説明

ポリイミド溶液の製造方法および含フッ素ポリイミド溶液

本発明の目的は、ポリイミドの溶液を容易に得られる方法を提供することにある。さらに本発明では、特に光学材料や電子機能材料として優れる含フッ素ポリイミドを容易に製造することができる含フッ素ポリイミド溶液を提供することも目的とする。本発明に係る可溶性ポリイミド溶液の製造方法は、ポリアミド酸、脱水環化試薬および溶媒を含む混合物を、自転公転式混合法により混合することを特徴とする。また、本発明の含フッ素化ポリイミド溶液は、下記式(II)で表ポリイミドの溶液である。


[上記式中、XおよびYは互いに独立した2価の有機基を示し;Zは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示し;pは1〜3の整数を示し;qは0〜2の整数を示す;但し、p+q=3とする。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド溶液の製造方法、および含フッ素ポリイミド溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、その優れた耐熱性や機械的強度などの特性により、光学材料、配線基板材料、感光材料や液晶材料等として広く用いられており、重要な樹脂材料の1つである。
【0003】
ところがこのポリイミドには、材料としての優れた特性故に、成形し難いという側面もある。つまり、ポリイミドは不融であったり溶媒に不溶であるために、例えば溶媒に溶解した上でフィルム等に成形するのが困難である。そこで、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を酸二無水物とジアミン化合物から合成し、その溶液を用いて成形した後に、加熱や化学的方法によりポリイミドへ誘導するのが一般的である。
【0004】
しかし、ポリアミド酸からポリイミド化するには、通常、250〜400℃という高温で数時間以上加熱する必要がある。その結果、樹脂がより着色してしまう場合があった。この着色は、特にポリイミドを光学材料に用いる場合に問題となり、光伝達に必要な近赤外波長の光が情報伝達途中で低減されることがある。また、光導波路は光屈折率が異なる材料からなるコアとクラッドで構成されているが、一方の材料としてポリイミドを用いると、ポリアミド化に高温を要するため他方の材料として耐熱性に劣るものを使用できない。
【0005】
その一方で、加熱温度を低く設定すると、ポリイミド化に要する時間が多くなるのみならず、得られるポリイミドの強度が低下するという問題もある。つまり、ポリアミド酸の加熱温度を徐々に上昇させていくと、150〜200℃付近で一旦ポリアミド酸の低分子量化が起こり、さらに高温で分子の再結合とポリイミド化が起こる。よって、比較的低温度で時間をかけてポリイミド化を行なうと、低分子量化されたままの低強度のポリイミドしか得られない。
【0006】
ポリアミド酸溶液をポリイミド化する他の方法としては、ポリアミド酸溶液にキシレンやトルエン等を加えることによって、ポリイミド化の際に生ずる水分を共沸する方法もある。この方法によれば、比較的低温度(一般的には、80〜200℃程度)でのポリイミド化が可能である。しかし、工業的にはキシレン等を加える工程が増えることになり効率的でない上に、高イミド化率を達成するには比較的長時間を要する。
【0007】
これに対して化学的なポリイミド化方法は、比較的低温度で且つ短時間でポリイミド化でき効率的である。しかしそれでもポリアミド酸溶液自体が不安定であり、ポリアミド酸の低分子量化が進行してしまうという問題がある。最近では、斯かる現象が水分の存在しない状態下でも発生することが明らかにされている。また、ポリアミド酸溶液の粘度は高いために、ポリイミド化するための脱水環化試薬を均一混合し難い。かかる問題は、特に工業的に大規模な実施で顕著となる。一方、試薬の均一混合を容易にすべく、溶媒量を増やして粘度を下げれば、廃液量が多くなるため、やはり大規模な実施には適さない。
【0008】
そこで、ポリアミド酸溶液からポリイミドとするのではなく、ポリイミドを溶媒に溶解して直接ポリイミド溶液とする技術が開発されている。ポリイミド溶液を用いれば、過度な高温を要することなく溶媒を除去するのみでポリイミド製品を製造することができる。
【0009】
例えば、特開平5−17576号公報には、可溶性の芳香族ポリイミドが記載されており、実施例によれば、N,N−ジメチルホルムアミド等に15%の濃度で溶解できるとされている。
【0010】
しかし、この先行技術の実施例では、ポリアミド溶液を化学的にポリイミド化してポリイミド粉末を得ている。ここでは実施規模など詳細な条件は記載されていないが、粘度の高いポリアミド酸溶液へ脱水環化試薬を均一混合するのは規模が大きく成る程困難であり、大規模な実施には適さないと考えられる。また、この技術では、いったん粉末化したポリイミドを溶媒に溶解して溶液を得ているが、これは溶解性の高い特定のポリイミドに関する技術であり、一般的にはポリイミドの濃度が高まるにつれ溶液粘度も上昇し、通常の攪拌機では対応できなくなり得る。
【0011】
また、特開平3−62868号公報には、特定のテトラカルボン酸無水物とジアミン化合物を反応させて得られるポリアミド酸をイミド化率20〜98%の範囲でイミド化したものが溶媒中に溶解している光学材料用ポリイミドワニスが記載されている。しかし当該技術では、70〜250℃という比較的低温度でポリアミド酸溶液を加熱してポリイミド溶液としているので、分子量の低下が生じていると考えられる。
【0012】
ところで、特開平7−149896号公報には、テトラカルボン酸のオリゴマー溶液とジアミン成分溶液を自転公転式混合法で混合することによって、ポリアミド酸溶液を製造する方法が記載されている。しかし、当該方法はあくまでポリアミド酸溶液を製造することを目的とするものであり、ポリイミド溶液については一切記載されていない。
【0013】
近年、光電子集積回路を作製するに十分な耐熱性を有し、近赤外域光、特に光通信波長域(1.0〜1.7μm)における光透過損失が少なく光学材料として好適なポリイミドとして、置換基にフッ素を有するポリイミドが注目されている。例えば、特開平5−1148号公報には、C−H結合の全てがC−F結合に置換されている全フッ素化ポリイミドが開示されている。
【0014】
しかし、この先行技術の実施例では、前駆体であるポリアミド酸の溶液をアルミ板にスピンコートした後、70〜350℃で数時間にわたる加熱により溶媒を留去しつつ焼成してポリイミドとしている。しかし斯かる方法では、1.0μm以下の波長域における光透過損失が多い場合がある。近年、光学材料においては特に優れた光学特性が求められることから、高温加熱処理によりポリイミド化する方法には問題がある。
【0015】
その一方で、特開平5−1148号公報に記載のポリイミドを溶媒に溶解してワニスを調製し、光導波路等の製造に用いれば、加熱は溶媒を留去するに十分であれば足りるので、高品質の製品が得られる可能性がある。しかし、ポリアミド酸溶液から高温加熱により得たポリイミドは、おそらく高温度での焼成で分子間の架橋反応が生じていることによると考えられるが、溶媒には全く不溶である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述した様に、安定性が悪いポリアミド酸溶液に代えてポリイミド溶液をワニスとして用いる技術思想は公知のものである。しかし、従来のポリイミド溶液は特に可溶性の高いポリイミドを選択して溶液としたものであり、一般的な可溶性ポリイミドについて、高濃度かつ高粘度のポリイミド溶液が得られるものではなかった。
【0017】
また、フッ素置換されたポリイミドであって光学材料に適するものが既に開発されている。しかし、このポリイミドはポリアミド酸溶液から製造されるものであるので、高温による品質の低下が生じている可能性があった。よって、光透過損失が一層少ないポリイミドを、より簡便に製造できる技術も求められていた。
【0018】
そこで、本発明が解決すべき課題は、ポリイミドの溶液を容易に得られる方法を提供することにある。さらに本発明では、特に光学材料や電子機能材料として優れる含フッ素ポリイミドを容易に製造することができる含フッ素ポリイミド溶液を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ポリイミドの溶液が効率よく得られる条件につき鋭意研究を重ねた。その結果、化学的方法を用いてポリアミド酸からポリイミドとするに当たり、自転公転式混合法により原料化合物を混合して反応を進めれば、高粘度のポリイミド溶液が簡便に得られることを見出して本発明を完成した。
【0020】
即ち、本発明に係る可溶性ポリイミド溶液の製造方法は、ポリアミド酸、脱水環化試薬および溶媒を含む混合物を自転公転式混合法により混合することを特徴とする。
【0021】
上記脱水環化試薬としては、3級アミン、または3級アミンとカルボン酸無水物の組合せが好適である。高濃度で高粘度のポリイミド溶液を、特に効率良く得られるからである。また、ポリアミド酸としては、下記式(I)で表される化合物を用いることが好ましい。光学材料として優れるポリイミドの溶液が得られるからである。
【0022】
【化1】

[上記式中、XおよびYは互いに独立した2価の有機基を示し;Zは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示し;pは1〜3の整数を示し;qは0〜2の整数を示す;但し、p+q=3とする。]
【0023】
本発明に係る可溶性ポリイミド溶液の粘度としては、1Pa・S以上が好ましい。濃度や粘度が高いほど、厚膜のポリイミドを効率的に製造できるからである。
【0024】
また、本発明者らは、光透過損失の少ない含フッ素ポリイミドを簡便に製造できる技術につき鋭意研究を重ねたところ、特定構造の含フッ素ポリイミドで高温による焼成工程を経ないものは溶媒に対する溶解性が高く、その溶液を用いれば、本発明の目的を達成できることを見出して、本発明を完成した。
【0025】
即ち、本発明に係る含フッ素ポリイミド溶液は、下記式(II)で表され、光学材料として優れるポリイミドの溶液である。
【0026】
【化2】

[上記式中、X,Y,Z,pおよびqの定義は、前述したものと同義とする。]
【0027】
上記ポリイミド溶液の粘度も、やはり1Pa・S以上が好適である。
【0028】
また、本発明に係る光導波路の製造方法は、本発明の含フッ素ポリイミド溶液を用いて、クラッド層もしくはコア層またはコア自体を形成する工程を含む。即ち、基板やクラッド層上に本発明の含フッ素ポリイミド溶液を塗布して溶媒を留去するか、或いはクラッドに形成した溝に本発明の含フッ素ポリイミド溶液を挿入した後に溶媒を留去することによって、ポリイミドからなるクラッド層、コア層またはコア自体を形成する。
【0029】
また、本発明の光導波路は上記方法により製造されたものである。当該光導波路としては、コアがポリイミドからなるものが好適である。本発明の含フッ素ポリイミド溶液を使って光導波路のコアを形成する場合、溶媒を留去するのみでよく従来の様な高温を要しないことから、コア自体またはクラッドにおける光伝達に必要な波長の光透過損失を抑制できる。また、従来方法において、かかる光透過損失を回避するために低温で長時間加熱処理する場合の様に、ポリイミドの低分子化も生じない。
【発明の効果】
【0030】
本発明の製造方法によれば、原料として高粘度のポリアミド酸溶液を用いる場合でも、比較的短時間で効率よく高イミド化率でポリイミド溶液を製造することができる。よって、本発明方法は、特にポリイミド溶液をプラントレベルで大量合成するのに適している。本発明方法により得られるポリイミド溶液は、泡噛みがなく高濃度で且つ高粘度であることから、ワニスとして利用することによって、光導波路や光ファイバー等の光学材料、プリント板やLSI用の電子機能材料などのポリイミド製品を効率よく製造することができる。
【0031】
また、本発明に係る含フッ素ポリイミド溶液を用いれば、特に光伝達に必要な特定波長における光透過損失が少ないことから光学材料等として優れる含フッ素ポリイミドを簡便に製造することができる。
【0032】
さらに、本発明に係るポリイミド溶液は、従来のポリアミド酸溶液に比べてポリイミド化に要する熱が必要ないため、厚膜フィルムや基板も、比較的低温の加熱処理で高イミド化率の製品を得ることができる。また、ポリイミド製品の製造で一般的に使用されているポリアミド酸溶液に比べ、ポリイミド溶液は保存安定性が高い。
【0033】
従って、本発明に係る可溶性ポリイミド溶液の製造方法と含フッ素ポリイミド溶液は、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明に係るポリイミド溶液の製造方法は、ポリアミド酸、脱水環化試薬および溶媒を含む混合物を、自転公転式混合法により混合する点に要旨を有する。
【0035】
本発明方法に対し、従来における化学的なポリイミド化においては、溶媒中でポリアミド酸と脱水環化試薬を均一混合しようとしても、粘度が高いことから速やかに反応させることが難しかった。その一方で、溶媒量を増やして粘度を低減すれば、廃液量が増加してしまう。よって、必須成分を単に攪拌混合するのみの方法は、ポリイミド溶液の大規模な大量生産には不向きであった。また、ポリアミド酸溶液を高温で加熱してポリイミド製品を製造する従来方法は、高温度により製品品質が劣化してしまうことから、光学材料の製造には不適である。この加熱温度を低くすれば、今度は得られるポリイミドの分子量が低下していまい、低強度な製品しか得られない。
【0036】
一方、本発明方法によれば、溶媒中でポリアミド酸と脱水環化試薬を容易且つ速やかに均一混合でき、同時にポリイミド化を行なうことができる。よって、少ない溶媒量で粘度の高いポリイミド溶液を効率的に得ることができる。また、本発明方法により得られたポリイミド溶液は、溶媒を留去するに必要な温度のみで加熱することによりポリイミド製品を得ることができるので、高品質な製品を得ることができる。さらに本発明方法では、ポリアミド酸の低分子量化によるポリイミド製品強度の低下は、起こり得ない。
【0037】
本発明方法で用いるポリアミド酸は、下記一般式を有するポリアミド酸でありその種類は特に制限されないが、少なくとも可溶性の環状ポリイミドの前駆体である必要がある。
【0038】
【化3】

[上記式中、R1は4価の有機基を示し、R2は2価の有機基を示す。]
【0039】
ポリアミド酸としては、下記式(I)で表される化合物が好適である。当該化合物からは、優れた光学材料や電子機能材料としてのポリイミドが得られるからである。
【0040】
【化4】

[上記式中、X,Y,Z,pおよびqの定義は、前述したものと同義とする。]
【0041】
Xは2価の有機基を示すが、当該基として例えば以下のものを例示することができる。即ち、以下のアリール基
【0042】
【化5】

[上記アリール基は、ハロゲン原子,メチル基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。];
以下のアリールオキシ基
【0043】
【化6】

[上記アリール基は、ハロゲン原子,メチル基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。];
以下のアリールチオ基
【0044】
【化7】

【0045】
[上記アリール基は、ハロゲン原子,メチル基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。]などを挙げることができる。これらの中では、アリールオキシ基またはアリールチオ基が好ましく、アリールオキシ基がより好ましい。
【0046】
上記例示において、置換基であるハロゲン原子としては、フッ素原子,塩素原子,臭素原子およびヨウ素原子を挙げることができるが、フッ素原子または塩素原子が好ましく、フッ素原子が最も好ましい。また、置換基が複数である場合には、置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。好適な置換基は、フッ素原子および/またはトリフルオロメチル基であり、最も好適にはフッ素原子である。
【0047】
Xとしては、以下の基が好適である。
【0048】
【化8】

[上記式中、W1およびW2はそれぞれ独立して酸素原子または硫黄原子を示す。]
【0049】
この場合、W1とW2は同一である、即ちW1とW2は共に酸素原子であるか或いは硫黄原子であることが好ましく、共に酸素原子であることがより好ましい。
【0050】
2価の有機基であるYの種類は、特に制限されないが、例えば以下の基を例示することができる。
【0051】
【化9】

【0052】
上記例示において、置換可能であれば、ハロゲン原子,メチル基およびトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子または塩素原子が好ましく、フッ素原子が最も好ましい。また、置換基が複数である場合には、置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。好適な置換基は、フッ素原子および/またはトリフルオロメチル基であり、最も好適にはフッ素原子である。
【0053】
化合物(I)において、pは1〜3の整数を示し;qは0〜2の整数を示し;且つp+q=3とする。好ましい化合物(I)としては、pが3であるもの、即ち、全フッ素置換されている化合物が挙げられる。
【0054】
本発明で用いる脱水環化試薬は、ポリアミド酸を化学的に脱水環化してポリイミドとする作用を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。この様な脱水環化試薬としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(略して、「DABCO」)、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルメチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン等の3級アミンや;無水酢酸,無水トリフルオロ酢酸,無水プロピオン酸,無水酪酸,無水イソ酪酸,無水コハク酸,無水マレイン酸等のカルボン酸無水物を挙げることができる。上記3級アミンとしては、ピリジン、DABCOおよびN,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタンが好適であり、特にDABCOが好ましい。カルボン酸無水物としては、無水酢酸または無水トリフルオロ酢酸が好ましく、無水酢酸がより好ましい。これら3級アミンとカルボン酸無水物は、3級アミンを単独で用いても、3級アミンとカルボン酸無水物を組合わせて用いてもよい。
【0055】
本発明で用いる溶媒としては、溶解性に優れる極性溶媒が好適である。例えば、N,N−ジメチルアセトアミド,N,N−ジメチルホルムアミド,N−メチルピロリドン,ジメチルスルホキシド等である。
【0056】
本発明方法では、先ず、ポリアミド酸、脱水環化試薬および溶媒を含む混合物を調製する。当該混合物は、均一溶液であっても懸濁液であってもよい。
【0057】
当該混合物におけるポリアミド酸の濃度は、最終的にポリイミドとした際に室温でポリイミドが析出しない程度の濃度とする。その一方で、できる限り高濃度にすることが好ましい。得られるポリイミド溶液の濃度や粘度を高めることができ、ポリイミド製品を効率的且つ簡便に製造できるからである。斯かる観点からは、当該混合物におけるポリアミド酸濃度を5質量%以上、より好ましくは10質量%以上とすることが好ましいが、具体的な濃度は予備実験により決定すればよい。
【0058】
脱水環化試薬の添加量は、公知技術に従って、ポリアミド酸の添加量に応じて定めることができる。例えば、3級アミンの添加量は、ポリアミド酸中のアミド単位に対して0.005〜0.3当量、好ましくは0.01〜0.2当量とすることができる。0.005当量未満では触媒としての効果が十分ではない場合があり、0.3当量を超えて添加しても効果が飽和するおそれがあるからである。また、カルボン酸無水物の添加量は、同じくポリアミド酸中のアミド単位に対して、1〜20当量、好ましくは1.1〜15当量とすることができる。1当量未満ではアミド結合が残り脱水剤としての効果を十分に発揮できないおそれがあるからであり、20当量を超えると効果が飽和する場合があるからである。
【0059】
上記ポリアミド酸と脱水環化試薬と溶媒を予備的に混合して混合物とする方法は、特に問わない。例えば、ポリアミド酸と溶媒とを混合したもの(溶液を含む)に脱水環化試薬を直接加えてもよいし、脱水環化試薬を溶媒に溶解して加えてもよい。また、脱水環化試薬として3級アミンとカルボン酸無水物との組合せを用いる場合における順番も、特に制限されない。例えば、3級アミンとカルボン酸無水物を一度に加えてもよいし、先ず何れか一方をポリアミド酸と溶媒に加え、自転公転式混合法により適度に混合した後に、他方を加えてさらに混合してもよい。
【0060】
本発明方法では、上記混合物を自転公転式混合法により混合し、ポリイミド化する。その際、室温で混合すればよいが、事前に100℃程度以下の温度まで加温してもよい。但し、特に大量合成の場合には、不均一な温度上昇を避けるために必要以上に加温すべきでない。
【0061】
本発明で採用する自転公転式混合法は、対象物に自転運動と公転運動を与えることによって、対象物を攪拌したり脱泡或いは脱気する方法をいう。当該混合法によれば、本発明の混合物を短時間で効率的に混合することにより原料化合物間の接触を良好にできることから、ポリイミド化の偏りを抑制でき、高イミド化率を達成できる。また、同時に脱泡または脱気することができるので、泡咬みのないポリイミド溶液を得ることができる。
【0062】
自転公転式混合法による混合は、市販の装置を用いて行なってもよいし、実施規模に応じて新たに製造した装置を使用してもよい。自転公転式混合法を実施するための装置が有すべき要件は、少なくとも本発明の混合物を挿入した容器に対して自転運動と公転運動を与えられることである。また、自転面と公転面は平行であってもよいが、装置に対する負荷を低減するために、互いの面に角度を設けてもよい。例えば、10〜80度程度の角度を設けてもよい。
【0063】
この自転運動と公転運動の回転速度としては0.1〜5000rpmの範囲が好適であり、自転運動と公転運動の回転速度は同一であっても異なっていてもよい。また、各回転速度を変化させ、一定時間ごとに攪拌するものであってもよい。例えば、攪拌を主目的として自転速度を10〜2000rpm,公転速度を100〜3000rpmとして混合し、次いで脱泡を主目的として自転速度を0〜1000rpm,公転速度を100〜3000rpmとして混合してもよい。具体的な条件は、実施スケール等に応じて決定すればよい。
【0064】
混合時間は特に制限されないが、自転公転式混合法による混合は、混合物の粘度が高くても極めて効率よく進むので、例えば1〜30分とすることができる。具体的な混合時間は、予備実験により決定すればよい。
【0065】
上述した様に、本発明方法によれば、高濃度で高粘度の可溶性ポリイミド溶液を簡便に効率よく得ることができる。例えば、対象とする可溶性ポリイミドの溶解度にもよるが、従来技術では製造が困難であった30質量%以上の可溶性ポリイミド溶液の製造も可能である。また、従来方法では攪拌混合が困難であった粘度が1Pa・S以上の可溶性ポリイミド溶液も、効率よく製造することができる。
【0066】
本発明方法により製造されるポリイミド溶液の粘度は、より好ましくは3Pa・S以上であり、さらに好ましくは5Pa・S以上である。粘度が高いほど、膜厚のポリイミドフィルムを容易に得られるなど、高い利便性を有するからである。また、ポリイミド粉末を溶媒に溶解するなどの従来方法では、一般的に高粘度のポリイミド溶液を容易に製造することはできないことから、当該要件には従来技術との相違点を明確にする意義もある。
【0067】
本発明に係る含フッ素ポリイミド溶液は、下記式(II)で表される含フッ素ポリイミドの溶液である。このポリイミドは、高い耐熱性を有し、特に光通信波長域における光透過損失が少ないという特長を有する。従って、本発明の含フッ素ポリイミド溶液を用いれば、特に光学材料として優れるポリイミドを製造することができる。
【0068】
【化10】

[上記式中、X,Y,Z,pおよびqの定義と好適な具体例は、化合物(I)の定義で説明したものと同様とする。]
【0069】
近年、通信情報量の高まりに対応するために、より一層導波損失の少ないポリイミドが求められていた。ところが従来技術では、ポリイミドを、例えば250〜400℃といった高温での加熱により溶媒を留去しつつ焼成してポリアミド酸溶液からポリイミド化していたため、品質の劣化が生じていた。そこで、高温で焼成する従来技術のポリイミドを溶解し、その溶液を使ってポリイミド製品を製造しようとしたが、ポリアミド酸溶液から加熱焼成して製造されたポリイミドを溶解することはできなかった。
【0070】
本発明者らはさらに研究を進めたところ、ポリアミド酸から250〜400℃といった高温での加熱焼成を経ない式(II)の含フッ素ポリイミドは、溶媒に溶解できることを見出した。かかる本発明の含フッ素ポリイミド溶液からポリイミドフィルム等のポリイミド製品を製造する場合には、溶媒を除去するのみでよいことから、着色が抑制され光透過損失の少ない高品質のものを得ることができる。
【0071】
この含フッ素ポリイミド(II)の溶液の製造方法は、特に制限されないが、少なくとも高温で溶媒を留去しつつ焼成する工程は用いない。当該工程を経て製造されたポリイミドは、溶媒に不溶だからである。例えば、対応するポリアミド酸の溶液から適度な加熱により溶液状態を維持したままポリイミド溶液を合成した後、溶液を貧溶媒に加えて析出させて精製されたポリイミド粉末を得、これを溶媒に再溶解してもよい。再溶解に際しては、より高粘度の溶液が効率よく得られることから、自転公転式混合法が好適に使用される。
【0072】
上記に関わらず、本発明の含フッ素ポリイミド溶液は、本発明に係るポリイミド溶液の製造方法により製造することが好ましい。高粘度の溶液であっても、効率的に製造できるからである。また、脱水環化試薬等を除去するために、本発明方法により得られた本発明の含フッ素ポリイミド溶液を貧溶媒に加えてポリイミド粉末を得、さらにこれを溶媒に再溶解してもよい。
【0073】
本発明に係る含フッ素ポリイミド溶液に用いる溶媒は、含フッ素ポリイミドを溶解できるものであれば特に制限されない。例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド;アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン等のケトン系溶媒;ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル系溶媒を挙げることができる。N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やジメチルスルホキシドは、含フッ素ポリイミドに対する溶解度がより高いことから好適であるが、溶媒留去時における温度を抑制することによって、着色が少なく光透過損失の少ないポリイミド製品を得たい場合には、上記ケトン系溶媒やエステル系溶媒等の様な低沸点の溶媒を用いることもできる。
【0074】
本発明の含フッ素ポリイミド溶液の濃度は、特に制限されないが、濃度が高いほど溶媒を留去する際の温度や時間を低減できることから、5質量%以上(より好ましくは10質量%以上)程度にすることが好ましい。また、当該溶液の粘度も特に制限されないが、膜厚のポリイミドフィルムを容易に得られる等の理由から、好ましくは1Pa・S以上、より好ましくは3Pa・S以上であり、さらに好ましくは5Pa・S以上とする。
【0075】
本発明の含フッ素ポリイミド溶液によれば、従来のポリアミド酸溶液よりも低温度でポリイミドを製造できるため、得られるポリイミドは、従来のポリイミドよりも着色が抑制され光透過損失の少ない高品質なものである。この低光透過損失という特性は、光学材料として用いる場合には特に好適である。本発明の含フッ素ポリイミド溶液によれば、例えば、830nm,850nm,1310nm,1550nmといった波長域における光透過損失が好ましくは3.5dB/cm以下、より好ましくは1.5dB/cm以下、さらに好ましくは1dB/cm以下という特性のポリイミドの製造が可能である。
【0076】
本発明の光導波路は、クラッド層もしくはコア層またはコア自体が本発明の含フッ素ポリイミド溶液で形成されたものである。例えば、本発明に係る含フッ素ポリイミド溶液でコアを形成する場合には、図1に示す方法により製造できる。即ち、先ず光屈折率が異なる樹脂からなるクラッドフィルム1上に本発明の含フッ素ポリイミド溶液をキャスティングし、次いで加熱し溶媒を除去してポリイミドからなるコア層2を積層する。この際に要する加熱温度は、溶媒を留去できれば足りるため従来の様な高温を要せず、ポリイミドの品質を貶めない。次にエッチング等によりコア層2からコア3を形成し、さらにクラッドフィルムを積層する。本発明の含フッ素ポリイミド溶液でクラッド層を形成する場合は、基板上に溶液をキャスティングした後に溶媒を留去し、他の樹脂によりコアを形成した後、本発明の含フッ素ポリイミド溶液でさらにクラッド層を形成すればよい。
【0077】
本発明に係る含フッ素ポリイミド溶液でコア自体を直接形成する場合には、本発明の含フッ素ポリイミド溶液をクラッドに形成した溝に挿入し、次いで溶媒を留去すればよい。この方法は、エッチングによりコアを形成する必要がなく簡便であり、また、高温を要さないことから着色を抑制でき、導波損失の低い光導波路を製造できる。以下、図2を参照しつつ本発明に係る光導波路の製造方法を説明する。
【0078】
先ず、コア材料であるポリイミドよりも屈折率が低い樹脂によって、クラッド4を形成する。また、好適には、熱硬化性樹脂、2液硬化性樹脂、UV硬化性樹脂などの光硬化性樹脂など成形性に優れる樹脂を用い、これらの中でもUV硬化性樹脂などの光硬化性樹脂を好適に用いる。これら樹脂としては、溶液状態のものも無溶媒のものも使える。これら樹脂としては、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂、アクリル系樹脂、およびポリイミド系樹脂を例示することができる。
【0079】
このクラッドには、コアを形成するための溝を設ける。この溝の形成は、常法によればよい。例えば、クラッドを形成するための樹脂の溶液、或いはエポキシ樹脂では硬化剤との混合液を枠に注ぎ、溝の型を浸けたままで硬化させればよい。
【0080】
次に、本発明の含フッ素ポリイミド溶液を溝に注ぎ、硬化させてコア5を形成する。この硬化は、溶媒を留去するのみでよいため比較的低温で行なうことができ、着色の原因とならない。また、従来のポリイミド化ほどの高温を要しないため、クラッド材料として比較的熱に弱い樹脂を用いることも可能になる。なお、加熱温度は使用する溶媒により適宜調節すればよいが、通常は100〜200℃程度とすればよい。硬化時間も適宜調節すればよいが、通常は1〜12時間程度とすればよい。
【0081】
次いで、クラッドを積層して光導波路とする。このクラッドの材料は、その屈折率がコア材料であるポリイミドより低いものであれば、下部クラッドの材料と同一でなくともよい。好適には、コアのための溝を形成したクラッド材料と同様のものを用いる。
【0082】
こうして得られた光導波路は、従来ほどの高温に曝されることがないことから、着色が抑制されており導波損失が少なく高品質なものである。また、従来方法のようにポリアミド酸をポリイミド化するに当り低分子量化することがないことから、強度にも優れている。
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0084】
製造例1−1 ポリアミド酸溶液の製造
100mL容の三つ口フラスコに、1,3−ジアミノ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン(4.48g、24.92mmol)、4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)](3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)(14.51g、24.92mmol)およびN,N−ジメチルアセトアミド(31g)を加えた。この混合液を窒素雰囲気中室温で攪拌して均一溶液とした後、さらに4日間静置することによって、ポリアミド酸溶液を得た。当該溶液の粘度を粘度計(レオテック社製、RC20−CPS)により測定したところ、16.0Pa・Sであった。
【0085】
製造例1−2 ポリイミド溶液の製造
上記製造例1−1で得られたポリアミド酸溶液(20g)を100mL容のポリプロピレン製容器に移し、さらに1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(0.03g、0.27mmol)と無水酢酸(2.0g、19.59mmol)とを加え、自転・公転方式ミキサー(シンキー社製、AR−250)を用いて攪拌モードで10分間、脱泡モードで5分間攪拌することにより急速に混合した後、24時間静置することによりイミド化を行なった。この際、攪拌モードにおける公転速度は2,000rpm、自転速度は800rpmであり、脱泡モードにおいては公転速度:2,200rpm、自転速度:60rpmであり、サンプルホルダーは、自転軸に対して45度の傾きを有していた。
【0086】
得られたポリイミド溶液の粘度を上記実施例1−1と同様に測定したところ18.0Pa・Sであり、また、目視によれば泡噛みもなく均質な溶液であった。また、1H−NMRによりイミド化率を確認したところ、原料のポリアミド酸のカルボキシル基に起因するピークは存在せず、定量的にポリイミド化していることが分かった。また、19F−NMRでもポリアミド酸に対応するピークは確認されなかった。当該実施例により、本発明によれば、18.0Pa・Sという高粘度であり、且つ泡噛みもない均質なポリイミド溶液が得られることが実証された。
【0087】
製造例2−1 ポリアミド酸溶液の製造
100mL容の三つ口フラスコに、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(4.83g、15.67mmol)、4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)](3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)(8.77g、15.07mmol)およびN,N−ジメチルアセトアミド(66.4g)を加えた。この混合液を窒素雰囲気中室温で攪拌して均一溶液とした後、さらに2日間静置することによって、ポリアミド酸溶液を得た。当該溶液の粘度を上記製造例1−1と同様に測定したところ、19.5Pa・Sであった。
【0088】
製造例2−2 ポリイミド溶液の製造
上記製造例2−1で得られたポリアミド酸溶液(45g)を100mL容のポリプロピレン製容器に移し、さらに無水酢酸(3.5g、34.28mmol)を加え、自転・公転方式ミキサー(シンキー社製、AR−250)用いて攪拌モードで1分間攪拌した。その後、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(0.03g、0.27mmol)を加え、同じく自転・公転方式ミキサーにより攪拌モードで10分間、脱泡モードで1分間攪拌して急速に混合した後、24時間静置することによりイミド化を行なった。この際における公転速度や自転速度等の条件は、上記製造例1−2と同様にした。得られたポリイミド溶液の粘度を上記実施例1−1と同様に測定したところ19Pa・Sであった。
【0089】
比較製造例1 ポリイミド溶液の製造
先行技術である特開平3−63868の実施例の方法に従って、ポリイミド溶液を製造した。具体的には、市販の部分フッ素化ポリアミド酸溶液(セントラル硝子製、FLUPI−01)を1000mL容のバットへ移し、70℃で12時間風乾した後、さらに200℃で1時間加熱して、溶媒を留去しつつポリイミド化した。得られたポリイミドを粉末状にかき取り、N,N−ジメチルアセトアミドに溶解してポリイミド溶液を製造した。
【0090】
比較製造例2 ポリイミド溶液の製造
製造例1−1で得られたポリアミド酸を、比較製造例1と同様の条件で加熱処理してポリイミド溶液を製造した。得られたポリイミド溶液について1H−NMRによりイミド化率を確認したところ、75%程度と全く不十分であった。
【0091】
試験例1 分子量測定
製造例1−1と2−1で得られたポリアミド酸溶液、および製造例1−2と製造例2−2で得られたポリイミド溶液を使って、それぞれポリアミド酸とポリイミドの分子量を測定した。測定装置は、東ソー製のゲル浸透クロマトグラフSC8020を用いた。結果を表1に示す。なお、表1中の「Mw」は重量平均分子量を示し、「Mn」は数平均分子量(スチレン換算)を示す。
【0092】
【表1】

【0093】
上記結果により、本発明に係るポリイミド溶液においては、ポリイミドの分子量低下がほとんど生じていないことが実証された。
【0094】
また、比較製造例1と2でのポリアミド酸とポリイミドについても、同様に測定した。結果を表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
表2の結果の通り、従来により得たポリイミド溶液では、分子量の大幅な低下が見られる。一般的に、フィルムを作製するには30000以上の重量平均分子量が必要とされているため、従来方法によるポリイミド溶液から製造されたポリイミドフィルムは、極度に強度が劣る場合があることが考えられる。
【0097】
製造例3 ポリイミドフィルムの製造
上記製造例1−2で製造したポリイミド溶液を、予め剥離剤を塗布しておいたガラス板上にアプリケーターを用いてキャストした。その後、オーブンにて175℃で5時間加熱処理し、溶媒を除去した。その結果、厚さ60μmという厚膜であり、泡噛みもなく均質なポリイミド膜が得られた。
【0098】
製造例4 ポリイミドフィルムの製造
上記製造例2−2で製造したポリイミド溶液(20g)をアセトンで2倍に希釈した後、メタノール:水=1:1混合液へゆっくり滴下した後に濾別することによって、ポリイミド粉末を得た。このポリイミド粉末を再度アセトンに溶解し、さらにメタノール:水=1:1混合液へゆっくり滴下し、析出したポリイミドを濾別して真空乾燥機により70℃で一晩乾燥することによって、高純度のポリイミド粉末を得た。
【0099】
このポリイミド粉末(6.9g)をアセトン(7.6g)に溶解し、濃度:約48質量%のポリイミド溶液を調製し、予め剥離剤を塗布しておいたガラス板上にアプリケーターを用いてキャストした。その後、オーブンにて65℃で4時間加熱処理し、溶媒を除去した。その結果、厚さ75μmという厚膜であり、泡噛みもなく均質なポリイミド膜が得られた。
【0100】
製造例5 高純度ポリイミド溶液の製造
製造例1−2で製造したポリイミド溶液(20g)をアセトン(20g)で2倍量に希釈した後、メタノール:水=1:1の混合液へゆっくり滴下し、ポリイミド粉末を析出させた。得られたポリイミド粉末を濾別した後に、真空乾燥機により70℃で一晩乾燥することによって、ポリイミド粉末を得た。さらにこのポリイミド粉末を再度アセトン(20g)に再び溶解した。この溶液をメタノール:水=1:1の混合液へゆっくり滴下し、同様にポリイミド粉末を得た。得られたポリイミド粉末を、真空乾燥機により70℃で一晩乾燥することによって、脱水環化試薬等が除去された高純度なポリイミド粉末を得た。このポリイミド粉末(9g)をジメチルアセトアミド(21g)に溶解し、濃度30質量%の高純度ポリイミド溶液を製造した。
【0101】
製造例6−1 ポリアミド酸溶液の製造
100mL容の三つ口フラスコに、1,3−ジアミノ−5−クロロ−2,4,6−トリフルオロベンゼン(4.16g、21.19mmol)、4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)](3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)(12.34g、21.19mmol)およびN,N−ジメチルアセトアミド(33.5g)を加えた。この混合液を窒素雰囲気中室温で攪拌して均一溶液とした後、さらに4日間静置することによって、ポリアミド酸溶液を得た。
【0102】
製造例6−2 ポリイミド溶液の製造
上記製造例6−1で得られたポリアミド酸溶液(20g)を100mL容のポリプロピレン製容器に移し、さらに1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(0.01g、0.12mmol)と無水酢酸(2.1g、20.35mmol)とを加え、自転・公転方式ミキサー(シンキー社製、AR−250)を用いて、製造例1−2と同様の条件でポリイミド化を行なった。
【0103】
得られたポリイミド溶液について、1H−NMRによりイミド化率を確認したところ、原料のポリアミド酸のカルボキシル基に起因するピークは存在せず、定量的にポリイミド化していることが分かった。また、19F−NMRでもポリアミド酸に対応するピークは確認されなかった。目視によれば、泡噛みもない均質なポリイミド溶液であった。
【0104】
製造例6−3 ポリイミド溶液の製造
上記製造例6−2で得たポリイミド溶液(20g)を用い、製造例5と同様の方法によって、さらに高純度な濃度30質量%のポリイミド溶液を製造した。
【0105】
製造例7 本発明溶液を用いたスラブ型光導波路の製造
製造例6−3で得た高純度ポリイミド溶液を幅10mm×長さ50mm×厚さ1mmの合成石英基板の上に塗布した。これをオーブンにて150℃で10時間加熱して溶媒を除去し、厚さ5μmのコア(ポリイミドフィルム層)と、厚さ1mmのクラッド(石英基板)を有するスラブ型導波路サンプルを作製した。
【0106】
比較製造例3 従来のポリアミド酸溶液を用いたスラブ型光導波路の製造
製造例6−1で得たポリアミド酸溶液を使って、製造例7と同様の条件で光導波路を作製しようとしたが、フィルムにヒビが多数入って作製できなかった。これは、150℃という比較的低温度で長時間加熱したことから、ポリアミド鎖が切断された低分子量化が起こったことによると考えられる。
【0107】
そこで、温度を320℃にして1時間加熱した以外は製造例7と同様の条件にしたところ、光導波路を作製することができた。
【0108】
試験例2 スラブ型光導波路の導波損失試験
製造例7で作製した光導波路の導波損失を、プリズムスライディング法により測定した。即ち、sairon technology, inc製のprism coupler & loss measurement(SPA−400)を使い、製造例7の光導波路に波長830nmのレーザー光を入射し、導波損失を測定した。
【0109】
測定の結果、本発明に係る製造例7の光導波路の導波損失は、0.34dB/cm@830nmであった。この様に本発明の光導波路は、導波損失が少なく高品質であることが分かった。
【0110】
製造例8 本発明溶液を用いたリッジ型光導波路の製造
市販のポリイミド基板(NTT−AT製、厚さ0.7mm、直径4インチ)の上に、市販の光学用UV樹脂(NTT−AT製、E3345)を塗布し、超高圧水銀ランプを使って照射強度10mW/cm2@365nm、照射時間15分間でUV照射し、厚さ15μmの下部クラッド層を形成した。
【0111】
さらに当該下部クラッド層の上に、製造例6−3のポリイミド溶液を塗布し、200℃で1時間加熱処理して厚さ8μmのコア層を形成した。次いで、フォトリソグラフィーと反応性イオンエッチング(O2−RIE)により矩形のコアを形成した。
【0112】
このコアの上に上記UV樹脂(E3345)を塗布し、同様のUV照射処理を施した上で、100℃で6時間加熱処理して厚さ8μmの上部クラッド層を形成した。
【0113】
その後、ダイシングソー(ディスコ製、DAD321)で切り出し、コアサイズ8×8μm、導波路長50mmのリッジ型導波路を作製した。
【0114】
比較製造例4 従来のポリアミド酸溶液を用いたリッジ型光導波路の製造
製造例1−1のポリアミド酸溶液を、ポリイミド基板(NTT−AT製、厚さ0.7mm、直径4インチ)の上に塗布した。当該基板を320℃で1時間加熱することによって、厚さ15μmの下部クラッドを形成した。
【0115】
当該下部クラッド層の上に製造例6−3のポリアミド酸溶液を塗布し、320℃で1時間加熱処理することによって、8μmのコア層を形成した。次いで、フォトリソグラフィーとO2−RIEによるドライエッチングにより矩形のコアを形成した。このコアの上に、上記製造例1−1のポリアミド酸溶液を塗布し、320℃で1時間加熱処理することによって、厚さ8μmの上部クラッド層を形成した。その後、製造例7と同様にしてリッジ型導波路を作製した。
【0116】
試験例3 リッジ型光導波路の導波損失試験
製造例8と比較製造例4で作製したリッジ型光導波路について、長さ50mmの光導波路に白色光源(横河電機製、AQ4305)により白色光を入射し、光スペクトラムアナライザー(横河電機製、AQ6317)を使って導波損失を測定した。入射光の波長と導波損失(吸収)との関係を、図3に示す。また、特定波長850nmの光において、本発明に係る製造例8の光導波路の導波損失は、3.1dB@850nmであった。それに対して、比較製造例4で作製した光導波路の導波損失は15.37dB@850nmと、本発明の光導波路の約5倍もの損失を示した。よって、320℃という高温で製造された従来の光導波路は、光伝達に必要な特定波長の導波損失が大きい一方で、本発明の光導波路は、従来の光導波路に比して導波損失が極めて少なく、高品質であることが分かった。
【0117】
製造例9 ポリイミドフィルムの製造
製造例5で製造したポリイミド溶液をシリコン基板上へ塗布し、150℃で10時間加熱することによって、厚さ0.02mm程度のポリイミドフィルムが得られた。得られたポリイミドフィルムの写真を、図4として示す。
【0118】
図4の通り、本発明のポリイミド溶液を用いて得たポイイミドフィルムは、泡かみもなく均質で高品質なものである。しかも、当該ポリイミドフィルムは、溶媒を留去するのみに必要な比較的低温で得ることができる。なお、図4の写真においてポリイミド部分が濃色となっているが、これは、大部分がシリコン基板の色が透過していることに起因するものであり、薄いポリイミドフィルム自体の影響はほとんど無い。
【0119】
比較製造例5 ポリイミドフィルムの製造
製造例1−1で製造したポリアミド酸溶液をシリコン基板上へ塗布し、製造例9と同様に150℃で10時間加熱した。しかし図5の通り多数のひび割れが発生し、均質なフィルムは得られなかった。これは、比較的低温での長時間にわたる加熱によりポリアミド鎖の切断が起こり、分子量が低下したことによると考えられる。そこで加熱条件を320℃で1時間に変更したところ、均質なフィルムが得られた。
【0120】
試験例4 ポリイミドフィルムの引張試験
製造例9で製造したポリイミドフィルムについて、JIS K7127に従って引張試験を行なった。詳しくは、フィルムを幅10mm×長さ60mmに切断し、引張試験機に掴み器具距離50mmで固定し、測定雰囲気24℃、引張速度2.5mm/分で引張試験を行なった。また、比較製造例5において、320℃で1時間の加熱条件で製造したポリイミドフィルムについても同様に試験した。結果を表3に示す。
【0121】
【表3】

【0122】
上記結果の通り、本発明に係るポリイミド溶液から製造されたポリイミドフィルムは、320℃という高温で製造された従来のポリイミドフィルムと全く同等の強度を有している。
【0123】
製造例10−1 ポリアミド酸溶液の製造
100mL容の三つ口フラスコに、4,4’−オキシジフタリックアンハイドライド(1.28g)、4,4’−(1,3−フェニレンジオキシ)ジアニリン(1.21g)およびN,N−ジメチルアセトアミド(23.5g)を加えた。この混合液を窒素雰囲気中室温で攪拌して均一溶液とした後、さらに2日間静置することによって、ポリアミド酸溶液を得た。
【0124】
製造例10−2 ポリイミド溶液の製造
上記製造例10−1で得られたポリアミド酸溶液(6.3g)を50mL容のポリプロピレン製容器に移し、さらに無水酢酸(0.25g)を加え、自転・公転方式ミキサー(シンキー社製、AR−250)を用いて攪拌モードで1分間攪拌した。次いで、ピリジン(0.001g)を加え、同じく自転・公転方式ミキサーを使い、攪拌モードで10分間、脱泡モードで1分間攪拌することにより急速に混合した後、24時間静置することによりポリイミド化を行なった。攪拌モードと脱泡モードの具体的な条件は、上記製造例1−2と同様である。得られた溶液をFT−IRにより分析したところ、カルボキシル基に由来する3000cm-1付近のピークの減少と、イミド環のカルボニル基に由来する1700cm-1付近の鋭いピークによって、ポリイミド化を確認することができた。
【0125】
製造例11 本発明のポリイミド溶液を用いた埋め込み型光導波路の作製
市販のUV樹脂(NTT−AT製、E3345)を、シリコーンゴムで作製した光導波路金型の上に流し込み、超高圧水銀ランプを使って照射強度10mW/cm2で波長365nmの紫外線を20分間照射した。次いで、100℃で1時間加熱することによって、コア溝付の下部クラッド層を作製した。このコア溝付き下部クラッド層のサイズは、コア下部分厚さ0.1mm(コア下以外の部分では厚さ0.2mm)、コア溝深さ0.1mm、コア溝幅0.1mm、コア溝長さ70mmであった。
【0126】
このコア溝付き下部クラッド層の上に、製造例6−3で得たポリイミド溶液を塗布し、150℃で10時間加熱した。コア溝以外に残ったコア剤は、マルトー製のラッピングフィルム26−4206を使って除去し、矩形のコアを作製した。
【0127】
さらにコアの上に、上記UV樹脂(E3345)を塗布し、上記と同様の条件で紫外線を照射した。次いで100℃で6時間加熱して、上部クラッド層を形成した。
【0128】
その後、ダイシングソー(ディスコ製、DAD321)を使って切り出し、コアサイズ0.1×0.1mm、光導波路長50mmの埋め込み型光導波路を作製した。
【0129】
比較製造例6 従来のポリアミド酸溶液を用いた埋め込み型光導波路の作製
上記製造例11と同様のコア溝付き下部クラッド層に、製造例1−1で得たポリアミド酸を塗布した。次いで、150℃で10時間加熱したところ、コアに目視で確認できる多数のヒビが発生し、導波路を作製することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】光導波路の製造工程を模式的に示す図である。
【図2】光導波路のもう1つの製造工程を模式的に示す図である。
【図3】本発明に係るリッジ型光導波路と従来技術に係るリッジ型光導波路における、入射光の波長と導波損失(吸収)との関係を示すグラフである。
【図4】本発明のポリイミド溶液を使って製造したポリイミドフィルムの写真である。
【図5】従来のポリアミド酸溶液を使って製造したポリイミドフィルムの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸、脱水環化試薬および溶媒を含む混合物を、自転公転式混合法により混合することを特徴とするポリイミド溶液の製造方法。
【請求項2】
上記脱水環化試薬として、3級アミン、または3級アミンとカルボン酸無水物の組合せを用いる請求項1に記載のポリイミド溶液の製造方法。
【請求項3】
ポリアミド酸として、下記式(I)で表される化合物を用いる請求項1または2に記載のポリイミド溶液の製造方法。
【化1】

[上記式中、XおよびYは互いに独立した2価の有機基を示し;Zは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示し;pは1〜3の整数を示し;qは0〜2の整数を示す;但し、p+q=3とする。]
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の方法により製造されるポリイミド溶液であって、その粘度が1Pa・S以上であることを特徴とするポリイミド溶液。
【請求項5】
下記式(II)で表されることを特徴とする含フッ素ポリイミドの溶液。
【化2】

[上記式中、XおよびYは互いに独立した2価の有機基を示し;Zは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示し;pは1〜3の整数を示し;qは0〜2の整数を示す;但し、p+q=3とする。]
【請求項6】
請求項5に記載の含フッ素ポリイミド溶液であって、その粘度が1Pa・S以上であるポリイミド溶液。
【請求項7】
請求項5または6に記載のポリイミド溶液を用いて、クラッド層もしくはコア層またはコア自体を形成する工程を含む光導波路の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法により製造された光導波路。
【請求項9】
コアがポリイミド樹脂からなる請求項8に記載の光導波路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−533210(P2008−533210A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515470(P2006−515470)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【国際出願番号】PCT/JP2006/305303
【国際公開番号】WO2006/095924
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】