説明

ポリウレタン発泡体の製造方法

【課題】接触する相手部材に対する汚染性を抑制することができると共に、セル径の調節を行うことができるポリウレタン発泡体を容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】ポリウレタン発泡体は、ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、整泡剤及び導電性成分を含むポリウレタン発泡体の原料に不活性ガスを吹き込んで混合した後、高周波電圧を印加して誘電発熱による加熱を行い、前記原料を反応及び硬化させることにより製造される。このとき、整泡剤の含有量をポリオール100質量部当たり1〜5質量部に設定する。さらに、ポリイソシアネートをイソシアネート指数が120〜140となるように配合する。得られるポリウレタン発泡体は、トナー供給ローラ、クリーニングローラ等の電子機器のローラとして好適に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば複写機、プリンタ、ファクシミリ等の、電子写真の原理を利用して記録用紙に画像又は文字を印刷する画像形成装置のトナー供給ローラ、クリーニングローラ、転写ローラ等の電子機器用ローラとして利用されるポリウレタン発泡体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の画像形成装置においては、感光体(像担持体)の表面に記録されるべき画像の静電潜像が、現像装置のトナー供給ローラから供給されるトナー(現像剤)により現像され、可視化される。そして、給紙ローラから供給された記録用紙に、そのトナー像が転写ローラにより転写され、定着される。その後、クリーニングローラにより感光体上に残存するトナーや紙粉が除去される。上記のトナー供給ローラ、転写ローラ、クリーニングローラなどを形成する材料としてポリウレタン発泡体が用いられている。
【0003】
係るポリウレタン発泡体の製造方法として、いわゆるメカニカルフロス法(機械的撹拌法)と、誘電発熱法とを組合せた方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。すなわち、発泡樹脂ロールの外径に略等しい内径を有する成形パイプ内にメカニカルフロス法で得られる流動性樹脂原料を移送させ、その移送過程において誘電発熱原理により流動性樹脂原料を加熱することで反応、硬化させて発泡樹脂ロールを製造するものである。得られる発泡樹脂ロールは、その硬度が発泡樹脂ロールの少なくとも軸方向において略同一になっている。
【特許文献1】特開2004−211809号公報(第2頁及び第13頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記トナー供給ローラ等の電子機器用ローラにおいては、ローラの表面からローラに含まれている整泡剤などの成分が感光体の表面に移行して感光体表面を汚染しないことが要求されている。しかしながら、特許文献1に記載された発泡樹脂ロールにおいては、具体的には流動性樹脂原料としてポリマーポリオール90質量部及びポリエステルポリオール8質量部に対してシリコーン系の整泡剤が8質量部使用されている(特許文献1の段落番号0049に記載の原料)。このため、製造される発泡樹脂ロールの表面には整泡剤の一部が存在し、その表面に存在する整泡剤が発泡樹脂ロールの使用時に接触する感光体などの相手部材の表面に移行することが避けられない。従って、整泡剤などの流動性樹脂原料の成分が相手部材を汚染するという問題があった。
【0005】
また、例えばトナー供給ローラではトナーをその表面に保持する機能を発揮し、クリーニングローラでは感光体表面のトナーや紙粉を掻き取る機能を発揮するものであるため、各ローラに応じた適切な発泡体のセル径が要求される。しかしながら、特許文献1に記載の発泡樹脂ロールおいては、硬度の均一性が得られるものの、セル径の調節については示唆するところはない。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、接触する相手部材に対する汚染性を抑制することができると共に、セル径の調節を行うことができるポリウレタン発泡体を容易に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係るポリウレタン発泡体の製造方法では、ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、整泡剤及び導電性成分を含むポリウレタン発泡体の原料に不活性ガスを吹き込んで混合した後、高周波電圧を印加して誘電発熱による加熱を行い、前記原料を反応及び硬化させる。この場合、整泡剤の含有量は、ポリオール100質量部当たり1〜5質量部に設定される。
【0008】
請求項2に係るポリウレタン発泡体の製造方法では、請求項1に係る発明において、前記ポリウレタン発泡体の原料に含まれる成分の活性水素基に対するポリイソシアネートのイソシアネート基の当量比を百分率で表したイソシアネート指数が120〜140に設定される。
【0009】
請求項3に係るポリウレタン発泡体の製造方法では、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記ポリウレタン発泡体は、電子機器のローラとして使用される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係るポリウレタン発泡体の製造方法では、前記ポリウレタン発泡体の原料に不活性ガスを吹き込んで混合した後、高周波電圧を印加して誘電発熱による加熱を行い、反応及び硬化させることにより、ポリウレタン発泡体が製造される。この場合、整泡剤の含有量がポリオール100質量部当たり1〜5質量部に設定される。そのため、誘電発熱により原料自体が直接加熱され、一定の整泡作用が発現された状態で、原料の反応及び硬化が均一かつ速やかに進行する。同時に、整泡剤の含有量が増加するに従って整泡作用が強く作用してセルが小さくなる傾向を示す。従って、接触する相手部材に対する汚染性を抑制することができると共に、整泡剤の含有量を適宜変更することによりセル径の調節を行うことができる。
【0011】
請求項2に係るポリウレタン発泡体の製造方法では、イソシアネート指数が120〜140に設定されていることから、過剰のポリイソシアネートによって表面に存在する水酸基がポリイソシアネートとの反応により十分に消費される。従って、請求項1に係る発明の効果に加えて、接触する相手部材に対する汚染性を一層抑制することができる。
【0012】
請求項3に係るポリウレタン発泡体の製造方法では、ポリウレタン発泡体は電子機器のローラとして使用されるものであることから、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を電子機器のローラにおいて有効に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態におけるポリウレタン発泡体(以下、単に発泡体ともいう)の製造方法では、まずメカニカルフロス法により、ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、整泡剤及び導電性成分を含むポリウレタン発泡体の原料に不活性ガスを吹き込んで混合することにより、不活性ガスが微細に分散された原料分散液が得られる。この場合、整泡剤の含有量は、ポリオール100質量部当たり1〜5質量部に設定される。次いで、その原料分散液に誘電発熱法により高周波電圧を印加して誘電発熱による加熱を行い、原料分散液中の各成分を反応及び硬化させることにより、目的とするポリウレタン発泡体が製造される。
【0014】
このようにして得られるポリウレタン発泡体は、その表面に整泡剤などの水酸基含有成分の存在が抑えられるため、接触する相手部材に対する汚染性が抑制される。また、誘電発熱法により発泡体の原料を瞬時に、かつ均一に反応及び硬化を行うことができ、セルの均一な発泡体が得られる。しかも、整泡剤の含有量を調整することでセル径の調節を行うことができる。従って、係るポリウレタン発泡体は、画像形成装置のトナー供給ローラ、クリーニングローラ、転写ローラ等の電子機器用ローラとして好適に使用される。
【0015】
以下、前記ポリウレタン発泡体の原料、メカニカルフロス法、誘電発熱法、ポリウレタン発泡体などについて順に説明する。
(ポリウレタン発泡体の原料)
ポリウレタン発泡体の原料は、ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、整泡剤及び導電性成分を含有している。ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールが用いられる。ポリエーテルポリオールとしては、多価アルコールにプロピレンオキシドを付加重合させた重合体、エチレンオキシドを付加重合させた重合体、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加重合させた重合体、或いはそれらの変性体等が用いられる。変性体としては、前記ポリエーテルポリオールにアクリロニトリル又はスチレンを付加させたもの、或はアクリロニトリルとスチレンの双方を付加させたもの等が挙げられる。ここで、多価アルコールは1分子中にヒドロキシル基を複数個有する化合物であり、例えばグリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0016】
これらのポリエーテルポリオールは、末端に第1級のヒドロキシル基を有していることから、ポリイソシアネートとの反応性が高い。ポリエーテルポリオールの質量平均分子量は2000〜6000であることが好ましい。この質量平均分子量が2000未満の場合には得られるポリウレタンの発泡体の成形時における安定性が低下し、6000を越える場合にはその反応性が低下し、ポリウレタン発泡体の成形が難しくなる傾向を示す。ポリエーテルポリオールにビニル系単量体をグラフト重合したポリマーポリオールを用いることもできる。ポリマーポリオールのグラフト部分はポリウレタン発泡体を補強し、質量平均分子量2000〜6000のポリエーテルポリオールがポリウレタン発泡体のソフトセグメントを増大させ、ポリウレタン発泡体の柔軟性、伸び等の物性を向上させる機能を有する。
【0017】
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリエステルポリオールが用いられる。以上のポリオール成分は、原料成分の種類、分子量、重合度、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。また、ポリウレタン発泡体の原料には、ポリウレタン発泡体の架橋密度を高め、硬さ等の物性を向上させるために、水酸基について3官能以上のポリオールとしての架橋剤を含有することができる。そのような架橋剤としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0018】
上記のポリオールと反応させるポリイソシアネートはイソシアネート基を複数有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ポリイソシアネート、又はこれらとポリオールとの反応による遊離イソシアネートプレポリマー、カルボジイミド変性ポリイソシアネート等の変性ポリイソシアネート、さらにはこれらの混合ポリイソシアネート等が用いられる。これらのうち、トリレンジイソシアネート及びその誘導体、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート及びその誘導体が好ましく、これらを混合して使用することもできる。
【0019】
ポリイソシアネートのイソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は100以下又は100を越えてもよいが、ポリウレタン発泡体の柔軟性をトナー供給ローラ等に適するようにするために、120〜140の範囲であることが好ましい。イソシアネート指数が120未満の場合、ポリウレタン発泡体が柔らかくなってトナー供給ローラなどとして用いるときにその機能が低下する傾向を示す。一方、イソシアネート指数が140を越える場合、ポリウレタン発泡体の架橋密度が高くなって硬くなる傾向を示し、トナー供給ローラが相手部材を傷付けるおそれがでてくる。ここで、イソシアネート指数は、ポリオールの水酸基等の活性水素基に対するポリイソシアネートのイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。
【0020】
次に、触媒はポリオールとポリイソシアネートとのウレタン化反応(樹脂化反応)、その生成物とポリイソシアネートとの硬化反応(架橋反応)等の各反応を促進させるためのものである。係る触媒として具体的にはトリエチレンジアミン(TEDA)、ジメチルエタノールアミン、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン等の第3級アミン、オクチル酸スズ(スズオクトエート)、鉄アセチルアセテート等の有機金属化合物、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が用いられる。また、その他の触媒として、発泡体表面における硬化性を向上させるために、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等のモルホリン系の触媒を用いることもできる。触媒の含有量は、ポリオール100質量部当たり1〜8質量部程度である。
【0021】
続いて、整泡剤は発泡体原料の発泡を円滑に行うために用いられ、ポリウレタン発泡体の原料に通常配合されるもののいずれも使用することができる。整泡剤として具体的には、ジメチルポリシロキサン、オルガノシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体、シリコーン−グリース共重合体等の非イオン系界面活性剤、又はそれらの混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、フェノール系化合物等が挙げられる。
【0022】
整泡剤の含有量は発泡体表面への移行を抑えるために、ポリオール100質量部当たり1〜5質量部の範囲に設定される。整泡剤の含有量が1質量部より少ない場合には、発泡体原料の発泡を円滑に行うことができなくなり、良好な発泡体を得ることができなくなる。その一方、5質量部より多い場合には、整泡作用は十分に発現されるが、整泡剤が発泡体表面へ移行し、発泡体を電子機器用ローラなどとして使用するときに、感光体などの相手部材を汚染するため不適当である。
【0023】
導電性成分は、前記メカニカルフロス法により得られたポリウレタン発泡体の原料分散液に高周波電圧を印加して誘電発熱を引き起こさせるための導電性物質であり、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック等の炭素材料が用いられる。その他ポリウレタン発泡体の原料には、ポリアルキレンオキシドポリオール等のセルオープナー、縮合リン酸エステル等の難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤等を配合することができる。
(メカニカルフロス法)
メカニカルフロス法では、通常の発泡剤を使用せず、ポリウレタン発泡体の前記原料に不活性ガスを吹き込み、撹拌、混合して原料分散液中に多数の微細なセル(気泡)を形成する方法である。このメカニカルフロス法では、温度上昇により不活性ガスが膨張するもので、化学発泡のようなポリイソシアネートとの反応を伴わない。そして、係る原料分散液を加熱して原料成分を反応及び硬化させることにより、目的とするポリウレタン発泡体を製造することができる。このメカニカルフロス法によれば、ポリウレタン発泡体中のセルを微細にすることができると同時に、セルを均一に形成することができる。
【0024】
不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス等が用いられる。この場合、不活性ガスを吹き込んだ後の加熱を短時間で行うことにより、上記の効果を向上させることができる。不活性ガスの使用量は、前記原料分散液100mlに対して5〜500mlの範囲であることが好ましい。不活性ガスの使用量が5ml未満の場合には、不活性ガスに基づく発泡体のセルが十分に形成されず、発泡体の低密度化を図ることが難しくなる。その一方、500mlを越える場合には、不活性ガスに基づく発泡体のセルの粗化が避けられなくなり、好ましくない。
【0025】
原料分散液の撹拌については、その回転数を500〜2000回転/分に設定し、十分に撹拌することが好ましい。この回転数が500回転/分を下回る場合、背圧が高くなり、撹拌不良及びセルのむらが生じて好ましくない。一方、2000回転/分を上回る場合、モータなどの撹拌装置として大型で撹拌能力の高いものを必要とし好ましくない。
(誘電発熱法)
この誘電発熱法は、上記メカニカルフロス法により得られるポリウレタン発泡体の原料分散液に高周波電圧を印加して原料成分を直接加熱し、原料成分を反応及び硬化させ、ポリウレタン発泡体を製造する方法である。誘電発熱法の原理は、高周波電界中に被加熱物を存在させ、被加熱物の分子運動を活性化させて自己発熱させる方法である。この誘電発熱法の原理によれば、前記原料分散液に高周波電圧を印加することにより、原料分散液中に均一に分散されている導電性成分が発熱することで、原料分散液全体が瞬時に均一に加熱される。従って、原料分散液中の成分が速やかに反応及び硬化し、得られる発泡体は均一性の高い物性を発現することができる。
【0026】
高周波電圧の周波数は、20〜100MHzであることが好ましく、20〜50MHzであることがより好ましい。この周波数が20MHz未満の場合、周波数が低いため原料成分の加熱が不十分になり、原料成分の反応及び硬化が十分に進行しなくなる。一方、100MHzを越える場合、原料分散液の温度上昇が過度になり、原料成分の反応及び硬化が不均一に進行する傾向があり好ましくない。
【0027】
誘電発熱法に用いられる装置としては、高周波電圧を印加して誘電発熱を行うための誘電発熱装置と、その内部を連続的に移動するコンベヤなどの搬送装置とより構成されている。この搬送装置によってポリウレタン発泡体の原料分散液が搬送され、誘電発熱装置により原料成分に高周波電圧が一定時間印加されるようになっている。搬送装置のラインには誘電発熱装置が1箇所又は2箇所以上の複数箇所に設けられる。
【0028】
搬送装置におけるコンベヤなどの搬送速度は2〜10m/分であることが好ましい。搬送速度が2m/分未満の場合には、搬送速度が遅く、誘電発熱装置により高周波電圧が原料分散液に部分的に過度に印加されるおそれがあり、好ましくない。一方、搬送速度が10m/分を越える場合には、搬送速度が速くなり過ぎ、誘電発熱装置により高周波電圧が原料分散液に十分に印加されない傾向を示して好ましくない。また、誘電発熱装置の長さは、原料分散液の搬送速度との関係で適宜設定されるが、通常1〜5m程度の範囲で設定される。誘電発熱装置を複数箇所に設けるときには、その合計の長さを基準にして設定される。原料分散液の搬送速度と誘電発熱装置の長さにより、原料分散液の加熱時間が設定される。
【0029】
誘電発熱による加熱後には、形成されたポリウレタン発泡体の特に表面における前記反応及び硬化を補うために、養生加熱(伝導加熱)を行うことが好ましい。この養生加熱を行う場合には、例えば加熱炉を用い、100〜120℃の温度で1〜5分程度の条件で行われる。さらに、養生加熱を行った後に、ポリウレタン発泡体における前記反応及び硬化を完全なものにするために、後加熱(伝導加熱)を行うことが好ましい。後加熱の条件としては、例えば100〜120℃で3〜5時間の条件が採用される。
(ポリウレタン発泡体)
前述のようにメカニカルフロス法により得られたポリウレタン発泡体の原料分散液を誘電発熱法により加熱して反応及び硬化させることによりポリウレタン発泡体が製造される。得られるポリウレタン発泡体は、例えば軟質ポリウレタン発泡体である。ここで、軟質ポリウレタン発泡体は、連続気泡構造を有し、柔軟性があって、かつ復元性を有するポリウレタンの発泡体である。
【0030】
円柱状の発泡体を製造する場合には、例えば離型性のあるシートをシート製筒装置により徐々に筒状に成形し、そこへ前記原料分散液を供給し、誘電発熱法により加熱して原料成分を反応及び硬化させると共に、シートの重合部を封止装置で接合する。その後、シートを剥離して円柱状の成形体を取り出し、所定の長さに切断することにより、電子機器用のローラなどとして使用できる成形品が製造される。
【0031】
ウレタン化反応の際には、ポリウレタン発泡体の原料成分を直接反応させる方法のほか、プレポリマー法を採用することができる。すなわち、プレポリマー法は、ポリオールとポリイソシアネートとの各一部を事前に反応させて末端にイソシアネート基又は水酸基を有するプレポリマーを得、それに残りのポリオール又はポリイソシアネートを反応させる方法である。
【0032】
ポリウレタン発泡体が形成される際の反応は複雑であるが、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオールとポリイソシアネートとのウレタン化反応(付加重合反応、樹脂化反応)及びその反応生成物とポリイソシアネートとの硬化(架橋)反応(アロファネート反応、ビューレット反応等)である。このようにして得られるポリウレタン発泡体は、骨格が三次元網目状に延び、その間には多数の微細なセルが均一に形成された構造を有している。また、ポリウレタン発泡体は、ハードセグメントとソフトセグメントとにより構成されるポリウレタンの性質に基づいて一定の強度と所要の弾力性を発揮することができる。
【0033】
このようにして得られるポリウレタン発泡体は、画像形成装置におけるトナー供給ローラ、転写ローラ、クリーニングローラ等として好適に用いられる。ポリウレタン発泡体は、整泡剤の含有量を変化させることによってセル径を調節することができるため、ポリウレタン発泡体をトナー供給ローラとして使用した場合、トナーの収容性や搬送性を高めることができ、転写ローラの転写性を高めることができると共に、クリーニングローラの掻き取り性を高めることができる。
(実施形態の作用)
さて、本実施形態の作用について説明すると、ポリウレタン発泡体を製造する際には、メカニカルフロス法に基づいて発泡体原料に不活性ガスとしての窒素ガスを吹き込んで十分に撹拌、混合する。その結果、窒素ガスが微細に分散されて多数のセルが形成されたクリーム状の原料分散液が調製される。このとき、前記整泡剤の含有量はポリオール100質量部当たり1〜5質量部という少量に設定される。この原料分散液に高周波電圧を印加し、原料分散液中の導電性成分により誘電発熱を引き起こして加熱することにより、原料成分の反応及び硬化が行われると共に、前記セルが膨張してポリウレタン発泡体が製造される。
【0034】
その場合、誘電発熱により原料成分自体が直接加熱され、整泡剤による一定の整泡作用の下で、原料成分の反応及び硬化が均一かつ速やかに進行する。従って、ポリウレタン発泡体表面のセルが均一に形成されると同時に、発泡体表面に存在する整泡剤等の水酸基含有成分の残存量が抑えられる。また、整泡剤の含有量が多くなると整泡作用が強く作用してセルが小さくなる傾向を示すことから、ポリウレタン発泡体のセル径を目的に応じて設定することができる。
(実施形態による効果のまとめ)
・ 本実施形態におけるポリウレタン発泡体の製造方法では、メカニカルフロス法に基づいて発泡体原料に不活性ガスが吹き込まれて原料分散液が調製され、誘電発熱法に基づいて高周波電圧が印加され誘電発熱により加熱され、原料成分の反応及び硬化が行われてポリウレタン発泡体が製造される。この場合、整泡剤の含有量がポリオール100質量部当たり1〜5質量部に設定されるため、発泡体表面に存在する整泡剤が抑えられ、接触する相手部材に対する汚染性を抑制することができると共に、整泡剤の含有量を変更することによりセル径の調節を行うことができる。
【0035】
・ また、イソシアネート指数が120〜140に設定されることにより、過剰のポリイソシアネートによって表面に存在する水酸基が全てポリイソシアネートとの反応により消費される。従って、接触する相手部材に対する汚染性を一層抑制することができる。
【0036】
・ さらに、ポリウレタン発泡体が電子機器のローラとして使用されるものであることにより、前記効果を電子機器のローラにおいて有効に発揮させることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜5及び比較例1〜6)
各実施例及び比較例におけるポリウレタン発泡体の原料を表1及び表2に示す組成にて調製した。表1及び表2における各成分の含有量は質量部を表す。また、各成分の内容を以下に示す。
【0038】
ポリエーテルポリオール:プロピレングリコール系のジオール、質量平均分子量3000、水酸基価38mgKOH/g、三井武田ケミカル(株)製、商品名「アクトコールED−37B
ポリマーポリオール:グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合したポリエーテルポリオールにスチレンとアクリロニトリルの混合物をグラフト重合したもの、質量平均分子量3700、水酸基価31mgKOH/g、水酸基についての官能基数3、三井武田ケミカル(株)製、商品名POP−24/30
架橋剤(TMP):トリメチロールプロパン
整泡剤:シリコーン(直鎖ジメチルポリシロキサン)、GESilicones社製、商品名「NiaxSilicone L5614」
導電性部材:アセチレンブラック、電気化学工業(株)製、商品名デンカアセチレンブラックCBA
ポリイソシアネート:カルボジイミド変性MDI、イソシアネート基含有量30.88%、日本ポリウレタン工業(株)製、商品名ミリオネート MTL−S
(メカニカルフロス法による混合)
前記原料を1000回転/分の速度で撹拌しながら、不活性ガスとしての窒素ガスを原料100ml当たり5〜500mlの範囲で吹き込み、原料中に窒素ガスを微細に分散させて泡状を呈する原料分散液を得た。窒素ガスの吹き込み量は、各例における発泡体の見掛け密度の目標値になるように設定した。
(誘電発熱法による加熱)
誘電発熱を2段階に分けて行った。第1段では高周波の周波数を40MHzに設定し、その長さを1200mmとし、第2段では高周波の周波数を27MHzに設定し、その長さを2000mmとした。そして、前記窒素ガスを分散させた原料分散液をライン速度5m/分の速度にて、第1段で誘電発熱を行い、続いて第2段で誘電発熱を行って、原料の反応及び硬化を行った。すなわち、第1段の誘電発熱では0.24分、第2段の誘電発熱では0.4分、合計0.64分(38.4秒)間誘電発熱を行った。その後、得られたポリウレタン発泡体を、養生加熱として、110℃に加熱された10mの加熱ゾーンを通過させて2分間加熱を行った。さらに、後加熱として、ポリウレタン発泡体を加熱炉に入れ、110℃で4時間加熱処理を行った。このようにして所望の軟質ポリウレタン発泡体を製造した。
【0039】
ここで、比較例1〜5では、誘電発熱を行うことなく、従来の金型を用いて140℃で30分間モールド成形を行い、ポリウレタン発泡体を得た。比較例2及び3では、比較例1に対してメカニカルフロスで窒素ガスの吹き込み量を調整して発泡体の見掛け密度を変化させたものである。比較例4及び5では、比較例1〜3に比べて整泡剤の含有量を減少させると共に、イソシアネート指数を大きくしたものである。また、比較例6では、誘電発熱を行い、整泡剤の含有量を増加させたものである。
【0040】
以上のようにして得られた各例の軟質ポリウレタン発泡体について、下記に示す見掛け密度、平均セル径、圧縮残留ひずみ、及び硬さを測定した。
見掛け密度(kg/m):JIS K 7222:1999に準拠して測定した。
【0041】
平均セル径(μm):発泡体表面を光学顕微鏡(倍率100倍)で観察し、10点のセルについて各セルの直径を測定し、それらの平均値を算出した。
圧縮残留ひずみ(%):JIS K 6400−4:2004に準拠して測定した。
【0042】
硬さ(N):JIS K 6400−2:2004に準拠して測定した。
また、発泡体の汚染性及び掻き取り性について、以下の方法により測定した。
汚染性:前記ポリウレタン発泡体を円筒状に形成し、その内側にステンレス鋼により形成された芯材を挿入して接着剤により接着し、電子機器用ローラを作製した。この電子機器用ローラを感光ドラムの表面に押し当て、その状態で40℃、湿度90%の雰囲気下に一週間保持し、感光体表面を目視にて観察し、クラックの有無を見た。そして、クラックが見られなかった場合を良好(○)と判断し、クラックが見られた場合を不良(×)と判断した。
【0043】
掻き取り性:汚染性測定の場合と同様にして前記ポリウレタンを用いてクリーニングローラを作製した。そのクリーニングローラを画像形成装置の感光体に組付けて得られたプリンタを作動させ、印刷を行った。得られた印刷物に、クリーニングローラで掻き取られなかったトナーや紙粉によるすじ状の汚れ等が見られなかった場合を良好(○)と判断し、若干の汚れが見られるが、問題のない場合を概ね良好(△)と判断し、クラックが見られた場合を不良(×)と判断した。
【0044】
以上の測定結果を表1及び表2に併せて記載した。
【0045】
【表1】

表1に示した結果より、実施例1〜5においては、整泡剤の含有量を減少させ、誘電発熱法によって加熱を行ったため、いずれの場合も感光体に対する汚染性と掻き取り性が良好であった。また、整泡剤の含有量がポリオール100質量部当たり1.5質量部の場合に平均セル径が303〜328μm(実施例3及び5)、整泡剤の含有量が2.8質量部の場合に平均セル径が263〜273μm(実施例2及び4)、及び整泡剤の含有量が5.6質量部の場合に平均セル径が220μm(実施例1)であった。従って、整泡剤の含有量を増加させることにより、平均セル径を順に小さくすることができ、相関関係が明らかになり、整泡剤の含有量によって発泡体の平均セル径を決定できることが判明した。さらに、実施例1〜5では、圧縮残留ひずみが3.2%以下であり、硬さが22〜25Nであって、良好な物性を示した。
【0046】
【表2】

表2に示したように、比較例1では、誘電発熱ではなく、金型を用いてモールド成形を行ったため、温度分布が生じてセルの均一な発泡体が得られず、掻き取り性が不良であった。また、比較例1〜3では、整泡剤の含有量を実施例よりも多くなるように設定したため、発泡体の表面に整泡剤が存在し、感光体表面を汚染する結果となった。比較例4では、整泡剤の含有量を減少させると共に、イソシアネート指数を大きくしたが、発泡体の硬さが不足し、脱型ができない結果となった。比較例5では、イソシアネート指数を比較例4よりも大きく設定したが、発泡体の原料は反応、硬化せず、物性を評価することができなかった。加えて、比較例6では、誘電発熱を行ったが、整泡剤の含有量を増加させたため、感光体に対する汚染性が悪化し、また掻き取り性も不良であった。
【0047】
なお、本実施形態は、次のように変更して実施することも可能である。
・ 前記実施例1〜5において、養生加熱及び後加熱の少なくとも一方を省略することもできる。
【0048】
・ 実施例1〜5において、ポリオールとして、ポリエーテルポリオールのみを使用したり、ポリエステルポリオールのみを使用したりすることもできる。
・ 実施例1〜5において、触媒として第3級アミン等を組合せて使用することも可能である。
【0049】
・ 前記発泡体のセルを形成するために、メカニカルフロス法に加えて、化学発泡法や有機溶剤気化法を組合せることも可能である。化学発泡法では発泡剤として水等が用いられ、有機溶剤気化法では発泡剤としてペンタン、塩化メチレン等が用いられる。
【0050】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記誘電発熱による加熱後に、伝導加熱による加熱を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体の製造方法。この場合、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、ポリウレタン発泡体原料の反応及び硬化を一層十分に行うことができる。
【0051】
・ 前記導電性成分は、炭素材料であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体の製造方法。この場合、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、ポリウレタン発泡体原料の反応及び硬化に与える影響を抑制して、誘電発熱を有効に発揮させることができる。
【0052】
・ 前記ポリイソシアネートは、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート又はその誘導体であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体の製造方法。この場合、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、得られるポリウレタン発泡体の強度、耐熱性等の物性を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、整泡剤及び導電性成分を含むポリウレタン発泡体の原料に不活性ガスを吹き込んで混合した後、高周波電圧を印加して誘電発熱による加熱を行い、前記原料を反応及び硬化させ、ポリウレタン発泡体を製造するに際し、前記整泡剤の含有量をポリオール100質量部当たり1〜5質量部に設定することを特徴とするポリウレタン発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリウレタン発泡体の原料に含まれる成分の活性水素基に対するポリイソシアネートのイソシアネート基の当量比を百分率で表したイソシアネート指数が120〜140であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリウレタン発泡体は、電子機器のローラとして使用されるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリウレタン発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2008−106170(P2008−106170A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291159(P2006−291159)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】