説明

ポリブチレンテレフタレートの高温水による分解法

【課題】工業的に有利にポリブチレンテレフタレートからテレフタル酸とテトラヒドロフランを得ることを可能とする新規ポリブチレンテレフタレート分解方法を提供する。
【解決手段】高温水を利用した環境調和型のポリブチレンテレフタレートの分解方法であって、該高温水を含む反応系内に、ポリブチレンテレフタレートの構成モノマーであるテレフタル酸を添加することによって、従来技術よりも、高効率で、テレフタル酸と、テトラヒドロフランに分解する環境調和型のポリブチレンテレフタレートの分解方法、及び得られたモノマーを原材料として用いて、ポリブチレンテレフタレート製品を再生産するポリブチレンテレフタレート製品のケミカルリサイクル方法。
【効果】ポリブチレンテレフタレートを、高温水のみで効率的にテレフタル酸とテトラヒドロフランへ分解することを可能とする環境調和型のリサイクル技術を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温水を用いて、ポリブチレンテレフタレートと高温水を反応させ、ポリブチレンテレフタレートを分解し、原材料であるテレフタル酸と1,4−ブタンジオール、そして工業的に重要なテトラヒドロフランを得るポリブチレンテレフタレートの高温水による分解方法に関するものであり、更に詳しくは、高温水を用いて、ポリブチレンテレフタレートから効率良くテレフタル酸やテトラヒドロフランを得、更に、該原材料を用いて、化学工業製品を再生産することを可能とする環境調和型ケミカルリサイクルプロセスに関するものである。本発明は、有機溶媒や、一般的鉱酸や固体触媒などを用いることなく、350℃以下の高温水を用いるだけで、ポリブチレンテレフタレートの分解と、その再生産を可能とするポリブチレンテレフタレートの環境調和型ケミカルリサイクルシステムを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレートは、熱安定性や、寸法精度、電気特性に優れることから、電気電子部品や自動車部品などに広く用いられているエンジニアリングプラスチックである。このポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールの共重合により製造されている(非特許文献1)。
【0003】
テトラヒドロフランは、それ自体が、高性能溶剤として需要を持つほか、その重合体であるポリテトラメチレンエーテルグリコールは、スパンデックスや人口皮革の原料として利用されている(非特許文献2)。
【0004】
一般に、限りある石油資源を原料とするプラステック系高分子を、使用後に、モノマーに分解したり、他の化学品原料へと変換させ、新たな製品に化学合成するケミカルリサイクル技術の開発が、持続可能な社会の構築のために重要である。そこで、簡便で、有害物質を使用せず、且つ経済的に成り立つケミカルリサイクルのプロセス開発が望まれる。
【0005】
ポリブチレンテレフタレートと類似構造を有するポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクルでは、ポリエチレンテレフタレートを、エチレングリコールによる解重合反応及びメタノールによるエステル変換反応により、テレフタル酸ジメチル及びエチレングリコールに分離、精製するプロセスが提案されているが、該プロセスでは、反応系にメタノールを用いる必要があるなどの問題点があった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−167469号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】石油化学プロセス,石油学会編,ISBN4−06−153392−4 pp.306−311(2001)
【非特許文献2】石油化学プロセス,石油学会編,ISBN4−06−153392−4 p.116(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、これらの問題点を抜本的に解決すべく長年鋭意研究を積み重ねた結果、ポリブチレンテレフタレートの水による分解反応の際の生成物であるテレフタル酸を、当該ポリブチレンテレフタレートの分解反応に関与させることによって、より低い反応温度で、効率的にポリブチレンテレフタレートの分解反応が進行することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、より低温の150〜350℃の高温水を用い、反応系に、該反応系の生成物モノマーであるテレフタル酸を添加することによって、ポリブチレンテレフタレートを効率良く分解することを可能とする、環境調和型及び省エネルギー型のポリブチレンテレフタレートの分解方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、該分解方法を利用して得られるテレフタル酸やテトラヒドロフランを原材料として、工業的に重要な化学製品を生産するポリブチレンテレフタレートのリサイクルシステムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)150℃を上回る高温水を用いた反応系で、該高温水によりポリブチレンテレフタレートを分解して、テレフタル酸と、1,4−ブタンジオール、更に1,4−ブタンジオールが分子内脱水反応したテトラヒドロフランを得ることを特徴とするポリブチレンテレフタレートの分解方法。
(2)上記反応系に、触媒として、ポリブチレンテレフタレートの構成成分であるテレフタル酸を、ポリブチレンテレフタレートに対して、グラム比で0.0075〜10倍添加する、前記(1)に記載のポリブチレンテレフタレートの分解方法。
(3)高温水として、温度150〜350℃の高温水を用いる、前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレートの分解方法。
(4)ポリブチレンテレフタレートに対する水のグラム比が、0.1〜100の範囲である、前記(1)から(3)のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの分解方法。
(5)上記の反応系内の二酸化炭素分圧を、0.1〜5.0MPaとなるように二酸化炭素で充填する、前記(1)から(4)のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの分解法。
(6)前記(1)から(5)のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの分解方法を使用して、ポリブチレンテレフタレート製品をケミカルリサイクルする方法であって、上記反応系から、テレフタル酸と、1,4−ブタンジオールとテトラヒドロフランを分離し、再利用することを特徴とするポリブチレンテレフタレート製品のケミカルリサイクル方法。
(7)上記反応系で得られた1,4−ブタンジオールをテトラヒドロフランに変換し、分離する、前記(6)に記載のポリブチレンテレフタレート製品のケミカルリサイクル方法。
(8)上記反応系を冷却して、テレフタル酸を固体の状態で分離し、水に溶けた状態の1,4−ブタンジオールとテトラヒドロフランを蒸留して水と分離する、前記(6)に記載のポリブチレンテレフタレート製品のケミカルリサイクル方法。
(9)前記(6)に記載の方法で分離したテレフタル酸又は1,4−ブタンジオール又はテトラヒドロフランを原材料として用いて、ポリブチレンテレフタレートを再生産又は他の化学製品に変換することを特徴とするポリブチレンテレフタレート製品のリサイクルシステム。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、ポリブチレンテレフタレートの分解方法であって、150℃を上回る高温水を用いて、ポリブチレンテレフタレートを分解して、テレフタル酸と、1,4−ブタンジオール、更に1,4−ブタンジオールが分子内脱水反応したテトラヒドロフランを得ることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明では、上記ポリブチレンテレフタレートを加水分解して、構成成分であるテレフタル酸と1,4−ブタンジオールに分解し、1,4−ブタンジオールをテトラヒドロフラン変換し、分離すること、また、上記ポリブチレンテレフタレートの分解方法において、反応系を冷却して、テレフタル酸を固体の状態で分離し、水に溶けた状態の1,4−ブタンジオールとテトラヒドロフランを、蒸留して水と分離すること、を好ましい実施の態様としている。
【0013】
また、本発明では、上記ポリブチレンテレフタレートの加水分解と、1,4−ブタンジオールのテトラヒドロフランへの変換反応を促進させる触媒として、反応系内に、テレフタル酸を添加し、また、二酸化炭素を充填する構成を採用するものである。
【0014】
また、本発明は、ポリブチレンテレフタレート製品のケミカルリサイクル方法であって、上記の方法で分解し、分離したテレフタル酸又は1,4−ブタンジオール又はテトラヒドロフランを再利用して、ポリブチレンテレフタレートや他の化学製品を再生産することを特徴とするものである。
【0015】
更に、本発明は、ポリブチレンテレフタレートのリサイクルシステムであって、上記の方法を利用してポリブチレンテレフタレートを、水だけで加水分解して分離したテレフタル酸又は1,4−ブタンジオール又はテトラヒドロフランを原材料として用いて、ポリエチレンテレフタレートを、再生産又は他の化学製品に変換することを特徴とするものである。
【0016】
本発明のポリブチレンテレフタレートの高温水による分解技術についての説明を容易にするために、以下、ポリブチレンテレフタレートと水を、内容積100mlの反応容器に導入して、モノマーへ加水分解する反応を例にとって詳細に説明する。
【0017】
本発明では、反応系の反応温度は、150℃以上であれば特に限定されないが、通常用いられる反応温度は、150〜350℃であり、好ましい反応温度は、200〜350℃であり、より好ましい反応温度は、220〜300℃であり、最も好ましい反応温度は、250〜300℃である。反応温度があまりに低ければ、反応速度は低下して、効率の良い分解法とはならない。また、反応温度が、極端に高くなれば、ランニングコストが増大し、生成物の分解や重合反応が起きて、モノマー収率が低下し、経済的な方法とはならない。
【0018】
本発明においては、ポリブチレンテレフタレートに対するテレフタル酸の添加量は、グラム比で通常用いられる値は、0.0075〜10倍の範囲であり、好ましい値は、0.015〜5倍の範囲であり、より好ましい値は、0.03〜2.5倍の範囲であり、最も好ましい値は、0.05〜1倍の範囲である。
【0019】
本発明においては、勿論、これらの範囲の値のみに限定されるものではないが、添加量があまりに少なければ、反応速度が低下して、効率の良い分解反応が進行しない。また、添加量が極端に多くなれば、生成物の純度には影響がないが、反応物の量が制限されるなど、効率的な方法とはなり難い。
【0020】
本発明においては、反応系への二酸化炭素の充填量は、反応系内の二酸化炭素分圧を、通常用いられる値は、0.1〜5.0MPaの範囲であり、好ましい値は、0.15〜4.0MPaの範囲であり、より好ましい値は、0.2〜3.5MPaの範囲であり、最も好ましい値は、0.3〜2.5MPaの範囲である。
【0021】
本発明においては、勿論、これらの範囲の値のみに限定されるものではないが、充填量があまりに少なければ、反応速度の改善効果は低下する。また、充填量が極端に多くなれば、やはり反応速度の改善効果は低下し、また、反応装置の耐圧性能を高める必要が生じるなど、経済的な方法とはなり難い。
【0022】
ポリブチレンテレフタレートの分解反応を実施するに際し、原料であるポリブチレンテレフタレートと水の仕込み組成は、ポリブチレンテレフタレートと水が十分に接触することができるものであれば、どんな割合であっても一向に差し支えないが、例えば、ポリブチレンテレフタレートの分解反応において、高い転化率を達成するのであれば、ポリブチレンテレフタレートに対する水の量を高くすることが望ましい。
【0023】
本発明においては、ポリエチレンテレフタレートに対する水のグラム比の通常用いられる値は、0.1〜100の範囲であり、好ましい値は、0.5〜50の範囲であり、より好ましい値は、1〜25の範囲であり、最も好ましい値は、2〜20の範囲である。本発明においては、勿論、これらの範囲の値のみに限定されるものではないが、水の割合が極端に高くなれば、ランニングコストが増大し、経済的な方法とはならない。
【0024】
本発明の好適な実施の態様について説明すると、本発明を実施するに際し、その反応方法としては、バッチ式、セミバッチ式、又は連続流通式のいずれかの方法、又はこれら二つ、あるいは三つを組み合わせた方式を使用することができる。更に、本発明を実施するにあたり、例えば、バッチ反応を実施する際には、特に、その雰囲気は、前述の二酸化炭素に限定されるものではない。アルゴンや窒素などの不活性雰囲気で行うことは、酸化反応を抑えることができ、高い純度のモノマーが得られるという点で、好ましい。
【0025】
本発明では、上記ポリブチレンテレフタレートの分解方法を使用して、ポリブチレンテレフタレート製品をケミカルリサイクルする方法を提供することができ、高温水として、温度150〜350℃の高温水を用いること、上記反応系を冷却して、テレフタル酸を固体の状態で分離し、水に溶けた状態の1,4−ブタンジオールとテトラヒドロフランを、蒸留して、水と分離すること、を好ましい実施の態様としている。
【0026】
更に、本発明は、上記の分解方法で分離したテレフタル酸又は1,4−ブタンジオール又はテトラヒドロフランを原材料として用いて、ポリブチレンテレフタレートを再生産又は他の化学製品に変換するポリブチレンテレフタレート製品のリサイクルシステムの点に特徴を有するものである。
【0027】
従来、ポリブチレンテレフタレートと類似構造を有するポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル方法では、ポリエチレンテレフタレートをエチレングリコールによる解重合反応及びメタノールによるエステル変換反応により、テレフタル酸ジメチル及びエチレングリコールを分離精製するプロセスが提案されているが、このプロセスは、反応系に有機溶媒であるメタノールを用いるなどの問題点があった。
【0028】
これに対し、本発明では、150〜350℃の高温水を用いるだけで、有機溶媒を使用することなく、また、400℃という高温水を使用することなく、ポリブチレンテレフタレートを原料モノマーへ、高い収率で分解することを可能とするものである。
【0029】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート製品をモノマーへ分解する際に、有機溶媒などを使用せず、水を用いて、効率的に分解し、モノマーであるテレフタル酸と1,4−ブタンジオール、そして工業的に重要なテトラヒドロフランを製造する、ポリブチレンテレフタレートのケミカルリサイクル技術を確立することを実現するものである。
【0030】
本発明の基本的な特徴は、ポリエチレンテレフタレートの加水分解の点と、同時に該加水分解によって生成した1,4−ブタンジオールの脱水(環化)反応、すなわち、テトラヒドロフランへの変換の点、にある。
これらの反応は、エステルの加水分解とアルコールの脱水反応であるので、酸触媒によって促進することは当然予想されるが、一般的な鉱酸(硫酸、塩酸)や固体触媒を使用したのでは、使用した酸の分離工程が必要となる。
【0031】
本発明では、1)高温水だけでポリエチレンテレフタレートの加水分解が進行し、更に生成した1,4−ブタンジオールが水と分離し易いテトラヒドロフランの形に変換できること、2)生成するテレフタル酸が高温水中では自ら酸触媒として機能し、残っているポリエチレンテレフタレートの分解や1,4−ブタンジオールの脱水反応を促進すること、3)これを予め反応系に添加することで両反応を促進でき、反応後に、生成物と同じテレフタル酸として回収するだけで分離する必要がないこと、4)二酸化炭素を反応系内に添加することで、酸触媒機能を発現し、加水分解を促進し、反応後は、反応器を大気開放するだけで、生成及び水と容易に分離でき、特別な分離操作を必要としないこと、という特徴を有するものであり、本発明は、環境調和型ケミカルリサイクルプロセスを実現するものとして有用である。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明のポリブチレンテレフタレートの分解法は、有害なメタノールなどの有機溶媒や硫酸などの鉱酸を触媒として使用しない環境調和型のプロセスである。
(2)高温水を用いたポリブチレンテレフタレートの分解系に、生成物であるテレフタル酸を添加することによって、従来技術よりも低温、且つ短時間で、ポリブチレンテレフタレートを分解でき、エネルギーコストを低下できる。
(3)高温水を用いたポリブチレンテレフタレートの分解系に、二酸化炭素を充填することによって、従来技術よりも低温、且つ短時間で、ポリブチレンテレフタレートを分解でき、エネルギーコストを低下できる。
(4)廃棄ポリブチレンテレフタレート資源から、化学工業原料であるテレフタル酸と1,4−ブタンジオール及びテトラヒドロフランを高効率で回収して、再利用することができる。
(5)ポリブチレンテレフタレートの新しいリサイクルシステムを構築し、提供することができる。
(6)1,4−ブタンジオールを反応系内でテトラヒドロフランに変換することで、水からの回収コストを低減できるシステムを確立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ポリブチレンテレフタレートの加水分解反応式を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明の好適な例を具体的に説明したものであり、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
以下の実施例において、反応生成物の分析は、以下の手順に従って実施した。即ち、高温水で分解した生成物を、蒸留水を用いて回収し、メンブレンフィルター(日本ミリポア(株)製、孔径0.2μm)によって、吸引ろ過し、固体(固体A)と、ろ液(ろ液A)を得た。固体Aは、水酸化ナトリウム水溶液で処理し、メンブレンフィルター(日本ミリポア(株)製、孔径0.2μm)を用いて、吸引ろ過し、固体(固体B)と、ろ液(ろ液B)を得た。次に、ろ液Bは、塩酸水溶液で処理し、メンブレンフィルター(日本ミリポア(株)製(孔径0.2μm)を用いて、吸引ろ過し、固体(固体C)と、ろ液(ろ液C)を得た。
【0036】
固体Bを、乾燥秤量し、未反応ポリブチレンテレフタレートを得た。ろ液A中に含まれる1,4−ブタンジオールとテトラヒドロフラン量を、ガスクロマトグラフにより決定した。固体Aから、固体B及びろ液Cから検出された1,4−ブタンジオールと、同モル量のポリブチレンテレフタレート量を除いた分を合わせて、テレフタル酸量とした。
【0037】
以下の本発明の実施例では、ポリブチレンテレフタレートを、高温の水とテレフタル酸により処理するものであるが、テレフタル酸収率、テトラヒドロフラン収率、及びオリゴマー収率は、以下の様に計算した。
テレフタル酸収率=((固体A中のテレフタル酸量)−(添加したテレフタル酸量))/(ポリブチレンテレフタレート中に含まれるテレフタル酸ユニット数)×100
1,4−ブタンジオール収率=(ろ液A中の1,4−ブタンジオール量)/(ポリブチレンテレフタレート中に含まれるブタンジオールユニット数)×100
テトラヒドロフラン収率=(ろ液A中のテトラヒドロフラン量)/(ポリブチレンテレフタレート中に含まれるブタンジオールユニット数)×100
【実施例1】
【0038】
内容積100mlのステンレス製反応容器に、ポリブチレンテレフタレート(Aldrich社製、平均分子量38000)5g、水50gを入れ、系内を窒素で置換した後、反応温度275℃で30分間分解反応を行った。反応終了後、反応温度を下げ、生成物を蒸留水で回収し、上記の手順により、未反応ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸、テトラヒドロフラン量を測定した。その結果、ポリブチレンテレフタレートの分解率は100%であった。生成物の収率は、テレフタル酸96%、1,4−ブタンジオール2%、テトラヒドロフラン77%であった。
【実施例2】
【0039】
内容積100mlのステンレス製反応容器に、ポリブチレンテレフタレート(Aldrich社製、平均分子量38000)5g、水50gとテレフタル酸0.94gを入れ、系内を窒素で置換した後、反応温度250℃で30分間分解反応を行った。反応終了後、反応温度を下げ、生成物を蒸留水で回収し、上記の手順により、未反応ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸、テトラヒドロフラン量を測定した。その結果、ポリブチレンテレフタレートの分解率は95%であった。生成物の収率は、テレフタル酸71%、1,4−ブタンジオール5%、テトラヒドロフラン60%であった。
【実施例3】
【0040】
内容積100mlのステンレス製反応容器に、ポリブチレンテレフタレート(Aldrich社製、平均分子量38000)5g、水50gとテレフタル酸1.89gを入れ、系内を窒素で置換した後、反応温度235℃で30分間分解反応を行った。反応終了後、反応温度を下げ、生成物を蒸留水で回収し、上記の手順により、未反応ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸、テトラヒドロフラン量を測定した。その結果、ポリブチレンテレフタレートの分解率は45%であった。生成物の収率は、テレフタル酸30%、1,4−ブタンジオール5%、テトラヒドロフラン20%であった。
【実施例4】
【0041】
内容積100mlのステンレス製反応容器に、ポリブチレンテレフタレート(Aldrich社製、平均分子量38000)5g、水50gとテレフタル酸0.94gを入れ、系内を窒素で置換した後、反応温度235℃で30分間分解反応を行った。反応終了後、反応温度を下げ、生成物を蒸留水で回収し、上記の手順により、未反応ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸、テトラヒドロフラン量を測定した。その結果、ポリブチレンテレフタレートの分解率は35%であった。生成物の収率は、テレフタル酸20%、1,4−ブタンジオール4%、テトラヒドロフラン13%であった。
【実施例5】
【0042】
内容積100mlのステンレス製反応容器に、ポリブチレンテレフタレート(Aldrich社製、平均分子量38000)5g、水50gとテレフタル酸3.77gを入れ、系内を窒素で置換した後、反応温度250℃で30分間分解反応を行った。反応終了後、反応温度を下げ、生成物を蒸留水で回収し、上記の手順により、未反応ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸、テトラヒドロフラン量を測定した。その結果、ポリブチレンテレフタレートの分解率は98%であった。生成物の収率は、テレフタル酸90%、1,4−ブタンジオール6%、テトラヒドロフラン71%であった。
【実施例6】
【0043】
内容積100mlのステンレス製反応容器に、ポリブチレンテレフタレート(Aldrich社製、平均分子量38000)5g、水50gとテレフタル酸3.77gを入れ、系内を窒素で置換した後、反応温度225℃で30分間分解反応を行った。反応終了後、反応温度を下げ、生成物を蒸留水で回収し、上記の手順により、未反応ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸、テトラヒドロフラン量を測定した。その結果、ポリブチレンテレフタレートの分解率は40%であった。生成物の収率は、テレフタル酸10%、1,4−ブタンジオール4%、テトラヒドロフラン9%であった。
【実施例7】
【0044】
内容積100mlのステンレス製反応容器に、ポリブチレンテレフタレート(Aldrich社製、平均分子量38000)5g、水50gを入れ、系内を二酸化炭素で置換し、更に0.5MPaまで充填した後、反応温度250℃で30分間分解反応を行った。反応終了後、反応温度を下げ、生成物を蒸留水で回収し、上記の手順により、未反応ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸、テトラヒドロフラン量を測定した。その結果、ポリブチレンテレフタレートの分解率は95%であった。生成物の収率は、テレフタル酸70%、1,4−ブタンジオール7%、テトラヒドロフラン56%であった。
【0045】
比較例1
内容積100mlのステンレス製反応容器に、ポリブチレンテレフタレート(Aldrich社製、平均分子量38000)5g、水50gを入れ、系内を窒素で置換した後、反応温度250℃で30分間分解反応を行った。反応終了後、反応温度を下げ、生成物を蒸留水で回収し、上記の手順により、未反応ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸、テトラヒドロフラン量を測定した。その結果、ポリブチレンテレフタレートの分解率は94%であった。生成物の収率は、テレフタル酸68%、1,4−ブタンジオール2%、テトラヒドロフラン46%であった。
【0046】
比較例2
内容積100mlのステンレス製反応容器に、ポリブチレンテレフタレート(Aldrich社製、平均分子量38000)5g、水50gを入れ、系内を窒素で置換した後、反応温度235℃で30分間分解反応を行った。反応終了後、反応温度を下げ、生成物を蒸留水で回収し、上記の手順により、未反応ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸、テトラヒドロフラン量を測定した。その結果、ポリブチレンテレフタレートの分解率は36%であった。生成物の収率は、テレフタル酸6%、1,4−ブタンジオール2%、テトラヒドロフラン7%であった。
【0047】
比較例3
内容積100mlのステンレス製反応容器に、ポリブチレンテレフタレート(Aldrich社製、平均分子量38000)5g、水50gを入れ、系内を窒素で置換した後、反応温度225℃で30分間分解反応を行った。反応終了後、反応温度を下げ、生成物を蒸留水で回収し、上記の手順により、未反応ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸、テトラヒドロフラン量を測定した。その結果、ポリブチレンテレフタレートの分解率は10%であった。生成物の収率は、テレフタル酸2%、1,4−ブタンジオール1%、テトラヒドロフラン2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上詳述したように、本発明は、水によってポリブチレンテレフタレートをテレフタル酸とテトラヒドロフランに分解し、これを原材料として、ポリブチレンテレフタレートや他の化学製品を再生産する方法に係るものであり、本発明により、有害な有機溶媒を使用しない環境調和型のポリブチレンテレフタレートの分解方法を提供することができる。本発明によれば、分解生成物であるテレフタル酸を添加することによって、従来技術よりも高効率で、ポリブチレンテレフタレートを分解し、原料であるテレフタル酸やテトラヒドロフランを得ることができる。これにより、水だけで、ポリブチレンテレフタレートをモノマーに分解して、高効率で、原料回収及びポリブチレンテレフタレート製品の再生産を可能とする、新しい工業的リサイクル技術を確立することを実現することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
150℃を上回る高温水を用いた反応系で、該高温水によりポリブチレンテレフタレートを分解して、テレフタル酸と、1,4−ブタンジオール、更に1,4−ブタンジオールが分子内脱水反応したテトラヒドロフランを得ることを特徴とするポリブチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項2】
上記反応系に、触媒として、ポリブチレンテレフタレートの構成成分であるテレフタル酸を、ポリブチレンテレフタレートに対して、グラム比で0.0075〜10倍添加する、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項3】
高温水として、温度150〜350℃の高温水を用いる、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項4】
ポリブチレンテレフタレートに対する水のグラム比が、0.1〜100の範囲である、請求項1から3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項5】
上記の反応系内の二酸化炭素分圧を、0.1〜5.0MPaとなるように二酸化炭素で充填する、請求項1から4のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの分解法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの分解方法を使用して、ポリブチレンテレフタレート製品をケミカルリサイクルする方法であって、上記反応系から、テレフタル酸と、1,4−ブタンジオールとテトラヒドロフランを分離し、再利用することを特徴とするポリブチレンテレフタレート製品のケミカルリサイクル方法。
【請求項7】
上記反応系で得られた1,4−ブタンジオールをテトラヒドロフランに変換し、分離する、請求項6に記載のポリブチレンテレフタレート製品のケミカルリサイクル方法。
【請求項8】
上記反応系を冷却して、テレフタル酸を固体の状態で分離し、水に溶けた状態の1,4−ブタンジオールとテトラヒドロフランを蒸留して水と分離する、請求項6に記載のポリブチレンテレフタレート製品のケミカルリサイクル方法。
【請求項9】
請求項6に記載の方法で分離したテレフタル酸又は1,4−ブタンジオール又はテトラヒドロフランを原材料として用いて、ポリブチレンテレフタレートを再生産又は他の化学製品に変換することを特徴とするポリブチレンテレフタレート製品のリサイクルシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−215676(P2010−215676A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60334(P2009−60334)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】