説明

ポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形型、ポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形機、ポリテトラフルオロエチレンシート状物の製造方法、ポリテトラフルオロエチレン多孔質シート状物の製造方法、ポリテトラフルオロエチレンシート状焼成物の製造方法、ポリテトラフルオロエチレン多孔質シート状焼成物の製造方法およびポリテトラフルオロエチレンシート状焼成物

【課題】
厚み精度を維持しつつ、押出方向に垂直な方向への強度と延伸強度のばらつき抑制効果を向上させ、かつ幅広なPTFEシート状物を製造し得るPTFE粒子含有材料用押出成形型を提供する。
【解決手段】
雌型と雄型とを有し、該雌型は、上下方向に貫通する中空状の内部空間を有し、該内部空間下部にはテーパー状空間が形成されてなり、上記雄型は円柱状下部と先細り状先端部とを有してなり、雄型の先端部が、中空状の内部空間上部を向くように、かつ雄型の先端部外壁面がテーパー状空間を形成する雌型内壁面と相対するように、雄型を雌型の内部空間の下部に雌型と同軸的に配置することにより、雌型と雄型との間に、雄型の先端部に沿って上部から下部方向に伸びる放射状拡大部と雄型の円柱状下部に沿って伸びる管状部を有する材料押圧用流路を設けてなる押出成形型である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、適宜、PTFEという)粒子含有材料用押出成形型、PTFE粒子含有材料用押出成形機、PTFEシート状物の製造方法、PTFE多孔質シート状物の製造方法、PTFEシート状焼成物の製造方法、PTFE多孔質シート状物焼成物の製造方法およびPTFEシート状焼成物に関する。
【背景技術】
【0002】
PTFE樹脂の押出成形物は、チューブ材料や電線材料等として、種々の分野で利用されるようになっている。特に、PTFE樹脂を押出成形した後、さらに押出方向に一軸延伸処理するか、または二軸方向(押出し方向および押出し方向に垂直な方向)に逐次または同時に延伸処理して得られた多孔質シート状物は、折り畳み結晶により、ノードから放射状にフィブリル(折り畳み結晶が延伸により解けて引き出された直鎖状の分子束)が拡散し、このフィブリルとノードによって画された空孔が多数存在する構造を有することが知られており、この多孔質構造を有するPTFEシート状物は、その特性を生かして、スキーウェアのような衣類材料やエアーフィルターのろ材等として用いられるようになっている。また、上記多孔質構造のPTFEシート状物は、シールテープやガスケット等のシール材料等の多様な用途に使用されており、幅広なPTFE多孔質シート状物を製造できることが望まれている。
【0003】
延伸処理に付されるPTFEシート状物は、その幅が広く安定していると各種の延伸条件を採用できることから、コスト面や、PTFE多孔質シート状物の物性を調整する上で大きなメリットを得ることができる。
【0004】
この延伸処理に付される幅広テープ形状を有するPTFEシート状物は、現在ロール圧延で作製されているが、上記PTFEシート状物は、ロール圧延の設備的な制約から、150mm幅や300mm幅であるものが多く、殆どが400mm幅以下のものである。PTEEシート状の幅が制限される理由としては、ロール圧延では、幅広なものを得ようとすると、幅方向端部と中心部で物性に差ができることから、不均一な延伸品になることが挙げられる。また、他の理由として、ロール圧延では、ロールがPTFEシート状物を引き込む力を、PTFEシート状物を押し潰し幅を広げる力よりも大きくする必要があるが、用いる装置の能力によって制限されることが挙げられる。
【0005】
このようなPTFE多孔質シート状物の製造に用いられるPTFEシート状物製造用の押出成形型としては、図7に示すように、雌型101の内部空間104に、雄型102として、長手方向に対する垂直断面直径が材料の押圧方向に漸次増加する円錐状拡大部108を有するものを雌型101と同軸的に配置したものが知られており、この押出成形型103においては、雌型の括れ部151より出口側の内部空間104において、雌型101の内壁面と雄型102の円錐状拡大部108とが相対して、雌型と雄型との間に斜め下方向に放射状に伸びる材料押圧用流路111が形成される(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この押出成形型103においては、内部空間104入口側から成形材料としてPTFE粉末と潤滑剤の混合物を投入し、押圧して、成形型103下部の材料押圧用流路111から管状(チューブ状)の成形物を排出した後、得られた成形物を軸方向(排出方向)に切断し、得られたPTFEシート状物に延伸処理を施すことにより多孔質構造を有するPTFEシートが作製される。
【0007】
図7に示す押出成形型103においては、材料押圧用流路111部分において、出口方向への圧力によりPTFE粒子が縦方向に配向するとともに、該粒子が横方向へも広がって、横方向に配向し付着しあうことになる。このため、図7に示す押出成形型103を用いた場合には、入口側から押圧処理することによってPTFE粒子が押出方向と同時に押出方向に垂直な方向へも配向し、得られる成形物において、押出方向に垂直な方向への引張強度が向上するとともに、押出方向に垂直な方向における延伸強度のばらつきも抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−128827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図7に示す押出成形型103を用いた場合、材料押圧用流路111を通過することによって得られる押出方向に垂直な方向における押圧物の物性向上効果(配向性向上効果)は、図7に示す雄型出口部の断面直径bと雄型入口部の断面直径aを用いて定義される内径拡大率b/aが大きいほど高くなるが、本発明者等が鋭意検討したところ、この内径拡大率をさらに大きくするために、雄型入口部の断面直径aを小さくしようとすると、マンドレル(心棒)100が小径化して雄型102を十分に直線状に支持できなくなり、また、内径拡大率を大きくするために、雄型下部の断面直径bを大きくしようとすると、雄型の重量が過大となるばかりか、原料を均一かつ簡便に投入し難くなったり、金型の保持設備が大型化してしまうことが判明した。このため、図7に示す押出成形型103においては、得られる押出成形物の押出方向に垂直な方向の強度が十分に向上しなかったり、幅広なPTFEシートが得難かったりする。
【0010】
また、図7に示す押出成形型103は、雄型102を材料入口部側からマンドレル(心棒)100で固定する構成を採用していることから、PTFEシートを幅広にする為に、内径拡大率を大きくしようとすると、雄型102に入口部から受ける圧力が大きくなりすぎ、雄型102の中心軸がずれたり傾いたりして、雌型101と雄型102との間に形成される材料押圧用流路111の幅を一定に保ち難く、得られる押圧成形物に厚みムラが生じ、実用上十分な厚み精度を得ることが困難であることが分かった。
【0011】
一方、内径拡大率を大きくせずに幅広のPTFEシートを得るために、図7に示す断面直径aおよび断面直径bの両者を大きくすると、上述した場合と同様にして、原料を均一かつ簡便に投入し難くなったり、金型の重量が直径の3乗に比例して増加するので、重量増加が著しくなって金型の保持設備が大型化してしまう。
【0012】
このような状況下、本発明は、得られる押出成形物において、厚み精度を実用上十分なレベルに維持しつつ、押出方向に垂直な方向の強度を十分に向上させ、押出方向に垂直な方向の強度のばらつき抑制効果を向上させ、かつ幅広のPTFEシート状物を製造し得るPTFE粒子含有材料用押出成形型を提供することを第1の目的とするものである。また、本発明は、上記押出成形型を有してなるPTFE粒子含有材料押出成形機を提供することを第2の目的とするものであり、上記押出成形機を用いたPTFEシート状物の製造方法を提供することを第3の目的とするものであり、上記PTFEシート状物からPTFE多孔質シート状物を製造する方法を提供することを第4の目的とするものである。さらに、本発明は、PTFEシート状焼成物の製造方法を提供することを第5の目的とし、PTFE多孔質シート状焼成物の製造方法を提供することを第6の目的とし、PTFEシート状焼成物を提供することを第7の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記技術課題を解決すべく、本発明者等が鋭意検討を行ったところ、雌型と雄型とを有するPTFE粒子含有材料用押出成形型であって、前記雌型は、上下方向に貫通する中空状の内部空間を有し、該内部空間の下部から上部に向かう中途部分には、上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減するテーパー状空間が形成されてなり、前記雄型は、円柱状下部と、該円柱状下部から上部方向に上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減する先細り状先端部とを有してなり、前記雄型の先端部が、前記中空状の内部空間上部を向くように、かつ前記雄型の先端部外壁面が前記テーパー状空間を形成する雌型内壁面と相対するように、前記雄型を前記雌型の内部空間の下部に雌型と同軸的に配置することにより、前記雌型と雄型との間に、雄型の先端部に沿って上部から下部方向に伸びる放射状拡大部と雄型の円柱状下部に沿って伸びる管状部を有する材料押圧用流路を設けてなるPTFE粒子含有材料用押出成形型を得、この押出成形型により、上記第1の目的を達成し得ることを見出し、また上記押出成形型を用いることにより、上記第2〜第7の目的を達成し得ることを見出して、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)雌型と雄型とを有するPTFE粒子含有材料用押出成形型であって、
前記雌型は、上下方向に貫通する中空状の内部空間を有し、該内部空間の下部から上部に向かう中途部分には、上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減するテーパー状空間が形成されてなり、
前記雄型は、円柱状下部と、該円柱状下部から上部方向に上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減する先細り状先端部とを有してなり、
前記雄型の先端部が、前記中空状の内部空間上部を向くように、かつ前記雄型の先端部外壁面が前記テーパー状空間を形成する雌型内壁面と相対するように、前記雄型を前記雌型の内部空間の下部に雌型と同軸的に配置することにより、
前記雌型と雄型との間に、雄型の先端部に沿って上部から下部方向に伸びる放射状拡大部と雄型の円柱状下部に沿って伸びる管状部を有する材料押圧用流路を設けてなる
ことを特徴とするPTFE粒子含有材料用押出成形型、
(2)前記テーパー状空間の最狭部において、テーパー状空間の上下方向に対して垂直方向に形成される材料流入面積を2等分する円周を最狭部断面積平均円周とし、前記材料押圧用流路の下端部において、テーパー状空間の上下方向に対して垂直方向に形成される材料出口面積を2等分する円周を出口部断面積平均円周としたときに、
最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比が5以上である
上記(1)に記載のPTFE粒子含有材料用押出成形型、
(3)前記雄型の上下方向に対する水平断面において、先細り状先端部頂部の内角が80°以下である上記(1)または(2)に記載のPTFE粒子含有材料用押出成形型、
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のPTFE粒子含有材料用押出成形型を有してなることを特徴とするPTFE粒子含有材料用押出成形機、
(5)上記(4)に記載のPTFE粒子含有材料用押出成形機を用いて、
押出成形型を構成する雌型の内部空間にPTFE粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、
得られた管状予備成形物を軸方向に切断することによりシート状物を作製することを特徴とするPTFEシート状物の製造方法、
(6)前記管状成形物の切断後に、さらに押出方向に圧延処理する上記(5)に記載のPTFEシート状物の製造方法、
(7)上記(4)に記載のPTFE粒子含有材料用押出成形機を用いて、
押出成形型を構成する雌型の内部空間にPTFE粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、
得られた管状予備成形物を軸方向に切断した後、さらに押出方向に一軸延伸処理するか、または押出方向および押出し方向に垂直な方向に二軸延伸処理するPTFE多孔質シート状物の製造方法、
(8)上記(4)に記載のPTFE粒子含有材料用押出成形機を用いて、
押出成形型を構成する雌型の内部空間にPTFE粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、
得られた管状予備成形物を軸方向に切断した後、焼成処理する
ことを特徴とするPTFEシート状焼成物の製造方法、
(9)上記(4)に記載のPTFE粒子含有材料用押出成形機を用いて、
押出成形型を構成する雌型の内部空間にPTFE粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、
得られた管状予備成形物を軸方向に切断した後、さらに得られた切断物を押出方向に一軸延伸処理するか、または押出方向および押出し方向に垂直な方向に二軸延伸処理するとともに、焼成処理する
ことを特徴とするPTFE多孔質シート状焼成物の製造方法、
(10)長手方向および長手方向に垂直な方向の引張強度がいずれも35〜70MPaであることを特徴とするPTFEシート状焼成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、押出成形型として上下方向に貫通する中空状の内部空間を有するものを採用し、押出成形型を構成する雄型を、雌型の内部空間上部からマンドレルにより吊り下げるのではなく、雌型の内部空間下部に配置することにより、すなわち、雄型先端部の外壁面と、テーパー状内部空間における雌型内壁面とが相対するように、雄型を上記内部空間の下部に配置し下方から支持することにより出口部の円周を大きくすることができるとともに、太く剛性の大きな支持体を用いることが可能となり、得られる押出成形物の厚み精度を実用上十分なレベルに維持することができる。また、雄型として、円柱状下部と、該下部から上部方向に上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減してなる先細り状先端部とを有してなるものを用い、この先端部が材料押圧側を向くように雄型を配置して、雄型下部における出口部断面積平均円周の長さと雄型上部における最狭部断面積平均円周の長さの差を増大させることによって、押出方向および押出方向に対して垂直方向に高度な配向が行われ、得られる押出成形物の押出方向に垂直な方向の強度を十分に向上させ、押出方向に垂直な方向の延伸強度のばらつき抑制効果を向上するとともに、幅広のPTFEシート状物を製造し得るPTFE粒子含有材料用押出成形型を提供することができる。
【0016】
さらに、本発明によれば、上記押出成形型を有してなることを特徴とするPTFE粒子含有材料用押出成形機、該押出成形機を用いることを特徴とする、PTFEシート状物の製造方法、PTFE多孔質シート状物の製造方法、PTFEシート状焼成物の製造方法、PTFE多孔質シート状焼成物の製造方法およびPTFEシート状焼成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の押出成形型の一態様を示す図である。
【図2】本発明の押出成形型の一態様を示す図である。
【図3】本発明の押出成形型の一態様を示す図である。
【図4】本発明の押出成形型における最狭部断面積平均円周に対する出口部断面積平均円周の比の算出方法を説明する図である。
【図5】本発明の押出成形型を構成する雄型の先細り状先端部頂部の内角を説明する図である。
【図6】本発明の押出成形機の一態様を示す図である。
【図7】従来の押出成形型を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形型について説明する。
【0019】
本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形型は、雌型と雄型とを有するPTFE粒子含有材料用押出成形型であって、前記雌型は、上下方向に貫通する中空状の内部空間を有し、該内部空間の下部から上部に向かう中途部分には、上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減するテーパー状空間が形成されてなり、前記雄型は、円柱状下部と、該円柱状下部から上部方向に上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減する先細り状先端部とを有してなり、前記雄型の先端部が、前記中空状の内部空間上部を向くように、かつ前記雄型の先端部外壁面が前記テーパー状空間を形成する雌型内壁面と相対するように、前記雄型を前記雌型の内部空間の下部に雌型と同軸的に配置することにより、前記雌型と雄型との間に、雄型の先端部に沿って上部から下部方向に伸びる放射状拡大部と雄型の円柱状下部に沿って伸びる管状部を有する材料押圧用流路を設けてなることを特徴とするものである。
【0020】
以下、本発明の押出成形型の実施形態を、図面に基づいて説明するものとする。
【0021】
図1は、本発明の押出成形型の1態様を示す概略断面図であり、図2は、本発明の押出成形型の別態様を示す概略断面図である。
【0022】
図1および図2に示す押出成形型3は、雌型1と雄型2とを有するものであって、雌型1には、下部から上部に向かう中途部分(長手方向中途部分)に、上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減するテーパー状空間52が形成されてなる、上下方向に貫通する中空状の内部空間4が設けられている。
【0023】
図1に示す押出成形型と図2に示す押出成形型は、雌型1の内部空間4の長手方向中途部分に括れ部51を設けるか否かという点において相異しているが、その他の点においては共通しているので、以下、主に図1および図2に示す態様に基づいて、本発明の押出成形型について説明するものとする。
【0024】
図1および図2に示すように、本発明の押出成形型3には、雌型1の内部空間4の下部から上部に向かう長手方向中途部分にテーパー状空間52が形成されてなる。
【0025】
図1および図2に示すように、本発明の押出成形型3を構成する雄型2は、円柱状下部6と、該下部6から上部方向に上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減する先細り状先端部7とを有している。
【0026】
雌型1の内部空間4の全体形状は、概略円筒形状であることが好ましく、雌型1の内部空間4の寸法や、雄型2の寸法は、押圧しようとする成形材料量等に応じて適宜決定することができる。
【0027】
そして、図1および図2に示すように、雄型2の先端部7が中空状の内部空間4の上部(材料押圧側である図1および図2の上側)を向くように、かつ先端部7の外壁面8とテーパー状空間52を形成する雌型内壁面9とが相対するように、雄型2を内部空間4の下部(成形材料押圧方向下部)に、雌型1の軸10と同軸的に配置する。
【0028】
このような構成を採用することにより、雌型1と雄型2との間に、成形材料の押出方向(図1および図2の上側から下側方向)に、雄型の先細り状先端部(先細り状先端部の外壁面8)に沿って、雄型2の中心軸側から雄型2の外側に伸びる放射状拡大部11と雄型の下部6に沿って伸びる管状部12が形成されてなる材料押圧用流路11が設けられる。
【0029】
図1や図2において、雄型2の先端部上端はテーパー状空間52の最狭部から突出しているが、雄型2の先端部上端は、テーパー状空間52の最狭部から必ずしも突出している必要はなく、図3に示すように、上記最狭部から突出しないように配置してもよい。
【0030】
本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形型は、上記テーパー状空間の最狭部において、テーパー状空間の上下方向に対して垂直方向に形成される材料流入面積を2等分する円周を最狭部断面積平均円周とし、上記材料押圧用流路の下端部において、テーパー状空間の上下方向に対して垂直方向に形成される材料出口面積を2等分する円周を出口部断面積平均円周とし、最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さ)が5以上であることが好ましい。
【0031】
上記比は7以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形型においては、上記比が5以上であることによって、押出成形時において、得られる押出成形物の押出方向に垂直な方向への焼成処理後における延伸強度を向上させ、幅広なシート状成形物を作製することができる。
【0032】
上述したように、本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形型においては、雄型の先端部上端はテーパー状空間の最狭部から突出していてもよいし、突出していなくてもよい。このため、雄型2の先端部上端がテーパー状空間の最狭部から突出していない態様の場合、図7に記載されているような、雄型上部の断面直径aを規定できないことから、雄型上部の断面直径aと雄型下部の断面直径bにより規定される内径拡大率b/aを規定することができなくなる。また、上記内径拡大率は、拡大率の平均や、最低拡大率、最大拡大率等を十分考慮したものではなく、拡大率の記述としては不十分と考えられる。
【0033】
そこで、本発明の押出成形型においては、以下に示す最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さ)を定義し、これを内径拡大率に代えることにより、上記最狭部断面と出口部断面間において、材料の押出し方向と垂直な方向の円周長さが拡大する比率、即ちシート状物の幅方向(押出方向に垂直な方向)の配向計算値を与えることができる。すなわち、上記最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比により、拡大率の平均や、最低拡大率、最大拡大率等を考慮した体積平均値を付与することができ、上記比を制御することにより、シート状物の幅方向(押出方向に垂直な方向)の配向性を所望範囲に制御することができる。
【0034】
図4に示すように、テーパー状空間52の最狭部において、上記材料押圧用流路11外周の半径をW、内周の半径をXとする場合、内部空間4の上下方向に対して垂直に形成される材料流入面積は、πW−πXにより規定される。また、上記材料流入面積を2等分する円周を最狭部断面積平均円周とする場合に、該最狭部断面積平均円周の半径をcとすると、下記式(I)が成立することになる。
πW−πX=2(πc−πX) (I)
式(I)を半径cについてまとめると、下記式(II)が求められる。
c=((W+X0.5)/(20.5) (II)
【0035】
また、図4に示すように、材料押圧用流路11の出口部において、該流路外周の半径をY、内周の半径をZとした場合、内部空間4の上下方向に対して垂直に形成される材料出口面積は、πY−πZにより規定される。また、上記材料出口面積を2等分する円周を出口部断面積平均円周とした場合に、該出口部断面積平均円周の半径をdとすると、下記式(III)が成立することになる。
πY−πZ=2(πd−πZ) (III)
式(III)を半径dについてまとめると、下記式(IV)が求められる。
d=((Y+Z0.5)/(20.5) (IV)
【0036】
上記半径cから導かれる最狭部断面積平均円周の長さは2πcであり、上記半径dから導かれる出口部断面積平均円周は2πdであることから、最狭部断面積平均円周に対する出口部断面積平均円周の長さの比(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さ)である2πd/2πcは、式(II)および式(IV)より下記式(V)のとおり表すことができる。
2πd/2πc=((Y+Z0.5)/((W+X0.5) (V)
【0037】
本発明の押出成形型において、雄型2の先端部上端が、図3に示すように、テーパー状空間52の最狭部から突出していない態様を採る場合、テーパー状空間52の最狭部における半径Xは0とみなすことができるので、上記式(V)から、以下の式(V’)が導かれる。
2πd/2πc=((Y+Z0.5)/W (V’)
【0038】
従って、本発明の押出成形型においては、図1や図2に示すように、雄型2の先端部上端が、テーパー状空間52の最狭部から突出する態様を採る場合も、図3に示すように、雄型2の先端部上端が、テーパー状空間52の最狭部から突出していない態様を採る場合も、上記式(V)または式(V’)により、最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比2πd/2πcを求めることができる。また、押出成形型として、図4には、括れ部51を有するものが開示されているが、図2に示すような括れ部51を有さない押出成形型であっても同様に最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比2πd/2πcを求めることができる。
【0039】
上記最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さ)2πd/2πcを大きくするには、出口部断面積平均円周の長さ2πdを大きくする方法と、最狭部断面積平均円周の長さ2πcを小さくする方法があるが、前者の方法だけによれば、いたずらに雄型2が大型化、重量化したり、後述する雄型2の先端部7の内角αが大きくなってしまうことから、先ず後者の方法によって2πd/2πcを増大させることが好ましい。
【0040】
具体的には、雄型2の先端部7の頂部を、図1や図2に示すテーパー状空間52の最狭部(雌型1の内壁が内部空間4側に最も突出した部分)に位置させるかそれより下側(図1や図2におけるテーパー状空間52の最狭部よりも下方側)に位置させることにより、すなわちX=0とすることにより、最狭部断面積平均円周2πcを小さくすることができる。
【0041】
材料押圧用流路の最狭部から出口部方向へ向かう流路幅(材料の流路幅)は、得ようとする押出成形物の厚みに応じて適宜決定すればよいが、幅狭になっていることが好ましく、1mm〜10mmであることが適当である。また、図1等に示すように、本発明の押出成形型において、材料押圧用流路の幅は、最狭部から出口部方向へ向かって狭まっていくものであることが好ましい。このような構成を採ることにより、得られる押出成形物(PTFEシート状物)の押出方向に垂直な方向の強度を十分に向上させ、かつ押出方向に垂直な方向の延伸強度のばらつき抑制効果を向上させることができる。
【0042】
さらに、本発明の押出成形型においては、図5に示すように、雄型2の上下方向に対する水平断面において、先細り状先端部頂部の内角αが80°以下であることが好ましく、60°以下であることがより好ましく、55°以下であることがさらに好ましい。上記内角αが80°超であると、PTFE粒子含有材料の押出成形時に押圧力が増大し過ぎて、圧力損失が増大してしまうばかりか、本発明の押出成形型のように最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さ)が大きい成形型の場合、成形材料の片流れ(PTFE粒子含有材料が材料押圧用流路全体を均一に流れない現象)が生じやすくなる。また、先細り状先端部頂部の内角αが小さすぎると、成形設備の全体が大きくなり過ぎたり、成形の切り替え毎に材料滞留量が増え歩留まりが低下することから、先細り状先端部頂部の内角αは15°以上であることが好ましく、25°以上であることがより好ましく、30°以上であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の押出成形型で用いられる成形材料は、PTFE粒子含有材料である。PTFE粒子含有材料としては、PTFE粒子を含有するものであれば特に制限されず、例えば、フルオンCD−123、CD145(旭・ICIフロロポリマーズ社製)、ポリフロンF−104(ダイキン工業社製)、テフロン(登録商標)6J(三井・デュポンフロロケミカル社製)等のPTFEの押出し成形用樹脂として販売されているものを挙げることができる。
【0044】
上記成形材料は、通常、押圧時に用いられる潤滑剤を含むものであることが好ましく、潤滑剤としては、PTFEの表面を濡らすことができ、押出成形してシート状物を得た後、蒸発、抽出などの方法で除去できるものであることが好ましい。例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、トルエン、キシレンなどの炭化水素油の他、アルコール類、ケトン類、エステル類およびこれらの2種類以上の混合物を挙げることができる。上記潤滑剤のPTFE粒子への添加量は、PTFE粒子および、潤滑剤の種類等により適宜決定されるが、PTFE粒子100重量部に対して潤滑剤が約5〜50重量部であることが好ましい。
【0045】
本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形型においては、図1および図2に示すように、押出成形型3を構成する雄型2を、雌型1の内部空間4に上部からマンドレルにより吊り下げるのではなく、雌型1の内部空間4下部に雄型2を配置することにより、すなわち、雄型先端部7の外壁面8とテーパー状空間52を形成する雌型内壁面9とが相対するように、雄型2を上記内部空間4下部に配置することにより、押圧時に生じる雄型2の中心軸のずれや傾きを抑制し、得られる押出成形物の厚み精度を実用上十分なレベルに維持することができる。また、雄型2として、円柱状下部6と、該下部から上部方向に上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減してなる先細り状先端部7とを有するものを採用し、この先端部7が内部空間4の上部(成形材料の押圧側)を向くように雄型を配置して、材料押圧用流路の最狭部における断面積平均円周を小さくし、最狭部断面積平均円周に対する出口部断面積平均円周の比を増大させることによって、得られる押出成形物の押出方向に垂直な方向の強度を十分に向上させ、同方向の延伸強度のばらつき抑制効果を向上させることができる。
【0046】
次に、本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形機について説明する。
本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形機は、本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形型を有してなることを特徴とするものである。
【0047】
本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形機で用いられるPTFE粒子含有材料用押出成形型やPTFE粒子含有材料としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0048】
図6に、本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形型3を有するPTFE粒子含有材料用押出成形機14を例示する。図示するように、本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形機14は、本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形型3とともに、押圧棒13や、押出成形物16を軸方向に切断するカッター15を有するものであることが好ましい。
【0049】
次に、本発明のPTFEシート状物の製造方法について説明する。
【0050】
本発明のPTFEシート状物の製造方法は、本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形機を用いて、押出成形型を構成する雌型の内部空間にPTFE粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、得られた管状予備成形物を軸方向に切断することによりシート状物を作製することを特徴とするものである。
【0051】
本発明のPTFEシート状物の製造方法で用いられるPTFE粒子含有材料用押出成形機や、PTFE粒子含有材料としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0052】
本発明のPTFEシート状物の製造方法においては、例えば、PTFE粒子と潤滑剤とを任意の比で混合して得られた成形用材料を、図6に示す押出成形型3を構成する雌型の内部空間に投入した後、加圧棒13で押圧することによって、押出成形型3下端部の材料押圧用流路の出口から管状の予備成型物を排出し、次いでこの管状予備成形物をカッター15で軸方向(押出方向)に切断することにより、所望のシート状物16を得ることができる。
【0053】
本発明のPTFEシート状物の製造方法において、PTFE粒子含有材料用押出成形型3内で成形材料に加えられる圧力は、30〜500kg/cm2 であることが好ましい。
【0054】
また、本発明のPTFEシート状物の製造方法において、得られた管状物を軸方向(押出方向)に切断してシート化する方法としては、管状物の一か所を軸方向に切断して開いてシート化してもよいし、管状物をつぶし、その両端を軸方向に切断して2枚のシートにしてもよい。
【0055】
また、本発明のPTFEシート状物の製造方法においては、上記管状成形物の切断後に、切断物をさらに押出方向に圧延処理してもよい。
【0056】
圧延処理は、圧延後の厚みが圧延前の厚みの1/10〜9/10となるように行うことが好ましく、圧延後の厚みが圧延前の厚みの2/10〜7/10となるように行うことがより好ましい。
【0057】
本発明のPTFEシート状物の製造方法においては、このようにして得られた切断物について、通常、潤滑剤が除去される。この潤滑剤の除去は、上記切断物をそのままの状態で行ってもよいし、もしくはPTFE粒子の配列度合を上げるために上記切断物を対になったロールで圧延し更に薄くした後に行ってもよい。潤滑剤の除去は、従来から行われている加熱法あるいは抽出法またはこれらを組み合わせた方法で行うことが好ましい。
【0058】
本発明のPTFEシート状物の製造方法においては、幅広で厚み精度が高く、任意の幅や厚みを有するPTFEシート状物を得ることができる。本発明のPTFEシート状物の製造方法においては、例えば、幅が150〜2000mmであり、厚さが1〜25mmであるPTFEシート状物を得ることができる。
【0059】
本発明のPTFEシート状物の製造方法では、押出成形時に、出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さの比を増大し得る押出成形型を用いることにより、PTFE粒子に対して、押出方向および押出方向に対して垂直方向に高度に均一に配向させる処理が行われている。このため、本発明のPTFEシート状物の製造方法により得られるPTFEシート状物は、PTFE樹脂原料がシートの縦横2方向に配向して、2方向に高い強度を有している。
【0060】
次に、本発明のPTFE多孔質シート状物の製造方法について説明する。
【0061】
本発明のPTFE多孔質シート状物の製造方法は、本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形機を用いて、押出成形型を構成する雌型の内部空間にPTFE粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、得られた管状予備成形物を軸方向に切断した後、さらに得られた切断物を押出方向に一軸延伸処理するか、または押出方向および押出し方向に垂直な方向に二軸延伸処理することを特徴とするものである。
【0062】
本発明のPTFE多孔質シート状物の製造方法で用いられるPTFE粒子含有材料用押出成形機や、PTFE粒子含有材料としては、上述したものと同様のものを挙げることができ、また、PTFE粒子含有材料を供給し、押圧した後、得られた管状予備成形物を軸方向に切断する具体的態様としては、上記本発明のPTFEシート状物の製造方法の説明で挙げたものと同様の態様を挙げることができる。
【0063】
本発明のPTFE多孔質シート状物の製造方法においては、管状予備成形物を切断した後、得られたPTFEシート状物を、押出方向に一軸延伸処理するか、押出方向および押出方向に垂直な方向に二軸延伸処理する。
【0064】
本発明のPTFE多孔質シート状物の製造方法の具体的態様としては、例えば、図6に示す押出成形機において、上述した方法によりシート状物16を得た後、このシート状物16を延伸装置17で押出方向に一軸延伸処理するか、押出方向および押出方向に垂直な方向に二軸延伸処理する方法が挙げられる。
【0065】
延伸処理法方法としては、公知の方法を挙げることができる。
【0066】
上記延伸処理の面積倍率は、PTFEシート状物の大きさを基準として、通常、10〜15000%であり、50〜10000%程度であることが適当である。
【0067】
本発明の方法で得られるPTFE多孔質シート状物は、密度が0.05〜1.0g/cmであることが適当であり、0.1〜0.5g/cmであることがより適当である。
【0068】
本発明のPTFE多孔質シート状物の製造方法において、延伸処理対象となるPTFEシート状物は、上述したように、押出成形時に、PTFE粒子に対し、押出方向および押出方向に対して垂直方向に高度に均一に配向させる処理が行われているため、上記PTFEシート状物は、PTFEシートの縦横2方向に配向して、両方向において高い強度を有している。このため、上記PTFEシート状物を押出方向に一軸延伸処理することによって、シート中のPTFE粒子が微細に効率よく高度に繊維化され、この結果PTFEシートを多孔質化する延伸を非常に高倍率まで好適に行うことができる。
【0069】
また、必要に応じて、二軸延伸処理、すなわち押出方向および押出方向に垂直な方向への延伸処理を逐次または同時に行うことにより、所望程度まで十分に延伸することが可能となる。
【0070】
本発明のPTFE多孔質シート状物の製造方法においては、幅広で厚み精度が高く、任意の幅や厚みを有するPTFEシート状物から、所望寸法を有するPTFE多孔質シート状物を容易に作製することができる。
【0071】
次に、本発明のPTFEシート状焼成物の製造方法について説明する。
【0072】
本発明のPTFEシート状焼成物の製造方法は、本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形機を用いて、押出成形型を構成する雌型の内部空間にポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、得られた管状予備成形物を軸方向に切断した後、焼成処理することを特徴とするものである。
【0073】
本発明のPTFEシート状焼成物の製造方法において、用いられるPTFE粒子含有材料用押出成形機やPTFE粒子含有材料としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0074】
また、本発明のPTFEシート状焼成物の製造方法において、PTFE粒子含有材料用押出成形機にPTFE粒子含有材料を供給した後、管状予備成形物を軸方向に切断するまでの工程は、本発明のPTFEシート状物の製造方法と同様であり、得られた切断物をさらに焼成処理する点のみが本発明のPTFEシート状物の製造方法の発明と相違している。
【0075】
焼成処理時の加熱温度は、300〜380℃であることが好ましく、320〜360℃であることがより好ましい。また、焼成時間は、10分〜24時間であることが好ましい。また、焼成雰囲気は特に限定せず空気中で行うことができる。焼成処理は、公知の焼成装置等を用いて行うことができる。
【0076】
上記焼成処理によって、PTFEシート状物に比較して引張強度が向上したPTFEシート状焼成物を得ることができる。本発明の方法で得られるPTFEシート状焼成物は、例えば、押出方向および押出方向に対して垂直方向の引張強度が35〜70MPaである。
【0077】
本発明のPTFEシート状焼成物の製造方法においては、幅広で厚み精度が高く、任意の幅や厚みを有するPTFEシート状物から、所望寸法を有するPTFEシート状焼成物を容易に作製することができる。
【0078】
次に、本発明のPTFE多孔質シート状焼成物の製造方法について説明する。
【0079】
本発明のPTFE多孔質シート状焼成物の製造方法は、本発明のPTFE粒子含有材料用押出成形機を用いて、押出成形型を構成する雌型の内部空間にPTFE粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、得られた管状予備成形物を軸方向に切断した後、さらに押出方向に一軸延伸処理するか、または押出方向および押出し方向に垂直な方向に二軸延伸処理するとともに、焼成処理することを特徴とするものである。
【0080】
本発明のPTFE多孔質シート状焼成物の製造方法において、用いられるPTFE粒子含有材料用押出成形機やPTFE粒子含有材料としては、本発明のPTFEシート状物の製造方法と同様のものを挙げることができる。
【0081】
また、本発明のPTFE多孔質シート状焼成物の製造方法において、PTFE粒子含有材料用押出成形機にPTFE粒子含有材料を供給した後、管状予備成形物を軸方向に切断するまでの工程や、管状予備成形物を軸方向に切断した後、さらに一軸延伸処理するか二軸延伸処理する方法は、本発明のPTFE多孔質シート状物の製造方法と同様であり、一軸延伸処理または二軸延伸処理とともに、さらに焼成処理する点のみが本発明のPTFE多孔質シート状物の製造方法と相違している。
【0082】
上記焼成処理は、一軸延伸処理または二軸延伸処理を行う前に管状予備成形物の切断物に対して行ってもよいし、上記管状予備成形物の切断物を一軸延伸処理または二軸延伸処理した後に行ってもよいし、管状予備成形物の切断物を延伸処理しつつ同時に行ってもよい。
【0083】
焼成処理時の加熱温度は、300〜380℃であることが好ましく、320〜360℃であることがより好ましい。また、焼成時間は、10分〜24時間であることが好ましい。また、焼成雰囲気は特に限定せず空気中で行うことができる。焼成処理は、公知の焼成装置等を用いて行うことができる。
【0084】
本発明のPTFE多孔質シート状焼成物の製造方法においては、幅広で厚み精度が高く、任意の幅や厚みを有するPTFEシート状物から、所望寸法を有するPTFE多孔質シート状焼成物を容易に作製することができる。
【0085】
次に、本発明のPTFEシート状焼成物について説明する。
【0086】
本発明のPTFEシート状焼成物は、長手方向および長手方向に垂直な方向の引張強度がいずれも35〜70MPaであることを特徴とするものである。
【0087】
本発明のPTFEシート状焼成物は、本発明のPTFEシート状焼成物の製造方法により製造することができる。得られるPTFEシート状焼成物において、長手方向および長手方向に垂直な方向の引張強度がいずれも35〜70MPaであるためには、本発明のPTFEシート状焼成物の製造方法において、管状予備成形物を軸方向に切断した後、所望程度まで圧延処理してから、焼成処理すればよい。
【実施例】
【0088】
次に、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は、本実施例によりなんら限定されるものではない。
【0089】
(実施例1〜実施例3)(PTFEシート状物の製造例)
図6に示すような装置構成を有する3台の押出成形型14を用いて、それぞれシート状物を製造した。
【0090】
押出成形型14は、図4に示すように、括れ部51を有する雌型1と、雄型3とを有するものであり、シート状物の製造にあたっては、雄型3の先端部7の上端位置がそれぞれ異なる3台の装置(雄型3の先細り状先端部頂部の内角がいずれも50°であるもの)を用いてシート状物を製造した。
【0091】
すなわち、最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さ)が7.6である押出成形型(実施例1)と、最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比が15.6である押出成形型(実施例2)と、最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比が22.1である押出成形型(実施例3)をそれぞれ有する押出成形機14を用いて、シート状物を製造した。
【0092】
先ず、PTFEファインパウダー(商品名「フルオンCD145」、旭硝子株式会社製)83重量部と、潤滑剤(アイソパーM、エクソンモービル社製)17重量部を均一に混合して、成形用材料を得た。
【0093】
この成形用材料を、図6に示すように、押出成形型を構成する雌型1の内部空間に投入し、押圧棒13で押圧して、管状の予備成形物を得、そして、この管状の予備成形物を軸方向(押出方向)にカッター15で切断してシート状とし、180℃で16時間乾燥処理することにより上記潤滑剤の除去を行って、PTFEシート状物を得た。
【0094】
得られたシート状物の幅および厚さを表1に示す。
【0095】
また、得られたPTFEシート状物について、縦方向(押出方向)の引張り強度および横方向(押出方向に垂直な方向)の引張り強度および伸度と、上記縦方向と横方向の引張強度の比を、引張強度試験機(テンシロン、東洋ボールドウィン社製)を用いて測定した結果を、表2に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
(実施例4〜実施例5)(PTFEシート状焼成物の製造例)
実施例2で得られたシート状物(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さが15.6の押出成形型で作製したもの)および実施例3で得られたシート状物(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さが22.1の押出成形型で作製したもの)を更に厚さ3mmのステンレス鋼の板(SUS板)に挟み360℃で3時間保持することにより焼成処理を行った。
【0099】
得られたPTFEシート状焼成物の幅および厚さを表3に示す。
【0100】
また、得られたPTFEシート状焼成物について、縦方向(押出方向)の引張り強度および横方向(押出方向に垂直な方向)の引張り強度および伸度と、上記縦方向と横方向の引張強度の比を、引張強度試験機(テンシロン、東洋ボールドウィン社製)を用いて測定した結果を、表4に示す。
【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
(実施例6〜実施例7)(PTFEシート状焼成物の製造例)
実施例2で得られたシート状物(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さが15.6の押出成形型で作製したもの)および実施例3で得られたシート状物(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さが22.1の押出成形型で作製したもの)を更にロールで縦方向(押出方向)に圧延して約1/4の厚みにした後、厚さ3mmのステンレス鋼の板(SUS板)に挟み360℃で3時間保持することにより焼成処理を行った。
【0104】
得られたPTFEシート状焼成物の幅および厚さを表5に示す。
【0105】
また、得られたPTFEシート状焼成物について、縦方向(押出方向)の引張り強度および横方向(押出方向に垂直な方向)の引張り強度および伸度と、上記縦方向と横方向の引張強度の比を、引張強度試験機(テンシロン、東洋ボールドウィン社製)を用いて測定した結果を、表6に示す。
【0106】
【表5】

【0107】
【表6】

【0108】
(実施例8〜実施例10)(PTFE多孔質シート状物およびPTFE多孔質シート状焼成物の製造例)
実施例1で得られたシート状物(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さが7.6の押出成形型で作製したもの)、実施例2で得られたシート状物(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さが15.6の押出成形型で作製したもの)および実施例3で得られたシート状物(出口部断面積平均円周の長さ/最狭部断面積平均円周の長さが22.1の押出成形型で作製したもの)を更にロールで縦方向(押出方向)に圧延して約1/4の厚みにした後、600%縦方向(押出方向)に延伸し同時に340℃で焼成してPTFE多孔質シート状焼成物を得た。
【0109】
上記PTFE多孔質シート状焼成物を走査型電子顕微鏡で観察したところ、多孔質構造を有していることを確認することができた。得られたPTFEシート状焼成物の幅および厚さを表7に示す。
【0110】
また、得られたPTFEシート状焼成物について、縦方向(押出方向)の引張り強度および横方向(押出方向に垂直な方向)の引張り強度および伸度と、上記縦方向と横方向の引張強度の比を、引張強度試験機(テンシロン、東洋ボールドウィン社製)を用いて測定した結果を、表8に示す。
【0111】
【表7】

【0112】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、得られるPTFEシート状物の厚み精度を実用上十分なレベルに維持しつつ、押出方向に垂直な方向の強度を十分に向上させ、かつ同方向の延伸強度のばらつき抑制効果を向上させるとともに、幅広なPTFEシート状物を製造し得るPTFE粒子含有材料用押出成形型を提供することができる。
【0114】
また、本発明によれば、上記押出成形型を有してなるPTFE粒子含有材料用押出成形機、上記押出成形機を用いたPTFEシート状物の製造方法、PTFE多孔質シート状物の製造方法、PTFEシート状焼成物の製造方法、PTFE多孔質シート状物の製造方法およびPTFEシート状焼成物を提供することができる。
【符号の説明】
【0115】
1、101 雌型
2、102 雄型
3、103 押出成形型
4、104 内部空間
51、151 括れ部
52 テーパー状空間
6 円柱状下部
7 先細り状先端部
8 先端部外壁面
9 雌型内壁面
10 軸
11、111 放射状拡大部
12 管状部
13 押圧棒
14 押出成形機
15 カッター
16 押出成形物
17 延伸装置
100 マンドレル
108 円錐状拡大部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌型と雄型とを有するポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形型であって、
前記雌型は、上下方向に貫通する中空状の内部空間を有し、該内部空間の下部から上部に向かう中途部分には、上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減するテーパー状空間が形成されてなり、
前記雄型は、円柱状下部と、該円柱状下部から上部方向に上下方向に対する垂直断面直径が漸次低減する先細り状先端部とを有してなり、
前記雄型の先端部が、前記中空状の内部空間上部を向くように、かつ前記雄型の先端部外壁面が前記テーパー状空間を形成する雌型内壁面と相対するように、前記雄型を前記雌型の内部空間の下部に雌型と同軸的に配置することにより、
前記雌型と雄型との間に、雄型の先端部に沿って上部から下部方向に伸びる放射状拡大部と雄型の円柱状下部に沿って伸びる管状部を有する材料押圧用流路を設けてなる
ことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形型。
【請求項2】
前記テーパー状空間の最狭部において、テーパー状空間の上下方向に対して垂直方向に形成される材料流入面積を2等分する円周を最狭部断面積平均円周とし、前記材料押圧用流路の下端部において、テーパー状空間の上下方向に対して垂直方向に形成される材料出口面積を2等分する円周を出口部断面積平均円周としたときに、
最狭部断面積平均円周の長さに対する出口部断面積平均円周の長さの比が5以上である
請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形型。
【請求項3】
前記雄型の上下方向に対する水平断面において、先細り状先端部頂部の内角が80°以下である請求項1または請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形型。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形型を有してなることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形機。
【請求項5】
請求項4に記載のポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形機を用いて、
押出成形型を構成する雌型の内部空間にポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、
得られた管状予備成形物を軸方向に切断することによりシート状物を作製することを特徴とするポリテトラフルオロエチレンシート状物の製造方法。
【請求項6】
前記管状成形物の切断後に、さらに押出方向に圧延処理する請求項5に記載のポリテトラフルオロエチレンシート状物の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載のポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形機を用いて、
押出成形型を構成する雌型の内部空間にポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、
得られた管状予備成形物を軸方向に切断した後、さらに押出方向に
一軸延伸処理するか、または押出方向および押出し方向に垂直な方向に二軸延伸処理することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔質シート状物の製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載のポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形機を用いて、
押出成形型を構成する雌型の内部空間にポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、
得られた管状予備成形物を軸方向に切断した後、焼成処理する
ことを特徴とするポリテトラフルオロエチレンシート状焼成物の製造方法。
【請求項9】
請求項4に記載のポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料用押出成形機を用いて、
押出成形型を構成する雌型の内部空間にポリテトラフルオロエチレン粒子含有材料を供給し、押圧することにより、材料押圧用流路の下端部から管状予備成形物を排出し、次いで、
得られた管状予備成形物を軸方向に切断した後、さらに得られた切断物を、押出方向に一軸延伸処理するかまたは押出方向および押出し方向に垂直な方向に二軸延伸処理するとともに、焼成処理する
ことを特徴とするポリテトラフルオロエチレン多孔質シート状焼成物の製造方法。
【請求項10】
長手方向および長手方向に垂直な方向の引張強度がいずれも35〜70MPaであることを特徴とするポリテトラフルオロエチレンシート状焼成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−253755(P2010−253755A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105002(P2009−105002)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】