説明

ポリイミド構造体、その製造方法および積層フィルム、デバイス構造体

【課題】 極薄で耐熱性が要求されるデバイス構造体に好適なポリイミド構造体を提供する。
【解決手段】 15〜100μmの厚さの厚部と、1〜10μmの厚さの薄部とを有するポリイミド構造体であって、該構造体の線膨張係数が1〜10ppm/℃であり、該構造体の全平面面積に対する前記薄部の面積率が10〜60%であるポリイミド構造体。また、プラズマ処理した厚さ1〜10μmの芳香族系ポリイミドフィルムと、プラズマ処理しかつ複数個の薄部の形状の孔を形成した厚さ15〜100μmの芳香族系ポリイミドフィルムとを、両者フィルムのプラズマ処理面同士が接するように重ね合わせた後、両者フィルムを加熱圧着して積層フィルムとし、次いで、該積層フィルムから、薄部と厚部を有する所望の構造体を打ち抜くポリイミド構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に用いられるデバイス構造体などに使用できるポリイミド構造体に関する。さらに詳しくは、微小電子部品を配設可能な極薄部(10μm以下)を有し、かつ該極薄部の周囲に力学的補強のための厚部(15μm以上)を有するポリイミド構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、−269〜300℃までの広い温度範囲での物性変化が極めて少ないために、電気および電子分野での応用、用途が拡大している。電気分野では、例えば車両用モーターや産業用モーター等のコイル絶縁、航空機電線および超導電線の絶縁等に使用されている。一方、電子分野では、例えばフレキシブルプリント基板や、半導体実装用フィルムキャリヤーのベースフィルム等に利用されている。このようにポリイミドフィルムは、種々の機能性ポリマーフィルムの中でも極めて信頼性の高いものとして、電気および電子分野で広く利用されている。
【0003】
また、情報通信機器(放送機器、移動体無線、携帯通信機器等)、レーダーや高速情報処理装置などといった電子部品の基材の材料として、従来、セラミックが用いられていた。セラミックからなる基材は耐熱性を有し、近年における情報通信機器の信号帯域の高周波数化(GHz帯に達する)にも対応し得る。しかし、セラミックはフレキシブルでなく、薄くできないため、使用できる分野が限定される欠点がある。
そのため、有機材料からなるフィルムを電子部品の基材として用いる検討がなされ、ポリイミドフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルムなどが提案されている。従来のポリイミドフィルムは耐熱性に優れ、強靭である が、耐熱性フィルムとしては線膨張係数が大きいため、温度変化による寸法変化が大きく、微細な配線をもつ回路用には適さない点が問題となり、使用できる分野が限定されている。
そこで、ベンズオキサゾール環をポリイミド主鎖に有するポリイミドベンズオキサゾールフィルムが提案され(特許文献1、2参照)、引張破断強度、引張弾性率が改良され、より低い線膨張係数が達成でき、このポリイミドベンズオキサゾールフィルムを誘電層とするプリント配線板も提案されている(特許文献3参照)。
このポリイミドベンズオキサゾールフィルムは、従来のポリイミドフィルムに比べて、より高強度化、高弾性率化され、低線膨張化されているが、極薄フィルムとすることによる取扱性の悪さは改善されず、特に、電子的な機能を付与さるための構造体を得ようとする場合、その製造法、取扱性及び力学的強さが問題となり、その改善などが求められている。
【0004】
また、デバイス用などで特異な形状の構造体を得ようとする場合、耐熱性フィルム上に接着剤層を設けて構造形成物を接着する方法は、従来からよく知られた構造体形成方法であるが、接着剤の耐熱性の低さや脆さは、耐熱性フィルムの特性を十分に生かせず、この点においても、使用可能範囲が制限される結果となっていた。
【0005】
【特許文献1】特開平06−056992号公報
【特許文献2】特表平11−504369号公報
【特許文献3】特表平11−505184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、低線膨張係数化したポリイミド、さらにはポリイミドベンズオキサゾールから、接着剤を使用しないで、デバイス用、特に極小薄のデバイス用に好適な構造体を提供すること、さらには、取扱性及び力学的強さに優れ、耐熱性が要求される分野のデバイス用に好適な構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、一般的ポリイミドより引張破断強度、引張弾性率を共に高め、線膨張係数を低下させたポリイミドは、極薄膜化しても、その周縁部に同じポリイミドで厚い部分を形成すれば、耐熱形態安定性と取扱性などが改善できることを見出して本発明に到達したものである。
すなわち本発明は以下の構成からなる。
1.15〜100μmの厚さの厚部と1〜10μmの厚さの薄部とを有し、厚部と薄部との形成に際してポリイミド以外の樹脂成分を介在させずに得られたポリイミド構造体であって、該構造体の線膨張係数が1〜10ppm/℃であり、該構造体の全平面面積に対する前記薄部の面積率が10〜60%であることを特徴とするポリイミド構造体。
2.薄部の周囲が厚部で囲まれ、厚部が構造体の最外周部を形成してなる前記1記載のポリイミド構造体。
3.芳香族系ポリイミドが、ベンズオキサゾール骨格を有する前記1又は2のポリイミド構造体。
4.プラズマ処理した厚さ1〜10μmの芳香族系ポリイミドフィルムと、プラズマ処理しかつ複数個の薄部の形状の孔を形成した厚さ15〜100μmの芳香族系ポリイミドフィルムとを、両者フィルムのプラズマ処理面同士が接するように重ね合わせた後、両者フィルムを真空中で加熱圧着して積層フィルムとし、次いで、該積層フィルムから、薄部と厚部を有する所望の構造体を切断することを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のポリイミド構造体の製造方法。
5.前記4のポリイミド構造体の製造方法において用いる、薄部と厚部を有する所望の構造体を切断することができる積層フィルム。
6.前記1〜3のいずれかに記載のポリイミド構造体の薄部にデバイスを配設したデバイス構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリイミド構造体は、線膨張係数が1〜10ppm/℃を示すことができるポリイミドからなり、薄部(1〜10μm)と該薄部の周囲に力学的補強のための厚部(15〜100μm)を有しながら、耐熱性などが劣る接着剤が使用されていないため、極薄部の絶縁性、耐熱性、寸法安定性を有効に活用することができる構造体である。このため、極薄部に微小電子部品の配設したデバイス構造体は、極小薄のデバイス構造体とすることができ、かつ、耐熱性が要求される分野のデバイス構造体として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のポリイミド構造体を構成するポリイミドとは、芳香族テトラカルボン酸類(無水物、酸、およびアミド結合性誘導体を総称して類という、以下同)と芳香族ジアミン類(アミン、およびアミド結合性誘導体を総称して類という、以下同)とを反応させて得られ、かつ、線膨張係数が1〜10ppm/℃を満足するものである。
ポリイミド構造体の形成に使用されるポリイミドフィルムは、芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリアミド酸溶液を流延、乾燥、熱処理(イミド化)してフィルムとなす方法で得ることができる。ポリアミド酸溶液に用いられる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
本発明におけるポリイミドは、下記の芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸(無水物)類との組み合わせが好ましい例として挙げられる。
A.ピロメリット酸残基を有する芳香族テトラカルボン酸類、ベンズオキサゾール構造(骨格)を有する芳香族ジアミン類との組み合わせ。
B.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とビフェニルテトラカルボン酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
C.ジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類とピロメリット酸残基を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
中でも特にA.のベンズオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン残基を有する組み合わせのポリイミドが好ましい。
ベンズオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類の分子構造は特に限定されるものではないが、具体的には以下のものが挙げられる。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
【化9】

【0019】
【化10】

【0020】
【化11】

【0021】
【化12】

【0022】
【化13】

【0023】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンズオキサゾールの各異性体が好ましく、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズオキサゾールがより好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンズオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明においては、全ジアミン類の30モル%以下であれば下記に例示されるジアミン類を一種または二種以上を併用しても構わない。そのようなジアミン類としては、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンズオフェノン、3,4’−ジアミノベンズオフェノン、4,4’−ジアミノベンズオフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンズオイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンズオイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンズオイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンズオイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンズオイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンズオイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンズオフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンズオフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンズオフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンズオフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンズオフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンズオフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンズオフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンズオフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンズオフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンズオフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンズオフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンズオフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンズオフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンズオフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンズオフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンズオイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンズオイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンズオイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンズオイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンズオイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンズオイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンズオイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンズオイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンズオニトリルおよび上記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0025】
<芳香族テトラカルボン酸無水物類>
本発明で用いられる芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0026】
【化14】

【0027】
【化15】

【0028】
【化16】

【0029】
【化17】

【0030】
【化18】

【0031】
【化19】

【0032】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0033】
芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応(重合)させてポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの質量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるような量が挙げられる。
【0034】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/または混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の質量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
【0035】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸溶液を製造するのに有効である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
重合反応により得られるポリアミド酸溶液から、ポリイミドフィルムを形成するためには、ポリアミド酸溶液を支持体上に塗布して乾燥することによりグリーンフィルム(自己支持性の前駆体フィルム)を得て、次いで、グリーンフィルムを熱処理に供することでイミド化反応させる方法が挙げられる。支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0036】
また、ポリアミド酸溶液中には、ポリイミドフィルム表面に突起形状を作り、ポリイミドフィルムの滑り性を付与するため滑剤を入れることができる。
ポリイミドフィルムに滑り性を付与するために用いる滑材としては、球状シリカ、球状アルミナ等の無機粒子、球状架橋ポリアクリル、球状架橋ポリスチレン、球状シリコーン等の有機粒子があげられる。これらの球状粒子は、一般に、粒径が揃っている、粗大な粒子の含有量が少ないため、易滑層に均一な、滑り性のよい微細な突起を付与することができる。球状粒子として、無機粒子は、少量でも易滑性付与に優れ、また、有機粒子は、上記特性に加えて、柔軟な特性を有するため、易滑層から脱落した際に、フィルムを傷つけにくい特徴を有する。なお、滑材として、無機粒子と有機粒子を混在させて含有させることも可能である。滑材を用いると、フィルムロールを皺無く作成することができ、生産し易くなる。
【0037】
本発明のポリイミド構造体における薄部形成に好適なポリイミドフィルムの厚さは、1〜10μmであり、7μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。これらのフィルムは一定の厚さで厚さ斑は、20%以下であることが好ましく、これらのフィルムを使用することで、センサーなどの素子の高性能化や電子部品の軽小短薄に大きく貢献できる。
本発明のポリイミド構造体における厚部形成に好適なポリイミドフィルムの厚さは、15〜100μmであり、15〜39μmが好ましい。15μmより薄い場合は、機械的強度が薄部に対して充分なものではなく、100μmより厚い場合、軽小短薄のデバイスを目指す場合不利となり、製造コストも高くなり好ましくない。また、これらのフィルムの厚さ斑は20%以下であることが好ましく、これにより、作成時の圧力斑、デバイスの保持に好適な物となる。
【0038】
本発明におけるポリイミド構造体の線膨張係数は、厚部、薄部とも測れれば問題ないが、測定部分の大きさの関係でどちらかのみしか測れない場合、厚部、薄部とも、同一の組成のものであるので、測定できた部分の値を使い、本発明におけるポリイミド構造体の線膨張係数と定義する。少なくとも薄部の線膨張係数を測るのが望ましい。
ポリイミド構造体の線膨張係数は、1〜10ppm/℃であり、1〜5ppm/℃が好ましい。この範囲であることにより、微小電子部品の形成に好適である。
本発明におけるポリイミド構造体の薄部の面積の全体の平面面積に対する割合である面積率は、10〜60%であり、20〜50%が好ましい。面積率が60%を超えると形態安定性が劣るようになる傾向があり、10%未満では、デバイス構造体の極小薄化に対する効果が小さい。
本発明におけるポリイミド構造体の外周形状は、特に限定されるものではないが、円、正六角形、正方形が成形のしやすさの点で好ましい。
本発明におけるポリイミド構造体の薄部形状は、特に限定されるものではないが、円、正六角形、正方形が成形のしやすさの点で好ましい。より好ましいのは円である。
【0039】
本発明のポリイミド構造体に薄部と厚部を形成する方法は、耐熱性などが劣る接着剤を用いなければ特に限定されないが、例えば、以下の方法を採用することができる。
すなわち、厚さ1〜10μmの芳香族系ポリイミドフィルムと厚さ15〜100μmの芳香族系ポリイミドフィルムとを、予めプラズマ処理する。プラズマ処理は、一般的なプラズマ処理で大気圧や真空のいずれでもよく、下記の加熱圧着による接合が可能になるプラズマ処理条件を選定することが好ましい。
プラズマ処理した厚さ1〜10μmの芳香族系ポリイミドフィルムと、プラズマ処理しかつ複数個の薄部の形状の孔を形成した厚さ15〜100μmの芳香族系ポリイミドフィルムとを、両者フィルムのプラズマ処理面同士が接するように重ね合わせた後、両者フィルムを加熱圧着して接着させ、積層フィルムを得る。加熱圧着条件は、両者フィルムが接着できれば特に限定されないが、真空プレスすることが好ましい。
真空プレスする場合の真空度としては、1000Pa以下1Pa以上が好ましく、1000Paを超えると気体の影響がまだ残り、1Pa未満では、実現するためのコストがかかり、プロセス時間も長くなる。
加熱温度としては300℃以上450℃以下が望ましい。300℃未満では十分に接着に至らないことがあり、450℃を超えると、フィルムの劣化が進行する傾向がある。
プレス圧力としては5MPa以上100MPa以下程度が好ましい。5MPa未満では十分に接着に至らないことがあり、100MPaを超えると、フィルム薄部に応力が加わり平坦な加工が困難となることがある。
得られた積層フィルムには、厚さ15〜100μmの芳香族系ポリイミドフィルムの複数個の孔に起因する複数個の薄部が形成されている。そこで、得られた積層フィルムから、パンチ孔あけ機などを用いて、薄部を中心とし薄部の周囲が厚部となる所望の形状の構造体を打ち抜くことにより、薄部と厚部を有するポリイミド構造体を得ることができる。
【0040】
さらに別の薄部と厚部の形成方法としては、フィルム(薄部用)形成時に型を利用して上記グリーンフィルム面に前駆体の厚部を同時に形成し、以降同様にしてイミド化する方法や、厚手フィルムを薬剤エッチングやプラズマエッチングなどで薄部を形成する方法などが挙げられるが、いかなる方法であっても、耐熱性に劣る接着剤などの他成分を介在せしめないことが重要である。これらの方法中で、生産効率性の点で、前記2種類のプラズマ処理フィルムを用いて真空プレスして接着させる方法が好ましい。
【0041】
本発明におけるデバイス構造体とは、ポリイミド構造体の薄部に、薄膜或は厚膜法による、半導体、導体、誘電体、抵抗体、形状記憶合金、磁性金属薄膜、高透磁率材料、磁歪材料、磁気抵抗効果材料、透明導電材料、強磁性材料、強誘電材料、電歪材料、ガスバリヤ材料、絶縁材料、超伝導材料等の膜や回路を形成したり、微小電子部品を搭載したりすることにより、電子的な機能を付与させたものを言う。
微小電子部品としては、公知の市販される、受動電子部品、能動電子部品およびこれらの組み合わせが挙げられる。
また、本発明におけるデバイス構造体の具体的な応用例として、FPD用基板などの点灯、画質検査で電極部にコンタクトする接触型プローブ、IC検査用のプローブ、ウェハテスト(ICを作成したウェハ集積回路の製造工程で、ウェハ上に回路の形成が完成した段階で、ウェハを個々のチップに切り離す前に行うテスト)で用いるプローブカード、各種センサー、センサーの複合体、センサー信号を処理し、処理した信号を発生するものを挙げる事が出来る。
また、本発明におけるデバイス構造体が、熱電対を薄膜によって形成された熱センサーの場合、基板となる部分である本発明のポリイミド構造体の薄部の膜厚が薄いため、温度変化に対する追従が早く、微小領域の温度測定にも適している。
作成する薄膜として、金属、セラミックス、有機物、高分子が挙げられる。
【0042】
また、本発明におけるデバイス構造体を実現するために作成する薄膜としては、具体的には、シリコンのほか、ゲルマニウム、シリコン−ゲルマニウム、ガリウム−ヒ素、アルミニウム−ガリウム−インジウム、窒素−リン−ヒ素−アンチモンがよく用いられている。InP(インジウム燐)、InGaAs、GaInNAs、LT、LN、ZnO(酸化亜鉛)やCdTe(カドミウムテルル)、ZnSe(セレン化亜鉛) などの半導体材料、Al、Mullite、AlN、SiC、結晶化ガラス、Cordierite、Spodumene、Pb−BSG+CaZrO+Al、Crystallized glass+Al、Crystallized Ca−BSG、BSG+Quartz、BSG+Quartz、BSG+Al、Pb−BSG+Al、Glass−ceramicなどの 基盤用セラミックス材料、TiO、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム。アルミナ、MgO、ステアタイト、BaTi、BaTiO、BaTiO+CaZrO、BaSrCaZrTiO、Ba(TiZr)O、PMN−PT PFN−PFWなどのキャパシター材料、PbNb、Pb0.5Be0.5Nb、PbTiO、BaTiO、PZT、0.855PZT−.95PT−0.5BT、0.873PZT−0.97PT−0.3BT、PLZTなどの圧電材料、銅、アルミニウム、W、Mo、などの配線材料、形状記憶合金、磁性金属薄膜、高透磁率材料、磁歪材料、磁気抵抗効果材料、透明導電材料、強磁性材料、強誘電材料、電歪材料、ガスバリヤ材料、絶縁材料、超伝導材料など、および上記これらの複合膜、多層膜、海島構造膜が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0044】
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドン(又は、N,N−ジメチルアセトアミド)に溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。(ポリアミド酸溶液の調製に使用した溶媒がN,N−ジメチルアセトアミドの場合は、N,N−ジメチルアセトアミドを使用してポリマーを溶解し、測定した。)
2.ポリイミドフィルムの厚さ
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。
3.ポリイミドフィルムの引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸度
測定対象のポリイミドフィルムを、流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)にそれぞれ100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とした。引張試験機(島津製作所製、オートグラフ(R) 機種名AG−5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、MD方向、TD方向それぞれについて、引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度を測定した。
【0045】
4.ポリイミドフィルムの線膨張係数(CTE)
測定対象のポリイミドフィルムについて、下記条件にてMD方向およびTD方向の伸縮率を測定し、90〜100℃、100〜110℃、…と10℃の間隔での伸縮率/温度を測定し、この測定を400℃まで行い、100℃から350℃までの全測定値の平均値をCTE(平均値)として算出した。
装置名 ; MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ ; 10mm
試料幅 ; 2mm
昇温開始温度 ; 25℃
昇温終了温度 ; 400℃
昇温速度 ; 5℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0046】
5.ポリイミド構造体の耐熱形態安定性の評価
実施例、比較例で得られたポリイミド構造体を、オーブン内に250℃に1時間置いた後、ヒーターの電源を切り10時間放置後に、再度250℃まで昇温させ250℃に1時間置いた後、ヒーターの電源を切り10時間放置した。各構造体をオーブンから取り出し、その形状変化を目視により評価した。
形状変化が全く認められないものを◎、形状変化の軽微なものを○、反り、皺、剥がれなどが発生したものを×とした。
【0047】
〔参考例1〕
(無機粒子の予備分散)
アモルファスシリカの球状粒子シーホスターKE−P10(日本触媒株式会社製)を1.22質量部、N−メチル−2−ピロリドン420質量部を、容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである容器に入れホモジナイザーT−25ベイシック(IKA Labor technik社製)にて、回転数1000回転/分で1分間攪拌し予備分散液を得た。予備分散液中の平均粒子径は0.11μmであった。
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、223質量部の5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズオキサゾールを入れた。次いで、4000質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を420質量部と217質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて24時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液Aが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.8であった。
【0048】
〔参考例2〕
(無機粒子の予備分散)
アモルファスシリカの球状粒子シーホスターKE−P10(日本触媒株式会社製)を7.6質量部、N−メチル−2−ピロリドン390質量部を容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである容器に入れホモジナイザーT−25ベイシック(IKA Labor technik社製)にて、回転数1000回転/分で1分間攪拌し予備分散液を得た。
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、200質量部のジアミノジフェニルエーテルを入れた。次いで、3800質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を390質量部と217質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液Bが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.7であった。
【0049】
〔参考例3〕
(無機粒子の予備分散)
アモルファスシリカの球状粒子シーホスターKE−P10(日本触媒株式会社製)を3.7質量部、N−メチル−2−ピロリドン420質量部を容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである容器に入れホモジナイザーT−25ベイシック(IKA Labor technik社製)にて、回転数1000回転/分で1分間攪拌し予備分散液を得た。
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、108質量部のフェニレンジアミンを入れた。次いで、3600質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を420質量部と292.5質量部のビフェニルテトラカルボン酸二無水物を加えて、25℃にて12時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液Cが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は4.5であった。
【0050】
〔ポリイミドフィルムの作成〕
参考例1〜3で得たポリアミド酸溶液を、ダイコーターを用いて鏡面仕上げしたステンレススチール製の無端連続ベルト上に塗布し(塗工幅1240mm)、90〜115℃にて10分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムを支持体から剥離して両端をカットし、それぞれのグリーンフィルムを得た。
得られたこれらのグリーンフィルムを、ピンシートが並んだ際にピン間隔が一定となるようにピンを配置したピンシートを有するピンテンターに通し、フィルム端部をピンにさしこむ事により把持し、フィルムが破断しないように、かつ不必要なタルミ生じないようにピンシート間隔を調整し、最終ピンシート間隔が1140mm、となるように搬送し、第1段が170℃で2分間、第2段として230℃で2分間、第3段485で6分間の条件で加熱を施して、イミド化反応を進行させた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端部の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、褐色を呈するフィルム1〜フィルム6のそれぞれのポリイミドフィルムを得た。得られた各ポリイミドフィルムの特性の測定結果を表1に記載する。
【0051】
【表1】

【0052】
<実施例1>
真空プレスによる作成例
(1)プラズマ処理
A4サイズにカットした厚さ5μmのポリイミドフィルムNo.1に、粘着剤つき厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り合せたポリイミドフィルム・PETフィルム積層体を両面が同時にプラズマ処理できる日放電子社製プラズマ処理機にセットし、真空に排気した後に、酸素ガスを導入し、放電させて、プラズマ処理を行なった。その結果、ポリイミドフィルムNo.1は、片面のみがプラズマ処理された。処理条件は、真空度3×10Pa、酸素ガス流量1.5SLM(Standard litter per Minute)、放電電力12kWである。
また、A4サイズにカットした厚さ38μmのポリイミドフィルムNo.4について、粘着剤つき厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り付けずに同一処理条件でプラズマ処理を行い、両面がプラズマ処理されたポリイミドフィルムNo.4を得た。
(2)パンチ孔あけ
トムソン刃を用い、プラズマ処理されたポリイミドフィルムNo.4から直径10mmの円形の孔を打ち抜いた。孔はそれぞれ孔の中心が30mm程度離れるように3×3の9個の孔を開けた。
【0053】
(3)真空プレス
前記のプラズマ処理したポリイミドフィルム・PETフィルム積層体から粘着剤つきPETフィルムを剥がして、鏡面SUS板上に、厚さ5μmのポリイミドフィルムNo.1のプラズマ処理した面が鏡面SUS板とは接しない方に向けて置いた。次いで、その上に、前記のプラズマ処理し、かつパンチ孔あけしたポリイミドフィルムNo.4のプラズマ処理面と前記のポリイミドフィルムNo.1のプラズマ処理面とが接するように重ね合わせて、更にその上にプラズマ処理をしていない他の厚さ38μmのポリイミドフィルムを重ねた後、プレス機にセッティングした。真空に引いてから昇温は5℃/minで370℃まで昇温して、7分間この温度を保持した後に5℃/minで冷却して温度を下げた。100℃以下になってから、大気圧に戻して、プレス圧力も取り除いた。前記プラズマ処理をしていない他の厚さ38μmのポリイミドフィルムは、プレスによって接着はされないため、剥がして取り除いた。この真空プレスによって、直径10mmの円形で厚さ5μmの薄部を9箇所有し、他の部分の厚さが概ね42μmのポリイミド構造体を得た。このときの真空度は、10Paから1Paの間であった。使用した真空プレス機は井元製作所製(11FD改東洋紡仕様)である。
(4)パンチ孔あけ
前記の真空プレスによって得られたポリイミド構造体の直径10mmの円形の薄部の中心をパンチの中心に合わせて、トムソン刃で直径13mmの円を打ち抜いた。
得られたポリイミド構造体は、直径10mmで厚さ5μmの薄部を有し、該薄部の周囲に幅1.5mmで厚さ42μmの厚部を有する外径13mmの円形ポリイミド構造体である。
得られた実施例1のポリイミド構造体の評価結果を表1に示した。
【0054】
<実施例2>
実施例1の(2)のパンチ孔あけで、孔はそれぞれ孔の中心が50mm程度離れるように2×2の4個の孔を開け、
(4)のパンチ孔あけで、トムソン刃の直径を13mmから15mmに変えた以外は実施例1と同様にして、実施例2のポリイミド構造体を得た。得られた実施例2のポリイミド構造体の評価結果を表1に示した。
【0055】
<比較例1>
使用するポリイミドフィルムの組み合わせをNo.1をNo.5に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1のポリイミド構造体を得た。得られた比較例1のポリイミド構造体の評価結果を表1に示した。
【0056】
<比較例2>
(1)接着シート貼り付け
ポリイミドフィルムNo.1に、市販の接着剤シートD3432(ソニーケミカル社製、厚さ13μm、セパレーターフィルム付き)を100℃にしたロールでロールラミして、ポリイミドフィルムNo.1/接着剤/セパレーターフィルムの順に積層された積層体を得た。ポリイミドフィルムNo.1と貼り付けていない側にあるセパレーターフィルムはこの段階ではまだ剥がさないでおく。
(2)パンチ孔あけ
トムソン刃を用い、厚さ38μmのポリイミドフィルムNo.4から直径10mmの円形の孔を打ち抜いた。
孔はそれぞれ孔の中心が30mm程度離れるように3×3の9個の孔を開けた。
(3)フィルム貼りあわせ
前記の積層体からポリイミドフィルムNo.1と貼り付けていない側のセパレーターフィルムを剥がして、接着剤面に、パンチ孔あけしたポリイミドフィルムNo.4を重ね合わせて、再度100℃にしたロールでロールラミして、貼り付けた。この後に、160℃のプレス機にてパンチ孔あけした部分が接着しないようにして1時間プレスすることにより接着剤の硬化を行なった。
(4)パンチ孔あけ
前記の加熱プレスによって得られたポリイミド構造体の直径10mmの円形の薄部の中心をパンチの中心に合わせて、トムソン刃で直径13mmの円を打ち抜いた。
得られたポリイミド構造体は、直径10mmで厚さ5μmの薄部を有し、該薄部の周囲に幅3mmで厚さ55μmの厚部を有する外径13mmの円形ポリイミド構造体である。得られた比較例2のポリイミド構造体の評価結果を表1に示した。
【0057】
<比較例3>
使用するポリイミドフィルムの組み合わせをNo.2とNo.5に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例3のポリイミド構造体を得た。得られた比較例3のポリイミド構造体の評価結果を表1に示した。
【0058】
<比較例4>
使用するポリイミドフィルムの組み合わせをNo.3とNo.6に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例4のポリイミド構造体を得た。得られた比較例4のポリイミド構造体の評価結果を表1に示した。
【0059】
<比較例5>
実施例1において、ポリイミド構造体のパンチ孔あけ時の直径を13mmから11mmに変えた以外は実施例1と同様にして比較例5のポリイミド構造体を得た。
【0060】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリイミド構造体は、極薄部が絶縁性、耐熱性、寸法安定性に優れ、極薄部の周囲が同一ポリイミドの厚部で一体化されて補強されているため、取扱性、耐熱形態安定性に優れる。このため、極小薄で、かつ耐熱性が要求されるデバイス用構造体に好適であり、本発明のポリイミド構造体の極薄部にデバイスを配したデバイス構造体は、極小薄で、かつ耐熱性が要求される分野に、特に有用である。
その例としては、センサー、プローブ、集積回路、およびこれらの複合デバイスなどであり、より具体的な応用例としては、温度センサー、湿度センサーをはじめとして、力変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、化学、音声および時間(時計 )、硬度 、電場 、電流 、電圧 、電力 、放射線 、流量 、傾斜 、振動 、臭い 、赤外線を検知するセンサー やこれらの機能を複合した複合センサーとすることが可能である。
さらに、本発明のポリイミド構造体を利用したセンサー類の特筆すべき効果を挙げると、薄膜の熱電対の熱センサーの場合、基板となる薄部のポリイミドの膜厚が薄いことから温度変化に対する追従が早く、微小領域の温度測定に好適である。
また、スマートセンサー、あるいはインテリジェントセンサーは解析、情報処理の能力が付加されたセンサーとなる。スマートセンサーには複数のセンサーを具備させ、一度に複数のデータを取得し、異常な値や例外値を取り除き、データを処理しそれを蓄積し、これにより、自動校正機能、自動補償機能が備えることが可能である。また、他の種類のセンサーと組み合わせることも可能である。
以上のように、極小薄のセンサーなどのデバイス構造体の製造に極めて有用であり、産業界への寄与は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のポリイミド構造体の形状の例の平面概略を示す図であり、(a)から(d)は実施形態の例を示す。
【図2】本発明のポリイミド構造体の断面の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0063】
1: 構造体の厚部
2: 構造体の薄部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15〜100μmの厚さの厚部と1〜10μmの厚さの薄部とを有し、厚部と薄部との形成に際してポリイミド以外の樹脂成分を介在させずに得られたポリイミド構造体であって、該構造体の線膨張係数が1〜10ppm/℃であり、該構造体の全平面面積に対する前記薄部の面積率が10〜60%であることを特徴とするポリイミド構造体。
【請求項2】
薄部の周囲が厚部で囲まれ、該厚部が構造体の最外周部を形成してなる請求項1記載のポリイミド構造体。
【請求項3】
ポリイミドが、ベンズオキサゾール骨格を有する請求項1又は2のポリイミド構造体。
【請求項4】
プラズマ処理した厚さ1〜10μmの芳香族系ポリイミドフィルムと、プラズマ処理しかつ複数個の薄部の形状の孔を形成した厚さ15〜100μmの芳香族系ポリイミドフィルムとを、両者フィルムのプラズマ処理面同士が接するように重ね合わせた後、両者フィルムを真空中で加熱圧着して積層フィルムとし、次いで、該積層フィルムから、薄部と厚部を有する所望の構造体を打ち抜くことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミド構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項4のポリイミド構造体の製造方法において用いる、薄部と厚部を有する所望の構造体を打ち抜くことができる積層フィルム。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミド構造体の薄部にデバイスを配設したデバイス構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−24389(P2010−24389A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189423(P2008−189423)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】