説明

ボイスコイルモータ用ヨークの製造方法およびボイスコイルモータ用磁気回路

【課題】 ボイスコイルモータ用ヨークからの金属パーティクルや無機物のパーティクルの発生を抑制して高品質のボイスコイルモータ用磁気回路を得るための技術を提供すること。
【解決手段】 冷延低炭素鋼などの板状のヨーク材11から、プレス機によりボイスコイルモータ用ヨーク部材12を打ち抜く。次に、ヨーク部材12の「非打ち抜き方向」から金型14を当て、ヨーク部材12のかえり面に面取り加工を施し、必要に応じて、微細なバリなどを取り除くための化学研磨を施す。最後に、ヨーク部材12にNiの無電解メッキなどの手法により表面処理を行う。このヨーク部材12のバリ取りは、バレル研磨や電解研磨によらず金型を用いたかえり面取り加工により実行されるので、バリに起因する金属パーティクルや研磨剤に起因する微粉末の磁気回路内への持込が抑制され、高品質のボイスコイルモータ用磁気回路を得るための技術を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイスコイルモータ用ヨークの製造方法およびボイスコイルモータ用磁気回路に関し、より詳細には、ボイスコイルモータ用ヨークからのバリに起因する金属パーティクルや研磨剤によるパーティクルの発生を抑制して高品質のボイスコイルモータ用磁気回路を得るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置などに用いられるボイスコイルモータ用磁気回路を構成する部品の一つにボイスコイルモータ用ヨークがある。このヨークは板状の部材で、通常は、冷間圧延された板状のヨーク材をプレス機で打ち抜いて作製される。従来のヨーク部材の製造工程とは概ね以下のようなものである。先ず、冷間圧延された板状のヨーク材を打ち抜き、必要に応じてこのヨーク材の所定位置に貫通孔を形成する。一般に、ハードディスク用のボイスコイルモータ(以下では、単に「VCM」ということがある)に用いられるヨークの材料は低炭素鋼であって展延性があるため、打ち抜き後のヨーク部材には、「だれ」や破断あるいは「かえり(バリ)」などが生じ易く、特に、バリは金属パーティクルの発生源となり易いためにこの除去は不可欠なものとされている。このため、上記の打ち抜きによりヨーク部材の端部や貫通孔周縁に発生したバリを機械的に除去するために、アルミナやシリカなどのセラミック研磨剤によりヨーク部材に一定時間のバレル研磨処理を施す。その後、無電解メッキなどの手法によりヨーク部材全体にNiなどのメッキ被膜を形成して表面保護膜とする。このようにして得られたヨーク部材を洗浄してボイスコイルモータ用磁気回路として組立られる。
【特許文献1】特開2002−262523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、バレル研磨による従来のバリ取りでは、ヨーク部材が機械的に研磨処理されるので、バリの除去が不充分となってヨーク部材の端部や貫通孔の周縁にバリが残存し、そのバリが脱落してFeなどのヨーク部材からなる金属パーティクルとなってしまうという問題があった。また、研磨剤を用いることとなるバレル研磨工程では例えば研磨剤に起因する直径2μm以下程度の微小なパーティクルが発生し易く、これが被研磨対象であるヨーク部材に付着して磁気回路内に持ち込まれハードディスクドライブなどの駆動障害の原因となる恐れもある。
【0004】
特許文献1には、ヨーク部材のバリに起因した金属パーティクルの発生を抑制するために、機械的処理であるバレル研磨に代えて電解研削によりバリを除去するという方法が開示されている。この方法は、ヨーク材から打ち抜かれたヨーク部材に貫通孔を設けた際に生じる端部や貫通孔周縁のバリを電解研磨で除去し、その後、このヨーク部材を酸洗して表面にNi被膜などを電気メッキするというものである。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている電解研磨でバリを除去する場合には、バリの突起状態によって研削電流の集中の度合いが大きく異なるためにバリ毎にその除去の程度にバラつきが生じ、研削電流が集中し難い突起状態のバリが完全には除去されずに残存してしまうことが起こり得る。電解研磨で除去されなかったバリの上にメッキなどが施されると、その後の磁気回路の組立工程中あるいは組立工程後に脱落して、ヨーク材料の欠落である金属パーティクルの発生源となりコンタミネーションの原因となってしまうという問題がある。したがって、ヨーク部材の端部や貫通孔周縁に生じたバリの形状の如何を問わずにバリ除去を可能とする技術が求められていた。
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、バリの除去が不完全となったり磁気回路へのパーティクルの持ち込みの原因となり易いバレル研磨や電解研磨によることなくVCM用ヨークの表面平滑化を実現し、化学研磨やNiなどの表面処理を施しても、さらに金属パーティクルの発生量を少なくすることが可能となり、製造歩留まりの向上と高品質VCM用磁気回路の提供を可能とするVCM用ヨークの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ボイスコイルモータ用ヨーク部材の製造方法であって、板状ヨーク材の一方主面からヨーク部材を打ち抜く第1のステップと、前記ヨーク部材の他方主面に面取用金型による面取り加工を施してバリ取りを行う第2のステップと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のボイスコイルモータ用ヨーク部材の製造方法において、前記第2のステップに続いて、前記ヨーク部材の全面に化学研磨を施す第3のステップを備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のボイスコイルモータ用ヨーク部材の製造方法において、前記バリ取りを施したヨーク部材の表面に表面保護処理を施す第4のステップを備えていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のボイスコイルモータ用ヨーク部材の製造方法において、前記第4のステップは、Niの無電解メッキにより実行されることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載のボイスコイルモータ用ヨーク部材の製造方法において、前記ヨーク部材は冷延低炭素鋼であることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、ボイスコイルモータ用磁気回路であって、請求項1乃至5の何れかに記載の方法により製造されたヨーク部材に永久磁石を固着して磁気回路が構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のボイスコイルモータ用磁気回路であって、前記永久磁石はNd−Fe−B系希土類磁石であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ヨーク材から打ち抜き加工して得られたヨーク部材に、バレル研磨や電解研磨によらず、金型を用いた「かえり面取り加工」を施すことでバリ取りを行うこととしたので、バリに起因する金属パーティクルや研磨剤に起因する微粉末の磁気回路内への持込が抑制されるとともに、ヨーク部材表面が平坦性を有しているのでその表面に設けられる保護膜の平坦被膜効果が得られ、高品質のボイスコイルモータ用磁気回路を得るための技術を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明のボイスコイルモータ用ヨークの製造方法について説明する。
【0016】
図1は、本発明におけるボイスコイルモータ用ヨークの製造工程の概念図である。まず、冷延または圧延された低炭素鋼などの板状のヨーク材11を準備する(ステップS101)。このヨーク材としては、例えば、炭素含有量0.01〜0.25%のMn含有低炭素鋼が用いられる。次に、タングステンカーバイド(WC)などの超硬合金などで形成されたダイスおよびパンチを備えるプレス機(不図示)により、所定の形状およびサイズでボイスコイルモータ用ヨーク部材12を打ち抜く(ステップS102)。ヨーク部材12の形状は、磁気回路を構成するために用いる磁石がもつ磁力の程度などの諸条件によって異なるが、一般には扇型あるいは立方体や直方体などの多角形状とされ、その厚みは例えば0.5〜10mm程度とされる。なお、このプレス機による打ち抜きの総圧は、好ましくは100〜3000kNの範囲に設定される。低炭素鋼のヨーク材11は展延性があるために、殆どの場合、この打ち抜き工程においてヨーク部材12の端部にバリ13が発生する。
【0017】
次に、ステップS103に示すように、ヨーク部材12の「非打ち抜き方向」(ヨーク部材12を打ち抜くに際してプレスを加えた側とは反対側)から金型14を当て、ヨーク部材12のかえり面(バリ13が出ている面)をR面取りまたはC面取りするための成形加工を施す(ステップS104)。この面取り成形加工により、ヨーク部材12の端部に発生したバリ13が押しつぶされてヨーク部材12の端部は滑らかな面となる。ここで、金型14の材質はWCなどの超硬合金などとされ、その形状はヨーク部材12の形状に合わせて作製される。また、金型14の面打ち箇所は、ヨーク部材12の端部の面取り形状(R面取り形状やC面取り形状など)に対応する曲部形状を有していることが好ましい。なお、図1に図示した形状の金型14はヨーク部材12の両端部を1度の成形加工で同時に滑らかとすることができるという利点があるが、金型14の形状はかかる形状のものに限定されるものではなく、局所的にR面やC面を有するL字型の金型などとして、かえり面を非打ち抜き方向から成形加工するなどしてもよい。
【0018】
図2は、ステップS104で成形加工した後のヨーク部材12の端部の面取り形状の一例を説明するための図で、ヨーク部材12端部の形状を投影機または輪郭測定機により測定した例である。図2に示すように、面取り形状の線分要素を2本選択して第1の線分要素の端部(A)と第2の線分要素の端部(B)を指定し、これらA点およびB点と、上記第1および第2の線分要素の延長線上で交わる点(C)との距離を測定する。面取り形状が円弧状の場合はR形状、直線状の場合はC形状とされ、その程度はA点およびB点とC点との距離(図中ではともに0.1mm)で表現され、R0.1またはC0.1のように標記される。ここで、RをRaと記した場合の意味は、ヨーク部材12の端部形状が、上記C点からA点およびB点にammずつヨーク部材12側に入った点((A,B)=(a,a))を中心として円を描いた場合の円弧部分に概ね対応していることを意味している。なお、RまたはC面取りの量はヨーク部材の厚さに応じて、0.2mm乃至1.0mmの範囲で適宜決定される。
【0019】
ステップS104に続き、必要に応じて、微細なバリなどを取り除くための鉄鋼用化学研磨液による化学研磨を施す(ステップS105)。この工程は、ステップS104で除去できる比較的大きなバリとは別の極微細なバリや表面に付着した微小なパーティクルなどを除去するためのもので、ヨーク部材12の全面を鉄鋼用化学研磨液に浸漬させたり吹き付けたりすることでその表面に化学研磨処理を行うものである。この工程で用いる化学研磨液としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、過酸化水素などの酸溶液がある。このような化学研磨液を用いて研磨量が2〜8μm程度となるように処理を行う。浸漬または吹き付けの時間は研磨量に応じて決定されるが、一般には数秒から10分程度でよい。なお、この化学研磨処理後には、必要に応じて純水中での超音波洗浄や流水洗浄などを施す。
【0020】
最後に、ヨーク部材12の表面を保護して錆の発生などを抑制するための表面保護処理を行う(ステップS106)。この表面処理の手法としては、メッキやイオンプレーティングあるいは樹脂加工などがあるが、特にNiメッキ処理が有効である。メッキ方法としては通常は無電解メッキが採用され、その場合のメッキ膜厚は5〜20μmとされる。なお、このメッキは単層メッキでもよく多層メッキでもよい。また、必要により、上記処理後の表面にさらに別の表面加工を施すようにしてもよい。
【0021】
これらの処理を施したヨーク部材12は、磁石と接着させてVCM用の磁気回路として組立される。このようなヨーク部材12を用いてVCM用磁気回路を構成することとすれば、バレル工程での研磨剤や使用器具などに起因する金属パーティクルによるコンタミネーションをVCM用磁気回路に持ち込むことを防止することができる。VCM用の磁石としては、例えば、希土類磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石などの焼結・ボンド磁石があり、特に磁石としてのエネルギ積が高い希土類磁石が好ましい。このような磁石は一般に錆易い傾向をもつため、その表面を保護するためのNiメッキなどを施すようにしてもよい。また、金属パーティクルが低減された状態で表面処理がなされるため、当該表面処理工程中のコンタミネーションも低減される。
【0022】
上述したヨーク部材12の製造方法によれば、打ち抜き加工後のヨーク部材12にバレル研磨や電解研磨を施すことなく、ヨーク部材12の端部に発生したバリ13をほぼ完全に取り除くことができる。なお、上記例ではバリ13は打ち抜き工程で生じたヨーク材12の端部のみに発生しているものとしているが、ヨーク部材12の所定の位置に貫通孔などを設ける場合に当該貫通孔の周縁に生じるバリも同様に除去されることは明らかである。
【0023】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
図3は本発明により作製されるVCM用ヨークの一例の斜視図、図4はこのVCM用ヨークを製造する各工程でのヨーク部材の形状を説明するための断面概略図である。本実施例で作製されるVCM用ヨーク30は2.5インチハードディスク用VCM用ヨークで、その表面積は概ね7cmである。
【0025】
先ず、厚みが1.6mmの板状の冷延低炭素鋼31をヨーク材として用意し(図3(a))、次に、WCで形成されたダイスおよびパンチを備えるプレス機により、図3に示した形状(およびサイズ)となるようにVCM用ヨーク部材32を打ち抜く(図3(b))。このときの打ち抜き総圧は1000kNである。冷延低炭素鋼31は展延性があるために、この打ち抜き工程においてヨーク部材32の端部にバリ33が発生する。
【0026】
次に、図1のステップS104で説明したように、ヨーク部材32の「非打ち抜き方向」からWC製の金型(不図示)を当て、ヨーク部材32のかえり面をR0.3でR面取りするための成形加工を施す。なお、金型の面打ち箇所は、ヨーク部材32の端部のR面取り形状がR0.3となるように同じくR0.3の曲部形状を有している。この面取り成形加工により、ヨーク部材32の端部に発生したバリ33が押し潰されてヨーク部材32の端部は滑らかな面となる(図3(c))。
【0027】
続いて、微細なバリを取り除くために、ヨーク部材32を過酸化水素系の研磨液に約30秒間浸漬させて化学研磨を行う。この化学研磨によりヨーク部材32の表面が2〜8μm程度化学的に除去され、面取り成形加工により除去されない極微細なバリや表面に付着した微小なパーティクルなどが取り除かれる。ヨーク部材32を水洗した後に、無電解メッキ法により単層のNi被膜34をヨーク部材32の全面に10μm程度の厚みで形成する(図3(d))。このようにして得られたヨーク部材32に、Nd−Fe−B系マグネットをアクリル系接着材を用いて接着し、VCM用の磁気回路として組立てる。
【実施例2】
【0028】
図5は、ハードディスクドライブ(HDD)に用いられるVCM50の構造例を説明するための図で、図中、符号51は上部ヨーク、符号52は下部ヨーク、符号53は上部ヨーク51に設けられた永久磁石、符号54は下部ヨーク52に設けられた永久磁石、符号55および56は上部ヨーク51に設けられた永久磁石53と下部ヨーク52に設けられた永久磁石54との間に空隙57を形成するスペーサ、そして、符号58は空隙57内に挿入されたボイスコイルである。上部ヨーク51と下部ヨーク52は図4で図示した形状をもち、図3で説明した一連の手順で作製される。
【0029】
VCMの磁気回路は、上部ヨーク51と下部ヨーク52と空隙57とにより構成され、永久磁石53、54がこの磁気回路の磁界方向を決定する。ボイスコイル58は空隙57内に形成された磁界により生じる電磁力の作用を受けて水平面内での移動が可能となり、例えば、ハードディスクの半径方向の所望の位置に磁気ヘッドを高速かつ正確に位置決めする。
【0030】
図6は、本実施例において製造される図5に示した構造のVCMの製造プロセスを説明するためのフローチャートである。まず、上部ヨーク51と下部ヨーク52を、図3で説明した手順により得る(ステップS601)。なお、これらのヨークの表面にはNiメッキが施されて防錆処理されている。
【0031】
次に、上部ヨーク51の所定位置に板状の永久磁石53を接着剤などで固着し、同様に下部ヨーク52の所定位置に板状の永久磁石54を接着剤などで固着する(ステップS602)。VCMにおいては、磁気回路の一部領域に形成された空隙57に発生する有効磁界を利用するため、単位面積当たりの磁気エネルギが高い永久磁石53、54とすることが必要である。このため、永久磁石53、54として、ヒステリシス特性に優れるNd−Fe−B系焼結磁石を用いている。ヨーク51、52に永久磁石53、54を接着した後に、これらの永久磁石53、54を着磁して多極着磁磁石とする(ステップS603)。
【0032】
永久磁石の着磁後、永久磁石54を固着した下部ヨーク52の所定位置に、一対のスペーサ55、56を接着剤などで固着し、永久磁石53を固着した上部ヨーク51の所定位置にスペーサ55、56を接着剤などで固着する(ステップS604)。これにより、永久磁石53と永久磁石54との間に磁気回路を構成する空隙57が設けられ、この空隙57にボイスコイル58を挿入して図5に示したVCMが完成する。なお、別の方法として、ヨーク51または52とスペーサ55または56とを一体に打ち抜き、かえり面取り加工を施してバリ取りを行った後でスペーサ部を折り曲げることで、ヨークとスペーサとが一体化された「スペーサ付きヨーク」を用いるようにしてもよい。
【比較例】
【0033】
本比較例では、実施例1で説明した手法で作製したVCM用ヨークおよびバレル研磨処理を施して作製した従来のヨークを用いて構成されるVCMからのパーティクルの発生のレベルを比較した結果について説明する。ここで、比較のための従来ヨークは、プレス機による打ち抜き、アルミナやシリカを研磨剤とするバレル研磨、化学研磨、および無電解Niメッキの順で作製されるもので、バレル研磨以外の工程は本発明のVCM用ヨークと同条件としている。
【0034】
表1、表2、および図7は、本発明のVCM用ヨークおよびバレル研磨処理を施した従来ヨークを用いて構成されたVCMからのパーティクルの発生のレベルを調べた結果を纏めたもので、ここでのパーティクル発生レベルの測定は、純水洗浄されたビーカ内にVCMを入れ、700mlの超純水を注入して40kHzの周波数の超音波を印加しながら1分間静置し、この後ビーカ内の超純粋を150ml採取して0.2μm以上のパーティクルを99.97%以上の効率で除去できるフィルタで濾過し、この濾過により採取されたパーティクルの数を計測している。これらのパーティクル数を計測するに際しては、SEM−EDXに付属しているパーティクルアナライザを用いた。また、個々のパーティクルの組成は、上記パーティクルアナライザで元素分析し、これを比較的硬度の高いパーティクル(Hard Particles)とそれ以外の金属含有パーティクル(Other Particles)としてカテゴライズし、各々の結果を表1および表2として纏めた。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
図7は上記のパーティクルのうちの比較的硬度の高いハード・パーティクル(表1)の総数を比較したもので、この図に示した結果から、VCMからのハード・パーティクル発生は、本発明のVCM用ヨークを用いてVCMを作製することにより顕著に抑制され、バレル研磨をなくすことにより、従来のVCMに比較して約1/30にまで激減している。また、VCMから発生したハード・パーティクルの表1に示した組成分析の結果から、バレル研磨で作製されたヨークを用いて構成される従来のVCMからは多量の酸化アルミニウムおよび酸化珪素の微粒子が発生していることがわかる。これらのハード・パーティクルは、バレル研磨に用いた研磨剤がその後の化学研磨や洗浄でも完全には除去されずに残存し、そのままVCM内に持ち込まれたものであり、HDDの破壊の一因と考えられているものである。
【0038】
これらのセラミックス系の微小なハード・パーティクルは、電気的絶縁性を有することから、VCM用ヨークの表面に金属被膜をメッキする際のメッキむらの原因となり易く、メッキ後のヨーク表面にシミや錆を発生させたり変色を生じさせたりする要因となる。また、アルミニウムの酸化物(表1中のAl/Oに対応する)は硬度が高くHDD表面に傷(スクラッチなど)を生じさせる原因などとなり、特にHDDのデータの読み書きに大きな影響を与えて動作不良の原因となる。
【0039】
また、表2に纏めた金属パーティクルの発生レベルについてみると、従来のヨークを用いて構成されるVCMからは、Niメッキを経た後の分析でNiやNi/Pなどが多量に析出していることが分かる。このような金属析出はヨーク部材の表面が凹凸を有するものとなっていることを示唆している。また、中間工程を含むために他の金属材料(例えば、Fe/Ni/Crなど)のパーティクルも大量に検出されており、これらの金属の析出も生じていることが推測される。これに対して本発明のVCM用ヨークを用いてVCMを作製することにより金属パーティクルは激減しており、従来のVCMに比較して約3.5%にまで減少している。また、NiやNi/Pなどの析出に起因するパーティクルの発生も大幅に抑制されており、ヨーク部材の表面が平坦化されていることを示している。
【0040】
上述したように、有害なパーティクルのVCM内への持ち込みを顕著に抑制することを可能とする本発明は、高品質のボイスコイルモータ用磁気回路を得るための技術として極めて有意なものであることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ボイスコイルモータ用ヨークからの金属パーティクルや無機物パーティクルの発生を抑制して高品質のボイスコイルモータ用磁気回路を得るための技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明におけるボイスコイルモータ用ヨークの製造工程の概念図である。
【図2】成形加工した後のヨーク部材の端部の面取り形状の一例を説明するための図である。
【図3】本発明により作製されるVCM用ヨークの一例の斜視図である。
【図4】図3に示したVCM用ヨークを製造する各工程でのヨーク部材の形状を説明するための断面概略図である。
【図5】ハードディスクドライブに用いられるVCMの構造例を説明するための図である。
【図6】実施例2において製造される図5に示した構造のVCMの製造プロセスを説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明のVCM用ヨークおよびバレル研磨処理を施した従来ヨークを用いて構成されたVCMからのハード・パーティクルの発生のレベルを比較した結果を説明するための図である。
【符号の説明】
【0043】
11 ヨーク材
12、32 ヨーク部材
13、33 バリ
14 金型
30 VCM用ヨーク
31 板状の冷延低炭素鋼
34 Ni被膜
51 上部ヨーク
52 下部ヨーク
53、54 永久磁石
55、56 スペーサ
57 空隙
58 ボイスコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状ヨーク材の一方主面からヨーク部材を打ち抜く第1のステップと、前記ヨーク部材の他方主面に面取用金型による面取り加工を施してバリ取りを行う第2のステップと、を備えていることを特徴とするボイスコイルモータ用ヨーク部材の製造方法。
【請求項2】
前記第2のステップに続いて、前記ヨーク部材の全面に化学研磨を施す第3のステップを備えていることを特徴とする請求項1に記載のボイスコイルモータ用ヨーク部材の製造方法。
【請求項3】
前記バリ取りを施したヨーク部材の表面に表面保護処理を施す第4のステップを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のボイスコイルモータ用ヨーク部材の製造方法。
【請求項4】
前記第4のステップは、Niの無電解メッキにより実行されることを特徴とする請求項3に記載のボイスコイルモータ用ヨーク部材の製造方法。
【請求項5】
前記ヨーク部材は冷延低炭素鋼であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のボイスコイルモータ用ヨーク部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の方法により製造されたヨーク部材に永久磁石を固着して磁気回路が構成されていることを特徴とするボイスコイルモータ用磁気回路。
【請求項7】
前記永久磁石はNd−Fe−B系希土類磁石であることを特徴とする請求項6に記載のボイスコイルモータ用磁気回路。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−6017(P2006−6017A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179006(P2004−179006)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】