説明

ポリエステル樹脂からなる扁平容器

【課題】 ブロー成形により得られるポリエステル樹脂扁平容器において、扁平容器を特定化し特性を付与して、扁平容器における特有の機械的な強度や耐熱性などの向上を図り、耐熱性などの物性に優れた扁平容器を実現せしめる。
【解決手段】 ポリエステル樹脂をブロー成形した扁平容器であって、長径と短径の比である扁平比が1.3以上であり、容器の胴部の最大肉厚部と最小肉厚部の肉厚比が1.6以下であり、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における95℃引張り試験での伸びの差が150%以下であり、さらに容器の胴部の結晶化度が30%以上であり、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部におけるTMA無荷重変化量の差が75℃と100℃において500μm以下であることを特徴とするポリエステル樹脂扁平容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂からなる扁平容器に関し、詳しくは、断面が楕円形または矩形であって、容器の胴部の肉厚が均一に形成され、耐熱性が高く高温において容器が変形しないことを特徴とする扁平容器に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
ペットボトルなどのポリエステル容器は、優れた機械的強度や透明性あるいは高いガス遮蔽性や資源再利用性などにより、飲食品用の容器として認可されて以来、非常に需要が高くなっているが、特に、最近では携帯用の飲料用小型容器として消費者に重用され、また、二段ブロー成形法などの開発によって耐熱耐圧性が著しく改良され、高温の飲料や高温殺菌を要す飲料用にも使用可能となって、日常における冬季用の携帯高温飲料への消費者の強い要望にも応えられるようになっている。
【0003】
そして、最近の消費者には、飲料ボトルの持ちやすさや複雑形状による審美性から、断面が矩形のような扁平形状のボトルが好まれ、断面が円形のボトルは滑りやすさによる把持のし難さや円形の単純形状による美的感のなさなどにより敬遠される傾向にある。
【0004】
付加価値性が高くて、需要の非常に高い断面が扁平形状の、ポリエステル樹脂扁平容器は、予備成形した有底パリソンを断面が扁平の金型内に挿着して吹込みによる成形(ブロー成形)によって製造されるが、扁平形状に成形する際には容器壁の肉厚が不均一になりがちで、その対策として、例えば、扁平形状の長径方向に延伸される部分よりも短径方向に延伸される部分のほうが高温となるように、有底コールドパリソンをブロー成形前に加熱し、あるいは長径方向延伸部分の肉厚を厚く、短径方向延伸部分の肉厚を薄くなるように偏肉形成した有底パリソンを用い、有底パリソンを軸方向に回転させつつその周囲から放射加熱する、有底コールドパリソンブロー成形法、などにより扁平ボトルが製造されている(特許文献1を参照)。
この他、ブロー成形により扁平容器を製造する方法はいくつか開示されているが、一般に、断面が扁平であることによって有底パリソンのキャビティ内での延伸膨張が均一にならないために、容器壁の肉厚の均質性が得られ難く、また、短径側の延伸不足による肉溜りの発生もあり、容器の胴部の肉厚が均一な扁平容器の製造は困難である。肉厚が不均一になると薄肉部による容器の機械的な強度や耐熱性などの低下が起こり、高温時の容器内飲料による内圧負荷や温度低下時の内部収縮による外圧負荷に耐えられずに容器の変形が起こる惧れがある。
【0005】
一方、ブロー成形による扁平容器において、ブロー成形法の改良志向とは異なる観点から、扁平容器への特定化や特性の付与などにより、扁平容器における特有の機械的な強度や耐熱性などの向上を図り、高温時の容器内飲料による内圧負荷や温度低下時の内部収縮による外圧負荷に耐えて容器の変形が起こる惧れを防ぐ改良提案は未だ殆どなされていず、単に扁平率(胴部最大長径/胴部最小短径)と肉厚が規定された、ポリオレフィン系射出ブロー成形扁平容器が示されている程度である(特許文献2を参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2000−127230号公報(特許請求の範囲及び段落0005〜0008)
【特許文献2】特開平11−170344号公報(特許請求の範囲の請求項1〜3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
段落0002〜0005に前述した従来技術を踏まえて、本発明者らは、飲料用プラスチック容器として消費者に非常に好まれ、需要が特に増大している、ブロー成形により得られるポリエステル樹脂扁平容器において、扁平容器を特定化し特性を付与して、扁平容器における特有の機械的な強度や耐熱性などの向上を図り、機械的な物性と耐熱性の優れた扁平容器を実現せしめることを、発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ブロー成形による扁平容器における上記の発明の課題の解決を目指して、機械的な強度や耐熱性などに優れた扁平容器を明確に実体化するために、扁平容器における特定化や特性の付与などを詳しく検討しそれらを具体化するための手法を物性や容器構造などの多観点から考察して、それらの過程において、扁平性を表す容器の胴部断面の長径と短径の比(扁平比)及び容器の胴部全体の肉厚の均一性を示す指標である容器の胴部の肉厚比などが、高温での容器の胴部における伸長性や高温での容器の胴部の熱的な無荷重変化量あるいは容器の胴部の結晶化度などと関連して、それらが扁平容器の機械的な強度や耐熱性などに深く関わることを知見することができ、その結果としてそれらの相関を数値として規定することによって、本願発明を創作するに至った。
【0009】
具体的には、上記の扁平比と肉厚比とを実験的に選択して数値範囲として特定化し、高温での容器の胴部における伸長性の特定化として、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における95℃引張り試験での伸びの差を採用し、高温での容器の胴部の熱的な無荷重変化量の特定化として、75℃と100℃の範囲での容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部におけるTMA無荷重変化量の差を選び、さらにそれらの関係を相関化することなどによって、機械的な強度や耐熱性などに優れた扁平容器を明確に具現化し実体化することが可能となった。
【0010】
本願発明は、次の発明単位群から構成されるものであって、[1]〜[3]の発明を基本発明とし、それ以下の発明は、基本発明を具体化ないしは実施態様化するものである。
[1]ポリエステル樹脂をブロー成形した扁平容器であって、長径と短径の比である扁平比が1.3以上であり、容器の胴部の最大肉厚部と最小肉厚部の肉厚比が1.6以下であり、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における95℃引張り試験での伸びの差が150%以下であることを特徴とするポリエステル樹脂扁平容器。
[2]ポリエステル樹脂をブロー成形した扁平容器であって、長径と短径の比である扁平比が1.3以上であり、容器の胴部の最大肉厚部と最小肉厚部の肉厚比が1.6以下であり、容器の胴部の結晶化度が30%以上であり、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部におけるTMA無荷重変化量の差が75℃と100℃において500μm以下であることを特徴とするポリエステル樹脂扁平容器。
[3]ポリエステル樹脂をブロー成形した扁平容器であって、長径と短径の比である扁平比が1.3以上であり、容器の胴部の最大肉厚部と最小肉厚部の肉厚比が1.6以下であり、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における95℃引張り試験での伸びの差が150%以下であり、容器の胴部の結晶化度が30%以上であり、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部におけるTMA無荷重変化量の差が75℃と100℃において500μm以下であることを特徴とするポリエステル樹脂扁平容器。
[4]扁平容器の胴部の断面形状が矩形又は楕円形であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかにおけるポリエステル樹脂扁平容器。
[5]扁平容器が二段ブロー成形法により成形された二軸延伸容器であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかにおけるポリエステル樹脂扁平容器。
[6]ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかにおけるポリエステル樹脂扁平容器。
[7]扁平容器がポリエステル樹脂層及び機能性熱可塑性樹脂層の多層構造からなることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかにおけるポリエステル樹脂扁平容器。
【発明の効果】
【0011】
本願発明における扁平容器は、機械的な強度と耐熱性に優れ、高温においても容器の形状が安定し、高温時の容器内飲料による内圧負荷や温度低下時の内部収縮による外圧負荷に耐えられずに容器の変形が起こる惧れがない。
したがって、当扁平容器は、高温飲料用容器あるいは高温殺菌飲料容器として特に優れたものであり、他に、食品一般や医薬品用としても好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下においては、前述した本願発明群の発明の実施の形態を、図面を参照しながら、具体的に詳しく説明する。
(1)扁平容器
図3〜図4に示すように本願発明の扁平容器は、好ましくは口部を除き、容器の断面が矩形や楕円形などの扁平形状を有す容器である。図3〜図4において、扁平容器における、正面図と側面図及び矢視図などの外観図並びに断面図が図示されている。
扁平形状により、消費者の手指の把持による飲料ボトルの持ちやすさに優れ、使用時に容器表面が濡れていても滑らず、また、複雑形状による審美性をも有す。
【0013】
(2)ポリエステル樹脂をブロー成形した扁平容器
本願発明の特定化された扁平容器は、ポリエステル樹脂から予備成形された有底パリソンをブロー成形することにより製造されるものである。
なお、本願の発明者らは、本願発明の創作より先に、肉厚が均一であり、機械的な強度と耐熱性に優れ、高温においても容器の形状が安定する扁平容器を製造するための、扁平容器のブロー成形方法の発明を案出して、先に出願しているので(特願2003−314851)、本願発明の扁平容器の成形には、容器壁の肉厚を均一に成形し所望の扁平容器を製造するために、好ましくはこの先願発明に係るブロー成形法を援用することができる。
【0014】
具体的には、予め形成した横断面の肉厚が均一で断面が略円形の有底パリソンを1次ブロー成形して、2次ブロー成形のための金型の短径(扁平容器の短径に相当)よりも、径が大きい円形有底パリソンに延伸し、一方、成形品の扁平容器の断面形状のキャビティを有す金型を準備し、この有底延伸パリソンを2次ブロー成形のための当金型のキャビティ内に収容しキャビティの短径方向に有底延伸パリソンを扁平状に押圧して型締めして、2次ブロー成形を行う。その結果、キャビティの短径側よりも長径側に有底延伸パリソンの断面が長くなって有底パリソンが収納され、有底パリソンが扁平状に押圧変形し、2次ブロー成形すると、形成される扁平容器の短径側と長径側との肉厚が均一に、あるいは充分に均一になる。結果として、二軸延伸の二段ブローを行うこととなり、これによって、有底パリソンの延伸や結晶化が充分に行われるようになり、扁平容器の耐熱性と耐圧性が著しく改良されるという副次的な作用も伴う。
【0015】
有底パリソンの1次ブローは、ブロー後の形状安定のために金型を使用しているが、経済面からして、金型を用いないフリーブローで行ってもよい。
1次ブローの横延伸倍率は3〜5倍、縦延伸倍率は2〜4倍まで上げることができ、結晶の高配向と延伸の均質化がもたらされる。また、短径側の延伸倍率(容器の短径/プリフォームの中心径)は2.5倍程度に抑えることもできる。1次ブローの金型温度条件は、PETにおいては150℃程度とされ、フリーブローでは空冷により冷却する。ブロー成形は、成形品の物性を高めるために、二軸延伸の二段ブロー法が好ましい。
なお、一般に容器の口部は延伸されないので、別途に加熱結晶化して強度と耐熱性を向上させる。
本願発明の特定化された扁平容器は、好適には以上の段落0013〜0015に記載したような方法によって、ポリエステル樹脂から予備成形された有底パリソンをブロー成形することにより製造されるものであり、以下に記載した扁平比や肉厚比などの諸特性は、成形条件などの設定により、また後記する各実施例においてなされているように、適宜に付与されるものである。
【0016】
(3)扁平比
扁平性を表す容器の胴部断面の長径と短径(共に外径)の比であり、容器の扁平性の指標となる扁平率を表す。具体的には、図3〜図4に示す扁平性を有す容器において、容器(1,101)の胴部(2,102)の水平断面(B−B,D−D)における長径(6,106)と短径(7,107)の比で表示される。
本願発明においては、扁平比が、容器の胴部の肉厚比などと共に、高温での容器の胴部における伸長性及び高温での容器の胴部の熱的な無荷重変化量あるいは容器の胴部の結晶化度などと関連して、扁平容器の機械的な強度や耐熱性などに深く関わるので、扁平比は実験データ(後記の表1に掲示)からして1.3以上であることが必要であり、この数値規定は、消費者の手指の把持による飲料ボトルの持ち易さ、及び複雑形状による審美性をももたらす。
【0017】
(4)容器胴部の肉厚比
容器の胴部の肉厚比は、容器の胴部全体の肉厚の均一性を示す指標であり、数値1により近いほうが肉厚が全体的に均一となり好ましく、容器首部及び接地部を除く容器胴部の断面の最大肉厚部と最小肉厚部の肉厚比として示される。
肉厚比は、扁平比と同様に、高温での容器の胴部における伸長性及び高温での容器の胴部の熱的な無荷重変化量あるいは容器の胴部の結晶化度などと関連して、扁平容器の機械的な強度や耐熱性などに深く関わるので、実験データ(後記の表1に掲示)からして1.6以下であることが必要である。
【0018】
(5)高温での伸びの差
高温での伸びの差は、扁平容器の機械的な強度や耐熱性などに深く関わるので、具体的には、容器の胴部の最大延伸部(柱部)と最小延伸部(パネル中央部)における95℃引張り試験での伸びの差を採用する。段落0025に後記する実験法により算出され、実験データ(後記の表1に掲示)からして150%以下であることが必要である。
最大延伸部と最小延伸部での伸びの差が150%以下であると、収容内容物を95℃程度の高温で充填しても形状的に安定しており、従来の扁平容器のように形状が変形して歪むことはない。
【0019】
(6)結晶化度
扁平容器の胴部の結晶性を示す指標(単位:%)であり、扁平比などと共に、扁平容器の機械的な強度や耐熱性などに関わるので、実験データ(後記の表1に掲示)からして30%以上であることが必要である。
結晶化度は特に容器の耐熱性の向上に必須の数値であり、段落0024に後記する実験計算式により算出される。
【0020】
(7)無荷重変化量の差
扁平容器の無荷重変化量の差は、高温での伸びの差と共に、扁平容器の機械的な強度や耐熱性などに深く関わるので、具体的には、75℃と100℃の範囲での容器の胴部における最大延伸部と最小延伸部のTMA(熱機械分析)無荷重変化量の差を採用する。段落0026に後記する実験法により算出され、実験データ(後記の表1に掲示)からして500μm以下であることが必要である。
TMA無荷重変化量の差は、特に耐熱性の評価を示し、500μm以下であると、収容内容物を95℃程度の高温で充填しても形状的に安定しており、従来の扁平容器のように形状が変形して歪むことはない。
扁平容器は、容器の胴部における最大延伸部と最小延伸部の延伸倍率又は二次加工量が異なるため、柱部とパネル部の耐熱性が異なり、収容内容物を高温で充填するとパネル部が出っ張り耐熱性が不良となる傾向があるが、この規定を満たす本願発明の扁平容器は、従来法のものに比べて、最大延伸部と最小延伸部の配向状態の差が小さくて耐熱性に優れており、収容内容物を高温で充填してもパネル部が出っ張ることはない。
【0021】
(8)ポリエステル樹脂材料
扁平容器の樹脂材料はポリエステル樹脂であり、ポリ乳酸なども例示できるが、機械的強度と耐熱性を考慮し、主として通常のポリエチレンテレフタレート(PET)が使用される。ポリエチレンテレフタレートは、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであり、好ましくは、酸成分の90モル%以上がテレフタル酸で、グリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールである結晶性の樹脂を使用する。このPETの他の酸成分としてはイソフタル酸やナフタリンジカルボン酸など、他のグリコール成分としてはジエチレングリコール、1,4‐ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールやプロピレングリコールなどが例示できる。
容器を構成する樹脂には酸素吸収性ないしは酸素遮蔽性などの機能性樹脂をブレンドすることもできる。また、用途に応じて、通常の着色剤や紫外線吸収剤あるいは酸化防止剤や抗菌剤などの各種の添加剤を適宜に配合してもよい。
【0022】
(9)多層材料
本願発明は、扁平容器がポリエステル樹脂層及び機能性熱可塑性樹脂層の多層構造からなることを特徴とするポリエステル樹脂扁平容器をも対象とし、そのために、本願発明においては、適宜に多層材料である積層有底パリソンを使用もでき、例えば、ポリアミドやエバールなどと積層すると酸素遮蔽性が向上する。また、酸素吸収層を中間層に設けて酸素吸収性を向上させてもよい。酸素吸収層に用いる酸化可能有機成分はポリエンから誘導される重合体が好ましい。かかるポリエンとしては、炭素原子数4〜20のポリエン、鎖状又は環状の共役又は非共役ポリエンから誘導された単位を含む樹脂が好適に使用される。
【実施例】
【0023】
以下において、実施例によって、比較例を対照して図面を参照しながら、本願発明をより詳細に具体的に示すが、以下の実施例と比較例は、本願発明の好ましい実施の態様を例示し本願発明をより明瞭に説明し、さらに本願発明の構成要件の合理性を実証するためのものである。
【0024】
[測定法]
1.)結晶化度の測定
扁平容器の胴部より試験片を切り出し、密度勾配管法により試験片の密度ρ(g/cm)を求める。結晶化度は次式により計算する。
結晶化度(%)={ρc(ρ−ρa)/ρ(ρc−ρa)}×100
ρc:結晶密度(1.455g/cm
ρa:非晶密度(1.335g/cm
【0025】
2.)95℃引張り試験伸び量差の測定
図3に示すように扁平容器の胴部の同一高さ上での最大延伸部(柱部)9と最小延伸部(パネル中央部)10より縦(高さ)方向に切り出した5×40mmの短冊状試験片を、95℃の恒温器の中で引張り試験を行う。その2箇所の最大の伸びの差を95℃引張り伸び量の差とする。
なお、チャック間距離を10mm、クロスヘッドスピードを10mm/分で測定し、チャック間距離をL、サンプルの伸びた距離をΔLとして、伸び(%)=(ΔL/L)×100で表示した。
装置は、(株)オリエンテック社製テンシロン万能試験機UCT−500を使用した。
なお、図1に95℃引張り試験伸び量差の測定結果の例を表すグラフ図を例示する。図1においては、最大延伸部と最小延伸部における最大の伸び量の差は、389−333=56%となる。
【0026】
3.)TMA無荷重変化量の差の測定
図3に示すように扁平容器の胴部の同一高さ上での最大延伸部(柱部)9と最小延伸部(パネル中央部)10より縦(高さ)方向に切り出した5×40mmの短冊状試験片を、TMA(熱機械分析法)により測定する。その2箇所の変化量の差をTMA無荷重変化量の差とする。
なお、TMA無荷重変化量の差の測定方法としては、試験片にかける応力を0とし、チャック間距離を20mm、室温から100℃まで昇温速度5℃/分にて測定する。変化量の数値化はガラス転移温度付近の75℃を起点とし100℃までの変化量にて算出する。装置は、セイコーインスツルメンツ(株)社製のDMS−6100を使用した。
なお、図2にTMA無荷重変化量の差の測定結果の例を表すグラフ図を例示する。図2より、75℃を基準として100℃になったときの最大延伸部と最小延伸部の変化量の差を表わすと、42−(−68)=110μmとなる。(実施例−1に相当)
【0027】
4.)耐熱性評価方法
扁平容器に87℃の熱水充填を行い、密栓後さらに75℃温水シャワーを5分間行い、容器の変形の有無を目視にて評価した。(○:変形無し ×:変形有り)
【0028】
[実施例−1]
市販のポリエチレンテレフタレート(PET)を使用して、外径22mm,厚さ3.4mm,高さ80mmの有底パリソンを予備成形し、フリーブローにより加熱空気を吹き込んで、外径90mmに1次延伸ブローした。
1次ブローした有底パリソンを、600℃のオーブン内で8秒間収縮固定して、外径60mmの収縮有底パリソンとした。
2次ブロー用金型(140℃に設定)の断面矩形のキャビティ(断面:短径50m,長径66mm)内に、収縮有底パリソンを短径方向に押し潰して収納した。
押し潰して変形された収縮有底パリソン内に、20℃,3MPaの空気を送入して2次ブロー成形を行い、断面が矩形の扁平比1.3の扁平容器を成形した。
この扁平容器の胴部の結晶化度、容器の断面の最大肉厚部と最小肉厚部の肉厚比、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における95℃引張り試験での伸び量差、及び容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における75℃と100℃の範囲でのTMA無荷重変化量の差の測定結果を表1に示す。
表1に記載された数値のとおり、各比較例に比して、容器の胴部の周方向肉厚比が小さく、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における物性差が小さく、したがって、耐熱性も良好であり機械的な強度も充分なものであった。
【0029】
[実施例−2]
1次ブロー成形をフリーブローでなく1次ブロー用金型を使用し、2次ブロー用金型として断面楕円形のキャビティ(断面:短径47mm,長径70mm)を使用した以外は、実施例−1と同様に行い、断面が楕円形の扁平比1.5の扁平容器を成形した。
【0030】
[実施例−3]
1次ブロー成形をフリーブローでなく1次ブロー用金型を使用し、2次ブロー用金型として断面矩形のキャビティ(断面:短径40mm,長径80mm)を使用した以外は、実施例−1と同様に行い断面が矩形の扁平比2.0の扁平容器を成形した。
【0031】
[実施例−4]
1次ブロー成形をフリーブローでなく1次ブロー用金型を使用し、2次ブロー用金型として断面矩形のキャビティ(断面:短径36mm,長径90mm)を使用した以外は、実施例−1と同様に行い断面が矩形の扁平比2.5の扁平容器を成形した。
実施例2〜4で成形した扁平容器の胴部の結晶化度、容器の断面の最大肉厚部と最小肉厚部の肉厚比、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における95℃引張り試験での伸び量の差、及び容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における75℃と100℃の範囲でのTMA無荷重変化量の差の測定結果を表1に示す。
実施例2〜4は、表1に記載された数値のとおり、各比較例に比して、容器の胴部の周方向肉厚比が小さく、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における物性差が小さく、したがって、耐熱性も良好であり機械的な強度も充分なものであった。
【0032】
[比較例−1]
実施例−1で用いたものと同じ予備成形有底パリソンを使用して、予備有底パリソンを1次ブロー用金型で延伸して、収縮有底パリソンを短径方向に押し潰さない大きさで金型に収納して、実施例−1で用いたものと同じ2次ブロー用の金型を使用して、同じブロー条件にてブロー成形を行い、断面が矩形の扁平比1.3の扁平容器を成形した。
【0033】
[比較例−2]
実施例−1で用いたものと同じ予備成形有底パリソンを使用して、予備有底パリソンを1次ブロー用金型で延伸して、収縮有底パリソンを短径方向に押し潰さない大きさで金型に収納して、実施例−3で用いたものと同じ2次ブロー用の金型を使用して、同じブロー条件にてブロー成形を行い、断面が矩形の扁平比2.0の扁平容器を成形した。
比較例1〜2で成形した扁平容器の胴部の結晶化度、容器の断面の最大肉厚部と最小肉厚部の肉厚比、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における95℃引張り試験での伸び量差、及び容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における75℃と100℃の範囲でのTMA無荷重変化量の差の測定結果を表1に示す。
各比較例は、表1に記載された数値のとおり、容器の胴部の周方向肉厚比及び容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における物性差が大きく、したがって、耐熱性及び機械的な強度が劣るものであった。
【0034】
【表1】

【0035】
[各実施例と各比較例の結果の考察]
各実施例及び各比較例を対比することにより、本願発明における、扁平比や肉厚比あるいは95℃引張り試験伸び量の差及びTMA差などの構成要件を満たす扁平容器であれば、耐熱性が優れていることが明確となっている。
各実施例では、最大延伸部と最小延伸部の高温での伸びの差が各比較例に比べて小さく、また、TMA無荷重変化量の差も、各比較例に比べて小さく、耐熱性に優れて、収容内容物を高温で充填しても形状的に安定しており、従来の扁平容器のように形状が変形して歪むことはない。
したがって、本願発明の各構成の要件における有意性及び合理性が実証されている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】95℃引張り試験伸び量の差の測定結果の例を示すグラフ図である。
【図2】TMA無荷重変化量の差の測定結果の例を示すグラフ図である。
【図3】本願発明の矩形型ポリエステル樹脂扁平容器と測定サンプル採取箇所を示す、外観図及び断面図である。
【図4】本願発明の楕円型ポリエステル樹脂扁平容器を示す、外観図及び断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1,101 ポリエステル樹脂扁平容器
2,102 容器胴部
3,103 容器底部
4,108 容器首部
5,105 容器肩部
6,106 容器胴部長径
7,107 容器胴部短径
8,104 容器口部
9 最大延伸部(柱部)測定サンプル採取位置
10 最小延伸部(パネル中央部)測定サンプル採取位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂をブロー成形した扁平容器であって、長径と短径の比である扁平比が1.3以上であり、容器の胴部の最大肉厚部と最小肉厚部の肉厚比が1.6以下であり、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における95℃引張り試験での伸びの差が150%以下であることを特徴とするポリエステル樹脂扁平容器。
【請求項2】
ポリエステル樹脂をブロー成形した扁平容器であって、長径と短径の比である扁平比が1.3以上であり、容器の胴部の最大肉厚部と最小肉厚部の肉厚比が1.6以下であり、容器の胴部の結晶化度が30%以上であり、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部におけるTMA無荷重変化量の差が75℃と100℃において500μm以下であることを特徴とするポリエステル樹脂扁平容器。
【請求項3】
ポリエステル樹脂をブロー成形した扁平容器であって、長径と短径の比である扁平比が1.3以上であり、容器の胴部の最大肉厚部と最小肉厚部の肉厚比が1.6以下であり、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部における95℃引張り試験での伸びの差が150%以下であり、容器の胴部の結晶化度が30%以上であり、容器の胴部の最大延伸部と最小延伸部におけるTMA無荷重変化量の差が75℃と100℃において500μm以下であることを特徴とするポリエステル樹脂扁平容器。
【請求項4】
扁平容器の胴部の断面形状が矩形又は楕円形であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載されたポリエステル樹脂扁平容器。
【請求項5】
扁平容器が二段ブロー成形法により成形された二軸延伸容器であることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載されたポリエステル樹脂扁平容器。
【請求項6】
ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載されたポリエステル樹脂扁平容器。
【請求項7】
扁平容器がポリエステル樹脂層及び機能性熱可塑性樹脂層の多層構造からなることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載されたポリエステル樹脂扁平容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−82871(P2006−82871A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272637(P2004−272637)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】