説明

ポリエステル樹脂の製造方法、太陽電池用保護シート、及び太陽電池モジュール

【課題】待機運転中の真空ブレイクを防ぎ、ベントアップを抑えたポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル原料樹脂を溶融混練し、溶融ポリエステル樹脂の押出量Q[kg/h]を、単位押出量Y[kg/hr/rpm]が下記関係式で表される領域を満たす範囲でスクリュ回転数Nを調節し、QminからQへ増加させて溶融押出を行なう〔Yunder=3.4×10−6×D、Yover=6.6×10−6×D、D:スクリュ径mm、Q、Qmin:生産運転時又は待機運転時の押出量、a:生産運転時の押出量におけるQ/Nの下限を定める数値〕。・(Y−Yunder)/Q≦(Yover−Yunder)/Q・(Y−a×Yunder)/(Q−Q)≧(Yover−Yunder)/Q

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂の製造方法、太陽電池用保護シート、及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、電気絶縁用途や光学用途などの種々の用途に適用されている。そのうち、電気絶縁用途として、近年では特に、太陽電池の裏面保護用シート(いわゆるバックシート)などの太陽電池用途が注目されている。
【0003】
一方、ポリエステルは通常、その表面にカルボキシ基や水酸基が多く存在しており、水分が存在する環境条件下では加水分解反応を起こしやすく、経時で劣化する傾向がある。例えば太陽電池モジュールが一般に使用される設置環境は、屋外等の常に風雨に曝されるような環境であり、加水分解反応が進行しやすい条件に曝されるため、ポリエステルの加水分解性が安定的に抑制された状態に制御されていることが望まれる。
【0004】
ポリエステルは、ベント付二軸押出機により溶融押出して成形されるのが一般的である。従来は通常、押出される樹脂の、押出機のスクリュの1回転あたりの単位押出量Q/Nが常に一定になるようにスクリュの回転数Nを設定し、運転制御されている。一方、所望とする生産運転を行なう場合以外は、待機運転モードに切り替えられるが、待機運転では、通常、押出が完全に停止されず、ある程度の量が継続的に押し出された状態で保持されている。
【0005】
ところが、Q/Nが一定では、特に原料供給量が増加するタイミング、例えば待機運転から生産運転に切り換える場合などにおいて、溶融樹脂がベントに充満(逆流)したり、更にはベントに繋がる吸引用のベント配管にまで溶融樹脂が吸い込まれて配管詰まりを起こす等の、いわゆるベントアップを引き起こしやすいという問題がある。
【0006】
上記ベントアップを防止する方法の1つとして、例えば、シリンダ内の脱気部に配設された圧力センサの出力によりベントアップの兆候を検知し、スクリュ回転数や供給量をベントアップしない範囲に制御する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、生産運転に至るまでのいわゆる待機運転時における溶融樹脂の排出量を少なく抑えるために、待機運転状態から生産運転に移行する際に、ギアポンプの入口圧力を所定の設定値とすると共にフィーダ吐出量がある設定値から別の設定値になるようにした押出成形法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、定常製造運転迄の立上げ時間の短縮のため、所定の関係式を満足するように原料供給量、押出回転数、引取速度を制御しながら定常運転状態まで原料供給量を上昇させる制御方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−254945号公報
【特許文献2】特開2008−23847号公報
【特許文献3】特開2002−347103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のようにベントアップの兆候を検知する方法では、常に監視が必要であり、完全にベントアップを解消することは難しい。ベントアップが起きると、長期滞留物起因の異物故障が発生したり、極限粘度(IV:Intrinsic Viscosity)が低下する等、樹脂自体の品質低下を招くだけでなく、押出機の停機にまで至る可能性がある。また、品質低下に起因してリサイクル適性も損なわれる。したがって、ベントアップを効果的に防ぐ方法が求められる。
【0011】
上記のように、フィーダ吐出量をある設定値から別の設定値になるようにした押出成形法では、Q/Nを予め一定値に設定したうえで、ギアポンプの入口圧力が所定値に設定され、生産運転に切り換えられる。そのため、ベントアップの事前防止は不可能ではないものの、Q/N及びシリンダの先端圧を一定にするため、シリンダ内の圧力制御は効いておらず、したがってシリンダ内では圧力が常に変動しやすい。そのため、依然としてベントアップを常に監視する必要がある。
【0012】
また、原料供給量、押出回転数、及び引取速度を制御して、原料供給量を定常製造運転状態まで上昇させる、上記従来の制御方法では、やはりQ/Nを一定にして定常運転状態まで立ち上げるため、ここでの制御のみでは原料供給量を高めた場合にベントアップを防ぐことは難しい。
【0013】
以上のように、従来は、待機運転から生産運転への切り換え等をはじめ、原料供給量が増加する生産過程においてさえも、Q/N変えず一定のまま運転されていたのが通常である。しかしながら、原料供給量を増す場合にQ/Nを一定に保持したままでは、ベントアップを招きやすく、しかも待機運転時の原料ロスを軽減するために、従来以上に待機時の押出量を低く抑えようとすると、生産運転を立ち上げる際のベントアップを無視できない。そのため、ベントアップを監視する等が未だ不可欠であり、ベントアップの問題を完全に解消できていないのが現状である。
【0014】
また一方で、待機時の原料ロスを少なく抑えるため、待機時に押し出される量をさらに減らした場合、溶融樹脂によるメルトシール効果がなくなり、シリンダ内の真空が保てなくなる、いわゆる真空ブレイクと称される課題もある。真空ブレイクが発生すると、樹脂のIVが低下するなど、樹脂の品質低下を招来する。
【0015】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、ベント付二軸押出機を用いてポリエステル樹脂を製造する場合に、低吐出の待機運転中の真空ブレイクを防ぐと共に、ベントアップを抑えて待機運転から立ち上げる際の立ち上げ速度が速く、リサイクル適正のある品質が安定的に保たれたポリエステル樹脂を製造するポリエステル樹脂の製造方法、安定した品質を有する太陽電池用保護シート、並びに長期に亘り安定的な発電性能が得られる太陽電池モジュールを提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ベント付二軸押出機による製造過程で待機運転から生産運転に移る、すなわち原料樹脂の押出機への供給量を上げるときに、より低吐出の状態からギアポンプの圧力制御を入れながらQ/N値が制御されるようにすると、ベントアップを防ぎ、低吐出のときにはベントでの真空ブレイクを抑えて、ベントである程度の真空を引きながら吐出することができるようになるとの知見を得、係る知見に基づいて達成されたものである。
【0017】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 二軸押出機に投入されたポリエステル原料樹脂をシリンダ内で溶融混練すると共に、溶融されたポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量Qを、単位押出量Y[kg/hr/rpm]と押出量Q[kg/h]との関係から、単位押出量Yが下記関係式(1)〜(2)で表される領域を満たす範囲で少なくとも前記シリンダ内のスクリュの回転数を調節し、QminからQへ増加させて溶融押出を行なう溶融押出工程を有するポリエステル樹脂の製造方法である。
(1)(Y−Yunder)/Q≦(Yover−Yunder)/Q
(2)(Y−a×Yunder)/(Q−Q)≧(Yover−Yunder)/Q
【0018】
前記各式において、Yは、スクリュの1回転あたりの単位押出量Q/N[kg/hr/rpm]を表し、Yunder及びYoverは、Yunder[kg/hr/rpm]=3.4×10−6×D、Yover[kg/hr/rpm]=6.6×10−6×Dである。Dは、スクリュ径[mm]を表す。Qは、運転時における溶融ポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量[kg/h]を表し、Qは、生産運転時の押出量を表し、Qminは、待機運転時の押出量を表す。Nは、スクリュの回転数[rpm]を表す。但し、aは、生産運転時の押出量におけるQ/Nの下限を定める数値を表す。
【0019】
<2> 単位押出量Yは、QminでのYminに対する、QでのYの比率が下記の関係式(3)を満たす前記<1>に記載のポリエステル樹脂の製造方法である。下記関係式(3)において、Yminは、待機運転時におけるQmin/Nminを表す。Nminは、Qminでの最小回転数を表す。
1.3≦Y/Ymin≦6.0 ・・・(3)
<3> Qminに対するQの比率が、下記の関係式(4)を満たす前記<1>又は前記<2>に記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
3.3≦Q/Qmin≦12.0 ・・・(4)
<4> 前記溶融押出は、Yを連続的に変化させながら行なう前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
【0020】
<5> 単位押出量YのQminでのYminに対する、QでのYの比率は、下記の関係式(5)を満たす前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
1.3≦Y/Ymin≦4.6 ・・・(5)
<6> Qminに対するQの比率が、下記の関係式(6)を満たす前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
3.3≦Q/Qmin≦7.5 ・・・(6)
<7> 前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステル樹脂を延伸して得られたポリエステルフィルムを有する太陽電池用保護シートである。
<8> 太陽光が入射する透明性の基板と、前記基板の一方の側に配された太陽電池素子と、該太陽電池素子の前記基板が配された側と反対側に配された前記<7>に記載の太陽電池用保護シートと、を備えた太陽電池モジュールである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ベント付二軸押出機を用いてポリエステル樹脂を製造する場合に、低吐出の待機運転中の真空ブレイクを防ぐと共に、ベントアップを抑えて待機運転から立ち上げる際の立ち上げ速度が速く、リサイクル適正のある品質が安定的に保たれたポリエステル樹脂を製造するポリエステル樹脂の製造方法が提供される。また、
本発明によれば、安定した品質を有する太陽電池用保護シート、並びに長期に亘り安定的な発電性能が得られる太陽電池モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ベント付二軸押出機の概略の構成例を示す断面図である。
【図2】縦軸を単位押出量Y(=Q/N)とし、横軸を溶融樹脂の押出量Qとした二次元座標軸において、関係線(1)〜(2)で囲まれる範囲を示す図である。
【図3】(A)は、実施例1での溶融押出時におけるQ、N、及びQ/Nの変化を示すグラフであり、(B)は、実施例1のQに対するYの関係を示す図である。
【図4】(A)は、実施例2での溶融押出時におけるQ、N、及びQ/Nの変化を示すグラフであり、(B)は、実施例2のQに対するYの関係を示す図である。
【図5】(A)は、実施例3での溶融押出時におけるQ、N、及びQ/Nの変化を示すグラフであり、(B)は、実施例3のQに対するYの関係を示す図である。
【図6】(A)は、実施例4での溶融押出時におけるQ、N、及びQ/Nの変化を示すグラフであり、(B)は、実施例4のQに対するYの関係を示す図である。
【図7】(A)は、実施例5での溶融押出時におけるQ、N、及びQ/Nの変化を示すグラフであり、(B)は、実施例5のQに対するYの関係を示す図である。
【図8】(A)は、比較例1での溶融押出時におけるQ、N、及びQ/Nの変化を示すグラフであり、(B)は、比較例1のQに対するYの関係を示す図である。
【図9】(A)は、比較例2での溶融押出時におけるQ、N、及びQ/Nの変化を示すグラフであり、(B)は、比較例2のQに対するYの関係を示す図である。
【図10】(A)は、比較例3での溶融押出時におけるQ、N、及びQ/Nの変化を示すグラフであり、(B)は、比較例3のQに対するYの関係を示す図である。
【図11】(A)は、比較例4での溶融押出時におけるQ、N、及びQ/Nの変化を示すグラフであり、(B)は、比較例4のQに対するYの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のポリエステル樹脂の製造方法について詳細に説明すると共に、ポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステル樹脂を用いた太陽電池用保護シート及び太陽電池モジュールについても詳述する。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、二軸押出機に投入されたポリエステル原料樹脂をシリンダ内で溶融混練すると共に、溶融されたポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量Qを、単位押出量Y[kg/hr/rpm]と押出量Q[kg/h]との関係から、単位押出量Yが下記関係式(1)〜(2)で表される領域を満たす範囲で少なくともシリンダ内のスクリュの回転数を調節し、QminからQへ増加させて溶融押出を行なう溶融押出工程を設けて構成されている。
【0025】
ここで、単位押出量Yと押出量Qとの関係は、二次元座標軸上の一方の軸(例えば縦軸)に単位押出量Y[kg/hr/rpm]を、他方の軸(例えば横軸)に押出量Q[kg/h]をとって引いた関係線に基づくものでもよい。例えば、下記関係式(1)〜(2)は、縦軸に単位押出量Yをとり、横軸に押出量Q[kg/h]をとった二次元座標軸上に関係線を引いた場合の関係を示すものでもよい。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、溶融押出工程のほか、押出されたポリエステル樹脂をシート状に成形し、例えばキャスティングドラム上で冷却するシート成形工程や、シート状のポリエステル樹脂を延伸する延伸工程などの他の工程が設けられてもよい。
【0027】
溶融押出機は、一般に所望とする生産時以外は待機運転されるが、待機運転時でも完全に停止されずに溶融樹脂が押出されている状態にあるため、原料ロスを減らすには待機運転時の押出量を極力抑える必要がある。ところが、待機運転時の押出量をあまり低く抑えすぎると、シリンダ内の真空状態を維持できず(真空ブレイク)、また生産運転に切り換えて原料供給量を上げたときには、ベントアップを起こしやすい傾向がある。真空ブレイクやベントアップを引き起こすと、品質低下を招くばかりか、リサイクル性を損なうことにもなる。
従来、二軸押出機から溶融樹脂を押し出す際に押出機への原料供給量を上げるに場合には、あらかじめQ/Nを変えた状態にしてからギアポンプ制御を入れはじめ、Q/N一定のまま原料供給量を上げるといった運転が行なわれていた。ところが、このような運転では、待機時に真空ブレイクしやすい一方、真空ブレイクを回避するためある程度の押出量を確保すると、待機運転時の原料ロスが大きい。また、Q/N一定であるため、ベントアップを招きやすい。このような状況のもと、
本発明においては、溶融されたポリエステル樹脂(以下、単に溶融樹脂ともいう。)を押し出すにあたり、溶融樹脂の単位時間あたりの押出量Qを、QminからQへ増加させて、押出されるポリエステル樹脂の押出量Qを、Y(=Q/N)が一定になるような制御ではなく、スクリュの1回転あたりの単位押出量Yが以下に示す関係式(1)〜(2)で表される領域を満たす範囲で制御する。このとき、関係式(1)〜(2)を満たすように、シリンダ内のスクリュの回転数のほか、原料の供給量やシリンダに取り付けられたギアポンプの圧力制御などが制御される。これにより、ベント付二軸押出機を待機運転から生産運転に切り換えるにあたり、待機運転中の低吐出のときには真空ブレイクを防ぐと共に、切り換え後は原料樹脂の押出機への供給量が増加するが、ポリエステル樹脂のベントアップの発生が防止される。また、ベントアップを抑えつつも、従来に比べて待機運転から立ち上げる際の立ち上げ時間が短く(すなわち立ち上げ速度が速く)なり、リサイクル適正のある品質が安定的に保たれたエステル樹脂が製造される。生産性の向上効果も期待される。
【0028】
−溶融押出工程−
本発明における溶融押出工程は、二軸押出機に投入されたポリエステル原料樹脂をシリンダ内で溶融混練すると共に、溶融されたポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量Qを、単位押出量Y[kg/hr/rpm]と押出量Q[kg/h]との関係から、単位押出量Yが下記関係式(1)〜(2)で表される領域を満たす範囲で、前記シリンダ内のスクリュの回転数を調節し、押出量をQminからQへ増加させて溶融押出を行なう。
(1)(Y−Yunder)/Q≦(Yover−Yunder)/Q
(2)(Y−a×Yunder)/(Q−Q)≧(Yover−Yunder)/Q
【0029】
前記各式におけるY、D、Q、Q等の詳細を以下に示す。
Y:スクリュの1回転あたりの単位押出量Q/N[kg/hr/rpm]
under:3.4×10−6×D[kg/hr/rpm]
over:6.6×10−6×D[kg/hr/rpm]
D:スクリュ径[mm]
Q:運転時における溶融ポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量[kg/h]
:生産運転時の押出量
min:待機運転時の押出量
N:スクリュの回転数[rpm]
a=生産運転時の押出量におけるQ/Nの下限を定める数値
【0030】
用いる二軸押出機による溶融混練は、基本的には、溶融樹脂を押し出すための二軸スクリュとベントとを備えた従来公知の二軸押出機を用い、所望とするポリエステル樹脂を得るために必要な条件を設定して行なえる。二軸押出機は、小型ないし大型のいずれの装置を使用してもよい。
【0031】
本発明に好適な二軸押出機の構成例を図1に示す。図1は、本発明に係るポリエステルフィルムの製造方法を実施する際に使用することができる二軸押出機の構成例を概略的に示す概略断面図である。
【0032】
溶融押出し法によりポリエステルフィルムを製造する場合、一般的に用いられる押出機は、大別して単軸と多軸がある。多軸としては、二軸押出機(二軸スクリュ押出機)が広く使用されている。二軸押出機として、例えば図1に示すように、原料樹脂を供給する供給口12及び溶融樹脂が押出される押出機出口14を有するシリンダ10(バレル)と、それぞれ140mm以上の外径を有し、シリンダ10内で回転する2つのスクリュ20A,20Bと、シリンダ10の周囲に配置され、シリンダ10内の温度を制御する温度制御手段30とを備えた二軸押出機100であってもよい。なお、供給口12の手前には原料供給装置を設けることができ、また押出機出口14の先には、フィルタ42とダイ40が設けられている。また、押出機出口14の先には、図示しないが更にギアポンプが設けられてもよい。
【0033】
<シリンダ>
シリンダ10は原料樹脂を供給するための供給口12と、加熱溶融された樹脂が押し出される押出機出口14を有する。
シリンダ10の内壁面は、耐熱、耐磨耗性、及び腐食性に優れ、樹脂との摩擦が確保可能な素材が用いられる。一般的には内面を窒化処理した窒化鋼が使用されているが、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、ステンレス鋼を窒化処理して用いることもできる。特に耐摩耗性、耐食性を要求される用途では、遠心鋳造法によりニッケル、コバルト、クロム、タングステン等の耐腐食性、耐磨耗性素材合金をシリンダ10の内壁面にライニングさせたバイメタリックシリンダを用いることや、セラミックの溶射皮膜を形成させることが有効である。
【0034】
シリンダ10には真空を引くためのベント16A,16Bが設けられている。ベント16A,16Bを通じて真空引きをすることでシリンダ10内の樹脂中の水分等の揮発成分を効率的に除去することができる。ベント16A,16Bを適正に配置することにより、未乾燥状態の原料(ペレット、パウダー、フレークなど)や製膜途中で出たフィルムの粉砕屑(フラフ)等をそのまま原料樹脂として使用することができる。
ベント16A,16Bは脱気効率との関係で、開口面積やベントの数を適正にすることが求められる。二軸押出機100は、1箇所以上のベント(例えば16A,16B)を有することが望ましい。なお、ベント16A,16Bの数が多過ぎると、ベントアップのおそれが大きくなり、滞留劣化異物増加の懸念がある。したがって、ベントは、1箇所又は2箇所に設けることが好ましい。
また、ベント付近の壁面に滞留した樹脂や析出した揮発成分が押出機100(シリンダ10)の内部に落下すると、製品に異物として顕在化する可能性があり、注意が必要である。滞留については、ベント蓋の形状の適正化や、上部ベント、側面ベントの適正な選定が有効であり、揮発成分の析出は、配管等の加熱で析出を防止する手法が一般的に用いられる。
【0035】
例えば、PETを押出す場合、加水分解、熱分解、酸化分解の抑制が製品(フィルム)の品質に大きな影響を及ぼす。例えば、樹脂供給口12を真空化したり、窒素パージを行なうことで酸化分解を抑えることができる。
また、ベント16A,16Bを複数箇所に設けることで、原料水分量が2000ppm程度の場合でも、50ppm以下に乾燥した樹脂を単軸で押出した場合と同様の押出しが可能である。
また、剪断発熱による樹脂分解を抑えるため、押出と脱気が両立できる範囲でニーディング等のセグメントは極力設けないことが好ましい。
また、スクリュ出口(押出機出口)14の圧力が大きいほど剪断発熱が大きくなるため、ベント16A,16Bによる脱気効率と押出の安定性が確保できる範囲内で、押出機出口14の圧力は極力低くすることが好ましい。
【0036】
<二軸スクリュ>
シリンダ10内には、φ140mm以上のスクリュ径(外径)Dを有し、モータ及びギアを含む駆動手段21によって回転する2つのスクリュ20A,20Bが設けられている。スクリュ径Dがφ140mm以上となる大型の二軸押出機では、大量生産が可能である一方、ベントアップが発生しやすく、溶融ムラが生じて品質の低下を招きやすい。しかし、本発明においては、外径140mm以上のスクリュを備えた大型の二軸押出機を用いた場合でも、ベントアップを防ぎ、溶融ムラが抑制されるともに、異物の発生や加熱による末端COOHの増加を抑制することができる。
【0037】
二軸押出機は、2つのスクリュ20A,20Bの噛み合い型と非噛み合い型に大別され、噛み合い型のほうが、非噛み合い型よりも混練効果が大きい。本発明では、噛み合い型と非噛み合い型のいずれのタイプでも良いが、原料樹脂を十分混練して溶融ムラを抑制する観点から、噛み合い型を用いることが好ましい。
2つのスクリュ20A,20Bの回転方向もそれぞれ同方向と異方向に分かれる。異方向回転スクリュ20A,20Bは同方向回転型よりも混練効果が高く、同方向回転型は自己清掃効果を持っているため、押出機内の滞留防止には有効である。
さらに軸方向も平行と斜交があり、強いせん断を付与する場合に用いられるコニカルタイプの形状もある。
【0038】
本発明で用いる二軸押出機では、様々な形状のスクリュセグメントが用いられる。スクリュ20A,20Bの形状としては、例えば、等ピッチの1条のらせん状フライト22が設けられたフルフライトスクリュが用いられる。
加熱溶融部に、ニーディングディスクやローターなどの剪断を付与するセグメントを用いることで、原料樹脂をより確実に溶融することができる。また、逆スクリュやシールリングを用いることにより、樹脂をせき止め、ベント16A,16Bを引く際のメルトシールを形成することができる。例えば、図1に示すように、ベント16A,16B付近に、上記のような原料樹脂の溶融を促進する混練部(ニーディングディスク)24A,24Bを設けることができる。
【0039】
押出機100の樹脂押出方向下流側では、溶融樹脂を冷却するための温調ゾーン(冷却部)を設けた形態が有効である。剪断発熱よりもシリンダ10の伝熱効率が高い場合は、温調ゾーン(冷却部)にピッチの短いスクリュ28を設けることで、シリンダ10壁面の樹脂移動速度が高まり、温調効率を上げることができる。冷却効果を高める観点から、冷却部に位置するスクリュ28のピッチは、スクリュ径Dに対し、0.5D〜0.8Dであることが好ましい。
【0040】
<温度制御手段>
シリンダ10の周囲には、温度制御手段30が設けられている。図1に示す押出機100では、原料供給口12から押出機出口14に向けて長手方向に9つに分割された加熱/冷却装置C1〜C9が温度制御手段30を構成している。このようにシリンダ10の周囲に分割して配置された加熱/冷却装置C1〜C9によって、例えば加熱溶融部C1〜C7と冷却部C8,C9の各領域(ゾーン)に区画し、シリンダ10内を領域ごとに所望の温度に制御することができる。
【0041】
加熱は、通常バンドヒーター又はシーズ線アルミ鋳込みヒーターが用いられるが、これらに限定されず、例えば熱媒循環加熱方法も用いることができる。一方、冷却はブロワーによる空冷が一般的であるが、シリンダ10の周囲に巻き付けたパイプに水又は油を流す方法もある。
【0042】
<ダイ>
シリンダ10の押出機出口14には、押出機出口14から押出された溶融樹脂をフィルム状(帯状)に吐出するためのダイ40が設けられている。また、シリンダ10の押出機出口14とダイ40との間には、フィルムに未溶融樹脂や異物が混入することを防ぐためのフィルタ42が設けられている。
【0043】
<ギアポンプ>
厚み精度を向上させるためには、押出量の変動を極力減少させることが重要である。押出量の変動を極力減少させるために押出機100とダイ40との間にギアポンプを設けてもよい。ギアポンプから一定量の樹脂を供給することにより、厚み精度を向上させることができる。特に、二軸スクリュ押出機を用いる場合には、押出機自身の昇圧能力が低いため、ギアポンプによる押出安定化を図ることが好ましい。
【0044】
本発明においては、前記関係式(1)〜(2)を満たすように溶融押出を行なうにあたり、スクリュの回転数を調節すると共に、ギアポンプでの圧力制御を施すことが好ましい。
【0045】
ギアポンプを用いることにより、ギアポンプの2次側の圧力変動を1次側の1/5以下にすることも可能であり、樹脂圧力変動幅を±1%以内にできる。その他のメリットとしては、スクリュ先端部の圧力を上げることなしにフィルタによる濾過が可能なことから、樹脂温度の上昇の防止、輸送効率の向上、及び押出機内での滞留時間の短縮が期待できる。また、フィルタの濾圧上昇が原因で、スクリュから供給される樹脂量が経時変動することも防止できる。ただし、ギアポンプを設置すると、設備の選定方法によっては設備の長さが長くなり、樹脂の滞留時間が長くなることと、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがあり注意が必要である。
【0046】
ギアポンプは1次圧力(入圧)と2次圧力(出圧)の差を大きくし過ぎると、ギアポンプの負荷が大きくなり、せん断発熱が大きくなる。そのため、運転時の差圧は20MPa以内、好ましくは15MPa、更に好ましくは10MPa以内とする。また、フィルム厚みの均一化のために、ギアポンプの一次圧力を一定にするために、押出機のスクリュ回転を制御したり、圧力調節弁を用いたりすることも有効である。
【0047】
本発明における溶融押出工程では、例えば図1に示すように構成された二軸押出機とポリエステル原料樹脂を用意し、温度制御手段30によりシリンダ10を加熱すると共にスクリュ20A,20Bを回転させ、供給口12から原料樹脂を供給する。なお、供給口12は、原料樹脂のペレット等が加熱されて融着しないようにすることと、モータなどのスクリュ駆動設備を保護するため、伝熱防止として冷却することが好ましい。
シリンダ内に供給された原料樹脂は、温度制御手段30による加熱のほか、スクリュ20A,20Bの回転に伴なう樹脂同士の摩擦、樹脂とスクリュ20A,20Bやシリンダ10との間の摩擦などによる発熱によって溶融されると共に、スクリュの回転に伴なって押出機出口14に向けて徐々に移動する。
シリンダ内に供給された原料樹脂は、融点Tm(℃)以上の温度に加熱されるが、樹脂温度が低過ぎると溶融押出時の溶融が不足し、ダイ40からの吐出が困難になるおそれがある。逆に樹脂温度が高過ぎると、熱分解によって末端COOHが著しく増加し、耐加水分解性の低下を招くおそれがある。これらの観点から、温度制御手段30による加熱温度及びスクリュ20A,20Bの回転数を調整することにより、二軸押出機内の長手方向(樹脂押出方向)における最大樹脂温度(Tmax;[℃])を、(Tm+40)℃〜(Tm+60)℃にすることが好ましく、(Tm+40)℃〜(Tm+55)℃とすることがより好ましく、(Tm+45)℃〜(Tm+50)℃とすることがさらに好ましい。
【0048】
二軸押出機内の長手方向(樹脂押出方向)における最大樹脂温度Tmaxは、二軸押出機100のスクリュ20A,20Bが配設されたシリンダ10内で加熱されている原料樹脂の温度であり、剪断発熱があるときはその発熱による局所的高温部を含む温度である。Tmaxは、シリンダ内の樹脂温度の測定により得られる。前記Tmaxは、末端COOHの増加を抑える観点から、290℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましい。また、Tmaxの下限温度は、樹脂の溶融不足を防止する観点から、260℃が望ましい。
【0049】
−ベント圧力−
ベント16A,16Bを通じて真空引きをすることで、シリンダ内の樹脂中の水分等の揮発成分を効率的に除去することができる。ベント圧力が低過ぎると溶融樹脂がシリンダ10の外に溢れ出るおそれがあり、ベント圧力が高過ぎると揮発成分の除去が不十分となり、得られたフィルムの加水分解が生じ易くなるおそれがある。溶融樹脂がベント16A,16Bから溢れ出ることを防ぐとともに揮発成分を選択的に除去する観点から、ベント圧力は1.333Pa〜666.5Pa(0.01Torr〜5Torr)とすることが好ましく、1.333Pa〜533.2Pa(0.01Torr〜4Torr)とすることがより好ましい。
【0050】
−平均滞留時間−
シリンダ内で原料樹脂を加熱溶融し、押出機出口14を出た後、ダイ40からフィルム状に押出されるまでの平均滞留時間を10分〜20分とすることが好ましい。原料樹脂を加熱溶融して、押出機100の押出機出口14を出てからダイ40から押出されるまでの平均滞留時間が10分以上であると、未溶融樹脂の残留が少なく抑えられる。また、該平均滞留時間が20分以下であると、熱分解による末端COOH量の増加を防ぐことができ、より優れた耐加水分解性が得られる。このような観点から、原料樹脂を加熱溶融して押出機出口14から押出され後の平均滞留時間は、10分〜15分がより好ましい。
なお、平均滞留時間は下記の式で定義される。
平均滞留時間(秒)={押出機下流配管容積[cm]×溶融体密度[g/cm]×3600/1000}/押出量[kg/h]
【0051】
−冷却−
上記のように原料樹脂をシリンダ内で加熱溶融する一方、温度制御手段30によりシリンダ10の押出機出口14側の内壁がポリエステル樹脂(原料樹脂)の融点Tm(℃)以下の冷却部となるように制御する。シリンダ10の押出機出口14側の内壁を冷却部として原料樹脂の融点Tm(℃)以下に制御すれば、樹脂が過剰に加熱されて末端COOH量が増加することを抑制することができる。末端COOH量の増加を確実に抑制する観点から、かかる冷却部における温度は、(Tm−100)℃〜Tm℃の範囲内が好ましく、(Tm−50)℃〜(Tm−10)℃の範囲内がより好ましい。
【0052】
冷却部の長さは、スクリュ径Dに対し、4D〜11Dにすることが好ましい。冷却部の長さが4D以上であれば、溶融加熱された樹脂を効果的に冷却して末端COOHの増加を抑制する。一方、冷却部の長さが11D以下であれば、樹脂を冷却し過ぎて固化することを防ぎ、溶融押出しを円滑に行なうことができる。
なお、押出機出口14における樹脂温度ToutがTm+30℃以下となるようにすることが好ましい。ただし、押出機出口14における樹脂温度Toutが低過ぎると溶融樹脂の一部が固化するおそれもあるため、押出機出口14における樹脂温度ToutはTm〜(Tm+25)℃以下とすることがより好ましく、(Tm+10)℃〜(Tm+20)℃とすることがさらに好ましい。
【0053】
シリンダ10の押出機出口14から押し出されたポリエステル樹脂は、フィルタ42を通ってダイ40から(例えばキャスティングドラム等の冷却ロールに)押し出され、シート状に成形されると共に、冷却される。
ダイ40からメルト(溶融樹脂)を押出した後、例えば冷却ロールに接触させるまでの間(エアギャップ)は、湿度を5%RH〜60%RHに調整することが好ましく、15%RH〜50%RHに調整することがより好ましい。エアギャップでの湿度を上記範囲にすることで、フィルム表面のCOOH量やOH量を調節することが可能である。また、低湿度に調節することで、フィルム表面のカルボン酸量を減少させることができる。
【0054】
また、樹脂温度を一度上げてから冷却することで、末端COOH量の増加を抑制すると共に、未溶融異物の発生を抑制することができる。更に、シート状に成形したポリエステル樹脂のヘイズ上昇を抑制する効果が得られる。特に、厚手のシートに成形をする場合は、冷却速度の不足よりヘイズ上昇しやすいが、その場合の上昇が抑えられる。
なお、フィルムの厚みは、2mm〜8mmが好ましく、より好ましくは2.5mm〜7mmであり、さらに好ましくは3mm〜6mmである。厚みを厚くすることで、押出されたメルトがガラス転移温度(Tg)以下に冷却するまでの所要時間を長くすることができる。この間に、フィルム表面のCOOH基はポリエステル内部に拡散され、表面COOH量を低減することができる。
【0055】
本発明においては、ポリエステル原料の末端COOH量と溶融押出しされたシート状のポリエステル樹脂の末端COOH量との差(ΔAV)は、3eq/t以下であることが好ましい。例えば、末端COOH量が25eq/t(トン)以下のポリエステルシートが得られる。末端COOH量が25eq/トン以下であると耐加水分解性に優れ、長期耐久性が得られる。耐加水分解の観点から、末端COOH量は低いことが望ましいが、成形されたシートを被着物に密着させる場合の密着性を高める点からは、押出後のシート状に成形されたポリエステル樹脂のAVの下限値は2eq/トンが好ましく、好ましいAVの範囲は10〜20eq/トンである。
末端COOH量の測定は、既述の方法と同様にして行なうことができる。
なお、「eq/t」は、1トンあたりのモル当量を表す。
【0056】
次に、押出量QをQminからQへ増加させて溶融押出を行なう溶融押出工程について説明する。
【0057】
ベント付二軸押出機により溶融押出を行なう場合、待機運転及び待機運転から所望とする生産運転への切り換えにあたり、待機時には、原料ロスに対する低吐出化、低吐出時の真空ブレイクの防止が重要であり、生産運転に切り換えて原料供給量を増加させるときには、ベントアップの防止が重要になる。本発明においては、従来から通例の量より更に低吐出の状態からY(=Q/N)を所定の範囲で制御することで、待機時の低吐出時には真空ブレイクを防ぐと共に、ベントアップを抑えつつも、待機運転から立ち上げる際の立ち上げ速度が速くなり、リサイクル適正のある品質が安定的に保たれたエステル樹脂が製造される。
【0058】
具体的には、スクリュの1回転あたりの単位押出量Yが下記の関係式(1)〜(2)で表される領域を満たす範囲内において、少なくともシリンダ内のスクリュの回転数を調節することによって行なわれる。
(1)(Y−Yunder)/Q≦(Yover−Yunder)/Q
(2)(Y−a×Yunder)/(Q−Q)≧(Yover−Yunder)/Q
【0059】
Qは、運転時における溶融ポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量[kg/h]を表し、Qは、所望とする生産運転を行なうときの押出量を表す。
【0060】
Nは、スクリュの回転数[rpm]を表す。ここで、Nが、最小回転数Nminを表す場合、NminはQminでの最小回転数を表す。最小回転数Nminは、待機運転時の回転数を示し、Qminは待機運転時の押出量を示す。
【0061】
上記の関係式(1)〜(2)について、図2を参照して説明する。
図2は、縦軸に単位押出量Y(=Q/N;単位:[kg/hr/rpm])をとり、横軸に溶融樹脂の押出量Q(単位:[kg/h])をとった二次元座標軸において、関係線(1)〜(2)で囲まれる領域を示す図である。
【0062】
ポリエステル樹脂の押出量Qは、待機運転時の押出量を生産運転時の押出量に引き上げるとき、待機運転から生産運転に切り換えた後の単位押出量Y(=Q/N)は、前記関係式(1)を満たす範囲で行なう。すなわち、
関係式(1)は、単位押出量Yを、図2中の線分(a)上のY値以下の範囲とすることを表す。Yが、線分(a)上のY値を超える範囲であると、スクリュの1回転あたりの押出量が大きくなり過ぎるので、ベントアップが発生しやすい。
【0063】
本発明では、樹脂粘度や原料樹脂の供給量などを考慮し、回転数Nを調節することで、関係式(1)を満たす範囲に調整することができる。
また、関係式(1)では、Qに対するY(=Q/N)を増加させる方法に特に限定はなく、途中で減少する過程が含まれてもよい。但し、ベントアップの観点から、Y(=Q/N)は単調増加させることが好適である。また、Qを増加する方法も特に限定はなく、途中で減少する過程が含まれてもよい。但し、原料ロスの観点から、Qは単調増加させることが好適である。
【0064】
また、待機運転から生産運転に切り換えた後の単位押出量Y(=Q/N)は、前記関係式(2)を満たす範囲で行なう。すなわち、
関係式(2)は、単位押出量Yを、図2中の線分(b)上のY値以上の範囲とすることを表す。Yが、線分(b)上のY値を下回る範囲であると、スクリュの回転数Nが大き過ぎるため、溶融樹脂によるメルトシール効果が低下し、シリンダ内の真空を保てない状態(真空ブレイク)ができるほか、樹脂が劣化し、残留異物が生じやすくなる。真空ブレイクが生じると、樹脂の品質が低下し、リサイクル適性が悪化する。また、残留異物が増えると、ポリエステル樹脂の耐候性の低下、フィルム特性の低下に繋がる。
【0065】
関係式(2)において、aは、生産運転時の押出量におけるQ/Nの下限を定める数値を表し、待機運転時の真空ブレイクの可能性の有無により決定される値である。Q/Nが小さくなるときには回転数Nが大きい状態にあるため、樹脂は剪断発熱を受けて劣化しやすくIV値が低下し易くなり、結果的にリサイクル性が悪くなる。そのため、Q/Nをある程度高く保つことが有利であり、かかる点よりa値を大きくする方向が望ましい。a値が大きいほど、押出量Qの増加に伴ない、単位押出量Yは高めに推移することになる。そのため、a値が大きいことで、ベントアップを防ぎながら、連続的に押出量を増加させることが可能になり、ベントアップによる樹脂劣化を抑えて、待機運転から生産運転への立ち上げをより迅速に行なえる。また、待機運転時の真空ブレイクも防止され、リサイクル適正も向上する。
aとしては、上記の理由から、a=1.3が好ましく、a=1.5がより好ましい。
図2において、一点鎖線で表される線分(c)はa=1.5であるときの関係線を示し、線分(a)と線分(c)とで囲まれる範囲が好ましい。
【0066】
したがって、本発明においては、待機運転から生産運転に移行するときの押出量を、待機運転時の押出量Qminから生産運転時の押出量Qに増加する場合に、単位押出量Y(=Q/N)が前記関係式(1)〜(2)、すなわち図2中の線分(a)と線分(b)とで挟まれる領域内に収まるように押出量Qを増加させ又は減少させる制御を行なう。これにより、溶融混練時におけるベントアップが効果的に防止され、ベントアップを抑えつつ、立ち上げる際の立ち上げ速度が速められる。すなわち、待機運転からの立ち上げ時間の短縮が可能になる。また、待機運転時の押出量を従来よりも低減することが可能になり、押出量を少なく抑えた待機運転中の真空ブレイクも防止される。したがって、製造されるポリエステル樹脂において、リサイクル適正のある品質が安定的に保たれる。
【0067】
二軸押出機を待機運転から生産運転に切り換える際に押出量をQminからQへ増加する場合、Yで表されるQ/Nを連続的に変化させることが好ましい。Q/Nを連続的に変化させることにより、より迅速に生産運転時の押出量Qまで押出量を上げることが可能であり、待機運転から生産運転への切り替え時間をより短縮できる。
このとき、Q/Nが一定となる時間は、5秒以内が好ましい。
【0068】
本発明においては、単位押出量Yのうち、待機運転時におけるQminでのYminに対する、生産運転時におけるQでのYの比率としては、下記の関係式(3)を満たす範囲とすることが好ましい。
1.3≦Y/Ymin≦6.0 ・・・(3)
前記関係式(3)において、Yminは、待機運転時におけるQmin/Nminを表す。Nminは、待機運転時の押出量Qminでの最小回転数を表す。
【0069】
すなわち、生産運転時の単位押出量Q/Nが、待機運転時の単位押出量Qmin/Nminに対して、1.3倍〜6.0倍の範囲にあることが好ましい。
/Ymin比が1.3以上であることで、待機運転時におけるベントアップを防ぐことができる。また、Y/Ymin比が6.0以下であると、待機運転時における発熱過多が抑えられ、樹脂の劣化を防止することができる。また、待機運転中での溶融樹脂によるメルトシールを保つことができ、待機運転時の真空ブレイクを防ぐことができる。
したがって、Y/Yminを上記範囲にすることで、待機運転時も樹脂の品質を維持でき、リサイクル適性に優れたポリエステル樹脂が得られる。
【0070】
前記Y/Yminの比としては、上記と同様の理由から、1.3≦Y/Ymin≦4.6の範囲がより好ましく、1.3≦Y/Ymin≦2.5の範囲が更に好ましい。
【0071】
また、待機運転時の押出量Qminに対する、生産運転時の単位押出量Qの比率としては、下記の関係式(4)を満たす範囲とすることが好ましい。
3.3≦Q/Qmin≦12.0 ・・・(4)
【0072】
すなわち、生産運転時の押出量Qが、待機運転時の押出量Qminに対して、3.3倍〜12.0倍の範囲にあることが好ましい。
/Qmin比が3.3以上であることで、待機運転時の押出量が少なく抑えられ、原料ロスを軽減することができる。また、Q/Qmin比が12.0以下であると、待機運転時の真空ブレイクを防ぐことができる。
したがって、Q/Qminを上記範囲にすることで、原料ロスを少なく抑えることができ、またリサイクル適性に優れたポリエステル樹脂が得られる。
【0073】
前記Q/Qminの比としては、上記と同様の理由から、3.3≦Q/Qmin≦7.5がより好ましく、3.3≦Q/Qmin≦5.0の範囲が更に好ましい。
【0074】
上記の関係式(1)〜(2)で表される領域は、例えば、シリンダに取り付けられたホッパーやフィーダ等の原料供給部からの原料の供給量、シリンダ内に配置されたスクリュの回転数、シリンダの押出先端に取り付けられたギアポンプの圧力制御などを調節し、シリンダ先端の圧力を一定に保ちながら押出量の増加を実現することにより達成される。具体的には、図1に示すように、シリンダ10内のスクリュ20A,20Bの回転数を調節することにより行なえる。回転数の調節は、例えば図1に示すように、スクリュに接続されたモータ及びギアを含む駆動手段21で行なうことができる。駆動手段21には、これに信号を出して制御するための制御手段(不図示)が電気的に接続されている。
【0075】
−ポリエステル原料樹脂−
次に、ポリエステル樹脂の製造に用いるポリエステル原料樹脂(以下、単に原料樹脂ともいう。)について説明する。
【0076】
(ポリエステル原料樹脂)
ポリエステル原料樹脂は、ポリエステルフィルムの原料となり、ポリエステルを含んでいる材料であれば、特に制限されず、ポリエステルのほかに、無機粒子や有機粒子のスラリーを含んでいてもよい。また、ポリエステル原料樹脂は、触媒由来のチタン元素を含んでいてもよい。
ポリエステル原料樹脂に含まれるポリエステルの種類は、特に制限されるものではなく、例えばジカルボン酸成分とジオール成分とを用いて合成されたものでもよいし、市販のポリエステルを用いてもよい。
【0077】
原料樹脂としては、極限粘度(IV)が0.7〜0.9であるポリエステル樹脂が好ましい。
原料樹脂のIVが0.7以上であることで、原料の末端COOHも少なく抑えられ、フィルム品質を良好に維持することができる。また、IVが0.9以下であると、末端COOHの増加が少なく、フィルム品質が良好である。原料樹脂のIVは、好ましくは0.70〜0.85であり、より好ましくは0.70〜0.80である。
【0078】
原料樹脂のIVは、重合方式及び重合条件によって調整することができる。例えば、液相重合の後に固相重合を行なうことによって極限粘度を上記範囲に調整することができる。
【0079】
原料樹脂の末端COOH量(AV)は、25eq/t(当量/トン)以下であることが好ましく、15eq/t以下がより好ましい。また、例えば被着物との間の密着性を得る観点から、原料樹脂の末端COOH量は2eq/t以上であることが望ましい。
末端COOH量は、以下の方法により測定される値である。すなわち、
原料樹脂0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解後、さらにクロロホルムを加えて混合溶液を得、これにフェノールレッド指示薬を滴下する。この溶液を、基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定し、滴下量から末端カルボキシル基量を求める。
なお、「eq/t」は、1トンあたりのモル当量を表す。
また、複数種の樹脂を混合して用いる場合は、原料樹脂の末端COOH量は混合状態での量を表す。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)として、そのペレットの1種又は2種以上やPETフィルムの粉砕屑であるチップ材などを混合する場合、ペレットの末端COOH量の総量、又はペレットの末端COOH量とチップの末端COOH量との合計量である。
【0080】
原料樹脂の融点(Tm)は、250℃〜260℃の範囲であることが好ましい。Tmは示差走査熱量測定により求められる値である。複数の樹脂を混合するときは、融点の平均値が上記範囲内にあることが好ましい。
【0081】
原料樹脂の嵩比重は、0.6〜0.8の範囲が好ましい。嵩比重が0.6以上であると、押出しをより安定的に行なうことができ、比重が0.8以下であると、局所的な発熱を効果的に抑制することができる。
原料樹脂の嵩比重とは、粉末を一定容積の容器の中に一定状態で入れる等して、所定形状にした粉末の質量を、そのときの体積で除算して求められる比重(単位体積あたりの質量)をいい、嵩比重が小さいほど嵩張る。
上記の中でも、押出時の発熱の抑制により末端COOHの増加をより抑える点で、原料樹脂の嵩比重は0.7〜0.75の範囲が特に好ましい。
【0082】
原料樹脂を構成するポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸又はそのエステル誘導体とジオール化合物とを、公知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
前記ジカルボン酸又はそのエステル誘導体としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸又はそのエステル誘導体が挙げられる。
【0083】
前記ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等が挙げられる。
【0084】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン系化合物、コバルト系化合物、アルミニウム系化合物、アンチモン系化合物、チタン系化合物、リン系化合物などが挙げられる。通常は、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン系化合物、ゲルマニウム系化合物、チタン系化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム系化合物を例に挙げると、ゲルマニウム系化合物の粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0085】
好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、より好ましくはPETである。PETは、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるものが好ましく、より好ましくはTi系触媒である。
【0086】
前記Ti系触媒は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にPETが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能である。本発明においては、ポリエステルフィルムの末端COOH量を30eq/トン以下の範囲に調整するのに好適である。
【0087】
Ti系触媒を用いた重合により得たTi触媒系PETの製造には、例えば、特開2005−340616号公報、特開2005−239940号公報、特開2004−319444号公報、特許3436268号公報、特許3979866号公報、特許3780137号、特開2007−204538号公報等に記載の重合方法を用いることができる。
【0088】
Ti系触媒としてチタン系化合物を用いる場合、チタン系化合物の使用量としては、チタン元素換算値で1ppm以上30ppm以下、より好ましくは2ppm以上20ppm以下、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で用い、重合を行なうことが好ましい。この場合、ポリエステルフィルムは、好ましくは1ppm以上30ppm以下のチタンが含まれる。
チタン系化合物の量は、1ppm以上であると好ましいIVが得られ、30ppm以下であると、末端COOHを低く抑えることができ、耐加水分解性の向上に有利である。
【0089】
また、原料樹脂は、樹脂フィルムの粉砕片を混合して調製されるのが好ましい。
前記樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルムが好適であり、原料樹脂中のポリエステル樹脂と同種のポリエステルのフィルムが好ましい。樹脂フィルムの粉砕片は、例えば不要となったフィルムを粉砕して小片(いわゆるチップ)や屑片等にした粉砕物であり、嵩高さを与え、嵩比重を例えばペレットのみの場合よりも低下させることができる。
【0090】
この粉砕片のサイズとしては、嵩変化が与えられる範囲であれば制限はないが、厚みが20〜5000μmであるものが好ましい。中でも、嵩比重が大きくなり過ぎて充満率が低下しすぎないようにし、溶融不足を回避する観点から、100〜1000μmの範囲、更には100〜500μmの範囲がより好ましい。
【0091】
また、製膜されるポリエステルフィルムの末端COOH量をより低減する点で、粉砕片のサイズのバラツキは小さい方が好ましく、例えば粉砕片の厚みでは、バラツキが±100%以内であることが好ましく、より好ましくは±50%以内であり、更には±10%以内である。粉砕片を用いる場合、厚みなどのサイズのバラツキを小さく抑えることで、得られるポリエステルフィルムの末端COOH量の変動を低く抑えることができる。
【0092】
粉砕片の原料樹脂中における質量比率としては、原料樹脂の全質量に対して、50質量%以下であるのが好ましく、その質量比率の下限値は10質量%が望ましい。粉砕片の割合を50質量%以下にすることで、得られるポリエステルフィルムの末端COOH量の変動幅をより低く抑えることができる。中でも、同様の理由から、粉砕片の質量比率は10〜30質量%がより好ましく、20〜30質量%が特に好ましい。
【0093】
粉砕片の嵩比重としては、原料樹脂の嵩比重が前記範囲を満たす範囲において、0.3〜0.7の範囲であることが好ましい。嵩比重は、既述の原料樹脂の嵩比重と同義であり、既述の方法と同様にして測定される。
【0094】
本発明におけるポリエステル樹脂は、光安定化剤、酸化防止剤などの添加剤を更に含有することができる。
【0095】
光安定化剤を含有すると、紫外線劣化を防ぐことができる。光安定化剤とは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物、樹脂が光吸収して分解して発生したラジカルを捕捉し、分解連鎖反応を抑制する材料などが挙げられる。光安定化剤として好ましくは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物である。このような光安定化剤を含有することで、長期間継続的に紫外線の照射を受けても、部分放電電圧の向上効果を長期間高く保つことが可能になったり、樹脂中の紫外線による色調変化、強度劣化等が防止される。
【0096】
例えば紫外線吸収剤は、ポリエステルの他の特性が損なわれない範囲であれば、有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤、及びこれらの併用のいずれも、特に限定されることなく好適に用いることができる。一方、紫外線吸収剤は、耐湿熱性に優れ、樹脂中に均一分散できることが望まれる。
【0097】
紫外線吸収剤の例としては、有機系の紫外線吸収剤として、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系等の紫外線安定剤などが挙げられる。具体的には、例えば、サリチル酸系のp−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、ベンゾフェノン系の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン、ベンゾトリアゾール系の2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、シアノアクリレート系のエチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート)、トリアジン系として2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、ヒンダードアミン系のビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、そのほかに、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、及び2,4−ジ・t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ・t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、などが挙げられる。
これらの紫外線吸収剤のうち、繰り返し紫外線吸収に対する耐性が高いという点で、トリアジン系紫外線吸収剤がより好ましい。なお、これらの紫外線吸収剤は、上述の紫外線吸収剤単体でフィルムに添加してもよいし、有機系導電性材料や、非水溶性樹脂に紫外線吸収剤能を有するモノマーを共重合させた形態で導入してもよい。
【0098】
光安定化剤のポリエステルフィルム中における含有量は、ポリエステルフィルムの全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上7質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以上4質量%以下である。これにより、長期経時での光劣化によるポリエステルの分子量低下を抑止でき、その結果発生するフィルム内の凝集破壊に起因する密着力低下を抑止できる。
【0099】
更に、本発明のポリエステルフィルムは、前記光安定化剤の他にも、例えば、易滑剤(微粒子)、紫外線吸収剤、着色剤、核剤(結晶化剤)、難燃化剤などを添加剤として含有することができる。
【0100】
<太陽電池用保護シート>
本発明の太陽電池用保護シートは、既述の本発明のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステル樹脂、更にはこれをシート状に成形した未延伸のポリエステルシートを縦延伸及び/又は横延伸して得られたポリエステルフィルムを備えている。
【0101】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステル樹脂が用いられるので、延伸を経て得られたポリエステルフィルム(太陽電池用保護シート)は、安定的に良好な品質を有しており、したがって所望とする耐加水分解性をそなえ、ひいては耐候性に優れている。
【0102】
縦延伸は、例えば、未延伸ポリエステルシートを挟む1対のニップロールにフィルムを通して、フィルムの長手方向(MD方向)にフィルムを搬送しながら、フィルムの搬送方向に並べた2対以上のニップロール間で緊張を与えることにより行なうことができる。縦延伸工程において、縦延伸倍率は2〜5倍が好ましく、2.5〜4.5倍がより好ましく、2.8〜4倍がさらに好ましい。
【0103】
また、横延伸は、予熱されたポリエステルを長手方向(MD方向)と直交する幅方向(TD方向)に緊張を与えて行なうことができる。
【0104】
延伸後のポリエステルフィルムには、更に、縦延伸及び横延伸が施された後のポリエステルを加熱して結晶化させることで熱固定する熱固定工程や、熱固定工程で固定されたポリエステルフィルムを加熱し、ポリエステルフィルムの緊張を緩和し、残留歪みを除去する熱緩和工程が設けられてもよい。
【0105】
本発明のポリエステルシートは、所望の延伸処理を施した後、電池側基板との接着性を高める易接着性層、紫外線吸収層、白色顔料等を含んで光反射性に構成された反射層等の白色層(着色層)などの機能性層を少なくとも1層設けることで、太陽電池用保護シートを構成することができる。例えば、1軸延伸後及び/又は2軸延伸後のポリエステルフィルムに機能性層を塗布形成してもよい。塗布形成には、ロールコート法、ナイフエッジコート法、グラビアコート法、カーテンコート法等の公知の塗布技術を用いることができる。
また、これらの塗設前に表面処理(火炎処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等)を実施してもよい。さらに、粘着剤を用いて貼り合わせることも好ましい。
【0106】
<太陽電池モジュール>
太陽電池モジュールは、一般に、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子を、太陽光が入射する透明性の基板と既述の本発明のポリエステルフィルム(太陽電池用バックシート)との間に配置して構成されている。具体的な実施態様として、電気を取り出すリード配線(不図示)で接続された発電素子(太陽電池素子)をエチレン・酢酸ビニル共重合体系(EVA系)樹脂等の封止剤で封止し、これを、ガラス等の透明基板と、本発明のポリエステルフィルム(バックシート)との間に挟んで互いに張り合わせることによって構成される態様であってもよい。
【0107】
太陽電池素子の例としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。基板とポリエステルフィルムとの間は、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂(いわゆる封止材)で封止して構成することができる。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0109】
(実施例1〜5、比較例1〜4)
−二軸押出機−
溶融押出機として、図1に示すように、2箇所にベントが設けられたシリンダ内に下記構成のスクリュを備え、シリンダの周囲に樹脂の押出方向に9つのゾーン(C1〜C9)に分割して温度制御を行なうことができるヒータ30を備えたベント付二軸押出機100を準備した。この二軸押出機の詳細を以下に示す。
<二軸押出機>
・ダブルベント式同方向回転噛合型二軸押出機
・長さL[mm]/スクリュ径D[mm]:31.5(シリンダ1ゾーンが3.5D)
・サイズ:180mm
・吐出量:3000kg/h
・スクリュ回転数:60rpm
・バレル温度−C1:70℃,C2:270℃,C3:270℃,C4:270℃,C5:270℃,C6:270℃,C7:270℃,C8:270℃,C9:250℃
・スクリュ形状:第1ベント直前にニュートラルニーディング2D、逆スクリュ1D
第2ベント直前にニュートラルニーディング2D
【0110】
ベント付二軸押出機100の樹脂の押出方向には、図1に示すように、金属繊維フィルタ42及びダイ40が接続されており、さらにスクリュと金属繊維フィルタとの間には、図示しないギアポンプが備えられている。ダイを加熱するヒータの設定温度は280℃であり、平均滞留時間は10分とした。
・ギアポンプ:2ギアタイプ
・フィルタ:金属繊維焼結フィルタ(孔径20μm)
・ダイ:リップ間隔4mm
【0111】
−原料−
原料樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(融点Tm:257℃、極限粘度IV:0.78、末端COOH量:10当量/t、ヘンシェルミキサーにて160℃で結晶化)のペレット(以下、PETペレットという。)を用いた。
PETペレットには、平均長径:4.5mm、平均短径:1.8mm、平均長さ:4.0mmのサイズのものを用いた。
【0112】
−溶融押出−
準備したベント付二軸押出機を用い、供給口12から原料樹脂を供給して加熱溶融して溶融混練を行なうと共に、下記表1に示す条件にて溶融押出を行なった(溶融押出工程)。ここで、下記表1に示される実施例及び比較例の各々における、Q、N、及びQ/Nの値、及び押出量Qと単位押出量Y(=Q/N)の関係を、図3〜図11に示す。
【0113】
押出機出口から押出されたメルト(溶融樹脂)は、ギアポンプ、金属繊維フィルタ(孔径20μm)を通した後、ダイから冷却ロール(キャスティングドラム)に押出され、静電印加法を用いて冷却ロールに密着させた。冷却ロールに密着することで、メルトをシート状に成形すると共に冷却した。冷却ロールには中空のチルロールを用いた。このチルロールは、内部に熱媒として水を通して温調できるようになっている。
なお、ダイ出口から冷却ロールまでの搬送域(エアギャップ)は、この搬送域を囲い、この中に調湿空気を導入することにより、湿度を30%RHに調節してある。二軸押出機の押出量及びダイのスリット幅の調整により、メルト厚みを3000μmとした。
以上のようにして、未延伸のPETシートを得た。
【0114】
−評価−
(1)ベントアップ
溶融押出工程で溶融押出している過程でのベントアップの有無を目視により観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。評価結果を下記表1に示す。
<評価基準>
○:ベントアップは認められなかった。
△:ベントアップが認められた。
×:ベントアップが著しく発生した。
【0115】
(2)リサイクル性
二軸押出機から押出されたポリエステル樹脂のIV値を測定し、下記の評価基準にしたがって評価した。評価結果を下記表1に示す。なお、IV値は、1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒中の30℃での溶液粘度から求めた。なお、IVドロップは、原料樹脂のIVから押出されたポリエステル樹脂のIV値を減算した差(ΔIV)を示す。
<評価基準>
◎:IVドロップの値が0.07以下の範囲であり、リサイクル性が良好であった。
○:IVドロップの値が0.07より大きく、1.50以下の範囲であり、リサイクルが可能な品質が得られていた。
×:IVドロップの値が1.50より大きい範囲であり、品質が悪く、リサイクル適性に適合しないものであった。
【0116】
(3)真空ブレイク
二軸押出機のベントで真空度を測定し、真空ブレイクの有無を確認して、下記の評価基準にしたがって評価した。評価結果を下記表1に示す。
<評価基準>
○:真空度が0.8kPa以下であり、真空状態が保持されていた。
×:真空度が0.8kPaより大きく、真空状態が保持されなかった。
【0117】
【表1】



【0118】
前記表1に示すように、実施例では、ベントアップが防止されており、製造されたポリエステル樹脂は、品質上安定したものであった。これに対し、比較例では、ベントアップが防げないか、あるいはベントアップが抑えられても、真空ブレイク等の影響で品質の安定したポリエステル樹脂が得られなかった。
【符号の説明】
【0119】
10・・・シリンダ
12・・・供給口
14・・・押出機出口
16A,16B・・・ベント
20A,20B・・・スクリュ
22・・・フライト
30・・・温度制御手段
40・・・ダイ
42・・・フィルタ
100・・・二軸押出機
C1〜C9・・・加熱/冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸押出機に投入されたポリエステル原料樹脂をシリンダ内で溶融混練すると共に、溶融されたポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量Qを、単位押出量Y[kg/hr/rpm]と押出量Q[kg/h]との関係から、単位押出量Yが下記関係式(1)〜(2)で表される領域を満たす範囲で少なくとも前記シリンダ内のスクリュの回転数を調節し、QminからQへ増加させて溶融押出を行なう溶融押出工程を有するポリエステル樹脂の製造方法。
(1)(Y−Yunder)/Q≦(Yover−Yunder)/Q
(2)(Y−a×Yunder)/(Q−Q)≧(Yover−Yunder)/Q
〔式中、Yは、スクリュの1回転あたりの単位押出量Q/N[kg/hr/rpm]を表し、Yunder及びYoverは、Yunder[kg/hr/rpm]=3.4×10−6×D、Yover[kg/hr/rpm]=6.6×10−6×Dである。Dは、スクリュ径[mm]を表す。Qは、運転時における溶融ポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量[kg/h]を表し、Qは、生産運転時の押出量を表し、Qminは、待機運転時の押出量を表す。Nは、スクリュの回転数[rpm]を表す。但し、aは、生産運転時の押出量におけるQ/Nの下限を定める数値を表す。〕
【請求項2】
単位押出量Yは、QminでのYminに対する、QでのYの比率が下記の関係式(3)を満たす請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
1.3≦Y/Ymin≦6.0 ・・・(3)
〔Yminは、待機運転時におけるQmin/Nminを表す。Nminは、Qminでの最小回転数を表す。〕
【請求項3】
minに対するQの比率が、下記の関係式(4)を満たす請求項1又は請求項2に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
3.3≦Q/Qmin≦12.0 ・・・(4)
【請求項4】
前記溶融押出は、Yを連続的に変化させながら行なう請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
単位押出量YのQminでのYminに対する、QでのYの比率は、下記の関係式(5)を満たす請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
1.3≦Y/Ymin≦4.6 ・・・(5)
【請求項6】
minに対するQの比率が、下記の関係式(6)を満たす請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
3.3≦Q/Qmin≦7.5 ・・・(6)
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステル樹脂を延伸して得られたポリエステルフィルムを有する太陽電池用保護シート。
【請求項8】
太陽光が入射する透明性の基板と、前記基板の一方の側に配された太陽電池素子と、該太陽電池素子の前記基板が配された側と反対側に配された請求項7に記載の太陽電池用保護シートと、を備えた太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−52508(P2013−52508A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189988(P2011−189988)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】