説明

ポリアリーレンスルフィド成形体およびその製造方法

【課題】発明は、無機充填剤を有したポリアリーレンスルフィドの耐熱性、耐薬品性、難燃性等の優れた性質を維持したまま、表面平滑性の高い成型体を提供することを目的とするものである。
【解決手段】(A)ポリアリーレンスルフィド 92〜99.9重量%と(B)直鎖のジオールとテレフタル酸からなるポリアルキレンテレフタレート0.1〜8重量%のブレンドポリマーからなる成形体であって、ブレンドポリマーに対して(C)無機充填剤が10〜400重量%含有することを特徴とする成形体により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアリーレンスルフィド成形体に関するものであり、さらに詳しくは無機充填剤を有したポリアリーレンスルフィドの耐熱性、耐薬品性、難燃性等の優れた性質を維持したまま、表面平滑性の高い成型体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドは、その優れた耐熱性,耐薬品性,難燃性を生かして電気・電子機器部材,自動車機器部材として注目を集めている。ポリアリーレンスルフィドの中でもポリフェニレンスルフィド(PPS)は、射出成形,押出成形等により各種成型部品,フィルム,シート,繊維等に成形可能であり、耐熱性,耐薬品性,難燃性の要求される分野に幅広く用いられている。
【0003】
PPSの製造方法としては特公昭45−3368号公報(特許文献1)、USP3793256号(特許文献2)、特公昭52−12240号公報(特許文献3)等に開示されている。しかし、これらの製造方法によるPPSは脆いことから、無機充填剤を加えて使用することが一般的である。しかし、無機充填剤を添加することにより表面の平滑性が損なわれ製品の外観が悪くなるといった課題があった。
【0004】
無機充填剤を用いずポリフェニレンスルフィドの脆さを改善することにより表面平滑性を改善する試みとして、ポリエチレンテレフタレートや液晶ポリエステルなどPPS以外のポリマーとアロイ化する方法が知られている(特許文献4〜7)。しかしながら、PPSと他のポリマーのアロイではPPSの脆性は改善されるものの、耐熱性や耐薬品性、難燃性などPPS本来の特性が低下する。
【0005】
PPS本来の耐熱性や耐薬品性、難燃性を低下させずに脆さを改善するためには無機充填剤が必須であるが、無機充填剤を用いて表面平滑性が良好な成型加工品は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭45−3368号公報
【特許文献2】USP3793256号
【特許文献3】特公昭52−12240号公報
【特許文献4】特開平6−166816号公報
【特許文献5】特開平7−188556号公報
【特許文献6】特開2003−231731号公報
【特許文献7】特開2004−231908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、無機充填剤を有したポリアリーレンスルフィドの耐熱性、耐薬品性、難燃性等の優れた性質を維持したまま、表面平滑性の高い成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、(A)ポリアリーレンスルフィド 92〜99.9重量%と(B)直鎖のジオールとテレフタル酸からなるポリアルキレンテレフタレート0.1〜8重量%のブレンドポリマーからなる成形体であって、ブレンドポリマーに対して(C)無機充填剤が10〜400重量%含有することを特徴とする成形体により解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い耐熱性や耐薬品性、難燃性が必要な用途、例えば自動車部品や一般機械部品に用いることができ、且つ平滑性に優れたポリアリーレンスルフィド成形体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
第一の発明は、(A)ポリアリーレンスルフィド 92〜99.9重量%と(B)直鎖のジオールとテレフタル酸からなるポリアルキレンテレフタレート0.1〜8重量%のブレンドポリマーからなる成形体であって、ブレンドポリマーに対して無機充填剤が10〜400重量%含有することを特徴とする成形体である。
【0012】
本発明の樹脂組成物に含まれるポリアリーレンスルフィドとは式−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである。上記Arとしては、下記式(A)から式(K)などで表わされる単位などが例示されるが、なかでも式(A)で表わされる単位が特に好ましい。
【0013】
【化1】

【0014】
(ただし、式中のR1,R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基およびハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一であっても異なっていてもよい)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記式(L)から式(N)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−単位に対して0〜5モル%の範囲であることが好ましく、1モル%以下の範囲であることがより好ましい。
【0015】
【化2】

【0016】
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィドは、下記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物であってもよい。
【0017】
【化3】

【0018】
これらPAS樹脂の代表例としては、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレン単位
【0019】
【化4】

【0020】
を90モル%以上含有するPPS、ポリフェニレンスルフィドスルホンおよびポリフェニレンスルフィドケトンが挙げられ、PPSが特に好ましい。
【0021】
本発明のポリアルキレンテレフタレートとは、ポリアルキレンテレフタレート、アルキレンテレフタレートのコポリエステル、ポリアルキレンテレフタレートの混合物などが挙げられ、ジオール成分が直鎖のジオールからなることを特徴としている。
【0022】
上記のポリアルキレンテレフタレートとしては、直鎖のジオール成分とテレフタル酸成分を用いて得られる重合体が挙げられ、ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、などおよびエステル形成能を持つそれらの誘導体が挙げられる。中でも1,4ブタンジオールまたはそのエステル形成能を有するその誘導体と、テレフタル酸またはそのエステル形成能を有するその誘導体とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート、トリメチレングリコールまたはそのエステル形成能を有するその誘導体と、テレフタル酸またはそのエステル形成能を有するその誘導体とを重縮合して得られるポリトリメチレンテレフタレート、エチレングリコールまたはエステル形成能を有するその誘導体と、テレフタル酸またはそのエステル形成能を有するその誘導体とを重縮合して得られるポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0023】
特にエチレンテレフタレートユニットが90モル%以上のポリエチレンテレフタレートを用いると、成形体の熱的寸法安定性が向上する傾向にありより好ましい。
【0024】
本発明の成形体は(A)ポリアリーレンスルフィド 92〜99.9重量%と(B)直鎖のジオールとテレフタル酸からなるポリアルキレンテレフタレート 0.1〜8重量%のブレンドポリマーからなることを特徴としている。
【0025】
本発明のブレンドポリマーとは、後述するような様々な方法により溶融紡糸が完結する以前の任意の段階においてポリアリーレンスルフィドとポリアルキレンテレフタレートとが混練(ブレンド)されてなるポリマー組成物を意味する。
【0026】
ポリアリーレンスルフィドとポリアルキレンテレフタレートをこの範囲とすることで、樹脂組成物の流動性および結晶性が飛躍的に向上するため、無機充填剤を含んだ成形体の成型加工工程において無機充填剤と金型の間にポリマーが入り込みやすくなるため成形体の表面に無機充填剤が露出されず表面平滑性が向上し外観が良好となる。更に、結晶化しやすくなるため、バリの発生なども抑制される傾向にある。
【0027】
流動性が良好となる原因は明らかではないが、ポリアリーレンスルフィド分子間にポリアルキレンテレフタレートが入り込み樹脂組成物を可塑化し流動化していると考えられる。また、ポリアルキレンテレフタレートがポリアリーレンスルフィド分子間に入り込むことで、ポリアルキレンテレフタレートのベンゼン環とポリアリーレンスルフィドのアリール基がスタッキングし、冷却時の結晶性を向上させていると考えられる。このようなことから、ポリアルキレンテレフタレートの含有量が0.1重量%より少ないと流動性および結晶性が悪くなる。また、8重量%より多いとポリアリーレンスルフィド樹脂の優れた特性である耐熱性、耐薬品性、難燃性等が得られない。
【0028】
本発明の成形体は無機充填剤がブレンドポリマーに対して10〜400重量%含有することを特徴としている。
【0029】
本発明の無機充填剤は、成形体の耐熱性を向上させたり、機械的強度を向上させたり、温度変化による寸法精度を高く維持することができる効果を有し、更には成形体へ導電性や熱伝導性などの機能を付加させる効果を奏する。
【0030】
この無機充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、石膏繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウム、多孔質炭酸カルシウム、炭酸カルシウムウィスカー、ハイドロタルサイト、カオリン、クレー、ケイ酸カルシウム、カーボンブラック、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、フライアッシュ(石炭灰)、ワラステナイト、ガラスフレーク、マイカ、タルク、グラファイト、窒化アルミニウム、窒化硼素、二硫化モリブデン等が挙げられ、これらは少なくとも1種以上を無機充填剤として用いることができ、そしてこれらの無機系充填剤はさらに上記したポリマーアロイとの親和性を高めるために、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪族金属塩等の表面処理剤で処理した物や、インターカレーション法によりアンモニウム塩等による有機化処理したものや、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂をバインダーとして処理したものでも構わない。
【0031】
本発明の無機充填剤はブレンドポリマーに対して10〜400重量%含有している必要がある。無機充填剤が10重量%未満であると成形体の機械的強度が低下したり、成形体の耐熱性および寸法精度が低下する。無機充填剤が400重量%を超えると表面光沢性が損なわれ外観が悪くなる。また、ヒケが発生し、温度変化による寸法精度の低下および異方性の保持ができなくなる。無機充填剤の含有量は好ましくは50〜250重量%、より好ましくは60〜200重量%である。
【0032】
本発明では、上記成分の他に、本発明の特徴および効果を損なわない範囲で必要に応じて、他の熱可塑性エラストマー(水添ブロック共重合体やポリオレフィン系エラストマー)、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料や染料等の着色剤、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、モンタン酸塩ワックス、ステアリン酸塩ワックス等の公知の離型剤も適宜添加することができる。中でもエチレン−αオレフィン共重合体は優れた離型剤となり得る。
【0033】
次に第二の発明である樹脂組成物の製造方法について詳細に説明する。
【0034】
本発明の樹脂組成物の製造方法は(A)ポリアリーレンスルフィドがポリフェニレンスルフィドであり、ポリフェニレンスルフィド92〜99.9重量%と(B)直鎖のジオールとテレフタル酸からなるポリアルキレンテレフタレート0.1〜8重量%を280〜350℃の温度で押出機により溶融混練し、該溶融混練物に対し無機充填剤10〜400重量%を成型加工するまでの工程の任意の段階で溶融混合し成型することを特徴としている。
【0035】
本発明の製造方法で用いられる(A)ポリアリーレンスルフィドはポリフェニレンスルフィド(PPS)であり、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、耐熱性の観点から下記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含むものが好ましい。
【0036】
【化5】

【0037】
耐熱性の点から、上記構造式で示される繰返し単位を70モル%以上、特に90モル%以上を含む重合体であることが好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%以下を、下記の構造式を有する繰り返し単位等で構成することが可能である。
【0038】
【化6】

【0039】
本発明の製造方法において、PPSが92〜99.9重量%であることを特徴としている。PPSの供給量をこの範囲とすることで、樹脂組成物のPPSの含有量を92〜99.9重量%とすることができ、得られた樹脂組成物は耐熱性、耐薬品性、難燃性等のPPSの優れた特徴を有することができる。
【0040】
本発明の製造方法で用いられるPPSのポリマー形状は特に限定されるものではなく、例えば、ペレット、フレーク、顆粒状、パウダーなどが挙げられる。
【0041】
本発明の製造方法におけるポリアルキレンテレフタレートとは、ポリアルキレンテレフタレート、アルキレンテレフタレートのコポリエステル、ポリアルキレンテレフタレートの混合物などが挙げられる。
【0042】
上記のポリアルキレンテレフタレートとしては、ジオール成分とテレフタル酸成分を用いて得られる重合体が挙げられ、ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4ブタンジオール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどおよびエステル形成能を持つそれらの誘導体が挙げられ、1,4ブタンジオール、エステル形成能を有するその誘導体、エチレングリコールまたはエステル形成能を有するその誘導体とテレフタル酸またはエステル形成能を有するその誘導体を重縮合して得られるポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0043】
本発明の製造方法はポリアルキレンテレフタレートを0.1〜8重量%の範囲で供給すること特徴としている。ポリアルキレンテレフタレートの供給量をこの範囲とすることで、樹脂組成物のポリアルキレンテレフタレートの含有量を0.1〜8重量%とすることができ、樹脂組成物の流動性および結晶性が飛躍的に向上する。
【0044】
本発明の製造方法で用いられるポリアルキレンテレフタレートの固有粘度は0.5〜1.1であることが好ましい。ここで言う固有粘度はポリアルキレンテレフタレートの分子量に置き換えることもでき、固有粘度0.5〜1.1に相当する数平均分子量(Mn)は10000〜30000である。固有粘度が0.5より小さいと結晶性が低下する傾向にあり、また、1.1を超えると分散性が低下し樹脂組成物の機械特性が低下する傾向にある。より好ましくは、0.6〜1.0である。
【0045】
本発明の製造方法で用いられるポリアルキレンテレフタレートの形状は特に限定されるものではなく、例えば、ペレット、フレーク、顆粒状、パウダーなどが挙げられる。
【0046】
本発明の溶融混練の方法は特に限定されず、公知の加熱溶融混合装置を使用することができる。
【0047】
加熱溶融混合装置としては単軸押出機、二軸押出機、それらの組み合わせの二軸押出機、ニーダー・ルーダー等を使用することができる。中でも、二軸押出機を用いるとPPSとポリアルキレンテレフタレートの分散性が向上することから好ましく用いられる。より好ましくは、ニーディングゾーンが2箇所以上ある二軸押出機を用いることである。
【0048】
本発明の製造方法において、混練時のPPSおよびポリアルキレンテレフタレートの混練機への供給方法は特に限定されず、例えば、PPSおよびポリアルキレンテレフタレートを予めブレンドし混練機へ供給する方法、PPSおよびポリアルキレンテレフタレートの各々を計量しながら混練機へ供給する方法、PPSを供給した混練機へポリアルキレンテレフタレートをサイドフィードで供給する方法が挙げられる。
【0049】
本発明の製造方法は、280〜350℃の温度で溶融混練することを特徴としている。ここで言う温度とは吐出部で計測される樹脂の温度のことである。この温度が280℃より低い温度で混練すると、PPSの溶融粘度が高くなったり、PPSが未溶融となったりするため分散性が著しく悪化し、最終製品の物性を悪化させる。一方、350℃を越えるとポリアルキレンテレフタレートの分解が激しくなり、混練機の口金に分解物が付着し生産性の低下となる。また、得られる樹脂組成物の色調を悪化させたり、最終製品の強度が低下する。好ましくは、285〜330℃、より好ましくは290〜320℃である。
【0050】
本発明の製造方法において、混練時間は特に限定されないが、0.5〜30分であることが好ましい。反応時間が30分を超えると、ポリマーの変色、熱分解反応が進行し物性低下が顕著となる場合がある。また、0.5分より短いと分散が不十分となりやすく最終製品の強度が十分に得られないことがある。
【0051】
以上のようにして得られた樹脂組成物は、結晶化速度が従来のPPSに比べ著しく速いため、低温金型を用いても射出成形によって十分に結晶化し耐熱性に優れた成形品を得ることができ、また、バリの少ない成型体を得ることができる。また、低温で成型加工が可能となるため、口金汚れが従来のPPSと比較して少なくなり、生産性が向上する。
【0052】
本発明の成形体の製造方法において、無機添加剤の添加量はブレンドポリマーに対して10〜400重量%であることを特徴としている。無機充填剤が10重量%未満であると成形体の機械的強度が低下したり、成形体の耐熱性および寸法精度が低下する。無機充填剤が400重量%を超えると表面光沢性が損なわれ、成形体の外観が悪くなる。また、ヒケが発生し、温度変化による寸法精度の低下および異方性の保持ができなくなる。無機充填剤の含有量は好ましくは50〜250重量%、より好ましくは60〜200重量%である。
【0053】
本発明の成型体の製造方法において、無機充填剤は成型加工するまでの任意の段階で溶融混練することを特徴としている。任意の段階とは、ポリアリーレンスルフィドとポリアルキレンテレフタレートを溶融混練する工程で同時に溶融混練する方法や、上記溶融混練でポリマーアロイとした後に無機充填剤を更に混練する方法などが挙げられる。特にポリフェニレンスルフィドとポリアルキレンテレフタレートおよび無機充填剤を混練機に供給し溶融混練する方法、またはポリフェニレンスルフィドとポリアルキレンテレフタレートを混練機に供給し無機充填剤をサイドフィードで供給し溶融混練する方法とすることで、ポリマーの熱履歴が小さくなり、ポリマーの劣化が抑制されるため好ましい。
【0054】
本発明の成型方法としては、射出成形、金属インモールド成形、アウトサート成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱プレス成形、回転成形、積層成形等の成形方法が適用できる。そして、光学機器機構部品、映像機器内部部品、光ファイバ用コネクタフェルール、プリンター部品、コピー機部品、自動車ランプ部品、自動車エンジンルーム内部品等のウエルド部を有する成型体として利用できるものである。
【実施例】
【0055】
以下に本発明を実施例で具体的に説明する。
(1)PETの固有粘度[η]
25℃で、オルトクロロフェノール中0.1g/ml濃度で測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いた。
ηsp/C=[η]+K[η]・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1であり、Cは溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量(g/100ml)、Kはハンギス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。
(2)表面光沢性
長さ約63mm、幅約12.7mm、厚さ約3.2mmの射出成型サンプルを作成した。サンプルの表面を目視観察し、次の基準で評価した。なお、◎および○を合格、△および×を不合格とした。
【0056】
◎:成形サンプル表面全体に光沢がある
○:成形サンプル表面の一部に光沢がない
△:成形サンプル表面の半分以上に光沢がない
×:成形サンプル表面全体に光沢がない。
(3)難燃性
UL94に準拠し、厚み1.6mmの燃焼用試験片を作成し、燃焼試験を実施した。
(4)耐薬品性
ASTM−D−638に準じた試験サンプルを射出成形にて2枚作成した。30重量%のNaOH水溶液を調整し、試験サンプル1枚を浸漬した。その後、NaOH水溶液を過熱し、93℃で24時間放置後、水で十分に洗浄した(処理サンプル)。処理サンプルと浸漬してない残りの試験サンプル(未処理サンプル)の引張試験をASTM−D−638に準じて測定し、次式を用いて強度保持率(%)を求めた。なお、NaOH強度保持率が95%以上のものを合格とした。
【0057】
NaOH強度保持率(%)=処理サンプルの強度/未処理サンプルの強度×100
[参考例1]PPSの合成
攪拌機および底に弁のついたオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム水溶液8267g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2925g(70.20モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)13860.00g(140.00モル)、酢酸ナトリウム2187g(26.67モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14740gおよびNMP280.0gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.08モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.023モルであった。
【0058】
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10250g(69.76モル)、NMP6452g(65.17モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで攪拌しながら、200℃から250℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、250℃で70分保持した。次いで、250℃から278℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、278℃で78分保持した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら内容物を撹拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく攪拌して大半のNMPを除去した。
【0059】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを攪拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0060】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを、攪拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0061】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPS顆粒を得た。得られたPPSのMFRは168g/10分だった。
[参考例2]PET−1の製造
高純度テレフタル酸(三井化学社製)1000gとエチレングリコール(日本触媒社製)450gのスラリーを予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約1230gが仕込み、温度250℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽に4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、このエステル化反応生成物の1230gを重縮合槽に移送した。
【0062】
引き続いて、エステル化反応生成物が移送された前記重縮合反応槽に、三酸化アンチモンを230ppmとなるように添加し、その後、低重合体を30rpmで撹拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。
【0063】
最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の撹拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻し、重縮合反応を停止して、冷水中にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてPETチップ1000gを得た。得られたポリマーのIVは0.65であった。
[参考例3]PET−2の製造
所定の攪拌トルクを変更した以外は参考例3と同様にして重縮合を行い、IV=0.51のPETチップ1000gを得た。
[参考例4]PETオリゴマー(以下、BHT)の製造
高純度テレフタル酸(三井化学社製)1000gとエチレングリコール(日本触媒社製)450gのスラリーを予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約1230gに仕込み、温度250℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽に4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行った。
【0064】
反応終了後、1230gをステンレス製のバットに吐出、空冷したのち粉砕してPETオリゴマー粉末を得た。得られたポリマーのIVは0.32であった。
実施例1
PPS顆粒97重量%およびPETチップ3重量%を300℃に加熱されたニーディングゾーンが2箇所有したベント式2軸混練押出機に供給し、更に、ガラス繊維(繊維径10μm、長さ3mm)をサイドフィードにてPPS/PETポリマーに対して100%となるように供給した。2軸混練押出機のせん断速度は100sec−1、滞留時間は1分となるように溶融押出した。混練時の樹脂温度は300℃であった。混練機より冷水中にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてPPS97重量%およびPET3重量%、ガラス繊維をポリマーに対し100重量%含有したポリマーチップを得た。
【0065】
得られたポリマーチップを150℃で10時間、真空乾燥し、シリンダー温度300℃、金型温度150℃の射出成形機に供給し、表面光沢性の評価サンプルを作成した。
【0066】
結果を表1に示す。
実施例2〜4
PPSとPETの比率を表1に示した比率に変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
実施例5
PET−1をPET−2に変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
比較例1
PET−1を供給しなかった以外は、実施例1と同様にして溶融押出しPPSチップを得た。結果を表2に示す。得られたPPSチップを実施例1と同様にして射出成形を行ったが、成形サンプル表面全体に光沢がないものであった。
比較例2
PPS90重量%およびPET10重量%に変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表2に示す。得られた射出成型体は耐薬品性が劣るものであった。
比較例3
PETをBHTに変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表2に示す。得られた成形サンプル表面は全体に光沢がないものであった。
【0069】
【表2】

【0070】
実施例6、7
混練温度を表3に示した温度に変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表
3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
実施例8、9、比較例4
ガラス繊維の量を変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表4に示す。ガラス繊維の量が本発明の範囲を外れるものは表面光沢性が劣るものであった。
実施例10
無機充填剤としてカーボンブラック(三菱化学社製:MCF−88)を更に添加した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表4に示す。
【0073】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアリーレンスルフィド 92〜99.9重量%と(B)直鎖のジオールとテレフタル酸からなるポリアルキレンテレフタレート0.1〜8重量%のブレンドポリマーからなる成形体であって、ブレンドポリマーに対して(C)無機充填剤が10〜400重量%含有することを特徴とする成形体。
【請求項2】
ポリアルキレンテレフタレートがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載の成形体。
【請求項3】
ポリアリーレンスルフィドがポリフェニレンスルフィドであることを特徴とする請求項1または2記載の成形体。
【請求項4】
(A)ポリアリーレンスルフィドがポリフェニレンスルフィドであり、ポリフェニレンスルフィド92〜99.9重量%と(B)直鎖のジオールとテレフタル酸からなるポリアルキレンテレフタレート0.1〜8重量%を280〜350℃の温度で押出機により溶融混練し、該溶融混練物に対し無機充填剤10〜400重量%を成型加工するまでの工程の任意の段階で溶融混合し成型することを特徴とする請求項1〜3記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
ポリアルキレンテレフタレートの固有粘度が0.5〜1.1であることを特徴とする請求項4記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
ポリアルキレンテレフタレートがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項4または5記載の成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−148848(P2011−148848A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8710(P2010−8710)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】