説明

ポリアミド系樹脂発泡成形体及びその製造方法

【課題】ポリアミド系樹脂の溶融張力及びポリテトラフルオロエチレン含有粉体の分散性が著しく向上し、且つ発泡成形における成形性が良好で、発泡倍率に優れたポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法及びこの製法で得られるポリアミド系樹脂発泡成形体を提供する。
【解決手段】ポリアミド系樹脂(A)100質量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン粒子及び有機系重合体を含有するポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(B)0.5〜10質量部、並びに発泡剤(C)0.1〜10質量部を含有する混合物を押出機内に供給して溶融混練し、発泡押出しするポリアミド系樹脂発泡成形体を製造する。また、この製法で得られるポリアミド系樹脂発泡成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発泡成形性の改良されたポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法及びこの製法で得られる発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂はその優れた物性によりエンジニアリングプラスチックとして広く用いられているが、その大部分は射出成形に使用されている。より多様なポリアミド樹脂成形品を得るためにブロー成形、押出し成形、発泡成形等による成形への適用が望まれている。しかしながら、ポリアミド樹脂は、一般にこれらの成形法を適用する上で最も重要とされる溶融張力が低い。このため、ブロー成形や押出し成形時にはドローダウンが激しく、発泡成形では均一なセルが得られない等、射出成形以外の成形法では所望の形状の成形品を得ることが難しい。
この改良法として、固有粘度の高い高重合度ポリアミド樹脂を用いる方法、分岐を有するポリアミド樹脂を用いる方法、他の熱可塑性樹脂を配合する方法、更にフィラーを添加する方法等が提案されているが、いずれも改良効果は少ない。
【0003】
特許文献1には、ポリアミド樹脂を始めとする熱可塑性樹脂に対してポリテトラフルオロエチレンを配合して成形性を改良することが提案されている。しかしながら、ポリテトラフルオロエチレンは、ハロゲン原子を含まない一般の熱可塑性樹脂に対して分散性が良好ではなく、この方法では成形性を改良するために多量のポリテトラフルオロエチレンを必要とすること及び成形体の表面外観を損なうという欠点があった。
また特許文献2には、ポリアミド樹脂に対して特定構造のポリテトラフルオロエチレン含有粉体を配合することにより溶融張力を向上させてブロー成形性を向上することが提案されている。しかしながらこの文献にはブロー成形性に関しての記載しかなく、他の成形方法に対する効果は開示されていない。
一方、昨今は材料の軽量化を目的として発泡剤を添加する成形が注目されている。しかしながら、従来ポリアミド樹脂の発泡成形は射出成形法での成形が主流であり、他の成形法での技術開発が望まれている。
【特許文献1】特開平3−183524号公報
【特許文献2】特開2000−290497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ポリアミド系樹脂の溶融張力及びポリテトラフルオロエチレン含有粉体の分散性が著しく向上し、且つ発泡成形における成形性が良好で、発泡倍率に優れたポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法を提供することにある。また、この製法により発泡倍率に優れた発泡成形体を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリアミド系樹脂(A)100質量部に対して、ポリテトラフルオロエチレン粒子及び有機系重合体を含有するポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(B)0.5〜10質量部、並びに発泡剤(C)0.1〜10質量部を含有する混合物を押出機内に供給して溶融混練し、発泡押出しするポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法である。また、本発明はこの製法で得られるポリアミド系樹脂発泡成形体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ポリアミド系樹脂の溶融張力及びポリテトラフルオロエチレン含有粉体の分散性が著しく向上し、且つ発泡成形における成形性が良好で、発泡倍率に優れたポリアミド系樹脂発泡成形体の製造が可能であり、発泡倍率に優れた発泡成形体を得ることができる。
また、本発明のポリアミド系樹脂発泡成形体は低比重であり、得られる成形品の表面性にも優れ軽量化が可能なことから、自動車等の種々の用途に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いるポリアミド系樹脂(A)は、アミノ酸ラクタム又はジアミンとジカルボン酸とから構成される溶融成形可能なポリマー全般が挙げられる。具体的には、以下の(1)〜(3)のような樹脂を例示することができる。
(1)炭素原子数4〜12の有機ジカルボン酸と炭素原子数2〜13の有機ジアミンとの重縮合物、例えばヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ヘキサメチレンジアミンとアゼライン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンセバカミド(6,10ナイロン)、ヘキサメチレンジアミンとドデカンジオン酸との重縮合物であるポリヘキサメチレンドデカノアミド(6,12ナイロン)、ビス−P−アミノシクロヘキシルメタンとドデカンジオン酸との重縮合物であるポリビス(4‐アミノシクロヘキシル)メタンドデカン。
(2)ω−アミノ酸の重縮合物、例えばω−アミノウンデカン酸の重縮合物であるポリウンデカンアミド(11ナイロン)。
(3)ラクタムの開環重合物、例えばε−アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリカプラミド(6ナイロン)、ε−アミノラウロラクタムの開環重合物ポリラウリックラクタム(12ナイロン)。
【0008】
上記の中で、6,6ナイロン、6,9ナイロン及び6ナイロンが好ましく用いられる。
また、本発明では、例えばアジピン酸及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから製造されるポリアミド系樹脂等も使用することもできる。更に、6ナイロンと6,6ナイロンとの混合物のように2種以上のポリアミド系樹脂を混合した物を用いることもできる。
(1)のポリアミド系樹脂は、例えば炭素原子数4〜12の有機ジカルボン酸と炭素原子数2〜13の有機ジアミンとを等モル量で重縮合させることによって製造することができる。
有機ジカルボン酸としては、具体的には、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。有機ジアミンとしては、具体的には、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン等が挙げられる。
また、(1)のポリアミド系樹脂は、上記方法と同様にして、エステル、酸塩化物等のカルボン酸を生成しうる誘導体とアミン塩等のアミンを生成しうる誘導体とから製造することもできる。
(2)のポリアミド系樹脂は、例えばω−アミノ酸を少量の水の存在下に加熱して重縮合させることによって製造することができる。また、重縮合に際して酢酸等の粘度安定剤を少量加えてもよい。
(3)のポリアミド系樹脂は、例えばラクタムを少量の水の存在下に加熱して開環重合させることによって製造することができる。この場合、酢酸等の粘度安定剤を少量加えてもよい。
【0009】
本発明のポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」という)含有混合粉体(B)はPTFE粒子及び有機系重合体を含有する。
PTFE含有混合粉体(B)中のPTFE粒子の配合量はポリアミド系樹脂(A)100質量部に対して0.05〜7質量部が好ましい。更に好ましくは0.2〜5質量部である。PTFE粒子が0.05質量部以上で発泡成形時に溶融張力向上効果が表れ、サイジングダイでの型保持性が低下せず、良好な発泡成形品が得られる。また、PTFE粒子が7質量部以下でポリアミド系樹脂(A)を発泡成形する際にブツが発生せず外観不良となりにくい。また、発泡成形体表面の肌荒れが発生せず、衝撃強度が低下せず、流動性の低下が大きくなることがない。
【0010】
本発明においては、PTFE粒子は得られるポリアミド系樹脂発泡成形体中の分散性をよくするために水性分散液の状態のものを使用するのが好ましい。この場合、PTFE粒子の質量平均粒子径が0.05〜1.0μmであることが良好な粉体特性を得るために好ましい。また、PTFE粒子の水性分散液を得る方法として含フッ素界面活性剤を用いてテトラフルオロエチレンモノマーを乳化重合する方法が好ましい。PTFEの分子量としては100万〜3000万のものが好適に使用される。尚、PTFE分子量はSTM D−4895に準じて測定した標準比重から換算して求めた値である。
PTFE粒子としては、PTFE粒子の特性を損なわない範囲で、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィンや、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートを共重合成分とする共重合体を使用することができる。この場合、原料となる共重合成分の含有量はテトラフルオロエチレンに対して10質量%以下であることが好ましい。
【0011】
PTFE粒子の水性分散液としては、旭硝子フロロポリマーズ(株)製のフルオンAD−1、AD−936、AD−911、AD−938、ダイキン工業(株)製のポリフロンD−1、D−2、D−3、D−2E、D−3E、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン30J等の市販品が代表例として挙げられる。
通常のPTFE粒子は、水性分散液の状態から粉体として回収する工程で100μm以上の凝集体となってしまうために、ポリアミド系樹脂等の熱可塑性樹脂に均一に分散させることが困難である。これに対して、本発明のPTFE含有混合粉体(B)は、PTFE粒子と有機系重合体を含有しているため、質量平均粒子径10μmを超えるドメインを形成しないのでポリアミド系樹脂に対する分散性が極めて優れている。この結果、本発明のポリアミド系樹脂発泡成形体はPTFE粒子がポリアミド系樹脂(A)中で効率よく分散(微細繊維化)しており、成形性が優れ、且つ表面外観にも優れるものとなる。
【0012】
有機系重合体はポリアミド系樹脂(A)に配合する際の分散性の観点からポリアミド系樹脂(A)との親和性が高いものであることが好ましい。
有機系重合体の原料となる単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができる。これらの単量体は単独で又は2種以上混合して用いることができる。
これらの単量体の中でポリアミド系樹脂(A)との親和性の観点から好ましいものとして、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びシアン化ビニル系単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体を20〜99.9質量%含有し、α,β−不飽和カルボン酸、マレイミド系単量体及びエポキシ基含有単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体を0.1〜20質量%含有する単量体混合物を挙げることができる。
特に好ましいものとして、スチレン、メチルメタクリレート、2−エチルへキシルメタクリレート、ブチルアクリレート、ドデシルアクリレート及びアクリロニトリルからなる群より選ばれる1種以上の単量体を20〜99.9質量%含有し、無水マレイン酸、N−フェニルマレイミド及びグリシジルメタクリレートからなる群より選ばれる1種以上の単量体を0.1〜20質量%含有する単量体混合物を挙げることができる。
【0013】
有機系重合体はPTFE粒子の場合と同様に水性分散液の状態のものを使用するのが好ましい。
PTFE含有混合粉体(B)はポリアミド系樹脂(A)100質量部に対して0.5〜10質量部配合される。PTFE含有混合粉体(B)が0.5質量部以上でポリアミド系樹脂(A)の発泡成形時に溶融張力向上効果が大きく、良好な発泡成形品が得られる。また、PTFE含有混合粉体(B)が10質量部以下でポリアミド系樹脂(A)を発泡成形する際にブツが発生しにくく、外観低下を起こしにくい。
PTFE含有混合粉体(B)は、例えば、PTFE粒子の水性分散液と有機系重合体粒子の水性分散液とを混合して凝固する方法又はスプレードライ法により粉体化して得られる。また、PTFE粒子の水性分散液存在下で有機系重合体の原料となる単量体を重合した後、凝固法又はスプレードライ法により粉体化して得ることもできる。更には、PTFE粒子の水性分散液と有機系重合体粒子の水性分散液とを混合した分散液中でエチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固法又はスプレードライ法により粉体化して得ることもできる。
【0014】
PTFE含有混合粉体(B)中に占めるPTFEの含有割合は0.1〜90質量%であることが好ましい。更に好ましくは10〜70質量%である。0.1質量%以上で溶融張力向上効果が得られ、発泡剤のガス抜けによる成形外観不良が発生しにくく、サイジングダイの型保持性が良く、良好な発泡体を得ることが出来る。また90質量%以下で粉体粒子の凝集が起こりにくく、成形時にブツの発生等の分散不良等の問題が起こりにくくなる。
PTFE含有混合粉体(B)は、その水性分散液を酢酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析、凝固した後に乾燥して粉体化したり、スプレードライ法により粉体化することができる。この中で、アルカリ土類金属を含有する塩化合物で塩析、凝固して回収する方法が特に好ましく、カルシウム塩化合物で塩析、凝固して回収する方法が更に好ましい。アルカリ土類金属を含有する塩化合物によりPTFE含有混合粉体(B)を凝固し回収するとポリアミド系樹脂を分解する恐れがなく好ましい。
【0015】
発泡剤(C)の添加量は、発泡剤(C)純分としてポリアミド系樹脂(A)100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは0.2〜5質量部である。0.1質量部以上で発泡体を得ることができ、10質量部以下でポリアミド系樹脂(A)の溶融張力を大きく低下させることなく、PTFE混合粉体による溶融張力向上効果を示し、また発泡倍率が大きくなる。
発泡剤(C)としては、無機発泡剤、揮発性発泡剤、分解型発泡剤等が用いられる。無機発泡剤としては二酸化炭素、空気、窒素等が用いられる。揮発性発泡剤としてはプロパン、n−ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、トリクロロフロロメタン、ジクロロフロロメタン、ジクロロテトラフロロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等が用いられる。
また、分解型発泡剤としては、アゾジカーボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、重炭酸ナトリウム等が用いられる。これらの発泡剤は適宜混合して用いることができる。また発泡剤に希釈分散剤を配合したマスターバッチ品を使用することもできる。
市販の好ましい発泡剤としては永和化成(株)の発泡剤マスターバッチ品であるポリスレンEE206−5、ポリスレンEE204が挙げられる。
PTFEと発泡剤(C)の質量比率はPTFE/発泡剤(C)=1/25〜25/1であることが発泡成形性(樹脂の膨らみと溶融張力のバランス)から好ましい。
【0016】
ポリアミド系樹脂(A)、PTFE含有混合粉体(B)及び発泡剤(C)からなる混合物は押出機内に供給され、溶融混練され、発泡押出され、ポリアミド系樹脂成形体が得られる。
ポリアミド系樹脂発泡成形体を押出成形する方法として、例えば以下の方法1及び方法2が挙げられる。
方法1としては、ポリアミド系樹脂(A)、PTFE含有混合粉体(B)及び発泡剤(C)を押出機に供給して発泡押出しする方法が挙げられる。
方法2としては、ポリアミド系樹脂(A)及びPTFE含有混合粉体(B)を押出機内等において溶融混練してペレット化し、このペレット及び発泡剤(C)を押出機に供給して発泡押出しする方法が挙げられる。
尚、ポリアミド系樹脂(A)の一部及びPTFE含有混合粉体(B)を溶融混練してペレット化し、このペレットとポリアミド系樹脂(A)の残り及び発泡剤(C)を押出機に供給して発泡押出しすることもできる。
方法1を用いた場合はPTFE含有混合粉体(B)の分散性を向上させる必要があるので、押出機のシリンダ内での滞在時間を増やしたり、混練し易くするためにスクリュー形状等の工夫が必要である。従ってペレットを使用した方法2等の方法が好ましい。
ポリアミド系樹脂(A)とPTFE含有混合粉体(B)を溶融混練してペレット化する際の押出機バレル温度は210〜260℃が好ましい。
【0017】
発泡成形時の押出機の供給ホッパー下のシリンダ温度は230〜240℃が好ましい。230℃以上であればポリアミド系樹脂(A)の融点付近にならないため、押出機のトルク負荷が大きくなりにくい。また通常、分解型発泡剤の分解温度は240℃を超えるので240℃以下であるとそこで発泡剤が分解することがないため、ベント口からの発泡ガスが発散してしまうことがなく、発泡効率の低下が起こりにくい。
ダイスに近い部分のシリンダ温度は250〜260℃が好ましい。この温度範囲で発泡剤の発泡、揮発又は分解を促進させることが発泡効率の点で好ましく、またPTFE含有混合粉体(B)の分散性を向上させることになり好ましい。ダイス温度としては230〜240℃が好ましい。ダイス部の温度が230℃以上で均一な発泡セルが得られ易く、240℃以下で溶融張力が低くならないため、サイジングダイでの型保持が容易である。
ダイスとしては異型(L字型)ダイスが好ましい。
このようにして得られる本発明のポリアミド系樹脂発泡成形体は低比重でセルの均一性に優れたものとなる。また、PTFEの大きな凝集物がなく発泡成形体の表面状態も優れている。
【0018】
本発明においては、ポリアミド系樹脂(A)、PTFE含有混合粉体(B)及び発泡剤(C)の混合物中に更に気泡調整剤を添加しても良い。気泡調整剤としてはタルク、シリカ等の無機粉末や多価カルボン酸の酸性塩、多価カルボン酸と炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムとの反応混合物等が挙げられる。
気泡調整剤を添加する場合はポリアミド系樹脂(A)100質量部に対して13質量部以下が好ましい。
本発明のポリアミド系樹脂発泡成形体には、本来の目的を損なわない範囲で顔料や染料、ガラス繊維、金属繊維、金属フレーク、炭素繊維等の補強剤や充填剤、2,6−ジ−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、トリス(モノ,ジ−ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト等のフォスファイト系酸化防止剤、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジアステリアルチオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)等の光安定剤、ヒドロキシルアルキルアミン、スルホン酸塩等の帯電防止剤、エチレンビスステアリルアミド、金属石鹸等の滑剤、及びテトラブロムフェノールA、デカブロモフェノールオキサイド、TBAエポキシオリゴマー、TBAポリカーボネートオリゴマー、三酸化アンチモン等の難燃剤等の各種添加剤を適宜配合することができる。配合の方法としてはポリアミド系樹脂(A)とPTFE含有混合粉体(B)の溶融混練時に添加することが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を説明する。
尚、下記「部」は質量部を、「%」は質量%を示し、諸物性は下記の方法により測定した。
【0020】
(1)固形分濃度
水性分散液2gを容器に入れて、170℃で30分乾燥して求めた。
固形分濃度(%)=((乾燥後質量)/(乾燥前質量))×100
【0021】
(2)粒子径分布及び質量平均粒子径
水性分散液を水で希釈したものを試料液として、動的光散乱法(大塚電子(株)製ELS800、温度25℃、散乱角90度)により測定した。
【0022】
(3)溶融張力
キャピラリー式レオメーター((株)東洋精機製作所製キャピログラフ)を用い、樹脂温度240℃、オリフィスL/D=16mm/1mm、ピストン降下速度5mm/分にて樹脂組成物を吐出し、引き取り速度4m/分で引き取る時の荷重をロードセルで測定した。
【0023】
(4)耐ドローダウン性
成形温度250℃で110cmのパリソン長になるのに要する時間を測定した。
【0024】
(5)発泡成形外観
発泡成形時の外観を目視にて観察し、下記の基準にて判定した。
○:成形品は光沢があり、ダイスの形に保持されている。
△:成形品は光沢はあるが、ダイスの形に保持されていない。
×:成形品は表面の荒れが確認され、ダイスの形に保持されていない。
【0025】
(6)発泡比重
発泡成形品の比重を島津比重測定器SGM−300Pを用いて測定した。
【0026】
[参考例1]PTFE含有混合粉体(B−1)の製造
攪拌翼、コンデンサー、熱電対及び窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに蒸留水190部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、スチレン100部及びクメンヒドロパーオキシド0.5部を仕込み、窒素気流下で40℃に昇温した。
次いで、硫酸第一鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット塩0.24部及び蒸留水10部の混合液を加え、ラジカル重合を開始させた。発熱が終了した後、系内の温度を40℃で1時間保持して重合を完了させ、有機系重合体としてポリスチレン粒子の水性分散液(以下「P−1」という)を得た。
P−1の固形分濃度は33.3%で、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は96nmであった。
一方、PTFE粒子として旭硝子フロロポリマーズ(株)製フルオンAD936を用いた。AD936の固形分濃度は63.0%であり、PTFE100部に対して5部のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを含むものである。AD936の粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は290nmであった。
833部のAD936に蒸留水1167部を添加し、固形分濃度26.2%のPTFE粒子の水性分散液(以下「F−1」という)を得た。F−1は25%のPTFE粒子と1.2%のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含むものである。
160部のF−1(PTFE粒子として40部)と181.8部のP−1(ポリスチレンとして60部)とを前述と同様のセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下に室温で1時間攪拌した。その後系内を80℃に昇温し、1時間保持した。一連の操作を通じて固形物の分離は見られなかった。この混合水性分散液の固形分濃度は29.3%、粒子径分布は比較的ブロードで質量平均粒子径は168nmであった。
この混合水性分散液341.8部を、酢酸カルシウム5部を含む85℃の熱水700部中に投入し、固形物を分離させ、濾過、洗浄、乾燥してPTFE含有混合粉体(B−1)98部を得た。
PTFE含有混合粉体(B−1)を250℃でプレス成形機により短冊状(縦50mm×横3mm×厚み2mm)に賦形した後、ミクロトームで超薄切片としたものを無染色のまま透過型電子顕微鏡で観察した。PTFE粒子は暗部として観察されるが、10μmを超えるPTFE粒子の凝集体は観察されなかった。
【0027】
[参考例2]PTFE含有混合粉体(B−2)の製造
攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口及び滴下ロートを備えたセパラブルフラスコに参考例1で使用したF−1を160部(PTFE粒子として40部)、ドデシルベンゼンスルホン酸1.0部及び蒸留水70部を仕込み、窒素気流下で80℃に昇温した。
次いで、硫酸第一鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット塩0.24部及び蒸留水10部の混合液を加えた後、n−ブチルアクリレート20部、スチレン35部、無水マレイン酸5部及びt−ブチルパーオキシド0.3部の混合液を滴下ロートより90分間で滴下した。滴下終了後、内温を80℃で1時間保持しラジカル重合を完了させた。一連の操作を通じて固形物の分離は見られなかった。水性分散液の固形分濃度は33.2%、粒子径分布は比較的ブロードで質量平均粒子径は252nmであった。
この水性分散液301.5部を、酢酸カルシウム5部を含む85℃の熱水700部中に投入し、固形物を分離させ、濾過、洗浄、乾燥してPTFE含有混合粉体(B−2)97部を得た。
PTFE含有混合粉体(B−2)を参考例1と同様にして観察したところ、10μmを超えるPTFE粒子の凝集体は観察されなかった。
【0028】
[参考例3]PTFE含有混合粉体(B−3)の製造
ドデシルメタクリレート70部及びメチルメタクリレート30部の混合液に2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.1部を溶解させた。これにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.0部及び蒸留水300部の混合液を添加し、ホモミキサーにて10000rpmで4分間攪拌した後、ホモジナイザーに30MPaの圧力で2回通し、安定な予備分散液を得た。これを参考例1の場合と同様のセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で内温を80℃に昇温して3時間攪拌してラジカル重合させ、有機系重合体としてドデシルメタクリレート/メチルメタクリレート共重合体粒子の水性分散液(以下「P−2」という)を得た。
P−2の固形分濃度は25.1%で、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は190nmであった。
参考例1で用いたものと同様のF−1を80部(PTFE粒子として20部)とP−2を239.0部(ドデシルメタクリレート/メチルメタクリレート共重合体として60部)とを参考例2の場合と同様のセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で室温で1時間攪拌した。その後系内を80℃に昇温し、硫酸第一鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット塩0.24部及び蒸留水10部の混合液を加えた後、メチルメタクリレート18部、グリシジルメタクリレート2部及びt−ブチルパーオキシド0.1部の混合液を30分かけて滴下した。滴下終了後内温を80℃で1時間保持してラジカル重合を完了させた。一連の操作を通じて固形物の分離は見られなかった。水性分散液の固形分濃度は28.6%で、粒子径分布は比較的ブロードで質量平均粒子径は221nmであった。
この水性分散液349.7部を、塩化カルシウム5部を含む75℃の熱水600部中に投入し、固形物を分離させ、濾過、洗浄、乾燥してPTFE含有混合粉体(B−3)98部を得た。
PTFE含有混合粉体(B−3)を220℃でプレス成形機により短冊状に賦形する以外は参考例1と同様にしてPTFE粒子の凝集状態を観察した。10μmを超えるPTFE粒子の凝集体は観察されなかった。
【0029】
[参考例4]PTFE含有混合粉体(B−4)の製造
ドデシルメタクリレート60部、メチルメタクリレート35部及びメチルアクリレート5部の混合溶液にクメンヒドロパーオキシド0.3部を溶解させた。これにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.0部及び蒸留水300部の混合液を添加し、ホモミキサーにて10,000rpmで5分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備分散液を得た。これを参考例2の場合と同様のフラスコに仕込み、窒素気流下で70℃に昇温した。硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部及びロンガリット塩0.2部を蒸留水5部に溶かした混合液をフラスコに加えて、重合を開始し、3時間保持し、メチルメタクレート/メチルアクリレート共重合体粒子の水性分散液(以下「P−3」という)を得た。P−3の固形分濃度は25.2%で粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は180nmであった。
参考例1で使用したものと同様のF−1を120部(PTFE粒子として30部)とP−3を199.2部(メチルメタクレート/メチルアクリレート共重合体として50部)とを参考例1の場合と同様のセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で1時間攪拌した。その後、系内を80℃に昇温し、1時間攪拌した後、硫酸第一鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット塩0.24部及び蒸留水60.8部の混合液を加え、メチルメタクリレート19部、メチルアクリレート1部及びt−ブチルパーオキシド0.4部の混合液を1時間かけて滴下した。滴下終了後内温を80℃で1時間保持してラジカル重合を完了させた。一連の操作を通じて固形物の分離は見られなかった。この水性分散液を酢酸カルシウム5部を含む90℃の熱水400部に投入し、固形物を分離させ、濾過、洗浄、乾燥してPTFE含有混合粉体(B−4)99部を得た。
PTFE含有混合粉体(B−4)を参考例3と同様にしてPTFE粒子の凝集状態を観察したところ、10μmを超えるPTFE粒子の凝集体は観察されなかった。
【0030】
[実施例1〜7及び比較例1〜5]
ポリアミド系樹脂(A−1)及び(A−2)並びに参考例1〜4で得たPTFE含有混合粉体(B−1)〜(B−4)を表1に示す割合で配合し、二軸押出機((株)池貝製作所製PCM−30)によりバレル温度230〜250℃、スクリュー回転速度150rpmにて押し出し、ポリアミド系樹脂(A)とPTFE含有混合粉体(B)の混合物をペレット化した。このペレットを用いて溶融張力及び耐ドローダウン性を測定し、次いで、このペレットに対して表1に示す割合の発泡剤を混合したものを、L型の異型ダイスを取付けた単軸押出機((株)GMエンジニアリング製)に供給し、ホッパー下のシリンダ温度230℃、ダイスに近い部分のシリンダ温度250℃、ダイス温度230℃、スクリュー回転数30rpmにて溶融混練、発泡押出しを行い、発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。
比較のためにPTFE含有混合粉体(B)を添加せずに押し出したもの及びPTFE含有混合粉体(B)の添加量が本発明の範囲から逸脱しているもの(比較例1〜3)、PTFEファインパウダー(旭硝子フロロポリマーズ(株)製CD123)を添加したもの(比較例4)並びにアクリル系高分子加工助剤(三菱レイヨン(株)製メタブレンP530A)を添加したもの(比較例5)を同様に評価した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂(A)100質量部に対して、ポリテトラフルオロエチレン粒子及び有機系重合体を含有するポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(B)0.5〜10質量部、並びに発泡剤(C)0.1〜10質量部を含有する混合物を押出機内に供給して溶融混練し、発泡押出しするポリアミド系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
混合物が、ポリアミド系樹脂(A)並びにポリテトラフルオロエチレン粒子及び有機系重合体を含有するポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(B)を溶融混練してペレット化したものに発泡剤(C)を混合したものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(B)が、質量平均粒子径0.05〜1.0μmのポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液と有機系重合体粒子の水性分散液とを混合して凝固又はスプレードライした後に粉体化して得られるものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(B)が、質量平均粒子径0.05〜1.0μmのポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液存在下で有機系重合体の原料である単量体を重合し、凝固又はスプレードライした後に粉体化して得られるものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(B)が、質量平均粒子径0.05〜1.0μmのポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液と有機系重合体粒子の水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合し、凝固又はスプレードライした後に粉体化して得られるものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(B)がアルカリ土類金属を含有する塩化合物により凝固されたものである請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(B)中のポリテトラフルオロエチレンと発泡剤(C)との質量比率がポリテトラフルオロエチレン/発泡剤(C)=1/25〜25/1である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7の方法により得られるポリアミド系樹脂発泡成形体。

【公開番号】特開2007−231211(P2007−231211A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57238(P2006−57238)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】