説明

ポリベンザゾール、およびポリベンザゾールフィルム

【課題】 リン酸根の含有量が50ppm以下であり、かつ、表面平滑性に優れた高耐熱性、高強度・高弾性率を有するポリベンザゾールフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 アゾメチン基の窒素原子に接続するベンゼン環においてオルト位に置換または無置換の水酸基、チオール基またはアミノ基を有するポリアゾメチン溶液を基板上にキャストしてフィルムを形成した後、加熱処理することによりアゾール環を形成することを特徴とするポリベンザゾールフィルムを得る。本発明によれば表面あらさ(Ra、算術平均粗さ)が40nm以下であり、かつ、縦方向と横方向の引張強さの比が0.80以上であり、縦方向と横方向の引張弾性率の比が0.80以上であるポリベンザゾールフィルムが得られる。さらに、リン酸根の含有量が50ppm以下であるため電気・電子部品材料または磁気記録用フィルムとして好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリン酸根の含有量が50ppm以下であり、かつ、表面平滑性に優れた高耐熱性、高強度・高弾性率を有するポリベンザゾールフィルムおよびそれを製造するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンザゾールは剛直高分子いわゆる液晶性高分子であるので、その溶液は流動方向に分子鎖が配向しやすく、一旦配向すると分子鎖がランダムな向きに変わるまで時間が長くかかるといった性質から高度に1軸配向した高強度・高弾性率成形体を製造することができる。さらに、剛直高分子はガラス転移温度が高いために高耐熱性成形体を製造することができる。
【0003】
ポリベンザゾールの従来の重合方法は以下のとおりである。例えばWolfeらの「Liquid Crystalline Polymer Compositions , Process and Products」米国特許第4703103号(1987年10月27日)、「Liquid Crystalline Polymer Compositions , Process and Products」米国特許4533692号(1985年8月6日)、「Liquid Crystalline Poly(2,6-Benzothiazole) Composition, Process and Products」米国特許第4533724号(1985年8月6日)、「Liquid Crystalline Polymer Compositions , Process and Products」 米国特許第4533693号(1985年8月6日)、Eversの「Thermo oxidatively Stable Articulated p-Benzobisoxazole and p-Benzobisthiazole Polymres」米国特許第4539567号(1982年11月16日)、Tasi等の「Method for making Heterocyclic Block Copolymer」米国特許第4578432号(1986年3月25日)、などに記載された方法で重合できる。すなわちAAモノマーとBBモノマーとを等モル用いて不活性ガス雰囲気下、濃硫酸、メタンスルフォン酸、ポリリン酸等の鉱酸中で加熱して脱水縮重合することにより得られる。
【0004】
上記従来の方法で重合したポリベンザゾールをフィルムに加工する場合には、ポリリン酸などを溶媒としたポリベンザゾール溶液から流延法で高強度・高弾性率のフィルムが得られることが知られている。これは剛直性高分子の高濃度溶液が光学異方性すなわち液晶相構造を有し、加工時のせん断粘度が比較的低くなる特性に着目して開発されている。しかし、光学異方性液体は流延性が低いため表面平滑性に優れたフィルムの製造が困難である。また、光学異方性溶液からフィルムを製造した場合、フィルムの縦方向(MD、フィルムの流れ方向、マシン・ダイレクション)および横方向(TD方向、MD方向に垂直な方向、トランスバース・ダイレクション)の力学特性のバランスをとる事が難しい。
【0005】
また、ポリリン酸を溶媒としたポリベンザゾール溶液から成形されたフィルムから完全にリン酸根を除くことは非常に困難である。電子材料用途では、内部にイオンが存在しないことが要求される。
【0006】
【特許文献1】米国特許第4703103号
【特許文献2】米国特許第4533692号
【特許文献3】米国特許第4533724号
【特許文献4】米国特許第4533693号
【特許文献5】米国特許第4539567号
【特許文献6】米国特許第4578432号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリアゾメチンを製造し、そのポリマー溶液から成形されたポリアゾメチンフィルムを加熱処理することでリン酸根の含有量が50ppm以下であり、かつ、表面平滑性に優れた高耐熱性、高強度・高弾性率を有するポリベンザゾールフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、ポリベンザゾールの前駆体としてアゾメチン基の窒素原子に接続するベンゼン環においてオルト位に置換または無置換の水酸基、チオール基またはアミノ基を有するポリアゾメチンが汎用有機溶媒に可溶であり、流延性に優れたポリアゾメチン溶液をキャストすることで表面平滑性に優れたフィルムに成形できることを見出した。さらにこのポリアゾメチンフィルムを加熱処理すると閉環反応によりアゾール環を形成し、リン酸根の含有量が50ppm以下であり、かつ、表面平滑性に優れた高耐熱性、高強度・高弾性率を有するポリベンザゾールフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、アゾメチン基の窒素原子に接続するベンゼン環においてオルト位に置換または無置換の水酸基、チオール基またはアミノ基を有するポリアゾメチンを溶媒に溶解したポリアゾメチン溶液を基板上にキャストしてフィルムを形成した後、200〜500℃で加熱処理することによりアゾール環を形成することを特徴とするポリベンザゾール及びポリベンザゾンルフィルムである。
【0010】
好ましい態様は、ポリアゾメチンが下記一般構造式(5)および/または(6)で表されることを特徴とする前記のポリベンザゾールフィルムである。
【化5】

但し、Rは水素原子、メチル基またはエチル基を示す。XはOY基、SY基またはNY基を示す。また、Yは水素原子、アシル基、シリル基、アルキル基、アラルキル基から選ばれる基である。ベンゼン環においてX基とアゾメチン基はトランス位であってもシス位であっても良い。nは10以上の整数である。
【化6】

但し、XはOY基、SY基またはNY基を示す。また、Yは水素原子、アシル基、シリル基、アルキル基、アラルキル基から選ばれる基である。nは10以上の整数である。
【0011】
また、本発明は、表面あらさ(Ra、算術平均粗さ)が40nm以下であり、縦方向と横方向の引張強さの比が0.80以上であり、縦方向と横方向の引張弾性率の比が0.80以上であることを特徴とするポリベンザゾールフィルムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、汎用有機溶媒に可溶であり、流延性に優れたポリアゾメチン溶液から成形されたポリアゾメチンフィルムを加熱することでリン酸根の含有量が50ppm以下であり、かつ、表面平滑性に優れた高耐熱性、高強度・高弾性率を有するポリベンザゾールおよびそのフィルムを提供することを可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるポリアゾメチンは、主鎖反復単位中に−CH=N−結合を有し、かつ、アゾメチン基の窒素原子に接続するベンゼン環においてオルト位に置換または無置換の水酸基、チオール基またはアミノ基を有するポリアゾメチンであり、具体的には、例えば、前記一般構造式(5)および/または(6)に示されるポリアゾメチンが挙げられる。
【0014】
前記一般構造式(5)、(6)におけるアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、トルオイル基、マロニル基、ピバロイル基、グルタリル基、シクロヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、パルミトイル基、アクリロイル基等が挙げられる。シリル基としては、メチルシリル基、エチルシリル基、tert−ブチルシリル基、メトキシシリル基、エトキシシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、等が挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0015】
本発明に用いられるポリアゾメチンは、例えば下記の反応式(7)または(8)で示されるように、フェニレンジアミン誘導体とフタルアルデヒドまたはアミノベンズアルデヒド誘導体を有機溶媒中で不活性ガス雰囲気下で反応させることにより得られる。
【0016】
【化7】

【化8】

但し、Rは水素原子、メチル基またはエチル基を示す。XはOY基、SY基またはNY基を示す。また、Yは水素原子、アシル基、シリル基、アルキル基、アラルキル基から選ばれる基である。ベンゼン環においてX基とアゾメチン基はトランス位であってもシス位であっても良い。nは10以上の整数である。
【0017】
前記一般構造式(5)または(6)で示される本発明に用いるポリアゾメチンの例としては、以下の化合物が挙げられるが、ここに例示した化合物だけに制限されるものではない。
【化9】

【0018】
【化10】

【0019】
【化11】



【0020】
【化12】

【0021】
【化13】

【0022】
ポリアゾメチンを重合する際に用いる溶媒としては、例えばN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド基を有するアミド系溶媒、さらにはピリジン、テトラヒドロフラン等の汎用溶媒が挙げられる。また、ジクロロベンゼン、ジブロモベンゼン等の溶媒を任意の割合で混合して使用することもできる。
【0023】
フェニレンジアミン誘導体を安定化させるためにこれらの塩酸塩、硫酸塩を用いてポリアゾメチンを重合する場合はピリジンを除いた上記溶媒にピリジン、トリエチルアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の塩基性化合物を添加しても良い。
【0024】
この反応温度は、室温〜150℃で行われる。しかし、反応を促進するため加熱しても良い。最高反応温度は溶媒の沸点で制御できる。150℃を超えると原料および生成物の分解反応も起こるため、140℃以下で行うことが望ましい。
【0025】
また、反応時に生成した水を除くために共沸溶媒や脱水剤を添加して平行をずらすことが望ましい。共沸溶媒は反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、具体的には、ジエチルエーテル、トルエン、キシレン、ヘキサン、クロロホルム等を挙げることができる。これらの共沸溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。脱水剤も反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、具体的には、モレキュラーシーブズ、塩化カリウム等を挙げることができる。
【0026】
本発明においてポリアゾメチン溶液をキャストする方法としては、ポリアゾメチンを重合反応後、貧溶媒中へ再沈処理することによって不純物を除去して精製処理を行った後、再び溶媒に溶解し、その溶液を基板上にキャストする方法が挙げられる。また、フェニレンジアミン誘導体の塩酸塩等を用い、塩基性物質を添加して反応を行った場合は、反応の過程でこれらの塩が遊離してくる。そのため、反応液を水へ再沈して塩化物等を除くことが大切である。さらに上記の精製処理を繰り返した後、再び溶媒に溶解し、その溶液を基板上にキャストしても構わない。この際の溶媒としてN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。また、反応終了後、精製処理を行うこと無しに反応溶液をそのまま基板上にキャストしても構わない。
【0027】
本発明に用いるポリアゾメチン溶液をキャストするための基板としては、ガラス、フッ素系樹脂、アルミニウム、鉄、ステンレス等の素材からなる板、シート、フィルム等が挙げられる。
【0028】
基板上にキャストしたポリアゾメチン溶液の溶媒は、常圧または減圧下で加熱することにより除去する。この脱溶媒の際にはポリアゾメチンフィルムが著しく収縮するため、金属等で作られたフレームに固定する方法を利用しても良い。尚、溶媒の除去は、高温で急激に乾燥除去すると内部にクラック等の微細な欠点を生じることがあるため、常温で風乾するか、もしくは緩やかな熱風方式が好ましい。この時の乾燥は真空下で行うこともできる。
【0029】
キャストした基板を貧溶媒と接触させて揮発しにくい溶媒を除くこともできる。この後、上記の如く低温で乾燥させる。貧溶媒は、液相であっても気相であっても良い。ポリアゾメチンの貧溶媒としては、水、メタノール、エタノール等のアルコールやグリコール等が上げられる。
【0030】
本発明においてポリアゾメチン溶液をキャストする方法としては、ポリアゾメチン溶液をダイから押し出し、ロールまたはエンドレスベルトに引き取ることもできる。
キャストしたフィルム状のポリアゾメチンあるいはポリアゾメチン溶液は延伸することもできる。
工程が比較的簡便であるのは、円周状のスリットダイから押し出してブロー延伸する方法である。例えば米国特許第4898924号のような方法が適している。このブロー延伸では吐出方向へのドローダウンと吐出されたチューブの周方向への膨張により2軸延伸が達成される。この際に、チューブの内側にも凝固液を入れて製膜する事がより好ましい。この際に、熱風等で溶剤を蒸発させるか、またはチューブの内側および外側に凝固液を入れて凝固、製膜する事がより好ましい。
【0031】
さらに、ポリアゾメチン溶液をキャストするための基板として可撓性高分子フィルムを支持体フィルムとして用いることができる。スリットダイから押し出されたポリアゾメチン溶液と支持体フィルムと一体化して、一体化した支持体フィルム積層体をテンタークリップで挟み延伸する方法も好ましい。支持体フィルムはポリアゾメチン溶液の両側面に一体化してもよく、片面だけを張り合わせてもよい。両面を張り合わせた場合には、キャスト後に少なくとも片側の支持体フィルムを引き剥がしポリアゾメチン溶液から溶媒を除去する必要がある。
【0032】
この方法に好適な、可撓性高分子フィルムとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂等からなるフィルムおよびこれらの多層成形フィルムなどを利用することができる。
【0033】
本発明においては、基板上にキャストしたポリアゾメチンを加熱処理することによりポリベンザゾールに転換する。ポリベンザゾールとは、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、及びこれらのポリマーのコポリマーを含む公知のポリマーである。
【0034】
【化14】

【化15】

但し、Rは水素原子、メチル基またはエチル基を示す。XはOY基、SY基またはNY基を示す。また、Yは水素原子、アシル基、シリル基、アルキル基、アラルキル基から選ばれる基である。ベンゼン環においてX基とアゾメチン基はトランス位であってもシス位であっても良い。nは10以上の整数である。
本発明におけるポリアゾメチンの加熱処理は、200〜500℃で1時間行う。好ましくは250℃〜450℃で1時間、より好ましくは300〜450℃で1時間行う。加熱処理の温度が高すぎるまたは加熱処理の時間が長すぎると分解または熱劣化が起こるため力学特性等が低下する。また、加熱処理温度が低すぎるまたは加熱処理時間が短すぎると閉環反応が完結しないためアゾール環の形成が不十分になる。加熱処理は空気中で行う。
【0035】
本発明におけるポリベンザゾールのリン酸根の含有量は50ppm以下であり、好ましくは45ppm以下、より好ましくは40ppm以下である。また、表面あらさ(Ra、算術平均粗さ)は40nm以下であり、好ましくは35nm以下、より好ましくは30nm以下である。
【0036】
以下に実例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の主旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
【0037】
(1)ポリアゾメチンの還元粘度(ηsp/C)の測定
ポリアゾメチンを0.2g/dlの濃度になるように脱水したN−メチルピロリドン(窒素雰囲気下、N−メチルピロリドンに対して約10質量%のトルエンを添加し、トルエンが完全に留出するまで共沸蒸留を行い、調製したものを使用した)で溶解・希釈した溶液を、ウベローデ型粘度計を用いて25℃で測定した。
【0038】
(2)表面あらさ(Ra、算術平均粗さ)
表面あらさの測定は走査型プローブ顕微鏡E-Sweep(SII社製)を用い、DFMモードにより表面形態観察を実施した。カンチレバーはDF20(SII社より供給)を使用した。観察は5μm四方で実施し、Xデータ数及びYデータ数はそれぞれ512とした。得られたデータは傾斜補正を実施した後、付属のソフトウエアで表面粗さ(Ra)を算出した。傾斜補正は付属のソフトウエアによる二次傾斜補正(Auto2)を使用した。観察はランダムに10箇所以上で実施し、Raの平均値を算出した。
【0039】
(3)リン酸根の定量
50mgの試料を混酸(硫酸、硝酸、過塩素酸)で分解した後、リン酸根を正リン酸とした。次に、0.5M硫酸中でモリブデン酸塩を反応させてリンモリブデン酸とし、これを硫酸ヒドラジンで還元して生じるヘテロポリ青の吸光度(測定波長:800μm)を測定して定量した。測定はランダムに5箇所以上で実施し、リン酸根含有量の平均値を算出した。
【0040】
(4)引張強さ、引張伸度および引張弾性率
引張試験機(オリエンテック製テンシロン)を用い、試料幅10mm、試料長50mm、引張速度25mm/分で引張り試験測定した応力歪み曲線から算出した。この際、歪み原点は加重が0.5Nまで立ち上がったところを歪みゼロとした。引張り方向は吐出方向(機械方向:MD)とそれに直交する横方向:TDについて測定した。
【0041】
(実施例1)
テレフタルアルデヒド4.024g、4、6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩6.392gおよび炭酸カリウム4.146gをトルエン11mlおよびN−メチルピロリドン11ml中で窒素気流下130℃、1時間加熱した。冷却後、この反応溶液を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.8dl/gであった。再びポリマーをN−メチルピロリドン11mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0042】
(実施例2)
テレフタルアルデヒド4.024g、2−エチル−4、6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩7.233gおよび炭酸カリウム4.146gをトルエン14mlおよびN,N−ジメチルホルムアミド14ml中で窒素気流下120℃、1時間加熱した。冷却後、この反応溶液を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.9dl/gであった。再びポリマーをN,N−ジメチルホルムアミド14mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0043】
(実施例3)
テレフタルアルデヒド4.024g、2、5−ジアミノ−1、4−ベンゼンジチオール二塩酸塩7.386gおよび炭酸カリウム4.146gをトルエン12mlおよびN−メチルピロリドン12ml中で窒素気流下130℃、1時間加熱した。冷却後、この反応溶液を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.7dl/gであった。再びポリマーをN−メチルピロリドン12mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0044】
(実施例4)
テレフタルアルデヒド4.024g、1、2、4、5−テトラアミノベンゼン三塩酸塩7.427gおよびモレキュラーシーブス6.500gをN−メチルピロリドン11ml中で窒素気流下20℃、24時間加熱した。この反応溶液を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.5dl/gであった。再びポリマーをN−メチルピロリドン11mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0045】
(実施例5)
イソフタルアルデヒド4.024g、4、6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩6.392gおよび炭酸カリウム4.146gをトルエン11mlおよびN−メチルピロリドン11ml中で窒素気流下130℃、1時間加熱した。冷却後、生成物を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.6dl/gであった。この固体にメチルアセテート4.445gを滴下して、滴下終了後5分間煮沸した。冷却後、生成物を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。再びポリマーをN−メチルピロリドン11mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、2時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。アセチル基で置換された水酸基を持つポリアゾメチンは無置換の水酸基をもつポリアゾメチンより水酸基とアゾメチン基の反応性が高くなるためアゾール環の形成温度が低くなる。そのため、このプレートを空気中で200℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0046】
(実施例6)
イソフタルアルデヒド4.024g、2−メチル−4、6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩6.815gおよび炭酸カリウム4.146gをトルエン13mlおよびN,N−ジメチルホルムアミド13ml中で窒素気流下130℃、1時間加熱した。冷却後、この反応溶液を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.6dl/gであった。再びポリマーをN,N−ジメチルホルムアミド13mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0047】
(実施例7)
イソフタルアルデヒド4.024g、2、5−ジアミノ−1、4−ベンゼンジチオール二塩酸塩7.386gおよび炭酸カリウム4.146gをトルエン12mlおよびN−メチルピロリドン12ml中で窒素気流下130℃、1時間加熱した。冷却後、この反応溶液を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.7dl/gであった。再びポリマーをN−メチルピロリドン12mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0048】
(実施例8)
イソフタルアルデヒド4.024g、1、2、4、5−テトラアミノベンゼン三塩酸塩7.427gおよびモレキュラーシーブス6.500gをN−メチルピロリドン11ml中で窒素気流下20℃、24時間加熱した。この反応溶液を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.5dl/gであった。再びポリマーをN−メチルピロリドン11mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0049】
(実施例9)
フタルジアルデヒド4.024g、4、6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩6.392gおよび炭酸カリウム4.146gをトルエン12mlおよびN,N−ジメチルホルムアミド12ml中で窒素気流下130℃、1時間加熱した。冷却後、この反応溶液を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.4dl/gであった。再びポリマーをN,N−ジメチルホルムアミド12mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0050】
(実施例10)
フタルジアルデヒド4.024g、2−エチル−4、6−ジアミノレゾルシン二塩酸塩7.233gおよび炭酸カリウム4.146gをトルエン14mlおよびN,N−ジメチルホルムアミド14ml中で窒素気流下120℃、1時間加熱した。冷却後、この反応溶液を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.3dl/gであった。再びポリマーをN,N−ジメチルホルムアミド14mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0051】
(実施例11)
フタルジアルデヒド4.024g、2、5−ジアミノ−1、4−ベンゼンジチオール二塩酸塩7.386gおよび炭酸カリウム4.146gをトルエン12mlおよびN−メチルピロリドン12ml中で窒素気流下130℃、1時間加熱した。冷却後、この反応溶液を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.5dl/gであった。再びポリマーをN−メチルピロリドン12mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0052】
(実施例12)
フタルジアルデヒド4.024g、1、2、4、5−テトラアミノベンゼン三塩酸塩7.427gおよびモレキュラーシーブス6.500gをN−メチルピロリドン11ml中で窒素気流下20℃、24時間加熱した。この反応溶液を水200ml中へ再沈して、吸引ろ別を行った。得られた固体を80℃、3mmHgで24時間乾燥させた。ポリマーの還元粘度は0.4dl/gであった。再びポリマーをN−メチルピロリドン11mlに溶解し、ポリマー溶液とした後、5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0053】
(実施例13)
3−アミノー4−ヒドロキシベンゾアルデヒド13.714gをトルエン18mlおよびN−メチルピロリドン18ml中で窒素気流下130℃、1時間加熱した。ポリマーの還元粘度は0.6dl/gであった。このポリマー溶液を5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0054】
(実施例14)
4−アミノー3−チオールベンゾアルデヒド15.320gをトルエン23mlおよびN,N−ジメチルホルムアミド23ml中で窒素気流下130℃、1時間加熱した。ポリマーの還元粘度は0.5dl/gであった。このポリマー溶液を5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0055】
(実施例15)
3、4−ジアミノベンゾアルデヒド13.615gおよびモレキュラーシーブス3.250gをN−メチルピロリドン18ml中で窒素気流下20℃、24時間加熱した。ポリマーの還元粘度は0.2dl/gであった。このポリマー溶液を5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0056】
(実施例16)
3−アミノー2−ヒドロキシベンゾアルデヒド13.714gをトルエン18mlおよびN−メチルピロリドン18ml中で窒素気流下130℃、1時間加熱した。ポリマーの還元粘度は0.6dl/gであった。このポリマー溶液を5ml分取して5cm×5cmのアルミニウムプレート上にキャストした。その後、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃各1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去した。このプレートを空気中で350℃、1時間加熱してポリベンザゾールへの転換を行った。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
25℃のメタンスルフォン酸中で測定した固有粘度27のポリ−パラフェニレン−シスベンズビスオキサゾールポリマーの8wt%ポリ燐酸溶液を、幅120mm、ギャップ0.5mmのスリットダイから170℃で鉛直下方に吐出して、ダイから360mmの位置で厚み140μmのポリプロピレン未延伸フィルムで挟みこみ、延伸ロールでMD方向に2.5倍、引き続き133℃の加熱テンターでTD方向に4倍の延伸を実施してスリッターでテンターつかみ部分を切り取り巻き取った。5℃の冷水中で片面のポリプロピレン延伸フィルムをはがしつつデュポン社製タイベックシートを挟み水中で巻き取った。6時間水中に浸漬したシートの両面からポリプロピレンフィルムとタイベックシートを剥がし、水洗槽を2分間走行させた後、ローラー群を内蔵した乾燥オーブン中を走行させつつ180℃で5分間かけて緊張下で乾燥した。得られたポリベンザゾールフィルムの特性値を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
以上より、ポリアゾメチンを製造し、そのポリマー溶液から成形したポリアゾメチンフィルムを加熱処理することでリン酸根の含有量が50ppm以下であり、かつ、表面平滑性に優れた高耐熱性、高強度・高弾性率を有するポリベンザゾールフィルムが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明で製造されたポリベンザゾールフィルムは、リン酸根の含有量が50ppm以下であり、かつ、表面平滑性に優れ、縦方向と横方向の力学特性のバランスが良い。
本発明によれば表面あらさ(Ra、算術平均粗さ)が40nm以下であり、かつ、縦方向と横方向の引張強さの比が0.80以上であり、縦方向と横方向の引張弾性率の比が0.80以上であるポリベンザゾールフィルムが得られる。さらに、リン酸根の含有量が50ppm以下であるため電気・電子部品材料または磁気記録用フィルムとして好適である。
【0061】
また、本発明のポリベンザゾールフィルムは、極めて高い耐熱性を有し、熱的な寸法安定性が良好で、ガスバリヤー性、電気絶縁性に優れる。それらの特性を活かして、電気・電子部品材料または磁気記録用フィルム以外にも、複合材料補強材、構造物表面保護膜、宇宙船や航空機用の難燃耐熱電線被覆材料、高温容器の窓材、光学制御用材料等として利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)および/または(2)式で示されるポリアゾメチンを、200〜500℃に加熱処理することによりアゾール環を形成することを特徴とするポリベンザゾール。
【化1】

【化2】

但し、Arは、アゾメチン基の窒素原子に接続するベンゼン環においてオルト位に置換または無置換の水酸基、チオール基またはアミノ基を有する芳香族基を表す。Arは、芳香族基を表す。nは10以上の整数を表す。
【請求項2】
ポリアゾメチンが下記一般構造式(3)および/または(4)で表されることを特徴とする請求項1に記載のポリベンザゾール。
【化3】

但し、Rは水素原子、メチル基またはエチル基を示す。XはOY基、SY基またはNY基を示す。また、Yは水素原子、アシル基、シリル基、アルキル基、アラルキル基から選ばれる基である。ベンゼン環においてX基とアゾメチン基はトランス位であってもシス位であっても良い。nは10以上の整数である。
【化4】

但し、XはOY基、SY基またはNY基を示す。また、Yは水素原子、アシル基、シリル基、アルキル基、アラルキル基から選ばれる基である。nは10以上の整数である。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のポリアゾメチンを溶媒に溶解した溶液を、基板上にキャストしてなるフィルムを用い、200〜500℃に加熱処理することによりアゾール環を形成することを特徴とするポリベンザゾールフィルム。
【請求項4】
リン酸根の含有量が50ppm以下であることを特徴とする、請求項3に記載のポリベンザゾールフィルム。
【請求項5】
表面あらさ(Ra、算術平均粗さ)が40nm以下であり、かつ縦方向と横方向の引張強さの比が0.80以上であり、縦方向と横方向の引張弾性率の比が0.80以上であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のポリベンザゾールフィルム。
【請求項6】
請求項3乃至5いずれかに記載の、ポリベンザゾールフィルムの製造方法。


【公開番号】特開2008−266540(P2008−266540A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115338(P2007−115338)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】