説明

ポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体

【課題】
硬化物の耐熱性が高く、環境に与える負荷の低いポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体を提供すること。
【解決手段】
本発明のポリオルガノシロキサン組成物は、(A)1分子中の少なくとも一方の末端がシラノール変性したポリオルガノシロキサンと、(B)上記ポリオルガノシロキサンを架橋する架橋剤であって、上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.3〜3モルのシリコンアルコキシドと、(C)上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.05〜2モルのヒドロキシアセトンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリオルガノシロキサン組成物は、硬化した際に優れた耐候性および耐久性を発揮するので、接着剤やシーリング材に用いられている。近年では、ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物は、より過酷な環境下に晒される傾向にある。例えば、自動車のエンジンの周囲に当該硬化物が使用される場合には、当該硬化物に対して優れた耐油性と耐LLC性(耐水性)が要求される。かかる要求に応えることを目的に開発されたポリオルガノシロキサン組成物として、例えば、ポリマー末端及び側鎖にそれぞれ1つ以上のオルガノオキシシリル基を有するオルガノポリシロキサン及び/又はポリマーの側鎖だけに2つ以上のオルガノオキシシリル基を有するオルガノポリシロキサンに、煙霧状シリカ、特定のオルガノオキシシラン又はその部分加水分解縮合物および縮合触媒を加えたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物は、建築用外装材としても優れており、近年多用されているアクリル樹脂電着塗装アルミ材、フッ素樹脂塗装アルミ材に対して、より高い接着性能が要求されている。かかる高接着性能を目的に開発されたポリオルガノシロキサン組成物としては、ジオルガノポリシロキサンに、1分子中に少なくとも3個の加水分解可能な基を有する有機ケイ素化合物と、融点又は軟化点が100℃以上の処理剤又はCn2n+1COOH(nは20以上)で示される飽和脂肪酸よりなる処理剤によって炭酸カルシウムに対して2.5重量%以下の量で処理された炭酸カルシウムを含有するものが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−183504号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平09−227780号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のポリオルガノシロキサン組成物の硬化物には、次のような問題がある。特許文献1〜2に開示されたポリオルガノシロキサン組成物は、チタンキレート触媒、錫触媒を含む。このため、当該組成物の硬化物は、150℃以上の高温における耐熱性が低く、さらには、錫を使用することにより環境に有害な影響を与える可能性が高い。
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであって、硬化物の耐熱性が高く、環境に与える負荷の低いポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、チタンキレート触媒、錫を用いず、ヒドロキシアセトンあるいはDL−リンゴ酸ジ−nーブチルを用いることにより、硬化物の高い耐熱性を実現でき、かつ環境に与える負荷の低いポリオルガノシロキサン組成物を製造することに成功した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(A)1分子中の少なくとも一方の末端がシラノール変性したポリオルガノシロキサンと、
(B)上記ポリオルガノシロキサンを架橋する架橋剤であって、上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.3〜3モルのシリコンアルコキシドと、
(C)上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.05〜2モルのヒドロキシアセトンを含むポリオルガノシロキサン組成物である。
【0009】
また、本発明は、
(A)1分子中の少なくとも一方の末端がシラノール変性したポリオルガノシロキサンと、
(B)上記ポリオルガノシロキサンを架橋する架橋剤であって、上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.3〜3モルのシリコンアルコキシドと、
(D)上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.2〜2モルのDL−リンゴ酸ジ−n−ブチルと、
を含むポリオルガノシロキサン組成物である。
【0010】
また、本発明のポリオルガノシロキサン組成物は、さらに、その質量平均分子量(Mw)を4000以上としたものである。
【0011】
また、本発明は、上述のポリオルガノシロキサン組成物を硬化したポリオルガノシロキサン組成物硬化体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硬化物の耐熱性が高く、かつ環境に与える負荷の低いポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、各硬化体の焼成直前のMwの値と該硬化体の弾性率との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、各硬化体の焼成直前のMwの値と該硬化体の破断点強度との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、各硬化体の焼成直前のMwの値と該硬化体の破断点伸びとの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、各硬化体を恒温槽に入れてからの経過時間と重量減少との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、各試験片の加熱温度と重量減少との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、各試験片を水蒸気存在下において90℃で120時間保持したときの重量減少を示す棒グラフである。
【図7】図7は、各試験片を水蒸気存在下において120℃で182時間保持したときの重量減少を示す棒グラフである。
【図8】図8は、PDMS−TMOS−HA系硬化体の引張強度の評価結果を示すグラフである。
【図9】図9は、PDMS−TEOS−MADb系硬化体の引張強度の評価結果を示すグラフである。
【図10】図10は、PDMS−TMOS−HA系硬化体の各種試験片を恒温槽に入れてからの経過時間と重量減少との関係を示すグラフである。
【図11】図11は、PDMS−TEOS−MADb系硬化体の各種試験片を恒温槽に入れてからの経過時間と重量減少との関係を示すグラフである。
【図12】図12は、PDMS−TMOS−HA系硬化体およびPDMS−TEOS−HA系硬化体の各種試験片の加熱温度と重量減少との関係を示すグラフである。
【図13】図13は、PDMS−TEOS−MADb系硬化体およびPDMS−TEOS−HA系硬化体の各種試験片の加熱温度と重量減少との関係を示すグラフである。
【図14】図14は、PDMS−TMOS−HA系硬化体およびPDMS−TEOS−HA系硬化体の各種試験片を90℃−120時間、高温高湿下に晒した前後の重量変化を示すグラフである。
【図15】図15は、Mw=23000および46000の2種類のPDMS−TEOS−MADb系硬化体の試験片を90℃−120時間、高温高湿下に晒した前後の重量変化を示すグラフである。
【図16】図16は、実施例4にて得られたPDMS−TEOS-MADb系硬化体の引張り強度の評価結果を示すグラフである。
【図17】図17は、実施例5,6にて得られたPDMS−TMOS-MADb系硬化体の引張り強度の評価結果を示すグラフである。
【図18】図18は、実施例4〜6にて得られた各種試験片の加熱温度と重量減少との関係を示すグラフである。
【図19】図19は、実施例4〜6にて得られた各種試験片を90℃ー120時間高温高湿下に晒した前後の重量変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明のポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
この実施の形態に係るポリオルガノシロキサン組成物は、
(A)1分子中の少なくとも一方の末端がシラノール変性したポリオルガノシロキサンと、
(B)上記ポリオルガノシロキサンを架橋する架橋剤であって、上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.3〜3モルのシリコンアルコキシドと、
(C)上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.05〜2モルのヒドロキシアセトンを含む。
また、この実施の形態に係るポリオルガノシロキサン組成物は、上記(A)および(B)に加えて、
(D)上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.2〜2モルのDL−リンゴ酸ジ−n−ブチルを含む。
上記各ポリオルガノシロキサン組成物の質量平均分子量(Mw)は4000以上であるのが好ましい。
さらに、この実施の形態に係るポリオルガノシロキサン組成物硬化体は、上述のポリオルガノシロキサン組成物を硬化したものである。以下、上記(A)、(B)、(C)および(D)について説明する。
【0016】
(A)末端シラノール変性ポリオルガノシロキサン
この実施の形態で使用可能な末端シラノール変性ポリオルガノシロキサンは、次の一般式(1)で表わされる。この式中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜20の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数4〜10のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール若しくはアリール置換炭化水素基である。上記炭素数1〜20の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどの各官能基を好適な例としてあげることができる。また、炭素数4〜10のシクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシルなどの各官能基を好適な例としてあげることができる。さらに、炭素数6〜10のアリール基若しくはアリール置換炭化水素基としては、フェニル、トルイル、キシリル、エチルフェニル、ベンジル、フェネチルなどの各官能基を好適な例としてあげることができる。特に好ましい末端シラノール変性ポリオルガノシロキサンは、両末端シラノール変性ポリジメチルシロキサンである。
【0017】
【化1】

【0018】
末端シラノール変性ポリオルガノシロキサンの23℃における粘度は、10〜100,000mPa・s、好ましくは20〜50,000mPa・s、さらに好ましくは30〜10,000mPa・sである。
【0019】
(B)シリコンアルコキシド
シリコンアルコキシドとしては、炭素数1〜4の低級アルキル基を有するトリまたはテトラアルコキシシランが挙げられる。これらの具体例としては、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。また、これらのオリゴマーも使用することが出来る。シリコンアルコキシドの特に好ましい例は、テトラメトキシシランあるいはテトラエトキシシランである。
【0020】
シリコンアルコキシドは、1モルのポリオルガノシロキサンに対して、0.3〜3モルの範囲で組成物中に含まれるのが好ましい。シリコンアルコキシドは、ポリオルガノシロキサンの分子を架橋する架橋剤として機能する。このため、シリコンアルコキシドが少なすぎるとポリオルガノシロキサンの架橋が不十分となり、多すぎると、硬化の初期に、両末端がアルコキシドによって変性したポリオルガノシロキサンが余剰に存在し、硬化反応が遅く、あるいは硬くかつ脆くなる傾向がある。シリコンアルコキシドは、1モルのポリオルガノシロキサンと同モル存在するのが、より好ましい。
【0021】
(C)ヒドロキシアセトン
ヒドロキシアセトン(CH3COCH2OH)は、1モルのポリオルガノシロキサンに対して0.05〜2モルの範囲で組成物中に含まれるのが好ましい。ヒドロキシアセトンが少なすぎるとポリオルガノシロキサンの架橋が不十分となり、多すぎても硬化の阻害となる傾向がある。ヒドロキシアセトンは、1モルのポリオルガノシロキサンに対して、0.5モル存在するのが、より好ましい。
【0022】
(D)DL−リンゴ酸ジ−n−ブチル
DL−リンゴ酸ジ−n−ブチル(CH3(CH2)3OOCCH2CH(OH)COO(CH2)3CH3)は、1モルのポリオルガノシロキサンに対して0.2〜2モルの範囲で組成物中に含まれるのが好ましい。DL−リンゴ酸ジ−n−ブチルが少なすぎるとポリオルガノシロキサンの架橋が不十分になり、多すぎても硬化の阻害となる傾向がある。DL−リンゴ酸ジ−n−ブチルは、1モルのポリオルガノシロキサンに対して0.5モル存在するのが、より好ましい。
【0023】
次に、ポリオルガノシロキサンと、シリコンアルコキシドと、ヒドロキシアセトンあるいはDL−リンゴ酸ジ−n−ブチルとを含むポリオルガノシロキサン組成物の好適な特性について説明する。
【0024】
ポリオルガノシロキサン組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCという)により測定され、かつ標準ポリスチレンの検量線を使用して換算された質量平均分子量(Mw)が4000以上であるのが好ましい。ここでは、Mwは、その千未満の数値を四捨五入した値を信頼性の高い値としている。Mwが4000以上のポリオルガノシロキサン組成物を硬化させると、耐熱性と強度に優れた硬化物が得られやすい。また、Mwが5000以上になると、特に、錫系触媒を用いた硬化体と比較して耐熱性に優れた硬化体が得られる。さらに、Mwが8000以上のポリオルガノシロキサン組成物を硬化させると、耐熱性の更なる向上を図ることができる。なお、Mwが100000以上になると、粘度が高すぎてあるいは固化してくるため、取り扱いが難しくなる。したがって、Mwは、4000〜100000の範囲が好ましい。ここで、分子量Mの分子がN個存在する場合において、Mwとは、質量分率による分子量の平均値((M・Nの総和)/(M・Nの総和))をいい、Mnとは、全質量を分子数で除した値((M・Nの総和)/(Nの総和))をいう。また、Mw/Mnは、分子量分布指数といい、分子量分布の広がりの目安となる値である。
【0025】
質量平均分子量(Mw)および分子量分布指数(Mw/Mn)は、ポリオルガノシロキサン組成物の温度および/またはその温度に保持する時間に依存して変化させることができる。温度が高いほど、あるいはある温度に保持する時間が長いほど、Mw、Mw/Mnが大きくなる傾向がある。
【0026】
次に、ポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体の製造方法について説明する。
【0027】
末端シラノール変性ポリオルガノシロキサンと、シリコンアルコキシドと、ヒドロキシアセトンあるいはDL−リンゴ酸ジ−n−ブチルとを所定モル比で容器内に投入して、50〜150℃の範囲内の所定温度にて撹拌する。撹拌の雰囲気は、密閉雰囲気あるいは開放雰囲気のいずれかを選択することができる。また、開放雰囲気にて撹拌を行う場合には、窒素ガスあるいはアルゴンガス(特に、乾燥した気体が好ましい)等を流して行うのが好ましい。温度と撹拌時間を調整し、撹拌途中でサンプリングした試料のMwおよびMnの両値を測定することにより、所望のポリオルガノシロキサン組成物を室温〜200℃の範囲の温度で、必要に応じて水が存在する環境下において焼成することにより、所望のポリオルガノシロキサン組成物硬化体を得ることができる。焼成温度は室温〜180℃の範囲がより好ましい。湿度は飽和水蒸気がより好ましい。ここで、室温とは、20〜35℃の範囲内の温度をいう。
【0028】
例えば、焼成により硬化体を作製する場合には、100〜200℃、より好ましくは120〜180℃、さらに好ましくは140〜160℃にて焼成する条件を用いることができる。当該温度にて保持する時間は、3〜30時間、好ましくは5〜24時間、より好ましくは7〜15時間である。保持時間は、焼成温度により長くあるいは短くするのが好ましく、通常、焼成温度が低いほど長時間保持し、焼成温度が高いほど短時間の保持で十分である。また、室温により硬化体を作製する場合には、温度20〜35℃において湿度40〜100%R.H.で24〜336時間(1〜14日)静置するか、あるいは先に説明した焼成条件にて焼成を行った上で、温度20〜35℃において湿度40〜100%R.H.で24〜336時間(1〜14日)静置するような各条件を用いることができる。
【実施例】
【0029】
1.MwおよびMnの調製実験
<実施例1>
窒素ガスを流した状態のグローブボックス内にて、蓋付きガラス容器(容器:200ml)中に、30℃における粘度が34mPa・sの両末端シラノール変性ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane: PDMS)50g、架橋剤としてテトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane: TEOS)10.42g、およびヒドロキシアセトン(Hydroxyacetone:
HA)1.85g、更に撹拌子を入れて、蓋を閉めた。ガラス容器内の内容物のモル比(PDMS:TEOS:HA)は、1:1:0.5であった。この内容物を、「試料1」とした。またヒドロキシアセトンの代わりにDL−リンゴ酸ジ−n−ブチル(DL−Malic Acid Dibutyl Ester:MADb)6.158gを用いた試料も作製した。この内容物を「試料2」とした。粘度の測定には、粘度測定装置(東機産業株式会社製、VISCOMETER RE-85)を用いた。以後、特筆しない限り、粘度は上記と同じ装置を用いて測定した。
【0030】
次に、グローブボックス外に蓋を閉めた状態のガラス容器を取り出し、マグネチックスターラー上に載せ、一定温度(80℃)の下で該ガラス容器内の内容物を撹拌した。撹拌時の回転速度は、450〜550rpmとした。撹拌子の速度測定には、SATO SHOUJI製のTacko Meter 8000を用いた。「試料1」は撹拌開始から、0時間経過後(撹拌直後)、24時間経過後、48時間経過後、72時間経過後、96時間経過後および139時間経過後にそれぞれサンプリングし、各サンプルのMwおよびMnを測定した。「試料2」は撹拌開始から、0時間経過後(撹拌直後)と24時間経過後、48.5時間経過後にそれぞれサンプリングし、各サンプルのMwおよびMnを測定した。MwおよびMnの測定には、GPC(東ソー株式会社製、HLC-8220GPC)を用い、「東ソー製GPCサポートプログラムver.05.00」を用いて、波形分離した後のデータを用いた。以後、特筆しない限り、後述のMwおよびMnについても、上記と同じ装置を用いて測定し、上記と同じプログラムを用いてデータ処理した。
【0031】
試料1および試料2の比較のため、PDMSのみ(これを、「試料3」とした。)、PDMSとTEOSの混合物(これを、「試料4」とした。)、PDMSとHAの混合物(これを、「試料5」とした。)およびPDMSとDL−リンゴ酸ジ−n−ブチルの混合物(これを「試料6」とした。)を試料1および試料2と同じ重量だけ用意し、試料1および試料2と同じ条件下で撹拌した。試料3および試料5は、撹拌開始から、0時間経過後(撹拌直後)と24時間経過後、48時間経過後、75時間経過後および312時間経過後にそれぞれサンプリングし、各サンプルのMwおよびMnを測定した。また、試料4は、 0時間経過後(撹拌直後)と24時間経過後、48時間経過後にそれぞれサンプリングし、各サンプルのMwおよびMnを測定した。試料6については、撹拌開始から、0時間経過後(撹拌直後)および24時間経過後にそれぞれサンプリングし、各サンプルのMwおよびMnを測定した。試料3〜6の各サンプルのMwおよびMnの測定には、試料1および試料2の各サンプルのMwおよびMnの測定時と同じ測定装置を用いた。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表1に試料1〜3の各サンプルのMw、MnおよびMw/Mnを、表2に試料4〜6の各サンプルのMw、MnおよびMw/Mnを、それぞれ示す。
【0035】
PDMSとTEOSとHAを混合した試料1は、撹拌時間が長くなるにつれて、MwおよびMw/Mnが大きくなった。Mnは、撹拌時間96hr以降はほぼ飽和したと思われる。これに対して、PDMSのみの試料3、PDMSとTEOSを混合した試料4およびPDMSとHAを混合した試料5は、撹拌時間が長くなってもMw、MnおよびMw/Mnは、全て大きく変化することはなかった。また、PDMSとMADbを混合した試料6は、撹拌時間が長くなるにつれて、Mw、MnおよびMw/Mnが大きくなった。このことから、試料1および試料2は、PDMSとTEOSの縮合反応にHAおよびMADbが有効に働き、試料6は、PDMS同士の縮合反応にMADbが有効に働き、高分子化が進んだのに対して、試料3〜5は、ほとんどあるいはまったく縮合反応が起こらず、高分子化していなかったと考えられる。
【0036】
2.ポリオルガノシロキサン組成物の硬化体(焼成品)の特性評価実験
Mwの値の異なるポリオルガノシロキサン組成物を焼成して硬化体を作製し、その種々の特性を評価した。以下、硬化体の作製方法と特性評価の結果について説明する。
【0037】
<実施例2>
(1)硬化体作製方法
窒素ガスを流した状態のグローブボックス内にて、蓋付きガラス容器(容量:200ml)中に、30℃における粘度が34mPa・sの両末端シラノール変性PDMS(以後、単に、PDMSという)50g、架橋剤としてTEOS10.42g、HA1.85g、および攪拌子を入れて、蓋を閉めた。ガラス容器内の内容物のモル比(PDMS:TEOS:HA)は、1:1:0.5であった。
【0038】
次に、グローブボックス外に蓋を閉めた状態のガラス容器を取り出し、マグネチックスターラー上に載せ、一定温度(80℃)の下で該ガラス容器内の内容物を攪拌した。攪拌時の回転速度は、450〜550rpmとした。攪拌子の速度測定には、SATO SHOUJI製のTackometer 8000を用いた。混合物の粘度が30℃において33.1mPa・s(攪拌時間:24hr)、64.5mPa・s(攪拌時間:43hr)、87.7mPa・s(攪拌時間:88hr)および135.8mPa・s(攪拌時間:36hr)になった時点で、それぞれサンプリングした。上記各サンプリングした溶液のMwの値は、それぞれ、5000、8000、12000および16000であった。
【0039】
次に、Mwの値の異なる上記4種類のサンプル溶液を、それぞれ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のシャーレに展開し、室温から105℃までを1時間で昇温し、105℃にて12時間保持し、その後、150℃まで1時間で昇温し、150℃で10時間保持した後、室温まで自然冷却した。冷却後、各シャーレから、各シート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を取り出した。
【0040】
HAを用いた試料との比較のため、錫系触媒を用いた試料も作製した。具体的には、錫系触媒には、ジラウリン酸ジブチル錫(東京化成工業株式会社製、C32H6404Sn)を用いた(以後、単に、Sn系触媒という)。PDMSと、TEOSと、Sn系触媒とを、重量比にて100:10:0.5となるように容器内で配合し、混練機(ARE-250T、THINKY CO.)を用いて、1000rpmにて3分間、続いて500rpmにて1分間の条件下で攪拌した。次に、攪拌後の溶液をPTFE製のシャーレに展開し、室温から105℃までを1時間で昇温し、105℃にて12時間保持し、その後、150℃まで1時間で昇温し、150℃で10時間保持した後、室温まで自然冷却した。冷却後、各シャーレから、各シート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を取り出した(比較例1)。また、特に高温高湿中の劣化評価に供する試料として、上記条件以外の条件で錫系触媒を用いた溶液を硬化した。具体的には、上記攪拌条件にて攪拌後の溶液をPTFE製のシャーレに展開し、約25℃、約70%R.H.の環境下に一週間静置したもの(比較例2)、当該比較例2を60℃で24時間静置したもの(比較例3)、および上記比較例2を105℃まで1時間で昇温し、105℃にて12時間保持し、その後、150℃まで1時間で昇温し、150℃で10時間保持して焼成を行ったもの(比較例4)を用意した。
【0041】
(2)引張強度特性評価
各シート状硬化体をダンベルで打ち抜き、幅と厚さを測定し、オートグラフ(AGS-J:SHIMADZU)を用いてJISK6251に従って引張試験を行った。
【0042】
図1〜図3に、引張強度の評価結果を示す。図1は、各シート状硬化体の焼成直前のMwの値と該硬化体の弾性率との関係を、図2は、各シート状硬化体の焼成直前のMwの値と破断点強度との関係を、図3は、各シート状硬化体の焼成直前のMwの値と破断点伸びとの関係を、それぞれ示す。図1、図2および図3の各縦軸は、弾性係数(弾性率、MPa)、破断点強度(MPa)および破断点伸び(%)をそれぞれ示し、各図の横軸は質量平均分子量(Mw)を示す。
【0043】
図1〜図3の結果から明らかなように、焼成直前のサンプル溶液のMwの値が大きいほど、弾性率および破断点強度が大きく、伸びにくい硬化体が得られることがわかった。
【0044】
(3)耐熱性評価−定温保持による熱重量減少の評価
Mwの値の異なる上記3種類のサンプル溶液(Mwの値は、それぞれ、5000、8000および16000)から、それぞれシート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を作製し、各シート状硬化体から4個の角板状の試験片(10mm×10mm×1.5mm厚)を切り出し、150℃の恒温槽(ETTAS OFW−300、AS ONE株式会社製)に入れた。0〜480時間までの範囲内における所定時間経過後に、各4個の試験片を上記恒温槽から取り出し、1分経過した後に重量変化を測定した。重量変化は、各4個の試験片全体のものとした。
【0045】
図4に、各種試験片を恒温槽に入れてからの経過時間と重量減少との関係をグラフ(縦軸:重量減少率、横軸:150℃における保持時間)で示す。図4中の「5000」、「8000」および「16000」は、硬化体作製前の溶液のMwである。
【0046】
図4から明らかなように、Mwの値が8000以上の溶液を硬化させて作製した硬化体では、Mwの値が5000のものよりも、重量減少率が小さい結果が得られた。このことから、溶液状態でMwを8000以上になるように高分子化をすすめることが、耐熱性のより優れた硬化体を得るための基準の一つになると考えられる。
【0047】
(4)耐熱性評価−昇温による熱重量減少の評価
Mwの値の異なる2種類のサンプル溶液(Mw=16000の溶液を硬化させたもの1個およびMw=8000の溶液を硬化させたもの2個の合計3個)から、それぞれシート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を作製し、金型にて円形(3mm径×1.5mm厚)に切り出し、円板状の試験片を作製した。比較のため、Sn系触媒を用いた溶液を硬化させたシート状硬化体から作製した円板状の試験片(同製造条件のもの3個)も評価に供した。
【0048】
円板状の各種試験片は、乾燥空気中にて昇温速度5℃/minにて約570℃まで昇温し、昇温に従ってどのように重量が変化するかを調べた。かかる重量変化の測定には、EXSTAR6000 TG/DTA6200 (セイコーインスツルメント株式会社製)を用いた。
【0049】
図5に、各種試験片の加熱温度と重量減少との関係をグラフ(縦軸:残重量、横軸:温度)で示す。図5中の「Sn 1w+105+150」は、比較例4から作製した試験片を示す。また、図5中の「Mw=8000」および「Mw=16000」は、Mw=8000の溶液の硬化体から作製した試験片およびMw=16000の溶液の硬化体から作製した試験片を示す。
【0050】
図5から明らかなように、HAを用いて作製した試験片の方が、Sn系触媒を用いて作製した試験片よりも、重量減少率が低い結果が得られた。また、HAを用いて作製した試験片の中では、Mwの値が大きい方(Mw=16000)が、より重量減少率が小さい結果となった。この結果からも、前記試験の結果と同様に、溶液状態で高分子化をすすめてから硬化させた方が、耐熱性に優れた硬化体が得られると考えられる。
【0051】
(5)高温高湿中の劣化評価
Mwの異なる3種類のサンプル溶液(Mw=5000、8000および16000の溶液を硬化させたもの)から、それぞれシート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を作製し、角形(10mm×10mm×1.5mm厚)に切り出し、角板状の試験片を作製した。比較のため、Sn系触媒を用いた溶液を硬化させたシート状硬化体(比較例1〜4)から作製した角板状の試験片(10mm×10mm×1.5mm厚)も評価に供した。
【0052】
HAを用いて作製した上記3種の試験片と、Sn系触媒を用いて作製した上記4種の試験片(比較例1〜4より切り出したもの)を、予め重量を測定してから、それぞれ、30gの水と共にPTFE製の容器(内径53mm、外径70mm、高さ90mm、容量100ml、AS ONE株式会社製)中に入れて密閉し、上述と同じ恒温槽内において温度90℃で120時間保持した。120時間後に、各種試験片を恒温槽から取り出して、予め80℃に保持した別の恒温槽(試験で用いた恒温槽と同型のもの)に入れて1時間保持した後、1分経過してから重量を測定した。さらに、HAを用いて作製した2種の試験片(Mw=5000および16000の溶液を硬化して作製した試験片)と、Sn系触媒を用いて作製した1種の試験片(比較例4より切り出したもの)については、上述と同じ恒温槽内において温度120℃で182時間保持し、182時間経過後に恒温槽から取り出して、90℃の時と同様の処理を経て重量を測定した。この劣化評価試験では、高温高湿下に各種試験片を晒す前後の重量変化を算出する方法を採用した。かかる重量変化の測定には、電子天秤(島津製作所AUW120)を用いた。
【0053】
図6および図7は、それぞれ、各種試験片を90℃−120時間および120℃−182時間、高温高湿下に晒した前後の重量変化を示すグラフ(縦軸:残重量)である。図6中および図7中の「5000」、「8000」および「16000」は、Mw=5000、8000および16000の各溶液の硬化体から作製した試験片をそれぞれ示す。また、図6中および図7中の「1week」、「soon105℃+150℃」、「1week+60℃ 24hr」および「1week+105℃+150℃」は、比較例2、比較例1、比較例3および比較例4からそれぞれ作製した試験片を示す。図6では、左から右に、Mw=5000、Mw=8000、Mw=16000、比較例2、比較例1、比較例3、比較例4の順に棒グラフを表示している。また、図7では、左から右に、Mw=5000、Mw=16000、比較例4の順に棒グラフを表示している。
【0054】
図6および図7から明らかなように、HAを用いて作製した試験片の方が、Sn系触媒を用いて作製した試験片よりも、重量減少率が低い結果が得られた。さらに、HAを用いて作製した試験片の中では、硬化前の溶液段階においてMwの値が大きい方が、より重量減少が小さい結果となった。この結果は、溶液状態で高分子化をすすめてから硬化させた方が、高温高湿中の耐久性に優れた硬化体が得られることを示している。
【0055】
<実施例3>
(1)硬化体作製方法
実施例2の架橋剤のTEOSに代えてテトラメトキシシラン(以後、TMOSという)7.611gを用いる他は同様に試料を作製した。当該試料の溶液のMwの値は1000、7000、18000および39000で、それぞれの粘度は、Mw=1000を除き、Mwの小さい方から順に、30℃において82.8mPa・s、110.5mPa・s、252.0mPa・sであった。硬化体の作製条件は、実施例2と同様とした。ただし、Mw=1000の溶液は、80℃での攪拌を行わずに硬化した。
【0056】
また、実施例2のHAに代えてMADb6.158gを用いる他は同様に試料を作製した。当該試料の溶液のMwの値は5000、9000、23000、46000、47000、60000で、それぞれの粘度は、Mw=5000を除き、Mwの小さい方から順に、30℃において35.9mPa・s、80.6mPa・s、64.0mPa・s、
66.6mPa・sおよび93.5mPa・sであった。硬化体の作製条件は、実施例2と同様とした。
【0057】
(2)引張強度特性評価
実施例2と同様に、各シート状硬化体をダンベルで打ち抜き、幅と厚さを測定し、オートグラフ(AGS-J:SHIMADZU)を用いてJISK6251に従って引張試験を行った。
【0058】
図8に、PDMS−TMOS−HA系硬化体の引張強度の評価結果を示す。また、実施例2にて作製したPDMS−TEOS−HA系硬化体(さらにMw=1000の溶液を用いた硬化体も追加した)も、その比較として示す。(A)は、各シート状硬化体の焼成直前のMwの値と該硬化体の弾性率との関係を、(B)は、各シート状硬化体の焼成直前のMwの値と破断点強度との関係を、(C)は、各シート状硬化体の焼成直前のMwの値と破断点伸びとの関係を、それぞれ示す。図8の各グラフの縦軸は、弾性係数(弾性率、MPa)、破断点強度(MPa)および破断点伸び(%)をそれぞれ示し、各グラフの横軸は質量平均分子量(Mw)を示す。
【0059】
図8の結果から明らかなように、PDMS−TMOS−HA系硬化体では、Mw=1000を除き、焼成直前のサンプル溶液のMwの値に依らず、弾性率および破断点強度がほぼ一定の高い水準の硬化体が得られることがわかった。特に、実施例2のPDMS−TEOS−HA系硬化体と比べると、PDMS−TMOS−HA系硬化体は破断点強度に優れることがわかった。
【0060】
図9に、PDMS−TEOS−MADb系硬化体の引張強度の評価結果を示す。また、実施例2にて作製したPDMS−TEOS−HA系硬化体も、その比較として示す。図9中の(A)、(B)および(C)は、図8と同様である。
【0061】
図9の結果から明らかなように、PDMS−TEOS−MADb系硬化体では、焼成直前の溶液のMwが大きくなるほど、硬化体の弾性率および破断点強度が上昇し、Mw=46000以上でほぼ一定になることがわかった。また、特に、実施例2のPDMS−TEOS−HA系硬化体と比べると、PDMS−TEOS−MADb系硬化体は破断点強度に優れることがわかった。
【0062】
(3)耐熱性評価−定温保持による熱重量減少の評価
Mwの値の異なる各種溶液から、それぞれシート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を作製し、各シート状硬化体から4個の角板状の試験片(10mm×10mm×1.5mm厚)を切り出し、250℃の恒温槽(ETTAS OFW−300、AS ONE株式会社製)に入れた。0〜480時間までの範囲内における所定時間経過後に、各4個の試験片を上記恒温槽から取り出し、1分経過した後に重量変化を測定した。重量変化は、各4個の試験片全体のものとした。
【0063】
図10に、「PDMS−TMOS−HA系硬化体」の各種試験片を恒温槽に入れてからの経過時間と重量減少との関係をグラフ(縦軸:重量減少率、横軸:250℃における保持時間)で示す。図10中の「Mw7000」、「Mw18000」および「Mw39000」は、硬化体作製前の溶液のMwの値である。また、図10中の「105℃+150℃」は、比較として用いた「PDMS−TMOS−Sn系硬化体」であって、PDMS−TMOS−Sn系の溶液は、比較例1と同様の条件で撹拌を行いPTFE製のシャーレに展開し、室温から105℃までを1時間で昇温し、105℃にて12時間保持し、その後、150℃まで1時間で昇温し、150℃で10時間保持した後、室温まで自然冷却し、冷却後にシャーレから取り出したシート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)から切り出した試験片である。
【0064】
図10の結果から明らかなように、いずれのPDMS−TMOS−HA系硬化体もSn系触媒を用いたものに比べて、重量減少が少なく、耐熱性に優れていることがわかった。また、250℃に晒している時間が長くなるほど、Mwの大きな溶液を用いた硬化体の方が、重量減少が小さいことがわかった。
【0065】
図11に、「PDMS−TEOS−MADb系硬化体」の各種試験片を恒温槽に入れてからの経過時間と重量減少との関係をグラフ(縦軸:重量減少率、横軸:250℃における保持時間)で示す。図11中の「MADb Mw5000」および「MADb Mw46000」は、硬化体作製前の溶液のMwの値である。また、図11中の「MADb 105℃+150℃」は、PDMA−TEOS−MADb系の溶液を80℃で攪拌せずに、室温から105℃までを1時間で昇温し、105℃にて12時間保持し、その後、150℃まで1時間で昇温し、150℃で10時間保持した後、室温まで自然冷却し、冷却後にシャーレから取り出したシート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)から切り出した試験片である。また、図11中の「105℃+150℃」は、図10中の「105℃+150℃」と同様の比較材の評価結果である。
【0066】
図11の結果から明らかなように、PDMS−TEOS−MADb系硬化体は、250℃において晒している時間が190時間以上になると、Sn系触媒を用いたものに比べて耐熱性に優れることがわかった。
【0067】
(4)耐熱性評価−昇温による熱重量減少の評価
Mwの値の異なる各種溶液から、それぞれシート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を作製し、金型にて円形(3mm径×1.5mm厚)に切り出し、円板状の試験片を作製した。評価条件および評価に用いた測定装置は、実施例2で述べたものと同様である。
【0068】
図12に、「PDMS−TMOS−HA系硬化体」の各種試験片の加熱温度と重量減少との関係をグラフ(縦軸:残重量、横軸:温度)で示す。また、「PDMS−TMOS−HA系硬化体」との比較のため、実施例2で作製した「PDMS−TEOS−HA系硬化体」の評価結果も示す。図12中の「TMOS Mw=7000」および「TMOS Mw=18000」は、TMOSを用いた各Mwの溶液の硬化体から作製した試験片の評価結果を示し、「TEOS Mw=8000」および「TEOS Mw=16000」は、TEOSを用いた各Mwの溶液の硬化体から作製した試験片の評価結果を示す。
【0069】
図12の結果から明らかなように、PDMS−TMOS−HA系硬化体とPDMS−TEOS−HA系硬化体の間で著しい差異はなく、いずれの種類の硬化体の場合でも溶液のMwが大きな方が硬化体の耐熱性が高い傾向があることがわかった。
【0070】
図13に、「PDMS−TEOS−MADb系硬化体」の各種試験片の加熱温度と重量減少との関係をグラフ(縦軸:残重量、横軸:温度)で示す。また、「PDMS−TEOS−MADb系硬化体」との比較のため、図10に示すMw=8000および16000の各PDMS−TEOS−HA系の溶液の各硬化体(「PDMS−TEOS−HA系硬化体」)から作製した試験片の評価結果も示す。
【0071】
図13の結果から明らかなように、実施例2のPDMS−TEOS−HA系硬化体の方が、PDMS−TEOS−MADb系硬化体よりも昇温による熱重量の減少が小さく、比較的、耐熱性に優れていることがわかった。また、いずれの種類の硬化体の場合でも、溶液のMwが大きい方が硬化体の耐熱性が高い傾向があることがわかった。
【0072】
(5)高温高湿中の劣化評価
Mwの異なる各種溶液のシート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を作製し、角形(10mm×10mm×1.5mm厚)に切り出し、角板状の試験片を作製した。比較のため、PDMS−TEOS−Sn系の溶液を硬化させたシート状硬化体から作製した角板状の試験片(10mm×10mm×1.5mm厚)も評価に供した。
【0073】
図14は、「PDMS−TMOS−HA系硬化体」および実施例2の「PDMS−TEOS−HA系硬化体」の各種試験片を90℃−120時間、高温高湿下に晒した前後の重量変化を示すグラフ(縦軸:残重量)である。図14中の「TM7000」および「TM18000」は、Mw=7000および18000の各PDMS−TMOS−HA系溶液の硬化体から作製した試験片をそれぞれ示し、「T8000」、「T16000」および「T17000」は、Mw=8000、16000および17000の各PDMS−TEOS−HA系溶液の硬化体から作製した試験片をそれぞれ示す。
【0074】
図14の結果から明らかなように、PDMS−TMOS−HA系硬化体とPDMS−TEOS−HA系硬化体の間で著しい差異はなく、いずれの種類の硬化体の場合でもMwの大きな溶液を硬化させた方が高温高湿下での耐熱性に優れることがわかった。
【0075】
図15は、Mw=23000および46000の2種類の「PDMS−TEOS−MADb系硬化体」の試験片を90℃−120時間、高温高湿下に晒した前後の重量変化を示すグラフ(縦軸:残重量)である。比較として、PDMS−TEOS−Sn系硬化体の評価結果も示す。図15中の「Mw 23000」および「Mw 46000」は、各MwのPDMS−TEOS−MADb系溶液の硬化体から作製した試験片をそれぞれ示す。また、図15中の「105℃+150℃」および「1w+105℃+150℃」は、比較例1および比較例4からそれぞれ作製した試験片を示す。
【0076】
図15の結果から明らかなように、PDMS−TEOS−MADb系硬化体は、Sn系触媒を用いたものよりも高温高湿下における耐熱性に優れていた。また、Mwの大きなPDMS−TEOS−MADb系の溶液を硬化させた方が高温高湿下での耐熱性に優れることがわかった。
【0077】
3.ポリオルガノシロキサン組成物の硬化体(室温長期静置品)の特性評価実験
Mwの値の異なるポリオルガノシロキサン組成物を室温で長期静置し、あるいは焼成後に室温で長期静置して硬化体を作製し、その種々の特性を評価した。以下、硬化体の作製方法と特性評価の結果について説明する。
【0078】
(1)硬化体作製方法
<実施例4>
窒素ガスを流した状態のグローブボックス内にて、蓋付きガラス容器(容量:200ml)中に、30℃における粘度が34mPa・sのPDMS50g、架橋剤としてTEOS10.42g、MADb6.158g、および攪拌子を入れて、蓋を閉めた。ガラス容器内の内容物のモル比(PDMS:TEOS:MADb)は、1:1:0.5であった。
【0079】
次に、グローブボックス外に蓋を閉めた状態のガラス容器を取り出し、マグネチックスターラー上に載せ、一定温度(80℃)の下で該ガラス容器内の内容物を攪拌した。攪拌時の回転速度は、450〜550rpmとした。攪拌子の速度測定には、SATO SHOUJI製のTackometer 8000を用いた。混合物の粘度を攪拌時間によって変え、30℃において120.23mPa・s(Mw=26000)、144.53mPa・s(Mw=33000)、166.20mPa・s(Mw=47000)および248.00mPa・s(Mw=67000)の4種の粘度(Mw)の混合溶液を用意した。次に、各溶液をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の各シャーレに展開し、約25℃、約50%R.H.の雰囲気下にて168時間(7日間)保持することにより、各硬化体を作製した。その後、各シャーレから、各シート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を取り出した。
【0080】
<実施例5>
実施例4のTEOSに代えてTMOS7.611gを用いる以外は、実施例4と同様の条件で所定時間の攪拌までを行い、30℃における粘度が55.15mPa・s(Mw=11000)の混合溶液を得た。次に、当該溶液をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のシャーレに展開し、室温から105℃までを1時間で昇温し、105℃にて12時間保持し、その後150℃までを1時間で昇温し、150℃にて10時間保持した後、室温まで自然冷却した。さらに、その冷却後、約30℃、約90%R.H.の雰囲気下にて168時間(7日間)保持することにより、硬化体を作製した。その後、シャーレから、シート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を取り出した。なお、上記の150℃にて10時間保持した直後の溶液は未だ硬化しておらず、そのときの溶液のMwは、53000であった。
【0081】
<実施例6>
上記実施例5の150℃にて焼成する過程を経ずに、約30℃、約90%R.H.の雰囲気下にて168時間(7日間)保持することにより、硬化体を作製した。その他の条件は実施例5と同様とした。なお、混合溶液を作製後であって7日間の保持を行う直前の30℃における粘度およびMwは、それぞれ59.8mPa・sおよび13000であった。
【0082】
上記実施例4〜6との比較のため、Sn系触媒を用いた試料も作製した。具体的には、PDMSと、TEOSと、Sn系触媒とを、重量比にて100:10:0.5となるように容器内で配合し、混練機(ARE-250T、THINKY CO.)を用いて、1000rpmにて3分間、続いて500rpmにて1分間の条件下で攪拌した。次に、攪拌後の溶液をPTFE製のシャーレに展開し、約25℃、70%R.H.の雰囲気下にて168時間(7日間)保持することにより、シート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を作製した(比較例5)。またPDMSと、TEOSと、Sn系触媒とを、モル比1:1:0.008となるように容器内で配合し、上記撹拌条件にて撹拌後の溶液をPTFE製のシャーレに展開し、約25℃、約60%R.H.の環境下に1週間保持して得たシート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)(比較例6)も用意した。さらに、比較例5のTEOSに代えTMOSを用いる他は比較例5と同様の条件にて試料を作製した(比較例7)。硬化条件は約25℃、約90%R.H.の環境下に1週間保持する条件とした。また、比較例6のTEOSに代えてTMOSを用いる他は比較例6と同様の条件にて試料を作製した(比較例8)。硬化条件は比較例6と同じ条件とした。
【0083】
(2)引張り強度特性評価
実施例2と同様の方法にて評価を行った。
【0084】
図16に、実施例4にて得られたPDMS−TEOS-MADb系硬化体の引張り強度の評価結果を示す。(A)は、実施例1、比較例5および比較例6の各シート状硬化体の室温保管直前のMwの値と該硬化体の弾性率との関係を、(B)は、当該Mwの値と該硬化体の破断点強度との関係を、(C)は、当該Mwの値と該硬化体の破断点伸びとの関係を、それぞれ示す。図16中の各グラフの縦軸は、それぞれ、弾性係数(弾性率、MPa)、破断点強度(MPa)および破断点伸び(%)を示し、各グラフの横軸はMwを示す。
【0085】
図16の結果から明らかなように、Sn系触媒を用いた硬化体に比べて、Mw=26000および33000の各溶液を用いた硬化体は破断点強度に優れていた。ただし、さらにMwが大きくなると、その硬化体は、逆に、Sn系触媒を用いた硬化体に比べて破断点強度が劣っていた。なお、PDMS−TEOS-MADb系硬化体の破断点伸びは、溶液のMwに依らずほぼ一定であった。
【0086】
図17に、実施例5,6にて得られたPDMS−TMOS-MADb系硬化体の引張り強度の評価結果を示す。(A)は、実施例5,6および比較例7,8の各シート状硬化体の室温保管直前のMwの値と該硬化体の弾性率との関係を、(B)は、当該Mwの値と該硬化体の破断点強度との関係を、(C)は、当該Mwの値と該硬化体の破断点伸びとの関係を、それぞれ示す。図17中の各グラフの縦軸および横軸は、図16と同様である。
【0087】
図17の結果から明らかなように、PDMS−TMOS-MADb系硬化体の破断点強度は、Sn系触媒を用いた硬化体と同等若しくはそれ以下であった。また、弾性率および破断点強度は、溶液のMwが大きいほど大きくなる傾向が認められた。
【0088】
(3)耐熱性評価−昇温による熱重量減少の評価
実施例4〜6のMwの異なる4種類の溶液(実施例4よりMw=26000の溶液とMw=33000の溶液、実施例5よりMw=53000、実施例6よりMw=13000の溶液)から、それぞれシート状硬化体(95mm径×1.5mm厚)を作製し、金型にて円形(3mm径×1.5mm厚)に切り出し、円板状の試験片を作製した。評価は、実施例2と同様の条件にて行った。
【0089】
図18に、各種試験片の加熱温度と重量減少との関係をグラフ(縦軸:残重量、横軸:温度)で示す。図18中の「TE Mw=26000」、「TE Mw=33000」、「TM Mw=13000」および「TM Mw=53000」は、それぞれ、実施例4のMw=26000の溶液、実施例4のMw=33000の溶液、実施例6のMw=13000の溶液および実施例5のMw=53000の溶液の各硬化体から作製した試験片を示す。
【0090】
図18の結果から明らかなように、実施例4にて得られたPDMS−TEOS-MADb系硬化体の方が、実施例5,6にて得られたPDMS−TMOS-MADb系硬化体よりも耐熱性に優れていることがわかった。特に、前者の場合、溶液のMwが大きい硬化体の方が耐熱性に優れていた。
【0091】
(4)高温高湿中の劣化評価
実施例4のMw=26000および33000の溶液を用いた異なる2種試験片と、実施例5のMw=53000の溶液を用いた試験片と、実施例6のMw=13000の溶液を用いた試験片と、Sn系触媒を用いて作製した4種の試験片(比較例5〜8より切り出したもの)を、予め重量を測定してから、それぞれ、30gの水と共にPTFE製の容器(内径53mm、外径70mm、高さ90mm、容量100ml、AS ONE株式会社製)中に入れて密閉し、上述と同じ恒温槽内において温度90℃で120時間保持した。120時間後に、各種試験片を恒温槽から取り出して、予め80℃に保持した別の恒温槽(試験で用いた恒温槽と同型のもの)に入れて1時間保持した後、1分経過してから重量を測定した。
【0092】
図19は、各種試験片を90℃ー120時間高温高湿下に晒した前後の重量変化を示すグラフ(縦軸:残重量)である。図19(A)中の「Mw 26000」および「Mw 33000」は、実施例4のMw=26000および33000の各溶液の硬化体から作製した試験片をそれぞれ示す。また、図19(B)中の「Mw 53000」および「Mw 13000」は、実施例5のMw=53000および実施例6のMw=13000の各溶液の硬化体から作製した試験片をそれぞれ示す。図19中の「P:TE:Sn 100:10:0.5」および「P:TM:Sn 100:10:0.5」は、比較例5および比較例7から作製した試験片をそれぞれ示す。
【0093】
図19の結果から明らかなように、実施例4にて得られたPDMS−TEOS-MADb系硬化体および実施例5,6にて得られたPDMS−TMOS-MADb系硬化体の両種硬化体ともに、Sn系触媒を用いた硬化体に比べて高温高湿下における耐熱性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、例えば、低温硬化可能なシリコーン接着剤として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中の少なくとも一方の末端がシラノール変性したポリオルガノシロキサンと、
(B)上記ポリオルガノシロキサンを架橋する架橋剤であって、上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.3〜3モルのシリコンアルコキシドと、
(C)上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.05〜2モルのヒドロキシアセトンと、
を含むことを特徴とするポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項2】
(A)1分子中の少なくとも一方の末端がシラノール変性したポリオルガノシロキサンと、
(B)上記ポリオルガノシロキサンを架橋する架橋剤であって、上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.3〜3モルのシリコンアルコキシドと、
(D)上記ポリオルガノシロキサン1モルに対して0.2〜2モルのDL−リンゴ酸ジ−n−ブチルと、
を含むことを特徴とするポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
質量平均分子量(Mw)が4000以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリオルガノシロキサン組成物を硬化したポリオルガノシロキサン組成物硬化体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−121111(P2010−121111A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153639(P2009−153639)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年1月14日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月3日 社団法人電気学会(東海支部)主催の「若手セミナー「誘電・絶縁材料等の物性・機能とその応用 第3回」」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月17日 社団法人電気学会発行の「平成21年電気学会全国大会講演論文集」に発表
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】