説明

ポリカーボネート樹脂、塗工液、および電子写真感光体

【課題】電子写真感光体に用いた場合に、優れた電気特性および耐傷性を付与できるポリカーボネート樹脂、該ポリカーボネート樹脂を含む塗工液、および、該ポリカーボネート樹脂を用いた電子写真感光体を提供すること。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂は、下記式(1)に示すモノマー単位を有し、少なくとも一端が下記式(2)で示す末端基により封止された構造である。




(式中、Arは、2価の芳香族基を示し、Zは、炭素数2〜6の脂肪族炭化水素基、nは40〜700の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂、それを用いた塗工液、および電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)か
ら製造されるポリカーボネート樹脂は、透明性が高く、優れた機械的性質を有することから、光学材料や電子材料など種々の用途に使用されている。例えば、近年になって、電子写真感光体用としての用途が広がっている。
この電子写真感光体は、その感光層の表面に、コロナ帯電あるいはロールやブラシを用いた接触帯電、トナー現像、紙への転写、クリーニング処理などの操作が繰り返し行われるため、これらの操作を行うたびに電気的、機械的外力が加えられる。したがって、長期間に亘って電子写真の画質を維持するためには、電子写真感光体の表面に設けた感光層に、これら外力に対する耐久性が要求される。具体的には、摩擦による表面の摩耗や傷の発生、コロナ帯電や接触帯電、転写でのオゾンなどの活性ガスや放電による表面の劣化に対する耐久性が要求される。
【0003】
このような要求に応えるため、電子写真感光体のバインダ一樹脂としては、感光層に用いる電荷輸送物質との相溶性が良く、光学特性も良好なポリカーボネート樹脂が使用されてきた。しかしながら、前記したビスフェノールAや、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などを原料とする従来のポリカーボネート樹脂では、上記の要求を満足させるには不十分であった。
そこで、上記の問題を解決する手法として、主鎖あるいは末端にシロキサン結合を有す構造を具備したポリカーボネート樹脂を含有する電子写真感光体が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−132954号公報
【特許文献2】特開平2−240655号公報
【特許文献3】特許第3350617号公報
【特許文献4】特許第3606074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示されたポリカーボネート樹脂では、化学的に不安定なSi−O−C結合を介して結合しているために、分子鎖切断による機械特性の劣化や、分子末端にシラノール基が残存することによる帯電特性の劣化が問題となる。また、特許文献3は、前記した問題を解決するため、ポリカーボネート樹脂の末端基として化学的に安定なSi−C結合で接合されたポリシロキサン構造を有するものである。しかし、このポリカーボネート樹脂を用いた電子写真感光体は、帯電特性は向上するものの、耐擦傷性の改善効果は十分とは言えなかった。
特許文献4には、本発明のポリカーボネート樹脂と類似する樹脂を電子写真感光体の感光層中のバインダー樹脂に使用する技術が開示されている。しかし、ポリシロキサン部位の繰返し単位数が小さいため、耐擦傷性の改善効果は十分とは言えなかった。
そこで、本発明は、電子写真感光体に用いた場合に、優れた耐擦傷性および電気特性(帯電特性等)を付与できるポリカーボネート樹脂、該樹脂を含む塗工液、および、前記したポリカーボネート樹脂を用いた電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決すべく、本発明は、以下のようなポリカーボネート樹脂、塗工液および電子写真感光体を提供するものである。
[1]下記式(1)に示すモノマー単位を有するポリカーボネート樹脂であって、少なくとも一端が下記式(2)で示す末端基により封止された構造であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【0007】
【化1】


(式中、Arは、2価の芳香族基を示す。)
【0008】
【化2】

(式中、Zは、炭素数2〜6の脂肪族炭化水素基、Rは、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、R〜Rは各々独立に水素、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を示す。nは40〜700の整数である。
【0009】
[2]上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂において、該ポリカーボネート樹脂を、THF(テトラヒドロフラン)に10質量%の濃度で溶解した溶液のヘーズ(JIS K7105に準拠、光路長10mm)が5%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【0010】
[3]上記[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂において、
該ポリカーボネート樹脂を、THFに25質量%の濃度で溶解した溶液のヘーズが10%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂において、前記式(1)におけるArが下記式(3)で示される官能基を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【0011】
【化3】

{式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基および炭素数6〜12のアリールオキシ基から選ばれたいずれかの官能基を示す。Xは、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、−CX−(ここで、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、トリフルオロメチル基、置換または無置換の炭素数1〜10のアルキル基、および置換または無置換の炭素数6〜12のアリール基から選ばれる官能基を示す。)置換または無置換の炭素数5〜11のシクロアルキリデン基、置換または無置換の炭素数2〜12のα,ω−アルキレン基、置換または無置換の9,9−フルオレニリデン基、置換または無置換の炭素数6〜12のアリーレン基、下記式(4)で示されるテルペン類から誘導される二価の官能基、ならびに下記式(5)で示される炭素数8〜16のアルキリデンアリーレンアルキリデン基から選ばれる官能基を示す。ただし、XとXがともにメチル基の場合は、Xは−CX−単独であることはない。}
【0012】
【化4】

(式中、R〜R10は、RおよびRと同様の官能基を示す。)
【0013】
【化5】

(式中、R11〜R13は、RおよびRと同様の官能基を示す。)
【0014】
[5]上記[4]に記載のポリカーボネート樹脂において、前記式(3)におけるXが−CHCH−、−C(CH)C−、単結合、置換または無置換の炭素数5〜11のシクロアルキリデン基、および置換または無置換の9,9−フルオレニリデン基フルオレニリデン基から選ばれる官能基であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【0015】
[6]上記[4]または[5]に記載のポリカーボネート樹脂において、前記式(3)で示される官能基が、(A)Xが単結合である官能基と、Xが単結合以外である官能基との組み合わせ、(B)Xが置換または無置換の炭素数5〜11のシクロアルキリデン基である官能基と、Xが置換または無置換の炭素数5〜11のシクロアルキリデン基以外である官能基との組み合わせ、(C)Xが置換または無置換の9,9−フルオレニリデン基である官能基と、Xが置換または無置換の9,9−フルオレニリデン基以外である官能基との組み合わせ、(D)Xが炭素数8〜16のアルキリデンアリーレンアルキリデン基である官能基と、Xが炭素数8〜16のアルキリデンアリーレンアルキリデン基以外である官能基との組み合わせであることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【0016】
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂において、前記式(2)で示されるモノマー単位の該ポリカーボネート樹脂全体に占める割合が0.01〜50質量%であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【0017】
[8]上記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂、および溶媒を含有することを特徴とする塗工液。
【0018】
[9]上記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする電子写真感光体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂が、前記式(1)で示されるモノマー単位を有し、さらに、該ポリカーボネート樹脂の少なくとも一端が前記式(2)で示される末端基により封止された構造であるので、このポリカーボネート樹脂を、電子写真感光体の感光層のバインダ一樹脂として用いた場合に、耐久性(耐擦傷性)および帯電特性等の電気特性に優れた電子写真感光体を提供することができる。また、このポリカーボネート樹脂と溶媒からなる塗工液は、長期保存期間に亘って白化またはゲル化を起こさず、優れた安定性を示す。例えば、この塗工液を電子写真感光体の感光層形成に用いると、塗工時にバインダー樹脂の結晶化を起こすこともなく、長期にわたって優れた電子写真特性および優れた耐擦傷性を示す電子写真感光体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明のポリカーボネート樹脂(以下、単に「PC樹脂」ともいう)、このPC樹脂を用いた塗工液、およびその塗工液を用いた湿式成形体からなる電子写真感光体について詳細に説明する。
[PC樹脂の構造]
本発明のPC樹脂は、下記式(1)に示すモノマー単位を有するPC樹脂であって、少なくとも一端が下記式(2)で示す末端基により封止された構造を備えている。
【0021】
【化6】

前記の式(1)において、Arは、2価の芳香族基を示す。
【0022】
【化7】

前記の式(2)において、Zは、炭素数2〜6の脂肪族炭化水素基、好ましくはアルキレン基であり、特にメチレン鎖であることが好ましい。Rは、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、R〜Rは各々独立に水素、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を示す。nは40〜700の整数である。
ここで、シロキサン単位の繰り返し数(シロキサン鎖長)nが40未満であると、PC樹脂を電子写真感光体のバインダ樹脂として用いた場合に耐擦傷性が劣るので好ましくない。また、nが700を越えると、電子写真感光体のバインダ樹脂塗工用としてTHF等に溶解した場合に、その塗工液が白濁してしまい好ましくない。塗工液が白濁した状態で塗工すると、結果的に帯電特性の劣った電子写真感光体が得られるからである。
それ故、シロキサン鎖長nとしては、50〜350であることが好ましく、55〜220であることがより好ましく、60〜160であることがさらに好ましい。
また、式(2)の末端基は、PC樹脂の両末端を封止していてもよいし、もう一方を、アルキルフェノールなど、他の末端停止剤で封止された構造であってもよい。
【0023】
ここで、本発明のPC樹脂としては、該PC樹脂を、THF(テトラヒドロフラン)に10質量%の濃度で溶解した溶液のヘーズ(JIS K7105に準拠、光路長10mm)が5%以下である。また、該PC樹脂を、THFに25質量%の濃度で溶解した溶液のヘーズは10%以下であることが好ましい。
このようにTHF溶液のヘーズが高いと、すなわち白濁を生じるようなPC樹脂では、例えば、湿式成形して電子写真感光体用のバインダ樹脂として用いた場合、白濁した部分が電荷移動のトラップとなるため、電子写真特性(感度)が悪化する場合がある。
【0024】
前記したような所定の溶液においてヘーズの高い、すなわち、THFに溶解したときに白濁を生じるようなPC樹脂となるのは、例えば、式(2)で示される末端基に対応するモノマー(例えば、後述する式(7))と、式(1)に対応するモノマー(例えば、後述する式(6))とが不均一に重合した場合が考えられる。あるいは、それらのモノマー同士が均一に重合したものであっても、シロキサン部分がドメインを形成し、PC樹脂全体として不均一になっている場合が考えられる。このような不均一な構造を有するPC樹脂では、例えば、湿式成形して電子写真感光体用のバインダ樹脂として用いた場合、不均一部分が電荷移動時のトラップサイトとなるため、電子写真感光体としての電気特性(帯電特性等)が悪化すると推定される。一方、前記した式(2)におけるnが小さいと、すなわちシロキサン鎖長が短くなると電子写真感光体の耐擦傷性が低下する。
【0025】
また、本発明のPC樹脂において、前記式(1)におけるArとしては、下記式(3)で示される官能基の少なくとも一種を含むことが好ましい。
【化8】

【0026】
ここで、式(3)において、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数3〜12、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜10のアリ一ル基、炭素数3〜12、好ましくは炭素数5〜9のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基および炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜10のアリールオキシ基から選ばれる官能基を示す。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、2−メトキシエチル基などが挙げられる。炭素数6〜12のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基などが挙げられる。炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n一プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、各種ペントキシ基などが挙げられる。炭素数6〜12のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、ナフチルオキシ基などが挙げられる。
上記式(3)において、Xは、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、−CX−(ここで、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、トリフルオロメチル基、置換または無置換の炭素数1〜10のアルキル基、および置換または無置換の炭素数6〜12のアリール基から選ばれる官能基を示す。)、置換または無置換の炭素数5〜11、好ましくは炭素数5〜9のシクロアルキリデン基、置換または無置換の炭素数2〜12、好ましくは炭素数2〜6のα,ω−アルキレン基、置換または無置換の,9−フルオレニリデン基、置換または無置換の炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜10のアリーレン基、下記式(4)で示されるテルペン類から誘導される二価の官能基、ならびに下記式(5)で示される炭素数8〜16のアルキリデンアリーレンアルキリデン基から選ばれる官能基を示す。ただし、XとXがともにメチル基の場合は、Xは−CX−単独であることはない。例えば、一般式(1)に該当するモノマーとして、ビスフェノールAを採用し、一般式(2)に該当するモノマー(末端封止剤)との2元共重合体を製造した場合、ポリマーの結晶性が高いために溶解性に影響が現れ、塗工液を製造する際に使用する溶媒が限定される。このため、XとXがともにメチル基の場合は、例えば、Xが単結合のような構造単位をも含む共重合PC樹脂とすることが好ましい。
【0027】
【化9】

(式中、R〜R10は、RおよびRと同様の官能基を示す。)
【0028】
【化10】

(式中、R11〜R13は、RおよびRと同様の官能基を示す。)
【0029】
また、上記式(3)におけるXのうち、−CX−におけるXおよびXとしては、水素とメチル基、あるいはメチル基とエチル基の組み合わせが好ましい。この場合、一般式(2)のシロキサン鎖長nも影響するが、耐擦傷性に優れるポリカーボネート樹脂が得られる。
Xのうちの置換または無置換の炭素数5〜11のシクロアルキリデン基としては、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基などが挙げられる。置換または無置換の炭素数2〜12のα,ω−アルキレン基としては、α,ω−エチレン基、α,ω−プロピレン基、α,ω−ブチレン基などが挙げられる。置換または無置換の炭素数6〜12のアリーレン基としては、フェニレン基、アルキル置換フェニレン基、ナフチレン基、アルキル置換ナフチレン基などが挙げられる。
【0030】
上記式(1)で示されるモノマー単位を構成する組み合わせとしては、式(3)で示される官能基が、(A)Xが単結合である官能基と、Xが単結合以外である官能基との組み合わせ、(B)Xが置換または無置換の炭素数5〜11のシクロアルキリデン基である官能基と、Xが置換または無置換の炭素数5〜11のシクロアルキリデン基以外である官能基との組み合わせ、(C)Xが置換または無置換の9,9−フルオレニリデン基である官能基と、Xが置換または無置換の9,9−フルオレニリデン基以外である官能基との組み合わせ、(D)Xが炭素数8〜16のアルキリデンアリーレンアルキリデン基である官能基と、Xが炭素数8〜16のアルキリデンアリーレンアルキリデン基以外である官能基との組み合わせであるものが挙げられる。
【0031】
本発明のPC樹脂において、式(2)で示す末端基(以下、「ポリシロキサン」ともいう。)の含有量は、特に制限はないが、例えば、電子写真感光体用のバインダー樹脂としての物性、および、最終的に電子写真感光体となったときの、電気的特性(帯電特性)や耐擦傷性を考慮すると、ポリカーボネート樹脂全体に占める割合が、0.01〜50質量%であることが好ましく、0.05〜20質量%であることがより好ましく、0.1〜10質量%であることがさらに好ましく、0.5〜5質量%であることが最も好ましい。ポリシロキサンの質量分率が0.01質量%未満では、電子写真感光体を構成したときに耐擦傷性が十分得られず好ましくない。また、ポリシロキサンの室量分率が50質量%を越えると電子写真感光体の強度の低下を招き、耐擦傷性が低下するので好ましくない。
なお、シロキサン鎖長とポリシロキサンの質量分率は、ともに前記した範囲にあることが好ましい。
【0032】
また、本発明のPC樹脂は、塩化メチレンを溶媒とする濃度0.5g/dl溶液の20℃における還元粘度[ηsp/C]が0.1〜5dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.2〜3dl/g、特に好ましくは0.3〜2.5dl/gである。還元粘度[ηsp/C]が0.1dl/g未満であると、電子写真感光体を形成したときの耐傷性が不十分となるおそれがある。また、還元粘度[ηsp/C]が5dl/gを超えると、感光体製造時に、塗工粘度が高くなりすぎて、電子写真感光体の生産性が低下するおそれがあり好ましくない。
【0033】
また、PC樹脂が前記した特定のポリシロキサン(末端基)、ビフェノール単位およびビスフェノール単位からなるいわば3元共重合体のような構造であると、電子写真感光体形成用の塗工液に対する溶解度が高くなり、さらに、電子写真感光体の耐擦傷性も向上するので好ましい。
例えば、式(1)のモノマー単位は、式(3)に示すXが単結合であるいわゆるビフェノール単位と、Xが−CX−および/またはシクロアルキリデン基であるビスフェノール単位との組み合わせであることがより好ましい。
なお、ビフェノール単位も広義のビスフェノール単位であるが、本願においては、Xが単結合である場合を、特にビフェノール単位として区別する。また、これらに対応するモノマーをビフェノール化合物、ビスフェノール化合物のように区別して記載することもある。
本発明のPC樹脂は、本発明の目的に支障のない範囲で、式(1)のモノマー単位以外の他のモノマー単位(繰り返し単位)を有していてもよい。
【0034】
〔PC樹脂の製造方法〕
本発明のPC樹脂は、その主鎖については、例えば、下記式(6)で示されるモノマーを用いて界面重縮合することにより容易に製造することができる。ここで、下記式(6)のArの具体的構造は、前記式(1)のArと同じである。
【0035】
【化11】

【0036】
また、本発明のPC樹脂は、末端基として特定のポリシロキサン構造(式(2)参照)を含むが、このような構造を付与するには、例えば、下記式(7)で示す一官能性フェノールを末端封止剤として重合時に共存させる方法を適用すればよい。このような一官能性フェノールは、ポリシロキサンが結合したものを単独で重合系に共存させても良いし、他の一官能性フェノール例えば、p−tert−ブチルフェノール、フェノール、クミルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール等と共に用いても良い。あるいは、他の製造方法として炭素−炭素二重結合を末端に有するポリカーボネートへの片末端Si−H構造のポリシロキサンのヒドロシリル化反応によっても製造することができる。
【0037】
【化12】

ここで、式(7)の具体的構造(Z、R〜R、n)は、式(2)のそれと同じである。
【0038】
また、前記した式(6)のモノマー(二価フェノール)としては、ビフェノール化合物やビスフェノール化合物が挙げられる。具体的には、ビフェノール化合物として、4,4’−ビフェノール、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェノール、3,3’,5−トリメチル−4,4’−ビフェノール、3−プロピル−4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール、3,3’−ジフェニル−4,4’−ビフェノール、3,3’−ジブチル−4,4’−ビフェノール等が挙げられる。中でも、4,4’−ビフェノールが着色の少ないPC樹脂を与えるという点で好ましい。また、電子写真感光体用のPC樹脂として適用した場合には、耐久性も向上する。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、ビスフェノール化合物として、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,3−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,7−ナフタレンジオール、2,6−ナフタレンジオール、1,4−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、2,2−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(2−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)イソブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−1−フェニルメタン、1,1−ビス(2−tert−アミル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ブタン、ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシ−5−クロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1−フェニル−1,1−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ジフェノール、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、末端フェノールポリジメチルシロキサン、α−トリメチルシロキシ−ω−ビス{3−(2−ヒドロキシフェニル)プロピルジメチルシロキシ}−メチルシロキシ−2−ジメチルシリルエチル−ポリジメチルシロキサン、およびα,ω−ビス(3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロピル)−ジメチルシロキシ−ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。これらのビスフェノール化合物は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、三価以上のフェノールを用いて分岐構造を持たせてもよい。
【0039】
これらのビスフェノール化合物の中で、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ジフェノール、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、末端フェノールポリジメチルシロキサン、α−トリメチルシロキシ−ω−ビス{3−(2−ヒドロキシフェニル)プロピルジメチルシロキシ}−メチルシロキシ−2−ジメチルシリルエチル−ポリジメチルシロキサン、およびα,ω−ビス(3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロピル)−ジメチルシロキシ−ポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0040】
さらに好ましくは、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ジフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンである。
このようなビスフェノール化合物をモノマーとして製造されたPC樹脂を電子写真感光体に適用すると、クリーニング工程などにおいて他の部材との摩擦によっても傷が発生しにくくなり、結果として耐久性(耐傷性)が向上するため好ましい。
【0041】
本発明のPC樹脂は、式(6)のモノマーを用いて界面重縮合を行うことで容易に得られる。例えば、ホスゲンをはじめとする各種のジハロゲン化カルボニル、あるいはクロロフォルメート化合物等のハロホルメート類、炭酸エステル化合物などを用いて、酸結合剤の存在下に界面重縮合を行うことで好適に炭酸エステル結合を形成することができる。この反応の際に、末端停止剤として、前記式(7)の一官能性フェノールを存在させればよい。また、重合時には、分岐剤を存在させてもよい。
ここで、本発明のPC樹脂の製造においては、式(6)のモノマー(二価フェノール)として、前記したビフェノール化合物およびビスフェノール化合物を併用して共重合体としてもよい。
【0042】
なお、前記式(7)以外に、さらに加えてもよい末端停止剤としては、一価のカルボン酸とその誘導体や、一価のフェノールを用いることができる。例えば、p−tert−ブチル−フェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−パーフルオロノニルフェノール、p−(パーフルオロノニルフェニル)フェノール、p−(パーフルオロキシルフェニル)フェノール、p−tert−パーフルオロブチルフェノール、1−(P−ヒドロキシベンジル)パーフルオロデカン、p−〔2−(1H,1H−パーフルオロトリドデシルオキシ)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル〕フェノール、3,5−ビス(パーフルオロヘキシルオキシカルボニル)フェノール、p−ヒドロキシ安息香酸パーフルオロドデシル、p−(1H,1H−パーフルオロオクチルオキシ)フェノール、2H,2H,9H−パーフルオロノナン酸、1,1,1,3,3,3−テトラフロロ−2−プロパノール、p−パーフルオロオクチルフェノール、あるいは、下記式で示されるアルコールなどが好適に用いられる。
H(CFCHOH
(nは、1〜12の整数)
F(CFCHOH
(mは、1〜12の整数)
これら末端停止剤の添加割合は、共重合組成比として、0.05〜30モル%、さらに好ましくは0.1〜10モル%であり、この割合が30モル%を超えると機械的強度の低下を招くことがあり、0.05モル%未満であると成形性の低下を招くことがある。
【0043】
また、分岐剤の具体例としては、フロログリシン、ピロガロール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ヘプテン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−3−ヘプテン、2,4−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス〔4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル〕プロパン、2,4−ビス〔2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル〕フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、テトラキス〔4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ〕メタン、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、シアヌル酸、3,3−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−オキソ−2,3−ジヒドロインドール、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロモイサチンなどが挙げられる。
これら分岐剤の添加量は、共重合組成比で30モル%以下、好ましくは5モル%以下であり、これが30モル%を超えると成形性の低下を招くことがある。
【0044】
界面重縮合を行う場合、酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物や、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、ピリジンなどの有機塩基、あるいはこれらの混合物を用いることができる。この酸結合剤の使用割合も反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜調整すればよい。具体的には、原料の二価フェノールの水酸基1モル当たり、1当量もしくはそれより過剰量、好ましくは1〜10当量の酸結合剤を使用すればよい。
【0045】
ここで用いる溶媒としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素や、塩化メチレン、クロロホルム、1.1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、アセトフェノンなどが好適なものとして挙げられる。これら溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、互いに混ざり合わない2種の溶媒を用いて界面重縮合反応を行ってもよい。
【0046】
また、前記触媒としては、トリメチルアミンや、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、ジメチルアニリンなどの三級アミン、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリブチルベンジルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイドなどの四級アンモニウム塩、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイドなどの四級ホスホニウム塩などが好適である。
さらに、必要に応じて、この反応系に亜硫酸ナトリウムやハイドロサルファイト塩などの酸化防止剤を少量添加してもよい。
【0047】
PC樹脂の製造法は、具体的には様々な態様で実施可能であり、例えば式(6)のビスフェノール化合物および/またはビフェノール化合物とホスゲンなどを反応させて、ポリカーボネートオリゴマーを製造し、ついでこのポリカーボネートオリゴマーに、上記式(7)の一官能性フェノール(ポリシロキサン)を、前記溶媒および酸結合剤のアルカリ水溶液の混合液の存在下に反応させる方法を採用してもよい。また、前記の二価フェノールとホスゲンを、前記溶媒とアルカリ水溶液との混合液中で反応させる方法を採用してもよい。通常は、前者の、予めポリカーボネートオリゴマーを製造する方法が効率的であることから好ましい。
【0048】
ポリカーボネートオリゴマーを製造するには、まず、アルカリ水溶液に二価フェノールを溶解し、二価フェノールのアルカリ水溶液を調製する。ついで、このアルカリ水溶液と塩化メチレンなどの有機溶媒との混合液に、ホスゲンを導入して反応させ、二価フェノールのポリカーボネートオリゴマーを合成する。ついで、反応溶液を水相と有機相とに分離し、ポリカーボネートオリゴマーを含む有機相を得る。この際、アルカリ水溶液のアルカリ濃度は、0.1〜5規定の範囲が好ましく、また有機相と水相との容積比は、10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5の範囲である。
反応温度は、冷却下に通常0〜70℃、好ましくは5〜65℃であり、反応時間は15分間〜4時間、好ましくは30分間〜3時間程度である。このようにして得られるポリ
カーボネートオリゴマーの平均分子量は6000以下、重合度は,通常20以下、好ましくは2〜10量体のものである。
【0049】
このようにして得られたポリカーボネートオリゴマーを含む有機相に、式(7)のポリシロキサンを加えて反応させる。反応温度は、0〜150℃、好ましくは5〜40℃、特に好ましくは5〜20℃である。特に反応温度を20℃以下とすることで、生成するPC樹脂の黄色度を抑制することができる。
反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれでもよいが、通常は、常圧もしくは反応系の自圧程度で好適に行い得る。反応時間は、反応温度によって左右されるが、通常0.5分間〜10時間、好ましくは1分間〜2時間程度である。
ここで、ポリシロキサンの繰り返し単位数が多くなるほど、同じ重合条件では、得られたPC樹脂がTHF溶液中で白濁しやすくなる(ヘーズが上昇)。これを防止するためには、ポリシロキサンの繰り返し単位数が多くなるほど、重合時の上記オリゴマー固形分濃度(溶媒中の重合活性成分量)を下げることが必要である。例えば、ポリカーボネートオリゴマーの固形分濃度をシロキサン鎖長(繰り返し単位数)に応じて、下記のような範囲とすることが好ましい。なお、溶媒は塩化メチレンが好ましいが他の溶媒でも傾向は同じである。
鎖長40〜58:150g/L以下
鎖長59〜92:120g/L以下
鎖長93〜137:100g/L以下
鎖長138〜158:60g/L以下
鎖長159〜350:30g/L以下
鎖長351〜700:10g/L以下
この反応にあたって、二価フェノールは、有機溶媒溶液および/またはアルカリ水溶液として添加するのが望ましい。その添加順序については、特に制限はない。なお、触媒、末端停止剤および分岐剤などは、上記の製造法において、必要に応じ、ポリカーボネートオリゴマーの製造時、その後の高分子量化の反応時のいずれか、またはその両方において添加して用いることができる。
【0050】
このようにして得られるPC樹脂は、前記式(1)で示される繰返し単位からなり、少なくとも一端が前記式(2)で示される末端構造を有する重合体である。
このPC樹脂には、本発明の目的達成を阻害しない範囲で、式(1)以外の構造単位を有するポリカーボネート単位や、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル構造を有する単位を含有しているものであってもよい。
【0051】
なお、得られるPC樹脂の還元粘度[ηsp/C](粘度平均分子量と相関のある値)
を前記の範囲にするには、例えば、前記反応条件の選択、分岐剤や分子量調節剤の使用量の調節など各種の方法によってなすことができる。また、場合により、得られたPC樹脂に適宜物理的処理(混合、分画など)および/または化学的処理(ポリマー反応、架橋処理、部分分解処理など)を施して所定の還元粘度[ηsp/C]のPC樹脂として取得することもできる。
また、得られた反応生成物(粗生成物)は、公知の分離精製法等の各種の後処理を施して、所望の純度(精製度)のものをPC樹脂として回収することができる。
【0052】
[電子写真感光体の構成]
本発明の電子写真感光体は、上述のPC樹脂を感光層中に用いる限り、公知の種々の形式の電子写真感光体はもとより、どのようなものとしてもよいが、感光層が、少なくとも1層の電荷発生層と少なくとも1層の電荷輸送層を有する有機電子写真感光体、または、一層に電荷発生物質と電荷輸送物質を有する有機電子写真感光体とすることが好ましい。
【0053】
PC樹脂は、感光層中のどの部分にも使用してもよいが、本発明の効果を十分に発揮するためには、電荷輸送層中において電荷移動物質のバインダー樹脂として使用するか、単一の感光層のバインダー樹脂として使用するか、表面保護層として使用することが望ましい。電荷輸送層を2層有する多層型の電子写真感光体の場合には、そのいずれかの電荷輸送層に使用することが好ましい。
本発明の電子写真感光体において、前記した本発明のPC樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。また、所望に応じて本発明の目的を阻害しない範囲で、他のポリカーボネート等のバインダー樹脂成分を含有させてもよい。さらに、酸化防止剤等の添加物を含有させてもよい。
【0054】
本発明の電子写真感光体は、感光層を導電性基板上に有するものである。感光層が電荷発生層と電荷輸送層とを有する場合、電荷発生層上に電荷輸送層が積層されていてもよく、また電荷輸送層上に電荷発生層が積層されていてもよい。また、一層中に電荷発生物質と電荷輸送物質を同時に含むものであってもよい。さらにまた、必要に応じて表面層に導電性または絶縁性の保護膜が形成されていてもよい。さらに、各層間の接着性を向上させるための接着層あるいは電荷のブロッキングの役目を果すブロッキング層等の中間層などが形成されているものであってもよい。
【0055】
本発明の電子写真感光体に用いられる導電性基板材料としては、公知のものなど各種のものを使用することができ、具体的には、アルミニウムやニッケル、クロム、パラジウム、チタン、モリブデン、インジウム、金、白金、銀、銅、亜鉛、真鍮、ステンレス鋼、酸化鉛、酸化錫、酸化インジウム、ITO(インジウムチンオキサイド:錫ドープ酸化インジウム)もしくはグラファイトからなる板やドラム、シート、ならびに蒸着、スパッタリング、塗布などによりコーティングするなどして導電処理したガラス、布、紙もしくはプラスチックのフィルム、シートおよびシームレスシーベルト、ならびに電極酸化等により金属酸化処理した金属ドラムなどを使用することができる。
【0056】
前記電荷発生層は少なくとも電荷発生材料を有するものであり、この電荷発生層はその下地となる基板上に真空蒸着、スパッタ法等により電荷発生材料の層を形成せしめるか、またはその下地となる基板上に電荷発生材料を、バインダー樹脂を用いて結着してなる層を形成せしめることによって得ることができる。バインダー樹脂を用いる電荷発生層の形成方法としては公知の方法等各種の方法を使用することができるが、通常、例えば、電荷発生材料をバインダー樹脂と共に適当な溶媒により分散若しくは溶解した塗工液を、所定の下地となる基板上に塗布し、乾燥せしめて湿式成形体として得る方法が好適である。
【0057】
前記電荷発生層における電荷発生材料としては、公知の各種のものを使用することができる。具体的な化合物としては、非晶質セレンや、三方晶セレン等のセレン単体、セレン−テルル等のセレン合金、As2Se3等のセレン化合物もしくはセレン含有組成物、酸化亜鉛、CdS−Se等の周期律表第12族および第16族元素からなる無機材料、酸化チタン等の酸化物系半導体、アモルファスシリコン等のシリコン系材料、τ型無金属フタロシアニン、χ型無金属フタロシアニン等の無金属フタロシアニン顔料、α型銅フタロシアニン、β型銅フタロシアニン、γ型銅フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、X型銅フタロシアニン、A型チタニルフタロシアニン、B型チタニルフタロシアニン、C型チタニルフタロシアニン、D型チタニルフタロシアニン、E型チタニルフタロシアニン、F型チタニルフタロシアニン、G型チタニルフタロシアニン、H型チタニルフタロシアニン、K型チタニルフタロシアニン、L型チタニルフタロシアニン、M型チタニルフタロシアニン、N型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、オキソチタニルフタロシアニン、X線回折図におけるブラック角2θが27.3±0.2度に強い回折ピークを示すチタニルフタロシアニン、ガリウムフタロシアニン等の金属フタロシアニン顔料、シアニン染料、アントラセン顔料、ビスアゾ顔料、ピレン顔料、多環キノン顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、ピリリウム染料、スクェアリウム顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料、アゾ顔料、チオインジゴ顔料、キノリン顔料、レーキ顔料、オキサジン顔料、ジオキサジン顔料、トリフェニルメタン顔料、アズレニウム染料、トリアリールメタン染料、キサンチン染料、チアジン染料、チアピリリウム染料、ポリビニルカルバゾール、ビスベンゾイミダゾール顔料などが挙げられる。これら化合物は、1種を単独であるいは2種以上のものを混合して、電荷発生物質として用いることができる。これら電荷発生物質の中でも、好適なものとしては、特開平11−172003号公報に具体的に記載のものが挙げられる。
【0058】
前記電荷輸送層は、下地となる基板上に、電荷輸送物質をバインダー樹脂で結着してなる層を形成することによって、湿式成形体として得ることができる。
前記した電荷発生層や電荷輸送層のバインダー樹脂としては、特に制限はなく、公知の各種のものを使用することができる。具体的には、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリケトン、ポリアクリルアミド、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、メタクリル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、メラミン樹脂、ポリエーテル樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリスルホン、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、ニトロセルロース、カルボキシ−メチルセルロース、塩化ビニリデン系ポリマーラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ビニルトルエン−スチレン共重合体、大豆油変性アルキッド樹脂、ニトロ化ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリイソプレン、ポリチオカーボネート、ポリアリレート、ポリハロアリレート、ポリアリルエーテル、ポリビニルアクリレート、ポリエステルアクリレートなどが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いることもできるし、また、2種以上を混合して用いることもできる。なお、電荷発生層や電荷輸送層におけるバインダー樹脂としては、前記した本発明のPC樹脂を使用することが好適である。
【0059】
電荷輸送層の形成方法としては、公知の各種の方式を使用することができるが、電荷輸送物質を本発明のPC樹脂とともに適当な溶媒に分散若しくは溶解した塗工液を、所定の下地となる基板上に塗布し、乾燥して湿式成形体として得る方法が好適である。電荷輸送層形成に用いられる電荷輸送物質とPC樹脂との配合割合は、好ましくは質量比で20:80〜80:20、さらに好ましくは30:70〜70:30である。
この電荷輸送層において、本発明のPC樹脂は1種単独で用いることもでき、また2種以上混合して用いることもできる。また、本発明の目的を阻害しない範囲で、他のバインダー樹脂を本発明のPC樹脂と併用することも可能である。
【0060】
このようにして形成される電荷輸送層の厚さは、通常5〜100μm程度、好ましくは10〜30μmである。この厚さが5μm未満であると初期電位が低くなるおそれがあり、100μmを超えると電子写真特性の低下を招くおそれがある。
本発明のPC樹脂と共に使用できる電荷輸送物質としては、公知の各種の化合物を使用することができる。このような化合物としては、カルバゾール化合物、インドール化合物、イミダゾール化合物、オキサゾール化合物、ピラゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ピラゾリン化合物、チアジアゾール化合物、アニリン化合物、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン化合物、脂肪族アミン化合物、スチルベン化合物、フルオレノン化合物、ブタジエン化合物、キノン化合物、キノジメタン化合物、チアゾール化合物、トリアゾール化合物、イミダゾロン化合物、イミダゾリジン化合物、ビスイミダゾリジン化合物、オキサゾロン化合物、ベンゾチアゾール化合物、ベンズイミダゾール化合物、キナゾリン化合物、ベンゾフラン化合物、アクリジン化合物、フェナジン化合物、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリビニルアクリジン、ポリ−9−ビニルフェニルアントラセン、ピレン−ホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾール樹脂、あるいはこれらの構造を主鎖や側鎖に有する重合体などが好適に用いられる。これら化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これら電荷輸送物質の中でも、特開平11−172003号公報において具体的に例示されている化合物が特に好適に用いられる。
なお、本発明の電子写真感光体においては、電荷発生層か電荷輸送層の少なくともいずれかに本発明のPC樹脂をバインダー樹脂として用いることが好適である。
【0061】
本発明の電子写真感光体においては、前記導電性基板と感光層との間に、通常使用されるような下引き層を設けることができる。この下引き層としては、酸化チタンや酸化アルミニウム、ジルコニア、チタン酸、ジルコン酸、ランタン鉛、チタンブラック、シリカ、チタン酸鉛、チタン酸バリウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化珪素などの微粒子、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、カゼイン、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、セルロース、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂などの成分を使用することができる。また、この下引き層に用いる樹脂として、前記バインダー樹脂を用いてもよいし、本発明のPC樹脂を用いてもよい。これら微粒子や樹脂は単独または種々混合して用いることができる。これらの混合物として用いる場合には、無機質微粒子と樹脂を併用すると、平滑性のよい皮膜が形成されることから好適である。
【0062】
この下引き層の厚みは、0.01〜10μm、好ましくは0.1〜7μmである。この厚みが0.01μm未満であると、下引き層を均一に形成することが困難であり、また10μmを超えると電子写真特性が低下することがある。また、前記導電性基体と感光層との間には、通常使用されるような公知のブロッキング層を設けることができる。このブロッキング層としては、前記のバインダー樹脂と同種の樹脂を用いることができる。また本発明のポリカーボネート樹脂を用いてもよい。このブロッキング層の厚みは、0.01〜20μm、好ましくは0.1〜10μmである。この厚みが0.01μm未満であると、ブロッキング層を均一に形成することが困難であり、また20μmを超えると電子写真特性が低下することがある。
【0063】
さらに、本発明の電子写真感光体には、感光層の上に、保護層を積層してもよい。この保護層には、前記のバインダー樹脂と同種の樹脂を用いることができる。また、本発明のポリカーボネート樹脂を用いることが特に好ましい。この保護層の厚みは、0.01〜20μm、好ましくは0.1〜10μmである。そして、この保護層には、前記電荷発生物質、電荷輸送物質、添加剤、金属やその酸化物、窒化物、塩、合金、カーボンブラック、有機導電性化合物などの導電性材料を含有していてもよい。
【0064】
さらに、この電子写真感光体の性能向上のために、前記電荷発生層および電荷輸送層には、結合剤、可塑剤、硬化触媒、流動性付与剤、ピンホール制御剤、分光感度増感剤(増感染料)を添加してもよい。また、繰返し使用に対しての残留電位の増加、帯電電位の低下、感度の低下を防止する目的で種々の化学物質、酸化防止剤、界面活性剤、カール防止剤、レベリング剤などの添加剤を添加することができる。
【0065】
前記結合剤としては、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリイソプレン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリクロロプレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、エチルセルロース樹脂、ニトロセルロース樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ホルマール樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂などが挙げられる。また、熱および/または光硬化性樹脂も使用できる。いずれにしても、電気絶縁性で通常の状態で皮膜を形成し得る樹脂であり、本発明の効果を損なわない範囲であれば、特に制限はない。
【0066】
前記可塑剤の具体例としては、ビフェニル、塩化ビフェニル、o−ターフェニル、ハロゲン化パラフィン、ジメチルナフタレン、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチレングリコールフタレート、トリフェニルフォスフェート、ジイソブチルアジペート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ラウリル酸ブチル、メチルフタリールエチルグリコレート、ジメチルグリコールフタレート、メチルナフタレン、ベンゾフェノン、ポリプロピレン、ポリスチレン、フルオロ炭化水素などが挙げられる。
【0067】
前記硬化触媒の具体例としては、メタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸などが挙げられ、流動性付与剤としては、モダフロー、アクロナール4Fなどが挙げられ、ピンホール制御剤としては、ベンゾイン、ジメチルフタレートが挙げられる。これら可塑剤や硬化触媒、流動付与剤、ピンホール制御剤は、前記電荷輸送物質に対して、5質量%以下で用いることが好ましい。
【0068】
また、分光感度増感剤としては、増感染料を用いる場合には,例えばメチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルー、ビクトリアブルーなどのトリフェニルメタン系染料、エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジ、フラペオシンなどのアクリジン染料、メチレンブルー、メチレングリーンなどのチアジン染料、カプリブルー、メルドラブルーなどのオキサジン染料、シアニン染料、メロシアニン染料、スチリル染料、ピリリュウム塩染料、チオピリリュウム塩染料などが適している。
【0069】
感光層には、感度の向上、残留電位の減少、反復使用時の疲労低減などの目的で、電子受容性物質を添加することができる。その具体例としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、3−ニトロ無水フタル酸、4−ニトロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水メリット酸、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、o−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、1,3,5−トリニトロベンゼン、p−ニトロベンゾニトリル、ピクリルクロライド、キノンクロルイミド、クロラニル、ブロマニル、ベンゾキノン、2,3−ジクロロベンゾキノン、ジクロロジシアノパラベンゾキノン、ナフトキノン、ジフェノキノン、トロポキノン、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、4−ニトロベンゾフェノン、4,4’−ジニトロベンゾフェノン、4−ニトロベンザルマロンジニトリル、α−シアノ−β−(p−シアノフェニル)アクリル酸エチル、9−アントラセニルメチルマロンジニトリル、1−シアノ−(p−ニトロフェニル)−2−(p−クロロフェニル)エチレン、2,7−ジニトロフルオレノン、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノン、9−フルオレニリデン−(ジシアノメチレンマロノニトリル)、ポリニトロ−9−フルオレニリデン−(ジシアノメチレンマロノジニトリル)、ピクリン酸、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、3,5−ジニトロ安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸、5−ニトロサリチル酸、3,5−ジニトロサリチル酸、フタル酸、メリット酸などの電子親和力の大きい化合物が好ましい。これら化合物は電荷発生層、電荷輸送層のいずれに加えてもよく、その配合割合は、電荷発生物質または電荷輸送物質の量を100質量部としたときに、0.01〜200質量部、好ましくは0.1〜50質量部である。
【0070】
また、表面性の改良のため、四フッ化エチレン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、二フッ化二塩化エチレン樹脂およびそれらの共重合体、フッ素系グラフトポリマーを用いてもよい。これら表面改質剤の配合割合は、前記バインダー樹脂に対して、0.1〜60質量%、好ましくは5〜40質量%である。この配合割合が0.1質量%より少ないと、表面耐久性、表面エネルギー低下などの表面改質が充分でなく、60質量%より多いと、電子写真特性の低下を招くことがある。
【0071】
前記酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、スルフィド系酸化防止剤、有機リン酸系酸化防止剤などが好ましい。これら酸化防止剤の配合割合は、前記電荷輸送物質に対して、通常、0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜2質量%である。
このような酸化防止剤の具体例としては、特開平11−172003号公報の明細書に記載された化学式([化94]〜[化101])の化合物が好適である。
これら酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい、そして、これらは前記感光層のほか、表面保護層や下引き層、ブロッキング層に添加してもよい。
【0072】
前記電荷発生層、電荷輸送層の形成の際に使用する前記溶媒の具体例としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、酢酸エチル、エチルセロソルブ等のエステル、四塩化炭素、四臭化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサン等のエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチルホルムアミド等を挙げることができる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を混合溶媒として使用してもよい。
【0073】
単層型電子写真感光体の感光層は、前記の電荷発生物質、電荷輸送物質、添加剤を用いて、本発明のバインダー樹脂(PC樹脂)を適用することで容易に形成することができる。また、電荷輸送物質としては前述したホール輸送性物質および/または電子輸送物質を添加することが好ましい。電子輸送物質としては、特開2005−139339号公報に例示されるものが好ましく適用できる。
各層の塗布は公知のものなど各種の塗布装置を用いて行なうことができ、具体的には、例えば、アプリケーター、スプレーコーター、ベーコーター、チップコーター、ロールコーター、ディップコーター、ドクタブレード等を用いて行なうことができる。
【0074】
電子写真感光体における感光層の厚さは、5〜100μm、好ましくは8〜50μmであり、これが5μm未満であると初期電位が低くなりやすく、100μmを超えると電子写真特性が低下することがある。電子写真感光体の製造に用いられる電荷発生物質:バインダー樹脂の比率は、質量比で1:99〜30:70、好ましくは3:97〜15:85である。また、電荷輸送物質:バインダー樹脂の比率は、質量比で10:90〜80:20、好ましくは30:70〜70:30である。
【0075】
このようにして得られる本発明の電子写真感光体は、本発明のPC樹脂を用いるため、感光層作製時に塗工液が白濁することがなく、ゲル化することもない。また、感光層中に本発明のPC樹脂からなる成形体(バインダー樹脂)を有しているため、耐久性(耐擦傷性)に優れるとともに、優れた電気特性(帯電特性)をしており、長期間にわたって優れた電子写真特性を維持する感光体であり、複写機(モノクロ、マルチカラー、フルカラー;アナログ、デジタル)、プリンター(レーザー、LED、液晶シャッター)、ファクシミリ、製版機、およびこれら複数の機能を有する機器など各種の電子写真分野に好適に用いられる。
【0076】
なお、本発明の電子写真感光体を使用するにあたっては、帯電には、コロナ放電(コロトロン、スコロトロン)、接触帯電(帯電ロール、帯電ブラシ)などが用いられる。また、露光には、ハロゲンランプや蛍光ランプ、レーザー(半導体、He−Ne)、LED、感光体内部露光方式のいずれを採用してもよい。現像には、カスケード現像、二成分磁気ブラシ現像、一成分絶縁トナー現像、一成分導電トナー現像などの乾式現像方式や湿式現像方式が用いられる。転写には、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写などの静電転写法や、圧力転写法、粘着転写法が用いられる。定着には、熱ローラ定着、ラジアントフラッシュ定着、オープン定着、圧力定着などが用いられる。さらに、クリーニング・除電には、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナーおよびクリーナーを省略したものなどが用いられる。また、トナー用の樹脂としては、スチレン系樹脂、スチレン−アクリル系共重合樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、環状炭化水素の重合体などが適用できる。トナーの形状は、球形でも不定形でもよく、一定の形状(回転楕円体状、ポテト状等)に制御したものでも適用できる。トナーは、粉砕型、懸濁重合トナー、乳化重合トナー、ケミカル造粒トナー、あるいはエステル伸長トナーのいずれでもよい。
【実施例】
【0077】
次に、本発明を実施例および比較例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形および応用が可能である。
具体的には、上述した式(6)のビスフェノールモノマー(各種のビスフェノール化合物とビフェノール化合物との組み合わせ)と、式(7)のポリシロキサンモノマー(末端封止剤)とを用いて重縮合反応を行ってPC樹脂を製造した。そして、このPC樹脂を用いて電子写真感光体を製造した後各種の評価を行った。
【0078】
〔製造例:オリゴマ−の調製〕
(製造例1:ビスフェノールAオリゴマーの合成)
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン0.2kgを10質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.3kgに溶解した溶液と、塩化メチレン1.0kgとを混合して撹拌しながら、反応熱を除去する目的で冷却下、液中にホスゲンガスを1L/分の割合でpHが9以下になるまで吹き込んだ。次いで、この反応液を静置分離し、有機層に重合度が2〜6であり、分子末端にクロロホルメート基を有するオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た(固形分濃度0.28kg/L)。以後、このオリゴマーを、PCO−Aという。
【0079】
(製造例2:ビスフェノールZオリゴマーの合成
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン0.2kgを16質量%の水酸化カリウム水溶液1.2kgに溶解した溶液と、塩化メチレン1.3kgとを混合して撹拌しながら、冷却下、液中にホスゲンガスを1L/分の割合でpHが9以下になるまで吹き込んだ。次いで、この反応液を静置分離し、有機層に重合度が2〜6であり、分子末端にクロロホルメート基を有するオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た(固形分濃度0.26kg/L)。以後、このオリゴマーをPCO−Zという。
【0080】
(製造例3:ビスフェノールCオリゴマーの合成)
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン0.2kgを16質量%の水酸化カリウム水溶液1.2kgに溶解した溶液と、塩化メチレン1.0kgとを混合して撹拌しながら、冷却下、液中にホスゲンガスを1L/分の割合でpHが9以下になるまで吹き込んだ。次いで、この反応液を静置分離し、有機層に重合度が2〜6であり、分子末端にクロロホルメート基を有するオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た(固形分濃度0.30kg/L)。以後、このオリゴマーを、PCO−Cという。
【0081】
(製造例4:ビスフェノールEオリゴマーの合成)
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン0.2kgを12質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.2kgに溶解した溶液と、塩化メチレン1.0kgとを混合して撹拌しながら、冷却下、液中にホスゲンガスを1L/分の割合でpHが9以下になるまで吹き込んだ。次いで、この反応液を静置分離し、有機層に重合度が2〜6であり、分子末端にクロロホルメート基を有するオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た(固形分濃度0.26kg/L)。以後、このオリゴマーを、PCO−Eという。
【0082】
(製造例5:ビスフェノールBオリゴマーの合成)
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン0.2kgを12質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.0kgに溶解した溶液と、塩化メチレン1.0kgとを混合して撹拌しながら、冷却下、液中にホスゲンガスを1L/分の割合でpHが9以下になるまで吹き込んだ。次いで、この反応液を静置分離し、有機層に重合度が2〜6であり、分子末端にクロロホルメート基を有するオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た(固形分濃度260g/L)。以後、このオリゴマーを、PCO−Bという。
【0083】
(製造例6:ビスフェノールIオリゴマーの合成)
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン0.2kgを16質量%の水酸化カリウム水溶液1.2kgに溶解した溶液と、塩化メチレン1.3kgとを混合して撹拌しながら、冷却下、液中にホスゲンガスを1L/分の割合でpHが9以下になるまで吹き込んだ。次いで、この反応液を静置分離し、有機層に重合度が2〜6であり、分子末端にクロロホルメート基を有するオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た(固形分濃度0.26kg/L)。以後、このオリゴマーを、PCO−Iという。
【0084】
(製造例7:ビスフェノールPMオリゴマーの合成)
1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル)ベンゼン0.2kgを16質量%の水酸化カリウム水溶液1.2kgに溶解した溶液と、塩化メチレン1.3kgとを混合して撹拌しながら、冷却下、液中にホスゲンガスを1L/分の割合でpHが9以下になるまで吹き込んだ。次いで、この反応液を静置分離し、有機層に重合度が2〜6であり、分子末端にクロロホルメート基を有するオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た(固形分濃度0.26kg/L)。以後、このオリゴマーを、PCO−PMという。
【0085】
〔ヘーズの測定法〕
PC樹脂をTHFに対して10質量%となるように溶解して、25℃で12時間静置した後、自公転式混合機(シンキー社製「あわとり練太郎」ARE−250)で、均一化・脱気したものを測定試料とした。
前記試料を、ガラスセル(光路幅:10mm、外幅:30mm、高さ:50mm)に入れ、泡が消えたことを確認した後、スガ試験機製全自動直続ヘーズコンピュータ(HGM−2D)を用い、JIS K7105に準拠して、25℃におけるヘーズを測定した。その際、光を通すスリットの直径を13mmとして測定した。
【0086】
〔実施例1〕
(PC樹脂の製造)
反応容器に、攪拌モーター、撹拌羽根、邪魔板を装着し、PCO−A(96mL)に塩化メチレン(354mL)を添加し、塩化メチレン中の固形分濃度が0.06kg/Lになるように調製した。
次に、特開平7−173275号公報の段落〔0051〕に記載の製造例2−1に準拠して、シロキサン鎖長(Ts鎖長)が158になるように、ブチルリチウムとヘキサメチルシクロトリシロキサンの仕込み比を変更し、芳香族ヒドロキシ基を一方の末端に有するポリジメチルシロキサンを得た(以後、Tsモノマーという)。このTsモノマーにおけるZ(前記式(7)参照)は炭素数3のメチレン鎖である。
前記したPCO−A溶液にこのTsモノマーを0.3g、他の末端停止剤としてp−tert−ブチルフェノール(PTBP)0.36gを添加し、十分に混合されるように撹拌した。
本溶液に、別途調製した2N水酸化ナトリウム水溶液30mLを添加後、撹拌しながらトリエチルアミン水溶液(7vol%)を1mL添加した。10分後、別途調製したモノマー溶液を全量添加し、引続き1時間撹拌を継続した。ここで、モノマー溶液は、2Nの水酸化ナトリウム水溶液120mLを室温以下に冷却した後、Naを0.1g、4,4’−ビフェノール(BP)7gを添加し、完全に溶解して調製した。
得られた反応混合物を塩化メチレン2L、水1Lで希釈し、洗浄を行った。下層を分離し、さらに水1Lで1回、0.1N水酸化ナトリウム水溶液1Lで1回、0.01Nの塩酸1Lで1回、水1Lで3回の順で洗浄を行った。得られた塩化メチレン溶液を、撹拌下メタノールに滴下投入し、得られた再沈物をろ過、乾燥する事によりPC樹脂(PC−1)を得た。
【0087】
(PC樹脂の評価)
PC−1を塩化メチレンに溶解して、濃度0.5g/dlの溶液を作成し、20℃における還元粘度[ηsp/C]を測定したところ、1.14dl/gであった。なお、PC−1の化学構造を1H−NMRにより分析したところ、下記式(8)の構造で示されるPC樹脂であることが確認された。以後は、下記のようなPC樹脂の各繰り返し単位を、各々ビスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位と表現する。なお、末端基としては、PTBPにもとづくp−tert−ブチルフェニル基もあるが式(8)では省略している。
PC−1におけるポリシロキサン単位の質量分率は1%であった。PC−1の粘度平均分子量は、上記還元粘度から50000と計算された。PC−1をTHFに対して10質量%に溶解した溶液を調製し、白濁度を目視で観察するとともに、溶液のヘーズを測定した。結果を表1に示す。
【0088】
【化13】

【0089】
(電子写真感光体の製造)
導電性基体としてアルミニウム金属を蒸着したポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用い、その表面に、電荷発生層と電荷輸送層を順次積層して積層型感光層を形成した電子写真感光体を製造した。電荷発生物質としてオキソチタニウムフタロシアニン0.5質量部を用い、バインダー樹脂としてポリビニルブチラール樹脂0.5質量部を用いた。これらを溶媒の塩化メチレン19質量部に加え、ボールミルにて分散し、この分散液をバーコーターにより、上記導電性基体フィルム表面に塗工し、乾燥させることにより、膜厚約0.5ミクロンの電荷発生層を形成した。
次に、電荷輸送物質として、下記式(9)の化合物(CTM−1)0.5g、上記で得られたPC樹脂(PC−1)0.5gを10ミリリットルのテトラヒドロフランに分散し、塗工液を調製した。この塗工液は、溶解初期、および1ヶ月間の放置によっても白化、ゲル化などは起こさなかった。この塗工液をアプリケーターにより、上記電荷発生層の上に塗布し、乾燥し、膜厚約20μmの電荷輸送層を形成した。
【0090】
【化14】

【0091】
(電子写真感光体の評価)
得られた電子写真感光体について、静電気帯電試験装置EPA−8100(川口電機製作所社製)を用いて電子写真特性を評価した。具体的には、スタティックモードで−6kVのコロナ放電を行い、初期表面電位(VO),光照射(10Lux)5秒後の残留電位(V),半減露光量(初期感度、E1/2)を測定した。また、市販のプリンター(FS−600、京セラ製)を改造して感光体の表面電位を測定可能とした上で、前記感光体をドラム上に装着し、帯電特性の評価を行った。具体的には、高温・高湿下(35℃、85%RH)において、トナーおよび紙を通さない条件で、24時間繰り返し運転前後の帯電特性(繰返し残留電位上昇(ΔV))の評価を行った。
【0092】
次に、以下のようにして耐擦傷性を評価した。
PC−1を1.0g、および式(9)の化合物(CTM−1)を1.0g秤量して、テトラヒドロフラン(THF)12mLに溶解した。この溶液を、PETフィルム(厚さ0.5mm)上に塗付した。乾燥後に得られたPC樹脂キャスト膜(30μm)を試験用試料とした。
次に、スガ試験機製スガ摩耗試験機を用い、摩耗輪にPPC用紙を10mm幅に切ったものを両面テープで貼り付けた後、前記試料をセットし、加重20gfで100回往復させた。このような荷重下でPPC用紙を往復させることにより、試料表面に線状に傷が発生する。傷がついた試料の中心部分に着目し、用紙の往復方向と直角をなす方向について傷の数を目視で数えた。n=3で実験し、以下のような基準で耐擦傷性を評価した。
目視にて認められた傷の平均数が3以下の場合を◎、4〜10の場合を○、11以上の場合を×とした。なお、この耐擦傷性は、PC樹脂を電子写真感光体のバインダ樹脂として使用した場合を想定しており、電子写真感光体としての耐擦傷性と同等である。
表1に、実施例1および後述する実施例2〜10、比較例1、2の評価結果を示す。
【0093】
〔実施例2〕
実施例1において、PCO−Aの量を96mLから241mL、塩化メチレン量を209mLに変更し、塩化メチレン中の固形分濃度が0.15kg/Lになるように調製し、BP量を18g、Ts鎖長を58、Tsモノマー量を1.0g、PTBPを0.81gに変更し、Tsモノマーにおけるメチレン鎖(前記式(7)におけるZ)の炭素数を4とした。それ以外は、実施例1と同様にして、PC樹脂(PC−2)を製造した。PC−2の[ηsp/C]は、1.18dl/g、粘度平均分子量は、52000であった。PC−2のビスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位のモル比は、0.8:0.2:0.001であった。PC−2におけるポリシロキサン単位の質量分率は1%であった。PC−2およびPC−2から実施例1と同様にして製造された電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
【0094】
〔実施例3〕
実施例1において、PCO−A(96mL)をPCO−Z(260mL)、塩化メチレン量を190mLに変更し、塩化メチレン中の固形分濃度が0.15kg/Lになるように調製し、BP量を12g、Ts鎖長を58、Tsモノマー量を2.3g、PTBPを0.40gに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、PC樹脂(PC−3)を製造した。PC−3の[ηsp/C]は1.16dl/g、粘度平均分子量は51000であった。PC−3のビスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位のモル比は、0.85:0.15:0.002であった。PC−3におけるポリシロキサン単位の質量分率は3%であった。
PC−3およびPC−3から実施例1と同様にして製造された電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
【0095】
〔実施例4〕
実施例1において、PCO−A(96mL)をPCO−Z(173mL)、塩化メチレン量を277mLに変更し、塩化メチレン中の固形分濃度が0.10kg/Lになるように調製し、BP量を8g、Ts鎖長を91、Tsモノマー量を1.5g、PTBPを0.27gに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、PC樹脂(PC−4)を製造した。PC−4の[ηsp/C]は、1.19dl/g、粘度平均分子量は、52000であった。PC−2のビスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位のモル比は、0.85:0.15:0.001であった。PC−4におけるポリシロキサン単位の質量分率は3%であった。
PC−4およびPC−4から実施例1と同様にして製造された電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
【0096】
〔実施例5〕
実施例1において、PCO−A(96mL)をPCO−Z(104mL)、塩化メチレン量を346mLに変更し、塩化メチレン中の固形分濃度が0.06kg/Lになるように調製し、BP量を5g、Ts鎖長を158、Tsモノマ−量を0.9g、PTBPを0.16gに変更し、o−アリルフェノールに代えてp−アリルフェノールを使用して、メチレン鎖の結合位置をパラ位にした。それ以外は、実施例1と同様にして、PC樹脂(PC−5)を製造した。PC−5の[ηsp/C]は、1.15dl/g、粘度平均分子量は、50000であった。PC−5のビスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位のモル比は、0.85:0.15:0.001であった。PC−5におけるポリシロキサン単位の質量分率は3%であった。
PC−5およびPC−5から実施例1と同様にして製造された電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
【0097】
〔実施例6〕
実施例1において、PCO−A(96mL)をPCO−E(173mL)、塩化メチレン量を277mLに変更し、塩化メチレン中の固形分濃度が0.10kg/Lになるように調製し、BPの替わりに9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン23g、Ts鎖長を97、Tsモノマー量を1.3g、PTBPを0.27gに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、PC樹脂(PC−6)を製造した。PC−6の[ηsp/C]は、1.63dl/g、粘度平均分子量は、71000であった。PC−6のビスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位のモル比は、0.8:0.2:0.002であった。PC−6におけるポリシロキサン単位の質量分率は2%であった。
PC−6およびPC−6から実施例1と同様にして製造された電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
【0098】
〔実施例7〕
実施例1において、PCO−A(96mL)をPCO−B(173mL)、塩化メチレン量を277mLに変更し、塩化メチレン中の固形分濃度が0.10kg/Lになるように調製し、BPの替わりに9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン26g、Ts鎖長を80、Tsモノマー量を0.7g、PTBPを1.10gに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、PC樹脂(PC−7)を製造した。PC−7の[ηsp/C]は、0.56dl/g、粘度平均分子量は、23000であった。PC−7のビスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位のモル比は、0.8:0.2:0.0005であった。PC−7におけるポリシロキサン単位の質量分率は1%であった。
PC−7およびPC−7から実施例1と同様にして製造された電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
【0099】
〔実施例8〕
実施例1において、PCO−A(96mL)をPCO−C(150mL)、塩化メチレン量を300mLに変更し、塩化メチレン中の固形分濃度が0.10kg/Lになるように調製し、BPの替わりに1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)1−フェニルエタン17g、Ts鎖長を80、Tsモノマー量を2.6g、PTBPを0.35gに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、PC樹脂(PC−8)を製造した。PC−8の[ηsp/C]は、0.71dl/g、粘度平均分子量は、30000であった。PC−8のビスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位のモル比は、0.8:0.2:0.003であった。PC−8におけるポリシロキサン単位の質量分率は5%であった。
PC−8およびPC−8から実施例1と同様にして製造された電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
【0100】
〔実施例9〕
実施例1において、PCO−A(96mL)をPCO−Z(52mL)、塩化メチレン量を398mLに変更し、塩化メチレン中の固形分濃度が0.03kg/Lになるように調製し、BP量を2.4g、Ts鎖長を300、Tsモノマー量を0.5g、PTBPを0.08gに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、PC樹脂PC(PC−9)を製造した。PC−9の[ηsp/C]は、1.10dl/g、粘度平均分子量は、48000であった。PC−9のビスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位のモル比は、0.8:0.2:0.0004であった。PC−9におけるポリシロキサン単位の質量分率は3%であった。
PC−9およびPC−9から実施例1と同様にして製造された電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
【0101】
〔実施例10〕
実施例1において、PCO−A(96mL)をPCO−Z(52mL)、塩化メチレン量を398mLに変更し、塩化メチレン中の固形分濃度が0.03kg/Lになるように調製し、BP量を2.4g、Ts鎖長を158、Tsモノマー量を0.5g、PTBPを0.08gに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、PC樹脂(PC−10)を製造した。PC−10の[ηsp/C]は、1.12dl/g、粘度平均分子量は、49000であった。PC−10のビスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位のモル比、0.8:0.2:0.0008であった。PC−10におけるポリシロキサン単位の質量分率は3%であった。
PC−10およびPC−10から実施例1と同様にして製造された電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
【0102】
〔比較例1〕
実施例9において、TsモノマーのTs鎖長を710に変更した以外は、実施例9と同様にしてPC樹脂(PC−11)を製造した。
PC−11を実施例1と同様にして評価したところ、[ηsp/C]は1.12dl/g、粘度平均分子量は49000であった。また、このPC−11におけるビスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位のモル比は、0.8:0.2:0.0002であった。PC−11におけるポリシロキサン単位の質量分率は3%であった。
【0103】
〔比較例2〕
実施例8のTsモノマーを、Ts鎖長が20のものに変更した以外は、比較例1と同様にしてPC−12を製造した。
PC−12を実施例1と同様にして評価したところ、[ηsp/C]は0.72dl/g、粘度平均分子量は30000であった。また、このPC−12におけるブスフェノール単位、ビフェノール単位およびポリシロキサン単位のモル比は、0.8:0.2:0.01であった。PC−12におけるポリシロキサン単位の質量分率は1%であった。
【0104】
〔評価結果〕
表1に、実施例1〜10および比較例1、2の評価結果を示す。実施例1〜10よりわかるように、本発明のPC樹脂をバインダー樹脂として用いた電子写真感光体は、各種電気特性および耐擦傷性に優れる。一方、比較例1ではTHF溶液がかなり白濁しているが、そのためCTM−1の分散状態が悪化し、分散不良により発生した界面部分が電荷移動時のトラップサイトになり、結果として電気特性に劣っている。具体的には、表1において、初期残留電位(V)のマイナス値、初期感度(E1/2)、繰返し残留電位上昇(ΔV)が大きいことから、電子写真の画像の鮮明性に劣ることがわかる。また、比較例2では、Ts鎖長が短いため、耐擦傷性に劣っている。
【0105】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のポリカーボネート樹脂は、電子写真感光体の感光層用バインダ樹脂として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示すモノマー単位を有するポリカーボネート樹脂であって、
少なくとも一端が下記式(2)で示す末端基により封止された構造であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【化1】

(式中、Arは、2価の芳香族基を示す。)
【化2】

(式中、Zは、炭素数2〜6の脂肪族炭化水素基、Rは、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、R〜Rは各々独立に水素、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を示す。nは40〜700の整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載のポリカーボネート樹脂において、
該ポリカーボネート樹脂を、THF(テトラヒドロフラン)に10質量%の濃度で溶解した溶液のヘーズ(JIS K7105に準拠、光路長10mm)が5%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
請求項1に記載のポリカーボネート樹脂において、
該ポリカーボネート樹脂を、THFに25質量%の濃度で溶解した溶液のヘーズが10%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂において、
前記式(1)におけるArが下記式(3)で示される官能基を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【化3】

{式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基および炭素数6〜12のアリールオキシ基から選ばれたいずれかの官能基を示す。Xは、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、−CX−(ここで、XおよびXは、それぞれ独立に、水素原子、トリフルオロメチル基、置換または無置換の炭素数1〜10のアルキル基、および置換または無置換の炭素数6〜12のアリール基から選ばれる官能基を示す。)置換または無置換の炭素数5〜11のシクロアルキリデン基、置換または無置換の炭素数2〜12のα,ω−アルキレン基、置換または無置換の9,9−フルオレニリデン基、置換または無置換の炭素数6〜12のアリーレン基、下記式(4)で示されるテルペン類から誘導される二価の官能基、ならびに下記式(5)で示される炭素数8〜16のアルキリデンアリーレンアルキリデン基から選ばれる官能基を示す。ただし、XとXがともにメチル基の場合は、Xは−CX−単独であることはない。}
【化4】

(式中、R〜R10は、RおよびRと同様の官能基を示す。)
【化5】

(式中、R11〜R13は、RおよびRと同様の官能基を示す。)
【請求項5】
請求項4に記載のポリカーボネート樹脂において、
前記式(3)におけるXが−CHCH−、−C(CH)C−、単結合、置換または無置換の炭素数5〜11のシクロアルキリデン基、および置換または無置換の9,9−フルオレニリデン基から選ばれる官能基であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のポリカーボネート樹脂において、
前記式(3)で示される官能基が、(A)Xが単結合である官能基と、Xが単結合以外である官能基との組み合わせ、(B)Xが置換または無置換の炭素数5〜11のシクロアルキリデン基である官能基と、Xが置換または無置換の炭素数5〜11のシクロアルキリデン基以外である官能基との組み合わせ、(C)Xが置換または無置換の9,9−フルオレニリデン基である官能基と、Xが置換または無置換の9,9−フルオレニリデン基以外である官能基との組み合わせ、(D)Xが炭素数8〜16のアルキリデンアリーレンアルキリデン基である官能基と、Xが炭素数8〜16のアルキリデンアリーレンアルキリデン基以外である官能基との組み合わせであることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂において、
前記式(2)で示される末端基の該ポリカーボネート樹脂全体に占める割合が0.01〜50質量%であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂、および溶媒を含有することを特徴とする塗工液。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする電子写真感光体。

【公開番号】特開2008−291115(P2008−291115A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138181(P2007−138181)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】