ボンド磁石およびその製造方法並びにボンド磁石の製造装置
【課題】ボンド磁石を押出成形する方法において、ボンド磁石の配向率を向上させる。
【解決手段】異方性の磁性材料と樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を溶融させた後、前方に押出す可塑化部3と、その可塑化部にて溶融されたボンド樹脂組成物の流れを制御するゲート部21と、上記磁性材料を配向させる磁場を印加する配向用磁石6が配置されるとともに、上記溶融されたボンド樹脂組成物を固化させるキャビティ19を有する成形部1と、を備えたボンド磁石の製造装置において、上記ゲート部21は、上記可塑化部3に接続された流路11,16が上記成形部1のほうに向かって分岐されてなる複数の流路と、それらの流路と上記キャビティ19とを接続する複数のゲートとを有しており、上記可塑化部で溶融されたボンド樹脂組成物が、上記複数の流路により複数の流れに分割された状態で、上記複数のゲートから上記成形部のキャビティ内に充填される。
【解決手段】異方性の磁性材料と樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を溶融させた後、前方に押出す可塑化部3と、その可塑化部にて溶融されたボンド樹脂組成物の流れを制御するゲート部21と、上記磁性材料を配向させる磁場を印加する配向用磁石6が配置されるとともに、上記溶融されたボンド樹脂組成物を固化させるキャビティ19を有する成形部1と、を備えたボンド磁石の製造装置において、上記ゲート部21は、上記可塑化部3に接続された流路11,16が上記成形部1のほうに向かって分岐されてなる複数の流路と、それらの流路と上記キャビティ19とを接続する複数のゲートとを有しており、上記可塑化部で溶融されたボンド樹脂組成物が、上記複数の流路により複数の流れに分割された状態で、上記複数のゲートから上記成形部のキャビティ内に充填される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向率及び表面磁束密度に優れた異方性ボンド磁石を押出成形法によって製造する方法と、その製造装置に関し、その押出成形法により得られた異方性ボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料と、その磁性材料のバインダーとしての樹脂とから構成されたボンド磁石は、焼結磁石と比較して複雑な形状が造形可能であり、機械的強度が優れている。そのため、ボンド磁石は、DCモータやステッピングモータといった永久磁石型同期モータや、レーザープリンター用のマグネットロール等の電子部品として数多く採用されている。
【0003】
ところで、このようなボンド磁石の製造方法は、大きく分けて、射出成形、圧縮成形および押出成形の3種類に分類される。
【0004】
これらの製造方法のうち、射出成形法は、磁性材料と熱可塑性樹脂からなるボンド磁石組成物を射出成形機のシリンダー内で加熱することにより、溶融および流動状態とし、プランジャーを用いて金型内部に充填し、所望の形状に成形する方法である。
【0005】
また、圧縮成形法は、磁性材料と熱硬化性樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を、プレス金型内に充填して、圧縮しながら成形する方法である。
【0006】
以上の圧縮成形法と射出成形法の工程は、ボンド磁石組成物の金型への充填、成形および成形品であるボンド磁石の取り出しという一定のサイクルがあり、その生産は所謂バッチ式生産であるため、その生産スピードには限界がある。
【0007】
また、射出成形と圧縮成形は、細長い成形品、所謂長尺物の成形について限界がある。その一つの理由は、金型の加工上の問題である。金型に成形品の形状を彫り込むわけだが、金型の深さ方向への高精度の加工は非常に難しい。もう一つの理由は、成形上の問題である。圧縮成形の場合、長尺の細長い物をプレスしても、成形品の真ん中には圧力が伝わらない。また、射出成形で長尺物を成形した場合、ゲートから入ったボンド磁石組成物が冷えてしまうため、ショートショット(成形材料の未充填による成形不良)になる。
【0008】
これらに対して、押出成形法は、磁性材料と、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を、シリンダー内で加熱することで溶融そして流動状態とし、この流動状態にあるボンド磁石組成物を、金型に連続的に供給しつつ、所望の形状に成形する方法である。このため、押出成形法は、射出成形や圧縮成形のバッチ式に対して連続式となるため、生産性が非常に優れる。さらに、連続して成形することができるため、射出成形や圧縮成形では困難であった長尺品の成形が容易となる。
【0009】
次に、ボンド磁石を構成する磁性材料について述べる。まず、その磁性材料の原料組成の点から、フェライト系と希土類系の磁性材料に分類される。フェライト系は、歴史が古く安価であることから、最も普及している。しかし、希土類系よりも磁力が弱く、成形品が小さくなると磁力が不足する。そのため、小さい成形品では、希土類系の磁性材料を使用することが好ましい。
【0010】
また、ボンド磁石を構成する磁性材料は、磁性の発現機構の点から、等方性と異方性にも分類される。等方性磁性材料は、どの方向にも同等の磁力を発現する。一方、異方性磁性材料は、一方向にのみ強い磁力を発現できる。そのため、異方性磁性材料は、ボンド磁石とする際に、磁性材料の粒子の磁化方向を一定の向きに揃えて異方化させなければならない。このような操作を配向と呼ぶ。この配向には、大きく分けて、機械配向と磁場配向の二種類がある。「機械配向」とは、磁性材料が板状粒子から構成される場合に、成形するとき、板状粒子に外部から圧力を加えると、板状粒子がその厚み方向に整列することを利用するものである。板状粒子が、その厚み方向に磁化容易軸を有する場合には、この操作により機械的に磁性材料の粒子を配向させることができる。一方、「磁場配向」とは、成形するときに、磁場を外部から印加することで粒子を配向させることを言う。粒子形状、磁化容易軸の方向との関係より、フェライト系の磁性材料では機械配向も可能だが、希土類系の磁性材料では磁場配向に限定される。異方性磁性材料を利用した場合には、等方性磁性材料を利用した場合に比べて配向の工程が増えるため、成形が難しくなる一方で、等方性磁性材料を利用した場合よりも磁力は強くなる。希土類系の磁性材料としては、使い勝手が良いため等方性磁性材料が広く普及しているが、モータの小型化、省エネ化のために異方性の研究は盛んに行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平3−27906号公報
【特許文献2】特開平9−275028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、押出成形は、圧縮成形や射出成形に比べて、生産性、長尺品の成形において有利だが、異方化に関しては不利になる。磁場配向は、磁性材料と樹脂成分から成るボンド磁石組成物を加熱溶融させ、配向磁場下で自由に動けるようになった磁性材料の磁化容易軸を所望の方向に配列させ、その配列を保持したまま、熱可塑性樹脂の場合は冷却固化、熱硬化性樹脂の場合は加熱固化させることで行う。
【0013】
射出成形は、磁性材料のバインダーとして、主に熱可塑性樹脂を使用しており、溶融して樹脂の粘度が十分に低下したボンド磁石組成物をキャビティ内に射出し、そのままキャビティ内で冷却固化させるため、高い配向率を有するボンド磁石の成形品が得られる。
【0014】
また、圧縮成形は、磁性材料のバインダーとして、主に熱硬化性樹脂を使用しており、金型に充填したボンド磁石組成物に配向磁場を与えながら加熱および圧縮を行う。加熱初期は樹脂の粘度が下がり、磁性材料は配向磁場に沿って粒子が動く。そのまま加熱を持続すると樹脂は、硬化に転ずるので、磁性材料の粒子は配向を維持したまま固定される。
【0015】
一方、連続式である押出成形の場合、磁性材料を十分に配向させるためには、磁性材料が配向用磁石の影響下に入ったところでは、樹脂の粘度をできるだけ下げる一方、磁性材料が配向用磁石の影響下から脱するところでは、配向された磁性材料を固定するために十分粘度を上げて固化させなければならない。
【0016】
これらの問題を解決するため、特許文献1に開示される成形方法では、成形装置の構成において、熱伝導率の異なる部材を組み合わせることで、金型の配向用磁石の存在下での温度勾配をつけることにより磁気特性の向上を図っている。また、特許文献2に開示される成形方法では、溶融されたボンド磁石組成物が通過する流路の途中に、板状の障害物を配置することにより、ボンド磁石の配向率の向上を図っている。しかしながら、これらの成形方法によっても、十分な磁気特性を有するボンド磁石の成形品は得られていない。
【0017】
本発明では、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来の成形技術では困難であった、長尺かつ磁気特性に優れたボンド磁石を押出成形にて提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以上の目的を達成するために本発明は、異方性の磁性材料と樹脂とからなるボンド磁石組成物を溶融させた後、上記磁性材料を配向させる磁場の下で固化させて押出成形するボンド磁石の製造方法において、溶融させたボンド磁石組成物の流れを複数に分割させた状態で、金型のキャビティ内に充填して、上記磁場を印加することを特徴とする。
【0019】
上記磁性材料が、Sm−Fe−N系の磁性材料であることが好ましい。
【0020】
上記ボンド磁石組成物を構成する樹脂が、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0021】
上記ボンド磁石が、円筒状に成形されることが好ましい。
【0022】
本発明は、上記製造方法により製造されたボンド磁石であって、配向率が70%以上であるボンド磁石である。
【0023】
本発明は、表面磁束密度の平均値が1100G以上であるボンド磁石である。
【0024】
本発明にかかるボンド磁石の製造装置は、異方性の磁性材料と樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を溶融させた後、前方に押出す可塑化部と、その可塑化部にて溶融されたボンド樹脂組成物の流れを制御するゲート部と、上記磁性材料を配向させる磁場を印加する配向用磁石が配置されるとともに、上記溶融されたボンド樹脂組成物を固化させるキャビティを有する成形部と、を備えたボンド磁石の製造装置において、上記ゲート部は、上記可塑化部に接続された流路が上記成形部のほうに向かって分岐されてなる複数の流路と、それらの流路と上記キャビティとを接続する複数のゲートとを有しており、上記可塑化部で溶融されたボンド樹脂組成物が、上記複数の流路により複数の流れに分割された状態で、上記複数のゲートから上記成形部のキャビティ内に充填されることを特徴とする。
【0025】
上記キャビティは、断面が略同心円である円筒形状であり、上記ゲートは、上記同心円の径方向に2つ並んで配置された穴であることが好ましい。
【0026】
溶融されたボンド樹脂組成物が上記ゲートを通過した直後に、上記磁性材料を配向させる磁場が印加されるように、上記ゲートと上記配向用磁石とが配置されていることが好ましい。
【0027】
本発明は、上記製造装置により製造されたボンド磁石であって、上記磁性材料がSm−Fe−N系の磁性材料であり、配向率が70%以上であることを特徴とするボンド磁石である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、押出成形法により、長尺かつ表面磁束密度および配向率に優れたボンド磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、従来のボンド磁石の製造装置の模式的な断面図である。
【図2】図2は、図1におけるA−A方向の断面図である。
【図3】図3は、図1におけるB−B方向の断面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施例にかかるボンド磁石の製造装置の模式的な断面図である。
【図5】図5は、図4におけるD−D方向の断面図である。
【図6】図6は、図4におけるE−E方向の断面図である。
【図7】図7は、図4におけるF−F方向の断面図である。
【図8】図8は、本発明にかかる別の実施例の成形部における、図4のF−F方向の断面図である。
【図9】図9は、本発明にかかる別の実施例の成形部における、図4のF−F方向の断面図である。
【図10】図10は、本発明の一実施例におけるボンド磁石の表面磁束密度の測定結果である。
【図11】図11は、本発明の一実施例におけるボンド磁石の表面磁束密度の測定結果である。
【図12】図12は、本発明の一実施例におけるボンド磁石の表面磁束密度の測定結果である。
【図13】図13は、本発明の比較例にかかるボンド磁石の表面磁束密度の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を実施するための最良の形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するためのボンド磁石およびその製造方法並びに製造装置を例示するものであって、本発明は、ボンド磁石およびその製造方法並びにボンド磁石の製造装置を以下に限定するものではない。
【0031】
また、本明細書は、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細な説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0032】
異方性のボンド磁石を押出成形法によって形成する製造方法において、上記の問題を解決すべく、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、配向磁場が印加され最終製品形状を形作る成形部のキャビティに、複数のゲートから磁石組成物を充填することにより、課題を解決し、本発明を完成するに到った。
【0033】
すなわち、本発明は、異方性の希土類磁性材料と熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂からなるボンド磁石組成物を、可塑化部で溶融させた後、配向磁場を印加した成形部で冷却固化または加熱固化して異方性ボンド磁石の押出成形を行う製造方法において、成形部のキャビティにボンド磁石組成物を充填するためのゲートを有し、可塑化部で溶融した磁石組成物がゲートの数に対応して分岐した後、配向磁場を印加した成形部にボンド磁石組成物をゲートから成形部のキャビティに充填することを特徴とするボンド磁石の製造方法である。
【0034】
また、本発明は、上記に記載の製造方法であって、希土類磁性材料としてSm−Fe−N系磁性材料を使用する異方性ボンド磁石の製造方法である。これにより、表面磁束密度および配向率が高いボンド磁石とすることができる。
【0035】
また、本発明は、上記の製造方法であって、成形されたボンド磁石の形状が円筒形状である異方性ボンド磁石の製造方法である。これにより、表面磁束密度および配向率が高い円筒状のボンド磁石とすることができる。
【0036】
また、本発明は、上記の方法により製造された異方性ボンド磁石であって、配向率が70%以上である異方性ボンド磁石である。
【0037】
本発明の構成によれば、押出成形により、配向率および表面磁束密度に優れた長尺のボンド磁石を提供することができる。
【0038】
すなわち、本発明にかかるボンド磁石の製造方法は、溶融されたボンド樹脂組成物を、円滑に成形部に充填させることが好ましいとされてきた押出成形でありながら、樹脂の流れにとって障害となるようなゲート部を有するという特異な装置構成を特徴としている。
【0039】
すなわち、本発明は、ゲート部に形成された複数のゲートから少しずつ、溶融した磁石組成物を成形部に充填することで、配向磁場の印加された成形部に入った瞬間のボンド磁石組成物は成形空間(キャビティ)に対して疎になるため、磁性材料の粒子が配向すべき方向に動きやすくなる。したがって、ボンド磁石の配向率を著しく高めることが可能となり、表面磁束密度の高いボンド磁石を得ることができる。
【0040】
以下、本発明に斯かる実施の形態について、従来例と比較して詳述するが、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明は、この実施の形態および実施例に限定するものではない。
【0041】
まず、図1から図3を用いて従来の押出成形方法を説明する。従来の押出成形方法として、磁性材料のバインダーとして熱可塑性樹脂を用いた円筒状のボンド磁石を押出成形で形成する方法を説明する。
【0042】
従来の押出成形に使用される装置は、大別すると図1に示されるように、成形部1と、内ダイ固定部2と、可塑化部3とに分かれる。それぞれには、加熱装置(図示せず。)が付属している。成形部1は、外ダイ4と内ダイ5とから構成されている。また、内ダイ固定部2は、内ダイ固定ガイド(スパイダー)8とマンドレル9とバレル10とから構成されている。また、可塑化部3は、溶融されたボンド磁石組成物を前方へ押出すためのスクリュー12とバレル13とから構成されている。また、外ダイ4には、配向用磁石6が内蔵されている。
【0043】
まず、ボンド磁石組成物は、可塑化部3で溶融された後、スクリュー12によって内ダイ固定部2のほうに押し出され、流路11で円筒状になる。次に、溶融されたボンド磁石組成物は、内ダイ固定部2に入り、図2に示されるように、断面が円弧状の貫通孔により形成された流路14により、溶融されたボンド磁石組成物の流動体は、3つの瓦状の流動体となり、さらにその先に形成された流路7により、上記3つの瓦状の流動体が再び一つの流動体となって、内ダイ固定部2の出口から成形部1にかけて円筒状に形成される。その後、溶融されたボンド磁石組成物の流動体は、成形部1に入り、図4に示されるように、成形部1の円筒状のキャビティを囲むように配置された配向用磁石6により形成された磁場によって、ボンド磁石組成物に含まれる磁性材料は、所望の配向パーターンに配向される。溶融されたボンド磁石組成物は、それを成形するための金型である成形部に入ってから成形部を出るまでに、冷却装置(図示せず。)よって、冷却固化されて円筒形状のボンド磁石を成形品として得ることができる。
【0044】
次に、本発明の押出成形方法を使用した円筒状のボンド磁石を成形する方法について、図4から図7を用いて説明する。
【0045】
図4に示されるように、本発明にかかる製造装置は、成形部1と可塑化部3を有する点は、従来の製造装置と同様である。本発明にかかる製造装置は、従来の内ダイ固定部2の代わりに、ゲート部15を使用する点が異なる。ここで、可塑化部3およびゲート部15それぞれには加熱装置(図示せず。)が付属している。また、ゲート部15の内部には、その断面が図5および図6に示されるように、溶融されたボンド磁石組成物が通過するための流路18及び流路19が形成されている。
【0046】
本発明のゲート部15に形成させる流路17、18の形状および大きさは、特に限定されるものではないが、その一例として、図4から図7に示される流路について説明する。
【0047】
まず、ボンド磁石組成物は、可塑化部3での加熱により溶融され、その流動体が、磁石組成物の流路11で円筒状になったボンド磁石組成物は、ゲート部15に入り、図5に示すような流路17を通過し、まず、上下2方向(図4のD−D方向)に分割される。その後、それぞれの流路を流れるボンド磁石組成物は、先の上下2方向から水平方向に90度方向を変えて、図6に示されるように、ゲート部15内に貫通された穴により形成された流路18を通過し、ゲート部15の出口であるゲート21を通過して、前方の成形部1に進む。次いで、ボンド磁石組成物の流動体は、図7に示されるように、成形部1に形成させた円筒状のキャビティ19に充填される。それとともに、配向用磁石6により形成される磁場により、ボンド磁石組成物に含まれる磁性材料は、所望の配向パーターンに配向されながら円筒状に形成されていく。溶融状態のボンド磁石組成物は、成形部1から出るまでに、冷却装置(図示せず。)によって、冷却および固化されて円筒形状のボンド磁石として成形品を得る。
【0048】
ここで、従来の製造方法と本発明との大きな違いは、磁性材料の配向前には、溶融されたボンド磁石組成物の流動体が、円筒状を形成していないことである。
【0049】
従来の製造方法では、溶融されたボンド磁石組成物の流動体が、配向前から既に円筒状になっており、成形空間の中に磁石組成物が密に詰まっている。したがって、磁性材料の粒子が配向磁場に沿って動こうとしても、その動きは制限されてしまう。
【0050】
一方、本発明は、複数のゲートから成形部1のキャビティ19内に充填される。図4から図7は、ゲート部15に2つのゲート21を形成させた製造装置の一例である。図4に示されるように、2つのゲート21から成形部1のキャビティ19の内部に、溶融されたボンド磁石組成物が少しずつ徐々に充填される。そのため、溶融されたボンド磁石組成物が密集してキャビティに充填される従来の製造方法と比較して、本発明にかかる製造方法は、成形空間における溶融されたボンド磁石組成物の密度を疎にすることができる。つまり、本発明の製造方法によると、従来の製造方法と比較して、磁性材料は動きやすくなり、より配向した状態になる。この配向した磁性材料は、その配向状態を維持したまま、成形空間に徐々に密に詰まっていき、円筒状を形成しながら成形部の出口の方向に進行する。その結果として、配向率が高く表面磁束の高いボンド磁石の成形品が得られる。
【0051】
本発明は、溶融されたボンド樹脂組成物がゲートを通過した直後に、磁性材料を配向させる磁場が印加されるように、ゲートと配向用磁石とが配置されていることが好ましい。これにより、磁性材料の配向率を向上させることができるからである。例えば、図4に示されるように、ゲート21が開口されたゲート部15の端面と、成形部1に配置された配向用磁石の一方の端面とが、略同一面となるように、ゲート部15と成形部1を配置させることが好ましい。これにより、溶融されたボンド樹脂組成物が、ゲートを出た直後に配向用磁石からの磁場を受けることができるので、磁性材料の配向率を向上させることができる。
【0052】
成形部には、キャビティを囲むように配向用磁石が配置される。配向用磁石として、通常、永久磁石が使用される。この配向用の永久磁石4に使用する磁石の材料は、Brが1T以上のものが好ましく、例えば、NdFeB焼結磁石を用いることができる。磁力の大きい磁石を使うと、成形部のキャビティ内に発生する配向のための磁場が強くなり、ボンド磁石の表面磁束密度も高くすることができる。
【0053】
また、上述のように押出成形で得られたボンド磁石は、必要であれば着磁工程を行ってもよい。着磁を行うことで、表面磁束密度はより高くなる。
【0054】
本発明で利用できる磁性材料は、異方性の磁性材料が適用可能である。異方性の磁性材料としては、フェライト系、Sm−Co系、Nd−Fe−B系、Sm−Fe−N系などが挙げられる。上記の磁性材料は、1種類単独でも、2種類以上を混合物としても使用できる。また、必要に応じて、耐酸化処理やカップリング処理を磁性材料に施しても良い。
【0055】
本発明における磁性材料のバインダーとしての樹脂は、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂も熱硬化性樹脂も利用することができる。これらのうち、成形性および磁気特性の点で、熱可塑性樹脂が好ましい。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂や、エステル系、ポリアミド系、などの熱可塑性エラストマー、または、エポキシ系やフェノール系などの熱硬化性樹脂を使用することができる。
【0056】
磁性材料と樹脂の配合比率は、樹脂の種類にもよるが、ボンド磁石組成物全体に対する磁性材料の割合が40〜75Vol%とすることが望ましい。また、酸化防止剤、滑剤等をさらに混合することもできる。
【0057】
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、本発明は、以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0058】
1.異方性ボンド磁石の作製
<実施例1>
(磁性材料の準備)
磁性材料には、異方性のSm−Fe−N系磁性材料(平均粒子径3μm)を用いる。
【0059】
(磁石組成物の作製)
Sm−Fe−N系磁性材料をエチルシリケートおよびシランカップリング剤で表面処理する。表面処理を行ったSm−Fe−N系磁性材料9137gと12ナイロン863gをミキサーで混合する。得られた混合粉を、2軸混練機を用いて220℃で混練し、冷却後、適当な大きさに切断しボンド磁石組成物を得る。
【0060】
(押出成形)
図4から図7は、本実施例にかかる製造装置の概略図である。これらの図面を参照しながら、本実施例についてより詳細に説明する。
【0061】
本実施例にかかるボンド磁石の製造装置は、異方性の磁性材料と樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を溶融させた後、スクリュー12によって前方に押出す可塑化部3と、その可塑化部3にて溶融されたボンド樹脂組成物の流れを制御するゲート部15と、磁性材料を配向させるための磁場を印加する配向用磁石6が配置されるとともに、溶融されたボンド樹脂組成物を固化させるキャビティ19を有する成形部1と、を備えたボンド磁石の製造装置である。
【0062】
ここで、ゲート部15は、その内部に、可塑化部3に接続された1つの流路が成形部1のほうに向かって分岐されてなる2つの流路と、成形部1に形成させた成形空間であるキャビティ19と上記2つの流路とを接続する2つのゲート21とを有している。本実施例のゲート21は、ゲート部15の出口に2つ形成されている。すなわち、キャビティ19は、断面が略同心円である円筒形状であり、ゲート21は、キャビティ19の出口方向から見ると、同心円の径方向に2つ並んで配置された穴である。
【0063】
このような製造装置において、可塑化部3で溶融されたボンド樹脂組成物は、ゲート部15に形成させた2つの流路により二手の流れに分割された状態で、そのままゲート部15の出口に形成させた2つのゲートから成形部1のキャビティ19の内部に充填される。
【0064】
本実施例において、ボンド磁石組成物を最終製品形状に形作るのは、図4に示す外ダイ4の内周面と内ダイ5の外周面とからなる断面形状が環状のキャビティ19であり、この断面環状の寸法は、外径25mm、内径23mmである。上記で準備作製した、ボンド磁石組成物を押出成形機のホッパーから投入する。スクリュー部3によって、ボンド磁石組成物は、加熱され溶融状態となり、前方のゲート部15に送られる。このゲート部15で、ボンド磁石組成物は、図5と図6に示される流路17及び流路18により2本の流路に分割される。そして、ボンド磁石組成物は、2つのゲートから成形部1のキャビティ19に充填され、図7に示すように配置された配向用磁石6の磁場により、磁性材料の粒子が配向しながら円筒形状に造形される。溶融されたボンド樹脂組成物は、冷却装置(図示せず。)によってキャビティの出口で冷却そして固化される。このようにして、円筒形状の異方性ボンド磁石の成形品を連続的に得ることができる。
【0065】
得られた円筒状のボンド磁石の成形品は、外径25mm、内径23mm、肉厚1mmで外周12極の異方性の円筒状ボンド磁石である。
【0066】
<実施例2>
(磁性材料の準備)
実施例1と同じ磁性材料を使用する。
(磁石組成物の作製)
実施例1と同じ磁性材料を用いて、実施例1と同じボンド磁石組成物を作製する。
(押出成形)
実施例1のゲート部の出口に4つのゲートを形成する以外は、実施例1と同様に押出成形を行った。本実施例のゲートを、成形部の出口の方から見た断面図を図8に示す。本実施例のゲートは、図8に示されるように、円筒形状のキャビティの底面に、その円周に沿って、等間隔に、4つの穴として形成されている。
【0067】
<実施例3>
(磁性材料の準備)
実施例1と同じ磁性材料を使用する。
(磁石組成物の作製)
実施例1と同じ磁性材料を用いて、実施例1と同じボンド磁石組成物を作製する。
(押出成形)
実施例1のゲート部の出口に6つのゲートを形成する以外は、実施例1と同様に押出成形を行った。本実施例のゲートを、成形部の出口の方から見た断面図を図9に示す。本実施例のゲートは、図9に示されるように、円筒形状のキャビティの底面に、その円周に沿って、等間隔に、6つの穴として形成されている。
【0068】
<比較例1>
(磁性材料の準備)
実施例1と同じ磁性材料を使用する。
(磁石組成物の作製)
実施例1と同じ磁性材料を用いて、実施例1と同じ磁石組成物を作製する。
(押出成形)
図1から図3は比較例1に使用された押出成形用の金型の概略図である。実施例1のゲート部15が内ダイ固定部2に変更されている。実施例1と同様の操作で押出成形を行うが、内ダイ固定部を通過後に既に円筒形状に形成されており、ボンド磁石組成物が成形部に入る時点で円筒形状になっているところが実施例1との相違点である。
得られたボンド磁石の成形品の形状は、実施例1と同じであり、外径25mm、内径23mm、肉厚1mmで外周12極の異方性の円筒状ボンド磁石である。
【0069】
2.異方性ボンド磁石の評価
(表面磁束密度の測定)
実施例1と比較例1で得られたボンド磁石を高さ20mmに切断し、マグネットアナライザーにより、円筒状ボンド磁石外周の表面磁束密度を測定した。測定は、マグネットアナライザーの360°回転ステージに成形品である円筒状ボンド磁石を固定し、プローブを円筒状ボンド磁石の側面中央に接触させ、ステージを360°回転させることで行った。
【0070】
図10は、実施例1のボンド磁石の表面磁束密度を示し、図11は、実施例2のボンド磁石の表面磁束密度を示し、図12は、実施例3のボンド磁石の表面磁束密度を示し、図13は、比較例1のボンド磁石の表面磁束密度を示す。さらに、各実施例および比較例の表面磁束密度の平均値を以下の表1に示す。
【0071】
これらの測定結果によると、ゲートの数が少ないほど表面磁束が向上していることがわかる。また、ゲートの数に関わらず、いずれの実施例の場合も、比較例より表面磁束密度が高くなっていることが分かる。
【0072】
(配向率の測定)
各実施例および比較例の配向率を測定するため、ボンド磁石の極の部分を1mm角に切り出す。これを、空芯コイルにて着磁する。このとき、配向方向と着磁コイルの発生磁場方向を揃える。着磁磁場は、約30kOeであった。VSM(振動試料型磁力計)により、着磁したボンド磁石の残留磁化σrを測定した。
【0073】
実施例1の残留磁化は、σr1=100emu/gであった。この原料磁性材料が100%配向した場合の残留磁化は、σr0=128emu/gであるから、配向率はσr1/σr0=78%であった。実施例2、実施例3および比較例1の残留磁化は、それぞれ、σr2=95emu/g、σr3=90emu/gおよびσr3=80emu/gであった。よって、実施例2、実施例3および比較例1の配向率は、それぞれ74%、70%および63%であった。これらの結果を表1に纏めて示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表面磁束密度と配向率の測定結果より、本発明の押出成形方法を使用することで、磁石組成物中の磁性材料の配向率を高め、その結果、ボンド磁石の表面磁束密度を高くできることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、長尺かつ表面磁束密度の高い異方性ボンド磁石を、連続的に高い生産性にて提供することが可能になる。円筒形状磁石の場合、ブラシレスモータ等のモータ部品、特に長尺のボンド磁石は、レーザープリンター用のマグネットロールとして使用でき、小型、軽量化、省エネルギー化に貢献できる。
【符号の説明】
【0077】
1・・・成形部、2・・・内ダイ固定部、3・・・可塑化部、4・・・外ダイ、5・・・内ダイ、6・・・配向用磁石、7、11、14、16、18、20・・・ボンド磁石組成物の流路、8・・・内ダイ固定ガイド、9・・・マンドレル、10、13、17・・・バレル、12・・・スクリュー、15・・・ゲート部、19・・・キャビティ、21・・・ゲート。
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向率及び表面磁束密度に優れた異方性ボンド磁石を押出成形法によって製造する方法と、その製造装置に関し、その押出成形法により得られた異方性ボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料と、その磁性材料のバインダーとしての樹脂とから構成されたボンド磁石は、焼結磁石と比較して複雑な形状が造形可能であり、機械的強度が優れている。そのため、ボンド磁石は、DCモータやステッピングモータといった永久磁石型同期モータや、レーザープリンター用のマグネットロール等の電子部品として数多く採用されている。
【0003】
ところで、このようなボンド磁石の製造方法は、大きく分けて、射出成形、圧縮成形および押出成形の3種類に分類される。
【0004】
これらの製造方法のうち、射出成形法は、磁性材料と熱可塑性樹脂からなるボンド磁石組成物を射出成形機のシリンダー内で加熱することにより、溶融および流動状態とし、プランジャーを用いて金型内部に充填し、所望の形状に成形する方法である。
【0005】
また、圧縮成形法は、磁性材料と熱硬化性樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を、プレス金型内に充填して、圧縮しながら成形する方法である。
【0006】
以上の圧縮成形法と射出成形法の工程は、ボンド磁石組成物の金型への充填、成形および成形品であるボンド磁石の取り出しという一定のサイクルがあり、その生産は所謂バッチ式生産であるため、その生産スピードには限界がある。
【0007】
また、射出成形と圧縮成形は、細長い成形品、所謂長尺物の成形について限界がある。その一つの理由は、金型の加工上の問題である。金型に成形品の形状を彫り込むわけだが、金型の深さ方向への高精度の加工は非常に難しい。もう一つの理由は、成形上の問題である。圧縮成形の場合、長尺の細長い物をプレスしても、成形品の真ん中には圧力が伝わらない。また、射出成形で長尺物を成形した場合、ゲートから入ったボンド磁石組成物が冷えてしまうため、ショートショット(成形材料の未充填による成形不良)になる。
【0008】
これらに対して、押出成形法は、磁性材料と、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を、シリンダー内で加熱することで溶融そして流動状態とし、この流動状態にあるボンド磁石組成物を、金型に連続的に供給しつつ、所望の形状に成形する方法である。このため、押出成形法は、射出成形や圧縮成形のバッチ式に対して連続式となるため、生産性が非常に優れる。さらに、連続して成形することができるため、射出成形や圧縮成形では困難であった長尺品の成形が容易となる。
【0009】
次に、ボンド磁石を構成する磁性材料について述べる。まず、その磁性材料の原料組成の点から、フェライト系と希土類系の磁性材料に分類される。フェライト系は、歴史が古く安価であることから、最も普及している。しかし、希土類系よりも磁力が弱く、成形品が小さくなると磁力が不足する。そのため、小さい成形品では、希土類系の磁性材料を使用することが好ましい。
【0010】
また、ボンド磁石を構成する磁性材料は、磁性の発現機構の点から、等方性と異方性にも分類される。等方性磁性材料は、どの方向にも同等の磁力を発現する。一方、異方性磁性材料は、一方向にのみ強い磁力を発現できる。そのため、異方性磁性材料は、ボンド磁石とする際に、磁性材料の粒子の磁化方向を一定の向きに揃えて異方化させなければならない。このような操作を配向と呼ぶ。この配向には、大きく分けて、機械配向と磁場配向の二種類がある。「機械配向」とは、磁性材料が板状粒子から構成される場合に、成形するとき、板状粒子に外部から圧力を加えると、板状粒子がその厚み方向に整列することを利用するものである。板状粒子が、その厚み方向に磁化容易軸を有する場合には、この操作により機械的に磁性材料の粒子を配向させることができる。一方、「磁場配向」とは、成形するときに、磁場を外部から印加することで粒子を配向させることを言う。粒子形状、磁化容易軸の方向との関係より、フェライト系の磁性材料では機械配向も可能だが、希土類系の磁性材料では磁場配向に限定される。異方性磁性材料を利用した場合には、等方性磁性材料を利用した場合に比べて配向の工程が増えるため、成形が難しくなる一方で、等方性磁性材料を利用した場合よりも磁力は強くなる。希土類系の磁性材料としては、使い勝手が良いため等方性磁性材料が広く普及しているが、モータの小型化、省エネ化のために異方性の研究は盛んに行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平3−27906号公報
【特許文献2】特開平9−275028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、押出成形は、圧縮成形や射出成形に比べて、生産性、長尺品の成形において有利だが、異方化に関しては不利になる。磁場配向は、磁性材料と樹脂成分から成るボンド磁石組成物を加熱溶融させ、配向磁場下で自由に動けるようになった磁性材料の磁化容易軸を所望の方向に配列させ、その配列を保持したまま、熱可塑性樹脂の場合は冷却固化、熱硬化性樹脂の場合は加熱固化させることで行う。
【0013】
射出成形は、磁性材料のバインダーとして、主に熱可塑性樹脂を使用しており、溶融して樹脂の粘度が十分に低下したボンド磁石組成物をキャビティ内に射出し、そのままキャビティ内で冷却固化させるため、高い配向率を有するボンド磁石の成形品が得られる。
【0014】
また、圧縮成形は、磁性材料のバインダーとして、主に熱硬化性樹脂を使用しており、金型に充填したボンド磁石組成物に配向磁場を与えながら加熱および圧縮を行う。加熱初期は樹脂の粘度が下がり、磁性材料は配向磁場に沿って粒子が動く。そのまま加熱を持続すると樹脂は、硬化に転ずるので、磁性材料の粒子は配向を維持したまま固定される。
【0015】
一方、連続式である押出成形の場合、磁性材料を十分に配向させるためには、磁性材料が配向用磁石の影響下に入ったところでは、樹脂の粘度をできるだけ下げる一方、磁性材料が配向用磁石の影響下から脱するところでは、配向された磁性材料を固定するために十分粘度を上げて固化させなければならない。
【0016】
これらの問題を解決するため、特許文献1に開示される成形方法では、成形装置の構成において、熱伝導率の異なる部材を組み合わせることで、金型の配向用磁石の存在下での温度勾配をつけることにより磁気特性の向上を図っている。また、特許文献2に開示される成形方法では、溶融されたボンド磁石組成物が通過する流路の途中に、板状の障害物を配置することにより、ボンド磁石の配向率の向上を図っている。しかしながら、これらの成形方法によっても、十分な磁気特性を有するボンド磁石の成形品は得られていない。
【0017】
本発明では、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来の成形技術では困難であった、長尺かつ磁気特性に優れたボンド磁石を押出成形にて提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以上の目的を達成するために本発明は、異方性の磁性材料と樹脂とからなるボンド磁石組成物を溶融させた後、上記磁性材料を配向させる磁場の下で固化させて押出成形するボンド磁石の製造方法において、溶融させたボンド磁石組成物の流れを複数に分割させた状態で、金型のキャビティ内に充填して、上記磁場を印加することを特徴とする。
【0019】
上記磁性材料が、Sm−Fe−N系の磁性材料であることが好ましい。
【0020】
上記ボンド磁石組成物を構成する樹脂が、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0021】
上記ボンド磁石が、円筒状に成形されることが好ましい。
【0022】
本発明は、上記製造方法により製造されたボンド磁石であって、配向率が70%以上であるボンド磁石である。
【0023】
本発明は、表面磁束密度の平均値が1100G以上であるボンド磁石である。
【0024】
本発明にかかるボンド磁石の製造装置は、異方性の磁性材料と樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を溶融させた後、前方に押出す可塑化部と、その可塑化部にて溶融されたボンド樹脂組成物の流れを制御するゲート部と、上記磁性材料を配向させる磁場を印加する配向用磁石が配置されるとともに、上記溶融されたボンド樹脂組成物を固化させるキャビティを有する成形部と、を備えたボンド磁石の製造装置において、上記ゲート部は、上記可塑化部に接続された流路が上記成形部のほうに向かって分岐されてなる複数の流路と、それらの流路と上記キャビティとを接続する複数のゲートとを有しており、上記可塑化部で溶融されたボンド樹脂組成物が、上記複数の流路により複数の流れに分割された状態で、上記複数のゲートから上記成形部のキャビティ内に充填されることを特徴とする。
【0025】
上記キャビティは、断面が略同心円である円筒形状であり、上記ゲートは、上記同心円の径方向に2つ並んで配置された穴であることが好ましい。
【0026】
溶融されたボンド樹脂組成物が上記ゲートを通過した直後に、上記磁性材料を配向させる磁場が印加されるように、上記ゲートと上記配向用磁石とが配置されていることが好ましい。
【0027】
本発明は、上記製造装置により製造されたボンド磁石であって、上記磁性材料がSm−Fe−N系の磁性材料であり、配向率が70%以上であることを特徴とするボンド磁石である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、押出成形法により、長尺かつ表面磁束密度および配向率に優れたボンド磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、従来のボンド磁石の製造装置の模式的な断面図である。
【図2】図2は、図1におけるA−A方向の断面図である。
【図3】図3は、図1におけるB−B方向の断面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施例にかかるボンド磁石の製造装置の模式的な断面図である。
【図5】図5は、図4におけるD−D方向の断面図である。
【図6】図6は、図4におけるE−E方向の断面図である。
【図7】図7は、図4におけるF−F方向の断面図である。
【図8】図8は、本発明にかかる別の実施例の成形部における、図4のF−F方向の断面図である。
【図9】図9は、本発明にかかる別の実施例の成形部における、図4のF−F方向の断面図である。
【図10】図10は、本発明の一実施例におけるボンド磁石の表面磁束密度の測定結果である。
【図11】図11は、本発明の一実施例におけるボンド磁石の表面磁束密度の測定結果である。
【図12】図12は、本発明の一実施例におけるボンド磁石の表面磁束密度の測定結果である。
【図13】図13は、本発明の比較例にかかるボンド磁石の表面磁束密度の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を実施するための最良の形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するためのボンド磁石およびその製造方法並びに製造装置を例示するものであって、本発明は、ボンド磁石およびその製造方法並びにボンド磁石の製造装置を以下に限定するものではない。
【0031】
また、本明細書は、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細な説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0032】
異方性のボンド磁石を押出成形法によって形成する製造方法において、上記の問題を解決すべく、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、配向磁場が印加され最終製品形状を形作る成形部のキャビティに、複数のゲートから磁石組成物を充填することにより、課題を解決し、本発明を完成するに到った。
【0033】
すなわち、本発明は、異方性の希土類磁性材料と熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂からなるボンド磁石組成物を、可塑化部で溶融させた後、配向磁場を印加した成形部で冷却固化または加熱固化して異方性ボンド磁石の押出成形を行う製造方法において、成形部のキャビティにボンド磁石組成物を充填するためのゲートを有し、可塑化部で溶融した磁石組成物がゲートの数に対応して分岐した後、配向磁場を印加した成形部にボンド磁石組成物をゲートから成形部のキャビティに充填することを特徴とするボンド磁石の製造方法である。
【0034】
また、本発明は、上記に記載の製造方法であって、希土類磁性材料としてSm−Fe−N系磁性材料を使用する異方性ボンド磁石の製造方法である。これにより、表面磁束密度および配向率が高いボンド磁石とすることができる。
【0035】
また、本発明は、上記の製造方法であって、成形されたボンド磁石の形状が円筒形状である異方性ボンド磁石の製造方法である。これにより、表面磁束密度および配向率が高い円筒状のボンド磁石とすることができる。
【0036】
また、本発明は、上記の方法により製造された異方性ボンド磁石であって、配向率が70%以上である異方性ボンド磁石である。
【0037】
本発明の構成によれば、押出成形により、配向率および表面磁束密度に優れた長尺のボンド磁石を提供することができる。
【0038】
すなわち、本発明にかかるボンド磁石の製造方法は、溶融されたボンド樹脂組成物を、円滑に成形部に充填させることが好ましいとされてきた押出成形でありながら、樹脂の流れにとって障害となるようなゲート部を有するという特異な装置構成を特徴としている。
【0039】
すなわち、本発明は、ゲート部に形成された複数のゲートから少しずつ、溶融した磁石組成物を成形部に充填することで、配向磁場の印加された成形部に入った瞬間のボンド磁石組成物は成形空間(キャビティ)に対して疎になるため、磁性材料の粒子が配向すべき方向に動きやすくなる。したがって、ボンド磁石の配向率を著しく高めることが可能となり、表面磁束密度の高いボンド磁石を得ることができる。
【0040】
以下、本発明に斯かる実施の形態について、従来例と比較して詳述するが、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明は、この実施の形態および実施例に限定するものではない。
【0041】
まず、図1から図3を用いて従来の押出成形方法を説明する。従来の押出成形方法として、磁性材料のバインダーとして熱可塑性樹脂を用いた円筒状のボンド磁石を押出成形で形成する方法を説明する。
【0042】
従来の押出成形に使用される装置は、大別すると図1に示されるように、成形部1と、内ダイ固定部2と、可塑化部3とに分かれる。それぞれには、加熱装置(図示せず。)が付属している。成形部1は、外ダイ4と内ダイ5とから構成されている。また、内ダイ固定部2は、内ダイ固定ガイド(スパイダー)8とマンドレル9とバレル10とから構成されている。また、可塑化部3は、溶融されたボンド磁石組成物を前方へ押出すためのスクリュー12とバレル13とから構成されている。また、外ダイ4には、配向用磁石6が内蔵されている。
【0043】
まず、ボンド磁石組成物は、可塑化部3で溶融された後、スクリュー12によって内ダイ固定部2のほうに押し出され、流路11で円筒状になる。次に、溶融されたボンド磁石組成物は、内ダイ固定部2に入り、図2に示されるように、断面が円弧状の貫通孔により形成された流路14により、溶融されたボンド磁石組成物の流動体は、3つの瓦状の流動体となり、さらにその先に形成された流路7により、上記3つの瓦状の流動体が再び一つの流動体となって、内ダイ固定部2の出口から成形部1にかけて円筒状に形成される。その後、溶融されたボンド磁石組成物の流動体は、成形部1に入り、図4に示されるように、成形部1の円筒状のキャビティを囲むように配置された配向用磁石6により形成された磁場によって、ボンド磁石組成物に含まれる磁性材料は、所望の配向パーターンに配向される。溶融されたボンド磁石組成物は、それを成形するための金型である成形部に入ってから成形部を出るまでに、冷却装置(図示せず。)よって、冷却固化されて円筒形状のボンド磁石を成形品として得ることができる。
【0044】
次に、本発明の押出成形方法を使用した円筒状のボンド磁石を成形する方法について、図4から図7を用いて説明する。
【0045】
図4に示されるように、本発明にかかる製造装置は、成形部1と可塑化部3を有する点は、従来の製造装置と同様である。本発明にかかる製造装置は、従来の内ダイ固定部2の代わりに、ゲート部15を使用する点が異なる。ここで、可塑化部3およびゲート部15それぞれには加熱装置(図示せず。)が付属している。また、ゲート部15の内部には、その断面が図5および図6に示されるように、溶融されたボンド磁石組成物が通過するための流路18及び流路19が形成されている。
【0046】
本発明のゲート部15に形成させる流路17、18の形状および大きさは、特に限定されるものではないが、その一例として、図4から図7に示される流路について説明する。
【0047】
まず、ボンド磁石組成物は、可塑化部3での加熱により溶融され、その流動体が、磁石組成物の流路11で円筒状になったボンド磁石組成物は、ゲート部15に入り、図5に示すような流路17を通過し、まず、上下2方向(図4のD−D方向)に分割される。その後、それぞれの流路を流れるボンド磁石組成物は、先の上下2方向から水平方向に90度方向を変えて、図6に示されるように、ゲート部15内に貫通された穴により形成された流路18を通過し、ゲート部15の出口であるゲート21を通過して、前方の成形部1に進む。次いで、ボンド磁石組成物の流動体は、図7に示されるように、成形部1に形成させた円筒状のキャビティ19に充填される。それとともに、配向用磁石6により形成される磁場により、ボンド磁石組成物に含まれる磁性材料は、所望の配向パーターンに配向されながら円筒状に形成されていく。溶融状態のボンド磁石組成物は、成形部1から出るまでに、冷却装置(図示せず。)によって、冷却および固化されて円筒形状のボンド磁石として成形品を得る。
【0048】
ここで、従来の製造方法と本発明との大きな違いは、磁性材料の配向前には、溶融されたボンド磁石組成物の流動体が、円筒状を形成していないことである。
【0049】
従来の製造方法では、溶融されたボンド磁石組成物の流動体が、配向前から既に円筒状になっており、成形空間の中に磁石組成物が密に詰まっている。したがって、磁性材料の粒子が配向磁場に沿って動こうとしても、その動きは制限されてしまう。
【0050】
一方、本発明は、複数のゲートから成形部1のキャビティ19内に充填される。図4から図7は、ゲート部15に2つのゲート21を形成させた製造装置の一例である。図4に示されるように、2つのゲート21から成形部1のキャビティ19の内部に、溶融されたボンド磁石組成物が少しずつ徐々に充填される。そのため、溶融されたボンド磁石組成物が密集してキャビティに充填される従来の製造方法と比較して、本発明にかかる製造方法は、成形空間における溶融されたボンド磁石組成物の密度を疎にすることができる。つまり、本発明の製造方法によると、従来の製造方法と比較して、磁性材料は動きやすくなり、より配向した状態になる。この配向した磁性材料は、その配向状態を維持したまま、成形空間に徐々に密に詰まっていき、円筒状を形成しながら成形部の出口の方向に進行する。その結果として、配向率が高く表面磁束の高いボンド磁石の成形品が得られる。
【0051】
本発明は、溶融されたボンド樹脂組成物がゲートを通過した直後に、磁性材料を配向させる磁場が印加されるように、ゲートと配向用磁石とが配置されていることが好ましい。これにより、磁性材料の配向率を向上させることができるからである。例えば、図4に示されるように、ゲート21が開口されたゲート部15の端面と、成形部1に配置された配向用磁石の一方の端面とが、略同一面となるように、ゲート部15と成形部1を配置させることが好ましい。これにより、溶融されたボンド樹脂組成物が、ゲートを出た直後に配向用磁石からの磁場を受けることができるので、磁性材料の配向率を向上させることができる。
【0052】
成形部には、キャビティを囲むように配向用磁石が配置される。配向用磁石として、通常、永久磁石が使用される。この配向用の永久磁石4に使用する磁石の材料は、Brが1T以上のものが好ましく、例えば、NdFeB焼結磁石を用いることができる。磁力の大きい磁石を使うと、成形部のキャビティ内に発生する配向のための磁場が強くなり、ボンド磁石の表面磁束密度も高くすることができる。
【0053】
また、上述のように押出成形で得られたボンド磁石は、必要であれば着磁工程を行ってもよい。着磁を行うことで、表面磁束密度はより高くなる。
【0054】
本発明で利用できる磁性材料は、異方性の磁性材料が適用可能である。異方性の磁性材料としては、フェライト系、Sm−Co系、Nd−Fe−B系、Sm−Fe−N系などが挙げられる。上記の磁性材料は、1種類単独でも、2種類以上を混合物としても使用できる。また、必要に応じて、耐酸化処理やカップリング処理を磁性材料に施しても良い。
【0055】
本発明における磁性材料のバインダーとしての樹脂は、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂も熱硬化性樹脂も利用することができる。これらのうち、成形性および磁気特性の点で、熱可塑性樹脂が好ましい。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂や、エステル系、ポリアミド系、などの熱可塑性エラストマー、または、エポキシ系やフェノール系などの熱硬化性樹脂を使用することができる。
【0056】
磁性材料と樹脂の配合比率は、樹脂の種類にもよるが、ボンド磁石組成物全体に対する磁性材料の割合が40〜75Vol%とすることが望ましい。また、酸化防止剤、滑剤等をさらに混合することもできる。
【0057】
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、本発明は、以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0058】
1.異方性ボンド磁石の作製
<実施例1>
(磁性材料の準備)
磁性材料には、異方性のSm−Fe−N系磁性材料(平均粒子径3μm)を用いる。
【0059】
(磁石組成物の作製)
Sm−Fe−N系磁性材料をエチルシリケートおよびシランカップリング剤で表面処理する。表面処理を行ったSm−Fe−N系磁性材料9137gと12ナイロン863gをミキサーで混合する。得られた混合粉を、2軸混練機を用いて220℃で混練し、冷却後、適当な大きさに切断しボンド磁石組成物を得る。
【0060】
(押出成形)
図4から図7は、本実施例にかかる製造装置の概略図である。これらの図面を参照しながら、本実施例についてより詳細に説明する。
【0061】
本実施例にかかるボンド磁石の製造装置は、異方性の磁性材料と樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を溶融させた後、スクリュー12によって前方に押出す可塑化部3と、その可塑化部3にて溶融されたボンド樹脂組成物の流れを制御するゲート部15と、磁性材料を配向させるための磁場を印加する配向用磁石6が配置されるとともに、溶融されたボンド樹脂組成物を固化させるキャビティ19を有する成形部1と、を備えたボンド磁石の製造装置である。
【0062】
ここで、ゲート部15は、その内部に、可塑化部3に接続された1つの流路が成形部1のほうに向かって分岐されてなる2つの流路と、成形部1に形成させた成形空間であるキャビティ19と上記2つの流路とを接続する2つのゲート21とを有している。本実施例のゲート21は、ゲート部15の出口に2つ形成されている。すなわち、キャビティ19は、断面が略同心円である円筒形状であり、ゲート21は、キャビティ19の出口方向から見ると、同心円の径方向に2つ並んで配置された穴である。
【0063】
このような製造装置において、可塑化部3で溶融されたボンド樹脂組成物は、ゲート部15に形成させた2つの流路により二手の流れに分割された状態で、そのままゲート部15の出口に形成させた2つのゲートから成形部1のキャビティ19の内部に充填される。
【0064】
本実施例において、ボンド磁石組成物を最終製品形状に形作るのは、図4に示す外ダイ4の内周面と内ダイ5の外周面とからなる断面形状が環状のキャビティ19であり、この断面環状の寸法は、外径25mm、内径23mmである。上記で準備作製した、ボンド磁石組成物を押出成形機のホッパーから投入する。スクリュー部3によって、ボンド磁石組成物は、加熱され溶融状態となり、前方のゲート部15に送られる。このゲート部15で、ボンド磁石組成物は、図5と図6に示される流路17及び流路18により2本の流路に分割される。そして、ボンド磁石組成物は、2つのゲートから成形部1のキャビティ19に充填され、図7に示すように配置された配向用磁石6の磁場により、磁性材料の粒子が配向しながら円筒形状に造形される。溶融されたボンド樹脂組成物は、冷却装置(図示せず。)によってキャビティの出口で冷却そして固化される。このようにして、円筒形状の異方性ボンド磁石の成形品を連続的に得ることができる。
【0065】
得られた円筒状のボンド磁石の成形品は、外径25mm、内径23mm、肉厚1mmで外周12極の異方性の円筒状ボンド磁石である。
【0066】
<実施例2>
(磁性材料の準備)
実施例1と同じ磁性材料を使用する。
(磁石組成物の作製)
実施例1と同じ磁性材料を用いて、実施例1と同じボンド磁石組成物を作製する。
(押出成形)
実施例1のゲート部の出口に4つのゲートを形成する以外は、実施例1と同様に押出成形を行った。本実施例のゲートを、成形部の出口の方から見た断面図を図8に示す。本実施例のゲートは、図8に示されるように、円筒形状のキャビティの底面に、その円周に沿って、等間隔に、4つの穴として形成されている。
【0067】
<実施例3>
(磁性材料の準備)
実施例1と同じ磁性材料を使用する。
(磁石組成物の作製)
実施例1と同じ磁性材料を用いて、実施例1と同じボンド磁石組成物を作製する。
(押出成形)
実施例1のゲート部の出口に6つのゲートを形成する以外は、実施例1と同様に押出成形を行った。本実施例のゲートを、成形部の出口の方から見た断面図を図9に示す。本実施例のゲートは、図9に示されるように、円筒形状のキャビティの底面に、その円周に沿って、等間隔に、6つの穴として形成されている。
【0068】
<比較例1>
(磁性材料の準備)
実施例1と同じ磁性材料を使用する。
(磁石組成物の作製)
実施例1と同じ磁性材料を用いて、実施例1と同じ磁石組成物を作製する。
(押出成形)
図1から図3は比較例1に使用された押出成形用の金型の概略図である。実施例1のゲート部15が内ダイ固定部2に変更されている。実施例1と同様の操作で押出成形を行うが、内ダイ固定部を通過後に既に円筒形状に形成されており、ボンド磁石組成物が成形部に入る時点で円筒形状になっているところが実施例1との相違点である。
得られたボンド磁石の成形品の形状は、実施例1と同じであり、外径25mm、内径23mm、肉厚1mmで外周12極の異方性の円筒状ボンド磁石である。
【0069】
2.異方性ボンド磁石の評価
(表面磁束密度の測定)
実施例1と比較例1で得られたボンド磁石を高さ20mmに切断し、マグネットアナライザーにより、円筒状ボンド磁石外周の表面磁束密度を測定した。測定は、マグネットアナライザーの360°回転ステージに成形品である円筒状ボンド磁石を固定し、プローブを円筒状ボンド磁石の側面中央に接触させ、ステージを360°回転させることで行った。
【0070】
図10は、実施例1のボンド磁石の表面磁束密度を示し、図11は、実施例2のボンド磁石の表面磁束密度を示し、図12は、実施例3のボンド磁石の表面磁束密度を示し、図13は、比較例1のボンド磁石の表面磁束密度を示す。さらに、各実施例および比較例の表面磁束密度の平均値を以下の表1に示す。
【0071】
これらの測定結果によると、ゲートの数が少ないほど表面磁束が向上していることがわかる。また、ゲートの数に関わらず、いずれの実施例の場合も、比較例より表面磁束密度が高くなっていることが分かる。
【0072】
(配向率の測定)
各実施例および比較例の配向率を測定するため、ボンド磁石の極の部分を1mm角に切り出す。これを、空芯コイルにて着磁する。このとき、配向方向と着磁コイルの発生磁場方向を揃える。着磁磁場は、約30kOeであった。VSM(振動試料型磁力計)により、着磁したボンド磁石の残留磁化σrを測定した。
【0073】
実施例1の残留磁化は、σr1=100emu/gであった。この原料磁性材料が100%配向した場合の残留磁化は、σr0=128emu/gであるから、配向率はσr1/σr0=78%であった。実施例2、実施例3および比較例1の残留磁化は、それぞれ、σr2=95emu/g、σr3=90emu/gおよびσr3=80emu/gであった。よって、実施例2、実施例3および比較例1の配向率は、それぞれ74%、70%および63%であった。これらの結果を表1に纏めて示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表面磁束密度と配向率の測定結果より、本発明の押出成形方法を使用することで、磁石組成物中の磁性材料の配向率を高め、その結果、ボンド磁石の表面磁束密度を高くできることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、長尺かつ表面磁束密度の高い異方性ボンド磁石を、連続的に高い生産性にて提供することが可能になる。円筒形状磁石の場合、ブラシレスモータ等のモータ部品、特に長尺のボンド磁石は、レーザープリンター用のマグネットロールとして使用でき、小型、軽量化、省エネルギー化に貢献できる。
【符号の説明】
【0077】
1・・・成形部、2・・・内ダイ固定部、3・・・可塑化部、4・・・外ダイ、5・・・内ダイ、6・・・配向用磁石、7、11、14、16、18、20・・・ボンド磁石組成物の流路、8・・・内ダイ固定ガイド、9・・・マンドレル、10、13、17・・・バレル、12・・・スクリュー、15・・・ゲート部、19・・・キャビティ、21・・・ゲート。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性の磁性材料と樹脂とからなるボンド磁石組成物を溶融させた後、前記磁性材料を配向させる磁場の下で固化させて押出成形を行うボンド磁石の製造方法において、
溶融させたボンド磁石組成物の流れを複数に分割させた状態で、金型のキャビティ内に充填して、前記磁場を印加することを特徴とするボンド磁石の製造方法。
【請求項2】
前記磁性材料が、Sm−Fe−N系の磁性材料である請求項1に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項3】
前記ボンド磁石組成物を構成する樹脂が、熱可塑性樹脂である請求項1または2に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項4】
前記ボンド磁石が、円筒状に成形される請求項1から3のいずれか一項に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたボンド磁石であって、配向率が70%以上であることを特徴とするボンド磁石。
【請求項6】
表面磁束密度の平均値が、1100G以上である請求項5に記載のボンド磁石。
【請求項7】
異方性の磁性材料と樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を溶融させた後、前方に押出す可塑化部と、その可塑化部にて溶融されたボンド樹脂組成物の流れを制御するゲート部と、前記磁性材料を配向させる磁場を印加する配向用磁石が配置されるとともに、前記溶融されたボンド樹脂組成物を固化させるキャビティを有する成形部と、を備えた押出成形を行うボンド磁石の製造装置において、
前記ゲート部は、前記可塑化部に接続された流路が前記成形部のほうに向かって分岐されてなる複数の流路と、それらの流路と前記キャビティとを接続する複数のゲートとを有しており、
前記可塑化部で溶融されたボンド樹脂組成物が、前記複数の流路により複数の流れに分割された状態で、前記複数のゲートから前記成形部のキャビティ内に充填されることを特徴とするボンド磁石の製造装置。
【請求項8】
前記キャビティは、断面が略同心円である円筒形状であり、前記ゲートは、前記同心円の径方向に2つ並んで配置された穴である請求項7に記載のボンド磁石の製造装置。
【請求項9】
溶融されたボンド樹脂組成物が前記ゲートを通過した直後に、前記磁性材料を配向させる磁場が印加されるように、前記ゲートと前記配向用磁石とが配置されている請求項7または8に記載のボンド磁石の製造装置。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか一項に記載のボンド磁石の製造装置により製造されたボンド磁石であって、前記磁性材料がSm−Fe−N系の磁性材料であり、配向率が70%以上であることを特徴とするボンド磁石。
【請求項1】
異方性の磁性材料と樹脂とからなるボンド磁石組成物を溶融させた後、前記磁性材料を配向させる磁場の下で固化させて押出成形を行うボンド磁石の製造方法において、
溶融させたボンド磁石組成物の流れを複数に分割させた状態で、金型のキャビティ内に充填して、前記磁場を印加することを特徴とするボンド磁石の製造方法。
【請求項2】
前記磁性材料が、Sm−Fe−N系の磁性材料である請求項1に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項3】
前記ボンド磁石組成物を構成する樹脂が、熱可塑性樹脂である請求項1または2に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項4】
前記ボンド磁石が、円筒状に成形される請求項1から3のいずれか一項に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたボンド磁石であって、配向率が70%以上であることを特徴とするボンド磁石。
【請求項6】
表面磁束密度の平均値が、1100G以上である請求項5に記載のボンド磁石。
【請求項7】
異方性の磁性材料と樹脂とから構成されたボンド磁石組成物を溶融させた後、前方に押出す可塑化部と、その可塑化部にて溶融されたボンド樹脂組成物の流れを制御するゲート部と、前記磁性材料を配向させる磁場を印加する配向用磁石が配置されるとともに、前記溶融されたボンド樹脂組成物を固化させるキャビティを有する成形部と、を備えた押出成形を行うボンド磁石の製造装置において、
前記ゲート部は、前記可塑化部に接続された流路が前記成形部のほうに向かって分岐されてなる複数の流路と、それらの流路と前記キャビティとを接続する複数のゲートとを有しており、
前記可塑化部で溶融されたボンド樹脂組成物が、前記複数の流路により複数の流れに分割された状態で、前記複数のゲートから前記成形部のキャビティ内に充填されることを特徴とするボンド磁石の製造装置。
【請求項8】
前記キャビティは、断面が略同心円である円筒形状であり、前記ゲートは、前記同心円の径方向に2つ並んで配置された穴である請求項7に記載のボンド磁石の製造装置。
【請求項9】
溶融されたボンド樹脂組成物が前記ゲートを通過した直後に、前記磁性材料を配向させる磁場が印加されるように、前記ゲートと前記配向用磁石とが配置されている請求項7または8に記載のボンド磁石の製造装置。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか一項に記載のボンド磁石の製造装置により製造されたボンド磁石であって、前記磁性材料がSm−Fe−N系の磁性材料であり、配向率が70%以上であることを特徴とするボンド磁石。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−21191(P2013−21191A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154167(P2011−154167)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】
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