受信アンテナのペアの関係を6通りの位置関係で配置したのと等価のデータを得ることができる。
【0007】
ホログラフィックレーダを用いて物標の存在する角度を算出する場合、送信用アンテナから送信され、物標から反射されて受信アンテナにより受信した電波の信号処理方法として、ホログラフィック合成法と、ホログラフィック空間平均法とがある。
【0008】
まず、ホログラフィック合成法について図面を用いて説明する。ホログラフィック合成法は、ホログラフィックレーダを構成する複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナを切り換えて受信した信号を合成することにより、電波の経路を考慮した送信アンテナの配置により、仮想的に受信アンテナの数を増やす方法である。図2に、ホログラフィックレーダを構成する送信アンテナ及び受信アンテナの構成図を示す。図2(a)は、間隔3dを置いて配置した2つの送信アンテナTx1、Tx2と、間隔dを置いて配置した4つの受信アンテナRx1〜Rx4を示している。ホログラフィック合成を行うことより、図2(b)に示すように、1つの受信アンテナTx1と7つの受信アンテナRx1〜Rx7を配置したのと等価なデータを得ることができる。このような構成により、2つの送信アンテナと4つの受信アンテナからなる合計6つのアンテナを用いて、仮想的に1つの送信アンテナと7つの受信アンテナからなる合計8つのアンテナを備えたレーダと等価なデータを得ることができ、レーダ装置の小型化が実現できるというものである。受信アンテナを仮想的に増やすことにより、物標の分離可能数、分離性能、物標の位置の角度精度を向上させることができる。
【0009】
次に、ホログラフィック合成の方法について図3を用いて説明する。図3(a)、(b)は2つの送信アンテナ及び4つの受信アンテナを配置した例を示す。図3(a)では、送信アンテナTx1から電波が送信され、図3(b)では、送信アンテナTx2から電波が送信されている様子を示している。まず、図3(a)に示すように、送信アンテナTx1から矢印211の方向へ電波212を送信し、物標(図示せず)からの反射波213〜216をそれぞれ受信アンテナRx1〜Rx4で受信する。次に、図3(b)に示すように、送信アンテナTx2から矢印211と同じ方向である矢印218の方向へ電波219を送信し、物標(図示せず)からの反射波220〜223をそれぞれ受信アンテナRx1〜Rx4で受信する。ここでは、物標は静止していると仮定する。
【0010】
ここで、図3(a)、(b)の場合の各受信アンテナにおける電波の経路長差をそれぞれ図3(c)、(d)に示す。図3(c)に示すように、アンテナの間隔dあたりの経路長差をαとすると、送信アンテナTx1から電波を送信した際の受信アンテナRx1〜Rx4の経路長差は全て0αである。一方、送信アンテナTx1を基準とした受信アンテナ間の距離はそれぞれ4d、5d、6d、7dであるので、等位相面217を考慮して、受信時における経路長差は、それぞれ4α、5α、6α、7αである。ここで、受信アンテナRx1〜Rx4と物標までの距離をrとすれば、受信アンテナRx1〜Rx4の総経路長差は、それぞれ2r+4α、2r+5α、2r+6α、2r+7αとなる。
【0011】
一方、図3(d)に示すように、送信アンテナTx2から電波を送信した際の受信アンテナRx1〜Rx4における経路長差は、送信アンテナTx1とTx2との間の距離が3dであるので全て3αである。また、送信アンテナTx1を基準とした受信アンテナ間の距離はそれぞれ4d、5d、6d、7dであるので、等位相面224を考慮して、受信時における経路長差は、それぞれ4α、5α、6α、7αである。ここで、受信アンテナRx1〜Rx4と物標までの距離をrとすれば、受信アンテナRx1〜Rx4の総経路長差は、それぞれ2r+7α、2r+8α、2r+9α、2r+10αとなる。
【0012】
ここで、送信アンテナTx1から電波を送信したときに受信アンテナRx4で受信した反射波の総経路長差と、送信アンテナTx2から電波を送信したときに受信アンテナRx1で受信した反射波の総経路長差は共に2r+7αとなっているので、総経路長差の大きさを順に並べれば、(2r+4α)〜(2r+10α)までαずつ大きくなるように総経路長差を並べることができる。
【0013】
一方、図4(a)のように1つの送信アンテナTx1と間隔4dを離隔した位置に、間隔dの7つの受信アンテナRx1〜Rx7を配置したときの総経路長差は図4(b)のようになり、(2r+4α)〜(2r+10α)までαずつ大きくなるように総経路長差が並ぶ。このことは、図3(a)、(b)のように2つの送信アンテナTx1、Tx2と4つの受信アンテナRx1〜Rx4からなるレーダの受信データが、図4(a)のように1つの送信アンテナTx1と7つの受信アンテナRx1〜Rx7を配置したレーダの受信データと一致することを示している。このようにして、図3に示した構成を備えたレーダにおいて、送信アンテナを切り換えることにより、受信アンテナ数を仮想的に増やすことができる。
【0014】
次に、ホログラフィック空間平均法について説明する。ホログラフィック空間平均法は、受信電波を理想的な状態に近づける方法である。ここで、理想的な状態とは、角度推定において、アンテナ間の相互相関がないこと、及びノイズがないことをいう。なかでも、ホログラフィック空間平均法は、特に「相互相関」の抑制を目的としており、ノイズは結果的に抑制されていると考えられる。
【0015】
次に、ホログラフィック空間平均法の相互相関の抑制方法について説明する。ホログラフィック空間平均法では、相関のある波の位相関係は受信位置により異なることを利用して、受信点を平行移動させて相関値を求めれば平均効果により相互相関値が低下する点に着目している。即ち、ホログラフィック空間平均法では、アンテナの配置が同一のアンテナの受信信号を平均化することにより相互相関値を抑制している。
【0016】
次に、ホログラフィック空間平均法について、図面を用いて説明する。図5はホログラフィック空間平均法で用いるアンテナの配置について説明するための図である。図5(a)に示すように、2つの送信アンテナTx1とTx2とを距離3dだけ離して配置し、受信アンテナRx1〜Rx4を距離dだけ離して配置した例を考える。送信アンテナTx1から物標に向かって電波を送信した場合は、図5(b)に示すように、送信アンテナTx1から4d離れた受信アンテナRx1〜Rx4によって、物標からの反射波が受信される。一方、送信アンテナTx2から物標に向かって電波を送信した場合は、図3に示した位相差を考慮して、図5(c)に示すように、送信アンテナTx2から4d離れた受信アンテナRx1〜Rx4によって、物標からの反射波が受信されたものと考えることができる。
【0017】
ここで、送信アンテナをTx1としたときの受信アンテナの配置と、送信アンテナをTx2としたときの受信アンテナの配置は同一と考えられる。そこで、ホログラフィック空間平均法では、送信アンテナをTx1としたときに受信アンテナRx1〜Rx4で受信した受信信号と、送信アンテナをTx2としたときに受信アンテナRx1〜Rx4で受信した受信信号とを平均化し、平均化した受信信号に基づいて物標の角度推定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2000−155171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ここで、ホログラフィック合成法と、ホログラフィック空間平均法とを対比すると、ホログラフィック合成法はホログラフィック空間平均法に比べて、高精度で物標の角度を算出することができる一方で、物標が複数存在して、それぞれが異なる速度で移動しているような場合には基準とする受信アンテナにおける受信信号の位相差にズレが生じ、ホログラフィック合成が成立しない場合があり、常にホログラフィック合成法を用いることは難しいという問題があった。一方、ホログラフィック空間平均法は、複数の受信アンテナの受信データを平均化しているため、常にホログラフィック空間平均法を用いることとすると物標の検出データの精度が低くなるという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のホログラフィックレーダ装置は、物標に向けて電波を送信する複数の送信アンテナと、物標によって反射された電波を受信する複数の受信アンテナと、受信した電波に基づいてホログラフィック合成法により、物標が存在する第1の角度を算出する第1角度推定部と、受信した電波に基づいてホログラフィック空間平均法により、物標が存在する第2の角度を算出する第2角度推定部と、受信した電波に基づいてホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出するホログラフィック合成信頼性定数算出部と、を備え、第1の角度及び第2の角度の少なくともいずれか一方と、ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、物標の角度を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のホログラフィックレーダ装置は、ホログラフィック合成が成立している度合いが低い場合においても物標の検知を行うことができるという利点がある。
【0022】
さらに、本発明のホログラフィックレーダ装置は、ホログラフィック合成法を単独で用いた場合に比べて、物標の角度推定精度が大幅に向上するという利点がある。
【0023】
また、本発明のホログラフィックレーダ装置は、ホログラフィック空間平均法を単独で用いた場合に比べて、分離可能な物標の数が大幅に向上するという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来のホログラフィックレーダの構成図である。
【図2】ホログラフィックレーダを構成する送信アンテナと受信アンテナの構成図である。
【図3】ホログラフィック合成法の説明図である。
【図4】ホログラフィック合成法の説明図である。
【図5】ホログラフィック空間平均法の説明図である。
【図6】本発明の実施例1に係るホログラフィックレーダ装置の構成図である。
【図7】FM−CW方式における送信波及び受信波の周波数の時間依存性を示した図、並びに送信波及び受信波の差信号であるビート信号の時間依存性を示した図である。
【図8】UP側及びDOWN側の周波数スペクトラムを示した図、並びに周波数スペクトラムにおけるピーク情報に基づいて得られた角度スペクトラムを示す図である。
【図9】本発明の実施例1に係るホログラフィックレーダ装置の信号処理装置内の方位演算部の構成図である。
【図10】本発明の実施例1に係るホログラフィックレーダ装置の角度算出方法を示すフローチャートである。
【図11】ホログラフィック合成信頼性定数の算出方法を説明するための図である。
【図12】本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置の信号処理装置内の方位演算部の構成図である。
【図13】本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置の角度算出方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明に係るホログラフィックレーダ装置について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【実施例1】
【0026】
図6に本発明の実施例1のホログラフィックレーダ装置の構成図を示す。送信部Sは、発振器5と、三角波である変調信号を出力する信号生成部15を備えており、信号生成部15が出力する三角波で発振器5の発振信号を周波数変調し送信波として出力する。この送信波はスイッチSWを介して第1の送信アンテナ1aまたは第2の送信アンテナ1bに供給され、第1の送信アンテナ1aから第1の送信波2aを送信し、第2の送信アンテナ1bから第2の送信波2bを送信する。送信アンテナ群1、即ち、第1の送信アンテナ1a及び第2の送信アンテナ1bからの電波の送信の切り換えはスイッチSWによって行われ、スイッチSWは送受信制御手段50からの信号によって制御される。例えば、図7(a)に示すように信号生成部15が出力する三角波の1周期毎に第1の送信アンテナ1aと第2の送信アンテナ1bが切り換えられ、第1の送信波2aと第2の送信波2bが交互に送信される。第1の送信波2aの物標(図示せず)からの反射波4a、4b、・・・、4nと、第2の送信波2bの物標からの反射波4a、4b、・・・、4nとを受信アンテナ部Rに設けられた受信アンテナ3a、3b、・・・、3nからなる受信アンテナ群3で受信する。発振器5でFM−CW波である送信信号が形成され、送信アンテナ1a、1bから出力される。
【0027】
受信アンテナ群3で受信した信号は、受信部Rに入力される。受信部Rは、ローノイズアンプ(図示せず)、ミキサ7a、7b、・・・、7n、及びA/D変換器8a、8b、・・・、8nを備えている。ローノイズアンプは、受信した反射波4a、4b、・・・、4nを電力増幅し、ミキサ7a、7b、・・・、7nは、ローノイズアンプで増幅された信号を発振器5からの送信信号と混合して図7(b)に示すように送信信号と受信信号との差信号であるビート信号を生成する。A/D変換器8a、8b、・・・、8nは、ミキサ7a、7b、・・・、7nからのビート信号をデジタル受信信号に変換し、デジタル受信信号は信号処理部10に供給される。
【0028】
信号処理部10は、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)回路9、方位演算部11、距離・相対速度演算部12を備えている。FFT回路9に供給された各アンテナのデジタル受信信号は、各受信アンテナ毎に、かつ三角波のUP区間、DOWN区間毎にFFT処理即ち高速フーリエ変換により周波数分析されて図8(a)、(b)に示すようなUP側とDOWN側の周波数スペクトラムが得られる。他の受信アンテナについては同じ物標の反射波が受信されるため、周波数スペクトラムの形、ピーク周波数はUP側、DOWN側共に図8(a)、(b)と同じであり、同じピーク周波数の位置に同じ電力値を持つ周波数スペクトラムが得られる。但し、受信アンテナに応じて物標の反射波の位相が異なるため受信アンテナ間で同じ周波数に位置するピークは位相情報が異なる。
【0029】
FFT回路9で得られた受信アンテナ毎の各ピーク情報、即ち周波数、電力、位相等の情報が、方位演算部11に供給される。通常、図8(a)、(b)に示す各ピークには複数の物標の情報が含まれている。方位演算部11は周波数ピーク情報から物標を分離して角度を推定する。即ち、各受信アンテナから得られた各周波数スペクトラムにおいて周波数が等しいn個のピーク情報を基に所定の角度推定方式により図8(c)に示すような角度スペクトラムを演算により求める。そして角度スペクトラムにおいて所定レベル以上のピークの角度を物標の角度として算出し、物標情報(角度スペクトラムにおける角度と電力、および周波数スペクトラムにおけるピーク周波数)を距離・速度算出部12に供給する。図8(c)はダウン側ピークPd1にθ1、θ2の角度に位置する2つの物標が存在することを示している。
【0030】
本実施例では、角度推定に用いる周波数ピーク情報として図7(a)に示す連続する第1の送信波2aおよび第2の送信波2bに対して得られた2周期分の周波数ピーク情報を用いて図2および図5で説明したホログラフィック合成法またはホログラフィック空間平均法により物標の角度を推定する。
【0031】
以上の処理により、UP側およびDOWN側の周波数ピークそれぞれが1または複数の物標に分離され角度、電力、周波数を持つ物標情報として距離・速度算出部12に出力される。
【0032】
距離・速度算出部12ではUP側の物標情報とDOWN側の物標情報から角度、電力の近いもの同士ペアリングが行なわれ、そのUP周波数とDOWN周波数から物標の距離及び速度が、UP側の角度とDOWN側の角度の平均値から物標の角度が求められ、目標物標情報として出力される。
【0033】
図9に、本発明のホログラフィックレーダ装置の信号処理装置10内の方位演算部11の構成図を示す。方位演算部11は、ピーク抽出部21、第1角度推定部22、第2角度推定部23、ホログラフィック合成信頼性定数算出部24、角度算出部25を有する。
【0034】
ピーク抽出部21は、FFT回路9で得られたビート信号のピーク情報を抽出する。第1角度推定部22は、ピーク情報に基づきホログラフィック合成法により、物標の第1の角度を算出する。第2角度推定部23は、ピーク情報に基づきホログラフィック空間平均法により、物標の第2の角度を算出する。
【0035】
ホログラフィック合成信頼性定数算出部24は、受信した電波に基づいてホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出する。ホログラフィック合成信頼性定数は、例えば、所定の期間において、複数の受信アンテナのうちの特定の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値から最小値を減算した値を、複数の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値で除算して算出することができる。
【0036】
角度算出部25は、ホログラフィック合成法により算出した第1の角度及びホログラフィック空間平均法により算出した第2の角度の少なくともいずれか一方と、ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、物標の角度を算出する。
【0037】
次に、本発明の実施例1に係るホログラフィックレーダ装置の角度算出方法について図10のフローチャートを用いて説明する。図10のフローチャートは、図3に示した信号処理装置10内に設けられたメモリ(図示せず)に格納されたプログラムに従ってプロセッサ(図示せず)によって実行される。
【0038】
まず、ステップS101において、ピーク抽出部21(図9参照)が、ビート信号のFFTピーク情報を抽出する。次に、ステップS102において、第1角度推定部22が、ピーク情報に基づいてホログラフィック合成法により、物標が存在する第1の角度を算出する。次に、ステップS103において、第2角度推定部23が、ピーク情報に基づいてホログラフィック空間平均法により、物標が存在する第2の角度を算出する。
【0039】
次に、ステップS104において、ホログラフィック合成信頼性定数算出部24が、ホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出する。ホログラフィック合成信頼性定数は、例えば、所定の期間において、複数の受信アンテナのうちの特定の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値から最小値を減算した値を、複数の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値で除算して算出することができる。
【0040】
図11を用いて、ホログラフィック合成信頼性定数の算出方法について説明する。ここでは、図3に示したアンテナの配置を備えたホログラフィックレーダ装置を例にとって説明する。図11に送信波の送信順序とホログラフィック合成を行う受信波の受信アンテナの位置関係について示す。「FM1」は送信アンテナTx1(図3)から送信された1周期分の第1の送信波2a(図7(a))に基づく第1の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信する様子を示している。「FM2」は送信アンテナTx2(図3)から送信された1周期分の第2の送信波2b(図7(a))に基づく第2の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信する様子を示している。ここで、本実施例においては、第1の反射波のRx4における位相と、第2の反射波のRx1における位相とを比較し位相差に基づいてホログラフィック合成が成立しているか否かを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出する。そこで、図11においてはFM1におけるRx4とFM2におけるRx1とが重なるように図示している。ここで、上述の位相差には誤差が含まれている場合が考えられるため、ホログラフィック合成信頼性定数の算出は複数の受信データに基づいて行うことが望ましい。そこで、本実施例ではホログラフィック合成信頼性定数の算出を2回分の受信データに基づいて行う例を示している。即ち、「FM3」はFM2の次にFM1と同様に、送信アンテナTx1(図3)から送信された1周期分の第1の送信波に基づく第1の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信する様子を示し、「FM4」はFM3の次に送信アンテナTx2(図3)から送信された1周期分の第2の送信波に基づく第2の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信する様子を示している。
【0041】
次に、ホログラフィック合成信頼性定数の算出手順について説明する。まず、図11において、「FM1」で示すように送信アンテナTx1(図3)から送信された1周期分の第1の送信波2a(図7(a))に基づく第1の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信して電波の受信電力を検出し、基準とするRx4の特定の周波数における受信電力をBE1とする。次に、図11において、「FM2」で示すように送信アンテナTx2(図3)から送信された1周期分の第2の送信波2b(図7(a))に基づく第2の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信して電波の受信電力を検出し、基準とするRx1の特定の周波数における受信電力をBE2とする。さらに、図11において、「FM3」で示すようにFM1と同様に、送信アンテナTx1(図3)から送信された1周期分の第1の送信波に基づく第1の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信して電波の受信電力を検出し、基準とするRx4の特定の周波数における受信電力をBE3とする。次に、図11において、「FM4」で示すようにFM2と同様に、送信アンテナTx2(図3)からから送信された1周期分の第2の送信波2b(図7(a))に基づく第2の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信して電波の受信電力を検出し、基準とするRx1の物標からの反射波の受信電力をBE4とする。
【0042】
ここでホログラフィック合成が成立するか否かは、位相差を判断するために基準とする基準アンテナ80における受信信号、即ち、FM1のRx4における受信信号と、FM2のRx1における受信信号との位相差が小さいこと(例えば位相差が60°以下)が必要であり、この位相差は受信信号の電力差で検出できる。これは、受信電力は位相によって変化するため、位相が同じであれば受信電力も同じであるということに基づく。従って、受信電力の差が小さければ位相差が小さいと考えることができる。受信データの信頼性を高めるためには、サンプル数が多い方が有利なため、上述のように本実施例ではFM3のRx4における受信信号及びFM4のRx1における受信信号も用いている。ここで、FM1〜FM4の全チャンネルの受信電力の最大値をBmaxとし、ホログラフィック合成信頼性定数Cを以下の式で定義する。
【0043】
【数1】
【0044】
式(1)からわかるように、ホログラフィック合成信頼性定数Cは0〜1の値を有する。また、ホログラフィック合成信頼性定数Cの値が小さいほど、FM1及びFM3と、FM2及びFM4の受信信号の電力差が小さい、即ち、位相差が小さいこととなり、ホログラフィック合成が成立している可能性、すなわちホログラフィック合成の信頼性が高いといえる。
【0045】
次に、角度算出部25が、第1の角度と、第2の角度と、ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、物標の角度を算出する。具体的には、角度算出部25は、ホログラフィック合成信頼性定数に基づいて、第1の角度に重み付けする第1の係数と、第2の角度に重み付けする第2の係数とを決定し、第1の角度と、第2の角度と、第1の係数と、第2の係数とを用いて物標の角度を算出する。例えば、ホログラフィック合成信頼性定数をCとした場合に、重み付けのための係数Ckを以下の式で定義する。
【0046】
【数2】
このとき、第1の係数を(1-Ck)、第2の係数をCk、第1の角度をθ1、第2の角度をθ2とすると、重み付けにより物標の角度θを以下のようにして求める。
【0047】
【数3】
【0048】
式(2)、(3)からわかるように、物標の角度θの算出において、ホログラフィック合成信頼性定数Cが大きい場合ほど、第1の係数(1-Ck)は小さくなり、第2の係数Ckは大きくなっている。即ち、ホログラフィック合成信頼性定数Cが大きい場合は、ホログラフィック合成法が成立している度合いが低いので、ホログラフィック合成法によって算出した第1の角度θ1の比重を低くし、ホログラフィック空間平均法により算出した第2の角度θ2の比重を高くして角度θの算出を行うようにしている。これにより、ホログラフィック合成法が成立している度合いに応じて、適切な物標の角度の算出を行うことができる。
【0049】
また、上記の式(2)においては、Ck = C とせずに、Ck = 0.3 + C×0.7 としている。これは、ホログラフィック合成信頼性定数Cはノイズの影響により変動する場合がるため、Cが小さい値を示した場合でもホログラフィック空間平均法を完全に排除せずにある程度考慮に入れておくためである。これにより、ホログラフィック合成信頼性定数Cが小さく、ホログラフィック合成法が成立している度合いが高いことを示している場合であっても、ホログラフィック合成法に比重が偏りすぎないため、物標の角度推定精度が大幅に向上するという利点がある。本実施例では、ホログラフィック合成信頼性定数Cが小さく、ホログラフィック合成法が成立している度合いが高い場合であっても、ホログラフィック空間平均法を加味することが重要であり、上記の実施例で示した0.3や0.7という数値は単なる一例に過ぎず、他の値であっても良い。
【0050】
以上のように、本発明の実施例1に係るホログラフィックレーダ装置によれば、ホログラフィック合成が成立している度合いに応じて適切に物標の検知を行うことができる。また、ホログラフィック合成法を単独で用いた場合に比べて、物標の角度推定精度を大幅に向上させることができる。
【実施例2】
【0051】
次に、本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置について、図12を用いて説明する。本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置を構成する信号処理装置の方位演算部11は、ピーク抽出部21、ホログラフィック合成信頼性定数算出部24、ホログラフィック合成成立判定部26、第1角度推定部22、第2角度推定部23を有する。実施例1と同一の構成には同じ符号を付している。本実施例のホログラフィックレーダ装置では、実施例1のようにホログラフィック合成法及びホログラフィック空間平均法により物標の角度を推定する前に、ホログラフィック合成成立判定部26が、ホログラフィック合成信頼性定数に基づいてホログラフィック合成が成立しているか否かを判定する点を特徴としている。即ち、ホログラフィック合成信頼性定数に基づいて、ホログラフィック合成により算出した物標の角度である第1の角度及びホログラフィック空間平均法により算出した物標の角度である第2の角度のいずれか一方のみに基づいて物標の角度を算出する点を特徴としている。
【0052】
次に、本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置の角度算出方法について図13のフローチャートを用いて説明する。図13のフローチャートは、図3に示した信号処理装置10内に設けられたメモリ(図示せず)に格納されたプログラムに従ってプロセッサ(図示せず)によって実行される。
【0053】
まず、ステップS201において、ピーク抽出部21が、FFT回路9で得られたビート信号のFFTピーク情報を抽出する。次に、ステップS202において、ホログラフィック合成信頼性定数算出部24が、ホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出する。ホログラフィック合成信頼性定数は、例えば、所定の期間において、複数の受信アンテナのうちの特定の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値から最小値を減算した値を、複数の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値で除算して算出することができる。ホログラフィック合成信頼性定数の具体的な算出方法は、実施例1と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0054】
次に、ステップS203において、ホログラフィック合成成立判定部26がホログラフィック合成信頼性定数に基づいて、ホログラフィック合成が成立しているか否かを判定する。ホログラフィック合成が成立しているか否かは、ホログラフィック合成信頼性定数と所定のしきい値との大小関係に基づいて判断する。
【0055】
具体的には、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値よりも小さい場合には、受信した電波の電力の最大値と最小値との差が小さく、位相差が小さいと考えられるため、ホログラフィック合成が成立していると判定する。一方、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値以上の場合には、受信した電波の電力の最大値と最小値との差が大きく、位相差が大きいと考えられるため、ホログラフィック合成が成立していないものと判定する。
【0056】
ここで、ホログラフィック合成信頼性定数Cは式(1)で示すように0〜1の値を取り、上記の所定のしきい値を例えば0.5とすることができる。これは、ホログラフィック合成信頼性定数Cが0.5未満の場合は、基準アンテナ(図10参照)の受信信号の電力差が小さく、ホログラフィック合成が成立している度合いが高く、ホログラフィック合成信頼性定数Cが0.5以上の場合は、基準アンテナの受信信号の電力差が大きく、ホログラフィック合成が成立している度合いが低いと考えられるためである。ただし、この値0.5は単なる一例であって、この値には限られない。
【0057】
ステップS203において、ホログラフィック合成が成立している度合いが高いと判定した場合には、ステップS204において、ホログラフィック合成法を用いて角度推定を行い、第1の角度を算出する。一方、ステップS203において、ホログラフィック合成が成立している度合いが低いと判定した場合には、ステップS205において、ホログラフィック空間平均法を用いて角度推定を行い、第2の角度を算出する。
【0058】
以上のようにして、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値より小さい場合は、ホログラフィック合成法により算出した第1の角度を物標の角度とし、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値以上の場合は、ホログラフィック空間平均法により算出した第2の角度を物標の角度とする。即ち、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値より小さい場合は、ホログラフィック合成法が成立している度合いが高いと考えられるため、そのような場合にはホログラフィック合成法により算出した第1の角度のみに基づいて物標の角度を算出する。一方、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値以上の場合は、ホログラフィック合成法が成立している度合いが低いと考えられるため、そのような場合にはホログラフィック空間平均法により算出した第2の角度のみに基づいて物標の角度を算出するようにする。
【0059】
以上のように、本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置によれば、ホログラフィック合成が成立している度合いが低い場合においても物標の角度の検出を適切に行うことができる。さらに、ホログラフィック合成法とホログラフィック空間平均法のいずれか一方のみの演算を行うようにしているので、両方の演算を行う場合に比べて物標の角度の算出を高速で行うことができる。
【符号の説明】
【0060】
1 送信アンテナ群
1a 第1の送信アンテナ
1b 第2の送信アンテナ
2a 第1の送信波
2b 第2の送信波
3 受信アンテナ群
3a、3b、・・・、3n 受信アンテナ
4a、4b、・・・、4n 反射波
5 発振器
7a、7b、・・・、7n ミキサ
8a、8b、・・・、8n A/D変換器
9a、9b、・・・、9n FFT回路
10 信号処理部
11 方位演算部
12 距離・相対速度演算部
15 信号生成部
21 ピーク抽出部
22 第1角度推定部
23 第2角度推定部
24 ホログラフィック合成信頼性定数算出部
25 角度算出部
26 ホログラフィック合成成立判定部
80 基準アンテナ
R 受信部
S 送信部
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラフィックレーダ装置に関し、特に複数の物標の検出を行うホログラフィックレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載され、車両の前方を走行する他の車両等を検知するレーダ装置としてホログラフィックレーダ装置が知られている。ホログラフィックレーダ装置においては、受信アンテナの数を増やすことによって測定精度を高めることができるが、車載機等に応用する場合に小型化するために送信アンテナ及び受信アンテナを複数配置して、実質的に複数の受信アンテナを備えたのと等価な構成とするものが報告されている(例えば、特許文献1)。そのような従来のホログラフィックレーダは、図1に示すように、複数の送信アンテナ101〜103を順次切り換えて電波を送信し、各送信アンテナから送信された電波の物標からの反射波を複数の受信アンテナ104、105で受信するものである。
【0003】
図1の従来のホログラフィックレーダ100の送信アンテナ101〜103には、高周波信号を発振出力する発振器110及び、分配器112を介して1入力3切換出力の送信側スイッチ114が接続されている。スイッチ114を切り換えることにより、発振器110から出力された高周波信号が、送信アンテナ101〜103へ時分割で供給される。
【0004】
一方、受信アンテナ104、105には、1入力2切換出力の受信側スイッチ116が接続されている。スイッチ116を切り換えることによって、2つの受信アンテナ104、105で得られた受信信号が時分割でミキサ118に供給される。
【0005】
ミキサ118には、分配器112からの送信高周波信号の一部が供給されるとともに、A/Dコンバータ120が接続されており、ミキサ118から供給されたビート信号がデジタル信号に変換される。A/Dコンバータ120に接続された信号処理回路122は、ビート信号についてデータ処理を行い、物標までの距離、相対速度、角度など所望の情報を得る。
【0006】
ここで、3つの送信アンテナ101〜103を切り替え、各送信アンテナに対応させて受信アンテナ104、105を切り換えることにより、送信アンテナと受信アンテナのペアの関係を6通りの位置関係で配置したのと等価のデータを得ることができる。
【0007】
ホログラフィックレーダを用いて物標の存在する角度を算出する場合、送信用アンテナから送信され、物標から反射されて受信アンテナにより受信した電波の信号処理方法として、ホログラフィック合成法と、ホログラフィック空間平均法とがある。
【0008】
まず、ホログラフィック合成法について図面を用いて説明する。ホログラフィック合成法は、ホログラフィックレーダを構成する複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナを切り換えて受信した信号を合成することにより、電波の経路を考慮した送信アンテナの配置により、仮想的に受信アンテナの数を増やす方法である。図2に、ホログラフィックレーダを構成する送信アンテナ及び受信アンテナの構成図を示す。図2(a)は、間隔3dを置いて配置した2つの送信アンテナTx1、Tx2と、間隔dを置いて配置した4つの受信アンテナRx1〜Rx4を示している。ホログラフィック合成を行うことより、図2(b)に示すように、1つの受信アンテナTx1と7つの受信アンテナRx1〜Rx7を配置したのと等価なデータを得ることができる。このような構成により、2つの送信アンテナと4つの受信アンテナからなる合計6つのアンテナを用いて、仮想的に1つの送信アンテナと7つの受信アンテナからなる合計8つのアンテナを備えたレーダと等価なデータを得ることができ、レーダ装置の小型化が実現できるというものである。受信アンテナを仮想的に増やすことにより、物標の分離可能数、分離性能、物標の位置の角度精度を向上させることができる。
【0009】
次に、ホログラフィック合成の方法について図3を用いて説明する。図3(a)、(b)は2つの送信アンテナ及び4つの受信アンテナを配置した例を示す。図3(a)では、送信アンテナTx1から電波が送信され、図3(b)では、送信アンテナTx2から電波が送信されている様子を示している。まず、図3(a)に示すように、送信アンテナTx1から矢印211の方向へ電波212を送信し、物標(図示せず)からの反射波213〜216をそれぞれ受信アンテナRx1〜Rx4で受信する。次に、図3(b)に示すように、送信アンテナTx2から矢印211と同じ方向である矢印218の方向へ電波219を送信し、物標(図示せず)からの反射波220〜223をそれぞれ受信アンテナRx1〜Rx4で受信する。ここでは、物標は静止していると仮定する。
【0010】
ここで、図3(a)、(b)の場合の各受信アンテナにおける電波の経路長差をそれぞれ図3(c)、(d)に示す。図3(c)に示すように、アンテナの間隔dあたりの経路長差をαとすると、送信アンテナTx1から電波を送信した際の受信アンテナRx1〜Rx4の経路長差は全て0αである。一方、送信アンテナTx1を基準とした受信アンテナ間の距離はそれぞれ4d、5d、6d、7dであるので、等位相面217を考慮して、受信時における経路長差は、それぞれ4α、5α、6α、7αである。ここで、受信アンテナRx1〜Rx4と物標までの距離をrとすれば、受信アンテナRx1〜Rx4の総経路長差は、それぞれ2r+4α、2r+5α、2r+6α、2r+7αとなる。
【0011】
一方、図3(d)に示すように、送信アンテナTx2から電波を送信した際の受信アンテナRx1〜Rx4における経路長差は、送信アンテナTx1とTx2との間の距離が3dであるので全て3αである。また、送信アンテナTx1を基準とした受信アンテナ間の距離はそれぞれ4d、5d、6d、7dであるので、等位相面224を考慮して、受信時における経路長差は、それぞれ4α、5α、6α、7αである。ここで、受信アンテナRx1〜Rx4と物標までの距離をrとすれば、受信アンテナRx1〜Rx4の総経路長差は、それぞれ2r+7α、2r+8α、2r+9α、2r+10αとなる。
【0012】
ここで、送信アンテナTx1から電波を送信したときに受信アンテナRx4で受信した反射波の総経路長差と、送信アンテナTx2から電波を送信したときに受信アンテナRx1で受信した反射波の総経路長差は共に2r+7αとなっているので、総経路長差の大きさを順に並べれば、(2r+4α)〜(2r+10α)までαずつ大きくなるように総経路長差を並べることができる。
【0013】
一方、図4(a)のように1つの送信アンテナTx1と間隔4dを離隔した位置に、間隔dの7つの受信アンテナRx1〜Rx7を配置したときの総経路長差は図4(b)のようになり、(2r+4α)〜(2r+10α)までαずつ大きくなるように総経路長差が並ぶ。このことは、図3(a)、(b)のように2つの送信アンテナTx1、Tx2と4つの受信アンテナRx1〜Rx4からなるレーダの受信データが、図4(a)のように1つの送信アンテナTx1と7つの受信アンテナRx1〜Rx7を配置したレーダの受信データと一致することを示している。このようにして、図3に示した構成を備えたレーダにおいて、送信アンテナを切り換えることにより、受信アンテナ数を仮想的に増やすことができる。
【0014】
次に、ホログラフィック空間平均法について説明する。ホログラフィック空間平均法は、受信電波を理想的な状態に近づける方法である。ここで、理想的な状態とは、角度推定において、アンテナ間の相互相関がないこと、及びノイズがないことをいう。なかでも、ホログラフィック空間平均法は、特に「相互相関」の抑制を目的としており、ノイズは結果的に抑制されていると考えられる。
【0015】
次に、ホログラフィック空間平均法の相互相関の抑制方法について説明する。ホログラフィック空間平均法では、相関のある波の位相関係は受信位置により異なることを利用して、受信点を平行移動させて相関値を求めれば平均効果により相互相関値が低下する点に着目している。即ち、ホログラフィック空間平均法では、アンテナの配置が同一のアンテナの受信信号を平均化することにより相互相関値を抑制している。
【0016】
次に、ホログラフィック空間平均法について、図面を用いて説明する。図5はホログラフィック空間平均法で用いるアンテナの配置について説明するための図である。図5(a)に示すように、2つの送信アンテナTx1とTx2とを距離3dだけ離して配置し、受信アンテナRx1〜Rx4を距離dだけ離して配置した例を考える。送信アンテナTx1から物標に向かって電波を送信した場合は、図5(b)に示すように、送信アンテナTx1から4d離れた受信アンテナRx1〜Rx4によって、物標からの反射波が受信される。一方、送信アンテナTx2から物標に向かって電波を送信した場合は、図3に示した位相差を考慮して、図5(c)に示すように、送信アンテナTx2から4d離れた受信アンテナRx1〜Rx4によって、物標からの反射波が受信されたものと考えることができる。
【0017】
ここで、送信アンテナをTx1としたときの受信アンテナの配置と、送信アンテナをTx2としたときの受信アンテナの配置は同一と考えられる。そこで、ホログラフィック空間平均法では、送信アンテナをTx1としたときに受信アンテナRx1〜Rx4で受信した受信信号と、送信アンテナをTx2としたときに受信アンテナRx1〜Rx4で受信した受信信号とを平均化し、平均化した受信信号に基づいて物標の角度推定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2000−155171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ここで、ホログラフィック合成法と、ホログラフィック空間平均法とを対比すると、ホログラフィック合成法はホログラフィック空間平均法に比べて、高精度で物標の角度を算出することができる一方で、物標が複数存在して、それぞれが異なる速度で移動しているような場合には基準とする受信アンテナにおける受信信号の位相差にズレが生じ、ホログラフィック合成が成立しない場合があり、常にホログラフィック合成法を用いることは難しいという問題があった。一方、ホログラフィック空間平均法は、複数の受信アンテナの受信データを平均化しているため、常にホログラフィック空間平均法を用いることとすると物標の検出データの精度が低くなるという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のホログラフィックレーダ装置は、物標に向けて電波を送信する複数の送信アンテナと、物標によって反射された電波を受信する複数の受信アンテナと、受信した電波に基づいてホログラフィック合成法により、物標が存在する第1の角度を算出する第1角度推定部と、受信した電波に基づいてホログラフィック空間平均法により、物標が存在する第2の角度を算出する第2角度推定部と、受信した電波に基づいてホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出するホログラフィック合成信頼性定数算出部と、を備え、第1の角度及び第2の角度の少なくともいずれか一方と、ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、物標の角度を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のホログラフィックレーダ装置は、ホログラフィック合成が成立している度合いが低い場合においても物標の検知を行うことができるという利点がある。
【0022】
さらに、本発明のホログラフィックレーダ装置は、ホログラフィック合成法を単独で用いた場合に比べて、物標の角度推定精度が大幅に向上するという利点がある。
【0023】
また、本発明のホログラフィックレーダ装置は、ホログラフィック空間平均法を単独で用いた場合に比べて、分離可能な物標の数が大幅に向上するという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来のホログラフィックレーダの構成図である。
【図2】ホログラフィックレーダを構成する送信アンテナと受信アンテナの構成図である。
【図3】ホログラフィック合成法の説明図である。
【図4】ホログラフィック合成法の説明図である。
【図5】ホログラフィック空間平均法の説明図である。
【図6】本発明の実施例1に係るホログラフィックレーダ装置の構成図である。
【図7】FM−CW方式における送信波及び受信波の周波数の時間依存性を示した図、並びに送信波及び受信波の差信号であるビート信号の時間依存性を示した図である。
【図8】UP側及びDOWN側の周波数スペクトラムを示した図、並びに周波数スペクトラムにおけるピーク情報に基づいて得られた角度スペクトラムを示す図である。
【図9】本発明の実施例1に係るホログラフィックレーダ装置の信号処理装置内の方位演算部の構成図である。
【図10】本発明の実施例1に係るホログラフィックレーダ装置の角度算出方法を示すフローチャートである。
【図11】ホログラフィック合成信頼性定数の算出方法を説明するための図である。
【図12】本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置の信号処理装置内の方位演算部の構成図である。
【図13】本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置の角度算出方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明に係るホログラフィックレーダ装置について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【実施例1】
【0026】
図6に本発明の実施例1のホログラフィックレーダ装置の構成図を示す。送信部Sは、発振器5と、三角波である変調信号を出力する信号生成部15を備えており、信号生成部15が出力する三角波で発振器5の発振信号を周波数変調し送信波として出力する。この送信波はスイッチSWを介して第1の送信アンテナ1aまたは第2の送信アンテナ1bに供給され、第1の送信アンテナ1aから第1の送信波2aを送信し、第2の送信アンテナ1bから第2の送信波2bを送信する。送信アンテナ群1、即ち、第1の送信アンテナ1a及び第2の送信アンテナ1bからの電波の送信の切り換えはスイッチSWによって行われ、スイッチSWは送受信制御手段50からの信号によって制御される。例えば、図7(a)に示すように信号生成部15が出力する三角波の1周期毎に第1の送信アンテナ1aと第2の送信アンテナ1bが切り換えられ、第1の送信波2aと第2の送信波2bが交互に送信される。第1の送信波2aの物標(図示せず)からの反射波4a、4b、・・・、4nと、第2の送信波2bの物標からの反射波4a、4b、・・・、4nとを受信アンテナ部Rに設けられた受信アンテナ3a、3b、・・・、3nからなる受信アンテナ群3で受信する。発振器5でFM−CW波である送信信号が形成され、送信アンテナ1a、1bから出力される。
【0027】
受信アンテナ群3で受信した信号は、受信部Rに入力される。受信部Rは、ローノイズアンプ(図示せず)、ミキサ7a、7b、・・・、7n、及びA/D変換器8a、8b、・・・、8nを備えている。ローノイズアンプは、受信した反射波4a、4b、・・・、4nを電力増幅し、ミキサ7a、7b、・・・、7nは、ローノイズアンプで増幅された信号を発振器5からの送信信号と混合して図7(b)に示すように送信信号と受信信号との差信号であるビート信号を生成する。A/D変換器8a、8b、・・・、8nは、ミキサ7a、7b、・・・、7nからのビート信号をデジタル受信信号に変換し、デジタル受信信号は信号処理部10に供給される。
【0028】
信号処理部10は、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)回路9、方位演算部11、距離・相対速度演算部12を備えている。FFT回路9に供給された各アンテナのデジタル受信信号は、各受信アンテナ毎に、かつ三角波のUP区間、DOWN区間毎にFFT処理即ち高速フーリエ変換により周波数分析されて図8(a)、(b)に示すようなUP側とDOWN側の周波数スペクトラムが得られる。他の受信アンテナについては同じ物標の反射波が受信されるため、周波数スペクトラムの形、ピーク周波数はUP側、DOWN側共に図8(a)、(b)と同じであり、同じピーク周波数の位置に同じ電力値を持つ周波数スペクトラムが得られる。但し、受信アンテナに応じて物標の反射波の位相が異なるため受信アンテナ間で同じ周波数に位置するピークは位相情報が異なる。
【0029】
FFT回路9で得られた受信アンテナ毎の各ピーク情報、即ち周波数、電力、位相等の情報が、方位演算部11に供給される。通常、図8(a)、(b)に示す各ピークには複数の物標の情報が含まれている。方位演算部11は周波数ピーク情報から物標を分離して角度を推定する。即ち、各受信アンテナから得られた各周波数スペクトラムにおいて周波数が等しいn個のピーク情報を基に所定の角度推定方式により図8(c)に示すような角度スペクトラムを演算により求める。そして角度スペクトラムにおいて所定レベル以上のピークの角度を物標の角度として算出し、物標情報(角度スペクトラムにおける角度と電力、および周波数スペクトラムにおけるピーク周波数)を距離・速度算出部12に供給する。図8(c)はダウン側ピークPd1にθ1、θ2の角度に位置する2つの物標が存在することを示している。
【0030】
本実施例では、角度推定に用いる周波数ピーク情報として図7(a)に示す連続する第1の送信波2aおよび第2の送信波2bに対して得られた2周期分の周波数ピーク情報を用いて図2および図5で説明したホログラフィック合成法またはホログラフィック空間平均法により物標の角度を推定する。
【0031】
以上の処理により、UP側およびDOWN側の周波数ピークそれぞれが1または複数の物標に分離され角度、電力、周波数を持つ物標情報として距離・速度算出部12に出力される。
【0032】
距離・速度算出部12ではUP側の物標情報とDOWN側の物標情報から角度、電力の近いもの同士ペアリングが行なわれ、そのUP周波数とDOWN周波数から物標の距離及び速度が、UP側の角度とDOWN側の角度の平均値から物標の角度が求められ、目標物標情報として出力される。
【0033】
図9に、本発明のホログラフィックレーダ装置の信号処理装置10内の方位演算部11の構成図を示す。方位演算部11は、ピーク抽出部21、第1角度推定部22、第2角度推定部23、ホログラフィック合成信頼性定数算出部24、角度算出部25を有する。
【0034】
ピーク抽出部21は、FFT回路9で得られたビート信号のピーク情報を抽出する。第1角度推定部22は、ピーク情報に基づきホログラフィック合成法により、物標の第1の角度を算出する。第2角度推定部23は、ピーク情報に基づきホログラフィック空間平均法により、物標の第2の角度を算出する。
【0035】
ホログラフィック合成信頼性定数算出部24は、受信した電波に基づいてホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出する。ホログラフィック合成信頼性定数は、例えば、所定の期間において、複数の受信アンテナのうちの特定の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値から最小値を減算した値を、複数の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値で除算して算出することができる。
【0036】
角度算出部25は、ホログラフィック合成法により算出した第1の角度及びホログラフィック空間平均法により算出した第2の角度の少なくともいずれか一方と、ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、物標の角度を算出する。
【0037】
次に、本発明の実施例1に係るホログラフィックレーダ装置の角度算出方法について図10のフローチャートを用いて説明する。図10のフローチャートは、図3に示した信号処理装置10内に設けられたメモリ(図示せず)に格納されたプログラムに従ってプロセッサ(図示せず)によって実行される。
【0038】
まず、ステップS101において、ピーク抽出部21(図9参照)が、ビート信号のFFTピーク情報を抽出する。次に、ステップS102において、第1角度推定部22が、ピーク情報に基づいてホログラフィック合成法により、物標が存在する第1の角度を算出する。次に、ステップS103において、第2角度推定部23が、ピーク情報に基づいてホログラフィック空間平均法により、物標が存在する第2の角度を算出する。
【0039】
次に、ステップS104において、ホログラフィック合成信頼性定数算出部24が、ホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出する。ホログラフィック合成信頼性定数は、例えば、所定の期間において、複数の受信アンテナのうちの特定の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値から最小値を減算した値を、複数の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値で除算して算出することができる。
【0040】
図11を用いて、ホログラフィック合成信頼性定数の算出方法について説明する。ここでは、図3に示したアンテナの配置を備えたホログラフィックレーダ装置を例にとって説明する。図11に送信波の送信順序とホログラフィック合成を行う受信波の受信アンテナの位置関係について示す。「FM1」は送信アンテナTx1(図3)から送信された1周期分の第1の送信波2a(図7(a))に基づく第1の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信する様子を示している。「FM2」は送信アンテナTx2(図3)から送信された1周期分の第2の送信波2b(図7(a))に基づく第2の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信する様子を示している。ここで、本実施例においては、第1の反射波のRx4における位相と、第2の反射波のRx1における位相とを比較し位相差に基づいてホログラフィック合成が成立しているか否かを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出する。そこで、図11においてはFM1におけるRx4とFM2におけるRx1とが重なるように図示している。ここで、上述の位相差には誤差が含まれている場合が考えられるため、ホログラフィック合成信頼性定数の算出は複数の受信データに基づいて行うことが望ましい。そこで、本実施例ではホログラフィック合成信頼性定数の算出を2回分の受信データに基づいて行う例を示している。即ち、「FM3」はFM2の次にFM1と同様に、送信アンテナTx1(図3)から送信された1周期分の第1の送信波に基づく第1の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信する様子を示し、「FM4」はFM3の次に送信アンテナTx2(図3)から送信された1周期分の第2の送信波に基づく第2の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信する様子を示している。
【0041】
次に、ホログラフィック合成信頼性定数の算出手順について説明する。まず、図11において、「FM1」で示すように送信アンテナTx1(図3)から送信された1周期分の第1の送信波2a(図7(a))に基づく第1の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信して電波の受信電力を検出し、基準とするRx4の特定の周波数における受信電力をBE1とする。次に、図11において、「FM2」で示すように送信アンテナTx2(図3)から送信された1周期分の第2の送信波2b(図7(a))に基づく第2の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信して電波の受信電力を検出し、基準とするRx1の特定の周波数における受信電力をBE2とする。さらに、図11において、「FM3」で示すようにFM1と同様に、送信アンテナTx1(図3)から送信された1周期分の第1の送信波に基づく第1の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信して電波の受信電力を検出し、基準とするRx4の特定の周波数における受信電力をBE3とする。次に、図11において、「FM4」で示すようにFM2と同様に、送信アンテナTx2(図3)からから送信された1周期分の第2の送信波2b(図7(a))に基づく第2の反射波を受信アンテナRx1〜Rx4で受信して電波の受信電力を検出し、基準とするRx1の物標からの反射波の受信電力をBE4とする。
【0042】
ここでホログラフィック合成が成立するか否かは、位相差を判断するために基準とする基準アンテナ80における受信信号、即ち、FM1のRx4における受信信号と、FM2のRx1における受信信号との位相差が小さいこと(例えば位相差が60°以下)が必要であり、この位相差は受信信号の電力差で検出できる。これは、受信電力は位相によって変化するため、位相が同じであれば受信電力も同じであるということに基づく。従って、受信電力の差が小さければ位相差が小さいと考えることができる。受信データの信頼性を高めるためには、サンプル数が多い方が有利なため、上述のように本実施例ではFM3のRx4における受信信号及びFM4のRx1における受信信号も用いている。ここで、FM1〜FM4の全チャンネルの受信電力の最大値をBmaxとし、ホログラフィック合成信頼性定数Cを以下の式で定義する。
【0043】
【数1】
【0044】
式(1)からわかるように、ホログラフィック合成信頼性定数Cは0〜1の値を有する。また、ホログラフィック合成信頼性定数Cの値が小さいほど、FM1及びFM3と、FM2及びFM4の受信信号の電力差が小さい、即ち、位相差が小さいこととなり、ホログラフィック合成が成立している可能性、すなわちホログラフィック合成の信頼性が高いといえる。
【0045】
次に、角度算出部25が、第1の角度と、第2の角度と、ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、物標の角度を算出する。具体的には、角度算出部25は、ホログラフィック合成信頼性定数に基づいて、第1の角度に重み付けする第1の係数と、第2の角度に重み付けする第2の係数とを決定し、第1の角度と、第2の角度と、第1の係数と、第2の係数とを用いて物標の角度を算出する。例えば、ホログラフィック合成信頼性定数をCとした場合に、重み付けのための係数Ckを以下の式で定義する。
【0046】
【数2】
このとき、第1の係数を(1-Ck)、第2の係数をCk、第1の角度をθ1、第2の角度をθ2とすると、重み付けにより物標の角度θを以下のようにして求める。
【0047】
【数3】
【0048】
式(2)、(3)からわかるように、物標の角度θの算出において、ホログラフィック合成信頼性定数Cが大きい場合ほど、第1の係数(1-Ck)は小さくなり、第2の係数Ckは大きくなっている。即ち、ホログラフィック合成信頼性定数Cが大きい場合は、ホログラフィック合成法が成立している度合いが低いので、ホログラフィック合成法によって算出した第1の角度θ1の比重を低くし、ホログラフィック空間平均法により算出した第2の角度θ2の比重を高くして角度θの算出を行うようにしている。これにより、ホログラフィック合成法が成立している度合いに応じて、適切な物標の角度の算出を行うことができる。
【0049】
また、上記の式(2)においては、Ck = C とせずに、Ck = 0.3 + C×0.7 としている。これは、ホログラフィック合成信頼性定数Cはノイズの影響により変動する場合がるため、Cが小さい値を示した場合でもホログラフィック空間平均法を完全に排除せずにある程度考慮に入れておくためである。これにより、ホログラフィック合成信頼性定数Cが小さく、ホログラフィック合成法が成立している度合いが高いことを示している場合であっても、ホログラフィック合成法に比重が偏りすぎないため、物標の角度推定精度が大幅に向上するという利点がある。本実施例では、ホログラフィック合成信頼性定数Cが小さく、ホログラフィック合成法が成立している度合いが高い場合であっても、ホログラフィック空間平均法を加味することが重要であり、上記の実施例で示した0.3や0.7という数値は単なる一例に過ぎず、他の値であっても良い。
【0050】
以上のように、本発明の実施例1に係るホログラフィックレーダ装置によれば、ホログラフィック合成が成立している度合いに応じて適切に物標の検知を行うことができる。また、ホログラフィック合成法を単独で用いた場合に比べて、物標の角度推定精度を大幅に向上させることができる。
【実施例2】
【0051】
次に、本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置について、図12を用いて説明する。本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置を構成する信号処理装置の方位演算部11は、ピーク抽出部21、ホログラフィック合成信頼性定数算出部24、ホログラフィック合成成立判定部26、第1角度推定部22、第2角度推定部23を有する。実施例1と同一の構成には同じ符号を付している。本実施例のホログラフィックレーダ装置では、実施例1のようにホログラフィック合成法及びホログラフィック空間平均法により物標の角度を推定する前に、ホログラフィック合成成立判定部26が、ホログラフィック合成信頼性定数に基づいてホログラフィック合成が成立しているか否かを判定する点を特徴としている。即ち、ホログラフィック合成信頼性定数に基づいて、ホログラフィック合成により算出した物標の角度である第1の角度及びホログラフィック空間平均法により算出した物標の角度である第2の角度のいずれか一方のみに基づいて物標の角度を算出する点を特徴としている。
【0052】
次に、本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置の角度算出方法について図13のフローチャートを用いて説明する。図13のフローチャートは、図3に示した信号処理装置10内に設けられたメモリ(図示せず)に格納されたプログラムに従ってプロセッサ(図示せず)によって実行される。
【0053】
まず、ステップS201において、ピーク抽出部21が、FFT回路9で得られたビート信号のFFTピーク情報を抽出する。次に、ステップS202において、ホログラフィック合成信頼性定数算出部24が、ホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出する。ホログラフィック合成信頼性定数は、例えば、所定の期間において、複数の受信アンテナのうちの特定の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値から最小値を減算した値を、複数の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値で除算して算出することができる。ホログラフィック合成信頼性定数の具体的な算出方法は、実施例1と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0054】
次に、ステップS203において、ホログラフィック合成成立判定部26がホログラフィック合成信頼性定数に基づいて、ホログラフィック合成が成立しているか否かを判定する。ホログラフィック合成が成立しているか否かは、ホログラフィック合成信頼性定数と所定のしきい値との大小関係に基づいて判断する。
【0055】
具体的には、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値よりも小さい場合には、受信した電波の電力の最大値と最小値との差が小さく、位相差が小さいと考えられるため、ホログラフィック合成が成立していると判定する。一方、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値以上の場合には、受信した電波の電力の最大値と最小値との差が大きく、位相差が大きいと考えられるため、ホログラフィック合成が成立していないものと判定する。
【0056】
ここで、ホログラフィック合成信頼性定数Cは式(1)で示すように0〜1の値を取り、上記の所定のしきい値を例えば0.5とすることができる。これは、ホログラフィック合成信頼性定数Cが0.5未満の場合は、基準アンテナ(図10参照)の受信信号の電力差が小さく、ホログラフィック合成が成立している度合いが高く、ホログラフィック合成信頼性定数Cが0.5以上の場合は、基準アンテナの受信信号の電力差が大きく、ホログラフィック合成が成立している度合いが低いと考えられるためである。ただし、この値0.5は単なる一例であって、この値には限られない。
【0057】
ステップS203において、ホログラフィック合成が成立している度合いが高いと判定した場合には、ステップS204において、ホログラフィック合成法を用いて角度推定を行い、第1の角度を算出する。一方、ステップS203において、ホログラフィック合成が成立している度合いが低いと判定した場合には、ステップS205において、ホログラフィック空間平均法を用いて角度推定を行い、第2の角度を算出する。
【0058】
以上のようにして、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値より小さい場合は、ホログラフィック合成法により算出した第1の角度を物標の角度とし、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値以上の場合は、ホログラフィック空間平均法により算出した第2の角度を物標の角度とする。即ち、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値より小さい場合は、ホログラフィック合成法が成立している度合いが高いと考えられるため、そのような場合にはホログラフィック合成法により算出した第1の角度のみに基づいて物標の角度を算出する。一方、ホログラフィック合成信頼性定数が所定のしきい値以上の場合は、ホログラフィック合成法が成立している度合いが低いと考えられるため、そのような場合にはホログラフィック空間平均法により算出した第2の角度のみに基づいて物標の角度を算出するようにする。
【0059】
以上のように、本発明の実施例2に係るホログラフィックレーダ装置によれば、ホログラフィック合成が成立している度合いが低い場合においても物標の角度の検出を適切に行うことができる。さらに、ホログラフィック合成法とホログラフィック空間平均法のいずれか一方のみの演算を行うようにしているので、両方の演算を行う場合に比べて物標の角度の算出を高速で行うことができる。
【符号の説明】
【0060】
1 送信アンテナ群
1a 第1の送信アンテナ
1b 第2の送信アンテナ
2a 第1の送信波
2b 第2の送信波
3 受信アンテナ群
3a、3b、・・・、3n 受信アンテナ
4a、4b、・・・、4n 反射波
5 発振器
7a、7b、・・・、7n ミキサ
8a、8b、・・・、8n A/D変換器
9a、9b、・・・、9n FFT回路
10 信号処理部
11 方位演算部
12 距離・相対速度演算部
15 信号生成部
21 ピーク抽出部
22 第1角度推定部
23 第2角度推定部
24 ホログラフィック合成信頼性定数算出部
25 角度算出部
26 ホログラフィック合成成立判定部
80 基準アンテナ
R 受信部
S 送信部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物標に向けて電波を送信する複数の送信アンテナと、
前記物標によって反射された電波を受信する複数の受信アンテナと、
前記受信した電波に基づいてホログラフィック合成法により、前記物標が存在する第1の角度を算出する第1角度推定部と、
前記受信した電波に基づいてホログラフィック空間平均法により、前記物標が存在する第2の角度を算出する第2角度推定部と、
前記受信した電波に基づいてホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出するホログラフィック合成信頼性定数算出部と、を備え、
前記第1の角度及び前記第2の角度の少なくともいずれか一方と、前記ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、前記物標の角度を算出することを特徴とするホログラフィックレーダ装置。
【請求項2】
前記ホログラフィック合成信頼性定数は、所定の期間において、前記複数の受信アンテナのうちの特定の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値から最小値を減算した値を、前記複数の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値で除算した値である、請求項1に記載のホログラフィックレーダ装置。
【請求項3】
前記第1の角度及び前記第2の角度の少なくともいずれか一方と、前記ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、前記物標の角度を算出する角度算出部をさらに備え、前記角度算出部は、前記ホログラフィック合成信頼性定数に基づいて、前記第1の角度に重み付けする第1の係数と、前記第2の角度に重み付けする第2の係数とを決定し、前記第1の角度と、前記第2の角度と、前記第1の係数と、前記第2の係数とを用いて前記物標の角度を算出する、請求項1または2に記載のホログラフィックレーダ装置。
【請求項4】
前記角度算出部は、前記ホログラフィック合成信頼性定数に基づいて前記ホログラフィック合成法が成立している度合いが低いほど、前記第2の係数を大きくして、前記物標の角度を算出する、請求項3に記載のホログラフィックレーダ装置。
【請求項5】
前記第1の角度及び前記第2の角度の少なくともいずれか一方と、前記ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、前記物標の角度を算出する角度算出部をさらに備え、
前記角度算出部は、前記ホログラフィック合成法が成立している度合いが低いほど大きな値を示す前記ホログラフィック合成信頼性定数が、所定のしきい値以上の場合は、前記第2の角度のみに基づいて、前記物標の角度を算出する、請求項1または2に記載のホログラフィックレーダ装置。
【請求項6】
前記角度算出部は、前記ホログラフィック合成信頼性定数が、前記所定のしきい値より小さい場合は、前記第1の角度のみに基づいて、前記物標の角度を算出する、請求項5に記載のホログラフィックレーダ装置。
【請求項7】
前記第1の角度及び前記第2の角度の少なくともいずれか一方と、前記ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、前記物標の角度を算出する角度算出部をさらに備え、
前記角度算出部は、前記ホログラフィック合成信頼性定数が、前記ホログラフィック合成法が成立している度合いが所定の度合いより低いことを示している場合は、前記第2の角度のみに基づいて、前記物標の角度を算出する、請求項1記載のホログラフィックレーダ装置。
【請求項1】
物標に向けて電波を送信する複数の送信アンテナと、
前記物標によって反射された電波を受信する複数の受信アンテナと、
前記受信した電波に基づいてホログラフィック合成法により、前記物標が存在する第1の角度を算出する第1角度推定部と、
前記受信した電波に基づいてホログラフィック空間平均法により、前記物標が存在する第2の角度を算出する第2角度推定部と、
前記受信した電波に基づいてホログラフィック合成法が成立している度合いを表すホログラフィック合成信頼性定数を算出するホログラフィック合成信頼性定数算出部と、を備え、
前記第1の角度及び前記第2の角度の少なくともいずれか一方と、前記ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、前記物標の角度を算出することを特徴とするホログラフィックレーダ装置。
【請求項2】
前記ホログラフィック合成信頼性定数は、所定の期間において、前記複数の受信アンテナのうちの特定の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値から最小値を減算した値を、前記複数の受信アンテナが受信した電波の電力値の最大値で除算した値である、請求項1に記載のホログラフィックレーダ装置。
【請求項3】
前記第1の角度及び前記第2の角度の少なくともいずれか一方と、前記ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、前記物標の角度を算出する角度算出部をさらに備え、前記角度算出部は、前記ホログラフィック合成信頼性定数に基づいて、前記第1の角度に重み付けする第1の係数と、前記第2の角度に重み付けする第2の係数とを決定し、前記第1の角度と、前記第2の角度と、前記第1の係数と、前記第2の係数とを用いて前記物標の角度を算出する、請求項1または2に記載のホログラフィックレーダ装置。
【請求項4】
前記角度算出部は、前記ホログラフィック合成信頼性定数に基づいて前記ホログラフィック合成法が成立している度合いが低いほど、前記第2の係数を大きくして、前記物標の角度を算出する、請求項3に記載のホログラフィックレーダ装置。
【請求項5】
前記第1の角度及び前記第2の角度の少なくともいずれか一方と、前記ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、前記物標の角度を算出する角度算出部をさらに備え、
前記角度算出部は、前記ホログラフィック合成法が成立している度合いが低いほど大きな値を示す前記ホログラフィック合成信頼性定数が、所定のしきい値以上の場合は、前記第2の角度のみに基づいて、前記物標の角度を算出する、請求項1または2に記載のホログラフィックレーダ装置。
【請求項6】
前記角度算出部は、前記ホログラフィック合成信頼性定数が、前記所定のしきい値より小さい場合は、前記第1の角度のみに基づいて、前記物標の角度を算出する、請求項5に記載のホログラフィックレーダ装置。
【請求項7】
前記第1の角度及び前記第2の角度の少なくともいずれか一方と、前記ホログラフィック合成信頼性定数とに基づいて、前記物標の角度を算出する角度算出部をさらに備え、
前記角度算出部は、前記ホログラフィック合成信頼性定数が、前記ホログラフィック合成法が成立している度合いが所定の度合いより低いことを示している場合は、前記第2の角度のみに基づいて、前記物標の角度を算出する、請求項1記載のホログラフィックレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−194064(P2012−194064A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58355(P2011−58355)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]