説明

ボールジョイント用ベアリングシート、および同ボールジョイント用ベアリングシートを備えたボールジョイント

【課題】ボールスタッドの揺動方向に関わらずボール部の潤滑性を長期間に亘って安定的、かつベアリングシートの耐久性を低下させることなく良好に確保することができるボールジョイント用ベアリングシートおよびボールジョイントを提供する。
【解決手段】ベアリングシートとしてのボールシート130は、縦断面形状が略U字状に形成されており、その内周部にボールスタッド110のボール部113の外周面形状に沿った球面状の摺動部131が形成されている。ボールスタッド110の軸線方向の荷重を受ける摺動部131の下半球部113bには、摺動部131の周方向に平行な向きで同摺動部131の全周に亘って断続的に平行溝部134が形成されている。また、摺動部131には、各平行溝部134にグリース140a,140bを導くための第1の案内溝135および第2の案内溝136がそれぞれ形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸状のボールスタッドの先端部に形成された略球状のボール部を潤滑剤を介して摺動可能な状態で収容する筒状のボールジョイント用ベアリングシート、および同ボールジョイント用ベアリングシートを備えたボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車などの車両におけるサスペンション機構(懸架装置)やステアリング機構(操舵装置)には、軸状の各構成要素を互いに可動的に連結するためにボールジョイントが用いられている。ボールジョイントは、主として、軸状のボールスタッドの先端部に形成された略球状のボール部が、有底円筒状のソケット内に保持された筒状のベアリングシート内に摺動可能な状態で収容されて構成されている。このようなボールジョイントにおいては、ベアリングシートの内周面におけるボールスタッドの軸線方向からの荷重を受ける部分に、ボールスタッドのボール部を円滑に摺動させるための潤滑剤を保持する溝部が形成されている。例えば、下記特許文献1に示されるボールジョイントにおいては、円筒状のベアリングシートの内周面に4つの螺旋状の溝部がそれぞれ形成されている。
【特許文献1】特開2007−24160号公報
【0003】
しかしながら、上記したボールジョイントにおいては、ベアリングシート内に収容されるボール部の摺動方向が一方向のみの場合には、ボール部表面に潤滑剤が行き渡らないことがある。例えば、図4に示す従来例に係るベアリングシート10は、図示しないボールスタッドのボール部が摺動する複数のディンプル11を備えた摺動面12と、同摺動面12上に潤滑剤を供給するための4つの螺旋状の溝部13とを備えており、破線で示す矢印方向にのみボールスタッドが揺動した場合には回転摺動するボール部の摺動面中央部に潤滑剤が行き渡り難い。これは、摺動面12上に形成された溝部13と溝部13との間をボールスタッドが揺動した場合、回転摺動するボール部の摺動面中央部(最も摺動摩擦が激しい外周面)には溝部13が存在しないためである。このため、潤滑剤が不足するボール部や摺動面の摩耗が激しくなり、ボールジョイントの作動抵抗(ボール部の摺動抵抗)が増大するとともに、ボールスタッドおよびベアリングシートの耐久性が低下するという問題がある。
【0004】
このような問題に対処するため、例えば、ベアリングシートの摺動面に形成する溝部の長さを延長、または溝部の数を増やすことが考えられる。しかし、溝部の長さを延長、または溝部の数を増やすとベアリングシートの耐久性の低下が懸念される。特に、溝部が形成されるベアリングシートの摺動面には、ボールスタッドの軸線方向から極めて大きな荷重、例えば、自動車のサスペンション機構に用いられるボールジョイントにおいては、最低でも車両の重量を車輪数で除した重量が絶えず加えられるため、ベアリングシートの耐久性の低下は回避しなければならない。
【発明の開示】
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、ボールジョイントにおけるボールスタッドの揺動方向に関わらずボールスタッドのボール部の潤滑性を長期間に亘って安定的、かつベアリングシートの耐久性を低下させることなく良好に確保することができるボールジョイント用ベアリングシート、および同ボールベアリングシートを備えたボールジョイントを提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、軸状のボールスタッドの先端部に形成された略球状のボール部を収容する筒体の内周面に、ボール部に潤滑剤を介して摺動可能に接触する球面状の摺動部と、ボール部と摺動部との間に潤滑剤を供給するための溝部とが形成されたボールジョイント用ベアリングシートにおいて、前記溝部は、摺動部の周方向に略平行に延びるとともに同周方向の全周に亘って断続的に形成された平行溝部と、前記筒体における少なくとも一方の開口部と各平行溝部との間に形成され、前記一方の開口部に配置される潤滑剤を各平行溝部に導くための案内溝とを備えたことにある。
【0007】
この場合、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおいて、前記溝部における平行溝部は、摺動部におけるボールスタッドの軸方向の荷重を受ける部分に形成するとよい。
【0008】
このように構成した本発明の特徴によれば、ボールスタッドのボール部を潤滑する潤滑剤を保持する溝部が、ベアリングシートの摺動部に同摺動部の周方向に略平行な向きで、かつ摺動部の周方向の全周に亘って断続的に形成されている。このため、ボールスタッドの揺動方向に関わらず、ボール部には同ボール部の摺動回転する方向に対して直交または直交に近い状態で平行溝部が位置することになる。これにより、ボールスタッドのボール部の摺動面中央部(最も摺動摩擦が激しい外周面)を中心として幅広い範囲に潤滑剤を付着させることができるとともに、同摺動面中央部を中心に潤滑剤を塗り広げることができる。すなわち、ボール部の外周面を良好に潤滑することができる。また、平行溝部が摺動部の周方向に略平行に延びて形成されているため、ボールスタッドの軸線方向(螺旋も含む)に延びて形成されている従来の溝部に比べて、形成する溝部の数を減らすことができる。さらに、平行溝部は、摺動部の周方向の全周に沿って断続的に形成されているため、適当な間隔を介してベアリングシートの厚さを確保でき、溝部を形成することよる強度の低下を防止することができる。
【0009】
また、平行溝部には、同平行溝部が形成された筒体の開口部に配置される潤滑剤を同平行溝部に導くための案内溝が連通している。このため、ボールスタッドのボール部を潤滑することによって平行溝部内から減少した潤滑剤を補給することができる。これらの結果、ボールジョイントにおけるボールスタッドの揺動方向に関わらずボールスタッドのボール部の潤滑性を長期間に亘って安定的、かつベアリングシートの耐久性を低下させることなく良好に確保することができる。
【0010】
また、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおいて、さらに、前記案内溝は、前記筒体における他方の開口部と各平行溝部との間に形成され、前記他方の開口部に配置される潤滑剤を各平行溝部に導くようにするとよい。この場合、前記溝部は、略S字に形成するとよい。これによれば、筒体の一方および他方の開口部に配置された各潤滑剤をそれぞれ平行溝部に導くことができる。この結果、ボールスタッドのボール部の潤滑性をより確実に確保することができる。
【0011】
また、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおいて、さらに、ボールジョイント用ベアリングシートにおいて、さらに、前記摺動部上に、凸状に突出した、または凹状に窪んだ形状に形成された複数のディンプルを設けるとよい。これによれば、ボールスタッドのボール部とベアリングシートの摺動部との間に潤滑剤を介在させるための隙間を形成することができ、より確実にボールスタッドのボール部を潤滑することができる。
【0012】
さらに、本発明は前記ボールジョイント用ベアリングシートを備えたボールジョイントの発明としても適用できるものである、具体的には、前記した筒状のボールジョイント用ベアリングシートと、ボールジョイント用ベアリングシート内に収容される略球状のボール部が形成された軸状のボールスタッドと、ボールジョイント用ベアリングシートにおける少なくとも一方の開口部に配置され、同ボールジョイント用ベアリングシート内に導入される潤滑剤と、ボールジョイント用ベアリングシートを収容して保持するソケットとを備えればよい。これによれば、前記ボールジョイント用ベアリングシートと同様の作用効果を期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るボールジョイント用ベアリングシート、および同ボールジョイント用ベアリングシートを備えたボールジョイントの一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るボールジョイント用ベアリングシートとしてのボールシート130を備えたボールジョイント100の縦断面を概略的に示す概略断面図である。ボールジョイント100は、自動車などの車両に採用されるサスペンション機構(懸架装置)またはステアリング機構(操舵装置)において、各構成要素を互いに可動的に連結する部材である。
【0014】
ボールジョイント100は、主として、ボールスタッド110、ソケット120、ボールシート130、グリース140a,140bおよびダストカバー150から構成されている。これらのうち、ボールスタッド110は、鉄鋼材により構成されており、軸状に形成されたスタッド部111の一方の端部に括れ部112を介して略球状に形成されたボール部113を備えて構成されている。
【0015】
ソケット120は、鉄鋼材またはアルミニウム材などの非鉄金属を鋳造、または鍛造して成形されており、筒体の一方の端部(図示上端部)が開口するとともに他方の端部(図示下端部)が閉塞した有底円筒状に形成されている。ソケット120の内周部には、縦断面形状が略U字状に形成された収容部121と、同収容部121の底部121aの中央部に図示下方に向かって有底状に形成された穴部122がそれぞれ設けられている。これらのうち、収容部121は、ボールシート130を介して前記ボールスタッド110のボール部113を収容して保持する部分である。また、穴部122は、後述するグリース140aを貯留する部分である。本実施形態においては、穴部122の容積の約70%程度を占める量でグリース140aが充填される。なお、この穴部122に充填されるグリース140aの量は、特に限定されるものではなく、ボールシート130の使用環境に応じて適宜設定されるものである。
【0016】
ボールシート130は、詳しくは図2(A),(B)に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などの耐摩耗性および耐荷重性の高い剛性および弾性を有した合成樹脂材にて構成されており、縦断面形状が略U字状に形成されている。ボールシート130の内周部には、前記ボールスタッド110のボール部113の球面に対応する球面状に形成された摺動部131と、同摺動部131の底部131aの中央部に図示下方に向かって貫通した状態で形成された孔部132とがそれぞれ設けられている。
【0017】
これらのうち、摺動部131は、ボール部113が後述するディンプル138を介して摺動可能な状態で接触する部分であり、同ボール部113の略下側半分が接触する下半球部131b、および同ボール部113の略上側半分が接触する上半球部131cを備えている。これらのうち、下半球部131bは、ボールジョイント110の軸線方向の荷重を直接受ける部分である。これらの底部131a、下半球部131bおよび上半球部131cによって構成される摺動部131の表面には、ボール部113の図示下側端部および図示上側端部外周部にそれぞれ設けられるグリース140a、140bを摺動部131内(ボール部113の表面)に導くための凹状に形成された溝部133が設けられている。
【0018】
溝部133は、下半球部131bに形成された平行溝部134と、同平行溝部134に連通した状態で下半球部131bおよび上半球部131cに形成された第1の案内溝部135と、同平行溝部134に連通した状態で下半球部131bおよび底部131aに形成された第2の案内溝部136とから構成されている。これらのうち、平行溝部134は、下半球部131bの球状の表面に沿って摺動部131の周方向に略平行に延びるとともに同周方向の全周に亘って断続的に形成されている。換言すれば、平行溝部134は、摺動部131の周方向に沿って所定の隙間を介して複数(本実施形態においては6つ)形成されている。この場合、所定の隙間は、摺動部131上を摺動するボール部113の摺動方向に関わらず、ボール部113の外周面に平行溝部134を含む溝部133内のグリース140a,140bを付着させることができる間隔であり、ボール部113の大きさなどに応じて適宜設定されるものである。
【0019】
第1の案内溝部135は、摺動部131における下半球部131bと上半球部131cとの境目にリング状に形成された全周溝部135aと、ボールシート130の開口部137から全周溝部135aに向って略垂直に延びて同全周溝部135aと連通する第1連通溝135bと、全周溝部135aから延びて前記各平行溝部134の一方の端部に連通する第2連通溝135cとから構成されている。これらのうち、第1連通溝135bは、摺動部131の上半球部131cの周方向に沿って略均等に4つ形成されている。
【0020】
一方、第2の案内溝部136は、前記各平行溝部134の他方の端部から摺動部131の底部131aに向って延びるとともに同底部131a上に形成されている。すなわち、摺動部131の下半球部131bには、第1の案内溝部135の第2連通溝135c、平行溝部134および第2の案内溝部136によって略S字状の溝部133が同下半球部131bの周方向に沿って均等に6つ形成されている。そして、下半球部131bに形成されたこれら6つの各溝部133は、前記したように、摺動部131上を摺動するボール部113の摺動方向に関わらず、ボール部113の外周面に同下半球部131bに形成された各溝部133内のグリース140a,140bを付着させることができる隙間を介して配置されている。
【0021】
また、摺動部131の下半球部131bには、凸状に突出した球面で形成されたディンプル138が下半球部131bの周方向に沿って上下二段に複数個ずつ形成されている。ディンプル138は、ボールスタッド110のボール部113の外周面と摺動部131の表面との間にグリース140a,140bを介在させる隙間を形成するための突起であり、上段に18個、下段に12個だけそれぞれ設けられている。これらのディンプル138は、互いに同じ大きさ(径)および同じ突出量で形成されており、それぞれが等間隔、かつ溝部133に干渉しない状態で配置されている。すなわち、ボールスタッド110のボール部113は、ボールシート130の摺動部131内においてディンプル138を介して摺動可能な状態で摺動部131に接している。
【0022】
このボールシート130は、ソケット120の収容部121内に嵌め込まれており、同ボールシート130の開口部137上に配置されたリング状のプラグ139を介して、カシメ加工されたソケット120の上端部によって固定されている。また、ボールシート130の摺動部131に設けられた孔部132およびソケット120の穴部122には、摺動部131の底部131aに設けられた第2の案内溝部136に接する状態でボール部113の外周面を潤滑するための潤滑剤としてのグリース140bが設けられている。また、ボールシート130の開口部137上におけるボールスタッド110のボール部113と前記プラグ139との間の隙間には、ボールシート130の上半球部131cに設けられた第1の案内溝135に接する状態で前記グリース140aと同様のグリース140bが設けられている。
【0023】
ソケット120の上部には、同ソケット120の上部および収容部121内に収容されるボールスタッド110のボール部113を覆う状態でダストカバー150が設けられている。ダストカバー150は、弾性変形可能なゴム材または軟質の合成樹脂材などによって構成されており、中央部が膨らんだ略円筒状に形成されている。このダストカバー150は、一方(図示上側)の端部がボールスタッド110のスタッド部111の外周部に金属製のクリップ151を介して固定されるとともに、他方(図示下側)の端部がソケット120の上部外周部に金属製のクリップ152を介して固定されており、ボールシート130の摺動部131内への異物の浸入を防止する。
【0024】
このように構成されたボールジョイント100の作動について説明する。本実施形態においては、ボールジョイント100を自動車などの車両のサスペンション機構(懸架装置)に組み込んだ例について説明する。ここで、サスペンション機構(懸架装置)とは、車両において路面からの振動を減衰するとともに車輪を確実に路面に接地させることにより、車両の走行安定性および操縦安定性を維持する装置である。そして、ボールジョイント100は、サスペンション機構においてボールスタッド110を一定の方向に回転または揺動させながら車両からの負荷を支える。なお、車両のサスペンション機構に採用されるボールジョイントは、一般に、車両の前輪に用いられるボールジョイントは前輪の操舵に応じてボールスタッドが一定の方向に回転するとともに路面の凹凸による車体の上下動に応じて一定の方向に揺動する。また、車両の後輪に用いられるボールジョイントは後輪の操舵が行われないため路面の凹凸による車体の上下動に応じて一定の方向に揺動するのみである。
【0025】
車両(図示せず)に搭載された各ボールジョイント100には、少なくとも車両の重量を車輪の数で除した重量の荷重が絶えず加えられている。このため、ボールジョイント100のボールシート130の下半球部131bは、前記重量に相当する力でボールスタッド110のボール部113が押し付けられることにより圧縮変形する。この場合、下半球部131bの表面には、ディンプル138が設けられているため、ボール部113と摺動部141との間には僅かな隙間が形成されるとともに、同隙間内に下半球部131bに形成された溝部133内のグリース140a、140bが導かれる。
【0026】
そして、車両が走行する際においては、ボールジョイント100のボールスタッド110は車体(車輪)の上下動に応じて一定の方向(例えば、図1に示す矢印の方向)に揺動する。これにより、ボールシート130内に収容されたボール部113は、ボールスタッド110の揺動方向に対応する一定の方向に回転摺動する。この場合、ボールシート130の摺動部131内にて回転摺動するボールスタッド110のボール部113の外周面は、溝部133内から供給され前記ボール部113と摺動部131との間に形成された隙間に介在するグリース140a,140bによって潤滑される。
【0027】
例えば、ボール部113が、図3(A)にて破線で示す矢印の方向に回転、すなわち、ボール部113(図示せず)が摺動部131に形成された溝部133A,133Bの平行溝部134A,134Bに対して略直交する方向に回転摺動する場合においては、回転摺動するボール部113には主として平行溝部134A,134Bからグリース140a,140bが供給される。この場合、平行溝部134A,134Bは、摺動部131の周方向に平行、換言すれば、ボール部113の回転方向に対して直交する方向に形成されているためボール部113の摺動面中央部(最も摺動摩擦が激しい外周面)を中心として幅広い範囲にグリース140a,140bを付着させることができ同ボール部113の外周面を潤滑することができる。
【0028】
また、例えば、ボール部113が、図3(B)にて破線で示す矢印の方向に回転、すなわち、ボール部113(図示せず)が摺動部131に形成された溝部133A(133B)の平行溝部134A(133B)と溝部133C(133D)の平行溝部134C(134D)との間、換言すれば、溝部133Cの第2連通溝135cCおよび溝部133Dの第2連通溝135cD上を同第2連通溝135cC,135cDに平行な方向に回転摺動する場合においては、回転摺動するボール部113には主として平行溝部134A,134C(134B,134D)の互いに対向する各端部、第2連通溝135cC,135cD、および第2の案内溝136A,136Bからグリース140a,140bがそれぞれ供給される。
【0029】
この場合、平行溝部134A,134C(134B,134D)は、摺動部131の周方向に平行に形成されているため、同平行溝部134A,134C(134B,134D)はボール部113の回転方向に対して直交に近い方向で対向する。このためボール部113の摺動面の両端に対して幅広い範囲でグリース140a,140bを付着させることができるとともに、ボール部113の摺動面両端部に付着させたグリース140a,140bを摺動面中央部(最も摺動摩擦が激しい外周面)に塗り拡げることができる。また、ボール部113の摺動面中央部には、第2連通溝135cC,135cDおよび第2の案内溝136A,136Bの各溝幅に対応する範囲でグリース140a,140bが供給される。これらにより、ボール部113の外周面を潤滑することができる。
【0030】
ボール部113が、その他の方向に回転した場合においても前記と同様にしてグリース140a,140bによって潤滑される。すなわち、ボールスタッド110の揺動方向に関わらず、ボール部113の外周面にグリース140a,140bを付着させることができ同外周面を潤滑することができる。
【0031】
一方、車両の前輪側に用いられたボールジョイント100においては、同前輪の操舵によってボールスタッド100が同ボールスタッド100の軸線回りに回転する。この場合、ボールシート130の摺動部131における下半球部131bには、下半球部131の上端部から下端部に亘って第2連通溝135c、平行溝部134および第2の案内溝部136からなる略S字状の溝部133が形成されている。このため、ボールシート130の摺動部131内にて回転摺動するボールスタッド110のボール部113の外周面には、下半球部131に形成された略S字状の各溝部133から供給されるグリース140a,140bが付着するとともに同外周面上に塗り広げられる。これによりボール部113の全体が潤滑される。
【0032】
そして、ボールスタッド110のボール部113の外周面にグリース140a,140bを付着させることにより平行溝部134内のグリース140a,140bの量が減少した場合には、ボール部113の図示下側端部および上側端部外周部にそれぞれ配置されたグリース140a、140bが第1の案内溝135および第2の案内溝136を介してそれぞれ導かれる。この場合、第1の案内溝135および第2の案内溝136内を流動するグリース140a,140bの一部は、同第1の案内溝135および第2の案内溝136に対向して接触するボールスタッド110のボール部113に付着して、同ボール部113の外周面を潤滑する。これにより、ボールシート130の摺動部131における底部131aおよび上半球部131cに接するボール部113の外周面がそれぞれ潤滑される。
【0033】
上記接続方法の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、ボールスタッド110のボール部113を潤滑するグリース140a,140bを保持する溝部133が、ボールシート130の摺動部131に同摺動部131の周方向に略平行な方向で、かつ摺動部131の周方向の全周に亘って断続的に形成されている。このため、ボールスタッド110の揺動方向に関わらず、ボール部113には同ボール部113の摺動回転する方向に対して直交または直交に近い状態で平行溝部134が位置することになる。これにより、ボールスタッド110のボール部113の摺動面中央部(最も摺動摩擦が激しい外周面)を中心として幅広い範囲にグリース140a,140bを付着させることができるとともに、同摺動面中央部を中心にグリース140a,140bを塗り広げることができる。すなわち、ボール部113の外周面を良好に潤滑することができる。したがって、ボール部113が一方向にのみ回転摺動する環境で用いられる場合、例えば、車両の後輪に搭載されるサスペンション機構に用いられる場合には、特に好適である。
【0034】
また、平行溝部134が摺動部131の周方向に略平行に延びて形成されているため、ボールスタッド110の軸線方向(螺旋も含む)に延びて形成されている従来の溝部に比べて、形成する溝部の数を減らすことができる。さらに、平行溝部134は、摺動部131の周方向の全周に沿って断続的に形成されているため、適当な間隔を介してベアリングシートの厚さを確保でき溝部133を形成することよる強度の低下を防止することができる。
【0035】
また、平行溝部134には、ボールシート130の開口部137に配置されるグリース140a,140bを同平行溝部134に導くための第1の案内溝135および第2の案内溝136が連通している。このため、ボールスタッド110のボール部113を潤滑することによって平行溝部134内から減少したグリース140a,140bを補給することができる。これらの結果、ボールジョイント100におけるボールスタッド110の揺動方向に関わらずボールスタッド110のボール部113の潤滑性を長期間に亘って安定的、かつボールシート130の耐久性を低下させることなく良好に確保することができる。
【0036】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0037】
例えば、上記実施形態においては、平行溝部134をボールシート130の摺動部131における下半球部131bに形成した。これは、下半球部131bがボールスタッド110の軸線方向の荷重を受ける部分であり、最も摺動摩擦が激しい部分であるためである。したがって、平行溝134は、摺動部134とボール部113との摩擦による摩耗、または摺動抵抗の増大が懸念される部分に形成されていればよく、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、下半球部131bに代えて、または加えて上半球部131cに平行溝部134を形成してもよい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0038】
また、上記実施形態においては、平行溝部134に対してグリース140a,140bを導くために第1の案内溝135および第2の案内溝136の2つの案内溝を連通させて配置した。しかし、平行溝部134に潤滑剤としてのグリースを導くことができれば必ずしも2つの案内溝を設ける必要はない。すなわち、第1の案内溝135または第2の案内溝136の一方を平行溝部134に連通させた状態で設けるように構成してもよい。この場合、グリース140a,140bも配置した案内溝に応じて配置すればよい。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0039】
また、上記実施形態においては、ボールシート130の摺動部131内において同一円周上に6つの平行溝部134を配置して設けた。しかし、平行溝部134は、摺動部131上を摺動するボール部113の摺動方向に関わらず、同摺動方向の軸線上におけるボール部113の外周面にグリース140a,140bを付着させることができれば、上記実施形態に限定されるものではない。すなわち、平行溝部134は、結果として摺動部131の全周に亘って形成されていればよく、例えば、各平行溝134を異なる円周上に配置(千鳥状に配置)してもよい。また、各平行溝部134ごとに平行溝部134の長さを設定してもよい。この場合、平行溝部134の長さを長くすることにより、摺動部131内に設ける溝部133の数または延長を少なくすることができ、ボールシート130の強度を向上させることができる。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0040】
また、上記実施形態においては、摺動部131の下半球部131bにディンプル138を設けた。しかし、ディンプル138は、ボールスタッド110のボール部113の外周面と摺動部131の表面との間にグリース140a,140bを介在させるための隙間を形成することにより、ボール部113の潤滑性をより向上させるものであり、本発明を実施するに当って必ずしも必要な構成ではない。したがって、ディンプル138を設けない構成であっても、上記実施形態と同様な効果が期待できる。また、ディンプル138を設ける場合においては、ディンプル138の数、配置および形状は、上記実施形態に限定されるものではない。ディンプル138の数、配置および形状は、ボール部113の大きさや摺動抵抗などの使用環境に応じて適宜決定すればよく、例えば、凹状に窪んだ形状にディンプル138を形成してもよい。
【0041】
なお、上記実施形態のように下半球部131bに形成する溝部133の形状を略S字にすることにより、同下半球部131bに形成するディンプル138を均等に配置し易くなる。ディンプル138を均等に配置できることにより、ボールスタッド110のボール部113からの荷重をすべてのディンプル138で均等に受けることができる。これにより、加重の偏りによるディンプル138の局所的な潰れが防止され、ボール部113の摺動抵抗の増大を防止できるとともにボール部113の潤滑性を良好に維持することができる。
【0042】
また、上記実施形態においては、ボールジョイント100を車両のサスペンション機構に搭載した例について説明したが、当然、これに限定されるものではない。本発明に係るボールジョイント100およびボールシート130は、自動車などの車両のサスペンション機構の他、ステアリング機構などにも広く適用できるものである。また、本発明に係るボールジョイント100およびボールシート130は、所謂テンション型のボールジョイントにも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係るボールジョイント用ベアリングシートとしてのボールシートを備えたボールジョイントの縦断面の概略を示す概略断面図である。
【図2】(A)は図1のボールシートを示す平面図であり、(B)は(A)に示すボールシートをA−Aから見た破断図である。
【図3】(A),(B)は、ボールシート内に収納されるボールスタッドの揺動方向を説明するための説明図である。
【図4】従来例に係るベアリングシートを示す平面図である。
【符号の説明】
【0044】
100…ボールジョイント、110…ボールスタッド、113…ボール部、120…ソケット、121…収容部、121a…底部、122…穴部、130…ベアリングシートとしてのボールシート、131…摺動部、131a…底部、131b…下半球部、131c…上半球部、132…孔部、133…溝部、134…平行溝部、135…第1の案内溝部、135a…全周溝部、135b…第1連通溝、135c…第2連通溝、136…第2の案内溝部、137…開口部、138…ディンプル、139…プラグ、140a,140b…グリース、150…ダストカバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状のボールスタッドの先端部に形成された略球状のボール部を収容する筒体の内周面に、前記ボール部に潤滑剤を介して摺動可能に接触する球面状の摺動部と、前記ボール部と前記摺動部との間に前記潤滑剤を供給するための溝部とが形成されたボールジョイント用ベアリングシートにおいて、
前記溝部は、
前記摺動部の周方向に略平行に延びるとともに同周方向の全周に亘って断続的に形成された平行溝部と、
前記筒体における少なくとも一方の開口部と前記各平行溝部との間に形成され、前記一方の開口部に配置される前記潤滑剤を前記各平行溝部に導くための案内溝とを備えたことを特徴とするボールジョイント用ベアリングシート。
【請求項2】
請求項1に記載されたボールジョイント用ベアリングシートにおいて、
前記溝部における前記平行溝部は、前記摺動部における前記ボールスタッドの軸方向の荷重を受ける部分に形成されるボールジョイント用ベアリングシート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したボールジョイント用ベアリングシートにおいて、さらに、
前記案内溝は、前記筒体における他方の開口部と前記各平行溝部との間に形成され、前記他方の開口部に配置される前記潤滑剤を前記各平行溝部に導くボールジョイント用ベアリングシート。
【請求項4】
請求項3に記載したボールジョイント用ベアリングシートにおいて、
前記溝部は、略S字に形成されるボールジョイント用ベアリングシート。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載したボールジョイント用ベアリングシートにおいて、さらに、
前記摺動部上に、凸状に突出した、または凹状に窪んだ形状に形成された複数のディンプルを設けたボールジョイント用ベアリングシート。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載した筒状のボールジョイント用ベアリングシートと、
前記ボールジョイント用ベアリングシート内に収容される略球状のボール部が形成された軸状のボールスタッドと、
前記ボールジョイント用ベアリングシートにおける少なくとも一方の開口部に配置され、同ボールジョイント用ベアリングシート内に導入される潤滑剤と、
前記ボールジョイント用ベアリングシートを収容して保持するソケットとを備えたことを特徴とするボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−144749(P2009−144749A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319742(P2007−319742)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】