説明

ポリオレフィン製微多孔膜

【課題】透過性や機械強度や耐熱性を損なうことなく、高い電解液含浸性を有するポリオレフィン製微多孔膜の製造方法の提供。
【解決手段】少なくとも1軸方向へ延伸した実質的に空孔部を有する微多孔フィルムを、膜厚方向に少なくとも1回、膜圧方向の変形率1%以上となるように加圧する工程を含むことを特徴とするポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池、コンデンサ、キャパシタ等の電子デバイス用セパレータ、及び精密濾過膜等に好適であり、特にリチウムイオン電池用セパレータとして好適なポリオレフィン製微多孔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン製微多孔膜は、精密濾過膜、電池・コンデンサ・キャパシタ等の電子デバイス用セパレータ、燃料電池用材料等に使用されている。
リチウムイオン電池の製造工程には、電極活物質が塗工された正極と負極、およびセパレータから構成される渦巻状の捲回体または積層体の上部から電解液を注入し、電極及びセパレータに電解液を含浸させる工程が含まれる。リチウムイオン電池の電解液は、一般的に、エチレンカーボネート(EC)やポロピレンカーボネート(PC)等の環状カーボネート類、エチルメチルカーボネート等の直鎖状カーボネート類をブレンドし、電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用されている。
【0003】
近年の電池の高容量化に伴って、捲回体内に活物質を効率的に詰め込むことが必要となるため、捲回体内の電解液が浸透する空間が減少する傾向にある。さらに電池の高性能・高容量化を目的として、より高誘電率・高粘度の電解液を使用する、または高電解質濃度電解液を使用するという傾向がある。この場合、電池製造における注液工程のタクトタイムが長くなる、注液後もセパレータ全体に電解液が含浸するまでのエージング時間が長くなる等、生産性が低下するという問題が発生する。このためセパレータはより効率的に電解液を含浸することが求められている。
特許文献1には電解液の吸収速度が速いポリオレフィン製微多孔膜が開示されているが、その製造方法は製造条件が複雑であるという生産上の欠点があった。
特許文献2には部分的な親水性処理部分において良好に電解液を保持することができる、ミクロフィブリル孔を有する微多孔性フィルムからなる電池用セパレータが記載されている。
【特許文献1】特開2007−063547号公報
【特許文献2】特開2003−109570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高い電解液含浸性を有するポリオレフィン製微多孔膜を、透過性や機械強度や耐熱性を損なうことなく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、少なくとも1軸方向へ延伸した実質的に空孔部を有する微多孔フィルムを膜厚方向に少なくとも1回、膜圧方向の変形率1%以上となるように加圧することにより、得られるポリオレフィン製微多孔膜の電解液含浸性を向上させることが可能であることを見出し、本発明を成すに至った。
すなわち本発明は、以下の通りである。
1.少なくとも1軸方向へ延伸した実質的に空孔部を有する微多孔フィルムを、膜厚方向に少なくとも1回、膜圧方向の変形率1%以上となるように加圧する工程を含むポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。
2.前記加圧工程を、熱固定工程よりも後に行う1.に記載のポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。
3.前記加圧が、ロールプレス機またはカレンダープレス機による1.又は2.に記載のポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
4.ポリオレフィンと、ポリオレフィンの融点以上で均一な溶液を形成する可塑剤とを混練したのち、微多孔フィルムを製造する工程を含む、1.〜3.のいずれか1項に記載のポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、高い電解液含浸性を有し、高透過性かつ高強度なポリオレフィン製微多孔膜が製造可能である。従って本発明のポリオレフィン製微多孔膜をリチウムイオン電池用セパレータとして使用した場合、電池の高性能化と電池生産効率向上に寄与することが可能である。さらにリチウムイオン電池以外の電子デバイスにおいても電解液含浸性に優れるために生産性と性能向上に寄与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明で使用するポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテンなどが挙げられ、これらを2種類以上ブレンドして用いても良い。透過性と機械強度と耐熱性を向上させる観点からポリエチレンとポリプロピレンの混合物を用いることが好ましい。ポリプロピレンの組成比は、耐熱性の観点から3wt%以上が好ましく、より好ましくは5wt%以上である。また、機械強度の低下を防ぐ観点から40wt%以下が好ましく、より好ましくは20wt%以下である。
【0008】
ポリエチレンの種類としては、密度が0.94g/cmを越えるような高密度ポリエチレン、密度が0.93〜0.94g/cmの範囲の中密度ポリエチレン、密度が0.93g/cmより低い低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。機械強度を向上させる観点から高密度ポリエチレン又は中密度ポリエチレンの使用が好ましく、それらを単独で使用しても、或いは混合物として使用してもよい。ポリエチレンは、超高分子量ポリエチレンと高分子量ポリエチレンを単独またはブレンドして使用することが可能である。超高分子量ポリエチレンの粘度平均分子量(Mv)は、ポリオレフィン製微多孔膜の機械強度をより向上させる観点から50万以上が好ましく、成形性が損なわれる可能性があるため300万以下が好ましい。より好ましくは60万〜250万である。高分子量ポリエチレンのMvは、機械強度を向上させるために3万以上であることが好ましく、良好なシャットダウン特性の観点から50万未満が好ましい。より好ましくは15万〜40万、更に好ましくは30万以下である。ポリエチレン全体に対する超高分子量ポリエチレンのブレンド比は、10〜90wt%であることが好ましく、より好ましくは20〜80wt%、更に好ましくは60wt%以下である。
【0009】
ポリプロピレンの種類としては、プロピレンホモポリマー、エチレンプロピレンランダムコポリマー、エチレンプロピレンブロックコポリマーを用いることができる。これらのうちホモポリプロピレンを用いることが好ましい。コポリマーの場合はポリプロピレンの結晶化度が低下して、微多孔膜の透過性低下を防ぐ観点からコポリマー中のエチレン含量は1モル%以下とすることが好ましい。使用するポリプロピレンのMvは得られる微多孔膜の耐熱性を向上させるために10万以上が好ましく、ブレンドした際の分散不良を防止する観点から100万未満であることが好ましい。より好ましくは20万〜80万、更に好ましくは40万〜80万である。
【0010】
本発明の少なくとも1軸方向へ延伸した実質的に空孔部を有する微多孔フィルムの製造方法としては、ポリオレフィンとポリオレフィンの融点以上で均一な溶液を形成する可塑剤とを混練する工程を含む方法(以下、相分離法とする)、ポリオレフィン製無孔シートを縦方向(以下、MDとする)に延伸することにより空孔部を形成する工程を含む方法(以下、延伸開孔法)、ポリオレフィン製無孔フィルムを前記可塑剤で膨潤する工程を含む方法などが挙げられる。この中で、透過性に優れ、機械強度が高くなるという観点からは相分離法が好ましく、膜の横方向(以下TDとする)の熱収縮率が少なくなるという観点からは延伸開孔法が好ましい。
【0011】
以下、相分離法を例に多孔膜製造工程を詳細に説明する。相分離法によるポリオレフィン製微多孔膜の製造方法は、
(a)少なくともポリオレフィン樹脂と、該樹脂と融点以上で均一な溶液を形成する可塑剤とを含む混合物を溶融混練した後、押出、冷却固化してシート化する工程(相分離製膜工程)、
(b)少なくとも一軸に延伸する工程(延伸工程)、
(c)可塑剤を抽出する工程(可塑剤抽出工程)、
(d)熱固定工程、
(e)膜厚方向に加圧する工程(加圧工程)
を含むことが好ましい。
【0012】
(a)〜(c)工程の順序は、(a)工程→(b)工程→(c)工程、(a)工程→(b)工程→(c)工程→(b)工程、(a)工程→(c)工程→(b)工程のいずれかが選択可能である。(b)工程は数段階に分けて実施しても良い。
(d)工程は(a)工程後であれば、熱収縮低減効果が得られ、回数に特に限定はない。 (d)工程は(b)及び(c)工程よりも後に少なくとも一回行うことが、より熱収縮を低減できるために好ましい。
(e)工程は、(b)工程および(c)工程よりも後に少なくとも一回行うことが、電解液含浸性の観点から必要である。より好ましくは前記(a)〜(d)工程の最後に(e)工程を行うことが、より電解液含浸性を高める観点から好ましい。
【0013】
(a)相分離成膜工程
可塑剤とは、ポリオレフィンとポリオレフィンの融点以上で均一な溶液を形成しうる不揮発性溶媒を指す。例えば、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素類、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジイソデシルフタレート、ジヘプチルフタレートなどが挙げられる。中でも流動パラフィンが好ましい。
相分離成膜工程では、無機微粒子を添加することも好ましい方法である。無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等が使用できる。これらのうち、溶融混練における均一性の観点からシリカが好ましい。無機微粒子を使用する場合には、ポリオレフィンと可塑剤と無機微粒子とをヘンシェルミキサー等で混合造粒することが、無機微粒子を均一に分散させる観点から好ましい。また、無機微粒子を抽出することは孔径が大きく、透過性に優れるポリオレフィン製微多孔膜を得る場合には好ましい。無機微粒子を抽出する方法としては、無機微粒子が溶解する液体に浸漬あるいは接触させる方法が挙げられる。無機微粒子を抽出しない方法は無機微粒子による微多孔膜の耐圧縮性を向上させる観点から好ましく、無機微粒子を添加しない方法は孔径が小さく、機械強度に優れる観点から好ましい。
【0014】
ポリオレフィン樹脂と可塑剤および無機微粒子の合計量に対するポリオレフィン樹脂の割合は、成膜時の成形加工性の観点から10wt%以上が好ましく、微多孔膜の透過性の観点から90wt%であることが好ましい。より好ましくは20〜60wt%、さらに好ましくは30〜50wt%である。また、可塑剤と無機微粒子の合計量に対する可塑剤の割合は無機微粒子の凝集による品位低下を防ぐ観点から50wt%以上が好ましく、適度な孔径と透過性を付与する観点から80%以下が好ましい。より好ましくは60〜75wt%である。
溶融混練においてポリオレフィンの分子劣化を防止する観点から、酸化防止剤や熱劣化防止剤を添加することが好ましい。添加量は原料ポリオレフィンの合計量に対して、分子劣化防止の観点から0.1wt%以上であることが好ましく、経済性の観点から3wt%以下であることが好ましい。より好ましくは0.2〜3wt%以下、さらに好ましくは0.3〜2wt%である。
溶融混練で得られた混練物をシート状に成形する方法としては、溶融物を冷却により固化させる方法をあげることができる。冷却方法として、冷風や冷却水等の冷却媒体に直接接触させる方法、冷媒で冷却したロールやプレス機に接触させる方法等が挙げられる。冷媒で冷却したロールやプレス機に接触させる方法が、厚み制御が優れる点で好ましい。
【0015】
(b)延伸工程
延伸工程は少なくとも一軸方向へ延伸する工程であり、ロール延伸機による一軸延伸、ロール延伸機とテンターの組み合わせによる逐次二軸延伸、同時二軸テンターやインフレーション成形による同時二軸延伸などが挙げられる。中でも、高強度且つ耐変形性の観点より、二軸延伸であることが好ましい。
延伸工程は、後述する抽出工程の前(抽出前延伸)、または後(抽出後延伸)、または前後(抽出前後延伸)が可能である。得られるポリオレフィン製微多孔膜の、機械強度を向上するために抽出前延伸が好ましく、透過性を向上するために抽出後延伸および抽出前後延伸が好ましい。
【0016】
抽出前延伸における延伸温度は、高い機械強度を得るためにポリオレフィン(ブレンドの場合は、構成ポリマーの中で最も融点の低いポリオレフィン)の融点よりも60℃低い温度以上、融点よりも20℃高い温度以下であることが好ましく、より好ましくは融点よりも40℃低い温度以上、融点以下である。特にポリエチレン、又はポリエチレンとポリプロピレンをブレンドする場合は、100℃〜150℃が好ましく、より好ましくは110〜140℃、更に好ましくは110〜134℃である。抽出後延伸における延伸温度は、透過性を向上させるために、ポリオレフィン(ブレンドの場合は、構成ポリマーの中で最も融点の低いポリオレフィン)の融点よりも40℃低い温度以上、融点よりも40℃高い温度以下であることが好ましく、より好ましくは融点よりも30℃低い温度以上、融点よりも20℃高い温度以下である。特にポリエチレン、又はポリエチレンとポリプロピレンをブレンドする場合は、100℃〜170℃が好ましく、より好ましくは110〜150℃、更に好ましくは110〜140℃である。
【0017】
抽出前延伸における延伸倍率(面倍率)は、生産性の向上の観点から10倍以上が好ましく、過度な延伸による膜破断を防ぐ観点から100倍以下が好ましい。より好ましくは20〜60倍、更に好ましくは30〜55倍である。抽出前延伸の場合、同時二軸テンターやインフレーション成形による同時二軸延伸が好ましい。
抽出後延伸における延伸倍率(面倍率)は、機械強度向上の観点から3倍以上が好ましく、過度の透過性向上を防ぐ観点から20倍以下が好ましい。より好ましくは5〜15倍、更に好ましくは6〜10倍である。抽出後延伸の場合、ロール延伸機とテンターの組み合わせによる逐次二軸延伸が好ましい。
抽出前後延伸における延伸条件は、前記の抽出前延伸と抽出後延伸の条件を利用可能である。
【0018】
(c)可塑剤抽出工程
抽出溶媒としては、膜を構成するポリオレフィンに対して貧溶媒であり、且つ可塑剤に対しては良溶媒であり、沸点が膜を構成するポリオレフィンの融点よりも低いものが望ましい。このような抽出溶媒としては、例えば、n−ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ハイドロフロロエーテルやハイドロフロロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。この中から適宜選択し、単独もしくは混合して用いる。中でも塩化メチレンやメチルエチルケトンが好ましい。
可塑剤抽出の方法としては、キャスト工程または延伸工程で得られたシートを、これらの抽出溶媒に浸漬、或いはシャワーすることで可塑剤を抽出し、その後充分に乾燥すればよい。
【0019】
(d)熱固定工程
熱固定とはテンターやロール延伸機等にて、所定の温度雰囲気において、低倍率延伸及び/又は緩和操作を行い、微多孔フィルムの熱収縮を低減させることである。低倍率延伸とは面積倍率で3.0倍以下のことである。以下、原料ポリマーとしてポリエチレン、又はポリエチレンとポリプロピレンのブレンド物を利用する場合の熱固定条件について具体的に示す。
低倍率延伸における延伸倍率は、微多孔フィルムのMD及び/或いはTDに対して、好ましくは1.0〜3.0倍、より好ましくは1.5〜2.0倍である。過度の延伸は膜破断の可能性が高くなるため好ましくない。
【0020】
延伸時の温度は、熱収縮防止の観点から100℃以上が好ましく、より好ましくは110℃以上、よりさらに好ましくは120℃以上である。また、加熱により微多孔フィルムが溶けることを防ぐために135℃以下が好ましく、より好ましくは133℃以下、より更に好ましくは130℃以下である。
緩和操作とは、微多孔フィルムのMD及び/或いはTDの寸法を少し元に戻す操作のことである。延伸時のフィルム寸法に対する緩和倍率は、熱収縮を低減する観点から1.0倍以下が好ましく、より好ましくは0.95倍以下、より更にさらに好ましくは0.90倍以下である。また、過度の緩和によるシワ発生を防ぐため、0.6倍以上が好ましく、より好ましくは0.65倍以上、よりさらに好ましくは0.7倍以上である。
【0021】
緩和時の温度は、熱収縮を低減する観点から110℃以上であることが好ましく、より好ましくは115℃以上、より更に好ましくは120℃以上である。また、膜の透過性低下を防止するため140℃以下が好ましく、より好ましくは138℃以下、より更に好ましくは136℃である。
なお、本工程における延伸により膜厚が減少するが、延伸又は/及び加熱により膜平面方向の膜構造のみならず、膜断面方向の膜構造が変化するため、後述する圧縮工程で得られる効果は発現しない。具体的には、延伸により平面方向の孔径は粗大化し、膜厚方向の孔径はフィブリル破断とそれによる大孔径化が起きる。また、温度により膜溶融による透過性の低下が起きる。
【0022】
(e)加圧工程
加圧工程は電解液含浸性を向上させるために、実質的に空孔部を有する微多孔フィルムを膜厚方向に加圧する工程である。実質的に空孔部を有する微多孔フィルムとは気孔率20%以上であることを意味し、曲路連通孔を有することが好ましい。本発明における加圧とは圧縮または圧延などの圧力を加えることを意味する。
本発明において、微多孔フィルムとは加圧処理を施す前の膜をいい、当該微多孔フィルムを加圧処理したものを微多孔膜という。
本発明における電解液含浸性とは、高誘電率・高粘度の電解液の浸透性に優れる側面と、電池製造工程における電解液注液性に優れる側面を意味する。
【0023】
加圧により電解液含浸性が向上する理由は必ずしも明らかではないが、以下の理由によると推測している。ポリオレフィン製微多孔膜に電解液が含浸する際には、毛細管力が働き、電解液が微多孔膜内部へ浸透しているものと考えられる。微多孔フィルムを膜厚方向に加圧すると、微多孔フィルム中の空孔部のみが選択的に膜厚方向へ変形する結果となり、膜断面方向から観察した空孔部は膜厚方向に小孔径化し、膜の平面方向の孔径は変化しない。膜厚方向の孔径が小さくなることにより、表面から浸透した電解液が膜面方向に拡がり、拡がった電解液がさらに膜厚方向にも浸透するために、電解液含浸性が向上していると推測される。
【0024】
加圧方法は微多孔フィルムを膜厚方向に加圧できれば特に限定されないが、バッチ式の圧縮プレス機、1対のベルト間に試料を挟んで加圧可能なダブルベルトプレス機、一対のロール間に挟みながら少なくとも1回加圧可能なロールプレス機またはカレンダープレス機等が挙げられる。これらの中でも、連続生産性と装置の保守メンテナンスの観点からロールプレス機またはカレンダープレス機が好ましい。
ロール材質は加圧する微多孔フィルムの材質によって、金属製、樹脂製等を選択可能であるが、ロール間で微多孔フィルムとロールがスリップし、微多孔フィルムの表面が損傷することを防止する観点から、一対のロールの少なくとも一つのロールは樹脂製ロールが好ましい。樹脂製ロールの硬度は、加圧力、加圧時間によるため適宜調整可能であるが、膜厚方向への加圧を高い生産性で行う観点から、JIS−K7215に準拠したタイプDデュロメータで測定される硬さが、好ましくは100以下、より好ましくは90以下、更に好ましくは80以下である。
【0025】
加圧による膜厚方向の変形率は、加圧により減少した膜厚を加圧前の膜厚で割った数値のことである。膜厚方向の変形率は、電解液含浸性を向上させる観点から1%以上であり、好ましくは3%以上、更に好ましくは5%以上である。過度の変形による透過性低下を防ぐため好ましくは60%以下であり、より好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下、最も好ましくは20%以下である。微多孔フィルムの膜厚・気孔率を考慮して所望の含浸性が得られるように変形率を決定することが重要である。
膜厚方向の加圧に伴う面積変化は、加圧により増加した膜の面積を加圧前の膜面積で割った数値のことである。面積変化に伴う構造変化で電解液含浸性が低下したり熱収縮が増加したりすることを防ぐために、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、より更に好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下である。
【0026】
微多孔フィルムにかける加圧力は、所望の変形率を得られれば特に限定は無いが、適度な変形率を得ること、及び過度の変形による微多孔フィルムの破断等を防ぐ観点から、線圧で1500N/cm以下であることが好ましく、より好ましくは1000〜50N/cm、更に好ましくは700〜100N/cm、最も好ましくは500〜200N/cmである。面圧では3000N/cm以下であることが好ましく、より好ましくは2000〜100N/cm以下、より更に好ましくは1500〜200N/cm、最も好ましくは1000〜300N/cmである。
加圧温度は、生産設備の観点から0℃以上が好ましく、微多孔フィルムの構造が膜厚方向だけで無く、膜面方向にも変形し電解液含浸性が低下する可能性があるため100℃以下が好ましい。より好ましくは15〜80℃、更に好ましくは25〜60℃、最も好ましくは25〜50℃である。
【0027】
加圧工程には、静電気除去装置や除塵装置を設置することも、加圧後の品位向上の観点から好ましい。静電気除去は加圧前後の微多孔フィルムと微多孔膜両方に対して行うことが好ましく、加圧時に樹脂製ロールを使用する際にはロールに発生する静電気も除去することが好ましい。また、除塵装置は加圧する微多孔フィルム及び/又は加圧ロールの塵を除去するために取り付けることが効果的な除塵対策として好ましい。これにより微多孔フィルム及び/又はロール上に埃が付着し、加圧工程で微多孔フィルム表面を損傷することを防ぐことが可能となる。
【0028】
加圧工程で得られるポリオレフィン製微多孔膜は、熱収縮を低減することを目的として熱固定しても良い。熱固定により微多孔膜の構造が変化し、電解液含浸性が低下することを防ぐために、ポリエチレンと該ポリエチレンに対して40%以下のポリプロピレンがブレンドされた樹脂組成物の場合には、低倍率延伸および緩和時の温度は90℃以上120℃未満であることが好ましく、より好ましくは100℃以上120℃未満である。 低倍率延伸の倍率は、延伸による構造変化による電解液含浸性低下を防止するために1.4倍以下が好ましく、より好ましくは1.2倍以下である。緩和倍率は緩和による構造変化による電解液含浸性低下を防止するために0.7倍以上1.0倍以下が好ましく、より好ましくは0.85倍以上である。
なお、必要に応じて、電子線照射、プラズマ照射、イオンビーム照射、界面活性剤塗布、化学的改質などの表面処理を本発明の効果を損なわない程度に施すことが可能である。
【0029】
本発明の製造方法で得られるポリオレフィン製微多孔膜は、好ましくは以下のような特性を持つ。
膜厚は、セパレータとして使用した際の電気的絶縁性を保つために1μ以上が好ましく、透過性が低下する可能性があるために100μ以下が好ましい。より好ましくは3〜50μである。気孔率は気体及びイオン透過性を保つために20%以上が好ましく、機械強度が低下する可能性があるために80%以下が好ましい。より好ましくは30〜60%である。透気度は電気的絶縁性を保つために10秒以上が好ましく、気体及びイオン透過性を保つために1000秒以下が好ましい。より好ましくは50秒〜500秒、更に好ましくは300秒以下である。突刺強度は機械強度の観点から1〜10Nが好ましく、より好ましくは2.5〜7Nである。
最大孔径は不均一な開孔による特性低下を防ぐために0.5μ以下が好ましく、透過性を向上させるために0.01μ以下が好ましい。より好ましくは0.2〜0.05μである。平均孔径は、セパレータとしてのイオン透過性を向上させる観点から0.2μ〜0.005μmが好ましく、より好ましくは0.1〜0.03μmである。
【実施例】
【0030】
本発明を実施例、比較例に基づいてさらに詳細に説明する。実施例において示す試験方法は次の通りである。
(1)粘度平均分子量(Mv)
ポリエチレンおよびポリオレフィン製微多孔膜のMvは、溶剤としてデカリンを用い、測定温度135℃で測定し、粘度[η]から次式により算出した。
[η]=6.77×10−4Mv0.67(Chiangの式)
また、ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10−4Mv0.80
(2)樹脂の融点
島津製作所社製DSC60を使用し測定した。樹脂10mgを、直径5mmのアルミ製オープンサンプルパンに入れ、クランピングカバーを乗せサンプルシーラーでアルミパン内に固定した。窒素雰囲気下にて、30〜200℃まで10℃/分で昇温した後、200℃にて5分間温度保持した。さらに200〜30℃まで10℃/分にて冷却した後30℃にて5分間温度保持し、再び30〜200℃まで10℃/分にて昇温した際に測定される融解吸熱曲線の極大となる温度を膜融点とした。
【0031】
(3)膜厚(μm)
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)を用いて室温23℃で測定した。
(4)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、それらと膜密度(g/cm)より、次式を用いて計算した。
気孔率=(体積−質量/膜密度)/体積×100
なお、膜密度は0.95(g/cm)として算出した。
(5)透気度(sec)
JIS P−8117に準拠し、東洋精機(株)製のガーレー式透気度計、G−B2(商標)により測定した。
【0032】
(6)突刺強度(N/20μm)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重より突刺強度(N)を得た。これに20(μm)/膜厚(μm)を乗じることにより20μm膜厚換算突刺強度(N/20μm)を算出した。
(7)最大孔径(μm)
ASTM E−128−61に準拠し、エタノール中でのバブルポイント(kPa)により算出した。
【0033】
(8)平均孔径(ハーフドライ法)(μm)
ASTM F−316−86に準拠し、エタノールを使用して測定した。
(9)平均孔径(気液法)(μm)
前記(7)において、バブルポイントが980kPaを超える場合の平均孔径算出方法として使用した。
キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きいときはクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。そこで、微多孔膜の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、また微多孔膜の透水度測定における水の流れがポアズイユの流れに従うと仮定する。
【0034】
この場合、平均孔径d(μm)と屈曲率τ(無次元)は、空気の透過速度定数Rgas(m/(m・sec・Pa))、水の透過速度定数Rliq(m/(m・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力P(=101325Pa)、気孔率ε(%)、膜厚L(μm)から、次式を用いて求めることができる。
d=2ν×(Rliq/Rgas)×(16η/3Ps)×10
τ=(d×(ε/100)×ν/(3L×P×Rgas))1/2
ここで、Rgasは透気度(sec)から次式を用いて求められる。
gas=0.0001/(透気度×(6.424×10−4)×(0.01276×101325))
また、Rliqは透水度(cm/(cm・sec・Pa))から次式を用いて求められる。
liq=透水度/100
なお、透水度は次のように求められる。直径41mmのステンレス製の透液セルに、あらかじめアルコールに浸しておいた微多孔膜をセットし、該膜のアルコールを水で洗浄した後、約50000Paの差圧で水を透過させ、120sec間経過した際の透水量(cm)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
また、νは気体定数R(=8.314)、絶対温度T(K)、円周率π、空気の平均分子量M(=2.896×10−2kg/mol)から次式を用いて求められる。
ν=((8R×T)/(π×M))1/2
さらに、孔数B(個/μm2)は、次式より求められる。
B=4×(ε/100)/(π×d2×τ)
【0035】
(10)ヒューズ温度(℃)・破膜(ショート)温度(℃)
図1(A)にヒューズ温度の測定装置の概略図を示す。1は微多孔膜であり、2A及び2Bは厚さ10μmのニッケル箔、3A及び3Bはガラス板である。4は電気抵抗測定装置(安藤電気製LCRメーター「AG−4311」(商標))でありニッケル箔2A、2Bと接続されている。5は熱電対であり温度計6と接続されている。7はデーターコレクターであり、電気抵抗装置4及び温度計6と接続されている。8はオーブンであり、微多孔膜を加熱する。
【0036】
さらに詳細に説明すると、図1(B)に示すようにニッケル箔2A上に微多孔膜1を重ねて、縦方向に「テフロン(登録商標)」テープ(図の斜線部)でニッケル箔2Aに固定する。微多孔膜1には電解液として1mol/リットルのホウフッ化リチウム溶液(溶媒:プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート/γ−ブチルラクトン=1/1/2)が含浸されている。ニッケル箔2B上には図1(C)に示すように「テフロン(登録商標)」テープ(図の斜線部)を貼り合わせ、箔2Bの中央部分に15mm×10mmの窓の部分を残してマスキングした。
ニッケル箔2Aとニッケル箔2Bを微多孔膜1をはさむような形で重ね合わせ、さらにその両側からガラス板3A、3Bによって2枚のニッケル箔をはさみこんだ。このとき、箔2Bの窓の部分と、多孔膜1が相対する位置に来るようにした。
【0037】
2枚のガラス板は市販のダブルクリップではさむことにより固定した。熱電対5は「テフロン(登録商標)」テープでガラス板に固定した。
このような装置で連続的に温度と電気抵抗を測定する。なお、温度は25℃から200℃まで2℃/minの速度にて昇温させ、電気抵抗値は1V、1kHzの交流にて測定した。ヒューズ温度とは微多孔膜の電気抵抗値が10Ωに達するときの温度と定義した。また、ヒューズの後、電気抵抗値が再び10Ωを下回るときの温度を破膜(ショート)温度とした。
【0038】
(11)電解液浸透性
電解液としてエチレンカーボネートを20wt%、プロピレンカーボネートを80wt%の混合液体を用い、高さ30mmよりスポイトで一滴垂らし、混合液体が膜に浸透して透明になるときの時間を測定した。5秒以内で透明化した場合を◎、30秒以内を○、30〜180秒以内に若干の浸透がみられた場合を△、全く浸透しなかった場合を×とした。
【0039】
(12)電解液注液性
a.正極の作製
活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoOを92.2wt%、導電剤としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3wt%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2wt%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の両面にダイコーターで塗付し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗付量は250g/m,活物質嵩密度は3.00g/cmになるようにした。
b.負極の作製
活物質として人造グラファイト96.9wt%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4wt%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7wt%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の両面にダイコーターで塗付し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗付量は106g/m,活物質嵩密度は1.35g/cmになるようにした。
【0040】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:プロピレンカーボネート:γ−ブチロラクトン=1:1:2(体積比)の混合溶媒に、電解質としてLiBFを0.5mol/Lの濃度で溶解したものを調製した。
d.注液性評価
前項aで作成した正極を縦方向に96mm横方向に40mmで切断し、前項bで作成した負極を縦方向に98mm横方向に42mmで切断し、微多孔膜をMDに100mmTDに44mmのサイズに切断した。次に下側から負極、セパレータ、正極の順番に中心部が一致するように重ね合わせて積層体を作成した。この積層体全体に58.8N(6.0kg)の荷重を均一に掛けた状態で、5torrまで減圧した後、前記cで調製した電解液5mlを積層体周辺に注液した。この状態で10分間放置した後、常圧に戻し、余剰電解液を拭き取った後、積層体を解体した。セパレータの面積に対して電解液が浸透していた面積が70%以上の場合を◎、50%以上の場合を○、30%以上の場合を△、30%未満の場合を×とした。
【0041】
[実施例1]
Mv200万、融点134℃の超高分子量ポリエチレン3wt%、Mv25万、融点136℃の高密度ポリエチレン27wt%、DOP50.6重量%、微粉シリカ(分散平均粒径0.7μm)19.4重量%を混合造粒した。次に、フィーダーおよび二軸延伸機内の雰囲気を窒素で置換し、該造粒物をフィーダーより2軸押出機へ供給して溶融混練した後にT−ダイより押出し、冷却固化し、厚さ110μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを、水酸化ナトリウム水溶液にて微粉シリカを抽出除去し微多孔フィルムを作製した。該微多孔フィルムを2枚重ねて110℃で、縦方向に4.5倍延伸した後、137℃で横方向に1.7倍延伸した。次に緩和温度138℃、緩和倍率0.9倍にて熱固定することにより微多孔フィルムを得た。
得られた微多孔フィルムをJIS−K7215に準拠して測定されるタイプDのデュロメータ硬さ70である直径100mmの樹脂ロールと、直径200mmの40℃に温調した金属ロールから構成されるロールプレス機を用いて、線圧327N/cm、ライン速度10m/minにて連続加圧することによりポリオレフィン製微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0042】
[実施例2]
熱固定しなかったこと以外は実施例1と同様に行った。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0043】
[比較例1]
Mv200万、融点134℃の超高分子量ポリエチレン3wt%、Mv25万、融点136℃の高密度ポリエチレン27wt%、DOP49.4重量%、微粉シリカ(分散平均粒径0.25μm)20.6重量%を混合造粒した。次に、フィーダーおよび二軸延伸機内の雰囲気を窒素で置換し、該造粒物をフィーダーより2軸押出機へ供給して溶融混練した後にT−ダイより押出し、冷却固化し、厚さ125μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを、水酸化ナトリウム水溶液にて微粉シリカを抽出除去し微多孔フィルムを作製した。該微多孔フィルムを2枚重ねて117℃で、縦方向に4.8倍延伸した後、120℃で横方向に2.0倍延伸した。次に緩和温度133℃、緩和倍率0.9倍にて熱固定することにより微多孔フィルムを得た。得られた微多孔フィルムの物性を表1に示す。
【0044】
[比較例2]
加圧をしなかったこと以外を実施例1と同様に実施した。得られた微多孔フィルムの物性を表1に示す。
【0045】
[比較例3]
比較例2で得られた微多孔フィルムをTDテンターに導き、温度128℃、延伸倍率1.1倍に延伸した。得られた微多孔フィルムの物性を表1に示す。
【0046】
[実施例3]
Mv25万、融点136℃の高密度ポリエチレン40wt%、Mv70万、融点135℃の超高分子量ポリエチレン60wt%を、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られたポリマー混合物99wt%に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1wt%添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。フィーダーおよび二軸延伸機内の雰囲気を窒素で置換し、得られた混合物をフィーダーにより二軸押出機へ供給し、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
溶融混練で押し出される全混合物中に占める樹脂濃度が35wt%となるように、フィーダー及びポンプを調整した。
続いて、溶融混練物をT−ダイより押出し、冷却固化することで1800μmのシートを得た。
【0047】
次に、このシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.4倍、設定温度123℃とした。
その後、このシートを塩化メチレン槽に導き、塩化メチレン中に充分に浸漬させて流動パラフィンを抽出除去し、その後塩化メチレンを乾燥除去した。さらに、このシートをTDテンターに導き、温度120℃、倍率1.5倍にて低倍率延伸を実施し、温度127℃、緩和率0.85倍にて熱固定を行い、微多孔フィルムを得た。
得られた微多孔フィルムをJIS−K7215に準拠して測定されるタイプDのデュロメータ硬さ70である直径100mmの樹脂ロールと直径200mmの40℃に温調した金属ロールから構成されるロールプレス機を用いて、線圧392N/cm、ライン速度10m/minにて連続加圧することによりポリオレフィン製微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0048】
[実施例4]
実施例2で得られたポリオレフィン製微多孔膜を、温度115℃、倍率1.2倍にて低倍率延伸を実施し、温度118℃で緩和率0.92倍にて熱固定を行った。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0049】
[比較例4]
加圧しなかったこと以外実施例2と同様に実施した。得られた微多孔フィルムの物性を表1に示す。
【0050】
[比較例5]
比較例4で得られた微多孔フィルムをTDテンターに導き、温度128℃、延伸倍率1.1倍に延伸した。得られた微多孔フィルムの物性を表1に示す。
【0051】
[実施例5]
Mv25万、融点136℃の高密度ポリエチレン35wt%、Mv70万、融点135℃の超高分子量ポリエチレン60wt%、Mv40万、融点163℃のポリプロピレンホモポリマー5wt%を、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られたポリマー混合物99wt%に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1wt%添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。フィーダーおよび二軸延伸機内の雰囲気を窒素で置換し、得られた混合物をフィーダーにより二軸押出機へ供給し、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
【0052】
溶融混練で押し出される全混合物中に占める樹脂濃度が35wt%となるように、フィーダー及びポンプを調整した。
続いて、溶融混練物をT−ダイより押出し、冷却固化することで1300μmのシートを得た。
次に、このシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.4倍、設定温度121℃とした。
その後、このシートを塩化メチレン槽に導き、塩化メチレン中に充分に浸漬させて流動パラフィンを抽出除去し、その後塩化メチレンを乾燥除去した。さらに、このシートをTDテンターに導き、温度115℃、倍率1.4倍にて低倍率延伸を実施し、温度123℃、緩和率0.79倍にて熱固定を行い、微多孔フィルムを得た。
得られた微多孔フィルムをJIS−K7215に準拠して測定されるタイプDのデュロメータ硬さ70である直径100mmの樹脂ロールと、直径200mmの40℃に温調した金属ロールから構成されるロールプレス機を用いて、線圧360N/cm、ライン速度10m/minにて連続加圧することによりポリオレフィン製微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0053】
[比較例6]
加圧しなかったこと以外実施例4と同様に実施した。得られた微多孔フィルムの物性を表1に示す。
【0054】
[実施例6]
Mv13万、融点134℃の高密度ポリエチレン99.7wt%と酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.3wt%とをタンブラーブレンダーを用いてドライブレンドし混合物を得た。フィーダーおよび二軸延伸機内の雰囲気を窒素で置換し、得られた混合物をフィーダーにより二軸押出機へ供給し、溶融混練した。Tダイよりドラフト比100となるように溶融配向させながらロール表面温度25℃に制御したロールでポリオレフィン製フィルムを巻き取った。次に115℃で30分間熱処理を実施した。得られたシートをロール延伸機を用いて、25℃でMDへ1.5倍延伸し、次いで120℃でMDへ2倍延伸した後、125℃で熱処理を行い、微多孔フィルムを得た。得られた微多孔フィルムをJIS−K7215に準拠して測定されるタイプDのデュロメータ硬さ70である直径100mmの樹脂ロールと、直径200mmの40℃に温調した金属ロールから構成されるロールプレス機を用いて、線圧424N/cm、ライン速度10m/minにて連続加圧することによりポリオレフィン製微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。
【0055】
[比較例7]
加圧しなかったこと以外実施例5と同様に実施した。得られた微多孔フィルムの物性を表1に示す。
【0056】
[比較例8]
Mv25万、融点136℃の高密度ポリエチレン40wt%、Mv70万、融点135℃の超高分子量ポリエチレン60wt%を、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られたポリマー混合物99wt%に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1wt%添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。フィーダーおよび二軸延伸機内の雰囲気を窒素で置換し、得られた混合物をフィーダーにより二軸押出機へ供給し、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
溶融混練で押し出される全混合物中に占める樹脂濃度が35wt%となるように、フィーダー及びポンプを調整した。
続いて、溶融混練物をT−ダイより押出し、冷却固化することで2000μmのシートを得た。
【0057】
得られたシートを、バッチ式プレス機により温度120℃で圧延し、次に30℃で冷却圧延することで厚さ450μmの圧延シートを得た(圧延倍率4.5倍)。次に、バッチ式二軸延伸機(岩本製作所製)で縦2.1倍、横2.1倍で同時二軸延伸し、厚み100μの延伸膜を得た。さらに、四方を枠固定した延伸膜から流動パラフィンを塩化メチレンで抽出したのち、130℃で10秒間熱固定を行い、微多孔フィルムを得た。得られた微多孔フィルムの膜厚は25μmであり、気孔率58%であった。得られた微多孔フィルムの電解液浸透性試験及び電解液吸液性試験は×であり電解液含浸性に劣っていた。
【0058】
[比較例9]
Mv200万、融点134℃の超高分子量ポリエチレン3wt%、Mv25万、融点136℃の高密度ポリエチレン27wt%、DOP50.6重量%、微粉シリカ19.4重量%を混合造粒した。次に、フィーダーおよび二軸延伸機内の雰囲気を窒素で置換し、該造粒物をフィーダーより2軸押出機へ供給して溶融混練した後にT−ダイより押出し、冷却固化し、厚さ450μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを、水酸化ナトリウム水溶液にて微粉シリカを抽出除去し微多孔フィルムを作製した。次にバッチ式プレス機により温度100℃で微多孔フィルムの厚さが165μとなるように圧縮した。膜厚方向の圧縮率は63%、圧縮による延伸倍率は1.36倍であった。次にバッチ式二軸延伸機を用いて110℃で縦に2倍延伸し、その後128℃で横1.73倍の延伸を行った。圧延と延伸による延伸総倍率は4.7倍であった。得られた微多孔膜の膜厚は24μm、気孔率は60%であった。得られた微多孔膜の電解液浸透性試験及び電解液吸液性試験は×であり電解液含浸性に劣っていた。
【0059】
以上の実施例より以下のことが示される。すなわち実施例1と比較例1、2の比較、実施例2と比較例4の比較、実施例3と比較例6の比較、実施例4と比較例7の比較より、膜厚方向への加圧により電解液含浸性が向上できることが明らかである。さらに、実施例1と比較例3の比較、実施例2と比較例5の比較では、熱固定後の一軸延伸では電解液含浸性は向上せず、膜厚方向への加圧でのみ電解液含浸性の向上が見られることが明らかである。またさらに、比較例8、9からは未延伸の可塑剤含有フィルム(すなわち無孔質)、未延伸微多孔フィルムを膜厚方向に加圧しても電解液含浸性の向上が見られないことが明らかである。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の製造方法により、高い電解液含浸性を有し、かつ透過性と機械強度と耐熱性に優れるポリオレフィン製微多孔膜を製造することが可能となる、従って電子デバイス用セパレータ、リチウムイオン電池用セパレータとして優れた製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】ヒューズ温度・ショート温度測定装置の概略図である。
【符号の説明】
【0063】
1:微多孔膜
2A、2B:厚さ10μmのニッケル箔
3A、3B:ガラス板
4:電気抵抗測定装置
5:熱電対
6:温度計
7:データーコレクター
8:オーブン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1軸方向へ延伸した実質的に空孔部を有する微多孔フィルムを、膜厚方向に少なくとも1回、膜圧方向の変形率1%以上となるように加圧する工程を含むポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。
【請求項2】
前記加圧工程を、熱固定工程よりも後に行う請求項1に記載のポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。
【請求項3】
前記加圧が、ロールプレス機またはカレンダープレス機による請求項1又は2に記載のポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
【請求項4】
ポリオレフィンと、ポリオレフィンの融点以上で均一な溶液を形成する可塑剤とを混練したのち、微多孔フィルムを製造する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリオレフィン製微多孔膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−149710(P2009−149710A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326785(P2007−326785)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】