説明

ボルト及びボルト孔の貫通状態検査方法

【課題】ボルト孔のズレ量の確認検査を容易化する。
【解決手段】所定構造物の組立て部材に形成されたボルト孔と、上記組立て部材に添接される添接板に形成されたボルト孔と、に挿入部3が挿入されるボルトであって、上記挿入部3は、上記ボルト孔の貫通状態を検査するための貫通ゲージと同一径のゲージ機能部31と、該ゲージ機能部よりも小径でかつナットに螺合する螺子部32と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト及びボルト孔の貫通状態検査方法に関するものであり、特に橋梁分野におけるボルト及びボルト孔の貫通状態検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の構造物を架設する場合には、現場での架設を行う前に仮組立てを行うことによって組立て部材の品質を確認している。このような仮組立て時における確認検査項目の1つに、組立て部材やこの組立て部材に添接される添接板に形成されたボルト孔のズレ量の確認検査がある。
【0003】
このボルト孔のズレ量の確認検査は、各ボルト孔に所定の径の貫通ゲージを挿入してボルト孔の貫通状態を確認することによって行われている。貫通ゲージの径は予め決められており、例えば、直径22mmのM22ボルトが挿入されるボルト孔に対しては、ボルトよりも直径が大きな、23mmの貫通ゲージを用いて貫通状態を確認検査する。
そして、貫通ゲージがボルト孔に挿入可能な場合すなわちボルト孔を貫通すれば、ボルト孔のズレ量が許容範囲内であると判定される。一方、例えば、組立て部材に形成されたボルト孔の形成位置がずれ、添接板のボルト孔と組立て部材のボルト孔との位置関係がずれている場合には、貫通ゲージをボルト孔に挿入することができなくなる。このような場合には、ボルト孔のズレ量が許容範囲外であると判定され、ドリルやリーマによってボルト孔の形状を調整する。
【非特許文献1】社団法人 日本道路協会,道路橋示方書・同解説,平成14年3月,p.423−436
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ボルト孔のズレ量の確認検査は、全てのボルト孔に対して行われる必要があるが、仮組立てにおける形状維持のために、約1/3ボルトがボルト孔に挿入状態とされている。このため、ボルトが挿入状態のボルト孔の確認検査を行うために、挿入状態のボルトを抜いて確認検査済みのボルト孔に取り付け直すことによって仮組みの形状を維持しながら、先にボルトが挿入状態であったボルト孔のズレ量を確認検査する必要がある。
仮組み解体後、現場にて架設するボルトの挿入が保証されないため、ボルト孔には貫通ゲ-ジが入る程度の隙間の余裕が必要である。
なお、ボルトの直径は貫通ゲージよりも小さいため、ボルトが挿入可能でも貫通ゲージは挿入できない可能性がある。したがって、ボルトが挿入可能であっても、ボルト孔のズレ量が許容範囲内であることは保証されない。
【0005】
しかしながら、例えば、橋梁等の大型構造物には約10000本〜15000本のボルトが使用されており、仮組立て時においても約3500本〜5000本のボルトがボルト孔に挿入状態とされている。このため、ボルトの付け替え作業には、数日を有することとなる。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、ボルト孔のズレ量の確認検査を容易化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のボルトは、所定構造物の組立て部材に形成されたボルト孔と、上記組立て部材に添接される添接板に形成されたボルト孔と、に挿入部が挿入されるボルトであって、上記挿入部が、上記ボルト孔の貫通状態を検査するための貫通ゲージと同一径のゲージ機能部と、該ゲージ機能部よりも小径でかつナットに螺合する螺子部とを備えることを特徴とする。
【0008】
このような特徴を有する本発明のボルトによれば、ボルト孔に挿入される挿入部が、貫通ゲージと同一径のゲージ機能部を有している。つまり、ゲージ機能部がボルト孔を通り抜け可能であれば、貫通ゲージも当該ボルト孔を通り抜けることが可能である。よって、本発明のボルトが取り付け可能であれば、ボルト孔のズレ量が許容範囲内にあることが証明される。
そこで、本発明のボルトを仮組立て時に用いることによって、ボルトが挿入されたボルト孔のズレ量が許容範囲内であることを証明される。
【0009】
また、本発明のボルトにおいては、頭部を備え、該頭部、上記ゲージ機能部、上記螺子部の順に連接されているという構成を採用することができる。
【0010】
また、本発明のボルトにおいては、上記ゲージ機能部の長さが、上記ボルト孔の全長とほぼ等しいという構成を採用することができる。
【0011】
また、本発明のボルトにおいては、上記ゲージ機能部が、上記挿入部が上記ボルト孔に挿入される過程において上記ボルト孔の全長を通過する位置に設置されているという構成を採用することもできる。
【0012】
次に、本発明のボルト孔の貫通状態検査方法は、所定構造物の組立て部材に形成されたボルト孔と上記組立て部材に添接される添接板に形成されたボルト孔との貫通状態を検査する方法であって、上記ボルト孔に挿入される挿入部が、上記ボルト孔の貫通状態を検査するための貫通ゲージと同一径のゲージ機能部と、該ゲージ機能部よりも小径でかつナットに螺合する螺子部とによって構成されるボルトを、複数の上記ボルト孔のうち一部に挿入して上記組立て部材及び上記添接板を固定するボルト締め工程と、複数の上記ボルト孔のうち上記ボルトが挿入されていないボルト孔の貫通状態を上記貫通ゲージによって検査する検査工程とを有することを特徴とする。
【0013】
このような本発明のボルト孔の貫通状態検査方法によれば、ボルト締め工程において、複数のボルト孔の一部にゲージ機能部を有するボルトが挿入されることによって組立て部材及び添接板が固定され、検査工程において、ボルトが挿入されていないボルト孔の貫通状態が貫通ゲージによって検査される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ボルトが貫通ゲージと同一径のゲージ機能部を有している。このため、ボルトをボルト孔に挿入することで、当該ボルト孔のズレ量が許容範囲内であることを保証することができる。したがって、ズレ量の確認検査のために、ボルトを取り付け直す必要がなくなり、ボルト孔のズレ量の確認検査を容易化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係るボルト及びボルト孔の貫通状態検査方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0016】
図1は、本実施形態のボルト1の平面図である。この図に示すように、本実施形態のボルト1は、頭部2と、挿入部3とを備えている。
頭部2は、挿入部3よりも大径に形成されており、挿入部3側の面21が座面として構成されている。
挿入部3は、一端が頭部2の座面21側に接続された棒部材である。なお、頭部と挿入部3とは、同一の金属部材によって形成されており、図1に示すように、一体的に成型されている。
【0017】
挿入部3は、ボルト孔に対して挿入される部分であり、頭部2寄りのゲージ機能部31と頭部2から離れた螺子部32とによって構成されている。すなわち、頭部2、ゲージ機能部31、螺子部32の順に連接されて構成されている。
ゲージ機能部31の径Dは、ボルト1が挿入されるボルト孔のズレ量を確認検査するための貫通ゲージの直径と同一に形成されている。また、ゲージ機能部31の長さLは、ボルト1が挿入されるボルト孔の全長に等しく設定されている。
螺子部32は、ねじ山を有しており、ナットが螺合可能とされている。また、螺子部32の径dは、ゲージ機能部31の径Dよりも小径に設定されている。
【0018】
そして、このように構成された本実施形態のボルト1によって、橋梁等の構造物の組立て部材と該組立て部材に添接される添接板とが固定される。図2は、本実施形態のボルト1によって橋梁の一部を構成するブロックB(組立て部材)と添接板T1,T2とが固定された様子を示す図である。
この図に示すように、ブロックBの両面を挟むように添接板T1と添接板T2とが設置されており、ブロックBに形成されたボルト孔A1と添接板T1に形成されたボルト孔A2と添接板T2に形成されたボルト孔A3とが連通されるように、各部材が設置されている。つまり、本実施形態においては、ボルト1の挿入部3が挿入されるボルト孔Aは、複数の部材(ブロックB及び添接板T1,T2)に形成されたボルト孔A1〜A3によって構成されている。
【0019】
そして、ボルト1の挿入部3がボルト孔Aに挿入され、ボルト1の頭部2の座面21が添接板T1の表面に当接され、螺子部32にナット10が螺合されることによって、ブロックBと添接板T1,T2とが固定される。
【0020】
ここで、本実施形態のボルト1においては、挿入部3の頭部2寄りがゲージ機能部31として構成されている。上述のように、ゲージ機能部31の径Dは、ボルト孔Aのズレ量を確認検査するための貫通ゲージの直径と同一に形成されている。例えば、螺子部32の径dが22mm(M22ボルト)である場合には、貫通ゲージの直径が23mmとなるため、ゲージ機能部31の径Dも23mmとされる。このため、図2に示すように、ゲージ機能部31が挿入可能であるということは、ボルト孔Aは、貫通ゲージも挿入可能であるということと等しい。したがって、本実施形態のボルト1を挿入することが可能であれば、再度貫通ゲージを用いてボルト孔Aの貫通状態を確認検査しなくても、ボルト孔Aのズレ量が許容範囲内にあることを証明することができる。
このように、本実施形態のボルト1によれば、貫通ゲージを用いることなく、ボルト孔Aの貫通状態を確認検査することが可能となる。
【0021】
また、本実施形態のボルト1は、上述のように、ゲージ機能部31の長さLは、ボルト孔Aの全長に等しく設定されている。このため、頭部2の座面21が添接板T1と当接するようにボルト1をボルト孔Aに挿入することによって、ボルト孔Aの全てがゲージ機能部31によって埋まる。よって、ボルト1がボルト孔Aに挿入可能である場合には、確実にボルト孔Aは、全長に亘ってズレ量が許容範囲であり、貫通状態であることを保証することができる。
また、ゲージ機能部31の長さLが、ボルト孔Aの全量に等しく設定されているため、本実施形態のボルト1のように頭部2、ゲージ機能部31、螺子部32の順に連接されている場合には、ゲージ機能部31と螺子部32との境界が添接板T2の表面と合う。このため、螺子部32にナット10を螺合することによって、ナット10の座面を確実に添接板T2の表面と当接させることが可能となる。
【0022】
次に、このような本実施形態のボルト1を用いて、橋梁の仮組立て作業時においてボルト孔の貫通状態を検査する方法(ボルト孔の貫通状態検査方法)ついて説明する。
【0023】
まず、図3に示すように、橋梁の組立て部材であるブロックB1、ブロックB2及び添接板Tを固定する(ボルト締め工程)。
この際、ブロックB1、ブロックB2及び添接板Tによって形成された複数のボルト孔Aの1/3に本実施形態のボルト1を挿入してナットを螺合することによって、ブロックB1,B2及び添接板T1,T2を固定する。
【0024】
続いて、図4に示すように、ボルト1が挿入されていないボルト孔に貫通ゲージを挿入することによって、これらのボルト孔(ボルト1が挿入されていないボルト孔)の貫通状態を確認検査する(検査工程)。
【0025】
従来においては、全てのボルト孔の貫通状態の確認検査を行うためには、挿入状態のボルトを抜いて貫通状態の確認検査済みのボルト孔に取り付け直すことによって仮組みの形状を維持しながら、先にボルトが挿入状態であったボルト孔に貫通ゲージを挿入してズレ量を確認検査する必要があった。
これに対して、本実施形態のボルト1によれば、上述のように、貫通ゲージを用いることなく、ボルト孔Aのズレ量が許容範囲内であることを保証することができる。よって、ズレ量の確認検査のために、ボルトを取り付け直す必要がなくなり、ボルト孔のズレ量の確認検査を容易化することが可能となる。
【0026】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係るボルト及びボルト孔の貫通状態検査方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0027】
例えば、上記実施形態においては、ブロック及び添接板によって橋梁を組立てる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明のボルト及びボルト孔の貫通状態検査方法は、橋梁を組立てる場合に対してのみ適応可能なものではなく、他の構造物、特に大型構造物を組立てる場合(例えば、建屋を組立てる場合)に適応することができる。
【0028】
また、上記実施形態においては、ゲージ機能部31の長さLがボルト孔Aの全長に等しい構成とした。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、ボルト1をボルト孔Aに挿入する過程において、ゲージ機能部31がボルト孔Aの全長を通過する位置に設置されていれば良い。
例えば、ゲージ機能部の長さLをボルト孔Aの全長よりも短く設定し、ゲージ機能部を螺子部32側に配置するとともにゲージ機能部と頭部2との間をゲージ機能部よりも小径の接続部で接続する構成としても良い。このような場合には、ゲージ機能部と接続部とを合わせた長さがボルト孔Aの全長と等しくすれば良い。また、このような構成を採用する場合には、接続部がゲージ機能部よりも小径であるため、接続部とゲージ機能部とが同一材料であれば、ボルトの材料費を削減することが可能となる。
【0029】
また、上記実施形態においては、ゲージ機能部31の長さLがボルト孔Aの全長に等しい構成とした。しかしながら、頭部2と添接板との間あるいは/及びナット10と添接板との間にワッシャを設置する場合には、ワッシャの厚みを考慮して、ゲージ機能部31の長さLをボルト孔Aの全長とワッシャの厚みとの合わせた長さに設定することが好ましい。
【0030】
また、例えば、ゲージ機能部31に摩擦低減や錆び止め等の表面処理等の加工を施しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態であるボルトの平面図である。
【図2】本発明の一実施形態であるボルトによって橋梁の一部を構成するブロックと添接板とが固定された様子を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態であるボルトを用いて、橋梁の仮組立て作業時においてボルト孔の貫通状態を検査する方法について説明するための説明図である。
【図4】本発明の一実施形態であるボルトを用いて、橋梁の仮組立て作業時においてボルト孔の貫通状態を検査する方法について説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1……ボルト、2……頭部、3……挿入部、31……ゲージ機能部、32……螺子部、A……ボルト孔、T1,T2……添接板、B,B1,B2……ブロック(組立て部材)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定構造物の組立て部材に形成されたボルト孔と、前記組立て部材に添接される添接板に形成されたボルト孔と、に挿入部が挿入されるボルトであって、
前記挿入部は、前記ボルト孔の貫通状態を検査するための貫通ゲージと同一径のゲージ機能部と、該ゲージ機能部よりも小径でかつナットに螺合する螺子部とを備えることを特徴とするボルト。
【請求項2】
頭部を備え、該頭部、前記ゲージ機能部、前記螺子部の順に連接されていることを特徴とする請求項1記載のボルト。
【請求項3】
前記ゲージ機能部の長さが、前記ボルト孔の全長とほぼ等しいことを特徴とする請求項2記載のボルト。
【請求項4】
前記ゲージ機能部は、前記挿入部が前記ボルト孔に挿入される過程において前記ボルト孔の全長を通過する位置に設置されていることを特徴とする請求項1記載のボルト。
【請求項5】
所定構造物の組立て部材に形成されたボルト孔と前記組立て部材に添接される添接板に形成されたボルト孔との貫通状態を検査する方法であって、
前記ボルト孔に挿入される挿入部が、前記ボルト孔の貫通状態を検査するための貫通ゲージと同一径のゲージ機能部と、該ゲージ機能部よりも小径でかつナットに螺合する螺子部とによって構成されるボルトを、複数の前記ボルト孔のうち一部に挿入して、前記組立て部材及び前記添接板を固定するボルト締め工程と、
複数の前記ボルト孔のうち前記ボルトが挿入されていないボルト孔の貫通状態を前記貫通ゲージによって検査する検査工程と
を有することを特徴とするボルト孔の貫通状態検査方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−57694(P2008−57694A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236595(P2006−236595)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】