説明

ボールスプライン付きボールねじ

【課題】 スプライン用ボールのねじみぞへの落ち込みの解消が図られたボールスプライン付きボールねじを提供する。
【解決手段】 スプライン用ボール5は、ねじ用ボールよりも大きく形成されている。これにより、スプライン用ボール5がおねじみぞ6に嵌まった場合、このスプライン用ボール5に隣り合うスプライン用ボール5から受ける力は、図にPで示すように、おねじみぞ6の肩部6bを越える方向に向く。これにより、おねじみぞ6に嵌まったスプライン用ボール5がおねじみぞ6から抜け出すことができる。スプライン用ボール5の径とねじ用ボールの径との差は、ねじ用ボールの径の5%以上とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールスプライン付きボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールスプライン付きボールねじとして、ねじみぞおよびスプラインみぞが互いに交差するように外周面に形成されたねじ軸と、ねじ軸が通されてねじ軸のねじみぞに対応するねじ用ボール循環路が形成されたねじナットと、ねじナットのねじ用ボール循環路に配設された複数のねじ用ボールと、ねじ軸が通されてねじ軸のスプラインみぞに対応するスプライン用ボール循環路が形成されたスプライン外筒と、スプライン外筒のスプライン用ボール循環路に配設された複数のスプライン用ボールとを備えているものが知られており(特許文献1参照)、このようなボールスプライン付きボールねじは、電動アクチュエータ用や緩衝器用としてよく使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−300106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示されているようなボールスプライン付きボールねじでは、スプラインみぞとねじみぞとが交差している部分がねじ軸に存在し、スプラインみぞに比べてねじみぞの方が深く形成されていることから、スプラインみぞに沿って移動中のスプライン用ボールが交差部においてねじみぞに落ち込む可能性がある。そのため、ボールスプライン部分では、保持器によってスプライン用ボールを保持することで、その径方向内方への移動を防止するようにしているが、スプライン用ボールがねじみぞに落ち込むと、スプライン用ボールがスプラインみぞに沿って移動を続けることができなくなり、ボールスプライン機能が停止してしまうことから、スプライン用ボールがねじみぞに落ち込む可能性の解消が望まれている。
【0005】
この発明の目的は、スプライン用ボールのねじみぞへの落ち込みの解消が図られたボールスプライン付きボールねじを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるボールスプライン付きボールねじは、ねじみぞおよびスプラインみぞが互いに交差するように外周面に形成されたねじ軸と、ねじ軸が通されてねじ軸のねじみぞに対応するねじ用ボール循環路が形成されたねじナットと、ねじナットのねじ用ボール循環路に配設された複数のねじ用ボールと、ねじ軸が通されてねじ軸のスプラインみぞに対応するスプライン用ボール循環路が形成されたスプライン外筒と、スプライン外筒のスプライン用ボール循環路に配設された複数のスプライン用ボールとを備えているボールスプライン付きボールねじにおいて、スプライン用ボールは、ねじ用ボールよりも大きく形成されており、スプライン用ボールの径とねじ用ボールの径との差は、ねじ用ボールの径の5%以上とされていることを特徴とするものである。
【0007】
ボールスプライン付きボールねじにおいては、ねじみぞとスプラインみぞとの交差部では、ねじみぞの最小径がスプラインみぞの最小径よりも小さく(ねじみぞがスプラインみぞよりも深く)形成されており、スプライン用ボールは、通常、樹脂製の保持器に形成されたポケットによって、その径方向内方への移動が防止されている。これにより、スプライン用ボールは、交差部の通過時(ねじみぞの横断時)にねじみぞに落ち込むことが防止され、スプラインみぞに沿って移動する。樹脂製の保持器は、経年変化によって、スプライン用ボールを保持する力が弱くなる可能性があり、この場合、スプライン用ボールが、ねじみぞの横断時にポケットから抜けてねじみぞへ落ち込む可能性がある。スプライン用ボールがねじみぞに落ち込んで抜け出せない場合には、ねじ軸とスプライン外筒との相対直線移動が阻害されたロック状態となる。
【0008】
そこで、この発明では、スプライン用ボールは、ねじ用ボールよりも大きく形成される。このようにすると、ねじ用ボールに対応して形成されたねじみぞの寸法よりも、スプライン用ボールの寸法の方が大きくなる。これにより、スプライン用ボールがねじみぞを横断する際に、スプライン用ボールはねじみぞに落ち込みにくくなる。スプライン用ボールの径とねじ用ボールの径との差は、ねじ用ボールの径の5%以上あれば、スプライン用ボールが移動中にねじみぞに落ち込むことが確実に防止され、ボールスプラインがロック状態となることを防止することができる。
【0009】
ねじ用ボールの径は、ボールスプライン付きボールねじの使用条件により決定される。スプライン用ボールの径の上限は、スプライン外筒の内径によって決定され、例えば、(スプライン用ボールの径−ねじ用ボールの径)がねじ用ボールの径の15%以下とされる。例えば、スプライン用ボールの径を3.5mm、ねじ用ボールの径を3.175mmとすれば、この条件が満たされる。
【0010】
スプライン用ボールについては、トルク容量確保の点から接触角が所定値以上であることが必要であり、この条件も考慮しての適正化がより好ましい。具体的には、スプライン用ボールの径をD、ねじ用ボールの径をd、スプラインみぞ上のねじみぞの幅をAとして、スプライン用ボールの径Dが次式を満たしているものとされる。
【0011】
3√2A/4<D<(1+√2/2)d。
【0012】
ボールスプライン付きボールねじにおいては、スプラインみぞに比べてねじみぞの方が深く形成されていることから、スプラインみぞの底面を基準面にすると、ねじみぞは、この基準面よりも凹んだ断面円弧状のみぞとなっている。このみぞの幅をスプラインみぞ上のねじみぞの幅Aというものとする。
【0013】
3√2A/4<Dは、あるスプライン用ボールが移動中にねじみぞに嵌まった場合に、このスプライン用ボールに隣り合って移動しているスプライン用ボールから受ける力によって、ねじみぞから抜け出すことが可能な条件から求められたものである。この条件を確保することにより、スプライン用ボールのねじみぞへの落ち込みが防止される。落ち込み防止のためだけからすると、この条件だけで十分であるが、スプライン用ボールの径を大きくし過ぎると、ボールスプラインのトルク容量が不十分なものとなる可能性があるので、トルク容量を維持するという点から、スプライン用ボールの最大径を規定することが好ましい。
【0014】
D<(1+√2/2)dは、ボールねじの接触角60°を確保するとともに、ボールスプラインの接触角45°を確保するための条件から求められたもので、この条件を確保することにより、上記のスプライン用ボールのねじみぞへの落ち込み防止による信頼性を向上することができるとともに、ボールスプライン付きボールねじのねじ軸の直線移動に際して、ねじ軸の回転を防止するためのトルク容量も十分確保することができる。
【0015】
ねじみぞの数は、1条でもよく、2条でもよく、それより多くてもよい。
【0016】
ねじ軸、ねじナットおよびスプライン外筒本体は、例えば、S45C,S55Cなどの炭素鋼製あるいはSAE4150鋼製とされ、また、ボールは、例えば、軸受鋼(SUJ2)製とされる。
【0017】
この発明によるボールスプライン付きボールねじは、アクチュエータ(モータによってねじナットが回転させられ、これにより、ねじ軸が直線移動する形態)として使用されることがあり、緩衝器(ねじ軸が外部からの力によって直線移動させられ、これにより、ねじナットが回転し、モータが発生する電磁力が減衰力となる形態)として使用されることがある。
【0018】
アクチュエータや緩衝器で使用される場合には、例えば、ボールスプライン付きボールねじと、ねじナットに一体化された中空軸と、軸受を介して中空軸を回転可能に支持するとともにスプライン外筒を支持するハウジングと、中空軸に固定されたモータロータおよびハウジング内径に固定されたモータステータからなるモータとを備えているものとされる。
【発明の効果】
【0019】
この発明のボールスプライン付きボールねじによれば、スプライン用ボールは、ねじ用ボールよりも大きく形成されており、スプライン用ボールの径とねじ用ボールの径との差は、ねじ用ボールの径の5%以上とされているので、スプライン用ボールが、ねじみぞの横断時にねじみぞへ落ち込むことが防止され、ボールスプライン機能が停止することはない。また、ポケットからスプライン用ボールが抜けることを重要視する必要がないので、保持器の設計を容易とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、この発明の1実施形態を示すボールスプライン付きボールねじの主要部の縦断面図である。
【図2】図2は、図1のII−II線の拡大断面図である。
【図3】図3は、図1の要部を拡大してスプライン用ボールがねじみぞに嵌った状態を示す図である。
【図4】図4は、スプライン用ボールの径Dが満たすべき第1の関係を説明する図である。
【図5】図5は、スプライン用ボールの径Dが満たすべき第2の関係を説明する図である。
【図6】図6は、従来のボールスプライン付きボールねじの問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0022】
ボールスプライン付きボールねじは、左右方向にのびる鋼製ねじ軸(1)、ねじナット(2)、スプライン外筒(3)、多数のねじ用ボール(4)および多数のスプライン用ボール(5)を備えている。
【0023】
ねじ軸(1)は横断面円形の中実軸であり、ねじ軸(1)の外周面に、おねじみぞ(ねじみぞ)(6)と、軸方向(左右方向)にのびる複数の直線状スプラインみぞ(7)が形成されている。
【0024】
ねじナット(2)は、円筒状の金属製ナット本体(8)と、ナット本体(8)の軸方向両端面に取り付けられた1対の環状の合成樹脂製エンドキャップ(9)とを備えている。エンドキャップ(9)は、互いに同一形状の短円筒状の環体よりなり、ナット本体(8)の軸方向両端面に図示しないボルトなどの連結具を用いて固定されている。ナット(2)は、ねじ軸(1)の外周に径方向に若干の隙間をあけてはめられている。
【0025】
ナット本体(8)の内周面に、おねじみぞ(6)に対応するねじみぞ(めねじみぞ)(10)が形成されている。ナット本体(8)のめねじみぞ(10)とこれに対向するねじ軸(1)のおねじみぞ(6)との対向空間が、ねじ用ボール(4)が転動する主通路(11)となっている。ナット本体(8)の周壁に、戻し通路(12)が形成されている。戻し通路(12)は、ナット本体(8)を軸方向全長にわたって貫通する断面円形の貫通穴よりなる。
各エンドキャップ(9)のナット本体(8)側の端面に、主通路(11)と戻し通路(12)を連通させるみぞ状の方向転換路(13)が形成されている。
【0026】
ねじ用ボール(4)は、主通路(11)、戻し通路(12)および方向転換路(13)内に配設され、主通路(11)を転動するねじ用ボール(4)がねじ軸(1)とねじナット(2)の相対回転を案内するようになっている。主通路(11)、戻し通路(12)および方向転換路(13)により、ねじ用ボール循環路が構成されている。
【0027】
スプライン外筒(3)は、略円筒状の金属製外筒本体(14)と、外筒本体(14)の内周に固定された略円筒状の保持器(15)とを備えている。外筒(3)は、ねじ軸(1)の外周に径方向に若干の隙間をあけてはめられている。
【0028】
外筒本体(14)の内周面に、ねじ軸(1)のスプラインみぞ(7)に対応する複数の直線状スプラインみぞ(16)が形成されている。
【0029】
外筒本体(14)のスプラインみぞ(16)に対応する保持器(15)の部分に、両スプラインみぞ(7)(16)間を転動するスプライン用ボール(5)を保持するポケット(17)が形成されている。ポケット(17)を介して対向する両スプラインみぞ(7)(16)間の空間が、スプライン用ボール(5)が転動する主通路(18)となっている。保持器(15)には、外筒本体(14)との間に、主通路(18)の左右両端部と連通する戻し通路(19)が形成されている。
【0030】
保持器(15)の各ポケット(17)は、その径方向外方側の開口が径方向内方側の開口よりも大きいテーパ状とされており、その径方向中間部分がスプライン用ボール(5)の径と等しくされていることで、スプライン用ボール(5)が主通路(18)を転動可能な位置に保持され、それ以上の径方向内方への移動が防止されている。
【0031】
スプライン用ボール(5)は、主通路(18)および戻し通路(19)内に配設され、主通路(18)を転動するスプライン用ボール(5)がねじ軸(1)とスプライン外筒(3)の相対直線運動を案内するようになっている。主通路(18)および戻し通路(19)により、スプライン用ボール循環路が構成されている。スプライン用ボール循環路は、全部で6つ設けられており、1対の主通路(18)同士が互いに接近して設けられ、1対の主通路(18)のうち反時計方向側にあるものについてはその反時計方向側に戻し通路(19)が設けられ、時計方向側にあるものについてはその時計方向側に戻し通路(19)が設けられることで、1対のスプライン用ボール循環路が形成され、これが周方向に等間隔で計3対配置されている。
【0032】
上記の状態で、ねじナット(2)を回転させることにより、ねじ軸(1)がスプライン外筒(3)を案内にして、回転はせずに、軸方向に直線移動する。このとき、ねじナット(2)の部分では、主通路(11)を転動していたねじ用ボール(4)が、一方のエンドキャップ(9)の方向転換路(13)で方向転換されてナット本体(8)の戻し通路(12)に導入され、戻し通路(12)内を他方のエンドキャップ(9)側に移動し、戻し通路(12)を移動してきたねじ用ボール(4)が、他方のエンドキャップ(9)の方向転換路(13)で方向転換されて、主通路(11)に導入される。これにより、ねじ用ボール(4)は、ねじ用ボール循環路を循環させられる。スプライン外筒(3)の部分では、主通路(18)を転動していたスプライン用ボール(5)が、主通路(18)の一端部から戻し通路(19)に導入されて、戻し通路(19)内を主通路(18)の他端部側に移動し、主通路(18)の他端部に導入される。これにより、スプライン用ボール(5)が、スプライン用ボール循環路を循環させられる。
【0033】
上記のボールスプライン付きボールねじは、スプライン外筒(3)を軸方向の一定位置に回転も移動もしないように固定し、ねじナット(2)を軸方向の一定位置において回転はするが移動はしないように支持した状態で使用される。ここで、ねじ軸(1)の回転を防止するボールスプラインにおけるスプライン用ボール(5)が転動する主通路(18)は、ねじ用ボール(4)が転動する主通路(11)に比べると、ボール(5)と主通路(18)との隙間が小さいものとされており、したがって、ねじ軸(1)においては、スプラインみぞ(7)に比べておねじみぞ(6)の方が深く形成されている。すなわち、スプラインみぞ(7)は、おねじみぞ(6)の底面(6a)よりも径が大きい底面(7a)と、この底面(7a)上にあるスプライン用ボール(5)を保持するための肩部(7b)とを有しており、おねじみぞ(6)は、スプラインみぞ(7)の底面(7a)よりも深い底面(6a)と、交差部においてスプラインみぞ(7)の底面(7a)を形成している部分である肩部(6b)とを有している。
【0034】
このため、従来のボールスプライン付きボールねじでは、おねじみぞ(6)とスプラインみぞ(7)との交差部では、図6に示すように、スプラインみぞ(7)に沿って移動中のスプライン用ボール(25)がおねじみぞ(6)に落ち込む可能性がある。このスプライン用ボール(25)のおねじみぞ(6)への落ち込みは、通常状態では、スプライン外筒(3)の保持器(15)によって防止されるが、経年変化によって、スプライン用ボール(25)を保持する力が弱くなっていたり、スプライン用ボール(25)に径方向内向きの大きな力が作用した場合に、このような落ち込みが起きることがあり、この場合において、隣り合うスプライン用ボール(25)から受ける力が同図にQで示すように、おねじみぞ(6)内のスプライン用ボール(25)をおねじみぞ(6)に押し付ける方向であると、おねじみぞ(6)に嵌まったスプライン用ボール(25)がおねじみぞ(6)から抜け出すことができなくなって、スプライン機能がロックするという問題が生じる。
【0035】
この問題を解消するために、この発明によるボールスプライン付きボールねじでは、図3に示すように、おねじみぞ(6)の大きさ(ねじ用ボール(4)の径dにほぼ等しい)に対してスプライン用ボール(5)の径Dを大きくすることにより、上記落ち込みが防止されている。すなわち、この発明によるボールスプライン付きボールねじでは、スプライン用ボール(5)がおねじみぞ(6)に嵌まった場合、このスプライン用ボール(5)に隣り合うスプライン用ボール(5)から受ける力が同図にPで示すように、おねじみぞ(6)の肩部(6b)を越える方向に向くようになされており、これにより、おねじみぞ(6)に嵌まったスプライン用ボール(5)がおねじみぞ(6)から抜け出すことができる。
【0036】
落ち込みを防止するには、スプライン用ボール(5)の径を大きくすればよく、具体的には、ねじ用ボール(4)の径(ボールスプライン付きボールねじの使用条件により決定される)dを基準として、(スプライン用ボール(5)の径D−ねじ用ボール(4)の径d)がねじ用ボール(4)の径dの5%以上とされる。この値に設定することで、スプライン用ボール(5)が移動中におねじみぞ(6)に落ち込むことが確実に防止され、ボールスプラインがロック状態となることを防止することができる。
【0037】
なお、スプライン用ボール(5)の径Dの上限は、スプライン外筒(3)の内径によって決定され、例えば、(スプライン用ボール(5)の径D−ねじ用ボール(4)の径d)がねじ用ボール(4)の径dの15%以下とされる。例えば、スプライン用ボール(5)の径Dを3.5mm、ねじ用ボール(4)の径dを3.175mmとすれば、上記の条件が満たされる。
【0038】
また、スプライン用ボール(5)については、トルク容量確保の点から接触角が所定値以上であることが必要であり、この条件も考慮しての適正化がより好ましい。
【0039】
この適正化の条件は、スプライン用ボールの径をD、ねじ用ボールの径をd、スプラインみぞ上のねじみぞの幅をAとして、スプライン用ボールの径Dが式:3√2A/4<D<(1+√2/2)dを満たしていることであり、これを図4および図5を用いて説明する。
【0040】
まず、図4において、スプラインみぞ(7)上のおねじみぞ(6)の幅をA、隣り合うスプライン用ボール(5)の中心同士をつなぐ線とスプラインみぞ(7)とがなす角をθとすると、Dsinθ/2がスプライン用ボール(5)の中心とスプラインみぞ(7)との距離であり、Dcosθ=Aが成り立つ。ここで、隣り合うスプライン用ボール(5)の中心同士をつなぐ線がおねじみぞ(6)の肩部(図にFで示す点)にちょうど当たるときには、スプライン用ボール(5)の中心とスプラインみぞ(7)との距離は、半径D/2の1/3のD/6となる。Dsinθ/2がD/6よりも大きいことが、図に矢印で示す力の方向(OからFに向かう方向)が肩部(図にFで示す点)を越える方向に向くための条件で、この条件は、三角形OEFにおいて、(D/2)−(A/2)の平方根がD/6より大きければよいという条件と同じであり、これから、D>3√2/4が得られる。
【0041】
次いで、図5において、ねじ用ボール(4)がおねじみぞ(6)内にちょうど収まっているときの接触角をαとし、スプライン用ボール(5)がスプラインみぞ(7)にちょうど収まっているときの接触角をβとする。そして、αを60°以上確保するととともにβを45°以上確保するとすると、おねじみぞ(6)の深さ(肩部(6b)から底面(6a)までの距離)hは、ねじ用ボール(4)の径をd(半径をd/2)として、d(1−cos60°)/2よりも大きくすることが必要であり、スプラインみぞ(7)の肩部(7b)の高さHは、スプライン用ボール(5)の径をD(半径をD/2)として、D(1−cos45°)/2よりも大きくすることが必要である。ここで、おねじみぞ(6)の底面からスプラインみぞ(7)の肩部(7b)までの距離は、ねじ用ボール(4)の半径(d/2)以下であることが必要なので、これらの条件(d/2−h>H)からd/2−d(1−cos60°)/2>D(1−cos45°)/2とすることが好ましく、これを整理すると、D<(1+√2/2)dが得られる。
【0042】
結局、上記図4および図5の両方を満たす3√2A/4<D<(1+√2/2)dとすることが、トルク容量を確保して、スプライン用ボール(5)がおねじみぞ(6)に落ち込まないようにする適正条件となる。
【符号の説明】
【0043】
(1) ねじ軸
(2) ねじナット
(3) スプライン外筒
(4) ねじ用ボール
(5) スプライン用ボール
(6) おねじみぞ(ねじみぞ)
(7) スプラインみぞ
(10) めねじみぞ
(16) スプラインみぞ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじみぞおよびスプラインみぞが互いに交差するように外周面に形成されたねじ軸と、ねじ軸が通されてねじ軸のねじみぞに対応するねじ用ボール循環路が形成されたねじナットと、ねじナットのねじ用ボール循環路に配設された複数のねじ用ボールと、ねじ軸が通されてねじ軸のスプラインみぞに対応するスプライン用ボール循環路が形成されたスプライン外筒と、スプライン外筒のスプライン用ボール循環路に配設された複数のスプライン用ボールとを備えているボールスプライン付きボールねじにおいて、
スプライン用ボールは、ねじ用ボールよりも大きく形成されており、スプライン用ボールの径とねじ用ボールの径との差は、ねじ用ボールの径の5%以上とされていることを特徴とするボールスプライン付きボールねじ。
【請求項2】
スプライン用ボールの径をD、ねじ用ボールの径をd、スプラインみぞ上のねじみぞの幅をAとして、スプライン用ボールの径Dが次式を満たしていることを特徴とする請求項1のボールスプライン付きボールねじ。
3√2A/4<D<(1+√2/2)d。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−112206(P2011−112206A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271724(P2009−271724)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】