説明

ポリジアセチレンを半導体層とする電界効果型トランジスタ

【課題】立体規則性の高いポリジアセチレンを半導体層とする電界効果型トランジスタを提供すること。
【解決手段】エネルギーを照射し重合して形成されたポリジアセチレン膜のエネルギー照射面に、絶縁膜を介して電極を具備したことにより、該ポリジアセチレン膜の電気伝導度を制御したことを特徴とした電界効果型トランジスタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果型トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機電子デバイスについては、低コスト化、フレキシブル化、大面積化が可能であるという理由から、薄膜トランジスタへの応用を中心とした有機半導体材料の研究開発が盛んに行なわれている。特に、有機半導体材料としては、塗布法や印刷法などのウェットプロセスによる簡便な薄膜形成に適応性の高い有機溶媒への可溶性を有するπ共役系高分子の素材開発や、高性能化を目指した材料設計が注目されている。
【0003】
非特許文献1では、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)は、良好な溶解性を示すとともに、このポリマーが持つ主鎖と側鎖の相分離に起因する自己組織化により、局所的な規則性を有する薄膜が形成され、比較的高い移動度を示すことを開示している。しかし、このようにポリマー溶液を塗布する手法では、有機薄膜トランジスタの半導体層の全体に渡って立体規則性の高いポリマー薄膜を得るのが困難であるという問題を有している。
【0004】
これに対して、特許文献1や特許文献2、非特許文献2では、重合性モノマーであるジアセチレン化合物薄膜をあらかじめ基板上に作製し、トポケミカル重合によりポリジアセチレン薄膜を作製する方法を開示している。なお、ここでは、ジアセチレン化合物を重合させたものをポリジアセチレンと呼ぶ。トポケミカル重合とは、例えば、非特許文献3の化学Vol.55、No.12(2000)22頁に紹介されているように、固相反応のうち、反応経路や速度が結晶格子によって支配されるものをいう。
結晶中で原子や分子が最小の動きを伴って反応は進行し、結晶の対称性(空間群)は反応の前後で変化しないことから、一般に生成物は一定の空間配向を有している。ゆえに、トポケミカル重合により生成されるポリマー結晶は立体規則性が高く、非特許文献2では、立体規則性の高いポリジアセチレン薄膜をトランジスタの半導体層に用いることで、高い移動度を実現できる可能性を示している。
【0005】
上記非特許文献2において、ジアセチレン化合物をトポケミカル重合させるために外部から付与されるエネルギーは紫外光であり、重合は紫外光の照射面、すなわち、該ジアセチレン化合物薄膜の上面から進行する。そのため、重合がジアセチレン化合物薄膜の下面まで充分に進行しない可能性を有している。すなわち、ポリジアセチレン薄膜をトランジスタの半導体層とするだけでは、チャネル部に立体規則性の高いポリジアセチレンを形成することができないため、本来の性能を引き出せない可能性を示唆している。
【0006】
【特許文献1】特開2002−69111号公報
【特許文献2】特開2002−255934号公報
【0007】
【非特許文献1】Zhenan Bao et al. Applied Physics Letter , Vol. 69 , No. 26 , p4108-p4110 (1996)
【非特許文献2】Jun-ichi Nishide et al. Advanced Materials , Vol. 18 , p3120-p3124 (2006)
【非特許文献3】化学Vol.55、No.12(2000)22頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】

本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、立体規則性の高いポリジアセチレンを半導体層とする電界効果型トランジスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記(1)〜(3)によって解決される。
(1)エネルギーを照射し重合して形成されたポリジアセチレン膜のエネルギー照射面に、絶縁膜を介して電極を具備したことにより、該ポリジアセチレン膜の電気伝導度を制御したことを特徴とした電界効果型トランジスタ。
(2)前記ポリジアセチレン膜は、前記その形成時に、溶媒の存在量又は蒸発速度が調節されて形成されたものであることを特徴とする前記(1)に記載の電界効果型トランジスタ。
(3)前記ポリジアセチレン膜は、前記その形成時に、温度調節されて形成されたものであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の電界効果型トランジスタ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、立体規則性の高いポリジアセチレンを半導体層のチャネル部とする電界効果型トランジスタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明で作製されるポリジアセチレン薄膜が設けられる基板としては、金属基板、ガラス基板、プラスチック基板、シリコン基板等が挙げられる。一連の製造工程において寸法変化が少ない基板は製造工程を容易にすることができる。金属薄膜や、折り曲げ可能なPES基板、ポリイミド基板、PET基板等のプラスチック基板を用いると、完成するデバイスにフレキシビリティを与えることができる。
【0012】
液状でジアセチレン化合物を展開する方法としては、ジアセチレン化合物溶液またはジアセチレン融液を基板上に塗布して展開することが挙げられる。液状で塗布する方法としては、特に限定されるものではないが、代表的なものとしてはスピンコーティング法、印刷法、インクジェット法、スプレー塗工法などを用いることができる。ジアセチレン化合物溶液に用いることのできる溶媒としては、特に限定されるものではないが、代表的なものとしてはクロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、キシレン、ジオキサン、テトラヒドロフラン等、または、これらの混合溶媒を用いることができる。
【0013】
また、あらかじめジアセチレン化合物を基板上に用意した後、加熱等により融液にすることで基板上に展開してもよく、また、該ジアセチレン化合物が溶解する溶媒を塗布することで基板上に展開してもよい。
【0014】
液状でジアセチレン化合物を基板上に展開した後、ジアセチレン化合物の結晶状態(配向状態を含む)を形成する工程としては、該ジアセチレン化合物が溶解する溶媒の蒸気が制御された環境に基板を置く方法を用いることができる。例えば、ジアセチレン化合物の内部応力による構造歪みを解放して大きなサイズの連続的ドメインが形成されている高感度材料を得るため、溶媒の蒸発速度を制御することができる。溶媒の蒸発速度が高いと良好な結晶体や配向体だけでなく、溶媒の蒸発により強制的に固析出された不均テキスチュアの微小固形物が混入することがある。溶媒量比はまた、過多であっても好ましくない。過多のままであれば結晶化が阻害される。また同様な理由で、用いる溶媒の沸点と共に、ジアセチレン化合物の溶解性も考慮の対象となり得る。したがって、具体的な制御態様は、溶媒の種類に応じ、これら事項を勘案して決めればよい。上記の環境では、基板に展開されたジアセチレン化合物が結晶化する際の結晶核の発生密度や結晶成長が適切に制御され、ジアセチレン化合物の結晶ドメインの拡大や、欠陥の少ない結晶化を促進することができる。用いる溶媒としては特に限定されるものではないが、代表的なものとしては、上記の該ジアセチレン化合物が溶解する溶媒を用いることができる。溶媒蒸気の制御方法については、密封した空間に上記溶媒とジアセチレン化合物が展開された基板を入れる方法や、基板上に溶媒が残留している状態でジアセチレン化合物が展開された基板を密封した空間に置く方法が挙げられる。また、完全に密封された空間でなく、適度に溶媒蒸気が放出される空間を利用してもよい。
【0015】
また、ジアセチレン化合物の結晶状態を形成する工程として、温度が制御された環境にジアセチレン化合物が展開された基板を置く方法を用いることもできる。上記の環境では、基板上に展開されたジアセチレン化合物の運動性が制御され、結晶ドメインの拡大や、欠陥の少ない結晶化を促進することができる。使用する温度としては、30℃〜50℃、又は、基板に展開されたジアセチレン化合物の集合体が軟化する温度から、溶融する温度が望ましい。溶融する温度を超えた加熱は基板上に島状構造物を析出させることが多いので好ましくない。温度制御の方法については、特に限定されるものではないが、例えば、30℃〜50℃に制御するには恒温層中に基板を置く方法、温風を当てる方法等が挙げられ、また、軟化温度から溶融温度に加熱するには、ホットプレート等によって基板を加熱する方法や、恒温層中に基板を置く方法、レーザー光照射により加熱する方法等が挙げられる。また、ジアセチレン化合物が展開された基板上に温度勾配を作ることで、ジアセチレン化合物の結晶化の方向や結晶ドメインの方向を揃えることができる。
【0016】
また、あらかじめジアセチレン化合物を展開する基板の表面状態を変化させておき、ジアセチレン化合物と基板との相互作用を制御することでジアセチレン化合物の運動性を変化させて、上記のジアセチレン化合物の結晶状態の形成を容易に進めることや、結晶化の方向や結晶ドメインの方向を揃えることもできる。表面状態の変化のさせ方としては、化学修飾によって表面エネルギーを変化させる手法を利用してもよく、また、規則性のある表面構造を有する基板を利用してもよい。規則性のある表面構造の作製方法としては特に限定されるものではないが、例えば、ラビング等によって形成された配向膜を利用することが挙げられる。上記のジアセチレン化合物の結晶状態を形成する工程を経ることにより、電界効果型トランジスタの半導体層の全体に渡ってジアセチレン結晶構造を作製することができる。
【0017】
外部からエネルギーを付与することによりジアセチレン化合物をトポケミカル重合させてポリジアセチレンを形成する工程としては、熱エネルギーを用いた重合、または、輻射エネルギーを用いた重合を用いることができる。輻射エネルギーとしては、赤外線、紫外線、可視光、マイクロ波、X線、ガンマ線、電子線などが使用できる。また、重合工程を上記の溶媒の蒸気が制御された環境や温度が制御された環境で行なってもよい。
【0018】
本発明の電界効果型トランジスタの絶縁層の形成方法としては、あらかじめ作製したポリジアセチレン膜の上面に積層して絶縁膜を作製してもよく、また、あらかじめ作製した絶縁膜上にポリジアセチレン膜を転写することにより、ポリジアセチレン膜の上面に絶縁層を形成してもよい。
絶縁層の材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等の無機絶縁膜の他、有機絶縁膜としてポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。
絶縁層の作製方法には特に制限はなく、例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法、スピンコーティング法、ディッピング法、印刷法、インクジェット法などを用いることができる。
図1、図2は本発明の電界効果型トランジスタの代表的な概略構造を示している。
本発明の電界効果型トランジスタには、基板(6)上で空間的に分離された第一の電極(3)と第二の電極(4)および第三の電極(5)が設けられており、第三の電極としてのゲート電極(5)への電圧印加により、本発明のポリジアセチレン有機薄膜(1)中に流れる電流を制御することができる。
ソース電極−ドレイン電極たる第一の電極(3)および第二の電極(4)は、本発明の有機薄膜とオーミック接触できる材料で形成することが望ましい。しかし、ショットキー接触となる材料であっても、そのエネルギー障壁が低いものであれば使用することができる。具体的には、金、白金、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、チタンなどの金属、または、ポリ(スチレンスルホネート)、ポリ〔2,3−ジヒドロチエノ(3,4−b)−1,4−ジオキシン〕(PEDOT)、ポリアニリンなどの有機導電性材料等が挙げられる。
【0019】
さらに、ポリジアセチレンにキャリア注入しやすくするために、電極の仕事関数とポリジアセチレンのフェルミ準位が近いものがより好ましい。
絶縁膜(2)によって半導体層と隔てられた第三の電極(5)も上記の金属または有機導電性材料を用いることができる。さらに、n型半導体またはp型半導体などを用いて形成することもできる。第三の電極材料に半導体を用いる場合は、あらかじめ不純物によるキャリアドーピングをしたものを用いて電極を形成してもよく、ゲート電極を形成した後、不純物のドーピングを行なってもよい。さらに、第三の電極(5)が基板を兼ねていてもよい。
【0020】
本発明の電界効果型トランジスタは、集積化することにより電子デバイスに応用できる。
たとえば、液晶、有機電界発光、電気泳動などの画像表示素子を駆動するための素子として利用でき、これらを集積化することにより、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。また、ICタグ等の電子デバイスとして、本発明の電界効果型トランジスタを集積したICを利用することも可能である。
【実施例】
【0021】
本発明に係る電界効果型トランジスタの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0022】
〔実施例1〕
熱酸化膜(300nm)付きシリコン基板上に、フォトリソグラフィーおよび真空蒸着法を用いて、第一の電極および第二の電極として金膜を形成した。
ついで、10、12−ペンタコサジイン酸(東京化成工業株式会社製)のクロロホルム溶液(1重量%)を、上記の電極付きシリコン基板上にスピンコートティングにより展開した。次いで、ホットプレートで加熱処理を施してジアセチレンモノマー膜を得た。
得られた膜の上面から紫外光(254nm)を照射することでジアセチレンモノマーをトポケミカル重合させ、ポリジアセチレン薄膜を作製した。
次いで、パリレン膜からなる絶縁膜を形成した。パリレン膜は第三化成社製のdiX_Cを原材料に、減圧下で100〜170℃の温度にて昇華させ、引き続き熱分解炉に導入する。熱分解温度は650℃にし、ダイマーの解離処理をさせた後、上記ポリジアセチレン膜を設置した成膜室に導入し、室温にて成膜した。
次いで、真空蒸着法により、第三の電極としてアルミ膜を形成し、図1の構造を有する電界効果型トランジスタを作製した。
この有機薄膜トランジスタについて電界効果移動度を測定したところ、7.0×10−4cm/Vsであった。図4は、この電界効果型トランジスタの出力特性である。
【0023】
〔比較例1〕
10、12−ペンタコサジイン酸(東京化成工業株式会社製)のクロロホルム溶液(1重量%)を熱酸化膜(300nm)付きシリコン基板上にスピンコーティングにより展開し、ホットプレートで加熱処理を施してジアセチレンモノマー膜を得た。
得られた膜の上面から紫外光(254nm)を照射することでジアセチレンモノマーをトポケミカル重合させ、ポリジアセチレン薄膜を作製した。
次いで、真空蒸着法により、第一の電極および第二の電極として金膜を形成し、図3の構造を有する電界効果型トランジスタを作製した。
この電界効果型トランジスタについて電界効果移動度を測定したところ、動作しなかった。
【0024】
実施例1では、本発明に係るジアセチレン化合物にエネルギーを付与した面を半導体のチャネル部としているため、立体規則性の高いポリジアセチレン膜をトランジスタのチャネル部とすることができ、良好な移動度を実現している。
一方、比較例1では、本発明に係るジアセチレン化合物にエネルギーを付与した面を半導体のチャネル部としていないため、チャネル部において立体規則性の高いポリジアセチレン膜が形成できていないことが予想され、トンランジスタ動作しない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明における電界効果型トランジスタの代表的な概略構造を示す図である。
【図2】本発明における電界効果型トランジスタの代表的な概略構造を示す他の図である。
【図3】本発明の比較例1における電界効果型トランジスタの代表的な概略構造を示す図である。
【図4】本発明の実施例1として作製した電界効果型トランジスタの出力特性である。
【符号の説明】
【0026】
1 ポリジアセチレン結晶(配向)膜
2 絶縁膜
3 第一の電極
4 第二の電極
5 第三の電極
6 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーを照射し重合して形成されたポリジアセチレン膜のエネルギー照射面に、絶縁膜を介して電極を具備したことにより、該ポリジアセチレン膜の電気伝導度を制御したことを特徴とした電界効果型トランジスタ。
【請求項2】
前記ポリジアセチレン膜は、前記その形成時に、溶媒の存在量又は蒸発速度が調節されて形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の電界効果型トランジスタ。
【請求項3】
前記ポリジアセチレン膜は、前記その形成時に、温度調節されて形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電界効果型トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−67898(P2010−67898A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234845(P2008−234845)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】