説明

ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法

【課題】 本発明は、見かけ密度が相互に異なる部分を有する高品質のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を容易に製造する方法を提供することをその課題とする。
【解決手段】 ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法は、型内を2以上の区画に仕切って各区画にポリプロピレン系樹脂発泡粒子を充填し、次いで該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形することによって、見かけ密度が異なる2以上の単位成形体が隣接して一体的に成形された部分を持ち、該隣接する2つの単位成形体の一方の単位成形体が特定の見かけ密度の高密度単位成形体であり、他方の単位成形体が特定の見かけ密度であって且つ該高密度単位成形体の見かけ密度よりも低い見かけ密度を有する低密度単位成形体である、ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法であり、該区画の全てに充填する発泡粒子が引張弾性率1200MPa以上のポリプロピレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂組成物からなると共に、見かけ密度D1(g/L)と、高温ピーク熱量E1(J/g)との関係が特定の式(1)及び(2)を満足する発泡粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なった特性領域を有するポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体は、プロピレンの持つ機械強度、耐熱性、耐薬品性、易リサイクル性等の優れた特性を損なうことなく、更に、緩衝性、断熱性等の特性を付加できる事から、包装材料、建築材料等、幅広い産業分野で利用されている。特に、ポリプロピレン系樹脂より予備発泡粒子を作製し、これを開閉可能な金型内に充填してスチームにより加熱融着せしめた、いわゆるビーズ法型内発泡成形体は、その優れた緩衝特性、賦型性から、自動車バンパー芯材、ドアパッド等の衝撃吸収材として広く使用されている。近年、この衝撃吸収材については、衝突安全基準の厳格化や、燃費向上の観点から、より軽量且つ高剛性なものが求められている。
【0003】
その要望に応える製品として、強度が必要な所望の部分を高密度の型内発泡成形体で構成し、相対的に強度を必要としない部分をそれよりも低密度の型内発泡成形体で構成した、全体としては軽量化を図る異種密度成形品、いわゆるデュァルデンシティー成形品がある。また、自動車用途の衝撃吸収材では、オフセット衝突や歩行者保護を考えた高機能化の要望があるが、デュアルデンシティー成形品は、これにも応えうる製品である。かかるデュアルデンシティー成形品としては、例えば内部が3つの区画に仕切られた金型を使用して両サイドを相対的に高密度の成形体とし、その間に挟まれた中央部を相対的に低密度の成形体からなるものがある。このような構成のデュアルデンシティー成形品を得る場合、両サイドに対応する第1の区画と第3の区画に相対的に高密度の発泡粒子を充填し、中央部に対応する第2の区画に相対的に低密度の発泡粒子を充填し、型内の発泡粒子を加熱して各区画内の発泡粒子同士及び各区画間の発泡粒子同士を一体化させ、次いで冷却して金型内から取り出す方法、いわゆる一体同時成形方法がコスト面から好ましい。これら一体同時成形方法については、例えば特許文献1乃至4に詳細に記載されている。
【0004】
しかしながら、発泡粒子からの型内成形体は、通常、成形時において、加熱直後の冷却が不足すると金型空間の形状と比べ大きくなり(膨張し)、逆に冷却が過多であると金型空間の形状と比べ小さくなる(十分な回復が望めないほど大きく収縮する)。このように型内成形体は、その冷却の程度により、膨張の度合い及び収縮の度合いが異なる。また、その膨張及び収縮は、得られる成形体の見かけ密度が大きい場合と小さい場合とでは異なる傾向を示す。具体的には、冷却の度合いが同じ場合、低密度成形体部分の方が膨張から収縮に転じる時期が早い傾向にある。通常は、金型空間の形状と比べ膨張した成形体の方が嫌われることが多いので高密度成形体部分が膨張しないように冷却が行なわれる。その結果、相対的に低密度の成形体部分が大きく収縮した状態となるため、従来は高品質の製品を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−334501号公報
【特許文献2】特開2001−150471号公報
【特許文献3】実公昭62−22352号公報
【特許文献4】米国特許第5164257号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特性が相互に異なる部分を有する高品質のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体を容易に製造する方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明によれば、以下に示すポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法が提供される。
(1)型内を2以上の区画に仕切って各区画にポリプロピレン系樹脂発泡粒子を充填し、次いで該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形することによって、見かけ密度が異なる2以上の単位成形体が隣接して一体的に成形された部分を持つポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法において、該区画の全てに充填する発泡粒子が引張弾性率1200MPa以上のポリプロピレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂組成物からなると共に、見かけ密度D1(g/L)と、高温ピーク熱量E1(J/g)との関係が次式(1)及び(2)を満足する発泡粒子であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法。
式(1):20−0.014×D1≦E1≦65−0.072×D1
式(2):10≦D1≦700
(2)該引張弾性率が1200MPa以上のポリプロピレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂組成物からなる発泡粒子が、表層部分の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量(ΔH)と該発泡粒子の内部発泡層の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量(ΔH)との関係がΔH<ΔH×0.86であることを満たすものであることを特徴とする前記(1)に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法。
(3)隣接する2つの単位成形体の一方の単位成形体が見かけ密度30〜450g/Lの高密度単位成形体であり、他方の単位成形体が見かけ密度15〜90g/Lであって且つ高密度単位成形体の見かけ密度が低密度単位成形体の見かけ密度より大きいことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法。
(4)該高密度単位成形体の見かけ密度が、該低密度単位成形体の見かけ密度の1.2〜25倍であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂型内成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、型内を2以上の区画に仕切って各区画にポリプロピレン系樹脂発泡粒子を充填し、次いで該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形することによって、見かけ密度が異なる2以上の単位成形体が隣接して一体的に成形された部分を持つポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体(以下、型内発泡成形体、型内成形体又はEPP成形体ということがある)の製造方法において、該区画の少なくとも1つに充填する発泡粒子が引張弾性率1200MPa以上のポリプロピレン系樹脂からなると共に、見かけ密度D1(g/L)と、高温ピーク熱量E1(J/g)との関係が特定の式(1)及び(2)を満足する発泡粒子(以下、特定の発泡粒子ということがある)であることから、成形時の加熱直後に行なう成形体に対する冷却が短時間であっても最終的な成形体に膨張が生じなくなり、しかも冷却が過多となっても収縮がないかほとんどない。従って、特定の発泡粒子で製造される単位成形体部分と特定の発泡粒子以外の発泡粒子で製造される単位成形体部分とが含まれるように一体成形したとしても、特定の発泡粒子以外の発泡粒子で製造される単位成形体部分の外側に凸状となる膨れや内側に凹状となるヒケ(収縮)が生じないように成形時の冷却を調整すれば、全体として、成形体の外側に凸状となる膨れや内側に凹状となるヒケ(収縮)少ない型内成形体が容易に得られる。さらに、全ての単位成形体がこの特定の発泡粒子から製造される場合は、得られる成形体の外側に凸状となる膨れや内側に凹状となるヒケが少ない型内成形体が更に容易に得られる。また、特定の発泡粒子を用いた成形体は、圧縮強度等の剛性が高いため軽量性に優れた型内成形体が容易に得られる。さらに、発泡粒子が表面部分の高温ピークの熱量(ΔH)と該発泡粒子の内部発泡層の高温ピークの熱量(ΔH)との関係がΔH<ΔH×0.86であると、この発泡粒子からなる成形体の部分の剛性を低下させずに低温のスチームで型内成形が可能である。また、本発明の型内成形体は、隣接する2つの単位成形体に、膨れやヒケなどの凹凸状の変形や外観不良がないかまたは程度の小さい高品質なものである。本発明で得られる発泡成形体は、自動車用バンパー芯材、自動車のドア内に配置される衝撃吸収材、コンテナー、ヘルメット芯材等に用いると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】高温ピークを持つポリプロピレン系樹脂発泡粒子の、第1回目のDSC曲線のチャートの一例を示す図である。
【図2】ポリプロピレン系樹脂粒子の第2回目のDSC曲線のチャートの一例を示す図である。
【図3】本発明の型内発泡成形体の1つの実施例についての構造説明図である。
【図4】本発明の型内発泡成形体の他の実施例についての構造説明図である。
【図5】本発明の型内発泡成形体のさらに他の実施例についての構造説明図である。
【図6】隣接する2つの単位成形体間の融着界面に多孔部材が介在する場合のその融着界面の説明図である。
【図7】バンパー芯材の成形装置の説明図である。
【図8】図7の成形型の仕切板の作用を説明するための図であり、(a)は仕切板がキャビティ内に進入した状態を示し、(b)は仕切板がキャビティから退出した状態を示す。
【図9】自動車用パンパー芯材の要部外観を示す斜視図である。
【図10】図9のバンパー芯材を車体取り付け側から見た正面図である。
【図11】図10のIII−III線縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体(以下「EPP成形体」ということがある)は、複数の単位成形体からなり、その隣接する2つの単位成形体は、相互に熱融着された構造を有する。この単位成形体の形成に使用されるポリプロピレン系樹脂発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂組成物としては、ポリプロピレン単独重合体、またはプロピレン成分を70モル%以上含有する(好ましくはプロピレン成分を80モル%以上含有する)プロピレンと他のコモノマーとの共重合体のいずれか、あるいはこれらの樹脂の中から選ばれる2種以上の混合物が用いられる。
【0011】
プロピレン成分を70モル%以上含有するプロピレンと他のコモノマーとの共重合体としては、例えば、エチレン−プロピレンランダムコポリマー、エチレン−プロピレンブロックコポリマー、プロピレン−ブテンランダムコポリマー、エチレン−プロピレン−ブテンランダムコポリマーなどが例示される。
【0012】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂組成物中には、本発明の所期の効果を損なわない範囲内において、ポリプロピレン系樹脂以外の他の合成樹脂又は/及びエラストマーを含有することができる。ポリプロピレン系樹脂以外の他の合成樹脂又は/及びエラストマーの添加量は、ポリプロピレン系樹脂100重量部当り、多くても60重量部以下であるが、多くても35重量部であることが好ましく、多くても20重量部であることがより好ましく、多くても10重量部であることが更に好ましく、多くても5重量部であることが最も好ましい。
【0013】
上記ポリプロピレン系樹脂以外の他の合成樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等のエチレン系樹脂、或いはポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂等が例示される。
【0014】
また上記エラストマーとしては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−1−ブテンゴム、プロピレン−1−ブテンゴム、スチレン−ブタジエンゴムやその水添物、イソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴム、或いはスチレン−ブタジエンブロック共重合体エラストマーやその水添物等のエラストマーが例示される。
【0015】
なお、本発明において、ポリプロピレン系樹脂組成物中には、所望に応じて各種添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、難燃剤、金属不活性剤、顔料、染料、核剤、あるいは気泡調整剤等を挙げることができる。気泡調整剤としては、たとえばホウ酸亜鉛、タルク、炭酸カルシウム、ホウ砂、水酸化アルミニウムなどの無機粉体が例示される。これらの添加剤は、合計で基材樹脂100重量部当り20重量部以下で使用されることが好ましく、5重量部以下で使用されることがより好ましい。これらの添加剤は、通常、必要最小限の量で使用される。またこれらの添加剤は例えば、押出機により押出したストランドを切断する等して本発明で使用されるポリプロピレン系樹脂粒子(以下「本樹脂粒子」ということがある)を製造する際に、押出機内で溶融したポリプロピレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂組成物中に添加、混練することによって本樹脂粒子中に含有させることができる。
【0016】
本発明方法において、型内を2以上の区画に仕切って少なくとも1つの区画に充填する発泡粒子が引張弾性率1200MPa以上のポリプロピレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂組成物(以下併せて「本基材樹脂ということがある」)からなる。本基材樹脂の引張弾性率が1200MPa未満であると、後述する「成形時の加熱直後に行なう成形体に対する冷却が短時間であっても最終的な成形体に膨張が生じなくなり、しかも冷却が過多となっても収縮がないかほとんどない。」という効果を充分に引出すことができないため、本発明の目的を達成することができない。本発明の製造方法によれば該区画の少なくとも1つに充填する発泡粒子が本基材樹脂からなると共に、後述する発泡粒子の見かけ密度D1と発泡粒子の高温ピーク熱量E1との関係が後述する式(1)及び式(2)を満足する発泡粒子(以下、特定の発泡粒子ということがある)であるから、成形時の加熱直後に行なう成形体に対する冷却が短時間であっても最終的な成形体に膨張が生じなくなり、しかも冷却が過多となっても収縮がないか若しくはほとんどない。従って、特定の発泡粒子で製造される単位成形体部分と特定の発泡粒子以外の発泡粒子で製造される単位成形体部分とが含まれるように一体成形したとしても、特定の発泡粒子以外の発泡粒子で製造される単位成形体部分の外側に凸状となる膨れや内側に凹状となるヒケ(収縮)が生じないように成形時の冷却を調整すれば、全体として、成形体の外側に凸状となる膨れや内側に凹状となるヒケ(収縮)が少ない型内成形体が容易に得られる。さらに、全ての単位成形体がこの特定の発泡粒子から製造される場合は、得られる成形体の外側に凸状となる膨れや内側に凹状となるヒケが少ない型内成形体が更に容易に得られる。また、特定の発泡粒子を用いた成形体は、圧縮強度等の剛性が高いため軽量性に優れた型内成形体が容易に得られる。
【0017】
本基材樹脂の引張弾性率を1200MPa以上とするには、使用するポリプロピレン系樹脂として、ポリプロピレン単独重合体またはプロピレンと他のコモノマーとの共重合体において該他のコモノマー成分が少ないものを使用すればよい。
【0018】
上記引張弾性率は、本発明の効果をより高める上で1250MPa以上が好ましく、1300MPa以上がより好ましい。上限は特に制限はないが2500MPa程度である。
【0019】
前記した引張弾性率は、本基材樹脂をJIS K7161(1994)にしたがって以下の条件にて測定して求められた値である。
・試験片:JIS K 7162(1994)記載の試験片1A形(射出成形で直接成形)
・試験速度:1mm/min
【0020】
尚、本基材樹脂が、上記したポリプロピレン系樹脂以外の他の合成樹脂、エラストマー、各種添加剤等が添加されたポリプロピレン系樹脂組成物の場合、それら添加物の種類や添加量によっては、本基材樹脂の引張弾性率が低下する虞がある。本発明では、本発明の初期の効果を損なわないようにする上で、本基材樹脂の引張弾性率(本基材樹脂の引張弾性率と同じ測定方法)が1200MPaを下回らないように、好ましくは1250MPaを下回らないように、最も好ましくは1300MPaを下回らないように、上記添加物が添加される。
【0021】
本基材樹脂の融点は、最終的な型内発泡成形体(EPP成形体)の耐熱性を高いものとする上で又は/及び圧縮強度を大きいものとする上で、145℃以上であることが好ましく、155℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることが更に好ましい。該融点の上限値は、通常、170℃程度である。
【0022】
最終的なEPP成形体の圧縮強度を大きいものとする上で、本基材樹脂の引張降伏強さは31MPa以上が好ましいが、32MPa以上であることがより好ましい。引張降伏強さの上限は特に規定はないが、通常は、大きくても45MPaである。また、発泡粒子の製造に際しての気泡形成時における気泡の破泡を防止する上で、更には型内成形に際しての加熱時における発泡粒子の気泡の破泡を防止する上で、本基材樹脂の引張破壊伸びは20%以上であることが好ましいが、100%以上であることがより好ましく、200〜1000%であることが更に好ましい。上記引張降伏強さ及び引張破壊伸びは、いずれも、JIS K 6758(1981年)記載の測定方法に基づくものである。
【0023】
更に、本基材樹脂は、高融点の本基材樹脂からなる発泡粒子であっても型内成形時の成形スチーム温度をより低くする上で、分子量分布(Mw/Mn)が4.4以上であることが好ましいが、4.5〜10であることがより好ましい。この分子量分布は、GPC法により、下記の装置及び条件で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnより算出した値である。
〈GPC測定装置〉
装置:WATERS 150Cカラム:TOSO GMHHR−H(S)HT
検出器:液体クロマトグラム用RI検出器
〈測定条件〉
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン
測定温度:145℃ 流速:1.0ミリリットル/分
試料濃度:2.2mg/ミリリットル
注入量:160マイクロリットル
検量線:Universal Calibration解析プログラム:HT−GPC(Ver.1.0)
【0024】
また、本基材樹脂は、MFRと略記されるメルトフローレート(JIS K6758(1981年))が1g/10分以上100g/10分以下であることが好ましい。そのMFRが1g/10分未満であると、型内成形時の成形スチーム温度をより低くする効果が不充分となる虞がある。また、そのMFRが100g/10分を越えると、得られた型内成形体が脆くなってしまう虞がある。このような観点から、本基材樹脂のMFRは10g/10分以上70g/10分以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明で用いる上記した特性を併せ持つポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン樹脂として販売されているものの一種であるから市場で容易に入手可能である。また本発明で用いる上記した特性を併せ持つポリプロピレン系樹脂は、種々の方法で製造可能であるが、特に、スラリー重合プロセス又はバルク重合プロセスを採用して、或いは、スラリー重合プロセス又はバルク重合プロセスを含む多段重合プロセス(例えば気相重合とバルク重合との多段重合プロセス)を採用して、アイソタクチック指数(沸騰ノルマルヘプタン抽出後の不溶成分の割合)が85重量%以上、13C−NMR分析によるmmmmペンタッド%が85〜97.5%、重量平均分子量が200000以上(好ましくは200000〜550000)、数平均分子量が20000以上(好ましくは20000〜53000)となるように製造(アタクチック分の除去等の後処理も含む)すれば容易に得られ、この際、得られるポリプロピレン系樹脂中のプロピレン成分含有割合が99重量%となるように、(共)重合条件を選定すればいっそう容易にその製造が可能となる。また、スラリー重合プロセス又はバルク重合プロセス、或いは、スラリー重合プロセス又はバルク重合プロセスを含む多段重合プロセスを経て得られたポリプロピレン系樹脂は、他の重合プロセスを経て得られたポリプロピレン系樹脂よりも、本発明では好適に使用される。使用可能な重合触媒としては、メタロセン触媒等の均一系触媒又はチーグラー・ナッタ型触媒等の不均一系触媒が例示されるが、スラリー重合プロセス又はバルク重合プロセス、或いはスラリー重合プロセス又はバルク重合プロセスを含む多段重合プロセスでは、チーグラー・ナッタ型触媒の方が好適である。
【0026】
尚、本樹脂粒子としては、本基材樹脂を押出機内で溶融して押出したストランドを切断して本樹脂粒子を製造する際に、押出直後のストランドを急冷することによって得られたものが好ましい。そのように急冷された本樹脂粒子であると、後述する表面改質を効率よく行なうことができる。その押出直後のストランドの急冷は、そのストランドを押出し直後に、好ましくは50℃以下に調節された水中に、より好ましくは40℃以下に調節された水中に、最も好ましくは30℃以下に調節された水中に入れることにより行なうことができる。そして充分に冷却されたストランドは水中から引き上げられ、適宜長さに切断することにより、所望の大きさの本樹脂粒子になされる。本樹脂粒子は、通常、長さ/直径比が0.5〜2.0、好ましくは0.8〜1.3となるように調節され、また1個当たりの平均重量(無作為に選んだ200個の重量を同時に測定した1個当たりの平均値)は、0.1〜20mgとなるように、好ましくは0.2〜10mgとなるように調節される。
【0027】
本発明の型内発泡成形体用原料として用いる本樹脂粒子からなる発泡粒子(以下「本発泡粒子」という)は、本樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、粒子状に発泡させることにより製造される。
【0028】
本発明で用いる本発泡粒子は、後述する表面改質が行なわれた発泡粒子であることが好ましい。その表面改質が行なわれた発泡粒子は、その表面改質が行なわれていない発泡粒子に比べ、より低温で型内成形が可能となる。
【0029】
上記低温成形可能な改質表面を有する発泡粒子は、有機過酸化物が存在する分散媒体中に本樹脂粒子を分散させるとともに、得られた分散体(以下、分散液とも言う)を本樹脂粒子の本基材樹脂融点よりも低温であって且つ該有機過酸化物が実質的に分解する温度に保持して該有機過酸化物を分解させることによって本樹脂粒子の表面が改質された表面改質粒子(以下「表面改質粒子」ということがある)を得てからその表面改質粒子を粒子状に発泡させることにより製造することができる。このようにして得られる改質表面を有する発泡粒子は、熱融着性にすぐれ、低温のスチームでその発泡粒子間の融着を行うことができる。
【0030】
上記表面改質粒子の製造に際して使用される分散媒体は、一般には水性媒体、好ましくは水が使用され、より好ましくはイオン交換水が使用されるが、水に限らず本基材樹脂を溶解せず且つ本樹脂粒子の分散が可能な溶媒又は液体であれば使用することができる。水以外の分散媒体としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール等が挙げられる。水性媒体には、水と有機溶媒、例えば前記アルコールとの混合液が包含される。
【0031】
前記有機過酸化物としては、従来公知の各種のもの、例えば、イソブチルパーオキシド〔50℃/85℃〕、クミルパーオキシネオデカノエート〔55℃/94℃〕、α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン〔54℃/82℃〕、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート〔58℃/94℃〕、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート〔56℃/88℃〕、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート〔59℃/94℃〕、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート〔58℃/92℃〕、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート〔58℃/92℃〕、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート〔59℃/92℃〕、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート〔59℃/91℃〕、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート〔63℃/101℃〕、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート〔64℃/102℃〕、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート〔65℃/103℃〕、t−ブチルパーオキシネオデカノエート〔65℃/104℃〕、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド〔74℃/119℃〕、t−ヘキシルパーオキシピバレート〔71℃/109℃〕、t−ブチルパーオキシピバレート〔73℃/110℃〕、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド〔77℃/113℃〕、オクタノイルパーオキシド〔80℃/117℃〕、ラウロイルパーオキシド〔80℃/116℃〕、ステアロイルパーオキシド〔80℃/117℃〕、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート〔84℃/124℃〕、サクシニックパーオキシド〔87℃/132℃〕、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン〔83℃/119℃〕、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート〔90℃/138℃〕、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート〔90℃/133℃〕、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート〔92℃/134℃〕、m−トルオイルベンゾイルパーオキシド〔92℃/131℃〕、ベンゾイルパーオキシド〔92℃/130℃〕、t−ブチルパーオキシイソブチレート〔96℃/136℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン〔102℃/142℃〕、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン〔106℃/147℃〕、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン〔107℃/149℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン〔109℃/149℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン〔111℃/154℃〕、2,2−ビス(4,4−ジブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン〔114℃/154℃〕、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン〔114℃/153℃〕、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート〔115℃/155℃〕、t−ブチルパーオキシマレイン酸〔119℃/168℃〕、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート〔119℃/166℃〕、t−ブチルパーオキシラウレート〔118℃/159℃〕、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン〔117℃/156℃〕、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート〔118℃/159℃〕、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート〔119℃/161℃〕、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート〔119℃/160℃〕、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン〔119℃/158℃〕等が例示される。尚、上記各有機過酸化物のすぐ後ろの〔〕内における左側の温度は後述する1時間半減期温度であり、右側の温度は後述する1分間半減期温度である。前記有機過酸化物は、単独でまたは2種以上を併用して、本樹脂粒子100重量部当り、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部を分散媒体中に添加する必要がある。
【0032】
上記有機過酸化物と本樹脂粒子と分散媒体からなる分散体において、本樹脂粒子/分散媒体の重量比が大きくなりすぎると本樹脂粒子に対して均一な表面改質が行なえなくなる虞がある。そうなると、表面改質粒子の中に改質が極度に進みすぎたものが混じり、それが原因で、次工程の発泡工程の際に、密閉容器内で改質樹脂粒子同士の多数個が融着して大きな塊になってしまい、密閉容器外へ放出することができなくなってしまう虞がある。そのような観点から、上記本樹脂粒子/分散媒体の重量比は1.3以下であることが好ましく、1.2以下がより好ましく、1.1以下が更に好ましく、1.0以下が最も好ましい。ただし、この重量比があまりにも小さくなりすぎると、本樹脂粒子に対する有機過酸化物の使用量を増やさなければ得られる発泡粒子に効果的な低温成形性を付与できない虞がある。有機過酸化物の使用量の増加はコストアップにもつながる。有機過酸化物の使用量をより少なくする上で、本樹脂粒子/分散媒体の重量比は0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。
【0033】
有機過酸化物は、本基材樹脂の融点よりも低温で実質的に分解させる。従って、該有機過酸化物の1時間半減期温度(一定温度で有機化酸化物を分解させた際、活性酸素量が1時間で当初の半分になるときのその一定温度)は、本基材樹脂のビカット軟化点(JIS K 6747−1981、以下同じ)以下であることが好ましい。使用する有機過酸化物の1時間半減期温度が本基材樹脂のビカット軟化点を超える場合には、その過酸化物の分解を迅速に行なうには本基材樹脂の融点以上の高温が必要となるので好ましくないし、場合によっては、本基材樹脂の融点よりも低温で実質的に分解させることができなくなるので好ましくない。そして該過酸化物を本基材樹脂の融点以上の高温で実質的に分解させると、該過酸化物が本樹脂粒子の奥深くまで浸透した状態で分解するため、本樹脂粒子を構成する本基材樹脂が表面、内部を問わず全体的に大きく分解してしまうので、場合によっては、成形に使用できない発泡粒子しか得ることができなくなる虞があり、また成形できたとしても最終的に得られるEPP成形体の機械的物性が大きく低下してしまう虞がある。
【0034】
以上のことを考慮すると、使用される有機過酸化物は、1時間半減期温度が本基材樹脂のビカット軟化点よりも20℃以上低温であることが好ましく、本基材樹脂のビカット軟化点よりも30℃以上低温であることがより好ましい。尚、該1時間半減期温度は、本基材樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましく、取り扱い性等を考慮すると、40〜100℃であることがより好ましく、50〜90℃であることが更に好ましい。上記ガラス転移温度は、JIS K 7121−1987に従って、熱流束DSCにより求めた中間点ガラス転移温度を意味する(この際の試験片の状態調節については「一定の熱処理を行なった後、ガラス転移温度を測定する場合」を採用する)。また、該過酸化物は、本樹脂粒子が存在する分散媒体中で、本基材樹脂のビカット軟化点以下で実質的に分解させることが好ましく、本基材樹脂のビカット軟化点よりも20℃以上低温で実質的に分解させることがより好ましく、本基材樹脂のビカット軟化点よりも30℃以上低温で実質的に分解させることが更に好ましい。該有機過酸化物は、該有機過酸化物の1分間半減期温度(一定温度で有機化酸化物を分解させた際、活性酸素量が1分間で当初の半分になるときのその温度)±30℃の温度範囲に10分以上保持して実質的に分解させることが特に好ましい。〔1分間半減期温度−30℃〕よりも低温度で分解させようとする場合、分解させるのに長時間を要してしまうので効率が悪くなってしまう。逆に〔1分間半減期温度+30℃〕よりも高温度で分解させようとする場合、分解が急激となってしまう虞があり、表面改質の効率を悪くする虞がある。また、1分間半減期温度±30℃の範囲に10分以上保持すれば、有機過酸化物を実質的に分解させることが容易となる。1分間半減期温度±30℃の範囲での保持時間は、長くとるほどより確実に有機過酸化物を分解させることができるが、ある時間以上はもはや必要ない。必要以上の長時間は生産効率の低下をまねく。上記温度範囲での保持時間は通常は長くても60分にとどめるべきである。有機過酸化物を分解させるには、最初に有機過酸化物が分解しにくい温度に調整された上記分散体を用意し、次にその分散体を上記有機過酸化物の分解温度に加熱すればよい。この際、1分間半減期温度±30℃の範囲に10分以上保持されるように昇温速度を選択すればよいが、1分間半減期温度±30℃の範囲内の任意の温度で止めてその温度を5分以上保持することがより好ましい。その際の任意の温度としては、1分間半減期温度±5℃の範囲の温度が最も好ましい。
【0035】
また、実質的に分解させるとは、使用した過酸化物の活性酸素量が当初の50%以下になるまで分解させることを意味するが、その活性酸素量が当初の30%以下になるまで分解させることが好ましく、その活性酸素量が当初の20%以下になるまで分解させることがより好ましく、その活性酸素量が当初の5%以下になるまで分解させることが更に好ましい。尚、有機過酸化物の上記半減期温度は、ラジカルに対して比較的不活性な溶液(例えばベンゼンやミネラルスピリット等)を使用して、0.1mol/L濃度の有機過酸化物溶液を調整し、窒素置換を行なったガラス管内に密封し、所定温度にセットした恒温槽に浸し、熱分解させて測定される。
【0036】
本樹脂粒子、表面改質粒子、低温成形可能な改質表面を有する発泡粒子及びそれから得られるEPP成形体は、いずれも、実質的に無架橋であることが好ましい。上記表面改質粒子を製造するに際しては、架橋助剤等を併用しないので実質的に架橋は進行しない。尚、実質的に無架橋であるとは、次のとおり定義される。即ち、本基材樹脂、本樹脂粒子、表面改質粒子、発泡粒子、EPP成形体を問わず、それぞれを試料とし(キシレン100g当たり試料1g使用)、これを沸騰キシレン中に8時間浸漬後、標準網フルイを規定しているJIS Z 8801(1966年)に定められている網目74μmの金網で速やかに濾過し、該金網上に残った沸騰キシレン不溶分の重量を測定する。この不溶分の割合が試料の10重量%以下の場合を実質的に無架橋というが、その不溶分の割合は、試料の5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることが最も好ましい。その不溶分の割合が少ないほど再利用し易い。不溶分の含有率P(%)を式で表すと下式の通りである。P(%)=(M÷L)×100ただし、Mは不溶分の重量(g)、Lは試料の重量(g)である。
【0037】
本発明で使用される低温成形可能な改質表面を有する発泡粒子は、表面改質粒子を発泡剤の存在下に密閉容器内で分散媒体に分散させながら加熱及び加熱条件下で表面改質粒子に発泡剤を含浸せしめる工程(発泡剤含浸工程)を経た後、除圧した際に発泡粒子を生成する温度で、本樹脂粒子又は表面改質粒子と分散媒体とを低圧帯域に放出することにより発泡粒子を得る工程(樹脂粒子発泡工程)とからなる発泡方法(以下「分散媒放出発泡方法」という)により製造することが好ましい。
【0038】
上記表面改質粒子を形成する表面改質工程と、その表面改質粒子から発泡粒子を得る発泡工程(発泡剤含浸工程+樹脂粒子発泡工程)とは、それぞれ別の装置で別な時期に実施することも可能であるが、適当な分解温度を持つ上記有機過酸化物を密閉容器内の分散媒体に所定量添加して上記表面改質工程を行い、続いて同じ容器内で表面改質粒子に発泡剤を含浸させて通常の分散媒放出発泡方法による発泡工程を行なうことによって表面改質粒子から発泡粒子を得ることもできる。発泡工程においては、密閉容器内での上記表面改質粒子の融着防止の点から、表面改質粒子/該分散媒体の重量比を0.5以下、好ましくは0.5〜0.1にすることが好ましい。尚、上記表面改質工程における本樹脂粒子/該分散媒体の重量比が0.6〜1.3であった場合であって且つ表面改質工程と発泡工程とを同じ容器で実施する場合は、発泡工程における表面改質粒子/該分散媒体の重量比を0.5以下にするには、表面改質工程後に分散媒体を容器内に追加すればよい。
【0039】
上記表面改質粒子、それから得られる低温成形可能な改質表面を有する発泡粒子及びそのEPP成形体中には、前記過酸化物の分解に伴なって生成される分子量50以上のアルコールが数百ppm乃至数千ppm程度含有され得る。そのようなアルコールとしては、後述される実施例で示されたビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートが使用された場合には、P−t−ブチルシクロヘキサノールが本発明の表面改質粒子中に含有され得る。他の過酸化物が使用された場合には他のアルコールが含有され得る。そのようなアルコールとしては、例えば、イソプロパノール、S−ブタノール、3−メトキシブタノール、2−エチルヘキシルブタノール、t−ブタノールが例示される。
【0040】
上記分散媒放出発泡方法では、容器内の加熱下の表面改質粒子が容器内で互いに融着しないように、分散媒体中に分散剤を添加することが好ましい。そのような分散剤としては、表面改質粒子の容器内での融着を防止するものであればよく、有機系、無機系を問わず使用可能であるが、取り扱いのし易さから微粒状無機物が好ましい。例えば、アムスナイト、カオリン、マイカ、クレー等の天然又は合成粘土鉱物や、酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、酸化鉄等を1種または数種の組み合わせで使用する事ができる。
【0041】
更に、上記分散媒放出発泡方法においては、分散剤の分散力を強化する(分散剤の添加量を少なくしても容器内で表面改質粒子同士の融着を防止する)分散強化剤を分散媒体中に添加することが好ましい。このような分散強化剤は、40℃の水100ccに対して少なくとも1mg以上溶解し得る無機化合物であって、該化合物の陰イオンまたは陽イオンの少なくとも一方が2価または3価である無機物質である。このような無機物質としては、たとえば、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄等が例示される。
【0042】
通常、本樹脂粒子又は表面改質粒子100重量部当り、分散剤は0.001〜5重量部程度で使用され、分散強化剤は0.0001〜1重量部程度で使用される。
【0043】
発泡粒子を製造する際に用いる発泡剤としては、プロパン、ブタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類、クロロフロロメタン、トリフロロメタン、1,2−ジフロロエタン、1,2,2,2−テトラフロロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素などの有機系物理発泡剤や、窒素、酸素、空気、二酸化炭素、水といったいわゆる無機系物理発泡剤が例示される。有機系物理発泡剤と無機系物理発泡剤を併用することもできる。本発明においては、窒素、酸素、空気、二酸化炭素、水の群から選択される1又は2以上の無機系物理発泡剤を主成分とするものが特に好適に使用される。その中でも発泡粒子の見かけ密度の安定性、環境負荷やコストなどを考慮すると、窒素や空気が好ましい。また発泡剤として使用される水は表面改質粒子を密閉容器中に分散させるために分散媒体として使用される水(イオン交換水も含む)をそのまま利用すればよい。
【0044】
上記分散媒放出発泡方法において、物理発泡剤の容器内への充填量は、使用する発泡剤の種類と発泡温度と目的とする発泡粒子の見かけ密度に応じて適宜選択されるが、例えば発泡剤として窒素を使用し、分散媒体として水を使用した場合を例にとると、発泡開始直前の安定した状態にある密閉容器内の圧力、すなわち密閉容器内空間部の圧力(ゲージ圧)が、0.6〜6MPaとなるように選定することが好ましい。通常は、目的とする発泡粒子の見かけ密度が小さいほど前記容器内の空間部の圧力は高くすることが望ましく、目的とする発泡粒子の見かけ密度が大きいほど空間部の圧力は低くすることが望ましい傾向にある。
【0045】
本発明のEPP成形体を製造するための少なくとも1つの単位成形体を製造するための発泡粒子は前記本基材樹脂からなる。また、該発泡粒子は、発泡粒子の示差走査熱量測定(熱流束示差走査熱量測定、以下同じ)によるDSC曲線における本基材樹脂の融解熱に由来する固有の吸熱曲線ピーク(固有ピーク)の頂点よりも高温側に吸熱曲線ピーク(高温ピーク)の頂点が存在する発泡粒子であって、発泡粒子の見かけ密度D1と発泡粒子の高温ピークの熱量E1との関係が、次式(1)、(2)を満たすものである。
式(1):20−0.014×D1≦E1≦65−0.072×D1
式(2):10≦D1≦700
尚、式(1)中、D1はg/L単位で表示される発泡粒子の見かけ密度の数値であり、E1はJ/g単位で表示される成形に使用された発泡粒子の高温ピーク熱量の数値である。D1が10g/Lを下回ると連続気泡の割合が多くなり、成形を困難とする虞がある。また、D1が700g/Lを上回ると成形時に発泡粒子間の空隙を埋める発泡力に劣るものとなる虞がある。また、E1が〔20−0.014×D1〕を下回るようになると、得られる成形体の収縮が大きくなり易く、本発明の目的が充分に達成されなくなる。また、E1が〔65−0.072×D1〕を上回るようになると、成形時に発泡粒子間の空隙を埋める発泡力に劣るものとなる虞がある。このような特定の発泡粒子からなる単位成形体を有するEPP成形体は該単位成形体の部分が、成形時の加熱直後に行なう成形体に対する冷却が短時間であっても最終的な成形体に膨張が生じなくなり、しかも冷却が過多となっても収縮がないか若しくはほとんどないので、特性が相互に異なる2以上の単位成形体が隣接して一体化されてなる高品質のEPP成形体となり得る。また、上記E1は、E1と固有ピークの熱量の総和に対して10〜60%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましい。尚、本明細書において言う高温ピークの熱量E1と固有ピークの熱量は、いずれも吸熱量を意味し、その数値は絶対値で表現されている。なお、ポリプロピレン系樹脂の発泡粒子は、基材樹脂が同じ場合、高発泡倍率になるほど得られる成形体の収縮が大きい傾向にある。これは、低発泡倍率のものに比べ単位体積当りの樹脂量が少ないことに起因する。また、発泡粒子の高温ピーク熱量(E1)が小さいほど得られる成形体の収縮が大きくなる傾向にある。逆に発泡粒子の高温ピーク熱量が大きくなるほど得られる成形体の収縮は小さくなる傾向がある。しかし、発泡粒子の高温ピーク熱量が大きくなるほど成形時の加熱で溶融しにくくなる傾向(成形時の加熱に際して発泡粒子相互が融着しにくくなる傾向)及び発泡粒子の膨張力に劣る傾向がある。上記式(1)のE1が発泡粒子の見かけ密度の関係式で表現されているのは以上の観点に基づいている。上記式(1)はそれらの観点の下に且つ本基材樹脂の引張弾性率との関係の下に実験的に定められたものである。また、上記式(2)は得られる型内成形体をより軽量で高剛性とする上で、好ましくは20≦D1≦200であり、より好ましくは30≦D1≦150である。
【0046】
発泡粒子のE1は、発泡粒子2〜10mgを、窒素雰囲気下で、示差走査熱量計によって室温(10〜40℃)から220℃まで10℃/分で昇温した時に得られる図1に示す第1回目のDSC曲線に認められる基材樹脂の融解熱に由来する固有の吸熱曲線ピーク(固有ピーク)aの頂点が現れる温度よりも高温側に頂点が現れる吸熱曲線ピーク(高温ピーク)bの熱量(吸熱量)で、この高温ピークbの面積に相当するものであり、具体的には次のようにして求めることができる。まずDSC曲線上の80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Tに相当するDSC曲線上の点βとを結ぶ直線(α−β)を引く。次に上記の固有ピークaと高温ピークbとの間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線を引き、前記直線(α−β)と交わる点をσとする。高温ピークbの面積は、DSC曲線の高温ピークb部分の曲線と、線分(σ−β)と、線分(γ−σ)とによって囲まれる部分(図1において斜線を付した部分)の面積であり、これが高温ピークの熱量に相当する。尚、上記融解終了温度Tとは、高温ピークbの高温側におけるDSC曲線と高温側ベースラインとの交点をいう。また、高温ピークの熱量と固有ピークの熱量の総和は、前記直線(α−β)とDSC曲線とで囲まれる部分の面積に相当する。尚、発泡粒子の固有ピークと高温ピークを上記の通り示差走査熱量計によって測定するに際しては、発泡粒子1個当たりの重量が2mg未満の場合は、総重量が2mg〜10mgとなる複数個の発泡粒子をそのまま測定に使用すればよく、また、発泡粒子1個当たりの重量が2mg〜10mgの場合には、発泡粒子1個をそのまま測定に使用すればよく、また、発泡粒子1個当たりの重量が10mg超の場合には、1個の発泡粒子を、複数個に切断して得た重量が2〜10mgとなる切断試料1個を測定に使用すればよい。ただし、この切断試料は、1個の発泡粒子をカッター等を使用して切断されたものであるが、切断に際しては、当初から有する発泡粒子の表面は切除せずにそのまま残すと共に、各切断試料の形状ができる限り同じ形状となるように均等に且つ各切断試料においては切除せずに残された上記発泡粒子表面の面積ができる限り同じ面積となるように切断されることが好ましい。例えば発泡粒子1個当たりの重量が18mgの場合には、任意の方向に向けた発泡粒子を垂直方向の真中より水平に切断すれば2個のほぼ同じ形状の約9mgの切断試料が得られ、各切断試料は、当初から有する発泡粒子の表面はそのまま残されていると共にその表面の面積は各切断試料でほぼ同じ面積となる。このようにして得られた2個の切断試料の内の1個を上記の通り固有ピークと高温ピークの測定に使用すればよい。尚、本明細書では、断り無く単に「発泡粒子の高温ピーク熱量」と表現している場合には、以上の測定で得られた高温ピークの熱量、即ちE1のことを言い、これは、後述する式(3)におけるE2、発泡粒子の表層部分に関する高温ピークの熱量及び内部発泡層に関する高温ピークの熱量とは区別される。
【0047】
上記高温ピークbは、上記のようにして測定した第1回目のDSC曲線には認められるが、第1回目のDSC曲線を得た後、220℃から10℃/分で一旦40℃付近(40〜50℃)まで降温し、再び10℃/分で220℃まで昇温した時に得られる第2回目のDSC曲線には認められず、図2に示されるような基材樹脂の融解時の吸熱に相当する固有ピークaのみが認められる。尚、発泡粒子の第1回目のDSC曲線に現れる固有ピークaの頂点の温度は、基材樹脂の融点(Tm)を基準とすると、通常、[Tm−5℃]〜[Tm+5℃]の範囲に現れる(最も一般的には[Tm−4℃]〜[Tm+4℃]の範囲に現れる)。また、発泡粒子の第1回目のDSC曲線に現れる高温ピークbの頂点の温度は、基材樹脂の融点(Tm)を基準とすると、通常、[Tm+5℃]〜[Tm+15℃]の範囲に現れる(最も一般的には[Tm+6℃]〜[Tm+14℃]の範囲に現れる)。また、発泡粒子の第2回目のDSC曲線に認められる固有ピークaの頂点の温度(基材樹脂の融点に対応する温度)は、基材樹脂の融点(Tm)を基準とすると、通常、[Tm−2℃]〜[Tm+2℃]の範囲に現れる。
【0048】
本発明で用いる発泡粒子は、前記の通り、DSC測定において、1回目のDSC曲線に高温ピークが出現する結晶構造を有するものがあるが、この高温ピークの熱量は樹脂の融点と発泡温度の差に強く影響される。発泡粒子の高温ピーク熱量は特に発泡粒子相互の融着に関して最低融着温度を決定する因子として作用する。ここでいう最低融着温度とは、発泡粒子相互が型内で融着するために必要な最低の飽和スチーム圧力を与える温度を意味する。高温ピーク熱量は、この最低融着温度と密接な関係にあり、全く同一の基材樹脂を用いた場合、高温ピーク熱量値が小さい方が高温ピーク熱量値が大きいときよりも最低融着温度が低くなるといった傾向がある。この高温ピーク熱量の値には発泡粒子の製造段階で樹脂に与える発泡温度の高低が強く影響しており、同一の基材樹脂を用いた場合、発泡温度が高い方が低い場合より高温ピーク熱量値が小さくなる傾向がある。
【0049】
ところが、高温ピーク熱量が小さい発泡粒子を用いてEPP成形体を得る場合、最低融着温度は相対的に低い傾向があるものの、EPP成形体の圧縮強度(剛性)等の強度物性等が相対的に低下する傾向がある。一方で、高温ピーク熱量が大きい発泡粒子を用いてEPP成形体を得る場合、EPP成形体の圧縮強度等の強度物性等が相対的に高い傾向があるものの最低融着温度が相対的に高くなり、前述のようにEPP成形体を製造する際に高い圧力のスチームを必要とする場合が生じるといった問題が発生する。即ち、最も好ましい発泡粒子は最低融着温度が低く且つEPP成形体の圧縮強度等の強度物性等が相対的に高いといった相反する性質を同時に有する発泡粒子である。上記低温成形可能な改質表面を有する発泡粒子は、最低融着温度が効果的に低下されたものであり、しかもそのような発泡粒子を用いてEPP成形体を製造する場合には、圧縮強度等の機械的物性に優れたEPP成形体を得ることができる。
【0050】
DSC曲線における高温ピークを有する発泡粒子を得るためには、密閉容器内で分散媒体に表面改質粒子を分散させて加熱する際に、本基材樹脂の融解終了温度(Te)以上に昇温することなく、本基材樹脂の融点(Tm)より20℃低い温度以上、融解終了温度(Te)未満の範囲内の任意の温度(Ta)で止めてその温度(Ta)で十分な時間、好ましくは10〜60分程度保持し、その後、融点(Tm)より15℃低い温度から融解終了温度(Te)+10℃の範囲の任意の温度(Tb)に調節し、その温度で止め、必要により当該温度でさらに十分な時間、好ましくは10〜60分程度、保持してから表面改質粒子を密閉容器内から低圧下に放出して発泡させる方法により得ることができる。尚、上記融点(Tm)とは、本樹脂粒子2〜4mgを試料として用いて前述の如き発泡粒子のDSC曲線を得るのと同様の方法で本樹脂粒子に対して示差走査熱量測定を行い、これによって得られた2回目のDSC曲線(その一例を図2に示す)に認められる基材樹脂固有の吸熱曲線ピークaの頂点の温度であり、融解終了温度(Te)とは、該固有の吸熱曲線ピークaの高温側におけるDSC曲線と高温側ベースライン(B)との交点(β)を言う。本樹脂粒子に対する2回目のDSC曲線に現れる吸熱曲線ピークは、それがポリプロピレン系樹脂の融解に基づくピークであることを前提として、通常は1つの吸熱曲線ピークとなって現れる。ただし、2以上のポリプロピレン系樹脂の混合物からなる場合等には、まれに2以上の吸熱ピークが認められることがある。その場合には、各ピークの頂点を通ると共にグラフの縦軸と平行な(横軸と直交する)直線をそれぞれ引き、各直線においてピークの頂点からベースラインBまでの長さを測定し、その長さが最も長い直線上のピークの頂点を上記Tmとする。ただし、同程度に長い直線が2以上存在する場合には、その中で最も高温側のピークの頂点を上記Tmとする。
【0051】
また、発泡粒子における上記高温ピークの熱量の大小は、主として、発泡粒子を製造する際の樹脂粒子に対する上記温度Taと該温度における保持時間および上記温度Tbと該温度における保持時間ならびに昇温速度に依存する。発泡粒子の上記高温ピークの熱量は、温度TaまたはTbが上記温度範囲内において低い程、保持時間が長い程、大きくなる傾向を示す。通常、加熱時の昇温速度(加熱開始から温度保持を開始するまでの間の平均昇温速度)は0.5〜5℃/分が採用される。これらの点を考慮して予備実験を繰り返すことにより、所望の高温ピーク熱量を示す発泡粒子の製造条件を容易に知ることができる。
【0052】
尚、以上で説明した温度範囲は、発泡剤として無機系物理発泡剤を使用した場合の適切な温度範囲である。有機系物理発泡剤が併用された場合には、その種類や使用量に応じてその適切な温度範囲は上記温度範囲よりもそれぞれ低温側にシフトする。
【0053】
前記発泡粒子の見かけ密度(g/L)は、発泡粒子の重量(g)を発泡粒子の見かけ体積(L)で除すことにより算出される。発泡粒子の見かけ体積は、23℃、大気圧下に48時間以上放置された発泡粒子約5gを23℃の水100cmが収容されたメスシリンダー内の水に水没させたときの排除体積から、発泡粒子の見かけ体積(cm)を読み取り、これをリットル単位に換算することにより求まる。この測定には発泡粒子重量が0.5000〜10.0000g、かつ発泡粒子の見かけ体積が50〜90cmとなる量の複数個の発泡粒子が使用される。
【0054】
尚、上記した表面改質粒子から得られた、低温成形可能な改質表面を有する発泡粒子(以下「表面改質発泡粒子」という)は、次のような構造的特異性を有していることが測定結果より判明している。
【0055】
発泡粒子のDSC測定の結果、表面改質発泡粒子は、従来法により得られた発泡粒子とは異なる傾向を示す。発泡粒子の表層部分と表層部分を含まない内部発泡層に分割して融点を測定したところ、従来の発泡粒子は発泡粒子の表層部分の融点(Tm)の方が内部発泡層の融点(Tm)に比較して必ず高くなる性質があったのに対して、表面改質発泡粒子は表層部分の融点(Tm)の方が内部発泡層の融点(Tm)よりもより低くなっていることが観察された。従って、表面改質発泡粒子としては、TmはTmよりも0.05℃以上低いことが好ましく、0.1℃以上低いことがより好ましく、0.3℃以上低いことが更に好ましい。
【0056】
発泡粒子の表層部分の融点(Tm)は、発泡粒子の表層部分を切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外は上記した発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって得た第2回目のDSC曲線の固有ピークaの頂点の温度を意味する。また、発泡粒子の内部発泡層の融点(Tm)は、表層部分を含まないように発泡粒子の内部から切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外は上記した発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって得た第2回目のDSC曲線の固有ピークaの頂点の温度を意味する。
【0057】
また、発泡粒子の表層部分と表層部分を含まない内部発泡層に分割して高温ピーク熱量を測定したところ、従来の発泡粒子は発泡粒子の表層部分の高温ピーク熱量(ΔH)と内部発泡層の高温ピークの熱量(ΔH)との関係が、ΔH≧ΔH×0.87となる性質があったのに対して、表面改質発泡粒子では、ΔH<ΔH×0.86であることが観察された。従って、表面改質発泡粒子としては、ΔH<ΔH×0.86であることが好ましく、ΔH<ΔH×0.80であることがより好ましく、ΔH<ΔH×0.75であることが更に好ましく、ΔH<ΔH×0.70であることが特に好ましく、ΔH<ΔH×0.60であることが最も好ましい。また、ΔHは、ΔH≧ΔH×0.25であることが好ましい。表面改質発泡粒子は、ΔH<ΔH×0.86であることにより、表面改質されていない発泡粒子よりも低温で型内成形が可能となりΔH値が小さくなるほどその効果は大きい。これにより、表面改質発泡粒子からなる単位成形体の部分の剛性を低下させずに低温のスチームで型内成形が可能となる。尚、ΔHは、1.7J/g〜60J/gであることが好ましく、2J/g〜50J/gであることがより好ましく、3J/g〜45J/gであることが更に好ましく、4J/g〜40J/gであることが最も好ましい。
【0058】
発泡粒子の表層部分の高温ピーク熱量は、発泡粒子の表層部分を切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外は上記した発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって求めることができる。また、発泡粒子の内部発泡層の高温ピーク熱量は、表層部分を含まないように発泡粒子の内部から切り出し、2〜4mg集めこれを試料とする以外は上記した発泡粒子の高温ピーク熱量の測定と同じ操作を行なって求めることができる。
【0059】
上記の発泡粒子の表層部分と表層部分を含まない内部発泡層に分割して融点及び高温ピーク熱量を測定する方法は次の通りである。発泡粒子の表層部分は、表層部分をカッターナイフ、ミクロトーム等を用いてスライスして表層部分を集めて測定に供すればよい。但し、スライスされた発泡粒子の表層部分の表面の全面には発泡粒子の表面を必ず存在させるが、スライスされた発泡粒子の表層部分の裏面においては、発泡粒子の表面から発泡粒子の重心に向って200μmを越える部分が含まれないように、発泡粒子表面の無作為に選んだ1箇所又は複数箇所からスライスされる。スライスされた発泡粒子の表層部分の裏面において、発泡粒子の表面から発泡粒子の重心に向って200μmを越える部分が含まれるようになると、内部発泡層を多量に含有することとなり表層部分の融点及び高温ピーク熱量を正確に測定できない虞がある。尚、1個の発泡粒子から得られる表層部分が2〜4mgに満たない場合は複数個の発泡粒子を使用して上記操作を繰り返して必要量の表層部分を集めればよい。一方、発泡粒子の表層部分を含まない内部発泡層は、発泡粒子の表面と、発泡粒子の表面から発泡粒子の重心部に向かって200μmとの間の部分が含まれないように発泡粒子の全面から表層部分を切除したものを使用して融点及び高温ピーク熱量の測定に供すればよい。ただし、発泡粒子の大きさが小さすぎて上記の表面から200μmの部分を切除すると内部発泡層がなくなってしまう場合には、発泡粒子の表面と、発泡粒子の表面から発泡粒子の重心部に向かって100μmとの間の部分が含まれないように発泡粒子の全面から表層部分を切除したものが内部発泡層として使用され、更にそれでも内部発泡層がなくなってしまう場合には、発泡粒子の表面と、発泡粒子の表面から発泡粒子の重心部に向かって50μmとの間の部分が含まれないように発泡粒子の全面から表層部分を切除したものが内部発泡層として使用される。尚、1個の発泡粒子から得られる内部発泡層が2〜4mgに満たない場合は複数個の発泡粒子を使用して上記操作を繰り返して必要量の内部発泡層を集めればよい。
【0060】
また、MFRを測定したところ、表面改質発泡粒子のMFRの値は表面改質される前の本樹脂粒子のMFRの値と同じがそれよりも大きな値を示すことが観察された。表面改質発泡粒子のMFRの値は表面改質される前の本樹脂粒子のMFRの値の1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、1.8〜3.5倍であることが最も好ましい。尚、表面改質発泡粒子のMFRの値は、EPP成形体の耐熱性及び発泡粒子製造時の発泡効率を考慮すると、0.5g/10分〜150g/10分となるようにすることが好ましく、1g/10分〜100g/10分となるようにすることがより好ましく、10g/10分〜80g/10分となるようにすることが更に好ましい。
【0061】
上記発泡粒子のMFRとは、発泡粒子を200℃に温度調節した加熱プレス盤で厚さ0.2mmから1mmのプレスシートを調製し、該シートからペレット状或いは棒状に試料を切出し、その試料を使って上記無架橋プロピレン系樹脂のMFRの測定と同様の方法で測定を行った値である。尚、発泡粒子のMFRを測定する上で上記試料には気泡等の混入は正確な測定値を得るために避ける必要がある。気泡の混入がどうしても避けられない場合には、同一サンプルを繰り返し3回までの範囲で加熱プレス盤による脱泡を目的としたプレスシートの調製を行うことができる。
【0062】
更に、表面改質発泡粒子は、表面改質工程において、特に上記有機過酸化物として酸素ラジカルを発生する有機過酸化物を用いた場合、有機過酸化物の付加作用により若干量の酸素を含有する改質表面が形成される。このことは、表面改質発泡粒子の表面と、それから製造されたEPP成形体の表面の分析から明らかとなっている。具体的には、表面改質発泡粒子から製造されたEPP成形体の表面(即ち表面改質発泡粒子の表面と実質的に同じ)と、従来の表面改質されていない発泡粒子から製造されたEPP成形体の表面のそれぞれをATR測定(全反射吸収測定法)で比較した結果、表面改質発泡粒子から製造されたEPP成形体の表面には、新たに1033cm−1付近の吸収に差のあることを確認しており、酸素単体あるいは酸素を含有した官能基の付加あるいは挿入等の変化があったことが認められた。具体的には、1166cm−1の吸収における両ピーク高さ(表面改質発泡粒子からの成形体に対する吸収ピーク高さと従来の成形体に対する吸収ピーク高さ)を同じとしたときに、表面改質発泡粒子から得られた成形体表面の1033cm−1付近の吸収ピークの高さは、従来の成形体表面の1033cm−1付近の吸収ピークの高さに比べ高くなっている。更に発泡粒子の表面観察としてEDS(エネルギー分散形分析装置)による元素分析を行った結果、酸素と炭素の比に関し、表面改質発泡粒子の場合、0.2(mol/mol)であったのに対し、従来の発泡粒子の場合、0.09(mol/mol)であった。以上のことから、有機過酸化物の付加作用により若干量の酸素を含有する改質表面を形成しているのは明白である。このような改質表面の形成は成形の際スチームの透過性を有利にすると考えられる。この様な観点から、表面改質発泡粒子は、発泡粒子表面における上記EDSによるその酸素と炭素の比は0.15以上であることが好ましい。
【0063】
表面改質発泡粒子は、上記発泡粒子の表層部分の高温ピーク熱量の低下又は/及び上記発泡粒子表面の融解開始温度の低下により、その最低融着温度が効果的に低減されるものと推測される。
【0064】
本発明で用いる発泡粒子は、大気圧下で熟成した後、必要に応じて気泡内圧を高めてから、水蒸気や熱風を用いて加熱することによって、より高発泡倍率の発泡粒子とすることが可能である。
【0065】
本発明によるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体(EPP成形体)は、発泡粒子を、必要に応じて気泡内圧を高めてから、加熱及び冷却が可能であってかつ開閉及び密閉できる型内に充填し、飽和スチームを供給して型内で発泡粒子を加熱して膨張させて相互に融着させ、次いで冷却して型内から取り出すバッチ式成形法を採用して製造することができる。当該バッチ式成形法で使用される成形機としては、既に数多くの成形機が世界中に存在し、国によって多少異なるものの、その耐圧は、0.41MPa(G)又は0.45MPa(G)のものが多い。従って、発泡粒子同士を膨張させて融着させる際の飽和スチームの圧力は、0.45MPa(G)以下又は未満であることが好ましく、0.41MPa(G)以下又は未満であることがより好ましい。尚、発泡粒子の気泡内圧を高める場合には、密閉容器に発泡粒子を入れ、該容器内に加圧空気を供給した状態で適当な時間放置して発泡粒子内に加圧空気を浸透させればよい。加圧供給される気体は必要とされる圧力下で液化、固化しない無機ガスが主成分であれば問題なく使用できるが、さらに窒素、酸素、空気、二酸化炭素、アルゴンの群から選択される1又は2以上の無機ガスを主成分とするものが特に好適に使用され、さらにその中でも環境負荷やコストなどを考慮すると、窒素や空気が好ましい。
【0066】
内圧が高められた発泡粒子の内圧P(MPa)は、次の操作により測定される。尚、ここでは、空気を使用してポリプロピレン系樹脂発泡粒子(EPP粒子)の内圧を高めた例を示す。まず、成形に使用される発泡粒子は、密閉容器に入れられ、該容器内に加圧空気を(通常は容器内の空気圧がゲージ圧で0.98〜9.8MPaの範囲を維持するように)供給した状態で適当な時間放置して発泡粒子内に空気を浸透させることにより発泡粒子の内圧が高められる。充分に内圧が高められた発泡粒子は、成形機の金型内に供給される。発泡粒子の内圧は型内成形直前の発泡粒子の一部(以下、発泡粒子群という。)を使用して、次の操作を行うことによって求められる。
【0067】
内圧が高められた型内成形直前の発泡粒子群を加圧タンク内から取り出してから60秒以内に、発泡粒子は通過させないが空気は自由に通過できるサイズの針穴を多数穿設した70mm×100mm程度のポリエチレン製袋の中に収容して気温23℃、相対湿度50%の大気圧下の恒温室に移動する。続いてその恒温室内の秤に載せて重量を読み取る。その重量の測定は、上記した発泡粒子群を加圧タンク内から取出してから120秒後とする。このときの重量をQ(g)とする。続いてその袋を同恒温室に48時間放置する。発泡粒子内の加圧空気は時間の経過と共に気泡膜を透過して外部に抜け出すため発泡粒子群の重量はそれに伴って減少し、48時間後では平衡に達しているため実質的にその重量は安定する。上記48時間後に再度その袋の重量を測定し、このときの重量をU(g)とする。続いて直ちに同恒温室内にて袋から発泡粒子群の全てを取り出して袋のみの重量を読み取る。その重量をZ(g)とする。上記のいずれの重量も0.0001gまで読み取るものとする。Q(g)とU(g)の差を増加空気量W(g)とし、次式より発泡粒子の内圧P(MPa)が計算される。尚、この内圧Pはゲージ圧に相当する。
【0068】
P=(W÷M)×R×T÷V
ただし、上式中、Mは空気の分子量であり、ここでは28.8(g/モル)の定数を採用する。Rは気体定数であり、ここでは0.0083(MPa・L/(K・mol))の定数を採用する。Tは絶対温度を意味し、23℃の雰囲気が採用されているので、ここでは296(K)の定数である。Vは発泡粒子群の見掛け体積から発泡粒子群中に占める基材樹脂の体積を差し引いた体積(L)を意味する。
【0069】
尚、発泡粒子群の見掛け体積(L)は、48時間後に袋から取り出された発泡粒子群の全量を直ちに同恒温室内にて23℃の水100cmが収容されたメスシリンダー内の水に水没させたときの目盛りから、発泡粒子群の体積Y(cm)を算出し、これをリットル(L)単位に換算することによって求められる。発泡粒子群の見掛け発泡倍率は、基材樹脂密度(g/cm)を発泡粒子群の見掛け密度(g/cm)で除すことにより求められる。また発泡粒子群の見掛け密度(g/cm)は、上記発泡粒子群重量(U(g)とZ(g)との差)を体積Y(cm)で除すことにより求められる。尚、以上の測定においては、上記発泡粒子群重量(U(g)とZ(g)との差)が0.5000〜10.0000gで、かつ体積Yが50〜90cmとなる量の複数個の発泡粒子群が使用される。
【0070】
発泡粒子の気泡内の上記内圧は、0〜0.98MPaが好ましく、0〜0.69MPaがさらに好ましく、0〜0.49MPaが特に好ましく、0〜0.1MPaが最も好ましい。前記気泡内圧が高くなりすぎると成形時の二次発泡力が過剰となり、成形体内部へ飽和スチームの浸透を阻害し、結果的に成形体中央部の加熱が不足し、発泡粒子の相互融着が不良となりやすい。
【0071】
一般的に、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形して得られる型内発泡成形体は、通常、成形時において、加熱直後の冷却が不足すると金型空間の形状と比べ大きくなり(膨張し)、逆に冷却が過多であると金型空間の形状と比べ小さくなる(十分な回復が望めないほど大きく収縮する)。その冷却の程度により、膨張の度合い及び収縮の度合いが異なる。また、その膨張及び収縮は、得られる成形体の見かけ密度が大きい場合と小さい場合とでは異なる傾向を示す。具体的には、冷却の度合いが同じ場合、低密度成形体部分の方が膨張から収縮に転じる時期が早い傾向にある。通常は、金型空間の形状と比べ膨張した成形体の方が嫌われることが多いので高密度成形体部分が膨張しないように冷却が行なわれる。その結果、金型から取り出された(離型)直後に、相対的に低密度の成形体部分が大きく収縮した状態となる。その収縮が比較的小さい場合には、離型後の早い段階で成形体を50〜100℃程度の加熱雰囲気下に24時間程度置くと、通常は、その収縮は回復するが、大きな収縮を生じた場合には、そのような加熱雰囲気下においてもほとんど回復しないため、高品質の製品を得ることは困難であった。これに対し、前記した特定の発泡粒子から形成された型内発泡成形体は、成形時の加熱直後に行なう成形体に対する冷却が短時間であっても最終的な成形体に膨張が生じなくなり、しかも冷却が過多となっても収縮がないか若しくはほとんどない。従って、特定の発泡粒子で製造される単位成形体部分と特定の発泡粒子以外の発泡粒子で製造される単位成形体部分とが含まれるように一体成形したとしても、特定の発泡粒子以外の発泡粒子で製造される単位成形体部分の外側に凸状となる膨れや内側に凹状となるヒケ(収縮)が生じないように成形時の冷却を調整すれば、全体として、成形体の外側に凸状となる膨れや内側に凹状となるヒケ(収縮)が少ない型内成形体が容易に得られると共に、単位成形体同士の熱融着界面に破損を生じることがない高品質のものとなる。更に、全ての単位成形体がこの特定の発泡粒子から製造される場合は、得られる成形体の外側に凸状となる膨れや内側に凹状となるヒケが少ない型内成形体が更に容易に得られると共に成形時における加熱後の冷却時間をより短縮化することができる。このことは、本発明者らが初めて見出した意外な事実である。
【0072】
次に、本発明を図面を参照しながら詳述する。図3は、本発明のEPP成形体の1つの実施例についての構造説明図である。図3において、1、2及び3は単位成形体を示し、4は隣接する2つの単位成形体1、2の間の融着界面を示し、5は隣接する2つの単位成形体2、3の間の融着界面を示す。6は本発明によるEPP成形体を示す。単位成形体1、2、3は、いずれも、特定の発泡粒子を成形することにより得られた型内発泡成形体からなる。
【0073】
図3に示す本発明のEPP成形体6は、単位成形体1、2、3が成形時に相互に一体化された融着体であるが、その隣接する2つの単位成形体の特性は相互に異なる。本発明でいう特性が相互に異なるとは、少なくとも、見かけ密度が異なるか、基材樹脂が異なるか、色が異なるか、或いは圧縮強度等の機械的物性が異なることをいう。具体的には、見かけ密度が大きければ圧縮強度は高くなる。例えば、図3に示すEPP成形体の場合、単位成形体1の見かけ密度D2、単位成形体2の見かけ密度D2及び単位成形体3の見かけ密度D2の間には、下記式(5)及び(6)の関係がある。
式(5):D2>D2
式(6):D2>D2
即ち、単位成形体2の密度D2は、他の単位成形体1、3の各見かけ密度D2、D2より高密度である。低密度の単位成形体1、3の見かけ密度D2、D2はそれぞれ同一又は異なっていてもよい。本発明の場合、高密度の単位成形体2の密度D2は、低密度の単位成形体1、3の見かけ密度D2、D2の1.2〜25倍が好ましく、1.2〜20倍がより好ましい。このような型内成形体は、必要な部分の剛性を高めて全体として軽量化されたものである。
【0074】
図3に示す本発明のEPP成形体6を構成する各単位成形体1、2、3において、各見かけ密度D2(g/L)と、その単位成形体1、2、3を構成する各発泡体の高温ピーク熱量E2(J/g)とは、それぞれ、下記式(3)及び(4)を満足する関係にある。
式(3):20−0.020×D2≦E2≦65−0.100×D2
式(4):10≦D2≦500
前記式(3)、(4)において、D2は本基材樹脂からなる発泡粒子で構成する単位成形体1、2、3の各々から切り出される試験片の見かけ密度、即ち、D2、D2又はD2を示し、E2は特定の発泡粒子から成形された単位成形体1、2、3のそれぞれから切り出される試験片(2〜4mg)の高温側吸熱曲線ピークの融解熱量数値(E2、E2又はE2)を示す。前記D2とE2とのより好ましい関係を示すと、下記式(7)及び式(8)の通りである。
式(7):25−0.020×D2≦E2≦55−0.100×D2
式(8):15≦D2≦450
また、高密度単位成形体2において、その見かけ密度D2は、30〜450g/Lであり、低密度単位成形体1、3の見かけ密度D2、D2は15〜90g/Lであって且つ該高密度単位成形体2の見かけ密度D2よりも低い。これにより必要な部分を高密度化して剛性を高め、全体としては軽量化された型内成形体となる。
尚、上記D2が10g/Lを下回るようになると機械的物性の低下が著しくなり、上記D2が500g/Lを上回るようになると発泡させた効果(軽量性等)がほとんどなくなってしまうので、いずれも好ましくない。また、上記式(3)において、E2が〔20−0.020×D2〕未満の場合、成形時に冷却過多となとなると成形体に大きな収縮が残る虞があり、逆にE2が〔65−0.100×D2〕を越えると得られる成形体は発泡粒子間の融着強度に劣るものとなりやすい。尚、E2がD2の関係式で表現される理由は上記式(1)のE1とD1との関係と同様であるが、上記式(1)と上記式(3)において同じ見かけ密度で数値が異なる理由は、発泡粒子は成形時に発泡粒子間の空隙を埋めるように膨張し、その結果、成形体の見かけ密度が、成形に使用される発泡粒子の見かけ密度よりも小さくなることに起因している

【0075】
図4に、本発明のEPP成形体の他の実施例について構造説明図を示す。図4において、1は高密度単位成形体を示し、2は低密度単位成形体を示す。4は両者の融着界面を示す。
【0076】
図5に、本発明のEPP成形体のさらに他の実施例についての構造説明図を示す。図5において、11〜15は単位成形体を示し、16〜19は隣接する2つの単位成形体の各融着界面を示す。図5において、各単位成形体11〜15の各見かけ密度D211〜D215の関係は下記式(9)及び式(10)の通りである。
式(9):D213>D212>D211
式(10):D213>D214>D215
【0077】
本発明のEPP成形体において、その隣接する2つの単位成形体は、図3、図4、図5に示すように、その界面に他の部材を介在させることなく、直接融着した構造であることができるが、場合によっては、その融着界面にインサート材を介在させた融着構造のものとすることもできる。隣接する2つの単位構成体が直接融着した構造のEPP成形体の製造方法については、例えば、特開平11−334501号公報や、特開2000−16205号公報、特開2001−63496号公報、特開2001−150471号公報、特開2002−172642号公報、実公昭62−22352号公報、米国特許第5164257号明細書等に詳述されている。また、図6に、隣接する2つの単位成形体の融着界面にインサート材を介在させた場合のEPP成形体の構造説明図を示す。図6において、aは隣接する2つの単位成形体の一方を示し、bはその他方を示し、cはその融着界面に介在するインサート材を示す。
【0078】
インサート材cは、その表面に多数の透孔を有することが好ましい。このインサート材cは、型内発泡成形体の製造工程において、金型の内部を仕切部材により複数の区画に仕切り、その各区画に発泡粒子を充填する際の仕切り部材として用いられたものである。このインサート材(仕切り部材)cにより区画された複数の区画に発泡粒子を充填し、スチームにより加熱して各発泡粒子を一体に融着させる時に、そのインサート材cの両側に存在する発泡粒子がそのインサート材cの前記透孔を介して熱融着する。この熱融着体を金型から型内発泡成形体の製品として取出したときに、そのインサート材cは、各単位成形体の熱融着界面に残存する。尚、前記インサート材が発泡粒子を成形する際の加熱で単位成形体と充分な強度をもって一体化しうる熱接着性を有する場合には、必ずしもインサート材には前記透孔を設けなくとも成形時に単位成形体同士をインサート材を介して一体化させることができる。しかし、そのような熱接着性がない場合にはにインサート材に前記透孔が形成されていると成形時に前記透孔を通して各単位成形体を一体化させることができる。
【0079】
前記透孔を有するインサート材cとしては、金網、多数の透孔を有する金属板やセラミックス板(ガラス板)、プラスチック板等の他、多数の透孔を有する厚紙等であることができる。インサート材cにおける透孔の形状は、円形状の他、溝状(スリット状)等の各種の形状であることができる。この透孔の大きさは、そのインサート材cの両側に充填した発泡粒子をそのインサート材cを介して一体に熱融着させる際し、その発泡粒子の融着を阻害しないような大きさであれば良く、そのインサート材cの両側に充填した発泡粒子a、bの少なくとも一方が通過し得えない大きさであればよい。一般的には、インサート材cの透孔は、その面積S1が、発泡粒子の中央部断面積S2=πr(r:発泡粒子の最小半径)の0.2〜0.9倍、好ましくは0.5〜0.8倍程度になるような大きさである。インサート材cの厚さは、1〜10mm、好ましくは2〜8mm程度であるが、特に制約されない。
【0080】
インサート材cの表面に形成される透孔の数は、2つの単位成形体a、bを充分な強度で融着し得る数であればよい。一般的に、インサート材の表面積に対する全透孔面積の比が25〜90%、好ましくは50〜80%となるような数である。
【0081】
本発明のEPP成形体は、連続式成形法(例えば特開平9−104026号、特開平9−104027号及び特開平10−180888号等に記載される成形方法)に仕切り材を追加する等して製造することもできる。該連続式成形法においては、必要に応じて気泡内圧が高められた発泡粒子を、通路内の上下に沿って連続的に移動するベルト間に連続的に供給し、飽和スチーム供給領域(加熱領域)を通過する際に発泡粒子同士を膨張させて融着させ、その後冷却領域を通過させて冷却し、次いで得られた成形体を道路内から取り出し、適宜の長さに順次切断することによって、EPP成形体が製造される。
【0082】
また、EPP成形体にはその表面の少なくとも一部に、補強材又は/及び表面装飾材を積層一体化することができる。そのような積層方法は米国特許第592876号、米国特許第6096417号、米国特許第6033770号、米国特許第5474841号、ヨーロッパ特許477476号、WO98/34770号、WO98/00287号、日本特許第3092227号等の各公報に詳細に記載されている。また、本発明のEPP成形体中には、前述した仕切り材兼インサート材を使用することなく又は仕切り材兼インサート材と共に、他のインサート材をその全部または一部が成形体中に埋設されるようにして該他のインサート材を複合一体化することができる。そのようなインサート複合タイプのEPP成形体の製造方法は、「米国特許第6033770号、米国特許第5474841号、日本公開特許昭59−127714号、日本特許第3092227号等の各公報に詳細に記載されている。上記方法で製造される本発明のEPP成形体の全体の見かけ密度は目的によって任意に選定できるが、通常は10g/L〜600g/Lの範囲である。EPP成形体の全体の見掛け密度とは、JIS K 7222(1999年)でいう見掛け全体密度のことである。ただし、見掛け全体密度の計算に用いられる成形体の体積は、外寸から計算される体積を採用するが、形状が複雑で外寸からの計算が困難である場合には、成形体を水没させた際の排除体積が採用される。また、各単位成形体の見かけ密度は、単位成形体間の融着界面の中央部で各単位成形体に切断した後、切断された各単位成形体を使用し、EPP成形体の全体の見かけ密度と同じ方法で測定される。本発明のEPP成形体は、いずれの単位成形体においても、ASTM−D2856−70の手順Cに基づく連続気泡率が40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることが最も好ましい。連続気泡率が小さいほど、機械的強度に優れる。
【0083】
図7に、本発明のEPP成形体を製造するための成形装置の1つの実施例についての説明図を示す。この装置は、自動車用のバンパー芯材の製造用に用いられるものである。この装置8は、図7に示すように、金型フレーム9a、9bにバンパー芯材の形状に応じたキャビティを形成する雄型10a、雌型10bが取り付けられている。尚、雄型10aはバンパー芯材の車体側の型であり、バックアップビーム取付け面側を形成する為の型でもある。また雌型10bは車両外方面を形成するための型である。更に、成形装置8は長手方向を複数のキャビティ空間に分割する仕切板11を備えている。仕切板11は各仕切板毎にエアシリンダ12のシリンダーロッド13に接続され、キャビティ空間へ進退可能に形成されている。仕切板11を進退させるシリンダー12はビーム側となる方のフレーム9aに取り付けられ仕切板11をビーム側の雄型10aに設けられた挿通孔14から型内部へ進入可能に形成されている。また、車体外方面側の雌型10b側には仕切板11によって区画されたそれぞれのキャビティに発泡粒子を充填するための充填機16が、各々の区画されたキャビティ毎に設けられている。
【0084】
雄型10aの挿通孔14の周囲は、キャビティ内側に向けて突出しており凸部15として形成されている。この凸部15を形成する雄型の突出部分は挿通孔14の長手方向両側にそれぞれ0.7〜25.0mmの幅に形成されることが好ましい。突出部分の幅が0.7mm未満では強度が不十分で変形したり破損するおそれがある。また凸部15の成形面からの高さは、バンパー芯材1の車両外面側先端の曲がり具合や凹部の有無等の形状に応じて適宜決められるが、1.0〜50.0mmに形成するのが好ましい。尚、仕切板の厚みは、一般に0.5〜10.0mmに形成されているため、全体として凸部15の幅は2.0〜62.0mmに形成されていることが好ましく、3.0〜30mmに形成されていることがより好ましい。凸部15の幅が2.0mm未満では強度不足であり、62.0mmを超えると得られるバンパー芯材のエネルギー吸収効率が低下する虞れがある。また、仕切板11の幅(厚み)は、凸部15の幅に対し、10〜85%に形成するのが好ましい。
【0085】
仕切板11は図8(a)に示すように、上端縁と下端縁とを仕切板の進行方法に対して平行となるように形成するのが好ましい。この場合、雌型10bの仕切板の上端縁と下端縁と接する部分は、仕切板11の上下の形状に応じた形状に形成される。すなわち、雌型10bの仕切板11の上端縁11a及び下端縁11bと接触する部分の周囲の形状は仕切板11と同様に仕切板の進行方向と平行に形成され、雌型10bの当該部分は周囲の部分よりもキャビテイ内側に突出した形状に形成される。
【0086】
雌型10bの仕切板11の上端縁11a及び下端縁11bと接触する部分の周囲の形状を周囲の部分よりもキャビテイ内側に突出するように形成した場合、この凸部15a、15bの幅は、仕切板11の挿通孔の周囲の凸部15と同じ幅にするのが好ましい。
【0087】
図7に示す成形装置8を用いてバンパー芯材を製造するには、まず仕切板11をキャビティ内に進めて各キャビティごとに仕切る。次いで各充填機16から所定の発泡粒子をキャビティ内に各々充填する。仕切板は発泡粒子が充填された後、或いは充填しながら退出させる。キャビティ内の各区画に発泡粒子が完全に充填され仕切板がキャビティ内部から除かれたならば、キャビティを蒸気等で加熱して発泡粒子を融着して複数の領域が一体に形成された発泡粒子成形体を得る。しかる後に該発泡粒子成形体をキャビティから取り出して図9に示すバンパー芯材Aが得られる。この際、図9に示すようにバンパー芯材Aには、上下と中央にバリが発生するが、このバリは、凹部2内に留まり、ビーム取り付け面から外方に突出しない。
【0088】
発泡粒子をキャビティ内に充填するには、型内に間隙を設けて空気等により発泡粒子をキャビティ内に充填する所謂クラッキング充填法を用いることができる。この方法では特性が相互に異なる高密度の領域及び低密度の領域を両方同時に充填することができる。また、発泡粒子を加圧して体積を小さくし、型のキャビティ内と発泡粒子のタンクとの間に圧力差を設けて充填するいわゆる圧縮充填法を用いてもよい。この場合には通常、低密度の領域の発泡粒子が圧縮され見かけ密度が変化するのを避けるため、はじめに高密度の領域を充填しておいて次に低密度の領域を充填する。
【0089】
各キャビティに充填される原料の発泡粒子は、見かけ密度や粒子重量、基材樹脂等が全て同じ発泡粒子であっても、異なる発泡粒子であってもいずれでもよい。例えば同一の発泡粒子を用いて異なる見かけ密度の単位成形体を形成するには、仕切板により区画された各々のキャビティ内に発泡粒子を充填する際に、高い密度の領域として形成するキャビティに充填する発泡粒子の加圧量を他よりも大きくする方法や、クラッキング充填による場合、高い密度の領域として形成するキャビティに先に発泡粒子を充填し、その後型内の間隙を狭めてから低い密度の領域として形成するキャビティに発泡粒子を充填する方法等が挙げられる。
【0090】
尚、仕切板11をキャビティから退出させる場合、仕切板11の先端が雄型10aの凸部15の突出面よりも外側になるまで退出させるのが好ましい。すなわち、仕切板11の先端がキャビティの凸部15の突出面よりもキャビティ内に入り込んだ状態で成形を行うと、得られるバンパー芯材の凹部2に仕切板の部分が凹溝として形成される。仕切板の跡のような細溝がバンパー芯材のバックアップビーム取り付け面に存在すると、衝撃を受けた場合の衝撃吸収特性が低下する虞れがある。このとき凹部内にバリが発生するが、前に述べたようにこのバリはビーム取り付け面より外方に突出しないか、あるいは突出しても突出しないよう処理すればよく、処理は容易である。
【0091】
上記した衝撃吸収材が、特定の発泡粒子で構成されている単位成形体と特定の発泡粒子以外のポリプロピレン系樹脂発泡粒子で構成されている単位成形体の2種類からなる場合は、特定の発泡粒子で構成されている単位成形体の重さ(d1:g)及びその発泡粒子の高温ピーク熱量(C1:J/g)と、特定の発泡粒子以外のポリプロピレン系樹脂発泡粒子で構成されている単位成形体の重さ(d2:g)及びその発泡粒子が高温ピーク熱量(C2:J/g)との関係を、以下に示す式(11)が成り立つように設定すると軽量で衝撃吸収性の高いものとなる。
式(11):(C1×d1)/(d1+d2)+(C2×d2)/(d1+d2)>22
但し、式中の22は発泡粒子の高温ピーク熱量(J/g)である。
【0092】
本発明のEPP成形体は、自動車用バンパー芯材、ヘルメット芯材等の衝撃吸収材として用いることが好ましい。
【0093】
図9は、前記のようにして得られる自動車用バンパー芯材Aの要部外観を示す斜視図である。また、そのバンパー芯材Aをビーム側から見た正面図を図10に示す。さらに、図10のIII−III線縦断面図を図11に示す。これらの図において、1aは高密度の単位成形体、1bは低密度の単位成形体、2は凹部、3は高密度単位成形体と低密度単位成形体との熱融着界面を示す。前記のようにして得られる自動車用バンパー芯材は、長手方向を所定長さに複数に区画してなる特性等の異なる領域(エネルギー吸収能の異なる領域、単位成形体)が組み合わされているものであるから、衝撃特性に優れ、軽量且つ低コストであると共に、芯材のバックアップビーム取り付け面の特性等の異なる各単位成形体の境界周囲が凹部として形成されているため、バンパー芯材の形状に拘わらず、バンパー芯材のビーム面側にバリは凹部内に発生するため仮に大きく突出してもバリの除去が容易であり生産性が低下せず、バンパー芯材のビーム面に邪魔な突起物がなくビームへの取り付けは容易である。
【実施例】
【0094】
以下に本発明について実施例及び比較例を挙げて説明する。
【0095】
発泡粒子の製造例1〜4、8及び9
表1に示す融点、MFR、引張弾性率を有するポリプロピレン単独重合体樹脂100重量部当り、ホウ酸亜鉛粉末(気泡調整剤)0.05重量部を添加して押出機内で溶融混練した後、押出機からストランド状に押出し、そのストランドを直ちに25℃に調節された水中に入れて急冷しながら引き取り、充分に冷却した後、水中から引き上げ、長さ/直径比が略1.0になるようにストランドを切断して、1粒子当りの平均重量が2mgのポリプロピレン系樹脂粒子を得た。次いで400リットルのオートクレーブに、上記樹脂粒子100kg、分散媒体として25℃のイオン交換水120kg(樹脂粒子/分散媒体重量比0.83)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)0.002kg及びカオリン(分散剤)0.4kg、粉末硫酸アルミニウム(分散助剤)0.013kg、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(有機化酸化物)0.32kgを仕込み、攪拌しながら90℃まで昇温(平均昇温速度5℃/分)してその90℃の温度で10分間保持した。次いで、イオン交換水100kg、炭酸ガス(発泡剤)を平衡圧で0.49MPa(G)となるように圧入した後、攪拌しながら表1の発泡温度より5℃低い温度まで昇温した(平均昇温速度4℃/分)後、攪拌しながら表1の発泡温度より1℃低い温度まで昇温した(平均昇温速度0.16℃/分)。その後、炭酸ガス(発泡剤)を表1の圧力となるように圧入し、昇温速度を0.029℃/分として発泡温度まで昇温した。次いで、オートクレーブの一端を開放してオートクレーブ内容物を大気圧下に放出して発泡粒子を得た。尚、樹脂粒子をオートクレーブから放出する間のオートクレーブ内圧力が、放出直前のオートクレーブ内圧力に保たれるように、オートクレーブ内に炭酸ガスを供給しながら放出を行った。得られた発泡粒子を水洗し遠心分離機にかけたのち、室温23℃の大気圧下に24時間放置して養生した後、発泡粒子1個全体の高温ピーク熱量、表層(表層部分)の高温ピーク熱量、内部(内部発泡層)の高温ピーク熱量及び発泡粒子の見かけ密度等を測定した。その結果を表1に示した。尚、本製造例で得られた発泡粒子は、いずれも実質的に無架橋であった(前記沸騰キシレン不溶分はいずれも0であった)。
発泡粒子の製造例5〜7
発泡粒子の製造例1と同様にポリプロピレン系樹脂粒子を得た。次いで400リットルのオートクレーブに、上記樹脂粒子100kg、イオン交換水220kg、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)0.005kgとカオリン(分散剤)0.3kg粉末硫酸アルミニウム(分散助剤)0.01kgを仕込み、次いで、炭酸ガス(発泡剤)を平衡圧で0.49MPa(G)となる様に圧入した後、攪拌しながら表1の発泡温度より5℃低い温度まで昇温した(平均昇温速度4℃/分)後、攪拌しながら表1の発泡温度より1℃低い温度まで昇温した(平均昇温速度0.16℃/分)。その後、炭酸ガス(発泡剤)を表1の圧力となるように圧入し、昇温速度を0.029℃/分として発泡温度まで昇温した。次いで、オートクレーブの一端を開放してオートクレーブ内容物を大気圧下の空間に放出して発泡粒子を得た。尚、樹脂粒子をオートクレーブから放出する間のオートクレーブ内圧力が、放出直前のオートクレーブ内圧力に保たれるように、オートクレーブ内に炭酸ガスを供給しながら放出を行った。得られた発泡粒子を水洗い遠心分離機にかけたのち、24時間大気圧下に放置して養生した後、発泡粒子の全体の高温ピーク熱量、表層(表層部分)の高温ピーク熱量及び内部(内部発泡層)の高温ピーク熱量、見かけ密度を測定した。その結果を表1に示した。尚、本製造例で得られた発泡粒子は、いずれも実質的に無架橋であった(前記沸騰キシレン不溶分はいずれも0であった)。
【0096】
実施例1〜4、参考例1及び比較例1〜5
成形装置に、長さ700mm×幅200mm×厚さ50mmの成形空間を持つ金型(雄型と雌型とからなる)を取付けた成形装置を用意した。この成形装置には、該金型の長さ方向の各端部から150mmの箇所においては、全型中に進退自在のステンレス製仕切り材が設けられている。これら2つの仕切り材は、発泡粒子を金型内に充填する際に、成形空間を3つの区画に仕切るものであり、本実施例・比較例では、発泡粒子の充填後であって加熱前に成形空間から退出されるものである。以上の成形装置を使用し、上記発泡粒子の製造例で得られた各発泡粒子を表2に示す通り、仕切り材で仕切られた成形空間内の両端の区画に高密度粒子Aを充填すると共に中央の区画に低密度粒子Bを充填し、以下のようにして成形を行なった。発泡粒子の充填時は、金型を完全に閉鎖せずに僅かな隙間(約10mm)を開けた状態(厚さ50mmの方向を60mm)で充填し、次いで完全に型締めした後に、スチームで金型内の空気を排気してから、圧力が表2の成形圧力より0.04MPa(G)低い圧力に達するまで0.8MPa(G)に調圧されたスチームを雄型側から導入し(一方加熱)、続いて圧力が表の成形圧力より0.02MPa(G)低い圧力に達するまでスチームを雌型側から導入し(逆一方加熱)た後、雌雄両型側からスチームを導入して表2の成形圧に達してからその圧力で20秒の保持加熱を行い(本加熱)成形した(比較例1〜3はその保持を行なわず、成形圧に達した直後に冷却を開始した。)。尚、一方加熱の開始から表2の成形圧力に至るまでの時間を測定し、これに基づいて算出された昇圧速度を表2に示した。成形後、金型内の成形体の面圧が0.059MPa(G)となるまで水冷した後、成形体を金型から取り出し、60℃で24時間乾燥させた後、成形体を23℃、相対湿度50%の部屋に移動した。
【0097】
尚、表2中の成形圧力とは、乾燥後の成形体を23℃、相対湿度50%の部屋に移動してから24時間経過後、成形体の長さ700mm×幅200mm表面の一方の面に、カッターナイフで各単位成形体の長さを2分するように成形体の厚み方向に約10mmの切り込みを入れた後、切り込み部から成形体を折り曲げて破断するテストにより、破断面に存在する発泡粒子の個数(n)と材料破壊した発泡粒子の個数(b)の比(b/n)の値が3つの単位成形体の全てにおいて初めて0.50以上となった時の、成形に要した飽和スチーム圧力を意味する。尚、比較例4は成形機の耐圧と同じ0.44MPa(G)の成形圧力で成形しても(b/n)の値は0.50を下回るものであった。上記発泡粒子の個数(n)は、発泡粒子間で剥離した発泡粒子の個数と、発泡粒子内で材料破壊した発泡粒子の個数(b)との総和である。また、(b/n)の値が大きいほど成形体は曲げ強度や引張強度が大きくなるので好ましい。また、表1中の融点、E1及び表2中のE2は、株式会社島津製作所の島津熱流束示差走査熱量計「DSC−50」を使用して測定した。
【0098】
なお、表2に示す成形体の性状に関する評価方法及び評価基準は以下の通りである。
(1)融着性耐圧0.44MPa(G)の成形機を用いて前述した(b/n)比が0.50以上となるか否かにより評価
○・・・(b/n)比が0.50以上
×・・・(b/n)比が0.50未満
(2)表面性成形体の表面に凹凸等の発泡粒子相互の間隙が少なく、その外観が良好であるか否かを目視により評価
○:良好
×:不良
(3)形状安定性乾燥後の成形体を23℃、相対湿度50%の部屋に移動してから24時間放置した後、成形体の両端部に位置する高密度単位成形体の各々の中央部(各単位成形体の長さ方向中央部及び幅方向中央部)において厚み方向の長さ(厚み)を測定すると共に、2つの高密度単位成形体の間に位置する低密度単位成形体の中央部(各単位成形体の長さ方向中央部及び幅方向中央部)において厚み方向の長さ(厚み)を測定し、次の通り評価した。
◎・・・単位成形体の測定箇所の寸法が、49.0mm〜50.0mmの範囲にある。
○・・・単位成形体の測定箇所の寸法が、48.0mm〜51.0mmの範囲にある。ただし、◎に該当する場合は除く。
△・・・単位成形体の測定箇所の寸法が、47.0mm〜52.0mmの範囲にある。ただし、◎又は○に該当する場合は除く。
×・・・単位成形体の測定箇所の寸法が、47.0mmを下回るか又は52.0mmを上回る。
(4)圧縮強度
圧縮強度とは、乾燥後の成形体を23℃、相対湿度50%の部屋に移動してから14日後に、各単位成形体から縦50mm、横50mm、厚み25mmとなるように切断して得られた試験片(全面の表皮がカットされたもの)を使用し、JIS Z 0234(1976年)A法に従って試験片温度23℃、荷重速度10mm/分の条件で歪が55%に至るまで圧縮試験を行い、得られた応力−歪線図より50%歪時の応力を読みとり、これを圧縮強度とした。
【0099】
以上の結果より次のことが理解される。実施例1乃至4は、高密度単位成形体と低密度単位成形体のいずれも本発明の特定の発泡粒子で製造した例を示すが、全ての単位成形体の形状安定性は際立って優れている。参考例1は、高密度単位成形体を引張弾性率が小さいポリプロピレン系樹脂を使用して得られた発泡粒子で製造し、低密度単位成形体を本発明の特定の発泡粒子で製造した例を示す。成形直後の成形体の冷却を高密度単位成形体側に合わせることにより、高密度単位成形体側の形状安定性を優れたものとすることができると共に、本発明の特定の発泡粒子で製造した低密度単位成形体の形状安定性は際立って優れたものとなった。比較例1乃至3は、高密度単位成形体と低密度単位成形体のいずれも本発明の特定の発泡粒子以外の引張弾性率が小さいポリプロピレン系樹脂発泡粒子で製造した例を示す。比較例1乃至3は、成形直後の冷却時間が異なる以外は同じ条件で成形を行なった。冷却時間が短い比較例1では高密度単位成形体の形状安定性が際立って劣る。比較例1よりも冷却時間を延長した比較例2及び3では低密度単位成形体の形状安定性が劣る。即ち本発明の特定の発泡粒子で製造された単位成形体を存在させないと高密度単位成形体と低密度単位成形体の双方の形状安定性を高いものとすることが困難であることが分る。比較例4は、高密度単位成形体を本発明の特定の発泡粒子以外の高温ピーク熱量が大きいポリプロピレン系樹脂発泡粒子で製造し、低密度単位成形体を本発明の特定の発泡粒子以外の引張弾性率が小さいポリプロピレン系樹脂発泡粒子で製造した例を示す。その結果、高密度単位成形体は、成形機の耐圧と同じ圧力のスチーム圧で成形したものであるが、発泡粒子間の融着性と表面性に劣るものとなった。また、低密度単位成形体は形状安定性が際立って劣るものであった。比較例5は、高密度単位成形体を本発明の特定の発泡粒子以外の引張弾性率が小さいポリプロピレン系樹脂発泡粒子で製造し、低密度単位成形体を本発明の特定の発泡粒子以外の高温ピーク熱量が小さいポリプロピレン系樹脂発泡粒子で製造した例を示す。成形直後の成形体の冷却を樹脂強度の小さい高密度単位成形体側に合わせたものの、低密度単位成形体は形状安定性が際立って劣るものであった。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【符号の説明】
【0102】
(図3〜図6)
1〜3 単位成形体
11〜15 単位成形体
a、b 単位成形体
4、5、c 単位成形体間の融着界面
16〜19 単位成形体間の融着界面
(図7〜図11)
A 自動車用バンパー芯材1
a 高密度の領域
1b 低密度の領域
2 凹部
3 高密度の領域と低密度の領域との境界部
8 成形装置
9a、9b 金型フレーム
10a 雄型
10b 雌型
11 仕切板(仕切り材)
12 エアシリンダー
13 シリンダーロッド
14 挿通孔
15 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型内を2以上の区画に仕切って各区画にポリプロピレン系樹脂発泡粒子を充填し、次いで該ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形することによって、見かけ密度が異なる2以上の単位成形体が隣接して一体的に成形された部分を持つポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法において、
該区画の全てに充填する発泡粒子が引張弾性率1200MPa以上のポリプロピレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂組成物からなると共に、見かけ密度D1(g/L)と、高温ピーク熱量E1(J/g)との関係が次式(1)及び(2)を満足する発泡粒子であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法。
式(1):20−0.014×D1≦E1≦65−0.072×D1
式(2):10≦D1≦700
【請求項2】
該引張弾性率が1200MPa以上のポリプロピレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂組成物からなる発泡粒子が、表層部分の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量(ΔH)と該発泡粒子の内部発泡層の高温側に存在する吸熱曲線ピークの熱量(ΔH)との関係がΔH<ΔH×0.86であることを満たすものであることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
隣接する2つの単位成形体の一方の単位成形体が見かけ密度30〜450g/Lの高密度単位成形体であり、他方の単位成形体が見かけ密度15〜90g/Lであって且つ高密度単位成形体の見かけ密度が低密度単位成形体の見かけ密度より大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
該高密度単位成形体の見かけ密度が、該低密度単位成形体の見かけ密度の1.2〜25倍であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂型内成形体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−5868(P2011−5868A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183646(P2010−183646)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【分割の表示】特願2003−74134(P2003−74134)の分割
【原出願日】平成15年3月18日(2003.3.18)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】