説明

ボールジョイント部材の取付構造

【課題】大型化および重量化を招くことなく、組み付け作業を簡単にし得るボールジョイント部材の取付構造を提供する。
【解決手段】ボールジョイント部材10のアーム部12に対し、車幅方向外側に雌ねじ孔16を形成するとともに、車幅方向内側に雄ねじ軸17を突設させ、ロアアーム1には、雌ねじ孔16と雄ねじ軸17とに対応する位置に貫通孔21,22を形成し、車幅方向内側の貫通孔22に雄ねじ軸17を挿通させた状態で雄ねじ軸17にフランジ付き六角ナット24を螺合させ、フランジ付き六角ボルト23を車幅方向外側の貫通孔22に挿入して雌ねじ孔16に螺合させることにより、ボールジョイント部材10とロアアーム1とを接合するようにし、フランジ付き六角ボルト23の軸径D1を雄ねじ軸17の軸径D2に比べて大きくし、且つフランジ付き六角ボルト23の二面幅S1をフランジ付き六角ナット24の二面幅S2と同一寸法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサスペンションに用いられるロアアームに対してナックルを支持するボールジョイント部材を取付けるための取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ストラット式やダブルウィッシュボーン式などの独立懸架方式のサスペンションでは、ロアアームにナックルを支持させるためにボールジョイントを用いることがある。ボールジョイントを用いる場合、ロアアームにソケットを形成してボールスタッドを取付ける方式と、ソケットからアームが延出するように形成したボールジョイント部材をロアアームに接合する方式とがある。ボールジョイント部材をロアアームに接合する方式としては、ソケットから延出させたアームをロアアームに重ね合わせ、ボルトおよびナットを用いて車幅方向の2箇所で締結するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ボールジョイント部材をロアアームに接合した場合には、車幅方向外側の接合部に大きな荷重が加わるため、図3に示すように、ソケット114から延出させたアーム112の車幅方向外側(ソケット114側)を幅広になるように形成し、車幅方向外側では2箇所で締結し、車幅方向内側の1箇所と合わせて合計3箇所でボールジョイント部材110とロアアーム101とを締結するようにしたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−282106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のボールジョンイント部材の取付構造では、車幅方向外側のボルトナットにより大きな荷重が加わるため、この荷重に耐え得る大きさのボルトナットを用いると、車幅方向内側のボルトナットが不要に大きくなり不経済である。ここで、車幅方向内側のボルトナットを車幅方向外側のものよりも小さくすることが考えられるが、このようにすると、ボールジョイント部材とロアアームとの接合時に大きさの異なる2種類の工具を用いなければならず、組み付け作業が煩雑になる。
【0006】
一方、図3に示したボールジョイント部材110を3箇所で締結する取付構造では、部品数が増えて締結作業が煩雑となるだけでなく、アーム112が幅広になることでロアアーム101も幅広に形成しなければならず、部材の大型化および重量化を招いてしまう。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、大型化および重量化を招くことなく、組み付け作業を簡単にし得るボールジョイント部材の取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、ナックル(3)を支持するボールジョイント部(11)と該ボールジョイント部から車幅方向に延出するアーム部(12)とを有するボールジョイント部材(10)を、ロアアーム(1)に取付けるためのボールジョイント部材の取付構造であって、ボールジョイント部材のアーム部には、車幅方向外側に雌ねじ孔(16)が形成されるとともに、車幅方向内側に雄ねじ軸(17)が突設され、ロアアームには、雌ねじ孔と雄ねじ軸とに対応する位置に貫通孔(21,22)が形成され、ボールジョイント部材とロアアームとは、車幅方向内側の貫通孔に挿通された雄ねじ軸に螺合するナット(24)と、車幅方向外側の貫通孔に挿入され、雌ねじ孔に螺合するボルト(23)とにより締結され、ボルトの軸径(D1)は雄ねじ軸の軸径(D2)に比べて大きく、且つボルトの二面幅(S1)とナットの二面幅(S2)とが同一であることを特徴とする。ここで、二面幅とは、四角や、六角、八角など、側面に平行な2面を複数有するボルトヘッドおよびナットにおいて、当該平行な2側面間の幅のことである。
【0009】
この構成によれば、締結部を2箇所にすることでアーム部およびロアアームの大型化および重量化を防止することができる。また、より大きな荷重が加わる車幅方向外側の締結部には大径のボルトを用い、より小さな荷重が加わる車幅方向内側の締結部には小径の雄ねじ軸を用いることで、部材の要求性能を満たしつつ部材コストの削減を図ることができる。一方、接合作業においては、アーム部の車幅方向内側に雄ねじ軸が突設されているため、ボールジョイント部材とロアアームとの位置合わせが容易である。また、ナットおよびボルトの2つの部材を共にロアアーム側から締め付ければよいため、締め付け箇所が少なく、締め付け作業も容易である。さらに、ボルトの二面幅とナットの二面幅とが同一であるため、工具の交換を行うことなくボルトおよびナットを締め付けることができ、締め付け作業を一層容易にすることができる。
【0010】
また、本発明の一側面によれば、アーム部における車幅方向内側の貫通孔が形成された部分が、アーム部における車幅方向外側の貫通孔が形成された部分よりも薄く、雄ねじ軸がローレットボルト(19)により形成されるものとすることができる。
【0011】
この構成によれば、応力が集中する車幅方向外側の貫通孔が形成された部分のアーム部の強度を確保するとともに、雌ねじ孔の長さを大きくして要求せん断強度を確保することができる。また、アーム部の車幅方向内側の貫通孔が形成された部分を薄くすることでボールジョイント部材を小型化および軽量化することができる。さらに、雄ねじ軸をローレットボルトにより形成することで、アーム部への雄ねじ軸の形成を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
このように本発明によれば、大型化および重量化を招くことなく、組み付け作業を簡単にし得るボールジョイント部材の取付構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るボールジョイント部材の取付構造の平面図
【図2】図1中のII−II断面図
【図3】従来技術によるボールジョイント部材の取付構造の平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るボールジョイント部材10の取付構造の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1および図2に示すように、ロアアーム1は、自動車の車体2とナックル3とを相対的に上下動可能に連結するリンク部材であり、本実施形態では、前輪4に適用されたストラット式サスペンションの構成要素として用いられる。なお、図1および図2では左側のサスペンションのみを示している。ナックル3は、図示しないホイールベアリングを介して前輪4を回転自在に支持するとともに、その前端に連結するタイロッド5が左右に駆動されることにより前輪4を左右に転向させる。また、ナックル3の上端には、図示しないスプリングとダンパとを有するストラットアッセンブリ6が取付けられており、前輪4からの入力をスプリングが吸収し、スプリングの周期振動をダンパが収束させ得るようになっている。
【0016】
ロアアーム1とナックル3とは、ボールジョイント部材10を介して互いに回動可能に連結されている。ボールジョイント部材10は、ナックル3を支持するボールジョイント部11と、ボールジョイント部11から延出するアーム部12とを有しており、さらにボールジョイント部11は、ナックル3に固定されるボールスタッド13や、アーム部12と一体に形成され、ボールスタッド13のボール部13aを保持するソケット14、ボールスタッド13とソケット14との摺接部を覆うダストブーツ15などを有している。
【0017】
ボールジョイント部材10のアーム部12には、基端側すなわち自動車に取付けられた状態で車幅方向外側に雌ねじ孔16が形成されるとともに、先端側すなわち自動車に取付けられた状態で車幅方向内側に雄ねじ軸17が突設されている。なお、基端側(車幅方向外側)および先端側(車幅方向内側)の用語は、雌ねじ孔16と雄ねじ軸17との相対的な位置関係を特定するものであり、アーム部12中心を基準として位置を特定するものではない。
【0018】
雄ねじ軸17は、アーム部12に設けられた貫通孔18に雄ねじ軸17の突出方向と反対側から圧入されたローレットボルト19の軸部により形成される。ローレットボルト19の軸基端には、軸方向に延在するセレーションが全周にわたって形成されており、セレーションが圧入によって貫通孔18の内周面に嵌着することにより、ローレットボルト19がアーム部12に回転不能に固定される。一方、ロアアーム1には、アーム部12に形成された雌ねじ孔16と雄ねじ軸17とに対応する位置に、車幅方向に配置された2つの貫通孔21,22が形成されている。
【0019】
そして、ボールジョイント部材10とロアアーム1とは、車幅方向内側の貫通孔22に雄ねじ軸17を挿通させた状態で雄ねじ軸17に螺合させたフランジ付き六角ナット24と、車幅方向外側の貫通孔21に挿入され、アーム部12の雌ねじ孔16に螺合させたフランジ付き六角ボルト23とにより締結されている。
【0020】
フランジ付き六角ボルト23の軸径D1は、ローレットボルト19の軸径すなわち雄ねじ軸17の軸径D2に比べて大きくされている(D1>D2)。一方、フランジ付き六角ボルト23の二面幅(平行な2側面間の幅)S1は、フランジ付き六角ナット24の二面幅S2と同一寸法となっている(S1=S2)。ここでは、フランジ付き六角ナット24に規格品を用いるため、フランジ付き六角ボルト23が規格外の寸法、すなわち軸径D1(ねじの呼び径)に対して規定よりも小さな二面幅S1を有する規格外の寸法に形成される。
【0021】
また、ボールジョイント部材10のアーム部12は、雌ねじ孔16が形成された基端側(車幅方向外側)よりもローレットボルト19が取付けられた先端側(車幅方向内側)の方が薄い段付き形状となっている。そのため、雌ねじ孔16の軸方向長さL1が貫通孔18の軸方向長さよりも長くなっている(L1>L2)。
【0022】
このように構成された取付構造において、ボールジョイント部材10は、次のようにしてロアアーム1に取付けられる。まず、ローレットボルト19が固定されたボールジョイント部材10を、雄ねじ軸17を車幅方向内側の貫通孔22に挿通させてロアアーム1に重ね合わせ、ロアアーム1側からフランジ付き六角ナット24を雄ねじ軸17に螺合させるとともに、ロアアーム1側からフランジ付き六角ボルト23を車幅方向外側の貫通孔21に挿通させて雌ねじ孔16に螺合させる。そして、工具を用いてフランジ付き六角ナット24およびフランジ付き六角ボルト23を締め付ける。これにより、フランジ付き六角ナット24とローレットボルト19とによる締結部と、フランジ付き六角ボルト23と雌ねじ孔16とによる締結部との2箇所で締結され、ボールジョイント部材10とロアアーム1とが一体に接合される。
【0023】
このように、ボールジョイント部材10のロアアーム1への締結部を2箇所にすることにより、従来の3箇所で締結したものに比べてボールジョイント部材10のアーム部12を細くすることができるため、アーム部12およびロアアーム1の大型化および重量化を防止することができる。そして、ボールジョイント部材10とロアアーム1との接合部分が細くなることにより、ロアアーム1とナックル3や前輪4(ホイール)とのクリアランスを大きくすることができるため、前輪4の転向角度(切れ角)を大きくしたり、小さなホイールへの適用を可能にしたりすることができる。
【0024】
また、より大きな荷重が加わる車幅方向外側に配置されたフランジ付き六角ボルト23の軸径D1を、より小さな荷重が加わる車幅方向内側に配置された雄ねじ軸17の軸径D2よりも大きくすることにより、配置に応じた部材の要求性能を満たしつつ、不要に大きな部材の使用回避によりコストの削減を図ることができる。
【0025】
また、アーム部12の車幅方向内側部位に雄ねじ軸17を突設しているため、組み付け時のボールジョイント部材10とロアアーム1との位置合わせが容易になる。そして、フランジ付き六角ナット24およびフランジ付き六角ボルト23の2つの部材を共にロアアーム1側から締め付けるようにしたことで、締め付け箇所が少なく、締め付け作業も容易になる。さらに、フランジ付き六角ボルト23の二面幅S1とフランジ付き六角ナット24の二面幅S2とが同一寸法であるため、工具の交換を行うことなく両部材を締め付けることができ、締め付け作業の一層の容易化が図られている。
【0026】
一方、アーム部12における車幅方向内側の貫通孔18が形成された部分が、車幅方向外側の雌ねじ孔16が形成された部分よりも薄く形成されたことにより、応力が集中する部分のアーム部12の強度を確保するとともに、雌ねじ孔16部分の厚さを厚くして雌ねじ孔16の要求せん断強度を確保することができる。また、アーム部12の車幅方向内側の貫通孔18が形成された部分を薄くしたことで、ボールジョイント部材10の小型化および軽量化が実現される。さらに、雄ねじ軸17がローレットボルト19により形成されたことで、アーム部12への雄ねじ軸17の形成が容易になる。
【0027】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、ボールジョイント部材10のロアアーム1への取付構造を、前輪のストラット式サスペンションに適用しているが、後輪のサスペンションや、ダブルウィッシュボーン式やマルチリンク式など他の方式のサスペンションに適用することも可能である。また、上記実施形態では、ボールジョイント部材10に形成される雄ねじ軸17を、ローレットボルト19により形成しているが、アーム部12に固定可能なウェルトボルトやスタッドボルトにより形成してもよい。さらに、上記実施形態では、フランジ付き六角ナット24に規格品を用い、フランジ付き六角ボルト23を規格外の寸法に形成しているが、フランジ付き六角ボルト23に規格品を用い、フランジ付き六角ナット24を、ねじの呼び径に対して規定よりも大きな二面幅S2を有する規格外の寸法に形成してもよい。加えて、ボルトおよびナットとしてフランジ付き六角ボルト23およびフランジ付き六角ナット24を用いる代わりに、フランジの無いものや、四角や八角のボルトおよびナットを用いていもよい。その他、ロアアーム1やボールジョイント部材10の形状などの具体的構成についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 ロアアーム
3 ナックル
10 ボールジョイント部材
11 ボールジョイント部
12 アーム部
16 雌ねじ孔
17 雄ねじ軸
19 ローレットボルト
21 貫通孔(車幅方向外側)
22 貫通孔(車幅方向内側)
23 フランジ付き六角ボルト
24 フランジ付き六角ナット
D1 軸径(フランジ付き六角ボルト23)
D2 軸径(雄ねじ軸17)
S1 二面幅(フランジ付き六角ボルト23)
S2 二面幅(フランジ付き六角ナット24)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナックルを支持するボールジョイント部と該ボールジョイント部から車幅方向に延出するアーム部とを有するボールジョイント部材を、ロアアームに取付けるためのボールジョイント部材の取付構造であって、
前記ボールジョイント部材の前記アーム部には、車幅方向外側に雌ねじ孔が形成されるとともに、車幅方向内側に雄ねじ軸が突設され、
前記ロアアームには、前記雌ねじ孔と前記雄ねじ軸とに対応する位置に貫通孔が形成され、
前記ボールジョイント部材と前記ロアアームとは、車幅方向内側の前記貫通孔に挿通され前記雄ねじ軸に螺合するナットと、車幅方向外側の前記貫通孔に挿入され、前記雌ねじ孔に螺合するボルトとにより締結され、
前記ボルトの軸径は前記雄ねじ軸の軸径に比べて大きく、且つ前記ボルトの二面幅と前記ナットの二面幅とが同一であることを特徴とするボールジョイント部材の取付構造。
【請求項2】
前記アーム部における前記車幅方向内側の貫通孔が形成された部分が、前記アーム部における前記車幅方向外側の貫通孔が形成された部分よりも薄く、
前記雄ねじ軸がローレットボルトにより形成されることを特徴とする、請求項1に記載のボールジョイント部材の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−140115(P2012−140115A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1152(P2011−1152)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】