説明

ポリアクリロニトリル系共重合体およびその製造方法、ならびに炭素繊維前駆体繊維、炭素繊維

【課題】優れた耐炎化反応促進性と優れた炭素繊維物性を同時に満足するポリアクリロニトリル系共重合体と、炭素繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】アクリロニトリルと、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを共重合して得られるポリアクリロニトリル系共重合体であり、アクリロニトリルを少なくとも95モル%以上と、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを0.05〜2.5モル%を含むとき、示差走査熱量計により測定される発熱開始温度Tが210℃以下であると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアクリロニトリル系共重合体およびその製造方法、ならびにそれからなる炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強度および比弾性率を有するため、複合材料用補強繊維として、従来からのスポーツ用途や航空・宇宙用途に加え、自動車、土木・建築、圧力容器および風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されつつあり、更なる高性能化と低コスト化両立の要請が高い。
【0003】
炭素繊維の中で、最も広く利用されているポリアクリロニトリル(以下、PANと略記することがある。)系炭素繊維は、その前駆体となるPAN系重合体からなる紡糸溶液を湿式紡糸、乾式紡糸または乾湿式紡糸して炭素繊維前駆体繊維(以下、前駆体繊維と略記することがある。)を得た後、それを200〜400℃の温度の酸化性雰囲気下で加熱して耐炎化繊維に転換し、少なくとも1000℃の温度の不活性雰囲気下で加熱して炭素化することによって工業的に製造されている。
【0004】
PAN系炭素繊維の生産性向上は、炭素繊維前駆体繊維の紡糸、耐炎化あるいは炭素化のいずれの観点からも行われている。その中で、耐炎化は発熱反応であるため、発熱暴走を抑えるためには反応温度を制御して長時間処理するか、PAN系炭素繊維前駆体繊維の単繊維繊度を特定の値以下の細繊度に限定する必要があり、現行の耐炎化プロセスは十分効率的なプロセスとは言い難い。
【0005】
このような問題を解決する手段の一つとして、アクリロニトリルに、アクリル酸、イタコン酸およびアクリルアミドなどを共重合することにより耐炎化反応速度を制御する方法が知られている(非特許文献1参照。)。しかしながら、これらの共重合組成比を上げると単繊維同士の接着発生の増加を誘起し、炭素繊維の品位および物性の低下がおこる。
【0006】
また、アクリロニトリルと共重合可能なモノマーとしてジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドが提案されている(特許文献1参照。)が、この提案では耐炎化反応促進の効果について詳細な記載は無く、共重合量も10重量%以下と一般的に知られた値である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「高分子加工」1993年、第42巻12号、p574
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59−130320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の背景に鑑み、従来技術では難しかった優れた耐炎化反応促進性と優れた炭素繊維物性を同時に満足する、ポリアクリロニトリル系共重合体組成物およびその製造方法、ならびにそれを用いた炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決せんとするものであり、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、アクリロニトリルと、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを共重合して得られるものであり、好ましくはアクリロニトリルを95〜99.95モル%と、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを0.05〜2.5モル%を含むとき、示差走査熱量計により測定される発熱開始温度Tが210℃以下であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体の製造方法の一態様は、アクリロニトリルと、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを共重合するものである。また、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体の製造方法の別の一態様は、アクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸の共重合体と、ジメチルアミノプロピルアミンとを反応させるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアクリロニトリル系重合体によれば、共重合組成比が従来物質より少なくても耐炎化反応開始点が有意に低いポリアクリロニトリル系共重合体を得ることができる。このポリアクリロニトリル系共重合体を炭素繊維前駆体繊維として用いることによって、耐炎化処理工程の低温化もしくは高速化が実現でき、低コストで品位のよい炭素繊維を効率よく製造することが可能である。
【0013】
また、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体の製造方法によれば、上記のポリアクリロニトリル系共重合体を効率よく製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定したポリアクリロニトリル共重合体の発熱挙動の一例を示す図(グラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、アクリロニトリルに共重合する化合物の選択、および共重合組成比を特定の範囲に制御することにより、炭素繊維物性を高強度に維持しながら、耐炎化工程における生産性を向上できることを見出し、本発明に到達した。
【0016】
本発明におけるポリアクリロニトリル系共重合体(以下、単にPAN系共重合体と記述することがある。)は、アクリロニトリルと、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを共重合して得られるポリアクリロニトリル系重合体である。
【0017】
本発明において、アクリロニトリルの共重合成分として、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを用いることにより、耐炎化反応を従来に比べ低い温度から開始させることができ、その結果、耐炎化反応を短時間で終了させることができ、生産性を向上させることができる。また、従来と同じ耐炎化時間で終了させることができる共重合成分量を少なくすることができ、高い耐熱性を付与することができ、耐炎化工程における単糸間接着を抑制することができる。ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドの共重合量としては、アクリロニトリル95〜99.95モル%に対し、0.05〜2.5モル%が好ましい態様である。共重合成分量を0.05モル%より少なくすると、耐炎化反応の進行が遅くなり、本発明の効果が得られなくなることがある。一方、共重合成分量が2.5モル%を超えるとポリマーの耐熱性が不十分となり、単糸間接着による炭素繊維物性低下が顕著となることがある。共重合成分量としては0.07〜1.5モル%がより好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.5モル%である。
【0018】
また、本発明のPAN系共重合体は、2種以上の共重合成分を用いることもでき、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびジメチルアミノプロピルメタクリルアミド以外のアクリロニトリルと共重合可能なビニル化合物を加えて共重合することも可能である。共重合することができるモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。
【0019】
本発明においては、上記のように、アクリロニトリル95〜99.95モル%に対し、共重合成分であるジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドの量は0.05〜2.5モル%であるが、モノマー量が不足するときには、必要に応じて上記のその他の共重合成分(モノマー)を追加して共重合させることができる。
【0020】
本発明におけるPAN系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10〜100万であり、より好ましくは20〜65万であり、さらに好ましくは30〜50万である。また、本発明のPAN系共重合体の分散度は重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnで表され、好ましくは1.5〜10であり、より好ましくは1.8〜6であり、さらに好ましくは2〜4である。
【0021】
本発明において、各種平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定され、ポリスチレン換算値として得られるものである。重量平均分子量(Mw)が100万を超えるとゲル化しやすくなり、安定した紡糸が困難になることがある。一方、重量平均分子量(Mw)10万を下回ると製糸工程における糸切れが発生しやすくなるという問題がある。Mw/Mnについても10を上回ると低分子量成分が多分に含まれるため、焼成時の糸切れが発生しやすくなる。
【0022】
本発明において発熱開始温度とは、図1に示すように、示差走査熱量計(以下、単にDSCと記述することがある。)を用いて、空気雰囲気中で10℃/分の昇温速度で測定した発熱曲線から求めたものであって、200〜300℃付近に現れる発熱ピークの立ち上がり点(ベースラインから0.2W/g発熱した点)の温度と定義する。
【0023】
耐炎化発熱とは、PANが酸化性気体中で熱酸化反応を受け、耐炎化構造に変化する際に発する熱のことである。発熱量が除熱量を上回ると反応を制御しきれず、糸切れの原因となることがある。
【0024】
発熱開始温度が低くなるとPANの熱分解温度との差が大きくなり、除熱の余裕ができることになるので、防災上の観点から非常に有利である。また、低温で耐炎化処理ができると耐炎化炉からの放熱量を少なくすることができるので、熱効率の観点からも有利である。
【0025】
発熱開始温度が210℃を超えると、耐炎化工程を効率化するにあたり除熱の余裕が不十分である。また、発熱開始温度が170℃より低くなると重合時およびポリマー保管時に耐炎化反応が発生してしまうことがあるため、保管安定性および防災面で問題となる場合がある。そのため発熱開始温度は170〜210℃が好ましく、さらに好ましくは175〜205℃である。
【0026】
次に、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体の製造方法について説明する。
【0027】
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体の製造方法の一態様は、アクリロニトリルと、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを共重合するものである。
【0028】
本発明において、PAN系共重合体を製造するための重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法などから選択することができるが、アクリロニトリルや共重合成分を均一に重合する目的からは、溶液重合法を用いることが好ましい。溶液重合法を用いて重合する場合、溶媒としては、例えば、塩化亜鉛水溶液、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどPANが可溶な溶媒が好適に用いられる。中でも、PAN系共重合体の溶解性の観点から、ジメチルスルホキシドを用いることが好ましい。
【0029】
また、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体の製造方法の別の一態様は、アクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸の共重合体と、ジメチルアミノプロピルアミンとを反応させるものである。
【0030】
この製造方法では、まず、アクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸の共重合体を用意する。このような共重合体は、炭素繊維前駆体繊維に好適なアクリロニトリル共重合体として公知であり、例えば特開2002−145960号公報など多くの文献にその製造方法とともに開示されている。
【0031】
次に、上記したアクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸の共重合体と、ジメチルアミノプロピルアミンとを反応させる。すなわち、不飽和カルボン酸に由来する共重合体中のカルボキシル基と、ジメチルアミノプロピルアミンの1級アミノ基とを反応させ、アミド化するのである。
【0032】
例えば、不飽和カルボン酸としてアクリル酸を用いた共重合体と、ジメチルアミノプロピルアミンとの反応は次の式のようになる。
【0033】
【化1】

【0034】
同様に、不飽和カルボン酸としてメタクリル酸を用いた共重合体と、ジメチルアミノプロピルアミンとの反応は次の式のようになる。
【0035】
【化2】

【0036】
上記(1)、(2)の反応式では、共重合体のカルボキシル基全部をジメチルアミノプロピルアミンと反応させた式を示しているが、カルボキシル基の一部を残すように反応させても良い。
【0037】
不飽和カルボン酸としては、上記したアクリル酸、メタクリル酸が最も好ましい。また、アクリル酸とメタクリル酸を合わせて用いることも可能である。また、これら以外の不飽和カルボン酸としては、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などを用いることができる。
【0038】
アクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸の共重合体と、ジメチルアミノプロピルアミンとの反応の好ましい態様について説明する。
【0039】
アクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸の共重合体におけるアクリロニトリル、不飽和カルボン酸の比率は、アクリロニトリルが95〜99.95モル%、不飽和カルボン酸が0.05〜5モル%とするのが好ましい。不飽和カルボン酸が0.05モル%より少ない場合、耐炎化反応が遅くなり低温での耐炎化が進行しにくいことがある。また、5モル%を越える場合は、ポリマーの耐熱性が不十分となり、単糸間接着による炭素繊維物性低下が見られることがある。共重合成分量としては0.07〜3.0モル%がより好ましく、さらに好ましくは0.1〜2.0モル%、最も好ましくは0.1〜1モル%である。
【0040】
また、アクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸の共重合体としては、不飽和カルボン酸以外のアクリロニトリルと共重合可能なビニル化合物を共重合したものも使用できる。このような共重合可能なビニル化合物としては、不飽和カルボン酸の金属塩、アンモニウム塩およびアルキルエステル、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。
【0041】
アクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸の共重合体と、ジメチルアミノプロピルアミンとの反応にあたって、両者の質量比は、共重合体中に存在するカルボキシル基1モルに対して、ジメチルアミノプロピルアミンが0.5〜5モルとするのが好ましい。反応を速やかに進める観点から0.8〜4モルがさらに好ましく、さらに望ましくは1.0〜3.0モルである。ジメチルアミノプロピルアミンが5モルを越える場合は、反応は速やかに進むものの、反応後に残存したジメチルアミノプロピルアミンが紡糸性を低下させることがある。また、0.8モルより少ない場合は、反応が速やかに進行しにくい場合や、共重合体を紡糸して得られる炭素繊維前駆体繊維の低温での耐炎化反応が進行しにくいことがある。
【0042】
アクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸の共重合体と、ジメチルアミノプロピルアミンとの反応は、溶液中で行うのが好ましい。溶媒としては、両者の共通溶媒であるジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0043】
アクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸の共重合体と、ジメチルアミノプロピルアミンとの反応温度は、100〜220℃が好ましい。より好ましくは130〜220℃、さらに好ましくは140〜180℃である。温度が100℃より低い場合、反応速度が遅く反応時間がかかりすぎることがある。また、220℃を越える場合は、ジメチルアミノプロピルアミンの沸点よりもかなり高温であるので、ジメチルアミノプロピルアミンが系外に留去されてしまい、かえって反応が進行しにくいことがある。
【0044】
次に、本発明の炭素繊維の製造法について説明する。
【0045】
まず、前記したPAN系共重合体を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどPAN系共重合体が可溶な溶媒に溶解し、紡糸溶液とする。溶液重合を用いる場合、重合に用いられる溶媒と紡糸溶媒を同じものにしておくと、得られたポリアクリロニトリル系共重合体を分離し紡糸溶媒に再溶解する工程が不要となる。
【0046】
PAN系共重合体溶液の共重合体濃度は、紡糸溶液に使用する溶媒量により任意に調製することができるが、10〜30質量%の範囲であることが好ましい。共重合体濃度が10質量%未満では溶媒使用量が多くなり経済的でなく、凝固浴内での凝固速度を低下させ内部にボイドが生じて緻密な構造が得られないことがある。一方、共重合体濃度が30質量%を超えると粘度が上昇し、紡糸が困難となる傾向を示す。また、共重合体溶液がゲル化し易くなるため、長時間保管できないこともある。共重合体濃度は、より好ましくは14〜25質量%であり、最も好ましくは18〜23質量%である。
【0047】
本発明において、共重合体濃度とは、PAN系共重合体溶液中に含まれるPAN系共重合体の質量%である。具体的には、PAN系共重合体の溶液を計量した後、PAN系共重合体を溶解せずかつPAN系重合体溶液に用いられる溶媒と相溶性のあるものに、計量したPAN系共重合体溶液を脱溶媒させた後、PAN系共重合体を計量する。共重合体濃度は、脱溶媒後のPAN系共重合体の質量を、脱溶媒する前のPAN系共重合体溶液の質量で割ることにより算出することができる。
【0048】
本発明においては、この本発明のアクリル系共重合体を公知の方法に従って、紡糸、水洗、浴中延伸、油剤付与および乾燥などの工程をへて炭素繊維前駆体繊維に変換する。紡糸は、直接凝固浴中に紡出しても良いし、一度、空気中に紡出した後浴中凝固させても良い。
【0049】
紡出された繊維は、通常、水洗工程で溶媒が除去された後、浴中延伸温度30〜98℃で約2〜6倍に浴中延伸されるが、本発明はこれに限定されない。水洗工程を省略して紡出後、すぐに浴中延伸を行ってから水洗処理しても良い。
【0050】
浴中延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する意味から、油剤を付与することが好ましい。油剤の成分としては、耐熱性の面から、例えば、アミノ変性シリコーンなどの変性シリコーンを含有する油剤が好適である。乾燥工程は、浴中延伸後の糸条をホットドラムなどで乾燥することによって行われるが、乾燥温度および時間等は適宜選択することができる。
【0051】
また、必要に応じて、乾燥緻密化後の糸条を加圧スチーム延伸することも行われる。
得られる炭素繊維前駆体は、通常、連続のマルチフィラメント(束)の形状であり、フィラメント数は好ましくは1,000〜3,000,000本であり、より好ましくは6,000〜36,000本である。単繊維の繊度は、0.5〜1.5dtexであることが好ましい。
【0052】
次に、前記した方法により製造された炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において、好ましくは延伸比0.8〜2.5で延伸しながら、耐炎化処理した後、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において、好ましくは延伸比0.9〜1.5で延伸しながら予備炭化処理し、1,000〜2,000℃の最高温度の不活性雰囲気中において、好ましくは延伸比0.9〜1.1で延伸しながら、炭化処理して炭素繊維を製造する。不活性雰囲気に用いられるガスとしては、窒素、アルゴンおよびキセノンなどを例示することができ、経済的な観点からは窒素が好ましく用いられる。
【実施例】
【0053】
(実施例1〜8、比較例1〜3)
アクリロニトリルと、表1に示した共重合組成(残りはアクリロニトリル)からなる共重合成分を、ジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により、アゾビスイソブチロニトリルを開始剤としてラジカル重合し、ポリアクリロニトリル系共重合体を得た。表1の共重合成分欄に示すDMAPAAはジメチルアミノプロピルアクリルアミド、DMAPMAはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを指す。
【0054】
得られた共重合体を、液体窒素中で凍結粉砕した後、目開き0.5mmの篩いを通し、粉体を得た。得られた粉体を5mg精秤し、BRUKERaxs社製アルミパン大(φ6.7×1.5H)に開放系で充填し、BRUKERaxs社製DSC3100SAを用いて、30mL/分の空気気流中、10℃/分の昇温速度で、30℃の温度から450℃の温度までDSC測定し、200〜300℃付近に現れる発熱ピークの立ち上がり点(ベースラインから0.2W/g発熱した点)に対応する温度を読み取り、発熱開始点T(℃)とした。ベースラインは、発熱ピーク直前の発熱速度が0W/g・sとなった点とした。
【0055】
次に、共重合体の濃度が、ジメチルスルホキシド中20質量%となるように調製し、紡糸原液を作製した。得られた紡糸原液を、目開き0.5μmのフィルター通過後、40℃の温度で、単孔の直径0.15mm、孔数500の紡糸口金を用い、一旦空気中に吐出し、約4mmの空間を通過させた後、3℃の温度にコントロールした35質量%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により凝固糸条とした。このようにして得られた凝固糸条を、常法により水洗した後、60℃の温水中で3.5倍に延伸し、さらにアミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与して単繊維繊度2.6dtexの浴中延伸糸を得た。この浴中延伸糸を、165℃の温度に加熱したローラーを用いて乾燥熱処理を行い、次に145℃の温度の加圧スチーム中で3.7倍延伸し、全延伸倍率が13倍、単繊維繊度が0.7dtex、フィラメント数が500の炭素繊維前駆体繊維を得た。
【0056】
得られた炭素繊維前駆体繊維を6本合糸し、トータルフィラメント数3,000とした上で、240℃の温度の空気中において延伸比1.0で延伸しながらで耐炎化処理した。続いて300〜700℃の温度の窒素雰囲気中において、延伸比1.15で延伸しながら予備炭化処理を行い、さらに最高温度1500℃の窒素雰囲気中において、延伸比を0.99に設定して炭化処理を行い、比重1.80〜1.83の炭素繊維を得た。
【0057】
この際、炭化工程の出側において、走行中の糸条の毛羽数を長さ30mに亘って目視により計測し、その1m当たりの毛羽数を炭化毛羽個数(個/m)として炭化プロセス性を3段階で評価した。
等級○:炭化毛羽個数0〜20個/m
等級△:炭化毛羽個数21個/m以上
等級×:炭化糸切れ。
【0058】
また、得られた炭素繊維について、JIS R7601(1986)「樹脂含浸ストランド試験法」に従って引張強度と引張弾性率を求めた。ここで、測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、ユニオンカーバイド(株)製、”BAKELITE”(登録商標)ERL4221(100質量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3質量部)/アセトン(4質量部)を、炭素繊維に含浸させ、130℃の温度で30分熱間処理し硬化させて作製した。また、ストランドの測定本数は6本とし、各測定結果の算術平均値を、その炭素繊維の引張強度および引張弾性率とした。各結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
DMAPAA:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
DMAPMA:ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド
(実施例9〜15、比較例4)
アクリロニトリルとアクリル酸を、表2に示した組成(残りはアクリロニトリル)で、ジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により、アゾビスイソブチロニトリルを開始剤としてラジカル重合し、アクリロニトリルとアクリル酸の共重合体を含む溶液を得た。
【0061】
得られた共重合体の溶液を、還流冷却器と攪拌機を備えた反応容器に移した後、ジメチルアミノプロピルアミンを、表2に示すように共重合体のカルボキシル基1モルに対して1.0〜2.3モルとなるように添加した後、窒素を流しながら180℃で5時間アミド化反応させて、ポリアクリロニトリル系共重合体を得た。
【0062】
実施例1〜8と同じく、発熱開始温度を測定した。また、同様に炭素繊維前駆体繊維の作製、耐炎化、炭化を行い炭化プロセス性の評価、また。得られた炭素繊維の引張強度、引張弾性率測定を行った。
【0063】
表2に示すように、実施例9〜15では、共重合体の発熱開始温度が低く、かつ、得られた炭素繊維前駆体繊維は炭化プロセス性に優れる。また、引張強度、引張弾性率ともに高い炭素繊維が得られた。
【0064】
(実施例16〜20、比較例5)
アクリロニトリルとメタクリル酸を、表2に示した組成(残りはアクリロニトリル)で、ジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により、アゾビスイソブチロニトリルを開始剤としてラジカル重合し、アクリロニトリルとメタクリル酸の共重合体を含む溶液を得た。
【0065】
得られた共重合体の溶液を、還流冷却器と攪拌機を備えた反応容器に移した後、ジメチルアミノプロピルアミンを、表2に示すように共重合体のカルボキシル基1モルに対して1モルとなるように添加した後、窒素を流しながら180℃で5時間アミド化反応させて、ポリアクリロニトリル系共重合体を得た。
【0066】
実施例1〜8と同じく、発熱開始温度を測定した。また、同様に炭素繊維前駆体繊維の作製、耐炎化、炭化を行い炭化プロセス性の評価、また。得られた炭素繊維の引張強度、引張弾性率測定を行った。
【0067】
表2に示すように、実施例16〜20では、共重合体の発熱開始温度が低く、かつ、得られた炭素繊維前駆体繊維は炭化プロセス性に優れる。また、引張強度、引張弾性率ともに高い炭素繊維が得られた。
【0068】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明では、耐炎化反応開始温度の低いPAN系重合体を炭素繊維前駆体繊維として用いることにより、耐炎化工程で低温又は高速処理を行うことが可能となり、続く炭化工程でも品位の良い炭素繊維を製造することができ有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリルと、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを共重合して得られるポリアクリロニトリル系共重合体。
【請求項2】
アクリロニトリルを95〜99.95モル%と、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを0.05〜2.5モル%含む共重合体であって、示差走査熱量計により測定される発熱開始温度Tが210℃以下であるポリアクリロニトリル系共重合体。
【請求項3】
アクリロニトリルと、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよび/またはジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを共重合することを特徴とする、ポリアクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項4】
アクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸の共重合体と、ジメチルアミノプロピルアミンとを反応させることを特徴とする、ポリアクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のポリアクリロニトリル系共重合体、または、請求項3または4に記載の方法で得られるポリアクリロニトリル系共重合体を、紡糸して得られる炭素繊維前駆体繊維。
【請求項6】
請求項5に記載の炭素繊維前駆体繊維を耐炎化し、炭化して得られる炭素繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2012−17461(P2012−17461A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126935(P2011−126935)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】